5月2日付の当ブログに「名盤選の終焉~」と題して詳しく趣旨を書きましたが、断続的に、1994年11月・洋泉社発行の私の著書『コレクターの快楽――クラシック愛蔵盤ファイル』第3章「名盤選」から、1曲ずつ掲載しています。原則として、当時の名盤選を読み返してみるという趣旨ですので、手は加えずに、文末に付記を書きます。本日分は「第25回」です。
◎リスト/ピアノ協奏曲第1番
フランソワ/シルヴェストリ盤は、感情の振幅の大きいこの曲を、縦横に駆けめぐる自在なピアノが余すところなく表現している。ピアノの自由なテンポの揺れ動きによく溶け合ったシルヴェストリの、たっぷりとした表情のオーケストラも聴いていて小気味よい。表情の多彩さで群を抜いた演奏で、この生気にあふれた遊びの精神は、正に、天才だけが成し得るものだ。
アルゲリッチ/アバド盤は六八年に録音されたもので、この曲の華麗さ、ほとばしる情熱の表出では、もはや伝説的となった演奏だ。音楽の表情に即興的なひらめきが聴かれるのも、アルゲリッチが、やはり天才のひとりであることの証明だ。
リヒテル/コンドラシン盤は、こまやかな表情と骨格のくっきりした音楽とが程良く融合したバランスのよい演奏。全体としては堂々としていて剛直な演奏だが、一本調子にならず、奥行を感じさせる。第2楽章での確かな覚醒感に裏打ちされたファンタジーが、好き嫌いの分かれ道だろう。
ベルマン/ジュリーニ盤は、大仰な表現の内に傷つきやすい繊細さを持った軟らかなタッチのピアノが、切れ味を鈍くしており、多少重いが、この曲に甘い香りを漂わせている。作品が本来目指している方向からはかなり逸脱しているが、こうした演奏も可能だとは思う。
一時期リスト弾きとして多くのファンを持っていたシフラは、この曲をEMIに二度録音しているが、一度目のシフラ/ヴァンデルノート盤のサロン音楽風の洒落た味わいには、忘れ難い魅力がある。
しかし、洒落っ気で言えば、フランスのピアニスト、ハイドシェックがフランスの名指揮者ピエール・デルヴォー/コロンヌ管弦楽団と録音した盤が群を抜いておもしろい。かつてショパンの「第一番」とのカップリングでLPが出ていたが、もう長い間、外盤でも見ていない。
【ブログへの再掲載に際しての付記】
私の文章が、おもしろくなさそうな、気乗りのしない雰囲気を終始漂わせていることに、自分でも驚いています。どれも決め手に欠けていて、書いていてあまり楽しくなかったのかも知れませんが、どうだったか、もう忘れてしまいました。ただ、あまり好きな曲ではなかったことを思い出します。レコ芸の名盤選の原稿で依頼された原稿に足していったものだったかもしれません。やはり、愛着のない曲については書くべきではないですね。
上記の選択は、どれも、何らかの形で音楽を崩した演奏を求めているように思いましたが、私がこの曲を、「嫌だなあ」という気持ちとともに強烈に記憶したのは、私が中学2年生の時に聴いたルービンシュタインの演奏です。だから、むしろ、その演奏こそが「基準」なのかも知れません。
この原稿を書いたずっと後になってから、偶然聴いたマーキュリーのバイロン・ジャニス盤は、現在のお気に入りです。きりっとして清々しく、気持がいい演奏です。