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ブーレーズによって鍛えられた頃のBBC響が、レッパード指揮でマイケル・ティペットを演奏すると……

2010年08月26日 10時43分23秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログにて、このシリーズの発売開始当時、その全体の特徴や意義について書いた文章を再掲載しましたので、ぜひ、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下に掲載の本日分は、第2期20点の10枚目です。



【日本盤規格番号】CRCB-6050
【曲目】ティペット:コレルリの主題による幻想的小協奏曲
         :交響曲第3番
【演奏】レイモン・レッパード指揮BBC交響楽団
  ジョセフィン・バーストウ(ソプラノ)
【録音日】1976年12月15日


■このCDの演奏について
 イギリスの現代作曲家マイケル・ティペットの作品を2曲収めたCD。演奏するオーケストラは、このCDの録音の1年前までの首席指揮者が、戦後世代を代表する作曲家のひとりでもあるピエール・ブーレーズだったBBC交響楽団だ。このオーケストラはブーレーズが首席指揮者に就任していた1971年から75年の間に、かなりの現代作品の演奏に取り組み、また新作の発表に協力してきた。ティペットを、指揮台に迎えたこともある。
 一方このCDで、指揮をしているレイモンド・レッパードという指揮者については、日本では専ら、16世紀から17世紀にかけての作曲家モンテヴェルディの校訂者として知られている。グラインドボーン音楽祭におけるレッパード改訂版上演の映像がLDで発売され、話題になったりもした。そのほかのレパートリーも、パーセル、バッハ、ヘンデル、モーツァルトといった17世紀から18世紀の音楽が中心というように理解されている。
 ところが、このBBC・RADIOクラシックスのシリーズで、昨年マーラーの「大地の歌」が発売されてびっくりした矢先、今回、ドビュッシー、ルーセル、フォーレからなるフランス近代作品のアルバム、ショスタコーヴィッチの「交響曲第11番」、そしてこのティペットが登場したわけだ。こうしたジャンルまで指揮するのは意外だった。かなり、レパートリーが広い指揮者のように見受けられる。
 このティペットの演奏は、古典音楽に精通し、ロマン派の音楽については原則として避けているらしいこの指揮者の音楽性が反映し、気分の耽溺のない直截な表現が目立つ。そのこと自体は良いのだが、「交響曲第3番」の第1部でのリズム処理の曖昧さは少々気になるところだ。旋律の断片がそれぞれ小さなコアを形成して自立し、互いにぶつかり合う第2部でも、レッパードのいささか焦点の定まらない指揮では、この曲が本来持っている切り立った表現を見失ってしまいそうだ。
 このCDでは、当然ながら比較的保守的な手法の「コレルリの主題によるファンタジア・コンツェルタンテ」が、作品の魅力をよく引出した禁欲的な演奏で聴かせる。この曲には、もっと抑揚が大きく、音楽がグッと前にせり出してくるロマンティックなスタイルのグローヴズの名演もあるが、この作品の基本的な様式は、当CDのレッパードのようなアプローチにあるだろう。(1996.2.3 執筆)



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