カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ココロ 「センセイ と イショ 5」

2015-04-20 | ナツメ ソウセキ
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 11 ガツ の さむい アメ の ふる ヒ の こと でした。 ワタクシ は ガイトウ を ぬらして レイ の とおり コンニャク エンマ を ぬけて ほそい サカミチ を あがって ウチ へ かえりました。 K の ヘヤ は ガランドウ でした けれども、 ヒバチ には ツギタテ の ヒ が あたたかそう に もえて いました。 ワタクシ も つめたい テ を はやく あかい スミ の ウエ に かざそう と おもって、 いそいで ジブン の ヘヤ の シキリ を あけました。 すると ワタクシ の ヒバチ には つめたい ハイ が しろく のこって いる だけ で、 ヒダネ さえ つきて いる の です。 ワタクシ は キュウ に フユカイ に なりました。
 その とき ワタクシ の アシオト を きいて でて きた の は、 オクサン でした。 オクサン は だまって ヘヤ の マンナカ に たって いる ワタクシ を みて、 キノドク そう に ガイトウ を ぬがせて くれたり、 ニホンフク を きせて くれたり しました。 それから ワタクシ が さむい と いう の を きいて、 すぐ ツギノマ から K の ヒバチ を もって きて くれました。 ワタクシ が K は もう かえった の か と ききましたら、 オクサン は かえって また でた と こたえました。 その ヒ も K は ワタクシ より おくれて かえる ジカンワリ だった の です から、 ワタクシ は どうした ワケ か と おもいました。 オクサン は おおかた ヨウジ でも できた の だろう と いって いました。
 ワタクシ は しばらく そこ に すわった まま ショケン を しました。 ウチ の ナカ が しんと しずまって、 ダレ の ハナシゴエ も きこえない うち に、 ハツフユ の サムサ と ワビシサ と が、 ワタクシ の カラダ に くいこむ よう な カンジ が しました。 ワタクシ は すぐ ショモツ を ふせて たちあがりました。 ワタクシ は ふと にぎやか な ところ へ ゆきたく なった の です。 アメ は やっと あがった よう です が、 ソラ は まだ つめたい ナマリ の よう に おもく みえた ので、 ワタクシ は ヨウジン の ため、 ジャノメ を カタ に かついで、 ホウヘイ コウショウ の ウラテ の ドベイ に ついて ヒガシ へ サカ を おりました。 その ジブン は まだ ドウロ の カイセイ が できない コロ なので、 サカ の コウバイ が イマ より も ずっと キュウ でした。 ミチハバ も せまくて、 ああ マッスグ では なかった の です。 そのうえ あの タニ へ おりる と、 ミナミ が たかい タテモノ で ふさがって いる の と、 ミズハキ が よく ない の と で、 オウライ は どろどろ でした。 ことに ほそい イシバシ を わたって ヤナギチョウ の トオリ へ でる アイダ が ひどかった の です。 アシダ でも ナガグツ でも むやみ に あるく わけ には ゆきません。 ダレ でも ミチ の マンナカ に しぜん と ほそながく ドロ が かきわけられた ところ を、 ゴショウ ダイジ に たどって ゆかなければ ならない の です。 その ハバ は わずか 1~2 シャク しか ない の です から、 てもなく オウライ に しいて ある オビ の ウエ を ふんで ムコウ へ こす の と おなじ こと です。 ゆく ヒト は ミンナ イチレツ に なって そろそろ とおりぬけます。 ワタクシ は この ホソオビ の ウエ で、 はたり と K に であいました。 アシ の ほう に ばかり キ を とられて いた ワタクシ は、 カレ と むきあう まで、 カレ の ソンザイ に まるで キ が つかず に いた の です。 ワタクシ は フイ に ジブン の マエ が ふさがった ので ぐうぜん メ を あげた とき、 はじめて そこ に たって いる K を みとめた の です。 ワタクシ は K に どこ へ いった の か と ききました。 K は ちょっと そこ まで と いった ぎり でした。 カレ の コタエ は イツモ の とおり ふん と いう チョウシ でした。 K と ワタクシ は ほそい オビ の ウエ で カラダ を かわせました。 すると K の すぐ ウシロ に ヒトリ の わかい オンナ が たって いる の が みえました。 キンガン の ワタクシ には、 イマ まで それ が よく わからなかった の です が、 K を やりこした アト で、 その オンナ の カオ を みる と、 それ が ウチ の オジョウサン だった ので、 ワタクシ は すくなからず おどろきました。 オジョウサン は こころもち うすあかい カオ を して、 ワタクシ に アイサツ を しました。 その ジブン の ソクハツ は イマ と ちがって ヒサシ が でて いない の です、 そうして アタマ の マンナカ に ヘビ の よう に ぐるぐる まきつけて あった もの です。 ワタクシ は ぼんやり オジョウサン の アタマ を みて いました が、 ツギ の シュンカン に、 どっち か ミチ を ゆずらなければ ならない の だ と いう こと に キ が つきました。 ワタクシ は おもいきって どろどろ の ナカ へ カタアシ ふんごみました。 そうして ヒカクテキ とおりやすい ところ を あけて、 オジョウサン を わたして やりました。
 それから ヤナギチョウ の トオリ へ でた ワタクシ は どこ へ いって いい か ジブン にも わからなく なりました。 どこ へ いって も おもしろく ない よう な ココロモチ が する の です。 ワタクシ は ハネ の あがる の も かまわず に、 ヌカルミ の ナカ を やけに どしどし あるきました。 それから すぐ ウチ へ かえって きました。

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 ワタクシ は K に むかって オジョウサン と イッショ に でた の か と ききました。 K は そう では ない と こたえました。 マサゴ-チョウ で ぐうぜん であった から つれだって かえって きた の だ と セツメイ しました。 ワタクシ は それ イジョウ に たちいった シツモン を ひかえなければ なりません でした。 しかし ショクジ の とき、 また オジョウサン に むかって、 おなじ トイ を かけたく なりました。 すると オジョウサン は ワタクシ の きらい な レイ の ワライカタ を する の です。 そうして どこ へ いった か あてて みろ と シマイ に いう の です。 その コロ の ワタクシ は まだ カンシャクモチ でした から、 そう フマジメ に わかい オンナ から とりあつかわれる と ハラ が たちました。 ところが そこ に キ の つく の は、 おなじ ショクタク に ついて いる モノ の ウチ で オクサン ヒトリ だった の です。 K は むしろ ヘイキ でした。 オジョウサン の タイド に なる と、 しって わざと やる の か、 しらない で ムジャキ に やる の か、 そこ の クベツ が ちょっと ハンゼン しない テン が ありました。 わかい オンナ と して オジョウサン は シリョ に とんだ ほう でした けれども、 その わかい オンナ に キョウツウ な ワタクシ の きらい な ところ も、 ある と おもえば おもえなく も なかった の です。 そうして その きらい な ところ は、 K が ウチ へ きて から、 はじめて ワタクシ の メ に つきだした の です。 ワタクシ は それ を K に たいする ワタクシ の シット に きして いい もの か、 または ワタクシ に たいする オジョウサン の ギコウ と みなして しかるべき もの か、 ちょっと フンベツ に まよいました。 ワタクシ は イマ でも けっして その とき の ワタクシ の シットシン を うちけす キ は ありません。 ワタクシ は たびたび くりかえした とおり、 アイ の リメン に この カンジョウ の ハタラキ を あきらか に イシキ して いた の です から。 しかも ハタ の モノ から みる と、 ほとんど とる に たりない サジ に、 この カンジョウ が きっと クビ を もちあげたがる の でした から。 これ は ヨジ です が、 こういう シット は アイ の ハンメン じゃ ない でしょう か。 ワタクシ は ケッコン して から、 この カンジョウ が だんだん うすらいで ゆく の を ジカク しました。 そのかわり アイジョウ の ほう も けっして モト の よう に モウレツ では ない の です。
 ワタクシ は それまで チュウチョ して いた ジブン の ココロ を ひとおもいに アイテ の ムネ へ たたきつけよう か と かんがえだしました。 ワタクシ の アイテ と いう の は オジョウサン では ありません。 オクサン の こと です。 オクサン に オジョウサン を くれろ と メイハク な ダンパン を ひらこう か と かんがえた の です。 しかし そう ケッシン しながら、 イチニチ イチニチ と ワタクシ は ダンコウ の ヒ を のばして いった の です。 そう いう と ワタクシ は いかにも ユウジュウ な オトコ の よう に みえます、 また みえて も かまいません が、 じっさい ワタクシ の すすみかねた の は、 イシ の チカラ に フソク が あった ため では ありません。 K の こない うち は、 ヒト の テ に のる の が いや だ と いう ガマン が ワタクシ を おさえつけて、 イッポ も うごけない よう に して いました。 K の きた ノチ は、 もしか する と オジョウサン が K の ほう に イ が ある の では なかろう か と いう ギネン が たえず ワタクシ を せいする よう に なった の です。 はたして オジョウサン が ワタクシ より も K に ココロ を かたむけて いる ならば、 この コイ は クチ へ いいだす カチ の ない もの と ワタクシ は ケッシン して いた の です。 ハジ を かかせられる の が つらい など と いう の とは すこし ワケ が ちがいます。 こっち で いくら おもって も、 ムコウ が ナイシン ホカ の ヒト に アイ の マナコ を そそいで いる ならば、 ワタクシ は そんな オンナ と イッショ に なる の は いや なの です。 ヨノナカ では イヤオウ なし に ジブン の すいた オンナ を ヨメ に もらって うれしがって いる ヒト も あります が、 それ は ワタクシタチ より よっぽど セケンズレ の した オトコ か、 さも なければ アイ の シンリ が よく のみこめない ドンブツ の する こと と、 トウジ の ワタクシ は かんがえて いた の です。 イチド もらって しまえば どうか こうか おちつく もの だ ぐらい の テツリ では、 ショウチ する こと が できない くらい ワタクシ は ねっして いました。 つまり ワタクシ は きわめて コウショウ な アイ の リロンカ だった の です。 ドウジ に もっとも ウエン な アイ の ジッサイカ だった の です。
 カンジン の オジョウサン に、 ちょくせつ この ワタクシ と いう もの を うちあける キカイ も、 ながく イッショ に いる うち には ときどき でて きた の です が、 ワタクシ は わざと それ を さけました。 ニホン の シュウカン と して、 そういう こと は ゆるされて いない の だ と いう ジカク が、 その コロ の ワタクシ には つよく ありました。 しかし けっして それ ばかり が ワタクシ を ソクバク した とは いえません。 ニホンジン、 ことに ニホン の わかい オンナ は、 そんな バアイ に、 アイテ に キガネ なく ジブン の おもった とおり を エンリョ せず に クチ に する だけ の ユウキ に とぼしい もの と ワタクシ は みこんで いた の です。

