カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

タデ くう ムシ 2

2020-05-05 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 3

「ユウベ は わざわざ デンワ を いただきまして ありがとう ぞんじました。………」
 マクアイ に なる と ぐるり と こっち へ ムキ を かえた ロウジン に、 カナメ は あらためて アイサツ しながら、
「おかげさま で キョウ は まことに おもしろう ございます。 まったく オセジ で なく、 いい ところ が あります な」
「ワタシ が ニンギョウ ツカイ じゃあ ない から オセジ を いわれる こと は ない がね」
 と、 ロウジン は オンナモノ の コギレ で つくった イロ の さめた オナンド チリメン の エリマキ の ナカ へ さむそう に クビ を ちぢめて、 やにさがった カタチ で いった。
「まあ、 アナタガタ を さそって も どうせ タイクツ だろう けれど、 しかし イッペン は みて おく と いい と おもった んで、………」
「いいえ、 なかなか おもしろい です よ、 このまえ みた とき とは まるで カンジ が ちがう んで、 ヒジョウ に おもいのほか なん です」
「もう オマエサン、 イマ あの ジヘエ だの コハル だの を つかった オオアタマカブ の ニンギョウ ツカイ が いなく なったら、 どう なる か わかりゃ しない ん だ から、………」
 ミサコ は そろそろ オダンギ が はじまった と いう よう に シタクチビル で ウスワライ を かみしめながら、 テノヒラ の アイダ に コンパクト を かくして パッフ で ハナ を たたいて いた。
「こう イリ が ない の は キノドク な よう です が、 ニチヨウ や ドヨウ には まさか こんな でも ない ん でしょう か」
「なあに、 いつでも こんな もん、 ………これ で キョウラ は きて いる ほう です。 ぜんたい この コヤ じゃあ ひろすぎる んで、 セン の ブンラクザ ぐらい の ほう が、 こぢんまり して いい ん だ けれど、………」
「あれ は サイチク を キョカ されない らしい です ね、 シンブン で みます と」
「それ より ナニ より、 この キャクアシ じゃあ ひきあわない から ショウチク が カネ を だしゃあ しない。 こんな もの こそ むずかしく いう と オオサカ の キョウド ゲイジュツ なん だ から、 ダレ か トクシカ が でて こなけりゃあ ならない ん だ が」
「どう、 オトウサン が おだし に なったら?」
 と、 ヨコアイ から ミサコ が まぜっかえした。 ロウジン は マガオ で うけながら、
「ワタシ は オオサカジン じゃあ ない から、 ………これ は やっぱり オオサカジン の ギム だ と おもう よ」
「でも オオサカ の ゲイジュツ に カンシン して いらっしゃる ん じゃ ない の? まあ オオサカ に コウサン しちゃった よう な もん だわ」
「オマエ は そう する と セイヨウ オンガク に コウサン の クチ かね?」
「そう とも かぎらない ん だ けれど、 アタシ ギダユウ と いう もの は いや なの、 そうぞうしくって。―――」
「そうぞうしい と いやあ このあいだ ある ところ で きいた ん だ が、 あの ジャズ バンド と いう もの は、 ありゃあ ナン だい? まるで セイヨウ の バカバヤシ だ が、 あんな もの が はやる なんて、 あれ なら ムカシ から ニホン にも ある。 ―――てけれって、 てっとんどん と いう、 つまり あれ だ」
「きっと テイキュウ な カツドウゴヤ の ジャズ でも おきき に なった ん じゃ ない の」
「あれ にも コウキュウ が ある の かい?」
「ある わ、 そりゃあ、 ………ジャズ だって バカ に なり や しない わ」
「どうも イマドキ の わかい モノ の する こと は わからん よ。 だいいち オンナ が ミダシナミ の ホウ を しらない。 たとえば オマエ の その テ の ナカ に ある の は、 そりゃあ なんと いう もん だね」
「これ? これ は コンパクト と いう もん よ」
「チカゴロ それ が はやる の は いい が、 ヒトナカ でも なんでも かまわず それ を あけて みて は カオ を なおす ん だ から、 ちっとも オクユカシサ と いう もの が ない、 オヒサ も そいつ を もって いた んで このあいだ しかって やった ん だ がね」
「でも これ は ベンリ な もん よ」
 と ミサコ は わざと ゆうゆう と あかるい ほう へ ちいさな カガミ を むけながら、 キッスプルーフ を クチビル へ あてて タンネン に ベニ を ひいた。
「それ、 その カッコウ が よく ない よ。 カタギ な ムスメ や ニョウボウ は そういう ナリ を ヒトマエ で みせなかった もん だ がね」
