カイン の マツエイ
アリシマ タケオ
1
ながい カゲ を チ に ひいて、 ヤセウマ の タヅナ を とりながら、 カレ は だまりこくって あるいた。 おおきな きたない フロシキヅツミ と イッショ に、 タコ の よう に アタマ ばかり おおきい アカンボウ を おぶった カレ の ツマ は、 すこし チンバ を ひきながら 3~4 ケン も はなれて その アト から とぼとぼ と ついて いった。
ホッカイドウ の フユ は ソラ まで せまって いた。 エゾ フジ と いわれる マッカリ ヌプリ の フモト に つづく イブリ の ダイソウゲン を、 ニホンカイ から ウチウラ ワン に ふきぬける ニシカゼ が、 うちよせる ウネリ の よう に アト から アト から ふきはらって いった。 さむい カゼ だ。 みあげる と 8 ゴウメ まで ユキ に なった マッカリ ヌプリ は すこし アタマ を マエ に こごめて カゼ に はむかいながら だまった まま つったって いた。 コンブダケ の シャメン に ちいさく あつまった クモ の カタマリ を めがけて ヒ は しずみかかって いた。 ソウゲン の ウエ には 1 ポン の ジュモク も はえて いなかった。 こころぼそい ほど マッスグ な ヒトスジミチ を、 カレ と カレ の ツマ だけ が、 よろよろ と あるく 2 ホン の タチキ の よう に うごいて いった。
フタリ は コトバ を わすれた ヒト の よう に いつまでも だまって あるいた。 ウマ が イバリ を する とき だけ カレ は ふしょうぶしょう に たちどまった。 ツマ は その ヒマ に ようやく おいついて セナカ の ニ を ゆすりあげながら タメイキ を ついた。 ウマ が イバリ を すます と フタリ は また だまって あるきだした。
「ここら オヤジ (クマ の こと) が でる ずら」
4 リ に わたる この ソウゲン の ウエ で、 たった イチド ツマ は これ だけ の こと を いった。 なれた モノ には ジコク と いい、 トコロガラ と いい クマ の シュウライ を おそれる リユウ が あった。 カレ は いまいましそう に クサ の ナカ に ツバ を はきすてた。
ソウゲン の ナカ の ミチ が だんだん ふとく なって コクドウ に つづく ところ まで きた コロ には ヒ は くれて しまって いた。 モノ の リンカク が マルミ を おびず に、 かたい まま で くろずんで ゆく こちん と した さむい バンシュウ の ヨル が きた。
キモノ は うすかった。 そして フタリ は うえきって いた。 ツマ は キ に して ときどき アカンボウ を みた。 いきて いる の か しんで いる の か、 とにかく アカンボウ は イビキ も たてない で クビ を ミギ の カタ に がくり と たれた まま だまって いた。
コクドウ の ウエ には さすが に ヒトカゲ が ヒトリ フタリ うごいて いた。 タイテイ は シガイチ に でて イッパイ のんで いた の らしく、 ユキチガイ に したたか サケ の カ を おくって よこす モノ も あった。 カレ は サケ の カ を かぐ と キュウ に えぐられる よう な カワキ と ショクヨク と を おぼえて、 すれちがった オトコ を みおくったり した が、 イマイマシサ に はきすてよう と する ツバ は もう でて こなかった。 ノリ の よう に ねばった もの が クチビル の アワセメ を とじつけて いた。
ナイチ ならば コウシンヅカ か イシジゾウ でも ある はず の ところ に、 マックロ に なった 1 ジョウ も ありそう な ヒョウジグイ が ナナメ に なって たって いた。 そこ まで くる と ヒザカナ を やく ニオイ が かすか に カレ の ハナ を うった と おもった。 カレ は はじめて たちどまった。 ヤセウマ も あるいた シセイ を ソノママ に のそり と うごかなく なった。 タテガミ と シリッポ だけ が カゼ に したがって なびいた。
「なんて いう だ ノウジョウ は」
セタケ の ずぬけて たかい カレ は ツマ を みおろす よう に して こう つぶやいた。
「マツカワ ノウジョウ たら いう だ が」
「たら いう だ? コケ」
カレ は ツマ と コトバ を かわした の が シャク に さわった。 そして ウマ の ハナ を ぐんと タヅナ で しごいて また あるきだした。 くらく なった タニ を へだてて すこし こっち より も たかい くらい の ヘイチ に、 わすれた よう に アイダ を おいて ともされた シガイチ の かすか な ホカゲ は、 ヒトケ の ない ところ より も かえって シゼン を さびしく みせた。 カレ は その ヒ を みる と もう イッシュ の オビエ を おぼえた。 ヒト の ケハイ を かぎつける と カレ は なんとか ミヅクロイ を しない では いられなかった。 シゼンサ が その シュンカン に うしなわれた。 それ を イシキ する こと が カレ を いやがうえにも ブッチョウヅラ に した。 「カタキ が メノマエ に きた ぞ。 バカ な ツラ を して いやがって、 シリコダマ でも ひっこぬかれるな」 と でも いいそう な カオ を ツマ の ほう に むけて おいて、 あるきながら オビ を しめなおした。 オット の カオツキ には キ も つかない ほど メ を おとした ツマ は クチ を だらり と あけた まま いっさい ムトンジャク で ただ ウマ の アト に ついて あるいた。
K シガイチ の マチハズレ には アキヤ が 4 ケン まで ならんで いた。 ちいさな マド は ドクロ の それ の よう な マックラ な メ を オウライ に むけて あいて いた。 5 ケン-メ には ヒト が すんで いた が うごめく ヒトカゲ の アイダ に イロリ の ネソダ が ちょろちょろ と もえる の が みえる だけ だった。 6 ケン-メ には テイテツヤ が あった。 あやしげ な エントウ から は カゼ に こきおろされた ケムリ の ナカ に まじって ヒバナ が とびちって いた。 ミセ は ヨウロ の ヒグチ を ひらいた よう に あかるくて、 ばかばかしく だだっびろい ホッカイドウ の 7 ケン ドウロ が ムコウガワ まで はっきり と てらされて いた。 カタガワマチ では ある けれども、 とにかく ヤナミ が ある だけ に、 しいて ムキ を かえさせられた カゼ の アシ が イシュ に スナ を まきあげた。 スナ は テイテツヤ の マエ の ヒ の ヒカリ に てりかえされて もうもう と うずまく スガタ を みせた。 シゴトバ の フイゴ の マワリ には 3 ニン の オトコ が はたらいて いた。 カナシキ に あたる カナヅチ の オト が たかく ひびく と つかれはてた カレ の ウマ さえ が ミミ を たてなおした。 カレ は この ミセサキ に ジブン の ウマ を ひっぱって くる とき の こと を おもった。 ツマ は すいとられる よう に あたたかそう な ヒ の イロ に みとれて いた。 フタリ は ミョウ に わくわく した ココロモチ に なった。
テイテツヤ の サキ は キュウ に ヤミ が こまかく なって タイテイ の イエ は もう トジマリ を して いた。 アラモノヤ を かねた イザカヤ らしい 1 ケン から クイモノ の ニオイ と ダンジョ の ふざけかえった ダミゴエ が もれる ホカ には、 マッスグ な ヤナミ は ハイソン の よう に サムサ の マエ に ちぢこまって、 デンシンバシラ だけ が、 けうとい ウナリ を たてて いた。 カレ と ウマ と ツマ とは マエ の とおり に おしだまって あるいた。 あるいて は ときおり おもいだした よう に たちどまった。 たちどまって は また ムイミ-らしく あるきだした。
4~5 チョウ あるいた と おもう と カレラ は もう マチハズレ に きて しまって いた。 ミチ が へしおられた よう に まがって、 その サキ は、 マックラ な クボチ に、 キュウ な コウバイ を とって くだって いた。 カレラ は その トッカク まで いって また たちどまった。 はるか シタ の ほう から は、 うざうざ する ほど しげりあった カツヨウジュリン に カゼ の はいる オト の ホカ に、 シリベシ-ガワ の かすか な ミズ の オト だけ が きこえて いた。
「きいて みずに」
ツマ は サムサ に ミ を ふるわしながら こう うめいた。
「ワレ きいて み べし」
いきなり そこ に しゃごんで しまった カレ の コエ は チ の ナカ から でも でて きた よう だった。 ツマ は ニ を ゆりあげて ハナ を すすりすすり とって かえした。 1 ケン の イエ の ト を たたいて、 ようやく マツカワ ノウジョウ の アリカ を おしえて もらった とき は、 カレ の スガタ を みわけかねる ほど トオク に きて いた。 おおきな コエ を だす こと が なんとなく おそろしかった。 おそろしい ばかり では ない、 コエ を だす チカラ さえ なかった。 そして チンバ を ひきひき また かえって きた。
カレラ は ねむく なる ほど つかれはてながら また 3 チョウ ほど あるかねば ならなかった。 そこ に シタミガコイ、 イタブキ の マシカク な 2 カイ-ダテ が ホカ の ヤナミ を あっして たって いた。
ツマ が だまった まま たちどまった ので、 カレ は それ が マツカワ ノウジョウ の ジムショ で ある こと を しった。 ホントウ を いう と カレ は ハジメ から この タテモノ が それ に ちがいない と おもって いた が、 はいる の が いや な ばかり に しらん フリ を して とおりぬけて しまった の だ。 もう シンタイ きわまった。 カレ は ミチ の ムコウガワ の タチキ の ミキ に ウマ を つないで、 カラスムギ と ザッソウ と を きりこんだ アマブクロ を クラワ から ほどいて ウマ の クチ に あてがった。 ぼりり ぼりり と いう ハギレ の いい オト が すぐ きこえだした。 カレ と ツマ とは また ミチ を よこぎって、 ジムショ の イリグチ の ところ まで きた。 そこ で フタリ は フアン-らしく カオ を みあわせた。 ツマ が ぎごちなそう に テ を あげて カミ を いじって いる アイダ に カレ は おもいきって ハンブン ガラス に なって いる ヒキド を あけた。 カッシャ が けたたましい オト を たてて テツ の ミゾ を すべった。 がたぴし する ト ばかり を あつかいなれて いる カレ の テ の チカラ が あまった の だ。 ツマ が ぎょっと する ハズミ に セナカ の アカンボウ も メ を さまして なきだした。 チョウバ に いた フタリ の オトコ は とびあがらん ばかり に おどろいて こちら を みた。 そこ には カレ と ツマ と が なく アカンボウ の シマツ も せず に のそり と つったって いた。
「ナン だ テメエタチ は、 ト を アケッパナシ に しくさって カゼ が ふきこむ で ねえ か。 はいる の なら はやく はいって こう」
