カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カイソウ

2019-05-21 | オカモト カノコ
 カイソウ

 オカモト カノコ

 ナカノマ で ミチコ は オトウト の ジュンジ の ショウガツ キモノ を ぬいおわって、 コンド は アニ の リクロウ の ブン を ぬいかけて いた。
「それ オヤジ の かい」
 ハナレ から ロウカ を あるいて きた リクロウ は、 トオリスガリ に ちらと ヨコメ に みて きいた。
「ニイサン の よ。 これから ニイサン も カイシャ イガイ は なるべく ワフク で すます のよ」
 ミチコ は カオ も あげない で、 いそがしそう に ぬいすすみながら いった。
「コクサク の セン に そって と いう の だね」
「だから、 キモノ の ヌイナオシ や シンチョウ に コノゴロ は イチニチジュウ タイヘン よ」
「はははははは、 ヒトリ で いそがしがってら、 だが ね、 ことわって おく が、 ギンブラ なぞ に でかける とき、 オレ は ワフク なんか きない よ」
 そう いって さっさと ロウカ を あるいて ゆく アニ の ウシロスガタ を、 ミチコ は カオ を あげて じっと みて いた が、 ほーっと トイキ を ついて ヌイモノ を タタミ の ウエ に おいた。 すると キュウ に クッタク して きて、 おおきな セノビ を した。 カタ が こって、 すわりつづけた リョウモモ が だるく はった カンジ だった。 ミチコ は たちあがって ロウカ を あるきだした。 そのまま ゲンカン で ゲタ を はく と、 フユバレ の ゴゴ の コガイ へ でて みた。
 ヒ は すでに ニシ に とおのいて、 ニシ の ソラ を ウスモモイロ に もえたたせ、 メノマエ の まばら に たつ ジュウタク は カゲエ の よう に くろずんで みえて いた。 ミチコ は ヒカリ を もとめて すすむ よう に、 ジュウタクガイ を つっきって ソラ の ひらけた タマガワ ワキ の クサハラ に でた。 イチメン に もえた ザッソウ の ナカ に たって、 おもいきり テ を ふった。
 フユ の ヒ は みるみる うち に ニシ に しずんで、 モモイロ の ニシ の ハズレ に、 アイイロ の サンミャク の ミネ を うきあがらせた。 チチブ の レンザン だ! ミチコ は こういう ユウゲシキ を ゆっくり ながめた の は コンシュン ジョガッコウ を ソツギョウ して から イチド も なかった よう な キ が した。 あわただしい、 しじゅう おいつめられて、 ちぢこまった セイカツ ばかり して きた と いう カンジ が ミチコ を フマン に した。
 ほーっと おおきな トイキ を また ついて、 カノジョ は テイボウ の ほう に むかって あるきだした。 つめたい カゼ が ふきはじめた。 カノジョ は いきおい アシ に チカラ を いれて クサ を ふみにじって すすんだ。 ミチコ が テイボウ の ウエ に たった とき は、 かがやいて いた ニシ の ソラ は しろく にごって、 ニシ の カワカミ から カワギリ と イッショ に ユウモヤ が せまって きた。 ヒガシ の ソラ には マンゲツ に ちかい ツキ が あおじろい ヒカリ を こっこく に まして きて、 ハバ 3 ジャク の テイボウ の ウエ を マッシロ な タンドウ の よう に めだたせた。 ミチコ は キュウ に そうけだった ので、 カラダ を ぶるぶる ふるわせながら テイボウ の ウエ を あるきだした。 トチュウ、 ふりかえって いる と ジュウタクガイ の マドマド には ちいさく デントウ が ともって、 ヒト の カゲ も さだか では なかった。 まして その ムコウ の オモテドオリ は ただ イチレツ の アカリ の セン と なって、 カワシモ の ハシ に つらなって いる。
 ダレ も みる ヒト が ない………… よし………… おもいきり テアシ を うごかして やろう………… ミチコ は ココロ の ナカ で つぶやいた。 ヒザ を たかく おりまげて アシブミ を しながら リョウウデ を ゼンゴ に おおきく ふった。 それから ゲタ を ぬいで かけだして みた。 ジョガッコウ ザイガクチュウ ランニング の センシュ だった トウジ の イキゴミ が ゼンシン に わきあがって きた。 ミチコ は キモノ の スソ を はしょって テイボウ の ウエ を かけた。 カミ は ほどけて カタ に ふりかかった。 ともすれば テイボウ の ウエ から アシ を ふみはずし は しない か と おもう ほど まっしぐら に かけた。 モト の ゲタ を ぬいだ ところ へ かけもどって くる と、 さすが に カラダ ゼンタイ に アセ が ながれ イキ が きれた。 ムネ の ナカ では シンゾウ が はげしく うちつづけた。 その シンゾウ の コドウ と イッショ に ゼンシン の キンニク が ぴくぴく と ふるえた。 ――ホントウ に はつらつ と いきて いる カンジ が する。 ジョガッコウ に いた コロ は これほど かんじなかった のに。 マイニチ キュウクツ な シゴト に おさえつけられて くらして いる と、 こんな カケアシ ぐらい でも こう まで いきて いる カンジ が めずらしく かんじられる もの か。 いっそ マイニチ やったら――
 ミチコ は カミ を たばねながら イソギアシ で イエ に かえって きた。 カノジョ は この ケイカク を ウチ の モノ に はなさなかった。 リョウシン は きっと さしとめる よう に おもわれた し、 キョウダイ は したしすぎて からかう ぐらい の もの で あろう から。 いや それ より も カノジョ は ツキアカリ の ナカ に シック する コウフン した キモチ を ジブン ヒトリ で ナイミツ に あじわいたかった から。
 ヨクジツ ミチコ は アンダーシャツ に パンツ を はき、 その ウエ に キモノ を きて かくし、 ヨゴレタビ も シンブンガミ に くるんで イエ を でよう と した。
「どこ へ いく ん です、 この いそがしい のに。 それに ユウメシドキ じゃ ありません か」
 ハハオヤ の コエ は するどかった。 ミチコ は コシ を おられて ひきかえした。 ユウショク を キョウダイ と イッショ に すました アト でも、 ミチコ は サクバン の カケアシ の カイカン が わすれられなかった。 ガイシュツ する コウジツ は ない か と しきり に かんがえて いた。
「ちょっと セントウ に いって きます」
 ミチコ の オモイツキ は しごく トウゼン の こと の よう に ウチ の モノ に ききながされた。 ミチコ は いそいで セッケン と テヌグイ と ユセン を もって オモテ へ でた。 カノジョ は キモノ の スソ を けって イッサン に テイボウ へ かけて いった。 つめたい カゼ が ミミ に いたかった。 テイボウ の ウエ で、 さっと キモノ を ぬぐ と テヌグイ で ウシロ ハチマキ を した。 りりしい ジョリュウ センシュ の スガタ だった。 タビ を はく の も もどかしげ に アシブミ の ケイコ から カケアシ の スタート に かかった。 つまさきだって ミ を かがめる と、 つめたい コンクリート の ウエ に テ を ふれた。 オン ユアー マーク、 ゲット セッ、 ミチコ は バネジカケ の よう に とびだした。 キノウ の ごとく あおじろい ゲッコウ に てらしだされた テイボウ の ウエ を、 はるか に シタ を タマガワ が ギンイロ に ひかって そうそう と オト を たてて ながれて いる。
