カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ノビジタク

2016-07-22 | シマザキ トウソン
 ノビジタク

 シマザキ トウソン

 14~15 に なる タイガイ の イエ の ムスメ が そう で ある よう に、 ソデコ も その トシゴロ に なって みたら、 ニンギョウ の こと なぞ は しだいに わすれた よう に なった。
 ニンギョウ に きせる キモノ だ ジュバン だ と いって オオサワギ した コロ の ソデコ は、 イクツ その ため に ちいさな キモノ を つくり、 イクツ ちいさな ズキン なぞ を つくって、 それ を おさない ヒ の タノシミ と して きた か しれない。 マチ の オモチャヤ から ヤスモノ を かって きて すぐに クビ の とれた もの、 カオ が よごれ ハナ が かけ する うち に オバケ の よう に きみわるく なって すてて しまった もの―― ソデコ の ふるい ニンギョウ にも いろいろ あった。 その ナカ でも、 トウサン に つれられて シンサイ マエ の マルゼン へ いった とき に かって もらって きた ニンギョウ は、 いちばん ながく あった。 あれ は ドイツ の ほう から シンニ が ついた ばかり だ と いう イロイロ な オモチャ と イッショ に、 あの マルゼン の 2 カイ に ならべて あった もの で、 イコク の コドモ の ナリ ながら に あいらしく、 カクヤス で、 しかも ジョウブ に できて いた。 チャイロ な カミ を かぶった よう な オトコ の コ の ニンギョウ で、 それ を ねかせば メ を つぶり、 おこせば ぱっちり と かわいい メ を みひらいた。 ソデコ が あの ニンギョウ に はなしかける の は、 いきて いる コドモ に はなしかける の と ほとんど カワリ が ない くらい で あった。 それほど に すき で、 だき、 かかえ、 なで、 もちあるき、 マイニチ の よう に キモノ を きせなおし など して、 あの ニンギョウ の ため には ちいさな フトン や ちいさな マクラ まで も つくった。 ソデコ が カゼ でも ひいて ガッコウ を やすむ よう な ヒ には、 カノジョ の マクラモト に アシ を なげだし、 いつでも わらった よう な カオ を しながら オトギバナシ の アイテ に なって いた の も、 あの ニンギョウ だった。
「ソデコ さん、 おあそびなさい な」
と いって、 ヒトコロ は よく カノジョ の ところ へ あそび に かよって きた キンジョ の コムスメ も ある。 ミツコ さん と いって、 ヨウチエン へ でも あがろう と いう トシゴロ の コムスメ の よう に、 ヒタイ の ところ へ カミ を きりさげて いる コ だ。 ソデコ の ほう でも よく その ミツコ さん を み に いって、 ヒマ さえ あれば イッショ に オリガミ を たたんだり、 オテダマ を ついたり して あそんだ もの だ。 そういう とき の フタリ の アイテ は、 いつでも あの ニンギョウ だった。 そんな に ホウアイ の マト で あった もの が、 しだいに ソデコ から わすれられた よう に なって いった。 それ ばかり で なく、 ソデコ が ニンギョウ の こと なぞ を イゼン の よう に オオサワギ しなく なった コロ には、 ミツコ さん とも そう あそばなく なった。
 しかし、 ソデコ は まだ ようやく コウトウ ショウガク の 1 ガクネン を おわる か おわらない ぐらい の トシゴロ で あった。 カノジョ とて も ナニ か なし には いられなかった。 コドモ の すき な ソデコ は、 いつのまにか キンジョ の イエ から ベツ の コドモ を だいて きて、 ジブン の ヘヤ で あそばせる よう に なった。 カゾエドシ の フタツ に しか ならない オトコ の コ で ある が、 あの きかない キ の ミツコ さん に くらべたら、 これ は また なんと いう おとなしい もの だろう。 キンノスケ さん と いう ナマエ から して オトコ の コ-らしく、 シモブクレ の した その カオ に エミ の うかぶ とき は、 ちいさな エクボ が あらわれて、 あいらしかった。 それに、 この コ の よい こと には、 ソデコ の イウナリ に なった。 どうして あの すこしも じっと して いない で、 どうか する と ソデコ の テ に おえない こと が おおかった ミツコ さん を あそばせる とは オオチガイ だ。 ソデコ は ニンギョウ を だく よう に キンノスケ さん を だいて、 どこ へ でも すき な ところ へ つれて ゆく こと が できた。 ジブン の ソバ に おいて あそばせたければ、 それ も できた。
 この キンノスケ さん は ショウガツ ウマレ の フタツ でも、 まだ いくらも ヒト の コトバ を しらない。 ツボミ の よう な その クチビル から は 「ウマウマ」 ぐらい しか もれて こない。 ハハオヤ イガイ の したしい モノ を よぶ にも、 「チャアチャン」 と しか まだ いいえなかった。 こんな おさない コドモ が ソデコ の イエ へ つれられて きて みる と、 ソデコ の トウサン が いる、 フタリ ある ニイサン たち も いる、 しかし キンノスケ さん は そういう ヒトタチ まで も 「チャアチャン」 と いって よぶ わけ では なかった。 やはり この おさない コドモ の よびかける コトバ は したしい モノ に かぎられて いた。 もともと キンノスケ さん を ソデコ の イエ へ、 はじめて だいて きて みせた の は ゲジョ の オハツ で、 オハツ の コボンノウ と きたら、 ソデコ に おとらなかった。
「チャアチャン」
 それ が チャノマ へ ソデコ を さがし に ゆく とき の コドモ の コエ だ。
「チャアチャン」
 それ が また ダイドコロ で はたらいて いる オハツ を さがす とき の コドモ の コエ でも ある の だ。 キンノスケ さん は、 まだ よちよち した おぼつかない アシモト で、 チャノマ と ダイドコロ の アイダ を いったり きたり して、 ソデコ や オハツ の カタ に つかまったり、 フタリ の スソ に まといついたり して たわむれた。
 3 ガツ の ユキ が ワタ の よう に マチ へ きて、 ヒトバン の うち に みごと に とけて ゆく コロ には、 ソデコ の イエ では もう ミツコ さん を よぶ コエ が おこらなかった。 それ が 「キンノスケ さん、 キンノスケ さん」 に かわった。
「ソデコ さん、 どうして おあそび に ならない ん です か。 ワタシ を おわすれ に なった ん です か」
 キンジョ の イエ の 2 カイ の マド から、 ミツコ さん の コエ が きこえて いた。 その ませた、 コムスメ-らしい コエ は、 ハルサキ の マチ の クウキ に たかく ひびけて きこえて いた。 ちょうど ソデコ は ある コウトウ ジョガッコウ への ジュケン の ジュンビ に いそがしい コロ で、 おそく なって イマ まで の ガッコウ から かえって きた とき に、 その ミツコ さん の コエ を きいた。 カノジョ は べつに わるい カオ も せず、 ただ それ を ききながした まま で イエ へ もどって みる と、 チャノマ の ショウジ の ワキ には オハツ が ハリシゴト しながら キンノスケ さん を あそばせて いた。
 どうした ハズミ から か、 その ヒ、 ソデコ は キンノスケ さん を おこらして しまった。 コドモ は ソデコ の ほう へ こない で、 オハツ の ほう へ ばかり いった。
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
 オハツ と コドモ は、 ソデコ の マエ で、 こんな コトバ を かわして いた。 コドモ から よびかけられる たび に、 オハツ は 「まあ、 かわいい」 と いう ヨウス を して、 おなじ こと を ナンド も ナンド も くりかえした。
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
「チャアチャン」
「はあい―― キンノスケ さん」
 あまり オハツ の コエ が たかかった ので、 そこ へ ソデコ の トウサン が エガオ を みせた。
「えらい サワギ だなあ。 オレ は ジブン の ヘヤ で きいて いた が、 まるで、 オマエタチ の は カケアイ じゃ ない か」
「ダンナサン」 と オハツ は ジブン でも おかしい よう に わらって、 やがて ソデコ と キンノスケ さん の カオ を みくらべながら、 「こんな に キンノスケ さん は ワタシ に ばかり ついて しまって…… ソデコ さん と キンノスケ さん とは、 キョウ は ケンカ です」
 この 「ケンカ」 が トウサン を わらわせた。
 ソデコ は テモチ ブサタ で、 オハツ の ソバ を はなれない で いる コドモ の カオ を みまもった。 オンナ にも して みたい ほど の イロ の しろい コ で、 やさしい マユ、 すこし ひらいた クチビル、 みじかい ウブゲ の まま の カミ、 こどもらしい オデコ―― すべて あいらしかった。 なんとなく ソデコ に むかって すねて いる よう な ムジャキサ は、 いっそう その こどもらしい ヨウス を あいらしく みせた。 こんな イジラシサ は、 あの セイメイ の ない ニンギョウ には なかった もの だ。
「なんと いって も、 キンノスケ さん は ソデ ちゃん の オニンギョウ さん だね」
と いって トウサン は わらった。
 そういう ソデコ の トウサン は ヤモメ で、 チュウネン で ツレアイ に しにわかれた ヒト に ある よう に、 オトコ の テ ヒトツ で どうにか こうにか ソデコ たち を おおきく して きた。 この トウサン は、 キンノスケ さん を ニンギョウ アツカイ に する ソデコ の こと を わらえなかった。 なぜかなら、 そういう ソデコ が、 じつは トウサン の ニンギョウ ムスメ で あった から で。 トウサン は、 ソデコ の ため に ニンギョウ まで も ジブン で みたて、 おなじ マルゼン の 2 カイ に あった ドイツ-デキ の ニンギョウ の ナカ でも ジブン の キ に いった よう な もの を もとめて、 それ を ソデコ に あてがった。 ちょうど ソデコ が あの ニンギョウ の ため に イクツ か の ちいさな キモノ を つくって きせた よう に、 トウサン は また ソデコ の ため に ジブン の コノミ に よった もの を えらんで きせて いた。
「ソデコ さん は かわいそう です。 イマ の うち に あかい ハデ な もの でも きせなかったら、 いつ きせる とき が ある ん です」
 こんな こと を いって ソデコ を かばう よう に する フジン の キャク なぞ が ない でも なかった が、 しかし トウサン は ききいれなかった。 ムスメ の ナリ は なるべく セイソ に。 その ジブン の コノミ から トウサン は わりだして、 ソデコ の きる もの でも、 モチモノ でも、 すべて ジブン で みたてて やった。 そして、 いつまでも ジブン の ニンギョウ ムスメ に して おきたかった。 いつまでも コドモ で、 ジブン の イウナリ に、 ジユウ に なる もの の よう に……
 ある アサ、 オハツ は ダイドコロ の ナガシモト に はたらいて いた。 そこ へ ソデコ が きて たった。 ソデコ は シキフ を かかえた まま モノ も いわない で、 あおざめた カオ を して いた。
「ソデコ さん、 どうした の」
 サイショ の うち こそ オハツ も フシギ そう に して いた が、 ソデコ から シキフ を うけとって みて、 すぐに その イミ を よんだ。 オハツ は タイカク も おおきく、 チカラ も ある オンナ で あった から、 ソデコ の ふるえる カラダ へ ウシロ から テ を かけて、 ハンブン だきかかえる よう に チャノマ の ほう へ つれて いった。 その ヘヤ の カタスミ に ソデコ を ねかした。
「そんな に シンパイ しない でも いい ん です よ。 ワタシ が よい よう に して あげる から―― ダレ でも ある こと なん だ から―― キョウ は ガッコウ を おやすみなさい ね」
と オハツ は ソデコ の マクラモト で いった。
 オバアサン も なく、 カアサン も なく、 ダレ も いって きかせる モノ の ない よう な カテイ で、 うまれて はじめて ソデコ の ケイケン する よう な こと が、 おもいがけない とき に やって きた。 めった に ガッコウ を やすんだ こと の ない ムスメ が、 しかも ジュケン マエ で いそがしがって いる とき で あった。 3 ガツ-らしい ハル の アサヒ が チャノマ の ショウジ に さして くる コロ には、 トウサン は ソデコ を み に きた。 その ヨウス を オハツ に といたずねた。
「ええ、 すこし……」
と オハツ は アイマイ な ヘンジ ばかり した。
 ソデコ は モノ も いわず に ねぐるしがって いた。 そこ へ トウサン が シンパイ して のぞき に くる たび に、 シマイ には オハツ の ほう でも かくしきれなかった。
「ダンナサン、 ソデコ さん の は ビョウキ では ありません」
 それ を きく と、 トウサン は ハンシン ハンギ の まま で、 ムスメ の ソバ を はなれた。 ヒゴロ カアサン の ヤク まで かねて キモノ の セワ から ナニ から イッサイ を ひきうけて いる トウサン でも、 その ヒ ばかり は まったく トウサン の ハタケ に ない こと で あった。 オトコオヤ の カナシサ には、 トウサン は それ イジョウ の こと を オハツ に たずねる こと も できなかった。
「もう ナンジ だろう」
と いって トウサン が チャノマ に かかって いる ハシラドケイ を み に きた コロ は、 その トケイ の ハリ が 10 ジ を さして いた。
「オヒル には ニイサン たち も かえって くる な」 と トウサン は チャノマ の ナカ を みまわして いった。 「オハツ、 オマエ に たのんで おく がね、 ミンナ ガッコウ から かえって きて きいたら、 そう いって おくれ―― キョウ は トウサン が ソデ ちゃん を やすませた から って―― もしか したら、 すこし アタマ が いたい から って」
 トウサン は ソデコ の ニイサン たち が ガッコウ から かえって くる バアイ を ヨソウ して、 ムスメ の ため に いろいろ コウジツ を かんがえた。
 ヒル すこし マエ には もう フタリ の ニイサン が ゼンゴ して イセイ よく かえって きた。 ヒトリ の ニイサン の ほう は ソデコ の ねて いる の を みる と だまって いなかった。
「おい、 どうした ん だい」
 その ケンマク に おそれて、 ソデコ は なきだしたい ばかり に なった。 そこ へ オハツ が とんで きて、 いろいろ イイワケ を した が、 なにも しらない ニイサン は ワケ の わからない と いう カオツキ で、 しきり に ソデコ を せめた。
「アタマ が いたい ぐらい で ガッコウ を やすむ なんて、 そんな ヤツ が ある かい。 ヨワムシ め」
「まあ、 そんな ひどい こと を いって、」 と オハツ は ニイサン を なだめる よう に した。 「ソデコ さん は ワタシ が やすませた ん です よ―― キョウ は ワタシ が やすませた ん です よ」
 フシギ な チンモク が つづいた。 トウサン で さえ それ を ときあかす こと が できなかった。 ただただ トウサン は だまって、 ソデコ の ねて いる ヘヤ の ソト の ロウカ を いったり きたり した。 あだかも ソデコ の コドモ の ヒ が もはや オワリ を つげた か の よう に―― いつまでも そう トウサン の ニンギョウ ムスメ では いない よう な、 ある まちうけた ヒ が、 とうとう トウサン の メノマエ へ やって きた か の よう に。
「オハツ、 ソデ ちゃん の こと は オマエ に よく たのんだ ぜ」
 トウサン は それ だけ の こと を いいにくそう に いって、 また ジブン の ヘヤ の ほう へ もどって いった。 こんな なやましい、 いう に いわれぬ イチニチ を ソデコ は トコ の ウエ に おくった。 ユウガタ には オオゼイ の ちいさな コドモ の コエ に まじって レイ の ミツコ さん の かんだかい コエ も イエ の ソト に ひびいた が、 ソデコ は それ を ねながら きいて いた。 ニワ の ワカクサ の メ も ヒトバン の うち に のびる よう な あたたかい ハル の ヨイ ながら に かなしい オモイ は、 ちょうど ソノママ の よう に ソデコ の ちいさな ムネ を なやましく した。