コン の アツシ を セル の マエダレ で あわせて、 カシ の カクヒバチ の ヨコザ に すわった オトコ が マユ を しかめながら こう どなった。 ニンゲン の カオ―― ことに どこ か ジブン より ウワテ な ニンゲン の カオ を みる と カレ の ココロ は すぐ ふてくされる の だった。 ヤイバ に はむかう ケモノ の よう に ステバチ に なって カレ は のさのさ と ずぬけて おおきな ゴタイ を ドマ に はこんで いった。 ツマ は おずおず と ト を しめて コガイ に たって いた、 アカンボウ の なく の も わすれはてる ほど に キ を テントウ させて。
コエ を かけた の は 30 ゼンゴ の、 メ の するどい、 クチヒゲ の フニアイ な、 ナガガオ の オトコ だった。 ノウミン の アイダ で ナガガオ の オトコ を みる の は、 ブタ の ナカ で ウマ の カオ を みる よう な もの だった。 カレ の ココロ は キンチョウ しながら も その オトコ の カオ を めずらしげ に みいらない わけ には ゆかなかった。 カレ は ジギ ヒトツ しなかった。
アカンボウ が くびりころされそう に ト の ソト で なきたてた。 カレ は それ にも キ を とられて いた。
アガリガマチ に コシ を かけて いた もう ヒトリ の オトコ は やや しばらく カレ の カオ を みつめて いた が、 ナニワブシ カタリ の よう な ミョウ に ハリ の ある コエ で とつぜん クチ を きった。
「オヌシ は カワモリ さん の ユカリ の モノ じゃ ない ん かの。 どうやら カオ が にとる じゃ が」
コンド は カレ の ヘンジ も またず に ナガガオ の オトコ の ほう を むいて、
「チョウバ さん にも カワモリ から はないた はず じゃ がの。 ヌシ が の チスジ を イワタ が アト に いれて もらいたい いうて な」
また カレ の ほう を むいて、
「そう じゃろ がの」
それ に ちがいなかった。 しかし カレ は その オトコ を みる と ムシズ が はしった。 それ も ヒャクショウ に めずらしい ながい カオ の オトコ で、 はげあがった ヒタイ から ヒダリ の ハンメン に かけて ヤケド の アト が てらてら と ひかり、 シタマブタ が あかく ベッカンコ を して いた。 そして クチビル が カミ の よう に うすかった。
チョウバ と よばれた オトコ は その こと なら のみこめた と いう ふう に、 ときどき ウワメ で にらみにらみ、 イロイロ な こと を カレ に ききただした。 そして チョウバヅクエ の ナカ から、 ミノガミ に こまごま と カツジ を すった ショルイ を だして、 それ に ヒロオカ ニンエモン と いう カレ の ナ と ウマレコキョウ と を キニュウ して、 よく よんで から ハン を おせ と いって 2 ツウ つきだした。 ニンエモン (これから カレ と いう カワリ に ニンエモン と よぼう) は もとより アキメクラ だった が、 ノウジョウ でも ギョバ でも コウザン でも メシ を くう ため には そういう カミ の ハシ に メクラバン を おさなければ ならない と いう こと は こころえて いた。 カレ は ハラガケ の ドンブリ の ナカ を さぐりまわして ぼろぼろ の カミ の カタマリ を つかみだした。 そして タケノコ の カワ を はぐ よう に イクマイ も の カミ を はがす と マックロ に なった サンモンバン が ころがりでた。 カレ は それ に イキ を ふきかけて ショウショ に アナ の あく ほど おしつけた。 そして わたされた 1 マイ を ハン と イッショ に ドンブリ の ソコ に しまって しまった。 これ だけ の こと で メシ の タネ に ありつける の は ありがたい こと だった。 コガイ では アカンボウ が まだ なきやんで いなかった。
「オラ ゼニコ イチモン も もたねえ から ちょっぴり かりたい だ が」
アカンボウ の こと を おもう と、 キュウ に コゼニ が ほしく なって、 カレ が こう いいだす と、 チョウバ は あきれた よう に カレ の カオ を みつめた、 ――コイツ は バカ な ツラ を して いる くせ に ユダン の ならない ヨコガミヤブリ だ と おもいながら。 そして ジムショ では カネ の カリカシ は いっさい しない から エンジャ に なる カワモリ から でも かりる が いい し、 コンヤ は なにしろ そこ に いって とめて もらえ と チュウイ した。 ニンエモン は もう ムカッパラ を たてて しまって いた。 だまりこくって でて ゆこう と する と、 そこ に いあわせた オトコ が イッショ に いって やる から まて と とめた。 そう いわれて みる と カレ は ジブン の コヤ が どこ に ある の か を しらなかった。
「それじゃ チョウバ さん なにぶん よろしゅう たのむ がに、 あんばいよう オヤカタ の ほう にも いうて な。 ヒロオカ さん、 それじゃ いく べえ かの。 なんと まあ ヤヤ の いたましく さかぶ ぞい。 じゃ まあ おやすみ」
カレ は キヨウ に コゴシ を かがめて ふるい テサゲカバン と ボウシ と を とりあげた。 スソ を からげて ホウヘイ の フルグツ を はいて いる ヨウス は コサクニン と いう より も ザッコクヤ の サヤトリ だった。
ト を あけて ソト に でる と ジムショ の ボンボンドケイ が 6 ジ を うった。 びゅうびゅう と カゼ は ふきつのって いた。 アカンボウ の なく の に こうじはてて ツマ は ぽつり と さびしそう に トウキビガラ の ユキガコイ の カゲ に たって いた。