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 こんな ワケ で ワタクシ は どちら の ホウメン へ むかって も すすむ こと が できず に たちすくんで いました。 カラダ の わるい とき に ヒルネ など を する と、 メ だけ さめて シュウイ の もの が はっきり みえる のに、 どうしても テアシ の うごかせない バアイ が ありましょう。 ワタクシ は ときとして ああいう クルシミ を ひとしれず かんじた の です。
 そのうち トシ が くれて ハル に なりました。 ある ヒ オクサン が K に カルタ を やる から ダレ か トモダチ を つれて こない か と いった こと が あります。 すると K は すぐ トモダチ なぞ は ヒトリ も ない と こたえた ので、 オクサン は おどろいて しまいました。 なるほど K に トモダチ と いう ほど の トモダチ は ヒトリ も なかった の です。 オウライ で あった とき アイサツ を する くらい の モノ は たしょう ありました が、 それら だって けっして カルタ など を とる ガラ では なかった の です。 オクサン は それじゃ ワタクシ の しった モノ でも よんで きたら どう か と いいなおしました が、 ワタクシ も あいにく そんな ヨウキ な アソビ を する ココロモチ に なれない ので、 イイカゲン な ナマヘンジ を した なり、 うちやって おきました。 ところが バン に なって K と ワタクシ は とうとう オジョウサン に ひっぱりだされて しまいました。 キャク も ダレ も こない のに、 ウチウチ の コニンズ だけ で とろう と いう カルタ です から すこぶる しずか な もの でした。 そのうえ こういう ユウギ を やりつけない K は、 まるで フトコロデ を して いる ヒト と ドウヨウ でした。 ワタクシ は K に いったい ヒャクニン イッシュ の ウタ を しって いる の か と たずねました。 K は よく しらない と こたえました。 ワタクシ の コトバ を きいた オジョウサン は、 おおかた K を ケイベツ する と でも とった の でしょう。 それから メ に たつ よう に K の カセイ を しだしました。 シマイ には フタリ が ほとんど クミ に なって ワタクシ に あたる と いう アリサマ に なって きました。 ワタクシ は アイテ-シダイ では ケンカ を はじめた かも しれなかった の です。 サイワイ に K の タイド は すこしも サイショ と かわりません でした。 カレ の どこ にも トクイ-らしい ヨウス を みとめなかった ワタクシ は、 ブジ に その バ を きりあげる こと が できました。
 それから 2~3 ニチ たった ノチ の こと でしたろう、 オクサン と オジョウサン は アサ から イチガヤ に いる シンルイ の ところ へ いく と いって ウチ を でました。 K も ワタクシ も まだ ガッコウ の はじまらない コロ でした から、 ルスイ ドウヨウ アト に のこって いました。 ワタクシ は ショモツ を よむ の も サンポ に でる の も いや だった ので、 ただ ばくぜん と ヒバチ の フチ に ヒジ を のせて じっと アゴ を ささえた なり かんがえて いました。 トナリ の ヘヤ に いる K も いっこう オト を たてません でした。 ソウホウ とも いる の だ か いない の だ か わからない くらい しずか でした。 もっとも こういう こと は、 フタリ の アイダガラ と して べつに めずらしく も なんとも なかった の です から、 ワタクシ は べつだん それ を キ にも とめません でした。
 10 ジ-ゴロ に なって、 K は フイ に シキリ の フスマ を あけて ワタクシ と カオ を みあわせました。 カレ は シキイ の ウエ に たった まま、 ワタクシ に ナニ を かんがえて いる と ききました。 ワタクシ は もとより なにも かんがえて いなかった の です。 もし かんがえて いた と すれば、 イツモ の とおり オジョウサン が モンダイ だった かも しれません。 その オジョウサン には むろん オクサン も くっついて います が、 チカゴロ では K ジシン が きりはなす べからざる ヒト の よう に、 ワタクシ の アタマ の ナカ を ぐるぐる めぐって、 この モンダイ を フクザツ に して いる の です。 K と カオ を みあわせた ワタクシ は、 イマ まで おぼろげ に カレ を イッシュ の ジャマモノ の ごとく イシキ して いながら、 あきらか に そう と こたえる わけ に いかなかった の です。 ワタクシ は いぜん と して カレ の カオ を みて だまって いました。 すると K の ほう から つかつか と ワタクシ の ザシキ へ はいって きて、 ワタクシ の あたって いる ヒバチ の マエ に すわりました。 ワタクシ は すぐ リョウヒジ を ヒバチ の フチ から とりのけて、 こころもち それ を K の ほう へ おしやる よう に しました。
 K は イツモ に にあわない ハナシ を はじめました。 オクサン と オジョウサン は イチガヤ の どこ へ いった の だろう と いう の です。 ワタクシ は おおかた オバサン の ところ だろう と こたえました。 K は その オバサン は ナン だ と また ききます。 ワタクシ は やはり グンジン の サイクン だ と おしえて やりました。 すると オンナ の ネンシ は たいてい 15 ニチ-スギ だ のに、 なぜ そんな に はやく でかけた の だろう と シツモン する の です。 ワタクシ は なぜ だ か しらない と アイサツ する より ホカ に シカタ が ありません でした。

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 K は なかなか オクサン と オジョウサン の ハナシ を やめません でした。 シマイ には ワタクシ も こたえられない よう な たちいった こと まで きく の です。 ワタクシ は メンドウ より も フシギ の カン に うたれました。 イゼン ワタクシ の ほう から フタリ を モンダイ に して はなしかけた とき の カレ を おもいだす と、 ワタクシ は どうしても カレ の チョウシ の かわって いる ところ に キ が つかず には いられない の です。 ワタクシ は とうとう なぜ キョウ に かぎって そんな こと ばかり いう の か と カレ に たずねました。 その とき カレ は とつぜん だまりました。 しかし ワタクシ は カレ の むすんだ クチモト の ニク が ふるえる よう に うごいて いる の を チュウシ しました。 カレ は がんらい ムクチ な オトコ でした。 ヘイゼイ から ナニ か いおう と する と、 いう マエ に よく クチ の アタリ を もぐもぐ させる クセ が ありました。 カレ の クチビル が わざと カレ の イシ に ハンコウ する よう に たやすく あかない ところ に、 カレ の コトバ の オモミ も こもって いた の でしょう。 いったん コエ が クチ を やぶって でる と なる と、 その コエ には フツウ の ヒト より も バイ の つよい チカラ が ありました。
 カレ の クチモト を ちょっと ながめた とき、 ワタクシ は また ナニ か でて くる な と すぐ かんづいた の です が、 それ が はたして なんの ジュンビ なの か、 ワタクシ の ヨカク は まるで なかった の です。 だから おどろいた の です。 カレ の おもおもしい クチ から、 カレ の オジョウサン に たいする せつない コイ を うちあけられた とき の ワタクシ を ソウゾウ して みて ください。 ワタクシ は カレ の マホウボウ の ため に イチド に カセキ された よう な もの です。 クチ を もぐもぐ させる ハタラキ さえ、 ワタクシ には なくなって しまった の です。
 その とき の ワタクシ は オソロシサ の カタマリ と いいましょう か、 または クルシサ の カタマリ と いいましょう か、 なにしろ ヒトツ の カタマリ でした。 イシ か テツ の よう に アタマ から アシ の サキ まで が キュウ に かたく なった の です。 コキュウ を する ダンリョクセイ さえ うしなわれた くらい に かたく なった の です。 サイワイ な こと に その ジョウタイ は ながく つづきません でした。 ワタクシ は イッシュンカン の ノチ に、 また ニンゲン-らしい キブン を とりもどしました。 そうして、 すぐ しまった と おもいました。 セン を こされた な と おもいました。
 しかし その サキ を どう しよう と いう フンベツ は まるで おこりません。 おそらく おこる だけ の ヨユウ が なかった の でしょう。 ワタクシ は ワキノシタ から でる キミ の わるい アセ が シャツ に しみとおる の を じっと ガマン して うごかず に いました。 K は その アイダ イツモ の とおり おもい クチ を きって は、 ぽつり ぽつり と ジブン の ココロ を うちあけて ゆきます。 ワタクシ は くるしくって たまりません でした。 おそらく その クルシサ は、 おおきな コウコク の よう に、 ワタクシ の カオ の ウエ に はっきり した ジ で はりつけられて あったろう と ワタクシ は おもう の です。 いくら K でも そこ に キ の つかない はず は ない の です が、 カレ は また カレ で、 ジブン の こと に イッサイ を シュウチュウ して いる から、 ワタクシ の ヒョウジョウ など に チュウイ する ヒマ が なかった の でしょう。 カレ の ジハク は サイショ から サイゴ まで おなじ チョウシ で つらぬいて いました。 おもくて のろい カワリ に、 とても ヨウイ な こと では うごかせない と いう カンジ を ワタクシ に あたえた の です。 ワタクシ の ココロ は ハンブン その ジハク を きいて いながら、 ハンブン どう しよう どう しよう と いう ネン に たえず かきみだされて いました から、 こまかい テン に なる と ほとんど ミミ へ はいらない と ドウヨウ でした が、 それでも カレ の クチ に だす コトバ の チョウシ だけ は つよく ムネ に ひびきました。 その ため に ワタクシ は マエ いった クツウ ばかり で なく、 ときには イッシュ の オソロシサ を かんずる よう に なった の です。 つまり アイテ は ジブン より つよい の だ と いう キョウフ の ネン が きざしはじめた の です。
 K の ハナシ が ひととおり すんだ とき、 ワタクシ は なんとも いう こと が できません でした。 こっち も カレ の マエ に おなじ イミ の ジハク を した もの だろう か、 それとも うちあけず に いる ほう が トクサク だろう か、 ワタクシ は そんな リガイ を かんがえて だまって いた の では ありません。 ただ ナニゴト も いえなかった の です。 また いう キ にも ならなかった の です。
 ヒルメシ の とき、 K と ワタクシ は ムカイアワセ に セキ を しめました。 ゲジョ に キュウジ を して もらって、 ワタクシ は いつ に ない まずい メシ を すませました。 フタリ は ショクジチュウ も ほとんど クチ を ききません でした。 オクサン と オジョウサン は いつ かえる の だ か わかりません でした。

