怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「原発と日本の核武装」武田邦彦

2018-04-17 07:10:40 | 
武田邦彦という人は「ホンマでっかテレビ」などでもっともらしいけど怪しげな説をさも学問的裏付けがちゃんとあるがごとく話す人で、目立ちたりが屋の人で話すことも話半分で聞いているえばいいかと思うのですが、この原発については、長く携わっていた経験もあってまともな面に感じられる。
思うに日本人の放射線、放射性物質に対する気分はかなり映画の「ゴジラ」に影響されているのではないだろうか。
ゴジラの吐く放射能というものは、放射線なのか、放射性物質なのか?たぶん体内で核融合を起こしてできた放射線を吐いていると思うのだけど、私が物心ついていたころから、それは放射能と呼ばれていたと思う。放射能というのは放射線を出す能力なので放射性物質と思うのですが、イマイチその点はあいまいで世間一般は区分することなく理解していた。まあ、映画の世界で学問的厳密性は余計なことかもしれないですからね。
でもほとんどの人は放射能という言葉だけで何となく恐ろしげなものと理解していたのですが、この混乱が、原発事故の時の避難判断に微妙に影響したかもしれないかとこの本を読んで思ってしまいます。

放射線は直進してその強さは距離の2乗に反比例する。従って原発から一定の距離があれば、人体への直接的影響は少ない。ところが放射性物質というのは細かい塵となって風に乗って流されていく。いわゆる死の灰です。従って直線的な距離ではなくて風向きによって予想外の遠くまで運ばれていく。風向きを考慮して避難する必要があったのに、実際には半径何キロで避難が進められている。
結果としてより汚染度の強い風下に避難するということまで起きている。放射能という言葉の下に直線距離で遠くに行けばいいという先入観があったのではないか。
そして事故後福島県浜通りの気象データは発表が止られてしまった。無用な混乱を起こさないようにということだったのだろうが、対応不能を危惧しての姑息な対応といえる。
因みに除染作業する人たちが白い放射線防護服を着ていますが、あれはペラペラの生地で、放射線を遮断できるようなものではない。体に放射性物質がつかないようにするためのものです。死の灰がついて体内被曝しないようにするための上っ張りにすぎません。放射線防護服ではなくて防塵服ですね。
原発は事故を起こさないという前提のもとに思考停止してしまい、何ら事前の準備もなく、防げるはずの事故を起こし、その後の対応もひどいとしか言いようがないことになった。
原発は想定外の津波によって事故に至ったなっているが、実は地震においてもかなりの被害を受けていてそれは想定外とは言いがたい。現実に柏崎では配管等が大きな被害を受けていた。本体はともかく配管とか電源などが被災すると暴走してしまう可能性があるとなると安全神話というのは何だったんだろうか。実際には2号機は原子炉本体が爆発する危険性があったのですが、ある種の幸運から免れたというのですからなにをか言わんです。
原発事故についてはいろいろな本が検証しているのですが、私は新聞雑誌記事ぐらいしか読んでいないので、この本のことだけを信じてはいけないのだろうが、私は安易に放射能という言葉を使う人は信じられない。
ところで一般人の被ばく限度は1年1ミリシーベルトで法令に定められているとか。でもいつの間にか被ばく限度はうやむやになり20ミリシーベルトとか言われるようになりました。1ミリシーベルトの限度基準は感受性の個体差や安全率を見込んでのものなのですが、そうなると対応不可能なほどの避難民が発生してしまうので口をつぐんでしまったということでしょうか。低用量の放射線被ばくの影響が出るのは長い時間の経過が必要なので結果は分からないにしても、安全基準がいつの間にか変わってしまうのはどうかと思います。
ただ、これは中川恵一さんが主張していることですが、大量の避難民が出ると、当然ながら劣悪な環境の仮設住宅暮らしとか、地域コミュニティの崩壊した中での孤独な生活とか、食事や生活習慣の変化をもたらすので、結果的に放射線の影響よりもストレスの多い避難生活の方が大きな影響をもたらして、がんになる人が増えるということも考えられるので難しいところです。
この本では原発再稼働賛成派と反対派を、それぞれ3つのカテゴリーに分けていますが、さすが理系の分類で、これは頭の中を整理するには便利です。賛成派には主張は隠されているのですが、本音のところで、原発は日本の核武装のために必要という面が大きいかもしれません。核爆弾を作る原料も技術もあり、輸送手段としてのロケットも国産であるので、意志さえあれば今すぐにでも核武装できるというポテンショナルを持っているということは、他国に対するひそかな抑止力になっているかも。まさにトランプのアメリカがどう転ぶかわからない状況だけにこの隠れた必要性の支持は高いとなると、経済合理性の埒外の判断です。
読んでいて違うだろうと言いたいところとか話半分でも怪しいというところもありますが、あまりマスコミが取り上げない論点ですし、読みやすいので、図書館にあれば手に取ってください。



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