怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

中野信子「フェイク」

2022-12-29 21:14:19 | 
嘘つきは泥棒の始まりとか、嘘ばかりついているとオオカミ少年のようになってしまうとか私たちは子どもの頃嘘は絶対の悪と教えられてきた。
でも大人になるに従って、はっきり本当のことを言ってはいけないなどと言われ「嘘も方便」などと言うことも学習する。
どうも人間社会はあからさまに自分の思ったことを主張するとぎくしゃくしてしまい争いになるみたい。
衣食住足って礼節を知ると言うけど礼節というのはぎくしゃくしないように心の内をオブラートに包んで対処すると言うことにも思える。
しかし今は礼節を飛び越えてフェイクが飛び交い、隙あれば自己の利益のためにはめてしまおうと言う輩が跋扈している。
トランプ前大統領などは自分に都合の悪いことはすべてフェイクと言い張り、事実をゆがめた嘘を垂れ流しいる。
嘘は人間社会にとって必要不可欠なもののようですが、フェイクが飛び交う現代で噓とどう付き合っていくべきか、中野信子さんが縷々説明しています。

現代では職業によっては虚構を語ることによって評価される面もあり、例えば画家、小説家とか役者とか芸人とかは多くの虚構をアートとかエンターテイメントとして作り上げていて人々を楽しませています。お世辞とか謙遜とかもウソと言えばウソで、ある意味人類はウソを巧みに操る能力を進化させて生き延びてきたともいえる。人類にとってうそは「よくないこと」「不必要なもの」ではなく、積極的に嘘を利用しながら、集団を保持し、人間関係を構築してきたと言える。
人類の脳にとっては、期待=ウソは脳に快楽の報酬を与え興奮を呼び起こすところがあり、人々に希望を持たせて良い方向に導く人がある一方で期待感をあおっておきながら、欺いて損害を与えたり誤った方向に向かわせようと人もいる。悪意ある人は「人が騙されるメカニズム」を巧妙に使って近づいてくる。
最初に人は何故騙されるのかについて分析しているのですが、脳は活動を効率化し酸素消費量を抑えようとするので自分で考えずに誰からかの命令に従うとか感情的に意思決定するのが心地よい。その快楽の報酬を得るために脳は騙されたがっている。脳の働きとして「確証バイアス」とか「真実バイアス」「正常性バイアス」が働いて騙されてしまう。ウソと分かっていても「同調圧力」に流されてしまう。
それでもウソをうまく使って自分自身をいい方向に導くことによって効用を高め活用することも出来ます。ここで「ホーソン効果」とか「ピグマリオン効果」とか「プラシーボ効果」「ラベリング効果」その昔心理学の授業で習ったような言葉が出てきて詳しく解説してあります。当然ながらほとんど覚えていなかったですけどね。
それでも世間にはそのウソの効用をうまく逆手に取って悪意あるウソをつき、詐欺行為を働いたり不正行為を働いたりマインドコントロール下において思考を操ったりする人が後を絶たない。
人類は社会生活を維持して豊かにするためにフェイクを採用してきた必然性があったのですが、フェイクに振り回されずに賢く活用することが必要。ウソとどううまく付き合っていけばよいのか、悪意あるウソをどう見抜くのか、結構これは自分の頭で考えなくてはいけないので脳に負荷をかける話で、知恵と知識が問われることになります。
どうしても自分に心地よいウソになびきがちで、信じてしまうものです。人は誰でもすべての事実が見えているわけではなく自分が見たい事実しか見ていないと言ったのはカエサルだったか。騙されている方が心地よいとなるとそれをうまく利用するサギは減らない訳です。SNSで誰でも確証の無いフェイクを垂れ流すことが出来る現代では騙されないためにはウソと上手に付き合うことの大事さは分かるのですが、その難しさもわかる本でした。
一緒に写っているのは逢坂剛の「平蔵の母」。逢坂剛版鬼平犯科帳ですかね。鬼平自体はほとんど陰に隠れて出てこずに物語が進んでいくのがほとんどですが、盗賊仲間の間での鬼平憎しの感情の強さと功名心にはちょっと違和感を感じるのか。鬼平犯科帳をあまり読んでいないのですが、それへのオマージュとすると前提として鬼平犯科帳を読んでからでないと理解できない部分があったかも。
コメント
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