カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ヨウネン ジダイ 2

2014-08-23 | ムロウ サイセイ
 5

 9 サイ の フユ、 チチ が しんだ。
 アサ から ふりつもった はげしい ユキ は、 もう ワタシ が かけつけた コロ は シャクヨ に たっして いた。 チチ の カラダ は シラギヌ の ヌノ で おおわれて いた。 その ウエ に リッパ な ヒトコシ が どっしり と アクマヨケ に のせられて あった。 チチ は ロウスイ で 2~3 ニチ の ガショウ で ねむる よう に いった。
 オソウシキ の ヒ は、 やはり ユキ が ちらちら ふって いた。 ハハ と イッショ に だかれる よう に クルマ に のった。 トチュウ ユキ が タイヘン で、 ギョウレツ が おくれがち で あった。
 ワタシ は それから は ヒジョウ な インキ な ヒ を おくって いた。 チチ の あいして いた シロ と いう イヌ が、 いつも ワタシ の ソバ へ ふらふら やって きた。 ケナミ の つやつやしい ジュンパク な イヌ で あった。
 ある ヒ、 ワタシ は ジッカ へ ゆく と ごたごた して いて、 オオゼイ の ヒト が でたり はいったり して いた。 ハハ は ワタシ に オトウサン の オトウト さん が エッチュウ から きた の だ と いって いた。 4~5 ニチ する と ハハ が いなく なって、 みしらない ヒト ばかり いた。 ハハ は おいだされた の で あった。
 ハハ は ワタシ にも ワカレ の コトバ も いう ヒマ も なかった の か、 それきり ワタシ は あえなかった。 ハハ は チチ の コマヅカイ だった ので、 チチ の オトウト が おいだした こと が わかった。 ワタシ は あの ひろい ニワ や ハタケ を ニド と みる こと が できなかった。 いつも チャノマ で ナガヒバチ で むかいあって はなした ジョウヒン な おとなしい ハハ は どこ へ いった の だろう。 ワタシ は ハハ にも アネ にも だまって いた。 ハハ は その こと を クチ へも ださなかった。 ワタシ は ヒマ さえ あれば、 シロ を つれて マチ を あるいて いた。
「シロ! こい」
 チチ が なくなって から、 ねむる ところ も ない この あわれ な イキモノ は、 ナンピト より も ワタシ を すいて いた らしかった。 ワタシ は この イキモノ と イッショ に いる と、 なにかしら チチ や ハハ に ついて、 ひきつづいた カンジョウ や、 コトバ の ハシバシ を かんじえられる の で あった。 ワタシ は どこ か で ハハ に あい は せぬ か と、 ちいさい ココロ を いためながら、 ある とき は ずっと トオク の マチ まで あるきまわる の で あった。 ハハ と おなじい トシゴロ の オンナ に あう と、 ワタシ は はしって いって カオ を のぞきこむ の で あった。 ワタシ の この むなしい ドリョク は いつも はたされなかった。
 アネ は よく ワタシ の この ココロモチ を しって いた。 アネ は もう ヨメ には ゆかなかった。 いつも カジ の ヒマヒマ には ヘヤ に いて しずか に ハリシゴト で ヒ を くらして いた。 そして ワタシ が ひっそり と オクニワ へ いれて おいた シロ に、 ゴハン を やったり して くれた。 シロ は もう ワタシ の イエ を はなれなかった。 ワタシ は よく ニワ へ でて シロ と すわって、 ふかい カンガエゴト を して いたり して いた。 ワタシ は だんだん こどもらしく ない、 むっちり と した、 だまった コドモ に なった。
 シロ の こと で よく ハハ から コゴト が でた。
「そんな イヌ なぞ どう する の。 あっち い はなして いらっしゃい」 と よく いわれた もの だ。
 ワタシ は、 わざと はなし に ゆく よう に みせて カワラ へ など いって あそんで いた。
「シロ! いけ」
 けしかける と シロ は タイガイ の イヌ を まかした。 ワタシ は そうして ジカン を つぶして かえって きて、
「はなして きました」 と ホウコク して おいた。
 その とき は もう シロ は オクニワ に はいって まるまる と ねて いた。 ハハ は こまって いた が、 ワタシ が ああした ウソ を つく こと を しらなかった。 シマイ には、 デイリ の ダイク に たのんで ハハ は はなさせた が、 やっぱり かえって きた。 そんな とき、 ワタシ は うれしかった。
「ミチ を わすれない で かえって こい。 きっと こい」
 ワタシ は ダイク が もって ゆく とき に、 ココロ の ナカ で つぶやく の で あった。
 アネ は、
「あんな に なついた ん だ から おいて やったら どう でしょう」 と ハハ に いったり した。
「でも オサト の イヌ だし、 なんだか キミ が わるくて ね」 と いって いた。 そして ワタシ には、
「あんまり シロ シロ って かわいがる から ウチ から ソト へ いかない ん だよ」 と、 コゴト を いって いた。
 けれども ワタシ は シロ を あいして いた。
 ある さむい ユキ の バンガタ の こと で あった。 ワタシ は だんだん くれしずんで ユキ が あおく なって みえる モン の マエ で、 いつまでも やむ こと の ない キタグニ の ながい コウセツキ を ココロ で いといながら、 あの なんとも いわれない さびしい オト と いう オト の はたと やんだ しずか な マチ を、 さむげ に コシ を まげて ちぢんだ よう に ゆく オウライ の ヒト を ながめて いた。 キンザイ の ヒト で あろう。 ミナ いそがしげ に、 しかも オト の ない ユキミチ を ゆく の を えも いわれず さびしく みおくって いた。 どの ヒト を みて も やせて さむげ で あった。
 ワタシ は ふと キ が つく と、 シロ が ぐったり うなだれて、 しかも ミミ から センケツ を しろい ケナミ の アタリ に、 いたいたしく ながしながら かえって くる の を みた。 ワタシ は かっと なった。
「シロ! ダレ に やられた の だ」
 ワタシ は この あわれ な ドウブツ に ほとんど ソウゾウ する こと の できない ほど の ふかい アイ を かんじた。 そして この ミミ を かんだ アイテ の イヌ に むくいなければ ならなかった。
「シロ! いけ。 どこ で やられた の だ」
 ワタシ は シロ と ともに むやみ に コウフン して、 シロ の きた ほう の ミチ を はしった。 シロ は たかく ほえて ワタシ より サキ に はしった。