 ヨクジツ から ソデコ は オハツ に おしえられた とおり に して、 レイ の よう に ガッコウ へ でかけよう と した。 その トシ の 3 ガツ に うけそこなったら また 1 ネン またねば ならない よう な、 ダイジ な ジュケン の ジュンビ が カノジョ を まって いた。 その とき、 オハツ は ジブン が オンナ に なった とき の こと を いいだして、
「ワタシ は 17 の とき でした よ。 そんな に ジブン が おそかった もの です から ね。 もっと はやく アナタ に はなして あげる と よかった。 そのくせ ワタシ は はなそう はなそう と おもいながら、 まだ ソデコ さん には はやかろう と おもって、 イマ まで いわず に あった ん です よ…… つい、 ジブン が おそかった もの です から ね…… ガッコウ の タイソウ や なんか は、 その アイダ、 やすんだ ほう が いい ん です よ」
 こんな ハナシ を ソデコ に して きかせた。
 フアン やら、 シンパイ やら、 おもいだした ばかり でも キマリ の わるく、 カオ の あかく なる よう な オモイ で、 ソデコ は ガッコウ への ミチ を たどった。 この キュウゲキ な ヘンカ―― それ を しって しまえば、 シンパイ も なにも なく、 ありふれた こと だ と いう この ヘンカ を、 なんの ユエ で ある の か、 なんの ため で ある の か、 それ を ソデコ は しりたかった。 ジジツジョウ の こまかい チュウイ を のこりなく オハツ から おしえられた に して も、 こんな とき に カアサン でも いきて いて、 その ヒザ に だかれたら、 と しきり に こいしく おもった。 イツモ の よう に ガッコウ へ いって みる と、 ソデコ は もう イゼン の ジブン では なかった。 ことごとに ジユウ を うしなった よう で、 アタリ が せまかった。 キノウ まで の アソビ の トモダチ から は にわか に とおのいて、 オオゼイ の トモダチ が センセイ たち と ナワトビ に マリナゲ に キギ する サマ を ウンドウジョウ の スミ に さびしく ながめつくした。
 それから 1 シュウカン ばかり アト に なって、 ようやく ソデコ は アタリマエ の カラダ に かえる こと が できた。 あふれて くる もの は、 すべて きよい。 あだかも ハル の ユキ に ぬれて かえって のびる チカラ を ます ワカクサ の よう に、 シトナリザカリ の ソデコ は いっそう いきいき と した ケンコウ を カイフク した。
「まあ、 よかった」
と いって、 アタリ を みまわした とき の ソデコ は なにがなし に かなしい オモイ に うたれた。 その カナシミ は おさない ヒ に ワカレ を つげて ゆく カナシミ で あった。 カノジョ は もはや イマ まで の よう な メ で もって、 キンジョ の コドモ たち を みる こと も できなかった。 あの ミツコ さん なぞ が くろい ふさふさ した カミノケ を ふって、 さも ムジャキ に、 イエ の マワリ を かけまわって いる の を みる と、 ソデコ は ジブン でも、 もう イチド なにも しらず に ねむって みたい と おもった。
 オトコ と オンナ の ソウイ が、 イマ は あきらか に ソデコ に みえて きた。 さも ノンキ そう な ニイサン たち と ちがって、 カノジョ は ジブン を まもらねば ならなかった。 オトナ の セカイ の こと は すっかり わかって しまった とは いえない まで も、 すくなくも それ を のぞいて みた。 その ココロ から、 ソデコ は いいあらわしがたい オドロキ をも さそわれた。
 ソデコ の カアサン は、 カノジョ が うまれる と まもなく はげしい サンゴ の シュッケツ で なくなった ヒト だ。 その カアサン が なくなる とき には、 ヒト の カラダ に さしたり ひいたり する シオ が 3 マイ も 4 マイ も の カアサン の ヒトエ を シズク の よう に した。 それほど おそろしい イキオイ で カアサン から ひいて いった シオ が ――15 ネン の ノチ に なって―― あの カアサン と セイメイ の トリカエッコ を した よう な ニンギョウ ムスメ に さして きた。 ソラ に ある ツキ が みちたり かけたり する たび に、 それ と コキュウ を あわせる よう な、 キセキ で ない キセキ は、 まだ ソデコ には よく のみこめなかった。 それ が ヒト の いう よう に キソクテキ に あふれて こよう とは、 しんじられ も しなかった。 ユエ も ない フアン は まだ つづいて いて、 たえず カノジョ を おびやかした。 ソデコ は、 その シンパイ から、 コドモ と オトナ の フタツ の セカイ の トチュウ の ミチバタ に いきづき ふるえて いた。
 コドモ の すき な オハツ は あいかわらず キンジョ の イエ から キンノスケ さん を だいて きた。 がんぜない コドモ は、 イゼン にも まさる かわいげ な ヒョウジョウ を みせて、 ソデコ の カタ に すがったり、 その アト を おったり した。
「チャアチャン」
 したしげ に よぶ キンノスケ さん の コエ に カワリ は なかった。 しかし ソデコ は もう イゼン と おなじ よう には この オトコ の コ を だけなかった。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

