カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カケコミ ウッタエ

2020-12-21 | ダザイ オサム
 カケコミ ウッタエ

 ダザイ オサム

 もうしあげます。 もうしあげます。 ダンナサマ。 あの ヒト は、 ひどい。 ひどい。 はい。 いや な ヤツ です。 わるい ヒト です。 ああ。 ガマン ならない。 いかして おけねえ。
 はい、 はい。 おちついて もうしあげます。 あの ヒト を、 いかして おいて は なりません。 ヨノナカ の カタキ です。 はい、 なにもかも、 すっかり、 ゼンブ、 もうしあげます。 ワタシ は、 あの ヒト の イドコロ を しって います。 すぐに ゴアンナイ もうします。 ずたずた に きりさいなんで、 ころして ください。 あの ヒト は、 ワタシ の シ です。 シュ です。 けれども ワタシ と おなじ トシ です。 34 で あります。 ワタシ は、 あの ヒト より たった フタツキ おそく うまれた だけ なの です。 たいした チガイ が ない はず だ。 ヒト と ヒト との アイダ に、 そんな に ひどい サベツ は ない はず だ。 それなのに ワタシ は キョウ まで あの ヒト に、 どれほど いじわるく こきつかわれて きた こと か。 どんな に チョウロウ されて きた こと か。 ああ、 もう、 いや だ。 たえられる ところ まで は、 たえて きた の だ。 おこる とき に おこらなければ、 ニンゲン の カイ が ありません。 ワタシ は イマ まで あの ヒト を、 どんな に こっそり かばって あげた か。 ダレ も、 ゴゾンジ ない の です。 あの ヒト ゴジシン だって、 それ に キ が ついて いない の だ。 いや、 あの ヒト は しって いる の だ。 ちゃんと しって います。 しって いる から こそ、 なおさら あの ヒト は ワタシ を いじわるく ケイベツ する の だ。 あの ヒト は ゴウマン だ。 ワタシ から おおきに セワ を うけて いる ので、 それ が ゴジシン に くやしい の だ。 あの ヒト は、 アホウ な くらい に ウヌボレヤ だ。 ワタシ など から セワ を うけて いる、 と いう こと を、 ナニ か ゴジシン の、 ひどい ヒケメ で でも ある か の よう に おもいこんで いなさる の です。 あの ヒト は、 なんでも ゴジシン で できる か の よう に、 ヒト から みられたくて たまらない の だ。 バカ な ハナシ だ。 ヨノナカ は そんな もの じゃ ない ん だ。 コノヨ に くらして いく から には、 どうしても ダレ か に、 ぺこぺこ アタマ を さげなければ いけない の だし、 そうして ホイッポ、 クロウ して ヒト を おさえて ゆく より ホカ に シヨウ が ない の だ。 あの ヒト に いったい、 ナニ が できましょう。 なんにも でき や しない の です。 ワタシ から みれば アオニサイ だ。 ワタシ が もし おらなかったら あの ヒト は、 もう、 とうの ムカシ、 あの ムノウ で トンマ の デシ たち と、 どこ か の ノハラ で ノタレジニ して いた に ちがいない。 「キツネ には アナ あり、 トリ には ネグラ、 されども ヒト の コ には まくらする ところ なし」 それ、 それ、 それ だ。 ちゃんと ハクジョウ して いやがる の だ。 ペテロ に ナニ が できます か。 ヤコブ、 ヨハネ、 アンデレ、 トマス、 コケ の アツマリ、 ぞろぞろ あの ヒト に ついて あるいて、 セスジ が さむく なる よう な、 あまったるい オセジ を もうし、 テンゴク だ なんて ばかげた こと を ムチュウ で しんじて ネッキョウ し、 その テンゴク が ちかづいた なら、 アイツラ ミンナ ウダイジン、 サダイジン に でも なる つもり なの か、 バカ な ヤツラ だ。 その ヒ の パン にも こまって いて、 ワタシ が ヤリクリ して あげない こと には、 ミンナ ウエジニ して しまう だけ じゃ ない の か。 ワタシ は あの ヒト に セッキョウ させ、 グンシュウ から こっそり サイセン を まきあげ、 また、 ムラ の モノモチ から クモツ を とりたて、 シュクシャ の セワ から ニチジョウ イショク の コウキュウ まで、 ハン を いとわず、 して あげて いた のに、 あの ヒト は もとより デシ の バカ ども まで、 ワタシ に ヒトコト の オレイ も いわない。 オレイ を いわぬ どころ か、 あの ヒト は、 ワタシ の こんな かくれた ヒビ の クロウ をも しらぬ フリ して、 いつでも タイヘン な ゼイタク を いい、 イツツ の パン と サカナ が フタツ ある きり の とき で さえ、 モクゼン の ダイグンシュウ ミナ に タベモノ を あたえよ、 など と ムリ ナンダイ を いいつけなさって、 ワタシ は カゲ で じつに くるしい ヤリクリ を して、 どうやら、 その めいじられた クイモノ を、 まあ、 かいととのえる こと が できる の です。 いわば、 ワタシ は あの ヒト の キセキ の テツダイ を、 あやうい テジナ の ジョシュ を、 これまで イクド と なく つとめて きた の だ。 ワタシ は こう みえて も、 けっして リンショク の オトコ じゃ ない。 それ どころ か ワタシ は、 よっぽど たかい シュミカ なの です。 ワタシ は あの ヒト を、 うつくしい ヒト だ と おもって いる。 ワタシ から みれば、 コドモ の よう に ヨク が なく、 ワタシ が ヒビ の パン を える ため に、 オカネ を せっせと ためたって も、 すぐに それ を 1 リン のこさず、 ムダ な こと に つかわせて しまって。 けれども ワタシ は、 それ を ウラミ に おもいません。 あの ヒト は うつくしい ヒト なの だ。 ワタシ は、 もともと まずしい ショウニン では あります が、 それでも セイシンカ と いう もの を リカイ して いる と おもって います。 だから、 あの ヒト が、 ワタシ の シンク して ためて おいた リュウリュウ の コガネ を、 どんな に ばからしく ムダヅカイ して も、 ワタシ は、 なんとも おもいません。 おもいません けれども、 それならば、 たまに は ワタシ にも、 やさしい コトバ の ヒトツ ぐらい は かけて くれて も よさそう なのに、 あの ヒト は、 いつでも ワタシ に いじわるく しむける の です。 イチド、 あの ヒト が、 ハル の ウミベ を ぶらぶら あるきながら、 ふと、 ワタシ の ナ を よび、 「オマエ にも、 オセワ に なる ね。 オマエ の サビシサ は、 わかって いる。 けれども、 そんな に いつも フキゲン な カオ を して いて は、 いけない。 さびしい とき に、 さびしそう な オモモチ を する の は、 それ は ギゼンシャ の する こと なの だ。 サビシサ を ヒト に わかって もらおう と して、 ことさら に カオイロ を かえて みせて いる だけ なの だ。 まことに カミ を しんじて いる ならば、 オマエ は、 さびしい とき でも そしらぬ フリ して カオ を きれい に あらい、 アタマ に アブラ を ぬり、 ほほえんで いなさる が よい。 わからない かね。 サビシサ を、 ヒト に わかって もらわなくて も、 どこ か メ に みえない ところ に いる オマエ の マコト の チチ だけ が、 わかって いて くださった なら、 それ で よい では ない か。 そう では ない かね。 サビシサ は、 ダレ に だって ある の だよ」 そう おっしゃって くれて、 ワタシ は それ を きいて なぜ だ か コエ だして なきたく なり、 いいえ、 ワタシ は テン の チチ に わかって いただかなくて も、 また セケン の モノ に しられなくて も、 ただ、 アナタ オヒトリ さえ、 おわかり に なって いて くださったら、 それ で もう、 よい の です。 ワタシ は アナタ を あいして います。 ホカ の デシ たち が、 どんな に ふかく アナタ を あいして いたって、 それ とは クラベモノ に ならない ほど に あいして います。 ダレ より も あいして います。 ペテロ や ヤコブ たち は、 ただ、 アナタ に ついて あるいて、 ナニ か いい こと も ある か と、 それ ばかり を かんがえて いる の です。 けれども、 ワタシ だけ は しって います。 アナタ に ついて あるいたって、 なんの とくする ところ も ない と いう こと を しって います。 それ で いながら、 ワタシ は アナタ から はなれる こと が できません。 どうした の でしょう。 アナタ が コノヨ に いなく なったら、 ワタシ も すぐに しにます。 いきて いる こと が できません。 ワタシ には、 いつでも ヒトリ で こっそり かんがえて いる こと が ある ん です。 それ は アナタ が、 くだらない デシ たち ゼンブ から はなれて、 また テン の チチ の オオシエ と やら を とかれる こと も およし に なり、 つつましい タミ の ヒトリ と して、 オハハ の マリヤ サマ と、 ワタシ と、 それ だけ で しずか な イッショウ を、 ながく くらして いく こと で あります。 ワタシ の ムラ には、 まだ ワタシ の ちいさい イエ が のこって あります。 としおいた チチ も ハハ も おります。 ずいぶん ひろい モモバタケ も あります。 ハル、 イマゴロ は、 モモ の ハナ が さいて みごと で あります。 イッショウ、 アンラク に おくらし できます。 ワタシ が いつでも オソバ に ついて、 ゴホウコウ もうしあげたく おもいます。 よい オクサマ を おもらい なさいまし。 そう ワタシ が いったら、 あの ヒト は、 うすく おわらい に なり、 「ペテロ や シモン は スナドリ だ。 うつくしい モモ の ハタケ も ない。 ヤコブ も ヨハネ も セキヒン の スナドリ だ。 あの ヒトタチ には、 そんな、 イッショウ を アンラク に くらせる よう な トチ が、 どこ にも ない の だ」 と ひくく ヒトリゴト の よう に つぶやいて、 また ウミベ を しずか に あるきつづけた の でした が、 アト にも サキ にも、 あの ヒト と、 しんみり おはなし できた の は、 その とき イチド だけ で、 アト は、 けっして ワタシ に うちとけて くださった こと が なかった。 ワタシ は あの ヒト を あいして いる。 あの ヒト が しねば、 ワタシ も イッショ に しぬ の だ。 あの ヒト は、 ダレ の もの でも ない。 ワタシ の もの だ。 あの ヒト を タニン に てわたす くらい なら、 てわたす マエ に、 ワタシ は あの ヒト を ころして あげる。 チチ を すて、 ハハ を すて、 うまれた トチ を すてて、 ワタシ は キョウ まで、 あの ヒト に ついて あるいて きた の だ。 ワタシ は テンゴク を しんじない。 カミ も しんじない。 あの ヒト の フッカツ も しんじない。 なんで あの ヒト が、 イスラエル の オウ な もの か。 バカ な デシ ども は、 あの ヒト を カミ の ミコ だ と しんじて いて、 そうして カミ の クニ の フクイン とか いう もの を、 あの ヒト から つたえきいて は、 あさましく も、 キンキ ジャクヤク して いる。 いまに がっかり する の が、 ワタシ には わかって います。 オノレ を たこう する モノ は ひくう せられ、 オノレ を ひくう する モノ は たこう せられる と、 あの ヒト は ヤクソク なさった が、 ヨノナカ、 そんな に あまく いって たまる もの か。 あの ヒト は ウソツキ だ。 いう こと いう こと、 イチ から ジュウ まで デタラメ だ。 ワタシ は てんで しんじて いない。 けれども ワタシ は、 あの ヒト の ウツクシサ だけ は しんじて いる。 あんな うつくしい ヒト は コノヨ に ない。 ワタシ は あの ヒト の ウツクシサ を、 ジュンスイ に あいして いる。 それ だけ だ。 ワタシ は、 なんの ホウシュウ も かんがえて いない。 あの ヒト に ついて あるいて、 やがて テンゴク が ちかづき、 その とき こそ は、 あっぱれ ウダイジン、 サダイジン に なって やろう など と、 そんな さもしい コンジョウ は もって いない。 ワタシ は、 ただ、 あの ヒト から はなれたく ない の だ。 ただ、 あの ヒト の ソバ に いて、 あの ヒト の コエ を きき、 あの ヒト の スガタ を ながめて おれば それ で よい の だ。 そうして、 できれば あの ヒト に セッキョウ など を よして もらい、 ワタシ と たった フタリ きり で イッショウ ながく いきて いて もらいたい の だ。 あああ、 そう なったら! ワタシ は どんな に シアワセ だろう。 ワタシ は イマ の、 この、 ゲンセ の ヨロコビ だけ を しんじる。 ツギ の ヨ の シンパン など、 ワタシ は すこしも おそれて いない。 あの ヒト は、 ワタシ の この ムホウシュウ の、 ジュンスイ の アイジョウ を、 どうして うけとって くださらぬ の か。 ああ、 あの ヒト を ころして ください。 ダンナサマ。 ワタシ は あの ヒト の イドコロ を しって おります。 ゴアンナイ もうしあげます。 あの ヒト は ワタシ を いやしめ、 ゾウオ して おります。 ワタシ は、 きらわれて おります。 ワタシ は あの ヒト や、 デシ たち の パン の オセワ を もうし、 ヒビ の キカツ から すくって あげて いる のに、 どうして ワタシ を、 あんな に いじわるく ケイベツ する の でしょう。 おきき ください。 ムイカ マエ の こと でした。 