カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

チュウモン の おおい リョウリテン

2018-12-22 | ミヤザワ ケンジ
 チュウモン の おおい リョウリテン

 ミヤザワ ケンジ

 フタリ の わかい シンシ が、 すっかり イギリス の ヘイタイ の カタチ を して、 ぴかぴか する テッポウ を かついで、 シロクマ の よう な イヌ を 2 ヒキ つれて、 だいぶ ヤマオク の、 コノハ の かさかさ した とこ を、 こんな こと を いいながら、 あるいて おりました。
「ぜんたい、 ここら の ヤマ は けしからん ね。 トリ も ケモノ も 1 ピキ も いやがらん。 なんでも かまわない から、 はやく たんたあーん と、 やって みたい もん だなあ」
「シカ の キイロ な ヨコッパラ なんぞ に、 2~3 パツ おみまい もうしたら、 ずいぶん ツウカイ だろう ねえ。 くるくる まわって、 それから どたっと たおれる だろう ねえ」
 それ は ダイブ の ヤマオク でした。 アンナイ して きた センモン の テッポウウチ も、 ちょっと まごついて、 どこ か へ いって しまった くらい の ヤマオク でした。
 それに、 あんまり ヤマ が ものすごい ので、 その シロクマ の よう な イヌ が、 2 ヒキ イッショ に メマイ を おこして、 しばらく うなって、 それから アワ を はいて しんで しまいました。
「じつに ボク は、 2400 エン の ソンガイ だ」 と ヒトリ の シンシ が、 その イヌ の マブタ を、 ちょっと かえして みて いいました。
「ボク は 2800 エン の ソンガイ だ」 と、 も ヒトリ が、 くやしそう に、 アタマ を まげて いいました。
 ハジメ の シンシ は、 すこし カオイロ を わるく して、 じっと、 も ヒトリ の シンシ の、 カオツキ を みながら いいました。
「ボク は もう もどろう と おもう」
「さあ、 ボク も ちょうど さむく は なった し ハラ は すいて きた し もどろう と おもう」
「そいじゃ、 これ で きりあげよう。 なあに モドリ に、 キノウ の ヤドヤ で、 ヤマドリ を 10 エン も かって かえれば いい」
「ウサギ も でて いた ねえ。 そう すれば けっきょく おんなじ こった。 では かえろう じゃ ない か」
 ところが どうも こまった こと は、 どっち へ いけば もどれる の か、 いっこう ケントウ が つかなく なって いました。
 カゼ が どうと ふいて きて、 クサ は ざわざわ、 コノハ は かさかさ、 キ は ごとん ごとん と なりました。
「どうも ハラ が すいた。 サッキ から ヨコッパラ が いたくて たまらない ん だ」
「ボク も そう だ。 もう あんまり あるきたく ない な」
「あるきたく ない よ。 ああ こまった なあ、 ナニ か たべたい なあ」
「たべたい もん だなあ」
 フタリ の シンシ は、 ざわざわ なる ススキ の ナカ で、 こんな こと を いいました。
 その とき ふと ウシロ を みます と、 リッパ な 1 ケン の セイヨウヅクリ の ウチ が ありました。
 そして ゲンカン には、
    RESTAURANT
    セイヨウ リョウリテン
    WILDCAT HOUSE
    ヤマネコ-ケン
と いう フダ が でて いました。
「キミ、 ちょうど いい。 ここ は これ で なかなか ひらけてる ん だ。 はいろう じゃ ない か」
「おや、 こんな とこ に おかしい ね。 しかし とにかく ナニ か ショクジ が できる ん だろう」
「もちろん できる さ。 カンバン に そう かいて ある じゃ ない か」
「はいろう じゃ ない か。 ボク は もう ナニ か たべたくて たおれそう なん だ」
 フタリ は ゲンカン に たちました。 ゲンカン は しろい セト の レンガ で くんで、 じつに リッパ な もん です。
 そして ガラス の ヒラキド が たって、 そこ に キンモジ で こう かいて ありました。
   「ドナタ も どうか おはいり ください。 けっして ゴエンリョ は ありません」
 フタリ は そこで、 ひどく よろこんで いいました。
「こいつ は どう だ、 やっぱり ヨノナカ は うまく できてる ねえ、 キョウ イチニチ ナンギ した けれど、 コンド は こんな いい こと も ある。 この ウチ は リョウリテン だ けれども タダ で ゴチソウ する ん だぜ」
「どうも そう らしい。 けっして ゴエンリョ は ありません と いう の は その イミ だ」
 フタリ は ト を おして、 ナカ へ はいりました。 そこ は すぐ ロウカ に なって いました。 その ガラスド の ウラガワ には、 キンモジ で こう なって いました。
   「ことに ふとった オカタ や わかい オカタ は、 ダイカンゲイ いたします」
 フタリ は ダイカンゲイ と いう ので、 もう オオヨロコビ です。
「キミ、 ボクラ は ダイカンゲイ に あたって いる の だ」
「ボクラ は リョウホウ かねてる から」
 ずんずん ロウカ を すすんで いきます と、 コンド は ミズイロ の ペンキヌリ の ト が ありました。
「どうも ヘン な ウチ だ。 どうして こんな に たくさん ト が ある の だろう」
「これ は ロシア-シキ だ。 さむい とこ や ヤマ の ナカ は みんな こう さ」
 そして フタリ は その ト を あけよう と します と、 ウエ に キイロ な ジ で こう かいて ありました。
   「トウケン は チュウモン の おおい リョウリテン です から どうか そこ は ゴショウチ ください」
「なかなか はやってる ん だ。 こんな ヤマ の ナカ で」
「それ あ そう だ。 みたまえ、 トウキョウ の おおきな リョウリヤ だって オオドオリ には すくない だろう」
 フタリ は いいながら、 その ト を あけました。 すると その ウラガワ に、
   「チュウモン は ずいぶん おおい でしょう が どうか いちいち こらえて ください」
「これ は ぜんたい どういう ん だ」 ヒトリ の シンシ は カオ を しかめました。
「うん、 これ は きっと チュウモン が あまり おおくて シタク が てまどる けれども ごめん ください と こういう こと だ」
「そう だろう。 はやく どこ か ヘヤ の ナカ に はいりたい もん だな」
「そして テーブル に すわりたい もん だな」
 ところが どうも うるさい こと は、 また ト が ヒトツ ありました。 そして その ワキ に カガミ が かかって、 その シタ には ながい エ の ついた ブラシ が おいて あった の です。
 ト には あかい ジ で、
   「オキャクサマ がた、 ここ で カミ を きちんと して、 それから ハキモノ
    の ドロ を おとして ください」
と かいて ありました。
「これ は どうも もっとも だ。 ボク も さっき ゲンカン で、 ヤマ の ナカ だ と おもって みくびった ん だよ」
「サホウ の きびしい ウチ だ。 きっと よほど えらい ヒトタチ が、 たびたび くる ん だ」
 そこで フタリ は、 きれい に カミ を けずって、 クツ の ドロ を おとしました。
 そしたら、 どう です。 ブラシ を イタ の ウエ に おく や いなや、 そいつ が ぼうっと かすんで なくなって、 カゼ が どうっと ヘヤ の ナカ に はいって きました。
 フタリ は びっくり して、 たがいに よりそって、 ト を がたん と あけて、 ツギ の ヘヤ へ はいって いきました。 はやく ナニ か あたたかい もの でも たべて、 ゲンキ を つけて おかない と、 もう トホウ も ない こと に なって しまう と、 フタリ とも おもった の でした。
 ト の ウチガワ に、 また ヘン な こと が かいて ありました。
   「テッポウ と タマ を ここ へ おいて ください」
 みる と すぐ ヨコ に くろい ダイ が ありました。
「なるほど、 テッポウ を もって モノ を くう と いう ホウ は ない」
「いや、 よほど えらい ヒト が しじゅう きて いる ん だ」
 フタリ は テッポウ を はずし、 オビカワ を といて、 それ を ダイ の ウエ に おきました。
 また くろい ト が ありました。
   「どうか ボウシ と ガイトウ と クツ を おとり ください」
「どう だ、 とる か」
「しかたない、 とろう。 たしか に よっぽど えらい ヒト なん だ。 オク に きて いる の は」
 フタリ は ボウシ と オーバーコート を クギ に かけ、 クツ を ぬいで ぺたぺた あるいて ト の ナカ に はいりました。
 ト の ウラガワ には、
   「ネクタイ ピン、 カフス ボタン、 メガネ、 サイフ、 ソノタ カナモノルイ、
    ことに とがった もの は、 みんな ここ に おいて ください」
と かいて ありました。 ト の すぐ ヨコ には クロヌリ の リッパ な キンコ も、 ちゃんと クチ を あけて おいて ありました。 カギ まで そえて あった の です。
「ははあ、 ナニ か の リョウリ に デンキ を つかう と みえる ね。 カナケ の もの は あぶない。 ことに とがった もの は あぶない と こう いう ん だろう」
「そう だろう。 してみると カンジョウ は カエリ に ここ で はらう の だろう か」
「どうも そう らしい」
「そう だ。 きっと」
 フタリ は メガネ を はずしたり、 カフス ボタン を とったり、 みんな キンコ の ナカ に いれて、 ぱちん と ジョウ を かけました。
 すこし いきます と また ト が あって、 その マエ に ガラス の ツボ が ヒトツ ありました。 ト には こう かいて ありました。
   「ツボ の ナカ の クリーム を カオ や テアシ に すっかり ぬって ください」
 みる と たしか に ツボ の ナカ の もの は ギュウニュウ の クリーム でした。
「クリーム を ぬれ と いう の は どういう ん だ」
「これ は ね、 ソト が ヒジョウ に さむい だろう。 ヘヤ の ナカ が あんまり あたたかい と ヒビ が きれる から、 その ヨボウ なん だ。 どうも オク には、 よほど えらい ヒト が きて いる。 こんな とこ で、 あんがい ボクラ は、 キゾク と チカヅキ に なる かも しれない よ」
 フタリ は ツボ の クリーム を、 カオ に ぬって テ に ぬって それから クツシタ を ぬいで アシ に ぬりました。 それでも まだ のこって いました から、 それ は フタリ とも めいめい こっそり カオ へ ぬる フリ を しながら たべました。
 それから オオイソギ で ト を あけます と、 その ウラガワ には、
   「クリーム を よく ぬりました か、 ミミ にも よく ぬりました か、」
と かいて あって、 ちいさな クリーム の ツボ が ここ にも おいて ありました。
「そうそう、 ボク は ミミ には ぬらなかった。 あぶなく ミミ に ヒビ を きらす とこ だった。 ここ の シュジン は じつに ヨウイ シュウトウ だね」
「ああ、 こまかい とこ まで よく キ が つく よ。 ところで ボク は はやく ナニ か たべたい ん だ が、 どうも こう どこまでも ロウカ じゃ しかたない ね」
 すると すぐ その マエ に ツギ の ト が ありました。
   「リョウリ は もう すぐ できます。
    15 フン と オマタセ は いたしません。
    すぐ たべられます。
    はやく アナタ の アタマ に ビン の ナカ の コウスイ を よく ふりかけて ください」
 そして ト の マエ には キンピカ の コウスイ の ビン が おいて ありました。
 フタリ は その コウスイ を、 アタマ へ ぱちゃぱちゃ ふりかけました。
 ところが その コウスイ は、 どうも ス の よう な ニオイ が する の でした。
「この コウスイ は へんに ス-くさい。 どうした ん だろう」
「まちがえた ん だ。 ゲジョ が カゼ でも ひいて まちがえて いれた ん だ」
 フタリ は ト を あけて ナカ に はいりました。
 ト の ウラガワ には、 おおきな ジ で こう かいて ありました。
   「いろいろ チュウモン が おおくて うるさかった でしょう。 オキノドク でした。
    もう これ だけ です。 どうか カラダジュウ に、 ツボ の ナカ の シオ を たくさん
    よく もみこんで ください」
 なるほど リッパ な あおい セト の シオツボ は おいて ありました が、 コンド と いう コンド は フタリ とも ぎょっと して おたがいに クリーム を たくさん ぬった カオ を みあわせました。
「どうも おかしい ぜ」
「ボク も おかしい と おもう」
「タクサン の チュウモン と いう の は、 ムコウ が こっち へ チュウモン してる ん だよ」
「だから さ、 セイヨウ リョウリテン と いう の は、 ボク の かんがえる ところ では、 セイヨウ リョウリ を、 きた ヒト に たべさせる の では なくて、 きた ヒト を セイヨウ リョウリ に して、 たべて やる ウチ と こういう こと なん だ。 これ は、 その、 つ、 つ、 つ、 つまり、 ボ、 ボ、 ボクラ が……」 がたがた がたがた、 ふるえだして もう モノ が いえません でした。
「その、 ボ、 ボクラ が、 ……うわあ」 がたがた がたがた、 ふるえだして もう モノ が いえません でした。
「にげ……」 がたがた しながら ヒトリ の シンシ は ウシロ の ト を おそう と しました が、 どう です、 ト は もう イチブ も うごきません でした。
 オク の ほう には まだ 1 マイ ト が あって、 おおきな カギアナ が フタツ つき、 ギンイロ の ホーク と ナイフ の カタチ が きりだして あって、
   「いや、 わざわざ ゴクロウ です。
    たいへん ケッコウ に できました。
    さあさあ オナカ に おはいり ください」
と かいて ありました。 おまけに カギアナ から は きょろきょろ フタツ の あおい メダマ が こっち を のぞいて います。
「うわあ」 がたがた がたがた。
「うわあ」 がたがた がたがた。
 フタリ は なきだしました。
 すると ト の ナカ では、 こそこそ こんな こと を いって います。
「ダメ だよ。 もう キ が ついた よ。 シオ を もみこまない よう だよ」
「アタリマエ さ。 オヤブン の カキヨウ が まずい ん だ。 あすこ へ、 いろいろ チュウモン が おおくて うるさかった でしょう、 オキノドク でした なんて、 まぬけた こと を かいた もん だ」
「どっち でも いい よ。 どうせ ボクラ には、 ホネ も わけて くれ や しない ん だ」
「それ は そう だ。 けれども もし ここ へ アイツラ が はいって こなかったら、 それ は ボクラ の セキニン だぜ」
「よぼう か、 よぼう。 おい、 オキャクサン がた、 はやく いらっしゃい。 いらっしゃい。 いらっしゃい。 オサラ も あらって あります し、 ナッパ も もう よく シオ で もんで おきました。 アト は アナタガタ と、 ナッパ を うまく とりあわせて、 マッシロ な オサラ に のせる だけ です。 はやく いらっしゃい」
「へい、 いらっしゃい、 いらっしゃい。 それとも サラド は おきらい です か。 そんなら これから ヒ を おこして フライ に して あげましょう か。 とにかく はやく いらっしゃい」
 フタリ は あんまり ココロ を いためた ため に、 カオ が まるで くしゃくしゃ の カミクズ の よう に なり、 おたがいに その カオ を みあわせ、 ぶるぶる ふるえ、 コエ も なく なきました。
 ナカ では ふっふっ と わらって また さけんで います。
「いらっしゃい、 いらっしゃい。 そんな に ないて は せっかく の クリーム が ながれる じゃ ありません か。 へい、 ただいま。 じき もって まいります。 さあ、 はやく いらっしゃい」
「はやく いらっしゃい。 オヤカタ が もう ナフキン を かけて、 ナイフ を もって、 シタナメズリ して、 オキャクサマ がた を まって いられます」
 フタリ は ないて ないて ないて ないて なきました。
 その とき ウシロ から いきなり、
「わん、 わん、 ぐわあ」 と いう コエ が して、 あの シロクマ の よう な イヌ が 2 ヒキ、 ト を つきやぶって ヘヤ の ナカ に とびこんで きました。 カギアナ の メダマ は たちまち なくなり、 イヌ ども は うう と うなって しばらく ヘヤ の ナカ を くるくる まわって いました が、 また ヒトコエ、
「わん」 と たかく ほえて、 いきなり ツギ の ト に とびつきました。 ト は がたり と ひらき、 イヌ ども は すいこまれる よう に とんで いきました。
 その ト の ムコウ の マックラヤミ の ナカ で、
「にゃあお、 くわあ、 ごろごろ」 と いう コエ が して、 それから がさがさ なりました。
 ヘヤ は ケムリ の よう に きえ、 フタリ は サムサ に ぶるぶる ふるえて、 クサ の ナカ に たって いました。
 みる と、 ウワギ や クツ や サイフ や ネクタイ ピン は、 あっち の エダ に ぶらさがったり、 こっち の ネモト に ちらばったり して います。 カゼ が どうと ふいて きて、 クサ は ざわざわ、 コノハ は かさかさ、 キ は ごとん ごとん と なりました。
 イヌ が ふう と うなって もどって きました。
 そして ウシロ から は、
「ダンナア、 ダンナア、」 と さけぶ モノ が あります。
 フタリ は にわか に ゲンキ が ついて、
「おおい、 おおい、 ここ だぞ、 はやく こい」 と さけびました。
 ミノボウシ を かぶった センモン の リョウシ が、 クサ を ざわざわ わけて やって きました。
 そこで フタリ は やっと アンシン しました。
 そして リョウシ の もって きた ダンゴ を たべ、 トチュウ で 10 エン だけ ヤマドリ を かって トウキョウ に かえりました。
 しかし、 さっき イッペン カミクズ の よう に なった フタリ の カオ だけ は、 トウキョウ に かえって も、 オユ に はいって も、 もう モト の とおり に なおりません でした。
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グスコー ブドリ の デンキ 1

2016-12-21 | ミヤザワ ケンジ
 グスコー ブドリ の デンキ

 ミヤザワ ケンジ

 1、 モリ

 グスコー ブドリ は、 イーハトーブ の おおきな モリ の ナカ に うまれました。 オトウサン は、 グスコー ナドリ と いう なだかい キコリ で、 どんな おおきな キ でも、 まるで アカンボウ を ねかしつける よう に わけなく きって しまう ヒト でした。
 ブドリ には ネリ と いう イモウト が あって、 フタリ は マイニチ モリ で あそびました。 ごしっごしっ と オトウサン の キ を ひく オト が、 やっと きこえる くらい な トオク へも いきました。 フタリ は そこ で キイチゴ の ミ を とって ワキミズ に つけたり、 ソラ を むいて かわるがわる ヤマバト の なく マネ を したり しました。 すると あちら でも こちら でも、 ぽう、 ぽう、 と トリ が ねむそう に なきだす の でした。
 オカアサン が、 ウチ の マエ の ちいさな ハタケ に ムギ を まいて いる とき は、 フタリ は ミチ に ムシロ を しいて すわって、 ブリキカン で ラン の ハナ を にたり しました。 すると コンド は、 もう イロイロ の トリ が、 フタリ の ぱさぱさ した アタマ の ウエ を、 まるで アイサツ する よう に なきながら ざあざあ ざあざあ とおりすぎる の でした。
 ブドリ が ガッコウ へ いく よう に なります と、 モリ は ヒル の アイダ たいへん さびしく なりました。 そのかわり ヒルスギ には、 ブドリ は ネリ と イッショ に、 モリジュウ の キ の ミキ に、 あかい ネンド や ケシズミ で、 キ の ナ を かいて あるいたり、 たかく うたったり しました。
 ホップ の ツル が、 リョウホウ から のびて、 モン の よう に なって いる シラカバ の キ には、
「カッコウドリ、 とおる べからず」 と かいたり も しました。
 そして、 ブドリ は トオ に なり、 ネリ は ナナツ に なりました。 ところが どういう ワケ です か、 その トシ は、 オヒサマ が ハル から へんに しろくて、 イツモ なら ユキ が とける と まもなく、 マッシロ な ハナ を つける コブシ の キ も まるで さかず、 5 ガツ に なって も たびたび ミゾレ が ぐしゃぐしゃ ふり、 7 ガツ の スエ に なって も いっこう に アツサ が こない ため に、 キョネン まいた ムギ も ツブ の はいらない しろい ホ しか できず、 タイテイ の クダモノ も、 ハナ が さいた だけ で おちて しまった の でした。
 そして とうとう アキ に なりました が、 やっぱり クリ の キ は あおい カラ の イガ ばかり でした し、 ミンナ で ふだん たべる いちばん タイセツ な オリザ と いう コクモツ も、 ヒトツブ も できません でした。 ノハラ では もう ひどい サワギ に なって しまいました。
 ブドリ の オトウサン も オカアサン も、 たびたび タキギ を ノハラ の ほう へ もって いったり、 フユ に なって から は ナンベン も おおきな キ を マチ へ ソリ で はこんだり した の でした が、 いつも がっかり した よう に して、 わずか の ムギ の コ など もって かえって くる の でした。 それでも どうにか その フユ は すぎて ツギ の ハル に なり、 ハタケ には タイセツ に しまって おいた タネ も まかれました が、 その トシ も また すっかり マエ の トシ の とおり でした。 そして アキ に なる と、 とうとう ホントウ の キキン に なって しまいました。 もう その コロ は ガッコウ へ くる コドモ も まるで ありません でした。 ブドリ の オトウサン も オカアサン も、 すっかり シゴト を やめて いました。 そして たびたび シンパイ そう に ソウダン して は、 かわるがわる マチ へ でて いって、 やっと すこし ばかり の キビ の ツブ など もって かえる こと も あれば、 なんにも もたず に カオイロ を わるく して かえって くる こと も ありました。 そして ミンナ は、 コナラ の ミ や、 クズ や ワラビ の ネ や、 キ の やわらか な カワ や いろんな もの を たべて、 その フユ を すごしました。 けれども ハル が きた コロ は、 オトウサン も オカアサン も、 ナニ か ひどい ビョウキ の よう でした。
 ある ヒ オトウサン は、 じっと アタマ を かかえて、 いつまでも いつまでも かんがえて いました が、 にわか に おきあがって、
「オレ は モリ へ いって あそんで くる ぞ」 と いいながら、 よろよろ ウチ を でて いきました が、 マックラ に なって も かえって きません でした。 フタリ が オカアサン に オトウサン は どう したろう と きいて も、 オカアサン は だまって フタリ の カオ を みて いる ばかり でした。
 ツギ の ヒ の バンガタ に なって、 モリ が もう くろく みえる コロ、 オカアサン は にわか に たって、 ロ に ホダ を たくさん くべて ウチジュウ すっかり あかるく しました。 それから、 ワタシ は オトウサン を さがし に いく から、 オマエタチ は ウチ に いて あの トダナ に ある コナ を フタリ で すこし ずつ たべなさい と いって、 やっぱり よろよろ ウチ を でて いきました。 フタリ が ないて アト から おって いきます と、 オカアサン は ふりむいて、
「なんたら いう こと を きかない コドモ ら だ」 と しかる よう に いいました。 そして まるで アシバヤ に、 つまずきながら モリ へ はいって しまいました。 フタリ は ナンベン も いったり きたり して、 そこら を ないて まわりました。 とうとう こらえきれなく なって、 マックラ な モリ の ナカ へ はいって、 いつか の ホップ の モン の アタリ や、 ワキミズ の ある アタリ を あちこち うろうろ あるきながら、 オカアサン を ヒトバン よびました。 モリ の キ の アイダ から は、 ホシ が ちらちら ナニ か いう よう に ひかり、 トリ は たびたび おどろいた よう に ヤミ の ナカ を とびました けれども、 どこ から も ヒト の コエ は しません でした。 とうとう フタリ は ぼんやり ウチ へ かえって ナカ へ はいります と、 まるで しんだ よう に ねむって しまいました。
 ブドリ が メ を さました の は、 その ヒ の ヒルスギ でした。 オカアサン の いった コナ の こと を おもいだして トダナ を あけて みます と、 ナカ には、 フクロ に いれた ソバコ や コナラ の ミ が まだ たくさん はいって いました。 ブドリ は ネリ を ゆりおこして フタリ で その コナ を なめ、 オトウサン たち が いた とき の よう に ロ に ヒ を たきました。
 それから、 ハツカ ばかり ぼんやり すぎましたら、 ある ヒ トグチ で、
「こんにちわ、 ダレ か いる かね」 と いう モノ が ありました。 オトウサン が かえって きた の か と おもって ブドリ が はねだして みます と、 それ は カゴ を しょった メ の するどい オトコ でした。 その オトコ は カゴ の ナカ から まるい モチ を とりだして ぽんと なげながら いいました。
「ワタシ は この チホウ の キキン を たすけ に きた モノ だ。 さあ なんでも たべなさい」 フタリ は しばらく あきれて いましたら、
「さあ たべる ん だ、 たべる ん だ」 と また いいました。 フタリ が こわごわ たべはじめます と、 オトコ は じっと みて いました が、
「オマエタチ は いい コドモ だ。 けれども いい コドモ だ と いう だけ では なんにも ならん。 ワシ と イッショ に ついて おいで。 もっとも オトコ の コ は つよい し、 ワシ も フタリ は つれて いけない。 おい オンナ の コ、 オマエ は ここ に いて も、 もう たべる もの が ない ん だ。 オジサン と イッショ に マチ へ いこう。 マイニチ パン を たべさして やる よ」
 そして ぷいっと ネリ を だきあげて、 セナカ の カゴ へ いれて、 そのまま 「おお ほいほい。 おお ほいほい」 と どなりながら、 カゼ の よう に ウチ を でて いきました。
 ネリ は オモテ で はじめて わっと なきだし、 ブドリ は、 「ドロボウ、 ドロボウ」 と なきながら さけんで おいかけました が、 オトコ は もう モリ の ヨコ を とおって ずうっと ムコウ の クサハラ を はしって いて、 そこ から ネリ の ナキゴエ が、 かすか に ふるえて きこえる だけ でした。
 ブドリ は、 ないて どなって モリ の ハズレ まで おいかけて いきました が、 とうとう つかれて ばったり たおれて しまいました。

 2、 テグス コウジョウ

 ブドリ が ふっと メ を ひらいた とき、 いきなり アタマ の ウエ で、 いやに ひらべったい コエ が しました。
「やっと メ が さめた な。 まだ オマエ は キキン の つもり かい。 おきて オレ に てつだわない か」
 みる と それ は チャイロ な キノコ シャッポ を かぶって ガイトウ に すぐ シャツ を きた オトコ で、 ナニ か ハリガネ で こさえた もの を ぶらぶら もって いる の でした。
「もう キキン は すぎた の? てつだえ って ナニ を てつだう の?」 ブドリ が ききました。
「アミカケ さ」
「ここ へ アミ を かける の?」
「かける のさ」
「アミ を かけて ナニ に する の?」
「テグス を かう のさ」
 みる と すぐ ブドリ の マエ の クリ の キ に、 フタリ の オトコ が ハシゴ を かけて のぼって いて、 イッショウ ケンメイ ナニ か アミ を なげたり、 それ を くったり して いる よう でした が、 アミ も イト も いっこう みえません でした。
「あれ で テグス が かえる の?」
「かえる のさ。 うるさい コドモ だな。 おい、 エンギ でも ない ぞ。 テグス も かえない ところ に どうして コウバ なんか たてる ん だ。 かえる とも さ。 げんに オレ ハジメ タクサン の モノ が、 それ で クラシ を たてて いる ん だ」
 ブドリ は かすれた コエ で、 やっと、 「そう です か」 と いいました。
「それに この モリ は、 すっかり オレ が かって ある ん だ から、 ここ で てつだう なら いい が、 そう でも なければ どこ か へ いって もらいたい な。 もっとも オマエ は どこ へ いったって くう もの も なかろう ぜ」
 ブドリ は なきだしそう に なりました が、 やっと こらえて いいました。
「そんなら てつだう よ。 けれども どうして アミ を かける の?」
「それ は もちろん おしえて やる。 こいつ を ね」 オトコ は テ に もった ハリガネ の カゴ の よう な もの を リョウテ で ひきのばしました。
「いい か。 こういう グアイ に やる と ハシゴ に なる ん だ」 オトコ は オオマタ に ミギテ の クリ の キ に あるいて いって、 シタ の エダ に ひっかけました。
「さあ、 コンド は オマエ が、 この アミ を もって ウエ へ のぼって いく ん だ。 さあ、 のぼって ごらん」
 オトコ は ヘン な マリ の よう な もの を ブドリ に わたしました。 ブドリ は しかたなく それ を もって ハシゴ に とりついて のぼって いきました が、 ハシゴ の ダンダン が まるで ほそくて テ や アシ に くいこんで ちぎれて しまいそう でした。
「もっと のぼる ん だ。 もっと、 もっと さ。 そしたら サッキ の マリ を なげて ごらん。 クリ の キ を こす よう に さ。 そいつ を ソラ へ なげる ん だよ。 ナン だい、 ふるえてる の かい。 イクジナシ だなあ。 なげる ん だよ。 なげる ん だよ。 そら、 なげる ん だよ」
 ブドリ は しかたなく ちからいっぱい に それ を アオゾラ に なげた と おもいましたら、 にわか に オヒサマ が マックロ に みえて サカサマ に シタ へ おちました。 そして いつか、 その オトコ に うけとめられて いた の でした。 オトコ は ブドリ を ジメン に おろしながら ぶりぶり おこりだしました。
「オマエ も イクジ の ない ヤツ だ。 なんと いう ふにゃふにゃ だ。 オレ が うけとめて やらなかったら オマエ は イマゴロ は アタマ が はじけて いたろう。 オレ は オマエ の イノチ の オンジン だぞ。 これから は、 シツレイ な こと を いって は ならん。 ところで、 さあ、 コンド は あっち の キ へ のぼれ。 もすこし たったら ゴハン も たべさせて やる よ」
 オトコ は また ブドリ へ あたらしい マリ を わたしました。 ブドリ は ハシゴ を もって ツギ の キ へ いって マリ を なげました。
「よし、 なかなか ジョウズ に なった。 さあ マリ は たくさん ある ぞ。 なまけるな。 キ も クリ の キ なら どれ でも いい ん だ」
 オトコ は ポケット から、 マリ を トオ ばかり だして ブドリ に わたす と、 すたすた ムコウ へ いって しまいました。 ブドリ は また ミッツ ばかり それ を なげました が、 どうしても イキ が はあはあ して、 カラダ が だるくて たまらなく なりました。 もう ウチ へ かえろう と おもって、 そっち へ いって みます と、 おどろいた こと には、 ウチ には いつか あかい ドカン の エントツ が ついて、 トグチ には、 「イーハトーブ テグス コウジョウ」 と いう カンバン が かかって いる の でした。 そして ナカ から タバコ を ふかしながら、 サッキ の オトコ が でて きました。
「さあ コドモ、 タベモノ を もって きて やった ぞ。 これ を たべて くらく ならない うち に もうすこし かせぐ ん だ」
「ボク は もう いや だよ。 ウチ へ かえる よ」
「ウチ って いう の は あすこ か。 あすこ は オマエ の ウチ じゃ ない。 オレ の テグス コウバ だよ。 あの ウチ も この ヘン の モリ も みんな オレ が かって ある ん だ から な」
 ブドリ は もう ヤケ に なって、 だまって その オトコ の よこした ムシパン を むしゃむしゃ たべて、 また マリ を トオ ばかり なげました。
 その バン ブドリ は、 ムカシ の ジブン の ウチ、 イマ は テグス コウジョウ に なって いる タテモノ の スミ に、 ちいさく なって ねむりました。 サッキ の オトコ は、 3~4 ニン の しらない ヒトタチ と おそく まで ロバタ で ヒ を たいて、 ナニ か のんだり しゃべったり して いました。 ツギ の アサ はやく から、 ブドリ は モリ に でて、 キノウ の よう に はたらきました。
 それから ヒトツキ ばかり たって、 モリジュウ の クリ の キ に アミ が かかって しまいます と、 テグスカイ の オトコ は、 コンド は アワ の よう な もの が いっぱい ついた イタキレ を、 どの キ にも 5~6 マイ ずつ つるさせました。 その うち に キ は メ を だして モリ は マッサオ に なりました。 すると、 キ に つるした イタキレ から、 タクサン の ちいさな あおじろい ムシ が、 イト を つたわって レツ に なって エダ へ はいあがって いきました。
 ブドリ たち は コンド は マイニチ タキギトリ を させられました。 その タキギ が、 ウチ の マワリ に コヤマ の よう に つみかさなり、 クリ の キ が あおじろい ヒモ の カタチ の ハナ を エダ イチメン に つける コロ に なります と、 あの イタ から はいあがって いった ムシ も、 ちょうど クリ の ハナ の よう な イロ と カタチ に なりました。 そして モリジュウ の クリ の ハ は、 まるで カタチ も なく その ムシ に くいあらされて しまいました。 それから まもなく ムシ は、 おおきな キイロ な マユ を、 アミノメ ごと に かけはじめました。
 すると テグスカイ の オトコ は、 キョウキ の よう に なって、 ブドリ たち を しかりとばして、 その マユ を カゴ に あつめさせました。 それ を コンド は カタッパシ から ナベ に いれて ぐらぐら にて、 テ で クルマ を まわしながら イト を とりました。 ヨル も ヒル も がらがら がらがら ミッツ の イトグルマ を まわして イト を とりました。 こうして こしらえた キイロ な イト が コヤ に ハンブン ばかり たまった コロ、 ソト に おいた マユ から は、 おおきな しろい ガ が ぽろぽろ ぽろぽろ とびだしはじめました。 テグスカイ の オトコ は、 まるで オニ みたい な カオツキ に なって、 ジブン も イッショウ ケンメイ イト を とりました し、 ノハラ の ほう から も 4 ニン ヒト を つれて きて はたらかせました。 けれども ガ の ほう は ヒマシ に おおく でる よう に なって、 シマイ には モリジュウ まるで ユキ でも とんで いる よう に なりました。
 すると ある ヒ、 6~7 ダイ の ニバシャ が きて、 イマ まで に できた イト を みんな つけて、 マチ の ほう へ かえりはじめました。 ミンナ も ヒトリ ずつ ニバシャ に ついて いきました。 いちばん シマイ の ニバシャ が たつ とき、 テグスカイ の オトコ が、 ブドリ に、
「おい、 オマエ の ライハル まで くう くらい の もの は ウチ の ナカ に おいて やる から な、 それまで ここ で モリ と コウバ の バン を して いる ん だぞ」
と いって へんに にやにや しながら、 ニバシャ に ついて さっさと いって しまいました。
 ブドリ は ぼんやり アト へ のこりました。 ウチ の ナカ は まるで きたなくて アラシ の アト の よう でした し、 モリ は あれはてて ヤマカジ に でも あった よう でした。 ブドリ が ツギ の ヒ、 ウチ の ナカ や マワリ を かたづけはじめましたら、 テグスカイ の オトコ が いつも すわって いた ところ から ふるい ボール-ガミ の ハコ を みつけました。 ナカ には 10 サツ ばかり の ホン が ぎっしり はいって おりました。 ひらいて みる と、 テグス の エ や キカイ の ズ が たくさん ある、 まるで よめない ホン も ありました し、 イロイロ な キ や クサ の ズ と ナマエ の かいて ある もの も ありました。
 ブドリ は イッショウ ケンメイ その ホン の マネ を して ジ を かいたり、 ズ を うつしたり して その フユ を くらしました。
 ハル に なります と、 また あの オトコ が 6~7 ニン の あたらしい テシタ を つれて、 たいへん リッパ な ナリ を して やって きました。 そして ツギ の ヒ から すっかり キョネン の よう な シゴト が はじまりました。
 そして アミ は みんな かかり、 キイロ な イタ も つるされ、 ムシ は エダ に はいのぼり、 ブドリ たち は また、 タキギ-ヅクリ に かかる コロ に なりました。 ある アサ、 ブドリ たち が タキギ を つくって いましたら、 にわか に ぐらぐらっ と ジシン が はじまりました。 それから ずうっと トオク で どーん と いう オト が しました。
 しばらく たつ と ヒ が へんに くらく なり、 こまか な ハイ が ばさばさ ばさばさ ふって きて、 モリ は イチメン に マッシロ に なりました。 ブドリ たち が あきれて キ の シタ に しゃがんで いましたら、 テグスカイ の オトコ が たいへん あわてて やって きました。
「おい、 ミンナ、 もう ダメ だぞ。 フンカ だ。 フンカ が はじまった ん だ。 テグス は みんな ハイ を かぶって しんで しまった。 ミンナ はやく ひきあげて くれ。 おい、 ブドリ。 オマエ ここ に いたかったら いて も いい が、 コンド は タベモノ は おいて やらない ぞ。 それに ここ に いて も あぶない から な、 オマエ も ノハラ へ でて ナニ か かせぐ ほう が いい ぜ」
 そう いった か と おもう と、 もう どんどん はしって いって しまいました。 ブドリ が コウジョウ へ いって みた とき は、 もう ダレ も おりません でした。 そこで ブドリ は、 しょんぼり と ミンナ の アシアト の ついた しろい ハイ を ふんで ノハラ の ほう へ でて いきました。

 3、 ヌマバタケ

 ブドリ は、 いっぱい に ハイ を かぶった モリ の アイダ を、 マチ の ほう へ ハンニチ あるきつづけました。 ハイ は カゼ の ふく たび に キ から ばさばさ おちて、 まるで ケムリ か フブキ の よう でした。 けれども それ は ノハラ へ ちかづく ほど、 だんだん あさく すくなく なって、 ついには キ も ミドリ に みえ、 ミチ の アシアト も みえない くらい に なりました。
 とうとう モリ を できった とき、 ブドリ は おもわず メ を みはりました。 ノハラ の メノマエ から、 トオク の マッシロ な クモ まで、 うつくしい モモイロ と ミドリ と ハイイロ の カード で できて いる よう でした。 ソバ へ よって みる と、 その モモイロ なの には、 イチメン に セイ の ひくい ハナ が さいて いて、 ミツバチ が いそがしく ハナ から ハナ を わたって あるいて いました し、 ミドリイロ なの には ちいさな ホ を だして クサ が ぎっしり はえ、 ハイイロ なの は あさい ドロ の ヌマ でした。 そして どれ も、 ひくい ハバ の せまい ドテ で くぎられ、 ヒト は ウマ を つかって それ を ほりおこしたり かきまわしたり して はたらいて いました。
 ブドリ が その アイダ を、 しばらく あるいて いきます と、 ミチ の マンナカ に フタリ の ヒト が、 オオゴエ で ナニ か ケンカ でも する よう に いいあって いました。 ミギガワ の ほう の ヒゲ の あかい ヒト が いいました。
「なんでも かんでも、 オレ は ヤマシ-ばる と きめた」
 すると も ヒトリ の しろい カサ を かぶった、 セイ の たかい オジイサン が いいました。
「やめろ って いったら やめる もん だ。 そんな に コヤシ うんと いれて、 ワラ は とれる ったって、 ミ は ヒトツブ も とれる もん で ない」
「うんにゃ、 オレ の ミコミ では、 コトシ は イマ まで の 3 ネン ブン あつい に ソウイ ない。 1 ネン で 3 ネン ブン とって みせる」
「やめろ。 やめろ。 やめろ ったら」
「うんにゃ、 やめない。 ハナ は みんな うずめて しまった から、 コンド は マメタマ を 60 マイ いれて、 それから トリ の カエシ、 100 ダン いれる ん だ。 いそがし ったら なんの、 こう いそがしく なれば、 ササゲ の ツル でも いい から テツダイ に たのみたい もん だ」
 ブドリ は おもわず ちかよって オジギ を しました。
「そんなら ボク を つかって くれません か」
 すると フタリ は、 ぎょっと した よう に カオ を あげて、 アゴ に テ を あてて しばらく ブドリ を みて いました が、 アカヒゲ が にわか に わらいだしました。
「よしよし。 オマエ に ウマ の サセトリ を たのむ から な。 すぐ オレ に ついて いく ん だ。 それでは まず、 のる か そる か、 アキ まで みてて くれ。 さあ いこう。 ホント に、 ササゲ の ツル でも いい から たのみたい とき で な」 アカヒゲ は、 ブドリ と オジイサン に かわるがわる いいながら、 さっさと サキ に たって あるきました。 アト では オジイサン が、
「トシヨリ の いう こと きかない で、 いまに なく ん だな」 と つぶやきながら、 しばらく こっち を みおくって いる ヨウス でした。
 それから ブドリ は、 マイニチ マイニチ ヌマバタケ へ はいって ウマ を つかって ドロ を かきまわしました。 1 ニチ ごと に モモイロ の カード も ミドリ の カード も だんだん つぶされて、 ドロヌマ に かわる の でした。 ウマ は たびたび ぴしゃっと ドロミズ を はねあげて、 ミンナ の カオ へ うちつけました。 ヒトツ の ヌマバタケ が すめば すぐ ツギ の ヌマバタケ へ はいる の でした。 イチニチ が とても ながくて、 シマイ には あるいて いる の か どう か わからなく なったり、 ドロ が アメ の よう な、 ミズ が スープ の よう な キ が したり する の でした。 カゼ が ナンベン も ふいて きて、 チカク の ドロミズ に サカナ の ウロコ の よう な ナミ を たて、 トオク の ミズ を ブリキイロ に して いきました。 ソラ では、 マイニチ あまく すっぱい よう な クモ が、 ゆっくり ゆっくり ながれて いて、 それ が じつに うらやましそう に みえました。
 こうして ハツカ ばかり たちます と、 やっと ヌマバタケ は すっかり どろどろ に なりました。 ツギ の アサ から シュジン は まるで キ が たって、 あちこち から あつまって きた ヒトタチ と イッショ に、 その ヌマバタケ に ミドリイロ の ヤリ の よう な オリザ の ナエ を イチメン うえました。 それ が トオカ ばかり で すむ と、 コンド は ブドリ たち を つれて、 イマ まで てつだって もらった ヒトタチ の ウチ へ マイニチ はたらき に でかけました。 それ も やっと ヒトマワリ すむ と、 コンド は また ジブン の ヌマバタケ へ もどって きて、 マイニチ マイニチ クサトリ を はじめました。 ブドリ の シュジン の ナエ は おおきく なって まるで くろい くらい なのに、 トナリ の ヌマバタケ は ぼんやり した うすい ミドリイロ でした から、 トオク から みて も、 フタリ の ヌマバタケ は はっきり サカイ まで みわかりました。 ナノカ ばかり で クサトリ が すむ と また ホカ へ テツダイ に いきました。
 ところが ある アサ、 シュジン は ブドリ を つれて、 ジブン の ヌマバタケ を とおりながら、 にわか に 「あっ」 と さけんで ボウダチ に なって しまいました。 みる と クチビル の イロ まで ミズイロ に なって、 ぼんやり マッスグ を みつめて いる の です。
「ビョウキ が でた ん だ」 シュジン が やっと いいました。
「アタマ でも いたい ん です か」 ブドリ は ききました。
「オレ で ない よ。 オリザ よ。 それ」 シュジン は マエ の オリザ の カブ を ゆびさしました。 ブドリ は しゃがんで しらべて みます と、 なるほど どの ハ にも、 イマ まで みた こと の ない あかい テンテン が ついて いました。 シュジン は だまって しおしお と ヌマバタケ を ヒトマワリ しました が、 ウチ へ かえりはじめました。 ブドリ も シンパイ して ついて いきます と、 シュジン は だまって キレ を ミズ で しぼって、 アタマ に のせる と、 そのまま イタノマ に ねて しまいました。 すると まもなく、 シュジン の オカミサン が オモテ から かけこんで きました。
「オリザ へ ビョウキ が でた と いう の は ホントウ かい」
「ああ、 もう ダメ だよ」
「どうにか ならない の かい」
「ダメ だろう。 すっかり 5 ネン マエ の とおり だ」
「だから、 アタシ は アンタ に ヤマシ を やめろ と いった ん じゃ ない か。 オジイサン も あんな に とめた ん じゃ ない か」 オカミサン は おろおろ なきはじめました。 すると シュジン が にわか に ゲンキ に なって むっくり おきあがりました。
「よし。 イーハトーブ の ノハラ で、 ユビオリ かぞえられる オオビャクショウ の オレ が、 こんな こと で まいる か。 よし。 ライネン こそ やる ぞ。 ブドリ、 オマエ オレ の ウチ へ きて から、 まだ ヒトバン も ねたい くらい ねた こと が ない な。 さあ、 イツカ でも トオカ でも いい から、 ぐう と いう くらい ねて しまえ。 オレ は その アト で、 あすこ の ヌマバタケ で おもしろい テヅマ を やって みせる から な。 そのかわり コトシ の フユ は、 ウチジュウ ソバ ばかり くう ん だぞ。 オマエ ソバ は すき だろう が」 それから シュジン は さっさと ボウシ を かぶって ソト へ でて いって しまいました。
 ブドリ は シュジン に いわれた とおり ナヤ へ はいって ねむろう と おもいました が、 なんだか やっぱり ヌマバタケ が ク に なって しかたない ので、 また のろのろ そっち へ いって みました。 すると いつ きて いた の か、 シュジン が たった ヒトリ ウデグミ を して ドテ に たって おりました。 みる と ヌマバタケ には ミズ が いっぱい で、 オリザ の カブ は ハ を やっと だして いる だけ、 ウエ には ぎらぎら セキユ が うかんで いる の でした。 シュジン が いいました。
「イマ オレ この ビョウキ を むしころして みる とこ だ」
「セキユ で ビョウキ の タネ が しぬ ん です か」 と ブドリ が ききます と、 シュジン は、
「アタマ から セキユ に つけられたら ヒト だって しぬ だ」 と いいながら、 ほう と イキ を すって クビ を ちぢめました。 その とき、 ミズシモ の ヌマバタケ の モチヌシ が、 カタ を いからして イキ を きって かけて きて、 おおきな コエ で どなりました。
「なんだって アブラ など ミズ へ いれる ん だ。 みんな ながれて きて、 オレ の ほう へ はいってる ぞ」
 シュジン は、 ヤケクソ に おちついて こたえました。
「なんだって アブラ など ミズ へ いれる ったって、 オリザ へ ビョウキ ついた から、 アブラ など ミズ へ いれる の だ」
「なんだって そんなら オレ の ほう へ ながす ん だ」
「なんだって そんなら オマエ の ほう へ ながす ったって、 ミズ は ながれる から アブラ も ついて ながれる の だ」
「そんなら なんだって オレ の ほう へ ミズ こない よう に ミナクチ とめない ん だ」
「なんだって オマエ の ほう へ ミズ いかない よう に ミナクチ とめない か ったって、 あすこ は オレ の ミナクチ で ない から ミズ とめない の だ」
 トナリ の オトコ は、 かんかん おこって しまって もう モノ も いえず、 いきなり がぶがぶ ミズ へ はいって、 ジブン の ミナクチ に ドロ を つみあげはじめました。 シュジン は にやり と わらいました。
「あの オトコ むずかしい オトコ で な。 こっち で ミズ を とめる と、 とめた と いって おこる から わざと ムコウ に とめさせた の だ。 あすこ さえ とめれば、 コンヤジュウ に ミズ は すっかり クサ の アタマ まで かかる から な。 さあ かえろう」 シュジン は サキ に たって すたすた ウチ へ あるきはじめました。
 ツギ の アサ ブドリ は また シュジン と ヌマバタケ へ いって みました。 シュジン は ミズ の ナカ から ハ を 1 マイ とって しきり に しらべて いました が、 やっぱり うかない カオ でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の ヒ も そう でした。 その ツギ の アサ、 とうとう シュジン は ケッシン した よう に いいました。
「さあ ブドリ、 いよいよ ここ へ ソバマキ だぞ。 オマエ あすこ へ いって、 トナリ の ミナクチ こわして こい」
 ブドリ は いわれた とおり こわして きました。 セキユ の はいった ミズ は、 おそろしい イキオイ で トナリ の タ へ ながれて いきます。 きっと また おこって くる な と おもって います と、 ヒルゴロ レイ の トナリ の モチヌシ が、 おおきな カマ を もって やって きました。
「やあ、 なんだって ヒト の タ へ セキユ ながす ん だ」
 シュジン が また、 ハラ の ソコ から コエ を だして こたえました。
「セキユ ながれれば なんだって わるい ん だ」
「オリザ みんな しぬ で ない か」
「オリザ みんな しぬ か、 オリザ みんな しなない か、 まず オレ の ヌマバタケ の オリザ みな よ。 キョウ で ヨッカ アタマ から セキユ かぶせた ん だ。 それでも ちゃんと この とおり で ない か。 あかく なった の は ビョウキ の ため で、 イキオイ の いい の は セキユ の ため なん だ。 オマエ の ところ など、 セキユ が ただ オリザ の アシ を とおる だけ で ない か。 かえって いい かも しれない ん だ」
「セキユ コヤシ に なる の か」 ムコウ の オトコ は すこし カオイロ を やわらげました。
「セキユ コヤシ に なる か、 セキユ コヤシ に ならない か しらない が、 とにかく セキユ は アブラ で ない か」
「それ は セキユ は アブラ だな」 オトコ は すっかり キゲン を なおして わらいました。 ミズ は どんどん ひき、 オリザ の カブ は みるみる ネモト まで でて きました。 すっかり あかい マダラ が できて やけた よう に なって います。
「さあ オレ の ところ では もう オリザ-ガリ を やる ぞ」
 シュジン は わらいながら いって、 それから ブドリ と イッショ に、 カタッパシ から オリザ の カブ を かり、 アト へ すぐ ソバ を まいて ツチ を かけて あるきました。 そして その トシ は ホントウ に シュジン の いった とおり、 ブドリ の ウチ では ソバ ばかり たべました。 ツギ の ハル に なります と シュジン が いいました。
「ブドリ、 コトシ は ヌマバタケ は キョネン より は 3 ブン の 1 へった から な、 シゴト は よほど ラク だ。 そのかわり オマエ は、 オレ の しんだ ムスコ の よんだ ホン を これから イッショウ ケンメイ ベンキョウ して、 イマ まで オレ を ヤマシ だ と いって わらった ヤツラ を、 あっ と いわせる よう な リッパ な オリザ を つくる クフウ を して くれ」
 そして、 イロイロ な ホン を ヒトヤマ ブドリ に わたしました。 ブドリ は シゴト の ヒマ に カタッパシ から それ を よみました。 ことに その ナカ の、 クーボー と いう ヒト の モノ の カンガエカタ を おしえた ホン は おもしろかった ので ナンベン も よみました。 また その ヒト が、 イーハトーブ の シ で 1 カゲツ の ガッコウ を やって いる の を しって、 たいへん いって ならいたい と おもったり しました。
 そして はやくも その ナツ、 ブドリ は おおきな テガラ を たてました。 それ は キョネン と おなじ コロ、 また オリザ に ビョウキ が できかかった の を、 ブドリ が キ の ハイ と シオ を つかって くいとめた の でした。 そして 8 ガツ の ナカバ に なる と、 オリザ の カブ は みんな そろって ホ を だし、 その ホ の ヒトエダ ごと に ちいさな しろい ハナ が さき、 ハナ は だんだん ミズイロ の モミ に かわって、 カゼ に ゆらゆら ナミ を たてる よう に なりました。 シュジン は もう トクイ の ゼッチョウ でした。 くる ヒト ごと に、
「なんの オレ も、 オリザ の ヤマシ で 4 ネン しくじった けれども、 コトシ は イチド に 4 ネン-マエ とれる。 これ も また なかなか いい もん だ」 など と いって ジマン する の でした。
 ところが その ツギ の トシ は そう は いきません でした。 ウエツケ の コロ から さっぱり アメ が ふらなかった ため に、 スイロ は かわいて しまい、 ヌマ には ヒビ が はいって、 アキ の トリイレ は やっと フユジュウ たべる くらい でした。 ライネン こそ と おもって いました が、 ツギ の トシ も また おなじ よう な ヒデリ でした。 それから も ライネン こそ ライネン こそ と おもいながら、 ブドリ の シュジン は、 だんだん コヤシ を いれる こと が できなく なり、 ウマ も うり、 ヌマバタケ も だんだん うって しまった の でした。
 ある アキ の ヒ、 シュジン は ブドリ に つらそう に いいました。
「ブドリ、 オレ も モト は イーハトーブ の オオビャクショウ だった し、 ずいぶん かせいで も きた の だ が、 たびたび の サムサ と カンバツ の ため に、 イマ では ヌマバタケ も ムカシ の 3 ブン の 1 に なって しまった し、 ライネン は もう いれる コヤシ も ない の だ。 オレ だけ で ない、 ライネン コヤシ を かって いれれる ヒト ったら もう イーハトーブ にも ナンニン も ない だろう。 こういう アンバイ では、 いつ に なって オマエ に はたらいて もらった レイ を する と いう アテ も ない。 オマエ も わかい ハタラキザカリ を、 オレ の とこ で くらして しまって は あんまり キノドク だ から、 すまない が どうか これ を もって、 どこ へ でも いって いい ウン を みつけて くれ」
 そして シュジン は、 ヒトフクロ の オカネ と あたらしい コン で そめた アサ の フク と アカガワ の クツ と を ブドリ に くれました。 ブドリ は イマ まで の シゴト の ひどかった こと も わすれて しまって、 もう なんにも いらない から、 ここ で はたらいて いたい とも おもいました が、 かんがえて みる と、 いて も やっぱり シゴト も そんな に ない ので、 シュジン に ナンベン も ナンベン も レイ を いって、 6 ネン の アイダ はたらいた ヌマバタケ と シュジン に わかれて、 テイシャバ を さして あるきだしました。
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グスコー ブドリ の デンキ 2

2016-12-07 | ミヤザワ ケンジ
 4、 クーボー ダイハカセ

 ブドリ は 2 ジカン ばかり あるいて、 テイシャバ へ きました。 それから キップ を かって、 イーハトーブ-ユキ の キシャ に のりました。 キシャ は イクツ も の ヌマバタケ を どんどん どんどん ウシロ へ おくりながら、 もう イッサン に はしりました。 その ムコウ には、 タクサン の くろい モリ が、 ツギ から ツギ と カタチ を かえて、 やっぱり ウシロ の ほう へ のこされて いく の でした。 ブドリ は イロイロ な オモイ で ムネ が いっぱい でした。 はやく イーハトーブ の シ に ついて、 あの シンセツ な ホン を かいた クーボー と いう ヒト に あい、 できる なら、 はたらきながら ベンキョウ して、 ミンナ が あんな に つらい オモイ を しない で ヌマバタケ を つくれる よう、 また カザン の ハイ だの ヒデリ だの サムサ だの を のぞく クフウ を したい と おもう と、 キシャ さえ まどろこくって たまらない くらい でした。
 キシャ は その ヒ の ヒルスギ、 イーハトーブ の シ に つきました。 テイシャバ を ヒトアシ でます と、 ジメン の ソコ から ナニ か のんのん わく よう な ヒビキ や どんより と した くらい クウキ、 いったり きたり する タクサン の ジドウシャ の アイダ に、 ブドリ は しばらく ぼうと して つったって しまいました。 やっと キ を とりなおして、 そこら の ヒト に クーボー ハカセ の ガッコウ へ いく ミチ を たずねました。 すると ダレ へ きいて も、 ミンナ ブドリ の あまり マジメ な カオ を みて、 ふきだしそう に しながら、
「そんな ガッコウ は しらん ね」 とか、 「もう 5~6 チョウ いって きいて みな」 とか いう の でした。 そして ブドリ が やっと ガッコウ を さがしあてた の は もう ユウガタ ちかく でした。 その おおきな こわれかかった しろい タテモノ の 2 カイ で、 ダレ か おおきな コエ で しゃべって いました。
「こんにちわ」 ブドリ は たかく さけびました。 ダレ も でて きません でした。
「こんにちわあ」 ブドリ は あらん かぎり たかく さけびました。 すると すぐ アタマ の ウエ の 2 カイ の マド から、 おおきな ハイイロ の アタマ が でて、 メガネ が フタツ ぎらり と ひかりました。 それから、
「イマ ジュギョウチュウ だよ。 やかましい ヤツ だ。 ヨウ が ある なら はいって こい」 と どなりつけて、 すぐ カオ を ひっこめます と、 ナカ では オオゼイ で どっと わらい、 その ヒト は かまわず また ナニ か オオゴエ で しゃべって います。
 ブドリ は そこで おもいきって、 なるべく アシオト を たてない よう に 2 カイ に あがって いきます と、 カイダン の ツキアタリ の ト が あいて いて、 じつに おおきな キョウシツ が、 ブドリ の マッショウメン に あらわれました。 ナカ には サマザマ の フクソウ を した ガクセイ が ぎっしり です。 ムコウ は おおきな くろい カベ に なって いて、 そこ に タクサン の しろい セン が ひいて あり、 サッキ の セイ の たかい メガネ を かけた ヒト が、 おおきな ヤグラ の カタチ の モケイ を あちこち ゆびさしながら、 サッキ の まま の たかい コエ で、 ミンナ に セツメイ して おりました。
 ブドリ は それ を ヒトメ みる と、 ああ これ は センセイ の ホン に かいて あった レキシ の レキシ と いう こと の モケイ だな と おもいました。 センセイ は わらいながら、 ヒトツ の トッテ を まわしました。 モケイ は がちっ と なって キタイ な フネ の よう な カタチ に なりました。 また がちっと トッテ を まわす と、 モケイ は コンド は おおきな ムカデ の よう な カタチ に かわりました。
 ミンナ は しきり に クビ を かたむけて、 どうも わからん と いう ふう に して いました が、 ブドリ には ただ おもしろかった の です。
「そこで こういう ズ が できる」 センセイ は くろい カベ へ ベツ の こみいった ズ を どんどん かきました。 ヒダリテ にも チョーク を もって、 さっさっ と かきました。 ガクセイ たち も ミンナ イッショウ ケンメイ その マネ を しました。 ブドリ も フトコロ から、 イマ まで ヌマバタケ で もって いた きたない テチョウ を だして ズ を かきとりました。 センセイ は もう かいて しまって、 ダン の ウエ に マッスグ に たって、 じろじろ ガクセイ たち の セキ を みまわして います。 ブドリ も かいて しまって、 その ズ を タテヨコ から みて います と、 ブドリ の トナリ で ヒトリ の ガクセイ が、
「あああ」 と アクビ を しました。 ブドリ は そっと ききました。
「ね、 この センセイ は なんて いう ん です か」
 すると ガクセイ は バカ に した よう に ハナ で わらいながら こたえました。
「クーボー ダイハカセ さ、 オマエ しらなかった の かい」 それから じろじろ ブドリ の ヨウス を みながら、
「ハジメ から、 この ズ なんか かける もん か。 ボク で さえ おなじ コウギ を もう 6 ネン も きいて いる ん だ」 と いって、 ジブン の ノート を フトコロ へ しまって しまいました。 その とき キョウシツ に、 ぱっと デントウ が つきました。 もう ユウガタ だった の です。 ダイハカセ が ムコウ で いいました。
「いまや ユウベ は はるか に きたり、 セッコウ も また ゼンカ を おえた。 ショクン の ウチ の キボウシャ は、 けだし イツモ の レイ に より、 その ノート をば セッシャ に しめし、 さらに スウコ の シモン を うけて、 ショゾク を けっす べき で ある」
 ガクセイ たち は わあ と さけんで、 ミンナ ばたばた ノート を とじました。 それから そのまま かえって しまう モノ が ダイブブン でした が、 50~60 ニン は イチレツ に なって ダイハカセ の マエ を とおりながら ノート を ひらいて みせる の でした。 すると ダイハカセ は それ を ちょっと みて、 ヒトコト か フタコト シツモン を して、 それから ハクボク で エリ へ、 「ゴウ」 とか、 「サイライ」 とか、 「フンレイ」 とか かく の でした。 ガクセイ は その アイダ、 いかにも シンパイ そう に クビ を ちぢめて いる の でした が、 それから そっと カタ を すぼめて ロウカ まで でて、 トモダチ に その シルシ を よんで もらって、 よろこんだり しょげたり する の でした。
 ぐんぐん シケン が すんで、 いよいよ ブドリ ヒトリ に なりました。 ブドリ が その ちいさな きたない テチョウ を だした とき、 クーボー ダイハカセ は おおきな アクビ を やりながら、 かがんで メ を ぐっと テチョウ に つける よう に しました ので、 テチョウ は あぶなく ダイハカセ に すいこまれそう に なりました。
 ところが ダイハカセ は、 うまそう に こくっと ヒトツ イキ を して、
「よろしい。 この ズ は ヒジョウ に ただしく できて いる。 その ホカ の ところ は、 ナン だ、 ははあ、 ヌマバタケ の コヤシ の こと に、 ウマ の タベモノ の こと かね。 では モンダイ を こたえなさい。 コウバ の エントツ から でる ケムリ には、 どういう イロ の シュルイ が ある か」
 ブドリ は おもわず オオゴエ に こたえました。
「クロ、 カツ、 キ、 ハイ、 シロ、 ムショク。 それから これら の コンゴウ です」
 ダイハカセ は わらいました。
「ムショク の ケムリ は たいへん いい。 カタチ に ついて いいたまえ」
「ムフウ で ケムリ が そうとう あれば、 タテ の ボウ にも なります が、 サキ は だんだん ひろがります。 クモ の ヒジョウ に ひくい ヒ は、 ボウ は クモ まで のぼって いって、 そこ から ヨコ に ひろがります。 カゼ の ある ヒ は、 ボウ は ナナメ に なります が、 その カタムキ は カゼ の テイド に したがいます。 ナミ や イクツ も キレ に なる の は、 カゼ の ため にも よります が、 ヒトツ は ケムリ や エントツ の もつ クセ の ため です。 あまり ケムリ の すくない とき は、 コルク-ヌキ の カタチ にも なり、 ケムリ も おもい ガス が まじれば、 エントツ の クチ から フサ に なって、 イッポウ ないし シホウ に おちる こと も あります」
 ダイハカセ は また わらいました。
「よろしい。 キミ は どういう シゴト を して いる の か」
「シゴト を ミツケ に きた ん です」
「おもしろい シゴト が ある。 メイシ を あげる から、 そこ へ すぐ いきなさい」 ハカセ は メイシ を とりだして、 ナニ か するする かきこんで ブドリ に くれました。 ブドリ は オジギ を して、 トグチ を でて いこう と します と、 ダイハカセ は ちょっと メ で こたえて、
「ナン だ、 ゴミ を やいてる の かな」 と ひくく つぶやきながら、 テーブル の ウエ に あった カバン に、 チョーク の カケラ や、 ハンケチ や ホン や、 みんな イッショ に なげこんで コワキ に かかえ、 さっき カオ を だした マド から、 ぷいっと ソト へ とびだしました。 びっくり して ブドリ が マド へ かけよって みます と、 いつか ダイハカセ は オモチャ の よう な ちいさな ヒコウセン に のって、 ジブン で ハンドル を とりながら、 もう うすあおい モヤ の こめた マチ の ウエ を、 マッスグ に ムコウ へ とんで いる の でした。 ブドリ が いよいよ あきれて みて います と、 まもなく ダイハカセ は、 ムコウ の おおきな ハイイロ の タテモノ の ヒラヤネ に ついて、 フネ を ナニ か カギ の よう な もの に つなぐ と、 そのまま ぽろっと タテモノ の ナカ へ はいって みえなく なって しまいました。

 5、 イーハトーブ カザン キョク

 ブドリ が、 クーボー ダイハカセ から もらった メイシ の アテナ を たずねて、 やっと ついた ところ は おおきな チャイロ の タテモノ で、 ウシロ には フサ の よう な カタチ を した たかい ハシラ が ヨル の ソラ に くっきり しろく たって おりました。 ブドリ は ゲンカン に あがって ヨビリン を おします と、 すぐ ヒト が でて きて、 ブドリ の だした メイシ を うけとり、 ヒトメ みる と、 すぐ ブドリ を ツキアタリ の おおきな ヘヤ へ アンナイ しました。 そこ には イマ まで に みた こと も ない よう な おおきな テーブル が あって、 その マンナカ に ヒトリ の すこし カミ の しろく なった ヒト の よさそう な リッパ な ヒト が、 きちんと すわって ミミ に ジュワキ を あてながら ナニ か かいて いました。 そして ブドリ の はいって きた の を みる と、 すぐ ヨコ の イス を ゆびさしながら、 また つづけて ナニ か かきつけて います。
 その ヘヤ の ミギテ の カベ いっぱい に、 イーハトーブ ゼンタイ の チズ が、 うつくしく いろどった おおきな モケイ に つくって あって、 テツドウ も マチ も カワ も ノハラ も みんな ヒトメ で わかる よう に なって おり、 その マンナカ を はしる セボネ の よう な サンミャク と、 カイガン に そって ヘリ を とった よう に なって いる サンミャク、 また それ から エダ を だして ウミ の ナカ に テンテン の シマ を つくって いる イチレツ の ヤマヤマ には、 みんな アカ や ダイダイ や キ の アカリ が ついて いて、 それ が かわるがわる イロ が かわったり じー と セミ の よう に なったり、 スウジ が あらわれたり きえたり して いる の です。 シタ の カベ に そった タナ には、 くろい タイプライター の よう な もの が 3 レツ に 100 でも きかない くらい ならんで、 みんな しずか に うごいたり なったり して いる の でした。 ブドリ が ワレ を わすれて みとれて おります と、 その ヒト が ジュワキ を ことっと おいて、 フトコロ から メイシイレ を だして、 1 マイ の メイシ を ブドリ に だしながら、
「アナタ が、 グスコー ブドリ クン です か。 ワタシ は こういう モノ です」 と いいました。 みる と、 [イーハトーブ カザン キョク ギシ ペンネンナーム] と かいて ありました。 その ヒト は ブドリ の アイサツ に なれない で もじもじ して いる の を みる と、 かさねて シンセツ に いいました。
「さっき クーボー ハカセ から デンワ が あった ので おまち して いました。 まあ これから、 ここ で シゴト しながら しっかり ベンキョウ して ごらんなさい。 ここ の シゴト は、 キョネン はじまった ばかり です が、 じつに セキニン の ある もの で、 それに ハンブン は いつ フンカ する か わからない カザン の ウエ で シゴト する もの なの です。 それに カザン の クセ と いう もの は、 なかなか ガクモン で わかる こと では ない の です。 ワレワレ は これから よほど しっかり やらなければ ならん の です。 では コンバン は あっち に アナタ の とまる ところ が あります から、 そこ で ゆっくり おやすみなさい。 アシタ この タテモノ-ジュウ を すっかり アンナイ します から」
 ツギ の アサ、 ブドリ は ペンネン ロウギシ に つれられて、 タテモノ の ナカ を いちいち つれて あるいて もらい、 サマザマ の キカイ や シカケ を くわしく おそわりました。 その タテモノ の ナカ の スベテ の キカイ は みんな イーハトーブ-ジュウ の 300 イクツ か の カッカザン や キュウカザン に つづいて いて、 それら の カザン の ケムリ や ハイ を ふいたり、 ヨウガン を ながしたり して いる ヨウス は もちろん、 ミカケ は じっと して いる ふるい カザン でも、 その ナカ の ヨウガン や ガス の モヨウ から、 ヤマ の カタチ の カワリヨウ まで、 みんな スウジ に なったり ズ に なったり して、 あらわれて くる の でした。 そして はげしい ヘンカ の ある たび に、 モケイ は みんな ベツベツ の オト で なる の でした。
 ブドリ は その ヒ から ペンネン ロウギシ に ついて、 スベテ の キカイ の アツカイカタ や カンソク の シカタ を ならい、 ヨル も ヒル も イッシン に はたらいたり ベンキョウ したり しました。 そして 2 ネン ばかり たちます と、 ブドリ は ホカ の ヒトタチ と イッショ に あちこち の カザン へ キカイ を スエツケ に だされたり、 すえつけて ある キカイ の わるく なった の を シュウゼン に やられたり も する よう に なりました ので、 もう ブドリ には イーハトーブ の 300 イクツ の カザン と、 その ハタラキ グアイ は テノヒラ の ナカ に ある よう に わかって きました。 じつに イーハトーブ には 70 イクツ の カザン が マイニチ ケムリ を あげたり、 ヨウガン を ながしたり して いる の でした し、 50 イクツ か の キュウカザン は、 イロイロ な ガス を ふいたり、 あつい ユ を だしたり して いました。 そして ノコリ の 160~170 の シカザン の ウチ にも、 いつ また ナニ を はじめる か わからない もの も ある の でした。
 ある ヒ ブドリ が ロウギシ と ならんで シゴト を して おります と、 にわか に サンムトリ と いう ミナミ の ほう の カイガン に ある カザン が、 むくむく キカイ に かんじだして きました。 ロウギシ が さけびました。
「ブドリ クン。 サンムトリ は、 ケサ まで なにも なかった ね」
「はい、 イマ まで サンムトリ の はたらいた の を みた こと が ありません」
「ああ、 これ は もう フンカ が ちかい。 ケサ の ジシン が シゲキ した の だ。 この ヤマ の キタ 10 キロ の ところ には サンムトリ の シ が ある。 コンド バクハツ すれば、 たぶん ヤマ は 3 ブン の 1、 キタガワ を はねとばして、 ウシ や テーブル ぐらい の イワ は あつい ハイ や ガス と イッショ に、 どしどし サンムトリ シ に おちて くる。 どうでも イマ の うち に、 この ウミ に むいた ほう へ ボーリング を いれて キズグチ を こさえて、 ガス を ぬく か ヨウガン を ださせる か しなければ ならない。 イマ すぐ フタリ で み に いこう」
 フタリ は すぐに シタク して、 サンムトリ-ユキ の キシャ に のりました。

 6、 サンムトリ カザン

 フタリ は ツギ の アサ、 サンムトリ の シ に つき、 ヒルゴロ サンムトリ カザン の イタダキ ちかく、 カンソク キカイ を おいて ある コヤ に のぼりました。 そこ は、 サンムトリ-サン の ふるい フンカコウ の ガイリンザン が、 ウミ の ほう へ むいて かけた ところ で、 その コヤ の マド から ながめます と、 ウミ は アオ や ハイイロ の イクツ も の シマ に なって みえ、 その ナカ を キセン は くろい ケムリ を はき、 ギンイロ の ミオ を ひいて イクツ も すべって いる の でした。
 ロウギシ は しずか に スベテ の カンソクキ を しらべ、 それから ブドリ に いいました。
「キミ は この ヤマ は あと ナンニチ ぐらい で フンカ する と おもう か」
「ヒトツキ は もたない と おもいます」
「ヒトツキ は もたない。 もう トオカ も もたない。 はやく コウサク を して しまわない と、 トリカエシ の つかない こと に なる。 ワタシ は この ヤマ の ウミ に むいた ほう では、 あすこ が いちばん よわい と おもう」 ロウギシ は サンプク の タニ の ウエ の ウスミドリ の クサチ を ゆびさしました。 そこ を クモ の カゲ が しずか に あおく すべって いる の でした。
「あすこ には ヨウガン の ソウ が フタツ しか ない。 アト は やわらか な カザンバイ と カザンレキ の ソウ だ。 それに あすこ まで は ボクジョウ の ミチ も リッパ に ある から、 ザイリョウ を はこぶ こと も ぞうさない。 ボク は コウサクタイ を シンセイ しよう」 ロウギシ は せわしく キョク へ ハッシン を はじめました。
 その とき アシ の シタ では、 つぶやく よう な かすか な オト が して、 カンソクゴヤ は しばらく ぎしぎし きしみました。 ロウギシ は キカイ を はなれました。
「キョク から すぐ コウサクタイ を だす そう だ。 コウサクタイ と いって も ハンブン ケッシタイ だ。 ワタシ は イマ まで に、 こんな キケン に せまった シゴト を した こと が ない」
「トオカ の うち に できる でしょう か」
「きっと できる。 ソウチ には ミッカ、 サンムトリ シ の ハツデンショ から、 デンセン を ひいて くる には イツカ かかる な」
 ギシ は しばらく ユビ を おって かんがえて いました が、 やがて アンシン した よう に また しずか に いいました。
「とにかく ブドリ クン。 ひとつ チャ を わかして のもう では ない か。 あんまり いい ケシキ だ から」
 ブドリ は もって きた アルコール ランプ に ヒ を いれて、 チャ を わかしはじめました。 ソラ には だんだん クモ が でて、 それに ヒ も もう おちた の か、 ウミ は さびしい ハイイロ に かわり、 タクサン の しろい ナミガシラ は、 イッセイ に カザン の スソ に よせて きました。
 ふと ブドリ は すぐ メノマエ に、 いつか みた こと の ある おかしな カタチ の ちいさな ヒコウセン が とんで いる の を みつけました。 ロウギシ も はねあがりました。
「あ、 クーボー クン が やって きた」
 ブドリ も つづいて コヤ を とびだしました。 ヒコウセン は もう コヤ の ヒダリガワ の おおきな イワ の カベ の ウエ に とまって、 ナカ から セイ の たかい クーボー ダイハカセ が ひらり と とびおりて いました。 ハカセ は しばらく その ヘン の イワ の おおきな サケメ を さがして いました が、 やっと それ を みつけた と みえて、 てばやく ネジ を しめて ヒコウセン を つなぎました。
「オチャ を よばれ に きた よ。 ゆれる かい」 ダイハカセ は にやにや わらって いいました。 ロウギシ が こたえました。
「まだ そんな で ない。 けれども どうも イワ が ぽろぽろ ウエ から おちて いる らしい ん だ」
 ちょうど その とき、 ヤマ は にわか に おこった よう に なりだし、 ブドリ は メノマエ が あおく なった よう に おもいました。 ヤマ は ぐらぐら つづけて ゆれました。 みる と クーボー ダイハカセ も ロウギシ も しゃがんで イワ へ しがみついて いました し、 ヒコウセン も おおきな ナミ に のった フネ の よう に ゆっくり ゆれて おりました。
 ジシン は やっと やみ、 クーボー ダイハカセ は おきあがって すたすた と コヤ へ はいって いきました。 ナカ では オチャ が ひっくりかえって、 アルコール が あおく ぽかぽか もえて いました。 クーボー ダイハカセ は キカイ を すっかり しらべて、 それから ロウギシ と いろいろ はなしました。 そして シマイ に いいました。
「もう どうしても ライネン は チョウセキ ハツデンショ を ゼンブ つくって しまわなければ ならない。 それ が できれば コンド の よう な バアイ にも その ヒ の うち に シゴト が できる し、 ブドリ クン が いって いる ヌマバタケ の ヒリョウ も ふらせられる ん だ」
「カンバツ だって ちっとも こわく なくなる から な」 ペンネン ギシ も いいました。 ブドリ は ムネ が わくわく しました。 ヤマ まで おどりあがって いる よう に おもいました。 じっさい ヤマ は、 その とき はげしく ゆれだして、 ブドリ は ユカ へ なげだされて いた の です。 ダイハカセ が いいました。
「やるぞ。 やるぞ。 イマ の は サンムトリ の シ へも かなり かんじた に ちがいない」
 ロウギシ が いいました。
「イマ の は ボクラ の アシモト から、 キタ へ 1 キロ ばかり、 チヒョウカ 700 メートル ぐらい の ところ で、 この コヤ の 60~70 バイ ぐらい の イワ の カタマリ が ヨウガン の ナカ へ おちこんだ らしい の だ。 ところが ガス が いよいよ サイゴ の イワ の カワ を はねとばす まで には、 そんな カタマリ を 100 も 200 も、 ジブン の カラダ の ナカ に とらなければ ならない」
 ダイハカセ は しばらく かんがえて いました が、 「そう だ、 ボク は これ で シッケイ しよう」 と いって コヤ を でて、 いつか ひらり と フネ に のって しまいました。 ロウギシ と ブドリ は、 ダイハカセ が アカリ を 2~3 ド ふって アイサツ しながら ヤマ を まわって ムコウ へ いく の を みおくって、 また コヤ に はいり、 かわるがわる ねむったり カンソク したり しました。 そして アケガタ フモト へ コウサクタイ が つきます と、 ロウギシ は ブドリ を ヒトリ コヤ に のこして、 キノウ ゆびさした あの クサチ まで おりて いきました。 ミンナ の コエ や、 テツ の ザイリョウ の ふれあう オト は、 シタ から カゼ が ふきあげる とき は、 テ に とる よう に きこえました。 ペンネン ギシ から は ひっきりなし に、 ムコウ の シゴト の ススミグアイ も しらせて よこし、 ガス の アツリョク や ヤマ の カタチ の カワリヨウ も たずねて きました。 それから ミッカ の アイダ は、 はげしい ジシン や ジナリ の ナカ で、 ブドリ の ほう も フモト の ほう も ほとんど ねむる ヒマ さえ ありません でした。 その ヨッカ-メ の ゴゴ、 ロウギシ から の ハッシン が いって きました。
「ブドリ クン だな。 すっかり シタク が できた。 いそいで おりて きたまえ。 カンソク の キカイ は イッペン しらべて ソノママ に して、 ヒョウ は ゼンブ もって くる の だ。 もう その コヤ は キョウ の ゴゴ には なくなる ん だ から」
 ブドリ は すっかり いわれた とおり に して ヤマ を おりて いきました。 そこ には イマ まで キョク の ソウコ に あった おおきな テツザイ が、 すっかり ヤグラ に くみたって いて、 イロイロ な キカイ は もう デンリュウ さえ くれば すぐに はたらきだす ばかり に なって いました。 ペンネン ギシ の ホオ は げっそり おち、 コウサクタイ の ヒトタチ も あおざめて メ ばかり ひからせながら、 それでも ミンナ わらって ブドリ に アイサツ しました。 ロウギシ が いいました。
「では ひきあげよう。 ミンナ シタク して クルマ に のりたまえ」 ミンナ は オオイソギ で 20 ダイ の ジドウシャ に のりました。 クルマ は レツ に なって ヤマ の スソ を イッサン に サンムトリ の シ に はしりました。 ちょうど ヤマ と シ との マンナカ-ゴロ で ギシ は ジドウシャ を とめさせました。
「ここ へ テント を はりたまえ。 そして ミンナ で ねむる ん だ」
 ミンナ は、 モノ を ヒトコト も いえず に、 その とおり に して たおれる よう に ねむって しまいました。
 その ゴゴ、 ロウギシ は ジュワキ を おいて さけびました。
「さあ デンセン は とどいた ぞ。 ブドリ クン、 はじめる よ」 ロウギシ は スイッチ を いれました。 ブドリ たち は、 テント の ソト に でて、 サンムトリ の チュウフク を みつめました。 ノハラ には、 シロユリ が イチメン さき、 その ムコウ に サンムトリ が あおく ひっそり たって いました。
 にわか に サンムトリ の ヒダリ の スソ が ぐらぐらっ と ゆれ、 マックロ な ケムリ が ぱっと たった と おもう と マッスグ に テン に のぼって いって、 おかしな キノコ の カタチ に なり、 その アシモト から キンイロ の ヨウガン が きらきら ながれだして、 みるまに ずうっと オウギガタ に ひろがりながら ウミ へ はいりました。 と おもう と ジメン は はげしく ぐらぐら ゆれ、 ユリ の ハナ も イチメン ゆれ、 それから ごうっ と いう よう な おおきな オト が、 ミンナ を たおす くらい つよく やって きました。 それから カゼ が どうっと ふいて いきました。
「やった やった」 と ミンナ は そっち に テ を のばして たかく さけびました。 この とき サンムトリ の ケムリ は、 くずれる よう に ソラ いっぱい ひろがって きました が、 たちまち ソラ は マックラ に なって、 あつい コイシ が ぱらぱら ぱらぱら ふって きました。 ミンナ は テント の ナカ に はいって シンパイ そう に して いました が、 ペンネン ギシ は、 トケイ を みながら、
「ブドリ クン、 うまく いった。 キケン は もう まったく ない。 シ の ほう へは ハイ を すこし ふらせる だけ だろう」 と いいました。 コイシ は だんだん ハイ に かわりました。 それ も まもなく うすく なって、 ミンナ は また テント の ソト へ とびだしました。 ノハラ は まるで イチメン ネズミイロ に なって、 ハイ は ちょっと ばかり つもり、 ユリ の ハナ は みんな おれて ハイ に うずまり、 ソラ は へんに ミドリイロ でした。 そして サンムトリ の スソ には ちいさな コブ が できて、 そこ から ハイイロ の ケムリ が、 まだ どんどん のぼって おりました。
 その ユウガタ ミンナ は、 ハイ や コイシ を ふんで、 もう イチド ヤマ へ のぼって、 あたらしい カンソク の キカイ を すえつけて かえりました。

 7、 クモ の ウミ

 それから 4 ネン の アイダ に、 クーボー ダイハカセ の ケイカクドオリ、 チョウセキ ハツデンショ は、 イーハトーブ の カイガン に そって、 200 も ハイチ されました。 イーハトーブ を めぐる カザン には、 カンソクゴヤ と イッショ に、 しろく ぬられた テツ の ヤグラ が じゅんじゅん に たちました。
 ブドリ は ギシ ココロエ に なって、 イチネン の ダイブブン は カザン から カザン と まわって あるいたり、 あぶなく なった カザン を コウサク したり して いました。
 ツギ の トシ の ハル、 イーハトーブ の カザン キョク では、 ツギ の よう な ポスター を ムラ や マチ へ はりました。

 チッソ ヒリョウ を ふらせます。
コトシ の ナツ、 アメ と イッショ に、 ショウサン アムモニア を ミナサン の ヌマバタケ や ソサイバタケ に ふらせます から、 ヒリョウ を つかう カタ は、 その ブン を いれて ケイサン して ください。 ブンリョウ は 100 メートル シホウ に つき 120 キログラム です。
 アメ も すこし は ふらせます。
カンバツ の サイ には、 とにかく サクモツ の かれない ぐらい の アメ は ふらせる こと が できます から、 イマ まで ミズ が こなく なって サクヅケ しなかった ヌマバタケ も、 コトシ は シンパイ せず に うえつけて ください。

 その トシ の 6 ガツ、 ブドリ は イーハトーブ の マンナカ に あたる イーハトーブ カザン の チョウジョウ の コヤ に おりました。 シタ は イチメン ハイイロ を した クモ の ウミ でした。 その あちこち から イーハトーブ-ジュウ の カザン の イタダキ が、 ちょうど シマ の よう に くろく でて おりました。 その クモ の すぐ ウエ を 1 セキ の ヒコウセン が、 センビ から マッシロ な ケムリ を ふいて、 ヒトツ の ミネ から ヒトツ の ミネ へ ちょうど ハシ を かける よう に とびまわって いました。 その ケムリ は、 ジカン が たつ ほど だんだん ふとく はっきり なって、 しずか に シタ の クモ の ウミ に おちかぶさり、 まもなく、 イチメン の クモ の ウミ には うすじろく ひかる おおきな アミ が、 ヤマ から ヤマ へ はりわたされました。 いつか ヒコウセン は ケムリ を おさめて、 しばらく アイサツ する よう に ワ を かいて いました が、 やがて センシュ を たれて しずか に クモ の ナカ へ しずんで いって しまいました。
 ジュワキ が じー と なりました。 ペンネン ギシ の コエ でした。
「フネ は イマ かえって きた。 シタ の ほう の シタク は すっかり いい。 アメ は ざあざあ ふって いる。 もう よかろう と おもう。 はじめて くれたまえ」
 ブドリ は ボタン を おしました。 みるみる サッキ の ケムリ の アミ は、 うつくしい モモイロ や アオ や ムラサキ に、 ぱっぱっ と メ も さめる よう に かがやきながら、 ついたり きえたり しました。 ブドリ は まるで うっとり と して それ に みとれました。 その うち に だんだん ヒ は くれて、 クモ の ウミ も アカリ が きえた とき は、 ハイイロ か ネズミイロ か わからない よう に なりました。
 ジュワキ が なりました。
「ショウサン アムモニア は もう アメ の ナカ へ でて きて いる。 リョウ も これ ぐらい なら ちょうど いい。 イドウ の グアイ も いい らしい。 あと 4 ジカン やれば、 もう この チホウ は コンゲツチュウ は タクサン だろう。 つづけて やって くれたまえ」
 ブドリ は もう うれしくって はねあがりたい くらい でした。 この クモ の シタ で ムカシ の アカヒゲ の シュジン も、 トナリ の セキユ が コヤシ に なる か と いった ヒト も、 ミンナ よろこんで アメ の オト を きいて いる。 そして アス の アサ は、 みちがえる よう に ミドリイロ に なった オリザ の カブ を テ で なでたり する だろう。 まるで ユメ の よう だ と おもいながら、 クモ の マックラ に なったり、 また うつくしく かがやいたり する の を ながめて おりました。 ところが みじかい ナツ の ヨル は もう あける らしかった の です。 デンコウ の アイマ に、 ヒガシ の クモ の ウミ の ハテ が ぼんやり きばんで いる の でした。
 ところが それ は ツキ が でる の でした。 おおきな キイロ な ツキ が しずか に のぼって くる の でした。 そして クモ が あおく ひかる とき は へんに しろっぽく みえ、 モモイロ に ひかる とき は ナニ か わらって いる よう に みえる の でした。 ブドリ は、 もう ジブン が ダレ なの か、 ナニ を して いる の か わすれて しまって、 ただ ぼんやり それ を みつめて いました。
 ジュワキ が じー と なりました。
「こっち では だいぶ カミナリ が なりだして きた。 アミ が あちこち ちぎれた らしい。 あんまり ならす と アシタ の シンブン が ワルクチ を いう から、 もう 10 プン ばかり で やめよう」
 ブドリ は ジュワキ を おいて ミミ を すましました。 クモ の ウミ は あっち でも こっち でも ぶつぶつ ぶつぶつ つぶやいて いる の です。 よく キ を つけて きく と やっぱり それ は きれぎれ の カミナリ の オト でした。 ブドリ は スイッチ を きりました。 にわか に ツキ の アカリ だけ に なった クモ の ウミ は、 やっぱり しずか に キタ へ ながれて います。 ブドリ は モウフ を カラダ に まいて ぐっすり ねむりました。