「イマ は ダレ でも みせる ん だ から シカタ が ない わ。 ワタシ の しって いる オクサマ で、 カイ の とき に テーブル へ ついて から きっと コンパクト を もちだす ん で ユウメイ な ヒト が ある くらい だわ。 オサラ が メノマエ に でて いる の を ソッチノケ に して カオ を なおして いる もん だ から、 その ヒト の おかげ で コース が ちっとも はかどらない の、 ああ なられて も キョクタン だ けれど」
「ダレ だい、 それ は?」
 と、 カナメ が きいた。
「ナカガワ さん の オクサマ、 ―――アナタ の しらない カタ」
「オヒサ、 ちょっと この ヒ を みて おくれ。―――」
 と、 ロウジン は シタハラ から カイロ の ツツミ を とりだして、
「コヤ が ひろい のに イリ が ない せい か、 どうも ひえて かなわない」
 と、 つぶやく よう に いった。 オヒサ が カイロバイ の ヒ を なおす の で、 テ が ふさがって いる スキ に、 カナメ は キ を きかして、
「いかが です、 イブクロ の ほう へ もうすこし カイロ を おいれ に なったら」
 と、 これ も ゴジサン の スズ の チョウシ を とりあげて いった。
 ブタイ の ほう では もう ツギ の マク が あきそう な ケハイ なのに、 オット が ノンキ-らしく、 キッカケ を つくって くれない ので、 ミサコ は サッキ から じりじり して いた。 デガケ に スマ から デンワ が あった とき、 カノジョ は じつは 「ジブン は ちっとも キ が すすまない の だ から、 シバイ の ほう は なるたけ はやく きりあげる。 そして できたら 7 ジ-ゴロ まで に あい に いく よう に する」 と いって おいた の で ある。 もっとも ツゴウ で わからない から、 アテ に しない で いて くれろ とは いった けれども、………
「アシタ イチニチ、 きっと ここ が いたい だろう と おもう わ」
 カノジョ は ヒザガシラ を もんで みせた。
「マク が あく まで そこ に こしかけて いたら いい」
 そう いいながら オット が メマゼ で、 「まあ、 イマ すぐ かえる とも いいかねる から」 と うったえて いる らしい の が わかる と、 それ が なにがなし に カン に ふれて ならなかった。
「ロウカ を ヒトマワリ ウンドウ して きたら どう かね」
 と、 ロウジン が いった。
「ロウカ に ナニ か おもしろい もの でも あって?」
 ハンブン ヒニク に いいかけて から、 カノジョ は ジョウダン に まぎらしながら、
「アタシ も オオサカ の ゲイジュツ には コウサン しちゃった わ。 たった ヒトマク だけ で オトウサン イジョウ に コウサン した わ」
「ふふ」
 と、 オヒサ が ハナ の オク で わらった。
「どう なさる? アナタ、―――」
「さあ、 ボク は どっち でも いい ん だ が、………」
 カナメ の ほう は カナメ の ほう で、 レイ の アイマイ な ヘンジ を しながら、 キョウ に かぎって そう しつっこく 「かえる かえらない」 を モンダイ に する ツマ の タイド に、 あわい フマン を おおいかくす こと が できなかった。 ジブン も カノジョ が ナガイ を したく ない こと は しって いる、 いわれない でも シオドキ を みて キヨウ に きりあげる つもり だ けれども、 せっかく よばれて きて いる もの を、 せめて チチオヤ の テマエ だけ は キゲン よく して、 オット の ショチ に まかせて くれたら、 ―――それ くらい は フウフ-らしく、 キ を そろえて くれたら いい のに。
「イマ から だ と、 ちょうど ジカン の ツゴウ も いい し、―――」
 カノジョ は オット の カオイロ には トンジャク なく、 シッポウ-イリ の リョウブタ の トケイ を きらり と ムネ の ところ で ひらいた。
「きた ツイデ だ から、 ショウチク へ いって ゴラン に ならない?」
「まあ オマエ、 カナメ さん は おもしろい と いう ん だ から、―――」
 と、 ロウジン は どこ か ダダッコ-じみた カンジ の あらわれる キミジカ そう な マユ を よせた。
「―――そう いわない で もうすこし つきあったら いい だろう に。 ショウチク なんか また でなおして も すむ ん だ から」
「ええ、 カナメ が みたい って いう の なら みて も いい ん です けれど」
「それに オマエ、 オヒサ が ユウベ から かかって ベントウ を こしらえて きた ん だ から、 そいつ を たべて いって おくれ。 こんな に あっちゃあ ワタシタチ じゃあ たべきれ や しない」
「ナニ おいやす、 わざわざ あがって いただく ほど おいしい こと おへん え」
 3 ニン の コトバ の トリヤリ を コドモ が オトナ の ソバ に いる よう に ムカンケイ に ききすごして いた オヒサ は、 そう いって きまりわるそう に、 ハスカイ に のって いた クミジュウ の フタ を なおして、 シカク な イレモノ へ モザイク の よう に つまって いる イロドリ を かくした。 が、 コウヤ-ドウフ を ヒトツ にる の にも なかなか メンドウ な コウシャク を する ロウジン は、 この トシ の わかい メカケ を しこむ の に ニタキ の ミチ を やかましく いって、 イマ では オヒサ の リョウリ で なければ クチ に あわない と いう ほど なので、 それ を フタリ に ぜひとも たべさせたい の で あった。
