1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。
以下に掲載の本日分は、第2期20点の7枚目です。
【日本盤規格番号】CRCB-6047
【曲目】レスピーギ:「鳥」
「ボッチチェリの三幅画」
ケルビーニ:「交響曲ニ長調」
ブゾーニ:「喜劇的序曲」
【演奏】パトリック・トーマス指揮BBCフィルハーモニー管弦楽団
チャールズ・マッケラス指揮ロンドン交響楽団
【録音日】1984年1月6日、1969年2月8日
■このCDの演奏についてのメモ
このCDは様々な時代のイタリア系の作曲家の作品を収録している。バロック音楽を素材にして書かれたレスピーギの組曲「鳥」がパトリック・トーマス指揮のBBCフィルハーモニーの演奏である以外は、すべてチャールズ・マッケラス指揮のロンドン交響楽団が演奏しているが、録音はいずれも、このライヴ中心のBBC・RADIOクラシックスのシリーズではめずらしくスタジオ収録だ。
一見雑多に並べられたようなアルバムだが、いずれも古典的な均衡感のある美しさで共通しており、声高なところの少ない比較的控え目な音楽が続く。そして後の曲になるほどに、構築的な劇性が強まるといった仕掛けになっているようだ。なかなか、これはこれで考えられた組み方に仕立てられたCDだ。
演奏はマッケラスの「ボッティチェリの三幅画」が、第1曲「春」の快活な表情や、第2曲「東方の三博士たちの礼拝」の彫りの深い表現で群を抜いて楽しませてくれる。また、マッケラスの人間味あふれる人肌のような温かさを感じさせる劇的な表現が、ケルビーニの「交響曲」では思いがけずロマン派の交響曲の前ぶれを予感させるのも、このCDの収穫だ。最近は古典的プロポーションを大事にした秀演を聴かせるマッケラスだが、この1969年の録音では、対象に直接肉迫する若々しさがある。やはり、この人は見識だけではなく、豊かな音楽性とあふれる情熱を併せ持っていたのだと、改めて思った。
チャールズ・マッケラスは1925年にオーストラリア人を両親にニューヨークで生まれ、シドニー交響楽団のオーボエ奏者からスタートしたが、やがてロンドンに留学。さらに、紹介者を通じてチェコ・フィルハーモニーの大指揮者ターリッヒを頼ってプラハに留学、そこでヤナーチェクの作品と出会ったマッケラスはロンドンに帰国後、弧軍奮闘してヤナーチェクの紹介に努めるかたわら、サドラーズ・ウェルズ劇場のバレエ指揮者として地道な活動を続けた。努力の成果が実って、現在ではヤナーチェク作品の演奏の第一人者として認められているのはよく知られている。その他モーツァルトの交響曲の演奏でも、その学究的なアプローチが評価されている。
パトリック・トーマスはオーストラリア出身の指揮者で、ヨーロッパ各地のオーケストラとの共演は数多いが、主にオーストラリア国内で活動している。(1996.1.29 執筆)