 しだいに アシ の ツカレ を おぼえて ソクリョク を ゆるめた とき、 ミチコ は ツキ の ヒカリ の ため か イッシュ ヒソウ な キブン に うたれた―― ジブン は イマ はつらつ と いきて は いる が、 ちがった セカイ に いきて いる と いう カンジ が した。 ジンルイ とは はなれた、 さびしい が しかも ゲンシュク な セカイ に いきて いる と いう カンジ だった。

 ミチコ は キモノ を きて コバシリ に オモテドオリ の オユヤ へ きた。 ユ に つかって アセ を ながす とき、 はじめて また モト の ニンゲンカイ に たちもどった キ が した。 ミチコ は ジブン ドクトク の イキカタ を ハッケン した コウフン に わくわく して ハダ を つよく こすった。
 イエ に かえって チャノマ に ゆく と、 ハハオヤ が フシン そう な カオ を して、
「オユ から どこ へ まわった の」 と きいた。 ミチコ は、
「オユ に ゆっくり はいってた の。 カタ の コリ を ほごす ため に」
 ソバ で シンブン を よんで いた アニ の リクロウ は これ を きいて 「オバアサン の よう な こと を いう」 と いって わらった。 ミチコ は だまって ナカノマ へ さった。

 ミチコ は その ヨクバン から できる だけ すばやく ランニング を すまし、 オユヤ に かけつけて アセ も ざっと ながした だけ で かえる こと に した。 だが ハハオヤ は ムスメ の ナガユ を キ に して いた。 ある バン、 ミチコ が オユ に でかけた チョクゴ、
「リクロウ さん、 オマエ、 すぐ ミチコ の アト を つけて みて くれない。 それから できたら まってて かえる ところ も ね」
 と ハハオヤ は たのんだ。 リクロウ は イモウト の アト を つける と いう こと が したしすぎる だけ に ミョウ に てれくさかった。 「こんな さむい バン に かい」 カレ は ベツ な コトバ で いいあらわしながら、 ハハオヤ の せきたてる の も かまわず、 ゆっくり マント を きて ボウシ を かぶって でて いった。 リクロウ は なかなか かえって こなかった。 ハハオヤ は じりじり して まって いた。 その うち に ミチコ が かえって きて しまった。
「また レイ の とおり ナガユ です ね。 そんな に テイネイ に あらう なら 1 ニチ-オキ だって も いい でしょう」
「でも オユ に いく と アシ が ほてって、 よく ねむれます もの」
 ともかく、 ねむれる こと は ジジツ だった ので、 ミチコ は シンケン に なって いえた。 ハハオヤ は、
「アシタ は ニチヨウ で オトウサマ も イエ に オイデ です から、 ヒルマ ワタシ と イッショ に いきなさい」
 と いった。 ミチコ は なんて オヤ と いう もの は うるさい もの だろう と よわって、
「なぜ そう ワタシ の ナガユ が キ に なる の。 ねる マエ に いく ほう が いい けれど、 それじゃ アシタ は ヒルマ いきましょう」
 ミチコ は 1 ニチ ぐらい は ガマン しよう と あきらめた。 それ が ちょうど ヨクジツ は アメフリ に なった。 ミチコ は ふりつづく アメ を ながめて―― この テンキ、 テンユウ って いう もん かしら………… すくなくとも ワタシ の ヒカン を なぐさめて くれた ん だ から………… そう おもう と なんだか おかしく なって ヒトリ くすくす わらった。
 オヒルスギ に ハハオヤ と カサ を さして すました カオ で オユ に いった。
「そんな に ながく オユ に つかってる ん じゃ ありません よ」
 ハハオヤ が あきれて しかった けれど、 ミチコ は ジブン の ナガユ を シンヨウ させる ため に カオ を マッカ に して まで たえて、 ながく オユ に つかって いた。
 やがて ナガシバ に でて アライオケ を もって くる とき は、 オユ に のぼせて ふらふら した が、 ヒタイ を レイスイ で ひやしたり、 もじもじ して いる うち に なおった。
「イイカゲン に でません か」
 ハハオヤ は ミチコ の ソバ へ よって きて コゴエ で せきたてる ので、 やっと カラダ を ふいて キモノ を きた が、 イエ へ かえる と また おかしく なって オクザシキ へ いって ヒトリ くすくす わらった。
「ミチコ は コノゴロ ヘン です よ。 マイバン オユ に いきたがって、 いった が サイゴ 1 ジカン ハン も かかる ん です から ね。 あんまり ヘン です から キョウ は ワタシ ヒルマ つれて いって みました」
 ハハオヤ は チャノマ で ニッキ を かきこんで いた ミチコ の チチオヤ に ソウダン しかけた。
「そしたら」
 チチオヤ も フシン そう な カオ を あげて きいた。
「ずいぶん ながく いた つもり でした が 40 プン しか かかりません もの」
「そりゃ オユ の ホカ に どこ か へ まわる ん じゃ ない かい」
「ですから ユウベ は リクロウ に アト を つけさせた ん です よ。 そしたら オユ に はいった と いう ん です がねえ、 その リクロウ が アテ に なりません のよ。 ヨウス を み に いった ツイデ に、 トモダチ の ウチ へ よって 12 ジ ちかく まで あそんで くる の です から」
「ふーん」
 チチオヤ は じっと かんがえこんで しまった。
 アメ の ため に ヒビキ の わるい ゲンカン の ベル が ちり と なって やむ と、 ジュシンバコ の ナカ に テガミ が おとされた オト が した。 ハハオヤ は さっそく たって いって テガミ を もって きた が、
「ミチコ-アテ の テガミ だけ です よ。 オトモダチ から です がねえ、 コノゴロ の ミチコ の ヨウス では テガミ まで キ に なります。 これ を ひとつ ナカ を しらべて みましょう か」
「そう だね、 ジョウズ に あけられたら ね」
 チチオヤ も サンセイ の カオツキ だった。 ハハオヤ は ナガヒバチ に かかった テツビン の ユゲ の ウエ に フウジメ を かざした。
「すっかり ぬれて しまいました けれど、 どうやら あきました」
 ハハオヤ は ヨッツ に おった ショカンセン を そっと ぬきだして ひろげた。
「コエ を だして よみなさい」
 チチオヤ は ヒョウジョウ を キンチョウ さした。

 いさましい オタヨリ、 ガクセイ ジダイ に かえった オモイ が しました。 マイバン パンツ スガタ も りりしく ゲッコウ を あびて タマガワ の テイボウ の ウエ を シック する アナタ を かんがえた だけ でも ムネ が おどります。 イチド でかけて みたい と おもいます。 それ に ひきかえ コノゴロ の ワタシ は どう でしょう。 カゼ ばかり ひいて、 とても そんな ゲンキ が でません……

「へえ、 そりゃ ホントウ かい」
 チチオヤ は イツモ の シンチョウ な タイド も わすれて、 トンキョウ な コエ を だして しまった。
「まあ、 あの コ が、 なんて いう ランボウ な こと を してる ん でしょう。 よびよせて しかって やりましょう か」