 シロ は ウラマチ の ある イエ の モン の ところ で、 キュウ に うなりだした。 モン の ナカ から クロシロ の ハンテン の ある おおきな イヌ が とびだした。 シロ は ワタシ と いう カセイ に ゲンキ-づけられた ため に、 いきなり とびついた。 けれども シロ は ちいさかった ため に アオムケ に くみしかれた。 シロ は ヒメイ を あげた。 ワタシ は もう ガマン が できなかった。 いきなり ゲタ を ぬぐ と ユキ の ナカ を スアシ に なって、 ウエ に のりかかって いる シロ の テキ を めちゃくちゃ に ひっぱたいた。 テキ は ヒメイ を あげた。 シロ は その スキ に おきあがって カンゼン に テキ を くみしいて かみついた。
「シロ。 しっかり やれ。 ボク が ついて いる」
 ワタシ は ツメタサ も しらない で ユキ の ウエ を とんとん ふんだ。 シロ は かった。
 そこ へ モン の ナカ から ワタシ とは 2 キュウ ウエ の ショウネン が でて きた。 そして コンド は ジブン の イヌ に けしかけた。
「ナマイキ いうな。 キサマ の イヌ より ボク の ヤツ は つよい ん だ」
 ワタシ は カレ の マエ へ とびかかる よう に すすんだ。
「そんな きたない イヌ が つよい もん か」
 カレ は マッサオ に なって いった。
「イヌ より キミ の ほう が あぶない よ。 ウチ へ はいって いた ほう が いい よ」
「ちいさな くせ に ナマイキ を いうな」
「もう イチド いえ」
 こう ワタシ は いって おいて、 いきなり トクイ の クミウチ を やった。 ワタシ は カレ の セ を リョウテ で しっかり だいて、 くるり と、 コシ に かけて ユキ の ウエ に なげつけた。 そして ワタシ は ウマノリ に なって ジブン で どれだけ なぐった か おぼえない ほど なぐった。 ワタシ は ケンカ は はやかった。 そして ヒジョウ な ビンカツ な、 イナズマ の よう に やって しまう の が トクイ で あった。
 ワタシ は ゲタ を はいて シロ と かえりかけた。 やっと おきあがった カレ は、 「おぼえて いろ」 と いった。 ワタシ は レイショウ して かえった。 ワタシ は それから ミチ で シロ を なでて やった。 そして 「まけたら かえるな」 と いって きかせた。
 ある ヒ、 ガッコウ から の カエリミチ の こと で あった。 ウラマチ の ヘイ の ところ に ジョウキュウセイ らしい ワタシ とは おおきい ショウネン が 3 ニン かたまって、 ワタシ の ほう を むいて ささやきあって いた。 キ が つく と、 コノアイダ の イヌ の ケンカ の とき の ジョウキュウセイ が まじって いた。 ワタシ は チョッカクテキ に マチブセ を くって いる こと を しった。 ワタシ は すぐ カバン の カワヒモ を といて、 サキ の ほう を かたく むすんだ。 ワタシ の ヨウイ は、 カレラ の マエ に まで あるいて ゆく うち に ととのって いた。
 レイ の ショウネン は いきなり ワタシ の マエ に たちふさがった。
「コノアイダ の こと を おぼえて いる か!」
 カレ は イッポ マエ へ すすんだ。
「おぼえて いる。 それ が どうした の だ。 シカエシ を する キ か」
 カレ は いきなり とびつこう と した。 ワタシ の ふった カワヒモ は ひゅう と カゼ を きって、 カレ の コウノウ を たたいた。 カレ は ふらふら と した。 その とき まで だまって いた カレ の トモダチ が ミギ と ヒダリ と から とびつこう と した。 ワタシ は また カワヒモ を ならした。 その スキ に ワタシ は アシ を けりあげられた。 ヒザザラ が しびれた。 ワタシ は たおれた。 そして ワタシ は めちゃくちゃ に たたかれた。 ワタシ は カレラ が さった アト で メマイ が して、 やっと イエ へ かえった。 しかし ヨクジツ は もう ゲンキ に なって いた。
 ガッコウ の ベンジョ で キノウ の ナカマ の ヒトリ に あった。 ワタシ は コエ をも かけず に その ジョウキュウセイ を ウシロ から はりつけて おいて、 シックイ の ウエ へ なげとばした。
 カエリ に レイ の ジョウキュウセイ が 5~6 ケン サキ へ ゆく の を よびとめる と カレ は にげだした。 ワタシ は すぐさま テゴロ な コイシ を ひろった。 ツブテ は カレ の クルブシ に あたった。 カレ は たおれた。 ワタシ は カレ を その サキ の ヒ の よう に なぐった。 タクサン の ガクユウ ら は ワタシラ を とりまいて いた が、 ダレ も テダシ を しなかった。 それほど ワタシ は ミナ から ケイエン されて いた。 ワタシ は カレ を シリメ に かけて さった。
 ワタシ は しかし そういう ケンカ を した ヒ は さびしかった。 かって アイテ を ひどい メ に あわせれば あわす ほど ワタシ は ジブン の ナカ の ランボウ な ショウブン を コウカイ した。 して は ならない と かんがえて いて も、 いつも ガイブ から ワタシ の キケンセイ が さそいだされる ごと に、 ワタシ は テイコウ しがたい ジブン の ショウブン の ため に、 いつも さびしい コウカイ の ココロ に なる の で あった。
 ワタシ の そうした ランザツ な、 たえず フクシュウシン に もえた ねづよい イチメン は、 オオク の ガクユウ から キケン-がられて いた のみ ならず、 ヒジョウ に おそれられて いた ので、 したしい トモダチ とて は なかった。 ワタシ は ヒトリ で いる とき、 ガイブ から ワタシ を うごかす もの の いない とき、 ワタシ は よわい カンジョウテキ な ショウネン に なって、 いつも アネ に まつわりついて いた。
「オマエ が まあ ケンカ なんか して つよい の。 おかしい わね」
 アネ は、 よく キンジョ の ショウネン ら の オヤモト から、 ワタシ に ひどい メ に あった クジョウ を もちこまれた とき に、 わらって しんじなかった。 アネ の マエ では、 やさしい アネ の セイジョウ の ハンシャ サヨウ の よう に おとなしく、 むしろ ナキムシ の ほう で あった。 ワタシ が ガクユウ から ヒトリ はなれて カエリミチ を いそぐ とき は、 いつも アネ の カオ や コトバ を もとめながら イエ に つく の で あった。 アネ なし に ワタシ の ショウネン と して の セイカツ は つづけられなかった かも しれない。