あの ヒト は ベタニヤ の シモン の イエ で ショクジ を なさって いた とき、 あの ムラ の マルタ め の イモウト の マリヤ が、 ナルド の コウユ を いっぱい みたして ある セッコウ の ツボ を かかえて キョウエン の ヘヤ に こっそり はいって きて、 だしぬけ に、 その アブラ を あの ヒト の アタマ に ざぶと そそいで ミアシ まで ぬらして しまって、 それでも、 その シツレイ を わびる どころ か、 おちついて しゃがみ、 マリヤ ジシン の カミノケ で、 あの ヒト の ぬれた リョウアシ を テイネイ に ぬぐって あげて、 コウユ の ニオイ が ヘヤ に たちこもり、 まことに イヨウ な フウケイ で ありました ので、 ワタシ は、 なんだか むしょうに ハラ が たって きて、 シツレイ な こと を するな! と、 その イモウトムスメ に どなって やりました。 これ、 このよう に オキモノ が ぬれて しまった では ない か、 それに、 こんな コウカ な アブラ を ぶちまけて しまって、 もったいない と おもわない か、 なんと いう オマエ は バカ な ヤツ だ。 これ だけ の アブラ だったら、 300 デナリ も する では ない か、 この アブラ を うって、 300 デナリ もうけて、 その カネ をば ビンボウニン に ほどこして やったら、 どんな に ビンボウニン が よろこぶ か しれない。 ムダ な こと を して は こまる ね、 と ワタシ は、 さんざ しかって やりました。 すると、 あの ヒト は、 ワタシ の ほう を きっと みて、 「この オンナ を しかって は いけない。 この オンナ の ヒト は、 たいへん いい こと を して くれた の だ。 まずしい ヒト に オカネ を ほどこす の は、 オマエタチ には、 これから あとあと、 いくらでも できる こと では ない か。 ワタシ には、 もう ホドコシ が できなく なって いる の だ。 その ワケ は いうまい。 この オンナ の ヒト だけ は しって いる。 この オンナ が ワタシ の カラダ に コウユ を そそいだ の は、 ワタシ の トムライ の ソナエ を して くれた の だ。 オマエタチ も おぼえて おく が よい。 ゼンセカイ、 どこ の トチ でも、 ワタシ の みじかい イッショウ を いいつたえられる ところ には、 かならず、 この オンナ の キョウ の シグサ も キネン と して かたりつたえられる で あろう」 そう いいむすんだ とき に、 あの ヒト の あおじろい ホオ は いくぶん、 ジョウキ して あかく なって いました。 ワタシ は、 あの ヒト の コトバ を しんじません。 レイ に よって おおげさ な オシバイ で ある と おもい、 ヘイキ で ききながす こと が できました が、 それ より も、 その とき、 あの ヒト の コエ に、 また、 あの ヒト の ヒトミ の イロ に、 イマ まで かつて なかった ほど の イヨウ な もの が かんじられ、 ワタシ は シュンジ トマドイ して、 さらに あの ヒト の かすか に あからんだ ホオ と、 うすく ナミダ に うるんで いる ヒトミ と を、 つくづく みなおし、 はっと おもいあたる こと が ありました。 ああ、 いまわしい、 クチ に だす さえ ムネン シゴク の こと で あります。 あの ヒト は、 こんな まずしい ヒャクショウ オンナ に コイ、 では ない が、 まさか、 そんな こと は ゼッタイ に ない の です が、 でも、 あやうい、 それ に にた あやしい カンジョウ を いだいた の では ない か? あの ヒト とも あろう モノ が。 あんな ムチ な ヒャクショウ オンナ フゼイ に、 そよ と でも トクシュ な アイ を かんじた と あれば、 それ は、 なんと いう シッタイ。 トリカエシ の できぬ ダイシュウブン。 ワタシ は、 ヒト の チジョク と なる よう な カンジョウ を かぎわける の が、 うまれつき たくみ な オトコ で あります。 ジブン でも それ を ゲヒン な キュウカク だ と おもい、 いや で あります が、 ちらと ヒトメ みた だけ で、 ヒト の ジャクテン を、 あやまたず みとどけて しまう エイビン の サイノウ を もって おります。 あの ヒト が、 たとえ ビジャク に でも、 あの ムガク の ヒャクショウ オンナ に、 トクベツ の カンジョウ を うごかした と いう こと は、 やっぱり マチガイ ありません。 ワタシ の メ には クルイ が ない はず だ。 たしか に そう だ。 ああ、 ガマン ならない。 カンニン ならない。 ワタシ は、 あの ヒト も、 こんな テイタラク では、 もはや ダメ だ と おもいました。 シュウタイ の キワミ だ と おもいました。 あの ヒト は これまで、 どんな に オンナ に すかれて も、 いつでも うつくしく、 ミズ の よう に しずか で あった。 いささかも とりみだす こと が なかった の だ。 ヤキ が まわった。 ダラシ が ねえ。 あの ヒト だって まだ わかい の だし、 それ は ムリ も ない と いえる かも しれぬ けれど、 そんなら ワタシ だって おなじ トシ だ。 しかも、 あの ヒト より フタツキ おそく うまれて いる の だ。 ワカサ に カワリ は ない はず だ。 それでも ワタシ は たえて いる。 あの ヒト ヒトリ に ココロ を ささげ、 これまで どんな オンナ にも ココロ を うごかした こと は ない の だ。 マルタ の イモウト の マリヤ は、 アネ の マルタ が ホネグミ ガンジョウ で ウシ の よう に おおきく、 キショウ も あらく、 どたばた たちはたらく の だけ が トリエ で、 なんの ミドコロ も ない ヒャクショウ オンナ で あります が、 あれ は ちがって ホネ も ほそく、 ヒフ は すきとおる ほど の アオジロサ で、 テアシ も ふっくら して ちいさく、 コスイ の よう に ふかく すんだ おおきい メ が、 いつも ゆめみる よう に、 うっとり トオク を ながめて いて、 あの ムラ では ミナ、 フシギ-がって いる ほど の けだかい ムスメ で ありました。 ワタシ だって おもって いた の だ。 マチ へ でた とき、 ナニ か シラギヌ でも、 こっそり かって きて やろう と おもって いた の だ。 ああ、 もう、 わからなく なりました。 ワタシ は ナニ を いって いる の だ。 そう だ、 ワタシ は くやしい の です。 なんの ワケ だ か、 わからない。 ジダンダ ふむ ほど ムネン なの です。 あの ヒト が わかい なら、 ワタシ だって わかい。 ワタシ は サイノウ ある、 イエ も ハタケ も ある リッパ な セイネン です。 それでも ワタシ は、 あの ヒト の ため に ワタシ の トッケン ゼンブ を すてて きた の です。 だまされた。 あの ヒト は、 ウソツキ だ。 ダンナサマ。 あの ヒト は、 ワタシ の オンナ を とった の だ。 いや、 ちがった! あの オンナ が、 ワタシ から あの ヒト を うばった の だ。 ああ、 それ も ちがう。 ワタシ の いう こと は、 みんな デタラメ だ。 ヒトコト も しんじない で ください。 わからなく なりました。 ごめん くださいまし。 ついつい ネ も ハ も ない こと を もうしました。 そんな あさはか な ジジツ なぞ、 ミジン も ない の です。 みにくい こと を くちばしりました。 だけれども、 ワタシ は、 くやしい の です。 ムネ を かきむしりたい ほど、 くやしかった の です。 なんの ワケ だ か、 わかりませぬ。 ああ、 ジェラシー と いう の は、 なんて やりきれない アクトク だ。 ワタシ が こんな に、 イノチ を すてる ほど の オモイ で あの ヒト を したい、 キョウ まで つきしたがって きた のに、 ワタシ には ヒトツ の やさしい コトバ も くださらず、 かえって あんな いやしい ヒャクショウ オンナ の ミノウエ を、 オホホ を そめて まで かばって おやり なさった。 ああ、 やっぱり、 あの ヒト は だらしない。 ヤキ が まわった。 もう、 あの ヒト には ミコミ が ない。 ボンプ だ。 タダ の ヒト だ。 しんだって おしく は ない。 そう おもったら ワタシ は、 ふいと おそろしい こと を かんがえる よう に なりました。 アクマ に みこまれた の かも しれませぬ。 その とき イライ、 あの ヒト を、 いっそ ワタシ の テ で ころして あげよう と おもいました。 いずれ は ころされる オカタ に ちがいない。 また あの ヒト だって、 ムリ に ジブン を ころさせる よう に しむけて いる みたい な ヨウス が、 ちらちら みえる。 ワタシ の テ で ころして あげる。 タニン の テ で ころさせたく は ない。 あの ヒト を ころして ワタシ も しぬ。 ダンナサマ、 ないたり して おはずかしゅう おもいます。 はい、 もう なきませぬ。 はい、 はい。 おちついて もうしあげます。 その あくる ヒ、 ワタシタチ は いよいよ アコガレ の エルサレム に むかい、 シュッパツ いたしました。 ダイグンシュウ、 オイ も ワカキ も、 あの ヒト の アト に つきしたがい、 やがて、 エルサレム の ミヤ が マヂカ に なった コロ、 あの ヒト は、 1 ピキ の おいぼれた ロバ を ミチバタ で みつけて、 ビショウ して それ に うちのり、 これ こそ は、 「シオン の ムスメ よ、 おそるな、 みよ、 ナンジ の オウ は ロバ の コ に のりて きたりたもう」 と ヨゲン されて ある とおり の カタチ なの だ と、 デシ たち に はれがましい カオ を して おしえました が、 ワタシ ヒトリ は、 なんだか うかぬ キモチ で ありました。 なんと いう、 あわれ な スガタ で あった でしょう。 まち に まった スギコシ の マツリ、 エルサレム-キュウ に のりこむ、 これ が、 あの ダビデ の ミコ の スガタ で あった の か。 あの ヒト の イッショウ の ネンガン と した ハレ の スガタ は、 この おいぼれた ロバ に またがり、 とぼとぼ すすむ あわれ な ケイカン で あった の か。 ワタシ には、 もはや、 レンビン イガイ の もの は かんじられなく なりました。 じつに ヒサン な、 おろかしい チャバン キョウゲン を みて いる よう な キ が して、 ああ、 もう、 この ヒト も オチメ だ。 1 ニチ いきのびれば、 いきのびた だけ、 あさはか な シュウタイ を さらす だけ だ。 ハナ は、 しぼまぬ うち こそ、 ハナ で ある。 うつくしい アイダ に、 きらなければ ならぬ。 あの ヒト を、 いちばん あいして いる の は ワタシ だ。 どのよう に ヒト から にくまれて も いい。 1 ニチ も はやく あの ヒト を ころして あげなければ ならぬ と、 ワタシ は、 いよいよ この つらい ケッシン を かためる だけ で ありました。 グンシュウ は、 こくいっこく と その カズ を まし、 あの ヒト の とおる ミチミチ に、 アカ、 アオ、 キ、 イロトリドリ の カレラ の キモノ を ほうりなげ、 あるいは シュロ の エダ を きって、 その いく ミチ に しきつめて あげて、 カンコ に どよめきむかえる の でした。 かつ マエ に ゆき、 アト に したがい、 ミギ から、 ヒダリ から、 まつわりつく よう に して ハテ は オオナミ の ごとく、 ロバ と あの ヒト を ゆさぶり、 ゆさぶり、 「ダビデ の コ に ホサナ、 ほむ べき かな、 シュ の ミナ に よりて きたる モノ、 いと たかき ところ にて、 ホサナ」 と ネッキョウ して クチグチ に うたう の でした。 ペテロ や ヨハネ や バルトロマイ、 その ホカ ゼンブ の デシ ども は、 バカ な ヤツ、 すでに テンゴク を メノマエ に みた か の よう に、 まるで ガイセン の ショウグン に つきしたがって いる か の よう に、 ウチョウテン の カンキ で たがいに だきあい、 ナミダ に ぬれた セップン を かわし、 イッテツモノ の ペテロ など、 ヨハネ を だきかかえた まま、 わあわあ オオゴエ で ウレシナキ に なきくずれて いました。 その アリサマ を みて いる うち に、 さすが に ワタシ も、 この デシ たち と イッショ に カンナン を おかして フキョウ に あるいて きた、 その ニンク コンキュウ の ヒビ を おもいだし、 フカク にも、 メガシラ が あつく なって きました。 かくして あの ヒト は ミヤ に はいり、 ロバ から おりて、 ナニ おもった か、 ナワ を ひろい これ を ふりまわし、 ミヤ の ケイダイ の、 リョウガエ する モノ の ダイ やら、 ハト うる モノ の コシカケ やら を うちたおし、 また、 ウリモノ に でて いる ウシ、 ヒツジ をも、 その ナワ の ムチ で もって ゼンブ、 ミヤ から おいだして、 ケイダイ に いる オオゼイ の ショウニン たち に むかい、 「オマエタチ、 ミナ でて うせろ、 ワタシ の チチ の イエ を、 アキナイ の イエ に して は ならぬ」 と かんだかい コエ で どなる の でした。 あの やさしい オカタ が、 こんな ヨッパライ の よう な、 つまらぬ ランボウ を はたらく とは、 どうしても すこし キ が ふれて いる と しか、 ワタシ には おもわれません でした。 ソバ の ヒト も ミナ おどろいて、 これ は どうした こと です か、 と あの ヒト に たずねる と、 あの ヒト の いきせききって こたえる には、 「オマエタチ、 この ミヤ を こわして しまえ、 ワタシ は ミッカ の アイダ に、 また たてなおして あげる から」 と いう こと だった ので、 さすが グチョク の デシ たち も、 あまり に ムテッポウ な その コトバ には、 しんじかねて、 ぽかん と して しまいました。 けれども ワタシ は しって いました。 しょせん は あの ヒト の、 おさない ツヨガリ に ちがいない。 あの ヒト の シンコウ と やら で もって、 バンジ ならざる は なし と いう キガイ の ホド を、 ヒトビト に みせたかった の に ちがいない の です。 それにしても、 ナワ の ムチ を ふりあげて、 ムリョク な ショウニン を おいまわしたり なんか して、 なんて、 まあ、 ケチ な ツヨガリ なん でしょう。 アナタ に できる せいいっぱい の ハンコウ は、 たった それ だけ なの です か、 ハトウリ の コシカケ を けちらす だけ の こと なの です か、 と ワタシ は ビンショウ して おたずね して みたい と さえ おもいました。 もはや この ヒト は ダメ なの です。 やぶれかぶれ なの です。 ジチョウ ジアイ を わすれて しまった。 ジブン の チカラ では、 このうえ もう なにも できぬ と いう こと を コノゴロ そろそろ しりはじめた ヨウス ゆえ、 あまり ボロ の でぬ うち に、 わざと サイシチョウ に とらえられ、 コノヨ から オサラバ したく なって きた の で ありましょう。 ワタシ は、 それ を おもった とき、 はっきり あの ヒト を あきらめる こと が できました。 そうして、 あんな キドリヤ の ボッチャン を、 これまで イチズ に あいして きた ワタシ ジシン の オロカサ をも、 ヨウイ に わらう こと が できました。 やがて あの ヒト は ミヤ に あつまる タイグン の タミ を マエ に して、 これまで のべた コトバ の ウチ で いちばん ひどい、 ブレイ ゴウマン の ボウゲン を、 めちゃくちゃ に、 わめきちらして しまった の です。 さよう、 たしか に、 ヤケクソ です。 ワタシ は その スガタ を うすぎたなく さえ おもいました。 ころされたがって、 うずうず して いやがる。 「ワザワイ なる かな、 ギゼン なる ガクシャ、 パリサイビト よ、 ナンジラ は サカズキ と サラ との ソト を きよく す、 しかれども ウチ は ドンヨク と ホウジュウ と にて みつる なり。 ワザワイ なる かな、 ギゼン なる ガクシャ、 パリサイビト よ、 ナンジラ は しろく ぬりたる ハカ に にたり、 ソト は うつくしく みゆれど も、 ウチ は シニン の ホネ と サマザマ の ケガレ と に みつ。 かく の ごとく ナンジラ も ソト は ただしく みゆれど も、 ウチ は ギゼン と フホウ と にて みつる なり。 ヘビ よ、 マムシ の スエ よ、 ナンジラ いかで、 ゲヘナ の ケイバツ を さけえん や。 ああ エルサレム、 エルサレム、 ヨゲンシャ たち を ころし、 つかわされたる ヒトビト を イシ にて うつ モノ よ、 メンドリ の その ヒナ を ツバサ の シタ に あつむる ごとく、 ワレ ナンジ の コ ら を あつめん と せし こと イクタビ ぞや、 されど、 ナンジラ は このまざりき」 バカ な こと です。 フンパンモノ だ。 クチマネ する の さえ、 いまわしい。 タイヘン な こと を いう ヤツ だ。 あの ヒト は、 くるった の です。 まだ その ホカ に、 キキン が ある の、 ジシン が おこる の、 ホシ は ソラ より おち、 ツキ は ヒカリ を はなたず、 チ に みつ ヒト の シガイ の マワリ に、 それ を ついばむ ワシ が あつまる の、 ヒト は その とき なげき、 ハガミ する こと が あろう だの、 じつに、 とんでもない ボウゲン を クチ から デマカセ に いいはなった の です。 なんと いう シリョ の ない こと を、 いう の でしょう。 オモイアガリ も はなはだしい。 バカ だ。 ミノホド しらぬ。 イイキ な もの だ。 もはや、 あの ヒト の ツミ は、 まぬかれぬ。 かならず ジュウジカ。 それ に きまった。
 サイシチョウ や タミ の チョウロウ たち が、 ダイサイシ カヤパ の ナカニワ に こっそり あつまって、 あの ヒト を ころす こと を ケツギ した とか、 ワタシ は それ を、 キノウ マチ の モノウリ から ききました。 もし グンシュウ の モクゼン で あの ヒト を とらえた ならば、 あるいは グンシュウ が ボウドウ を おこす かも しれない から、 あの ヒト と デシ たち と だけ の いる ところ を みつけて ヤクショ に しらせて くれた モノ には ギン 30 を あたえる と いう こと をも、 ミミ に しました。 もはや ユウヨ の とき では ない。 あの ヒト は、 どうせ しぬ の だ。 ホカ の ヒト の テ で、 シタヤク たち に ひきわたす より は、 ワタシ が、 それ を なそう。 キョウ まで ワタシ の、 あの ヒト に ささげた ヒトスジ なる アイジョウ の、 これ が サイゴ の アイサツ だ。 ワタシ の ギム です。 ワタシ が あの ヒト を うって やる。 つらい タチバ だ。 ダレ が この ワタシ の ひたむき の アイ の コウイ を、 セイトウ に リカイ して くれる こと か。 いや、 ダレ に リカイ されなくて も いい の だ。 ワタシ の アイ は ジュンスイ の アイ だ。 ヒト に リカイ して もらう ため の アイ では ない。 そんな さもしい アイ では ない の だ。 ワタシ は エイエン に、 ヒト の ニクシミ を かう だろう。 けれども、 この ジュンスイ の アイ の ドンヨク の マエ には、 どんな ケイバツ も、 どんな ジゴク の ゴウカ も モンダイ で ない。 ワタシ は ワタシ の イキカタ を いきぬく。 ミブルイ する ほど に かたく ケツイ しました。 ワタシ は、 ひそか に よき オリ を、 うかがって いた の で あります。 いよいよ、 オマツリ の トウジツ に なりました。 ワタシタチ シテイ 13 ニン は オカ の ウエ の ふるい リョウリヤ の、 うすぐらい ニカイ ザシキ を かりて オマツリ の エンカイ を ひらく こと に いたしました。 ミンナ ショクタク に ついて、 いざ オマツリ の ユウゲ を はじめよう と した とき、 あの ヒト は、 つと たちあがり、 だまって ウワギ を ぬいだ ので、 ワタシタチ は いったい ナニ を おはじめ なさる の だろう と フシン に おもって みて いる うち に、 あの ヒト は タク の ウエ の ミズガメ を テ に とり、 その ミズガメ の ミズ を、 ヘヤ の スミ に あった ちいさい タライ に そそぎいれ、 それから ジュンパク の シュキン を ゴジシン の コシ に まとい、 タライ の ミズ で デシ たち の アシ を じゅんじゅん に あらって くださった の で あります。 デシ たち には、 その リユウ が わからず、 ド を うしなって、 うろうろ する ばかり で ありました けれど、 ワタシ には なにやら、 あの ヒト の ひめた オモイ が わかる よう な キモチ で ありました。 あの ヒト は、 さびしい の だ。 キョクド に キ が よわって、 イマ は、 ムチ な ガンメイ の デシ たち に さえ すがりつきたい キモチ に なって いる の に ちがいない。 かわいそう に。 あの ヒト は ジブン の のがれがたい ウンメイ を しって いた の だ。 その アリサマ を みて いる うち に、 ワタシ は、 とつぜん、 キョウリョク な オエツ が ノド に つきあげて くる の を おぼえた。 やにわに あの ヒト を だきしめ、 ともに なきたく おもいました。 おう かわいそう に、 アナタ を つみして なる もの か。 アナタ は、 いつでも やさしかった。 アナタ は、 いつでも ただしかった。 アナタ は、 いつでも まずしい モノ の ミカタ だった。 そうして アナタ は、 いつでも ひかる ばかり に うつくしかった。 アナタ は、 まさしく カミ の ミコ だ。 ワタシ は それ を しって います。 おゆるし ください。 ワタシ は アナタ を うろう と して この 2~3 ニチ、 キカイ を ねらって いた の です。 もう イマ は いや だ。 アナタ を うる なんて、 なんと いう ワタシ は ムホウ な こと を かんがえて いた の でしょう。 ゴアンシン なさいまし。 もう イマ から は、 500 の ヤクニン、 1000 の ヘイタイ が きた とて も、 アナタ の オカラダ に ユビ イッポン ふれさせる こと は ない。 アナタ は、 イマ、 つけねらわれて いる の です。 あぶない。 イマ すぐ、 ここ から にげましょう。 ペテロ も こい、 ヤコブ も こい、 ヨハネ も こい、 ミンナ こい。 ワレラ の やさしい シュ を まもり、 イッショウ ながく くらして いこう、 と ココロ の ソコ から の アイ の コトバ が、 クチ に だして は いえなかった けれど、 ムネ に わきかえって おりました。 キョウ まで かんじた こと の なかった イッシュ スウコウ な レイカン に うたれ、 あつい オワビ の ナミダ が キモチ よく ホオ を つたって ながれて、 やがて あの ヒト は ワタシ の アシ をも しずか に、 テイネイ に あらって くだされ、 コシ に まとって あった シュキン で やわらかく ふいて、 ああ、 その とき の カンショク は。 そう だ、 ワタシ は あの とき、 テンゴク を みた の かも しれない。 ワタシ の ツギ には、 ピリポ の アシ を、 その ツギ には アンデレ の アシ を、 そうして、 ツギ に、 ペテロ の アシ を あらって くださる ジュンバン に なった の です が、 ペテロ は、 あのよう に おろか な ショウジキモノ で あります から、 フシン の キモチ を かくして おく こと が できず、 シュ よ、 アナタ は どうして ワタシ の アシ など おあらい に なる の です。 と たしょう フマンゲ に クチ を とがらして たずねました。 あの ヒト は、 「ああ、 ワタシ の する こと は、 オマエ には、 わかるまい。 アト で、 おもいあたる こと も ある だろう」 と おだやか に いいさとし、 ペテロ の アシモト に しゃがんだ の だ が、 ペテロ は なおも ガンキョウ に それ を こばんで、 いいえ、 いけません。 エイエン に ワタシ の アシ など おあらい に なって は なりませぬ。 もったいない、 と その アシ を ひっこめて いいはりました。 すると、 あの ヒト は すこし コエ を はりあげて、 「ワタシ が もし、 オマエ の アシ を あらわない なら、 オマエ と ワタシ とは、 もう なんの カンケイ も ない こと に なる の だ」 と ずいぶん、 おもいきった つよい こと を いいました ので、 ペテロ は オオアワテ に あわて、 ああ、 ごめんなさい、 それならば、 ワタシ の アシ だけ で なく、 テ も アタマ も おもうぞんぶん に あらって ください、 と ヘイシン テイトウ して たのみいりました ので、 ワタシ は おもわず ふきだして しまい、 ホカ の デシ たち も、 そっと ほほえみ、 なんだか ヘヤ が あかるく なった よう でした。 あの ヒト も すこし わらいながら、 「ペテロ よ、 アシ だけ あらえば、 もう それ で、 オマエ の ゼンシン は きよい の だ、 ああ、 オマエ だけ で なく、 ヤコブ も、 ヨハネ も、 ミンナ ヨゴレ の ない、 きよい カラダ に なった の だ。 けれども」 と いいかけて すっと コシ を のばし、 シュンジ、 クツウ に たえかねる よう な、 とても かなしい メツキ を なされ、 すぐに その メ を ぎゅっと かたく つぶり、 つぶった まま で いいました。 「ミンナ が きよければ いい の だ が」 はっと おもった。 やられた! ワタシ の こと を いって いる の だ。 ワタシ が あの ヒト を うろう と たくらんで いた スンコク イゼン まで の くらい キモチ を みぬいて いた の だ。 けれども、 その とき は、 ちがって いた の だ。 だんぜん、 ワタシ は、 ちがって いた の だ! ワタシ は きよく なって いた の だ。 ワタシ の ココロ は かわって いた の だ。 ああ、 あの ヒト は それ を しらない。 それ を しらない。 ちがう! ちがいます、 と ノド まで でかかった ゼッキョウ を、 ワタシ の よわい ヒクツ な ココロ が、 ツバ を のみこむ よう に、 のみくだして しまった。 いえない。 なにも いえない。 あの ヒト から そう いわれて みれば、 ワタシ は やはり きよく なって いない の かも しれない と きよわく コウテイ する ひがんだ キモチ が アタマ を もたげ、 と みるみる その ヒクツ の ハンセイ が、 みにくく、 くろく ふくれあがり、 ワタシ の ゴゾウ ロップ を かけめぐって、 ギャク に むらむら フンヌ の ネン が ホノオ を あげて フンシュツ した の だ。 ええっ、 ダメ だ。 ワタシ は、 ダメ だ。 あの ヒト に ココロ の ソコ から、 きらわれて いる。 うろう。 うろう。 あの ヒト を、 ころそう。 そうして ワタシ も ともに しぬ の だ、 と マエ から の ケツイ に ふたたび めざめ、 ワタシ は イマ は カンゼン に、 フクシュウ の オニ に なりました。 あの ヒト は、 ワタシ の ナイシン の、 ふたたび ミタビ、 どんでんがえして ヘンカ した ダイドウラン には、 おきづき なさる こと の なかった ヨウス で、 やがて ウワギ を まとい フクソウ を ただし、 ゆったり と セキ に すわり、 じつに あおざめた カオ を して、 「ワタシ が オマエタチ の アシ を あらって やった ワケ を しって いる か。 オマエタチ は ワタシ を シュ と たたえ、 また シ と たたえて いる よう だ が、 それ は マチガイ ない こと だ。 ワタシ は オマエタチ の シュ、 または シ なのに、 それでも なお、 オマエタチ の アシ を あらって やった の だ から、 オマエタチ も これから は たがいに なかよく アシ を あらいあって やる よう に こころがけなければ なるまい。 ワタシ は、 オマエタチ と、 いつまでも イッショ に いる こと が できない かも しれぬ から、 イマ、 この キカイ に、 オマエタチ に モハン を しめして やった の だ。 ワタシ の やった とおり に、 オマエタチ も おこなう よう に こころがけなければ ならぬ。 