カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

カイン の マツエイ 1

2015-11-23 | アリシマ タケオ
 カイン の マツエイ

 アリシマ タケオ

 1

 ながい カゲ を チ に ひいて、 ヤセウマ の タヅナ を とりながら、 カレ は だまりこくって あるいた。 おおきな きたない フロシキヅツミ と イッショ に、 タコ の よう に アタマ ばかり おおきい アカンボウ を おぶった カレ の ツマ は、 すこし チンバ を ひきながら 3~4 ケン も はなれて その アト から とぼとぼ と ついて いった。
 ホッカイドウ の フユ は ソラ まで せまって いた。 エゾ フジ と いわれる マッカリ ヌプリ の フモト に つづく イブリ の ダイソウゲン を、 ニホンカイ から ウチウラ ワン に ふきぬける ニシカゼ が、 うちよせる ウネリ の よう に アト から アト から ふきはらって いった。 さむい カゼ だ。 みあげる と 8 ゴウメ まで ユキ に なった マッカリ ヌプリ は すこし アタマ を マエ に こごめて カゼ に はむかいながら だまった まま つったって いた。 コンブダケ の シャメン に ちいさく あつまった クモ の カタマリ を めがけて ヒ は しずみかかって いた。 ソウゲン の ウエ には 1 ポン の ジュモク も はえて いなかった。 こころぼそい ほど マッスグ な ヒトスジミチ を、 カレ と カレ の ツマ だけ が、 よろよろ と あるく 2 ホン の タチキ の よう に うごいて いった。
 フタリ は コトバ を わすれた ヒト の よう に いつまでも だまって あるいた。 ウマ が イバリ を する とき だけ カレ は ふしょうぶしょう に たちどまった。 ツマ は その ヒマ に ようやく おいついて セナカ の ニ を ゆすりあげながら タメイキ を ついた。 ウマ が イバリ を すます と フタリ は また だまって あるきだした。
「ここら オヤジ (クマ の こと) が でる ずら」
 4 リ に わたる この ソウゲン の ウエ で、 たった イチド ツマ は これ だけ の こと を いった。 なれた モノ には ジコク と いい、 トコロガラ と いい クマ の シュウライ を おそれる リユウ が あった。 カレ は いまいましそう に クサ の ナカ に ツバ を はきすてた。
 ソウゲン の ナカ の ミチ が だんだん ふとく なって コクドウ に つづく ところ まで きた コロ には ヒ は くれて しまって いた。 モノ の リンカク が マルミ を おびず に、 かたい まま で くろずんで ゆく こちん と した さむい バンシュウ の ヨル が きた。
 キモノ は うすかった。 そして フタリ は うえきって いた。 ツマ は キ に して ときどき アカンボウ を みた。 いきて いる の か しんで いる の か、 とにかく アカンボウ は イビキ も たてない で クビ を ミギ の カタ に がくり と たれた まま だまって いた。
 コクドウ の ウエ には さすが に ヒトカゲ が ヒトリ フタリ うごいて いた。 タイテイ は シガイチ に でて イッパイ のんで いた の らしく、 ユキチガイ に したたか サケ の カ を おくって よこす モノ も あった。 カレ は サケ の カ を かぐ と キュウ に えぐられる よう な カワキ と ショクヨク と を おぼえて、 すれちがった オトコ を みおくったり した が、 イマイマシサ に はきすてよう と する ツバ は もう でて こなかった。 ノリ の よう に ねばった もの が クチビル の アワセメ を とじつけて いた。
 ナイチ ならば コウシンヅカ か イシジゾウ でも ある はず の ところ に、 マックロ に なった 1 ジョウ も ありそう な ヒョウジグイ が ナナメ に なって たって いた。 そこ まで くる と ヒザカナ を やく ニオイ が かすか に カレ の ハナ を うった と おもった。 カレ は はじめて たちどまった。 ヤセウマ も あるいた シセイ を ソノママ に のそり と うごかなく なった。 タテガミ と シリッポ だけ が カゼ に したがって なびいた。
「なんて いう だ ノウジョウ は」
 セタケ の ずぬけて たかい カレ は ツマ を みおろす よう に して こう つぶやいた。
「マツカワ ノウジョウ たら いう だ が」
「たら いう だ? コケ」
 カレ は ツマ と コトバ を かわした の が シャク に さわった。 そして ウマ の ハナ を ぐんと タヅナ で しごいて また あるきだした。 くらく なった タニ を へだてて すこし こっち より も たかい くらい の ヘイチ に、 わすれた よう に アイダ を おいて ともされた シガイチ の かすか な ホカゲ は、 ヒトケ の ない ところ より も かえって シゼン を さびしく みせた。 カレ は その ヒ を みる と もう イッシュ の オビエ を おぼえた。 ヒト の ケハイ を かぎつける と カレ は なんとか ミヅクロイ を しない では いられなかった。 シゼンサ が その シュンカン に うしなわれた。 それ を イシキ する こと が カレ を いやがうえにも ブッチョウヅラ に した。 「カタキ が メノマエ に きた ぞ。 バカ な ツラ を して いやがって、 シリコダマ でも ひっこぬかれるな」 と でも いいそう な カオ を ツマ の ほう に むけて おいて、 あるきながら オビ を しめなおした。 オット の カオツキ には キ も つかない ほど メ を おとした ツマ は クチ を だらり と あけた まま いっさい ムトンジャク で ただ ウマ の アト に ついて あるいた。
 K シガイチ の マチハズレ には アキヤ が 4 ケン まで ならんで いた。 ちいさな マド は ドクロ の それ の よう な マックラ な メ を オウライ に むけて あいて いた。 5 ケン-メ には ヒト が すんで いた が うごめく ヒトカゲ の アイダ に イロリ の ネソダ が ちょろちょろ と もえる の が みえる だけ だった。 6 ケン-メ には テイテツヤ が あった。 あやしげ な エントウ から は カゼ に こきおろされた ケムリ の ナカ に まじって ヒバナ が とびちって いた。 ミセ は ヨウロ の ヒグチ を ひらいた よう に あかるくて、 ばかばかしく だだっびろい ホッカイドウ の 7 ケン ドウロ が ムコウガワ まで はっきり と てらされて いた。 カタガワマチ では ある けれども、 とにかく ヤナミ が ある だけ に、 しいて ムキ を かえさせられた カゼ の アシ が イシュ に スナ を まきあげた。 スナ は テイテツヤ の マエ の ヒ の ヒカリ に てりかえされて もうもう と うずまく スガタ を みせた。 シゴトバ の フイゴ の マワリ には 3 ニン の オトコ が はたらいて いた。 カナシキ に あたる カナヅチ の オト が たかく ひびく と つかれはてた カレ の ウマ さえ が ミミ を たてなおした。 カレ は この ミセサキ に ジブン の ウマ を ひっぱって くる とき の こと を おもった。 ツマ は すいとられる よう に あたたかそう な ヒ の イロ に みとれて いた。 フタリ は ミョウ に わくわく した ココロモチ に なった。
 テイテツヤ の サキ は キュウ に ヤミ が こまかく なって タイテイ の イエ は もう トジマリ を して いた。 アラモノヤ を かねた イザカヤ らしい 1 ケン から クイモノ の ニオイ と ダンジョ の ふざけかえった ダミゴエ が もれる ホカ には、 マッスグ な ヤナミ は ハイソン の よう に サムサ の マエ に ちぢこまって、 デンシンバシラ だけ が、 けうとい ウナリ を たてて いた。 カレ と ウマ と ツマ とは マエ の とおり に おしだまって あるいた。 あるいて は ときおり おもいだした よう に たちどまった。 たちどまって は また ムイミ-らしく あるきだした。
 4~5 チョウ あるいた と おもう と カレラ は もう マチハズレ に きて しまって いた。 ミチ が へしおられた よう に まがって、 その サキ は、 マックラ な クボチ に、 キュウ な コウバイ を とって くだって いた。 カレラ は その トッカク まで いって また たちどまった。 はるか シタ の ほう から は、 うざうざ する ほど しげりあった カツヨウジュリン に カゼ の はいる オト の ホカ に、 シリベシ-ガワ の かすか な ミズ の オト だけ が きこえて いた。
「きいて みずに」
 ツマ は サムサ に ミ を ふるわしながら こう うめいた。
「ワレ きいて み べし」
 いきなり そこ に しゃごんで しまった カレ の コエ は チ の ナカ から でも でて きた よう だった。 ツマ は ニ を ゆりあげて ハナ を すすりすすり とって かえした。 1 ケン の イエ の ト を たたいて、 ようやく マツカワ ノウジョウ の アリカ を おしえて もらった とき は、 カレ の スガタ を みわけかねる ほど トオク に きて いた。 おおきな コエ を だす こと が なんとなく おそろしかった。 おそろしい ばかり では ない、 コエ を だす チカラ さえ なかった。 そして チンバ を ひきひき また かえって きた。
 カレラ は ねむく なる ほど つかれはてながら また 3 チョウ ほど あるかねば ならなかった。 そこ に シタミガコイ、 イタブキ の マシカク な 2 カイ-ダテ が ホカ の ヤナミ を あっして たって いた。
 ツマ が だまった まま たちどまった ので、 カレ は それ が マツカワ ノウジョウ の ジムショ で ある こと を しった。 ホントウ を いう と カレ は ハジメ から この タテモノ が それ に ちがいない と おもって いた が、 はいる の が いや な ばかり に しらん フリ を して とおりぬけて しまった の だ。 もう シンタイ きわまった。 カレ は ミチ の ムコウガワ の タチキ の ミキ に ウマ を つないで、 カラスムギ と ザッソウ と を きりこんだ アマブクロ を クラワ から ほどいて ウマ の クチ に あてがった。 ぼりり ぼりり と いう ハギレ の いい オト が すぐ きこえだした。 カレ と ツマ とは また ミチ を よこぎって、 ジムショ の イリグチ の ところ まで きた。 そこ で フタリ は フアン-らしく カオ を みあわせた。 ツマ が ぎごちなそう に テ を あげて カミ を いじって いる アイダ に カレ は おもいきって ハンブン ガラス に なって いる ヒキド を あけた。 カッシャ が けたたましい オト を たてて テツ の ミゾ を すべった。 がたぴし する ト ばかり を あつかいなれて いる カレ の テ の チカラ が あまった の だ。 ツマ が ぎょっと する ハズミ に セナカ の アカンボウ も メ を さまして なきだした。 チョウバ に いた フタリ の オトコ は とびあがらん ばかり に おどろいて こちら を みた。 そこ には カレ と ツマ と が なく アカンボウ の シマツ も せず に のそり と つったって いた。
「ナン だ テメエタチ は、 ト を アケッパナシ に しくさって カゼ が ふきこむ で ねえ か。 はいる の なら はやく はいって こう」
 コン の アツシ を セル の マエダレ で あわせて、 カシ の カクヒバチ の ヨコザ に すわった オトコ が マユ を しかめながら こう どなった。 ニンゲン の カオ―― ことに どこ か ジブン より ウワテ な ニンゲン の カオ を みる と カレ の ココロ は すぐ ふてくされる の だった。 ヤイバ に はむかう ケモノ の よう に ステバチ に なって カレ は のさのさ と ずぬけて おおきな ゴタイ を ドマ に はこんで いった。 ツマ は おずおず と ト を しめて コガイ に たって いた、 アカンボウ の なく の も わすれはてる ほど に キ を テントウ させて。
 コエ を かけた の は 30 ゼンゴ の、 メ の するどい、 クチヒゲ の フニアイ な、 ナガガオ の オトコ だった。 ノウミン の アイダ で ナガガオ の オトコ を みる の は、 ブタ の ナカ で ウマ の カオ を みる よう な もの だった。 カレ の ココロ は キンチョウ しながら も その オトコ の カオ を めずらしげ に みいらない わけ には ゆかなかった。 カレ は ジギ ヒトツ しなかった。
 アカンボウ が くびりころされそう に ト の ソト で なきたてた。 カレ は それ にも キ を とられて いた。
 アガリガマチ に コシ を かけて いた もう ヒトリ の オトコ は やや しばらく カレ の カオ を みつめて いた が、 ナニワブシ カタリ の よう な ミョウ に ハリ の ある コエ で とつぜん クチ を きった。
「オヌシ は カワモリ さん の ユカリ の モノ じゃ ない ん かの。 どうやら カオ が にとる じゃ が」