 6

 ウシロ の サイカワ は ミズ の うつくしい、 トウキョウ の スミダガワ ほど の ハバ の ある カワ で あった。 ワタシ は よく カワラ へ でて いって、 アユツリ など を した もの で あった。 マイトシ 6 ガツ の ワカバ が やや クラミ を おび、 ヤマヤマ の スガタ が クサキ の ハンモ する に したがって どことなく ぼうぼう と して ふくれて くる コロ、 チカク の ソンラク から キュウリウリ の やって くる コロ には、 ちいさな セ や、 ジャリ で ひたした セガシラ に、 セナカ に くろい ホクロ の ある サアユ が のぼって きた。
 サアユ は あの アキ の カリ の よう に ただしく、 かわいげ な ギョウレツ を つくって のぼって くる の が レイ に なって いた。 わずか な ヒトゴエ が ミズ の ウエ に おちて も、 この ビンカン な ヒョウカン な サカナ は、 ハナ の ちる よう に レツ を みだす の で あった。
 ワタシ は この クニ の ショウネン が ミナ やる よう に、 ちいさな ビク を コシ に むすんで、 イクホン も むすびつけた ケバリ を ジョウリュウ から カリュウ へ と、 たえまなく ながしたり して いた。 アユ は よく つれた。 ちいさな やつ が かかって は サオ の センタン が シンケイテキ に ぴりぴり ふるえた。 その フルエ が テサキ まで つたわる と、 コンド は あまり の ヨロコバシサ に ココロ が おどる の で あった。
 セ は たえず ざあざあー と ながれて、 うつくしい セナミ の タカマリ を ワタシタチ ツリビト の メ に そそがす。 そこ へ ケバリ を ながす と、 あの ちいさい やつ が スイメン に まで とびあがって、 ケバリ に むれる の で あった。 ことに ヒノクレ に なる と よく つれた。 ミズ の ウエ が くれのこった ソラ の アカリ に やっと みわける こと の できる コロ、 ワタシ は ほとんど ビク を いっぱい に する まで、 よく つりあげる の で あった。
 カワ に ついて ワタシ は ヒトツ の ハナシ を もって いた。
 それ は ワタシ が ツリ を し に でた ヒ は、 アメツヅキ の アゲク ゾウスイ した アト で あった。 あの ゾウスイ の とき に よく みる よう に、 ジョウリュウ から ながされた オブツ が いっぱい ジャカゴ に かかって いた。 ワタシ は そこ で 1 タイ の ジゾウ を みつけた。 それ は 1 シャク ほど も ある、 かなり おもい イシ の あおく ミズゴケ の はえた ジゾウソン で あった。 ワタシ は それ を ニワ に はこんだ。 そして アンズ の キ の カゲ に、 よく マチハズレ の ロボウ で みる よう な コイシ の ダイザ を こしらえて その ウエ に チンザ させた。
 ワタシ は その ダイザ の マワリ に イロイロ な クサバナ を うえたり、 ハナヅツ を つくったり、 ニワ の カジツ を そなえたり した。 マイツキ 20 ヨッカ の サイジツ を アネ から おしえられて から、 その ヒ は、 ジブン の コヅカイ から イロイロ な クモツ を かって きて そなえて いた。
「まあ オマエ は シンジンカ ね」
 アネ も また あかい キレ で コロモ を ぬって、 ジゾウ の カタ に まきつけたり、 ちいさな ズキン を つくったり して、 イシ の アタマ に かぶせたり した。 ワタシ は いつも この ひろって きた ジゾウサン に、 イロイロ な こと を して あげる と いう こと が、 けっして わるい こと で ない こと を しって いた。 ことに、 ジゾウサン は イシ の ハシ に されて も ニンゲン を すくう もの だ と いう こと をも しって いた。 ワタシ は この ヘイボン な、 イシコロ ドウヨウ な もの の ナカ に、 なにかしら うたがう こと の できない シュウキョウテキ カンカク が ソンザイ して いる よう に しんじて いた。
「きっと いい こと が ある わ。 オマエ の よう に シンセツ に して あげる と ね」
 アネ は マイニチ の よう に ハナ を かえたり、 ソウジ を したり して いる ワタシ を ほめて くれて いた。 ワタシ は うれしかった。 こうした キ の カゲ に、 ジブン の ジユウ に つくりあげた ちいさな ジイン が、 だんだん に ヒ を へる に したがって、 コヤガケ が できたり、 ちいさな チョウチン が さげられたり する の は、 なんとも いえない、 ただ それ は いい ココロモチ で あった。 なにかしら ジブン の ショウガイ を として むくいられて くる よう な、 ある ヨゲンテキ なる もの を かんじる の で あった。 ワタシ は マイアサ、 センメン して しまう と レイハイ し に いった。 ときとすると、 アグラ を かいた オヒザ の ところ に おおきな ヨツユ が しっとり と タマ を つづけて いたり して いた。 その ツギ に アネ が いつも つつましげ に オマイリ を し に きた。
 ことに ヨル は シンゲン な キ が した。 コノハ の ササヤキ や、 ソラ の ホシ の ヒカリ など の イッサイ を とりまとめた カンカク が、 ちょくせつ ジゾウサン を スウハイ する ワタシ の ココロ を きわめて たかく ゲンシュク に した。 ワタシ は そこ で、 おおきく なったら えらい ヒト に なる よう に ネットウ する の で あった。
 フシギ な こと は、 この ジゾウサン を タイセツ に して から は、 よく アリ など が ジゾウサン の カラダ を はって いる の を みる と、 これまで とは ベツヨウ な とくに ジゾウサン の イシ を ついで いる よう な もの に さえ おもわれた。 カタツムリ に して も やっぱり この シンブツ の キ を うけて いる よう に かんじた。 ワタシ は だんだん ジゾウサン の フキン に ソンザイ する コンチュウ を ころす こと を しなく なった。 それ が だんだん ちょうじて ガイロ でも イキモノ を ふむ こと が なく、 ムエキ に セイメイ を とらなく なって いた。
「オマエ くらい ヘン な ヒト は ない。 しかし オマエ は ベツ な ところ が ある ヒト だ」
 ハハ も ワタシ の シゴト に サンセイ して いた。
「しばらく なら ダレ でも やる もの だ が、 あの コ の よう に ネッシン に する コ は ない」
 ワタシ は それら の サンタン に かかわらず、 ときとして は こんな に して これ が ナニ に なる とか、 イマ すぐ ジブン に むくいられる とか いう こと を かんがえなかった。 ワタシ は この ちいさな ジイン の コンリュウ に、 イロイロ な ウツワモノ の まして ゆく ところ に、 ジブン の ココロ が だんだん はなれない こと を しって いた。 ことに ワタシ が カワ から ひろって きた こと が、 ハハ など が すぐ ダイク を よんで リッパ な オドウ を たてたら と いいだす ごと に、 ひどく ハンタイ させた。 いまさら ハハ の チカラ を かりなく とも、 ワタシ は ワタシ イッコ の チカラ で これ を まつりたい と おもって いた。 ワタシ は ワタシ の シンブツ と して これ を ニワ の イチグウ に おきたかった。 タレビト の ユビ の ふれる の をも このまなかった。
 リンカ に アメヤ が あった。 そこ の ヨネ ちゃん と いう コ は ニワ が なかった。 ワタシ は その ショウネン を よく ニワ へ いれて あそんだ。 ワタシ は この トモダチ と カワラ から イシ を はこんだり、 スナ を もちこんだり した。 ワタシ は だんだん オオジカケ に たてて いった。 ヒトツ の もの が ふえれば、 もっと ベツ な シンセイ な もの が ほしく なって きた。 ワタシ は マチ へ でて サンポウ や ウツワモノ や ハナヅツ や ショクダイ を あがなって きた。
 アネ は マイニチ ゴハン の オクモツ を した。 ワタシ は ながい ニワ の シキイシ を つたわりながら、 アサ の すずしい キ の カゲ に しろい ユゲ の あがる オクマイ を ささげて きて くれる の を みる と、 ワタシ は なみだぐみたい ほど うれしく こうごうしく さえ かんじた。
「ネエサン。 ありがとう」
 ワタシ は あつく カンシャ した。 ワタシ の イロイロ な シゴト を みて いる アネ は、 いつも きよい うつくしい メ を して いた。 「ネエサン の メ は なんて ケサ は きれい なん だろう」 と ココロ で かんじながら、 ワタシ は ハナ を かえたり して いた。
 ワタシ は ますます ひどく ヒトリボッチ に なった。 ガッコウ へ いって いて も、 ミンナ が バカ の よう に なって みえた。 「アイツラ は ワタシ の よう な シゴト を して いない。 シンコウ を しらない」 と、 ミンナ とは トクベツ な セカイ に もっと ベツヨウ な クウキ を すって いる モノ の よう に おもって いた。 センセイ を ソンケイ する ココロ には もとより なって いなかった。 あの ひどい ショウガイ わすれる こと の できない メ に あって から の ワタシ は、 いつも れいぜん と した コウマン の ウチ に、 タエマ も ない ニンニク に しいたげられた あの ヒ を メノマエ に して、 ココロ を くだいて ベンキョウ して いた。 ワタシ が セイジン した ノチ に ワタシ が うけた より も スウバイ な おおきい クルシミ を カレラ に あたえて やろう。 カレラ の ゲンザイ とは もっと ウエ に くらいした スベテ の テン に ユウエツ した ショウリシャ に なって みかえして やろう と かんがえて いた。
 ワタシ は あの イジ の わるい ガクユウ ら は、 もはや ワタシ の モンダイ では なくなって いた。 ぜんぜん、 あの ケンカ や コゼリアイ が ばかばかしい のみ ならず、 その アイテ を して いる こと が もはや ワタシ に フユカイ で あった。
 メイジ 33 ネン の ナツ、 ワタシ は 11 サイ に なって いた。

 7

 ワタシ の ハハ が チチ の シゴ、 なぜ あわただしい ツイホウ の ため に ユクエ フメイ に なった の か。 しかも ダレヒトリ と して その ユクエ を しる モノ が なかった の か と いう こと は、 ワタシ には 3 ネン-ゴ には もう わかって いた。 あの エッチュウ から こして きた チチ の オトウト なる ヒト が、 ワタシ の ハハ が たんに コマヅカイ で あった と いう リユウ から、 ほとんど 1 マイ の キモノ も モチモノ も あたえず に ツイホウ して しまった の で あった。 この みじめ な ココロ で どうして ワタシ に あう こと が できたろう か。 カノジョ は もはや サイアイ の ワタシ にも あわない で、 しかも タレビト にも しらさず に、 しかも その セイシ さえ も わからなかった の で ある。
 ワタシ は ハハ を もとめた。 ワタシ が あの ちいさな ジイン コンリュウ の ジッコウ や ケッシン や シゴト の ヒマヒマ には、 いつも ユクエ の しれない ハハ の ため に、 「どうか コウフク で ケンコウ で いらっしゃいます よう に」 と いのった の で あった。 この ゼンセカイ に とって は ヤド の なかった あの かなしい ハハ の キノウ に くらべて かわりはてた スガタ は、 どんな に くるしかった だろう と、 ワタシ は じっと ソラ を みつめて は ないて いた。 ワタシ が もっと セイジン して ゼンセカイ を ムコウ に まわして も、 ワタシ の ハハ の カナシミ クルシミ を とむらう ため には、 ワタシ は ミ を コ に して も かまわない と さえ おもって いた。 ワタシ は ハハ を おいだした と いう チチ の オトウト らしい ヒト に ウラマチ で あった とき、 ワタシ は イッシュ の キョウキテキ な ふかい エンコン の ため に おどりかかろう と さえ おもった の で あった。 ワタシ が あの とき、 その オトウト の ヒト を ころそう と さえ ニチヤ クウソウ した こと は、 けっして ウソ では なかった。 ワタシ は ただ カレ を にらんだ。 その ナカ に ワタシ は スベテ の フクザツ な カンジョウ の ゲキド に よって、 のろわる べく あたいせられた ゲヒ な ニンゲン を ゾウオ した。
 ワタシ が あの いたみやすい メ を して、 どんな に ハハ の ヨウボウ を えがいて それ と かたる こと と クウソウ する こと を タノシミ に して いた か! ワタシ は ヒト の ない ニワ や マチナカ で、 コゴエ で ハハ の ナ を よぶ こと さえ あった。 しかも エイキュウ に あう こと の できない ハハ の ナ を――。
 ワタシ は 「そう だ。 ニンゲン は けっして フタリ の ハハ を もつ リユウ は ない」 と かんがえて いた。 そんな とき、 ゲンザイ の ハハ を いまいましく つめたく にくんだ。 ワタシ は イッポウ には すまない と おもいながら、 それら の シネン に りょうされる とき、 ワタシ は リユウ なく ハハ に つめたい ヒトミ を かわした の で あった。
「ネエサン。 ボク の ハハ は――」
 ワタシ は ときどき いった もの だ。 アネ は オモイヤリ の ふかい メ で、 そんな とき、 いつも する よう に ワタシ を やさしく だきながら、
「どこ か で シアワセ に なって いらっしゃいます よ。 そんな こと を これから いわない で ちょうだい」 と いって くれた。
「どこ なん だ」
 ワタシ は すぐに はげしく コウフン した。 ナニモノ にも たえがたい ゲキド は、 ハハ の こと に なる と もっとも シンライ して いた アネ に まで およんだ。
「そんな こわい カオ を して は いや」
「ボク の カオ は こわい ん だ」
 ワタシ は アネ から はなれた。 こんな とき は、 アネ でも ワタシ の ココロ を しって くれない よう に、 なまぬるい カンジ の モト に イカリ を かんじた。 もう ネエサン なんぞ は いて も いなくて も、 また、 あいして くれて も くれなくて も いい と さえ おもって いた。 セカイジュウ が ワタシ を フコウ に する よう に おもって、 ワタシ は ますます ふかく おこる の で あった。
「ネエサン に ボク の ココロ が わかる もの か」
 ワタシ は すぐ オモテ へ かけだす の で あった。 たった ヒトリ の トモ で ある もの から はなれて、 ヒトリ ウラマチ や アキチ など を あるいて いた ワタシ には、 キ や その ミドリ も ジンカ も ベツ な もの に おもわれた。 なにもかも つめたく かなしかった。
 そんな とき は、 なんにも いわない シロ が ついて きた。 そして カレ が みな わかって いる よう な かなしい カオ を して いた。 ――ワタシ は ハハ と あの ひろい ニワ へ でて チャツミ を したり、 ニワ で チチ と 3 ニン で オカシ を たべたり した こと が おもいだされた。 ショカ の カゼ は いつも ワカバ の ニオイ を まぜて ふいて いた。 ワタシ は ちいさな カオ を かしげる よう に して、 チチ と ハハ の カオ を ハンブン ずつ に ながめて いた。 ヘダタリ の ない スベテ の シンミツサ が ワタシタチ オヤコ の ウエ に あった。 そんな とき、 シロ も ソバ の クサ の ナカ に ねむって いた。
「オマエ は いったい セイジン して ナニ に なる か」
 チチ は よく エガオ で たずねた。
 ワタシ は だまって にこにこ して いた。
「さあ、 この コ は かんがえる こと が ジョウズ だ から きっと センセイ に でも なる かも しれない。 ――ね。 オマエ そう おもわない かい」 と ハハ は いった。
「ボク ナニ に なる か わからない ん だ。 ナニ か こう えらい ヒト に なりたい なあ」
 ワタシ は ホントウ に ナニ に なって いい か わからなかった。
「そう だ。 ともかくも えらい ニンゲン に なれ。 その ココロガケ が いちばん いい ん だ」
「そう ね。 それ が いい」 と ハハ も いった。
 ワタシ も モクテキ の ない ばくぜん と した イシ の モト に、 ともかくも 「えらい ヒト」 に なりたい と おもって いた。 しかし グンジン の きらい だった ワタシ は、 それ イガイ に えらい ヒト に なりたい と おもって いた。
「さあ。 もうすこし で つんで しまえる ん だ から、 やって しまおう」
「ええ」
 こうして チチ と ハハ とは チャバタケ の ナカ へ、 あの うつくしい かんばしい ワカメ を つみ に いった。 ワタシ は ヒトリ で キ の カゲ に シロ と ふざけて いた――。
 ワタシ は この ヘイワ な ココロ を イマ あるきながら かんじた。 そして、 イマ スベテ が なくなって いた。 ワタシ は なにもかも なくなって いた。 ワタシ は ゲンキ-づいて サキ を はしって ゆく シロ を かなしそう に みた。 「あれ だけ が いきて いる。 あれ が みな しって いる」 と おもった。 「あれ が もし ハナシ が できたら、 よく ワタシ を なぐさめて くれる に ちがいない」 と おもった。
 ワタシ は まわりあるいて コウガイ の ジケイイン の マエ に でた。 そこ には、 オヤ の ない コ が タクサン に あつまって いた。 ちょうど、 ウチ の シゴト の とき らしく、 ヒトリ の カントク に つれられて、 マッチ の ボウ を ヨシズ に ならべて ニッコウ に ほして いた。 ワタシ と おなじ トシゴロ の ショウネン ら は、 ミナ キソク ただしい てなれた ハコビカタ を して、 ヒトツカミ ずつ ス の ウエ に ボウ を ならべて いた。 ボウ の サキ には ヤクヒン が くろく ぬられて あった。
 ワタシ は しずか に ながめて いた。 ミナ ケッショク が わるくて あおい むくんだ よう な カオ を して いた。 「ワタシ と おなじい オヤ の ない ショウネン だ。 ワタシ も ああして はたらかなければ ならなかった の だ。 ワタシ に ああいう こと が できる だろう か」 と かんがえた。 あの つめたそう な カントク の カオ が ワタシ には フカイ で あった。 そして、 この インナイ から におうて くる イッシュ の ハキケ を もよおす シュウキ は たまらない ほど、 ワタシ の ムネ を むかむか させた。 「ワタシ が ここ へ きて も ダメ だ。 ワタシ は ツイホウ される に きまって いる」 そして ワタシ の ゆく ところ は やはり イマ の カテイ より ホカ には ない の だ。
 この あわれ な ショウネン の ナカ に メ の おおきな あおい カオ を した、 しかし どこ か に ヒン の ある うつくしい カオ が メ に ついた。 ワタシ は なにごころなく この ショウネン に ひきつけられた。 ワタシ は じっと みつめた。 カレ も じっと みて いた。 ワタシ は カレ の なやんで いる の が わかる よう な キ が した。 よわい けれど たえず さびしそう に おおきく みはる クセ の ある メ、 ワタシ は この ショウネン と あそんで なぐさめて やりたい キ が した。 きっと この ショウネン は ワタシ と あそぶ こと を よろこぶ に ちがいない と おもった。 あの メ の ヒカリ は イマ ワタシ を もとめて いる の だ。 ワタシ と ハナシ する こと に あこがれて いる の だ。 ワタシ は メ で ビショウ した。 カレ も マッチ を ならべながら ビショウ した。 ワタシ の ビショウ が レイショウ に とられ は すまい か と フアン に おもった が、 カレ は、 そう わるく は とらなかった の が うれしかった。
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ヨウネン ジダイ 3