シ は かならず デシ より すぐれた もの なの だ から、 よく ワタシ の いう こと を きいて わすれぬ よう に なさい」 ひどく ものうそう な クチョウ で いって、 おとなしく ショクジ を はじめ、 ふっと、 「オマエタチ の ウチ の、 ヒトリ が、 ワタシ を うる」 と カオ を ふせ、 うめく よう な、 キョキ なさる よう な くるしげ の コエ で いいだした ので、 デシ たち すべて、 のけぞらん ばかり に おどろき、 イッセイ に セキ を けって たち、 あの ヒト の マワリ に あつまって おのおの、 シュ よ、 ワタシ の こと です か、 シュ よ、 それ は ワタシ の こと です か と、 ののしりさわぎ、 あの ヒト は しぬる ヒト の よう に かすか に クビ を ふり、 「ワタシ が イマ、 その ヒト に ヒトツマミ の パン を あたえます。 その ヒト は、 ずいぶん フシアワセ な オトコ なの です。 ホントウ に、 その ヒト は、 うまれて こなかった ほう が、 よかった」 と イガイ に はっきり した ゴチョウ で いって、 ヒトツマミ の パン を とり ウデ を のばし、 あやまたず ワタシ の クチ に ひたと おしあてました。 ワタシ も、 もう すでに ドキョウ が ついて いた の だ。 はじる より は にくんだ。 あの ヒト の いまさら ながら の イジワルサ を にくんだ。 このよう に デシ たち ミナ の マエ で こうぜん と ワタシ を はずかしめる の が、 あの ヒト の これまで の シキタリ なの だ。 ヒ と ミズ と。 エイエン に とけあう こと の ない シュクメイ が、 ワタシ と アイツ との アイダ に ある の だ。 イヌ か ネコ に あたえる よう に、 ヒトツマミ の パンクズ を ワタシ の クチ に おしいれて、 それ が アイツ の せめても の ハライセ だった の か。 ははん。 バカ な ヤツ だ。 ダンナサマ、 アイツ は ワタシ に、 オマエ の なす こと を すみやか に なせ と いいました。 ワタシ は すぐに リョウテイ から はしりでて、 ユウヤミ の ミチ を ヒタハシリ に はしり、 ただいま ここ に まいりました。 そうして いそぎ、 この とおり うったえもうしあげました。 さあ、 あの ヒト を ばっして ください。 どうとも カッテ に、 ばっして ください。 とらえて、 ボウ で なぐって スッパダカ に して ころす が よい。 もう、 もう ワタシ は ガマン ならない。 あれ は、 いや な ヤツ です。 ひどい ヒト だ。 ワタシ を イマ まで、 あんな に いじめた。 はははは、 チキショウ め。 あの ヒト は イマ、 ケデロン の オガワ の かなた、 ゲッセマネ の ソノ に います。 もうはや、 あの ニカイ ザシキ の ユウゲ も すみ、 デシ たち と ともに ゲッセマネ の ソノ に いき、 イマゴロ は、 きっと テン へ オイノリ を ささげて いる ジコク です。 デシ たち の ホカ には ダレ も おりません。 イマ なら なんなく あの ヒト を とらえる こと が できます。 ああ、 コトリ が ないて、 うるさい。 コンヤ は どうして こんな に ヨドリ の コエ が ミミ に つく の でしょう。 ワタシ が ここ へ かけこむ トチュウ の モリ でも、 コトリ が ぴいちく ないて おりました。 ヨル に さえずる コトリ は、 めずらしい。 ワタシ は コドモ の よう な コウキシン で もって、 その コトリ の ショウタイ を ヒトメ みたい と おもいました。 たちどまって クビ を かしげ、 キギ の コズエ を すかして みました。 ああ、 ワタシ は つまらない こと を いって います。 ごめん ください。 ダンナサマ、 オシタク は できました か。 ああ たのしい。 いい キモチ。 コンヤ は ワタシ に とって も サイゴ の ヨル だ。 ダンナサマ、 ダンナサマ、 コンヤ これから ワタシ と あの ヒト と リッパ に カタ を せっして たちならぶ コウケイ を、 よく みて おいて くださいまし。 ワタシ は コンヤ あの ヒト と、 ちゃんと カタ を ならべて たって みせます。 あの ヒト を おそれる こと は ない ん だ。 ヒゲ する こと は ない ん だ。 ワタシ は あの ヒト と おなじ トシ だ。 おなじ、 すぐれた わかい モノ だ。 ああ、 コトリ の コエ が、 うるさい。 ミミ に ついて うるさい。 どうして、 こんな に コトリ が さわぎまわって いる の だろう。 ぴいちく ぴいちく、 ナニ を さわいで いる の でしょう。 おや、 その オカネ は? ワタシ に くださる の です か、 あの、 ワタシ に、 30 ギン。 なるほど、 はははは。 いや、 おことわり もうしましょう。 なぐられぬ うち に、 その カネ ひっこめたら いい でしょう。 カネ が ほしくて うったえでた の では ない ん だ。 ひっこめろ! いいえ、 ごめんなさい、 いただきましょう。 そう だ、 ワタシ は ショウニン だった の だ。 キンセン ゆえ に、 ワタシ は ユウビ な あの ヒト から、 いつも ケイベツ されて きた の だっけ。 いただきましょう。 ワタシ は しょせん、 ショウニン だ。 いやしめられて いる キンセン で、 あの ヒト に みごと、 フクシュウ して やる の だ。 これ が ワタシ に、 いちばん ふさわしい フクシュウ の シュダン だ。 ザマア みろ! ギン 30 で、 アイツ は うられる。 ワタシ は、 ちっとも ないて や しない。 ワタシ は、 あの ヒト を あいして いない。 ハジメ から、 ミジン も あいして いなかった。 はい、 ダンナサマ。 ワタシ は ウソ ばかり もうしあげました。 ワタシ は、 カネ が ホシサ に あの ヒト に ついて あるいて いた の です。 おお、 それ に ちがいない。 あの ヒト が、 ちっとも ワタシ に もうけさせて くれない と コンヤ ミキワメ が ついた から、 そこ は ショウニン、 すばやく ネガエリ を うった の だ。 カネ。 ヨノナカ は カネ だけ だ。 ギン 30、 なんと すばらしい。 いただきましょう。 ワタシ は、 ケチ な ショウニン です。 ほしくて ならぬ。 はい、 ありがとう ぞんじます。 はい、 はい。 もうしおくれました。 ワタシ の ナ は、 ショウニン の ユダ。 へっへ。 イスカリオテ の ユダ。
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ノンキ な カンジャ

2020-12-07 | カジイ モトジロウ
 ノンキ な カンジャ

 カジイ モトジロウ

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 ヨシダ は ハイ が わるい。 カン に なって すこし さむい ヒ が きた と おもったら、 すぐ その ヨクジツ から たかい ネツ を だして ひどい セキ に なって しまった。 ムネ の ゾウキ を ゼンブ おしあげて だして しまおう と して いる か の よう な セキ を する。 4~5 ニチ たつ と もう すっかり やせて しまった。 セキ も あまり しない。 しかし これ は セキ が なおった の では なくて、 セキ を する ため の ハラ の キンニク が すっかり つかれきって しまった から で、 カレラ が セキ を する の を がえんじなく なって しまった から らしい。 それに もう ヒトツ は シンゾウ が ひどく よわって しまって、 イチド セキ を して それ を みだして しまう と、 それ を ふたたび しずめる まで に ヒジョウ に くるしい メ を みなければ ならない。 つまり セキ を しなく なった と いう の は、 カラダ が スイジャク して はじめて の とき の よう な ゲンキ が なくなって しまった から で、 それ が ショウコ には コンド は だんだん コキュウ コンナン の ド を まして センパク な コキュウ を かずおおく しなければ ならなく なって きた。
 ビョウセイ が こんな に なる まで の アイダ、 ヨシダ は これ を ヒトナミ の リュウコウセイ カンボウ の よう に おもって、 またしても 「ミョウチョウ は もうすこし よく なって いる かも しれない」 と おもって は その キタイ に うらぎられたり、 キョウ こそ は イシャ を たのもう か と おもって は ムダ に シンボウ を したり、 いつまでも ひどい イキギレ を おかして は ベンジョ へ かよったり、 そんな ホンノウテキ な ウケミ な こと ばかり やって いた。 そして やっと イシャ を むかえた コロ には、 もう げっそり ホオ も こけて しまって、 ミウゴキ も できなく なり、 2~3 ニチ の うち には はや トコズレ の よう な もの まで が できかかって くる と いう ヨワリカタ で あった。 ある ヒ は しきり に 「こうっと」 「こうっと」 と いう よう な こと を ほとんど イチニチ いって いる。 か と おもう と 「フアン や」 「フアン や」 と よわよわしい コエ を だして うったえる こと も ある。 そういう とき は きまって ヨル で、 どこ から くる とも しれない フアン が ヨシダ の よわりきった シンケイ を たまらなく する の で あった。
 ヨシダ は これまで イチド も そんな ケイケン を した こと が なかった ので、 そんな とき は ダイイチ に その フアン の ゲンイン に おもいなやむ の だった。 いったい ひどく シンゾウ でも よわって きた ん だろう か、 それとも こんな ビョウキ には ありがち な、 フアン ほど には ない ナニ か の ゲンショウ なん だろう か、 それとも ジブン の カビン に なった シンケイ が ナニ か の クツウ を そういう ふう に かんじさせる ん だろう か。 ――ヨシダ は ほとんど ミウゴキ も できない シセイ で カラダ を しゃちこばらせた まま かろうじて ムネ へ コキュウ を おくって いた。 そして イマ もし とつじょ この ヘイコウ を やぶる もの が あらわれたら ジブン は どう なる か しれない と いう こと を おもって いた。 だから ヨシダ の アタマ には ジシン とか カジ とか イッショウ に 1 ド あう か 2 ド あう か と いう よう な もの まで が シンケン に うつって いる の だった。 また ヨシダ が この ジョウタイ を つづけて ゆく と いう の には たえない ドリョクカン の キンチョウ が ヒツヨウ で あって、 もし その ツナワタリ の よう な ドリョク に ナニ か フアン の カゲ が させば たちどころに ヨシダ は ふかい クツウ に おちいらざる を えない の だった。 ――しかし そんな こと は いくら かんがえて も ケッテイテキ な チシキ の ない ヨシダ には その カイケツ が つく はず は なかった。 その ゲンイン を オクソク する にも また その セイヒ を ハンダン する にも けっきょく とうの ジブン の フアン の カンジ に よる ホカ は ない の だ と する と、 けっきょく それ は ナニ を やって いる の か ワケ の わからない こと に なる の は トウゼン の こと なの だった が、 しかし そんな ジョウタイ に いる ヨシダ には そんな アキラメ が つく はず は なく、 いくらでも それ は クツウ を まして ゆく こと に なる の だった。
 ダイニ に ヨシダ を くるしめる の は この フアン には シュダン が ある と おもう こと だった。 それ は ヒト に イシャ へ いって もらう こと と ダレ か に ネズ の バン に ついて いて もらう こと だった。 しかし ヨシダ は ダレ も ミナ イチニチ の シゴト を すまして そろそろ ねよう と する イマゴロ に なって、 ハンミチ も ある イナカミチ を イシャ へ いって きて くれ とか、 60 も こして しまった ハハオヤ に ねず に ついて いて くれ とか いう こと は いいだしにくかった。 また それ を おもいきって たのむ ダン に なる と、 ヨシダ は イマ の この ジブン の ジョウタイ を どうして ワカリ の わるい ハハオヤ に わからして いい か、 ――それ より も ジブン が かろうじて それ を いう こと が できて も、 じっくり と した ハハオヤ の フダン の タイド で それ を かんがえられたり、 また その ツカイ を たのまれた ニンゲン が その ツカイ を ゆきしぶったり する とき の こと を かんがえる と、 じっさい それ は ヨシダ に とって タイザン を うごかす よう な クウソウ に なって しまう の だった。 しかし なぜ フアン に なって くる か ――もう ヒトツ セイミツ に いう と―― なぜ フアン が フアン に なって くる か と いう と、 これから だんだん ヒト が ねて しまって イシャ へ いって もらう と いう こと も ホントウ に できなく なる と いう こと や、 そして ハハオヤ も ねて しまって アト は ただ ジブン ヒトリ が こうりょう と した ヨル の ジカン の ナカ へ とりのこされる と いう こと や、 そして もし その ジカン の マンナカ で この エタイ の しれない フアン の ナイヨウ が ジツゲン する よう な こと が あれば もはや ジブン は どう する こと も できない では ない か と いう よう な こと を かんがえる から で―― だから これ は メ を つぶって 「シンボウ する か、 たのむ か」 と いう こと を きめる イガイ それ ジシン の ナカ には なんら カイケツ の シュダン も ふくんで いない コトガラ なの で ある が、 たとえ ヨシダ は ばくぜん と それ を かんじる こと が できて も、 カラダ も ココロ も ヌキサシ の ならない ジブン の ジョウタイ で あって みれば なお の こと その メイモウ を すてきって しまう こと も できず、 その ケッカ は アガキ の とれない クツウ が ますます ゾウダイ して ゆく イッポウ と なり、 その ハテ には もう その クルシサ だけ にも たえきれなく なって 「こんな に くるしむ くらい なら いっそ の こと いって しまおう」 と サイゴ の ケッシン を する よう に なる の だ が、 その とき は もう なぜか テ も アシ も でなく なった よう な カンジ で、 その ソバ に すわって いる ジブン の ハハオヤ が いかにも はがゆい ノンキ な ソンザイ に みえ、 「ここ と そこ だ のに なぜ これ を アイテ に わからす こと が できない の だろう」 と ムネ の ナカ の クツウ を そのまま つかみだして アイテ に たたきつけたい よう な カンシャク が ヨシダ には おこって くる の だった。
 しかし けっきょく は それ も 「フアン や」 「フアン や」 と いう よわよわしい ミレン いっぱい の ウッタエ と なって おわって しまう ほか ない ので、 それ も かんがえて みれば ミレン とは いって も やはり ヨナカ ナニ か おこった とき には アイテ を はっと きづかせる こと の ヤク には たつ と いう せっぱつまった シタゴコロ も はいって いる には ちがいなく、 そう する こと に よって やっと ジブン ヒトリ が ねられない で とりのこされる ヨル の ノッピキ ならない シンボウ を する こと に なる の だった。
 ヨシダ は ナンド 「オノレ が キモチ よく ねられ さえ すれば」 と おもった こと か しれなかった。 こんな フアン も ヨシダ が その ヨル を ねむる アテ さえ あれば なんの クツウ でも ない ので、 くるしい の は ただ ジブン が ヒル にも ヨル にも スイミン と いう こと を カンジョウ に いれる こと が できない と いう こと だった。 ヨシダ は ムネ の ナカ が どうにか して やわらんで くる まで は いや でも オウ でも いつも カラダ を しゃちこばらして ヨルヒル を おしとおして いなければ ならなかった。 そして スイミン は シグレゾラ の ウスビ の よう に、 その ウエ を ときどき やって きて は きえて ゆく ほとんど ジブン とは ボッコウショウ な もの だった。 ヨシダ は いくら イチニチ の カンゴ に つかれて も ねる とき が くれば いつでも すやすや と ねて ゆく ハハオヤ が いかにも ラク そう にも また ハクジョウ にも みえ、 しかし けっきょく これ が オノレ の イマ やらなければ ならない こと なん だ と おもいあきらめて また その ドリョク を つづけて ゆく ほか なかった。
 そんな ある バン の こと だった。 ヨシダ の ビョウシツ へ とつぜん ネコ が はいって きた。 その ネコ は ふだん ヨシダ の ネドコ へ はいって ねる と いう シュウカン が ある ので ヨシダ が こんな に なって から は やかましく いって ビョウシツ へ はいれない クフウ を して いた の で ある が、 その ネコ が どこ から はいって きた の か フイ に にゃあ と いう イツモ の ナキゴエ と ともに ヘヤ へ はいって きた とき には ヨシダ は イチジ に フアン と フンマン の ネン に おそわれざる を えなかった。 ヨシダ は リンシツ に ねて いる ハハオヤ を よぶ こと を かんがえた が、 ハハオヤ は やはり リュウコウセイ カンボウ の よう な もの に かかって 2~3 ニチ マエ から ねて いる の だった。 その こと に ついて は ヨシダ は ジブン の こと も かんがえ、 また ハハオヤ の こと も かんがえて カンゴフ を よぶ こと を テイギ した の だった が、 ハハオヤ は 「ジブン さえ シンボウ すれば やって いける」 と いう ヨシダ に とって は ヒジョウ に クツウ な カンガエ を コシツ して いて それ を とりあげなかった。 そして こんな バアイ に なって は ヨシダ は やはり 1 ピキ の ネコ ぐらい で その ハハオヤ を おこす と いう こと は できがたい キ が する の だった。 ヨシダ は また ネコ の こと には 「こんな こと が ある かも しれない と おもって あんな にも シンケイシツ に いって ある のに」 と おもって ジブン が シンケイシツ に なる こと に よって はらった クツウ の ギセイ が テゴタエ も なく すっぽかされて しまった こと に フンマン を かんじない では いられなかった。 しかし イマ ジブン は カンシャク を たてる こと に よって すこし の トク も する こと は ない と おもう と、 その ワケ の わからない ネコ を あまり ミウゴキ も できない ジョウタイ で たちさらせる こと の いかに また コンキ の いる シゴト で ある か を おもわざる を えなかった。
 ネコ は ヨシダ の マクラ の ところ へ やって くる と イツモ の よう に ヨギ の エリモト から ネドコ の ナカ へ もぐりこもう と した。 ヨシダ は ネコ の ハナ が つめたくて その ケガワ が コガイ の シモ で ぬれて いる の を その ホオ で かんじた。 すなわち ヨシダ は クビ を うごかして その ヨギ の スキマ を ふさいだ。 すると ネコ は ダイタン にも マクラ の ウエ へ あがって きて また ベツ の スキマ へ しゃにむに クビ を つっこもう と した。 ヨシダ は そろそろ あげて きて あった カタテ で その ハナサキ を おしかえした。 このよう に して チョウバツ と いう こと イガイ に なにも しらない ドウブツ を、 キョクド に カンジョウ を おしころした わずか の シンタイ の ウンドウ で たちさらせる と いう こと は、 ワケ の わからない その アイテ を ほとんど カイギ に おとしいれる こと に よって あきらめさす と いう よう な せっぱつまった ホウホウ を イミ して いた。 しかし それ が やっと の こと で セイコウ した と おもう と、 ホウコウ を かえた ネコ は コンド は のそのそ と ヨシダ の ネドコ の ウエ へ あがって そこ で まるく なって ケ を なめはじめた。 そこ へ ゆけば もう ヨシダ には どう する こと も できない バショ で ある。 ハクヒョウ を ふむ よう な ヨシダ の コキュウ が にわか に ずしり と おもく なった。 ヨシダ は いよいよ ハハオヤ を おこそう か どう しよう か と いう こと で おさえて いた カンシャク を たかぶらせはじめた。 ヨシダ に とって は それ を シンボウ する こと は できなく ない こと かも しれなかった。 しかし その シンボウ を して いる アイダ は たとえ ねた か ねない か わからない よう な スイミン では あった が、 その カノウセイ が ぜんぜん なくなって しまう こと を かんがえなければ ならなかった。 そして それ を いつまで もちこたえなければ ならない か と いう こと は まったく ネコ-シダイ で あり、 いつ おきる か しれない ハハオヤ-シダイ だ と おもう と、 どうしても そんな ばかばかしい シンボウ は しきれない キ が する の だった。 しかし ハハオヤ を おこす こと を かんがえる と、 こんな カンジョウ を おさえて おそらく ナンド も よばなければ ならない だろう と いう キモチ だけ でも ヨシダ は まったく タイギ な キ に なって しまう の だった。 ――しばらく して ヨシダ は コノアイダ から ジブン で おこした こと の なかった カラダ を じりじり おこしはじめた。 そして トコ の ウエ へ やっと おきかえった か と おもう と、 ネドコ の ウエ に まるく なって ねて いる ネコ を むんずと つかまえた。 ヨシダ の カラダ は それ だけ の ウンドウ で もう ナミ の よう に フアン が ゆれはじめた。 しかし ヨシダ は もう どう する こと も できない ので、 いきなり それ を それ の はいって きた ヘヤ の スミ へ 「ニド と テマ の かからない よう に」 たたきつけた。 そして ジブン は ネドコ の ウエ で アグラ を かいて その アト の おそろしい コキュウ コンナン に ミ を まかせた の だった。

 2

 しかし ヨシダ の そんな クルシミ も だんだん たえがたい よう な もの では なくなって きた。 ヨシダ は ジブン に やっと スイミン-らしい スイミン が できる よう に なり、 「コンド は だいぶん ひどい メ に あった」 と いう こと を おもう こと が できる よう に なる と、 やっと くるしかった 2 シュウカン ほど の こと が アタマ へ のぼって きた。 それ は シソウ も なにも ない ただ あらあらしい ガンセキ の チョウジョウ する フウケイ だった。 しかし その ナカ でも もっとも ひどかった セキ の クルシミ の サイチュウ に、 いつも ジブン の アタマ へ うかんで くる ワケ の わからない コトバ が あった こと を ヨシダ は おもいだした。 それ は 「ヒルカニヤ の トラ」 と いう コトバ だった。 それ は セキ の ノド を ならす オト とも レンカン が あり、 それ を ヨシダ が カンネン する の は 「オレ は ヒルカニヤ の トラ だぞ」 と いう よう な こと を ねんじる から なの だった が、 いったい その 「ヒルカニヤ の トラ」 と いう もの が どんな もの で あった か ヨシダ は いつも セキ の すんだ アト ミョウ な キモチ が する の だった。 ヨシダ は ナニ か きっと それ は ジブン の ねつく マエ に よんだ ショウセツ か ナニ か の ナカ に あった こと に ちがいない と おもう の だった が それ が おもいだせなかった。 また ヨシダ は 「ジコ の ザンゾウ」 と いう よう な もの が ある もの なん だな と いう よう な こと を おもったり した。 それ は ヨシダ が もう すっかり セキ を する の に つかれて しまって アタマ を マクラ へ もたらせて いる と、 それでも やはり ちいさい セキ が でて くる、 しかし ヨシダ は もう そんな もの に いちいち クビ を かたく して おうじて は いられない と おもって それ が でる まま に させて おく と、 どうしても やはり アタマ は その たび に うごかざる を えない。 すると その 「ジコ の ザンゾウ」 と いう もの が イクツ も できる の で ある。
 しかし そんな こと も みな くるしかった 2 シュウカン ほど の アイダ の オモイデ で あった。 おなじ ねられない バン に して も ヨシダ の ココロ には もう ナニ か の カイラク を もとめる よう な キモチ の かんじられる よう な バン も あった。
 ある バン は ヨシダ は タバコ を ながめて いた。 トコ の ワキ に ある ヒバチ の スソ に キザミ タバコ の フクロ と キセル と が みえて いる。 それ は みえて いる と いう より も、 ヨシダ が ムリ を して みて いる ので、 それ を みて いる と いう こと が なんとも いえない たのしい キモチ を ジブン に おこさせて いる こと を ヨシダ は かんじて いた。 そして ヨシダ の ねられない の は その キモチ の ため で、 いわば それ は やや たのしすぎる キモチ なの だった。 そして ヨシダ は ジブン の ホオ が その ため に すこし ずつ ほてった よう に なって きて いる と いう こと さえ しって いた。 しかし ヨシダ は けっして ホカ を むいて ねよう と いう キ は しなかった。 そう する と せっかく ジブン の かんじて いる ハル の ヨル の よう な キモチ が イチジ に ビョウキ ビョウキ した フユ の よう な キモチ に なって しまう の だった。 しかし ねられない と いう こと も ヨシダ に とって は クツウ で あった。 ヨシダ は いつか フミンショウ と いう こと に ついて、 それ の ゲンイン は けっきょく カンジャ が ねむる こと を ほっしない の だ と いう ガクセツ が ある こと を ヒト に きかされて いた。 ヨシダ は その ハナシ を きいて から ジブン の ねむれない とき には ナニ か ジブン に ねむる の を ほっしない キモチ が あり は しない か と おもって イチヤ それ を ケンサ して みる の だった が、 イマ ジブン が ねられない と いう こと に ついて は ケンサ して みる まで も なく ヨシダ には それ が わかって いた。 しかし ジブン が その かくれた ヨクボウ を ジッコウ に うつす か どう か と いう ダン に なる と ヨシダ は イチ も ニ も なく ヒテイ せざる を えない の だった。 タバコ を すう も すわない も、 その ドウグ の テ の とどく ところ へ ゆきつく だけ でも、 ジブン の イマ の この ハル の ヨル の よう な キモチ は イチジ に ふきけされて しまわなければ ならない と いう こと は ヨシダ も しって いた。 そして もし それ を イップク すった と する バアイ、 この ナンニチ-カン か しらなかった どんな おそろしい セキ の クルシミ が おそって くる か と いう こと も ヨシダ は たいがい さっして いた。 そして ナニ より も まず、 すこし ジブン が その ヒト の せい で くるしい メ を した と いう よう な バアイ すぐに カンシャク を たてて おこりつける ハハオヤ の ねて いる スキ に、 それ も その ヒト の わすれて いった タバコ を―― と おもう と やはり ヨシダ は イチ も ニ も なく その ヨクボウ を ヒテイ せざる を えなかった。 だから ヨシダ は けっして その ヨクボウ を あらわ には イシキ しよう とは おもわない。 そして いつまでも その ほう を ながめて は ねられない ハル の ヨル の よう な ココロ の トキメキ を かんじて いる の だった。