 コンド は カレ の ヘンジ も またず に ナガガオ の オトコ の ほう を むいて、
「チョウバ さん にも カワモリ から はないた はず じゃ がの。 ヌシ が の チスジ を イワタ が アト に いれて もらいたい いうて な」
 また カレ の ほう を むいて、
「そう じゃろ がの」
 それ に ちがいなかった。 しかし カレ は その オトコ を みる と ムシズ が はしった。 それ も ヒャクショウ に めずらしい ながい カオ の オトコ で、 はげあがった ヒタイ から ヒダリ の ハンメン に かけて ヤケド の アト が てらてら と ひかり、 シタマブタ が あかく ベッカンコ を して いた。 そして クチビル が カミ の よう に うすかった。
 チョウバ と よばれた オトコ は その こと なら のみこめた と いう ふう に、 ときどき ウワメ で にらみにらみ、 イロイロ な こと を カレ に ききただした。 そして チョウバヅクエ の ナカ から、 ミノガミ に こまごま と カツジ を すった ショルイ を だして、 それ に ヒロオカ ニンエモン と いう カレ の ナ と ウマレコキョウ と を キニュウ して、 よく よんで から ハン を おせ と いって 2 ツウ つきだした。 ニンエモン (これから カレ と いう カワリ に ニンエモン と よぼう) は もとより アキメクラ だった が、 ノウジョウ でも ギョバ でも コウザン でも メシ を くう ため には そういう カミ の ハシ に メクラバン を おさなければ ならない と いう こと は こころえて いた。 カレ は ハラガケ の ドンブリ の ナカ を さぐりまわして ぼろぼろ の カミ の カタマリ を つかみだした。 そして タケノコ の カワ を はぐ よう に イクマイ も の カミ を はがす と マックロ に なった サンモンバン が ころがりでた。 カレ は それ に イキ を ふきかけて ショウショ に アナ の あく ほど おしつけた。 そして わたされた 1 マイ を ハン と イッショ に ドンブリ の ソコ に しまって しまった。 これ だけ の こと で メシ の タネ に ありつける の は ありがたい こと だった。 コガイ では アカンボウ が まだ なきやんで いなかった。
「オラ ゼニコ イチモン も もたねえ から ちょっぴり かりたい だ が」
 アカンボウ の こと を おもう と、 キュウ に コゼニ が ほしく なって、 カレ が こう いいだす と、 チョウバ は あきれた よう に カレ の カオ を みつめた、 ――コイツ は バカ な ツラ を して いる くせ に ユダン の ならない ヨコガミヤブリ だ と おもいながら。 そして ジムショ では カネ の カリカシ は いっさい しない から エンジャ に なる カワモリ から でも かりる が いい し、 コンヤ は なにしろ そこ に いって とめて もらえ と チュウイ した。 ニンエモン は もう ムカッパラ を たてて しまって いた。 だまりこくって でて ゆこう と する と、 そこ に いあわせた オトコ が イッショ に いって やる から まて と とめた。 そう いわれて みる と カレ は ジブン の コヤ が どこ に ある の か を しらなかった。
「それじゃ チョウバ さん なにぶん よろしゅう たのむ がに、 あんばいよう オヤカタ の ほう にも いうて な。 ヒロオカ さん、 それじゃ いく べえ かの。 なんと まあ ヤヤ の いたましく さかぶ ぞい。 じゃ まあ おやすみ」
 カレ は キヨウ に コゴシ を かがめて ふるい テサゲカバン と ボウシ と を とりあげた。 スソ を からげて ホウヘイ の フルグツ を はいて いる ヨウス は コサクニン と いう より も ザッコクヤ の サヤトリ だった。
 ト を あけて ソト に でる と ジムショ の ボンボンドケイ が 6 ジ を うった。 びゅうびゅう と カゼ は ふきつのって いた。 アカンボウ の なく の に こうじはてて ツマ は ぽつり と さびしそう に トウキビガラ の ユキガコイ の カゲ に たって いた。
 アシバ が わるい から キ を つけろ と いいながら かの オトコ は サキ に たって コクドウ から アゼミチ に はいって いった。
 オオナミ の よう な ウネリ を みせた シュウカクゴ の ハタチ は、 ひろく とおく こうりょう と して ひろがって いた。 メ を さえぎる もの は ハ を おとした ボウフウリン の ほそながい コダチ だけ だった。 ぎらぎら と またたく ムスウ の ホシ は ソラ の ジ を ことさら さむく くらい もの に して いた。 ニンエモン を アンナイ した オトコ は カサイ と いう コサクニン で、 テンリキョウ の セワニン も して いる の だ と いって きかせたり した。
 7 チョウ も 8 チョウ も あるいた と おもう のに アカンボウ は まだ なきやまなかった。 くびりころされそう な ナキゴエ が ハンキョウ も なく カゼ に ふきちぎられて とおく ながれて いった。
 やがて アゼミチ が フタツ に なる ところ で カサイ は たちどまった。
「この ミチ を な、 こう いく と ヒダリテ に さえて コヤ が みえよう がの。 な」
 ニンエモン は くろい チヘイセン を すかして みながら、 ミミ に テ を おきそえて カサイ の コトバ を ききもらすまい と した。 それほど さむい カゼ は はげしい オト で つのって いた。 カサイ は くどくど と そこ に ゆきつく チュウイ を くりかえして、 シマイ に カネ が いる なら カワモリ の ホショウ で すこし ぐらい は ユウズウ する と つけくわえる の を わすれなかった。 しかし ニンエモン は コヤ の ショザイ が しれる と アト は きいて いなかった。 ウエ と サムサ が ひしひし と こたえだして がたがた ミ を ふるわしながら、 アイサツ ヒトツ せず に さっさと わかれて あるきだした。
 トウキビガラ と イタドリ の クキ で カコイ を した 2 ケン ハン シホウ ほど の コヤ が、 マエノメリ に かしいで、 クラゲ の よう な ひくい コウバイ の コヤマ の ハンプク に たって いた。 モノ の すえた ニオイ と ツミゴエ の ニオイ が ほしいまま に ただよって いた。 コヤ の ナカ には どんな ヤジュウ が ひそんで いる かも しれない よう な キミワルサ が あった。 アカンボウ の なきつづける クラヤミ の ナカ で ニンエモン が ウマノセ から どすん と おもい もの を ジメン に おろす オト が した。 ヤセウマ は ニ が かるく なる と ウッセキ した イカリ を イチジ に ぶちまける よう に いなないた。 はるか の トオク で それ に こたえた ウマ が あった。 アト は カゼ だけ が ふきすさんだ。