 8、 アキ

 その トシ の ノウサクブツ の シュウカク は、 キコウ の せい も ありました が、 10 ネン の アイダ にも なかった ほど、 よく できました ので、 カザン キョク には あっち から も こっち から も カンシャジョウ や ゲキレイ の テガミ が とどきました。 ブドリ は はじめて ホントウ に いきた カイ が ある よう に おもいました。
 ところが ある ヒ、 ブドリ が タチナ と いう カザン へ いった カエリ、 トリイレ の すんで がらん と した ヌマバタケ の ナカ の ちいさな ムラ を とおりかかりました。 ちょうど ヒルゴロ なので、 パン を かおう と おもって、 1 ケン の ザッカ や カシ を うって いる ミセ へ よって、
「パン は ありません か」 と ききました。 すると、 そこ には 3 ニン の ハダシ の ヒトタチ が、 メ を マッカ に して サケ を のんで おりました が、 ヒトリ が たちあがって、
「パン は ある が、 どうも くわれない パン で な。 セキバン だ もな」 と おかしな こと を いいます と、 ミンナ は おもしろそう に ブドリ の カオ を みて どっと わらいました。 ブドリ は いや に なって、 ぷいっと オモテ へ でましたら、 ムコウ から カミ を カクガリ に した セイ の たかい オトコ が きて、 いきなり、
「おい、 オマエ、 コトシ の ナツ、 デンキ で コヤシ ふらせた ブドリ だな」 と いいました。
「そう だ」 ブドリ は なにげなく こたえました。 その オトコ は たかく さけびました。
「カザン キョク の ブドリ きた ぞ。 ミンナ あつまれ」
 すると イマ の ウチ の ナカ や そこら の ハタケ から、 7~8 ニン の ヒャクショウ たち が、 げらげら わらって かけて きました。
「この ヤロウ、 キサマ の デンキ の おかげ で、 オイラ の オリザ、 みんな たおれて しまった ぞ。 なして あんな マネ した ん だ」 ヒトリ が いいました。
 ブドリ は しずか に いいました。
「たおれる なんて、 キミラ は ハル に だした ポスター を みなかった の か」
「なに この ヤロウ」 いきなり ヒトリ が ブドリ の ボウシ を たたきおとしました。 それから ミンナ は よって たかって ブドリ を なぐったり ふんだり しました。 ブドリ は とうとう ナニ が なんだか わからなく なって たおれて しまいました。
 キ が ついて みる と ブドリ は どこ か の ビョウイン らしい ヘヤ の しろい ベッド に ねて いました。 マクラモト には ミマイ の デンポウ や、 タクサン の テガミ が ありました。 ブドリ の カラダジュウ は いたくて あつく、 うごく こと が できません でした。 けれども それから 1 シュウカン ばかり たちます と、 もう ブドリ は モト の ゲンキ に なって いました。 そして シンブン で、 あの とき の デキゴト は、 ヒリョウ の イレヨウ を まちがって おしえた ノウギョウ ギシ が、 オリザ の たおれた の を みんな カザン キョク の せい に して、 ごまかして いた ため だ と いう こと を よんで、 おおきな コエ で ヒトリ で わらいました。
 その ツギ の ヒ の ゴゴ、 ビョウイン の コヅカイ が はいって きて、
「ネリ と いう ゴフジン の オカタ が たずねて おいで に なりました」 と いいました。 ブドリ は ユメ では ない か と おもいましたら、 まもなく ヒトリ の ヒ に やけた ヒャクショウ の オカミサン の よう な ヒト が、 おずおず と はいって きました。 それ は まるで かわって は いました が、 あの モリ の ナカ から ダレ か に つれて いかれた ネリ だった の です。 フタリ は しばらく モノ も いえません でした が、 やっと ブドリ が、 その ノチ の こと を たずねます と、 ネリ も ぼつぼつ と イーハトーブ の ヒャクショウ の コトバ で、 イマ まで の こと を はなしました。 ネリ を つれて いった あの オトコ は、 ミッカ ばかり の ノチ、 めんどうくさく なった の か、 ある ちいさな ボクジョウ の チカク へ ネリ を のこして、 どこ か へ いって しまった の でした。
 ネリ が そこら を ないて あるいて います と、 その ボクジョウ の シュジン が かわいそう に おもって ウチ へ いれて、 アカンボウ の オモリ を させたり して いました が、 だんだん ネリ は なんでも はたらける よう に なった ので、 とうとう 3~4 ネン マエ に その ちいさな ボクジョウ の いちばん ウエ の ムスコ と ケッコン した と いう の でした。 そして コトシ は ヒリョウ も ふった ので、 イツモ なら ウマヤゴエ を トオク の ハタケ まで はこびださなければ ならず、 たいへん ナンギ した の を、 チカク の カブラ の ハタケ へ みんな いれた し、 トオク の トウモロコシ も よく できた ので、 ウチジュウ ミンナ よろこんで いる と いう よう な こと も いいました。 また あの モリ の ナカ へ シュジン の ムスコ と イッショ に ナンベン も いって みた けれども、 ウチ は すっかり こわれて いた し、 ブドリ は どこ へ いった か わからない ので、 いつも がっかり して かえって いたら、 キノウ シンブン で シュジン が ブドリ の ケガ を した こと を よんだ ので、 やっと こっち へ たずねて きた と いう こと も いいました。 ブドリ は、 なおったら きっと その ウチ へ たずねて いって、 オレイ を いう ヤクソク を して ネリ を かえしました。

 9、 カルボナード-トウ

 それから の 5 ネン は、 ブドリ には ホントウ に たのしい もの でした。 アカヒゲ の シュジン の ウチ にも ナンベン も オレイ に いきました。
 もう よほど トシ は とって いました が、 やはり ヒジョウ な ゲンキ で、 コンド は ケ の ながい ウサギ を 1000 ビキ イジョウ かったり、 あかい カンラン ばかり ハタケ に つくったり、 あいかわらず の ヤマシ は やって いました が、 クラシ は ずうっと いい よう でした。
 ネリ には、 かわいらしい オトコ の コ が うまれました。 フユ に シゴト が ヒマ に なる と、 ネリ は その コ に すっかり コドモ の ヒャクショウ の よう な カタチ を させて、 シュジン と イッショ に、 ブドリ の ウチ に たずねて きて、 とまって いったり する の でした。
 ある ヒ、 ブドリ の ところ へ、 ムカシ テグスカイ の オトコ に ブドリ と イッショ に つかわれて いた ヒト が たずねて きて、 ブドリ たち の オトウサン の オハカ が、 モリ の いちばん ハズレ の おおきな カヤ の キ の シタ に ある と いう こと を おしえて いきました。 それ は、 はじめ、 テグスカイ の オトコ が モリ に きて、 モリジュウ の キ を みて あるいた とき、 ブドリ の オトウサン たち の つめたく なった カラダ を みつけて、 ブドリ に しらせない よう に、 そっと ツチ に うずめて、 ウエ へ 1 ポン の カバ の エダ を たてて おいた と いう の でした。 ブドリ は、 すぐ ネリ たち を つれて そこ へ いって、 しろい セッカイガン の ハカ を たてて、 それから も その ヘン を とおる たび に いつも よって くる の でした。
 そして ちょうど ブドリ が 27 の トシ でした。 どうも あの おそろしい さむい キコウ が また くる よう な モヨウ でした。 ソッコウジョ では、 タイヨウ の チョウシ や キタ の ほう の ウミ の コオリ の ヨウス から、 その トシ の 2 ガツ に ミンナ へ それ を ヨホウ しました。 それ が ヒトアシ ずつ だんだん ホントウ に なって、 コブシ の ハナ が さかなかったり、 5 ガツ に トオカ も ミゾレ が ふったり します と、 ミンナ は もう コノマエ の キョウサク を おもいだして、 いきた ソラ も ありません でした。 クーボー ダイハカセ も、 たびたび キショウ や ノウギョウ の ギシ たち と ソウダン したり、 イケン を シンブン へ だしたり しました が、 やっぱり この はげしい サムサ だけ は どうとも できない ヨウス でした。
 ところが 6 ガツ も ハジメ に なって、 まだ キイロ な オリザ の ナエ や、 メ を ださない キ を みます と、 ブドリ は もう いて も たって も いられません でした。 コノママ で すぎる なら、 モリ にも ノハラ にも、 ちょうど あの トシ の ブドリ の カゾク の よう に なる ヒト が たくさん できる の です。 ブドリ は まるで モノ も たべず に イクバン も イクバン も かんがえました。 ある バン ブドリ は、 クーボー ダイハカセ の ウチ を たずねました。
「センセイ、 キソウ の ナカ に タンサン ガス が ふえて くれば あたたかく なる の です か」
「それ は なる だろう。 チキュウ が できて から イマ まで の キオン は、 たいてい クウキ-チュウ の タンサン ガス の リョウ で きまって いた と いわれる くらい だ から ね」
「カルボナード カザントウ が、 イマ バクハツ したら、 この キコウ を かえる くらい の タンサン ガス を ふく でしょう か」
「それ は ボク も ケイサン した。 あれ が イマ バクハツ すれば、 ガス は すぐ ダイジュンカン の ジョウソウ の カゼ に まじって チキュウ ゼンタイ を つつむ だろう。 そして カソウ の クウキ や チヒョウ から の ネツ の ホウサン を ふせぎ、 チキュウ ゼンタイ を ヘイキン で 5 ド ぐらい あたたか に する だろう と おもう」
「センセイ、 あれ を イマ すぐ ふかせられない でしょう か」
「それ は できる だろう。 けれども、 その シゴト に いった モノ の ウチ、 サイゴ の ヒトリ は どうしても にげられない ので ね」
「センセイ、 ワタシ に それ を やらして ください。 どうか センセイ から ペンネン センセイ へ オユルシ の でる よう オコトバ を ください」
「それ は いけない。 キミ は まだ わかい し、 イマ の キミ の シゴト に かわれる モノ は そう は ない」
「ワタシ の よう な モノ は、 これから たくさん できます。 ワタシ より もっと もっと なんでも できる ヒト が、 ワタシ より もっと リッパ に もっと うつくしく、 シゴト を したり わらったり して いく の です から」
「その ソウダン は ボク は いかん。 ペンネン ギシ に はなしたまえ」
 ブドリ は かえって きて、 ペンネン ギシ に ソウダン しました。 ギシ は うなずきました。
「それ は いい。 けれども ボク が やろう。 ボク は コトシ もう 63 なの だ。 ここ で しぬ なら まったく ホンモウ と いう もの だ」
「センセイ、 けれども この シゴト は まだ あんまり ふたしか です。 イッペン うまく バクハツ して も まもなく ガス が アメ に とられて しまう かも しれません し、 また なにもかも おもった とおり いかない かも しれません。 センセイ が コンド おいで に なって しまって は、 アト なんとも クフウ が つかなく なる と ぞんじます」
 ロウギシ は だまって クビ を たれて しまいました。
 それから ミッカ の ノチ、 カザン キョク の フネ が、 カルボナード-トウ へ いそいで いきました。 そこ へ イクツ も の ヤグラ は たち、 デンセン は レンケツ されました。
 すっかり シタク が できる と、 ブドリ は ミンナ を フネ で かえして しまって、 ジブン は ヒトリ シマ に のこりました。
 そして その ツギ の ヒ、 イーハトーブ の ヒトタチ は、 アオゾラ が ミドリイロ に にごり、 ヒ や ツキ が アカガネイロ に なった の を みました。 けれども それから サン、 ヨッカ たちます と、 キコウ は ぐんぐん あたたかく なって きて、 その アキ は ほぼ フツウ の サクガラ に なりました。 そして ちょうど、 この オハナシ の ハジマリ の よう に なる はず の、 タクサン の ブドリ の オトウサン や オカアサン は、 タクサン の ブドリ や ネリ と イッショ に、 その フユ を あたたかい タベモノ と、 あかるい タキギ で たのしく くらす こと が できた の でした。
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ヨダカ の ホシ

2013-06-21 | ミヤザワ ケンジ
 ヨダカ の ホシ

 ミヤザワ ケンジ

 ヨダカ は、 じつに みにくい トリ です。
 カオ は、 ところどころ、 ミソ を つけた よう に マダラ で、 クチバシ は、 ひらたくて、 ミミ まで さけて います。
 アシ は、 まるで よぼよぼ で、 1 ケン とも あるけません。
 ホカ の トリ は、 もう、 ヨダカ の カオ を みた だけ でも、 いや に なって しまう と いう グアイ でした。
 たとえば、 ヒバリ も、 あまり うつくしい トリ では ありません が、 ヨダカ より は、 ずっと ウエ だ と おもって いました ので、 ユウガタ など、 ヨダカ に あう と、 さもさも いや そう に、 しんねり と メ を つぶりながら、 クビ を ソッポ へ むける の でした。 もっと ちいさな オシャベリ の トリ など は、 いつでも ヨダカ の マッコウ から ワルクチ を しました。
「へん。 また でて きた ね。 まあ、 あの ザマ を ごらん。 ホントウ に、 トリ の ナカマ の ツラヨゴシ だよ」
「ね、 まあ、 あの クチ の おおきい こと さ。 きっと、 カエル の シンルイ か ナニ か なん だよ」
 こんな チョウシ です。 おお、 ヨダカ で ない タダ の タカ ならば、 こんな ナマハンカ の ちいさい トリ は、 もう ナマエ を きいた だけ でも、 ぶるぶる ふるえて、 カオイロ を かえて、 カラダ を ちぢめて、 コノハ の カゲ に でも かくれた でしょう。 ところが ヨダカ は、 ホントウ は タカ の キョウダイ でも シンルイ でも ありません でした。 かえって、 ヨダカ は、 あの うつくしい カワセミ や、 トリ の ナカ の ホウセキ の よう な ハチスズメ の ニイサン でした。 ハチスズメ は ハナ の ミツ を たべ、 カワセミ は オサカナ を たべ、 ヨダカ は ハムシ を とって たべる の でした。 それに ヨダカ には、 するどい ツメ も するどい クチバシ も ありません でした から、 どんな に よわい トリ でも、 ヨダカ を こわがる はず は なかった の です。
 それなら、 タカ と いう ナ の ついた こと は フシギ な よう です が、 これ は、 ヒトツ は ヨダカ の ハネ が むやみ に つよくて、 カゼ を きって かける とき など は、 まるで タカ の よう に みえた こと と、 も ヒトツ は ナキゴエ が するどくて、 やはり どこ か タカ に にて いた ため です。 もちろん、 タカ は、 これ を ヒジョウ に キ に かけて、 いやがって いました。 それ です から、 ヨダカ の カオ さえ みる と、 カタ を いからせて、 はやく ナマエ を あらためろ、 ナマエ を あらためろ と、 いう の でした。
 ある ユウガタ、 とうとう、 タカ が ヨダカ の ウチ へ やって まいりました。
「おい、 いる かい。 まだ オマエ は ナマエ を かえない の か。 ずいぶん オマエ も ハジシラズ だな。 オマエ と オレ では、 よっぽど ジンカク が ちがう ん だよ。 たとえば オレ は、 あおい ソラ を どこ まで でも とんで いく。 オマエ は、 くもって うすぐらい ヒ か、 ヨル で なくちゃ、 でて こない。 それから、 オレ の クチバシ や ツメ を みろ。 そして、 よく オマエ の と くらべて みる が いい」
「タカ さん。 それ は あんまり ムリ です。 ワタシ の ナマエ は ワタシ が カッテ に つけた の では ありません。 カミサマ から くださった の です」
「いいや。 オレ の ナ なら、 カミサマ から もらった の だ と いって も よかろう が、 オマエ の は、 いわば、 オレ と ヨル と、 リョウホウ から かりて ある ん だ。 さあ かえせ」
「タカ さん。 それ は ムリ です」
「ムリ じゃ ない。 オレ が いい ナ を おしえて やろう。 イチゾウ と いう ん だ。 イチゾウ と な。 いい ナ だろう。 そこで、 ナマエ を かえる には、 カイメイ の ヒロウ と いう もの を しない と いけない。 いい か。 それ は な、 クビ へ イチゾウ と かいた フダ を ぶらさげて、 ワタシ は イライ イチゾウ と もうします と、 コウジョウ を いって、 ミンナ の ところ を オジギ して まわる の だ」
「そんな こと は とても できません」
「いいや。 できる。 そう しろ。 もし アサッテ の アサ まで に、 オマエ が そう しなかったら、 もう すぐ、 つかみころす ぞ。 つかみころして しまう から、 そう おもえ。 オレ は アサッテ の アサ はやく、 トリ の ウチ を 1 ケン ずつ まわって、 オマエ が きた か どう か を きいて あるく。 1 ケン でも こなかった と いう ウチ が あったら、 もう キサマ も その とき が オシマイ だぞ」
「だって それ は あんまり ムリ じゃ ありません か。 そんな こと を する くらい なら、 ワタシ は もう しんだ ほう が まし です。 イマ すぐ ころして ください」
「まあ、 よく、 アト で かんがえて ごらん。 イチゾウ なんて そんな に わるい ナ じゃ ない よ」 タカ は おおきな ハネ を いっぱい に ひろげて、 ジブン の ス の ほう へ とんで かえって いきました。
 ヨダカ は、 じっと メ を つぶって かんがえました。
(いったい ボク は、 なぜ こう ミンナ に いやがられる の だろう。 ボク の カオ は、 ミソ を つけた よう で、 クチ は さけてる から なあ。 それだって、 ボク は イマ まで、 なんにも わるい こと を した こと が ない。 アカンボウ の メジロ が ス から おちて いた とき は、 たすけて ス へ つれて いって やった。 そしたら メジロ は、 アカンボウ を まるで ヌスビト から でも とりかえす よう に ボク から ひきはなした ん だなあ。 それから ひどく ボク を わらったっけ。 それに ああ、 コンド は イチゾウ だ なんて、 クビ へ フダ を かける なんて、 つらい ハナシ だなあ。)
 アタリ は、 もう うすくらく なって いました。 ヨダカ は ス から とびだしました。 クモ が いじわるく ひかって、 ひくく たれて います。 ヨダカ は まるで クモ と スレスレ に なって、 オト なく ソラ を とびまわりました。
 それから にわか に ヨダカ は クチ を おおきく ひらいて、 ハネ を マッスグ に はって、 まるで ヤ の よう に ソラ を よこぎりました。 ちいさな ハムシ が イクヒキ も イクヒキ も その ノド に はいりました。
 カラダ が ツチ に つく か つかない うち に、 ヨダカ は ひらり と また ソラ へ はねあがりました。 もう クモ は ネズミイロ に なり、 ムコウ の ヤマ には ヤマヤケ の ヒ が マッカ です。
 ヨダカ が おもいきって とぶ とき は、 ソラ が まるで フタツ に きれた よう に おもわれます。 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に はいって、 ひどく もがきました。 ヨダカ は すぐ それ を のみこみました が、 その とき なんだか セナカ が ぞっと した よう に おもいました。
 クモ は もう まっくろく、 ヒガシ の ほう だけ ヤマヤケ の ヒ が あかく うつって、 おそろしい よう です。 ヨダカ は ムネ が つかえた よう に おもいながら、 また ソラ へ のぼりました。
 また 1 ピキ の カブトムシ が、 ヨダカ の ノド に、 はいりました。 そして まるで ヨダカ の ノド を ひっかいて ばたばた しました。 ヨダカ は それ を ムリ に のみこんで しまいました が、 その とき、 キュウ に ムネ が どきっと して、 ヨダカ は オオゴエ を あげて なきだしました。 なきながら ぐるぐる ぐるぐる ソラ を めぐった の です。
(ああ、 カブトムシ や、 タクサン の ハムシ が、 マイバン ボク に ころされる。 そして その ただ ヒトツ の ボク が コンド は タカ に ころされる。 それ が こんな に つらい の だ。 ああ、 つらい、 つらい。 ボク は もう ムシ を たべない で うえて しのう。 いや その マエ に もう タカ が ボク を ころす だろう。 いや、 その マエ に、 ボク は トオク の トオク の ソラ の ムコウ に いって しまおう。)
 ヤマヤケ の ヒ は、 だんだん ミズ の よう に ながれて ひろがり、 クモ も あかく もえて いる よう です。
 ヨダカ は マッスグ に、 オトウト の カワセミ の ところ へ とんで いきました。 きれい な カワセミ も、 ちょうど おきて トオク の ヤマカジ を みて いた ところ でした。 そして ヨダカ の おりて きた の を みて いいました。
「ニイサン。 こんばんわ。 ナニ か キュウ の ゴヨウ です か」
「いいや、 ボク は コンド とおい ところ へ いく から ね、 その マエ ちょっと オマエ に あい に きた よ」
「ニイサン。 いっちゃ いけません よ。 ハチスズメ も あんな トオク に いる ん です し、 ボク ヒトリボッチ に なって しまう じゃ ありません か」
「それ は ね。 どうも しかたない の だ。 もう キョウ は なにも いわない で くれ。 そして オマエ も ね、 どうしても とらなければ ならない とき の ホカ は いたずらに オサカナ を とったり しない よう に して くれ。 ね、 さよなら」
「ニイサン。 どうした ん です。 まあ もう ちょっと おまちなさい」
「いや、 いつまで いて も おんなじ だ。 ハチスズメ へ、 アト で よろしく いって やって くれ。 さよなら。 もう あわない よ。 さよなら」
 ヨダカ は なきながら ジブン の オウチ へ かえって まいりました。 みじかい ナツ の ヨ は もう あけかかって いました。
 シダ の ハ は、 ヨアケ の キリ を すって、 あおく つめたく ゆれました。 ヨダカ は たかく きし きし きし と なきました。 そして ス の ナカ を きちんと かたづけ、 きれい に カラダジュウ の ハネ や ケ を そろえて、 また ス から とびだしました。
 キリ が はれて、 オヒサマ が ちょうど ヒガシ から のぼりました。 ヨダカ は ぐらぐら する ほど まぶしい の を こらえて、 ヤ の よう に、 そっち へ とんで いきました。
「オヒサン、 オヒサン。 どうぞ ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません。 ワタシ の よう な みにくい カラダ でも やける とき には ちいさな ヒカリ を だす でしょう。 どうか ワタシ を つれてって ください」
 いって も いって も、 オヒサマ は ちかく なりません でした。 かえって だんだん ちいさく とおく なりながら オヒサマ が いいました。
「オマエ は ヨダカ だな。 なるほど、 ずいぶん つらかろう。 コンヤ ソラ を とんで、 ホシ に そう たのんで ごらん。 オマエ は ヒル の トリ では ない の だ から な」
 ヨダカ は オジギ を ヒトツ した と おもいました が、 キュウ に ぐらぐら して とうとう ノハラ の クサ の ウエ に おちて しまいました。 そして まるで ユメ を みて いる よう でした。 カラダ が ずうっと アカ や キ の ホシ の アイダ を のぼって いったり、 どこまでも カゼ に とばされたり、 また タカ が きて カラダ を つかんだり した よう でした。
 つめたい もの が にわか に カオ に おちました。 ヨダカ は メ を ひらきました。 1 ポン の わかい ススキ の ハ から ツユ が したたった の でした。 もう すっかり ヨル に なって、 ソラ は あおぐろく、 イチメン の ホシ が またたいて いました。 ヨダカ は ソラ へ とびあがりました。 コンヤ も ヤマヤケ の ヒ は マッカ です。 ヨダカ は その ヒ の かすか な テリ と、 つめたい ホシアカリ の ナカ を とびめぐりました。 それから もう イッペン とびめぐりました。 そして おもいきって ニシ の ソラ の あの うつくしい オリオン の ホシ の ほう に、 マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ニシ の あおじろい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オリオン は いさましい ウタ を つづけながら ヨダカ など は てんで アイテ に しません でした。 ヨダカ は なきそう に なって、 よろよろ と おちて、 それから やっと ふみとまって、 もう イッペン とびめぐりました。 それから、 ミナミ の オオイヌ-ザ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「オホシサン。 ミナミ の あおい オホシサン。 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 オオイヌ は アオ や ムラサキ や キ や うつくしく せわしく またたきながら いいました。
「バカ を いうな。 オマエ なんか いったい どんな もの だい。 たかが トリ じゃ ない か。 オマエ の ハネ で ここ まで くる には、 オクネン チョウネン オクチョウネン だ」 そして また ベツ の ほう を むきました。
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また 2 ヘン とびめぐりました。 それから また おもいきって キタ の オオグマボシ の ほう へ マッスグ に とびながら さけびました。
「キタ の あおい オホシサマ、 アナタ の ところ へ どうか ワタシ を つれてって ください」
 オオグマボシ は しずか に いいました。
「ヨケイ な こと を かんがえる もの では ない。 すこし アタマ を ひやして きなさい。 そういう とき は、 ヒョウザン の ういて いる ウミ の ナカ へ とびこむ か、 チカク に ウミ が なかったら、 コオリ を うかべた コップ の ミズ の ナカ へ とびこむ の が イットウ だ」
 ヨダカ は がっかり して、 よろよろ おちて、 それから また、 4 ヘン ソラ を めぐりました。 そして もう イチド、 ヒガシ から イマ のぼった アマノガワ の ムコウギシ の ワシ の ホシ に さけびました。
「ヒガシ の しろい オホシサマ、 どうか ワタシ を アナタ の ところ へ つれてって ください。 やけて しんで も かまいません」
 ワシ は オオフウ に いいました。
「いいや、 とても とても、 ハナシ にも なんにも ならん。 ホシ に なる には、 それ ソウオウ の ミブン で なくちゃ いかん。 また よほど カネ も いる の だ」
 ヨダカ は もう すっかり チカラ を おとして しまって、 ハネ を とじて、 チ に おちて いきました。 そして もう 1 シャク で ジメン に その よわい アシ が つく と いう とき、 ヨダカ は にわか に ノロシ の よう に ソラ へ とびあがりました。 ソラ の ナカホド へ きて、 ヨダカ は まるで ワシ が クマ を おそう とき する よう に、 ぶるっと カラダ を ゆすって ケ を さかだてました。
 それから きし きし きし きし きしっ と たかく たかく さけびました。 その コエ は まるで タカ でした。 ノハラ や ハヤシ に ねむって いた ホカ の トリ は、 みんな メ を さまして、 ぶるぶる ふるえながら、 いぶかしそう に ホシゾラ を みあげました。
 ヨダカ は、 どこまでも、 どこまでも、 マッスグ に ソラ へ のぼって いきました。 もう ヤマヤケ の ヒ は タバコ の スイガラ の くらい に しか みえません。 ヨダカ は のぼって のぼって いきました。
 サムサ に イキ は ムネ に しろく こおりました。 クウキ が うすく なった ため に、 ハネ を それ は それ は せわしく うごかさなければ なりません でした。
 それだのに、 ホシ の オオキサ は、 サッキ と すこしも かわりません。 つく イキ は フイゴ の よう です。 サムサ や シモ が まるで ケン の よう に ヨダカ を さしました。 ヨダカ は ハネ が すっかり しびれて しまいました。 そして なみだぐんだ メ を あげて もう イッペン ソラ を みました。 そう です。 これ が ヨダカ の サイゴ でした。 もう ヨダカ は おちて いる の か、 のぼって いる の か、 サカサ に なって いる の か、 ウエ を むいて いる の か も、 わかりません でした。 ただ ココロモチ は やすらか に、 その チ の ついた おおきな クチバシ は、 ヨコ に まがって は いました が、 たしか に すこし わらって おりました。
 それから しばらく たって ヨダカ は はっきり マナコ を ひらきました。 そして ジブン の カラダ が イマ リン の ヒ の よう な あおい うつくしい ヒカリ に なって、 しずか に もえて いる の を みました。
 すぐ トナリ は、 カシオピア-ザ でした。 アマノガワ の あおじろい ヒカリ が、 すぐ ウシロ に なって いました。
 そして ヨダカ の ホシ は もえつづけました。 いつまでも いつまでも もえつづけました。
 イマ でも まだ もえて います。
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ギンガ テツドウ の ヨル 1

2012-07-22 | ミヤザワ ケンジ
 ギンガ テツドウ の ヨル

 ミヤザワ ケンジ

 1、 ゴゴ の ジュギョウ

「では ミナサン は、 そういう ふう に カワ だ と いわれたり、 チチ の ながれた アト だ と いわれたり して いた この ぼんやり と しろい もの が ホントウ は ナニ か ゴショウチ です か」 センセイ は、 コクバン に つるした おおきな くろい セイザ の ズ の、 ウエ から シタ へ しろく けぶった ギンガタイ の よう な ところ を さしながら、 ミンナ に トイ を かけました。
 カムパネルラ が テ を あげました。 それから 4~5 ニン テ を あげました。 ジョバンニ も テ を あげよう と して、 いそいで そのまま やめました。 たしか に あれ が みんな ホシ だ と、 いつか ザッシ で よんだ の でした が、 コノゴロ は ジョバンニ は まるで マイニチ キョウシツ でも ねむく、 ホン を よむ ヒマ も よむ ホン も ない ので、 なんだか どんな こと も よく わからない と いう キモチ が する の でした。
 ところが センセイ は はやくも それ を みつけた の でした。
「ジョバンニ さん。 アナタ は わかって いる の でしょう」
 ジョバンニ は イキオイ よく たちあがりました が、 たって みる と もう はっきり と それ を こたえる こと が できない の でした。 ザネリ が マエ の セキ から ふりかえって、 ジョバンニ を みて くすっと わらいました。 ジョバンニ は もう どぎまぎ して マッカ に なって しまいました。 センセイ が また いいました。
「おおきな ボウエンキョウ で ギンガ を よっく しらべる と ギンガ は だいたい ナン でしょう」
 やっぱり ホシ だ と ジョバンニ は おもいました が、 コンド も すぐに こたえる こと が できません でした。
 センセイ は しばらく こまった ヨウス でした が、 メ を カムパネルラ の ほう へ むけて、
「では カムパネルラ さん」 と なざしました。 すると あんな に ゲンキ に テ を あげた カムパネルラ が、 やはり もじもじ たちあがった まま やはり コタエ が できません でした。
 センセイ は イガイ な よう に しばらく じっと カムパネルラ を みて いました が、 いそいで 「では。 よし」 と いいながら、 ジブン で セイズ を さしました。
「この ぼんやり と しろい ギンガ を おおきな いい ボウエンキョウ で みます と、 もう タクサン の ちいさな ホシ に みえる の です。 ジョバンニ さん そう でしょう」
 ジョバンニ は マッカ に なって うなずきました。 けれども いつか ジョバンニ の メ の ナカ には ナミダ が いっぱい に なりました。 そう だ ボク は しって いた の だ、 もちろん カムパネルラ も しって いる、 それ は いつか カムパネルラ の オトウサン の ハカセ の ウチ で、 カムパネルラ と イッショ に よんだ ザッシ の ナカ に あった の だ。 それ どこ で なく カムパネルラ は、 その ザッシ を よむ と、 すぐ オトウサン の ショサイ から おおきな ホン を もって きて、 ギンガ と いう ところ を ひろげ、 マックロ な ページ いっぱい に しろい テンテン の ある うつくしい シャシン を フタリ で いつまでも みた の でした。 それ を カムパネルラ が わすれる はず も なかった のに、 すぐに ヘンジ を しなかった の は、 コノゴロ ボク が、 アサ にも ゴゴ にも シゴト が つらく、 ガッコウ に でて も もう ミンナ とも はきはき あそばず、 カムパネルラ とも あんまり モノ を いわない よう に なった ので、 カムパネルラ が それ を しって キノドク-がって わざと ヘンジ を しなかった の だ、 そう かんがえる と たまらない ほど、 ジブン も カムパネルラ も あわれ な よう な キ が する の でした。
 センセイ は また いいました。
「ですから もしも この アマノガワ が ホントウ に カワ だ と かんがえる なら、 その ヒトツヒトツ の ちいさな ホシ は みんな その カワ の ソコ の スナ や ジャリ の ツブ にも あたる わけ です。 また これ を おおきな チチ の ナガレ と かんがえる なら もっと アマノガワ と よく にて います。 つまり その ホシ は みな、 チチ の ナカ に まるで こまか に うかんで いる アブラ の タマ にも あたる の です。 そんなら ナニ が その カワ の ミズ に あたる か と いいます と、 それ は シンクウ と いう ヒカリ を ある ハヤサ で つたえる もの で、 タイヨウ や チキュウ も やっぱり その ナカ に うかんで いる の です。 つまり は ワタシドモ も アマノガワ の ミズ の ナカ に すんで いる わけ です。 そして その アマノガワ の ミズ の ナカ から シホウ を みる と、 ちょうど ミズ が ふかい ほど あおく みえる よう に、 アマノガワ の ソコ の ふかく とおい ところ ほど ホシ が たくさん あつまって みえ、 したがって しろく ぼんやり みえる の です。 この モケイ を ごらんなさい」
 センセイ は ナカ に たくさん ひかる スナ の ツブ の はいった おおきな リョウメン の トツ-レンズ を さしました。
「アマノガワ の カタチ は ちょうど こんな なの です。 この イチイチ の ひかる ツブ が みんな ワタシドモ の タイヨウ と おなじ よう に ジブン で ひかって いる ホシ だ と かんがえます。 ワタシドモ の タイヨウ が この ほぼ ナカゴロ に あって チキュウ が その すぐ チカク に ある と します。 ミナサン は ヨル に この マンナカ に たって、 この レンズ の ナカ を みまわす と して ごらんなさい。 こっち の ほう は レンズ が うすい ので わずか の ひかる ツブ、 すなわち ホシ しか みえない の でしょう。 こっち や こっち の ほう は ガラス が あつい ので、 ひかる ツブ、 すなわち ホシ が たくさん みえ、 その とおい の は ぼうっと しろく みえる と いう、 これ が つまり コンニチ の ギンガ の セツ なの です。 そんなら この レンズ の オオキサ が どれ くらい ある か、 また その ナカ の サマザマ の ホシ に ついて は もう ジカン です から、 この ツギ の リカ の ジカン に おはなし します。 では キョウ は その ギンガ の オマツリ なの です から、 ミナサン は ソト へ でて よく ソラ を ごらんなさい。 では ここ まで です。 ホン や ノート を おしまいなさい」
 そして キョウシツ-ジュウ は しばらく ツクエ の フタ を あけたり しめたり ホン を かさねたり する オト が いっぱい でした が、 まもなく ミンナ は きちんと たって レイ を する と キョウシツ を でました。

 2、 カッパンジョ

 ジョバンニ が ガッコウ の モン を でる とき、 おなじ クミ の 7~8 ニン は イエ へ かえらず カムパネルラ を マンナカ に して コウテイ の スミ の サクラ の キ の ところ に あつまって いました。 それ は コンヤ の ホシマツリ に あおい アカリ を こしらえて カワ へ ながす カラスウリ を とり に いく ソウダン らしかった の です。
 けれども ジョバンニ は テ を おおきく ふって どしどし ガッコウ の モン を でて きました。 すると マチ の イエイエ では コンヤ の ギンガ の マツリ に イチイ の ハ の タマ を つるしたり、 ヒノキ の エダ に アカリ を つけたり、 いろいろ シタク を して いる の でした。
 イエ へは かえらず ジョバンニ が マチ を ミッツ まがって ある おおきな カッパンジョ に はいって、 すぐ イリグチ の ケイサンダイ に いた だぶだぶ の しろい シャツ を きた ヒト に オジギ を して ジョバンニ は クツ を ぬいで あがります と、 ツキアタリ の おおきな ト を あけました。 ナカ には まだ ヒル なのに デントウ が ついて タクサン の リンテンキ が ばたり ばたり と まわり、 キレ で アタマ を しばったり ラムプシェード を かけたり した ヒトタチ が、 ナニ か うたう よう に よんだり かぞえたり しながら たくさん はたらいて おりました。
 ジョバンニ は すぐ イリグチ から 3 バンメ の たかい テーブル に すわった ヒト の ところ へ いって オジギ を しました。 その ヒト は しばらく タナ を さがして から、
「これだけ ひろって いける かね」 と いいながら、 1 マイ の カミキレ を わたしました。 ジョバンニ は その ヒト の テーブル の アシモト から ヒトツ の ちいさな ひらたい ハコ を とりだして ムコウ の デントウ の たくさん ついた、 たてかけて ある カベ の スミ の ところ へ しゃがみこむ と、 ちいさな ピンセット で まるで アワツブ ぐらい の カツジ を ツギ から ツギ と ひろいはじめました。 あおい ムネアテ を した ヒト が ジョバンニ の ウシロ を とおりながら、
「よう、 ムシメガネ くん、 おはよう」 と いいます と、 チカク の 4~5 ニン の ヒトタチ が コエ も たてず こっち も むかず に つめたく わらいました。
 ジョバンニ は ナンベン も メ を ぬぐいながら カツジ を だんだん ひろいました。
 6 ジ が うって しばらく たった コロ、 ジョバンニ は ひろった カツジ を いっぱい に いれた ひらたい ハコ を もう イチド テ に もった カミキレ と ひきあわせて から、 サッキ の テーブル の ヒト へ もって きました。 その ヒト は だまって それ を うけとって かすか に うなずきました。
 ジョバンニ は オジギ を する と ト を あけて サッキ の ケイサンダイ の ところ に きました。 すると サッキ の シロフク を きた ヒト が やっぱり だまって ちいさな ギンカ を ヒトツ ジョバンニ に わたしました。 ジョバンニ は にわか に カオイロ が よく なって イセイ よく オジギ を する と、 ダイ の シタ に おいた カバン を もって オモテ へ とびだしました。 それから ゲンキ よく クチブエ を ふきながら パン-ヤ へ よって パン の カタマリ を ヒトツ と カクザトウ を ヒトフクロ かいます と イチモクサン に はしりだしました。

 3、 イエ

 ジョバンニ が イキオイ よく かえって きた の は、 ある ウラマチ の ちいさな イエ でした。 その ミッツ ならんだ イリグチ の いちばん ヒダリガワ には、 アキバコ に ムラサキイロ の ケール や アスパラガス が うえて あって、 ちいさな フタツ の マド には ヒオオイ が おりた まま に なって いました。
「オカアサン。 イマ かえった よ。 グアイ わるく なかった の」 ジョバンニ は クツ を ぬぎながら いいました。
「ああ、 ジョバンニ、 オシゴト が ひどかったろう。 キョウ は すずしくて ね。 ワタシ は ずうっと グアイ が いい よ」
 ジョバンニ は ゲンカン を あがって いきます と、 ジョバンニ の オカアサン が すぐ イリグチ の ヘヤ に しろい キレ を かぶって やすんで いた の でした。 ジョバンニ は マド を あけました。
「オカアサン。 キョウ は カクザトウ を かって きた よ。 ギュウニュウ に いれて あげよう と おもって」
「ああ、 オマエ サキ に おあがり。 アタシ は まだ ほしく ない ん だ から」
「オカアサン。 ネエサン は いつ かえった の」
「ああ 3 ジ コロ かえった よ。 みんな そこら を して くれて ね」
「オカアサン の ギュウニュウ は きて いない ん だろう か」
「こなかったろう かねえ」
「ボク いって とって こよう」
「ああ、 アタシ は ゆっくり で いい ん だ から オマエ サキ に おあがり、 ネエサン が ね、 トマト で ナニ か こしらえて そこ へ おいて いった よ」
「では ボク たべよう」
 ジョバンニ は マド の ところ から トマト の サラ を とって パン と イッショ に しばらく むしゃむしゃ たべました。
「ねえ オカアサン。 ボク オトウサン は きっと まもなく かえって くる と おもう よ」
「ああ アタシ も そう おもう。 けれども オマエ は どうして そう おもう の」
「だって ケサ の シンブン に コトシ は キタ の ほう の リョウ は たいへん よかった と かいて あった よ」
「ああ だけど ねえ、 オトウサン は リョウ へ でて いない かも しれない」
「きっと でて いる よ。 オトウサン が カンゴク へ はいる よう な そんな わるい こと を した はず が ない ん だ。 このまえ オトウサン が もって きて ガッコウ へ キゾウ した おおきな カニ の コウラ だの、 トナカイ の ツノ だの イマ だって みんな ヒョウホンシツ に ある ん だ。 6 ネンセイ なんか ジュギョウ の とき センセイ が かわるがわる キョウシツ へ もって いく よ。 イッサクネン シュウガク リョコウ で 〔イカ スウ-モジ ブン クウハク〕
「オトウサン は この ツギ は オマエ に ラッコ の ウワギ を もって くる と いった ねえ」
「ミンナ が ボク に あう と それ を いう よ。 ひやかす よう に いう ん だ」
「オマエ に ワルクチ を いう の」
「うん、 けれども カムパネルラ なんか けっして いわない。 カムパネルラ は ミンナ が そんな こと を いう とき は キノドク そう に して いる よ」
「あの ヒト は ウチ の オトウサン とは ちょうど オマエタチ の よう に ちいさい とき から の オトモダチ だった そう だよ」
「ああ、 だから オトウサン は ボク を つれて カムパネルラ の ウチ へも つれて いった よ。 あの コロ は よかった なあ。 ボク は ガッコウ から かえる トチュウ たびたび カムパネルラ の ウチ に よった。 カムパネルラ の ウチ には アルコール ラムプ で はしる キシャ が あった ん だ。 レール を ナナツ くみあわせる と まるく なって、 それ に デンチュウ や シンゴウヒョウ も ついて いて、 シンゴウヒョウ の アカリ は キシャ が とおる とき だけ あおく なる よう に なって いた ん だ。 いつか アルコール が なくなった とき セキユ を つかったら、 カマ が すっかり すすけた よ」
「そう かねえ」
「イマ も マイアサ シンブン を まわし に いく よ。 けれども いつでも イエジュウ まだ しぃん と して いる から な」
「はやい から ねえ」
「ザウエル と いう イヌ が いる よ。 シッポ が まるで ホウキ の よう だ。 ボク が いく と ハナ を ならして ついて くる よ。 ずうっと マチ の カド まで ついて くる。 もっと ついて くる こと も ある よ。 コンヤ は ミンナ で カラスウリ の アカリ を カワ へ ながし に いく ん だって。 きっと イヌ も ついて いく よ」
「そう だ。 コンバン は ギンガ の オマツリ だねえ」
「うん。 ボク ギュウニュウ を とりながら みて くる よ」
「ああ いって おいで。 カワ へは はいらないで ね」
「ああ ボク キシ から みる だけ なん だ。 1 ジカン で いって くる よ」
「もっと あそんで おいで。 カムパネルラ さん と イッショ なら シンパイ は ない から」
「ああ きっと イッショ だよ。 オカアサン、 マド を しめて おこう か」
「ああ、 どう か。 もう すずしい から ね」
 ジョバンニ は たって マド を しめ オサラ や パン の フクロ を かたづける と イキオイ よく クツ を はいて、
「では 1 ジカン ハン で かえって くる よ」 と いいながら くらい トグチ を でました。

 4、 ケンタウル-サイ の ヨル

 ジョバンニ は、 クチブエ を ふいて いる よう な さびしい クチツキ で、 ヒノキ の マックロ に ならんだ マチ の サカ を おりて きた の でした。
 サカ の シタ に おおきな ヒトツ の ガイトウ が、 あおじろく リッパ に ひかって たって いました。 ジョバンニ が、 どんどん デントウ の ほう へ おりて いきます と、 イマ まで バケモノ の よう に、 ながく ぼんやり、 ウシロ へ ひいて いた ジョバンニ の カゲボウシ は、 だんだん こく くろく はっきり なって、 アシ を あげたり テ を ふったり、 ジョバンニ の ヨコ の ほう へ まわって くる の でした。
(ボク は リッパ な キカンシャ だ。 ここ は コウバイ だ から はやい ぞ。 ボク は イマ その デントウ を とおりこす。 そうら、 コンド は ボク の カゲボウシ は コムパス だ。 あんな に くるっと まわって、 マエ の ほう へ きた。)
と ジョバンニ が おもいながら、 オオマタ に その ガイトウ の シタ を とおりすぎた とき、 いきなり ヒルマ の ザネリ が、 あたらしい エリ の とがった シャツ を きて デントウ の ムコウガワ の くらい コウジ から でて きて、 ひらっと ジョバンニ と すれちがいました。
「ザネリ、 カラスウリ ながし に いく の」 ジョバンニ が まだ そう いって しまわない うち に、
「ジョバンニ、 オトウサン から、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 その コ が なげつける よう に ウシロ から さけびました。
 ジョバンニ は、 ばっと ムネ が つめたく なり、 そこらじゅう きぃん と なる よう に おもいました。
「ナン だい。 ザネリ」 と ジョバンニ は たかく さけびかえしました が、 もう ザネリ は ムコウ の ヒバ の うわった イエ の ナカ へ はいって いました。
「ザネリ は どうして ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の だろう。 はしる とき は まるで ネズミ の よう な くせ に。 ボク が なんにも しない のに あんな こと を いう の は ザネリ が バカ な から だ」
 ジョバンニ は、 せわしく イロイロ の こと を かんがえながら、 サマザマ の アカリ や キ の エダ で、 すっかり きれい に かざられた マチ を とおって いきました。 トケイヤ の ミセ には あかるく ネオン-トウ が ついて、 1 ビョウ ごと に イシ で こさえた フクロウ の あかい メ が、 くるっくるっ と うごいたり、 イロイロ な ホウセキ が ウミ の よう な イロ を した あつい ガラス の バン に のって、 ホシ の よう に ゆっくり めぐったり、 また ムコウガワ から、 ドウ の ジンバ が ゆっくり こっち へ まわって きたり する の でした。 その マンナカ に まるい くろい セイザ ハヤミ が あおい アスパラガス の ハ で かざって ありました。
 ジョバンニ は ワレ を わすれて、 その セイザ の ズ に みいりました。
 それ は ヒル ガッコウ で みた あの ズ より は ずうっと ちいさかった の です が、 その ヒ と ジカン に あわせて バン を まわす と、 その とき でて いる ソラ が そのまま ダエンケイ の ナカ に めぐって あらわれる よう に なって おり、 やはり その マンナカ には ウエ から シタ へ かけて ギンガ が ぼうと けむった よう な オビ に なって、 その シタ の ほう では かすか に バクハツ して ユゲ でも あげて いる よう に みえる の でした。 また その ウシロ には 3 ボン の アシ の ついた ちいさな ボウエンキョウ が キイロ に ひかって たって いました し、 いちばん ウシロ の カベ には ソラジュウ の セイザ を フシギ な ケモノ や ヘビ や サカナ や ビン の カタチ に かいた おおきな ズ が かかって いました。 ホントウ に こんな よう な サソリ だの ユウシ だの ソラ に ぎっしり いる だろう か、 ああ ボク は その ナカ を どこまでも あるいて みたい、 と おもってたり して しばらく ぼんやり たって いました。
 それから にわか に オカアサン の ギュウニュウ の こと を おもいだして ジョバンニ は その ミセ を はなれました。 そして キュウクツ な ウワギ の カタ を キ に しながら、 それでも わざと ムネ を はって おおきく テ を ふって マチ を とおって いきました。
 クウキ は すみきって、 まるで ミズ の よう に トオリ や ミセ の ナカ を ながれました し、 ガイトウ は みな マッサオ な モミ や ナラ の エダ で つつまれ、 デンキ-ガイシャ の マエ の 6 ポン の プラタヌス の キ など は、 ナカ に タクサン の マメデントウ が ついて、 ホントウ に そこら は ニンギョ の ミヤコ の よう に みえる の でした。 コドモ ら は、 ミンナ あたらしい オリ の ついた キモノ を きて、 ホシメグリ の クチブエ を ふいたり、
「ケンタウルス、 ツユ を ふらせ」 と さけんで はしったり、 あおい マグネシヤ の ハナビ を もしたり して、 たのしそう に あそんで いる の でした。 けれども ジョバンニ は、 いつか また ふかく クビ を たれて、 そこら の ニギヤカサ とは まるで ちがった こと を かんがえながら、 ギュウニュウヤ の ほう へ いそぐ の でした。
 ジョバンニ は、 いつか マチハズレ の ポプラ の キ が イクホン も イクホン も、 たかく ホシゾラ に うかんで いる ところ に きて いました。 その ギュウニュウヤ の くろい モン を はいり、 ウシ の ニオイ の する うすくらい ダイドコロ の マエ に たって、 ジョバンニ は ボウシ を ぬいで 「こんばんわ、」 と いいましたら、 イエ の ナカ は しぃん と して ダレ も いた よう では ありません でした。
「こんばんわ、 ごめんなさい」 ジョバンニ は マッスグ に たって また さけびました。 すると しばらく たって から、 としとった オンナ の ヒト が、 どこ か グアイ が わるい よう に そろそろ と でて きて ナニ か ヨウ か と クチ の ナカ で いいました。
「あの、 キョウ、 ギュウニュウ が ボク ん とこ へ こなかった ので、 もらい に あがった ん です」 ジョバンニ が イッショウ ケンメイ イキオイ よく いいました。
「イマ ダレ も いない で わかりません。 アシタ に して ください」
 その ヒト は、 あかい メ の シタ の とこ を こすりながら、 ジョバンニ を みおろして いいました。
「オッカサン が ビョウキ なん です から コンバン で ない と こまる ん です」
「では もうすこし たって から きて ください」 その ヒト は もう いって しまいそう でした。
「そう です か。 では ありがとう」 ジョバンニ は、 オジギ を して ダイドコロ から でました。
 ジュウジ に なった マチ の カド を、 まがろう と しましたら、 ムコウ の ハシ へ いく ほう の ザッカテン の マエ で、 くろい カゲ や ぼんやり しろい シャツ が いりみだれて、 6~7 ニン の セイト ら が、 クチブエ を ふいたり わらったり して、 めいめい カラスウリ の アカリ を もって やって くる の を みました。 その ワライゴエ も クチブエ も、 みんな キキオボエ の ある もの でした。 ジョバンニ の ドウキュウ の コドモ ら だった の です。 ジョバンニ は おもわず どきっと して もどろう と しました が、 おもいなおして、 いっそう イキオイ よく そっち へ あるいて いきました。
「カワ へ いく の」 ジョバンニ が いおう と して、 すこし ノド が つまった よう に おもった とき、
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 サッキ の ザネリ が また さけびました。
「ジョバンニ、 ラッコ の ウワギ が くる よ」 すぐ ミンナ が、 つづいて さけびました。 ジョバンニ は マッカ に なって、 もう あるいて いる か も わからず、 いそいで いきすぎよう と しましたら、 その ナカ に カムパネルラ が いた の です。 カムパネルラ は キノドク そう に、 だまって すこし わらって、 おこらない だろう か と いう よう に ジョバンニ の ほう を みて いました。
 ジョバンニ は、 にげる よう に その メ を さけ、 そして カムパネルラ の セイ の たかい カタチ が すぎて いって まもなく、 ミンナ は てんでに クチブエ を ふきました。 マチカド を まがる とき、 ふりかえって みましたら、 ザネリ が やはり ふりかえって みて いました。 そして カムパネルラ も また、 たかく クチブエ を ふいて ムコウ に ぼんやり みえる ハシ の ほう へ あるいて いって しまった の でした。 ジョバンニ は、 なんとも いえず さびしく なって、 いきなり はしりだしました。 すると ミミ に テ を あてて、 わああ と いいながら カタアシ で ぴょんぴょん とんで いた ちいさな コドモ ら は、 ジョバンニ が おもしろくて かける の だ と おもって わあい と さけびました。 まもなく ジョバンニ は くろい オカ の ほう へ いそぎました。

 5、 テンキリン の ハシラ

 ボクジョウ の ウシロ は ゆるい オカ に なって、 その くろい たいら な チョウジョウ は、 キタ の オオグマボシ の シタ に、 ぼんやり フダン より も ひくく つらなって みえました。
 ジョバンニ は、 もう ツユ の ふりかかった ちいさな ハヤシ の コミチ を、 どんどん のぼって いきました。 マックラ な クサ や、 イロイロ な カタチ に みえる ヤブ の シゲミ の アイダ を、 その ちいさな ミチ が、 ヒトスジ しろく ホシアカリ に てらしだされて あった の です。 クサ の ナカ には、 ぴかぴか アオビカリ を だす ちいさな ムシ も いて、 ある ハ は あおく すかしだされ、 ジョバンニ は、 さっき ミンナ の もって いった カラスウリ の アカリ の よう だ とも おもいました。
 その マックロ な、 マツ や ナラ の ハヤシ を こえる と、 にわか に がらん と ソラ が ひらけて、 アマノガワ が しらしら と ミナミ から キタ へ わたって いる の が みえ、 また イタダキ の、 テンキリン の ハシラ も みわけられた の でした。 ツリガネソウ か ノギク か の ハナ が、 そこら イチメン に、 ユメ の ナカ から でも かおりだした と いう よう に さき、 トリ が 1 ピキ、 オカ の ウエ を なきつづけながら とおって いきました。
 ジョバンニ は、 イタダキ の テンキリン の ハシラ の シタ に きて、 どかどか する カラダ を、 つめたい クサ に なげました。
 マチ の アカリ は、 ヤミ の ナカ を まるで ウミ の ソコ の オミヤ の ケシキ の よう に ともり、 コドモ ら の うたう コエ や クチブエ、 きれぎれ の サケビゴエ も かすか に きこえて くる の でした。 カゼ が トオク で なり、 オカ の クサ も しずか に そよぎ、 ジョバンニ の アセ で ぬれた シャツ も つめたく ひやされました。 ジョバンニ は マチ の ハズレ から とおく くろく ひろがった ノハラ を みわたしました。
 そこ から キシャ の オト が きこえて きました。 その ちいさな レッシャ の マド は イチレツ ちいさく あかく みえ、 その ナカ には タクサン の タビビト が、 リンゴ を むいたり、 わらったり、 イロイロ な ふう に して いる と かんがえます と、 ジョバンニ は、 もう なんとも いえず かなしく なって、 また メ を ソラ に あげました。
 ああ あの しろい ソラ の オビ が みんな ホシ だ と いう ぞ。
 ところが いくら みて いて も、 その ソラ は ヒル センセイ の いった よう な、 がらん と した つめたい とこ だ とは おもわれません でした。 それ どころ で なく、 みれば みる ほど、 そこ は ちいさな ハヤシ や ボクジョウ やら ある ノハラ の よう に かんがえられて しかたなかった の です。 そして ジョバンニ は あおい コト の ホシ が、 ミッツ にも ヨッツ にも なって、 ちらちら またたき、 アシ が ナンベン も でたり ひっこんだり して、 とうとう キノコ の よう に ながく のびる の を みました。 また すぐ メノシタ の マチ まで が やっぱり ぼんやり した タクサン の ホシ の アツマリ か、 ヒトツ の おおきな ケムリ か の よう に みえる よう に おもいました。
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ギンガ テツドウ の ヨル 2

2012-07-07 | ミヤザワ ケンジ
 6、 ギンガ ステーション

 そして ジョバンニ は すぐ ウシロ の テンキリン の ハシラ が いつか ぼんやり した サンカクヒョウ の カタチ に なって、 しばらく ホタル の よう に、 ぺかぺか きえたり ともったり して いる の を みました。 それ は だんだん はっきり して、 とうとう りん と うごかない よう に なり、 こい コウセイ の ソラ の ノハラ に たちました。 イマ あたらしく やいた ばかり の あおい ハガネ の イタ の よう な、 ソラ の ノハラ に、 マッスグ に すきっと たった の です。
 すると、 どこ か で、 フシギ な コエ が、 ギンガ ステーション、 ギンガ ステーション と いう コエ が した と おもう と いきなり メノマエ が、 ぱっと あかるく なって、 まるで オクマン の ホタルイカ の ヒ を イッペン に カセキ させて、 ソラジュウ に しずめた と いう グアイ、 また ダイアモンド-ガイシャ で、 ネダン が やすく ならない ため に、 わざと とれない フリ を して、 かくして おいた コンゴウセキ を、 ダレ か が いきなり ひっくりかえして、 ばらまいた と いう ふう に、 メノマエ が さあっと あかるく なって、 ジョバンニ は、 おもわず ナンベン も メ を こすって しまいました。
 キ が ついて みる と、 サッキ から、 ごとごと ごとごと、 ジョバンニ の のって いる ちいさな レッシャ が はしりつづけて いた の でした。 ホントウ に ジョバンニ は、 ヨル の ケイベン テツドウ の、 ちいさな キイロ の デントウ の ならんだ シャシツ に、 マド から ソト を みながら すわって いた の です。 シャシツ の ナカ は、 あおい ビロウド を はった コシカケ が、 まるで ガラアキ で、 ムコウ の ネズミイロ の ワニス を ぬった カベ には、 シンチュウ の おおきな ボタン が フタツ ひかって いる の でした。
 すぐ マエ の セキ に、 ぬれた よう に マックロ な ウワギ を きた、 セイ の たかい コドモ が、 マド から アタマ を だして ソト を みて いる の に キ が つきました。 そして その コドモ の カタ の アタリ が、 どうも みた こと の ある よう な キ が して、 そう おもう と、 もう どうしても ダレ だ か わかりたくて、 たまらなく なりました。 いきなり こっち も マド から カオ を だそう と した とき、 にわか に その コドモ が アタマ を ひっこめて、 こっち を みました。
 それ は カムパネルラ だった の です。
 ジョバンニ が、 カムパネルラ、 キミ は マエ から ここ に いた の と いおう と おもった とき、 カムパネルラ が、
「ミンナ は ね、 ずいぶん はしった けれども おくれて しまった よ。 ザネリ も ね、 ずいぶん はしった けれども おいつかなかった」 と いいました。
 ジョバンニ は、 (そう だ、 ボクタチ は イマ、 イッショ に さそって でかけた の だ。) と おもいながら、
「どこ か で まって いよう か」 と いいました。 すると カムパネルラ は、
「ザネリ は もう かえった よ。 オトウサン が むかい に きた ん だ」
 カムパネルラ は、 なぜか そう いいながら、 すこし カオイロ が あおざめて、 どこ か くるしい と いう ふう でした。 すると ジョバンニ も、 なんだか どこ か に、 ナニ か わすれた もの が ある と いう よう な、 おかしな キモチ が して だまって しまいました。
 ところが カムパネルラ は、 マド から ソト を のぞきながら、 もう すっかり ゲンキ が なおって、 イキオイ よく いいました。
「ああ しまった。 ボク、 スイトウ を わすれて きた。 スケッチ-チョウ も わすれて きた。 けれど かまわない。 もう じき ハクチョウ の テイシャバ だ から。 ボク、 ハクチョウ を みる なら、 ホントウ に すき だ。 カワ の トオク を とんで いたって、 ボク は きっと みえる」
 そして、 カムパネルラ は、 まるい イタ の よう に なった チズ を、 しきり に ぐるぐる まわして みて いました。 まったく その ナカ に、 しろく あらわされた アマノガワ の ヒダリ の キシ に そって イチジョウ の テツドウ センロ が、 ミナミ へ ミナミ へ と たどって いく の でした。 そして その チズ の リッパ な こと は、 ヨル の よう に マックロ な バン の ウエ に、 イチイチ の テイシャバ や サンカクヒョウ、 センスイ や モリ が、 アオ や ダイダイ や ミドリ や、 うつくしい ヒカリ で ちりばめられて ありました。 ジョバンニ は なんだか その チズ を どこ か で みた よう に おもいました。
「この チズ は どこ で かった の。 コクヨウセキ で できてる ねえ」
 ジョバンニ が いいました。
「ギンガ ステーション で、 もらった ん だ。 キミ もらわなかった の」
「ああ、 ボク ギンガ ステーション を とおったろう か。 イマ ボクタチ の いる とこ、 ここ だろう」
 ジョバンニ は、 ハクチョウ と かいて ある テイシャバ の シルシ の、 すぐ キタ を さしました。
「そう だ。 おや、 あの カワラ は ツキヨ だろう か」
 そっち を みます と、 あおじろく ひかる ギンガ の キシ に、 ギンイロ の ソラ の ススキ が、 もう まるで イチメン、 カゼ に さらさら さらさら、 ゆられて うごいて、 ナミ を たてて いる の でした。
「ツキヨ で ない よ。 ギンガ だ から ひかる ん だよ」 ジョバンニ は いいながら、 まるで はねあがりたい くらい ユカイ に なって、 アシ を こつこつ ならし、 マド から カオ を だして、 たかく たかく ホシメグリ の クチブエ を ふきながら イッショウ ケンメイ のびあがって、 その アマノガワ の ミズ を、 みきわめよう と しました が、 ハジメ は どうしても それ が、 はっきり しません でした。 けれども だんだん キ を つけて みる と、 その きれい な ミズ は、 ガラス より も スイソ より も すきとおって、 ときどき メ の カゲン か、 ちらちら ムラサキイロ の こまか な ナミ を たてたり、 ニジ の よう に ぎらっと ひかったり しながら、 コエ も なく どんどん ながれて いき、 ノハラ には あっち にも こっち にも、 リンコウ の サンカクヒョウ が、 うつくしく たって いた の です。 とおい もの は ちいさく、 ちかい もの は おおきく、 とおい もの は ダイダイ や キイロ で はっきり し、 ちかい もの は あおじろく すこし かすんで、 あるいは サンカクケイ、 あるいは シヘンケイ、 あるいは イナズマ や クサリ の カタチ、 サマザマ に ならんで、 ノハラ いっぱい ひかって いる の でした。 ジョバンニ は、 まるで どきどき して、 アタマ を やけに ふりました。 すると ホントウ に、 その きれい な ノハラ-ジュウ の アオ や ダイダイ や、 いろいろ かがやく サンカクヒョウ も、 てんでに イキ を つく よう に、 ちらちら ゆれたり ふるえたり しました。
「ボク は もう、 すっかり テン の ノハラ に きた」 ジョバンニ は いいました。
「それに この キシャ、 セキタン を たいて いない ねえ」 ジョバンニ が ヒダリテ を つきだして マド から マエ の ほう を みながら いいました。
「アルコール か デンキ だろう」 カムパネルラ が いいました。
 ごとごと ごとごと、 その ちいさな きれい な キシャ は、 ソラ の ススキ の カゼ に ひるがえる ナカ を、 アマノガワ の ミズ や、 サンカクテン の あおじろい ビコウ の ナカ を、 どこまでも どこまでも と、 はしって いく の でした。
「ああ、 リンドウ の ハナ が さいて いる。 もう すっかり アキ だねえ」 カムパネルラ が、 マド の ソト を ゆびさして いいました。
 センロ の ヘリ に なった みじかい シバクサ の ナカ に、 ゲッチョウセキ で でも きざまれた よう な、 すばらしい ムラサキ の リンドウ の ハナ が さいて いました。
「ボク、 とびおりて、 あいつ を とって、 また とびのって みせよう か」 ジョバンニ は ムネ を おどらせて いいました。
「もう ダメ だ。 あんな に ウシロ へ いって しまった から」
 カムパネルラ が、 そう いって しまう か しまわない うち、 ツギ の リンドウ の ハナ が、 いっぱい に ひかって すぎて いきました。
 と おもったら、 もう ツギ から ツギ から、 タクサン の キイロ な ソコ を もった リンドウ の ハナ の コップ が、 わく よう に、 アメ の よう に、 メノマエ を とおり、 サンカクヒョウ の レツ は、 けむる よう に もえる よう に、 いよいよ ひかって たった の です。