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 フタリ は メイメイ の ヘヤ に ひきとった ぎり カオ を あわせません でした。 K の しずか な こと は アサ と おなじ でした。 ワタクシ も じっと かんがえこんで いました。
 ワタクシ は とうぜん ジブン の ココロ を K に うちあける べき はず だ と おもいました。 しかし それ には もう ジキ が おくれて しまった と いう キ も おこりました。 なぜ さっき K の コトバ を さえぎって、 こっち から ギャクシュウ しなかった の か、 そこ が ヒジョウ な テヌカリ の よう に みえて きました。 せめて K の アト に つづいて、 ジブン は ジブン の おもう とおり を その バ で はなして しまったら、 まだ よかったろう に とも かんがえました。 K の ジハク に イチダンラク が ついた イマ と なって、 こっち から また おなじ こと を きりだす の は、 どう シアン して も ヘン でした。 ワタクシ は この フシゼン に うちかつ ホウホウ を しらなかった の です。 ワタクシ の アタマ は カイコン に ゆられて ぐらぐら しました。
 ワタクシ は K が ふたたび シキリ の フスマ を あけて ムコウ から トッシン して きて くれれば いい と おもいました。 ワタクシ に いわせれば、 サッキ は まるで フイウチ に あった も おなじ でした。 ワタクシ には K に おうずる ジュンビ も なにも なかった の です。 ワタクシ は ゴゼン に うしなった もの を、 コンド は とりもどそう と いう シタゴコロ を もって いました。 それで ときどき メ を あげて、 フスマ を ながめました。 しかし その フスマ は いつまで たって も あきません。 そうして K は エイキュウ に しずか なの です。
 そのうち ワタクシ の アタマ は だんだん この シズカサ に かきみだされる よう に なって きました。 K は イマ フスマ の ムコウ で ナニ を かんがえて いる だろう と おもう と、 それ が キ に なって たまらない の です。 フダン も こんな ふう に オタガイ が シキリ 1 マイ を アイダ に おいて だまりあって いる バアイ は しじゅう あった の です が、 ワタクシ は K が しずか で あれば ある ほど、 カレ の ソンザイ を わすれる の が フツウ の ジョウタイ だった の です から、 その とき の ワタクシ は よほど チョウシ が くるって いた もの と みなければ なりません。 それでいて ワタクシ は こっち から すすんで フスマ を あける こと が できなかった の です。 いったん いいそびれた ワタクシ は、 また ムコウ から はたらきかけられる ジキ を まつ より ホカ に シカタ が なかった の です。
 シマイ に ワタクシ は じっと して おられなく なりました。 ムリ に じっと して いれば、 K の ヘヤ へ とびこみたく なる の です。 ワタクシ は しかたなし に たって エンガワ へ でました。 そこ から チャノマ へ きて、 なんと いう モクテキ も なく、 テツビン の ユ を ユノミ に ついで 1 パイ のみました。 それから ゲンカン へ でました。 ワタクシ は わざと K の ヘヤ を カイヒ する よう に して、 こんな ふう に ジブン を オウライ の マンナカ に みいだした の です。 ワタクシ には むろん どこ へ ゆく と いう アテ も ありません。 ただ じっと して いられない だけ でした。 それで ホウガク も なにも かまわず に、 ショウガツ の マチ を、 むやみ に あるきまわった の です。 ワタクシ の アタマ は いくら あるいて も K の こと で いっぱい に なって いました。 ワタクシ も K を ふるいおとす キ で あるきまわる わけ では なかった の です。 むしろ ジブン から すすんで カレ の スガタ を ソシャク しながら うろついて いた の です。
 ワタクシ には ダイイチ に カレ が かいしがたい オトコ の よう に みえました。 どうして あんな こと を とつぜん ワタクシ に うちあけた の か、 また どうして うちあけなければ いられない ほど に、 カレ の コイ が つのって きた の か、 そうして ヘイゼイ の カレ は どこ に ふきとばされて しまった の か、 すべて ワタクシ には かいしにくい モンダイ でした。 ワタクシ は カレ の つよい こと を しって いました。 また カレ の マジメ な こと を しって いました。 ワタクシ は これから ワタクシ の とる べき タイド を けっする マエ に、 カレ に ついて きかなければ ならない オオク を もって いる と しんじました。 ドウジ に これから サキ カレ を アイテ に する の が へんに キミ が わるかった の です。 ワタクシ は ムチュウ に マチ の ナカ を あるきながら、 ジブン の ヘヤ に じっと すわって いる カレ の ヨウボウ を しじゅう メノマエ に えがきだしました。 しかも いくら ワタクシ が あるいて も カレ を うごかす こと は とうてい できない の だ と いう コエ が どこ か で きこえる の です。 つまり ワタクシ には カレ が イッシュ の マモノ の よう に おもえた から でしょう。 ワタクシ は エイキュウ カレ に たたられた の では なかろう か と いう キ さえ しました。
 ワタクシ が つかれて ウチ へ かえった とき、 カレ の ヘヤ は いぜん と して ヒトケ の ない よう に しずか でした。

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 ワタクシ が ウチ へ はいる と まもなく クルマ の オト が きこえました。 イマ の よう に ゴムワ の ない ジブン でした から、 がらがら いう いや な ヒビキ が かなり の キョリ でも ミミ に たつ の です。 クルマ は やがて モンゼン で とまりました。
 ワタクシ が ユウメシ に よびだされた の は、 それから 30 プン ばかり たった アト の こと でした が、 まだ オクサン と オジョウサン の ハレギ が ぬぎすてられた まま、 ツギ の ヘヤ を ランザツ に いろどって いました。 フタリ は おそく なる と ワタクシタチ に すまない と いう ので、 メシ の シタク に まにあう よう に、 いそいで かえって きた の だ そう です。 しかし オクサン の シンセツ は K と ワタクシ と に とって ほとんど ムコウ も おなじ こと でした。 ワタクシ は ショクタク に すわりながら、 コトバ を おしがる ヒト の よう に、 そっけない アイサツ ばかり して いました。 K は ワタクシ より も なお カゲン でした。 たまに オヤコヅレ で ガイシュツ した オンナ フタリ の キブン が、 また ヘイゼイ より は すぐれて はれやか だった ので、 ワレワレ の タイド は なお の こと メ に つきます。 オクサン は ワタクシ に どうか した の か と ききました。 ワタクシ は すこし ココロモチ が わるい と こたえました。 じっさい ワタクシ は ココロモチ が わるかった の です。 すると コンド は オジョウサン が K に おなじ トイ を かけました。 K は ワタクシ の よう に ココロモチ が わるい とは こたえません。 ただ クチ が ききたく ない から だ と いいました。 オジョウサン は なぜ クチ が ききたく ない の か と ツイキュウ しました。 ワタクシ は その とき ふと おもたい マブタ を あげて K の カオ を みました。 ワタクシ には K が なんと こたえる だろう か と いう コウキシン が あった の です。 K の クチビル は レイ の よう に すこし ふるえて いました。 それ が しらない ヒト から みる と、 まるで ヘンジ に まよって いる と しか おもわれない の です。 オジョウサン は わらいながら また ナニ か むずかしい こと を かんがえて いる の だろう と いいました。 K の カオ は こころもち うすあかく なりました。
 その バン ワタクシ は イツモ より はやく トコ へ はいりました。 ワタクシ が ショクジ の とき キブン が わるい と いった の を キ に して、 オクサン は 10 ジ-ゴロ ソバユ を もって きて くれました。 しかし ワタクシ の ヘヤ は もう マックラ でした。 オクサン は おやおや と いって、 シキリ の フスマ を ホソメ に あけました。 ランプ の ヒカリ が K の ツクエ から ナナメ に ぼんやり と ワタクシ の ヘヤ に さしこみました。 K は まだ おきて いた もの と みえます。 オクサン は マクラモト に すわって、 おおかた カゼ を ひいた の だろう から カラダ を あっためる が いい と いって、 ユノミ を カオ の ソバ へ つきつける の です。 ワタクシ は やむ を えず、 どろどろ した ソバユ を オクサン の みて いる マエ で のみました。
 ワタクシ は おそく なる まで くらい ナカ で かんがえて いました。 むろん ヒトツ モンダイ を ぐるぐる カイテン させる だけ で、 ホカ に なんの コウリョク も なかった の です。 ワタクシ は とつぜん K が イマ トナリ の ヘヤ で ナニ を して いる だろう と おもいだしました。 ワタクシ は なかば ムイシキ に おい と コエ を かけました。 すると ムコウ でも おい と ヘンジ を しました。 K も まだ おきて いた の です。 ワタクシ は まだ ねない の か と フスマゴシ に ききました。 もう ねる と いう カンタン な アイサツ が ありました。 ナニ を して いる の だ と ワタクシ は かさねて といました。 コンド は K の コタエ が ありません。 そのかわり 5~6 プン たった と おもう コロ に、 オシイレ を がらり と あけて、 トコ を のべる オト が テ に とる よう に きこえました。 ワタクシ は もう ナンジ か と また たずねました。 K は 1 ジ 20 プン だ と こたえました。 やがて ランプ を ふっと ふきけす オト が して、 ウチジュウ が マックラ な ウチ に、 しんと しずまりました。
 しかし ワタクシ の メ は その くらい ナカ で いよいよ さえて くる ばかり です。 ワタクシ は また なかば ムイシキ な ジョウタイ で、 おい と K に コエ を かけました。 K も イゼン と おなじ よう な チョウシ で、 おい と こたえました。 ワタクシ は ケサ カレ から きいた こと に ついて、 もっと くわしい ハナシ を したい が、 カレ の ツゴウ は どう だ と、 とうとう こっち から きりだしました。 ワタクシ は むろん フスマゴシ に そんな ダンワ を コウカン する キ は なかった の です が、 K の ヘントウ だけ は ソクザ に えられる こと と かんがえた の です。 ところが K は サッキ から 2 ド おい と よばれて、 2 ド おい と こたえた よう な すなお な チョウシ で、 コンド は おうじません。 そう だなあ と ひくい コエ で しぶって います。 ワタクシ は また はっと おもわせられました。

