月と歩いた。

月の満ち欠けのように、毎日ぼちぼちと歩く私。
明日はもう少し、先へ。

チャンス到来

2013-08-09 | 仕事
日本酒の冊子制作の会議&酒蔵見学のために岡山へ。
この冊子の制作元は、精米会社であり、自らも酒蔵をもち、ワイン等幅広く飲料事業に携わっている大きな会社。
窓口になっているのは、HさんとIさん。
実際に制作にあたるのは、私を誘ってくれたYさん、私、そして岡山在住の日本酒ライターのIさんの3名。
今回はそのライターIさんとの顔合わせも兼ねていた。

まずは岡山の某酒蔵を見学。
・・・と思ったら、蔵の中を見せてもらえる時間はなく、その蔵の会長・社長とのミーティングが主体だった。
でも、お二人とも勉強熱心で人柄がよく、冊子制作について「酒蔵目線」でいろんな意見をくれたので、とても有意義な時間だった。
「どの酒蔵も同じことをやっていて、同じように見えるかもしれません。だけど、決して同じ蔵はなく、どこも必ず1つは良いところがあります。それを引き出して記事にしていただけると嬉しいですね」
とおっしゃっていた。

それから、窓口のHさんが「10年で200蔵は探訪する予定です」というのを聞いて、ぞくぞくした。
自分がきちんと仕事をこなして、気に入っていただければ、10年この仕事に携われ、200蔵のうち数十蔵は取材させてもらえるのだ!
そう思うと興奮した。

ただ、最初にこの仕事の話をもらったときのような「わーい、わーい、日本酒に関われる仕事、嬉しいな」というような、軽い気持ちは一切捨てなければならないな、と感じた。
まず、一般消費者向けの冊子ではない。
蔵元をはじめ、業界の人が読んで面白く、役立つものにしなければならないのだ。
いろいろと日本酒業界の抱えている問題を少しでも解決し、酒蔵にとって良い刺激になり、最終的には一般消費者まで日本酒の魅力を広めたいという思いから、この冊子は発案された。
すごいのは、スポンサーをとらないこと。
この制作元の精米会社が年間1000万以上の予算を組んで行うのだ。
スポンサーをとらない理由は、スポンサーの色を出したり、偏りを作らないため。あくまでも公平な立場で出版する。
大きな会社ではあるが、年間1000万円以上の持ち出しは、決して安くはないはず。
冊子は無料で配るので、お金で回収はできないのだから、日本酒業界に何かプラスになることをもたらすものにしなくては、本当に単なる「持ち出し」になってしまう。

そういう重い重い役割があるのだ。
「わーい、嬉しいよー」じゃ、すまない話。背筋が伸びた。

そして、この仕事は私にとって、大きなステップアップのチャンスであることも感じた。
なぜなら、今日、私は久しぶりに、仕事において大きな劣等感をもったからだ。
他の二人とはレベルが違うのだ。
Yさんは元新聞記者で、今はフリーライター。さらに、大学や宣伝会議などの講師も努めるという私の憧れの「書き手」。
今回一緒に仕事をさせてもらえるということで、最初は嬉しくて踊りまくったが、Yさんは私の書いたものを見たこともないのだ。
果たして、「声をかけてよかった」と思ってもらえるものが書けるだろうか?
また、今回顔合わせをしたIさんは、聞いていた以上にすごい人だった。もう何十と蔵を取材し、日本酒に関する記事を書きまくり、日本酒のイベントにもいろんな形で関わり、この業界の人とも交流が多い。
なんとなんと、私の大好きな「宝剣」や「伯楽星」などの蔵も取材したことがあるというのだ!
いろんな蔵元さん、杜氏さんとも「顔は覚えてもらっています」という。
さらに、私と同じきき酒師だけでなく、日本酒学講師の資格までこの春に取ったらしい。
知識、経験、人脈、熱意・・・。すべてにおいて私よりはるかに上のレベルの方だった!
いろいろと日本酒談義ができたのは楽しかったが、それでも私は「単なる酒好き・酒呑み」の域を出ておらず、彼女のように日本酒ライターのプロフェッショナルとは雲泥の差。
そして、経験や知識もそうだけど、何より刺激を受けたのは、彼女の「熱意」だったことが、実は一番ショックなのかもしれない。
経験や知識で劣るのは最初から知っていたけれど、ああ、そうじゃないんだ、熱意が違うから、今持っているものが違うんだ、と実感してしまった。

自分は何でも本当に中途半端。
あれこれ好きなものはあるけれど、何も極めたことがない。
だから、いつまでたっても専門性をもたないライターなのである。

この日、精米会社も見学して、会議もして、いろいろと有意義な時間ではあった。とても楽しかった。
会う人はみんな優しかった。
でも、お土産の日本酒の瓶を抱えて新幹線に乗り、少しだけ落ち込んでいる自分にも気づいていた。
会議の途中で、久しぶりに引っ込み思案な自分が登場してしまったのも感じていたし。
(周りの人に劣等感を感じて、怖気づいて、自信がなくなって、発言ができなくなってしまったのだ)

だけど、思い直した。
これはステップアップできるチャンスなんだ。
書き手として尊敬して憧れていたYさんと、大好きな日本酒への知識と経験が豊富なIさん。
この二人と一緒に仕事をしていけば、私にとってどれほどプラスになるだろう。
劣等感なんて感じている場合じゃなかった。
劣っている分、勉強して努力して食らいついて、少しでも二人に追いつけるようがんばらなくては!
いろいろ勉強させてもらおう。こんなチャンスはない。

最近、例の大変な仕事で「交渉」「折衝」ということの大事さを学んだ。
そして今度は実技面だ。「文章」と「日本酒」、両方を学べることができる。
自分が尊敬できる人たち、自分より上の人たちに囲まれて仕事をしていれば、必ず成長できるはず。
ようやく次のステージに上がれる時期なのかもしれないな、と思った。

家に帰るとグッタリしていて、すぐに寝入ってしまったけれど、何度も目覚めて、そのたびに「早く書きたいな」と思っている自分に気づいた。

早く実際の記事を書きたいな。
今は劣等感の塊でも、書けばそれも解消されると思っている。
自分が何の組織にも属さず17年も一人でやってこれたのは、「たまたま」ではない。
「書けば、わかってもらえる」
何の実績も経験もない、どことのパイプもない、そんな状況でもいつもそう思っていた。「書けば、わかってもらえる」と。
だから、「書くチャンスだけ、ください」と。

またそのチャンスがやってきた。
それもずっと望んでいた分野での、大きな大きなチャンス。
早く書いて、劣等感を解消したい。自分が書けることを、通用することを、知りたい。
今はいろんな外的要因だけで、私の性質上、少し落ち込んでしまっている。
だけど、数々の成功体験が、私を前に押し出してくれているのを感じている。

なんだか武者震い。
劣等感を武器にしないで、成功体験と自信を武器に闘えるようになった自分に拍手だ。