 7、 キタ ジュウジ と プリオシン カイガン

「オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる だろう か」
 いきなり、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 すこし どもりながら、 せきこんで いいました。
 ジョバンニ は、
(ああ、 そう だ、 ボク の オッカサン は、 あの とおい ヒトツ の チリ の よう に みえる ダイダイイロ の サンカクヒョウ の アタリ に いらっしゃって、 イマ ボク の こと を かんがえて いる ん だった。) と おもいながら、 ぼんやり して だまって いました。
「ボク は オッカサン が、 ホントウ に サイワイ に なる なら、 どんな こと でも する。 けれども、 いったい どんな こと が、 オッカサン の イチバン の サイワイ なん だろう」 カムパネルラ は、 なんだか、 なきだしたい の を、 イッショウ ケンメイ こらえて いる よう でした。
「キミ の オッカサン は、 なんにも ひどい こと ない じゃ ない の」 ジョバンニ は びっくり して さけびました。
「ボク わからない。 けれども、 ダレ だって、 ホントウ に いい こと を したら、 いちばん サイワイ なん だねえ。 だから、 オッカサン は、 ボク を ゆるして くださる と おもう」 カムパネルラ は、 ナニ か ホントウ に ケッシン して いる よう に みえました。
 にわか に、 クルマ の ナカ が、 ぱっと しろく あかるく なりました。 みる と、 もう じつに、 コンゴウセキ や クサ の ツユ や あらゆる リッパサ を あつめた よう な、 きらびやか な ギンガ の カワドコ の ウエ を ミズ は コエ も なく カタチ も なく ながれ、 その ナガレ の マンナカ に、 ぼうっと あおじろく ゴコウ の さした ヒトツ の シマ が みえる の でした。 その シマ の たいら な イタダキ に、 リッパ な メ も さめる よう な、 しろい ジュウジカ が たって、 それ は もう こおった ホッキョク の クモ で いた と いったら いい か、 すきっと した キンイロ の エンコウ を いただいて、 しずか に エイキュウ に たって いる の でした。
「ハルレヤ、 ハルレヤ」 マエ から も ウシロ から も コエ が おこりました。 ふりかえって みる と、 シャシツ の ナカ の タビビト たち は、 ミナ マッスグ に キモノ の ヒダ を たれ、 くろい バイブル を ムネ に あてたり、 スイショウ の ジュズ を かけたり、 どの ヒト も つつましく ユビ を くみあわせて、 そっち に いのって いる の でした。 おもわず フタリ も マッスグ に たちあがりました。 カムパネルラ の ホオ は、 まるで じゅくした リンゴ の アカシ の よう に うつくしく かがやいて みえました。
 そして シマ と ジュウジカ とは、 だんだん ウシロ の ほう へ うつって いきました。
 ムコウギシ も、 あおじろく ぽうっと ひかって けむり、 ときどき、 やっぱり ススキ が カゼ に ひるがえる らしく、 さっと その ギンイロ が けむって、 イキ でも かけた よう に みえ、 また、 タクサン の リンドウ の ハナ が、 クサ を かくれたり でたり する の は、 やさしい キツネビ の よう に おもわれました。
 それ も ほんの ちょっと の アイダ、 カワ と キシャ との アイダ は、 ススキ の レツ で さえぎられ、 ハクチョウ の シマ は、 2 ド ばかり、 ウシロ の ほう に みえました が、 じき もう ずうっと とおく ちいさく、 エ の よう に なって しまい、 また ススキ が ざわざわ なって、 とうとう すっかり みえなく なって しまいました。 ジョバンニ の ウシロ には、 いつから のって いた の か、 セイ の たかい、 くろい カツギ を した カトリック-フウ の アマ さん が、 マンマル な ミドリ の ヒトミ を、 じっと マッスグ に おとして、 まだ ナニ か コトバ か コエ か が、 そっち から つたわって くる の を、 つつしんで きいて いる と いう よう に みえました。 タビビト たち は しずか に セキ に もどり、 フタリ も ムネイッパイ の カナシミ に にた あたらしい キモチ を、 なにげなく ちがった コトバ で、 そっと はなしあった の です。
「もう じき ハクチョウ の テイシャバ だねえ」
「ああ、 11 ジ かっきり には つく ん だよ」
 はやくも、 シグナル の ミドリ の アカリ と、 ぼんやり しろい ハシラ と が、 ちらっと マド の ソト を すぎ、 それから イオウ の ホノオ の よう な くらい ぼんやり した テンテツキ の マエ の アカリ が マド の シタ を とおり、 キシャ は だんだん ゆるやか に なって、 まもなく プラットホーム の イチレツ の デントウ が、 うつくしく キソク ただしく あらわれ、 それ が だんだん おおきく なって ひろがって、 フタリ は ちょうど ハクチョウ テイシャバ の、 おおきな トケイ の マエ に きて とまりました。
 さわやか な アキ の トケイ の ダイアル には、 あおく やかれた ハガネ の 2 ホン の ハリ が、 くっきり 11 ジ を さしました。 ミンナ は、 イッペン に おりて、 シャシツ の ナカ は がらん と なって しまいました。
〔20 プン テイシャ〕 と トケイ の シタ に かいて ありました。
「ボクタチ も おりて みよう か」 ジョバンニ が いいました。
「おりよう」
 フタリ は イチド に はねあがって ドア を とびだして カイサツグチ へ かけて いきました。 ところが カイサツグチ には、 あかるい むらさきがかった デントウ が、 ヒトツ ついて いる ばかり、 ダレ も いません でした。 そこらじゅう を みて も、 エキチョウ や アカボウ らしい ヒト の、 カゲ も なかった の です。
 フタリ は、 テイシャバ の マエ の、 スイショウ-ザイク の よう に みえる イチョウ の キ に かこまれた、 ちいさな ヒロバ に でました。 そこ から ハバ の ひろい ミチ が、 マッスグ に ギンガ の アオビカリ の ナカ へ とおって いました。
 サキ に おりた ヒトタチ は、 もう どこ へ いった か ヒトリ も みえません でした。 フタリ が その しろい ミチ を、 カタ を ならべて いきます と、 フタリ の カゲ は、 ちょうど シホウ に マド の ある ヘヤ の ナカ の、 2 ホン の ハシラ の カゲ の よう に、 また フタツ の シャリン の ヤ の よう に イクホン も イクホン も シホウ へ でる の でした。 そして まもなく、 あの キシャ から みえた きれい な カワラ に きました。
 カムパネルラ は、 その きれい な スナ を ヒトツマミ、 テノヒラ に ひろげ、 ユビ で きしきし させながら、 ユメ の よう に いって いる の でした。
「この スナ は みんな スイショウ だ。 ナカ で ちいさな ヒ が もえて いる」
「そう だ」 どこ で ボク は、 そんな こと ならったろう と おもいながら、 ジョバンニ も ぼんやり こたえて いました。
 カワラ の コイシ は、 みんな すきとおって、 たしか に スイショウ や トパース や、 また くしゃくしゃ の シュウキョク を あらわした の や、 また カド から キリ の よう な あおじろい ヒカリ を だす コウギョク やら でした。 ジョバンニ は、 はしって その ナギサ に いって、 ミズ に テ を ひたしました。 けれども あやしい その ギンガ の ミズ は、 スイソ より も もっと すきとおって いた の です。 それでも たしか に ながれて いた こと は、 フタリ の テクビ の、 ミズ に ひたった とこ が、 すこし スイギンイロ に ういた よう に みえ、 その テクビ に ぶっつかって できた ナミ は、 うつくしい リンコウ を あげて、 ちらちら と もえる よう に みえた の でも わかりました。
 カワカミ の ほう を みる と、 ススキ の いっぱい に はえて いる ガケ の シタ に、 しろい イワ が、 まるで ウンドウジョウ の よう に たいら に カワ に そって でて いる の でした。 そこ に ちいさな 5~6 ニン の ヒトカゲ が、 ナニ か ほりだす か うめる か して いる らしく、 たったり かがんだり、 ときどき ナニ か の ドウグ が、 ぴかっと ひかったり しました。
「いって みよう」 フタリ は、 まるで イチド に さけんで、 そっち の ほう へ はしりました。 その しろい イワ に なった ところ の イリグチ に、
〔プリオシン カイガン〕 と いう、 セトモノ の つるつる した ヒョウサツ が たって、 ムコウ の ナギサ には、 ところどころ、 ほそい テツ の ランカン も うえられ、 モクセイ の きれい な ベンチ も おいて ありました。
「おや、 ヘン な もの が ある よ」 カムパネルラ が、 フシギ そう に たちどまって、 イワ から くろい ほそながい サキ の とがった クルミ の ミ の よう な もの を ひろいました。
「クルミ の ミ だよ。 そら、 たくさん ある。 ながれて きた ん じゃ ない。 イワ の ナカ に はいってる ん だ」
「おおきい ね、 この クルミ、 バイ ある ね。 こいつ は すこしも いたんで ない」
「はやく あすこ へ いって みよう。 きっと ナニ か ほってる から」
 フタリ は、 ギザギザ の くろい クルミ の ミ を もちながら、 また サッキ の ほう へ ちかよって いきました。 ヒダリテ の ナギサ には、 ナミ が やさしい イナズマ の よう に もえて よせ、 ミギテ の ガケ には、 イチメン ギン や カイガラ で こさえた よう な ススキ の ホ が ゆれた の です。
 だんだん ちかづいて みる と、 ヒトリ の セイ の たかい、 ひどい キンガンキョウ を かけ、 ナガグツ を はいた ガクシャ らしい ヒト が、 テチョウ に ナニ か せわしそう に かきつけながら、 ツルハシ を ふりあげたり、 スコープ を つかったり して いる、 3 ニン の ジョシュ らしい ヒトタチ に ムチュウ で いろいろ サシズ を して いました。
「そこ の その トッキ を こわさない よう に。 スコープ を つかいたまえ、 スコープ を。 おっと、 もすこし トオク から ほって。 いけない、 いけない。 なぜ そんな ランボウ を する ん だ」
 みる と、 その しろい やわらか な イワ の ナカ から、 おおきな おおきな あおじろい ケモノ の ホネ が、 ヨコ に たおれて つぶれた と いう ふう に なって、 ハンブン イジョウ ほりだされて いました。 そして キ を つけて みる と、 そこら には、 ヒヅメ の フタツ ある アシアト の ついた イワ が、 シカク に トオ ばかり、 きれい に きりとられて バンゴウ が つけられて ありました。
「キミタチ は サンカン かね」 その ダイガクシ らしい ヒト が、 メガネ を きらっと させて、 こっち を みて はなしかけました。
「クルミ が たくさん あったろう。 それ は まあ、 ざっと 120 マン-ネン ぐらい マエ の クルミ だよ。 ごく あたらしい ほう さ。 ここ は 120 マン-ネン マエ、 ダイ 3 キ の アト の コロ は カイガン で ね、 この シタ から は カイガラ も でる。 イマ カワ の ながれて いる とこ に、 そっくり シオミズ が よせたり ひいたり も して いた の だ。 この ケモノ かね、 これ は ボス と いって ね、 おいおい、 そこ ツルハシ は よしたまえ。 テイネイ に ノミ で やって くれたまえ。 ボス と いって ね、 イマ の ウシ の センゾ で、 ムカシ は たくさん いた さ」
「ヒョウホン に する ん です か」
「いや、 ショウメイ する に いる ん だ。 ボクラ から みる と、 ここ は あつい リッパ な チソウ で、 120 マン-ネン ぐらい マエ に できた と いう ショウコ も いろいろ あがる けれども、 ボクラ と ちがった ヤツ から みて も やっぱり こんな チソウ に みえる か どう か、 あるいは カゼ か ミズ や がらん と した ソラ か に みえ や しない か と いう こと なの だ。 わかった かい。 けれども、 おいおい。 そこ も スコープ では いけない。 その すぐ シタ に ロッコツ が うもれてる はず じゃ ない か」 ダイガクシ は あわてて はしって いきました。
「もう ジカン だよ。 いこう」 カムパネルラ が チズ と ウデドケイ と を くらべながら いいました。
「ああ、 では ワタクシドモ は シツレイ いたします」 ジョバンニ は、 テイネイ に ダイガクシ に オジギ しました。
「そう です か。 いや、 さよなら」 ダイガクシ は、 また いそがしそう に、 あちこち あるきまわって カントク を はじめました。 フタリ は、 その しろい イワ の ウエ を、 イッショウ ケンメイ キシャ に おくれない よう に はしりました。 そして ホントウ に、 カゼ の よう に はしれた の です。 イキ も きれず ヒザ も あつく なりません でした。
 こんな に して かける なら、 もう セカイジュウ だって かけれる と、 ジョバンニ は おもいました。
 そして フタリ は、 マエ の あの カワラ を とおり、 カイサツグチ の デントウ が だんだん おおきく なって、 まもなく フタリ は、 モト の シャシツ の セキ に すわって、 イマ いって きた ほう を、 マド から みて いました。

 8、 トリ を とる ヒト

「ここ へ かけて も よう ございます か」
 がさがさ した、 けれども シンセツ そう な、 オトナ の コエ が、 フタリ の ウシロ で きこえました。
 それ は、 チャイロ の すこし ぼろぼろ の ガイトウ を きて、 しろい キレ で つつんだ ニモツ を、 フタツ に わけて カタ に かけた、 アカヒゲ の セナカ の かがんだ ヒト でした。
「ええ、 いい ん です」 ジョバンニ は、 すこし カタ を すぼめて アイサツ しました。 その ヒト は、 ヒゲ の ナカ で かすか に わらいながら、 ニモツ を ゆっくり アミダナ に のせました。 ジョバンニ は、 ナニ か たいへん さびしい よう な かなしい よう な キ が して、 だまって ショウメン の トケイ を みて いましたら、 ずうっと マエ の ほう で、 ガラス の フエ の よう な もの が なりました。 キシャ は もう、 しずか に うごいて いた の です。 カムパネルラ は、 シャシツ の テンジョウ を、 あちこち みて いました。 その ヒトツ の アカリ に くろい カブトムシ が とまって その カゲ が おおきく テンジョウ に うつって いた の です。 アカヒゲ の ヒト は、 ナニ か なつかしそう に わらいながら、 ジョバンニ や カムパネルラ の ヨウス を みて いました。 キシャ は もう だんだん はやく なって、 ススキ と カワ と、 かわるがわる マド の ソト から ひかりました。
 アカヒゲ の ヒト が、 すこし おずおず しながら、 フタリ に ききました。
「アナタガタ は、 どちら へ いらっしゃる ん です か」
「どこまでも いく ん です」 ジョバンニ は、 すこし きまりわるそう に こたえました。
「それ は いい ね。 この キシャ は、 じっさい、 どこ まで でも いきます ぜ」
「アナタ は どこ へ いく ん です」 カムパネルラ が、 いきなり、 ケンカ の よう に たずねました ので、 ジョバンニ は、 おもわず わらいました。 すると、 ムコウ の セキ に いた、 とがった ボウシ を かぶり、 おおきな カギ を コシ に さげた ヒト も、 ちらっと こっち を みて わらいました ので、 カムパネルラ も、 つい カオ を あかく して わらいだして しまいました。 ところが その ヒト は べつに おこった でも なく、 ホオ を ぴくぴく しながら ヘンジ しました。
「ワッシ は すぐ そこ で おります。 ワッシ は、 トリ を つかまえる ショウバイ で ね」
「ナニドリ です か」
「ツル や ガン です。 サギ も ハクチョウ も です」
「ツル は たくさん います か」
「います とも、 サッキ から ないて まさあ。 きかなかった の です か」
「いいえ」
「イマ でも きこえる じゃ ありません か。 そら、 ミミ を すまして きいて ごらんなさい」
 フタリ は メ を あげ、 ミミ を すましました。 ごとごと なる キシャ の ヒビキ と、 ススキ の カゼ との アイダ から、 ころん ころん と ミズ の わく よう な オト が きこえて くる の でした。
「ツル、 どうして とる ん です か」
「ツル です か、 それとも サギ です か」
「サギ です」 ジョバンニ は、 どっち でも いい と おもいながら こたえました。
「そいつ は な、 ぞうさない。 サギ と いう もの は、 みんな アマノガワ の スナ が こごって、 ぼおっと できる もん です から ね、 そして しじゅう カワ へ かえります から ね、 カワラ で まって いて、 サギ が みんな、 アシ を こういう ふう に して おりて くる とこ を、 そいつ が ジベタ へ つく か つかない うち に、 ぴたっと おさえちまう ん です。 すると もう サギ は、 かたまって アンシン して しんじまいます。 アト は もう、 わかりきって まさあ。 オシバ に する だけ です」
「サギ を オシバ に する ん です か。 ヒョウホン です か」
「ヒョウホン じゃ ありません。 ミンナ たべる じゃ ありません か」
「おかしい ねえ」 カムパネルラ が クビ を かしげました。
「おかしい も フシン も ありません や。 そら」 その オトコ は たって、 アミダナ から ツツミ を おろして、 てばやく くるくる と ときました。
「さあ、 ごらんなさい。 イマ とって きた ばかり です」
「ホントウ に サギ だねえ」 フタリ は おもわず さけびました。 マッシロ な、 あの サッキ の キタ の ジュウジカ の よう に ひかる サギ の カラダ が、 トオ ばかり、 すこし ひらべったく なって、 くろい アシ を ちぢめて、 ウキボリ の よう に ならんで いた の です。
「メ を つぶってる ね」 カムパネルラ は、 ユビ で そっと、 サギ の ミカヅキガタ の しろい つぶった メ に さわりました。 アタマ の ウエ の ヤリ の よう な しろい ケ も ちゃんと ついて いました。
「ね、 そう でしょう」 トリトリ は フロシキ を かさねて、 また くるくる と つつんで ヒモ で くくりました。 ダレ が いったい ここら で サギ なんぞ たべる だろう と ジョバンニ は おもいながら ききました。
「サギ は おいしい ん です か」
「ええ、 マイニチ チュウモン が あります。 しかし ガン の ほう が、 もっと うれます。 ガン の ほう が ずっと ガラ が いい し、 だいいち テスウ が ありません から な。 そら」 トリトリ は、 また ベツ の ほう の ツツミ を ときました。 すると キ と アオジロ と マダラ に なって、 ナニ か の アカリ の よう に ひかる ガン が、 ちょうど サッキ の サギ の よう に、 クチバシ を そろえて、 すこし ひらべったく なって、 ならんで いました。
「こっち は すぐ たべられます。 どう です、 すこし おあがりなさい」 トリトリ は、 キイロ な ガン の アシ を、 かるく ひっぱりました。 すると それ は、 チョコレート で でも できて いる よう に、 すっと きれい に はなれました。
「どう です。 すこし たべて ごらんなさい」 トリトリ は、 それ を フタツ に ちぎって わたしました。 ジョバンニ は、 ちょっと たべて みて、 (ナン だ、 やっぱり こいつ は オカシ だ。 チョコレート より も、 もっと おいしい けれども、 こんな ガン が とんで いる もん か。 この オトコ は、 どこ か そこら の ノハラ の カシヤ だ。 けれども ボク は、 この ヒト を バカ に しながら、 この ヒト の オカシ を たべて いる の は、 たいへん キノドク だ。) と おもいながら、 やっぱり ぽくぽく それ を たべて いました。
「もすこし おあがりなさい」 トリトリ が また ツツミ を だしました。 ジョバンニ は、 もっと たべたかった の です けれども、
「ええ、 ありがとう」 と いって エンリョ しましたら、 トリトリ は、 コンド は ムコウ の セキ の、 カギ を もった ヒト に だしました。
「いや、 ショウバイモノ を もらっちゃ すみません な」 その ヒト は、 ボウシ を とりました。
「いいえ、 どう いたしまして。 どう です、 コトシ の ワタリドリ の ケイキ は」
「いや、 すてき な もん です よ。 オトトイ の ダイ 2 ゲン コロ なんか、 なぜ トウダイ の ヒ を、 キソク イガイ に カン 〔1 ジ ブン クウハク〕 させる か って、 あっち から も こっち から も、 デンワ で コショウ が きました が、 なあに、 こっち が やる ん じゃ なくて、 ワタリドリ ども が、 マックロ に かたまって、 アカシ の マエ を とおる の です から シカタ ありません や。 ワタシャ、 べらぼうめ、 そんな クジョウ は、 オレ の とこ へ もって きたって シカタ が ねえ や、 ばさばさ の マント を きて アシ と クチ との トホウ も なく ほそい タイショウ へ やれ って、 こう いって やりました がね、 はっは」
 ススキ が なくなった ため に、 ムコウ の ノハラ から、 ぱっと アカリ が さして きました。
「サギ の ほう は なぜ テスウ なん です か」 カムパネルラ は、 サッキ から、 きこう と おもって いた の です。
「それ は ね、 サギ を たべる には、」 トリトリ は、 こっち に むきなおりました。
「アマノガワ の ミズアカリ に、 トオカ も つるして おく かね、 そう で なきゃ、 スナ に サン、 ヨッカ うずめなきゃ いけない ん だ。 そう する と、 スイギン が みんな ジョウハツ して、 たべられる よう に なる よ」
「こいつ は トリ じゃ ない。 タダ の オカシ でしょう」 やっぱり おなじ こと を かんがえて いた と みえて、 カムパネルラ が、 おもいきった と いう よう に、 たずねました。 トリトリ は、 ナニ か たいへん あわてた ふう で、
「そうそう、 ここ で おりなきゃ」 と いいながら、 たって ニモツ を とった と おもう と、 もう みえなく なって いました。
「どこ へ いった ん だろう」
 フタリ は カオ を みあわせましたら、 トウダイモリ は、 にやにや わらって、 すこし のびあがる よう に しながら、 フタリ の ヨコ の マド の ソト を のぞきました。 フタリ も そっち を みましたら、 タッタイマ の トリトリ が、 キイロ と アオジロ の、 うつくしい リンコウ を だす、 イチメン の カワラ ハハコグサ の ウエ に たって、 マジメ な カオ を して リョウテ を ひろげて、 じっと ソラ を みて いた の です。
「あすこ へ いってる。 ずいぶん キタイ だねえ。 きっと また トリ を つかまえる とこ だねえ。 キシャ が はしって いかない うち に、 はやく トリ が おりる と いい な」 と いった トタン、 がらん と した キキョウイロ の ソラ から、 さっき みた よう な サギ が、 まるで ユキ の ふる よう に、 ぎゃあぎゃあ さけびながら、 いっぱい に まいおりて きました。 すると あの トリトリ は、 すっかり チュウモンドオリ だ と いう よう に ほくほく して、 リョウアシ を かっきり 60 ド に ひらいて たって、 サギ の ちぢめて おりて くる くろい アシ を リョウテ で カタッパシ から おさえて、 ヌノ の フクロ の ナカ に いれる の でした。 すると サギ は、 ホタル の よう に、 フクロ の ナカ で しばらく、 あおく ぺかぺか ひかったり きえたり して いました が、 オシマイ とうとう、 みんな ぼんやり しろく なって、 メ を つぶる の でした。 ところが、 つかまえられる トリ より は、 つかまえられない で ブジ に アマノガワ の スナ の ウエ に おりる もの の ほう が おおかった の です。 それ は みて いる と、 アシ が スナ へ つく や いなや、 まるで ユキ の とける よう に、 ちぢまって ひらべったく なって、 まもなく ヨウコウロ から でた ドウ の シル の よう に、 スナ や ジャリ の ウエ に ひろがり、 しばらく は トリ の カタチ が、 スナ に ついて いる の でした が、 それ も 2~3 ド あかるく なったり くらく なったり して いる うち に、 もう すっかり マワリ と おなじ イロ に なって しまう の でした。
 トリトリ は 20 ピキ ばかり、 フクロ に いれて しまう と、 キュウ に リョウテ を あげて、 ヘイタイ が テッポウダマ に あたって、 しぬ とき の よう な カタチ を しました。 と おもったら、 もう そこ に トリトリ の カタチ は なくなって、 かえって、
「ああ せいせい した。 どうも カラダ に ちょうど あう ほど かせいで いる くらい、 いい こと は ありません な」 と いう キキオボエ の ある コエ が、 ジョバンニ の トナリ に しました。 みる と トリトリ は、 もう そこ で とって きた サギ を、 きちんと そろえて、 ヒトツ ずつ かさねなおして いる の でした。
「どうして あすこ から、 イッペン に ここ へ きた ん です か」 ジョバンニ が、 なんだか アタリマエ の よう な、 アタリマエ で ない よう な、 おかしな キ が して といました。
「どうして って、 こよう と した から きた ん です。 ぜんたい アナタガタ は、 どちら から オイデ です か」
 ジョバンニ は、 すぐ ヘンジ しよう と おもいました けれども、 さあ、 ぜんたい どこ から きた の か、 もう どうしても かんがえつきません でした。 カムパネルラ も、 カオ を マッカ に して ナニ か おもいだそう と して いる の でした。
「ああ、 トオク から です ね」 トリトリ は、 わかった と いう よう に ぞうさなく うなずきました。
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ギンガ テツドウ の ヨル 3