「ショウチク は もう おそい だろう。 アシタ に おし よ」
 と、 カナメ は 「ショウチク」 と いう ナカ へ 「スマ」 を ふくませて いった。
「まあ もう ヒトマク みて、 オヒサ さん の ココロヅクシ を いただいて から の ツゴウ に しよう よ」
 けれども ミョウ に マ が あわなく なった フウフ の キモチ は、 フタマク-メ の 「ジヘエ ウチ の バ」 を みて いる うち に いっそう ヘン に させられて しまった。 たとい ニンギョウ の えんずる ゲキ で あり、 キカイ な コチョウ に みちて いる ジョウルリ の モノガタリ で ある とは いえ、 ジヘエ と オサン との フウフ カンケイ には、 フタリ が そっと あいかえりみて クショウ を よぎなく する もの が あった。 カナメ は、 「ニョウボウ の フトコロ には オニ が すむ か ジャ が すむ か」 と いう モンク を きく と、 それ が いかにも セイヨクテキ に かけはなれて しまった メオト の ヒジ を エンキョク ながら テキセツ に あらわして いる の に きづいて、 しばらく ムネ の オク の ほう が うずく の を かんじた。 カレ は ギダユウ の 「テン の アミジマ」 は ソウリンシ の ゲンサク で なく、 ハンジ か ダレ か の カイサク で ある の を ぼんやり キオク して いた が、 きっと この モンク は ゲンサク の ほう に ある の だろう、 ロウジン が ジョウルリ の ブンショウ を ほめて 「イマ の ショウセツ なんか とても およばない」 と いって いる の は、 こういう ところ を さす の だろう と おもう と、 ふと また キガカリ な こと が うかんだ。 いまに この マク が すんだ アト で、 ロウジン が この モンク を もちだし は しない か。 「オニ が すむ か ジャ が すむ か とは、 ムカシ の ヒト は じつに うまい こと を いった もん だね」 と、 レイ の クチョウ で ミナ に ドウカン を もとめ は しない か。 この バアイ を ソウゾウ する と いたたまらない よう な キ が して、 やっぱり ツマ の いう こと を きいて おけば よかった と おもった。
 しかし イッポウ、 ややともすると その フユカイ を うちわすれて、 ふたたび ブタイ の ヒョウゲン に うっとり させられる シュンカン が あった。 マエ の マク では ヒトリ コハル の スガタ に ばかり ココロ を ひかれた のに、 コンド の マク では ジヘエ も よし、 オサン も いい。 ベニガラヌリ の カマチ を みせた ニジュウ の ウエ で ジョウギ を マクラ に コタツ に アシ を いれながら、 オサン の クドキ を じっと ききいって いる アイダ の ジヘエ。 ―――わかい オトコ には ダレ しも ある、 タソガレドキ の イロマチ の ヒ を こいしたう そこはかとない ココロモチ。 ―――タユウ の かたる モンク の ナカ に ユウグレ の ビョウシャ は ない よう だ けれども、 カナメ は なにがなし に ユウグレ に ちがいない よう な キ が して、 コウシ の ソト の ヨイヤミ に コウモリ の とぶ マチ の アリサマ を、 ―――ムカシ の オオサカ の アキウドマチ を ムネ に えがいた。 フウツウ か コモン チリメン の よう な もの らしい キツケ を きて いる オサン の カオダチ が、 ニンギョウ ながら どこ か コハル に くらべる と サビシミ が かって アデヤカサ に とぼしい の も、 そういう オトコ に うとまれる カタギ な マチニョウボウ の カンジ が ある。 その ホカ ブタイ いっぱい に あばれまわる タヘエ も ゼンロク も、 みなれた せい か リョウアシ の ぶらん ぶらん する の が マエ の マク ほど メザワリ で なく、 だんだん シゼン に みえて くる の も フシギ で あった。 そして これ だけ の ニンゲン が、 ののしり、 わめき、 いがみ、 あざける の が、 ―――タヘエ の ごとき は オオゴエ を あげて わいわい と ないたり する の が、――― みんな ヒトリ の コハル を チュウシン に して いる ところ に、 その オンナ の ウツクシサ が イヨウ に たかめられて いた。 なるほど ギダユウ の ソウゾウシサ も ツカイカタ に よって ゲヒン では ない。 そうぞうしい の が かえって ヒゲキ を コウヨウ させる コウカ を あげて いる。………