 ある ヒ は ヨシダ は また カガミ を もって こさせて それ に かれがれ と した マフユ の ニワ の フウケイ を ハンシャ させて は ながめたり した。 そんな ヨシダ には いつも ナンテン の あかい ミ が メ の さめる よう な シゲキ で メ に ついた。 また カガミ で ハンシャ させた フウケイ へ ボウエンキョウ を もって いって、 ボウエンキョウ の コウカ が ある もの か どう か と いう こと を、 ヨシダ は だいぶん ながい アイダ ネドコ の ナカ で かんがえたり した。 だいじょうぶ だ と ヨシダ は おもった ので、 ボウエンキョウ を もって こさせて カガミ を かさねて のぞいて みる と やはり だいじょうぶ だった。
 ある ヒ は ニワ の スミ に せっした ムラ の おおきな クヌギ の キ へ たくさん ワタリドリ が やって きて いる コエ が した。
「あれ は いったい ナン やろ」
 ヨシダ の ハハオヤ は それ を みつけて ガラス ショウジ の ところ へ でて ゆきながら、 そんな ヒトリゴト の よう な ヨシダ に きかす よう な こと を いう の だった が、 カンシャク を おこす の に なれつづけた ヨシダ は、 「カッテ に しろ」 と いう よう な キモチ で わざと だまりつづけて いる の だった。 しかし ヨシダ が そう おもって だまって いる と いう の は ヨシダ に して みれば いい ほう で、 もし これ が キモチ の よく ない とき だったら ジブン の その チンモク が くるしく なって、 (いったい そんな こと を きく よう な きかない よう な こと を いって ジブン が それ を ながめる こと が できる と おもって いる の か) と いう よう な こと から はじまって、 ハハオヤ が ジブン の そんな イシ を ヒテイ すれば、 (いくら そんな こと を いって も ぼんやり ジブン が そう おもって いった と いう こと に ジブン が キ が つかない だけ の ハナシ で、 いつも そんな ぼんやり した こと を いったり したり する から ムリ に でも ジブン が カガミ と ボウエンキョウ と を もって それ を ながめなければ ならない よう な ギム を かんじたり して くるしく なる の じゃ ない か) と いう ふう に ハハオヤ を せめたてて ゆく の だった が、 ヨシダ は ジブン の キモチ が そういう アサ で さっぱり して いる ので、 だまって その コエ を きいて いる こと が できる の だった。 すると ハハオヤ は ヨシダ が そんな こと を かんがえて いる と いう こと には キ が つかず に また こんな こと を いう の だった。
「なんやら ひよひよ した トリ やわ」
「そんなら ヒヨ です やろう かい」
 ヨシダ は ハハオヤ が それ を ヒヨドリ に きめたがって そんな ケイヨウシ を つかう の だ と いう こと が たいてい わかる よう な キ が する ので そんな ヘンジ を した の だった が、 しばらく する と ハハオヤ は また ヨシダ が そんな こと を おもって いる とは キ が つかず に、
「なんやら ケ が むくむく して いる わ」
 ヨシダ は もう カンシャク を おこす より も ハハオヤ の おもって いる こと が いかにも コッケイ に なって きた ので、
「そんなら ムク です やろう かい」
 と いって ヒトリ で わらいたく なって くる の だった。
 そんな ある ヒ ヨシダ は オオサカ で ラジオ-ヤ の ミセ を ひらいて いる スエ の オトウト の ミマイ を うけた。
 その オトウト の いる イエ と いう の は その ナン-カゲツ か マエ まで ヨシダ や ヨシダ の ハハ や オトウト や の イッショ に すんで いた イエ で あった。 そして それ は その 5~6 ネン も マエ ヨシダ の チチ が その ガッコウ へ ゆかない ヨシダ の スエ の オトウト に ナニ か テ に あった ショウバイ を させる ため に、 そして ジブン たち も その ムスコ を しあげながら ロウゴ の セイカツ を して ゆく ため に かった コマモノミセ で、 ヨシダ の オトウト は その ミセ の ハンブン を ジブン の ショウバイ に する つもり の ラジオ-ヤ に つくりかえ、 コマモノヤ の ほう は ヨシダ の ハハオヤ が みながら ずっと くらして きた の で あった。 それ は オオサカ の マチ が ミナミ へ ミナミ へ のびて ゆこう と して 10 ナンネン か マエ まで は まだ くさぶかい イナカ で あった トチ を どんどん ジュウタク や ガッコウ、 ビョウイン など の チタイ に して しまい、 その アイダ へは また オオク は そこ の ジモト の ヒャクショウ で あった ジヌシ たち の たてた ちいさな ナガヤ が たくさん できて、 ノハラ の ナゴリ が トシゴト に その カゲ を けして ゆきつつ ある と いう フウ の マチ なの で あった。 ヨシダ の オトウト の ミセ の ある ところ は その アイダ でも ヒカクテキ はやく から できて いた トオリスジ で リョウガワ は そんな マチ-らしい、 いろんな もの を あきなう ミセ が たちならんで いた。
 ヨシダ は トウキョウ から ビョウキ が わるく なって その イエ へ かえって きた の が 2 ネン あまり マエ で あった。 ヨシダ の かえって きた ヨクネン ヨシダ の チチ は その イエ で しんで、 しばらく して ヨシダ の オトウト も ヘイタイ に いって いた の から かえって きて いよいよ おちついて ショウバイ を やって ゆく こと に なり ヨメ を もらった。 そして それ を キカイ に ひとまず ヨシダ も ヨシダ の ハハ も オトウト も、 それまで ホカ で イエ を もって いた ヨシダ の アニ の イエ の セワ に なる こと に なり、 その アニ が それまで すんで いた マチ から すこし はなれた イナカ に、 ビョウニン を すます に ツゴウ の いい ハナレ の ある いい イエ が みつかった ので そこ へ ひっこした の が まだ 3 カゲツ ほど マエ で あった。
 ヨシダ の オトウト は ビョウシツ で ハハオヤ を アイテ に しばらく アタリサワリ の ない ジブン の イエ の ハナシ など を して いた が やがて かえって いった。 しばらく して それ を おくって いった ハハ が ヘヤ へ かえって きて、 また しばらく して の アト で、 ハハ は とつぜん、
「あの アラモノヤ の ムスメ が しんだ と」
 と いって ヨシダ に はなしかけた。
「ふうむ」
 ヨシダ は そう いった なり オトウト が その ハナシ を この ヘヤ では しない で おくって いった ハハ と オモヤ の ほう で した と いう こと を かんがえて いた が、 やはり オトウト の メ には この ジブン が そんな ハナシ も できない ビョウニン に みえた か と おもう と、 「そう かなあ」 と いう ふう にも かんがえて、
「なんで あれ も そんな ハナシ を あっち の ヘヤ で したり する ん です やろ なあ」
 と いう ふう な こと を いって いた が、
「そりゃ オマエ が びっくり する と おもうて さ」
 そう いいながら ハハ は ジブン が それ を いった こと は べつに イ に かいして ない らしい ので ヨシダ は すぐに も 「それじゃ アンタ は?」 と ききかえしたく なる の だった が、 イマ は そんな こと を いう キ にも ならず ヨシダ は じっと その ムスメ の しんだ と いう こと を かんがえて いた。
 ヨシダ は イゼン から その ムスメ が ハイ が わるくて ねて いる と いう こと は きいて しって いた。 その アラモノヤ と いう の は ヨシダ の オトウト の イエ から ツジ を ヒトツ こした 2~3 ゲン サキ の くすんだ カンジ の ミセ だった。 ヨシダ は その ミセ に そんな ムスメ が すわって いた こと は いくら いわれて も おもいだせなかった が、 その イエ の オバアサン と いう の は いつも キンジョ へ であるいて いる ので よく みて しって いた。 ヨシダ は その オバアサン から は いつも すこし ヒト の よすぎる やや はらだたしい インショウ を うけて いた の で ある が、 それ は その オバアサン が またしても ヘン な ワライガオ を しながら キンジョ の オカミサン たち と オシャベリ を し に でて いって は、 ナブリモノ に されて いる―― そんな バメン を たびたび みた から だった。 しかし それ は ヨシダ の オモイスギ で、 それ は その オバアサン が ツンボ で ヒト に テマネ を して もらわない と ハナシ が つうじず、 しかも ジブン は ハナ の つぶれた コエ で モノ を いう ので いっそう ヒト に ケイベツテキ な インショウ を あたえる から で、 それ は たしょう ヒトビト には ケイベツ されて は いて も、 オモシロ-ハンブン に でも テマネ で はなして くれる ヒト が あり、 ハナ の つぶれた コエ でも その ハナシ を きいて くれる ヒト が あって こそ、 その オバアサン も なんの キガネ も なし に キンジョ ナカマ の ナカマイリ が できる ので、 それ が カザリ も なにも ない こうした マチ の セイカツ の シンジツ なん だ と いう こと は イロイロ な こと を しって みて はじめて ヨシダ にも エトク の ゆく こと なの だった。
 そんな ふう で はじめ ヨシダ には その ムスメ の こと より も オバアサン の こと が その アラモノヤ に ついて の チシキ を しめて いた の で ある が、 だんだん その ムスメ の こと が ジブン の こと にも カンレン して チュウイ されて きた の は だいぶん その ムスメ の ヨウダイ も わるく なって きて から で あった。 キンジョ の ヒト の ハナシ では その アラモノヤ の オヤジサン と いう の が ヒジョウ に ケチ で、 その ムスメ を イシャ にも かけて やらなければ クスリ も かって やらない と いう こと で あった。 そして ただ その ムスメ の ハハオヤ で ある サッキ の オバアサン だけ が その ムスメ の セワ を して いて、 ムスメ は 2 カイ の ヒトマ に ネタキリ、 その オヤジサン も ムスコ も そして まだ きて マ の ない その ムスコ の ヨメ も ダレ も その ビョウニン には よりつかない よう に して いる と いう こと を いって いた。 そして ヨシダ は ある とき その ムスメ が マイニチ ショクゴ に メダカ を 5 ヒキ ずつ のんで いる と いう ハナシ を きいた とき は 「どうして また そんな もの を」 と いう キモチ が して にわか に その ムスメ を ココロ に とめる よう に なった の だ が、 しかし それ は ヨシダ に とって まだまだ とおい ヒトゴト の キモチ なの で あった。
 ところが ソノゴ しばらく して そこ の ヨメ が ヨシダ の イエ へ カケトリ に きた とき、 ウチ の モノ と ハナシ を して いる の を ヨシダ が こちら の ヘヤ の ナカ で きいて いる と、 その メダカ を のむ よう に なって から ビョウニン が グアイ が いい と いって いる と いう こと や、 オヤジサン が トオカ に イチド ぐらい それ を ノハラ の ほう へ とり に ゆく と いう ハナシ など を して から サイゴ に、
「ウチ の アミ は いつでも あいて ます よって、 オウチ の ビョウニン さん にも ちっと とって きて のまして あげはったら どう です」
 と いう よう な ハナシ に なって きた ので ヨシダ は イチジ に ロウバイ して しまった。 ヨシダ は ナニ より も ジブン の ビョウキ が そんな にも おおっぴら に はなされる ほど ヒトビト に しられて いる の か と おもう と いまさら の よう に おどろかない では いられない の だった が、 しかし かんがえて みれば もちろん それ は ムリ の ない ハナシ で、 いまさら それ に おどろく と いう の は やはり ジブン が ふだん ジブン に ついて ムシ の いい ソウゾウ を して いる ん だ と いう こと を ヨシダ は おもいしらなければ ならなかった の だった。 だが ヨシダ に とって また なまなましかった の は その メダカ を ジブン にも のましたら と いわれた こと だった。 アト で それ を ウチ の モノ が わらって はなした とき、 ヨシダ は ウチ の モノ にも やはり そんな キ が ある の じゃ ない か と おもって、 もう ちょっと その サカナ を おおきく して やる ヒツヨウ が ある と いって ニクマレグチ を たたいた の だ が、 ヨシダ は そんな もの を のみながら だんだん シキ に ちかづいて ゆく ムスメ の こと を ソウゾウ する と たまらない よう な ユウウツ な キモチ に なる の だった。 そして その ムスメ の こと に ついて は それきり で ヨシダ は こちら の イナカ の ジュウキョ の ほう へ きて しまった の だった が、 それから しばらく して ヨシダ の ハハ が オトウト の イエ へ いって きた とき の ハナシ に、 ヨシダ は とつぜん その ムスメ の ハハオヤ が しんで しまった こと を きいた。 それ は その オバアサン が ある ヒ アガリガマチ から ザシキ の ナガヒバチ の ほう へ あがって ゆきかけた まま ノウイッケツ か ナニ か で しんで しまった と いう ので ヒジョウ に あっけない ハナシ で あった が、 ヨシダ の ハハオヤ は あの オバアサン に しなれて は あの ムスメ も イッペン に キ を おとして しまった だろう と その こと ばかり を シンパイ した。 そして その オバアサン が ふだん あんな に みえて いて も、 その ムスメ を オヤジサン には ナイショ で シミン ビョウイン へ つれて いったり、 また ムスメ が ネタキリ に なって から は ひそか に クスリ を もらい に いって やったり した こと が ある と いう こと を、 ある とき その オバアサン が グチバナシ に ヨシダ の ハハオヤ を つかまえて はなした こと が ある と いって、 やはり ハハオヤ は ハハオヤ だ と いう こと を いう の だった。 ヨシダ は その ハナシ には ヒジョウ に しみじみ と した もの を かんじて フダン の オバアサン に たいする カンガエ も すっかり かわって しまった の で ある が、 ヨシダ の ハハオヤ は また キンジョ の ヒト の ハナシ だ と いって、 その オバアサン の しんだ アト は レイ の オヤジサン が オバアサン に かわって ムスメ の メンドウ を みて やって いる こと、 それ が どんな グアイ に いって いる の か しらない が、 その オヤジサン が キンジョ へ きて の ハナシ に 「しんだ バアサン は なにひとつ ヤク に たたん バアサン やった が、 よう まあ あの 2 カイ の アガリオリ を 1 ニチ に 30 ナンベン も やった もん や と おもうて それ だけ は カンシン する」 と いって いた と いう こと を ヨシダ に はなして きかせた の だった。