 フウフ は かじかんだ テ で ニモツ を さげながら コヤ に はいった。 ながく ヒノケ は たえて いて も、 フキサラシ から はいる と さすが に キモチ よく あたたかかった。 フタリ は マックラ な ナカ を テサグリ で アリアワセ の フルムシロ や ワラ を よせあつめて どっかと コシ を すえた。 ツマ は おおきな タメイキ を して セ の ニ と イッショ に アカンボウ を おろして ムネ に だきとった。 チブサ を あてがって みた が チチ は かれて いた。 アカンボウ は かたく なりかかった ハグキ で いや と いう ほど それ を かんだ。 そして なきつのった。
「クサレニガ! タタラ くいちぎる に」
 ツマ は ケンドン に こう いって、 フトコロ から シオセンベイ を 3 マイ だして、 ぽりぽり と かみくだいて は アカンボウ の クチ に あてがった。
「オラ が にも くせ」
 いきなり ニンエモン が エンピ を のばして ノコリ を うばいとろう と した。 フタリ は だまった まま で ホンキ に あらそった。 たべる もの と いって は 3 マイ の センベイ しか ない の だ から。
「タワケ」
 はきだす よう に オット が こう いった とき ショウブ は きまって いた。 ツマ は あらそいまけて ダイブブン を リャクダツ されて しまった。 フタリ は また おしだまって ヤミ の ナカ で たしない ショクモツ を むさぼりくった。 しかし それ は けっきょく ショクヨク を そそる ナカダチ に なる ばかり だった。 フタリ は くいおわって から イクド も カタズ を のんだ が ヒダネ の ない ところ では カボチャ を にる こと も できなかった。 アカンボウ は ナキヅカレ に つかれて ほっぽりだされた まま に いつのまにか ねいって いた。
 いしずまって みる と スキマ もる カゼ は ヤイバ の よう に するどく きりこんで きて いた。 フタリ は もうしあわせた よう に リョウホウ から ちかづいて、 アカンボウ を アイダ に いれて、 ダキネ を しながら ワラ の ナカ で がつがつ と ふるえて いた。 しかし やがて ヒロウ は スベテ を セイフク した。 シ の よう な ネムリ が 3 ニン を おそった。
 エンリョ エシャク も なく ハヤテ は ヤマ と ノ と を こめて ふきすさんだ。 ウルシ の よう な ヤミ が タイガ の ごとく ヒガシ へ ヒガシ へ と ながれた。 マッカリ ヌプリ の ゼッテン の ユキ だけ が リンコウ を はなって かすか に ひかって いた。 あらくれた おおきな シゼン だけ が そこ に よみがえった。
 こうして ニンエモン フウフ は、 どこ から とも なく K ムラ に あらわれでて、 マツカワ ノウジョウ の コサクニン に なった。

カイン の マツエイ 2

2015-11-08 | アリシマ タケオ
 2

 ニンエモン の コヤ から 1 チョウ ほど はなれて、 K ムラ から クッチャン に かよう ミチゾイ に、 サトウ ヨジュウ と いう コサクニン の コヤ が あった。 ヨジュウ と いう オトコ は コガラ で カオイロ も あおく、 ナンネン たって も トシ を とらない で、 ハタラキ も かいなそう に みえた が、 コドモ の おおい こと だけ は ノウジョウ イチ だった。 あすこ の カカア は コダネ を ヨソ から もらって でも いる ん だろう と ノウジョウ の わかい モノ など が よる と ジョウダン を いいあった。 ニョウボウ と いう の は カラダ の がっしり した サケグライ の オンナ だった。 オオニンズウ な ため に かせいで も かせいで も ビンボウ して いる ので、 ダラシ の ない きたない フウ は して いた が、 その カオツキ は わりあい に ととのって いて、 フシギ に オトコ に せまる イントウ な イロ を たたえて いた。
 ニンエモン が この ノウジョウ に はいった ヨクアサ はやく、 ヨジュウ の ツマ は アワセ 1 マイ に ぼろぼろ の ソデナシ を きて、 イド ――と いって も ミソダル を うめた の に アカサビ の ういた ウワミズ が 4 ブンメ ほど たまってる―― の ところ で アネチョコ と いいならわされた ハクライ の ザッソウ の ネ に できる イモ を あらって いる と、 そこ に ヒトリ の オトコ が のそり と やって きた。 6 シャク ちかい セイ を すこし マエコゴミ に して、 エイヨウ の わるい ツチケイロ の カオ が マッスグ に カタ の ウエ に のって いた。 トウワク した ヤジュウ の よう で、 ドウジ に どこ か わるがしこい おおきな メ が ふとい マユ の シタ で ぎろぎろ と ひかって いた。 それ が ニンエモン だった。 カレ は ヨジュウ の ツマ を みる と ちょっと ほほえましい キブン に なって、
「オッカア、 ヒダネ べ あったら ちょっぴり わけて くれずに」
と いった。 ヨジュウ の ツマ は イヌ に であった ネコ の よう な テキイ と オチツキ を もって カレ を みた。 そして みつめた まま で だまって いた。
 ニンエモン は ヤニ の つまった おおきな メ を テノコウ で こどもらしく こすりながら、
「オラ あすこ の コヤ さ きた モン だ のし。 ホイト では ねえ だよ」
と いって にこにこ した。 ツミ の ない カオ に なった。 ヨジュウ の ツマ は だまって コヤ に ひきかえした が、 マックラ な コヤ の ナカ に ねみだれた コドモ を のりこえ のりこえ イロリ の ところ に いって ソダ を 1 ポン さげて でて きた。 ニンエモン は うけとる と、 クチ を ふくらまして それ を ふいた。 そして ナニ か ヒトコト フタコト はなしあって コヤ の ほう に かえって いった。
 この ヒ も ユウベ の カゼ は ふきおちて いなかった。 ソラ は スミ から スミ まで そこきみわるく はれわたって いた。 その ため に カゼ は ジメン に ばかり ふいて いる よう に みえた。 サトウ の ハタケ は とにかく アキオコシ を すまして いた のに、 それ に となった ニンエモン の ハタケ は みわたす かぎり カマドガエシ と ミズヒキ と アカザ と トビツカ と で ぼうぼう と して いた。 ひきのこされた ダイズ の カラ が カゼ に ふかれて ヒョウキン な オト を たてて いた。 あちこち に ひょろひょろ と たった シラカバ は おおかた ハ を ふるいおとして なよなよ と した しろい ミキ が カゼ に たわみながら ひかって いた。 コヤ の マエ の アマ を こいだ ところ だけ は、 コボレダネ から はえた ほそい クキ が あおい イロ を みせて いた。 アト は コヤ も ハタケ も シモ の ため に しらちゃけた にぶい キツネイロ だった。 ニンエモン の さびしい コヤ から は それでも やがて しろい スイエン が かすか に もれはじめた。 ヤネ から とも なく カコイ から とも なく ユゲ の よう に もれた。
 チョウショク を すます と フウフ は 10 ネン も マエ から すみなれて いる よう に、 ヘイキ な カオ で ハタケ に でかけて いった。 フタリ は シゴト の テハイ も きめず に はたらいた。 しかし、 フユ を メノマエ に ひかえて ナニ を サキ に すれば いい か を フタリ ながら ホンノウ の よう に しって いた。 ツマ は、 モヨウ も わからなく なった フロシキ を サンカク に おって ロシアジン の よう に ホオカムリ を して、 アカンボウ を セナカ に しょいこんで、 せっせと コエダ や ネッコ を ひろった。 ニンエモン は 1 ポン の クワ で 4 チョウ に あまる ハタケ の イチグウ から ほりおこしはじめた。 ホカ の コサクニン は ノラシゴト に カタ を つけて、 イマ は ユキガコイ を したり マキ を きったり して コヤ の マワリ で はたらいて いた から、 ハタケ の ナカ に たって いる の は ニンエモン フウフ だけ だった。 すこし たかい ところ から は どこまでも みわたされる ひろい ヘイタン な コウサクチ の ウエ で フタリ は ス に かえりそこねた 2 ヒキ の アリ の よう に きりきり と はたらいた。 はかない ロウリョク に クテン を うって、 クワ の サキ が ヒ の カゲン で ぎらっぎらっ と ひかった。 ツナミ の よう な オト を たてて カゼ の こもる シモガレ の ボウフウリン には カラス も いなかった。 あれはてた ハタケ に ミキリ を つけて サケ の ギョバ に でも うつって いって しまった の だろう。
 ヒル すこし まわった コロ ニンエモン の ハタケ に フタリ の オトコ が やって きた。 ヒトリ は ユウベ ジムショ に いた チョウバ だった。 いま ヒトリ は ニンエモン の エンジャ と いう カワモリ ジイサン だった。 メ を しょぼしょぼ させた イッテツ らしい カワモリ は ニンエモン の スガタ を みる と、 おこった らしい カオツキ を して ずかずか と その ソバ に よって いった。
「ワリャ ジギ ヒトツ しらねえ ヤツ の、 なんじょう いうて オラ が には きくさらぬ。 チョウバ さん のう しらして くさずば、 いつまでも シンヨウ も ねえ だった。 まずもって コヤ さ いぐ べし」
 3 ニン は コヤ に はいった。 イリグチ の ミギテ に ネワラ を しいた ウマ の イドコロ と、 カワイタ を 2~3 マイ ならべた コクモツ オキバ が あった。 ヒダリ の ほう には イリグチ の ホッタテバシラ から オク の ホッタテバシラ に かけて 1 ポン の マルタ を ツチ の ウエ に わたして ドマ に ムギワラ を しきならした その ウエ に、 ところどころ ムシロ が ひろげて あった。 その マンナカ に きられた イロリ には それでも マックロ に すすけた テツビン が かかって いて、 カボチャ の こびりついた カケワン が フタツ ミッツ ころがって いた。 カワモリ は はじいる ごとく、
「やばっちい ところ で」
と いいながら チョウバ を ロ の ヨコザ に しょうじた。
 そこ に ツマ も おずおず と はいって きて、 おそるおそる アタマ を さげた。 それ を みる と ニンエモン は ドマ に むけて かっと ツバ を はいた。 ウマ は びくん と して ミミ を たてた が、 やがて クビ を のばして その ニオイ を かいだ。
 チョウバ は ツマ の さしだす サユ の チャワン を うけ は した が そのまま のまず に ムシロ の ウエ に おいた。 そして むずかしい コトバ で ユウベ の ケイヤクショ の ナイヨウ を いいきかしはじめた。 コサクリョウ は 3 ネン ごと に カキカエ の 1 タンブ 2 エン 20 セン で ある こと、 タイノウ には ネン 2 ワリ 5 ブ の リシ を ふする こと、 ソンゼイ は コサク に わりあてる こと、 ニンエモン の コヤ は マエ の コサク から 15 エン で かって ある の だ から ライネンジュウ に ショウカン す べき こと、 サクアト は ウマオコシ して おく べき こと、 アマ は カシツケ チセキ の 5 ブン の 1 イジョウ つくって は ならぬ こと、 バクチ を して は ならぬ こと、 リンポ あいたすけねば ならぬ こと、 ホウサク にも コサクリョウ は ワリマシ を せぬ カワリ どんな キョウサク でも ワリビキ は きんずる こと、 ジョウシュ に ジキソ-がましい こと を して は ならぬ こと、 リャクダツ ノウギョウ を して は ならぬ こと、 それから ウンヌン、 それから ウンヌン。
 ニンエモン は いわれる こと が よく のみこめ は しなかった が、 ハラ の ナカ では クソ を くらえ と おもいながら、 イマ まで はたらいて いた ハタケ を キ に して イリグチ から ながめて いた。
「オマエ は ウマ を もってる くせ に なんだって ウマオコシ を しねえ だ。 イクンチ も なく ユキ に なる だに」
 チョウバ は チュウショウロン から ジッサイロン に きりこんで いった。
「ウマ は ある が、 プラオ が ねえ だ」
 ニンエモン は ハナ の サキ で あしらった。
「かりれば いい で ねえ か」
「ゼニコ が ねえ かん な」
 カイワ は ぷつん と とぎれて しまった。 チョウバ は 2 ド の カイケン で この ヤバンジン を どう とりあつかわねば ならぬ か を のみこんだ と おもった。 メン と むかって ラチ の あく ヤツ では ない。 うっかり ニョウボウ に でも アイソ を みせれば オオゴト に なる。
「まあ シンボウ して やる が いい。 ここ の オヤカタ は ハコダテ の マルモチ で モノ の わかった ヒト だ かん な」
 そう いって コヤ を でて いった。 ニンエモン も オモテ に でて チョウバ の ゲンキ そう な ウシロスガタ を みおくった。 カワモリ は サイフ から 50 セン ギンカ を だして それ を ツマ の テ に わたした。 なにしろ チョウバ に ツケトドケ を して おかない と バンジ に ソン が いく から コンヤ にも サケ を かって アイサツ に いく が いい し、 プラオ なら ジブン の ところ の もの を かして やる と いって いた。 ニンエモン は カワモリ の コトバ を ききながら チョウバ の スガタ を みまもって いた が、 やがて それ が サトウ の コヤ に きえる と、 とつぜん ばからしい ほど ふかい シット が アタマ を おそって きた。 カレ は かっと ノド を からして タン を ジベタ に いや と いう ほど はきつけた。
 フウフ きり に なる と フタリ は また ベツベツ に なって せっせと はたらきだした。 ヒ が かたむきはじめる と サムサ は ひとしお に つのって きた。 アセ に なった トコロドコロ は こおる よう に つめたかった。 ニンエモン は しかし ゲンキ だった。 カレ の マックラ な アタマ の ナカ の イチダン たかい ところ とも おぼしい アタリ に 50 セン ギンカ が まんまるく ひかって どうしても はなれなかった。 カレ は クワ を うごかしながら マユ を しかめて それ を はらいおとそう と こころみた。 しかし いくら こころみて も ひかった ギンカ が おちない の を しる と バカ の よう に にったり と ヒトリワライ を もらして いた。
 コンブダケ の イッカク には ユウガタ に なる と また ヒトムラ の クモ が わいて、 それ を めがけて ヒ が しずんで いった。
 ニンエモン は ジブン の たがやした ハタケ の ヒロサ を ひとわたり マンゾク そう に みやって コヤ に かえった。 てばしこく クワ を あらい、 バリョウ を つくった。 そして ハチマキ の シタ に にじんだ アセ を ソデグチ で ぬぐって、 スイジ に かかった ツマ に サッキ の 50 セン ギンカ を もとめた。 ツマ が それ を わたす まで には 2~3 ド ヨコツラ を なぐられねば ならなかった。 ニンエモン は やがて ぶらり と コヤ を でた。 ツマ は ヒトリ で さびしく ユウメシ を くった。 ニンエモン は イッペン の ギンカ を ハラガケ の ドンブリ に いれて みたり、 だして みたり、 オヤユビ で ソラ に はじきあげたり しながら シガイチ の ほう に でかけて いった。
 9 ジ ――9 ジ と いえば ノウジョウ では ヨフケ だ―― を すぎて から ニンエモン は いい サカキゲン で とつぜん サトウ の トグチ に あらわれた。 サトウ の ツマ も バンシャク に よいしれて いた。 ヨジュウ と テイザ に なって 3 ニン は イロリ を かこんで また のみながら うちとけた バカバナシ を した。 ニンエモン が ジブン の コヤ に ついた とき には 11 ジ を すぎて いた。 ツマ は もえかすれる イロリビ に セ を むけて、 ワタ の はみでた フトン を カシワ に きて ぐっすり ねこんで いた。 ニンエモン は イタズラモノ-らしく よろけながら ちかよって わっ と いって のりかかる よう に ツマ を だきすくめた。 おどろいて メ を さました ツマ は しかし わらい も しなかった。 サワギ に アカンボウ が メ を さました。 ツマ が だきあげよう と する と、 ニンエモン は さえぎりとめて ツマ を ヨコダキ に だきすくめて しまった。
「そうれ まんだ キモ べ やける か。 こう めんこがられて も キモ べ やける か。 めんこい ケダモノ ぞい ワレ は。 みずに。 いんまに な オラ ワレ に キヌ の イショウ べ きせて こす ぞ。 チョウバ の ワロ (カレ は トコロ きらわず ツバ を はいた) が ネゴト べ こく ヒマ に、 オラ オヤカタ と ヒザ つきあわして はなして みせる かん な。 コケ め。 オラ が こと ダレ しる もん で。 ワリャ めんこい ぞ。 しんから めんこい ぞ。 よし。 よし。 ワリャ これ きらい で なかん べさ」
と いいながら フトコロ から ヘギ に つつんだ ダイフク を とりだして、 その ヒトツ を ぐちゃぐちゃ に おしつぶして イキ の つまる ほど ツマ の クチ に あてがって いた。

 3

 カラカゼ の イクニチ も ふきぬいた アゲク に クモ が アオゾラ を かきみだしはじめた。 ミゾレ と ヒ の ヒカリ と が おいつ おわれつ して、 やがて どこ から とも なく ユキ が ふる よう に なった。 ニンエモン の ハタケ は そう なる まで に イチブブン しか すきおこされなかった けれども、 それでも アキマキ コムギ を まきつける だけ の チセキ は できた。 ツマ の キンロウ の おかげ で ヒトフユ ブン の ネンリョウ にも さしつかえない ジュンビ は できた。 ただ こまる の は ショクリョウ だった。 ウマノセ に つんで きた だけ では イクニチ ブン の タシ にも ならなかった。 ニンエモン は ある ヒ ウマ を シガイチ に ひいて いって うりとばした。 そして ムギ と アワ と ダイズ と を かなり たかい ソウバ で かって かえらねば ならなかった。 ウマ が ない ので バシャオイ にも なれず、 カレ は イグイ を して ユキ が すこし かたく なる まで ぼんやり と すごして いた。