2014-08-07 | ムロウ サイセイ
 8

 ワタシ の ジゾウドウ は ヒ を へる に したがって リッパ に なった。 ワタシ は どこ へ あそび に ゆく と いう こと も せず に、 いつも ニワ へ でて いた。
 カキゴシ に トナリ の テラ に、 としとった オショウ さん が ニワソウジ を して いられる の が みえた。 ワタシ は テイネイ に アイサツ を した。 オショウ さん は カキ の ソバ へ やって きて いった。
「なかなか リッパ な オドウ が できました ね」
 ワタシ は ウラキド を あけて、
「はいって ゴラン なすって くださいまし」
「では ハイケン いたしましょう か」
 オショウ さん が はいって きた。 そして ドウ の ところ を みまわして、
「なかなか オジョウズ だ」 と いった。
 それから オショウ さん は タモト から ジュズ を だして、 ガッショウ しながら コゴエ で、 ジゾウキョウ を よみはじめた。 まるで かれきった しぶい コエ で うっとり する よう な うつくしい リズム を もった コエ で あった。 ワタシ は アト で、 この ジゾウサン を カワ から ひろいあげて きた こと など を はなした。
 オショウ さん は、 ジゾウサン の エンギ に ついて いろいろ はなして くれた。 ドウ の ところ に、 この コガラ な ボウサン は しゃがんで、 イロイロ な ハナシ を して くれた。
「ニンゲン は なんでも ジブン で よい と おもった こと は した ほう が よい。 よい と おもった こと に けっして わるい こと は ない」
 オショウ さん が かえる と、 ワタシ は ふと この ジゾウサン を テラ の ほう へ あげたい と おもった。 ワタシ は アネ に ソウダン した。
 アネ は すぐ サンセイ した。
「そりゃ いい わ。 あの オショウ さん は きっと およろこび に なる わ」
「じゃ ネエサン から オカアサン に いって ください」
「え。 イマ から いって あげる」
 アネ は ハハ に ソウダン した。 ハハ も それ が よい と いって くれた。 かえって、 ゾッカ に おく より も、 モト は カワ の ナカ に あった の だ から、 オテラ へ あげた ほう が よい と いう こと に なった。
 オショウ さん も よろこんで くれた。
 オテラ では キチジツ を えらんで クヨウ を して くれた。 ワタシ が セシュ で あった。 カワ の ナカ に すてられて あった ジゾウサン は、 イマ は リッパ な ミドウ の ナカ に、 しかも タクレイ まで そえられて まつりこまれた。 ワタシ は うれしかった。
 ワタシ は それ を キカイ と して オテラ へ あそび に ゆく よう に なった。 オショウ さん は コドモ が なかった ので、 ワタシ を むやみ に かわいがって くれた。 ワタシ が ガッコウ から の カエリ が おそい と、 よく ワタシ の イエ へ こられた。
「まだ かえりません かね」
 など と アネ に たずねて いた。
 そういう とき、 ワタシ は すぐに オテラ へ、 ガッコウ の ドウグ を なげだす と とんで いった。
「オショウ さん ただいま」
 ワタシ は オショウ さん の ロ の ヨコ へ すわった。
「よく きた の。 イマ ちょいと むかえ に いった ところ だった」
 オショウ さん は、 いろいろ カシ など を くれた。 それから ふるい カナ の ついた コウボウ ダイシ の シュイロ の ヒョウシ を した デンキ など を もらった。
 オショウ さん は やさしい ヒト で あった。 いつも ゼンリョウ な ビショウ を うかべて オチャ を のんだり、 コヨミ を くったり して いた。
 ワタシ は だんだん なれる と、 オク ノ イン の すずしい ショイン へ いって、 ガッコウ の ショモツ を よんだり、 または、 つい すずしい マギレ に うとうと と ショウネン-らしい みじかい イビキ を たてたり して いた。 オショウ さん は ワタシ の ワガママ を ゆるす ばかり で なく、 ココロ から ワタシ を あいして いる らしかった。
 ある ヒ の こと で あった。
「アンタ は ここ の オテラ の モノ に なる の は いや か」 と いった。
「きたって いい けれど、 ボウサン に なる の は いや です。 オショウ さん の コ に なる の なら いい けれど」
「ボウサン に ならなく とも よろしい。 では いや では ない ん だね」
「え。 よろこんで きます。 オカアサン が どう いう か しりません が」
「ワシ から オカアサン には おはなし する」
 この ハナシ が あって から、 ワタシ は ハハ に よばれた。 そして オテラ に いく キ か と たずねられた。 ワタシ は ぜひ いきたい と おもって いる と いった。 オテラ に ゆけば なにもかも ワタシ は ココロ から きよい、 そして、 あの フコウ な ハハ の ため にも こころひそか に いのれる と おもった から で ある。 ワタシ が オテラ に キキョ する と いう こと だけ でも、 ワタシ は ハハ に コウ を つくして いる よう な キ が する の で あった。
 ボウサン には しない ジョウケン で ワタシ は いよいよ テラ の ほう へ ヨウシ に ゆく こと に なった。 アネ は かなしんだ が、 すぐ リンカ だった ので、 いつでも あえる と いって あきらめた。
 ワタシ の キモノ や ショモツ は オテラ に はこばれた。 シキ も すんだ。 そして ワタシ は すずしい オテラ の オク ノ イン で セイカツ を する よう に なった。 ワタシ は テラ から ガッコウ へ かよって いた。
 ワタシ の メ に ふれた イロイロ な ブツゾウ や ブツガ、 アサユウ に なる タクレイ の おごそか な ネイロ、 それから そこここ に ともされた オトウミョウ など に、 これまで とは ベツ な きよまった ココロ に なる こと を かんじる の で あった。 しずか に ワタシ は ときどき アネ にも あった。
「まあ おとなしく なった のね」 と アネ は いって いた。
「アタシ オジゾウサマ に オマイリ に きた の。 アナタ も ゆかない」
「いきましょう」
 ワタシタチ キョウダイ は、 ケイダイ の ワタシ の ジゾウサン に オマイリ を した。 いつも あたらしい クモツ が あがって いて、 セイケツ で すがすがしかった。
「どこ か ボウサン みたい ね。 だんだん そんな キ が する の」
 アネ は いって わらった。
「そう かなあ。 やっぱり オテラ に いる から なん だね」
 ワタシタチ は ショイン へ かえる と、 チチ が でて きた。 あたらしい チチ は、 チャ と カシ と を はこばせた。
 ショイン は すぐ ホンドウ の ウラ に なって いた。
「そうして フタリ そろって いる と、 ワシ も コドモ の とき を おもいだす。 コドモ の とき は ナニ を みて も たのしい もの じゃ」
 チチ は こう いいながら オカシ を とって、
「さあ ひとつ あがりなさい」 と、 アネ に すすめた。
 ワタシタチ 3 ニン は、 ウシロ の カワ の ウエ を わたる カゼ に ふかれながら オチャ を のんだ。
「オトウサン は オチャ が たいへん すき なの」
 ワタシ は アネ に いった。 チチ は にこにこ して いた。