 ハハオヤ は テガミ を もった まま すこし きびしい メツキ で たちあがりかけた。
「まあ まちなさい。 あれ と して は この さむい フユ の バン に、 ヒト の メ の ない ところ で ランニング を する なんて、 よくよく クッタク した から なん だろう。 オレ だって マイニチ おそく まで カイシャ の ネンマツ セイリ に ボウサツ されてる と、 ナニ か トッピ な こと が したく なる から ね。 それ より オレ は、 ムスメ の トモダチ が いってる よう に、 ジブン の ムスメ が ゲッコウ の ナカ で はしる ところ を みたく なった よ………… オレ の ブンシン が ね、 そんな ところ で はしってる の を ね」
「まあ、 アンタ まで へんに コウキシン を もって しまって。 でも マンイチ の こと でも あったら どう します」
「そこ だよ、 バアイ に よったら オトウト の ジュンジ を つれて いかせたら」
「そりゃ ジュンジ が かわいそう です わ」
「ともかく、 アシタ ツキヨ だったら ミチコ の ヨウス を み に いく」
「あきれた カタ ね、 そいじゃ ワタシ も イッショ に いきます わ」
「オマエ も か」
 フタリ は シンケン な カオ を つきあわせて いいあって いた が、 キュウ に おかしく なって、 はははははは と わらいだして しまった。 フタリ は アス の ツキヨ が またれた。

 ミチコ には トモダチ から の テガミ は てわたされなかった し、 リョウシン の ソウダン なぞ しる ヨシ も なかった。 ただ いつも バンメシ マエ に かえらない チチオヤ が キョウ は ハヤメ に かえって きて ジブン ら の ショクタク に くわわった の が キ に なった。 コンバン オユ に いきたい なぞ と いえば ハハオヤ が イッショ に いく と いう かも しれぬ。 よわった。 キョウ は ゴゼンチュウ に アメ が あがって、 ツキ も やがて でる で あろう。 この コウヤ、 ヒトバン やすんで ニクタイ が まちかねた よう に うずいて いる のに。 だんだん おそく なって くる と ミチコ は いらいら して きて とうとう ハハオヤ に いった。
「オユ へ やって ください。 アタマ が いたい ん です から」
 ハハオヤ は べつに キ にも とめない フリ で こたえた。
「いい とも、 ゆっくり いって らっしゃい」
 ミチコ は われしらず カオ を ほころばした。 こんな こと って ある かしらん―― ミチコ は ユメ の よう な キ が した。 ユメ なら さめない うち に と てばやく ミジタク を しおわって オモテ へ でた。 カンプウ の ナカ を イッサン に テイボウ めがけて はしった。 ――コンヤ は フツカ ブン、 オウフク 4 カイ かけて やる――
 ミチコ は テイボウ の ウエ に かけあがって キモノ を ぬいだ。 あおじろい ツキ の ヒカリ が カノジョ の しろい アンダーシャツ を ギンイロ に ひからせ、 コシ から シタ は クロ の パンツ に きれて チュウ に うかんだ クウソウ の キョウゾウ の ごとく みえた。 カノジョ は まず ウデ を ジユウ に ふりうごかし、 アシ を ふんで カラダナラシ を すました。 それから スタート の ジュンビ も せず に、 いきなり ダンガン の よう に カワカミ へ むかって シッソウ した。 やがて はるか の ムコウ で ターン して また モト の ところ へ かけもどって きた。 そこ で せまい テイボウ-ジョウ で また くるり と ターン する と ふたたび カワカミ へ むかって かけて いった。
 この とき アト から おっかけて きた チチオヤ は クサハラ の ナカ に たって はるか に テイボウ の ウエ を しろい カタマリ が とぶ の を のぞんだ。
「あれ だ、 あれ だ」
 チチオヤ は ゆびさしながら ウシロ を ふりかえって、 ずっと おくれて かけて くる ツマ を もどかしがった。 ツマ は、 はあはあ いいながら、
「アナタ ったら、 まるで セイネン の よう に はしる ん です もの、 おいつけ や しません わ」
 ツマ の この コトバ に オット は トクイ に なり、
「それにしても オマエ の おそい こと ったら」
 ツマ は イキ を ついで、
「これ でも イッショウ ケンメイ だ もん で、 ウチ から ここ まで イチド も やすまず に かけて きた ん です から ね」
「オレタチ は あんがい まだ わかい ん だね」
「おほほほほほほほほほほ」
「あはははははははははは」
 フタリ は ゲッコウ の シタ を カンプウ を きって はしった こと が キンライ に ない ヨロコビ だった。 フタリ は ムスメ の こと も わすれて、 コエ を たてて わらいあった。
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ちいさき モノ へ

2019-05-06 | アリシマ タケオ
 ちいさき モノ へ

 アリシマ タケオ

 オマエタチ が おおきく なって、 イチニンマエ の ニンゲン に そだちあがった とき、 ――その とき まで オマエタチ の パパ は いきて いる か いない か、 それ は わからない こと だ が―― チチ の かきのこした もの を くりひろげて みる キカイ が ある だろう と おもう。 その とき この ちいさな カキモノ も オマエタチ の メノマエ に あらわれでる だろう。 トキ は どんどん うつって ゆく。 オマエタチ の チチ なる ワタシ が その とき オマエタチ に どう うつる か、 それ は ソウゾウ も できない こと だ。 おそらく ワタシ が イマ ここ で、 すぎさろう と する ジダイ を わらいあわれんで いる よう に、 オマエタチ も ワタシ の ふるくさい ココロモチ を わらいあわれむ の かも しれない。 ワタシ は オマエタチ の ため に そう あらん こと を いのって いる。 オマエタチ は エンリョ なく ワタシ を フミダイ に して、 たかい とおい ところ に ワタシ を のりこえて すすまなければ まちがって いる の だ。 しかしながら オマエタチ を どんな に ふかく あいした モノ が コノヨ に いる か、 あるいは いた か と いう ジジツ は、 エイキュウ に オマエタチ に ヒツヨウ な もの だ と ワタシ は おもう の だ。 オマエタチ が この カキモノ を よんで、 ワタシ の シソウ の ミジュク で ガンコ なの を わらう アイダ にも、 ワタシタチ の アイ は オマエタチ を あたため、 なぐさめ、 はげまし、 ジンセイ の カノウセイ を オマエタチ の ココロ に ミカク させず に おかない と ワタシ は おもって いる。 だから この カキモノ を ワタシ は オマエタチ に あてて かく。
