カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

タデ くう ムシ 8

2020-02-04 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 12

「じゃあ カナメ さん、 いって くる から ね」
「ごきげん よろしゅう。 まあ、 まあ、 ホント に、 オテンキ の つづく の が ナニ より です。 ………オヒサ さん も ヒ に やけない よう に して、………」
「ふ、 ふ」
 と、 カサ の ウチ で ナスビバ が わらって、
「オクサン に よろしゅう いうと おくれやす」
 アサ の 8 ジ-ゴロ、 コウベ-ユキ の フネ が キャク を のせて いる サンバシ の ところ で、 カナメ は フタリ の ジュンレイ スガタ と タモト を わかつ こと に なった。
「どうぞ オキ を おつけ なすって。 ―――イツゴロ オタク へ おかえり に なります?」
「さあ、 ―――サンジュウサン カショ を のこらず まわっちゃあ タイヘン なんで、 イイカゲン に する つもり だ が、 ―――とにかく フクラ から トクシマ へ わたって、 それから かえります」
「オミヤゲ は アワジ ニンギョウ です な」
「うん、 そう。 その うち に ぜひ キョウト へ み に きて もらいましょう、 コンド こそ いい の を テ に いれる から」
「ええ、 ええ、 いずれ に して も ゲツマツ ジブン に イッペン オジャマ に でる かも しれません、 ちょっと あの ヘン に ツイデ も ある ん です」
 キシ を はなれて ゆく フネ の ウエ から、 カナメ は オカ に たって いる フタリ の ほう へ ボウシ を ふった。
  メイコ サンガイジョウ
  ゴコ ジッポウクウ
  ホンライ ムトウザイ
  カショ ウナンボク
 ―――カサ の シホウ に そう フデブト に しるして ある モジ が、 だんだん ちいさく よめない よう に なる。 オヒサ が しきり に ツエ を かざして ボウシ に こたえて いる の が みえる。 ああして カサ を かぶった スガタ を トオク から ながめた ところ では、 30 イジョウ トシ が ちがって も それこそ 「ほんらい トウザイ なし」 で、 いい メオトヅレ の ジュンレイ の よう では ない か。 ―――カナメ は そんな こと を かんがえながら、 やがて かすか な スズ の ネ を アト に たちさって ゆく フタリ の ウシロカゲ を みおくって いた。 「はるばる と はこぶ アユミ は たのもし や ノリ の ハナ さく テラ を たずねて」 と、 ユウベ ヤド の アルジ を シショウ に、 フタリ が イッショウ ケンメイ に ケイコ して いた ゴエイカ の モンク が おもいだされた。 ロウジン は キノウ、 これ と オキョウ の ヨミカタ と を ならう ため に おしい ところ で イモセヤマ の シバイ を きりあげて、 9 ジ から 12 ジ ちかく まで ネッシン に おそわって いた ので、 カナメ も オツキアイ に フシ を おぼえて しまった の で ある。 カレ には その ウタ の フシマワシ と、 シロハブタエ の テッコウ に おなじ キャハン を はいて、 アガリガマチ で バントウ に ゾウリ の ヒモ を むすんで もらって いた オヒサ の ケサ の イデタチ と が、 かわるがわる ココロ に うかんだ。 サイショ は ほんの ヒトバン の つもり で ついて きた の が、 フタバン に なり ミバン に なった の は、 ニンギョウ シバイ が おもしろかった から では ある が、 かたがた ロウジン と オヒサ の カンケイ に キョウミ を かんじた せい でも ある。 トシ を とる と、 なまじ リクツ が わかったり シンケイ が はたらいたり する よう な オンナ は、 うるさくて いや に なる の で あろう。 やはり ニンギョウ を あいする よう に カンタン に あいしえられる オンナ が いい の で あろう。 カナメ は ジブン に その マネ が できよう とは おもわない ながら、 なんの かの と モノ の わかった カオ を して ネンジュウ ゴタゴタ を つづけて いる ジブン の カテイ を かえりみる と、 ニンギョウ の よう な オンナ を つれて、 ニンギョウ シバイ の よう な フンソウ で、 わざわざ アワジ まで ふるい ニンギョウ を さがし に くる ロウジン の セイカツ に おのずから なる アンラクキョウ の ある こと が かんぜられて、 あんな ココロモチ に なれたらば とも おもう の で あった。
 キョウ も モウシブン の ない テンキ では ある が、 こんな ジブン に ユサン に でかける ヒマジン は あまり いない と みえて、 ユウランセン-フウ に ゆっくり と したてて ある トクトウ の キャクシツ は、 2 カイ の セイヨウマ の ほう も シタ の ニホンマ の ほう も がらん と して いる。 カナメ は テサゲカバン に もたれて タタミ に リョウアシ を なげだしながら、 ウミ の ヒカリ が ヒトケ の ない テンジョウ へ ぎらぎら ハモン を はしらせる の を ながめて いた が、 セトウチ の ハル の ナゴヤカサ は その うすあかるい センシツ に あおく うつって、 ときどき とおりすぎる シマカゲ から、 ハナ の ニオイ が シオ の カオリ と ともに しのびやか に おそって くる よう で ある。 オシャレ と たびなれない の と で 1 ニチ フツカ の リョコウ にも キガエ を ヨウイ して でた カレ は、 カエリ は ワフク で とおして いた の を、 ふと ある こと を おもいついて ダレ も いない の を サイワイ に いそいで グレイ フランネル の セビロ に きかえた。 そして、 それから ナン-ジカン か を すごした アト に アタマ の ウエ で がらがら イカリ を まきあげる オト が きこえる まで、 うとうと ねむりとおして しまった。