 カナメ が ギダユウ を このまない の は、 ナニ を おいて も その カタリクチ の ゲヒン なの が いや なの で あった。 ギダユウ を つうじて あらわれる オオサカジン の、 へんに ずうずうしい、 オクメン の ない、 モクテキ の ため には おもうぞんぶん な こと を する リュウギ が、 ツマ と おなじく トウキョウ の ウマレ で ある カレ には、 ハナモチ が ならない キ が して いた。 ぜんたい トウキョウ の ニンゲン は ミナ すこし ずつ ハニカミヤ で ある。 デンシャ や キシャ の ナカ など で しらない ヒト に ブエンリョ に はなしかけ、 はなはだしき は その ヒト の モチモノ の ネダン を きいたり、 かった ミセ を たずねたり する よう な オオサカジン の ココロヤスサ を、 トウキョウジン は もちあわせない。 トウキョウ の ニンゲン は そういう ヤリカタ を ブサホウ で あり、 ブシツケ で ある と する。 それだけ トウキョウジン の ほう が よく いえば ジョウシキ が エンマン に ハッタツ して いる の だ が、 しかし あまり エンマン に すぎて ミエ とか ガイブン とか に とらわれる ケッカ は、 いきおい ヒッコミ-ジアン に なり ショウキョクテキ に なる こと は まぬかれられない。 とにかく ギダユウ の カタリクチ には、 この トウキョウジン の もっとも いとう ブシツケ な ところ が ロコツ に ハッキ されて いる。 いかに カンジョウ の ゲキエツ を ヒョウゲン する の でも、 ああ まで ブザマ に カオ を ひきゆがめたり、 クチビル を まげたり、 のけぞったり、 もがいたり しない でも いい。 ああ まで に しない と あらわす こと が できない よう な カンジョウ なら、 トウキョウジン は むしろ そんな もの は あらわさない で、 あっさり シャレ に して しまう。 カナメ は ツマ が ナガウタ-ジコミ で、 コノゴロ も よく ひとしれぬ ウサ を まぎらす ため に ひいて いる の が ミミ に ある せい か、 まだ あの さえた バチ の ネ の ほう が あわい ながら も なつかしく きいて いられた。 ロウジン に いわせる と ナガウタ の シャミセン は よほど の メイジン が ひかない かぎり、 バチ が カワ に ぶつかる オト ばかり かちゃかちゃ ひびいて、 カンジン の ゲン の ネイロ が けされて しまう。 そこ へ ゆく と カミガタ の ほう は ジョウルリ でも ジウタ でも トウキョウ の よう に バチ を はげしく ぶつけない。 だから ヨイン と マルミ が ある と いう の だ が、 カナメ も ミサコ も これ には ハンタイ で、 ニホン の ガッキ は どうせ タンジュン なの だ から、 ケイカイ を シュ と する エド-リュウ の ほう が わるく どくどくしい チカラ が ない だけ、 ジャマ に ならない と いう の で あった。 そして フウフ は オンギョク の こと で ロウジン を ムコウ へ まわす とき は、 いつでも シュミ が イッチ して いた。
 ロウジン は フタコトメ には 「イマ の わかい モノ は」 を クチ に して、 セイヨウ カブレ の した モノ は ナン に かぎらず ダーク の アヤツリ と おなじ よう に コシ が きまらない、 うすっぺら だ と いって しまう。 もっとも ロウジン の イイグサ には つねに タショウ の カケネ が あって、 ヒトムカシ マエ は そう いう ゴジシン が ハ の うく よう な ハイカラ-ブリ に ミ を やつして いた ジダイ も ある の だ が、 ニホン の ガッキ は タンジュン だ など と いおう もの なら ヤッキ に なって トクイ の オダンギ が はじまる の で ある。 そう なる と カナメ は つい メンドウ で イイカゲン に ひきさがって しまう けれども、 ココロ の ウチ では イチガイ に うすっぺら アツカイ される の に たいらか で ない もの が あった。 カレ は ジブン の ハイカラ は、 イマ の ニホン シュミ の ダイブブン を しめて いる トクガワ ジダイ の シュミ と いう もの が なんとなく キ に くわない で、 その ハンカン から きて いる こと は ジブン には よく わかって いながら、 それ を ロウジン に ナットク させる ダン に なる と、 なんと セツメイ したら いい か イイアラワシヨウ に こまる の で あった。 カレ の アタマ の ナカ に ある ばくぜん と した モノタラナサ は、 つづめて いえば トクガワ ジダイ の ブンメイ は チョウシ が ひくい、 チョウニン が うんだ もの で ある から、 どこ まで いって も シタマチ ジョウチョウ が ぬけきれない、 と いう ところ に ある かも しれない。 トウキョウ の シタマチ に そだった カレ が シタマチ の キブン を きらう はず は なく、 オモイデ と して は なつかしい もの に ちがいない が、 イチメン には また、 シタマチッコ で ある が ゆえ に トチ の クウキ が ハナ に ついて ヒゾク な カンジ が する わけ でも ある。 そういう カレ は ハンドウテキ に、 シタマチ シュミ とは とおく かけはなれた シュウキョウテキ な もの、 リソウテキ な もの を シボ する クセ が ついて いた。 