 オマエタチ は キョネン ヒトリ の、 たった ヒトリ の ママ を エイキュウ に うしなって しまった。 オマエタチ は うまれる と まもなく、 セイメイ に いちばん ダイジ な ヨウブン を うばわれて しまった の だ。 オマエタチ の ジンセイ は そこ で すでに くらい。 このあいだ ある ザッシシャ が 「ワタシ の ハハ」 と いう ちいさな カンソウ を かけ と いって きた とき、 ワタシ は なんの キ も なく、 「ジブン の コウフク は ハハ が ハジメ から ヒトリ で イマ も いきて いる こと だ」 と かいて のけた。 そして ワタシ の マンネンヒツ が それ を かきおえる か おえない に、 ワタシ は すぐ オマエタチ の こと を おもった。 ワタシ の ココロ は アクジ でも はたらいた よう に いたかった。 しかも ジジツ は ジジツ だ。 ワタシ は その テン で コウフク だった。 オマエタチ は フコウ だ。 カイフク の ミチ なく フコウ だ。 フコウ な モノタチ よ。
 アケガタ の 3 ジ から ゆるい ジンツウ が おこりだして フアン が イエジュウ に ひろがった の は イマ から おもう と 7 ネン マエ の こと だ。 それ は フブキ も フブキ、 ホッカイドウ で すら、 めった には ない ひどい フブキ の ヒ だった。 シガイ を はなれた カワゾイ の ヒトツヤ は けしとぶ ほど ゆれうごいて、 マドガラス に ふきつけられた コナユキ は、 さらぬだに ワタグモ に とじられた ヒ の ヒカリ を ニジュウ に さえぎって、 ヨル の クラサ が いつまでも ヘヤ から どかなかった。 デントウ の きえた うすぐらい ナカ で、 しろい もの に つつまれた オマエタチ の ハハウエ は、 ユメゴコチ に うめきくるしんだ。 ワタシ は ヒトリ の ガクセイ と ヒトリ の ジョチュウ と に てつだわれながら、 ヒ を おこしたり、 ユ を わかしたり、 ツカイ を はしらせたり した。 サンバ が ユキ で マッシロ に なって ころげこんで きた とき は、 イエジュウ の モノ が おもわず ほっと イキ を ついて アンド した が、 ヒル に なって も ヒルスギ に なって も シュッサン の モヨウ が みえない で、 サンバ や カンゴフ の カオ に、 ワタシ だけ に みえる キヅカイ の イロ が みえだす と、 ワタシ は まったく あわてて しまって いた。 ショサイ に とじこもって ケッカ を まって いられなく なった。 ワタシ は サンシツ に おりて いって、 サンプ の リョウテ を しっかり にぎる ヤクメ を した。 ジンツウ が おこる たび ごと に サンバ は しかる よう に サンプ を はげまして、 1 プン も はやく サン を おわらせよう と した。 しかし しばらく の クツウ の ノチ に、 サンプ は すぐ また ふかい ネムリ に おちて しまった。 イビキ さえ かいて やすやす と ナニゴト も わすれた よう に みえた。 サンバ も、 アト から かけつけて くれた イシャ も、 カオ を みあわして トイキ を つく ばかり だった。 イシ は コンスイ が くる たび ごと に ナニ か ヒジョウ の シュダン を もちいよう か と あんじて いる らしかった。
 ヒルスギ に なる と コガイ の フブキ は だんだん しずまって いって、 こい ユキグモ から もれる ウスビ の ヒカリ が、 マド に たまった ユキ に きて そっと たわむれる まで に なった。 しかし サンシツ の ナカ の ヒトビト には ますます おもい フアン の クモ が おおいかぶさった。 イシ は イシ で、 サンバ は サンバ で、 ワタシ は ワタシ で、 メイメイ の フアン に とらわれて しまった。 その ナカ で なんら の キガイ をも かんぜぬ らしく みえる の は、 いちばん おそろしい ウンメイ の フチ に のぞんで いる サンプ と タイジ だけ だった。 フタツ の セイメイ は こんこん と して シ の ほう へ ねむって いった。
 ちょうど 3 ジ と おもわしい とき に ――サンケ が ついて から 12 ジカン-メ に―― ユウベ を もよおす ヒカリ の ナカ で、 サイゴ と おもわしい はげしい ジンツウ が おこった。 ニク の メ で おそろしい ユメ でも みる よう に、 サンプ は かっと マブタ を ひらいて、 アテド も なく ヒトトコロ を にらみながら、 くるしげ と いう より、 おそろしげ に カオ を ゆがめた。 そして ワタシ の ジョウタイ を ジブン の ムネ の ウエ に たくしこんで、 セナカ を ハガイ に だきすくめた。 もし ワタシ が サンプ と おなじ テイド に いきんで いなかったら、 サンプ の ウデ は ワタシ の ムネ を おしつぶす だろう と おもう ほど だった。 そこ に いる ヒトビト の ココロ は おもわず ソウダチ に なった。 イシ と サンバ は バショ を わすれた よう に おおきな コエ で サンプ を はげました。
 ふと サンプ の アクリョク が ゆるんだ の を かんじて ワタシ は カオ を あげて みた。 サンバ の ヒザモト には チノケ の ない エイジ が アオムケ に よこたえられて いた。 サンバ は マリ でも つく よう に その ムネ を はげしく たたきながら、 ブドウシュ ブドウシュ と いって いた。 カンゴフ が それ を もって きた。 サンバ は カオ と コトバ と で その サケ を タライ の ナカ に あけろ と めいじた。 はげしい ホウフン と ドウジ に タライ の ユ は チ の よう な イロ に かわった。 エイジ は その ナカ に ひたされた。 しばらく して かすか な ウブゴエ が イキ も つけない キンチョウ の チンモク を やぶって ほそく ひびいた。
 おおきな テン と チ との アイダ に ヒトリ の ハハ と ヒトリ の コ と が その セツナ に こつじょ と して あらわれでた の だ。
 その とき あらた な ハハ は ワタシ を みて よわよわしく ほほえんだ。 ワタシ は それ を みる と なんと いう こと なし に ナミダ が メガシラ に にじみでて きた。 それ を ワタシ は オマエタチ に なんと いって いいあらわす べき か を しらない。 ワタシ の セイメイ ゼンタイ が ナミダ を ワタシ の メ から しぼりだした と でも いえば いい の かしらん。 その とき から セイカツ の ショソウ が すべて メノマエ で かわって しまった。
 オマエタチ の ウチ サイショ に コノヨ の ヒカリ を みた モノ は、 このよう に して ヨ の ヒカリ を みた。 2 バンメ も 3 バンメ も、 ウマレヨウ に ナンイ の サ こそ あれ、 チチ と ハハ と に あたえた フシギ な インショウ に カワリ は ない。
 こうして わかい フウフ は つぎつぎ に オマエタチ 3 ニン の オヤ と なった。
 ワタシ は その コロ ココロ の ナカ に イロイロ な モンダイ を ありあまる ほど もって いた。 そして しじゅう あくせく しながら なにひとつ ジブン を 「マンゾク」 に ちかづける よう な シゴト を して いなかった。 ナニゴト も ヒトリ で かみしめて みる ワタシ の セイシツ と して、 ウワベ には ジュウニンナミ な セイカツ を セイカツ して いながら、 ワタシ の ココロ は ややともすると つきあげて くる フアン に いらいら させられた。 ある とき は ケッコン を くいた。 ある とき は オマエタチ の タンジョウ を にくんだ。 なぜ ジブン の セイカツ の ハタイロ を もっと センメイ に しない うち に ケッコン なぞ を した か。 ツマ の ある ため に ウシロ に ひきずって ゆかれねば ならぬ オモミ の イクツ か を、 なぜ このんで コシ に つけた の か。 なぜ フタリ の ニクヨク の ケッカ を テン から の タマモノ の よう に おもわねば ならぬ の か。 カテイ の コンリュウ に ついやす ロウリョク と セイリョク と を ジブン は ホカ に もちう べき では なかった の か。
