怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「黄沙の楽土」佐高信

2018-01-24 21:40:17 | 
浅田次郎の「蒼穹の昴」を読んで以来、中国近現代史に俄然興味を持ったのですが、本格的に歴史書を読むよりも「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・リポート」と読み進めるほうが断然面白いし、作者自身、李春雲とかの主人公は架空の作者の創作とどこかで書いてたので、半分以上は本当だろうと思いつつ、精々が新書本で近い歴史を読むぐらいでした。
物語は「天子蒙塵」のシリーズになり、いよいよ張作霖爆殺から満州事変へと進んで行くのですが、ここでは日本軍人の本庄繁とか板垣征四郎、石原莞爾が重要な役割を演じてくる(今は第2巻まで出ていますが、全シリーズと同様に読みだすとやめられない面白さ。早く続きが読みたい。お勧めです。)
あやふやな知識しかなかったので、かねてより石原莞爾については一度全体像を知りたいと思い今回読んでみたのが佐高信の「黄沙の楽土」

山形出身の佐高は石原と同郷ですが、相変わらずの辛口。おかげで郷里では批判をかなり受けたとか。
石原莞爾ついては毀誉褒貶が激しいのですが、その構想力のスケールの大きさと先見性をたたえ天才と評する人も多い。その先見性がゆえに東条英機などに疎まれ、参謀本部から関東軍参謀と飛ばされ京都師団長に事実上の左遷され、早々に退役将校になって郷里山形へ引っ込んでしまうところも、石原がいたなら違う展開になったのではという思いをもたらしているのでしょう。
石原自身はそれによって戦犯として追及されることを免れているのですが、その時の自己弁護は潔いとは言えません。満州事変は関東軍司令官たる自分一人の責任として自刃した本庄と比べると、実際には石原がほとんど一人で企画立案したと思われるだけに、余計無責任に思えます。
石原の構想では最終決戦はアメリカとの戦争で、そのためには満州国の経営に専念して国力を養わなければならない。日中戦争不拡大を訴え、関東軍の暴走を止めようとしていた。
だけど石原が日中戦争拡大を阻止すべく参謀本部の作戦課長として関東軍に乗り込んできた時には関東軍の参謀たちからあんたが中央の命令を無視して満州事変までにやってきたことを我々は模範としてやっているだけと言われてぐうの音でなかったという。このエピソードはこの本の中で何回も出てくるのですが、暴走した石原等を陸軍は何ら処分しなかったことから、やったもん勝ちの前例ができてしまった。あとで本意ではなかった思ったにせよまさに石原が開拓した路線なのです。
石原は陸軍幼年学校、士官学校、陸軍大学とトップの成績で卒業し、酒もたばこもやらず、ドイツ留学中にはナポレオンやフリードリッヒ大王の戦術を研究し、月給の殆どは本代に使ってしまったとか。粘りが身上で大して頭の良くない板垣を操り、本庄の下で日本政府の意向を無視して関東軍を自由に動かしていた。満州国建国によって、五族協和とかあたかも口触りのいい理想的国家ができたかのようであるが、その実態は日本の傀儡。石原の理想は全く顧みられることはなかった。走り出した関東軍は石原の意向を飛び越えて植民地経営にまい進していく。それは石原の志と違うと言ってもその路線を準備して進めてきたのは石原自身であり、それを読み切れなかったとするととんだ智謀です。満州国の実態については想像通りなので縷々書くことはありませんが、王道楽土のスローガンに乗せられて開拓団として満州に赴き悲惨な結末を迎えてしまう日本人にとって、石原は何ということができるのか。やっぱり私の言うとおりにしておればこんなことにならなかったというのでしょうか。そもそも満州は無人の荒野でもなく人の土地に勝手に踏み込んで五族協和の理想などはないものです。
佐高は戦争拡大を阻止しようとした石原を放火犯の消火作業と言っているが、いまだに石原神話が残り神格化しようという人もいるのですが、放火犯には間違いないし、その責任を取ってはいないと思う。
石原の他にも「天子蒙塵」に登場する人物もたくさん出てきて、浅田次郎の小説と合わせて読むにはいいですね。勉強になりました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする