カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ウンメイロンシャ 1

2014-10-23 | クニキダ ドッポ
 ウンメイロンシャ

 クニキダ ドッポ

 1

 アキ の ナカバスギ、 フユ-ぢかく なる と いずれ の カイヒン を とわず、 オオカタ は さぴれて くる。 カマクラ も その とおり で、 ジブン の よう に ネンジュウ すんで いる モノ の ホカ は、 ハマ へ でて みて も、 サト の コ、 ウラ の コ、 ジビキアミ の オトコ、 あるいは ハマヅタイ に ゆきかよう アキンド を みる ばかり、 トジンシ らしい モノ の スガタ を みる は まれ なの で ある。
 ある ヒ ジブン は イツモ の よう に ナメリガワ の ホトリ まで サンポ して、 さて スナヤマ に のぼる と、 おもいのほか、 キタカゼ が ミ に しむ ので すぐ フモト に おりて そこら ヒアタリ の よい ところ、 カラダ を のばして ラク に ホン の よめそう な ところ と アタリ を みまわした が、 おもう よう な ところ が ない ので、 あちらこちら と さがしあるいた。 すると 1 カショ、 おもしろい バショ を みつけた。
 スナヤマ が キュウ に ほげて クサ の ネ で わずか に それ を ささえ、 その シタ が ガケ の よう に なって いる、 その ネカタ に すわって リョウアシ を なげだす と、 セ は ウシロ の スナヤマ に もたれ、 ミギ の ヒジ は カタワラ の こだかい ところ に かかり、 ちょうど ソハ に よった よう で、 まことに ココロモチ の よい バショ で ある。
 ジブン は もって きた ショウセツ を フトコロ から だして、 こころのどか に よんで いる と、 ヒ は あたたか に てり ソラ は たかく はれ ここ より は ウミ も みえず、 ヒトゴエ も きこえず、 ナギサ に ころがる ナミオト の おだやか に おもおもしく きこえる ホカ は アタリ ひっそり と して いる ので、 いつしか ココロ を すっかり ホン に とられて しまった。
 しかるに ふと モノオト の した よう で ある から なにごころなく アタマ を あげる と、 ジブン から 4~5 ケン はなれた ところ に ヒト が たって いた の で ある。 いつ ここ へ きて、 どこ から あらわれた の か すこしも キ が つかなかった ので、 あたかも チ の ソコ から わきでた か の よう に おもわれ、 ジブン は おどろいて よく みる と、 トシ は 30 ばかり、 オモナガ の ハナ の たかい オトコ、 セ は すらり と した ヤサガタ、 ミナリ と いい ヒン と いい、 イッケン して ベッソウ に きて いる ヒト か、 それとも ヤド を とって タイリュウ して いる シンシ と しれた。
 カレ は そこ に つったって ジブン の ほう を じっと みて いる その メツキ を みて、 ジブン は さらに おどろき かつ あやしんだ。 カタキ を みる イカリ の メ か、 それにしては チカラ うすし。 ヒト を うたがう サイギ の メ か、 それにしては ヒカリ にぶし。 ただ なにごころなく ヒト を ながむる メ に して は はなはだ スゴミ を おぶ。
 ミョウ な ヤツ だ と ジブン も みかえして いる こと しばし、 カレ は たちまち メ を スナ の ウエ に てんじて、 イッポ イッポ、 しずか に あるきだした。 されども この クボチ の ソト に でよう とは しない で、 ただ そこら を ぶらぶら あるいて いる。 そして ときどき すごい メ で ジブン の ほう を みる。 イッタイ の ヨウス が ジンジョウ で ない ので、 ジブン は ココロモチ が わるく なり、 バショ を かえる つもり で そこ を たち、 スナヤマ の ウエ まで きて、 ウシロ を かえりみる と、 どう だろう あやし の オトコ は はやくも ジブン の すわって いた バショ に カラダ を なげて いた! そして ジブン を みおくって いる はず が、 そう で なく たてた ヒザ の ウエ に ウデグミ を して つっぷして カオ を ウデ の アイダ に うずめて いた。
 あまり の フシギサ に ジブン は ヨウス を みて やる キ に なって、 とある コカゲ に カレクサ を しいて はいつくばい、 ホン を みながら、 おりおり アタマ を あげて かの オトコ を うかがって いた。
 カレ は やや しばらく カオ を あげなかった。 けれども 10 プン とは ジブン を またさなかった。 カレ の たちあがる や ビョウニン の ごとく、 なんとなく ちからなげ で あった が、 たった と おもう と そのまま くるり と ウシロムキ に なって、 スナヤマ の ガケ に メン と むき、 ミギ の テ で その フモト を ほりはじめた。
 とりだした もの は おおきな ビン、 カレ は タモト から ハンケチ を だして ビン の スナ を はらい、 さらに ちいさな コップ-ヨウ の もの を だして、 ビン の セン を ぬく や、 1 パイ 1 パイ、 3~4 ハイ ツヅケサマ に のんだ が、 ビン を しずか に シタ に おき、 テ に サカズキ を もった まま、 こうぜん と コウベ を あげて オオゾラ を ながめて いた。
 そして また 1 パイ のんだ。 そして はしなく マナコ を ジブン の ほう へ てんじた と おもう と、 コップ を テ に した まま ジブン の ほう へ オオマタ で あるいて くる。 その ホブ の キリョク ある サマ は イゼン の ヨウス と まるで ちごうて いた。
 ジブン は おどろいて にげだそう か と おもった。 しかし すぐ おもいかえして そのまま ヨコ に なって いる と、 カレ は まもなく ジブン の ソバ まで きて、 あやしげ な エミ を うかべながら、
「アナタ は ボク が イマ ナニ を した か みて いた でしょう?」
と いった コエ は すこし しわがれて いた。
「みて いました」 と ジブン は はっきり こたえた。
「アナタ は ヒト の ヒミツ を うかごうて よい と おもいます か」 と カレ は ますます あやしげ な エミ を ふかく する。
「よい とは おもいません」
「それなら なぜ ボク の ヒミツ を うかがいました」
「ボク は ここ で ホン を よむ の ジユウ を もって います」
「それ は ベツモンダイ です」 と カレ は ちょっと メ を ジブン の ホン の ウエ に そそいだ。
「ベツモンダイ では ありません。 アナタ が ナニ を しよう と ボク が ナニ を しよう と、 それ が ヒト に ガイ を およぼさぬ カギリ は オタガイ の ジユウ です。 もし アナタ に ヒミツ が ある なら みずから まず ヒミツ に したら よい でしょう」
 カレ は キュウ に そわそわ して ヒダリ の テ で アタマ の ケ を むしる よう に かきながら、
「そう です、 そう です。 けれども あれ が ボク の なしうる カギリ の ヒミツ なん です」 と いって しばらく コトバ を とぎらし、 キ を つめて いた が、
「ボク が アナタ を せめた の は わるう ございました。 けれども どうか イマ ゴラン に なった こと を ヒミツ に して くださいません か、 オネガイ です が」
「オタノミ と あれば ヒミツ に します。 べつに ボク の かんした こと では ありません から」
「ありがとう ございます。 それ で ボク も アンシン しました。 いや まことに シツレイ しました、 いきなり アナタ を とがめまして……」 と カレ は ヒト を おしつけよう と する サイショ の キセイ とは うってかわり、 いかにも ちからなげ に わびた の を みて、 ジブン も キノドク に なり、
「なにも そう あやまる には およびません。 ボク も じつは アナタ が センコク ボク の マエ に つったって、 ボク ばかり みて いた とき の フウ が なんとなく あやしかった から、 それで ここ へ きて アナタ の する こと を うかごうて いた の です。 やはり アナタ を うかがった の です。 けれども あの こと が アナタ の ヒミツ と あれば、 かたく ボク は その ヒミツ を まもります から ゴアンシン なさい」
 カレ は だまって ジブン の カオ を みて いた が、
「アナタ は きっと まもって くださる カタ です」 と コエ を ふるわし、
「どう でしょう、 ひとつ ボク の サカズキ を うけて くださいません か」
「サケ です か、 サケ なら ボク は のまない ほう が よい の です」
「のまない ほう が! のまない ほう が! むろん そう です。 もう のまない で すむ こと なら ボク とて も のまない ほう が よい の です。 けれども ボク は のむ の です。 それ が ボク の ヒミツ なん です。 どう でしょう、 ボク と アナタ と こう やって ハナシ を する の も ナニ か の ウンメイ です、 あやしい ウンメイ です から、 フシギ な エン です から ひとつ ボク の ヒミツ の サカズキ を うけて くださいません か、 え、 どう でしょう、 うけて くださいません か」 と いう コトバ の フシブシ、 その コワネ、 その メモト、 その カオイロ は げに おおいなる ヒミツ、 いたましい ヒミツ を つつんで いる よう に おもわれた。
「よろしゅう ございます。 それでは ひとつ いただきましょう」 と ジブン の こたうる や すぐ カレ は サキ に たって モト の バショ へ と ひきかえす ので、 ジブン も その アト に したがった。

 2

「これ は ジョウトウ の ブランデー です。 ジブン で ジョウトウ も ない もん です が、 センジツ ジョウキョウ した とき、 ギンザ の カメヤ へ いって サイジョウ の を くれろ と ナイショウ で 3 ボン かって きて ここ へ かくして おいた の です。 1 ポン は もう たいらげて アキビン は ナメリガワ に なげこみました。 これ が 2 ホン-メ です。 まだ 1 ポン この スナ の ナカ に うずめて あります。 なくなれば また かって きます」
 ジブン は カレ の さした サカズキ を うけ、 すこし ずつ すすりながら カレ の いう ところ を きいて いた が、 きく に つれて ジブン は カレ を あやしむ ネン の ますます たかまる を きんじえなかった。 けれども けっして カレ の ヒミツ に たちいろう とは おもわなかった。
「それで センコク ボク が ここ へ きて みる と、 イガイ にも アナタ が すでに この バショ を センリョウ して いた の です。 おどろきました ね。 けしからん ヒト も ある もの だ、 ボク の シュコ を おかし、 ボク の シュエン の ムシロ を うばいながら ヘイキ で ホン を よんで いる なんて と、 ボク は それで アナタ を みつめながら ここ を さらなかった の です」 と カレ は ビショウ して いった。 その メモト には ココロ の ソコ に ひそんで いる カレ の やさしい、 ショウジキ な ヒトガラ の ヒカリ さえ ほのめいて、 ジブン には さらに それ が いたましげ に みえた。 そこで ジブン も ワライ を ふくみ、
「そう でしょう、 それ で なければ あんな メツキ で ボク を ゴラン に なる わけ は ございません。 さも うらめしそう でした」
「いや うらめしく は ございません、 なさけなかった の です。 おやおや オレ は かくして おいた サケ さえ も いつか ヒト の シリ の シタ に しかれて しまう の か、 と ジブン の ウンメイ を のろった の です。 のろう と いえば すごく きこえます が、 じつは ボク には そんな すごい リョウケン も また キリョク も ありません。 ウンメイ が ボク を のろうて いる の です―― アナタ は ウンメイ と いう こと を しんじます か? え、 ウンメイ と いう こと を。 どう です、 も ヒトツ」 と カレ は ビン を あげた ので、
「いや ボク は もう いただきますまい」 と サカズキ を カレ に かえし、 「ボク は ウンメイロンシャ では ありません」
 カレ は テシャク で のみ、 シュキ を はいて、
「それでは グウゼンロンシャ です か」
「ゲンイン ケッカ の リホウ を しんずる ばかり です」
「けれども その ゲンイン は ニンゲン の チカラ より はっし、 そして その ケッカ が ニンゲン の ズジョウ に おちきたる ばかり で なく、 ニンゲン の チカラ イジョウ に ゲンイン したる ケッカ を ニンゲン が うける バアイ が たくさん ある。 その とき、 アナタ は ウンメイ と いう ニンゲン の チカラ イジョウ の もの を かんじません か」
「かんじます。 けれども それ は シゼン の チカラ です。 そして シゼンカイ は ゲンイン ケッカ の リホウ イガイ には はたらかない もの と ボク は しんじて います から、 ウンメイ と いう ごとき シンピ-らしい メイモク を その チカラ に くわえる こと は できません」
「そう です か、 そう です か、 わかりました。 それでは アナタ は ウチュウ に シンピ なし と いう オカンガエ なの です。 つまり、 アナタ には この ウチュウ に よする この ジンセイ の イギ が、 ごく ヘイイ メイリョウ なので、 アナタ の アタマ は ニニン が 4 で、 イッサイ が まにあう の です。 アナタ の ウチュウ は リッタイ で なく ヘイメン です。 ムキュウ ムゲン と いう ジジツ も アナタ には なんら、 カンキョウ と イク と チンシ と を よびおこす トウメン の おおいなる ジジツ では なく、 スウ の レンゾク を もって インフィニテー (ムゲン) を シキ で しめそう と する スウガクシャ の オナカマ でしょう」 と いって くるしそう な タンソク を もらし、 ひややか な、 あざける よう な ゴキ で、
「けれども、 じつは その ほう が シアワセ なの です。 ボク の コトバ で いえば アナタ は ウンメイ に シュクフク されて いる カタ、 アナタ の コトバ で いえば ボク は フコウ な ケッカ を ミ に うけて いる オトコ です」
「それでは これ で シツレイ します」 と ジブン は たちあがった。 すると カレ は あわてて ジブン を ひきとめ、
「ま、 ま、 アナタ おこった の です か、 もし ボク の いった こと が オキ に さわったら ゴカンベン を ねがいます。 つい その ジブン で カッテ に くるしんで カッテ に イロイロ な こと を、 バカ な ヤク にも たたん こと を かんがえて おる もん です から、 つい ミサカイ も なく しゃべる の です。 いいえ、 ダレ にも そんな こと を いった こと は ない の です。 けれども なんだか アナタ には いって みとう かんじました から エンリョ も なく カッテ な ネツ を ふいた ので、 アナタ には わらわれる かも しれません が、 ボク には やはり あやし の ウンメイ が ボク と アナタ を ひきつけた よう に かんぜられる の です。 フシアワセ な オトコ と おもって、 もすこし おはなし くださいません か、 もすこし……」
「けれども べつに おはなし する よう な こと も ボク には ありません が……」
「そう いわない で どうか もすこし ここ に いて ください な、 もすこし……。 ああ! どうして こう ボク は ムリ ばかり いう の でしょう! よった の でしょう か。 ウンメイ です、 ウンメイ です、 よう ございます、 アナタ に オハナシ が ない なら ボク が はなします。 ボク が はなす から きいて ください、 せめて きいて ください、 ボク の フシアワセ な ウンメイ を!」
 この クツウ の サケビ を きいて ナンビト が ココロ を うごかさざらん。 ジブン は そのまま とどまって、
「ききましょう とも。 ボク が きいて オサシツカエ が なければ ナニゴト でも うけたまわりましょう」
「きいて くださいます か。 それなら おはなし しましょう。 けれども ボク は ウンメイ の あやしき チカラ に まどうて いる モノ です から、 その つもり で きいて ください。 もし ゲンイン ケッカ の リホウ と アナタ が いう なら、 それでも よう ございます。 ただ その ゲンイン ケッカ の ハッテン が あまり に ジンイ の ソト に でて いて、 その ため に ヒトリ の わかい オトコ が ムゲン の クノウ に しずんで いる ジジツ を アナタ が しりました なら、 それ を ボク が あやしき ウンメイ の チカラ と おもう の も ムリ の ない こと だけ は ショウチ くださる だろう と おもいます。 で アナタ に ききます が、 ここ に ヒトリ の オトコ が あって、 その オトコ が なにごころなく ミチ を あるいて いる と、 どこ から とも しれず ヒトツ の イシ が とんで きて その オトコ の アタマ に あたり、 ソクシ する、 その ため に その オトコ の サイシ は ウエ に しずみ、 その ため に ハハ と コ は あらそい、 その ため に オヤコ は チ を ながす ほど の サンゲキ を えんずる と いう ジジツ が、 コノヨ に ありうる こと と アナタ は しんずる でしょう か」
「じっさい ある こと か ない こと か は しりません が、 ありうる こと とは しんじます、 それ は」
「そう でしょう。 それなら アナタ は ヒト の イヒョウ に でた ゲンイン の ため に、 ふとした ゲンイン の ため に、 ヒジョウ なる ヒサン が ややもすれば、 ヒト の ズジョウ に おちて くる と いう ジジツ を みとむる の です。 ボク の ミノウエ の ごとき、 まったく それ なので、 ほとんど しんず べからざる あやしい ウンメイ が ボク を もてあそんで いる の です。 ボク は ウンメイ と いいます。 ボク には その ホカ には しんじられん です から」 と いって カレ は ほっと タメイキ を つき、
「けれども アナタ きいて くれます か」
「ききます とも! どうか おはなしなさい」
「それなら まず テヂカ な サケ の こと から はなしましょう。 アナタ は さだめし フシギ な こと と おもって いる でしょう が、 じつは セケン に ありふれた こと で、 クルシミ を ワスレタサ の マスイザイ に もちいて おる の です。 スナ の ナカ に かくして おく の は かくして のまなければ ならない タク の ジジョウ が ある から なので、 そのうえ、 この バショ は いかにも しずか で かつ カイカツ で、 いかな どくどくしい ウンメイ の マ も ミ を かくして ヒト を うかがう くらい カゲ の ない の が ボク の キ に いった から です。 ここ へ ミ を よこたえて アルコール の チカラ に ミ を たくし たかい オオゾラ を あおいで いる アイダ は、 ボク の ココロ が いくらか ジユウ を うる とき です。 その うち には この ゲキレツ な アルコール が さなきだに よわりはてた ボク の シンゾウ を しだいに やぶって、 ついには シュビ よく ボク も ジメツ する だろう と おもって います」
「そんなら アナタ は、 ジサツ を ねごうて いる の です か」 と ジブン は おどろいて とうた。
「ジサツ じゃあ ない、 ジメツ です。 ウンメイ は ボク の ジサツ すら ゆるさない の です。 アナタ、 ウンメイ の オニ が もっとも たくみ に つかう ドウグ の ヒトツ は 『マドイ』 です よ。 『マドイ』 は カナシミ を クルシミ に かえます。 クルシミ を さらに ジジョウ させます。 ジサツ は ケッシン です。 しじゅう マドイ の ため に くるしんで いる モノ に、 どうして この ケッシン が おこりましょう。 だから 『マドイ』 と いう にぶい、 おもおもしい クルシミ から のがれる には やはり、 ジメツ と いう チドン な ホウホウ しか サク が ない の です」
と しみじみ いう カレ の カオ には あきらか に ゼツボウ の カゲ が うごいて いた。
「どういう ワケ が ある の か しりません が、 ボク は タニン の ジサツ を しって これ を ボウカン する わけ には ゆきません。 ジメツ と いう も ジサツ に ちがいない の です から」 と ジブン が いう や、
「けれども ジサツ は ヒトビト の ジユウ でしょう」 と カレ は エミ を ふくんで いった。
「そう かも しれません。 しかし これ を とめうる ならば、 とめる の が また ヒトビト の ジユウ なり ギム です」
「よう ございます。 ボク も けっして ジメツ したく は ありません。 もし アナタ が ボク の ハナシ を すっかり きいて、 その うえ で ボク を すくう の サク を たてて くださる の なら ボク は コノウエ も ない シアワセ です」
 こう きいて は ジブン も だまって いられない。
「よろしい! どうか すっかり きかして もらいましょう。 コンド は ボク の ほう から おねがい します」

 3

 ボク は タカハシ シンゾウ と いう セイメイ です が、 タカハシ の セイ は ヨウカ の を おかした ので、 ボク の モト の セイ は オオツカ と いう の です。
 オオツカ シンゾウ と いった とき の こと から はなします が、 チチ は オオツカ ゴウゾウ と いって ゴゾンジ でも ございます か、 トウキョウ コウソイン の ハンジ と して は ちょっと セケン でも ナ の しれた オトコ で、 ゴウゾウ の ナ の しめす ごとく ゴウチョク イッペン の ジンブツ。 ずいぶん ボク を キョウイク する うえ には クシン した よう でした。 けれども どういう もの か ボク は コドモ の ジブン から ガクモン が きらい で、 ただ モノカゲ に ヒトリ ひっこんで、 ナニ を かんがえる とも なく ぼんやり して いる こと が ナニ より すき でした。 12 サイ の ジブン と おぼえて います、 コロ は ハル の スエ と いう こと は ニワ の サクラ が ほとんど ちりつくして、 いろあせた ハナビラ の まだ コズエ に のこって いた の が、 ワカバ の ヒマ から ほろほろ と ヒトヒラ ミヒラ おつる サマ を イマ も はっきり と おもいだす こと が できる ので しれます。 ボク は クラ の イシダン に こしかけて イツモ の ごとく ぼんやり と ニワ の オモテ を ながめて います と、 ユウヒ が ナナメ に ニワ の コノマ に さしこんで、 さなきだに しずか な ニワ が、 ひとしお ひっそり して、 じっと して、 ながめて いる と コドモゴコロ にも かなしい よう な たのしい よう な、 いわゆる シュンシュウ でしょう、 そんな ココロモチ に なりました。
 ヒト の ココロ の フシギ を しって いる モノ は、 コドモ の ムネ にも ハル の しずか な ユウベ を かんずる こと の、 じっさい ありうる こと を いなまぬ だろう と おもいます。
 ともかくも ボク は そういう ショウネン でした。 チチ の ゴウゾウ は この こと を たいへん ク に して、 ボク の こと を ぼうずくさい コ だ と しばしば コゴト を いい、 ボウズ なら テラ へ やって しまう など どなった こと も あります。 それ に ひきかえ ボク の オトウト の ヒデスケ は ワンパク コゾウ で、 ボク より フタツ トシ が シタ でした が、 コッカク も チチ に にて たくましく、 キショウ も まるで ボク とは ちがって いた の です。
 チチ が ボク を しかる とき、 ハハ と オトウト とは いつも わらって ハタ で みて いた もの です。 ハハ と いう は オトヨ と いい、 コトバ の すくない、 ニュウワ-らしく みえて しっかり した キショウ の オンナ でした が、 ボク を しかった こと も なく、 さりとて あまやかす ほど に かあいがり も せず、 いわば よらず さわらず に して いた よう です。
 それで ボク の キショウ が セイライ イマ いった よう なの で ある か、 あるいは そう で なく、 ボク は コドモ の とき、 はやく フシゼン な サカイ に おかれて、 われしらず の コドク な セイカツ を おくった ゆえ かも しれない の です。
 なるほど チチ は ボク の こと を ク に しました。 けれども その シンパイ は ただ フツウ の オヤ が その コ の ウエ を うれうる の とは ちがって いた の です。 それで チチ が、 「せっかく オトコ に うまれた の なら おとこらしく なれ、 オンナ の よう な オトコ は ソダテガイ が ない」 と グチ-めいた コゴト を いう、 その コトバ の ウチ にも ボク の あやしい ウンメイ の ホサキ が みえて いた の です が、 コドモ の ボク には まだ キ が つきません でした。
 いう こと を わすれて いました が、 その コロ は チチ が オカヤマ チホウ サイバンショチョウ の ヤク で、 オオツカ の イッケ は オカヤマ の シチュウ に すんで いた ので、 イッカ が トウキョウ に うつった の は まだ よほど ノチ の こと です。
 ある ヒ の こと でした。 ボク が イツモ の よう に ニワ へ でて マツ の ネ に コシ を かけ ぼんやり して いる と、 いつのまにか チチ が ソバ に きて、
「オマエ は ナニ を かんがえて いる の だ。 もって うまれた キショウ なら シカタ も ない が、 オレ は オマエ の よう な キショウ は だいきらい だ。 もすこし しっかり しろ」 と マジメ の カオ で いいます から、 ボク は カオ も あげえない で だまって いました。 すると チチ は ボク の ソバ に コシ を おろして、
「おい シンゾウ」 と いって キュウ に コエ を ひそめ、 「オマエ は ダレ か に ナニ か きき は しなかった か」
 ボク には なんの こと か さっぱり わからない から、 おどろいて チチ の カオ を あおぎました が、 フシギ にも われしらず なみだぐみました。 それ を みて チチ の カオイロ は にわか に かわり、 ますます コエ を ひそめて、
「かくす には およばん ぞ、 きいたら きいた と いう が ええ。 そんなら オレ には カンガエ が ある から。 さあ かくさず に いう が ええ。 ナニ か きいたろう?」
 この とき の チチ の ヨウス は よほど ロウバイ して いる よう でした。 それで コエ さえ イツモ と かわり、 ボク は こわく なりました から、 しくしく なきだす と、 チチ は ますます うろたえ、
「さあ いえ! きいたら きいた と いえ! かくす か オマエ は」 と ボク の カオ を にらみつけました から、 ボク も ますます こわく なり、
「ごめんなさい、 ごめんなさい」 と ただ あやまりました。
「あやまれ と いう ん じゃ ない。 もし ナニ か オマエ が ミョウ な こと を きいて、 それで ぼんやり かんがえて いる じゃ ない か と おもう から、 それで きく の だ。 なんにも きかん の なら それ で ええ。 さあ ショウジキ に いえ!」 と コンド は ホント に おこって いいます から、 ボク は なんの こと か わからず、 ただ ヒジョウ な わるい こと でも した の か と、 オロオロゴエ で、
「ごめんなさい、 ごめんなさい」
「バカ! オオバカモノ! ダレ が あやまれ と いった。 12 にも なって オトコ の くせ に すぐ なく」
 どなられた ので ボク は びっくり して なきながら チチ の カオ を みて いる と、 チチ も しばらく は だまって じっと ボク の カオ を みて いました が、 キュウ に なみだぐんで、
「なかん でも ええ、 もう オレ も とわん から、 さあ オク へ かえる が ええ」 と やさしく いった その コトバ は すくない が、 ジアイ に みちて いた の です。
 ソノゴ でした、 チチ が ボク の こと を あまり いわなく なった の は。 けれども また ソノゴ でした、 ボク の ココロ の ソコ に イッペン の ウンエイ の しずんだ の は。 ウンメイ の あやしき オニ が その ツメ を ボク の ココロ に うちこんだ の は じつに この とき です。
 ボク は チチ の コトバ が キ に なって たまりません でした。 これ も フツウ の コドモ なら まもなく わすれて しまった だろう と おもいます が、 ボク は わすれる どころ か、 まがなすきがな、 なぜ チチ は あのよう な こと を とうた の か、 チチ が かくまで に ロウバイ した ところ を みる と、 よほど の ダイジ で あろう と、 コドモゴコロ に いろいろ と かんがえて、 そして その ダイジ は ボク の ミノウエ に かんする こと だ と しんずる よう に なりました。
 なぜ でしょう。 ボク は イマ でも フシギ に おもって いる の です。 なぜ チチ の とうた こと が ボク の ミノウエ の こと と ジブン で しんずる に いたった でしょう。
 くらき に すみなれた モノ は、 よく くらき に モノ を みる と おなじ こと で、 フシゼン なる サカイ に おかれたる ショウネン は いつしか その くらき フシゼン の ソコ に ひそんで いる コクテン を みとめる こと が できた の だろう と おもいます。
 けれども ボク の その コクテン の シンソウ を とらええた の は ずっと ノチ の こと です。 ボク は キ に かかりながら も、 これ を チチ に といかえす こと は できず、 また ハハ には なおさら できず、 ちいさな ココロ を いためながら も ツキヒ を おくって いました。 そして 15 の トシ に チュウガッコウ の キシュクシャ に いれられました が、 その マエ に ヒトツ おはなし して おく こと が ある の です。
 オオツカ の トナリヤシキ に ひろい クワバタケ が あって その ヨコ に ソギブキ の ちいさな イエ が ある。 それ に トシヨリ フウフ と その コロ 16~17 に なる ムスメ が すんで いました。 イゼン は リッパ な シゾク で、 クワバタケ は すなわち その ヤシキアト だ そう です。 この トシヨリ が ボク の ナカヨシ でした が、 ある ヒ ボク に イゴ の アソビ を おしえて くれました。 2~3 ニチ たって ヤショク の とき、 この こと を フボ に はなしました ところ、 いつも アソビ の こと は あまり キ に しない チチ が メ に カド を たてて しかり、 ハハ すら おどろいた メ を はって ボク の カオ を みつめました。 そして フボ が カオ を みあわした とき の ヨウス の ジンジョウ で なかった ので、 ボク は はなはだ ミョウ に かんじました。
 なぜ ボク が イゴ を テキ と しなければ ならぬ か、 それ も ノチ に わかりました が、 それ が わかった とき こそ、 ボク が まったく ウンメイ の オニ に アットウ せられ、 ボク が イマ の クノウ を なめつくす ハジメ で ございました。
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ウンメイロンシャ 2

2014-10-08 | クニキダ ドッポ
 4

 ボク の 16 の とき、 チチ は トウキョウ に テンニン した ので オオツカ イッケ は チチ と ともに イテン しました が、 ボク だけ は オカヤマ チュウガッコウ の キシュクシャ に のこされました。
 ボク は ソノゴ 3 ネン-カン の セイカツ を おもう と、 ボク の コノヨ に おける マコト の セイカツ は ただ あの ガッコウ ジダイ だけ で あった の を しります。
 ガクセイ は ミナ ボク に シンセツ でした。 ボク は ココロ の ジユウ を カイフク し、 アクウン の テ より のがれ、 ミノウエ の ギワク を いだく こと しだいに うすく なり、 チンウツ の キショウ まで が いつしか ユキ の とける ごとく きえて、 カイカツ な セイネン の キ を おびて きました。
 しかるに 18 の アキ、 とつぜん トウキョウ の チチ から テガミ が きて ボク に ジョウキョウ を めいじた の です。 おだやか な ボク の ココロ は キュウ に かきみだされ、 ボク は ほとんど チチ の シンイ を しる に くるしみ、 ヘンショ を だして せめて いま 1 ネン、 ソツギョウ の ヒ まで コノママ に して おいて もらおう か と おもいました が、 おもいかえして すぐ ジョウキョウ しました。 コウジマチ の タク に つく や、 チチ は ヒトマ に ボク を よんで、 「サッソク だ が オマエ と よく ソウダン したい こと が ある の だ。 オマエ これから ホウリツ を まなぶ キ は ない かね」
 おもい も かけぬ コトバ です。 ボク は おどろいて チチ の カオ を みつめた きり ヨウイ に クチ を ひらく こと が できない。
「じつは テガミ で くわしく いって やろう か とも おもった が、 まわりくどい から よんだ の だ。 オマエ も ソツギョウ まで と おもったろう し、 また ダイガク まで とも こころざして いたろう けれど、 ヒト は 1 ニチ も はやく ドクリツ の セイカツ を いとなむ ほう が ええ こと は オマエ も しって いる だろう。 それで オマエ これから すぐ シリツ の ホウリツ ガッコウ に はいる の じゃ。 3 ネン で ソツギョウ する。 ベンゴシ の シケン を うける。 そした アカツキ は ワシ と コンイ な ベンゴシ の ジムショ に セワ して やる から、 そこ で 4~5 ネン も ジッチ の ベンキョウ を する の じゃ。 その うち に ドクリツ して ジムショ を ひらけば、 それこそ リッパ な もの、 オマエ も 30 に ならん うち、 どうどう たる シンシ と なる こと が できる。 どう じゃ な、 その ほう が チカミチ じゃ ぞ」 と いう チチ の コトバ を きいて いる ボク の ココロ の まったく テンドウ した の も ムリ は ない でしょう。
 これ じつに タニン の コトバ です。 タニン の シンセツ です。 イソウロウ の ショセイ に シュジン の センセイ が しめす オンアイ です。
 オオツカ ゴウゾウ は いつしか その シゼン に かえって いた の です。 しらずしらず その シゼン を しめす に いたった の です。 ボク を ソト に おく こと 3 ネン、 その ジッシ なる ヒデスケ のみ を カタワラ に アイブ する こと 3 ネン、 ニンゲン が その テンシン に かえる べき モン、 フンボ に ちかづく こと 3 ネン、 この 3 ネン の ツキヒ は カレ を して シゼン に かえらした の です。 けれども カレ は まだ その シゼン を ジニン する こと が できず、 どこまでも ジブン を イゼン の チチ の ごとく、 ボク を イゼン の コ の ごとく みよう と して いる の です。
 そこで ボク は もはや すすんで ボク の ノゾミ を のべる どころ では ありません。 ただ これ メイ これ したがう だけ の こと を てみじか に こたえて チチ の ヘヤ を でて しまいました。
 チチ ばかり で なく ハハ の ヨウス も イッペン して いた の です。 ヒ の たつ に したごうて ボク は ボク の ミノウエ に イチダイ ヒミツ の ある こと を ますます しんずる よう に なり、 フボ の キョドウ に キ を つければ つける ほど ギワク の ます ばかり なの です。
 イチド は ボク も ジブン の ヒガミ だろう か と おもいました が、 あいにく と おもいおこす は 12 の とき、 ニワ で チチ から といつめられた こと で、 あれ を おもい、 これ を おもえば、 もはや ジブン の ミ の ヒミツ を うたがう こと は できない の です。
 オウノウ の ウチ に カンダ の ホウリツ ガッコウ に かよって ミツキ も たちましたろう か。 ボク は キョウ こそ チチ に むかい、 だんぜん こっち から いいだして ヒミツ の ウム を ただそう と ケッシン し、 ガッコウ から ヒ の クレガタ に かえって ヤショク を すます や、 チチ の イマ に ゆきました。 チチ は ランプ の モト で テガミ を したためて いました が、 ボク を みて、 「なんぞ ヨウ か」 と とい、 やはり フデ を とって います。 ボク は チチ の ワキ の ヒバチ の ソバ に すわって しばらく だまって いました が、 この とき ふりかけて いた ソラ が いよいよ しぐれて きた と みえ、 ヒサシ を うつ ミゾレ の オト が ぱらぱら きこえました。 チチ は フデ を おいて やおら こちら に むき、
「なんぞ ヨウ でも ある か」 と やさしく といました。
「すこし たずねたい こと が あります ので」 と わずか に クチ を きる や、 チチ は はやくも ヨウス を みてとった か、
「ナン じゃ」 と おごそか に ヒザ を すすめました。
「トウサマ、 ワタクシ は ホント に トウサマ の コ なの でしょう か」 と かねて おもいさだめて おいた とおり、 タントウ チョクニュウ に といました。
「ナン じゃ と」 と チチ の イチゴン、 その ガンコウ の スルドサ! けれども すぐ チチ は カオ を やわらげて、
「なぜ オマエ は そんな こと を ワシ に きく の じゃ。 ナニ か ワシドモ が オマエ に オヤ-らしく ない こと でも して、 それで そう いう の か」
「そういう わけ では ございません が、 ワタクシ には ムカシ から どういう もの か この ウタガイ が ある ので、 しじゅう ムネ を いためて おる の で ございます。 しらして エキ の ない ヒミツ だ から オトウサマ も だまって おいで に なる の でしょう けれど、 ワタクシ は ぜひ それ が しりたい の で ございます」 と ボク は しずか に、 けつぜん と いいはなちました。
 チチ は しばらく ウデグミ を して かんがえて いました が、 おもむろに カオ を あげて、
「オマエ が うたがって おる こと も ワシ は しって いた の じゃ。 ワシ の ほう から いうた ほう が と おもった こと も コノゴロ ある。 それで もはや オマエ から きかれて みる と なお いうて しまう が ええ から いう こと に しよう」 と それから チチ は ながなが と ものがたりました。
 けれども チチ の しらして くれた ジジツ は これ だけ なの です。 スオウ ヤマグチ の チホウ サイバンショ に チチ が ホウショク して いた ジブン、 ババ キンノスケ と いう ゴカク が いて、 チチ と ヒジョウ に コンシン を むすび、 つねに キョウダイ の ごとく オウライ して いた そう です。 その ババ と いう ジンブツ は イッシュ ヒボン な ところ が あって、 ゴ イガイ に チチ は その ジンブツ を ソンケイ して いた と いう こと です。 その イッシ が すなわち ボク で あった の です。
 チチ は その コロ 38、 ハハ は 34 で もはや コ は できない もの と あきらめて いる と、 ババ が ヤマイ で ぼっし、 その ツマ も まもなく オット の アト を おうて コノヨ を さり、 のこった の は フタツ に なる オトコ の コ、 これ サイワイ と チチ が ひきとって ジブン の コ と して やしなった ので、 チチ から いう と ハンブン は コジ を すくう ギキョウ でしたろう。
 ボク の ウミ の フボ は まだ トシ が わかく、 チチ は 32、 ハハ は 25 で あった そう です。 けれども ハハ の セキ が まだ ババ の セキ に はいらん うち に ボク が うまれ、 その ため でしょう、 ボク の シュッサン トドケ が まだ して なかった ので、 オオツカ の チチ は ボク を ひきとる や ただちに ジブン の コ と して とどけた の だ そう です。
 イジョウ の こと を はなして オオツカ の チチ の いう には、
「ソノゴ ワシ は まもなく ヤマグチ を さった から、 オマエ を ワシ の ジッシ で ない と しる モノ は おおく ない の じゃ。 ワタシタチ フウフ は あくまで ジッシ の つもり で これまで そだてて きた の じゃ。 コノサキ も おなじ こと だ から オマエ も けっして ヒガミ コンジョウ を おこさず、 どこまでも ワタシタチ を フボ と おもって オイサキ を みとどけて くれ。 ヒデスケ は ジッシ じゃ が オマエ の こと は けっして しらさん から、 オマエ も シンジツ の アニ と なって ショウガイ あれ の チカラ とも なって くれ」 と、 オイ の メ に ナミダ を みる より サキ に ボク は もう ないて いた の です。
 そこで ヨウフ と ボク とは これら の ヒミツ を あくまで ヒト に もらさぬ ヤクソク を し、 また ボク が このさき ナニ か の ヨウジ で ヤマグチ に ゆく とも、 ただ よそながら フボ の ハカ に もうで、 けっして オオヤケ には せぬ と いう こと を ボク は ヨウフ に やくしました。
 ソノゴ の ツキヒ は イゼン より も かえって おだやか に すぎた の です。 ヨウフ も ヒミツ を あけて かえって アンシン した ヨウス、 ボク も ヨウフボ の コウオン を おもう に つけて、 ココロ を かたむけて ケイアイ する よう に なり、 ベンガク をも はげむ よう に なりました。
 そして 1 ニチ も はやく ドクリツ の セイカツ を いとなみうる よう に なり、 ジブン は オオツカ の イエ から わかれ、 ギテイ の ヒデスケ に カトク を ゆずりたい もの と ふかく ココロ に けっする ところ が あった の です。
 3 ネン の ツキヒ は たちまち ゆき、 ボク は シュビ よく ガッコウ を ソツギョウ しました が、 なお ヨウフ の コトバ に したがい、 1 ネン-カン さらに ベンキョウ して、 さて ベンゴシ の シケン を うけました ところ、 イガイ の ジョウシュビ、 ヨウフ も オオヨロコビ で さっそく その トモ なる イノウエ ハカセ の ホウリツ ジムショ に シュウセン して くれました。
 ともかくも イチニンマエ の ベンゴシ と なって ヒビ キョウバシ ク なる ジムショ に かようて いました が、 もし アノママ で コンニチ に なったら、 ヨウフ も その モクテキ-どおり に ボク を シマツ し、 ボク も ヘイオン な ツキヒ を おくって、 ますます ゼント の コウフク を たのしんで いた でしょう。
 けれども、 ボク は どうしても アクウン の コ で あった の です。 ほとんど ナンビト も ソウゾウ する こと の できない オトシアナ が ボク の マエ に できて いて、 アクウン の オニ は ザンコク にも ボク を つきおとしました。

 5

 イノウエ ハカセ は ヨコハマ にも 1 カショ ジムショ を もって いました が、 ボク は 25 の ハル、 この ジムショ に つめる こと と なり、 ナ は イノウエ の ブカ で あって も そのじつ は ボク が ドクリツ で やる の と おなじ こと でした。 トシ の ワリアイ には はやい リッシン と いって も よい だろう と おもいます。
 ところが ヨコハマ に タカハシ と いう ザッカショウ が あって、 ずいぶん セイダイ に やって いました が、 その アルジ は オンナ で ナ は ウメ、 ツレアイ は 2~3 ネン マエ に なくなって ヒトリムスメ の サトコ と いう を アイテ に、 まず ゼイタク な クラシ を して いた の です。
 ソショウ ヨウ から ボク は この イエ に シュツニュウ する こと と なり、 ボク と サトコ は コイナカ に なりました。 てみじか に いいます が、 ハンネン たたぬ うち に フタリ は はなれる こと の できない ほど、 のぼせあげた の です。
 そして その ケッカ は イノウエ ハカセ が バイシャク と なり、 ついに ボク は オオツカ の イエ を インキョ し タカハシ の ヨウシ と なりました。
 ボク の クチ から いう も ヘン です が、 サトコ は ビジン と いう ほど で なく とも ずいぶん ヒトメ を ひく ほど の キリョウ で、 マルガオ の アイキョウ の ある オンナ です。 そして エンリョ なく いいます が まったく ボク を あいして くれます。 けれども この アイ は かえって イマ では ボク を くるしめる イチダイ ヨウソ に なって いる ので、 もし サトコ が かくまで に ボク を あいし、 ボク が また こう まで サトコ を あいしない ならば、 ボク は これほど まで に くるしみ は しない の です。
 ヨウボ の ウメ は イマ 50 サイ です が、 みた ところ、 40 ぐらい に しか みえず、 コガラ の オンナ で ビジン の ソウ を そなえ、 なかなか リッパ な フジン です。 そして ジョウ の はげしい ショウジキ な ヒトガラ と いえば、 チエ の ほう は やや うすい と いう こと は すぐ わかる でしょう。 カイカツ で よく わらい よく かたります が、 どうか する と おそろしい ほど チンウツ な カオ を して、 ハンニチ ナンビト とも クチ を まじえない こと が あります。 ボク は ヨウシ と ならぬ イゼン から この ヒトガラ に キ を つけて いました が、 サトコ と ケッコン して タカハシ の ウチ に ネオキ する こと と なりて まもなく、 ミョウ な こと を ハッケン した の です。
 それ は ヨ の 9 ジ-ゴロ に なる と、 ヨウボ は その イマ に こもって しまい、 フドウ ミョウオウ を イッシン フラン に おがむ こと で、 クチ に ナニゴト か ねんじつつ トコノマ に かけた カエン の ゾウ の マエ に レイハイ して 10 ジ と なり 11 ジ と なり、 ときには ヨナカスギ に およぶ の です。 ヒルマ の うち、 ふさいで いた バン は ことに これ が はげしい よう でした。
 ボク も ハジメ は だまって いました が、 あまり ミョウ なので ある ヒ この こと を サトコ に たずねる と、 サトコ は テ を ふって コエ を ひそめ、 「だまって いらっしゃい よ。 あれ は 2 ネン マエ から はじめた ので、 あの こと を ハハ に はなす と ハハ は たいへん キゲン を わるく します から、 なるべく しらん カオ を して いた ほう が いい ん です よ。 ごらんなさい まるで キチガイ でしょう」 と べつに キ にも かけぬ サマ なので、 ボク も しいて は とい も しなかった の です。
 けれども ソノゴ ヒトツキ も して ある ヒ、 ボク は ジムショ から かえり、 ヤショク を おえて ザツダン して いる と、 ヨウボ は とつぜん、
「オンリョウ と いう もの は ナンネン たって も きえない もの だろう か」 と といました。 すると サトコ は ヘイキ で、
「オンリョウ なんて ある もん じゃあ ない わ」 と イチゴン で うちけそう と する と、 ハハ は ムキ に なって、
「ナマイキ を いいなさんな。 オマエ みた こと は あるまい。 だから そんな こと を いう の だ」
「そんなら オッカサン は みて?」
「みました とも」
「おや そう、 どんな カオ を して いて? ワタシ も みたい もの だ」 と サトコ は どこまでも ひやかして かかった。 すると ハハ は すごい ほど カオイロ を かえて、
「オマエ オンリョウ が みたい の、 オンリョウ が みたい の。 ホント に ナマイキ な こと いう よ この ヒト は!」 と いいはなち、 つっと たって ジブン の ヘヤ に ひっこんで しまった。 ボク は おもわず、
「オッカサン どうか して いなさる よ。 キ を つけん と……」
 サトコ は フアンシン な カオ を して、
「ワタシ ホント に キミ が わるい わ。 オッカサン は きっと ナニ か ミョウ な こと を おもって いる の です よ」
「ちっと シンケイ を いためて いなさる よう だね」 と ボク も いいました が、 さて ヨクジツ に なる と べつに かわった こと は ない の です。 かわって いる の は ただ イツモ の とおり ヨ に なる と フドウサマ を おがむ こと だけ で、 ボクラ も これ は もはや みなれて いる から しいて キ にも かかりません でした。
 ところが コトシ の 5 ガツ です。 ボク は イツモ より か 2 ジカン も はやく ジムショ を ひいて ウチ へ かえります と、 その ヒ は くもって いた ので イエ の ウチ は うすぐらい ウチ にも ハハ の ヘヤ は ことに くらい の です。 ハハ に すこし ヨウジ が あった ので べつに アンナイ も せず フスマ を あけて ナカ に はいる と、 ハハ は ヒバチ の ソバ に ぽつねん と すわって いました が、 ボク の カオ を みる や、
「あ、 あ、 あっ、 あっ!」 と さけんで つったった か と おもう と、 また シリモチ を ついて じっと ボク を みた とき の カオイロ! ボク は ハハ が キゼツ した の か と びっくり して ソバ に かけよりました。
「どう しました、 どう しました」 と さけんだ ボク の コエ を きいて ハハ は わずか に すわりなおし、
「オマエ だった か、 ワタシ は、 ワタシ は……」 と ムネ を さすって いました が、 その アイダ も フシギ そう に ボク の カオ を みて いた の です。 ボク は おどろいて、
「オッカサン どう なさいました」 と きく と、
「オマエ が だしぬけ に はいって きた ので、 ワタシ は ダレ か と おもった。 おお びっくり した」 と すぐ トコ を しかして やすんで しまいました。
 この こと の あった ノチ は ハハ の シンケイ に ますます イジョウ を おこし、 フドウ ミョウオウ を おがむ ばかり で なく、 ボク など は ナ も しらぬ オフダ を イクマイ と なく どこ から か もらって きて、 ジブン の イマ の ショショ に はりつけた もの です。 そして さらに ミョウ なの は、 これまで ジブン だけ で カッテ に しんじて いた の が、 ボク を みて おどろいた ノチ は、 ボク に むかって も フドウ を しんじろ と いう ので、 ボク が なぜ しんじなければ ならぬ か と きく と、
「ただ だまって しんじて おくれ。 それ で ない と ワタシ が こころぼそい」
「オッカサン の キ が やすまる の なら シンコウ も しましょう が、 それなら ワタクシ より も オサト の ほう が いい でしょう」
「オサト では いけません。 あれ には カンケイ の ない こと だ から」
「それでは ワタクシ には カンケイ が ある の です か」
「まあ そんな こと を いわない で シンコウ して おくれ、 ゴショウ だ から」 と いう ハハ の コトバ を サトコ も ソバ で きいて いました が、 あきれて、
「ミョウ ねえ オッカサン、 フドウサマ が どうして オッカサン と シンゾウ さん と には カンケイ が あって、 ワタシ には ない の でしょう」
「だから ワタシ が たのむ の じゃあ ありません か、 ワケ が いわれる くらい なら たのみ は しません」
「だって ムリ だわ、 シンゾウ さん に フドウサマ を シンコウ しろ なんて、 イマドキ の ヒト に そんな こと を すすめたって……」
「そんなら たのみません!」 と ハハ は おこって しまった ので、 ボク は コトバ を やわらげ、
「いや ワタクシ だって フドウサマ を しんじない とは かぎりません。 だから オッカサン まあ その イワレ を はなして ください な。 どんな こと か しりません が、 オヤコ の アイダ だ から すこしも あかされない よう な こと は ない でしょう」 と もとめました。 これ は ハハ の いう ところ に よって メイシン を おさえ シンケイ を しずめる ホウホウ も あろう か と おもった から です。 すると ハハ は しばらく かんがえて いました が、 トイキ を して コエ を ひそめ、
「これぎり の ハナシ だよ、 ダレ にも しらして は なりません よ。 ワタシ が まだ わかい ジブン、 オサト の オトウサマ に えんづかない マエ に ある オトコ に いいよられて しゅうねく おいまわされた の だよ。 けれども ワタシ は どうしても その オトコ の ココロ に したがわなかった の。 そう する と その オトコ が ビョウキ に なって しぬ マギワ に たいへん ワタシ を うらんで イロイロ な こと を いった そう です。 それで ワタシ も いい ココロモチ は しなかった が、 ここ へ えんづいて から は べつに キ にも せん で くらして いました。 ところが ツレアイ が なくなって から と いう もの は、 その オトコ の オンリョウ が どうか する と あらわれて、 こわい カオ を して ワタシ を にらみ、 いまにも ワタシ を とりころそう と する の です。 それで ワタシ が フドウサマ を イッシン に ねんずる と その オンリョウ が だんだん きえて なくなります。 それに ね」 と、 ハハ は ひとしお コエ を ひそめ、 「コノゴロ は その オンリョウ が シンゾウ に とっついた らしい よ」
「まあ いや な!」 サトコ は マユ を ひそめました。
「だって ね、 どうか する と シンゾウ の カオ が ワタシ には オンリョウ そっくり に みえる のよ」
 それで ボク に フドウサマ を しんじろ と すすめる の です。 けれども ボク には そんな マネ は できない から、 サトコ と ともに いろいろ と オンリョウ など いう もの の ある べき で ない こと を といた けれど ムエキ でした。 ハハ は かたく しんじて うたがわない ので、 ボクラ も もてあまし、 この カマクラ へ でも きて いて セイシン を しずめたら と、 ムリ に すすめて ついに ここ の ベッソウ に いれた の は コトシ の 5 ガツ の こと です。

 6

 タカハシ シンゾウ は ここ まで はなして きて たちまち カシラ を あげ、 ニシ に かたむく ヒカゲ を しゅうぜん と みおくって クノウ に たえぬ サマ で あった が、 てばやく サカズキ を あげて 1 パイ のみほし、
「コノサキ を くわしく はなす ユウキ は ボク に ありません。 ジジツ を ロコツ に てみじか に はなします から、 それ イジョウ は アナタ の スイサツ を ねがう だけ です」
 タカハシ ウメ、 すなわち ボク の ヨウボ は ボク の シンジツ の ハハ、 ウミ の ハハ で あった の です。 サイ の サトコ は チチ を コト に した ボク の イモウト で あった の です。 どう です、 これ が あやしい ウンメイ で なくて なんと しましょう。 かく の ごとき をも ゲンイン ケッカ の リホウ と いえば それまで です。 けれども、 かかる リホウ の モト に しらずしらず この ミ を おかれた ボク から いえば、 この テンチカン に かかる ザンコク なる リホウ すら おこなわるる を うらみます。
 まず どうして これら の ジジツ が ボク に しれた か、 その テツヅキ を カンタン に いえば、 ハハ が カマクラ に きて から ヒトツキ ノチ、 ボク は ソショウ ヨウ で ナガサキ に ゆく こと と なり、 その トチュウ ヤマグチ、 ヒロシマ など へ たちよる ココログミ で いました から、 ミマイ-かたがた カマクラ へ きて ハハ に この こと を はなします と、 ハハ は メ の イロ を かえて、 ヤマグチ など へ よるな と いいます。 けれども ボク の ココロ には ウミ の フボ の ハカ に まいる つもり が あります から、 ハハ には ヨイカゲン に いって おいて、 ついに ヤマグチ に よった の です。
 かねて オオツカ の チチ から きいて いた から テラ は すぐ わかりました。 けれども ボク は ババ キンノスケ の ハカ のみ みいだして、 しんだ と きいた ハハ の ハカ を みない ので、 フシン に おもって ロウソウ に あい、 ミギ の こと を たずねました。 もっとも ただ ユカリ の モノ と のみ、 ボク の ミノウエ は うちあけない の です。
 すると ロウソウ は ババ キンノスケ の ツマ オノブ の ハカ の ある べき はず は ない。 あの オンナ は キンノスケ の ビョウチュウ に、 ゴ の デシ で、 マチ の ゴウショウ ナニガシ の オトウト と あやしい ナカ に なり、 キンノスケ の ビョウキ は その ため さらに おもく なった の を キノドク とも おもわず、 ついに チノミゴ を オキザリ に して カケオチ して しまった の だ と はなしました。
 ロウソウ は なおも チチ が ビョウチュウ ハハ を ののしった こと、 シニギワ に オオツカ ゴウゾウ に その イッシ を たくした こと まで かたりました。
 その オノブ が タカハシ ウメ で ある と いう こと は、 ダレ も しらない の です。 ボク も ショウコ は もって いません。 けれども ロウソウ が オノブ の こと を かたる うち に はやくも ボク は イマ の ヨウボ が すなわち それ で ある こと を カクシン した の です。
 ボク は ヤマグチ で すぐ しんで しまおう か と おもいました。 あの とき、 じつに あの とき、 ボク が おもいきって ジサツ して しまったら、 むしろ ボク は サイワイ で あった の です。
 けれども ボク は かえって きました。 ヒトツ は なんとか して たしか な ショウコ を えたい ため、 ヒトツ は サトコ に ひきよせられた の です。 サトコ は ともかくも イモウト です から、 ボク の ケッコン の フリン で ある こと は いう まで も ない が、 ボク は イモウト と して サトコ を かんがえる こと は どうしても できない の です。
 ヒト の ココロ ほど フシギ な もの は ありません。 フリン と いう コトバ は アイ と いう ジジツ には かてない の です。 ボク と サトコ の アイ が かえって ボク を くるしめる と さきほど いった の は この こと です。
 ボク は サトコ を ようして なきました、 イクド も なきました。 ボク も また ハハ と おなじく ものぐるおしく なりました。 あわれ なる は サトコ です。 スベテ の こと が サトコ には あやしき ナゾ で、 カレ は ただ まどい に まどう ばかり、 ついには ハハ と おなじく オンリョウ を しんずる よう に なり、 イマ も ヨコハマ の タク で ハハ と ともに フドウ ミョウオウ に キネン を こらして いる の です。 サトコ は オンリョウ の ホンタイ を しらず、 ただ ハハ も ボク も この オンリョウ に くるしめられて いる もの と しんじ、 キネン の マコト を もって ハハ と オット を すくおう と して いる の です。
 ボク は なるべく ハハ を みない よう に して います。 ハハ も ボク に あう こと を このみません。 ハハ の メ には なるほど ボク が オンリョウ の カオ と おなじく みえる でしょう よ。 ボク は オンリョウ の コ です もの!
 ボク には ハハ を ハハ と して あいさなければ ならん はず です。 しかし ボク は ハハ が ボク の チチ を ヒンシ の キワ に すて、 ボク を ヒンシ の チチ の ビョウショウ に すてて、 ミップ と はしった こと を おもう と、 いう べからざる エンコン の ジョウ が おこる の です。 ボク の ミミ には なき チチ の ドバ の コエ が きこえる の です。 ボク の メ には つかれはてた カラダ を おこして、 なにも しらない ムシン の コ を いだき、 オトコナキ に なきたもうた サマ が みえる の です。 そして この コエ を きき この サマ を みる ボク には、 じつに オンリョウ の キ が のりうつる の です。
 ユウグレ の ソラ ほのぐらい とき に、 ハシラ に もたれて いた ボク が とつぜん、 マナコ を はり イキ を こらして テン の イッポウ を にらむ サマ を みた モノ は ハハ で なく とも にげだす でしょう。 ハハ ならば キゼツ する でしょう。
 けれども ボク は サトコ の こと を おもう と、 ウラミ も イカリ も きえて、 ただ かぎりなき カナシミ に しずみ、 この カナシミ の ソコ には アイ と ゼツボウ が たたこうて いる の です。
 ところが この 9 ガツ でした。 ボク は あまり の クルシサ に ヘイゼイ ほとんど サカズキ を テ に せぬ ボク が、 サトコ の とめる の も きかず のめる だけ のみ、 イマ の マンナカ に ダイ の ジ に なって いる と、 なんと おもった か、 ハハ が とつぜん カマクラ から かえって きて サトコ だけ を その イマ に よびつけました。 そして ボク は よって いながら も すぐ その ワケ の ジンジョウ で ない こと を さとった の です。
 1 ジカン ばかり たつ と サトコ は メ を なきはらして ボク の イマ に かえって きました から、
「どうした の だ」 と きく と サトコ は ボク の ソバ に つっぷして なきだしました。
「オッカサン が ボク を リコン する と いった の だろう」 と ボク は おもわず どなりました。 すると サトコ は あわてて、
「だから ね、 ハハ が なんと いって も アナタ けっして キ に しない で ください な。 キチガイ だ と おもって うっちゃって おいて ください な。 ね、 ゴショウ です から」 と ナキゴエ を ふるわして いいます から、 「そういう こと なら うっちゃって おく わけ に ゆかない」 と ボク は いきなり ハハ の イマ に トツニュウ しました。 サトコ は とめる ヒマ も なかった ので、 ボク に つづいて ヘヤ に はいった の です。 ボク は ハハ の マエ に すわる や、
「アナタ は ワタクシ を リコン する と サトコ に いった そう です が、 その ワケ を ききましょう。 リコン する なら して も ワタクシ は ヘイキ です。 あるいは むしろ ワタクシ の のぞむ ところ で ございます。 けれども ワケ を おっしゃい。 ぜひ その ワケ を ききましょう」 と ヨイ に まかせて つめよりました。 すると ハハ は ボク の ケンマク の あまり するどい ので びっくり して ボク の カオ を みて いる ばかり、 イチゴン も はっしません。
「さあ ワケ を ききましょう。 オンリョウ が ワタクシ に のりうつって いる から キミ が わるい と いう の でしょう。 それ は キミ が わるい でしょう よ。 ワタクシ は オンリョウ の コ です もの」 と いいはなちました。 みるみる ハハ の カオイロ は かわり、 モノ をも いわず ヘヤ の ソト へ かけでて しまいました。
 ボク は そのまま ハハ の イマ に ねて しまった の です。 メ が さめる や サケ の ヨイ も さめ、 アタマ の ウエ には サトコ が シンパイ そう に ボク の カオ を みて すわって いました。 ハハ は すぐ カマクラ に ひきかえした の でした。
 ソノゴ ボク と ハハ とは あわない の です。 ボク は ハハ に かわって こちら に きて、 ハハ は イマ、 ヨコハマ の タク に います が、 サトコ は リョウホウ を かわるがわる カイホウ して、 フタリ の フコウ をば ヒトリ で ショウジキ に カイシャク し、 ただただ オンリョウ の ワザ と のみ しんじて、 フタリ の ムネ の ウチ の マコト の クルシミ を まるきり しらない の です。
 ボク は サケ を のむ こと を サトコ から も イシ から も きんじられて います。 けれども どう でしょう、 このよう な メ に あって いる ボク が ブランデイ の カクシノミ を やる の は、 はたして ムリ でしょう か。
 いまや ボク の チカラ は まったく アクウン の オニ に ひしがれて しまいました。 ジサツ の チカラ も なく、 ジメツ を まつ ほど の イクジ の ない もの と なりはてて いる の です。
「どう でしょう、 イジョウ ざっと はなしました ボク の コンニチ まで の ショウガイ の ケイカ を かんがえて みて、 ボク の ココロモチ に なって もらいたい もの です。 これ が ただ ゲンイン ケッカ の リホウ に すぎない と スウガク の シキ に たいする よう な ひややか な ココロモチ で おられる もの でしょう か。 ウミ の ハハ は チチ の アダ です、 サイアイ の ツマ は キョウダイ です。 これ が ひややか なる ジジツ です。 そして ボク の ウンメイ です」
「もし この ウンメイ から ボク を すくいうる ヒト が ある なら、 ボク は つつしんで オシエ を ほうじます。 その ヒト は ボク の スクイヌシ です」

 7

 ジブン は イチゴン を まじえない で イジョウ の モノガタリ を きいた。 ききおわって しばらく は イチゴン も はっしえなかった。 なるほど ヒサン なる キョウグウ に おちいった ヒト で ある と つくづく キノドク に おもった の で ある。 けれども やむなくんば と、
「だんぜん リコン なさったら どう です」
「それ は あたらしき ジジツ を つくる ばかり です。 すでに ある ジジツ は その ため に きえません」
「けれども それ は やむ を えない でしょう」
「だから ウンメイ です。 リコン した ところ で ウミ の ハハ が チチ の アダ で ある ジジツ は きえません。 リコン した ところ で イモウト を ツマ と して あいする ボク の アイ は かわりません。 ヒト の チカラ を もって カコ の ジジツ を けす こと の できない かぎり、 ヒト は とうてい ウンメイ の チカラ より のがるる こと は できない でしょう」
 ジブン は アクシュ して、 モクレイ して、 この フコウ なる セイネン シンシ と わかれた。 ヒ は すでに おちて ヨコウ はなやか に ユウベ の クモ を そめ、 かえりみれば わが ウンメイロンシャ は さびしき スナヤマ の イタダキ に たって オキ を はるか に ながめて いた。
 ソノゴ ジブン は この オトコ に あわない の で ある。
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ソラチガワ の キシベ

2013-07-07 | クニキダ ドッポ
 ソラチガワ の キシベ

 クニキダ ドッポ

 1

 ヨ が サッポロ に タイザイ した の は イツカ-カン で ある、 わずか に イツカ-カン では ある が、 ヨ は この アイダ に ホッカイドウ を あいする の ジョウ を イクバイ した の で ある。
 ワガクニ ホンド の ウチ でも チュウゴク の ごとき、 ジンコウ チュウミツ の チ に セイチョウ して ヤマ をも ノ をも ニンゲン の チカラ で たいらげつくしたる コウケイ を みなれたる ヨ に ありて は、 トウホク の ゲンヤ すら すでに わが シゼン に キエ したる の ジョウ を うごかしたる に、 ホッカイドウ を みる に およびて、 いかで ココロ おどらざらん、 サッポロ は ホッカイドウ の トウキョウ で ありながら、 マンモク の コウケイ は ほとんど ヨ を ましさった の で ある。
 サッポロ を シュッパツ して タンシン ソラチガワ の エンガン に むかった の は、 9 ガツ 25 ニチ の アサ で、 トウキョウ ならば なお ザンショ の コウ で ありながら、 ヨ が この とき の フクソウ は フユギ の ヨウフク なりし を おもわば、 この チ の アキ すでに おいて コガラシ の フユ の マヂカ に せまって いる こと が しれる で あろう。
 モクテキ は ソラチガワ の エンガン を チョウサ しつつ ある ドウチョウ の カンリ に あって トチ の センテイ を ソウダン する こと で ある。 しかるに ヨ は まったく チリ に くらい の で ある。 かつ ドウチョウ の カンリ は はたして エンガン いずれ の ヘン に たむろして いる か、 サッポロ の チジン ナンビト も しらない の で ある、 こころぼそく も ヨ は ソラチブト を さして キシャ に とうじた。
 イシカリ の ノ は クモ ひくく まよいて シャソウ より ながむれば ノ にも ヤマ にも おそろしき シゼン の チカラ あふれ、 ここ に アイ なく ジョウ なく、 みる と して こうりょう、 せきばく、 レイゲン に して かつ ソウダイ なる コウケイ は、 あたかも ニンゲン の ムリョク と ハカナサ と を あざわらう が ごとく に みえた。
 ソウハク なる カオ を ガイトウ の エリ に うずめて シャソウ の イチグウ に もくねん と ざして いる イチ セイネン を ドウシツ の ヒトビト は なんと みたろう。 ヒトビト の ハナシガラ は サクモツ で ある、 サンリン で ある、 トチ で ある、 この ムゲン の フゲン より いかに して オウゴン を つかみだす べき か で ある。 カレラ の ある モノ は ビンヅメ の サケ を かたむけて コウロン し、 ある モノ は タバコ を くゆらして ダンショウ して いる。 そして カレラ オオク は シャチュウ で はじめて あった の で ある。 そして イチ セイネン は カレラ の ナカマ に くわわらず ただ ヒトリ その コドク を まもって、 ヒトリ その クウソウ に しずんで いる の で ある。 カレ は いかに して シャカイ に すむ べき か と いう こと は ぜんぜん その シコウ の モンダイ と した こと が ない、 カレ は ただ いつも いつも いかに して この テンチカン に この セイ を たくす べき か と いう こと を のみ おもいなやんで いた。 であるから、 カレ には ドウシャ の ヒトビト を みる こと ほとんど タカイ の モノ を みる が ごとく、 カレ と ヒトビト の アイダ には こゆ べからざる シンコク の よこたわる こと を かんぜざる を えなかった ので、 いましも キシャ が おなじ レッシャ に ヒトビト および カレ を のせて イシカリ の ノ を つきすごして ゆく こと は、 ちょうど カレ の イッショウ の それ と おなじ よう に おもわれた の で ある。 ああ コドク よ! カレ は みずから もとめて シャカイ の ソト を あゆみながら も、 チュウシン じつに コドク の カン に たえなかった。
 もしそれ テン たかく すみて シュウセイ ぬぐう が ごとき ヒ で あった ならば、 ヨ が ウックツ も おおいに クツロギ を えたろう けれど、 クモ は ますます ひくく たれ ハヤシ は キリ に つつまれ、 どこ を みて も ヒカリ イッセン だも ない ので、 ヨ は ほとんど たゆ べからざる ユウシュウ に しずんだ の で ある。
 キシャ の ウタシナイ の タンザン に わかるる ナニガシ テイシャジョウ に つく や、 シャチュウ の タイハン は そこ で のりかえた ので、 のこる は ヨ の ホカ に フタリ ある のみ。 ゲンシ ジダイ ソノママ で イクセンネン ヒト の アシアト を とどめざる ダイシンリン を うがって レッシャ は イッチョクセン に はしる の で ある。 ハイイロ の キリ の イチダン また イチダン、 たちまち あらわれ たちまち きえ、 あるいは イノチ ある もの の ごとく もくもく と して フドウ して いる。
「どちら まで オイデ です か」 と とつぜん ヒトリ の オトコ が ヨ に コエ を かけた。 ネンパイ 40 イクツ、 コッカク の たくましい、 トウハツ の のびた、 シカク な カオ、 するどい メ、 ダイ なる ハナ、 イッケン ヒトクセ ある べき ジンブツ で、 その フウゾク は カンリ に あらず ショクニン に あらず、 ヒャクショウ に あらず、 ショウニン に あらず、 じつに ホッカイドウ に して はじめて みる べき シュルイ の モノ らしい、 すなわち いずれ の ミカイチ にも かならず まず もっとも バッコ する ヤマシ らしい。
「ソラチブト まで ゆく つもり です」
「ドウチョウ の ゴヨウ で?」 カレ は ヨ を ホッカイドウ チョウ の コヤクニン と みた の で ある。
「いや ボク は トチ を センテイ に でかける の です」
「ははあ。 ソラチブト は どこら を ゴセンテイ か しらん が、 もう めぼしい ところ は ない よう です よ」
「どう でしょう、 ソラチブト から ソラチガワ の エンガン に でられる でしょう か」
「それ は でられましょう とも、 しかし ソラチガワ の エンガン の どこら です か、 それ が ハンゼン しない と……」
「ワカヤマ ケン の イミン ダンタイ が いる ところ で、 ドウチョウ の カンリ が フタリ シュッチョウ して いる、 そこ へ ゆく の です がね、 ともかくも ソラチブト まで いって きいて みる つもり で いる の です」
「そう です か、 それでは ソラチブト に おいで に なったら ミウラヤ と いう ヤドヤ へ あがって ごらんなさい、 そこ の アルジ が そういう こと に あかるう ございます から きいて ゴラン なったら よう がす、 どうも まだ ドウロ が ひらけない ので、 ちょっと そこ まで の ところ でも たいへん オオマワリ を しなければ ならん よう な こと が あって なれない モノ には こまる こと が おおう がす て」
 それ より カレ は、 カイコン の コンナン な こと や、 トチ に よって コンナン の ヒジョウ に ソウイ する こと や、 コウツウ フベン の ため に せっかく の シュウカク も ヨウイ に シジョウ に もちだす こと が できぬ こと や、 コサクニン を つかう ホウホウ など に ついて いろいろ と はなしだした。 それら の こと は ヨ も サッポロ の ショユウ から きいて は いた が、 カレ の かたる が まま に うけて ただ その コウイ を しゃする のみ で あった。
 まもなく キシャ は しょうじょう たる イチ エキ に ついて ウンテン を とめた ので ヨ も おりる と、 この レッシャ より でた キャク は ソウタイ で 20 ニン ぐらい に すぎざる を みた、 キシャ は ここ より ひっかえす の で ある。
 ただ みる この イチ ショウエキ は シンリン に かこまれて いる イチ の コトウ で ある。 テイシャジョウ に フゾク する ところ の 2~3 の カオク の ホカ ニンゲン に エン ある もの は なにも ない。 ながく ひびいた キテキ が シンリン に ハンキョウ して みゃくみゃく と して とおく きえうせた とき、 せきぜん と して いう べからざる シズケサ に この コトウ は かえった。
 3 リョウ の ノリアイ バシャ が まって いる。 ヒトビト は もくもく と して これ に のりうつった。 ヨ も サキ の ドウシャ の オトコ と ともに その ヒトツ に のった。
 ホッカイドウウマ の ロバ に ひとしき が 2 トウ、 たくましき ワカモノ が ヒトリ、 6 ニン の キャク を のせて いずく へ とも なく はしりはじめた。 ヨ は 「いずく へ とも なく」 と いう の ココロモチ が した の で ある。 じつに わが ユクサキ は いずく で、 みずから とうて みずから こたえる こと が できなかった の で ある。
 3 リョウ の バシャ は あいへだつる 1 チョウ ばかり、 ヨ の バシャ は シンガリ に いた ので、 マエ に すすむ バシャ の イッコウ イッテイ、 デコボコ おおき ミチ を はしって ゆく サマ が よく みえる。 キリ は ハヤシ を かすめて とび、 ミチ を よこぎって また ハヤシ に いり、 シンク に そまった コノハ は エダ を はなれて 2 ヘン 3 ペン バシャ を おうて まう。 ギョシャ は イチベン つよく くわえて、
「もう おりる ぞ!」 と さけんだ。
「ミウラヤ の マエ で とめて おくれ!」 と サキ の オトコ は さけんで ヨ を かえりみた。 ヨ は モクレイ して その コウイ を しゃした。 シャチュウ ナンビト も イチゴ を はっしない で、 ミナ クッタク な カオ を して モノオモイ に しずんで いる。 ギョシャ は いま イチド つよく ムチ を くわえて ラッパ を ふきたてた ので、 カラダ は ショウ なれど も ゴウリョク なる ホッカイ の ケンジ は オオカケ に かけだした。
 ハヤシ が やや ひらけて ショクミン の コヤ が 1 ケン 2 ケン と あらわれて きた か と おもう と、 とつぜん ヘイヤ に でた。 はばひろき ドウロ の リョウガワ に ショウカ らしき が とびとび に ならんで いる サマ は、 シンカイチ の シガイ たる を あざむかない。 バシャ は ラッパ の ネ いさましく この アイダ を かけた。

