玄倉川の岸辺

悪行に報いがあるとは限りませんが、愚行の報いから逃れるのは難しいようです

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ゲーリングの尻尾

2008年12月04日 | 政治・外交
どうしても田母神元幕僚長が気になる。

航空幕僚長を退任し制服を脱いだのだから、彼はすでに一民間人にすぎない。
失礼ながら、右派の論客としてレベルが高いとも思えない。たかじんの番組で勝谷誠彦あたりと馴れ合ったり「Will」で手記を書く程度がお似合いだ。NHKの討論番組に出演したり「文芸春秋」に寄稿する田母神氏の姿は想像できない。
自衛隊の中にある「田母神的なもの」は大問題だが、田母神氏自身はすでにただの人である。外から自衛隊員に影響を与えられるほどのカリスマはないだろう(と願う)。
それなのに気になって仕方がないのは、私自身の中に田母神氏と似通った部分があるからだ。昔の失敗を思い出してしまい、やりきれない思いと恥ずかしさが津波のように押し寄せる。田母神氏自身が「私の何が悪いのか」という顔をしているところがまたシャクにさわる。もう本当に勘弁してほしいのである。

もちろん私は田母神氏に会ったことも話したこともない。
以下に書くことはすべて単なる想像でしかない。読者の方はそのつもりでお読みください。

田母神氏の基本的な性質は「お調子者」だ。
アパ「論文」問題の経緯を見ればわかる。身内で(隊内誌で)気持ちよく吹いていた持論を航空幕僚長の肩書き付きで外部に発表した。何が起きるのか予測したり覚悟を決めた形跡はない。びっくりするほどの無邪気さだ。
ミラーを見ずに車線変更して隣の車にぶつけたドライバーが「まさかぶつかるとは思わなかった」「いつもこういう運転をして問題なかったのに」と言い訳したら怒るよりも情けなくなる。サンデードライバーならまだしも、勤続何十年のプロドライバーなのだから恐ろしい。

「お調子者」を聞きかじりの心理学用語で言い換えると、陽性の循環気質(躁)ということになるのだろうか。
私も循環気質の比率がかなり高い(と自分では思っている)。田母神氏と違って基本的には陰性(鬱)なのだが、状況によって躁に転じることがある。物事がうまく行ったり、人にほめられたりすると「これが俺の実力だ」と調子に乗る、ホラを吹く、無計画無責任になる。周囲に迷惑をかけ、自分も恥をかき、しかもそれに気付かない。気付いたときには後の祭りだ。
これまで何度も調子に乗って失敗してきた。具体的なことは言わない、というか恥ずかしくて言えない。もう本当に勘弁してください反省してますからごめんなさいごめんなさいごめんなさい。

おそらく田母神氏も、自分自身がお調子者であることを知っているのだろう。それくらいの自己認識ができなければ航空自衛隊のトップまで上り詰めることはできない。自らの性質をコントロールし、武器として生かして「あいつは面白い男だ」「なにか大きなことをやってくれそうだ」「田母神に期待しよう」という雰囲気を盛り上げたのだろう。陽気な男は好かれやすい。
「空軍」のトップということで、ドイツ第三帝国空軍「ルフトバッフェ」の総帥、ヘルマン・ゲーリングをつい連想してしまう。ゲーリングは知能指数が高く陽気でエネルギッシュな男で、「ふとっちょ」「ヘルマンおじさん」などと呼ばれてドイツ国民になかなか人気があった。だが航空行政と軍事指導では無能で、ルフトバッフェを強化するより混乱させ足を引っ張ることのほうが多かった。
念のために言っておくと、ゲーリングを連想したのは田母神氏をナチ呼ばわりするためではなく、「お調子者の空軍トップ」という点が似ていると感じただけである。私は彼らのイデオロギーではなく能力(無能さ)をなによりも重視する。

自分がお調子者であることを知り、それをコントロールしてきた田母神氏は立派である。私には真似できない自制心の持ち主だ。だが、彼が「将」となり航空幕僚長まで上り詰めたとき、つい気が緩んだのではないか。大きな肩書が付くとどうしても人は自分を立派だと思い正当化したくなる。「調子に乗って失敗してはいけない」という自制心よりも「調子よくやっている人(国)を騙すのは悪いことだ」という自己正当化と「敵」への批判に傾く。
そういう心理状態で日本の近現代史について考える。「日本は立派だった、正しかった。悲惨な戦争になったのはコミンテルンの陰謀のせいだ」という「正しい歴史認識」は田母神氏にとって心地よく思えただろう。あとはアパ「論文」まで一直線だ。

もしも私が田母神氏と日本の近現代史について話をするとしたら、「大日本帝国の発展は順調だった(調子に乗っていた)」という点では一致するだろう。世界史にまれなスピードで近代化し国力を高め、一等国を自称し国際連盟の常任理事国にまでなった。ノリノリのイケイケである。
だが日中戦争・太平洋戦争・敗戦という破局への評価が違う。田母神氏は「せっかく調子よかったのに騙されて(コミンテルンの陰謀)ひどい目にあった、日本は悪くない(自分も悪くない)」と主張し、私は「調子に乗りすぎて大失敗した、同じことは繰り返すまい(迷惑をかけてすみません)」と言う。

世間では田母神「論文」事件について語るとき彼の歴史観を問題にすることが多い。右派は「これこそ正しい歴史認識だ、田母神氏は立派だ」とほめたたえ、現実的な保守派と左派は「偏っている、事実認識から間違っている」と批判する。
だが私は田母神氏の歴史観そのものは「論文」問題の中でいちばん論じる価値がないと思っている。かの「論文」は田母神氏自身が認めている通りの安直なものだ。右寄りの本から都合のいい二次資料をツギハギしただけの代物で、まともに擁護したり批判するに値しない。

それよりも「田母神タイプの人物に国防の責任をゆだねていいのか」「お調子者がトップになると防衛力は強まるのか弱まるのか」を論じてほしい。歴史認識問題は形而上学だが、国防は鉄と炎を制御する現実の問題だ。
私にとって田母神問題とは歴史認識問題ではなく、なによりも「ゲーリングの尻尾」問題なのである。

ちなみに、ゲーリングが愛用していたルガーP08のカスタムモデルが日本でモデルガン化されている。



("I Love Western Arms"さんより)


実は私も約20年前から持っていたりする。
ときどき手にとって眺めては「金ピカで悪趣味だなあ」「ルフトバッフェがどれほど優秀な飛行機とパイロットをそろえても、こういう銃を喜ぶようなお調子者がトップにいたら負けるわけだ」と思う。


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