2012-06-21 | ミヤザワ ケンジ
 9、 ジョバンニ の キップ

「もう ここら は ハクチョウ-ク の オシマイ です。 ごらんなさい。 あれ が なだかい アルビレオ の カンソクジョ です」
 マド の ソト の、 まるで ハナビ で いっぱい の よう な、 アマノガワ の マンナカ に、 くろい おおきな タテモノ が 4 ムネ ばかり たって、 その ヒトツ の ヒラヤネ の ウエ に、 メ も さめる よう な、 サファイア と トパース の おおきな フタツ の すきとおった タマ が、 ワ に なって しずか に くるくる と まわって いました。 キイロ の が だんだん ムコウ へ まわって いって、 あおい ちいさい の が こっち へ すすんで き、 まもなく フタツ の ハジ は、 かさなりあって、 きれい な ミドリイロ の リョウメン トツ-レンズ の カタチ を つくり、 それ も だんだん、 マンナカ が ふくらみだして、 とうとう あおい の は、 すっかり トパース の ショウメン に きました ので、 ミドリ の チュウシン と キイロ な あかるい ワ と が できました。 それ が また だんだん ヨコ へ それて、 マエ の レンズ の カタチ を ギャク に くりかえし、 とうとう すっと はなれて、 サファイア は ムコウ へ めぐり、 キイロ の は こっち へ すすみ、 また ちょうど サッキ の よう な ふう に なりました。 ギンガ の、 カタチ も なく オト も ない ミズ に かこまれて、 ホントウ に その くろい ソッコウジョ が、 ねむって いる よう に、 しずか に よこたわった の です。
「あれ は、 ミズ の ハヤサ を はかる キカイ です。 ミズ も……」 トリトリ が いいかけた とき、
「キップ を ハイケン いたします」 3 ニン の セキ の ヨコ に、 あかい ボウシ を かぶった セイ の たかい シャショウ が、 いつか マッスグ に たって いて いいました。 トリトリ は、 だまって カクシ から、 ちいさな カミキレ を だしました。 シャショウ は ちょっと みて、 すぐ メ を そらして、 (アナタガタ の は?) と いう よう に、 ユビ を うごかしながら、 テ を ジョバンニ たち の ほう へ だしました。
「さあ、」 ジョバンニ は こまって、 もじもじ して いましたら、 カムパネルラ は、 ワケ も ない と いう ふう で、 ちいさな ネズミイロ の キップ を だしました。 ジョバンニ は、 すっかり あわてて しまって、 もしか ウワギ の ポケット に でも、 はいって いた か と おもいながら、 テ を いれて みましたら、 ナニ か おおきな たたんだ カミキレ に あたりました。 こんな もの はいって いたろう か と おもって、 いそいで だして みましたら、 それ は ヨッツ に おった ハガキ ぐらい の オオキサ の ミドリイロ の カミ でした。 シャショウ が テ を だして いる もん です から なんでも かまわない、 やっちまえ と おもって わたしましたら、 シャショウ は マッスグ に たちなおって テイネイ に それ を ひらいて みて いました。 そして よみながら ウワギ の ボタン や なんか しきり に なおしたり して いました し、 トウダイ カンシュ も シタ から それ を ネッシン に のぞいて いました から、 ジョバンニ は たしか に あれ は ショウメイショ か ナニ か だった と かんがえて すこし ムネ が あつく なる よう な キ が しました。
「これ は サンジ クウカン の ほう から おもち に なった の です か」 シャショウ が たずねました。
「なんだか わかりません」 もう だいじょうぶ だ と アンシン しながら ジョバンニ は そっち を みあげて くつくつ わらいました。
「よろしゅう ございます。 サウザン クロス へ つきます の は、 ツギ の ダイ 3 ジ コロ に なります」 シャショウ は カミ を ジョバンニ に わたして ムコウ へ いきました。
 カムパネルラ は、 その カミキレ が ナン だった か まちかねた と いう よう に いそいで のぞきこみました。 ジョバンニ も まったく はやく みたかった の です。 ところが それ は イチメン くろい カラクサ の よう な モヨウ の ナカ に、 おかしな トオ ばかり の ジ を インサツ した もの で、 だまって みて いる と なんだか その ナカ へ すいこまれて しまう よう な キ が する の でした。 すると トリトリ が ヨコ から ちらっと それ を みて あわてた よう に いいました。
「おや、 こいつ は たいした もん です ぜ。 こいつ は もう、 ホントウ の テンジョウ へ さえ いける キップ だ。 テンジョウ どこ じゃ ない、 どこ でも カッテ に あるける ツウコウケン です。 こいつ を おもち に なりゃ、 なるほど、 こんな フカンゼン な ゲンソウ ダイ 4 ジ の ギンガ テツドウ なんか、 どこ まで でも いける はず でさあ、 アナタガタ たいした もん です ね」
「なんだか わかりません」 ジョバンニ が あかく なって こたえながら それ を また たたんで カクシ に いれました。 そして キマリ が わるい ので カムパネルラ と フタリ、 また マド の ソト を ながめて いました が、 その トリトリ の ときどき たいした もん だ と いう よう に ちらちら こっち を みて いる の が ぼんやり わかりました。
「もう じき ワシ の テイシャバ だよ」 カムパネルラ が ムコウギシ の、 ミッツ ならんだ ちいさな あおじろい サンカクヒョウ と チズ と を みくらべて いいました。
 ジョバンニ は なんだか ワケ も わからず に、 にわか に トナリ の トリトリ が キノドク で たまらなく なりました。 サギ を つかまえて せいせい した と よろこんだり、 しろい キレ で それ を くるくる つつんだり、 ヒト の キップ を びっくり した よう に ヨコメ で みて あわてて ほめだしたり、 そんな こと を いちいち かんがえて いる と、 もう その ミズシラズ の トリトリ の ため に、 ジョバンニ の もって いる もの でも たべる もの でも なんでも やって しまいたい、 もう この ヒト の ホントウ の サイワイ に なる なら、 ジブン が あの ひかる アマノガワ の カワラ に たって 100 ネン つづけて たって トリ を とって やって も いい と いう よう な キ が して、 どうしても もう だまって いられなく なりました。 ホントウ に アナタ の ほしい もの は いったい ナン です か、 と きこう と して、 それ では あんまり だしぬけ だ から、 どう しよう か と かんがえて ふりかえって みましたら、 そこ には もう あの トリトリ が いません でした。 アミダナ の ウエ には しろい ニモツ も みえなかった の です。 また マド の ソト で アシ を ふんばって ソラ を みあげて サギ を とる シタク を して いる の か と おもって、 いそいで そっち を みました が、 ソト は イチメン の うつくしい スナゴ と しろい ススキ の ナミ ばかり、 あの トリトリ の ひろい セナカ も とがった ボウシ も みえません でした。
「あの ヒト どこ へ いったろう」 カムパネルラ も ぼんやり そう いって いました。
「どこ へ いったろう。 いったい どこ で また あう の だろう。 ボク は どうして もすこし あの ヒト に モノ を いわなかったろう」
「ああ、 ボク も そう おもって いる よ」
「ボク は あの ヒト が ジャマ な よう な キ が した ん だ。 だから ボク は たいへん つらい」 ジョバンニ は こんな へんてこ な キモチ は、 ホントウ に はじめて だし、 こんな こと イマ まで いった こと も ない と おもいました。
「なんだか リンゴ の ニオイ が する。 ボク イマ リンゴ の こと かんがえた ため だろう か」 カムパネルラ が フシギ そう に アタリ を みまわしました。
「ホントウ に リンゴ の ニオイ だよ。 それから ノイバラ の ニオイ も する」 ジョバンニ も そこら を みました が やっぱり それ は マド から でも はいって くる らしい の でした。 イマ アキ だ から ノイバラ の ハナ の ニオイ の する はず は ない と ジョバンニ は おもいました。
 そしたら にわか に そこ に、 つやつや した くろい カミ の ムッツ ばかり の オトコ の コ が あかい ジャケツ の ボタン も かけず、 ひどく びっくり した よう な カオ を して がたがた ふるえて ハダシ で たって いました。 トナリ には くろい ヨウフク を きちんと きた セイ の たかい セイネン が いっぱい に カゼ に ふかれて いる ケヤキ の キ の よう な シセイ で、 オトコ の コ の テ を しっかり ひいて たって いました。
「あら、 ここ どこ でしょう。 まあ、 きれい だわ」 セイネン の ウシロ にも ヒトリ 12 ばかり の メ の チャイロ な かわいらしい オンナ の コ が くろい ガイトウ を きて、 セイネン の ウデ に すがって フシギ そう に マド の ソト を みて いる の でした。
「ああ、 ここ は ランカシャイヤ だ。 いや、 コンネクテカット シュウ だ。 いや、 ああ、 ボクタチ は ソラ へ きた の だ。 ワタシタチ は テン へ いく の です。 ごらんなさい。 あの シルシ は テンジョウ の シルシ です。 もう なんにも こわい こと ありません。 ワタクシタチ は カミサマ に めされて いる の です」 クロフク の セイネン は ヨロコビ に かがやいて その オンナ の コ に いいました。 けれども なぜか また ヒタイ に ふかく シワ を きざんで、 それに たいへん つかれて いる らしく、 ムリ に わらいながら オトコ の コ を ジョバンニ の トナリ に すわらせました。
 それから オンナ の コ に やさしく カムパネルラ の トナリ の セキ を ゆびさしました。 オンナ の コ は すなお に そこ へ すわって、 きちんと リョウテ を くみあわせました。
「ボク、 オオネエサン の とこ へ いく ん だよう」 こしかけた ばかり の オトコ の コ は カオ を ヘン に して トウダイ カンシュ の ムコウ の セキ に すわった ばかり の セイネン に いいました。 セイネン は なんとも いえず かなしそう な カオ を して、 じっと その コ の、 ちぢれて ぬれた アタマ を みました。 オンナ の コ は、 いきなり リョウテ を カオ に あてて しくしく ないて しまいました。
「オトウサン や キクヨ ネエサン は まだ いろいろ オシゴト が ある の です。 けれども もう すぐ アト から いらっしゃいます。 それ より も、 オッカサン は どんな に ながく まって いらっしゃった でしょう。 ワタシ の ダイジ な タダシ は イマ どんな ウタ を うたって いる だろう、 ユキ の ふる アサ に ミンナ と テ を つないで ぐるぐる ニワトコ の ヤブ を まわって あそんで いる だろう か と かんがえたり ホントウ に まって シンパイ して いらっしゃる ん です から、 はやく いって オッカサン に オメ に かかりましょう ね」
「うん、 だけど ボク、 フネ に のらなきゃ よかった なあ」
「ええ、 けれど、 ごらんなさい、 そら、 どう です、 あの リッパ な カワ、 ね、 あすこ は あの ナツジュウ、 ツインクル、 ツインクル、 リトル スター を うたって やすむ とき、 いつも マド から ぼんやり しろく みえて いた でしょう。 あすこ です よ。 ね、 きれい でしょう。 あんな に ひかって います」
 ないて いた アネ も ハンケチ で メ を ふいて ソト を みました。 セイネン は おしえる よう に そっと キョウダイ に また いいました。
「ワタシタチ は もう なんにも かなしい こと ない の です。 ワタシタチ は こんな いい とこ を たびして、 じき カミサマ の とこ へ いきます。 そこ なら もう ホントウ に あかるくて ニオイ が よくて リッパ な ヒトタチ で いっぱい です。 そして ワタシタチ の カワリ に ボート へ のれた ヒトタチ は、 きっと ミンナ たすけられて、 シンパイ して まって いる メイメイ の オトウサン や オカアサン や ジブン の オウチ へ やら いく の です。 さあ、 もう じき です から ゲンキ を だして おもしろく うたって いきましょう」 セイネン は オトコ の コ の ぬれた よう な くろい カミ を なで、 ミンナ を なぐさめながら、 ジブン も だんだん カオイロ が かがやいて きました。
「アナタガタ は どちら から いらっしゃった の です か。 どう なすった の です か」 サッキ の トウダイ カンシュ が やっと すこし わかった よう に セイネン に たずねました。 セイネン は かすか に わらいました。
「いえ、 ヒョウザン に ぶっつかって フネ が しずみまして ね、 ワタシタチ は こちら の オトウサン が キュウ な ヨウ で 2 カゲツ マエ ヒトアシ サキ に ホンゴク へ おかえり に なった ので アト から たった の です。 ワタシ は ダイガク へ はいって いて、 カテイ キョウシ に やとわれて いた の です。 ところが ちょうど 12 ニチ-メ、 キョウ か キノウ の アタリ です、 フネ が ヒョウザン に ぶっつかって イッペン に かたむき もう しずみかけました。 ツキ の アカリ は どこ か ぼんやり ありました が、 キリ が ヒジョウ に ふかかった の です。 ところが ボート は サゲン の ほう ハンブン は もう ダメ に なって いました から、 とても ミンナ は のりきらない の です。 もう その うち にも フネ は しずみます し、 ワタシ は ヒッシ と なって、 どうか ちいさな ヒトタチ を のせて ください と さけびました。 チカク の ヒトタチ は すぐ ミチ を ひらいて、 そして コドモ たち の ため に いのって くれました。 けれども そこ から ボート まで の ところ には まだまだ ちいさな コドモ たち や オヤ たち や なんか いて、 とても おしのける ユウキ が なかった の です。 それでも ワタクシ は どうしても この カタタチ を おたすけ する の が ワタシ の ギム だ と おもいました から、 マエ に いる コドモ ら を おしのけよう と しました。 けれども また そんな に して たすけて あげる より は、 このまま カミ の オマエ に ミンナ で いく ほう が ホントウ に この カタタチ の コウフク だ とも おもいました。 それから また その カミ に そむく ツミ は ワタクシ ヒトリ で しょって、 ぜひとも たすけて あげよう と おもいました。 けれども どうして みて いる と それ が できない の でした。 コドモ ら ばかり ボート の ナカ へ はなして やって、 オカアサン が キョウキ の よう に キス を おくり、 オトウサン が かなしい の を じっと こらえて マッスグ に たって いる など、 とても もう ハラワタ も ちぎれる よう でした。 そのうち フネ は もう ずんずん しずみます から、 ワタシ は もう すっかり カクゴ して この ヒトタチ フタリ を だいて、 うかべる だけ は うかぼう と かたまって フネ の しずむ の を まって いました。 ダレ が なげた か ライフブイ が ヒトツ とんで きました けれども、 すべって ずうっと ムコウ へ いって しまいました。 ワタシ は イッショウ ケンメイ で カンパン の コウシ に なった とこ を はなして、 3 ニン それ に しっかり とりつきました。 どこ から とも なく 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の コエ が あがりました。 たちまち ミンナ は イロイロ な コクゴ で イッペン に それ を うたいました。 その とき にわか に おおきな オト が して ワタシタチ は ミズ に おち、 もう ウズ に はいった と おもいながら しっかり この ヒトタチ を だいて、 それから ぼうっと した と おもったら もう ここ へ きて いた の です。 この カタタチ の オカアサン は イッサクネン なくなられました。 ええ ボート は きっと たすかった に チガイ ありません。 なにせ よほど ジュクレン な スイフ たち が こいで すばやく フネ から はなれて いました から」
 そこら から ちいさな イノリ の コエ が きこえ ジョバンニ も カムパネルラ も イマ まで わすれて いた イロイロ の こと を ぼんやり おもいだして メ が あつく なりました。
(ああ、 その おおきな ウミ は パシフィック と いう の では なかったろう か。 その ヒョウザン の ながれる キタ の ハテ の ウミ で、 ちいさな フネ に のって、 カゼ や こおりつく シオミズ や、 はげしい サムサ と たたかって、 ダレ か が イッショウ ケンメイ はたらいて いる。 ボク は その ヒト に ホントウ に キノドク で そして すまない よう な キ が する。 ボク は その ヒト の サイワイ の ため に いったい どう したら いい の だろう。) ジョバンニ は クビ を たれて、 すっかり ふさぎこんで しまいました。
「ナニ が シアワセ か わからない です。 ホントウ に どんな つらい こと でも それ が ただしい ミチ を すすむ ナカ での デキゴト なら、 トウゲ の ノボリ も クダリ も みんな ホントウ の コウフク に ちかづく ヒトアシ ずつ です から」
 トウダイモリ が なぐさめて いました。
「ああ そう です。 ただ イチバン の サイワイ に いたる ため に イロイロ の カナシミ も みんな オボシメシ です」
 セイネン が いのる よう に そう こたえました。
 そして あの キョウダイ は もう つかれて めいめい ぐったり セキ に よりかかって ねむって いました。 サッキ の あの ハダシ だった アシ には いつか しろい やわらか な クツ を はいて いた の です。
 ごとごと ごとごと キシャ は きらびやか な リンコウ の カワ の キシ を すすみました。 ムコウ の ほう の マド を みる と、 ノハラ は まるで ゲントウ の よう でした。 100 も 1000 も の ダイショウ サマザマ の サンカクヒョウ、 その おおきな もの の ウエ には あかい テンテン を うった ソクリョウキ も みえ、 ノハラ の ハテ は それら が イチメン、 たくさん たくさん あつまって ぼおっと あおじろい キリ の よう、 そこ から か、 または もっと ムコウ から か、 ときどき サマザマ の カタチ の ぼんやり した ノロシ の よう な もの が、 かわるがわる きれい な キキョウイロ の ソラ に うちあげられる の でした。 じつに その すきとおった きれい な カゼ は、 バラ の ニオイ で いっぱい でした。
「いかが です か。 こういう リンゴ は おはじめて でしょう」 ムコウ の セキ の トウダイ カンシュ が いつか キン と ベニ で うつくしく いろどられた おおきな リンゴ を おとさない よう に リョウテ で ヒザ の ウエ に かかえて いました。
「おや、 どっから きた の です か。 リッパ です ねえ。 ここら では こんな リンゴ が できる の です か」 セイネン は ホントウ に びっくり した らしく トウダイ カンシュ の リョウテ に かかえられた ヒトモリ の リンゴ を、 メ を ほそく したり クビ を まげたり しながら ワレ を わすれて ながめて いました。
「いや、 まあ おとり ください。 どうか、 まあ おとり ください」
 セイネン は ヒトツ とって ジョバンニ たち の ほう を ちょっと みました。
「さあ、 ムコウ の ボッチャン がた。 いかが です か。 おとり ください」
 ジョバンニ は ボッチャン と いわれた ので すこし シャク に さわって だまって いました が、 カムパネルラ は、
「ありがとう、」 と いいました。 すると セイネン は ジブン で とって ヒトツ ずつ フタリ に おくって よこしました ので ジョバンニ も たって ありがとう と いいました。
 トウダイ カンシュ は やっと リョウウデ が あいた ので、 コンド は ジブン で ヒトツ ずつ ねむって いる キョウダイ の ヒザ に そっと おきました。
「どうも ありがとう。 どこ で できる の です か。 こんな リッパ な リンゴ は」
 セイネン は つくづく みながら いいました。
「この ヘン では もちろん ノウギョウ は いたします けれども たいてい ひとりでに いい もの が できる よう な ヤクソク に なって おります。 ノウギョウ だって そんな に ホネ は おれ は しません。 たいてい ジブン の のぞむ タネ さえ まけば ひとりでに どんどん できます。 コメ だって パシフィック ヘン の よう に カラ も ない し 10 バイ も おおきくて ニオイ も いい の です。 けれども アナタガタ の いらっしゃる ほう なら ノウギョウ は もう ありません。 リンゴ だって オカシ だって カス が すこしも ありません から、 みんな その ヒト その ヒト に よって、 ちがった わずか の いい カオリ に なって ケアナ から ちらけて しまう の です」
 にわか に オトコ の コ が ぱっちり メ を あいて いいました。
「ああ ボク イマ オカアサン の ユメ を みて いた よ。 オカアサン が ね、 リッパ な トダナ や ホン の ある とこ に いて ね、 ボク の ほう を みて テ を だして にこにこ にこにこ わらった よ。 ボク オッカサン。 リンゴ を ひろって きて あげましょう か、 いったら メ が さめちゃった。 ああ ここ サッキ の キシャ の ナカ だねえ」
「その リンゴ が そこ に あります。 この オジサン に いただいた の です よ」 セイネン が いいました。
「ありがとう オジサン。 おや、 カオル ネエサン まだ ねてる ねえ、 ボク おこして やろう。 ネエサン。 ごらん、 リンゴ を もらった よ。 おきて ごらん」
 アネ は わらって メ を さまし、 まぶしそう に リョウテ を メ に あてて それから リンゴ を みました。 オトコ の コ は まるで パイ を たべる よう に もう それ を たべて いました。 また せっかく むいた その きれい な カワ も、 くるくる コルク-ヌキ の よう な カタチ に なって ユカ へ おちる まで の アイダ には すうっと、 ハイイロ に ひかって ジョウハツ して しまう の でした。
 フタリ は リンゴ を タイセツ に ポケット に しまいました。
 カワシモ の ムコウギシ に あおく しげった おおきな ハヤシ が みえ、 その エダ には じゅくして マッカ に ひかる まるい ミ が いっぱい、 その ハヤシ の マンナカ に たかい たかい サンカクヒョウ が たって、 モリ の ナカ から は オーケストラ ベル や ジロフォン に まじって なんとも いえず きれい な ネイロ が、 とける よう に しみる よう に カゼ に つれて ながれて くる の でした。
 セイネン は ぞくっと して カラダ を ふるう よう に しました。
 だまって その フ を きいて いる と、 そこら に イチメン キイロ や うすい ミドリ の あかるい ノハラ か シキモノ か が ひろがり、 また マッシロ な ロウ の よう な ツユ が タイヨウ の オモテ を かすめて いく よう に おもわれました。
「まあ、 あの カラス」 カムパネルラ の トナリ の カオル と よばれた オンナ の コ が さけびました。
「カラス で ない。 みんな カササギ だ」 カムパネルラ が また なにげなく しかる よう に さけびました ので、 ジョバンニ は また おもわず わらい、 オンナ の コ は きまりわるそう に しました。 まったく カワラ の あおじろい アカリ の ウエ に、 くろい トリ が たくさん たくさん いっぱい に レツ に なって とまって じっと カワ の ビコウ を うけて いる の でした。
「カササギ です ねえ、 アタマ の ウシロ の とこ に ケ が ぴんと のびて ます から」 セイネン は とりなす よう に いいました。
 ムコウ の あおい モリ の ナカ の サンカクヒョウ は すっかり キシャ の ショウメン に きました。 その とき キシャ の ずうっと ウシロ の ほう から あの ききなれた 〔ヤク 2 ジ ブン クウハク〕 バン の サンビカ の フシ が きこえて きました。 よほど の ニンズウ で ガッショウ して いる らしい の でした。 セイネン は さっと カオイロ が あおざめ、 たって イッペン そっち へ いきそう に しました が おもいかえして また すわりました。 カオルコ は ハンケチ を カオ に あてて しまいました。 ジョバンニ まで なんだか ハナ が ヘン に なりました。 けれども いつ とも なく ダレ とも なく その ウタ は うたいだされ だんだん はっきり つよく なりました。 おもわず ジョバンニ も カムパネルラ も イッショ に うたいだした の です。
 そして あおい カンラン の モリ が みえない アマノガワ の ムコウ に さめざめ と ひかりながら だんだん ウシロ の ほう へ いって しまい、 そこ から ながれて くる あやしい ガッキ の オト も もう キシャ の ヒビキ や カゼ の オト に すりへらされて ずうっと かすか に なりました。
「あ、 クジャク が いる よ」
「ええ たくさん いた わ」 オンナ の コ が こたえました。
 ジョバンニ は その ちいさく ちいさく なって イマ は もう ヒトツ の ミドリイロ の カイボタン の よう に みえる モリ の ウエ に、 さっさっ と あおじろく ときどき ひかって その クジャク が ハネ を ひろげたり とじたり する ヒカリ の ハンシャ を みました。
「そう だ、 クジャク の コエ だって さっき きこえた」 カムパネルラ が カオルコ に いいました。
「ええ、 30 ピキ ぐらい は たしか に いた わ。 ハープ の よう に きこえた の は みんな クジャク よ」 オンナ の コ が こたえました。 ジョバンニ は にわか に なんとも いえず かなしい キ が して おもわず、
「カムパネルラ、 ここ から はねおりて あそんで いこう よ」 と こわい カオ を して いおう と した くらい でした。
 カワ は フタツ に わかれました。 その マックラ な シマ の マンナカ に たかい たかい ヤグラ が ヒトツ くまれて、 その ウエ に ヒトリ の ゆるい フク を きて あかい ボウシ を かぶった オトコ が たって いました。 そして リョウテ に アカ と アオ の ハタ を もって ソラ を みあげて シンゴウ して いる の でした。 ジョバンニ が みて いる アイダ その ヒト は しきり に あかい ハタ を ふって いました が にわか に アカハタ を おろして ウシロ に かくす よう に し、 あおい ハタ を たかく たかく あげて まるで オーケストラ の シキシャ の よう に はげしく ふりました。 すると クウチュウ に ざあっ と アメ の よう な オト が して、 ナニ か マックラ な もの が イクカタマリ も イクカタマリ も テッポウダマ の よう に カワ の ムコウ の ほう へ とんで いく の でした。 ジョバンニ は おもわず マド から カラダ を ハンブン だして そっち を みあげました。 うつくしい うつくしい キキョウイロ の がらん と した ソラ の シタ を じつに ナンマン と いう ちいさな トリ ども が イククミ も イククミ も めいめい せわしく せわしく ないて とおって いく の でした。
「トリ が とんで いく な」 ジョバンニ が マド の ソト で いいました。
「どら、」 カムパネルラ も ソラ を みました。 その とき あの ヤグラ の ウエ の ゆるい フク の オトコ は、 にわか に あかい ハタ を あげて キョウキ の よう に ふりうごかしました。 すると ぴたっと トリ の ムレ は とおらなく なり、 それ と ドウジ に ぴしゃあん と いう つぶれた よう な オト が カワシモ の ほう で おこって、 それから しばらく しいん と しました。 と おもったら あの アカボウ の シンゴウシュ が また あおい ハタ を ふって さけんで いた の です。
「イマ こそ わたれ ワタリドリ、 イマ こそ わたれ ワタリドリ」 その コエ も はっきり きこえました。 それ と イッショ に また イクマン と いう トリ の ムレ が ソラ を マッスグ に かけた の です。 フタリ の カオ を だして いる マンナカ の マド から あの オンナ の コ が カオ を だして うつくしい ホオ を かがやかせながら ソラ を あおぎました。
「まあ、 この トリ、 タクサン です わねえ、 あらまあ ソラ の きれい な こと」 オンナ の コ は ジョバンニ に はなしかけました けれども、 ジョバンニ は ナマイキ な、 いや だい と おもいながら だまって クチ を むすんで ソラ を みあげて いました。 オンナ の コ は ちいさく ほっと イキ を して だまって セキ へ もどりました。 カムパネルラ が キノドク そう に マド から カオ を ひっこめて チズ を みて いました。
「あの ヒト トリ へ おしえてる ん でしょう か」 オンナ の コ が そっと カムパネルラ に たずねました。
「ワタリドリ へ シンゴウ してる ん です。 きっと どこ から か ノロシ が あがる ため でしょう」 カムパネルラ が すこし おぼつかなそう に こたえました。 そして クルマ の ナカ は しぃん と なりました。 ジョバンニ は もう アタマ を ひっこめたかった の です けれども、 あかるい とこ へ カオ を だす の が つらかった ので だまって こらえて そのまま たって クチブエ を ふいて いました。
(どうして ボク は こんな に かなしい の だろう。 ボク は もっと ココロモチ を きれい に おおきく もたなければ いけない。 あすこ の キシ の ずうっと ムコウ に まるで ケムリ の よう な ちいさな あおい ヒ が みえる。 あれ は ホントウ に しずか で つめたい。 ボク は あれ を よく みて ココロモチ を しずめる ん だ。) ジョバンニ は ほてって いたい アタマ を リョウテ で おさえる よう に して そっち の ほう を みました。
(ああ ホントウ に どこまでも どこまでも ボク と イッショ に いく ヒト は ない だろう か。 カムパネルラ だって あんな オンナ の コ と おもしろそう に はなして いる し、 ボク は ホントウ に つらい なあ。) ジョバンニ の メ は また ナミダ で いっぱい に なり アマノガワ も まるで トオク へ いった よう に ぼんやり しろく みえる だけ でした。
 その とき キシャ は だんだん カワ から はなれて ガケ の ウエ を とおる よう に なりました。 ムコウギシ も また くろい イロ の ガケ が カワ の キシ を カリュウ に くだる に したがって だんだん たかく なって いく の でした。 そして ちらっと おおきな トウモロコシ の キ を みました。 その ハ は ぐるぐる に ちぢれ ハ の シタ には もう うつくしい ミドリイロ の おおきな ホウ が あかい ケ を はいて シンジュ の よう な ミ も ちらっと みえた の でした。 それ は だんだん カズ を まして きて、 もう イマ は レツ の よう に ガケ と センロ との アイダ に ならび、 おもわず ジョバンニ が マド から カオ を ひっこめて ムコウガワ の マド を みました とき は、 うつくしい ソラ の ノハラ の チヘイセン の ハテ まで、 その おおきな トウモロコシ の キ が ほとんど イチメン に うえられて さやさや カゼ に ゆらぎ、 その リッパ な ちぢれた ハ の サキ から は まるで ヒル の アイダ に いっぱい ニッコウ を すった コンゴウセキ の よう に、 ツユ が いっぱい に ついて アカ や ミドリ や きらきら もえて ひかって いる の でした。
 カムパネルラ が 「あれ トウモロコシ だねえ」 と ジョバンニ に いいました けれども ジョバンニ は どうしても キモチ が なおりません でした から、 ただ ブッキリボウ に ノハラ を みた まま 「そう だろう」 と こたえました。 その とき キシャ は だんだん しずか に なって イクツ か の シグナル と テンテツキ の アカリ を すぎ ちいさな テイシャバ に とまりました。
 その ショウメン の あおじろい トケイ は かっきり ダイ 2 ジ を しめし、 その フリコ は カゼ も なくなり キシャ も うごかず しずか な しずか な ノハラ の ナカ に かちっかちっ と ただしく トキ を きざんで いく の でした。
 そして まったく その フリコ の オト の タエマ を トオク の トオク の ノハラ の ハテ から、 かすか な かすか な センリツ が イト の よう に ながれて くる の でした。 「シンセカイ コウキョウガク だわ」 アネ が ヒトリゴト の よう に こっち を みながら そっと いいました。 まったく もう クルマ の ナカ では あの クロフク の タケ たかい セイネン も ダレ も ミンナ やさしい ユメ を みて いる の でした。
(こんな しずか な いい とこ で ボク は どうして もっと ユカイ に なれない だろう。 どうして こんな に ヒトリ さびしい の だろう。 けれども カムパネルラ なんか あんまり ひどい、 ボク と イッショ に キシャ に のって いながら まるで あんな オンナ の コ と ばかり はなして いる ん だ もの。 ボク は ホントウ に つらい。) ジョバンニ は また リョウテ で カオ を ハンブン かくす よう に して ムコウ の マド の ソト を みつめて いました。 すきとおった ガラス の よう な フエ が なって キシャ は しずか に うごきだし、 カムパネルラ も さびしそう に ホシメグリ の クチブエ を ふきました。
「ええ、 ええ、 もう この ヘン は ひどい コウゲン です から」 ウシロ の ほう で ダレ か トシヨリ らしい ヒト の イマ メ が さめた と いう ふう で はきはき はなして いる コエ が しました。
「トウモロコシ だって ボウ で 2 シャク も アナ を あけて おいて、 そこ へ まかない と はえない ん です」
「そう です か。 カワ まで は よほど ありましょう かねえ、」
「ええ、 ええ、 カワ まで は 2000 ジャク から 6000 ジャク あります。 もう まるで ひどい キョウコク に なって いる ん です」
 そうそう ここ は コロラド の コウゲン じゃ なかったろう か、 ジョバンニ は おもわず そう おもいました。 カムパネルラ は まだ さびしそう に ヒトリ クチブエ を ふき、 オンナ の コ は まるで キヌ で つつんだ リンゴ の よう な カオイロ を して ジョバンニ の みる ほう を みて いる の でした。
 とつぜん トウモロコシ が なくなって おおきな くろい ノハラ が いっぱい に ひらけました。 シンセカイ コウキョウガク は いよいよ はっきり チヘイセン の ハテ から わき、 その マックロ な ノハラ の ナカ を ヒトリ の インデアン が しろい トリ の ハネ を アタマ に つけ タクサン の イシ を ウデ と ムネ に かざり、 ちいさな ユミ に ヤ を つがえて イチモクサン に キシャ を おって くる の でした。
「あら、 インデアン です よ。 インデアン です よ。 ごらんなさい」
 クロフク の セイネン も メ を さましました。 ジョバンニ も カムパネルラ も たちあがりました。
「はしって くる わ、 あら、 はしって くる わ。 おいかけて いる ん でしょう」
「いいえ、 キシャ を おってる ん じゃ ない ん です よ。 リョウ を する か おどる か してる ん です よ」 セイネン は イマ どこ に いる か わすれた と いう ふう に ポケット に テ を いれて たちながら いいました。
 まったく インデアン は ハンブン は おどって いる よう でした。 だいいち かける に して も アシ の フミヨウ が もっと ケイザイ も とれ ホンキ にも なれそう でした。 にわか に くっきり しろい その ハネ は マエ の ほう へ たおれる よう に なり、 インデアン は ぴたっと たちどまって すばやく ユミ を ソラ に ひきました。 そこ から 1 ワ の ツル が ふらふら と おちて きて、 また はしりだした インデアン の おおきく ひろげた リョウテ に おちこみました。 インデアン は うれしそう に たって わらいました。 そして その ツル を もって こっち を みて いる カゲ も、 もう どんどん ちいさく とおく なり、 デンシンバシラ の ガイシ が きらっきらっ と つづいて フタツ ばかり ひかって、 また トウモロコシ の ハヤシ に なって しまいました。 コッチガワ の マド を みます と キシャ は ホントウ に たかい たかい ガケ の ウエ を はしって いて、 その タニ の ソコ には カワ が やっぱり はばひろく あかるく ながれて いた の です。
「ええ、 もう この ヘン から クダリ です。 なんせ コンド は イッペン に あの スイメン まで おりて いく ん です から ヨウイ じゃ ありません。 この ケイシャ が ある もん です から キシャ は けっして ムコウ から こっち へは こない ん です。 そら、 もう だんだん はやく なった でしょう」 サッキ の ロウジン らしい コエ が いいました。
 どんどん どんどん キシャ は おりて いきました。 ガケ の ハジ に テツドウ が かかる とき は カワ が あかるく シタ に のぞけた の です。 ジョバンニ は だんだん ココロモチ が あかるく なって きました。 キシャ が ちいさな コヤ の マエ を とおって、 その マエ に しょんぼり ヒトリ の コドモ が たって こっち を みて いる とき など は おもわず、 ほう、 と さけびました。
 どんどん どんどん キシャ は はしって いきました。 ヘヤジュウ の ヒトタチ は ハンブン ウシロ の ほう へ たおれる よう に なりながら コシカケ に しっかり しがみついて いました。 ジョバンニ は おもわず カムパネルラ と わらいました。 もう そして アマノガワ は キシャ の すぐ ヨコテ を イマ まで よほど はげしく ながれて きた らしく、 ときどき ちらちら ひかって ながれて いる の でした。 うすあかい カワラ ナデシコ の ハナ が あちこち さいて いました。 キシャ は ようやく おちついた よう に ゆっくり と はしって いました。
 ムコウ と こっち の キシ に ホシ の カタチ と ツルハシ を かいた ハタ が たって いました。
「あれ なんの ハタ だろう ね」 ジョバンニ が やっと モノ を いいました。
「さあ、 わからない ねえ、 チズ にも ない ん だ もの。 テツ の フネ が おいて ある ねえ」
「ああ」
「ハシ を かける とこ じゃ ない ん でしょう か」 オンナ の コ が いいました。
「ああ あれ コウヘイ の ハタ だねえ。 カキョウ エンシュウ を してる ん だ。 けれど ヘイタイ の カタチ が みえない ねえ」
 その とき、 ムコウギシ チカク の すこし カリュウ の ほう で みえない アマノガワ の ミズ が ぎらっと ひかって、 ハシラ の よう に たかく はねあがり、 どぉ と はげしい オト が しました。
「ハッパ だよ、 ハッパ だよ」 カムパネルラ は コオドリ しました。
 その ハシラ の よう に なった ミズ は みえなく なり、 おおきな サケ や マス が きらっきらっ と しろく ハラ を ひからせて クウチュウ に ほうりだされて、 まるい ワ を えがいて また ミズ に おちました。 ジョバンニ は もう はねあがりたい くらい キモチ が かるく なって いいました。
「ソラ の コウヘイ ダイタイ だ。 どう だ、 マス や なんか が まるで こんな に なって はねあげられた ねえ。 ボク こんな ユカイ な タビ は した こと ない。 いい ねえ」
「あの マス なら チカク で みたら これ くらい ある ねえ、 たくさん サカナ いる ん だな、 この ミズ の ナカ に」
「ちいさな オサカナ も いる ん でしょう か」 オンナ の コ が ハナシ に つりこまれて いいました。
「いる ん でしょう。 おおきな の が いる ん だ から ちいさい の も いる ん でしょう。 けれど トオク だ から イマ ちいさい の みえなかった ねえ」 ジョバンニ は もう すっかり キゲン が なおって おもしろそう に わらって オンナ の コ に こたえました。
「あれ きっと フタゴ の オホシサマ の オミヤ だよ」 オトコ の コ が いきなり マド の ソト を さして さけびました。
 ミギテ の ひくい オカ の ウエ に ちいさな スイショウ で でも こさえた よう な フタツ の オミヤ が ならんで たって いました。
「フタゴ の オホシサマ の オミヤ って ナン だい」
「アタシ マエ に ナンベン も オカアサン から きいた わ。 ちゃんと ちいさな スイショウ の オミヤ で フタツ ならんで いる から きっと そう だわ」
「はなして ごらん。 フタゴ の オホシサマ が ナニ した って の」
「ボク も しってらい。 フタゴ の オホシサマ が ノハラ へ あそび に でて、 カラス と ケンカ した ん だろう」
「そう じゃ ない わよ。 あのね、 アマノガワ の キシ に ね、 オッカサン おはなし なすった わ、……」
「それから ホウキボシ が ぎーぎーふー ぎーぎーふー て いって きた ねえ」
「いや だわ タア ちゃん、 そう じゃ ない わよ。 それ は ベツ の ほう だわ」
「すると あすこ に イマ フエ を ふいて いる ん だろう か」
「イマ ウミ へ いってらあ」
「いけない わよ。 もう ウミ から あがって いらっしゃった のよ」
「そうそう。 ボク しってらあ、 ボク おはなし しよう」
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ギンガ テツドウ の ヨル 4