あかい ロウソク と ニンギョ

2016-07-07 | オガワ ミメイ
 あかい ロウソク と ニンギョ

 オガワ ミメイ

 1

 ニンギョ は、 ミナミ の ほう の ウミ に ばかり すんで いる の では ありません。 キタ の ウミ にも すんで いた の で あります。
 ホッポウ の ウミ の イロ は、 あおう ございました。 ある とき、 イワ の ウエ に、 オンナ の ニンギョ が あがって、 アタリ の ケシキ を ながめながら やすんで いました。
 クモマ から もれた ツキ の ヒカリ が さびしく、 ナミ の ウエ を てらして いました。 どちら を みて も かぎりない、 ものすごい ナミ が、 うねうね と うごいて いる の で あります。
 なんと いう、 さびしい ケシキ だろう と、 ニンギョ は おもいました。 ジブン たち は、 ニンゲン と あまり スガタ は かわって いない。 サカナ や、 また そこぶかい ウミ の ナカ に すんで いる、 キ の あらい、 イロイロ な ケモノ など と くらべたら、 どれほど ニンゲン の ほう に、 ココロ も スガタ も にて いる か しれない。 それだのに、 ジブン たち は、 やはり サカナ や、 ケモノ など と イッショ に、 つめたい、 くらい、 キ の めいりそう な ウミ の ナカ に くらさなければ ならない と いう の は、 どうした こと だろう と おもいました。
 ながい トシツキ の アイダ、 ハナシ を する アイテ も なく、 いつも あかるい ウミ の オモテ を あこがれて、 くらして きた こと を おもいます と、 ニンギョ は たまらなかった の で あります。 そして、 ツキ の あかるく てらす バン に、 ウミ の オモテ に うかんで、 イワ の ウエ に やすんで、 イロイロ な クウソウ に ふける の が ツネ で ありました。
「ニンゲン の すんで いる マチ は、 うつくしい と いう こと だ。 ニンゲン は、 サカナ より も、 また ケモノ より も、 ニンジョウ が あって やさしい と きいて いる。 ワタシタチ は、 サカナ や ケモノ の ナカ に すんで いる が、 もっと ニンゲン の ほう に ちかい の だ から、 ニンゲン の ナカ に はいって くらされない こと は ない だろう」 と、 ニンギョ は かんがえました。
 その ニンギョ は オンナ で ありました。 そして ミモチ で ありました。 ……ワタシタチ は、 もう ながい アイダ、 この さびしい、 ハナシ を する モノ も ない、 キタ の あおい ウミ の ナカ で くらして きた の だ から、 もはや、 あかるい、 にぎやか な クニ は のぞまない けれど、 これから うまれる コドモ に、 せめても、 こんな かなしい、 たよりない オモイ を させたく ない もの だ。……
 コドモ から わかれて、 ヒトリ、 さびしく ウミ の ナカ に くらす と いう こと は、 コノウエ も ない かなしい こと だ けれど、 コドモ が どこ に いて も、 シアワセ に くらして くれた なら、 ワタシ の ヨロコビ は、 それ に ました こと は ない。
 ニンゲン は、 この セカイ の ウチ で、 いちばん やさしい もの だ と きいて いる。 そして、 かわいそう な モノ や、 たよりない モノ は、 けっして いじめたり、 くるしめたり する こと は ない と きいて いる。 いったん てづけた なら、 けっして、 それ を すてない とも きいて いる。 さいわい、 ワタシタチ は、 ミンナ よく カオ が ニンゲン に にて いる ばかり で なく、 ドウ から ウエ は ニンゲン ソノママ なの で ある から ――サカナ や ケモノ の セカイ で さえ、 くらされる ところ を おもえば―― ニンゲン の セカイ で くらされない こと は ない。 イチド、 ニンゲン が テ に とりあげて そだてて くれたら、 きっと ムジヒ に すてる こと も あるまい と おもわれる。……
 ニンギョ は、 そう おもった の で ありました。
 せめて、 ジブン の コドモ だけ は、 にぎやか な、 あかるい、 うつくしい マチ で そだてて おおきく したい と いう ナサケ から、 オンナ の ニンギョ は、 コドモ を リク の ウエ に うみおとそう と した の で あります。 そう すれば、 ジブン は、 ふたたび ワガコ の カオ を みる こと は できぬ かも しれない が、 コドモ は ニンゲン の ナカマイリ を して、 コウフク に セイカツ を する こと が できる で あろう と おもった の です。
 はるか、 かなた には、 カイガン の こだかい ヤマ に ある、 ジンジャ の アカリ が ちらちら と ナミマ に みえて いました。 ある ヨ、 オンナ の ニンギョ は、 コドモ を うみおとす ため に、 つめたい、 くらい ナミ の アイダ を およいで、 リク の ほう に むかって ちかづいて きました。

 2

 カイガン に、 ちいさな マチ が ありました。 マチ には、 イロイロ な ミセ が ありました が、 オミヤ の ある ヤマ の シタ に、 まずしげ な ロウソク を あきなって いる ミセ が ありました。
 その イエ には、 トシヨリ の フウフ が すんで いました。 オジイサン が ロウソク を つくって、 オバアサン が ミセ で うって いた の で あります。 この マチ の ヒト や、 また フキン の リョウシ が オミヤ へ オマイリ を する とき に、 この ミセ に たちよって、 ロウソク を かって ヤマ へ のぼりました。
 ヤマ の ウエ には、 マツ の キ が はえて いました。 その ナカ に オミヤ が ありました。 ウミ の ほう から ふいて くる カゼ が、 マツ の コズエ に あたって、 ヒル も、 ヨル も、 ごーごー と なって います。 そして、 マイバン の よう に、 その オミヤ に あがった ロウソク の ホカゲ が、 ちらちら と ゆらめいて いる の が、 とおい ウミ の ウエ から のぞまれた の で あります。
 ある ヨ の こと で ありました。 オバアサン は、 オジイサン に むかって、
「ワタシタチ が、 こうして くらして いる の も、 みんな カミサマ の おかげ だ。 この ヤマ に オミヤ が なかったら、 ロウソク は うれない。 ワタシドモ は、 ありがたい と おもわなければ なりません。 そう おもった ツイデ に、 ワタシ は、 これから オヤマ へ のぼって オマイリ を して きましょう」 と いいました。
「ホントウ に、 オマエ の いう とおり だ。 ワタシ も マイニチ、 カミサマ を ありがたい と ココロ では オレイ を もうさない ヒ は ない が、 つい ヨウジ に かまけて、 たびたび オヤマ へ オマイリ に ゆき も しない。 いい ところ へ キ が つきなされた。 ワタシ の ブン も よく オレイ を もうして きて おくれ」 と、 オジイサン は こたえました。
 オバアサン は、 とぼとぼ と イエ を でかけました。 ツキ の いい バン で、 ヒルマ の よう に ソト は あかるかった の で あります。 オミヤ へ オマイリ を して、 オバアサン は ヤマ を おりて きます と、 イシダン の シタ に、 アカンボウ が ないて いました。
「かわいそう に、 ステゴ だ が、 ダレ が こんな ところ に すてた の だろう。 それにしても フシギ な こと は、 オマイリ の カエリ に、 ワタシ の メ に とまる と いう の は、 ナニ か の エン だろう。 コノママ に みすてて いって は、 カミサマ の バチ が あたる。 きっと カミサマ が、 ワタシタチ フウフ に コドモ の ない の を しって、 おさずけ に なった の だ から、 かえって オジイサン と ソウダン を して そだてましょう」 と、 オバアサン は ココロ の ウチ で いって、 アカンボウ を とりあげながら、
「おお、 かわいそう に、 かわいそう に」 と いって、 ウチ へ だいて かえりました。
 オジイサン は、 オバアサン の かえる の を まって います と、 オバアサン が、 アカンボウ を だいて かえって きました。 そして、 イチブ シジュウ を オバアサン は、 オジイサン に はなします と、
「それ は、 まさしく カミサマ の オサズケゴ だ から、 ダイジ に して そだてなければ バチ が あたる」 と、 オジイサン も もうしました。
 フタリ は、 その アカンボウ を そだてる こと に しました。 その コ は オンナ の コ で あった の です。 そして ドウ から シタ の ほう は、 ニンゲン の スガタ で なく、 サカナ の カタチ を して いました ので、 オジイサン も、 オバアサン も、 ハナシ に きいて いる ニンギョ に ちがいない と おもいました。
「これ は、 ニンゲン の コ じゃあ ない が……」 と、 オジイサン は、 アカンボウ を みて アタマ を かたむけました。
「ワタシ も、 そう おもいます。 しかし ニンゲン の コ で なくて も、 なんと、 やさしい、 かわいらしい カオ の オンナ の コ で ありません か」 と、 オバアサン は いいました。
「いい とも、 なんでも かまわない。 カミサマ の おさずけ なさった コドモ だ から、 ダイジ に して そだてよう。 きっと おおきく なったら、 リコウ な、 いい コ に なる に ちがいない」 と、 オジイサン も もうしました。
 その ヒ から、 フタリ は、 その オンナ の コ を ダイジ に そだてました。 おおきく なる に つれて、 クロメガチ で、 うつくしい カミノケ の、 ハダ の イロ の ウスクレナイ を した、 おとなしい リコウ な コ と なりました。

 3

 ムスメ は、 おおきく なりました けれど、 スガタ が かわって いる ので、 はずかしがって カオ を ソト へ だしません でした。 けれど、 ヒトメ その ムスメ を みた ヒト は、 ミンナ びっくり する よう な うつくしい キリョウ で ありました から、 ナカ には どうか して その ムスメ を みたい と おもって、 ロウソク を かい に きた モノ も ありました。
 オジイサン や、 オバアサン は、
「ウチ の ムスメ は、 ウチキ で ハズカシガリヤ だ から、 ヒトサマ の マエ には でない の です」 と いって いました。
 オクノマ で オジイサン は、 せっせと ロウソク を つくって いました。 ムスメ は、 ジブン の オモイツキ で、 きれい な エ を かいたら、 ミンナ が よろこんで、 ロウソク を かう だろう と おもいました から、 その こと を オジイサン に はなします と、 そんなら オマエ の すき な エ を、 ためしに かいて みる が いい と こたえました。
 ムスメ は、 あかい エノグ で、 しろい ロウソク に、 サカナ や、 カイ や、 または カイソウ の よう な もの を、 ウマレツキ で、 ダレ にも ならった の では ない が ジョウズ に えがきました。 オジイサン は、 それ を みる と びっくり いたしました。 ダレ でも、 その エ を みる と、 ロウソク が ほしく なる よう に、 その エ には、 フシギ な チカラ と、 ウツクシサ と が こもって いた の で あります。
「うまい はず だ。 ニンゲン では ない、 ニンギョ が かいた の だ もの」 と、 オジイサン は カンタン して、 オバアサン と はなしあいました。
「エ を かいた ロウソク を おくれ」 と いって、 アサ から バン まで、 コドモ や、 オトナ が この ミセサキ へ かい に きました。 はたして、 エ を かいた ロウソク は、 ミンナ に うけた の で あります。
 すると、 ここ に フシギ な ハナシ が ありました。 この エ を かいた ロウソク を ヤマ の ウエ の オミヤ に あげて、 その モエサシ を ミ に つけて、 ウミ に でる と、 どんな ダイ ボウフウウ の ヒ でも、 けっして、 フネ が テンプク したり、 おぼれて しぬ よう な サイナン が ない と いう こと が、 いつから とも なく、 ミンナ の クチグチ に、 ウワサ と なって のぼりました。
「ウミ の カミサマ を まつった オミヤサマ だ もの、 きれい な ロウソク を あげれば、 カミサマ も およろこび なさる の に きまって いる」 と、 その マチ の ヒトビト は いいました。
 ロウソクヤ では、 ロウソク が うれる ので、 オジイサン は イッショウ ケンメイ に アサ から バン まで、 ロウソク を つくります と、 ソバ で ムスメ は、 テ の いたく なる の も ガマン して、 あかい エノグ で エ を かいた の で あります。
「こんな、 ニンゲンナミ で ない ジブン をも、 よく そだてて、 かわいがって くだすった ゴオン を わすれて は ならない」 と、 ムスメ は、 ロウフウフ の やさしい ココロ に かんじて、 おおきな くろい ヒトミ を うるませた こと も あります。
 この ハナシ は トオク の ムラ まで ひびきました。 エンポウ の フナノリ や、 また リョウシ は、 カミサマ に あがった、 エ を かいた ロウソク の モエサシ を テ に いれたい もの だ と いう ので、 わざわざ とおい ところ を やって きました。 そして、 ロウソク を かって ヤマ に のぼり、 オミヤ に サンケイ して、 ロウソク に ヒ を つけて ささげ、 その もえて みじかく なる の を まって、 また それ を いただいて かえりました。 だから、 ヨル と なく、 ヒル と なく、 ヤマ の ウエ の オミヤ には、 ロウソク の ヒ の たえた こと は ありません。 ことに、 ヨル は うつくしく、 トモシビ の ヒカリ が ウミ の ウエ から も のぞまれた の で あります。
「ホントウ に、 ありがたい カミサマ だ」 と いう ヒョウバン は、 セケン に たちました。 それで、 キュウ に この ヤマ が なだかく なりました。
 カミサマ の ヒョウバン は、 このよう に たかく なりました けれど、 ダレ も、 ロウソク に イッシン を こめて エ を かいて いる ムスメ の こと を、 おもう モノ は なかった の です。 したがって、 その ムスメ を かわいそう に おもった ヒト は なかった の で あります。 ムスメ は、 つかれて、 おりおり は、 ツキ の いい ヨル に、 マド から アタマ を だして、 とおい、 キタ の あおい、 あおい、 ウミ を こいしがって、 なみだぐんで ながめて いる こと も ありました。

 4

 ある とき、 ミナミ の ほう の クニ から、 ヤシ が はいって きました。 ナニ か キタ の クニ へ いって、 めずらしい もの を さがして、 それ をば ミナミ の クニ へ もって いって、 カネ を もうけよう と いう の で あります。
 ヤシ は、 どこ から ききこんで きた もの か、 または、 いつ ムスメ の スガタ を みて、 ホントウ の ニンゲン では ない、 じつに ヨ に めずらしい ニンギョ で ある こと を みぬいた もの か、 ある ヒ の こと、 こっそり と トシヨリ フウフ の ところ へ やって きて、 ムスメ には わからない よう に、 タイキン を だす から、 その ニンギョ を うって は くれない か と もうした の で あります。
 トシヨリ フウフ は、 サイショ の うち は、 この ムスメ は、 カミサマ が おさずけ に なった の だ から、 どうして うる こと が できよう。 そんな こと を したら、 バチ が あたる と いって ショウチ を しません でした。 ヤシ は 1 ド、 2 ド ことわられて も こりず に、 また やって きました。 そして、 トシヨリ フウフ に むかって、
「ムカシ から、 ニンギョ は、 フキツ な もの と して ある。 イマ の うち に、 テモト から はなさない と、 きっと わるい こと が ある」 と、 まことしやか に もうした の で あります。
 トシヨリ フウフ は、 ついに ヤシ の いう こと を しんじて しまいました。 それに タイキン に なります ので、 つい カネ に ココロ を うばわれて、 ムスメ を ヤシ に うる こと に ヤクソク を きめて しまった の で あります。
 ヤシ は、 たいそう よろこんで かえりました。 いずれ その うち に、 ムスメ を ウケトリ に くる と いいました。
 この ハナシ を ムスメ が しった とき は、 どんな に おどろいた で ありましょう。 ウチキ な、 やさしい ムスメ は、 この イエ から はなれて、 イクヒャクリ も とおい、 しらない、 あつい ミナミ の クニ へ ゆく こと を おそれました。 そして、 ないて、 トシヨリ フウフ に ねがった の で あります。
「ワタシ は、 どんな に でも はたらきます から、 どうぞ しらない ミナミ の クニ へ うられて ゆく こと は、 ゆるして くださいまし」 と いいました。
 しかし、 もはや、 オニ の よう な ココロモチ に なって しまった トシヨリ フウフ は、 なんと いって も、 ムスメ の いう こと を ききいれません でした。
 ムスメ は、 ヘヤ の ウチ に とじこもって、 イッシン に ロウソク の エ を かいて いました。 しかし、 トシヨリ フウフ は それ を みて も、 いじらしい とも、 あわれ とも、 おもわなかった の で あります。
 ツキ の あかるい バン の こと で あります。 ムスメ は、 ヒトリ ナミ の オト を ききながら、 ミ の ユクスエ を おもうて かなしんで いました。 ナミ の オト を きいて いる と、 なんとなく、 トオク の ほう で、 ジブン を よんで いる モノ が ある よう な キ が しました ので、 マド から、 ソト を のぞいて みました。 けれど、 ただ あおい、 あおい ウミ の ウエ に ツキ の ヒカリ が、 はてしなく、 てらして いる ばかり で ありました。
 ムスメ は、 また、 すわって、 ロウソク に エ を かいて いました。 すると、 この とき、 オモテ の ほう が さわがしかった の です。 いつか の ヤシ が、 いよいよ この ヨ ムスメ を つれ に きた の です。 おおきな、 テツゴウシ の はまった、 シカク な ハコ を クルマ に のせて きました。 その ハコ の ナカ には、 かつて、 トラ や、 シシ や、 ヒョウ など を いれた こと が ある の です。
 この やさしい ニンギョ も、 やはり ウミ の ナカ の ケモノ だ と いう ので、 トラ や、 シシ と おなじ よう に とりあつかおう と した の で あります。 ほどなく、 この ハコ を ムスメ が みたら、 どんな に たまげた で ありましょう。
 ムスメ は、 それ とも しらず に、 シタ を むいて、 エ を かいて いました。 そこ へ、 オジイサン と、 オバアサン と が はいって きて、
「さあ、 オマエ は ゆく の だ」 と いって、 つれだそう と しました。
 ムスメ は、 テ に もって いた ロウソク に、 せきたてられる ので エ を かく こと が できず に、 それ を みんな あかく ぬって しまいました。
 ムスメ は、 あかい ロウソク を、 ジブン の かなしい オモイデ の キネン に、 2~3 ボン のこして いった の で あります。

