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バルトーク:『弦楽器・打楽器とチェレスタのための音楽』の名盤

2010年12月17日 17時12分47秒 | 私の「名曲名盤選」



 2009年5月2日付の当ブログに「名盤選の終焉~」と題して詳しく趣旨を書きましたが、断続的に、1994年11月・洋泉社発行の私の著書『コレクターの快楽――クラシック愛蔵盤ファイル』第3章「名盤選」から、1曲ずつ掲載しています。原則として、当時の名盤選を読み返してみるという趣旨ですので、手は加えずに、文末に付記を書きます。本日分は「第52回」です。


◎バルトーク:「弦、打楽器、チェレスタのための音楽」

 この曲は、数年後にやってくる二度目の世界大戦突入への不安感に世界中が蔽われていた一九三六年に作曲された。
 この〈緊張の時代〉を背負った作品の気分を正当に表現し得た演奏として、ナチの時代をしたたかに生き抜き、戦後十余年を経てベルリン・フィルを手中に収め気力の充実し切っていたカラヤンの、1960年の旧録音がまず挙げられる。カラヤン盤の異常な緊張は、この曲の録音史上で空前のものと言え、楽員と一体になっての音楽の高揚は、時に魂が張り裂けんばかりの悲痛さを伴って感動的だ。この戦後の音楽界に君臨した巨人は、あたかも高度成長時代の申し子のように思われがちだが、この演奏は、戦争を知らない私のような世代の人間に、彼等が生き抜いてきた時代がどれほど苦渋にみちたものであったかを伝える貴重なドキュメントだ。
 晩年のバルトークと親交があり、そのよき理解者で援護者でもあったライナー/シカゴ響盤も、そうした緊張を孕んだ名演だが、カラヤンのような情念を持ち合わせていないライナーの棒は、全体を透徹した目で見通しており、リズムアクセントも鋭い。
 その後の世代では、バーンスタイン/ニューヨーク・フィルの演奏は、作品の緻密さと、そこに留まっていられないバーンスタインの内燃する精神とのアンバランスが産み出す緊張が興味深い。ブーレーズ/BBC響のシンメトリックな構成感と好対称を成していた。
 しかし、この作品も、やがては時代のなかから屹立し、作品として自立して行かねばならない。レヴァインの音彩の豊かな演奏は、そのことを予感させる。特に、第二楽章の力強く骨太な表現には、かつてこの作品に脆く傷つきやすい精神を嗅ぎ取っていた先人たちの共感が、忘却されはじめたことを明らかにしている。さらに若い世代による今後の演奏にも期待したい。


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