goo blog サービス終了のお知らせ 
goo

ロイヤル・オペラ『アイーダ』、今年の新演出は〈現代社会〉が舞台でした!

2022年12月08日 15時15分08秒 | オペラ(歌劇)をめぐって

 

 昨日、来年の1月6日(金)から12日(木)までの1週間、全国のTOHOシネマズ系の映画館で上映される「英国ロイヤル・オペラ・ハウス シネマシーズン 2022/23」の3作目、ヴェルディ『アイーダ』をいち早く鑑賞してきましたので、以下、そのご報告です。

 スタッフ・キャストは以下の通り。

演出:ロバート・カーセン

指揮:アントニオ・パッパーノ

 

アイーダ:エレナ・スティヒナ

ラダメス:フランチェスコ・メーリ

アムネリス:アグニエツカ・レーリス

アモナスロ:リュドヴィク・テジエ

 ほか

 

 ロバート・カーセンの演出は、実に大胆なものでした。この古代エジプトとエチオピアとの争いを、現代社会に移し替えてしまったのです。もちろん、オペラは映画や戯曲と異なって、メロディが宛てられていることもあって、台本をいじれませんから、「エジプト」「エチオピア」といった固有名詞はもちろん、奴隷、神殿。といった名称もでてくるわけですが、舞台装置はどう見ても現代。軍服姿の兵士に、ブレザー、ドレス、といった具合で、集会場面は、北朝鮮の国家行事を思わず連想してしまいました。

有名な「バレエ音楽」の場面は、軍服姿の男たちの、匍匐(ほふく)前進からの大ジャンプまであって、壮観。昨今のどこかの全体主義国家のイベントを思い出しましたが、なかなかの迫力です。

 ですが、いわゆる「読み替え演出」というものとは違って、妙に説得力がありました。それは、今年に入ってからずっとニュースで見せられているロシアとウクライナの争いや、北朝鮮からのミサイルやら、あまりにも身近になってしまった「戦争」の予感と、『アイーダ』のストーリーの背景が、重なり合うからなのでしょう。

 私は、ここ数年、毎月、オペラ映像の鑑賞会での作品解説をしています。そうしたとき、それぞれのストーリーの背景になっている時代の「社会」を説明しているのですが、考えてみれば、『アイーダ』の物語で、エジプトとエチオピアの争いの歴史を学ぶ必要が、どれほどあるのかということなのです。

 ロバート・カーセンも、幕間で、そのようなことを語っていましたが、この新演出の『アイーダ』は、「読み替え」といった単純なものではなく、『アイーダ』の物語を換骨奪胎し、本質だけをそぎ落として、むき出しにしてみせたものだということです。小手先の読み替えにとどまらないのは、ストーリーが普遍的なものだからでしょう。

 思えば、ヴェルディという作曲家は、とても政治的にも行動していた人物でしたし、彼が生きてきた時代は、ヨーロッパの大変換時期でもありましたから、ヴェルディ作品の奥深くに、政治的信条が暗喩として隠されていても不思議ではないわけです。

 ゼフィレッリの名演出『アイーダ』での、スフィンクスやピラミッドの姿に目を奪われてはならないのかも知れません。ヴェルディが残したかったメッセージが、この彼の晩年の作品に隠れているのかも知れません。

 アイーダの父(エチオピアの王)が、ラダメスたち勝者に向かって語り掛けるセリフ「きょう、我々を打ち負かしたあなた方を、明日は、私たちが襲うかも知れない」を聞くと、この何千年にもわたって、私たち人類が戦争を繰り返してきた愚かな歴史が、何ひとつ、変わっていないことを、思い知らせてくれます。

 私は、いわゆる芸術作品を語るに際して、政治的発言を乱用すべきでないといつも思っているのですが、今回は、ちょっと例外。これは、ヴェルディの本質にもかかわることかとも思いながら、今、これを書いています。正月明けの公開に、オペラ・ファンの皆さんも、ぜひ、映画館に出かけて、『アイーダ』を鑑賞しながら、私たちの社会を取り巻く環境に思いを馳せてみてはどうか、と思いました。

 音楽的にも、今回のロイヤル・オペラの『アイーダ』は、かなりの高水準です。パッパーノのヴェルディは、完全にノッてきています。彼自身、「今」が一番、ヴェルディの音楽が「見えている」時期なのでしょう。第3幕の音楽世界の「深さ」はすごいと思いました。ヴェルディの音楽のダイナミズム、大音響から最弱音までの振幅の大きさが、美しく表現されていました。

 アイーダ役のエレナ・スティヒナも、高域までよく伸びて、いい歌手だなァと思いました。それを聴くだけでも、価値がありました。ラダメスもまずまず。アムネリスがちょっと、声が伸びきってないかなと感じるところがありましたが、ビジュアル的には、満点か。だから、特に不満はありません。

 公開日をお楽しみに。

 詳細は以下でわかると思います。

http://tohotowa.co.jp/roh/

 

 

 

 

 

 

goo | コメント ( 0 ) | トラックバック ( 0 )
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。