 39

 K の ナマヘンジ は ヨクジツ に なって も、 その ヨクジツ に なって も、 カレ の タイド に よく あらわれて いました。 カレ は ジブン から すすんで レイ の モンダイ に ふれよう と する ケシキ を けっして みせません でした。 もっとも キカイ も なかった の です。 オクサン と オジョウサン が そろって イチニチ ウチ を あけ でも しなければ、 フタリ は ゆっくり おちついて、 そういう こと を はなしあう わけ にも いかない の です から。 ワタクシ は それ を よく こころえて いました。 こころえて いながら、 へんに いらいら しだす の です。 その ケッカ ハジメ は ムコウ から くる の を まつ つもり で、 あんに ヨウイ を して いた ワタクシ が、 オリ が あったら こっち で クチ を きろう と ケッシン する よう に なった の です。
 ドウジ に ワタクシ は だまって ウチ の モノ の ヨウス を カンサツ して みました。 しかし オクサン の タイド にも オジョウサン の ソブリ にも、 べつに ヘイゼイ と かわった テン は ありません でした。 K の ジハク イゼン と ジハク イゴ と で、 カレラ の キョドウ に これ と いう サイ が しょうじない ならば、 カレ の ジハク は たんに ワタクシ だけ に かぎられた ジハク で、 カンジン の ホンニン にも、 また その カントクシャ たる オクサン にも、 まだ つうじて いない の は たしか でした。 そう かんがえた とき ワタクシ は すこし アンシン しました。 それで ムリ に キカイ を こしらえて、 わざとらしく ハナシ を もちだす より は、 シゼン の あたえて くれる もの を とりにがさない よう に する ほう が よかろう と おもって、 レイ の モンダイ には しばらく テ を つけず に そっと して おく こと に しました。
 こう いって しまえば たいへん カンタン に きこえます が、 そうした ココロ の ケイカ には、 シオ の ミチヒ と おなじ よう に、 イロイロ の タカビク が あった の です。 ワタクシ は K の うごかない ヨウス を みて、 それ に サマザマ の イミ を つけくわえました。 オクサン と オジョウサン の ゲンゴ ドウサ を カンサツ して、 フタリ の ココロ が はたして そこ に あらわれて いる とおり なの だろう か と うたがって も みました。 そうして ニンゲン の ムネ の ナカ に ソウチ された フクザツ な キカイ が、 トケイ の ハリ の よう に、 メイリョウ に イツワリ なく、 バンジョウ の スウジ を さしうる もの だろう か と かんがえました。 ようするに ワタクシ は おなじ こと を こう も とり、 ああ も とり した アゲク、 ようやく ここ に おちついた もの と おもって ください。 さらに むずかしく いえば、 おちつく など と いう コトバ は、 この サイ けっして つかわれた ギリ で なかった の かも しれません。
 そのうち ガッコウ が また はじまりました。 ワタクシタチ は ジカン の おなじ ヒ には つれだって ウチ を でます。 ツゴウ が よければ かえる とき にも やはり イッショ に かえりました。 ガイブ から みた K と ワタクシ は、 なんにも マエ と ちがった ところ が ない よう に したしく なった の です。 けれども ハラ の ナカ では、 テンデン に テンデン の こと を カッテ に かんがえて いた に チガイ ありません。 ある ヒ ワタクシ は とつぜん オウライ で K に ニクハク しました。 ワタクシ が ダイイチ に きいた の は、 コノアイダ の ジハク が ワタクシ だけ に かぎられて いる か、 または オクサン や オジョウサン にも つうじて いる か の テン に あった の です。 ワタクシ の これから とる べき タイド は、 この トイ に たいする カレ の コタエ-シダイ で きめなければ ならない と、 ワタクシ は おもった の です。 すると カレ は ホカ の ヒト には まだ ダレ にも うちあけて いない と メイゲン しました。 ワタクシ は ジジョウ が ジブン の スイサツドオリ だった ので、 ナイシン うれしがりました。 ワタクシ は K の ワタクシ より オウチャク なの を よく しって いました。 カレ の ドキョウ にも かなわない と いう ジカク が あった の です。 けれども イッポウ では また ミョウ に カレ を しんじて いました。 ガクシ の こと で ヨウカ を 3 ネン も あざむいて いた カレ です けれども、 カレ の シンヨウ は ワタクシ に たいして すこしも そこなわれて いなかった の です。 ワタクシ は それ が ため に かえって カレ を しんじだした くらい です。 だから いくら うたがいぶかい ワタクシ でも、 メイハク な カレ の コタエ を ハラ の ナカ で ヒテイ する キ は オコリヨウ が なかった の です。
 ワタクシ は また カレ に むかって、 カレ の コイ を どう とりあつかう つもり か と たずねました。 それ が たんなる ジハク に すぎない の か、 または その ジハク に ついで、 ジッサイテキ の コウカ をも おさめる キ なの か と とうた の です。 しかるに カレ は そこ に なる と、 なんにも こたえません。 だまって シタ を むいて あるきだします。 ワタクシ は カレ に カクシダテ を して くれるな、 すべて おもった とおり を はなして くれ と たのみました。 カレ は なにも ワタクシ に かくす ヒツヨウ は ない と はっきり ダンゲン しました。 しかし ワタクシ の しろう と する テン には、 イチゴン の ヘンジ も あたえない の です。 ワタクシ も オウライ だ から わざわざ たちどまって ソコ まで つきとめる わけ に いきません。 つい ソレナリ に して しまいました。

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 ある ヒ ワタクシ は ヒサシブリ に ガッコウ の トショカン に はいりました。 ワタクシ は ひろい ツクエ の カタスミ で マド から さす コウセン を ハンシン に うけながら、 シンチャク の ガイコク ザッシ を、 あちらこちら と ひっくりかえして みて いました。 ワタクシ は タンニン キョウシ から センコウ の ガッカ に かんして、 ツギ の シュウ まで に ある ジコウ を しらべて こい と めいぜられた の です。 しかし ワタクシ に ヒツヨウ な コトガラ が なかなか みつからない ので、 ワタクシ は 2 ド も 3 ド も ザッシ を かりかえなければ なりません でした。 サイゴ に ワタクシ は やっと ジブン に ヒツヨウ な ロンブン を さがしだして、 イッシン に それ を よみだしました。 すると とつぜん ハバ の ひろい ツクエ の ムコウガワ から ちいさな コエ で ワタクシ の ナ を よぶ モノ が あります。 ワタクシ は ふと メ を あげて そこ に たって いる K を みました。 K は その ジョウハンシン を ツクエ の ウエ に おりまげる よう に して、 カレ の カオ を ワタクシ に ちかづけました。 ゴショウチ の とおり トショカン では ホカ の ヒト の ジャマ に なる よう な おおきな コエ で ハナシ を する わけ に ゆかない の です から、 K の この ショサ は ダレ でも やる フツウ の こと なの です が、 ワタクシ は その とき に かぎって、 イッシュ ヘン な ココロモチ が しました。
 K は ひくい コエ で ベンキョウ か と ききました。 ワタクシ は ちょっと シラベモノ が ある の だ と こたえました。 それでも K は まだ その カオ を ワタクシ から はなしません。 おなじ ひくい チョウシ で イッショ に サンポ を しない か と いう の です。 ワタクシ は すこし まって いれば して も いい と こたえました。 カレ は まって いる と いった まま、 すぐ ワタクシ の マエ の クウセキ に コシ を おろしました。 すると ワタクシ は キ が ちって キュウ に ザッシ が よめなく なりました。 なんだか K の ムネ に イチモツ が あって、 ダンパン でも し に こられた よう に おもわれて シカタ が ない の です。 ワタクシ は やむ を えず よみかけた ザッシ を ふせて、 たちあがろう と しました。 K は おちつきはらって もう すんだ の か と ききます。 ワタクシ は どうでも いい の だ と こたえて、 ザッシ を かえす と ともに、 K と トショカン を でました。
 フタリ は べつに ゆく ところ も なかった ので、 タツオカ-チョウ から イケノハタ へ でて、 ウエノ の コウエン の ナカ へ はいりました。 その とき カレ は レイ の ジケン に ついて、 とつぜん ムコウ から クチ を きりました。 ゼンゴ の ヨウス を ソウゴウ して かんがえる と、 K は その ため に ワタクシ を わざわざ サンポ に ひっぱりだした らしい の です。 けれども カレ の タイド は まだ ジッサイテキ の ホウメン へ むかって ちっとも すすんで いません でした。 カレ は ワタクシ に むかって、 ただ ばくぜん と、 どう おもう と いう の です。 どう おもう と いう の は、 そうした レンアイ の フチ に おちいった カレ を、 どんな メ で ワタクシ が ながめる か と いう シツモン なの です。 イチゴン で いう と、 カレ は ゲンザイ の ジブン に ついて、 ワタクシ の ヒハン を もとめたい よう なの です。 そこ に ワタクシ は カレ の ヘイゼイ と ことなる テン を たしか に みとめる こと が できた と おもいました。 たびたび くりかえす よう です が、 カレ の テンセイ は ヒト の オモワク を はばかる ほど よわく できあがって は いなかった の です。 こう と しんじたら ヒトリ で どんどん すすんで ゆく だけ の ドキョウ も あり ユウキ も ある オトコ なの です。 ヨウカ ジケン で その トクショク を つよく ムネ の ウチ に ほりつけられた ワタクシ が、 これ は ヨウス が ちがう と あきらか に イシキ した の は トウゼン の ケッカ なの です。
 ワタクシ が K に むかって、 この サイ なんで ワタクシ の ヒヒョウ が ヒツヨウ なの か と たずねた とき、 カレ は イツモ にも にない しょうぜん と した クチョウ で、 ジブン の よわい ニンゲン で ある の が じっさい はずかしい と いいました。 そうして まよって いる から ジブン で ジブン が わからなく なって しまった ので、 ワタクシ に コウヘイ な ヒヒョウ を もとめる より ホカ に シカタ が ない と いいました。 ワタクシ は すかさず まよう と いう イミ を ききただしました。 カレ は すすんで いい か しりぞいて いい か、 それ に まよう の だ と セツメイ しました。 ワタクシ は すぐ イッポ サキ へ でました。 そうして しりぞこう と おもえば しりぞける の か と カレ に ききました。 すると カレ の コトバ が そこ で フイ に ゆきつまりました。 カレ は ただ くるしい と いった だけ でした。 じっさい カレ の ヒョウジョウ には くるしそう な ところ が ありあり と みえて いました。 もし アイテ が オジョウサン で なかった ならば、 ワタクシ は どんな に カレ に ツゴウ の いい ヘンジ を、 その かわききった カオ の ウエ に ジウ の ごとく そそいで やった か わかりません。 ワタクシ は その くらい の うつくしい ドウジョウ を もって うまれて きた ニンゲン と ジブン ながら しんじて います。 しかし その とき の ワタクシ は ちがって いました。

ココロ 「センセイ と イショ 6」

2015-04-05 | ナツメ ソウセキ
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 ワタクシ は ちょうど タリュウ-ジアイ でも する ヒト の よう に K を チュウイ して みて いた の です。 ワタクシ は、 ワタクシ の メ、 ワタクシ の ココロ、 ワタクシ の カラダ、 すべて ワタクシ と いう ナ の つく もの を ゴブ の スキマ も ない よう に ヨウイ して、 K に むかった の です。 ツミ の ない K は アナ-だらけ と いう より むしろ アケハナシ と ひょうする の が テキトウ な くらい に ブヨウジン でした。 ワタクシ は カレ ジシン の テ から、 カレ の ホカン して いる ヨウサイ の チズ を うけとって、 カレ の メノマエ で ゆっくり それ を ながめる こと が できた も おなじ でした。
 K が リソウ と ゲンジツ の アイダ に ホウコウ して ふらふら して いる の を ハッケン した ワタクシ は、 ただ ヒトウチ で カレ を たおす こと が できる だろう と いう テン に ばかり メ を つけました。 そうして すぐ カレ の キョ に つけこんだ の です。 ワタクシ は カレ に むかって キュウ に ゲンシュク な あらたまった タイド を しめしだしました。 むろん サクリャク から です が、 その タイド に ソウオウ する くらい な キンチョウ した キブン も あった の です から、 ジブン に コッケイ だの シュウチ だの を かんずる ヨユウ は ありません でした。 ワタクシ は まず 「セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は バカ だ」 と いいはなちました。 これ は フタリ で ボウシュウ を リョコウ して いる サイ、 K が ワタクシ に むかって つかった コトバ です。 ワタクシ は カレ の つかった とおり を、 カレ と おなじ よう な クチョウ で、 ふたたび カレ に なげかえした の です。 しかし けっして フクシュウ では ありません。 ワタクシ は フクシュウ イジョウ に ザンコク な イミ を もって いた と いう こと を ジハク します。 ワタクシ は その イチゴン で K の マエ に よこたわる コイ の ユクテ を ふさごう と した の です。
 K は シンシュウデラ に うまれた オトコ でした。 しかし カレ の ケイコウ は チュウガク ジダイ から けっして セイカ の シュウシ に ちかい もの では なかった の です。 キョウギジョウ の クベツ を よく しらない ワタクシ が、 こんな こと を いう シカク に とぼしい の は ショウチ して います が、 ワタクシ は ただ ナンニョ に カンケイ した テン に ついて のみ、 そう みとめて いた の です。 K は ムカシ から ショウジン と いう コトバ が すき でした。 ワタクシ は その コトバ の ナカ に、 キンヨク と いう イミ も こもって いる の だろう と カイシャク して いました。 しかし アト で ジッサイ を きいて みる と、 それ より も まだ ゲンジュウ な イミ が ふくまれて いる ので、 ワタクシ は おどろきました。 ミチ の ため には スベテ を ギセイ に す べき もの だ と いう の が カレ の ダイイチ シンジョウ なの です から、 セツヨク や キンヨク は むろん、 たとい ヨク を はなれた コイ ソノモノ でも ミチ の サマタゲ に なる の です。 K が ジカツ セイカツ を して いる ジブン に、 ワタクシ は よく カレ から カレ の シュチョウ を きかされた の でした。 その コロ から オジョウサン を おもって いた ワタクシ は、 いきおい どうしても カレ に ハンタイ しなければ ならなかった の です。 ワタクシ が ハンタイ する と、 カレ は いつでも キノドク そう な カオ を しました。 そこ には ドウジョウ より も ブベツ の ほう が ヨケイ に あらわれて いました。
 こういう カコ を フタリ の アイダ に とおりぬけて きて いる の です から、 セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は バカ だ と いう コトバ は、 K に とって いたい に ちがいなかった の です。 しかし マエ にも いった とおり、 ワタクシ は この イチゴン で、 カレ が せっかく つみあげた カコ を けちらした つもり では ありません。 かえって それ を イマ まで-どおり つみかさねて ゆかせよう と した の です。 それ が ミチ に たっしよう が、 テン に とどこう が、 ワタクシ は かまいません。 ワタクシ は ただ K が キュウ に セイカツ の ホウコウ を テンカン して、 ワタクシ の リガイ と ショウトツ する の を おそれた の です。 ようするに ワタクシ の コトバ は たんなる リコシン の ハツゲン でした。
「セイシンテキ に コウジョウシン の ない モノ は、 バカ だ」
 ワタクシ は 2 ド おなじ コトバ を くりかえしました。 そうして、 その コトバ が K の ウエ に どう エイキョウ する か を みつめて いました。
「バカ だ」 と やがて K が こたえました。 「ボク は バカ だ」
 K は ぴたり と そこ へ たちどまった まま うごきません。 カレ は ジメン の ウエ を みつめて います。 ワタクシ は おもわず ぎょっと しました。 ワタクシ には K が その セツナ に イナオリ ゴウトウ の ごとく かんぜられた の です。 しかし それにしては カレ の コエ が いかにも チカラ に とぼしい と いう こと に キ が つきました。 ワタクシ は カレ の メヅカイ を サンコウ に したかった の です が、 カレ は サイゴ まで ワタクシ の カオ を みない の です。 そうして、 そろそろ と また あるきだしました。

 42

 ワタクシ は K と ならんで アシ を はこばせながら、 カレ の クチ を でる ツギ の コトバ を ハラ の ナカ で あんに まちうけました。 あるいは マチブセ と いった ほう が まだ テキトウ かも しれません。 その とき の ワタクシ は たとい K を ダマシウチ に して も かまわない くらい に おもって いた の です。 しかし ワタクシ にも キョウイク ソウトウ の リョウシン は あります から、 もし ダレ か ワタクシ の ソバ へ きて、 オマエ は ヒキョウ だ と ヒトコト ささやいて くれる モノ が あった なら、 ワタクシ は その シュンカン に、 はっと ワレ に たちかえった かも しれません。 もし K が その ヒト で あった なら、 ワタクシ は おそらく カレ の マエ に セキメン した でしょう。 ただ K は ワタクシ を たしなめる には あまり に ショウジキ でした。 あまり に タンジュン でした。 あまり に ジンカク が ゼンリョウ だった の です。 メ の くらんだ ワタクシ は、 そこ に ケイイ を はらう こと を わすれて、 かえって そこ に つけこんだ の です。 そこ を リヨウ して カレ を うちたおそう と した の です。
 K は しばらく して、 ワタクシ の ナ を よんで ワタクシ の ほう を みました。 コンド は ワタクシ の ほう で しぜん と アシ を とめました。 すると K も とまりました。 ワタクシ は その とき やっと K の メ を マムキ に みる こと が できた の です。 K は ワタクシ より セイ の たかい オトコ でした から、 ワタクシ は いきおい カレ の カオ を みあげる よう に しなければ なりません。 ワタクシ は そうした タイド で、 オオカミ の ごとき ココロ を ツミ の ない ヒツジ に むけた の です。
「もう その ハナシ は やめよう」 と カレ が いいました。 カレ の メ にも カレ の コトバ にも へんに ヒツウ な ところ が ありました。 ワタクシ は ちょっと アイサツ が できなかった の です。 すると K は、 「やめて くれ」 と コンド は たのむ よう に いいなおしました。 ワタクシ は その とき カレ に むかって ザンコク な コタエ を あたえた の です。 オオカミ が スキ を みて ヒツジ の ノドブエ へ くらいつく よう に。
「やめて くれ って、 ボク が いいだした こと じゃ ない、 もともと キミ の ほう から もちだした ハナシ じゃ ない か。 しかし キミ が やめたければ、 やめて も いい が、 ただ クチ の サキ で やめたって シカタ が あるまい。 キミ の ココロ で それ を やめる だけ の カクゴ が なければ。 いったい キミ は キミ の ヘイゼイ の シュチョウ を どう する つもり なの か」
 ワタクシ が こう いった とき、 セイ の たかい カレ は しぜん と ワタクシ の マエ に イシュク して ちいさく なる よう な カンジ が しました。 カレ は いつも はなす とおり すこぶる ゴウジョウ な オトコ でした けれども、 イッポウ では また ヒトイチバイ の ショウジキモノ でした から、 ジブン の ムジュン など を ひどく ヒナン される バアイ には、 けっして ヘイキ で いられない タチ だった の です。 ワタクシ は カレ の ヨウス を みて ようやく アンシン しました。 すると カレ は そつぜん 「カクゴ?」 と ききました。 そうして ワタクシ が まだ なんとも こたえない サキ に 「カクゴ、 ――カクゴ なら ない こと も ない」 と つけくわえました。 カレ の チョウシ は ヒトリゴト の よう でした。 また ユメ の ナカ の コトバ の よう でした。
 フタリ は それぎり ハナシ を きりあげて、 コイシカワ の ヤド の ほう に アシ を むけました。 わりあい に カゼ の ない あたたか な ヒ でした けれども、 なにしろ フユ の こと です から、 コウエン の ナカ は さびしい もの でした。 ことに シモ に うたれて アオミ を うしなった スギ の コダチ の チャカッショク が、 うすぐろい ソラ の ナカ に、 コズエ を ならべて そびえて いる の を ふりかえって みた とき は、 サムサ が セナカ へ かじりついた よう な ココロモチ が しました。 ワレワレ は ユウグレ の ホンゴウダイ を イソギアシ で どしどし とおりぬけて、 また ムコウ の オカ へ のぼる べく コイシカワ の タニ へ おりた の です。 ワタクシ は その コロ に なって、 ようやく ガイトウ の シタ に タイ の アタタカミ を かんじだした くらい です。
 いそいだ ため でも ありましょう が、 ワレワレ は カエリミチ には ほとんど クチ を ききません でした。 ウチ へ かえって ショクタク に むかった とき、 オクサン は どうして おそく なった の か と たずねました。 ワタクシ は K に さそわれて ウエノ へ いった と こたえました。 オクサン は この さむい のに と いって おどろいた ヨウス を みせました。 オジョウサン は ウエノ に ナニ が あった の か と ききたがります。 ワタクシ は なにも ない が、 ただ サンポ した の だ と いう ヘンジ だけ して おきました。 ヘイゼイ から ムクチ な K は、 イツモ より なお だまって いました。 オクサン が はなしかけて も、 オジョウサン が わらって も、 ろく な アイサツ は しません でした。 それから メシ を のみこむ よう に かきこんで、 ワタクシ が まだ セキ を たたない うち に、 ジブン の ヘヤ へ ひきとりました。

