怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

養老孟司「日本のリアル」

2020-11-19 14:19:07 | 
養老先生の対談集です。
家族の食卓、農業、漁業そして林業の関係では知る人ぞ知るという4人との対談です。

正直4人の内畠山重篤さんは知っていたのですが、あとの3人については知りませんでした。でも対談を読んでみると目から鱗と言うか新しい知見に知的好奇心を刺激されました。この4人の人選は養老さんではなくて編集部なのでしょうが、養老さん自身が知古の方もいて話はうまくかみ合って盛り上がった感じです。
それでは順番に簡単に紹介してみます。
まずは岩村暢子さん。1998年から毎年「食DRIVE」と言う子どもを持つ主婦に1日3食1週間分の食卓を写真と日記で記録してアンケートと個別面接してフォローするという調査を行っている。そこから見えてきたのは家族や家庭の変容。家族がそれぞれますます「自分」を大切にし、個を優先するようになっている。「バラバラ食い」や「勝手食い」が増えている。今や御馳走とはそれぞれが好きなものだけでお腹を一杯にできることとなってしまった。ビュッフェとか回転すしが人気に出ています。今や子供が13歳あたりになると親子の役割があいまいになって、むき出しの「個」と「個」の関係になってくる。家族がクリスマスなどのイベントでかろうじて結びついているのだが、そのイベントも最近は低調になってきている。家族と言う共同体と言うか、最も密接な人間関係が内側から怪しくなってきていて、それは家庭の食事と言う日常そのものに現実がなくなってきている。
家族についての二人の論考は興味深く、家族にとどまらずこれからの日本社会のあり様について示唆に富んでいます。
次は岩澤信夫さん。私は知らなかったのですが「不耕起栽培」を推進した人です。残念ながら12年5月に亡くなっています。その半生は試行錯誤をしながら不耕起栽培を広めていくもの。バイタリティ溢れたその活動には瞠目します。不耕起栽培を普及するためには三菱農機とか伊関農機と言う農業機械メーカーに掛け合い専用の田植え機まで開発している。不耕起農法は冷害があっても従前並みの収穫を得ていて、1993年の大冷害の年にその差を見事に実証していた。その様子は「究極の田んぼ」と言う本になっている。それにしても不耕起冬季湛水栽培が普及すると農薬も肥料も売れなくなって困るから慣行農法に拘泥しているとすると農協はもはや時代に合わなくなっていて役目は終わったと言い切っていますが、12年時点でそう言い切ると農村では敵を多く作るでしょうね。
3人目は畠山重篤さん。カキ養殖漁師が森に木を植える運動を行ったということで話題になり私自身も紹介記事を読んだことがあるので、この本の4人の中で唯一知っていた人です。森と川と海は繋がっていて、広葉樹林と鉄分が海の生物を育てている。だからこそ漁師が森に木を植えるのだと。ダムは森の養分を止めてしまうので、ダムが必要ならば海までを視野に入れた設計思想で作るべきと言っています。防災の観点からダム見直しの見直しが言われていますが、災害から短絡的にダムと言うのではなく多角的な検討が必要なんでしょう。ところでフランスで養殖されているカキは今は宮城県で生産されている「宮城種」と言う種ガキが輸出されたものとか。その縁で大震災の際に最初にカキ業者に支援の手を差し伸べてくれたのはフランスだったとか。 
最後は鋸屋茂さん。日本には健全な森林、健全な気に対する定説がなく科学的な林学がないと言い、健全な森にすべく科学的な密度管理に基づく間伐法「鋸屋間伐」を提唱している。人工林の間伐は健全な生態系を保つために行うもの。具体的には1ヘクタール当たりの胸高断面積合計と言う数値を目安にして、1ヘクタール当たりの木の本数を管理していけばいいというのが基本です。残していく木に将来性があるかどうかは素人が選んでも、プロが選んでも答えはほぼ一緒とか。もう一つ鋸屋さんが開発したのが木を伐らずに枯らせる間伐法「巻き枯らし間伐」を開発。無理して搬出してももうけにもならないしので、伐り置きにすれば作業効率も安全性も高まり土留め効果をもたらし、下層植生の回復にも役立つといいことづくめ。林業はもうからないというが、作業効率を高め、正しく無駄のない仕事をすればちゃんと採算が合うというのは頼もしい限りです。以前、三重県の速水林業の社長の話を読んだのですが(このブログにもレヴューしています )、きちんと創意工夫をして効率化すればちゃんと事業継続性も将来性もあるのです。問題はそういうことのできる人材をどうリクルートしていくのかかもしれません。
一緒に写っているもう1冊は逢坂剛の「墓標なき街」、百舌シリーズの最新刊、と言っても2015年刊ですけどね。「百舌の叫ぶ夜」から愛読していたのですが、暫し間が空いてほとんど内容を忘れてしまっていたのですが、登場人物はなじみがあり、話のところどころにそれまでの事件の振り返りがあったりして読み進めていくと、そう言えばそういう場面もあったかと思いだしつつの読書でした。相変わらずグイグイ引き込まれてしまいますが、ちょっと荒唐無稽な面が引っかかるところも。
それでも新たな登場人物も出て来て、最後にすべて解決とはならず、まだまだ続編がありますよと言う終わり方。お楽しみはまだまだこれからもです。
続編はいつ出るのか、ひょっとしてもう出ているのでしょうか?
コメント
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