 ネユキ に なる と カレ は サイシ を のこして キコリ に でかけた。 マッカリ ヌプリ の フモト の ハライサゲ カンリン に はいりこんで カレ は ホネミ を おしまず はたらいた。 ユキ が とけかかる と カレ は イワナイ に でて ニシンバ カセギ を した。 そして ヤマ の ユキ が とけて しまう コロ に、 カレ は ユキヤケ と シオヤケ で マックロ に なって かえって きた。 カレ の フトコロ は じゅうぶん おもかった。 ニンエモン は ノウジョウ に かえる と すぐ たくましい 1 トウ の ウマ と、 プラオ と、 ハーロー と、 ヒツヨウ な タネ を かいととのえた。 カレ は マイニチ マイニチ コヤ の マエ に ニオウダチ に なって、 5 カゲツ-カン つもりかさなった ユキ の とけた ため に ウミホウダイ に うんだ ハタケ から、 めぐみぶかい ヒ の ヒカリ に てらされて スイジョウキ の もうもう と たちのぼる サマ を まちどおしげ に ながめやった。 マッカリ ヌプリ は マイニチ ムラサキイロ に あたたかく かすんだ。 ハヤシ の ナカ の ユキ の ムラギエ の アイダ には フクジュソウ の クキ が まず ミドリ を つけた。 ツグミ と シジュウカラ と が カレエダ を わたって しめやか な ササナキ を つたえはじめた。 くさる べき もの は コノハ と いわず コヤ と いわず ぞんぶん に くさって いた。
 ニンエモン は メジ の カギリ に みえる コサクゴヤ の イクケン か を ながめやって クソ でも くらえ と おもった。 ミライ の ユメ が はっきり と アタマ に うかんだ。 3 ネン たった ノチ には カレ は ノウジョウ イチ の オオコサク だった。 5 ネン の ノチ には ちいさい ながら イッコ の ドクリツ した ノウミン だった。 10 ネン-メ には かなり ひろい ノウジョウ を ゆずりうけて いた。 その とき カレ は 37 だった。 ボウシ を かぶって ニジュウ マント を きた、 ゴム ナガグツ-バキ の カレ の スガタ が、 ジブン ながら こはずかしい よう に ソウゾウ された。
 とうとう タネマキドキ が きた。 ヤマカジ で やけた クマザサ の ハ が マックロ に こげて キセキ の ゴフ の よう に どこ から とも なく ふって くる タネマキドキ が きた。 ハタケ の ウエ は キュウ に カッキ-だった。 シガイチ にも タネモノショウ や ヒリョウショウ が はいりこんで、 たった 1 ケン の ゴケヤ から は ヨゴト に シャミセン の トオネ が ひびく よう に なった。
 ニンエモン は たくましい ウマ に、 とぎすました プラオ を つけて、 ハタケ に おりたった。 すきおこされる ドジョウ は テキド の シッケ を もって、 うらがえる に つれて むせる よう な ツチ の ニオイ を おくった。 それ が ニンエモン の チ に ぐんぐん と チカラ を おくって よこした。
 スベテ が ジュントウ に いった。 まいた タネ は ノビ を する よう に ずんずん おいそだった。 ニンエモン は アタリキンジョ の コサクニン に たいして フタコトメ には ケンカヅラ を みせた が 6 シャク ゆたか の カレ に たてつく モノ は ヒトリ も なかった。 サトウ なんぞ は カレ の スガタ を みる と こそこそ と スガタ を かくした。 「それ 『まだ か』 が きおった ぞ」 と いって ヒトビト は カレ を おそれはばかった。 もう カオ が ありそう な もの だ と みあげて も、 まだ カオ は その ウエ の ほう に ある と いう ので、 ヒトビト は カレ を 「まだ か」 と アダナ して いた の だ。
 ときどき サトウ の ツマ と カレ との カンケイ が、 ヒトビト の ウワサ に のぼる よう に なった。

 イチニチ はたらきくらす と さすが ロウドウ に なれきった ノウミン たち も、 メ の まわる よう な この キセツ の イソガシサ に つかれはてて、 ユウメシ も そこそこ に ねこんで しまった が、 ニンエモン ばかり は ヒ が いって も テ が かゆくて シヨウ が なかった。 カレ は ホシ の ヒカリ を タヨリ に ヤジュウ の よう に ハタケ の ナカ で はたらきまわった。 ユウメシ は イロリ の ヒ の ヒカリ で そこそこ に したためた。 そうして は ぶらり と コヤ を でた。 そして ノウジョウ の チンジュ の ヤシロ の ソバ の コサクニン シュウカイジョ で オンナ と あった。
 チンジュ は こだかい ミツジュリン の ナカ に あった。 ある バン ニンエモン は そこ で オンナ を まちあわして いた。 カゼ も ふかず アメ も ふらず、 オト の ない ヨル だった。 オンナ の キヨウ は おもいのほか はやい こと も ハラ の たつ ほど おそい こと も あった。 ニンエモン は だだっぴろい タテモノ の イリグチ の ところ で ヒザ を だきながら ミミ を そばだてて いた。
 エダ に のこった カレハ が ワカメ に せきたてられて、 ときどき かさっと チ に おちた。 ビロード の よう に なめらか な クウキ は うごかない まま に カレ を いたわる よう に おしつつんだ。 あらくれた カレ の シンケイ も それ を かんじない わけ には ゆかなかった。 ものなつかしい よう な なごやか な ココロ が カレ の ムネ にも わいて きた。 カレ は ヤミ の ナカ で フシギ な ゲンカク に おちいりながら あわく ほほえんだ。
 アシオト が きこえた。 カレ の シンケイ は イチジ に むらだった。 しかし やがて カレ の マエ に たった の は たしか に オンナ の カタチ では なかった。
「ダレ だ ワリャ」
 ひくかった けれども ヤミ を すかして メ を すえた カレ の コエ は イカリ に ふるえて いた。
「オヌシ こそ ダレ だ と おもうたら ヒロオカ さん じゃ な。 なんしに イマドキ こない な ところ に いる の ぞい」
 ニンエモン は コエ の ヌシ が カサイ の シコクザル め だ と しる と かっと なった。 カサイ は ノウジョウ イチ の モノシリ で マルモチ だ。 それ だけ で カンシャク の タネ には ジュウブン だ。 カレ は いきなり カサイ に とびかかって ムナグラ を ひっつかんだ。 かーっ と いって だした ツバ を あぶなく その カオ に はきつけよう と した。
 コノゴロ フロウニン が でて マイバン シュウカイジョ に あつまって タキビ なぞ を する から ヨウジン が わるい、 と ヒトビト が いう ので ジンジャ の セワヤク を して いた カサイ は、 おどかしつける つもり で ミマワリ に きた の だった。 カレ は もとより カシ の ボウ ぐらい の ミジタク は して いた が、 アイテ が 「まだ か」 では クチ も きけない ほど ちぢんで しまった。
