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『聖母マリアの夕べの祈り』をイギリス合唱音楽界の重鎮ルイス・ハルゼイで聴く。若き日のホグウッドも参加

2012年05月10日 16時22分28秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 ――と、いつも繰り返し掲載しているリード文に続けて、以下の本日掲載分は、同シリーズの85枚目。

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【日本盤規格番号】CRCB-6095~6
【曲目】モンテヴェルディ:聖母マリアの夕べの祈り
【演奏】ルイス・ハルゼイ指揮ロンドン・バッハ管弦楽団
    ルイス・ハルゼイ・シンガーズ
    ロンドン・コルネット&サックバット・アンサンブル
    クリストファー・ホグウッド/デイビット・マンロウ/
    リチャード・リー(コンティヌオ)
    (独唱者は解説中に記載)
【録音日】1970年5月25日


■このCDの演奏についてのメモ
 イギリスの合唱音楽演奏の伝統の成果が表われた美しい盤の登場だ。20年以上前の録音だが、今日の音楽状況にあっても少しも色あせることなく、清澄な響きで音楽にひたる喜びを率直に、伸びやかに味わえる。
 演奏者のなかに、わずか33歳で夭折したデーヴィッド・マンロウや、エンシェント室内管弦楽団を設立する以前の若き日のクリストファー・ホグウッドの名前が見られるのも、このCDが、長いイギリスの古楽演奏の歴史の流れのなかにあることを物語っている。
 このCDで指揮をしているルイス・ハルゼイは1929年にロンドンに生まれた。キングズ・カレッジで学び、50年代から合唱指揮者として活躍、67年には自らルイス・ハルゼイ・シンガーズを設立した。ルネサンス期の音楽の解釈で定評がある。また63年から長年にわたってBBC放送の音楽プロデューサーとしても、その見識を生かして放送や演奏会に多くの貢献をした。
 ソプラノのアプリール・カンテロは古楽と現代曲の分野で指導的役割を担うベテランのアンサンブル歌手。デラー・コンソートにも所属し、また、グラインドボーン・オペラの常連でもあった。
 もうひとりのソプラノ歌手アンジェラ・ビールについてはその経歴など、手元の資料ではわからなかった。
 カウンター・テノールのポール・エスウッドは、世界のトップレベルのカウンター・テナーのひとりだった。1942年にイギリスのウェスト・ブリッジフォードに生まれ、ロンドンの王立音楽学校に学び、64年から71年までウェストミンスター大寺院の合唱団で活躍した。このCDの録音は引退の前年のものということになる。
 テノールのイアン・パートリッジは1938年にイギリス、ウィンブルドンに生まれた。妹のジェニファーのピアノでのソロ活動のほか、コヴェントガーデン王立歌劇場にもしばしば登場している。
 テノールのジョン・エルヴェスは、生年不祥だが、初めボーイ・ソプラノ歌手として、ジョージ・マルコムに学んだという。バロック期の音楽を特に得意としている。
 バリトンのデイヴィッド・トーマスも生年不祥だが、セントポール寺院の合唱団出身で、長じてキングズ・カレッジに学んだ。バロックや古楽からウォルトン、ティペット、ストラヴィンスキー、シェーンベルクまでとレパートリーは幅広い。ソプラノのエンマ・カークビーとのリサイタルのほか、モンテヴェルディ合唱団、エンシェント室内管弦楽団などとの共演も多い。(1997.1.27 執筆)



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