2012-06-05 | ミヤザワ ケンジ
 カワ の ムコウギシ が にわか に あかく なりました。 ヤナギ の キ や ナニ か も マックロ に すかしだされ、 みえない アマノガワ の ナミ も ときどき ちらちら ハリ の よう に あかく ひかりました。 まったく ムコウギシ の ノハラ に おおきな マッカ な ヒ が もやされ、 その くろい ケムリ は たかく キキョウイロ の つめたそう な テン をも こがしそう でした。 ルビー より も あかく すきとおり リチウム より も うつくしく よった よう に なって その ヒ は もえて いる の でした。
「あれ は なんの ヒ だろう。 あんな あかく ひかる ヒ は ナニ を もやせば できる ん だろう」 ジョバンニ が いいました。
「サソリ の ヒ だな」 カムパネルラ が また チズ と クビッピキ して こたえました。
「あら、 サソリ の ヒ の こと なら アタシ しってる わ」
「サソリ の ヒ って ナン だい」 ジョバンニ が ききました。
「サソリ が やけて しんだ のよ。 その ヒ が イマ でも もえてる って アタシ ナンベン も オトウサン から きいた わ」
「サソリ って、 ムシ だろう」
「ええ、 サソリ は ムシ よ。 だけど いい ムシ だわ」
「サソリ いい ムシ じゃ ない よ。 ボク ハクブツカン で アルコール に つけて ある の みた。 オ に こんな カギ が あって それ で さされる と しぬ って センセイ が いった よ」
「そう よ。 だけど いい ムシ だわ、 オトウサン こう いった のよ。 ムカシ の バルドラ の ノハラ に 1 ピキ の サソリ が いて ちいさな ムシ や なんか ころして たべて いきて いた ん ですって。 すると ある ヒ イタチ に みつかって たべられそう に なった ん ですって。 サソリ は イッショウ ケンメイ にげて にげた けど、 とうとう イタチ に おさえられそう に なった わ、 その とき、 いきなり マエ に イド が あって その ナカ に おちて しまった わ、 もう どうしても あがられない で サソリ は おぼれはじめた のよ。 その とき サソリ は こう いって おいのり した と いう の。
 ああ、 ワタシ は イマ まで イクツ の もの の イノチ を とった か わからない、 そして その ワタシ が コンド イタチ に とられよう と した とき は あんな に イッショウ ケンメイ にげた。 それでも とうとう こんな に なって しまった。 ああ なんにも アテ に ならない。 どうして ワタシ は ワタシ の カラダ を だまって イタチ に くれて やらなかったろう。 そしたら イタチ も 1 ニチ いきのびたろう に。 どうか カミサマ。 ワタシ の ココロ を ゴラン ください。 こんな に むなしく イノチ を すてず、 どうか この ツギ には マコト の ミンナ の サイワイ の ため に ワタシ の カラダ を おつかい ください。 って いった と いう の。 そしたら いつか サソリ は ジブン の カラダ が マッカ な うつくしい ヒ に なって もえて、 ヨル の ヤミ を てらして いる の を みた って。 イマ でも もえてる って オトウサン おっしゃった わ。 ホントウ に あの ヒ それ だわ」
「そう だ。 みたまえ。 そこら の サンカクヒョウ は ちょうど サソリ の カタチ に ならんで いる よ」
 ジョバンニ は まったく その おおきな ヒ の ムコウ に ミッツ の サンカクヒョウ が、 ちょうど サソリ の ウデ の よう に、 こっち に イツツ の サンカクヒョウ が サソリ の オ や カギ の よう に ならんで いる の を みました。 そして ホントウ に その マッカ な うつくしい サソリ の ヒ は オト なく あかるく あかるく もえた の です。
 その ヒ が だんだん ウシロ の ほう に なる に つれて、 ミンナ は なんとも いえず にぎやか な サマザマ の ガク の ネ や クサバナ の ニオイ の よう な もの、 クチブエ や ヒトビト の ざわざわ いう コエ やら を ききました。 それ は もう じき チカク に マチ か ナニ か が あって そこ に オマツリ でも ある と いう よう な キ が する の でした。
「ケンタウル ツユ を ふらせ」 いきなり イマ まで ねむって いた ジョバンニ の トナリ の オトコ の コ が ムコウ の マド を みながら さけんで いました。
 ああ そこ には クリスマス トリー の よう に マッサオ な トウヒ か モミ の キ が たって、 その ナカ には タクサン の タクサン の マメデントウ が まるで セン の ホタル でも あつまった よう に ついて いました。
「ああ、 そう だ、 コンヤ ケンタウル-サイ だねえ」
「ああ、 ここ は ケンタウル の ムラ だよ」 カムパネルラ が すぐ いいました。 〔イカ ゲンコウ 1 マイ? なし〕

「ボール-ナゲ なら ボク けっして はずさない」
 オトコ の コ が オオイバリ で いいました。
「もう じき サウザン クロス です。 おりる シタク を して ください」 セイネン が ミンナ に いいました。
「ボク もすこし キシャ へ のってる ん だよ」 オトコ の コ が いいました。 カムパネルラ の トナリ の オンナ の コ は そわそわ たって シタク を はじめました けれども、 やっぱり ジョバンニ たち と わかれたく ない よう な ヨウス でした。
「ここ で おりなきゃ いけない の です」 セイネン は きちっと クチ を むすんで オトコ の コ を みおろしながら いいました。
「いや だい。 ボク もうすこし キシャ へ のって から いく ん だい」
 ジョバンニ が こらえかねて いいました。
「ボクタチ と イッショ に のって いこう。 ボクタチ どこ まで だって いける キップ もってる ん だ」
「だけど アタシタチ もう ここ で おりなきゃ いけない のよ。 ここ テンジョウ へ いく とこ なん だ から」 オンナ の コ が さびしそう に いいました。
「テンジョウ へ なんか いかなくたって いい じゃ ない か。 ボクタチ ここ で テンジョウ より も もっと いい とこ を こさえなきゃ いけない って ボク の センセイ が いった よ」
「だって オッカサン も いって らっしゃる し、 それに カミサマ が おっしゃる ん だわ」
「そんな カミサマ ウソ の カミサマ だい」
「アナタ の カミサマ ウソ の カミサマ よ」
「そう じゃ ない よ」
「アナタ の カミサマ って どんな カミサマ です か」 セイネン は わらいながら いいました。
「ボク ホントウ は よく しりません、 けれども そんな ん で なし に ホントウ の たった ヒトリ の カミサマ です」
「ホントウ の カミサマ は もちろん たった ヒトリ です」
「ああ、 そんな ん で なし に たった ヒトリ の ホントウ の ホントウ の カミサマ です」
「だから そう じゃ ありません か。 ワタクシ は アナタガタ が いまに その ホントウ の カミサマ の マエ に ワタクシタチ と おあい に なる こと を いのります」 セイネン は つつましく リョウテ を くみました。 オンナ の コ も ちょうど その とおり に しました。 ミンナ ホントウ に ワカレ が おしそう で その カオイロ も すこし あおざめて みえました。 ジョバンニ は あぶなく コエ を あげて なきだそう と しました。
「さあ もう シタク は いい ん です か。 じき サウザン クロス です から」
 ああ その とき でした。 みえない アマノガワ の ずうっと カワシモ に、 アオ や ダイダイ や、 もう あらゆる ヒカリ で ちりばめられた ジュウジカ が まるで 1 ポン の キ と いう ふう に カワ の ナカ から たって かがやき、 その ウエ には あおじろい クモ が まるい ワ に なって ゴコウ の よう に かかって いる の でした。 キシャ の ナカ が まるで ざわざわ しました。 ミンナ あの キタ の ジュウジ の とき の よう に マッスグ に たって オイノリ を はじめました。 あっち にも こっち にも コドモ が ウリ に とびついた とき の よう な ヨロコビ の コエ や、 なんとも イイヨウ ない ふかい つつましい タメイキ の オト ばかり きこえました。 そして だんだん ジュウジカ は マド の ショウメン に なり、 あの リンゴ の ニク の よう な あおじろい ワ の クモ も ゆるやか に ゆるやか に めぐって いる の が みえました。
「ハルレヤ ハルレヤ」 あかるく たのしく ミンナ の コエ は ひびき、 ミンナ は その ソラ の トオク から、 つめたい ソラ の トオク から、 すきとおった なんとも いえず さわやか な ラッパ の コエ を ききました。 そして タクサン の シグナル や デントウ の アカリ の ナカ を キシャ は だんだん ゆるやか に なり、 とうとう ジュウジカ の ちょうど マムカイ に いって すっかり とまりました。
「さあ、 おりる ん です よ」 セイネン は オトコ の コ の テ を ひき、 だんだん ムコウ の デグチ の ほう へ あるきだしました。
「じゃ さよなら」 オンナ の コ が ふりかえって フタリ に いいました。
「さよなら」 ジョバンニ は まるで なきだしたい の を こらえて おこった よう に ブッキリボウ に いいました。 オンナ の コ は いかにも つらそう に メ を おおきく して も イチド こっち を ふりかえって、 それから アト は もう だまって でて いって しまいました。 キシャ の ナカ は もう ハンブン イジョウ も あいて しまい、 にわか に がらん と して さびしく なり カゼ が いっぱい に ふきこみました。
 そして みて いる と ミンナ は つつましく レツ を くんで、 あの ジュウジカ の マエ の アマノガワ の ナギサ に ひざまずいて いました。 そして その みえない アマノガワ の ミズ を わたって、 ヒトリ の こうごうしい しろい キモノ の ヒト が テ を のばして こっち へ くる の を フタリ は みました。 けれども その とき は もう ガラス の ヨビコ は ならされ、 キシャ は うごきだし、 と おもう うち に ギンイロ の キリ が カワシモ の ほう から すうっと ながれて きて、 もう そっち は なにも みえなく なりました。 ただ タクサン の クルミ の キ が ハ を さんさん と ひからして その キリ の ナカ に たち、 キン の エンコウ を もった デンキ リス が かわいい カオ を その ナカ から ちらちら のぞいて いる だけ でした。

 その とき すうっと キリ が はれかかりました。 どこ か へ いく カイドウ らしく ちいさな デントウ の イチレツ に ついた トオリ が ありました。 それ は しばらく センロ に そって すすんで いました。 そして フタリ が その アカシ の マエ を とおって いく とき は、 その ちいさな マメイロ の ヒ は ちょうど アイサツ でも する よう に ぽかっと きえ、 フタリ が すぎて いく とき また つく の でした。
 ふりかえって みる と サッキ の ジュウジカ は すっかり ちいさく なって しまい、 ホントウ に もう そのまま ムネ にも つるされそう に なり、 サッキ の オンナ の コ や セイネン たち が その マエ の しろい ナギサ に まだ ひざまずいて いる の か、 それとも どこ か ホウガク も わからない その テンジョウ へ いった の か ぼんやり して みわけられません でした。
 ジョバンニ は ああ と ふかく イキ しました。
「カムパネルラ、 また ボクタチ フタリ きり に なった ねえ、 どこまでも どこまでも イッショ に いこう。 ボク は もう あの サソリ の よう に ホントウ に ミンナ の サイワイ の ため ならば ボク の カラダ なんか 100 ペン やいて も かまわない」
「うん。 ボク だって そう だ」 カムパネルラ の メ には きれい な ナミダ が うかんで いました。
「けれども ホントウ の サイワイ は いったい ナン だろう」 ジョバンニ が いいました。
「ボク わからない」 カムパネルラ が ぼんやり いいました。
「ボクタチ しっかり やろう ねえ」 ジョバンニ が ムネイッパイ あたらしい チカラ が わく よう に ふう と イキ を しながら いいました。
「あ、 あすこ セキタンブクロ だよ。 ソラ の アナ だよ」 カムパネルラ が すこし そっち を さける よう に しながら アマノガワ の ヒトトコ を ゆびさしました。 ジョバンニ は そっち を みて まるで ぎくっと して しまいました。 アマノガワ の ヒトトコ に おおきな マックラ な アナ が どおん と あいて いる の です。 その ソコ が どれほど ふかい か その オク に ナニ が ある か、 いくら メ を こすって のぞいて も なんにも みえず、 ただ メ が しんしん と いたむ の でした。 ジョバンニ が いいました。
「ボク もう あんな おおきな ヤミ の ナカ だって こわく ない。 きっと ミンナ の ホントウ の サイワイ を さがし に いく。 どこまでも どこまでも ボクタチ イッショ に すすんで いこう」
「ああ きっと いく よ。 ああ、 あすこ の ノハラ は なんて きれい だろう。 ミンナ あつまってる ねえ。 あすこ が ホントウ の テンジョウ なん だ。 あっ あすこ に いる の ボク の オカアサン だよ」 カムパネルラ は にわか に マド の トオク に みえる きれい な ノハラ を さして さけびました。
 ジョバンニ も そっち を みました けれども そこ は ぼんやり しろく けむって いる ばかり、 どうしても カムパネルラ が いった よう に おもわれません でした。 なんとも いえず さびしい キ が して ぼんやり そっち を みて いましたら、 ムコウ の カワギシ に 2 ホン の デンシンバシラ が ちょうど リョウホウ から ウデ を くんだ よう に あかい ウデギ を つらねて たって いました。
「カムパネルラ、 ボクタチ イッショ に いこう ねえ」 ジョバンニ が こう いいながら ふりかえって みましたら、 その イマ まで カムパネルラ の すわって いた セキ に もう カムパネルラ の カタチ は みえず ただ くろい ビロウド ばかり ひかって いました。 ジョバンニ は まるで テッポウダマ の よう に たちあがりました。 そして ダレ にも きこえない よう に マド の ソト へ カラダ を のりだして、 ちからいっぱい はげしく ムネ を うって さけび、 それから もう ノド いっぱい なきだしました。 もう そこら が イッペン に マックラ に なった よう に おもいました。

 ジョバンニ は メ を ひらきました。 モト の オカ の クサ の ナカ に つかれて ねむって いた の でした。 ムネ は なんだか おかしく ほてり、 ホオ には つめたい ナミダ が ながれて いました。
 ジョバンニ は バネ の よう に はねおきました。 マチ は すっかり サッキ の とおり に シタ で タクサン の アカリ を つづって は いました が、 その ヒカリ は なんだか サッキ より は ねっした と いう ふう でした。 そして たったいま ユメ で あるいた アマノガワ も やっぱり サッキ の とおり に しろく ぼんやり かかり、 マックロ な ミナミ の チヘイセン の ウエ では ことに けむった よう に なって、 その ミギ には サソリ-ザ の あかい ホシ が うつくしく きらめき、 ソラ ゼンタイ の イチ は そんな に かわって も いない よう でした。
 ジョバンニ は イッサン に オカ を はしって くだりました。 まだ ユウゴハン を たべない で まって いる オカアサン の こと が ムネイッパイ に おもいだされた の です。 どんどん くろい マツ の ハヤシ の ナカ を とおって、 それから ほのじろい ボクジョウ の サク を まわって サッキ の イリグチ から くらい ギュウシャ の マエ へ また きました。 そこ には ダレ か が イマ かえった らしく、 さっき なかった ヒトツ の クルマ が ナニ か の タル を フタツ のっけて おいて ありました。
「こんばんわ、」 ジョバンニ は さけびました。
「はい」 しろい ふとい ズボン を はいた ヒト が すぐ でて きて たちました。
「なんの ゴヨウ です か」
「キョウ ギュウニュウ が ボク の ところ へ こなかった の です が」
「あ、 すみません でした」 その ヒト は すぐ オク へ いって 1 ポン の ギュウニュウビン を もって きて ジョバンニ に わたしながら また いいました。
「ホントウ に、 すみません でした。 キョウ は ヒルスギ うっかり して コウシ の サク を あけて おいた もん です から、 タイショウ さっそく オヤウシ の ところ へ いって ハンブン ばかり のんで しまいまして ね……」 その ヒト は わらいました。
「そう です か。 では いただいて いきます」
「ええ、 どうも すみません でした」
「いいえ」
 ジョバンニ は まだ あつい チチ の ビン を リョウホウ の テノヒラ で つつむ よう に もって ボクジョウ の サク を でました。
 そして しばらく キ の ある マチ を とおって オオドオリ へ でて、 また しばらく いきます と ミチ は ジュウモンジ に なって、 その ミギテ の ほう、 トオリ の ハズレ に さっき カムパネルラ たち の アカリ を ながし に いった カワ へ かかった おおきな ハシ の ヤグラ が、 ヨル の ソラ に ぼんやり たって いました。
 ところが その ジュウジ に なった マチカド や ミセ の マエ に、 オンナ たち が 7~8 ニン ぐらい ずつ あつまって ハシ の ほう を みながら、 ナニ か ひそひそ はなして いる の です。 それから ハシ の ウエ にも イロイロ な アカリ が いっぱい なの でした。
 ジョバンニ は なぜか さあっと ムネ が つめたく なった よう に おもいました。 そして いきなり チカク の ヒトタチ へ、
「ナニ か あった ん です か」 と さけぶ よう に ききました。
「コドモ が ミズ へ おちた ん です よ」 ヒトリ が いいます と その ヒトタチ は イッセイ に ジョバンニ の ほう を みました。 ジョバンニ は まるで ムチュウ で ハシ の ほう へ はしりました。 ハシ の ウエ は ヒト で いっぱい で カワ が みえません でした。 しろい フク を きた ジュンサ も でて いました。
 ジョバンニ は ハシ の タモト から とぶ よう に シタ の ひろい カワラ へ おりました。
 その カワラ の ミズギワ に そって タクサン の アカリ が せわしく のぼったり くだったり して いました。 ムコウギシ の くらい ドテ にも ヒ が ナナツ ヤッツ うごいて いました。 その マンナカ を もう カラスウリ の アカリ も ない カワ が、 わずか に オト を たてて ハイイロ に しずか に ながれて いた の でした。
 カワラ の いちばん カリュウ の ほう へ ス の よう に なって でた ところ に ヒト の アツマリ が くっきり マックロ に たって いました。 ジョバンニ は どんどん そっち へ はしりました。 すると ジョバンニ は いきなり さっき カムパネルラ と イッショ だった マルソ に あいました。 マルソ が ジョバンニ に はしりよって きました。
「ジョバンニ、 カムパネルラ が カワ へ はいった よ」
「どうして、 いつ」
「ザネリ が ね、 フネ の ウエ から カラスウリ の アカリ を ミズ の ながれる ほう へ おして やろう と した ん だ。 その とき フネ が ゆれた もん だ から ミズ へ おっこったろう。 すると カムパネルラ が すぐ とびこんだ ん だ。 そして ザネリ を フネ の ほう へ おして よこした。 ザネリ は カトウ に つかまった。 けれども アト カムパネルラ が みえない ん だ」
「ミンナ さがしてる ん だろう」
「ああ すぐ ミンナ きた。 カムパネルラ の オトウサン も きた。 けれども みつからない ん だ。 ザネリ は ウチ へ つれられてった」
 ジョバンニ は ミンナ の いる そっち の ほう へ いきました。 そこ に ガクセイ たち マチ の ヒトタチ に かこまれて、 あおじろい とがった アゴ を した カムパネルラ の オトウサン が、 くろい フク を きて マッスグ に たって ミギテ に もった トケイ を じっと みつめて いた の です。
 ミンナ も じっと カワ を みて いました。 ダレ も ヒトコト も モノ を いう ヒト も ありません でした。 ジョバンニ は わくわく わくわく アシ が ふるえました。 サカナ を とる とき の アセチレン ランプ が たくさん せわしく いったり きたり して、 くろい カワ の ミズ は ちらちら ちいさな ナミ を たてて ながれて いる の が みえる の でした。
 カリュウ の ほう は カワハバ いっぱい ギンガ が おおきく うつって、 まるで ミズ の ない ソノママ の ソラ の よう に みえました。
 ジョバンニ は、 その カムパネルラ は もう あの ギンガ の ハズレ に しか いない と いう よう な キ が して しかたなかった の です。
 けれども ミンナ は まだ、 どこ か の ナミ の アイダ から、
「ボク ずいぶん およいだ ぞ」 と いいながら カムパネルラ が でて くる か、 あるいは カムパネルラ が どこ か の ヒト の しらない ス に でも ついて たって いて、 ダレ か の くる の を まって いる か と いう よう な キ が して しかたない らしい の でした。 けれども にわか に カムパネルラ の オトウサン が きっぱり いいました。
「もう ダメ です。 おちて から 45 フン たちました から」
 ジョバンニ は おもわず かけよって ハカセ の マエ に たって、 ボク は カムパネルラ の いった ほう を しって います、 ボク は カムパネルラ と イッショ に あるいて いた の です と いおう と しました が、 もう ノド が つまって なんとも いえません でした。 すると ハカセ は ジョバンニ が アイサツ に きた と でも おもった もの です か、 しばらく しげしげ ジョバンニ を みて いました が、
「アナタ は ジョバンニ さん でした ね。 どうも コンバン は ありがとう」 と テイネイ に いいました。
 ジョバンニ は なにも いえず に ただ オジギ を しました。
「アナタ の オトウサン は もう かえって います か」 ハカセ は かたく トケイ を にぎった まま、 また ききました。
「いいえ」 ジョバンニ は かすか に アタマ を ふりました。
「どうした の かなあ、 ボク には オトトイ たいへん ゲンキ な タヨリ が あった ん だ が。 キョウ アタリ もう つく コロ なん だ が。 フネ が おくれた ん だな。 ジョバンニ さん。 アシタ ホウカゴ ミナサン と ウチ へ あそび に きて ください ね」
 そう いいながら ハカセ は また カワシモ の ギンガ の いっぱい に うつった ほう へ じっと メ を おくりました。
 ジョバンニ は もう イロイロ な こと で ムネ が いっぱい で なんにも いえず に ハカセ の マエ を はなれて、 はやく オカアサン に ギュウニュウ を もって いって、 オトウサン の かえる こと を しらせよう と おもう と、 もう イチモクサン に カワラ を マチ の ほう へ はしりました。
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