 フネ が ヒョウゴ の シマガミ へ ついた の は まだ ヒルマエ の 11 ジ-ゴロ で あった が、 カナメ は まっすぐ イエ へは かえらず に、 オリエンタル ホテル の ショクドウ で サン、 ヨッカ-ぶり に あぶらっこい もの を チュウショク に とり、 ショクゴ に ベネディクティン の 1 パイ を 20 プン も かかって ゆっくり と のんで から、 その あさい ヨイ の さめきれぬ うち に ヤマテ の ミセス ブレント の イエ の マエ で クルマ を おりて、 もって いた コウモリガサ の ニギリ の ハシ で モン の ヨビリン の ボタン を おした。
「いらっしゃいまし、 この カバン は?―――」
「イマ フネ から あがった ん だ」
「どちら へ?」
「2~3 ニチ アワジ へ いって きた。 ―――いる かい、 ルイズ は?」
「まだ ねてる かも しれません よ」
「オカミサン は?」
「おります、 あすこ に。―――」
 ボーイ の ゆびさす ロウカ の ツキアタリ の、 ウラニワ へ おりる カイダン の ところ に、 こっち へ セナカ を むけた まま ミセス ブレント は こしかけて いた。 イツモ は コエ を ききつける と、 23~24 カン は ありそう な ふとった カラダ を もてあつかいながら、 ずしり ずしり 2 カイ を おりて きて、 オアイソ の ヒトツ も いう の で ある のに、 キョウ は どうした の か ふりむき も しない で ニワ を みて いる。 カイコウ トウジ に たてられた か と おもわれる、 テンジョウ の たかい、 ひっそり と くらい、 マドリ の ゆったり した イエ で、 ムカシ は リッパ な ヨウカン だった の に ちがいない の が、 ひさしく テイレ を しない まま に バケモノ ヤシキ の よう に あれて いる けれど、 ロウカ から みる と その ザッソウ の おいしげった ウラニワ にも 5 ガツ の アオバ の アカルサ が みちて、 ギャッコウセン を うけて いる カミサン の ハイイロ の チヂレゲ を、 ヒトスジ フタスジ ギンイロ に すきとおらせて いる。
「どうした ん だい、 オカミサン は? あすこ で ナニ を みてる ん だい?」
「へえ、 キョウ は キゲン が わる ござんして ね、 サッキ から ないて いる ん です よ」
「ないて いる?」
「へえ、 ユウベ クニモト から オトウト が しんだ と いう デンポウ が はいった もん です から、 すっかり チカラ を おとしちまって、 ―――かわいそう に、 キョウ は アサ から すき な サケ も のみゃあ しません。 なんとか いって やって ください」
「こんにちわ」
 と、 カナメ は カノジョ の ウシロ に よって コエ を かけた。
「どうした の? マダム。 オトウト が しんだ と いう じゃ ない か」
 ニワ には ムラサキ の ハナ を つけた おおきな センダン の キ が あって、 その キ の カゲ の じめじめ した ところ に、 ザッソウ と まじって ハッカ が たくさん はえて いた。 ヒツジ の リョウリ を こしらえたり ポンチ-シュ を つくったり する とき に その ハ を つかう の だ から と いって、 はびこる まま に して ある の だ が、 しろい ジョウゼット の ハンケチ を カオ に あてながら だまって ジベタ を みつめて いる カノジョ は、 ハッカ の ニオイ が しみた か の よう に メ の フチ を あかく して いた。
「ねえ、 マダム、 ………たいへん アナタ を キノドク に おもいます」
「ありがとう」
 イクエ か の ふかい シワ に かこまれた、 カワ の たるんだ メ の ナカ から ナミダ が ヒカリ の テンセン に なって きらきら と おちた。 セイヨウ の オンナ は ナキムシ だ と いう こと を きいて いた ものの、 こんな ところ を みる の は はじめて の カナメ は、 かなしい ウタ の シラベ でも ミミ に なれない ガイコク の もの は その カナシサ が イヨウ に つよく かんぜられる の と おなじ よう に、 ミョウ に しみじみ と アワレサ が こたえた。
「オトウト は どこ で しんだ の かね?」
「カナダ で」
「イクツ に なる の?」
「48 か、 9 か、 それとも 50 か、 たぶん その くらい に なって いた でしょう」
「まだ しなない でも いい トシ だ のに。 ―――それじゃ アナタ は カナダ へ いかなけりゃ ならない ん だろう?」
「いいえ、 やめる、 いったって シヨウ が ない ん だ から」
「その オトウト と ナンネン あわなかった ん です」
「もう 20 ネン ばかり に なります、 ―――1909 ネン に、 ロンドン に いた とき あった の が サイゴ でした、 テガミ は しじゅう ヤリトリ を して いました けれど。………」