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 その コロ は カクセイ とか あたらしい セイカツ とか いう モンジ の まだ ない ジブン でした。 しかし K が ふるい ジブン を さらり と なげだして、 イチイ に あたらしい ホウガク へ はしりださなかった の は、 ゲンダイジン の カンガエ が カレ に かけて いた から では ない の です。 カレ には なげだす こと の できない ほど たっとい カコ が あった から です。 カレ は その ため に コンニチ まで いきて きた と いって も いい くらい なの です。 だから K が イッチョクセン に アイ の モクテキブツ に むかって モウシン しない と いって、 けっして その アイ の なまぬるい こと を ショウコ-だてる わけ には ゆきません。 いくら シレツ な カンジョウ が もえて いて も、 カレ は むやみ に うごけない の です。 ゼンゴ を わすれる ほど の ショウドウ が おこる キカイ を カレ に あたえない イジョウ、 K は どうしても ちょっと ふみとどまって ジブン の カコ を ふりかえらなければ ならなかった の です。 そう する と カコ が さししめす ミチ を イマ まで-どおり あるかなければ ならなく なる の です。 そのうえ カレ には ゲンダイジン の もたない ゴウジョウ と ガマン が ありました。 ワタクシ は この ソウホウ の テン に おいて よく カレ の ココロ を みぬいて いた つもり なの です。
 ウエノ から かえった バン は、 ワタクシ に とって ヒカクテキ アンセイ な ヨ でした。 ワタクシ は K が ヘヤ へ ひきあげた アト を おいかけて、 カレ の ツクエ の ソバ に すわりこみました。 そうして トリトメ も ない セケンバナシ を わざと カレ に しむけました。 カレ は メイワク そう でした。 ワタクシ の メ には ショウリ の イロ が たしょう かがやいて いた でしょう、 ワタクシ の コエ には たしか に トクイ の ヒビキ が あった の です。 ワタクシ は しばらく K と ヒトツ ヒバチ に テ を かざした アト、 ジブン の ヘヤ に かえりました。 ホカ の こと に かけて は ナニ を して も カレ に およばなかった ワタクシ も、 その とき だけ は おそるる に たりない と いう ジカク を カレ に たいして もって いた の です。
 ワタクシ は ほどなく おだやか な ネムリ に おちました。 しかし とつぜん ワタクシ の ナ を よぶ コエ で メ を さましました。 みる と、 アイダ の フスマ が 2 シャク ばかり あいて、 そこ に K の くろい カゲ が たって います。 そうして カレ の ヘヤ には ヨイ の とおり まだ アカリ が ついて いる の です。 キュウ に セカイ の かわった ワタクシ は、 すこし の アイダ クチ を きく こと も できず に、 ぼうっと して、 その コウケイ を ながめて いました。
 その とき K は もう ねた の か と ききました。 K は いつでも おそく まで おきて いる オトコ でした。 ワタクシ は くろい カゲボウシ の よう な K に むかって、 ナニ か ヨウ か と ききかえしました。 K は たいした ヨウ でも ない、 ただ もう ねた か、 まだ おきて いる か と おもって、 ベンジョ へ いった ツイデ に きいて みた だけ だ と こたえました。 K は ランプ の ヒ を セナカ に うけて いる ので、 カレ の カオイロ や メツキ は、 まったく ワタクシ には わかりません でした。 けれども カレ の コエ は フダン より も かえって おちついて いた くらい でした。
 K は やがて あけた フスマ を ぴたり と たてきりました。 ワタクシ の ヘヤ は すぐ モト の クラヤミ に かえりました。 ワタクシ は その クラヤミ より しずか な ユメ を みる べく また メ を とじました。 ワタクシ は それぎり なにも しりません。 しかし ヨクアサ に なって、 ユウベ の こと を かんがえて みる と、 なんだか フシギ でした。 ワタクシ は コト に よる と、 スベテ が ユメ では ない か と おもいました。 それで メシ を くう とき、 K に ききました。 K は たしか に フスマ を あけて ワタクシ の ナ を よんだ と いいます。 なぜ そんな こと を した の か と たずねる と、 べつに はっきり した ヘンジ も しません。 チョウシ の ぬけた コロ に なって、 チカゴロ は ジュクスイ が できる の か と かえって ムコウ から ワタクシ に とう の です。 ワタクシ は なんだか ヘン に かんじました。
 その ヒ は ちょうど おなじ ジカン に コウギ の はじまる ジカンワリ に なって いた ので、 フタリ は やがて イッショ に ウチ を でました。 ケサ から ユウベ の こと が キ に かかって いる ワタクシ は、 トチュウ で また K を ツイキュウ しました。 けれども K は やはり ワタクシ を マンゾク させる よう な コタエ を しません。 ワタクシ は あの ジケン に ついて ナニ か はなす つもり では なかった の か と ネン を おして みました。 K は そう では ない と つよい チョウシ で いいきりました。 キノウ ウエノ で 「その ハナシ は もう やめよう」 と いった では ない か と チュウイ する ごとく にも きこえました。 K は そういう テン に かけて するどい ジソンシン を もった オトコ なの です。 ふと そこ に キ の ついた ワタクシ は とつぜん カレ の もちいた 「カクゴ」 と いう コトバ を レンソウ しだしました。 すると イマ まで まるで キ に ならなかった その 2 ジ が ミョウ な チカラ で ワタクシ の アタマ を おさえはじめた の です。

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 K の カダン に とんだ セイカク は ワタクシ に よく しれて いました。 カレ の この ジケン に ついて のみ ユウジュウ な ワケ も ワタクシ には ちゃんと のみこめて いた の です。 つまり ワタクシ は イッパン を こころえた うえ で、 レイガイ の バアイ を しっかり つらまえた つもり で トクイ だった の です。 ところが 「カクゴ」 と いう カレ の コトバ を、 アタマ の ナカ で ナンベン も ソシャク して いる うち に、 ワタクシ の トクイ は だんだん イロ を うしなって、 シマイ には ぐらぐら うごきはじめる よう に なりました。 ワタクシ は この バアイ も あるいは カレ に とって レイガイ で ない の かも しれない と おもいだした の です。 スベテ の ギワク、 ハンモン、 オウノウ、 を イチド に カイケツ する サイゴ の シュダン を、 カレ は ムネ の ナカ に たたみこんで いる の では なかろう か と うたぐりはじめた の です。 そうした あたらしい ヒカリ で カクゴ の 2 ジ を ながめかえして みた ワタクシ は、 はっと おどろきました。 その とき の ワタクシ が もし この オドロキ を もって、 もう イッペン カレ の クチ に した カクゴ の ナイヨウ を コウヘイ に みまわしたらば、 まだ よかった かも しれません。 かなしい こと に ワタクシ は メッカチ でした。 ワタクシ は ただ K が オジョウサン に たいして すすんで ゆく と いう イミ に その コトバ を カイシャク しました。 カダン に とんだ カレ の セイカク が、 コイ の ホウメン に ハッキ される の が すなわち カレ の カクゴ だろう と イチズ に おもいこんで しまった の です。
 ワタクシ は ワタクシ にも サイゴ の ケツダン が ヒツヨウ だ と いう コエ を ココロ の ミミ で ききました。 ワタクシ は すぐ その コエ に おうじて ユウキ を ふりおこしました。 ワタクシ は K より サキ に、 しかも K の しらない マ に、 コト を はこばなくて は ならない と カクゴ を きめました。 ワタクシ は だまって キカイ を ねらって いました。 しかし フツカ たって も ミッカ たって も、 ワタクシ は それ を つらまえる こと が できません。 ワタクシ は K の いない とき、 また オジョウサン の ルス な オリ を まって、 オクサン に ダンパン を ひらこう と かんがえた の です。 しかし カタホウ が いなければ、 カタホウ が ジャマ を する と いった フウ の ヒ ばかり つづいて、 どうしても 「イマ だ」 と おもう コウツゴウ が でて きて くれない の です。 ワタクシ は いらいら しました。
 1 シュウカン の ノチ ワタクシ は とうとう たえきれなく なって ケビョウ を つかいました。 オクサン から も オジョウサン から も、 K ジシン から も、 おきろ と いう サイソク を うけた ワタクシ は、 ナマヘンジ を した だけ で、 10 ジ-ゴロ まで フトン を かぶって ねて いました。 ワタクシ は K も オジョウサン も いなく なって、 イエ の ナカ が ひっそり しずまった コロ を みはからって ネドコ を でました。 ワタクシ の カオ を みた オクサン は、 すぐ どこ が わるい か と たずねました。 タベモノ は マクラモト へ はこんで やる から、 もっと ねて いたら よかろう と チュウコク して も くれました。 カラダ に イジョウ の ない ワタクシ は、 とても ねる キ には なれません。 カオ を あらって イツモ の とおり チャノマ で メシ を くいました。 その とき オクサン は ナガヒバチ の ムコウガワ から キュウジ を して くれた の です。 ワタクシ は アサメシ とも ヒルメシ とも かたづかない チャワン を テ に もった まま、 どんな ふう に モンダイ を きりだした もの だろう か と、 それ ばかり に クッタク して いた から、 ガイカン から は じっさい キブン の よく ない ビョウニン-らしく みえた だろう と おもいます。
 ワタクシ は メシ を しまって タバコ を ふかしだしました。 ワタクシ が たたない ので オクサン も ヒバチ の ソバ を はなれる わけ に ゆきません。 ゲジョ を よんで ゼン を さげさせた うえ、 テツビン に ミズ を さしたり、 ヒバチ の フチ を ふいたり して、 ワタクシ に チョウシ を あわせて います。 ワタクシ は オクサン に トクベツ な ヨウジ でも ある の か と といました。 オクサン は いいえ と こたえました が、 コンド は ムコウ で なぜ です と ききかえして きました。 ワタクシ は じつは すこし はなしたい こと が ある の だ と いいました。 オクサン は ナン です か と いって、 ワタクシ の カオ を みました。 オクサン の チョウシ は まるで ワタクシ の キブン に はいりこめない よう な かるい もの でした から、 ワタクシ は ツギ に だす べき モンク も すこし しぶりました。
 ワタクシ は しかたなし に コトバ の ウエ で、 イイカゲン に うろつきまわった スエ、 K が チカゴロ ナニ か いい は しなかった か と オクサン に きいて みました。 オクサン は おもい も よらない と いう フウ を して、 「ナニ を?」 と また ハンモン して きました。 そうして ワタクシ の こたえる マエ に、 「アナタ には ナニ か おっしゃった ん です か」 と かえって ムコウ で きく の です。

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 K から きかされた ウチアケバナシ を、 オクサン に つたえる キ の なかった ワタクシ は、 「いいえ」 と いって しまった アト で、 すぐ ジブン の ウソ を こころよからず かんじました。 シカタ が ない から、 べつだん なにも たのまれた オボエ は ない の だ から、 K に かんする ヨウケン では ない の だ と いいなおしました。 オクサン は 「そう です か」 と いって、 アト を まって います。 ワタクシ は どうしても きりださなければ ならなく なりました。 ワタクシ は とつぜん 「オクサン、 オジョウサン を ワタクシ に ください」 と いいました。 オクサン は ワタクシ の ヨキ して かかった ほど おどろいた ヨウス も みせません でした が、 それでも しばらく ヘンジ が できなかった もの と みえて、 だまって ワタクシ の カオ を ながめて いました。 イチド いいだした ワタクシ は、 いくら カオ を みられて も、 それ に トンジャク など は して いられません。 「ください、 ぜひ ください」 と いいました。 「ワタクシ の ツマ と して ぜひ ください」 と いいました。 オクサン は トシ を とって いる だけ に、 ワタクシ より も ずっと おちついて いました。 「あげて も いい が、 あんまり キュウ じゃ ありません か」 と きく の です。 ワタクシ が 「キュウ に もらいたい の だ」 と すぐ こたえたら わらいだしました。 そうして 「よく かんがえた の です か」 と ネン を おす の です。 ワタクシ は いいだした の は トツゼン でも、 かんがえた の は トツゼン で ない と いう ワケ を つよい コトバ で セツメイ しました。
 それから まだ フタツ ミッツ の モンドウ が ありました が、 ワタクシ は それ を わすれて しまいました。 オトコ の よう に はきはき した ところ の ある オクサン は、 フツウ の オンナ と ちがって こんな バアイ には たいへん ココロモチ よく ハナシ の できる ヒト でした。 「よ ござんす、 さしあげましょう」 と いいました。 「さしあげる なんて いばった クチ の きける キョウグウ では ありません。 どうぞ もらって ください。 ゴゾンジ の とおり チチオヤ の ない あわれ な コ です」 と アト では ムコウ から たのみました。
 ハナシ は カンタン で かつ メイリョウ に かたづいて しまいました。 サイショ から シマイ まで に おそらく 15 フン とは かからなかった でしょう。 オクサン は なんの ジョウケン も もちださなかった の です。 シンルイ に ソウダン する ヒツヨウ も ない、 アト から ことわれば それ で タクサン だ と いいました。 ホンニン の イコウ さえ たしかめる に およばない と メイゲン しました。 そんな テン に なる と、 ガクモン を した ワタクシ の ほう が、 かえって ケイシキ に コウデイ する くらい に おもわれた の です。 シンルイ は とにかく、 トウニン には あらかじめ はなして ショウダク を うる の が ジュンジョ-らしい と ワタクシ が チュウイ した とき、 オクサン は 「だいじょうぶ です。 ホンニン が フショウチ の ところ へ、 ワタクシ が あの コ を やる はず が ありません から」 と いいました。
 ジブン の ヘヤ へ かえった ワタクシ は、 コト の あまり に ワケ も なく シンコウ した の を かんがえて、 かえって ヘン な キモチ に なりました。 はたして だいじょうぶ なの だろう か と いう ギネン さえ、 どこ から か アタマ の ソコ に はいこんで きた くらい です。 けれども ダイタイ の ウエ に おいて、 ワタクシ の ミライ の ウンメイ は、 これ で さだめられた の だ と いう カンネン が ワタクシ の スベテ を あらた に しました。
 ワタクシ は ヒルゴロ また チャノマ へ でかけて いって、 オクサン に、 ケサ の ハナシ を オジョウサン に いつ つうじて くれる つもり か と たずねました。 オクサン は、 ジブン さえ ショウチ して いれば、 いつ はなして も かまわなかろう と いう よう な こと を いう の です。 こう なる と なんだか ワタクシ より も アイテ の ほう が オトコ みた よう なので、 ワタクシ は それぎり ひきこもう と しました。 すると オクサン が ワタクシ を ひきとめて、 もし はやい ほう が キボウ ならば、 キョウ でも いい、 ケイコ から かえって きたら、 すぐ はなそう と いう の です。 ワタクシ は そうして もらう ほう が ツゴウ が いい と こたえて また ジブン の ヘヤ に かえりました。 しかし だまって ジブン の ツクエ の マエ に すわって、 フタリ の コソコソバナシ を トオク から きいて いる ワタクシ を ソウゾウ して みる と、 なんだか おちついて いられない よう な キ も する の です。 ワタクシ は とうとう ボウシ を かぶって オモテ へ でました。 そうして また サカ の シタ で オジョウサン に ゆきあいました。 なんにも しらない オジョウサン は ワタクシ を みて おどろいた らしかった の です。 ワタクシ が ボウシ を とって 「イマ オカエリ」 と たずねる と、 ムコウ では もう ビョウキ は なおった の か と フシギ そう に きく の です。 ワタクシ は 「ええ なおりました、 なおりました」 と こたえて、 ずんずん スイドウバシ の ほう へ まがって しまいました。

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 ワタクシ は サルガク-チョウ から ジンボウ-チョウ の トオリ へ でて、 オガワマチ の ほう へ まがりました。 ワタクシ が この カイワイ を あるく の は、 いつも フルホンヤ を ひやかす の が モクテキ でした が、 その ヒ は テズレ の した ショモツ など を ながめる キ が、 どうしても おこらない の です。 ワタクシ は あるきながら たえず ウチ の こと を かんがえて いました。 ワタクシ には サッキ の オクサン の キオク が ありました。 それから オジョウサン が ウチ へ かえって から の ソウゾウ が ありました。 ワタクシ は つまり この フタツ の もの で あるかせられて いた よう な もの です。 そのうえ ワタクシ は ときどき オウライ の マンナカ で われしらず ふと たちどまりました。 そうして イマゴロ は オクサン が オジョウサン に もう あの ハナシ を して いる ジブン だろう など と かんがえました。 また ある とき は、 もう あの ハナシ が すんだ コロ だ とも おもいました。
 ワタクシ は とうとう マンセイバシ を わたって、 ミョウジン の サカ を あがって、 ホンゴウダイ へ きて、 それから また キクザカ を おりて、 シマイ に コイシカワ の タニ へ おりた の です。 ワタクシ の あるいた キョリ は この 3 ク に またがって、 イビツ な エン を えがいた とも いわれる でしょう が、 ワタクシ は この ながい サンポ の アイダ ほとんど K の こと を かんがえなかった の です。 イマ その とき の ワタクシ を カイコ して、 なぜ だ と ジブン に きいて みて も いっこう わかりません。 ただ フシギ に おもう だけ です。 ワタクシ の ココロ が K を わすれうる くらい、 イッポウ に キンチョウ して いた と みれば それまで です が、 ワタクシ の リョウシン が また それ を ゆるす べき はず は なかった の です から。
 K に たいする ワタクシ の リョウシン が フッカツ した の は、 ワタクシ が ウチ の コウシ を あけて、 ゲンカン から ザシキ へ とおる とき、 すなわち レイ の ごとく カレ の ヘヤ を ぬけよう と した シュンカン でした。 カレ は イツモ の とおり ツクエ に むかって ショケン を して いました。 カレ は イツモ の とおり ショモツ から メ を はなして、 ワタクシ を みました。 しかし カレ は イツモ の とおり イマ かえった の か とは いいません でした。 カレ は 「ビョウキ は もう いい の か、 イシャ へ でも いった の か」 と ききました。 ワタクシ は その セツナ に、 カレ の マエ に テ を ついて、 あやまりたく なった の です。 しかも ワタクシ の うけた その とき の ショウドウ は けっして よわい もの では なかった の です。 もし K と ワタクシ が たった フタリ コウヤ の マンナカ に でも たって いた ならば、 ワタクシ は きっと リョウシン の メイレイ に したがって、 その バ で カレ に シャザイ したろう と おもいます。 しかし オク には ヒト が います。 ワタクシ の シゼン は すぐ そこ で くいとめられて しまった の です。 そうして かなしい こと に エイキュウ に フッカツ しなかった の です。
 ユウメシ の とき K と ワタクシ は また カオ を あわせました。 なんにも しらない K は ただ しずんで いた だけ で、 すこしも うたがいぶかい メ を ワタクシ に むけません。 なんにも しらない オクサン は イツモ より うれしそう でした。 ワタクシ だけ が スベテ を しって いた の です。 ワタクシ は ナマリ の よう な メシ を くいました。 その とき オジョウサン は イツモ の よう に ミンナ と おなじ ショクタク に ならびません でした。 オクサン が サイソク する と、 ツギ の ヘヤ で ただいま と こたえる だけ でした。 それ を K は フシギ そう に きいて いました。 シマイ に どうした の か と オクサン に たずねました。 オクサン は おおかた キマリ が わるい の だろう と いって、 ちょっと ワタクシ の カオ を みました。 K は なお フシギ そう に、 なんで キマリ が わるい の か と ツイキュウ し に かかりました。 オクサン は ビショウ しながら また ワタクシ の カオ を みる の です。
 ワタクシ は ショクタク に ついた ハジメ から、 オクサン の カオツキ で、 コト の ナリユキ を ほぼ スイサツ して いました。 しかし K に セツメイ を あたえる ため に、 ワタクシ の いる マエ で、 それ を ことごとく はなされて は たまらない と かんがえました。 オクサン は また その くらい の こと を ヘイキ で する オンナ なの です から、 ワタクシ は ひやひや した の です。 サイワイ に K は また モト の チンモク に かえりました。 ヘイゼイ より たしょう キゲン の よかった オクサン も、 とうとう ワタクシ の オソレ を いだいて いる テン まで は ハナシ を すすめず に しまいました。 ワタクシ は ほっと ヒトイキ して ヘヤ へ かえりました。 しかし ワタクシ が これから サキ K に たいして とる べき タイド は、 どうした もの だろう か、 ワタクシ は それ を かんがえず には いられません でした。 ワタクシ は イロイロ の ベンゴ を ジブン の ムネ で こしらえて みました。 けれども どの ベンゴ も K に たいして メン と むかう には たりません でした。 ヒキョウ な ワタクシ は ついに ジブン で ジブン を K に セツメイ する の が いや に なった の です。