アシバ が わるい から キ を つけろ と いいながら かの オトコ は サキ に たって コクドウ から アゼミチ に はいって いった。
オオナミ の よう な ウネリ を みせた シュウカクゴ の ハタチ は、 ひろく とおく こうりょう と して ひろがって いた。 メ を さえぎる もの は ハ を おとした ボウフウリン の ほそながい コダチ だけ だった。 ぎらぎら と またたく ムスウ の ホシ は ソラ の ジ を ことさら さむく くらい もの に して いた。 ニンエモン を アンナイ した オトコ は カサイ と いう コサクニン で、 テンリキョウ の セワニン も して いる の だ と いって きかせたり した。
7 チョウ も 8 チョウ も あるいた と おもう のに アカンボウ は まだ なきやまなかった。 くびりころされそう な ナキゴエ が ハンキョウ も なく カゼ に ふきちぎられて とおく ながれて いった。
やがて アゼミチ が フタツ に なる ところ で カサイ は たちどまった。
「この ミチ を な、 こう いく と ヒダリテ に さえて コヤ が みえよう がの。 な」
ニンエモン は くろい チヘイセン を すかして みながら、 ミミ に テ を おきそえて カサイ の コトバ を ききもらすまい と した。 それほど さむい カゼ は はげしい オト で つのって いた。 カサイ は くどくど と そこ に ゆきつく チュウイ を くりかえして、 シマイ に カネ が いる なら カワモリ の ホショウ で すこし ぐらい は ユウズウ する と つけくわえる の を わすれなかった。 しかし ニンエモン は コヤ の ショザイ が しれる と アト は きいて いなかった。 ウエ と サムサ が ひしひし と こたえだして がたがた ミ を ふるわしながら、 アイサツ ヒトツ せず に さっさと わかれて あるきだした。
トウキビガラ と イタドリ の クキ で カコイ を した 2 ケン ハン シホウ ほど の コヤ が、 マエノメリ に かしいで、 クラゲ の よう な ひくい コウバイ の コヤマ の ハンプク に たって いた。 モノ の すえた ニオイ と ツミゴエ の ニオイ が ほしいまま に ただよって いた。 コヤ の ナカ には どんな ヤジュウ が ひそんで いる かも しれない よう な キミワルサ が あった。 アカンボウ の なきつづける クラヤミ の ナカ で ニンエモン が ウマノセ から どすん と おもい もの を ジメン に おろす オト が した。 ヤセウマ は ニ が かるく なる と ウッセキ した イカリ を イチジ に ぶちまける よう に いなないた。 はるか の トオク で それ に こたえた ウマ が あった。 アト は カゼ だけ が ふきすさんだ。
フウフ は かじかんだ テ で ニモツ を さげながら コヤ に はいった。 ながく ヒノケ は たえて いて も、 フキサラシ から はいる と さすが に キモチ よく あたたかかった。 フタリ は マックラ な ナカ を テサグリ で アリアワセ の フルムシロ や ワラ を よせあつめて どっかと コシ を すえた。 ツマ は おおきな タメイキ を して セ の ニ と イッショ に アカンボウ を おろして ムネ に だきとった。 チブサ を あてがって みた が チチ は かれて いた。 アカンボウ は かたく なりかかった ハグキ で いや と いう ほど それ を かんだ。 そして なきつのった。
「クサレニガ! タタラ くいちぎる に」
ツマ は ケンドン に こう いって、 フトコロ から シオセンベイ を 3 マイ だして、 ぽりぽり と かみくだいて は アカンボウ の クチ に あてがった。
「オラ が にも くせ」
いきなり ニンエモン が エンピ を のばして ノコリ を うばいとろう と した。 フタリ は だまった まま で ホンキ に あらそった。 たべる もの と いって は 3 マイ の センベイ しか ない の だ から。
「タワケ」
はきだす よう に オット が こう いった とき ショウブ は きまって いた。 ツマ は あらそいまけて ダイブブン を リャクダツ されて しまった。 フタリ は また おしだまって ヤミ の ナカ で たしない ショクモツ を むさぼりくった。 しかし それ は けっきょく ショクヨク を そそる ナカダチ に なる ばかり だった。 フタリ は くいおわって から イクド も カタズ を のんだ が ヒダネ の ない ところ では カボチャ を にる こと も できなかった。 アカンボウ は ナキヅカレ に つかれて ほっぽりだされた まま に いつのまにか ねいって いた。
いしずまって みる と スキマ もる カゼ は ヤイバ の よう に するどく きりこんで きて いた。 フタリ は もうしあわせた よう に リョウホウ から ちかづいて、 アカンボウ を アイダ に いれて、 ダキネ を しながら ワラ の ナカ で がつがつ と ふるえて いた。 しかし やがて ヒロウ は スベテ を セイフク した。 シ の よう な ネムリ が 3 ニン を おそった。
エンリョ エシャク も なく ハヤテ は ヤマ と ノ と を こめて ふきすさんだ。 ウルシ の よう な ヤミ が タイガ の ごとく ヒガシ へ ヒガシ へ と ながれた。 マッカリ ヌプリ の ゼッテン の ユキ だけ が リンコウ を はなって かすか に ひかって いた。 あらくれた おおきな シゼン だけ が そこ に よみがえった。
こうして ニンエモン フウフ は、 どこ から とも なく K ムラ に あらわれでて、 マツカワ ノウジョウ の コサクニン に なった。