 オトウト の トシ が 50 だ と する と、 この カミサン は コトシ イクツ に なる の で あろう。 かんがえて みれば カナメ が カノジョ を しって から でも すでに 10 ネン イジョウ に なる。 まだ ヨコハマ が ジシン で イマ の よう に ならなかった ジブン、 カノジョ は ヤマテ と ネギシ と に ヤシキ を かまえて、 いつも リョウホウ に オンナ を 5~6 ニン ずつ は おいて いた。 コウベ の この イエ も その コロ から ベッソウ の よう に なって いた ばかり で なく、 そういう デミセ を シャンハイ や ホンコン アタリ にも もって、 ニホン と シナ と を マタ に かけて ときどき いったり きたり しながら、 ヒトシキリ は かなり てびろく やって いた のに、 それ が いつのまにか、 カノジョ の ニクタイ の おとろえる と ともに ショウバイ の ほう も だんだん ふるわなく なって しまった。 セカイ センソウ から こっち、 ニホン の ガイコク ショウカン は しだいに ナイチ の ボウエキショウ に シゴト を とられて ぽつぽつ ホンゴク へ ひきあげて しまう し、 カンコウキャク にも ムカシ の よう に バカ な オカネ を つかう よう なの が こなく なった の が わるい ん だ と、 トウニン は いう の だ が、 あながち それ ばかり が フシン の ゲンイン では ない で あろう。 カナメ が はじめて しった ジブン には、 カノジョ は イマ ほど モウロク して は いなかった。 ウマレ は イギリス の ヨークシャー で、 なんとか いう ジョガッコウ を でて、 リッパ な キョウイク を うけた と いう の を ジマン に して、 ニホン に 10 ナンネン も いながら どんな とき にも ニホンゴ は ヒトコト も しゃべった こと が なく、 タイガイ な オンナ たち が ショクミンチ エイゴ しか しゃべれない ナカ で カノジョ ヒトリ が セイカク な エイゴ を、 それ も ことさら むずかしい タンゴ や イイマワシ を つかい、 フランス-ゴ も ドイツ-ゴ も リュウチョウ に はなした。 そして さすが に オカミカブ の カンメ も あり、 カッキ も あり、 どこやら に まだ ウバザクラ の イロカ さえ も あって、 セイヨウジン と いう もの は イクツ に なって も わかい もの だ と カンシン させた のに、 その ノチ すこし ずつ キ が よわく なり、 キオクリョク が とぼしく なり、 オンナコドモ にも オシ が きかなく なって から、 キュウ に メ に みえて トシ を とる よう に なった の で ある。 イゼン は オキャク を つかまえて、 サクヤ は どこ の クニ の コウシャク が オシノビ で いらしった など と ホラ を ふいたり、 エイジ シンブン を ひろげながら ボコク の トウヨウ セイサク を ろんじて ケム に まいたり した もの だ けれど、 コノゴロ では とんと そういう ヤマケ は なく、 ただ ウソ を つく クセ だけ が ビョウキ の よう に なって しまって、 すぐに ソコ の われる よう な こと ばかり を いう。 あの イセイ の よかった カミサン が、 どうして こんな に なった の か フシギ な キ が する が、 おそらく サケ の せい なの だろう と、 カナメ は そう おもう こと が あった。 じっさい アタマ の ハタラキ が にぶく なって、 カラダ が ぶくぶく ふくれる の と イッショ に、 カノジョ の すごす ウイスキー の リョウ は ますます まして ゆく イッポウ で、 よって も ムカシ は シマリ が あった のに、 イマ では さらに タワイ が なく、 アサ から せいせい と イキ を きらせて いる し、 ボーイ の ハナシ では ツキ に 2~3 ド は ジンジ フセイ に なる と いう し、 ケツアツ の たかい ニンゲン の ヒョウホン の よう な カッコウ を して、 いつ ぼっくり と いって しまう かも しれない の で ある。 そんな ふう だ から、 セケン の ケイキ フケイキ に かかわらず、 ここ の イエ が ハンジョウ する はず は ない ので、 キ の きいた オンナ は シャッキン を ふみたおして にげて しまう、 コック や アマ は サケ の アガリダカ を くすねる、 イチジ は エイリョウ ショクミンチ アタリ から ジュンスイ の キンパツシュ が いれかわり たちかわり きて いた こと も あった の が、 この 2~3 ネン は アイノコ か ロシアジン ばかり に なって しまって、 それ も いちどきに 3 ニン イジョウ そろって いる こと は ない の で あった。
「マダム、 ………かなしい の は ムリ も ない が、 そう ないて ばかり いて カラダ に さわったら いけない じゃ ない か。 イツモ の アナタ にも にあわない、 ゲンキ を だして サケ でも のんで みる と いい。 ニンゲン は アキラメ と いう こと が カンジン だ から。………」
「ありがとう、 ホントウ に シンセツ に いって くだすって ありがとう。 だけども アタシ には ヒトリ しか ない オトウト なん です。 ………それ は ダレ だって イチド は しにます。 ………どうせ しぬ に きまって います。 ………それ は わかって います けれども、………」
「そう だ とも。 ………ホントウ に そう だ とも。 ………そう おもって あきらめる より シカタ が ない ん だ。………」
 トシ を とって ダレ にも アイテ に されなく なった シュクバ の チャヤ の ゲイシャ なぞ で、 ナジミ でも ない キャク を つかまえて くどくど と ミノウエ の フコウ を うったえ、 アンカ な カンショウ に トウスイ したがる よう なの が ある。 ここ の カミサン の も つまり は それ で、 かなしい の には ちがいなかろう が、 ヒト から やさしく イワレタサ に オモワセブリ な ポーズ を とったり、 しばいじみた セリフ を つかったり して いる ので、 ヘイソ の ウソ を つく クセ が こういう とき にも その カンガイ を コチョウ させず には おかない の で あろう。 しかし それ にも かかわらず、 この ゾウ の よう に オオガラ な ガイコク の ロウフジン の ナゲキ には なんだか ココロ が うごかされる。 イナカ ゲイシャ の やすっぽい ナミダ と おなじ もの で ありながら、 おろか にも その カンショウ に ひきこまれて ジブン まで が メガシラ の うるむ よう な カンジ に なる。
「すみません、 ホントウ に、 ………ヒトリ で ないて いれば いい のに、 アナタ まで かなしく させて しまって。………」
「なあに、 そんな こと は なんでも ない。 それ より アナタ こそ カラダ を ダイジ に しなければ いけない よ、 ヒトリ の オトウト が しんだ から と いって ジブン も ビョウキ に なって いい わけ は ない ん だ から。………」
 アイテ が ニホン の オンナ だったら こんな ハ の うく よう な コトバ が クチ から でる はず は ない と おもう と、 カナメ は われながら ばかばかしく も あり はずかしく も あった。 いったい どうした と いう の かしら? ルイズ の こと ばかり かんがえて きた のに フイ を うたれた せい かしらん? それとも ヨウキ の カゲン かしらん? ジブン は かつて イマ の コトバ の ハンブン も の ヤサシサ の ある ニホンゴ で、 ツマ を でも なくなった ハハオヤ を でも いたわった こと は なかった のに、 エイゴ と いう もの は かなしい コクゴ なの かしらん?………
「ナニ を してた の、 マダム に つかまってた ん じゃ ない の?」
 と、 2 カイ へ あがる と ルイズ が いった。
「うん、 よわった よ どうも。 ………ボク は ああいう しめっぽい ハナシ は きらい なん だ が、 なかれて みる と にげよう にも にげられない で、………」
「ふ、 ふ、 おおかた そんな こと だろう と おもってた のよ。 くる ヒト くる ヒト を つかまえて イッペン は なかない と すまない ん だ から」
「それでも まさか、 なく の は ウソ じゃ ない ん だろう な」
「そりゃあ オトウト が しんだ ん だ から、 かなしい の は かなしい でしょう。 ………アナタ、 アワジ へ いった ん だって?」
「うん」
「ダレ と?」
「ニョウボウ の オヤジ と、 オヤジ の メカケ と、 3 ニン-ヅレ で、………」
「ふん、 ダレ の メカケ だ か わかった もん じゃ ない」
「なあに、 ホントウ だよ、 もっとも その メカケ に しょうしょう ほれて いる こと は ジジツ なん だ が、………」
「そんなら なにしに ここ へ きた のよ?」
「ナカ の いい ところ を みせつけられた から、 いささか ウップン を はらし に きた のさ」
「ゴアイサツ だ わね、………」
 しらない モノ が もし この カイワ を ヘヤ の ソト に いて きいた と したら、 しゃべって いる オンナ が クリイロ の ダンパツ に チャイロ の ヒトミ を した シュゾク で あろう とは、 ダレ が ソウゾウ する で あろう。 それほど ルイズ は ニホンゴ を たくみ に はなす の で ある。 カナメ は コノゴロ でも、 しゃべりながら ふと メ を つぶって、 その コエ の チョウシ と、 アクセント と、 コトバヅカイ だけ を ミミ に して いる と、 ちょうど イナカ の コリョウリヤ で シャクフ を アイテ に して いる バメン が うかぶ の で ある。 ただ ガイコクジン の カナシサ には その ハツオン に どこ か トウホク ナマリ の よう な ヒビキ が あって、 それでいて いう こと が おそろしく コウシャ で ある だけ に、 ホウボウ を わたりあるいた スレッカラシ の ジョキュウ の コトバ に なって いる こと を、 トウニン は ゆめにも しらない らしい。 が、 ともかくも しばらく その コエ を きいた アト に ふたたび メ を ひらいて シツナイ を みる と、 なんと いう おもいがけない コウケイ で あろう、 カノジョ は ケショウダイ の マエ の イス に もたれて、 マンシュウチョウ の カンプク に にせた シシュウ の ある パジャマ の ウワギ だけ を、 ようよう シリ と スレスレ に きて いる シタ は パンツ の カワリ に スネ イチメン の オシロイ を はいた アシ の サキ へ、 フランス-ガタ の カカト の ついた アサギイロ の キヌ の パントゥフル を、 その ツマサキ を 2 ソウ の かわいい センコウテイ の ヘサキ の よう に とがらして いる の で ある。 そう いえば この オンナ は スネ ばかり で なく、 ほとんど ゼンシン へ うすく オシロイ を ひく らしい。 カナメ は ケサ も フロ から あがって それ だけ の シタク を する アイダ 30 プン イジョウ も まって いなければ ならなかった。 カノジョ ジシン に いわせれば ハハオヤ の ほう に トルコジン の チ が まじって いる と いう こと で、 その ハダ の イロ の ハクセキ で ない の を かくそう ため に して いる の だ が、 ジツ を いう と カナメ を サイショ に ひきつけた もの は その どこやら に ニゴリ を ふくんだ あさぐろい ヒフ の ツヤ で あった。 「キミ、 この オンナ なら パリ へ いったって ソウトウ に ふめる ぜ、 こんな オンナ が コウベ アタリ に うろついて いよう とは おもわなかった」 と、 ある とき カレ に アンナイ された フランス-ガエリ の トモダチ は いった。 その ジブン、 ―――と いう の は イマ から 2~3 ネン マエ、 カナメ は ニホンジン で ありながら トクベツ に デイリ を ゆるされて いた ヨコハマ ジダイ の ヨシミ を おもって ふと この イエ を たずねた オリ に、 カノジョ は ポーランド の ウマレ だ と いって ホカ の フタリ の オンナ と イッショ に シャンパン の フルマイ に あずかる べく アイサツ に でて きた の で ある。 カノジョ は まだ、 コウベ へ きて から ミツキ には ならない と いって いた。 センソウ で クニ を おわれて、 ロシア にも い、 マンシュウ にも い、 チョウセン にも い、 その アイダ に イロイロ の コトバ を おぼえた とか で、 ホカ の フタリ の ロシア ウマレ の オンナ とは ジユウ に ロシア-ゴ で はなした。 「パリ へ いけば ワタシ は ヒトツキ で フランスジン と おなじ よう に しゃべって みせる」 と ジマン を する だけ の もの は あって、 ゴガク は カノジョ の めぐまれた サイノウ で ある らしく、 3 ニン の ウチ で この オンナ のみ が カミサン の ブレント フジン や、 ヤンキー の ヨッパライ など を ムコウ に まわして、 エイゴ で てきぱき わたりあう こと が できた の で ある。 けれど カノジョ が ニホンゴ を まで それほど ジザイ に あやつろう とは! バラライカ や ギタルラ を バンソウ しながら スラヴ の ウタ を うたう クチ から、 ヤスギブシ や オウリョッコウブシ を ヨセゲイニン に おとらぬ フシマワシ で きかせる ほど、 それほど ワルダッシャ で あろう とは! いつも エイゴ で ばかり はなして いた カナメ が、 それ を しって おどろかされた の は つい サイキン の こと なの で ある。 どうせ こういう シュルイ の オンナ は ジブン の カコ を ショウジキ に いう もの で ない こと は ショウチ して いた が、 その ノチ カレ は カノジョ が ホントウ は チョウセンジン と ロシアジン との コンケツジ で ある こと を ボーイ から きいた。 カノジョ の ハハ は イマ でも ケイジョウ に すんで いて、 ときどき テガミ を よこす と いう。 なるほど それなら オウリョッコウブシ の ジョウズ な こと も、 ゴガク の シュウトク の はやい こと も うなずかれる。 ただ トウニン の はなした イロイロ の ウソ の ナカ で、 はじめて あった とき に トシ を 18 だ と いった の は、 あるいは それ だけ が ひょっと する と ホントウ に ちかい の かも しれない、 なぜなら ジッサイ に みた ところ でも コトシ で せいぜい ハタチ ぐらい の ワカサ に しか おもえない し、 ヨウボウ の わり に いう こと や する こと が ソウジュク なの は、 そういう サッキ な オイタチ を した オオク の ショウジョ に のがれられない ウンメイ で ある から。
 べつに どこ と いう きまった ス も なく かこって ある モノ も ない カナメ には、 ヒゴロ ツマ から えられない もの を みたして くれる と いう テン では ダレ より も いちばん コノミ に かなった せい か、 しりあって から キョウ まで の 2~3 ネン の アイダ と いう もの、 イツモ の ウツリギ な ショウブン にも にず この オンナ に よって もっとも おおく ヒトリネ の アジキナサ を なぐさめられて きた の だ が、 カレ は その リユウ と して、 ニホンジン を めった に いれない イエ で ある の が カクレアソビ に ツゴウ が よい こと、 チャヤ へ ゆく より も ジカン や ヒヨウ が ケイザイ で ある こと、 オンナ と ジブン ジシン と を ドウブツ と して あつかう とき に、 ガイコクジン ドウシ の ほう が たがいに ハジ を わすれやすく、 それだけ アト で キ が やめない こと――― など を、 もし ヒト に きかれれば あげた で あろう し、 ジブン でも つとめて そう しんじて きた の で ある。 しかし この オンナ を 「シシ と ケナミ の うつくしい ケモノ」 と して いやしみさろう と する イシ の シタ には、 その ジュウシン に ラマ-キョウ の ブツゾウ の ボサツ に みる よう な カンキ が あふれて いる ところ を なかなか すてがたく おもう ココロ が、 あんがい つよく ネ を おろして いる ジジツ を、 われながら にがにがしく さえ かんじて いた。 イチゴン に して いう と この オンナ は、 ホリーウッド の スター ども の シャシン と、 たまに は スズキ デンメイ や オカダ ヨシコ の ショウゾウ なぞ を トコロ きらわず ピン で とめて ある バライロ の カベガミ に かこまれた ナカ に すんで いて、 カレ の ミカク と キュウカク と を よろこばす ため に ペディキュール を した アシ の コウ へ そっと コウスイ を ふって おく だけ の、 ゲイシャ ガール には おもい も よらない ヨウイ と シンセツ と を つくす の で ある。 カレ は かならずしも ツラアテ に そうした わけ では ない が、 ミサコ が スマ へ でかけた ルス に 「ちょっと コウベ へ カイモノ に いって くる」 と、 ミガル な ウンドウフク の イデタチ で でて、 ユウガタ-ゴロ には モトマチ アタリ の ショウテン の ツツミ を さげながら もどって くる の を ツネ と して いた。 