 9

 ワタシ の オテラ の セイカツ が だんだん なれる に したがって、 ワタシ は ココロ から のびやか に コウフク に くらして いた。
 ワタシ は ホンドウ へ いって みたり、 ホンドウ を かこう ロウカ の エマ を みたり、 イロイロ な キショウモン を ふうじこんだ ガク を みあげたり して いた。 ワタシ の ヘヤ は、 ワタシ の シズカサ と セイケツ と を このむ セイヘキ に よく かなって いて、 ニワ には ハラン が タクサン に しげって いた。 クリ には おおきな くらい エノキ の タイジュ が あって、 アキ も ふかく なる と、 コツブ な ミ が ヤネ の ウエ を たたいて おちた。
 オテラ には たえず オキャク が あった。 キャク は たいがい シンジャ で あった。 ドウネンパイ の コドモ を つれて きた ヒト は、 いつも ワタシ に ショウカイ した。 チチ は、 ワタシ を ジマン して いた。 その シンジャ の ヒトリ で、 シタマチ の ほう に アキナイ して いる イエ の ムスメ で オコウ さん と いう の が あった。
 その コ は オバアサン に つれられて くる と、 いきなり チチ に とりすがって、
「テル さん が いらしって――」 と いう の で あった。
「います。 さあ いって いらっしゃい」
 その オコウ さん は いつも ワタシ の ヘヤ へ とびこむ よう に はいって きた。 ココノツ に なった ばかり の ムスメ で あった。
 ワタシ は いつも エ を かかされて いた。
「もう 1 マイ かいて ください な」
 せがまれる と、 ワタシ は いつも まずい エ を かかなければ ならなかった。
「ネエサン を よんで いらっしゃい な。 イッショ に いきましょう か」
「そう しよう」
 ワタシタチ は ニワ の キド から、 ミツバ や ユキノシタ の はえて いる シキイシヅタイ に、 よく トナリ の ネエサン を よび に いった。 ネエサン と 3 ニン で いつも ニワ で あそぶ の で あった。
 カキ の ワカバ の カゲ は すずしい カゼ を とおして いて、 その ネモト へ しゃがんで はなす の で あった。 ワタシ は アネ と オコウ さん と に はさまれて いた。 アネ は いつも ワタシ の テ を いじくる クセ が あった。
「オテラ が いい? オウチ が いい?」
 など と アネ が たずねた。
「オテラ も オウチ も どっち も いい の。 でも リョウホウ に いる よう な キ が する の」
 ワタシ は じっさい そんな キ が して いた。 1 ニチ に イクド も いったり きたり して いた から。
「そう でしょう ね」
 アネ も ドウカン した。
「でも ね ネエサン。 バン は こわくて こまる の。 ダレ も おきて いない のに ホンドウ で スズ が なる ん だ もの。 オトウサン に きく と、 ネズミ が ふざけて シッポ で スズ を たたく ん だって――」
「まあ。 そう」
 オコウ さん が こわそう に いう。
 オコウ さん は、 ときどき おもしろい こと を いった。
「あのね、 ネエサン が おすき。 アタシ を おすき。 どっち なの」
 など と アネ を わらわせる こと が あった。
「ミンナ すき」
 など と 3 ニン は、 ホンドウ ウラ の ほう へ あそび に いった。 そこ は すぐ イシガキ の シタ が サイカワ に なって いて、 カエデ の ロウボク や イバラ が しげって いた。 ネエサン は、 おおきかった ので、 その ほそい あぶない ホンドウ ウラ へは ゆけなかった。
「あぶない から およしなさい」 と アネ は いった。 けれども ワタシ は そこ へは ゆかれる ジシン が あった。
「ワタシ も いく わ。 いかれて よ」
 オコウ さん が イバラ を わけて ゆこう と した。 アネ は びっくり した。
「いけません よ。 おちたら タイヘン だ から およしなさい」
 カチキ な オコウ さん は きかなかった。
「だいじょうぶ なの よ ネエサン」
 イシガキ の シタ は あおい フチ に なって、 その うずまいた スイメン は ながく みて いる と、 メマイ を かんじる ほど きみわるく どんより と、 まるで ソコ から ナニモノ か が いて ひきいれそう で あった。
 ワタシ も あぶない と おもった。
「いけない。 ここ へ きちゃ」
 カノジョ は カエデ の ネモト を つたって、 とうとう ホンドウ の ソクメン の ウラ へ でた。
「アタシ ヘイキ だわ。 あんな ところ は」
 ワタシ は カラダ が つめたく なる ほど おどろいた が、 アンガイ なので アンシン を した。
 ここ から アネ の いる ところ は みえなかった。 この ドウウラ には イロイロ な エマガク の こわれた の や、 チョウチン の やぶれた の や、 ツチセイ の テング の メン や、 オハナ の タバ や、 ふるい ホコリ で しろく なった ザイモク など が つまれて あった。
 つめたい くさった よう な オチバ の ニオイ が こもって いた。
「あのね。 サッキ の ね。 アタシ が すき か、 オネエサン が すき か どっち が すき か、 はっきり いって ちょうだい。 どっち も すき じゃ いや よ」
 ワタシ は びっくり して オコウ さん の カオ を みた。 オコウ さん は なきだしそう な ほど マジメ な カオ を して いた。 ちいさい ヒタイ に こまちゃくれた シワ を よせて、 ワタシ の カオ を あおぎみて いた。
「オコウ さん が すき だ。 ネエサン には ナイショ だよ」
「ホントウ」
「ホントウ なの」
「まあ うれしい。 アタシ キ に かかって シヨウ が なかった の」 と シンケイテキ に いう。
 ワタシ は オコウ さん と アネ とは ベツベツ に かんがえて いた。 オコウ さん には、 ネエサン と ことなった もの が あった。 つまり 「カワイサ」 が あって ネエサン には かえって 「カワイガラレタサ」 が あった。
「アタシ ね。 もう ずっと サキ から とおう と おもって いた の」
「そう。 じゃ オコウ さん は ボク の いちばん ナカヨシ に なって もらう ん だ。 いい の」
「いい わ。 いちばん ナカヨシ よ」
 その とき アネ の たかい コエ が して いた。 よんで いる らしかった。 ワタシ も オオゴエ で こたえた。
 ワタシタチ は たすけあって、 アネ の いる ところ へ いった。
「まあ ワタシ ホント に シンパイ した よ。 ナニ して いた の」
「エマ の ふるい の や、 テング の メン など どっさり あった の。 おもしろかった わ」 と、 オコウ さん が いった。
 ワタシ は すこし キマリ が わるかった。 アネ が なにもかも しって い は すまい か と いう フアン が、 ともすれば ワタシ の カオ を あからめよう と した。 けれども アネ は なにも しらなかった。
「ワタシ どう しよう か と おもって いた の。 これから あんな こわい とこ へ いかない で いて ちょうだい」 と アネ は ワタシ に いった。
「これから は いかない」 と ちかった。
「オコウ さん も よ」 と アネ は チュウイ した。
「ワタシ も いきません わ」 と ちかった。
 ワタシタチ は それから ミツバ を つみはじめた。 あの かんばしい ハル から ニバンメ の ミツバ は、 ニワ イチメン に はえて いた。
 アネ が カゴ を もって きた。
 ニワ は ひろく イロイロ な ウエコミ の ヒナタ の やわらかい チ には、 こんもり と ふとく こえた ミツバ が しげって いた。
「これ を テル さん の トウサン に あげましょう ね」 と アネ は オコウ さん に ソウダン した。
「そりゃ いい わ。 きっと およろこび なさる わ」
 3 ニン は 1 ジカン ばかり して、 おおきな カゴ に いっぱい ミツバ を つんだ。
 テラ の エンガワ では、 オコウ さん の オバアサン と チチ と が オチャ を のんで いた。
「こんにちわ」
 ワタシ は アイサツ を した。 オバアサン も アイサツ を した。
「これ を ね。 ミンナ して つみました の。 で もって きました」
「どうも ありがとう。 たいへん よい ミツバ です ね」 と チチ が いった。 オバアサン も ほめた。
 ワタシタチ は エンガワ で やすんだ。
 オバアサン が、
「ゴキョウダイ です ね。 たいへん よく にて いらっしゃる」 と いった。 チチ は、
「そう です」 と いった。
 ワタシ は アネ と カオ を みあわせて ビショウ した。 ジッサイ は ワタシ は アネ とは にて いなかった。 ベツベツ な ハハ を もって いる フタリ は、 にて いる ドウリ は なかった。 ワタシ は こんな とき、 いつも ひとしれず さびしい ココロ に なる の で あった。 フツウ の キョウダイ より も ナカ の むつまじい ワタシドモ に ことなった チ が ながれて いる か と おもう と、 アネ との アイダ を たちきられた よう な キ が する の で あった。
 オバアサン ら も かえった アト で、 ワタシ は ヒトリ で ヘヤ に こもって、 ひどく インキ に なって いた。 チチ は、
「カオ の イロ が よく ない が、 どうか した の かな」
「いえ。 なんでも ない ん です」
 と、 ワタシ は やはり 「ホント の キョウダイ で ない」 こと を かんがえこんで いた。 ヒトツヒトツ の ハナシ の ハシ にも、 ワタシ は いつも ココロ を さされる もの を かんじる ヨワサ を もって いた ため に、 ときどき ひどく めいりこむ の で あった。 ココロ は また あの ユクエ フメイ に なった ハハ を さぐりはじめた。 「いつ あえる だろう か」 「とても あえない だろう か」 と いう ココロ は、 いつも 「きっと あう とき が ある に ちがいない」 と いう はかない ノゾミ を もつ よう に なる の で あった。
 この テラ に きて から、 ワタシ は ジブン の ココロ が しだいに チチ の アイ や、 ジイン と いう ゼンセイシン の セイジョウサ に よって、 さびしかった けれど、 ワタシ の ホントウ の ココロ に ふれ なぐさめて くれる もの が あった。
 ワタシ は よく ふかく かんがえこんだ アゲク、 ヒト の みない とき、 チチ に かくれて ホンドウ に あがって ゆく の で あった。 くらい ナイジン は キン や ギン を ちりばめた ブツゾウ が くらい ナイブ の アカリ に、 または、 かすか な オトウミョウ の ヒカリ に おごそか に てらされて ある の を みた。 そして ワタシ は ながい アイダ ガッショウ して キガン して いた。 「もし ハハ が いきて いる ならば コウフク で いる よう に」 と いのって いた。 がらん と して おおきな おしつけて くる よう な ホンドウ の イチグウ に、 ワタシ は まるで 1 ピキ の アリ の よう に ちいさく すわって ガッショウ して いた。 ワタシ は ヒトビト の アソビザカリ の ショウネンキ を こうした カナシミ に とざされながら、 イチニチ イチニチ と おくって いた。