「ワリャ オラ が アイビキ の ジャマ べ こく キ だな、 オラ が する こと に ワレ が テダシ は いんねえ だ。 クビネッコ べ ひんぬかれんな」
 カレ の コトバ は せきあげる イキ の アイダ に おしひしゃげられて がらがら ふるえて いた。
「そりゃ ジャスイ じゃ がな オヌシ」
と カサイ は クチバヤ に そこ に きあわせた シサイ と、 ちょうど いい キカイ だ から おりいって たのむ こと が ある ムネ を いいだした。 ニンエモン は ヒゲ して でた カサイ に ちょっと キョウミ を かんじて ムナグラ から テ を はなして、 シキイ に コシ を すえた。 クラヤミ の ナカ でも、 カサイ が メ を きょとん と させて ヤケド の ほう の ハンメン を ヒラテ で なでまわして いる の が ソウゾウ された。 そして やがて コシ を おろして、 イマ まで の アワテカタ にも にず ゆうゆう と タバコイレ を だして マッチ を すった。 おりいって たのむ と いった の は コサク イチドウ の ジヌシ に たいする クジョウ に ついて で あった。 1 タンブ 2 エン 20 セン の ハタケ-ダイ は この チホウ に ない タカソウバ で ある のに、 どんな キョウネン でも ワリビキ を しない ため に、 コサク は ヒトリ と して シャッキン を して いない モノ は ない。 カネ では とれない と みる と チョウバ は タチケ の うち に オウシュウ して しまう。 したがって シガイチ の ショウニン から は メ の とびでる よう な ウワマエ を はねられて クイシロ を かわねば ならぬ。 だから コンド ジヌシ が きたら イチドウ で ぜひとも コサクリョウ の ネサゲ を ヨウキュウ する の だ。 カサイ は その ソウダイ に なって いる の だ が ヒトリ では こころぼそい から ニンエモン も でて チカラ に なって くれ と いう の で あった。
「コケ な こと こくな てえば。 2 リョウ 2 カン が ナニ たかい べ。 ワレタチ が ホネップシ は かせぐ よう には つくって ねえ の か。 オヤカタ には ハンモン の カリ も した オボエ は ねえ から な、 オラ その クジ には のんねえ だ。 ワレ まず オヤカタ に べ なって み べし。 ここ の が より も ヨク に かかる べえ に。 ……ゲイ も ねえ こん に めんこく も ねえ ツラ つんだすな てば」
 ニンエモン は また カサイ の てかてか した カオ に ツバ を はきかけたい ショウドウ に さいなまれた が、 ガマン して それ を イタノマ に はきすてた。
「そう まあ イチガイ には いう もん で ない ぞい」
「イチガイ に いった が なじょう わるい だ。 いね。 いね べし」
「そう いえど ヒロオカ さん……」
「ワリャ ゲンコ こと くらいてい が か」
 オンナ を まちうけて いる ニンエモン に とって は、 この ジャマモノ の ナガイ して いる の が いまいましい ので、 コトバ も シウチ も だんだん あららか に なった。
 シュウチャク の つよい カサイ も たたなければ ならなく なった。 その バ を とりつくろう セジ を いって おこった フウ も みせず に サカ を おりて いった。 ミチ の フタマタ に なった ところ で ヒダリ に ゆこう と する と、 ヤミ を すかして いた ニンエモン は ほえる よう に 「ミギ さ いく だ」 と ゲンメイ した。 カサイ は それ にも そむかなかった。 ヒダリ の ミチ を とおって オンナ が かよって くる の だ。
 ニンエモン は また ヒトリ に なって ヤミ の ナカ に うずくまった。 カレ は イキドオリ に ぶるぶる ふるえて いた。 あいにく オンナ の キヨウ が おそかった。 おこった カレ には ガマン が でききらなかった。 オンナ の コヤ に あばれこむ イキオイ で たちあがる と カレ は ハクチュウ ダイドウ を ゆく よう な アシドリ で、 ヤブミチ を ぐんぐん あるいて いった。 ふと ある ボサ の ところ で カレ は ヤジュウ の ビンカンサ を もって モノ の ケハイ を かぎしった。 カレ は はたと たちどまって その オク を すかして みた。 しんと した ヨル の シズカサ の ナカ で からかう よう な みだら な オンナ の ヒソミワライ が きこえた。 ジャマ の はいった の を けどって オンナ は そこ に かくれて いた の だ。 かぎなれた オンナ の ニオイ が ハナ を おそった と ニンエモン は おもった。
「ヨツアシ め が」
 サケビ と ともに カレ は ボサ の ナカ に とびこんだ。 とげとげ する ショッカン が、 ねる とき の ホカ ぬいだ こと の ない ワラジ の ソコ に フタアシ ミアシ かんじられた と おもう と、 ヨアシ-メ は やわらかい むっちり した ニクタイ を ふみつけた。 カレ は おもわず その アシ の チカラ を ぬこう と した が、 ドウジ に キョウボウ な ショウドウ に かられて、 マンシン の オモミ を それ に たくした。
「いたい」
 それ が ききたかった の だ。 カレ の ニクタイ は イチド に アブラ を そそぎかけられて、 そそりたつ チ の キオイ に メ が くるめいた。 カレ は いきなり オンナ に とびかかって、 トコロ きらわず なぐったり アシゲ に したり した。 オンナ は いたい と いいつづけながら も カレ に からまりついた。 そして かみついた。 カレ は とうとう オンナ を だきすくめて ドウロ に でた。 オンナ は カレ の カオ に するどく のびた ツメ を たてて のがれよう と した。 フタリ は いがみあう イヌ の よう に くみあって たおれた。 たおれながら あらそった。 カレ は とうとう オンナ を とりにがした。 はねおきて おい に かかる と イチモクサン に にげた と おもった オンナ は、 ハンタイ に だきついて きた。 フタリ は たがいに ジョウ に たえかねて また なぐったり ひっかいたり した。 カレ は オンナ の タブサ を つかんで ミチ の ウエ を ずるずる ひっぱって いった。 シュウカイジョ に きた とき は フタリ とも キズダラケ に なって いた。 ウチョウテン に なった オンナ は イッカイ の ヒ の ニク と なって ぶるぶる ふるえながら ユカ の ウエ に ぶったおれて いた。 カレ は ヤミ の ナカ に つったちながら やく よう な コウフン の ため に よろめいた。