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ヴォーン=ウイリアムズ『海の交響曲』の美しさを満喫するサージェントの名演

2010年10月26日 13時02分27秒 | BBC-RADIOクラシックス




 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第2期20点の20枚目です。



【日本盤規格番号】CRCB-6060
【曲目】ヴォーン=ウイリアムズ:交響曲第1番「海の交響曲」
【演奏】マルコム・サージェント指揮BBC交響楽団
    E.ブリッグトン(ソプラノ)、J.キャメロン(バリトン)
    ニュージーランド・キリスト教会合唱団、BBC合唱協会合唱団
【録音日】1965年9月22日


◎「海の交響曲」
 周囲を海に囲まれた島国、イギリスはヨーロッパ大陸の諸国とはかなり異なった接し方で、大海原と付き合ってきた。海洋王国が生んだ今世紀初頭の大作曲家ヴォーン=ウィリアムズの最初の交響曲が「海の交響曲」と名付けられたのは、その意味で象徴的だが、この声楽を伴った大曲を指揮しているのが、イギリスで国民的人気を誇ったマルコム・サージェントなのだから、この1965年にロンドンで行なわれたコンサートは、ロンドンっ子たちを相当に沸かせたことだろう。
 サージェントは、1895年に生まれ1967年に世を去ったイギリスの指揮者。1921年に、ロンドンの夏の風物詩として有名な〈プロムナード・コンサート〉(プロムス)で指揮者デビューをした経歴を持ち、第2次大戦後も〈プロムス〉の指揮で毎年のようにロンドンっ子を沸かせた。合唱指揮者としても今世紀最高と謳われ、ヘンデルの「メサイア」、エルガーの「ゲロンテウスの夢」が特に得意曲だったと言われている。このCDで共演しているBBC交響楽団とは、1950年から57年まで首席指揮者を務めた関係にあり、その後もこのオーケストラとは良好な関係を保っていた。この録音は、そうした時期のものだ。1967年に世を去ったサージェントの、死の2年前の録音に当たる。
 サージェントの合唱指揮は、前述のように定評のあるものだが、この「海の交響曲」でも、大規模な合唱団全体をよくまとめ、雄大、壮麗な海の光景を描き出している。響きが柔和で穏やかに広がるのは、録音のせいばかりではないだろう。呼吸がゆったりとして深く、温かい。サージェントの技術と趣味の上質な部分を十分に満喫できる演奏だ。この曲の均衡のとれた、ある意味ではシンメトリックな傾向とでも言えるような気品を踏み外すことなく、壮大な海のドラマを歌いあげている。合唱に関する限り、この作品の録音でも1、2を争う名演だ。これみよがしなところのない、美しい歌唱にしばし酔いしれて、遥か遠くの海に思いを馳せるには恰好のCDと言えるだろう。
 ソプラノのブリッグトンはオーストラリア出身で、サージェントの指揮するプロムスにも登場しており、またゲオルク・ショルティ指揮でロイヤル・オペラにも出演している。バリトンのキャメロンもオーストラリアの出身だが、1949年のコヴェントガーデンでの「トロヴァトーレ」によるデビュー以来、ロンドンでの活躍が中心となっている。1953年にはボールト指揮ロンドン・フィルによる「海の交響曲」でも歌っており、作曲者自身にも認められていたと伝えられている。(1996.2.3 執筆)


【ブログへの再掲載に際しての付記】
 ここまでで、第2期の20点が終わりました。次回から第3期のリリース分となりますが、その前に、第1期~第2期までの50枚のリリースが終わって、当シリーズを通して感じたイギリスの演奏全般についての私なりの考察が、当時の第3期用に配布されたパンフレットに掲載されていますので、それを明日以降の最初のブログアップ時に掲載します。このところ、年末に発行予定の著書の執筆の仕上げに追われていますので、しばらく、簡単にUPできるBBCのシリーズ以外のものはブログにUPできません。申し訳ありません。



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