怪しい中年だったテニスクラブ

いつも半分酔っ払っていながらテニスをするという不健康なテニスクラブの活動日誌

「病は気から」を科学する

2017-05-27 08:05:31 | 
これは目から鱗というか医療に対する認識を革命的に変えてしまう本です。
翻訳本なので、たくさんの事例が出てくるのですがどうしても人名が覚えられずにごちゃごちゃになってしまうとか、やたらとアルファベット3~4文字ぐらいの単語が出てくるのが分からないとかあるのですが、著者は科学記者ということもあってそれなりに読みやすいものになっています。

「プラセボ効果」という言葉は聞いたことがあるでしょう。偽の薬なり治療で回復したようにみえる現象を言い、臨床試験では、喘息、高血圧、胃腸障害から、つわり、勃起不全まで幅広い条件下でプラセボ効果がみられる。通常、医師や科学者はそれを幻想や錯覚とみなしている。
そのため新薬の効果を見るためにはプラセボ効果の影響を排除できる二重盲検試験を行わなければならないとなってきた。
しかし、プラセボ効果は幻想にすぎないのだろうか。実際に臨床的価値がある場合もあるのでは。「病気がよくなる」という思いに治癒力があるのでは。
プラセボ効果を臨床試験で調べてみると、その効果は測定できるものであり、確かに存在することが分かる。ちゃんと脳と体の測定できる物理的根拠があるのです。
もちろん、限界はあって、一つ目は治療を信じる心が起こす効果は、体が持っている天然ツールに限られるということ。当然ながら切断手術を受けた人に新しい脚は生えてこないということ。二つ目は期待がもたらす効果は特定の症状に限られるということ。痛みや痒み、発疹、下痢や認知機能、睡眠などなど自分で気づいている症状だけにである。プラセボ効果はコレステロールや血糖値など自分でわからない値には影響を及ぼさない。
しかし、医学的治療の多くの対象は基礎疾患の経過よりも症状であり、痛みを取るなどの自覚症状を変えることには大きな価値がある。
でも医療関係者はプラセボのメリットを認めていても、患者に有効な薬とうそをつき騙すことは医者と患者の信頼関係を無くす危険があり治療として認めようとしない。まあ、自分の治療が未開の村の呪術師と同じように見えてしまってプライドが許さないかも。
しかし、ある研究によると「この薬はプラセボ」と正直に伝えても効果は実際にあるという。医師と患者のやり取りと薬を飲むという儀式が症状を和らげていくのです。
ではどういう仕組みでプラセボ効果は起こるのか。
1980年代に免疫系と神経系が実際につながっていることが分かってきた。人を病気から守るために脳と免疫系が協力しているのです。ストレスなどの心理的要因をきっかけに神経伝達物質が放出され、それが免疫反応に影響を及ぼすと同時に、免疫系から放出された化学物質が影響を及ぼす。体調管理には体と心が複雑に絡み合っているのです。
このことはある条件付けを行うことによって免疫系を抑制することが可能とするのであり、臓器移植患者や自己免疫疾患患者に対する副作用の強い免疫抑制剤の投与量を減らしていきつつ症状を管理できることとなる。これを免疫抑制プラセボ効果と読んでいるのですが研究者は少なく予算も限られていて、なかなか進まないとか。医学研究の大きなスポンサーは製薬会社であり、高価な薬をブドウ糖に置き換えて薬の量を減らすなどという研究には誰も援助しないみたいです。
ところで疲労感はどういう仕組みで現れるのでしょうか。昔は体が物理的限界:筋肉が燃料である酸素を使い果たすか、乳酸など毒性のある副産物の蓄積により損傷を受けること:に到達したときと習ったような気が。私などは筋肉が疲れてくるとだいぶ乳酸がたまってきたんだと思っていたのですが‥
しかし調べてみると酸素は使い果たす状態にはならないし、筋肉中の燃料レベルも使い果たされていない。余力がたっぷりある状態でも疲労のために動けなくなっている。
疲労感というのは脳により中枢性に強いられたものであり、身体的現象ではなくては快適な損傷を防ぐために脳が作り上げる「感覚」あるいは「感情」。脳が筋肉の限界に先んじて行動を起こし、末梢部位から損傷を知らせる合図が出されるずっと前に疲労を感じさせ、強制的に運動を中止させると。身体能力の限界を決定するのは、心臓や肺や筋肉ではなくて脳だというのです。
だからこそ、観客の大声援が大きな力になってすごい記録が出るなんて言うのは有り得る話なのです。これからはスポーツにおけるメンタルトレーニングがますます重要になってくるかもしれません。
でも少しテニスでラリーが続くだけでも足には疲労感いっぱいで息がゼイゼイ、心臓パクパクなのですが、これは脳がそう言っているだけで足にも心臓にも余力があるなんて…
ところで同じことが痛みについてもいえるのですが、痛みを起こしているのは、例えば関節痛ならば問題のある関節そのものではなくて脳による関節の認識の仕方とか。痛みについて体が伝えるメッセージは重要だが、それは常に、自分がどれほど危険な状態かという認識により調節されているのだと。
関節痛や腰痛にも鎮痛剤を処方されて飲んでいるのだけど、それは関節や腰に直接作用するのではなくて脳に作用しているのだ。先日歯の治療で痛み止めを貰ったけどあの薬が歯に直接作用するとは思えませんでしたからね。神経に作用すると言っても胃に入ったものがどうやって歯の神経まで行くのかと思っていましたが、脳に作用するのなら何となく納得できます。
だとすると激しい痛みに対してこの本に書いてあるような仮想現実催眠療法を行い痛みを軽減することができるはずだが、ここでも鎮痛剤で稼いでいる製薬会社の消極的抵抗から資金面の援助がなく研究が進まない。薬というものは副作用が伴うものだし、量を減らすことができるだけでも経済的だけではなくて患者にとって大きな利益になるはずなんですけどね。
でもバーチャルリアリティによる鎮痛療法の可能性ができてくればゲーム産業なりが資金提供してソフトウエア開発会社とタッグを組んで進んでいくかも。
ここまでで本の半分ほどを端折っただけなのですが、まだストレスとか、瞑想法、健康長寿などの話題がいっぱいです。先日テレビでテロメアを長く維持していくためには瞑想をし、社会的つながりを持ち、毎日運動をすることが大切と言っていましたがそこに繋がっていくことばかりです。興味がある人は、これ以上は実際に本を読んでみたほうがいいと思います。400ページ近くあり翻訳の読みにくさもあるのですが、読んでみて認識が新たになると思います。それにしても心と体は緊密に繋がっているんだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする