goo blog サービス終了のお知らせ 

怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

米澤穂信「黒牢城」・北村薫「中野のお父さんと五つの謎」

2025-04-07 15:02:57 | 

米澤穂信さんの直木賞受賞作「黒牢城」

舞台は、戦国末期、信長が本願寺と激しく対立していたさなかに摂津の国の支配を許されていた荒木村重は伊丹の郷に築いた有岡城によって信長に反旗を翻した。壮大な城に籠城する荒木村重だが、周りを織田方に囲まれ長い戦となる。

そんな中、黒田官兵衛が翻意をさせるべく村重のところへ来る。ところが村重は官兵衛を返すでもなく殺すでもなく土牢に幽閉する。

戦いは村重の寄騎で味方のはずの高槻城の高山右近や茨木城の中川瀬兵衛は織田方と一戦も交えることなく開城、安部兄弟の守る小和田城も降って開城。戦らしい戦もない中、織田方の包囲網はどんどん狭められていく。本願寺勢と毛利の援軍を得て決戦を行うはずが、毛利は出てこない。ついには宇喜多までも離反して陸路での毛利勢の進出の道も立たれていく。

包囲下の城内では村重の指導力で一つにまとまって戦意を維持しているのだが、長引くにつ入れてほころびが出てくる。そんな中、守将の間に疑心暗鬼を生む謎めいた事件が起こっていく。村重はその謎を必死に解明しようとするのだが、膠着状態。思い余って土牢の閉じ込めた官兵衛に相談する。トップは孤独で誰にも腹を割って本音で相談できないのだが、その才能を高く評価する官兵衛には土牢に閉じ込めているだけに誰にも知られず相談できる。そこで謎解きのヒントを得て村重は事件を一応解決していくのだが、正直言ってミステリーとしてはちょっと生煮えのような感じで不完全燃焼というか突っ込みどころがありそう。

まあ、そこは「このミステリーがすごい!2022」などに選ばれ史上初の4大ミステリランキング完全制覇の本ですので、ちゃんと最後の謎で生煮えのところは見事に回収されているのですが、この小説は強大な敵の包囲下で希望が次々と絶たれていく人々の心理状態と動向を描き、荒木村重が何故城を捨て将兵を置き去りにして一人で出奔してしまったのか(そこが最大のミステリー)、村重の心理状態を見事に描いているのが、読み応えあるところです。

もう1冊は北村薫の中野のお父さんシリーズ第4弾。今回のなぞ解きのターゲットは、夏目漱石の「アイ・ラブ・ユー」の訳に松本清張の「点と線」のミステリーとしての評価、芥川龍之介の最初の本の装丁、池波正太郎の白波看板から落語の三遊亭圓生の語り、「居残り佐平治」に出てくる十二煙草入れとは何かと多彩です。いつもながら本をこよなく愛している著者の微に入り細にいる知識(本だけでなく落語でも)に感嘆させられます。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする