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作曲者と指揮者の深い友情を聴くハウエルズ『楽園への讃歌』。俊英ベイリーのチェロで『ファンタジア』も。

2013年05月10日 11時26分40秒 | BBC-RADIOクラシックス
 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、第二次大戦後のイギリスの音楽状況の流れをトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。


 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの92枚目

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【日本盤規格番号】CRCB-6103
【曲目】ハウエルズ:楽園への讃歌
      :チェロと管弦楽のためのファンタジア
【演奏】ドナルド・ハント指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
    スリー・コアーズ・フェスティバル合唱団
    アプリール・カンテロ(sop.)
    デイヴィッド・ジョンストン(te.)
       ―――――――
    ノーマン・デル・マー指揮BBCスコティッシュ交響楽団
    アレクサンダー・ベイリー(チェロ)    
【録音日】1977年8月23日、1982年8月12日

■このCDの演奏についてのメモ
 「楽園への讃歌」は作曲者ハウエルズ自身の家族の不幸を作曲の動機とした、美しく清澄な作品だ。このような生い立ちの作品としては、フォーレの有名な「レクイエム」が真っ先に挙げられるだろうが、このハウエルズの作品の場合、初演に漕ぎ着けるまでにも、多くの困難があったようだ。結局、初演の場となったのは、作曲者の生地に近く、若き日に音楽を学んだ町、グロスターだった。
 このCDに収録された演奏で指揮をしているドナルド・ハントは、このグロスターに生まれた宗教音楽の指揮者、オルガニスト、作曲家として、長く活動している人物。オルガン曲や多くの「キャロル」を作曲しているが、この「楽園への讃歌」の初演がやっとのことで行われた1950年には、初演の地グロスターのカテドラルの若きオルガニストだった。
 1930年生まれのドナルド・ハントが、グロスター・カテドラルのオルガニストに就任したのは、彼が18歳の1948年で、ここには54年まで在籍していたから、ハントにとって、青春時代の記憶に、この「楽園への讃歌」の初演が刻みこまれているかも知れない。
 いずれにしても、このCDに収められた演奏は、初演後20数年を経て、再び、同地に於て行われた記念コンサートの記録であり、リハーサルには作曲者自身も立合ったという。作曲者と指揮者とは深い友情に結ばれたが、この幸福な再演の後、5年余を経て、作曲者は世を去ってしまった。
 後に残されたこの演奏のCDは、イギリス南西部グロースターシャー州に位置する古い州都、グロスターに縁を持つ作品をめぐる二人の音楽家の友情が生んだ、ひとつの美しい花として聴くこともできるだろう。
 余白に収められた「チェロと管弦楽のためのファンタジア」も、幼くして世を去った息子への思いがこめられているというが、ここでチェロ独奏を担当しているアレクサンダー・ベイリーも、作曲者ハウエルズにロンドンの王立音楽院で学んでいる。
 イギリスを代表するチェリストのひとりで、エルガー、ウォルトンといったイギリスの作品の演奏に定評があるほか、ペンデレッキの「第2チェロ協奏曲」のカナダでの初演や、スタンフォードの「協奏曲」の世界初録音が話題となっている。
 伴奏指揮のノーマン・デル・マーは1919年に生まれ、1994年に世を去ったイギリスの指揮者。BBCスコティッシュ交響楽団などで活躍し、後期ロマン派を得意にしていた。特にリヒャルト・シュトラウスについては著作もあり、周到な研究を演奏で実践していたと言われる。(1997.5.29 執筆)


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