以下、私の覚え書きです。
いつも書いていることですが、私は、どこの町に出かけても、通りかかった中古店には立ち寄ることにしていますが、そこで、聴いたことのない演奏家のものを見つけると、ほぼ、必ず買うことにしています。これも、そんな一枚。立川の町の小さなお店で見つけました。
シベリウス『ヴァイオリン協奏曲』とサン=サーンス『序奏とロンド、カプリチオーソ』で、ヴァイオリン独奏がディラーナ・ジェンソン、伴奏がオーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団で、1980年のデジタル録音初期のRCA原盤です。「世界初CD化」とありました。2004年12月に「タワーレコード」限定の復刻シリーズで発売されたものですが、私は見落としていました。(これに加えて、「日本初CD化」という1974年録音で、テッド・ヨセルソン(ピアノ)とオーマンディ/フィラデルフィア管とのチャイコフスキー『ピアノ協奏曲第1番』が収録されています。)
帰宅してから、古いカタログで調べたら、1982年1月新譜で国内盤レコードが発売されていましたから、この時にも見落としていたということになります。その後、再発売はなかったようです。(このCD化と同じく、シベリウスとサン=サーンスのカップリングです。)
私がシベリウスのヴァイオリン協奏曲にこだわりだしたのは、この少し後だったような記憶がありますが、最初に感心したこの曲の演奏も、オーマンディ/フィラデルフィア管です。独奏がアイザック・スターン。オーマンディの奏でる繊細なオーケストラの響きの中から、独奏ヴァイオリンが聞こえてくる独特の開始に耳を奪われたのを、よく覚えています。それ以来、ずいぶん様々な演奏を聴いてきましたが、このジェンソンに行き当たらなかったのは、よほど縁がなかったのでしょう。
この曲は、女性ヴァイオリニストのものに、個性的で、注目すべき演奏がよく現れます。作曲者自身も気に入っていたと伝えられる「カミラ・ヴィックス」や、今でも中古市場で高価アイテムになっている「グィラ・ブスタボ」の演奏がすぐに思い浮かびますが、「潮田益子/小澤征爾/日本フィル」も私の愛聴盤です。「堀米ゆず子」のデビューレコードも忘れられません。「ジネット・ヌヴー」「イダ・ヘンデル」も……と、いった具合に、次々に思い出します。遅ればせながら、私の記憶に、今回、ジェンソン盤も入ることになりました。
ジェンソンのヴァイオリンは、ひと言では言い表せませんが、目いっぱい考えて考え抜いたといった、ある意味では「うっとうしい」演奏です。この1枚で第一線から消えたのも仕方ないかなァ、といった感じ、と言っていいかも知れないものではあります。(世界各国のサイトを、かなり見てみましたが、あと1,2枚リリースされたような形跡がありますが、確実にはヒットしませんでしたし、それ以上には広がりませんでした。ご存じの方がいらっしゃったら、コメントください。)
ですが、この曲に、こんなにもはっきりとしたイメージを持って、若い時に弾き切った人が居たんだなァと、感慨深いものがあります。オーマンディのオーケストラ・コントロールも、途方もなく慎重、丁寧なもので、ほんのかすかな羽音まで再現しそうなほどの絶妙さで、ぴたりと寄り添っています。この緊張感は、尋常なものではありません。
「世界初CD化」というのも、「もう一度聴きたい」と思う人が、なかなか居なかったんだろうなァと、思わないでもありません。ほんとうに息苦しい音楽です。でも、この曲には、それを可能にするものがあるのだと信じさせる力があるのが、ジェンソンの演奏です。また、近いうちに、もう一度、聴き直してみたいと思いました。
なお、サン=サーンスも凄いです! これもまた、方向は違いますが、ハイフェッツ以来の「超名演」でした! これについては、また、別の機会に。