 ワタシ は ジブン の ココロ の ミダレ から オマエタチ の ハハウエ を しばしば なかせたり さびしがらせたり した。 また オマエタチ を モギドウ に とりあつかった。 オマエタチ が すこし しゅうねく ないたり いがんだり する コエ を きく と、 ワタシ は ナニ か ザンギャク な こと を しない では いられなかった。 ゲンコウシ に でも むかって いた とき に、 オマエタチ の ハハウエ が、 ちいさな カジジョウ の ソウダン を もって きたり、 オマエタチ が なきさわいだり したり する と、 ワタシ は おもわず ツクエ を たたいて たちあがったり した。 そして アト では たまらない サビシサ に おそわれる の を しりぬいて いながら、 はげしい コトバ を つかったり、 きびしい セッカン を オマエタチ に くわえたり した。
 しかし ウンメイ が ワタシ の ワガママ と ムリカイ と を ばっする とき が きた。 どうしても オマエタチ を コモリ に まかせて おけない で、 マイバン オマエタチ 3 ニン を ジブン の マクラモト や、 サユウ に ふせらして、 よどおし ヒトリ を ねかしつけたり、 ヒトリ に ギュウニュウ を あたためて あてがったり、 ヒトリ に コヨウ を させたり して、 ろくろく ジュクスイ する ヒマ も なく アイ の カギリ を つくした オマエタチ の ハハウエ が、 41 ド と いう おそろしい ネツ を だして どっと トコ に ついた とき の オドロキ も さる こと では ある が、 シンサツ に きて くれた フタリ の イシ が クチ を そろえて、 ケッカク の チョウコウ が ある と いった とき には、 ワタシ は ただ ワケ も なく あおく なって しまった。 ケンタン の ケッカ は イシ たち の カンテイ を ウラガキ して しまった。 そして ヨッツ と ミッツ と フタツ と に なる オマエタチ を のこして、 10 ガツ スエ の さびしい アキ の ヒ に、 ハハウエ は ニュウイン せねば ならぬ カラダ と なって しまった。
 ワタシ は ニッチュウ の シゴト を おわる と とんで イエ に かえった。 そして オマエタチ の ヒトリ か フタリ を つれて ビョウイン に いそいだ。 ワタシ が その マチ に すまいはじめた コロ はたらいて いた コクメイ な モント の バアサン が ビョウシツ の セワ を して いた。 その バアサン は オマエタチ の スガタ を みる と かくしかくし ナミダ を ふいた。 オマエタチ は ハハウエ を シンダイ の ウエ に みつける と とんで いって かじりつこう と した。 ケッカクショウ で ある の を まだ あかされて いない オマエタチ の ハハウエ は、 タカラ を だきかかえる よう に オマエタチ を その ムネ に あつめよう と した。 ワタシ は イイカゲン に あしらって オマエタチ を シンダイ に ちかづけない よう に しなければ ならなかった。 チュウギ を しよう と しながら、 シュウイ の ヒト から キョクタン な ゴカイ を うけて、 それ を ベンカイ して ならない ジジョウ に おかれた ヒト の あじわいそう な ココロモチ を イクド も あじわった。 それでも ワタシ は もう おこる ユウキ は なかった。 ひきはなす よう に して オマエタチ を ハハウエ から とおざけて キロ に つく とき には、 たいてい ガイトウ の ヒカリ が あわく ドウロ を てらして いた。 ゲンカン を はいる と ヤトイニン だけ が ルス して いた。 カレラ は 2~3 ニン も いる くせ に、 のこして おいた アカンボウ の オシメ を かえよう とも しなかった。 きもちわるげ に なきさけぶ アカンボウ の マタ の シタ は よく グショヌレ に なって いた。
 オマエタチ は フシギ に タニン に なつかない コドモ たち だった。 ようよう オマエタチ を ねかしつけて から ワタシ は そっと ショサイ に はいって シラベモノ を した。 カラダ は つかれて アタマ は コウフン して いた。 シゴト を すまして ねつこう と する 11 ジ ゼンゴ に なる と、 シンケイ の カビン に なった オマエタチ は、 ユメ など を みて おびえながら メ を さます の だった。 アケガタ に なる と オマエタチ の ヒトリ は チチ を もとめて なきだした。 それ に おこされる と ワタシ の メ は もう アサ まで とじなかった。 アサメシ を くう と ワタシ は あかい メ を しながら、 かたい シン の よう な もの の できた アタマ を かかえて シゴト を する ところ に でかけた。
 キタグニ には フユ が みるみる せまって きた。 ある とき ビョウイン を おとずれる と、 オマエタチ の ハハウエ は シンダイ の ウエ に おきかえって マド の ソト を ながめて いた が、 ワタシ の カオ を みる と はやく タイイン が したい と いいだした。 マド の ソト の カエデ が あんな に なった の を みる と こころぼそい と いう の だ。 なるほど ニュウイン シタテ には もえる よう に エダ を かざって いた その ハ が 1 マイ も のこらず ちりつくして、 カダン の キク も シモ に いためられて、 しおれる とき でも ない のに しおれて いた。 ワタシ は この サビシサ を マイニチ みせて おく だけ でも いけない と おもった。 しかし ハハウエ の ホントウ の ココロモチ は そんな ところ には なくって、 オマエタチ から イッコク も はなれて は いられなく なって いた の だ。
 キョウ は いよいよ タイイン する と いう ヒ は、 アラレ の ふる、 さむい カゼ の びゅうびゅう と ふく わるい ヒ だった から、 ワタシ は おもいとどまらせよう と して、 シゴト を すます と すぐ ビョウイン に いって みた。 しかし ビョウシツ は カラッポ で、 レイ の バアサン が、 もらった もの やら、 ザブトン やら、 チャキ やら を ヘヤ の スミ で ごそごそ と シマツ して いた。 いそいで イエ に かえって みる と、 オマエタチ は もう ハハウエ の マワリ に あつまって うれしそう に さわいで いた。 ワタシ は それ を みる と ナミダ が こぼれた。
 しらない アイダ に ワタシタチ は はなれられない もの に なって しまって いた の だ。 5 ニン の オヤコ は どんどん おしよせて くる サムサ の マエ に、 ちいさく かたまって ミ を まもろう と する ザッソウ の カブ の よう に、 たがいに よりそって アタタカミ を わかちあおう と して いた の だ。 しかし キタグニ の サムサ は ワタシタチ 5 ニン の アタタカミ では まにあわない ほど さむかった。 ワタシ は ヒトリ の ビョウニン と がんぜない オマエタチ と を いたわりながら リョガン の よう に ミナミ を さして のがれなければ ならなく なった。
