黒古一夫BLOG

文学と徒然なる日常を綴ったBLOG

若者の「右傾化」について

2008-07-31 09:25:41 | 近況
 東京新聞の「左翼はなぜ勝てないのか」という「論壇時評」(7月30・31日 担当:大澤真幸京都大学大学院教授)を読んでいたら、「竹島」問題や北京オリンピックに関して僕の発言(ブログ)を批判するコメントを寄せる人たち(若い人たちが多いのではと推測している)が、なぜそのような「批判」が導き出されるのか、その一端が分かったような気がした。大澤真幸は、ネット上における若者達の言動を観察して、「広義の右翼的なものが蔓延しており、左翼は揶揄や嘲笑の対象である」とした上で、最近創刊された雑誌「ロスジェネ」(就職氷河期と言われた90年代に学校を卒業した世代の代名詞で、「失われた10年」世代とも言われる)に載った編集委員(大澤信亮)の短編「左翼のどこが間違っているか?」を素材にして、次のように書いている。
 <左翼は、「戦争被害者、在日外国人、女性、フリーター…」といった弱者を  次々と見つけ出し、それら弱者に同情し、同時に弱者差別を批判する。問題は、 こうした弱者への同情が、常に「安全な場所」からのみ発せられているというこ とである。自分自身は弱者の渦中にいない限りで、つまり弱者に真に近づかない 限りで、弱者の味方になろう、というわけである。「同情」が、むしろ、弱者と の間の安全な距離を保証している。左翼は、弱者を「応援」することで、自分自 身の善き心、麗しい魂を確認し、ナルシスティックに陶酔しているように見える のだ。>
 なるほど、そうか。確かに、僕も大澤真幸と同じように大学の教授であり、大学からの給料と原稿料などを加算すれば、そこそこの年収があり、そのような観点から考えれば、僕の言説(ブログの文章)など「勝ち組」の好き勝手な言い草に聞こえるだろうし、石原慎太郎や小泉・安倍などを「ネオ・ファシスト」「ネオ・ナショナリスト」呼ばわりする批判など、まさに「左翼」のそれに他ならなず、「非正規労働者」の中心をなしている若者にしてみれば、鼻持ちならない典型に映ると思われても仕方がないと言えるかも知れない。
 しかし、大澤真幸の先の論理で一つだけ間違っているのは、僕ら(敢えて「僕ら」と言う)が現体制や政府与党、あるいは「ネオ・ファシスト」や「ネオ・ナショナリスト」を批判するのは、「負け組=非正規労働者・弱者」に「同情」してであるかのような言い方をしている点である。僕らは、「弱者」に「同情」して発言しているのではなく、大きな目で見れば「勝ち組」も「負け組」も共に非抑圧的な状況にあることは変わりないのだから、両者がいかに「共闘=共生」できるかを問わない限り、状況は変換できないのではないか、と言っているだけなのである。
 また、以上のこととの関連で大澤真幸の「総括」でやはり間違っていると思うのは、僕らは大澤が言う「自分自身は弱者の渦中にいない限りで、つまり弱者に真に近づかない限りで、弱者の味方になろう」などというような「体験主義」に組みすることよって、この世の中の仕組みが転換するなどとは決して思っていないにもかかわらず(たぶん、大澤だってそんなことは思っていないだろう)、若者達の「左翼批判」の論理をそんな形でまとめ上げていることである。
 気鋭の社会学者(思想家)として彼の書く物に注目し、読者にもなっていたのに、昨今の若者弱者たちの言説(右翼大好き・左翼嫌い)に引きずられてしまったのか、大澤も僕と同じように「次なる目標」が見いだせないまま、「分析」「解釈」だけしかできない状況にあるのかも知れない。しかし、大澤はともかく、僕が未だによく分からないのは、なぜ「非正規労働」を強いられている若者達は、自分たちをそのような境遇に押し込んだ張本人の一人「規制緩和派」の小泉純一郎に批判の刃を向けないで、逆立ちした「左翼批判」を行って事足りてしまうのか、ということである。マゾイズムとは言わないが、昨今の「無差別殺傷事件」が象徴するような、「弱者が弱者を襲う」ことでガス抜きされてしまう。ほくそ笑んでいるのは誰か? 本来なら「怒り=批判」の刃を向けられるはずの権力者=為政者なのではないか。だとすれば、昨今の若者の「右傾化」を喜んでいるのは、紛れもなく保守派に他ならない。
 このパラドクスをどれほどの若者が理解しているか。いつか矛先が「僕ら」にではなく、確実に権力を握っている者に向けられることを願って……。

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4 コメント

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Unknown (村田)
2008-07-31 17:19:28
>なぜ「非正規労働」を強いられている若者達は、自分たちをそのような境遇に押し込んだ張本人の一人「規制緩和派」の小泉純一郎に批判の刃を向けないで、逆立ちした「左翼批判」を行って事足りてしまうのか、ということである。

簡単だよ、左翼は日本の若者よりも中国や朝鮮の方に顔を向けてるからだよ。
それだけ。

単純にあなたたち左翼の優先順位はこうでしょ。

中国・朝鮮>日本の若者

言葉の端々に中国や朝鮮を持ち上げる思想が見える。
そんなだから左翼は支持されないんだよ。

困っている国内の若者と困っている国外の人々のどちらかしか助けられないとき、迷うことなく前者を見捨てて後者を選ぶように見えるんだよ、左翼は。
右翼はパフォーマンスであれ、少なくとも前者を選んでくれる期待はある。
そこの違いだ。