アリシマ タケオ
1
ながい カゲ を チ に ひいて、 ヤセウマ の タヅナ を とりながら、 カレ は だまりこくって あるいた。 おおきな きたない フロシキヅツミ と イッショ に、 タコ の よう に アタマ ばかり おおきい アカンボウ を おぶった カレ の ツマ は、 すこし チンバ を ひきながら 3~4 ケン も はなれて その アト から とぼとぼ と ついて いった。
ホッカイドウ の フユ は ソラ まで せまって いた。 エゾ フジ と いわれる マッカリ ヌプリ の フモト に つづく イブリ の ダイソウゲン を、 ニホンカイ から ウチウラ ワン に ふきぬける ニシカゼ が、 うちよせる ウネリ の よう に アト から アト から ふきはらって いった。 さむい カゼ だ。 みあげる と 8 ゴウメ まで ユキ に なった マッカリ ヌプリ は すこし アタマ を マエ に こごめて カゼ に はむかいながら だまった まま つったって いた。 コンブダケ の シャメン に ちいさく あつまった クモ の カタマリ を めがけて ヒ は しずみかかって いた。 ソウゲン の ウエ には 1 ポン の ジュモク も はえて いなかった。 こころぼそい ほど マッスグ な ヒトスジミチ を、 カレ と カレ の ツマ だけ が、 よろよろ と あるく 2 ホン の タチキ の よう に うごいて いった。
フタリ は コトバ を わすれた ヒト の よう に いつまでも だまって あるいた。 ウマ が イバリ を する とき だけ カレ は ふしょうぶしょう に たちどまった。 ツマ は その ヒマ に ようやく おいついて セナカ の ニ を ゆすりあげながら タメイキ を ついた。 ウマ が イバリ を すます と フタリ は また だまって あるきだした。
「ここら オヤジ (クマ の こと) が でる ずら」
4 リ に わたる この ソウゲン の ウエ で、 たった イチド ツマ は これ だけ の こと を いった。 なれた モノ には ジコク と いい、 トコロガラ と いい クマ の シュウライ を おそれる リユウ が あった。 カレ は いまいましそう に クサ の ナカ に ツバ を はきすてた。
ソウゲン の ナカ の ミチ が だんだん ふとく なって コクドウ に つづく ところ まで きた コロ には ヒ は くれて しまって いた。 モノ の リンカク が マルミ を おびず に、 かたい まま で くろずんで ゆく こちん と した さむい バンシュウ の ヨル が きた。
キモノ は うすかった。 そして フタリ は うえきって いた。 ツマ は キ に して ときどき アカンボウ を みた。 いきて いる の か しんで いる の か、 とにかく アカンボウ は イビキ も たてない で クビ を ミギ の カタ に がくり と たれた まま だまって いた。
コクドウ の ウエ には さすが に ヒトカゲ が ヒトリ フタリ うごいて いた。 タイテイ は シガイチ に でて イッパイ のんで いた の らしく、 ユキチガイ に したたか サケ の カ を おくって よこす モノ も あった。 カレ は サケ の カ を かぐ と キュウ に えぐられる よう な カワキ と ショクヨク と を おぼえて、 すれちがった オトコ を みおくったり した が、 イマイマシサ に はきすてよう と する ツバ は もう でて こなかった。 ノリ の よう に ねばった もの が クチビル の アワセメ を とじつけて いた。
ナイチ ならば コウシンヅカ か イシジゾウ でも ある はず の ところ に、 マックロ に なった 1 ジョウ も ありそう な ヒョウジグイ が ナナメ に なって たって いた。 そこ まで くる と ヒザカナ を やく ニオイ が かすか に カレ の ハナ を うった と おもった。 カレ は はじめて たちどまった。 ヤセウマ も あるいた シセイ を ソノママ に のそり と うごかなく なった。 タテガミ と シリッポ だけ が カゼ に したがって なびいた。
「なんて いう だ ノウジョウ は」
セタケ の ずぬけて たかい カレ は ツマ を みおろす よう に して こう つぶやいた。
「マツカワ ノウジョウ たら いう だ が」
「たら いう だ? コケ」
カレ は ツマ と コトバ を かわした の が シャク に さわった。 そして ウマ の ハナ を ぐんと タヅナ で しごいて また あるきだした。 くらく なった タニ を へだてて すこし こっち より も たかい くらい の ヘイチ に、 わすれた よう に アイダ を おいて ともされた シガイチ の かすか な ホカゲ は、 ヒトケ の ない ところ より も かえって シゼン を さびしく みせた。 カレ は その ヒ を みる と もう イッシュ の オビエ を おぼえた。 ヒト の ケハイ を かぎつける と カレ は なんとか ミヅクロイ を しない では いられなかった。 シゼンサ が その シュンカン に うしなわれた。 それ を イシキ する こと が カレ を いやがうえにも ブッチョウヅラ に した。 「カタキ が メノマエ に きた ぞ。 バカ な ツラ を して いやがって、 シリコダマ でも ひっこぬかれるな」 と でも いいそう な カオ を ツマ の ほう に むけて おいて、 あるきながら オビ を しめなおした。 オット の カオツキ には キ も つかない ほど メ を おとした ツマ は クチ を だらり と あけた まま いっさい ムトンジャク で ただ ウマ の アト に ついて あるいた。
K シガイチ の マチハズレ には アキヤ が 4 ケン まで ならんで いた。 ちいさな マド は ドクロ の それ の よう な マックラ な メ を オウライ に むけて あいて いた。 5 ケン-メ には ヒト が すんで いた が うごめく ヒトカゲ の アイダ に イロリ の ネソダ が ちょろちょろ と もえる の が みえる だけ だった。 6 ケン-メ には テイテツヤ が あった。 あやしげ な エントウ から は カゼ に こきおろされた ケムリ の ナカ に まじって ヒバナ が とびちって いた。 ミセ は ヨウロ の ヒグチ を ひらいた よう に あかるくて、 ばかばかしく だだっびろい ホッカイドウ の 7 ケン ドウロ が ムコウガワ まで はっきり と てらされて いた。 カタガワマチ では ある けれども、 とにかく ヤナミ が ある だけ に、 しいて ムキ を かえさせられた カゼ の アシ が イシュ に スナ を まきあげた。 スナ は テイテツヤ の マエ の ヒ の ヒカリ に てりかえされて もうもう と うずまく スガタ を みせた。 シゴトバ の フイゴ の マワリ には 3 ニン の オトコ が はたらいて いた。 カナシキ に あたる カナヅチ の オト が たかく ひびく と つかれはてた カレ の ウマ さえ が ミミ を たてなおした。 カレ は この ミセサキ に ジブン の ウマ を ひっぱって くる とき の こと を おもった。 ツマ は すいとられる よう に あたたかそう な ヒ の イロ に みとれて いた。 フタリ は ミョウ に わくわく した ココロモチ に なった。
テイテツヤ の サキ は キュウ に ヤミ が こまかく なって タイテイ の イエ は もう トジマリ を して いた。 アラモノヤ を かねた イザカヤ らしい 1 ケン から クイモノ の ニオイ と ダンジョ の ふざけかえった ダミゴエ が もれる ホカ には、 マッスグ な ヤナミ は ハイソン の よう に サムサ の マエ に ちぢこまって、 デンシンバシラ だけ が、 けうとい ウナリ を たてて いた。 カレ と ウマ と ツマ とは マエ の とおり に おしだまって あるいた。 あるいて は ときおり おもいだした よう に たちどまった。 たちどまって は また ムイミ-らしく あるきだした。
4~5 チョウ あるいた と おもう と カレラ は もう マチハズレ に きて しまって いた。 ミチ が へしおられた よう に まがって、 その サキ は、 マックラ な クボチ に、 キュウ な コウバイ を とって くだって いた。 カレラ は その トッカク まで いって また たちどまった。 はるか シタ の ほう から は、 うざうざ する ほど しげりあった カツヨウジュリン に カゼ の はいる オト の ホカ に、 シリベシ-ガワ の かすか な ミズ の オト だけ が きこえて いた。
「きいて みずに」
ツマ は サムサ に ミ を ふるわしながら こう うめいた。
「ワレ きいて み べし」
いきなり そこ に しゃごんで しまった カレ の コエ は チ の ナカ から でも でて きた よう だった。 ツマ は ニ を ゆりあげて ハナ を すすりすすり とって かえした。 1 ケン の イエ の ト を たたいて、 ようやく マツカワ ノウジョウ の アリカ を おしえて もらった とき は、 カレ の スガタ を みわけかねる ほど トオク に きて いた。 おおきな コエ を だす こと が なんとなく おそろしかった。 おそろしい ばかり では ない、 コエ を だす チカラ さえ なかった。 そして チンバ を ひきひき また かえって きた。
カレラ は ねむく なる ほど つかれはてながら また 3 チョウ ほど あるかねば ならなかった。 そこ に シタミガコイ、 イタブキ の マシカク な 2 カイ-ダテ が ホカ の ヤナミ を あっして たって いた。
ツマ が だまった まま たちどまった ので、 カレ は それ が マツカワ ノウジョウ の ジムショ で ある こと を しった。 ホントウ を いう と カレ は ハジメ から この タテモノ が それ に ちがいない と おもって いた が、 はいる の が いや な ばかり に しらん フリ を して とおりぬけて しまった の だ。 もう シンタイ きわまった。 カレ は ミチ の ムコウガワ の タチキ の ミキ に ウマ を つないで、 カラスムギ と ザッソウ と を きりこんだ アマブクロ を クラワ から ほどいて ウマ の クチ に あてがった。 ぼりり ぼりり と いう ハギレ の いい オト が すぐ きこえだした。 カレ と ツマ とは また ミチ を よこぎって、 ジムショ の イリグチ の ところ まで きた。 そこ で フタリ は フアン-らしく カオ を みあわせた。 ツマ が ぎごちなそう に テ を あげて カミ を いじって いる アイダ に カレ は おもいきって ハンブン ガラス に なって いる ヒキド を あけた。 カッシャ が けたたましい オト を たてて テツ の ミゾ を すべった。 がたぴし する ト ばかり を あつかいなれて いる カレ の テ の チカラ が あまった の だ。 ツマ が ぎょっと する ハズミ に セナカ の アカンボウ も メ を さまして なきだした。 チョウバ に いた フタリ の オトコ は とびあがらん ばかり に おどろいて こちら を みた。 そこ には カレ と ツマ と が なく アカンボウ の シマツ も せず に のそり と つったって いた。
「ナン だ テメエタチ は、 ト を アケッパナシ に しくさって カゼ が ふきこむ で ねえ か。 はいる の なら はやく はいって こう」
コン の アツシ を セル の マエダレ で あわせて、 カシ の カクヒバチ の ヨコザ に すわった オトコ が マユ を しかめながら こう どなった。 ニンゲン の カオ―― ことに どこ か ジブン より ウワテ な ニンゲン の カオ を みる と カレ の ココロ は すぐ ふてくされる の だった。 ヤイバ に はむかう ケモノ の よう に ステバチ に なって カレ は のさのさ と ずぬけて おおきな ゴタイ を ドマ に はこんで いった。 ツマ は おずおず と ト を しめて コガイ に たって いた、 アカンボウ の なく の も わすれはてる ほど に キ を テントウ させて。
コエ を かけた の は 30 ゼンゴ の、 メ の するどい、 クチヒゲ の フニアイ な、 ナガガオ の オトコ だった。 ノウミン の アイダ で ナガガオ の オトコ を みる の は、 ブタ の ナカ で ウマ の カオ を みる よう な もの だった。 カレ の ココロ は キンチョウ しながら も その オトコ の カオ を めずらしげ に みいらない わけ には ゆかなかった。 カレ は ジギ ヒトツ しなかった。
アカンボウ が くびりころされそう に ト の ソト で なきたてた。 カレ は それ にも キ を とられて いた。
アガリガマチ に コシ を かけて いた もう ヒトリ の オトコ は やや しばらく カレ の カオ を みつめて いた が、 ナニワブシ カタリ の よう な ミョウ に ハリ の ある コエ で とつぜん クチ を きった。
「オヌシ は カワモリ さん の ユカリ の モノ じゃ ない ん かの。 どうやら カオ が にとる じゃ が」
コンド は カレ の ヘンジ も またず に ナガガオ の オトコ の ほう を むいて、
「チョウバ さん にも カワモリ から はないた はず じゃ がの。 ヌシ が の チスジ を イワタ が アト に いれて もらいたい いうて な」
また カレ の ほう を むいて、
「そう じゃろ がの」
それ に ちがいなかった。 しかし カレ は その オトコ を みる と ムシズ が はしった。 それ も ヒャクショウ に めずらしい ながい カオ の オトコ で、 はげあがった ヒタイ から ヒダリ の ハンメン に かけて ヤケド の アト が てらてら と ひかり、 シタマブタ が あかく ベッカンコ を して いた。 そして クチビル が カミ の よう に うすかった。
チョウバ と よばれた オトコ は その こと なら のみこめた と いう ふう に、 ときどき ウワメ で にらみにらみ、 イロイロ な こと を カレ に ききただした。 そして チョウバヅクエ の ナカ から、 ミノガミ に こまごま と カツジ を すった ショルイ を だして、 それ に ヒロオカ ニンエモン と いう カレ の ナ と ウマレコキョウ と を キニュウ して、 よく よんで から ハン を おせ と いって 2 ツウ つきだした。 ニンエモン (これから カレ と いう カワリ に ニンエモン と よぼう) は もとより アキメクラ だった が、 ノウジョウ でも ギョバ でも コウザン でも メシ を くう ため には そういう カミ の ハシ に メクラバン を おさなければ ならない と いう こと は こころえて いた。 カレ は ハラガケ の ドンブリ の ナカ を さぐりまわして ぼろぼろ の カミ の カタマリ を つかみだした。 そして タケノコ の カワ を はぐ よう に イクマイ も の カミ を はがす と マックロ に なった サンモンバン が ころがりでた。 カレ は それ に イキ を ふきかけて ショウショ に アナ の あく ほど おしつけた。 そして わたされた 1 マイ を ハン と イッショ に ドンブリ の ソコ に しまって しまった。 これ だけ の こと で メシ の タネ に ありつける の は ありがたい こと だった。 コガイ では アカンボウ が まだ なきやんで いなかった。
「オラ ゼニコ イチモン も もたねえ から ちょっぴり かりたい だ が」
アカンボウ の こと を おもう と、 キュウ に コゼニ が ほしく なって、 カレ が こう いいだす と、 チョウバ は あきれた よう に カレ の カオ を みつめた、 ――コイツ は バカ な ツラ を して いる くせ に ユダン の ならない ヨコガミヤブリ だ と おもいながら。 そして ジムショ では カネ の カリカシ は いっさい しない から エンジャ に なる カワモリ から でも かりる が いい し、 コンヤ は なにしろ そこ に いって とめて もらえ と チュウイ した。 ニンエモン は もう ムカッパラ を たてて しまって いた。 だまりこくって でて ゆこう と する と、 そこ に いあわせた オトコ が イッショ に いって やる から まて と とめた。 そう いわれて みる と カレ は ジブン の コヤ が どこ に ある の か を しらなかった。
「それじゃ チョウバ さん なにぶん よろしゅう たのむ がに、 あんばいよう オヤカタ の ほう にも いうて な。 ヒロオカ さん、 それじゃ いく べえ かの。 なんと まあ ヤヤ の いたましく さかぶ ぞい。 じゃ まあ おやすみ」
カレ は キヨウ に コゴシ を かがめて ふるい テサゲカバン と ボウシ と を とりあげた。 スソ を からげて ホウヘイ の フルグツ を はいて いる ヨウス は コサクニン と いう より も ザッコクヤ の サヤトリ だった。
ト を あけて ソト に でる と ジムショ の ボンボンドケイ が 6 ジ を うった。 びゅうびゅう と カゼ は ふきつのって いた。 アカンボウ の なく の に こうじはてて ツマ は ぽつり と さびしそう に トウキビガラ の ユキガコイ の カゲ に たって いた。