 10

 アキ に なる と ツガ の ミ が、 まるで マツカサ の よう に エダ の アイダ に はさまれて できた。 だんだん うれる と ちょうど トンビ の たって いる よう に なって、 1 マイ 1 マイ カゼ に ふかれる の で あった。 トオク は 4~5 チョウ も とびふかれた。
 それ を ひろう と まるで トンビ の カタチ した、 かわいた アカネイロ した おもしろい もの で あった。 ワタシ も よく ニワ へ でて ひろった もの だ。 アキ に なる と すぐに わかる の は、 ジョウリュウ の カワラ の クサムラ が アカネ に こげだして、 ホッポウ の ハクサン サンミャク が すぐに しろく なって みえた。
 テラ の ニワ には わく よう な コオロギ が、 どうか する と ゴゴ に でも ないて いた。 ある ヒ、 ワタシ は ホンドウ の カイダン に こしかけて ぼんやり ムシ を きいて いた。 モン から アネ が はいって きた。
「ナニ して いる の。 ぼんやり して」
 アネ は いそいそ して いた。 ナニ か コウフン して いる らしかった。
「なんだか さびしく なって ぼんやり して いる ん だ。 ほら、 ひいひい と ムシ が ないて いる だろう」
「そう ね。 ムシ は オヒル まで も なく ん だね」
 アネ も カイダン に コシ を かけた。
 ふいと オシロイ の ニオイ が した。 いつも、 オシロイ など つけない アネ には めずらしい こと だ と おもった。
「アタシ ね。 また オヨメ に ゆく かも しれない の」
 ワタシ は びっくり した。
「どこ へ ゆく ん です」
「よく わからない ん だ けれど、 オカアサン が きめて しまった ん だ から、 ゆかなければ ならない わ」
「その ヒト を しって いる の」
「しらない――」
「しらない ヒト の とこ へ ゆく なんて おかしい なあ。 いつか ネエサン が もって いた テガミ の ヒト だろう」
「いいえ」
 アネ は あかい カオ を した。 そして キュウ に コエ まで が かわった。
「アタシ ゆきたく ない ん だ けれど……」
 アネ は だまって なみだぐんだ。 キ の よわい ユウジュウ な アネ の こと だ から、 きっと、 ハハ の いう ところ なら どういう ところ へ でも ゆく に ちがいない。 そして ワタシ ヒトリ に なって しまう の は なんと いう さびしい こと だろう。
「いや だったら オカアサン に ことわったら いい でしょう。 いや だ って――」
「そんな こと アタシ には いえない の。 どうでも いい わ」
 アネ は なげる よう に いう。
 ワタシ は アネ が かわいそう に なった。
「ボク が いって あげよう か。 ネエサン は ゆく こと が いや だ って――」
「そんな こと いっちゃ いや よ。 ホントウ に いわない で ください。 アタシ かえって しかられる から」
「じゃ やっぱり ゆきたい ん だろう」
 ワタシ は ねたましい よう な、 はらだたしく キミジカ に こう いう と、 ネエサン は いや な カオ を した。
「アナタ まで いじめる のね。 アタシ、 ゆきたく ない って あんな に いって いる じゃ ない の」
「だって いや じゃ ない ん でしょう」 と、 きりこむ と、
「シカタ が ない わ。 みな ウン だわ」
 ワタシ は だまった。 いや だ けれど ゆく と いう、 はっきり しない アネ の ココロ を どう する こと も できなかった。
「じゃ ゆく のね」
「たいがい ね」
 ワタシ は テラ の ロウカ ヤネゴシ に オシンメイサン の ケヤキ の モリ を ながめて いた。 アネ が いって しまって は、 トモダチ の ない ワタシ は どんな に ハナシアイテ に フジユウ する のみ では なく、 どんな に がっかり して マイニチ ふさぎこんだ さびしい ヒ を おくらなければ ならない だろう。 アネ は ワタシ に とって ハハ で あり チチ でも あった。 ワタシ の タマシイ を なぐさめて くれる ヒトリ の ニクシン でも あった の だ。
 ワタシ は そっと アネ の ヨコガオ を みた。 ホツレゲ の なびいた しろい クビ―― ワタシ が ナナツ の コロ から マイニチ じつの オトウト の よう に あいして くれた ん だ。
「でも ね。 ときどき アナタ には あい に きて よ」
「ボク の ほう から だ と いけない かしら」
「きたって いい わ。 あえれば いい でしょう。 きっと あえる わね」
 ワタシ は カイダン を おりて、 ニワ へ でた。 アネ は トナリ へ かえった。
 ワタシ は ショイン へ かえる と、 チチ には だまって おいた。 ワタシ は ショウネン セカイ を ひらいたり よんだり して いた が、 アネ が いまにも ゆきそう な キ が して ならなかった。 ワタシ は ニワ へ でた。 みる もの が みな かなしく、 ウラガレ の シタバ を そよがせて いた ばかり で なく、 カワ から ふく カゼ が しみて さむかった。
 ザシキ から チチ が、
「キョウ は さむい から カゼ を ひく と いけない から ウチ へ はいって おいで」 と いった。
 シンセツ な チチ の コトバドオリ に ウチ へ はいった。
 ワタシ は だんだん ジブン の したしい もの が、 この セカイ から とられて ゆく の を かんじた。 シマイ に タマシイ まで が ハダカ に される よう な サムサ を イマ は ジブン の スベテ の カンカク に さえ かんじて いた。
 4~5 ニチ して アネ の ゆく こと が ケッテイ した。
 その ヒ の ゴゴ、 アネ は ハレギ を きて ハハ と ともに 2 ダイ の クルマ に のった。
 ワタシ は ゲンカン で じっと アネ の カオ を みた。 アネ は こい ケショウ の ため に みちがえる ほど うつくしかった。 そわそわ と ココロ も チュウ に ある よう に コウフン して いた。
「ちょいと きて――」 と アネ は よんだ。
 ワタシ は クルマ チカク へ いった。
「その うち に あい に きます から まって いて ください な。 それから おとなしく して ね」
 アネ は なみだぐんだ。
「では いって いらっしゃい」
 ワタシ は やっと これ だけ の こと が いえた。 ムネ も ココロ も なにかしら おしつけられた よう な いっぱい な カナシミ に せまられて いた。
「では さよなら」
 いいかわす と、 クルマ が うごいた。 ハジメ は しずか に うごいて、 コンド は クルマ の ワ が はげしく まわりだした。 アネ は ふりかえった。 クルマ が だんだん ちいさく なって、 ふいと ヨコチョウ へ まがった。 ワタシ は それ を ながく ながく みつめて いた。 ヨコチョウ へ まがって しまった のに、 まだ クルマ が はしって いる よう な ゲンエイ が、 ワタシ を して ながく たたせた。 ワタシ は なみだぐんだ。 あの やさしい アネ も とうとう ワタシ から はなれて いって しまった か と、 ワタシ は すごすご と さびしい テラ の ショイン へ かえりかかった。

 11

 ワタシ は アネ が いなく なって から、 みじかい フユ の ヒ の マイニチ ユキ に ふりこめられた ショイン で、 チチ の ソバ へ いったり エンガワ に あげて やった シロ を アイテ に さびしく くらして いた。 2 シュウカン も たった アト にも アネ は たずねて きて くれなかった。 みじかい ハガキ が 1 マイ きた きり で あった。