こういう アソビ は カイバラ エキケン の オシエ に したがって、 ―――しかしながら その オシエ とは ハンタイ な シュミ の ウエ から、 ―――ゴゴ の 1 ジ か 2 ジ-ゴロ の ヒ の たかい アイダ を えらんで、 カエリミチ に イッペン アオゾラ を みた ほう が アトアジ が さっぱり と する し、 まったく サンポ の キブン を もって シュウシ する こと が できる の を、 ケイケン に よって カナメ は しって いた の で ある。 ただ こまる の は この オンナ の オシロイ の ウツリガ が トクベツ に つよく、 カラダ に しみついて はなれない のみ か、 きて いた ヨウフク は もちろん の こと、 ジドウシャ へ のれば その ハコ の ナカ へ いっぱい に こもる し、 イエ へ かえる と ヘヤジュウ が くさく なる こと だった。 カレ は ジブン の ミソカゴト を ミサコ が うすうす きづいて いる と いない と に かかわらず、 アダシオンナ の ハダ の ニオイ を しらせる こと は、 たとい ナバカリ の フウフ にも せよ、 ツマ への レイギ に かけて いる と おもって いた。 アリテイ に いえば、 カレ の ほう でも ミサコ の クチ に する 「スマ」 と いう の が はたして ホントウ の スマ で ある の か、 それとも もっと ちかい ところ に テキトウ な バショ を みつけて ある の か、 ときどき コウキシン を かんずる こと は ある に して から が、 しいて しろう とは ほっしない し、 なるべく ならば しらない で すむ こと を ねがって いる の と おなじ よう に、 ジブン が いつ どこ へ ゆく と いう こと は アイマイ に して おきたかった。 そして そういう ココロヅカイ から、 オンナ の ヘヤ で フク を きる マエ に いつも ボーイ に フロ を たてさせた もの で あった が、 その オシロイ は べっとり ビンツケ アブラ の よう に ねばりつく タチ の もの だ と みえて、 よほど ごしごし こすらなければ、 あらって も あらって も おちない の で あった。 カレ は しばしば この オンナ の ゼンシン の アマカワ が、 ジブン の ハダ へ ニクジュバン の よう に すっぽり かぶさって しまった キ が して、 それ を のこらず あらいおとす の に タショウ の ミレン を かんじながら、 やっぱり ジブン が おもった より も カノジョ を あいして いる こと を イシキ しない では いられなかった。
「プロジット! ア ヴォートル サンテ!」
 と、 フタツ の クニ の コトバ で いいながら、 カノジョ は うすい メノウイロ に かがやく グラス へ クチビル を つける。 この オンナ は いつも こうして、 ここ の イエ には ろく な シャンパン は ない と いう コウジツ の モト に、 ジブン が こっそり かいこんで おく ドライ モノポール を 3 ワリ も たかく うりつける の で ある。
「アナタ、 あの ハナシ かんがえて くれた?」
「いいや、 まだ、………」
「でも どうして くれる のよ、 ホントウ に?………」
「だから さ、 そいつ が まだ だ と いってる ん だよ」
「ちょっ、 いや ん なっちまう なあ、 いつでも まだ だ まだ だ って。 ―――このあいだ アナタ に はなした でしょう? アタシ の ほう は 1000 エン でも いい のよ」
「きいた よ、 そいつ は」
「じゃあ なんとか して くれない? 1000 エン ぐらい なら かんがえて みる って いった じゃ ない の」
「いった かしらん、 そんな こと を」
「ウソッツキ! だから ニホンジン は きらい だ って いう ん だ」
「おきのどくさま、 どうも ニホンジン で あいすみません。 いつか の あの、 ニッコウ へ つれて いって くれた アメリカ の オカネモチ は どうした ん だい?」
「そんな ハナシ を して いる ん じゃ ない わよ。 アナタ ホントウ に おもった より も シミッタレ ねえ! ゲイシャ ガール に なら いくらだって だす くせ に」
「ジョウダン じゃあ ない、 ボク を そんな オカネモチ だ と おもってる の が マチガイ なん だよ、 1000 エン と いえば タイキン だ から な」
 カノジョ は ケイボウ の クゼツ に いつも この テ を だす の で ある。 ハジメ は マダム に 2000 エン の カリ が ある から、 それ を たてかえて イッケンヤ を もたして くれろ と いって いた の が、 コノゴロ は すこし ヨウス を かえて、 さしあたり 1000 エン だして くれ さえ すれば ノコリ は ショウモン に して おく から と いう よう に なった。
「ねえ、 アナタ アタシ が すき なん じゃ ない の?」
「うん、………」
「ちょっと! そんな キ の ない ヘンジ を しない で、 もっと マジメ に きいて ちょうだい! ホントウ に ほれてる?」
「ホントウ に ほれてる」
「ほれてる なら 1000 エン ぐらい だしたら いい わよ。 で なけりゃ ユウタイ して あげない わよ。 ………さあ、 どっち?……… だす か ださない か?………」
「だす、 だす、 だす と いったら いい じゃ ない か、 おこるな よ そんな に、………」
「いつ だす?」
「コンド もって くる」
「コンド こそ きっと か? ウソ じゃ ない か?」
「ボク は ニホンジン だ から なあ」
「ふん、 チクショウ! おぼえてる が いい! コンド オカネ を もって こなけりゃ ゼッコウ して やる から!……… アタシ いつまでも こんな いやしい ショウバイ を してる の が いや だ から たのむ ん じゃ ない の。 ああ、 ああ、 ホント に、 なんて アタシ は フシアワセ なん だろう。………」