 それ は ハツユキ の どんどん ふりしきる ヨル の こと だった、 オマエタチ 3 ニン を うんで そだてて くれた トチ を アト に して タビ に のぼった のは。 わすれる こと の できない イクツ か の カオ は、 くらい テイシャバ の プラットフォーム から ワタシタチ に ナゴリ を おしんだ。 インウツ な ツガル カイキョウ の ウミ の イロ も ウシロ に なった。 トウキョウ まで ついて きて くれた ヒトリ の ガクセイ は、 オマエタチ の ナカ の いちばん ちいさい モノ を、 ハハ の よう に シュウヤ だきとおして いて くれた。 そんな こと を かけば カギリ が ない。 ともかく ワタシタチ は サイワイ に ケガ も なく、 フツカ の ものうい タビ の ノチ に バンシュウ の トウキョウ に ついた。
 イマ まで いた ところ と ちがって、 トウキョウ には タクサン の シンルイ や キョウダイ が いて、 ワタシタチ の ため に ふかい ドウジョウ を よせて くれた。 それ は ワタシ に どれほど の チカラ だったろう。 オマエタチ の ハハウエ は ほどなく K カイガン に ささやか な カシベッソウ を かりて すむ こと に なり、 ワタシタチ は キンジョ の リョカン に ヤド を とって、 そこ から ミマイ に かよった。 イチジ は ビョウセイ が ヒジョウ に おとろえた よう に みえた。 オマエタチ と ハハウエ と ワタシ とは カイガン の サキュウ に いって ヒナタボッコ を して たのしく 2~3 ジカン を すごす まで に なった。
 どういう つもり で ウンメイ が そんな ショウコウ を ワタシタチ に あたえた の か それ は わからない。 しかし カレ は どんな こと が あって も しとぐ べき こと を しとげず には おかなかった。 その トシ が クレ に せまった コロ オマエタチ の ハハウエ は カリソメ の カゼ から ぐんぐん わるい ほう へ むいて いった。 そして オマエタチ の ナカ の ヒトリ も とつぜん ゲンイン の わからない コウネツ に おかされた。 その ビョウキ の こと を ワタシ は ハハウエ に しらせる の に しのびなかった。 ビョウジ は ビョウジ で ワタシ を しばらく も てばなそう とは しなかった。 オマエタチ の ハハウエ から は ワタシ の ブサタ を せめて きた。 ワタシ は ついに たおれた。 ビョウジ と マクラ を ならべて、 イマ まで ケイケン した こと の ない コウネツ の ため に うめきくるしまねば ならなかった。 ワタシ の シゴト? ワタシ の シゴト は ワタシ から センリ も トオク に はなれて しまった。 それでも ワタシ は もう ワタシ を くやもう とは しなかった。 オマエタチ の ため に サイゴ まで たたかおう と する ネツイ が ビョウネツ より も たかく ワタシ の ムネ の ナカ で もえて いる のみ だった。
 ショウガツ そうそう ヒゲキ の ゼッチョウ が トウライ した。 オマエタチ の ハハウエ は ジブン の ビョウキ の シンソウ を あかされねば ならぬ ハメ に なった。 その むずかしい ヤクメ を つとめて くれた イシ が かえって ノチ の、 オマエタチ の ハハウエ の カオ を みた ワタシ の キオク は イッショウガイ ワタシ を かりたてる だろう。 マッサオ な すがすがしい カオ を して マクラ に ついた まま ハハウエ には つめたい カクゴ を ビショウ に いわして しずか に ワタシ を みた。 そこ には シ に たいする レジグネーション と ともに オマエタチ に たいする ねづよい シュウチャク が まざまざ と きざまれて いた。 それ は ものすごく さえ あった。 ワタシ は セイサン な カンジ に うたれて おもわず メ を ふせて しまった。
 いよいよ H カイガン の ビョウイン に ニュウイン する ヒ が きた。 オマエタチ の ハハウエ は ゼンカイ しない カギリ は しぬ とも オマエタチ に あわない カクゴ の ホゾ を かためて いた。 ニド とは きない と おもわれる ――そして じっさい きなかった―― ハレギ を きて ザ を たった ハハウエ は ナイガイ の ハハオヤ の メノマエ で さめざめ と なきくずれた。 オンナ ながら に キショウ の すぐれて つよい オマエタチ の ハハウエ は、 ワタシ と フタリ だけ いる バアイ でも ナキガオ など は みせた こと が ない と いって も いい くらい だった のに、 その とき の ナミダ は ふく アト から アト から ながれおちた。 その あつい ナミダ は オマエタチ だけ の とうとい ショユウブツ だ。 それ は イマ は かわいて しまった。 オオゾラ を わたる クモ の イッペン と なって いる か、 タニガワ の ミズ の イッテキ と なって いる か、 タイヨウ の アワ の ヒトツ と なって いる か、 または おもいがけない ヒト の ルイドウ に たくわえられて いる か、 それ は しらない。 しかし その あつい ナミダ は ともかくも オマエタチ だけ の とうとい ショユウブツ なの だ。
 ジドウシャ の いる ところ に くる と、 オマエタチ の ウチ ネツビョウ の ヨゴ に ある ヒトリ は、 アシ の たたない ため に ゲジョ に せおわれて、 ――ヒトリ は よちよち と あるいて、 ――いちばん スエ の コ は ハハウエ を くるしめすぎる だろう と いう ソフボ たち の ココロヅカイ から つれて こられなかった―― ハハウエ を ミオクリ に でて きて いた。 オマエタチ の がんぜない オドロキ の メ は、 おおきな ジドウシャ に ばかり むけられて いた。 オマエタチ の ハハウエ は さびしく それ を みやって いた。 ジドウシャ が うごきだす と オマエタチ は ジョチュウ に すすめられて ヘイタイ の よう に キョシュ の レイ を した。 ハハウエ は わらって かるく アタマ を さげて いた。 オマエタチ は ハハウエ が その シュンカン から エイキュウ に オマエタチ を はなれて しまう とは おもわなかったろう。 フコウ な モノタチ よ。
 それから オマエタチ の ハハウエ が サイゴ の イキ を ひきとる まで の 1 ネン と 7 カゲツ の アイダ、 ワタシタチ の アイダ には はげしい タタカイ が たたかわれた。 ハハウエ は シ に たいして サイジョウ の タイド を とる ため に、 オマエタチ に サイダイ の アイ を のこす ため に、 ワタシ を カゲン なし に リカイ する ため に、 ワタシ は ハハウエ を ビョウマ から すくう ため に、 ジブン に せまる ウンメイ を おとこらしく カタ に にないあげる ため に、 オマエタチ は フシギ な ウンメイ から ジブン を カイホウ する ため に、 ミ に ふさわない キョウグウ の ナカ に ジブン を はめこむ ため に、 たたかった。 チマブレ に なって たたかった と いって いい。 ワタシ も ハハウエ も オマエタチ も イクド ダンガン を うけ、 カタナキズ を うけ、 たおれ、 おきあがり、 また たおれたろう。
 オマエタチ が ムッツ と イツツ と ヨッツ に なった トシ の 8 ガツ の フツカ に シ が サットウ した。 シ が スベテ を アットウ した。 そして シ が スベテ を すくった。