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 ワタクシ は そのまま 2~3 ニチ すごしました。 その 2~3 ニチ の アイダ K に たいする たえざる フアン が ワタクシ の ムネ を おもく して いた の は いう まで も ありません。 ワタクシ は ただでさえ なんとか しなければ、 カレ に すまない と おもった の です。 そのうえ オクサン の チョウシ や、 オジョウサン の タイド が、 しじゅう ワタクシ を つっつく よう に シゲキ する の です から、 ワタクシ は なお つらかった の です。 どこ か おとこらしい キショウ を そなえた オクサン は、 いつ ワタクシ の こと を ショクタク で K に すっぱぬかない とも かぎりません。 それ イライ ことに めだつ よう に おもえた ワタクシ に たいする オジョウサン の キョシ ドウサ も、 K の ココロ を くもらす フシン の タネ と ならない とは ダンゲン できません。 ワタクシ は なんとか して、 ワタクシ と この カゾク との アイダ に なりたった あたらしい カンケイ を、 K に しらせなければ ならない イチ に たちました。 しかし リンリテキ に ジャクテン を もって いる と、 ジブン で ジブン を みとめて いる ワタクシ には、 それ が また シナン の こと の よう に かんぜられた の です。
 ワタクシ は シカタ が ない から、 オクサン に たのんで K に あらためて そう いって もらおう か と かんがえました。 むろん ワタクシ の いない とき に です。 しかし アリノママ を つげられて は、 チョクセツ と カンセツ の クベツ が ある だけ で、 メンボク の ない の に カワリ は ありません。 と いって、 コシラエゴト を はなして もらおう と すれば、 オクサン から その リユウ を キツモン される に きまって います。 もし オクサン に スベテ の ジジョウ を うちあけて たのむ と すれば、 ワタクシ は このんで ジブン の ジャクテン を ジブン の アイジン と その ハハオヤ の マエ に さらけださなければ なりません。 マジメ な ワタクシ には、 それ が ワタクシ の ミライ の シンヨウ に かんする と しか おもわれなかった の です。 ケッコン する マエ から コイビト の シンヨウ を うしなう の は、 たとい イチブ イチリン でも、 ワタクシ には たえきれない フコウ の よう に みえました。
 ようするに ワタクシ は ショウジキ な ミチ を あるく つもり で、 つい アシ を すべらした バカモノ でした。 もしくは コウカツ な オトコ でした。 そうして そこ に キ の ついて いる もの は、 イマ の ところ ただ テン と ワタクシ の ココロ だけ だった の です。 しかし たちなおって、 もう イッポ マエ へ ふみだそう と する には、 イマ すべった こと を ぜひとも シュウイ の ヒト に しられなければ ならない キュウキョウ に おちいった の です。 ワタクシ は あくまで すべった こと を かくしたがりました。 ドウジ に、 どうしても マエ へ でず には いられなかった の です。 ワタクシ は この アイダ に はさまって また たちすくみました。
 5~6 ニチ たった ノチ、 オクサン は とつぜん ワタクシ に むかって、 K に あの こと を はなした か と きく の です。 ワタクシ は まだ はなさない と こたえました。 すると なぜ はなさない の か と、 オクサン が ワタクシ を なじる の です。 ワタクシ は この トイ の マエ に かたく なりました。 その とき オクサン が ワタクシ を おどろかした コトバ を、 ワタクシ は イマ でも わすれず に おぼえて います。
「どうりで ワタシ が はなしたら ヘン な カオ を して いました よ。 アナタ も よく ない じゃ ありません か、 ヘイゼイ あんな に したしく して いる アイダガラ だ のに、 だまって しらん カオ を して いる の は」
 ワタクシ は K が その とき ナニ か いい は しなかった か と オクサン に ききました。 オクサン は べつだん なんにも いわない と こたえました。 しかし ワタクシ は すすんで もっと こまかい こと を たずねず には いられません でした。 オクサン は もとより なにも かくす わけ が ありません。 たいした ハナシ も ない が と いいながら、 いちいち K の ヨウス を かたって きかせて くれました。
 オクサン の いう ところ を ソウゴウ して かんがえて みる と、 K は この サイゴ の ダゲキ を、 もっとも おちついた オドロキ を もって むかえた らしい の です。 K は オジョウサン と ワタクシ との アイダ に むすばれた あたらしい カンケイ に ついて、 サイショ は そう です か と ただ ヒトクチ いった だけ だった そう です。 しかし オクサン が、 「アナタ も よろこんで ください」 と のべた とき、 カレ は はじめて オクサン の カオ を みて ビショウ を もらしながら、 「おめでとう ございます」 と いった まま セキ を たった そう です。 そうして チャノマ の ショウジ を あける マエ に、 また オクサン を ふりかえって、 「ケッコン は いつ です か」 と きいた そう です。 それから 「ナニ か オイワイ を あげたい が、 ワタクシ は カネ が ない から あげる こと が できません」 と いった そう です。 オクサン の マエ に すわって いた ワタクシ は、 その ハナシ を きいて ムネ が ふさがる よう な クルシサ を おぼえました。

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 カンジョウ して みる と オクサン が K に ハナシ を して から もう フツカ あまり に なります。 その アイダ K は ワタクシ に たいして すこしも イゼン と ことなった ヨウス を みせなかった ので、 ワタクシ は まったく それ に キ が つかず に いた の です。 カレ の ちょうぜん と した タイド は たとい ガイカン だけ にも せよ、 ケイフク に あたいす べき だ と ワタクシ は かんがえました。 カレ と ワタクシ を アタマ の ナカ で ならべて みる と、 カレ の ほう が はるか に リッパ に みえました。 「オレ は サクリャク で かって も ニンゲン と して は まけた の だ」 と いう カンジ が ワタクシ の ムネ に うずまいて おこりました。 ワタクシ は その とき さぞ K が ケイベツ して いる こと だろう と おもって、 ヒトリ で カオ を あからめました。 しかし いまさら K の マエ に でて、 ハジ を かかせられる の は、 ワタクシ の ジソンシン に とって おおいな クツウ でした。
 ワタクシ が すすもう か よそう か と かんがえて、 ともかくも あくる ヒ まで まとう と ケッシン した の は ドヨウ の バン でした。 ところが その バン に、 K は ジサツ して しんで しまった の です。 ワタクシ は イマ でも その コウケイ を おもいだす と ぞっと します。 いつも ヒガシマクラ で ねる ワタクシ が、 その バン に かぎって、 ぐうぜん ニシマクラ に トコ を しいた の も、 ナニ か の インネン かも しれません。 ワタクシ は マクラモト から ふきこむ さむい カゼ で ふと メ を さました の です。 みる と、 いつも たてきって ある K と ワタクシ の ヘヤ との シキリ の フスマ が、 コノアイダ の バン と おなじ くらい あいて います。 けれども コノアイダ の よう に、 K の くろい スガタ は そこ には たって いません。 ワタクシ は アンジ を うけた ヒト の よう に、 トコ の ウエ に ヒジ を ついて おきあがりながら、 きっと K の ヘヤ を のぞきました。 ランプ が くらく ともって いる の です。 それ で トコ も しいて ある の です。 しかし カケブトン は はねかえされた よう に スソ の ほう に かさなりあって いる の です。 そうして K ジシン は ムコウムキ に つっぷして いる の です。
 ワタクシ は おい と いって コエ を かけました。 しかし なんの コタエ も ありません。 おい どうか した の か と ワタクシ は また K を よびました。 それでも K の カラダ は ちっとも うごきません。 ワタクシ は すぐ おきあがって、 シキイギワ まで ゆきました。 そこ から カレ の ヘヤ の ヨウス を、 くらい ランプ の ヒカリ で みまわして みました。
 その とき ワタクシ の うけた ダイイチ の カンジ は、 K から とつぜん コイ の ジハク を きかされた とき の それ と ほぼ おなじ でした。 ワタクシ の メ は カレ の ヘヤ の ナカ を ヒトメ みる や いなや、 あたかも ガラス で つくった ギガン の よう に、 うごく ノウリョク を うしないました。 ワタクシ は ボウダチ に たちすくみました。 それ が シップウ の ごとく ワタクシ を ツウカ した アト で、 ワタクシ は また ああ しまった と おもいました。 もう トリカエシ が つかない と いう くろい ヒカリ が、 ワタクシ の ミライ を つらぬいて、 イッシュンカン に ワタクシ の マエ に よこたわる ゼンショウガイ を ものすごく てらしました。 そうして ワタクシ は がたがた ふるえだした の です。
 それでも ワタクシ は ついに ワタクシ を わすれる こと が できません でした。 ワタクシ は すぐ ツクエ の ウエ に おいて ある テガミ に メ を つけました。 それ は ヨキドオリ ワタクシ の ナアテ に なって いました。 ワタクシ は ムチュウ で フウ を きりました。 しかし ナカ には ワタクシ の ヨキ した よう な こと は なんにも かいて ありません でした。 ワタクシ は ワタクシ に とって どんな に つらい モンク が その ナカ に かきつらねて ある だろう と ヨキ した の です。 そうして、 もし それ が オクサン や オジョウサン の メ に ふれたら、 どんな に ケイベツ される かも しれない と いう キョウフ が あった の です。 ワタクシ は ちょっと メ を とおした だけ で、 まず たすかった と おもいました。 (もとより セケンテイ の ウエ だけ で たすかった の です が、 その セケンテイ が この バアイ、 ワタクシ に とって は ヒジョウ な ジュウダイ ジケン に みえた の です。)
 テガミ の ナイヨウ は カンタン でした。 そうして むしろ チュウショウテキ でした。 ジブン は ハクシ ジャッコウ で とうてい ユクサキ の ノゾミ が ない から、 ジサツ する と いう だけ なの です。 それから イマ まで ワタクシ に セワ に なった レイ が、 ごく あっさり した モンク で その アト に つけくわえて ありました。 セワ ツイデ に シゴ の カタヅケカタ も たのみたい と いう コトバ も ありました。 オクサン に メイワク を かけて すまん から よろしく ワビ を して くれ と いう ク も ありました。 クニモト へは ワタクシ から しらせて もらいたい と いう イライ も ありました。 ヒツヨウ な こと は みんな ヒトクチ ずつ かいて ある ナカ に オジョウサン の ナマエ だけ は どこ にも みえません。 ワタクシ は シマイ まで よんで、 すぐ K が わざと カイヒ した の だ と いう こと に キ が つきました。 しかし ワタクシ の もっとも ツウセツ に かんじた の は、 サイゴ に スミ の アマリ で かきそえた らしく みえる、 もっと はやく しぬ べき だ のに なぜ イマ まで いきて いた の だろう と いう イミ の モンク でした。
 ワタクシ は ふるえる テ で、 テガミ を まきおさめて、 ふたたび フウ の ナカ へ いれました。 ワタクシ は わざと それ を ミンナ の メ に つく よう に、 モト の とおり ツクエ の ウエ に おきました。 そうして ふりかえって、 フスマ に ほとばしって いる チシオ を はじめて みた の です。