 それから カノジョ は シンパ の ハイユウ そっくり の クチョウ に なって、 さも あわれっぽく なみだぐんだ メ に モノ を いわせて、 いかに この カギョウ が ジブン の よう な ニンゲン には たえられない か と いう こと を セツメイ したり、 1 ニチ も はやく ムスメ が ジユウ の ミ に なれる の を まちこがれて いる ハハオヤ の キョウガイ を うったえたり、 とうとう と して テン を うらみ ヨ を のろう コトバ を つらねる。 カノジョ は ここ へ くる マエ には ジョユウ を して いた こと が ある から、 ステージ ダンス なら エリアナ パヴロヴァ アタリ には まけない くらい な ウデ が ある、 ようするに こんな ところ に いる オンナ とは タチ が ちがう、 ジブン の よう な サイノウ の ある モノ を こうして おく の は もったいない ハナシ だ、 パリ や ロス アンジェルス へ いって も リッパ に イッポンダチ が できる し、 カタギ な ホウメン なら これだけ ゴガク の テンブン が あったら ジュウヤク の ヒショ に でも タイピスト に でも なれる、 だから ジブン を すくいだして ニッカツ の サツエイジョ か、 ガイコク の ショウカン へ ショウカイ して くれろ、 そうして もらえれば ツキヅキ の もの は 100 エン か 150 エン も ホジョ して くれたら タクサン だ と いう の で ある。
「アナタ イマ だって イッペン くれば 50 エン や 60 エン は つかう じゃ ない の。 それ を かんがえたら いくら トク だ か しれ や しない のに」
「だって、 セイヨウジン を ニョウボウ に もつ と、 ツキ 1000 エン は かかる と いう ぜ。 キミ の よう な ゼイタク な オンナ が 100 エン や 150 エン で やって いける と おもう の かい」
「ええ、 いける、 きっと アタシ なら やって いける。 カイシャ へ でたら ジブン で 100 エン は かせげる ん だ から、 そう したら 250 エン に なる じゃ ない の。 まあ、 みてて ごらん よ、 リッパ に やってって みせる から。 ―――アタシ だって もう そう なったら ヨケイ な オコヅカイ を ねだったり、 キモノ を こしらえたり し や しない ん だ から。 こんな ショウバイ を して いる から だ けど、 アタシ を ゼイタク な オンナ だ と おもったら たいした マチガイ なん だ から ね。 はばかりながら イエ を もたしたら アタシ ぐらい キチョウメン で、 ムダヅカイ を しない オンナ は ない ん だ から ね」
「だけども、 シャッキン は たてかえた、 そのまま ぷいと シベリア へ でも にげて いかれたら それっきり だぜ」
 そう いう と オンナ は シンガイ な ヒョウジョウ を して みせて、 クヤシマギレ に シンダイ の ウエ で ジダンダ を ふむ。 カナメ は それ が オモシロサ に まぜっかえして いる よう な ものの、 イチジ は タショウ の コウキシン を うごかした こと も ない では なかった。 どうせ この オンナ の こと だ から かこった ところ で ナガツヅキ は しない で あろう し、 ジョウダン では なく ハルピン アタリ へ ドロン を する の が オチ で あろう が、 こっち も むしろ その ほう が ショイコミ に ならない で いい かも しれない。 カレ には そんな こと より も、 じつは ショウタク を かまえる テツヅキ が ジムテキ に ひどく オックウ な キ が した。 オンナ は フツウ の ニホンダテ の シャクヤ で いい、 カグ さえ ヨウフウ に して くれたら と いう の だ けれども、 タテツケ の がたぴし する せまくるしい ヘヤ に はいって、 あるく たび ごと に もくもく ふくれあがる タタミ を ふみながら、 ザンギリ アタマ に ユカタガケ で いられたり したら、 ―――そして ウワベ だけ にも せよ、 イマ まで の ゼイタク が うってかわって、 キュウ に キチョウメン に、 ミョウ な ところ で ショタイモチ を よく されたり したら、 ―――と、 そう おもう と なんだか オザ が さめる の で あった。 しかし オンナ の クドキグアイ で、 イイカゲン に あしらって いる うち に いつか ジョウダン が ホントウ に ならない もの でも なく、 そう なれば それ で、 ずるずる に ひきずられて ゆきかねない の だ が、 カノジョ の シュウソ は あまり シバイ が おおすぎて、 じれたり おこったり すれば する ほど ますます コッケイ に なる の で ある。 マド と いう マド には ヨロイド が おろして ある けれど、 その スキマ から さしこんで くる ショカ-らしい マヒル の アカリ が、 イロガラス を とおして きた よう な アカミ を おびて どんより モノ の リンカク を ふちどって いる ヘヤ の ナカ で、 この マンシン に オシロイ を ぬった カンギテン の ニクタイ が ウスモモイロ に そめかえられ、 トウホク ナマリ の セリフ を いう ごと に テ を あげ シリ を ふる ヨウス は、 まことに あわれ と いう より も にぎやか に いさましく、 カナメ は その オドリ を みたい ため に わざと いつまでも キ を もたせて いる の で あった。 そして どうか する と、 ダンパツ に あかい カラダ で あばれて いる スガタ を ながめながら、 この カッコウ で コン の ハラガケ を かけさせたら とんと キンタロウ ソノママ だ と おもう と、 ぷっと ふきだしたく なったり した。
