怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

益田ミリ「妄想はオンナの幸せ」・森見登美彦「夜は短し歩けよ乙女」

2020-11-30 07:19:16 | 
益田ミリは気が付くと手に取り読んでいてこのブログでも何冊かのレヴューを書いています。特に父の死を扱った「永遠のお出かけ」は自分の父のことを思い出して深く心に染み入りました。
でも今回の「妄想はオンナの幸せ」は三十そこそこに書かれたもので、若かりし頃はこんな妄想ばかりしていたんか、やっぱり文筆で身を立てるよな人は、妄想と言うか想像力を膨らまして生きてきたんだと妙に感心。

ままならぬ現実と向き合いたくなく、一人で妄想にふけって楽しむ、これは妄想の質が違うかもしれませんがオンナだけでなくオトコも一緒。著者は「モーソー族」と言っていますが、私もゾクに入る資格はありそうです。
妄想は物心ついてから、ありとあらゆることに向かいます。
章立てに従えば、
恋の「もしも」に胸キュン・・・かっこいい幼馴染がいたら、かっこいい彼氏がいたら、本屋で運命の出会いなどなど
「もしも」でラクして都合よく・・・ふたごだったら、超能力者だったら、ヤンキーの姉ちゃんがいたらなどなど
ヒロイン願望はとまらない・・・突然スポーツ万能になったら、私が芸能人だったら、組長だったらなどなど
「もしも」で人生大逆転・・・実はお嬢様、ある朝突然、すっごい天才になっている、英語がペラペラだったらなどなど
24の妄想が出てくるのですが、実は私も同じような妄想に浸っていたことも…子どもの頃から一人遊びが好きで人見知りだったので、シンパシーを感じることが多く、この本には心癒されました。
まあ、前書きにも書いてありますが、ほにゃららだったらいいな~と言うことは自分だけの妄想に済ませておけばいいものを、わざわざ実行に移してしまった場合、結果は悲惨なことになりがちです。
合間合間に、モーソー族大集会と称する読者投稿とそれに対する筆者コメントが付いていて楽しめます。
そんな妄想を小説に昇華したのが森見登美彦の「夜は短し 歩けよ乙女」
これは、森見登美彦としてはデビュー作の「太陽の塔」と評判になった「有頂天家族」をつなぐもの。森見登美彦ファンならおなじみの全編これ妄想の塊と言っていいものです。
舞台はおなじみの京都。木屋町、先斗町界隈から京都大学周辺、糺の森まで、土地勘がある人にはより楽しめます。
主人公は、京都大学の3回生と彼がひとめぼれしてしまったクラブの後輩の彼女。二人の語りが交互に入って物語は進行していきます。と言っても告白するわけでもなく、彼女の目に留まるように行く先々に行き、偶然と呼べないような回数出会うようにしているのだが、彼女はまったく意を払わない。この点については最近の風潮ならば仮に彼女が気が付いていれば彼は確実にストーカーとなる。私の青春時代ならば純情一途な行為と称賛されたことが今や犯罪者になるというのは、なんだかな~。朝が苦手なくせに彼女と同じバスに偶然乗り合わせるために朝早く起きて走って行く輩とか彼女の行動を調べて偶然のごとく出会うためにあちこちを彷徨う輩とかは周りにいっぱいいたのですけど。それはお前だろと言われるとどうもすいません。
下鴨神社の参道で古本市が開かれて彼女が行くとなれば、それは行って彼女が手を伸ばした本と偶然にも同じ本に手を伸ばし、そこから偶然の触れ合いが生まれ薔薇色のキャンパスライフへ自然に進んでいく。この展開は益田ミリの妄想にも同じシチュエーションがあったのですが、私なども何回同じような妄想して古本屋を巡ったことか。その昔二人で何軒かの古本屋巡りをしたこともあったのですが妄想だけは目いっぱい膨らんでいても、清く正しい青春時代の私は手も触れることもなく、あれはいったい何なんだったのか。まあ、妄想を実行していたらとんでもないことになったんでしょうけど。
二人の周りを固めるのは、怪しげな羽貫とか樋口とかの人間離れした二人とか、いかがわしい東堂とか、高利貸しの李白とか最早これは有頂天家族に登場する狸の一族。満艦飾の三階建て電車なども出てきたことがある様な。
重要な場面となる学園祭は青春の押し売り叩き売り、いわば青春の闇市、唾棄すべき青春そのものと言う啖呵には激しく同意!
その学園祭の事務局長とかパンツ総番長とか閨房調査団青年部とか京福電鉄研究会とか詭弁論部とかは、まさに「太陽の塔」のノリと登場人物の延長線にあるもの。
ここに出てくる青春とはなんて馬鹿らしくて滑稽で独りよがりで、まさに妄想の塊。だからこそ身につまされてしまいます。
因みに最後はハッピーエンドになるのは裏切られたようなホッとするようなアンビバレントな気分ですが、そんな自分が恥ずかしい。
思い出すのは東京キッドブラザースの名セリフ「金がなければ夢を見るしかない」
青春とは妄想です。
コメント (1)
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