 オマエタチ の ハハウエ の ユイゴンショ の ナカ で いちばん スウコウ な ブブン は オマエタチ に あたえられた イッセツ だった。 もし この カキモノ を よむ とき が あったら、 ドウジ に ハハウエ の イショ も よんで みる が いい。 ハハウエ は チ の ナミダ を なきながら、 しんで も オマエタチ に あわない ケッシン を ひるがえさなかった。 それ は ビョウキン を オマエタチ に つたえる の を おそれた ばかり では ない。 また オマエタチ を みる こと に よって ジブン の ココロ の やぶれる の を おそれた ばかり では ない。 オマエタチ の きよい ココロ に ザンコク な シ の スガタ を みせて、 オマエ たち の イッショウ を いやがうえに くらく する こと を おそれ、 オマエタチ の のびのびて ゆかなければ ならぬ レイコン に すこし でも おおきな キズ を のこす こと を おそれた の だ。 ヨウジ に シ を しらせる こと は ムエキ で ある ばかり で なく ユウガイ だ。 ソウシキ の とき は ジョチュウ を オマエタチ に つけて たのしく イチニチ を すごさして もらいたい。 そう オマエタチ の ハハウエ は かいて いる。
「コ を おもう オヤ の ココロ は ヒ の ヒカリ ヨ より ヨ を てる オオキサ に にて」
 とも えいじて いる。
 ハハウエ が なくなった とき、 オマエタチ は ちょうど シンシュウ の ヤマ の ウエ に いた。 もし オマエタチ の ハハウエ の リンジュウ に あわせなかったら イッショウ ウラミ に おもう だろう と さえ かいて よこして くれた オマエタチ の オジウエ に しいて たのんで、 オマエタチ を ヤマ から かえらせなかった ワタシ を オマエタチ が ザンコク だ と おもう とき が ある かも しれない。 イマ 11 ジ ハン だ。 この カキモノ を そうして いる ヘヤ の トナリ に オマエタチ は マクラ を ならべて ねて いる の だ。 オマエタチ は まだ ちいさい。 オマエタチ が ワタシ の トシ に なったら ワタシ の した こと を、 すなわち ハハウエ の させよう と した こと を アタイ たかく みる とき が くる だろう。
 ワタシ は この アイダ に どんな ミチ を とおって きたろう。 オマエタチ の ハハウエ の シ に よって、 ワタシ は ジブン の いきて ゆく べき ダイドウ に さまよいでた。 ワタシ は ジブン を アイゴ して その ミチ を ふみまよわず に とおって ゆけば いい の を しる よう に なった。 ワタシ は かつて ヒトツ の ソウサク の ナカ に ツマ を ギセイ に する ケッシン を した ヒトリ の オトコ の こと を かいた。 ジジツ に おいて オマエタチ の ハハウエ は ワタシ の ため に ギセイ に なって くれた。 ワタシ の よう に もちあわした チカラ の ツカイヨウ を しらなかった ニンゲン は ない。 ワタシ の シュウイ の モノ は ワタシ を イッコ の ショウシン な、 ロドン な、 シゴト の できない、 あわれむ べき オトコ と みる ホカ を しらなかった。 ワタシ の ショウシン と ロドン と ムノウリョク と を テッテイ さして みよう と して くれる モノ は なかった。 それ を オマエタチ の ハハウエ は ジョウジュ して くれた。 ワタシ は ジブン の ヨワサ に チカラ を かんじはじめた。 ワタシ は シゴト の できない ところ に シゴト を みいだした。 ダイタン に なれない ところ に ダイタン を みいだした。 エイビン で ない ところ に エイビン を みいだした。 コトバ を かえて いえば、 ワタシ は エイビン に ジブン の ロドン を みぬき、 ダイタン に ジブン の ショウシン を みとめ、 ロウエキ して ジブン の ムノウリョク を タイケン した。 ワタシ は この チカラ を もって オノレ を むちうち タ を いきる こと が できる よう に おもう。 オマエタチ が ワタシ の カコ を ながめて みる よう な こと が あったら、 ワタシ も ムダ には いきなかった の を しって よろこんで くれる だろう。
 アメ など が ふりくらして ユウウツ な キブン が イエ の ウチ に みなぎる ヒ など に、 どうか する と オマエタチ の ヒトリ が だまって ワタシ の ショサイ に はいって くる。 そして ヒトコト パパ と いった ぎり で、 ワタシ の ヒザ に よりかかった まま しくしく と なきだして しまう。 ああ ナニ が オマエタチ の がんぜない メ に ナミダ を ヨウキュウ する の だ。 フコウ な モノタチ よ。 オマエタチ が イワレ も ない カナシミ に くずれる の を みる に まして、 コノヨ を さびしく おもわせる もの は ない。 また オマエタチ が ゲンキ よく ワタシ に アサ の アイサツ を して から、 ハハウエ の シャシン の マエ に かけて いって、 「ママ ちゃん ごきげんよう」 と カイカツ に さけぶ シュンカン ほど、 ワタシ の ココロ の ソコ まで ぐざと えぐりとおす シュンカン は ない。 ワタシ は その とき、 ぎょっと して ムゴウ の セカイ を ガンゼン に みる。
 ヨノナカ の ヒト は ワタシ の ジュッカイ を ばかばかしい と おもう に ちがいない。 なぜなら ツマ の シ とは そこ にも ここ にも あきはてる ほど おびただしく ある コトガラ の ヒトツ に すぎない から だ。 そんな こと を ジュウダイシ する ほど ヨノナカ の ヒト は カンサン で ない。 それ は たしか に そう だ。 しかし それ にも かかわらず、 ワタシ と いわず、 オマエタチ も ゆくゆく は ハハウエ の シ を ナニモノ にも かえがたく かなしく くちおしい もの に おもう とき が くる の だ。 ヨノナカ の ヒト が ムトンジャク だ と いって それ を はじて は ならない。 それ は はず べき こと じゃ ない。 ワタシタチ は その ありがち の コトガラ の ナカ から も ジンセイ の サビシサ に ふかく ぶつかって みる こと が できる。 ちいさな こと が ちいさな こと で ない。 おおきな こと が おおきな こと で ない。 それ は ココロ ヒトツ だ。
 なにしろ オマエタチ は みる に いたましい ジンセイ の メバエ だ。 なく に つけ、 わらう に つけ、 おもしろがる に つけ、 さびしがる に つけ、 オマエタチ を みまもる チチ の ココロ は いたましく きずつく。
 しかし この カナシミ が オマエタチ と ワタシ と に どれほど の ツヨミ で ある か を オマエタチ は まだ しるまい。 ワタシタチ は この ソンシツ の おかげ で セイカツ に いちだん と フカイリ した の だ。 ワタシドモ の ネ は いくらか でも ダイチ に のびた の だ。 ジンセイ を いきる イジョウ ジンセイ に フカイリ しない もの は ワザワイ で ある。
