怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

軽部謙介「ドキュメント強権の経済政策ー官僚たちのアベノミクス2」

2021-07-01 13:58:50 | 
2018年6月に「官僚たちのアベノミクス」をレビューしていますが、この本はその続編。

前回も書いていますが、著者はジャーナリストと言うこともあって、読みやすくてテンポのいい文章です。硬い内容にもかかわらずサクサク読むことができました。
これを読んで改めて思うのはアベノミクスとは何だったのだろうかということ。
大胆な金融緩和、機動的な財政支出、規制改革という三本の矢と言われていましたが、実態としてまともに機能したのは黒田日銀総裁の下で行われた異次元の金融緩和のみ。しかし当初自信満々で宣言していたデフレ脱却、2%の物価上昇は実現していない。金融緩和のもたらした円安によって企業業績は回復したのだが、当初言われていたトリクルダウンは起こるべくもなく、企業の内部留保のみ積み上がってきていた。いわゆるリフレ派の主張するところは事実関係として破綻していると思うのだが、政治的に一強体制を実現した安倍の前では伝統的経済学者はまったく出番がなかったと言える。歴代日銀総裁たちや財務省次官ОBたちの意見は入れられることなく行き場のない憤怒が貯まるのみ。ОB会などで現役官僚たちに怒りをぶつけても如何ともならない。
どんどん積み上がる日銀の資産は、日銀が日本企業の最大の株主になるのではと言われるまでとなり、国債であれ株であれ、これを売る時には大暴落間違いなし。どこかで出口戦略をしなければいけないのなら考えると眩暈がしそうなのだが、みんな見ないようにしている。というか安倍は、自分の任期中は逃げきれるだろうと思っていたし、そんな未来は見たくなく聞きたくもない。みんな憂慮していても誰もそのことに意見を言えないし、言えば遠ざけられるのだろう。
それでも正規、非正規の格差はともあれ雇用情勢は改善してきている。しかし企業収益は賃上げに結びついておらず、雇用格差は拡大している。何とか企業業績の拡大を投資拡大、賃金引き上げと持って行き経済の好循環を実現したい。異次元の金融緩和でもデフレ脱却は見通せずに、どこかで打開策を見いだせねばいけない。
そんな中考え出されたのが、政府による賃上げ介入。政労使を同じテーブルにつかせ、何とか賃上げを実現しようとする。いわゆる官製春闘。安倍自身は民主党の支持母体の連合と話し合うのは嫌だったみたいですが、ここは経済の好循環を導くためにと周りから説得されたみたいです。
それと同時に突然のごとく打ち出されたのが「新三本の矢」すなわち名目GDP600兆円、出生率1.8、介護離職ゼロ。この方向性は新自由主義政策と真逆。再分配重視政策への転換です。こういうことが何のためらいもなくできると言うことは安倍の頭の中に確たる思想性とか哲学がなかったということか。政策を単に選挙戦略としてしか考えていないので、選挙に勝つためには何でもあり。口当たりの悪いことは触ろうとせずに、痛みを先送りし美味しいことばかりを言って、政権に最も有利な時に選挙を行う。あえて言えば民主党にはこの狡さがなく野田は最も状況が悪い時に衆議院を解散して選挙を行ってしまうと言う愚直な必敗の選択をしている。
以前読んだ森嶋通夫のサッチャー政治を論じた本にも、サッチャーは選挙に際して最も政権に有利になるように法案を出し政策を行っていたからこそ選挙に勝っていたとか。政権を維持してこその政策と言うことなんでしょう。
まあ、安倍の本当にやりたいことは憲法改正であって、日本を戦前のようにしたいと言うことであり、あとのことは方便なのかもしれません。
でもその方向転換を実現すべく各省庁、とりわけ財務省は右往左往。一昔前ならば官庁の中の官庁として、影では総理大臣ひとりぐらい説得できずにどうするとまで豪語していたのに、今や消費税増税は延期に次ぐ延期で、増税すればこき下ろされ、その目的も転換させられてしまう。安倍一強体制による内閣人事局の人事統制は、この国の統治機構の在り様を大きく変えている。3年に一回はある国政選挙のために揺れ動く政権と国民の審判を受けない官僚機構。両者の緊張関係と共同作業でこそ必要に思えるのだが、官邸による人事統制があまりにも強いと弊害も目についてくるし、人事権者に阿り忖度する輩は輩出する。森友学園とか加計学園の例はたまたま表面化した付録のようなものかもしれないけど、官僚機構の真ん中で進んでいる政策決定過程の変化を見ると、このままでは日本の統治機構はどうなっていくのかと不安になってしまいます。ある意味日本の官僚機構が高度成長を実現しジャパンアズナンバーワンと言われるまでの大きな成果を上げた成功体験に慢心した結果、導いたこれは止められない道なのか。
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