 2

 ミウラヤ に つく や さっそく シュジン を よんで、 ソラチガワ の エンガン に ゆく べき ホウホウ を とい、 くわしく モクテキ を はなして みた。 ところが シュジン は むしろ ひきかえして ウタシナイ に まわり、 ウタシナイ より ヤマゴエ した ほう が ベンリ だろう と いう。
「ツギ の キシャ なら ヒノクレ まで には ウタシナイ に つきます から コンヤ は ウタシナイ で イッパク なされて、 アス よく おききあわせ に なって その うえ で おでかけ に なった が よう がす。 ウタシナイ なら ここ とは ちがって ドウチョウ の カタ も います から、 その イダ さん とか いう カタ の イマ いる ところ も たぶん わかる でしょう」
 こう いわれて みる と なるほど そう で ある。 されども ヨ は ソラチガワ の キシ に そうて すすまば、 ヨ が あわん と する ドウチョウ の カンリ イダ-ボウ の イドコロ を しる に もっとも ベン ならん と しんじて、 ソラチブト まで きた の で ある。 しかるに ソラチブト より ソラチガワ の キシ を つたう こと は アンナイシャ なくて は できぬ との こと、 しかも その ミチ らしき ミチ の ひらけいる には あらず との こと を、 ミウラヤ の シュジン より はじめて きいた の で ある。 そこで ヨ は シュジン の チュウイ に したがい、 ウタシナイ に まわる こと に きめて、 ツギ の キシャ まで 2 ジカン イジョウ を、 ミウラヤ の 2 カイ で ヒトリ ぽつねん と まつ こと と なった。
 みわたせば マエ は ヒラノ で ある。 きりのこされた タイボク が かしこここ に つったって いる。 カゼアタリ の つよき ゆえ か、 いずれ も マルハダカ に なって、 キイロ に そまった ハ の わずか ばかり が エダ に しがみついて いる ばかり、 それ すら みて いる うち に ばらばら と ちって いる。 カゼ の くわわる と ともに アメ が ふって きた。 オチカタ は アマグモ に とざされて よく も みえわかず、 マヂカ に たって いる カシワ の タカサ 3 ジョウ ばかり なる が、 その ふとい ハ を アメ に うたれ カゼ に ゆられて、 けうとき ネ を たてて いる。 ミチ を とおる モノ は ヒトリ も ない。
 かかる とき、 かかる バショ に、 ヒトリ の チジン なく、 ヒトリ の ハナシアイテ なく、 ハタゴヤ の マド に よって ふりしきる アキ の アメ を ながめる こと は けっして たのしい もの で ない。 ヨ は はしなく トウキョウ の フボ や オトウト や したしき トモ を おもいおこして、 いまさら の ごとく、 キョウ まで ワレ を かこみし ニンジョウ の いかに あたたか で あった か を かんじた の で ある。
 ダンシ ココロザシ を たて リソウ を おうて、 いまや シンリン の ナカ に ジユウ の テンチ を もとめん と ねがう とき、 けっして めめしくて は ならぬ と ワレ と わが ココロ を ひきたてる よう に した が、 ようするに リソウ は ひややか に して ニンジョウ は あたたかく、 シゼン は レイゲン に して したしみがたく、 ジンカン は なつかしく して ス を つくる に てきして いる。
 ヨ は もんもん と して 2 ジカン を すごした。 その うち には アメ は コヤミ に なった と おもう と、 ラッパ の ネ が トオク に ひびく。 クビ を だして みる と ナナメ に イト の ごとく ふる アメ を ついて 1 リョウ の バシャ が はせて くる。 ヨ は この バシャ に のりこんで ふたたび サキ の テイシャジョウ へ と、 ミウラヤ を たった。
 キシャ の ジョウキャク は かぞうる ばかり。 ヨ の はいった シツ は ヨ ヒトリ で あった。 ヒト ヒトリ いる は このましき こと に あらず、 ヨ は タ の シツ に のりかえん か とも おもった が、 おもいとまって アメ と キリ との ため に うすくらく なって いる シツ の カタスミ に ミ を よせて、 クレ ちかく なった ソラ の クモ の ユキキ や ワ を なして カイテン しさる ハヤシ の タチキ を ぼうぜん と ながめて いた。 かかる とき、 ヒト は おうおう ムネン ムソウ の ウチ に いる もの で ある。 リガイ の ネン も なければ コシカタ ユクスエ の オモイ も なく、 オンアイ の ジョウ も なく ゾウオ の ナヤミ も なく、 シツボウ も なく キボウ も なく、 ただ くうぜん と して メ を ひらき ミミ を ひらいて いる。 タビ を して シンシン ともに つかれはてて なお その ミ は シャジョウ に ゆられ、 エン も ユカリ も ない チホウ を ゆく とき は、 おうおう に して かく の ごとき シンキョウ に おちいる もの で ある。 かかる とき、 はからず メ に いった コウケイ は ふかく ノウテイ に えりこまれて タネン これ を わすれない もの で ある。 ヨ が いましも シャソウ より ながむる ところ の クモ の ユキキ や、 カバ の ハヤシ や ちょうど それ で あった。
 キシャ の ウタシナイ の ケイコク に ついた とき は、 アメ まったく やみて ヒ は まさに くれん と する とき で、 ヨ は やどる べき イエ の アテ も なく テイシャジョウ を でる と、 さすが に イクセン の コウフ を やしない、 イクヒャク の ジンカ の せまき タニ に ゾクシュウ して いる バショ だけ ありて、 ヤドヒキ なる モノ が 2~3 ニン まちうけて いた。 その ヒトリ に みちびかれ イシ おおく トモシビ くらき マチ を あゆみて 2 カイ-ダテ の ハタゴヤ に いり、 サイジョ の イナカナマリ を そのまま、 アイキョウ も ココロ から らしく むかえられた とき は、 ヨ も おもわず ビショウ した の で ある。
 ヤショク を すます と、 よばず して シュジン は ヨ の ヘヤ に きて くれた ので、 ただちに モクテキ を かたり カレ より できる だけ の ホウベン を もとめた。 シュジン は ヨ の かたる ところ を にこついて きいて いた が、
「ちょっと おまち ください、 すこし ココロアタリ が あります から」 と いいすてて ヘヤ を さった。 しばらく して たちかえり、
「だから エン と いう は キタイ な もの です。 アナタ もう ゴアンシン なさい、 すっかり わかりました」 と ワガミ の こと の ごとく よろこんで ザ に ついた。
「わかりました か」
「わかりました とも、 オオワカリ。 ヨッカ マエ から ワタシ の イエ に オトマリ の オキャクサマ が あります。 この カタ は ゴリョウチ の カカリ の カタ で センダッテ から サンリン を ミワケ して おまわり に なった の です が、 そら、 ノジュク の ほう が おお がしょう、 だから とうとう カラダ を こわして イマ テマエドモ で ホヨウ して いらっしゃる の です。 シノハラ さん と いう カタ です がね。 なんでも タク へ みえる マエ の ヒ は ソラチガワ の ほう に いらっしゃった と いう こと ききました から、 もしや と おもって ただいま うかがって みました ところ が、 わりました。 うん ドウチョウ の シュッチョウイン なら ヤマ を こす と すぐ シタ の コヤ に いた と おっしゃる の です。 ゴアンシン なさい、 ここ から 1 リ ぐらい な もの で ワケ は ありません、 アサ ゆけば オヒルマエ には かえって こられます さ」
「どうも いろいろ ありがとう、 それ で アンシン しました。 しかし イマ も その コヤ に いて くれれば いい が。 しじゅう イドコロ が かわる ので それで ドウチョウ でも しれなかった の だ から」
「だいじょうぶ います よ、 もし かわって いたら せんに いた コヤ の モノ に きけば よう がす、 トオク に うつる わけ は ありません」
「ともかくも アス アサ はやく でかけます から アンナイ を ヒトリ たのんで くれません か」
「そう です な、 ヤマミチ で エダ が おおい から やはり アンナイ が いる でしょう、 タク の セガレ を つれて いらっしゃい。 14 の コゾウ です が、 ソラチブト まで なら ぞんじて います。 アンナイ ぐらい できましょう よ」
と あくまで シンセツ に いって くれる ので、 ヨ は じつに しゃする ところ を しらなかった。 なるほど エン は キタイ な もの で ある、 ヨ に して もし タ の ヤドヤ に とまった なら けっして これほど の ベンギ と シンセツ とは うる こと が できなかったろう。
 シュジン は どこまでも カイカツ な オトコ で、 ホウタン で、 しかも ガンチュウ ヒト なき の ヨウス が ある。 カレ の シンセツ、 ミズシラズ の ヨ に まで オシゲ も なく なげだす シンセツ は、 カレ の ジンブツ の シゼン で ある らしい。 セカイ を ウチ と なし いたる ところ に その コキョウ を みいだす ほど の ヒト は、 いたる ところ の ヤマカワ、 せっする ところ の ヒト が すなわち ホウユウ で ある。 であるから ヒト の コンヤク を みれば、 その ヒト が ナンビト で あろう と、 ニクアシ する の イワレ さえ なくば、 すなわち ドウジョウ を ひょうする 10 ネン の コウユウ と イッパン なの で ある。 ヨ は シュジン の クチ より その リャクデン を きく に およんで カレ の ジンブツ の ヨ の スイソク に ちかき を しった。
 カレ は その ウマレコキョウ に おいて ソウトウ の ザイサン を もって いた ところ が、 カレ の オトウト フタリ は カレ の ソウゾク したる ザイサン を うらやむ こと はなはだしく、 ついには コツニク の アラソイ まで おこる ほど に およんだ。 しかるに カレ の チチ なる 70 の ロウオウ も また ショウテイ フタリ を あいして、 ややもすれば アニ に せまって その ザイサン を ブンパイ せしめよう と する。 もし これ 3 トウブン すれば、 3 ニン とも イッカ を たつる こと が できない の で ある。
「だから ワタシ は かんがえた の です、 コレッバカシ の もの を キョウダイ して あらそう なんて あまり リョウケン が ちいさい。 よろしい オマエタチ に やって しまおう。 ただ 5 ブン の 1 だけ くれろ、 ワシ は それ を もって ホッカイドウ に とぶ から って。 そこで コゾウ が ココノツ の とき でした、 オヤコ 3 ニン で ぽいと こっち へ やって きた の です。 いや ニンゲン と いう もの は どこ に でも すまば すまれる もの です よ。 はっはっはっ」 と わらって、
「ところが ミョウ でしょう、 オトウト の ヤツラ、 イマ では ワタシ が わけて やった もの を たいがい なくして しまって、 それでいて やはり ちっぽけ な ムラ を コノウエ も ない トチ の よう に おもって、 ワタシ が ナンド も ホッカイドウ へ きて みろ と テガミ で すすめて も でて きえない ん でさ」
 ヨ は この オトコ の なす ところ を み、 その かたる ところ を きいて、 おおいに うる ところ が あった の で ある。 よしや この イチ ショウリョテン の シュジン は、 ヨ が おもう ところ の ジンブツ と ドウイツ で ない に せよ、 よしや ヨ が おもう ところ の ジンブツ は、 この シュジン より おして さらに ヨ ジシン の クウソウ を くわえて もって カセイ したる モノ に せよ、 カレ は よく ジユウ に、 よく ドクリツ に、 シャカイ に すんで シャカイ に あっせられず、 ムキュウ の テンチ に カイリツ して やすんずる ところ あり、 ウミ をも ヤマ をも ゲンヤ をも はた シガイ をも、 ワガモノガオ に オウコウ カッポ して すこしも クッタク せず、 テンガイ チカク いたる ところ に ハナ の かんばしき を かぎ ニンジョウ の あたたかき に すむ、 げに オトコ は すべからく かく の ごとく して オトコ と いう べき では あるまい か。
 かく かんずる と ともに ヨ の ムネ は おおいに ひらけて、 サッポロ を いでて より ウタシナイ に つく まで、 クモ と ともに むすぼれ、 アメ と ともに しおれて いた ココロ は はしなくも テン の イッポウ シンペキ に して きわまりなき を のぞんだ よう な キ が して きた。
 ヨ の 10 ジ-ゴロ サンポ に でて みる と、 クモ の ナガレ キュウ に して タエマ タエマ には ホシ が みえる。 くらい マチ を たどって ジンカ を はなれる と、 タニ を へだてて ビョウブ の ごとく くろく ゼンメン に よこたわる ソマヤマ の ウエ に ツキ あらわれ、 ヤマ を かすめて とぶ フウン は おりおり その ゼンメン を ぬぐうて いる。 クウキ は おもく しめり、 ソラ には カゼ あれど も チ は しゅくぜん と して コエ なく、 ただ ケイリュウ の オト の かすか に きこゆる ばかり。 ヨ は イッポウ は ヤマ、 イッポウ は ガケ の ツマサキアガリ の ミチ を すすみて こだかき ヒロバ に でた か と おもう と、 とつぜん ミミ に いった もの は ゲンカ の サワギ で ある。
 みれば ヤマ に そうて ナガヤダチ の ヒトムネ あり、 これ に たいして また ヒトムネ あり。 ゲンカ は この ナガヤ より おこる の で あった。 ヒトムネ は イクコ か に わかれ、 ココ みな ショウジ を とざし、 その ショウジ には ホカゲ はなやか に うつり、 サンゲン の みだれて くるう チョウシ、 ホウカ の げきして さけぶ コエ、 わらう コエ は ざつぜん と して おこって いる の で ある。 ウシベヤ に ひとしき この ナガヤ は なんぞ しらん コウフ ども が シンザン ユウコク の イチグウ に もとめえし カンラクキョウ ならん とは。
 ながれて ユウジョ と なり、 ながれて コウフ と なり、 かう モノ も うる モノ も、 ワガヨ ユメ ぞ と キョウカ ランブ する の で ある。 ヨ は すすんで この ナガヤ コウジ に はいった。
 アメアガリ の ミチ は ぬかるみ、 ミズタマリ には ホカゲ うつる。 イエ は はなれて みし より も さらに あわれ な タテザマ にて、 シンカイチ だけ に ただ ノキサキ ショウジ など の シラキ の ヨメ にも なまなましく みゆる ばかり、 ユカ ひくく ヤネ ひくく、 たてし ショウジ は チ より ただちに ノキ に いたる か と おもわれ、 すでに ゆがみて スキマ より は ツリ-ランプ の カサ など みゆ。 ハダヌギ の アラクレ オトコ の カゲ オニ の ごとく うつれる あり、 ランパツ の シャクフ の アタマ の ヤシャ の ごとく うつる か と おもえば、 ユカ も おつる と おもわるる オト が して、 どっと ばかり ショウセイ の おこる イエ も あり。 「のめ よ」、 「うたえ よ」、 「ころす ぞ」、 「なぐる ぞ」、 コウショウ、 ゲキゴ、 アクバ、 カンコ、 シッタ、 ツヤ ある コブシ の ウタ の モンク の ハラワタ を たつ ばかり なる、 サンゲン の チョウシ の むせぶ が ごとき、 たちまち に して ボウフウ、 たちまち に して シュンウ、 みきたれば、 カンラク の ウチ に サッキ を こめ、 サッキ の ウチ に ケツルイ を ふくむ。 なく は わらう の か、 わらう の は なく の か、 イカリ は ウタ か、 ウタ は イカリ か、 ああ はかなき ジンセイ の ナガレ よ! スウネン-ゼン まで は クマ ねむり オオカミ すみし この タニマ に ながれおちて、 ここ に よどみ、 ここ に げきし、 ここ に しずみ、 ツキカゲ ひややか に これ を てらして いる。
 ヨ は とおりすぎて ふりかえり、 しばし たたずんで いる と、 とつぜん マヂカ なる 1 ケン の ショウジ が あいて ヒトリ の オトコ が つと あらわれた。
「や、 ツキ が でた!」 と ふりあげた カオ を みれば トシゴロ 26~27、 セ たかく カタ ひろく クッキョウ の ワカモノ で ある。 きょろきょろ アタリ を みまわして いた が ほっと シュキ を はき、 シタウチ して ふたたび ウチ に よろめきこんだ。