 ドウジ に ワタシタチ は ジブン の カナシミ に ばかり ひたって いて は ならない。 オマエタチ の ハハウエ は なくなる まで、 キンセン の ワズライ から は ジユウ だった。 のみたい クスリ は なんでも のむ こと が できた。 くいたい タベモノ は なんでも くう こと が できた。 ワタシタチ は グウゼン な シャカイ ソシキ の ケッカ から こんな トッケン ならざる トッケン を キョウラク した。 オマエタチ の ある モノ は かすか ながら U シ イッカ の モヨウ を おぼえて いる だろう。 しんだ サイクン から ケッカク を つたえられた U シ が あの リチテキ な セイジョウ を もちながら、 テンリキョウ を しんじて、 その ゴキトウ で ビョウキ を いやそう と した その ココロモチ を かんがえる と、 ワタシ は たまらなく なる。 クスリ が きく もの か キトウ が きく もの か それ は しらない。 しかし U シ は イシャ の クスリ が のみたかった の だ。 しかし それ が できなかった の だ。 U シ は マイニチ ゲケツ しながら ヤクショ に かよった。 ハンケチ を きまとおした ノド から は しわがれた コエ しか でなかった。 はたらけば ビョウキ が おもる こと は しれきって いた。 それ を しりながら U シ は ゴキトウ を タノミ に して、 ロウボ と フタリ の コドモ との セイカツ を つづける ため に、 いさましく あくまで はたらいた。 そして ビョウキ が おもって から、 ナケナシ の カネ を だして して もらった コガエキ の チュウシャ は、 イナカ の イシ の フチュウイ から ジョウミャク を はずれて、 ゲキレツ な ネツ を ひきおこした。 そして U シ は ムシサン の ロウボ と ヨウジ と を アト に のこして その ため に たおれて しまった。 その ヒトタチ は ワタシタチ の トナリ に すんで いた の だ。 なんと いう ウンメイ の ヒニク だ。 オマエタチ は ハハウエ の シ を おもいだす と ともに、 U シ を おもいだす こと を わすれて は ならない。 そして この おそろしい ミゾ を うめる クフウ を しなければ ならない。 オマエタチ の ハハウエ の シ は オマエタチ の アイ を そこ まで ひろげさす に ジュウブン だ と おもう から ワタシ は いう の だ。
 じゅうぶん ジンセイ は さびしい。 ワタシタチ は ただ そう いって すまして いる こと が できる だろう か。 オマエタチ と ワタシ とは、 チ を あじわった ケモノ の よう に、 アイ を あじわった。 ゆこう、 そして できる だけ ワタシタチ の シュウイ を サビシサ から すくう ため に はたらこう。 ワタシ は オマエタチ を あいした。 そして エイエン に あいする。 それ は オマエタチ から オヤ と して の ホウシュウ を うける ため に いう の では ない。 オマエタチ を あいする こと を おしえて くれた オマエタチ に ワタシ の ヨウキュウ する もの は、 ただ ワタシ の カンシャ を うけとって もらいたい と いう こと だけ だ。 オマエタチ が イチニンマエ に そだちあがった とき、 ワタシ は しんで いる かも しれない。 イッショウ ケンメイ に はたらいて いる かも しれない。 ロウスイ して モノ の ヤク に たたない よう に なって いる かも しれない。 しかし いずれ の バアイ に しろ、 オマエタチ の たすけなければ ならない もの は ワタシ では ない。 オマエタチ の わかわかしい チカラ は すでに クダリザカ に むかおう と する ワタシ など に わずらわされて いて は ならない。 たおれた オヤ を くいつくして チカラ を たくわえる シシ の コ の よう に、 ちからづよく いさましく ワタシ を ふりすてて ジンセイ に のりだして ゆく が いい。
 イマ トケイ は ヨナカ を すぎて 1 ジ 15 フン を さして いる。 しんと しずまった ヨル の チンモク の ナカ に オマエタチ の ヘイワ な ネイキ だけ が かすか に この ヘヤ に きこえて くる。 ワタシ の メノマエ には オマエタチ の オバ が ハハウエ に とて おくられた バラ の ハナ が シャシン の マエ に おかれて いる。 それ に つけて おもいだす の は ワタシ が あの シャシン を とって やった とき だ。 その とき オマエタチ の ナカ の いちばん としたけた モノ が ハハウエ の ハラ に やどって いた。 ハハウエ は ジブン でも わからない フシギ な ノゾミ と オソレ と で しじゅう ココロ を なやまして いた。 その コロ の ハハウエ は ことに うつくしかった。 ギリシャ の ハハ の マネ だ と いって、 ヘヤ の ナカ に いい ショウゾウ を かざって いた。 その ナカ には ミネルバ の ゾウ や、 ゲーテ や、 クロムウェル や、 ナイティンゲール ジョシ や の ショウゾウ が あった。 その ショウジョ-じみた ヤシン を その とき の ワタシ は かるい ヒニク の ココロ で みて いた が、 イマ から おもう と ただ わらいすてて しまう こと は どうしても できない。 ワタシ が オマエタチ の ハハウエ の シャシン を とって やろう と いったら、 おもうぞんぶん ケショウ を して イチバン の ハレギ を きて、 ワタシ の 2 カイ の ショサイ に はいって きた。 ワタシ は むしろ おどろいて その スガタ を ながめた。 ハハウエ は さびしく わらって ワタシ に いった。 サン は オンナ の シュツジン だ。 いい コ を うむ か しぬ か、 その どっち か だ。 だから シニギワ の ヨソオイ を した の だ。 ――その とき も ワタシ は こころなく わらって しまった。 しかし、 イマ は それ も わらって は いられない。
 シンヤ の チンモク は ワタシ を ゲンシュク に する。 ワタシ の マエ には ツクエ を へだてて オマエタチ の ハハウエ が すわって いる よう に さえ おもう。 その ハハウエ の アイ は イショ に ある よう に オマエタチ を まもらず には いない だろう。 よく ねむれ。 フカシギ な トキ と いう もの の サヨウ に オマエタチ を うちまかして よく ねむれ。 そうして アス は キノウ より も おおきく かしこく なって、 ネドコ の ナカ から おどりだして こい。 ワタシ は ワタシ の ヤクメ を なしとげる こと に ゼンリョク を つくす だろう。 ワタシ の イッショウ が いかに シッパイ で あろう とも、 また ワタシ が いかなる ユウワク に うちまけよう とも、 オマエタチ は ワタシ の アシアト に フジュン な ナニモノ をも みいだしえない だけ の こと は する。 きっと する。 オマエタチ は ワタシ の たおれた ところ から あたらしく あゆみださねば ならない の だ。 しかし どちら の ホウコウ に どう あゆまねば ならぬ か は、 かすか ながら にも オマエタチ は ワタシ の アシアト から さがしだす こと が できる だろう。
 ちいさき モノ よ。 フコウ な そして ドウジ に コウフク な オマエタチ の チチ と ハハ との シュクフク を ムネ に しめて ヒト の ヨ の タビ に のぼれ。 ゼント は とおい。 そして くらい。 しかし おそれて は ならぬ。 おそれない モノ の マエ に ミチ は ひらける。
 ゆけ。 いさんで。 ちいさき モノ よ。
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