アシバ が わるい から キ を つけろ と いいながら かの オトコ は サキ に たって コクドウ から アゼミチ に はいって いった。
オオナミ の よう な ウネリ を みせた シュウカクゴ の ハタチ は、 ひろく とおく こうりょう と して ひろがって いた。 メ を さえぎる もの は ハ を おとした ボウフウリン の ほそながい コダチ だけ だった。 ぎらぎら と またたく ムスウ の ホシ は ソラ の ジ を ことさら さむく くらい もの に して いた。 ニンエモン を アンナイ した オトコ は カサイ と いう コサクニン で、 テンリキョウ の セワニン も して いる の だ と いって きかせたり した。
7 チョウ も 8 チョウ も あるいた と おもう のに アカンボウ は まだ なきやまなかった。 くびりころされそう な ナキゴエ が ハンキョウ も なく カゼ に ふきちぎられて とおく ながれて いった。
やがて アゼミチ が フタツ に なる ところ で カサイ は たちどまった。
「この ミチ を な、 こう いく と ヒダリテ に さえて コヤ が みえよう がの。 な」
ニンエモン は くろい チヘイセン を すかして みながら、 ミミ に テ を おきそえて カサイ の コトバ を ききもらすまい と した。 それほど さむい カゼ は はげしい オト で つのって いた。 カサイ は くどくど と そこ に ゆきつく チュウイ を くりかえして、 シマイ に カネ が いる なら カワモリ の ホショウ で すこし ぐらい は ユウズウ する と つけくわえる の を わすれなかった。 しかし ニンエモン は コヤ の ショザイ が しれる と アト は きいて いなかった。 ウエ と サムサ が ひしひし と こたえだして がたがた ミ を ふるわしながら、 アイサツ ヒトツ せず に さっさと わかれて あるきだした。
トウキビガラ と イタドリ の クキ で カコイ を した 2 ケン ハン シホウ ほど の コヤ が、 マエノメリ に かしいで、 クラゲ の よう な ひくい コウバイ の コヤマ の ハンプク に たって いた。 モノ の すえた ニオイ と ツミゴエ の ニオイ が ほしいまま に ただよって いた。 コヤ の ナカ には どんな ヤジュウ が ひそんで いる かも しれない よう な キミワルサ が あった。 アカンボウ の なきつづける クラヤミ の ナカ で ニンエモン が ウマノセ から どすん と おもい もの を ジメン に おろす オト が した。 ヤセウマ は ニ が かるく なる と ウッセキ した イカリ を イチジ に ぶちまける よう に いなないた。 はるか の トオク で それ に こたえた ウマ が あった。 アト は カゼ だけ が ふきすさんだ。
フウフ は かじかんだ テ で ニモツ を さげながら コヤ に はいった。 ながく ヒノケ は たえて いて も、 フキサラシ から はいる と さすが に キモチ よく あたたかかった。 フタリ は マックラ な ナカ を テサグリ で アリアワセ の フルムシロ や ワラ を よせあつめて どっかと コシ を すえた。 ツマ は おおきな タメイキ を して セ の ニ と イッショ に アカンボウ を おろして ムネ に だきとった。 チブサ を あてがって みた が チチ は かれて いた。 アカンボウ は かたく なりかかった ハグキ で いや と いう ほど それ を かんだ。 そして なきつのった。
「クサレニガ! タタラ くいちぎる に」
ツマ は ケンドン に こう いって、 フトコロ から シオセンベイ を 3 マイ だして、 ぽりぽり と かみくだいて は アカンボウ の クチ に あてがった。
「オラ が にも くせ」
いきなり ニンエモン が エンピ を のばして ノコリ を うばいとろう と した。 フタリ は だまった まま で ホンキ に あらそった。 たべる もの と いって は 3 マイ の センベイ しか ない の だ から。
「タワケ」
はきだす よう に オット が こう いった とき ショウブ は きまって いた。 ツマ は あらそいまけて ダイブブン を リャクダツ されて しまった。 フタリ は また おしだまって ヤミ の ナカ で たしない ショクモツ を むさぼりくった。 しかし それ は けっきょく ショクヨク を そそる ナカダチ に なる ばかり だった。 フタリ は くいおわって から イクド も カタズ を のんだ が ヒダネ の ない ところ では カボチャ を にる こと も できなかった。 アカンボウ は ナキヅカレ に つかれて ほっぽりだされた まま に いつのまにか ねいって いた。
いしずまって みる と スキマ もる カゼ は ヤイバ の よう に するどく きりこんで きて いた。 フタリ は もうしあわせた よう に リョウホウ から ちかづいて、 アカンボウ を アイダ に いれて、 ダキネ を しながら ワラ の ナカ で がつがつ と ふるえて いた。 しかし やがて ヒロウ は スベテ を セイフク した。 シ の よう な ネムリ が 3 ニン を おそった。
エンリョ エシャク も なく ハヤテ は ヤマ と ノ と を こめて ふきすさんだ。 ウルシ の よう な ヤミ が タイガ の ごとく ヒガシ へ ヒガシ へ と ながれた。 マッカリ ヌプリ の ゼッテン の ユキ だけ が リンコウ を はなって かすか に ひかって いた。 あらくれた おおきな シゼン だけ が そこ に よみがえった。
こうして ニンエモン フウフ は、 どこ から とも なく K ムラ に あらわれでて、 マツカワ ノウジョウ の コサクニン に なった。