うつくしい もの、 あいらしい もの、 カレン な もの で ある イジョウ に、 なにかしら ひかりかがやかしい セイシン、 スウコウ な カンゲキ を あたえられる もの で なければ、 ―――ジブン が その マエ に ひざまずいて レイハイ する よう な ココロモチ に なれる か、 たかく ソラ の ウエ へ ひきあげられる よう な コウフン を おぼえる もの で なければ あきたらなかった。 これ は ゲイジュツ ばかり で なく、 イセイ に たいして も そう で あって、 その テン に おいて カレ は イッシュ の ジョセイ スウハイシャ で ある と いえる。 もちろん カレ は イマ まで に そういう レンアイ なり ゲイジュツテキ カンキョウ なり を あじわった こと は なく、 ただ ぼんやり した ユメ を いだいて いる だけ だ けれども、 それだけ ひとしお メ に みえぬ もの に アコガレ の ココロ を よせて いた。 そして セイヨウ の ショウセツ や オンガク や エイガ など に せっする と、 まだ いくらか は その アコガレ が みたされる よう な キ が した。 と いう の は セイヨウ には ムカシ から ジョセイ スウハイ の セイシン が ある。 セイヨウ の オトコ は オノレ の こいする ニョニン の スガタ に ギリシャ シンワ の メガミ を み、 セイボ の ゾウ を クウソウ する。 この ココロモチ が ひろく イロイロ な シュウカン に つきまとって、 ゲイジュツ の ナカ にも ハンエイ して いる せい で あろう と、 カナメ は そんな ふう に かんがえ、 その ココロモチ の かけて いる ニホンジン の ニンジョウ フウゾク に イイヨウ の ない サビシサ を おぼえた。 それでも ブッキョウ を ハイケイ に して いた チュウコ の もの や ノウガク など には コテンテキ な イカメシサ に ともなう スウコウ な カンジ が ない でも ない が、 トクガワ ジダイ に くだって きて ブッキョウ の エイキョウ を はなれれば はなれる ほど、 だんだん テイチョウ に なる ばかり で ある。 サイカク や チカマツ の えがく ジョセイ は、 いじらしく、 やさしく、 オトコ の ヒザ に なきくずおれる オンナ で あって も、 オトコ の ほう から ヒザ を くっして あおぎみる よう な オンナ では ない。 だから カナメ は カブキ シバイ を みる より も、 ロス アンジェルス で こしらえる フイルム の ほう が すき で あった。 たえず あたらしい ジョセイ の ビ を ソウゾウ し、 ジョセイ に こびる こと ばかり を かんがえて いる アメリカ の エ の セカイ の ほう が、 ゾクアク ながら カレ の ユメ に ちかかった。 そして きらい な もの の ナカ でも、 トウキョウ の シバイ や オンギョク には さすが エドジン の きびきび と した スマート な キフウ が でて いる のに、 ギダユウ は あくまで ふてぶてしく トクガワ ジダイ シュミ に シュウチャク して いる ところ が、 とうてい ソバ へも よりつけない よう に おもえた の で あった。
 それ が キョウ は どういう ワケ か サイショ に ブタイ を みいった とき から そう ハンカン を おこす でも なく、 シゼン に すらすら と ジョウキョク の セカイ へ いざなわれて、 あの おもくるしい サンゲン の オト まで が いつ とは なし に ココロ の ウチ へ くいいって ゆく よう なの で ある。 そして おちついて あじわって みる と、 カレ の きらい な チョウニン シャカイ の チジョウ の ナカ にも ヒゴロ の アコガレ を みたす に たる もの が ない でも ない。 ノレン を たらした ガトウグチ に ベニガラヌリ の アガリガマチ、 ―――セワ-ゴウシ で シモテ を しきった オサダマリ の ブタイ ソウチ を みる と、 くらく じめじめ した シタマチ の ニオイ に イヤケ を もよおした もの で あった が、 その じめじめ した クラサ の ナカ に ナニ か オテラ の ナイジン に にた オクブカサ が あり、 ズシ に いれられた ふるい ブツゾウ の エンコウ の よう に くすんだ ソコビカリ を はなつ もの が ある。 しかし アメリカ の エイガ の よう な はればれしい アカルサ とは ちがって、 うっかり して いれば みすごして しまう ほど、 ナンビャクネン も の デントウ の ホコリ の ナカ に うずまって わびしく ふるえて いる ヒカリ だ けれども。………
「さあ、 どう どす、 オナカ すいて ましたら たべと おくれやす、 ホンマ に あじのう おす けれど、………」
 マク が おわる と オヒサ が そう いって ジュウバコ の もの を メイメイ に とって くれた が、 カナメ は まだ メ に ちらついて いる コハル や オサン の オモカゲ に ナゴリ を おしまれる イッポウ、 ロウジン の オダンギ が じきに レイ の 「オニ が すむ か ジャ が すむ か」 へ おちて ゆきそう な ケイセイ なので、 マクノウチ を つまむ アイダ も キ が キ で なかった。
「それでは あの、 イタダキダチ で はなはだ カッテ なん です が、………」
「もう、 おかえりやす か、 ホンマ に」
「ボク は もっと みて いて も いい ん です が、 やっぱり ちょっと ショウチクザ へ いって みたい ん だ そう です から。………」
「そら なあ、 オクサン」
 と、 とりなす よう に オヒサ は いって、 ロウジン と ミサコ と を ハンハン に みた。
 フタリ は それ を いい シオ に、 ツギ の マク の コウジョウ が はじまりかけた の を ききながら、 ロウカ まで オヒサ に おくられて でた。
「あんまり オヤコウコウ にも ならなかった わね」
 ドウトンボリ の ヨル の ヒ の マチ へ はきだされた とき、 ミサコ は ほっと した よう に いって、 それ には こたえず エビスバシ の ほう へ アシ を むけかけた オット を よんだ。
「アナタ、 そっち じゃあ ない こと よ」
「そう か」
 と、 カナメ は ひっかえして ニッポンバシ の ほう へ、 こころもち イソギアシ で ゆく カノジョ の アト に おいつきながら、
「いや、 あっち へ いった ほう が いい クルマ が ひろえる と おもった ん だ」
「もう ナンジ?」
「6 ジ ハン だよ」
「どう しよう かしら、………」
 ツマ は タモト から テブクロ を だして、 それ を はめながら あるいて いた。
「いく なら おいで な。 いって いけない と いう ジカン でも ない。………」
「ここ から だ と、 ウメダ から キシャ で いった ほう が はやい でしょう か」
「はやい こと を いやあ、 ハンキュウ で いって カミツツイ から ジドウシャ の ほう が いい だろう。 ―――しかし そう する と、 ここ で わかれて も いい わけ なん だな」
「アナタ は?」
「ボク は シンサイバシスジ を ぶらついて かえる」
「じゃあ、 ………もしか サキ に おかえり に なったら、 11 ジ に むかえ に でて いる よう に おっしゃって くださらない? デンワ を かける つもり だ けれど」
「うむ」
 カナメ は ツマ の ため に トオリカカリ の ニュー フォード を とめた。 そして ガラス の マド の ナカ に カノジョ の ヨコガオ が おさまる の を みとどけて から、 ふたたび ドウトンボリ の ヒトナミ の ナカ へ ひっかえして いった。

 その 4

ヒロシ さん
ガッコウ は いつから ヤスミ です か、 もう シケン は すみました か、 ボク は ちょうど キミ の ガッコウ が ヤスミ の ジブン に そちら へ ゆきます。
オミヤゲ は ナニ に しよう。 ゴチュウモン の カントン-ケン は コノアイダ から さがして います が なかなか みつからない。 おなじ シナ でも シャンハイ と カントン とは まるで クニ が ちがう よう に はなれて います、 モッカ トウチ では 「グレイハウンド」 が リュウコウ です、 それ で よければ もって ゆきます、 どういう イヌ か キミ は たぶん しって いる でしょう が、 サンコウ の ため 「グレイハウンド」 の シャシン を ここ に いれて おきます。
シャシン で おもいついた が シャシンキ が ほしく は ない です か、 「パテー ベビー」 は いかが? イヌ と どっち が いい か、 ヘンジ を ください。 オトウサン には ヤクソク の 「アラビアン ナイト」 が 「ケリー ウォルシュ」 に あった から もって ゆく と いって ください、 これ は オトナ の よむ 「アラビアン ナイト」 です。 コドモ の よむ 「アラビアン ナイト」 では ありません。
オカアサン には ドンス と ゴロウ の オビジ を もって ゆく と いって ください、 どうせ ボク の オミタテ だ から レイ に よって ワルクチ を いわれる かも しれない、 キミ の イヌ より この ほう が シンパイ だ と いって ください。
ニモツ が たくさん もちきれない ほど あります、 イヌ を つれて いたら デンポウ を うつ から ダレ か フネ まで ウケトリ に きて ください。
たいがい 26 ニチ の シャンハイ-マル の ヨテイ です。
                                タカナツ ヒデオ
 シバ ヒロシ サマ

 その 26 ニチ の ヒルゴロ、 チチ に つれられて デムカエ に いった ヒロシ は、 フネ の ロウカ を たずねまわって いちはやく センシツ を さがしあてる と、
「オジサン、 イヌ は?」
 と、 マッサキ に きいた。
「イヌ か、 ―――イヌ は あっち に おいて ある よ」
 しろっぽい ホームスパン の ウワギ の シタ に ネズミ の スウェーター を みせて、 おなじ ネズミ の フランネル の パンツ を はいた タカナツ は、 せまい シツナイ で あっちこっち ニマトメ を する アイダ も たえず ハマキ を テ から クチ へ、 クチ から テ へ と もちかえながら、 その ため に いっそう きぜわしそう に はたらいて いた。
「だいぶ ニモツ が おおい じゃ ない か、 コンド は イクニチ ぐらい いる ん だ」
「コンド は すこし トウキョウ に ヨウ が ある ん だ、 キミ ん ところ にも 5~6 ニチ は いる つもり だ が」
「これ は ナン だ」
「それ は サケ だ。 ―――ヒジョウ に ふるい ショウコウシュ だ と いう ん だ が、 ほしければ ヒトビン わけて も いい」
「その ヘン に ある こまかい もの を よこしたら どう だい、 ジイヤ が シタ で まって いる から、 あれ を よんで もたして やろう」
「イヌ は、 オトウサン? イヌ は どう する の?」
 と、 ヒロシ が いった。
「―――ジイヤ は イヌ を つれて いく ん です よ、 オトウサン」
「なあに、 おとなしい イヌ だ から だいじょうぶ だよ、 ヒロシ くん でも つれて いかれる よ」
「かまない? オジサン」
「ゼッタイ に かまない、 どんな こと を したって ヘイキ な もん だ。 キミ が いったら すぐ とびついて オセジ を つかう よ」
「なんと いう ナ?」
「リンディー。 ―――リンドバーク の こと だよ、 ハイカラ な ナ だろう?」
「オジサン が おつけ に なった の?」
「セイヨウジン が もって いた んで、 マエ から そんな ナ が ついて いた のさ」
「ヒロシ」
 カナメ は、 イヌ の ハナシ で ムチュウ に なって いる コドモ を よんだ。
「オマエ は ちょっと シタ へ いって ジイヤ を つれて おいで。 ボーイ だけ では テ が たりない から」
「ゲンキ じゃ ない か、 みた ところ では。―――」
 ナニ か かさばった おもそう な ツツミ を シンダイ の シタ から ずるずる ひきずりだしながら、 でて ゆく ヒロシ の ウシロカゲ へ メ を やって タカナツ は いった。
「そりゃ コドモ だ から、 ゲンキ は ゲンキ だ が、 あれ で なかなか シンケイシツ に なって いる ん だ。 テガミ に そんな ところ は なかった かね」
「なかった ね、 べつに」
「もっとも そりゃあ、 まだ どう と いって カタチ を とった シンパイ が ある わけ では なし、 コドモ と して は なんとも カキヨウ は ない はず だ けれど、………」
「ただ サイキン、 マエ より ヒンパン に テガミ を よこす よう に なって は いた。 やっぱり なにかしら さびしい キモチ が した の かも しれない。 ………さて、 これ で よし と」
 ほっと した よう に タカナツ は シンダイ の ハシ に コシ を おろして、 ハマキ の ケムリ を はじめて ふかふか と あじわう の で あった。
「じゃ、 まだ コドモ には なにも はなして ない ん だね?―――」
「うむ」
「そういう テン が キミ と ボク とは カンガエ が ちがう な、 いつも いう こと なん だ けれど」
「もしも コドモ に たずねられたら、 ボク は ショウジキ に いう だろう」
「だって、 オヤ の ほう から いわなかったら、 コドモ が そんな こと を きりだせる わけ が ない じゃ ない か」
「だから つまり はなさない と いう ケッカ に なる のさ」
「よく ない がなあ、 ホントウ に。 ………いよいよ と いう とき に とつぜん うちあける より も、 マエ から ぽつぽつ インガ を ふくめて おく ほう が、 かえって その アイダ に カクゴ が できて いい ん だ がなあ」
「しかし、 もう うすうす は キ が ついて いる ん だよ。 ボクラ も ハナシ こそ しない が、 キ が つかれる だけ の こと は コドモ の マエ で みせて いる ん だ から、 こういう こと が ある かも しれない――― ぐらい な カクゴ は あんがい ついて いる か とも おもう」
「それなら なおさら はなす の に ラク じゃ ない か。 だまって いられる と イロイロ な ふう に キ を まわして、 サイアク な バアイ を ソウゾウ したり する もん だ から、 それで シンケイシツ に なる ん だ。 ―――もしも キミ、 もう オカアサン に あえなく なる ん じゃ ない か と いう よう な ヨケイ な シンパイ を して いた と したら、 ハナシ を する と かえって アンシン する かも しれん ぜ」
「ボク も そう かんがえなく も ない ん だ がね、 ………ただ どうも、 オヤ の ミ に なる と コドモ に ダゲキ を あたえる の が いや だ もん だ から、 つい ぐずぐず に のばして しまって、………」
「キミ が おそれる ほど ダゲキ を うけ は しない ん だ がなあ。 ―――コドモ と いう もの は つよい もん だぜ。 オトナ の ココロ で コドモ を おしはかる もん だ から かわいそう に おもえる ん だ が、 コドモ ジシン は これから セイチョウ する の だ から、 その くらい な ダゲキ に たえる チカラ は もって いる ん だぜ。 ようく わかる よう に いって きかしたら あきらめる ところ は ちゃんと あきらめて、 リカイ する に ちがいない ん だ が、………」