 3

 ヤド の コ の まめまめしき が サキ に たちて、 あくれば 9 ガツ 26 ニチ アサ の 9 ジ、 いよいよ ソラチガワ の キシ へ と シュッパツ した。
 インセイ さだめなき テンキ、 うすき ヒカゲ もるる か と おもえば たちまち ミネ より ハヤシ より キリ おこりて ミネ をも ハヤシ をも ミチ をも つつんで しまう。 ヤマジ は おもいし より ラク にて、 ヨ は ヤド の コ と サマザマ の モノガタリ しつつ ミ も ココロ も かろく あゆんだ。
 ハヤシ は まったく きばみ、 ツタモミジ は シンク に そまり、 キリ おこる とき は カスミ を へだてて ハナ を みる が ごとく、 ニッコウ チョクシャ する とき は ツユ を おびたる ハ ごと に イクセンマン の シンジュ ヘキギョク を つらねて ゼンザン もゆる か と おもわれた。 ヤド の コ は ソラチガワ エンガン に おける クマ の ハナシ を なし、 つづいて カレ が コドモゴコロ に ききあつめたる クマ モノガタリ の イクシュ か を ネッシン に かたった。 サカ を おりて クマザサ の しげれる ところ に くる と カレ は ちょっと たちどまり、
「きこえる だろう、 カワ の オト が」 と ミミ を かたむけた。 「そら…… きこえる だろう、 あれ が ソラチガワ、 もう すぐ そこ だ」
「みえそう な もの だな」
「どうして みえる もの か、 モリ の ナカ に ながれて いる の だ」
 フタリ は、 アタマ を ぼっする クマザサ の アイダ を わずか に かよう オビ ほど の ミチ を しばらく ゆく と、 ヒトリ の ロウジン の ヒャクショウ らしき に であった ので、 ヨ は ドウチョウ の シュッチョウイン が いる コヤ を たずねた。
「この ミチ を 3 チョウ ばかり ゆく と ハバ の ひろい シンカイ の ドウロ に でる、 その ミギガワ の サイショ の コヤ に いなさる だ」 と いいすてて ロウジン は いって しまった。
 ウタシナイ を たって から ここ まで の アイダ に ヒト に であった の は この ロウジン ばかり で、 トチュウ また コヤ らしき もの を みなかった の で ある。 ヨ は この ロウジン を みて ソラチガワ の エンガン の すでに いくらか の カイコンシャ の いりこんで いる こと を ジジツ の ウエ に しった。
 クマザサ の コミチ を とおりぬける と、 はたして おもいがけない ダイドウ が シンリン を うがって イッチョクセン に つくられて ある。 その ハバ は 5 ケン イジョウ も あろう か。 しかも リョウガワ に ミツモ して いる ハヤシ は、 2 ジョウ を こえ 3 ジョウ に たっする タイボク が おおい ので、 この はばひろき ダイドウ も、 ホリワリ を つうずる テツドウ センロ の よう で あった。 しかし ヨ は この ドウロ を みて タクショク に ネッシン なる ドウチョウ の ケイエイ の、 いかに コンナン おおき か を しった の で ある。
 みれば この ドウロ の サイショ の ミギガワ に、 ナイチ では みる こと の できない イヨウ なる ホッタテゴヤ が ある。 コヤ の サユウ および ウシロ は ハヤシ を たおして、 2~3 ダンブ の ヒラチ が ひらかれて いる。 ヨ は シュビ よく この コヤ で ドウチョウ の ゾッカン、 イダ-ボウ および タ の ヒトリ に あう こと が できた。
 ショクミン カチョウ の テイネイ なる ショウカイ は、 カレラ を して ジュウブン に シンセツ に ヨ が ソウダン アイテ と ならしめた の で ある。 さらに おどろく べき は、 カレラ が ヨ の ナ を きいて、 はやく すでに ヨ を しって いた こと で、 ヨ の ブザツ なる ブンショウ も、 いつしか ホッカイドウ の おもい も かけぬ チ に その ドクシャ を えて いた こと で あった。
 フタリ は ヨ の モクテキ を ききおわりて ノチ、 ソラチガワ エンガン の チズ を ひらき その ケイケン おおき カンシキ を もって、 かしこここ と、 イミンシャ の ため に クカク せる 1 ク 1 マン 5000 ツボ の チ の ウチ から 6 カショ ほど センテイ して くれた。
 ジム は おわり ザツダン に うつった。
 コヤ は 3 ゲン に 4 ケン を いでず、 ヤネ も マワリ の カベ も タイボク の カワ を はばひろく はぎて くみあわした もの で、 イタ を もちいし は ユカ のみ。 ユカ には ムシロ を しき、 デイリ の クチ は これ また ジュヒ を くみて ト と なしたる が 1 マイ おおわれて ある ばかり、 これ カイコンシャ の ス なり、 イエ なり、 いな ジョウカク なり。 イチグウ に チョウホウケイ の おおきな ロ が きって、 これ を ヒバチ に カマド に、 タバコボン に、 フユ ならば ダンロ に シヨウ する の で ある。
「フユ に なったら たまらん でしょう ね、 こんな コヤ に いて は」
「だって カイコンシャ は ミンナ こんな コヤ に すんで いる の です よ。 どう です シンボウ が できます か」 と イダ は わらいながら いった。
「カクゴ は して います が、 いざ と なったら ずいぶん こまる でしょう」
「しかし おもった ほど でも ない もの です。 もし フユ に なって どうしても シンボウ が できそう も なかったら、 アナタガタ の こと だ から サッポロ へ にげて くれば いい です よ。 どうせ フユゴモリ は どこ で して も おなじ こと だ から」
「はっはっはっ はっはっはっ、 それなら ハジメ から コサクニン マカセ に して ゴジブン は サッポロ に いる ほう が よかろう」 と タ の ゾッカン が いった。
「そう です とも、 そう です とも、 フユ に なって サッポロ に にげて いく ほど なら、 いっそ ハジメ から トウキョウ に いて カイコン した ほう が いい ん です。 なに ボク は シンボウ します よ」 と ヨ は カクゴ を みせた。 イダ は、
「そう です な、 まず ユキ でも ふって きたら、 この ロ に どんどん タキビ を する ん です な、 タキギ なら オテノモノ だ から。 それで アナタガタ だ から うんと ショモツ を しこんで おいて ベンキョウ なさる ん です な」
「ユキ が とける ジブン には ダイガクシャ に なって あらわれる と いう シュコウ です か」 と ヨ は おもわず わらった。
 はなして いる と、 とつぜん ぱらぱら と オト が して きた ので ヨ は ソト に でて みる と、 ヒ は うすく ひかり、 クモ は しずか に ながれ、 せき たる シンリン を こえて シグレ が すぎゆく の で あった。
 ヨ は ヤド の コ を のこして、 ヒトリ この アタリ を サンポ す べく コヤ を でた。
 げに あやしき ドウロ よ。 これ センネン の シンリン を めっし、 ジンリョク を もって シゼン に うちかたん が ため に、 ことさら に ブジン の サカイ を えらんで つくられた の で ある。 みわたす かぎり、 リョウガワ の シンリン これ を おおう のみ にて、 イッコ の ジンエイ すら なく、 イチル の ケイエン すら おこらず、 イチ の ジンゴ すら きこえず、 せきせき りょうりょう と して よこたわって いる。
 ヨ は シグレ の オト の サビシサ を しって いる、 しかし いまだかつて、 ゲンシ の ダイシンリン を しのびやか に すぎゆく シグレ ほど サビシサ を かんじた こと は ない。 これ じつに シゼン の ユウジャク なる ササヤキ で ある。 シンリン の ソコ に いて、 この ネ を きく モノ、 ナンピト か セイブツ を レイショウ する シゼン の ムゲン の イリョク を かんぜざらん。 ドトウ、 ボウフウ、 シツライ、 センデン は シゼン の キョカツ で ある。 かの イリョク の もっとも ヒト に せまる の は、 かの もっとも しずか なる とき で ある。 コウエン なる ソウテン の、 なんの コエ も なく ただ もくして ゲカイ を みおろす とき、 かつて ジンセキ を ゆるさざりし シンリン の おくふかき ところ、 イッペン の コノハ の くちて カゼ なき に おつる とき、 シゼン は アクビ して いわく、 「ああ わが イチニチ も くれん と す」 と。 しかして ニンゲン の 1 セン-ネン は この セツナ に とびゆく の で ある。
 ヨ は リョウガワ の ハヤシ を のぞきつつ ゆく と、 ヒダリガワ で ハヤシ の やや うすく なって いる ところ を みいだした。 シタクサ を わけて すすみ、 ふと かえりみる と、 この ミ は いつしか シンリン の ソコ に いた の で ある。 とある タイボク の くちて たおれたる に コシ を かけた。
 ハヤシ が くらく なった か と おもう と、 たかい エダ の ウエ を シグレ が さらさら と ふって きた。 きた か と おもう と まもなく やんで しんと して ハヤシ は しずまりかえった。
 ヨ は しばらく じっと して ハヤシ の オク の くらく なって いる ところ を みて いた。
 シャカイ が どこ に ある、 ニンゲン の ホコリガオ に デンショウ する 「レキシ」 が どこ に ある。 この バショ に おいて、 この とき に おいて、 ヒト は ただ 「セイゾン」 ソノモノ の シゼン の イチ コキュウ の ナカ に たくされて おる こと を かんずる ばかり で ある。 ロコク の シジン は かつて シンリン の ナカ に ざして、 シ の カゲ の ワレ に せまる を おぼえた と いった が、 じつに そう で ある。 また いわく、 「ジンルイ の サイゴ の 1 ニン が この チキュウジョウ より ショウメツ する とき、 コノハ の イッペン も その ため に そよがざる なり」 と。
 シ の ごとく しずか なる、 ひややか なる、 くらき、 ふかき シンリン の ナカ に ざして、 かく の ごとき の イハク を うけない モノ は タレ も なかろう。 ヨ ワレ を わすれて おそろしき クウソウ に しずんで いる と、
「ダンナ! ダンナ!」 と よぶ コエ が モリ の ソト で した。 いそいで でて みる と ヤド の コ が たって いる。
「もう ゴヨウ が すんだら かえりましょう」
 そこで フタリ は ひとまず コヤ に かえる と、 イダ は、
「どう です、 コンヤ は シケン の ため に ヒトバン ここ に とまって ゴラン に なって は」

 ヨ は ついに ふたたび ホッカイドウ の チ を ふまない で コンニチ に いたった。 たとい イッカ の ジジョウ は ヨ の カイコン の モクテキ を チュウシ せしめた に せよ、 ヨ は イマ も なお ソラチガワ の エンガン を おもう と、 あの レイゲン なる シゼン が、 ヨ を ひきつける よう に かんずる の で ある。
 なぜ だろう。
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