べつに オカワリ も ない こと と おもいます。 ネエサン は マイニチ いそがしくて ソト へ など まだ イチド も でた こと が ありません ので、 アナタ の ところ へも とうぶん ゆけそう に おもわれません。 ネエサン は やはり いつまでも、 オウチ に いれば よかった と マイニチ そう おもって、 テル さん の こと を かんがえます。 テル さん は オトコ で シアワセ です。 そのうち あった とき いろいろ おはなし します。

 と かいて あった。 ワタシ は この ハガキ を タイセツ に よごれない よう に、 ツクエ の ヒキダシ の オク に しまって おいた。 アネ の こと を かんがえたり あいたく なったり した とき、 ワタシ は これ を だして じっと アネ の やさしい カオ や コトバ に ふれる よう な オモイ を して たのしんで いた。
 ワタシ は ときどき トナリ の ハハ の イエ へ ゆく と、 きっと アネ の ヘヤ へ はいって みなければ キ が すまなかった。 いつも だまって、 しずか に オハリ を して いる ソバ に ねそべって いた ワタシ ジシン の スガタ をも、 そこ では アネ の スガタ と イッショ に おもいうかべる こと が できる の で あった。 その ヘヤ には、 いつも アネ の ソバ へ よる と イッシュ の ニオイ が した よう に、 なにかしら なつかしい あたたか な アネ の カラダ から しみでる よう な ニオイ が、 アネ の いなく なった コノゴロ でも、 ヘヤ の ナカ に ふわり と ハナ の カオリ の よう に ただようて いた。 ワタシ は ヘヤジュウ を みまわしたり、 ときには、 コダンス の ウエ に ある イロイロ な カシオリ の カラ に おさまって ある キレルイ や、 コウスイ の カラビン など を とりだして ながめて いた。 なぜか しれない フシギ な、 わるい こと を した とき の よう な ムナサワギ が、 アネ の ブンコ の ナカ を さぐったり する とき に、 どきどき と して くる の で あった。
 アネ は サンゴ の タマ や、 カンザシ、 ミミカキ、 こわれた ピン など を いれて おいた ハコ を わすれて いった の が、 これ だけ が ちゃんと おいて あった。 ワタシ は そういう アネ の シヨウブツ を みる ごと に、 アネ コイシサ を つのらせた。
 ワタシ は ある ヒ、 ユキバレ の した ドウロ を シロ を つれて、 いそいで いった。 ワタシ は ひそか に アネ の いった イエ の マエ を とおりたい ため でも あった。 カワベリ の センザイ に ウエコミ の ある、 ヤクイン の すみそう な イエ で あった。
 2 カイ は ショウジ が しまって あった。 イエジュウ が しずか で しんみり して いて、 アネ の コエ すら しなかった。 ワタシ は、 わざと イヌ に わんわん ほえさせたり した。 それでも アネ が ルス なの か、 いっこう ヒト の でて くる ケハイ が しなかった。 ワタシ は、 なお つよく イヌ を なかせた。 2 カイ の ショウジ が ひらいた。 そして アネ の カオ が あらわれた。
 アネ は 「まあ!」 と くちごもる よう に びっくり して、 テマネ で イマ そこ へ ゆく から と いった。 シロ は ながく みなかった アネ の カオ を みる と、 キュウ に ゲンキ-づいて マエアシ を おって ふざける よう に して たかく たかく ほえた。
 アネ は でて きた。
「まあ、 よく きた のね。 すっかり いそがしくて ね。 ごめんなさい よ」
 ワタシ は アネ の カオ を みる と、 もう なみだぐんで じっと みつめた。 アネ は すこし やせて あおざめた よう な、 かわいた カオ を して いた。
「ボク、 きて は わるかった かしら」
「いえ。 わるく は ない けど、 オカアサン から また つまらない こと を いわれる と いけない から、 コンド から くる ん じゃ ない のよ。 きっと そのうち ネエサン が いく から ね」
「きっと ね」
「え。 きっと いきます とも、 シロ は まあ うれしそう に して――」
 シロ は アネ の スソ を くわえて、 ひさしく みなかった シュジン に じゃれついて いた。
「じゃ ボク かえろう」
 ワタシ は こんな ところ で アネ と はなして いる の を イエ の ヒト に みられる と、 アネ が アト で こまる だろう と おもって、 かえりかかった。
「そう オカエリ? また コンド ネエサン が いきます から ね。 それまで おとなしく して まって いて ください な」
「イツゴロ きて くれる の」
「そりゃ まだ わからない けれども きっと いきます わ。 ちかって よ。 ユビキリ を しましょう ね」
 アネ は ワタシ の テ を とった。
 ワタシ は にっこり して アタリ を みまわした。 ダレ か みて は い は しない だろう か と、 しきり に ケネン された。
 アネ は、 ずっと ムカシ コドモ の とき に やった よう に、 コユビ と コユビ と を おたがいに ワ に つくって、 リョウホウ で ひきあう の で あった。
 この こどもらしい ジョウダン の よう な サジ では あった が、 なにかしら ワタシラ キョウダイ に とって シンセイ な しんず べき チカイ の よう に おもわれて いた。
「じゃ、 さよなら」
 と ワタシ は アネ の ソバ を はなれた。
「ミチクサ を しない で おかえりなさい な」
「ええ」
 ワタシ は カワギシ の ハダラ に きえかかった ミチ を いった。 カタガワマチ なので ダレ も とおらなかった。 ワタシ は 「イマ から アネ は どうして バン まで くらす の だろう。 ナニ か おもしろい こと でも ある の だろう か」 など と かんがえて いた。 ウチ に いる とき より いくらか やせた の も ワタシ には よく かんじられた。 ワタシ は ヨメ と いう もの は たんに セイカツ を ショクジ の ほう に のみ つとむ べき もの で あろう か など と、 なやましく かんがえあるいて いた。
 キタグニ の フユ の ニチボツ-ゴロ は、 アブラウリ の スズ や、 ユキ が ドロマミレ に ぬかった ミチ や、 いそがしげ に ゆきかう ヒトビト の アイダ に、 いつも モノ の ソコ まで とおる ツメタサ サムサ を もった カゼ が ふいて、 ヒトツ と して アタタカミ の ない うち に くれて ゆく の で あった。
 ワタシ は テラ へ かえる と、 ヨル は チチ と、 チャノユ の ロ に つよい ヒ を おこして むかいあって すわって いた。 チチ は ナニ を する と いう こと なし に、 チャ を のんだり コヨミ を くったり して ヒトバン を おくる の で あった。
 チチ は よく ユズミソ を つくったり した。 ユズガマ の ナカ を ふつふつ と にえる ミソ の ニオイ を なつかしがりながら、 ワタシ は いつも チチ の テツダイ を して いた。 ケイダイ の おおきな ツガ に さむい カゼ が ごうごう と なる よう な バン や、 さらさら と ショウジ を なでて ゆく ササユキ の ふる ヨル など、 ことに チチ と フタリ で しずか に イロイロ な ハナシ を して もらう こと が すき で あった。
 もはや アネ に したしもう と して も、 トオク へ いって しまった アト は、 チチ と さびしい ハナシ など を きく より ホカ は シカタ が なかった。
 チチ が はじめて この テラ へ きた とき は、 この テラ が ちいさな ツジドウ に すぎなかった こと や、 ヨル、 よく カワウソ が ウシロ の カワ で サケ を とりそこなったり して ヨナカ に ミズオト を たてた と いう こと など を きいた。
 チチ は よく いった。
「ネエサン が いなく なって から、 オマエ は たいへん さびしそう に して いる ね」
「ええ」
 チチ は よく ワタシ の ココロ を みぬいた よう に、 そんな とき は いっそう やさしく なでる よう に なぐさめて くれる の で あった。
「さあ、 やすみなさい。 かなり おそい から」 と、 いつも トコ へ つかす の で あった。
 ワタシ は わびしい アンドン の シタ で、 アネ の こと を かんがえたり、 ハハ の こと を おもいだしたり しながら、 いつまでも おおきな メ を あけて いる こと が あった。 ウシロ の カワ の セ の オト と ヨカゼ と が、 しずか に ワタシ の マクラ の ソバ まで きこえた。
 ワタシ の 13 の フユ は もう くれかかって いた。
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