「それ は ボク にも わかって いる ん だよ。 キミ の かんがえる とおり の こと を ボク も ヒトトオリ は かんがえた ん だ」
 アリテイ に いう と、 カナメ は この イトコ が シャンハイ から きて くれる ヒ を、 ナカバ は ココロマチ にも し、 ナカバ は ニヤッカイ にも して いた。 フユカイ な こと は イチニチ ノバシ に サキ へ のばして ドタンバ へ おいつめられる まで は いいだしえない ジブン の よわい セイシツ を おもう と、 イトコ が はやく きて くれたら しぜん いやいや ながら でも まえのめり おしだされて カタ が つきそう な キ が して いた の だ が、 メン と むかって その モンダイ を もちだされて みる と、 とおい ところ に おいて あった もの が キュウ に メノマエ へ せまった カンジ で、 はげまされる より は オジケ が ついて、 シリゴミ する よう に なる の で あった。
「で、 どう する キョウ は? まっすぐ ボク の ウチ へ くる か」
 と、 カレ は ベツ な こと を たずねた。
「どうして も いい。 オオサカ に ヨウ が ある ん だ けれど、 キョウ で なくって も さしつかえない」
「じゃ、 ひとまず おちついたら どう かね」
「ミサコ さん は?」
「さあ、 ………ボク が でかける とき まで は いた が、………」
「キョウ は、 ボク を まって い や しない か」
「あるいは わざと キ を きかして でた かも しれん ね、 ジブン が いない ほう が いい と いう ふう に、 ―――すくなくとも それ を コウジツ に して」
「うん、 まあ、 それ は、 ―――ミサコ さん にも いろいろ きいて みたい ん だ けれど、 その マエ に よく キミ の ほう の ハラ を たしかめて おく ヒツヨウ が ある ん だ。 いったい、 いくら ちかしい アイダガラ でも フウフ の ワカレバナシ の ナカ へ タニン が はいる の は まちがってる ん だ が、 キミタチ ばかり は ジブン で ジブン の シマツ が つかない フウフ なん だ から、………」
「キミ、 ヒルメシ は すんで いる の か」
 と、 カナメ は もう イチド ベツ な こと を たずねた。
「いいや、 まだ だ」
「コウベ で メシ を くって いこう か、 コドモ は イヌ が いる ん だ から サキ へ かえる よ」
「オジサン、 イヌ を みて きました よ」
 そう いいながら、 そこ へ ヒロシ が もどって きた。
「すてき だなあ、 あれ は。 まるで シカ みたい な カンジ だなあ」
「うん、 はしらしたら ヒジョウ に はやい ぞ。 キシャ より はやい と いう くらい で、 あれ を ウンドウ させる には ジテンシャ へ のって ひっぱる の が いちばん いい ん だ。 なにしろ ケイバ に でる イヌ だ から」
「ケイバ じゃあ ない でしょ、 ケイケン でしょ オジサン」
「やられた ね、 イッポン」
「けれど あの イヌ、 ディステンパー は すんでる かしら?」
「すんでる よ もちろん、 もう あの イヌ は 1 ネン と 7 カゲツ に なる ん だ。 ―――それ より あれ を どうして ウチ へ つれて いく か が モンダイ だな、 オオサカ まで キシャ で、 それから ジドウシャ で でも いく か」
「そんな こと を しない だって ハンキュウ は ヘイキ なん です よ。 ちょっと アタマ から フロシキ か ナニ か かぶせて やれば、 ニンゲン と イッショ に のせて くれる ん です」
「へえ、 そりゃ ハイカラ だなあ、 ニホン にも そんな デンシャ が ある の か」
「ニホン だって バカ に できない でしょう、 どう だす、 オジサン?」
「そう だっか」
「おかしい や、 オジサン の オオサカ ベン は。 それ じゃ アクセント が ちがってらあ」
「ヒロシ の ヤツ は オオサカ ベン が うまく なっちゃって こまる ん だよ、 ガッコウ と ウチ と で ツカイワケ を やる ん だ から、―――」
「そら なあ、 ボク かって ヒョウジュンゴ つかえ いうたら つかわん こと ない けど、 ガッコウ やったら ダレ かって ミンナ オオサカ ベン ばっかり や さかい………」
「ヒロシ」
 と、 カナメ は ズ に のって しゃべりつづけよう と する コドモ を せいした。
「オマエ、 イヌ を うけとったら ジイヤ を つれて サキ へ おかえり、 オジサン は コウベ に ヨウ が ある そう だし、………」
「オトウサン は?」
「オトウサン も オジサン と イッショ だ。 オジサン は じつは、 ヒサシブリ で コウベ の スキヤキ が たべたい と いう んで、 これから ミツワ へ でかける ん だよ。 オマエ は アサ が おそかった から そんな に へって や しない だろう? それに オトウサン は すこし オジサン と ハナシ も ある し、………」
「ああ、 そう」
 コドモ は イミ を さとった らしく、 カオ を あげて おそるおそる チチ の メ の イロ を みた。

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