戦時中は軍隊内で上官から暴行もあったらしいですね。
日本人は精神論を持ち出したりすて、同族に厳しいからかな。

仮に今が戦時中だったら、あなたは自分より若いという理由だけで僕らを暴行するだろうね。
仮に戦時中だったら、自分は温かい飯を食いながら、若者には冷や飯しか食わさないだろうね。
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もう1回だけ、「村田」さんへ (黒古一夫)
2008-08-01 05:28:26
 村田さん、あなたのコメントを読んで、よく分かったことがある。
 それは、あなたたち「右翼」(というより、単にそれの方が居心地がいいから体制派に身を任せた人たち、としか僕には思えませんが)に加担するという「若者弱者」(という言い方を敢えてしておきます)が、「被害妄想」「誇大妄想」の中に居座り、少しも「学習」しない人たちだ、ということです。
 「戦時中は軍隊内で情感から暴行もあったらしいですね」だって。とぼけているのでなければ、日本軍の「内務班」について書かれた歴史書や手記・小説(さしずめ漫画化された大西巨人の「神聖喜劇」全6巻がいいでしょう。能力があれば、野間宏の「真空地帯」もどうぞ)を読んでから、「暴行もあったらしい」などと書いてください。
 「仮に今が戦時中だったら、あなたは自分より若いという理由だけで僕らを暴行するだろうね」だって、バカも休み休み言いなさい。戦前の日本軍にあって「若い」か「年寄り」かは原則的には関係なく、軍隊内経験、階級がすべてであったのをあなたは知らないのですか。ですから、軍隊内で暴行を受けていたのは、「若い」兵士達ではなく、「補充兵」などとして招集された「年寄り」だったのです。
 そんなことも知らないで、自分たちを「被害者」として「甘やかす」なんて、付き合ってられない。
 それに何ですか、「中国・朝鮮>日本の若者」というのは? お話しにならない、というのが僕の正直な感想ですが、僕は「歴史」を踏まえた議論をしようと言っているだけなのに、「歴史」を直視しないと、このような発想になるのか、と今時の若者達の精神構造について改めて認識しました。その意味で、あなたのコメントは有意義でした。
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経験も階級もない (村田)
2008-08-01 12:47:41
居心地がいいから反体制側に身を任せたあなたたち「左翼」もこれまでの既得権益にしがみついた「学習」しない人ですね。


>戦前の日本軍にあって「若い」か「年寄り」かは原則的には関係なく、軍隊内経験、階級がすべてであったのをあなたは知らないのですか。ですから、軍隊内で暴行を受けていたのは、「若い」兵士達ではなく、「補充兵」などとして招集された「年寄り」だったのです。

なるほどね、正社員になるには職歴が重視され、「若い」大学新卒しか正社員として採用せず、就職の場面では「年寄り」扱いの就職氷河期世代が正規なれずに就職活動の土俵にも乗れずに見捨てられる現在の構造と一緒ですね。
全然戦前と変わってない、強者が弱者を虐げる構造は一緒だね。
あなたの言い様の「若い兵士」を正規雇用新卒入社の若者、「補充兵」を「非正規雇用」の氷河期世代と言い換えればいいだけだ。
今度お勧めの本を読んでおきますよ。そしていかにあなたの言う「経験」や「階級」が重視される現在の状況と酷似しているかを歴史から学びましょう。


さすがにそういう日本の歴史を知っている経験も階級もある左翼知識人は、軍隊内で強い立場で言いたい放題でいいご身分ですね。
さすが歴史に学んでいる人の言うことは重みが違う、自ら経験や階級重視の日本の歴史を体現している。
氷河期世代は上の世代より「経験」も「階級」もないだけでなく、下の世代よりも「経験」「階級」がないから、虐げられても何も言えませんからね、歴史に学ぶとどうやら日本というのはそういう国らしい。
あなたが歴史を重視して指摘した、日本社会は経験と階級という現象、これは覚えておきましょう。
経験も階級も与えられなかった氷河期世代にとって、救いようのない辛辣な言葉だけど。


けど、どうして非正規雇用の氷河期世代は「被害妄想」「誇大妄想」と罵られなけらばならないんでしょうね。
過去の歴史を重視して考えると、経験を積んで階級の高い団塊左翼に虐げられているからかな?
過去の歴史が示すように、強者である団塊世代の既得権益を守らなくてはいけないからかな?



格差社会をなんとかしないとという一方で、格差を受けている人たちを被害妄想誇大妄想と罵れるのは、よほど面の皮が厚くないと言えません。
かっこつけてないでもうはっきり言ったらいいじゃないですか、自分以外の若者の現在の苦労や未来なんて知ったことでない、そんなものにまるっきり興味がないんだと。
自分には格差世代に対する想像力は微塵もございませんと。
興味があるのは自分たちの既得権益なんだと。
まさしく「深夜のシマネコBlog」で指摘されていた救いの手を差し伸べようとしない左翼そのものの言動でしたね。
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村田さんのコメントを読んで ()
2008-08-06 19:53:21
村田さんの仰っている事の方が私には大事なことのように思える。
悪意が前面に出てきているからか、黒古さんには村田さんの、既成左翼が現在の何が前衛なのかを捉えきれていないことへの異議申し立ては読み取れていない。

いい気なもんだ。

勉強すべきは黒古さんのほうだということは言うも待たない。
このことに応えないで世の中を変えようだなんて、おこがましいことこの上ない。
自らの不明の原因を一般読者の水準のせいにするんじゃない。
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