 ボーイ は カレ の いいつけた とおり きっちり 4 ジ ハン に フロ を わかした。
「コンド は いつ?」
「たぶん ライシュウ の スイヨウ アタリ、………」
「じゃ、 ホントウ に オカネ を もって きて くれる?」
「わかった、 わかった」
 センプウキ の カゼ を ユアガリ の セナカ へ あびながら、 カレ は ジブン でも その ゲンキンサ に あきれる くらい、 へんに レイタン に、 そそくさ と パンツ へ アシ を とおした。
「きっと だ わね?」
「きっと もって くる」
 そう いいながら アクシュ を する とき、 「きっと もう こない ぞ」 と ココロ の ナカ では いう の で あった。
 きっと もう こない、 ―――ボーイ に モン を あけさせて、 オモテ に まって いる クルマ の ナカ へ ミ を ひそめながら、 いつでも カレ は カエリガケ に この ケツイ を かためて、 トビラ の スキマ から セップン を おくって いる オンナ の カオ へ こころひそか に エイキュウ の 「さよなら」 を なげる の で ある が、 キミョウ な こと に それ が ミッカ と つづく こと は なかった。 ミッカ が やがて イツカ と なり、 1 シュウカン と なる アイダ に、 ふたたび この オンナ に あいたい オモイ が ばかばかしい くらい きざして きて、 ずいぶん ムリ な クリアワセ を して まで イチズ に とんで くる の で ある。 あう マエ の コイシサ と あって の ノチ の ムナグルシサ、 ―――そういう ココロ の カワリカタ は この オンナ の バアイ に かぎった こと では なく、 ゲイシャ と なじんで いた ジブン にも すこし は オボエ の ある こと だ けれども、 しかし こんな に レイネツ の ド が はげしい と いう の は、 ひっきょう セイリテキ の ゲンイン に よる から なので、 それだけ ルイズ は ヨワセカタ の つよい サケ なの で あろう。 カナメ は はじめ、 カノジョ の コトバ を しんじさせられて いた コロ には、 イマ の ニホン の セイネン たち が たいがい そう で ある よう に、 その セイオウ の ウマレ で ある と いう こと に ある トクベツ な ゲンソウ と アコガレ と を いだいて いた。 おもう に この オンナ の いい ところ は、 そんな オキャク の シンリ を こころえて、 つねに チュウイ して その ハダ の キジ を みせない こと と、 そうして いれば カノジョ の ウソ が ホントウ と して ツウヨウ する テイド の シタイ を もって いる こと に ある ので、 カナメ も じつは、 その あさぐろい ヒフ の イロ には いまもって ミリョク を かんじながら、 たとい ジンコウテキ で あって も やはり ハクセキ の ニクタイ が かもす ゲンソウ を やぶりたく ない よう な キ が して、 ついぞ イチド も その オシロイ を はがさせた こと は なかった の で ある。 カレ の アタマ には 「パリ へ いって も この オンナ なら ソウトウ に ふめる」 と いった トモダチ の ヒョウカ が あんがい ふかく キオク されて いた。 カレ は クルマ に ゆられながら まだ ウツリガ が かすか に のこって いる ミギ の テノヒラ の ニオイ を かいだ。 その タナゴコロ に しみついた の は、 どういう ワケ か フロ から あがった サイゴ まで も におって いる ので、 コノゴロ は わざと そこ だけ あらわない よう に して、 なまめかしい ヒミツ を テ の ナカ へ にぎって かえる の で あった。
「コンド こそ ホントウ に これっきり だろう か、 もう ニド と いかず に いられる だろう か」
 と、 カレ は そんな こと を かんがえて も みた。 イマ の ジブン は ダレ に エンリョ を する ヒツヨウ も ない の で ある が、 カレ には へんに ドウトクテキ な、 リチギ な ところ が ある せい で あろう か、 セイネン ジダイ から モチコシ の、 「たった ヒトリ の オンナ を まもって いきたい」 と いう ユメ が、 ホウトウ と いえば いえなく も ない モッカ の セイカツ を して いながら、 いまだに さめきれない の で ある。 ツマ を うとみつつ ツマ ならぬ モノ に ナグサメ を もとめて ゆける ニンゲン は いい、 もしも カナメ に その マネ が できたら ミサコ との アイダ にも イマ の よう な ハタン を おこさず、 どうにか ビホウ して ゆけた で あろう。 カレ は ジブン の そういう セイシツ に ホコリ も ヒケメ も かんじて は いない が、 ショウジキ な ところ それ は ギリ-がたい と いう より も むしろ キョクタン な ワガママ と ケッペキ なの だ と、 ジブン では カイシャク して いた。 クニ を コト に し、 シュゾク を コト に し、 ながい ジンセイ の コウロ の トチュウ で たまたま ゆきあった に すぎない ルイズ の よう な オンナ に さえ も ハダ を ゆるす のに、 その ワクデキ の ハンブン を すら、 かんずる こと の できない ヒト を ショウガイ の ハンリョ に して いる と いう の は、 どう おもって も たえられない ムジュン では ない か。

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