 そして そこ まで が ヨシダ が サイキン まで に きいて いた ムスメ の ショウソク だった の だ が、 ヨシダ は そんな こと を みな おもいだしながら、 その ムスメ の しんで いった さびしい キモチ など を おもいやって いる うち に、 しらずしらず の アイダ に すっかり ジブン の キモチ が たよりない ヘン な キモチ に なって しまって いる の を かんじた。 ヨシダ は ジブン が あかるい ビョウシツ の ナカ に い、 そこ には ジブン の ハハオヤ も いながら、 なぜか ジブン だけ が ふかい ところ へ おちこんで しまって、 そこ へは でて ゆかれない よう な キモチ に なって しまった。
「やっぱり びっくり しました」
 それから しばらく たって ヨシダ は やっと ハハオヤ に そう いった の で ある が ハハオヤ は、
「そう やろ がな」
 かえって ヨシダ に それ を ナットク さす よう な クチョウ で そう いった なり、 べつに ジブン が それ を いった こと に ついて は なにも かんじない らしく、 また いろいろ その ムスメ の ハナシ を しながら サイゴ に、
「あの ムスメ は やっぱり あの オバアサン が いきて いて やらん こと には、 ――あの オバアサン が しんで から まだ フタツキ にも ならん でなあ」 と たんじて みせる の だった。

 3

 ヨシダ は その ムスメ の ハナシ から イロイロ な こと を おもいだして いた。 ダイイチ に ヨシダ が きづく の は ヨシダ が その マチ から こちら の イナカ へ きて まだ ナン-カゲツ にも ならない のに、 その アイダ に うけとった その マチ の ヒト の ダレ か の しんだ と いう タヨリ の おおい こと だった。 ヨシダ の ハハ は ツキ に 1 ド か 2 ド そこ へ いって くる たび に かならず そんな ハナシ を もって かえった。 そして それ は たいてい ハイビョウ で しんだ ヒト の ハナシ なの だった。 そして その ハナシ を きいて いる と それら の ヒトタチ の ビョウキ に かかって しんで いった まで の キカン は ヒジョウ に みじかかった。 ある ガッコウ の センセイ の ムスメ は ハントシ ほど の アイダ に しんで しまって イマ は また その ムスコ が ねついて しまって いた。 トオリスジ の ケイト ザッカヤ の シュジン は コノアイダ まで ミセ へ すえた ケイト の オリキ で イチニチジュウ ケイト を おって いた が、 キュウ に しんで しまって、 カゾク が すぐ ミセ を たたんで クニ へ かえって しまった その アト は じき カフェー に なって しまった。――
 そして ヨシダ は ジブン は イマ は こんな イナカ に いて たまに そんな こと を きく から、 いかにも それ を ケンチョ に かんずる が、 ジブン が いた 2 ネン-カン と いう アイダ も やはり それ と おなじ よう に、 そんな ハナシ が じつに かずしれず おこって は きえて いた ん だ と いう こと を おもわざる を えない の だった。
 ヨシダ は 2 ネン ほど マエ ビョウキ が わるく なって トウキョウ の ガクセイ セイカツ の エンチョウ から その マチ へ かえって きた の で ある が、 ヨシダ に とって は それ は ほとんど はじめて の イシキ して セケン と いう もの を みる セイカツ だった。 しかし そう は いって も ヨシダ は、 いつも イエ の ナカ に ひっこんで いて、 そんな チシキ と いう もの は たいてい ウチ の モノ の クチ を つうじて ヨシダ に はいって くる の だった が、 ヨシダ は サッキ の アラモノヤ の ムスメ の メダカ の よう に ジブン に すすめられた ハイビョウ の クスリ と いう もの を つうじて みて も、 そういう セケン が この ビョウキ と たたかって いる タタカイ の アンコクサ を しる こと が できる の だった。
 サイショ それ は まだ ヨシダ が ガクセイ だった コロ、 この イエ へ キュウカ に かえって きた とき の こと だった。 かえって きて そうそう ヨシダ は ジブン の ハハオヤ から ニンゲン の ノウミソ の クロヤキ を のんで みない か と いわれて ヒジョウ に いや な キモチ に なった こと が あった。 ヨシダ は ハハオヤ が それ を おずおず でも ない イッシュ ヘン な クチョウ で いいだした とき、 いったい それ が ホンキ なの か どう なの か、 ナンド も ハハオヤ の カオ を みかえす ほど ミョウ な キモチ に なった。 それ は ヨシダ が ジブン の ハハオヤ が これまで めった に そんな こと を いう ニンゲン では なかった こと を しんじて いた から で、 その ハハオヤ が イマ そんな こと を いいだして いる か と おもう と なんとなく ミョウ な たよりない よう な キモチ に なって くる の だった。 そして ハハオヤ が それ を すすめた ニンゲン から すでに すこし ばかり それ を もらって もって いる の だ と いう こと を きかされた とき ヨシダ は まったく いや な キモチ に なって しまった。
 ハハオヤ の ハナシ に よる と それ は アオモノ を うり に くる オンナ が あって、 その オンナ と いろいろ ハナシ を して いる うち に その ハイビョウ の トッコウヤク の ハナシ を その オンナ が はじめた と いう の だった。 その オンナ には ハイビョウ の オトウト が あって それ が しんで しまった。 そして それ を ムラ の ヤキバ で やいた とき、 テラ の オショウ さん が ついて いて、
「ニンゲン の ノウミソ の クロヤキ は この ビョウキ の クスリ だ から、 アナタ も ヒトダスケ だ から この クロヤキ を もって いて、 もし この ビョウキ で わるい ヒト に あったら わけて あげなさい」
 そう いって ジブン で それ を とりだして くれた と いう の で あった。 ヨシダ は その ハナシ の ナカ から、 もう なんの テアテ も できず に しんで しまった その オンナ の オトウト、 それ を ほうむろう と して ヤキバ に たって いる アネ、 そして オショウ と いって も なんだか たよりない オトコ が そんな こと を いって やけのこった ホネ を つついて いる ヤキバ の ジョウケイ を おもいうかべる こと が できる の だった が、 その オンナ が その コトバ を しんじて ホカ の モノ では ない ジブン の オトウト の ノウミソ の クロヤキ を いつまでも ミヂカ に もって いて、 そして それ を この ビョウキ で わるい ヒト に あえば くれて やろう と いう キモチ には、 なにかしら たえがたい もの を ヨシダ は かんじない では いられない の だった。 そして そんな もの を もらって しまって、 たいてい ジブン が のまない の は わかって いる のに、 その アト を いったい どう する つもり なん だ と、 ヨシダ は ハハオヤ の した こと が トリカエシ の つかない いや な こと に おもわれる の だった が、 ソバ に きいて いた ヨシダ の スエ の オトウト も、
「オカアサン、 もう コンド から そんな こと いう のん いや でっせ」
 と いった ので なんだか ジケン が コッケイ に なって きて、 それ は ソノママ に ケリ が ついて しまった の だった。
 この マチ へ かえって きて しばらく して から ヨシダ は また クビククリ の ナワ を 「まあ バカ な こと や と おもうて」 のんで みない か と いわれた。 それ を すすめた ニンゲン は ヤマト で ヌシヤ を して いる オトコ で その ナワ を どうして テ に いれた か と いう ハナシ を ヨシダ に して きかせた。
 それ は その マチ に ヒトリ の ヤモメ の ハイビョウ カンジャ が あって、 その オトコ は ビョウキ が おもった まま ほとんど テアテ を する ヒト も なく、 1 ケン の アバラヤ に すておかれて あった の で ある が、 とうとう サイキン に なって クビ を くくって しんで しまった。 すると そんな オトコ に でも いろんな シャッキン が あって、 しんだ と なる と いろんな サイケンシャ が やって きた の で ある が、 その オトコ に イエ を かして いた オオヤ が そんな ニンゲン を あつめて その バ で その オトコ の もって いた もの を キョウバイ に して アトシマツ を つける こと に なった。 ところが その シナモノ の ナカ で もっとも たかい ネ が でた の は その オトコ が クビ を くくった ナワ で、 それ が 1 スン 2 スン と いう ふう に して カイテ が ついて、 オオヤ は その カネ で その オトコ の カンタン な ソウシキ を して やった ばかり で なく ジブン の ところ の とどこおって いた ヤチン も みな とって しまった と いう ハナシ で あった。
 ヨシダ は そんな ハナシ を きく に つけて も、 そういう メイシン を しんじる ニンゲン の ムチ に バカバカシサ を かんじない わけ に ゆかなかった けれども、 かんがえて みれば ニンゲン の ムチ と いう の は みな テイド の サ で、 そう おもって バカバカシサ の カンジ を とりのぞいて しまえば、 アト に のこる の は それら の ニンゲン の かんじて いる ハイビョウ に たいする シュダン の ゼツボウ と、 ビョウニン たち の なんと して でも ジブン の よく なりつつ ある と いう アンジ を えたい と いう フタツ の コトガラ なの で あった。
 また ヨシダ は その マエ の トシ ハハオヤ が おもい ビョウキ に かかって ニュウイン した とき イッショ に その ビョウイン へ ついて いって いた こと が あった。 その とき ヨシダ が その ビョウシャ の ショクドウ で、 なにごころなく ショクジ した アト ぼんやり と マド に うつる フウケイ を ながめて いる と、 いきなり その メノマエ へ カオ を ちかづけて、 ヒジョウ に おしころした ちからづよい コエ で、
「シンゾウ へ きました か?」
 と ミミウチ を した オンナ が あった。 はっと して ヨシダ が その オンナ の カオ を みる と、 それ は その ビョウシャ の カンジャ の ツキソイ に やとわれて いる ツキソイフ の ヒトリ で、 もちろん そんな ツキソイフ の カオブレ にも マイニチ の よう に ヘンカ は あった が、 その オンナ は その コロ ロアクテキ な ジョウダン を いって は ショクドウ へ あつまって くる ホカ の ツキソイフ たち を ぎゅうじって いた チュウバアサン なの だった。
 ヨシダ は そう いわれて なんの こと か わからず に しばらく アイテ の カオ を みて いた が、 すぐに 「ああ なるほど」 と キ の ついた こと が あった。 それ は ジブン が その ニワ の ほう を ながめはじめた マエ に、 ジブン が セキ を した と いう こと なの だった。 そして その オンナ は ジブン が セキ を して から ニワ の ほう を むいた の を カンチガイ して、 てっきり これ は 「シンゾウ へ きた」 と おもって しまった の だ と ヨシダ は さとる こと が できた。 そして セキ が フイ に シンゾウ の ドウキ を たかめる こと が ある の は ヨシダ も ジブン の ケイケン で しって いた。 それで ナットク の いった ヨシダ は はじめて そう では ない ムネ を ヘンジ する と、 その オンナ は その ヘンジ には イサイ かまわず に、
「その ビョウキ に きく ええ クスリ を おしえたげまひょ か」
 と、 また おびやかす よう に ちからづよい コエ で じっと ヨシダ の カオ を のぞきこんだ の だった。 ヨシダ は イチ にも ニ にも ジブン が 「その ビョウキ」 に みこまれて いる の が フユカイ では あった が、
「いったい どんな クスリ です?」
 と すなお に ききかえして みる こと に した。 すると その オンナ は また こんな こと を いって ヨシダ を ヘイコウ させて しまう の だった。
「それ は イマ ここ で おしえて も この ビョウイン では できまへん で」
 そして そんな ものものしい ダメ を おしながら その オンナ の はなした クスリ と いう の は、 スヤキ の ドビン へ ネズミ の コ を とって きて いれて それ を クロヤキ に した もの で、 それ を いくらか ずつ か ごく すくない ブンリョウ を のんで いる と、 「1 ピキ くわん うち に」 なおる と いう の で あった。 そして その 「1 ピキ くわん うち に」 と いう ヒョウゲン で また その バアサン は こわい カオ を して ヨシダ を にらんで みせる の だった。 ヨシダ は それ で すっかり その バアサン に ぎゅうじられて しまった の で ある が、 その オンナ の ジブン の セキ に ビンカン で あった こと や、 そんな クスリ の こと など を おもいあわせて みる と、 ヨシダ は その オンナ は ツキソイフ と いう ショウバイガラ では ある が、 きっと その オンナ の ちかい ニクシン に その ビョウキ の モノ を もって いた の に ちがいない と いう こと を ソウゾウ する こと が できる の で あった。 そして ヨシダ が ビョウイン へ きて イライ もっとも しみじみ した インショウ を うけて いた もの は この ツキソイフ と いう さびしい オンナ たち の ムレ の こと で あって、 それら の ヒトタチ は ミナ たんなる セイカツ の ヒツヨウ と いう だけ では なし に、 オット に しにわかれた とか トシ が よって ヤシナイテ が ない とか、 どこ か に そうした ジンセイ の フコウ を ラクイン されて いる ヒトタチ で ある こと を ヨシダ は カンサツ して いた の で ある が、 あるいは この オンナ も そうした ニクシン を その ビョウキ で、 なくする こと に よって、 イマ こんな に して ツキソイフ など を やって いる の では あるまい か と いう こと を、 ヨシダ は その とき ふと かんじた の だった。
 ヨシダ は ビョウキ の ため に たまに こうした キカイ に しか ちょくせつ セケン に ふれる こと が なかった の で ある が、 そして その ふれた セケン と いう の は ミナ ヨシダ が ハイビョウ カンジャ だ と いう こと を みやぶって ちかづいて きた セケン なの で ある が、 ビョウイン に いる ヒトツキ ほど の アイダ に また ベツ な こと に ぶつかった。
 それ は ある ヒ ヨシダ が ビョウイン の チカク の イチバ へ ビョウニン の カイモノ に でかけた とき の こと だった。 ヨシダ が その イチバ で ヨウジ を たして かえって くる と オウライ に ヒトリ の オンナ が たって いて、 その オンナ が まじまじ と ヨシダ の カオ を みながら ちかづいて きて、
「もしもし、 アナタ シツレイ です が……」
 と ヨシダ に よびかけた の だった。 ヨシダ は ナニゴト か と おもって、
「?」
 と その オンナ を みかえした の で ある が、 その とき ヨシダ の かんじて いた こと は たぶん この オンナ は ヒトチガイ でも して いる の だろう と いう こと で、 そういう オウライ の よく ある デキゴト が たいてい コウイテキ な インショウ で モノワカレ に なる よう に、 この とき も ヨシダ は どちら か と いえば コウイテキ な キモチ を ヨウイ しながら その オンナ の いう こと を まった の だった。
「ひょっと して アナタ は ハイ が おわるい の じゃ ありません か」
 いきなり そう いわれた とき には ヨシダ は すくなからず おどろいた。 しかし ヨシダ に とって べつに それ は めずらしい こと では なかった し、 ブシツケ な こと を きく ニンゲン も ある もの だ とは おもいながら も、 その オンナ の イッシン に ヨシダ の カオ を みつめる なんとなく チセイ を かいた カオツキ から、 その コトバ の ツギ に まだ ナニ か ジンセイ の ダイジケン でも とびだす の では ない か と いう キモチ も あって、
「ええ、 わるい こと は わるい です が、 ナニ か……」
 と いう と、 その オンナ は いきなり トメド も なく ツギ の よう な こと を いいだす の だった。 それ は その ビョウキ は イシャ や クスリ では ダメ な こと、 やはり シンシン を しなければ とうてい たすかる もの では ない こと、 そして ジブン も ツレアイ が あった が とうとう その ビョウキ で しんで しまって、 ソノゴ ジブン も おなじ よう に わるかった の で ある が シンシン を はじめて それ で とうとう たすかる こと が できた こと、 だから アナタ も ぜひ シンシン を して、 その ビョウキ を なおせ―― と いう こと を るる と して のべたてる の で あった。 その アイダ ヨシダ は しぜん その ハナシ より も ハナシ を する オンナ の カオ の ほう に ふかい チュウイ を むけない では いられなかった の で ある が、 その オンナ には そういう ヨシダ の カオ が ヒジョウ に ナンカイ に うつる の か サマザマ に ヨシダ の キ を はかって は しかも ヒジョウ に シツヨウ に その ハナシ を つづける の で あった。 そして ヨシダ は その ハナシ が ツギ の よう に かわって いった とき なるほど これ だな と おもった の で ある が、 その オンナ は ジブン が テンリキョウ の キョウカイ を もって いる と いう こと と、 そこ で いろんな ハナシ を したり キトウ を したり する から ぜひ やって きて くれ と いう こと を、 オビ の アイダ から メイシ とも いえない ショザイチ を ゴムバン で すった みすぼらしい カミキレ を とりだしながら、 ヨシダ に すすめはじめる の だった。 ちょうど その とき 1 ダイ の ジドウシャ が きかかって ぶーぶー と ケイテキ を ならした。 ヨシダ は はやく から それ に キ が ついて いて、 はやく この オンナ も この ハナシ を きりあげたら いい こと に と おもって ミチバタ へ よりかけた の で ある が、 オンナ は ジドウシャ の ケイテキ など は ぜんぜん チュウイ に はいらぬ らしく、 かえって ジブン に チュウイ の うすらいで きた ヨシダ の カオイロ に ヤッキ に なりながら その ハナシ を つづける ので、 ジドウシャ は とうとう オウライ で タチオウジョウ を しなければ ならなく なって しまった。 ヨシダ は その ハナシアイテ に つかまって いる の が ジブン なので テイサイ の ワルサ に トホウ に くれながら、 その オンナ を うながして ミチ の カタワキ へ よせた の で あった が、 オンナ は その アイダ も ホカ へ チュウイ を そらさず、 サッキ の 「キョウカイ へ ぜひ きて くれ」 と いう ハナシ を キュウ に また、 「ジブン は イマ から そこ へ かえる の だ から ぜひ イッショ に きて くれ」 と いう ハナシ に すすめかかって いた。 そして ヨシダ が ジブン に ヨウジ の ある こと を いって それ を ことわる と、 では ヨシダ の すんで いる マチ を どこ だ と きいて くる の だった。 ヨシダ は それ に たいして 「だいぶ ミナミ の ほう だ」 と アイマイ に いって、 それ を アイテ に おしえる イシ の ない こと を その オンナ に わからそう と した の で ある が、 すると その オンナ は すかさず 「ミナミ の ほう の どこ、 ×× マチ の ほう か それとも ○○ マチ の ほう か」 と いう ふう に ノッピキ の ならぬ よう に きいて くる ので、 ヨシダ は ジブン の ところ の チョウメイ、 それから その ナン-チョウメ と いう よう な こと まで、 だんだん に いって ゆかなければ ならなく なった。 ヨシダ は そんな オンナ に ちっとも ウソ を いう キモチ は なかった ので、 そこ まで ジブン の ジュウショ を うちあかして きた の だった が、
「ほ、 その 2 チョウメ の? ナン-バンチ?」
 と いよいよ その サイゴ まで おなじ チョウシ で ツイキュウ して きた の を きく と、 ヨシダ は にわか に ぐっと シャク に さわって しまった。 それ は ヨシダ が 「そこ まで いって しまって は また どんな うるさい こと に なる かも しれない」 と いう こと を キュウ に ジカク した の にも よる が、 それ と ドウジ に そこ まで ノッピキ の ならぬ よう に ツイキュウ して くる シツヨウ な オンナ の タイド が キュウ に おもくるしい アッパク を ヨシダ に かんじさせた から だった。 そして ヨシダ は うっかり かっと なって しまって、
「もう それ イジョウ は いわん」
 と きっと アイテ を にらんだ の だった。 オンナ は キュウ に アッケ に とられた カオ を して いた が、 ヨシダ が あわてて また イロ を おさめる の を みる と、 それでは ぜひ ちかぢか キョウカイ へ きて くれ と いって、 さっき ヨシダ が やって きた イチバ の ほう へ あるいて いった。 ヨシダ は、 とにかく オンナ の いう こと は みな きいた アト で おとなしく ことわって やろう と おもって いた ジブン が、 おもわず しらず サイゴ まで おいつめられて、 キュウ に あわてて かっと なった の に ジブン ながら ハンブン は オカシサ を かんじない では いられなかった が、 まだ ヒ の ヒカリ の あたらしい ゴゼン の オウライ で、 ジブン が いかにも ビョウニン-らしい わるい ガンボウ を して あるいて いる と いう こと を おもいしらされた アゲク、 あんな おもくるしい メ を した か と おもう と ハンブン は はらだたしく なりながら、 ビョウシツ へ かえる と そうそう、
「そんな に わるい カオイロ かなあ」
 と、 いきなり カガミ を とりだして カオ を みながら シンダイ の ウエ の ハハ に その テンマツ を うったえた の だった。 すると ヨシダ の ハハオヤ は、
「なんの オマエ ばっかり かいな」
 と いって ジブン も シエイ の コウセツ イチバ へ ゆく ミチ で ナンド も そんな メ に あった こと を はなした ので、 ヨシダ は やっと その ワケ が わかって きはじめた。 それ は そんな キョウカイ が シンジャ を つくる の に ヤッキ に なって いて、 マイアサ そんな オンナ が イチバ とか ビョウイン とか ヒト の たくさん よって ゆく バショ の チカク の ミチ で アミ を はって いて、 カオイロ の わるい よう な ジンブツ を ブッショク して は ヨシダ に やった の と おなじ よう な シュダン で なんとか して キョウカイ へ ひっぱって ゆこう と して いる の だ と いう こと だった。 ヨシダ は なあん だ と いう キ が した と ドウジ に ジブン ら の おもって いる より は はるか に ゲンジツテキ な そして イッショウ ケンメイ な ヨノナカ と いう もの を かんじた の だった。

 ヨシダ は ふだん よく おもいだす ある トウケイ の スウジ が あった。 それ は ハイケッカク で しんだ ニンゲン の ヒャクブンリツ で、 その トウケイ に よる と ハイケッカク で しんだ ニンゲン 100 ニン に ついて その ウチ の 90 ニン イジョウ は ゴクヒンシャ、 ジョウリュウ カイキュウ の ニンゲン は その ウチ の ヒトリ には まだ たりない と いう トウケイ で あった。 もちろん これ は たんに 「ハイケッカク に よって しんだ ニンゲン」 の トウケイ で ハイケッカク に たいする ゴクヒンシャ の シボウリツ や ジョウリュウ カイキュウ の モノ の シボウリツ と いう よう な もの を イミ して いない ので、 また ゴクヒンシャ と いったり ジョウリュウ カイキュウ と いったり して いる の も、 それ が どの くらい の テイド まで を さして いる の か は わからない の で ある が、 しかし それ は ヨシダ に ツギ の よう な こと を ソウゾウ せしめる には ジュウブン で あった。
 つまり それ は、 イマ ヒジョウ に オオク の ハイケッカク カンジャ が しにいそぎつつ ある。 そして その ナカ で ニンゲン の のぞみうる もっとも ゆきとどいた テアテ を うけて いる ニンゲン は 100 ニン に ヒトリ も ない くらい で、 その ウチ の 90 ナンニン か は ほとんど クスリ-らしい クスリ も のまず に しにいそいで いる と いう こと で あった。
 ヨシダ は これまで この トウケイ から は たんに そういう よう な こと を チュウショウ して、 それ を ジブン の ケイケン した そういう こと に あてはめて かんがえて いた の で ある が、 アラモノヤ の ムスメ の しんだ こと を かんがえ、 また ジブン の この ナン-シュウカン か の アイダ うけた クルシミ を かんがえる とき、 ばくぜん と また こういう こと を かんがえない では いられなかった。 それ は その トウケイ の ナカ の 90 ナンニン と いう ニンゲン を かんがえて みれば、 その ナカ には オンナ も あれば オトコ も あり コドモ も あれば トシヨリ も いる に ちがいない。 そして ジブン の フニョイ や ビョウキ の クルシミ に ちからづよく たえて ゆく こと の できる ニンゲン も あれば、 その いずれ にも たえる こと の できない ニンゲン も ずいぶん おおい に ちがいない。 しかし ビョウキ と いう もの は けっして ガッコウ の コウグン の よう に よわい それ に たえる こと の できない ニンゲン を その コウグン から ジョガイ して くれる もの では なく、 サイゴ の シ の ゴール へ ゆく まで は どんな ゴウケツ でも ヨワムシ でも ミンナ ドウレツ に ならばして イヤオウ なし に ひきずって ゆく―― と いう こと で あった。
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