 5

 ホントウ に おだやか な バン の こと です。 オジイサン と オバアサン は、 ト を しめて、 ねて しまいました。
 マヨナカ-ゴロ で ありました。 とん、 とん、 と、 ダレ か ト を たたく モノ が ありました。 トシヨリ の モノ です から みみさとく、 その オト を ききつけて、 ダレ だろう と おもいました。
「ドナタ?」 と、 オバアサン は いいました。
 けれども それ には コタエ が なく、 つづけて、 とん、 とん、 と ト を たたきました。
 オバアサン は おきて きて、 ト を ホソメ に あけて ソト を のぞきました。 すると、 ヒトリ の イロ の しろい オンナ が トグチ に たって いました。
 オンナ は ロウソク を かい に きた の です。 オバアサン は、 すこし でも オカネ が もうかる こと なら、 けっして、 いや な カオツキ を しません でした。
 オバアサン は、 ロウソク の ハコ を とりだして オンナ に みせました。 その とき、 オバアサン は びっくり しました。 オンナ の ながい、 くろい カミノケ が びっしょり と ミズ に ぬれて、 ツキ の ヒカリ に かがやいて いた から で あります。 オンナ は ハコ の ナカ から、 マッカ な ロウソク を とりあげました。 そして、 じっと それ に みいって いました が、 やがて カネ を はらって、 その あかい ロウソク を もって かえって ゆきました。
 オバアサン は、 トモシビ の ところ で、 よく その カネ を しらべて みる と、 それ は オカネ では なくて、 カイガラ で ありました。 オバアサン は、 だまされた と おもって、 おこって、 ウチ から とびだして みました が、 もはや、 その オンナ の カゲ は、 どちら にも みえなかった の で あります。
 その ヨ の こと で あります。 キュウ に ソラ の モヨウ が かわって、 チカゴロ に ない オオアラシ と なりました。 ちょうど ヤシ が、 ムスメ を オリ の ナカ に いれて、 フネ に のせて、 ミナミ の ほう の クニ へ ゆく トチュウ で、 オキ に あった コロ で あります。
「この オオアラシ では、 とても、 あの フネ は たすかるまい」 と、 オジイサン と、 オバアサン は、 ぶるぶる と ふるえながら、 ハナシ を して いました。
 ヨ が あける と、 オキ は マックラ で、 ものすごい ケシキ で ありました。 その ヨ、 ナンセン を した フネ は、 かぞえきれない ほど で あります。
 フシギ な こと には、 その ノチ、 あかい ロウソク が、 ヤマ の オミヤ に ともった バン は、 イマ まで、 どんな に テンキ が よくて も、 たちまち オオアラシ と なりました。 それから、 あかい ロウソク は、 フキツ と いう こと に なりました。 ロウソクヤ の トシヨリ フウフ は、 カミサマ の バチ が あたった の だ と いって、 それぎり、 ロウソクヤ を やめて しまいました。
 しかし、 どこ から とも なく、 ダレ が、 オミヤ に あげる もの か、 たびたび、 あかい ロウソク が ともりました。 ムカシ は、 この オミヤ に あがった エ の かいた ロウソク の モエサシ さえ もって いれば、 けっして、 ウミ の ウエ では サイナン には かからなかった もの が、 コンド は、 あかい ロウソク を みた だけ でも、 その モノ は きっと サイナン に かかって、 ウミ に おぼれて しんだ の で あります。
 たちまち、 この ウワサ が セケン に つたわる と、 もはや、 ダレ も、 この ヤマ の ウエ の オミヤ に サンケイ する モノ が なくなりました。 こうして、 ムカシ、 あらたか で あった カミサマ は、 イマ は、 マチ の キモン と なって しまいました。 そして、 こんな オミヤ が、 この マチ に なければ いい もの と、 うらまぬ モノ は なかった の で あります。
 フナノリ は、 オキ から、 オミヤ の ある ヤマ を ながめて おそれました。 ヨル に なる と、 この ウミ の ウエ は、 なんとなく ものすごう ございました。 ハテシ も なく、 どちら を みまわして も、 たかい ナミ が うねうね と うねって います。 そして、 イワ に くだけて は、 しろい アワ が たちあがって います。 ツキ が、 クモマ から もれて ナミ の オモテ を てらした とき は、 まことに きみわるう ございました。
 マックラ な、 ホシ も みえない、 アメ の ふる バン に、 ナミ の ウエ から、 あかい ロウソク の ヒ が、 ただよって、 だんだん たかく のぼって、 いつしか ヤマ の ウエ の オミヤ を さして、 ちらちら と うごいて ゆく の を みた モノ が あります。
 イクネン も たたず して、 その フモト の マチ は ほろびて、 なくなって しまいました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする