カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

イッペイソツ

2016-08-23 | タヤマ カタイ
 イッペイソツ

 タヤマ カタイ

 カレ は あるきだした。
 ジュウ が おもい、 ハイノウ が おもい、 アシ が おもい、 アルミニウム-セイ の カナワン が コシ の ケン に あたって かたかた と なる。 その オト が コウフン した シンケイ を おびただしく シゲキ する ので、 イクタビ か それ を なおして みた が、 どうしても なる、 かたかた と なる。 もう いや に なって しまった。
 ビョウキ は ホントウ に なおった の で ない から、 イキ が ヒジョウ に きれる。 ゼンシン には アクネツ オカン が たえず オウライ する。 アタマ が ヒ の よう に ねっして、 コメカミ が はげしい ミャク を うつ。 なぜ、 ビョウイン を でた? グンイ が アト が タイセツ だ と いって あれほど とめた のに、 なぜ ビョウイン を でた? こう おもった が、 カレ は それ を くい は しなかった。 テキ の すてて にげた きたない ヨウカン の イタジキ、 8 ジョウ ぐらい の ヘヤ に、 ビョウヘイ、 フショウヘイ が 15 ニン、 オトロエ と フケツ と ウメキ と おもくるしい クウキ と、 それに すさまじい ハエ の グンシュウ、 よく ハツカ も シンボウ して いた。 ムギメシ の カユ に すこし ばかり の ショクエン、 よく あれ で ウエ を しのいだ。 カレ は ビョウイン の ウシロ の ベンジョ を おもいだして ぞっと した。 キュウゴシラエ の アナ の ホリヨウ が あさい ので、 シュウキ が ハナ と メ と を はげしく うつ。 ハエ が わんと とぶ。 イシバイ の ハイイロ に よごれた の が ムネ を むかむか させる。
 あれ より は…… あそこ に いる より は、 この ひろびろ と した ノ の ほう が いい。 どれほど いい か しれぬ。 マンシュウ の ノ は こうばく と して なにも ない。 ハタ には もう じゅくしかけた コーリャン が つらなって いる ばかり だ。 けれど シンセン な クウキ が ある、 ヒ の ヒカリ が ある、 クモ が ある、 ヤマ が ある、 ――すさまじい コエ が キュウ に ミミ に はいった ので、 たちどまって カレ は そっち を みた。 サッキ の キシャ が まだ あそこ に いる。 カマ の ない エントツ の ない ながい キシャ を、 シナ クーリー が イクヒャクニン と なく よって たかって、 ちょうど アリ が おおきな エモノ を はこんで ゆく よう に、 えっさら おっさら おして ゆく。
 ユウヒ が エ の よう に ナナメ に さしわたった。
 サッキ の カシ が あそこ に のって いる。 あの イチダン たかい コメ の カマス の ツミニ の ウエ に つったって いる の が キャツ だ。 くるしくって とても あるけん から、 アンザン テン まで のせて いって くれ と たのんだ。 すると キャツメ、 ヘイ を のせる クルマ では ない、 ホヘイ が クルマ に のる と いう ホウ が ある か と どなった。 ビョウキ だ、 ゴラン の とおり の ビョウキ で、 カッケ を わずらって いる。 アンザン テン の サキ まで ゆけば タイ が いる に ソウイ ない。 ブシ は アイミタガイ と いう こと が ある、 どうか のせて くれ って、 たって たのんで も、 いう こと を きいて くれなかった。 ヘイ、 ヘイ と いって、 スジ が すくない と バカ に しやがる。 キンシュウ でも、 トクリジ でも ヘイ の おかげ で センソウ に かった の だ。 バカ め、 アクマ め!
 アリ だ、 アリ だ、 ホントウ に アリ だ。 まだ あそこ に いやがる。 キシャ も ああ なって は オシマイ だ。 ふと キシャ―― トヨハシ を たって きた とき の キシャ が メノマエ を とおりすぎる。 テイシャジョウ は コッキ で うずめられて いる。 バンザイ の コエ が ながく ながく つづく。 と こつぜん サイアイ の ツマ の カオ が メ に うかぶ。 それ は カドデ の とき の ナキガオ では なく、 どうした バアイ で あった か わすれた が ココロ から かわいい と おもった とき の うつくしい ワライガオ だ。 ハハオヤ が オマエ もう おおき よ、 ガッコウ が おそく なる よ と ゆりおこす。 カレ の アタマ は いつか コドモ の ジダイ に とびかえって いる。 ウラ の イリエ の フネ の センドウ が ハゲアタマ を ユウヒ に てかてか と ひからせながら、 コドモ の ヒトムレ に むかって どなって いる。 その コドモ の ムレ の ナカ に カレ も いた。
 カコ の オモカゲ と ゲンザイ の クツウ フアン と が、 はっきり と クカク を たてて おりながら、 しかも それ が スレスレ に すりよった。 ジュウ が おもい、 ハイノウ が おもい、 アシ が おもい。 コシ から シタ は タニン の よう で、 ジブン で あるいて いる の か いない の か、 それ すら はっきり とは わからぬ。
 カツイロ の ドウロ―― ホウシャ の ワダチ や クツ の アト や ワラジ の アト が ふかく いんした まま に イシ の よう に かわいて かたく なった ミチ が マエ に ながく つうじて いる。 こういう マンシュウ の ドウロ には カレ は ほとんど アイソ を つかして しまった。 どこ まで いったら この ミチ は なくなる の か。 どこ まで いったら こんな ミチ は あるかなくって も よく なる の か。 フルサト の イサゴミチ、 アメアガリ の しめった カイガン の イサゴミチ、 あの なめらか な ココチ の いい ミチ が なつかしい。 ひろい おおきい ミチ では ある が、 ヒトツ と して なめらか な たいらか な ところ が ない。 これ が アメ が 1 ニチ ふる と、 カベツチ の よう に やわらかく なって、 クツ どころ か、 ながい スネ も その ナカバ を ぼっして しまう の だ。 ダイセッキョウ の センソウ の マエ の バン、 くらい ヤミ の デイネイ を 3 リ も こねまわした。 セ の ウエ から アタマ の カミ まで ハネ が あがった。 あの とき は ホウシャ の エンゴ が ニンム だった。 ホウシャ が デイネイ の ナカ に おちいって すこしも うごかぬ の を おして おして おしとおした。 ダイ 3 レンタイ の ホウシャ が サキ に でて ジンチ を センリョウ して しまわなければ アシタ の タタカイ は できなかった の だ。 そして シュウヤ はたらいて、 ヨクジツ は あの センソウ。 テキ の ホウダン、 ミカタ の ホウダン が ぐんぐん と いや な オト を たてて アタマ の ウエ を なって とおった。 90 ド ちかい あつい ヒ が ノウテン から じりじり と てりつけた。 4 ジ-スギ に、 テキミカタ の ホヘイ は ともに セッキン した。 ショウジュウ の オト が マメ を いる よう に きこえる。 ときどき しゅっしゅっ と ミミ の ソバ を かすめて ゆく。 レツ の ウチ で あっ と いった モノ が ある。 はっと おもって みる と、 チ が だらだら と あつい ユウヒ に いろどられて、 その ヘイシ は がっくり マエ に のめった。 ムネ に タマ が あたった の だ。 その ヘイシ は よい オトコ だった。 カイカツ で、 シャダツ で、 ナニゴト にも キ が おけなかった。 シンシロ マチ の モノ で、 わかい カカア が あった はず だ。 ジョウリク トウザ は イッショ に よく チョウハツ に いったっけ。 ブタ を おいまわしたっけ。 けれど あの オトコ は もはや この ヨノナカ に いない の だ。 いない とは どうしても おもえん。 おもえん が いない の だ。
 カツイロ の ドウロ を、 ヒョウロウ を マンサイ した クルマ が ぞろぞろ ゆく。 ラシャ、 ロシャ、 シナジン の オヤジ の うおうお ういうい が きこえる。 ながい ムチ が ユウヒ に ひかって、 イッシュ の オト を クウキ に つたえる。 ミチ の デコボコ が はげしい ので、 クルマ は ナミ を うつ よう に して がたがた うごいて ゆく。 くるしい、 イキ が くるしい。 こう くるしくって は シカタ が ない。 たのんで のせて もらおう と おもって カレ は かけだした。
 カナワン が かたかた なる。 はげしく なる。 ハイノウ の ナカ の ザッピン や タマブクロ の タマ が けたたましく おどりあがる。 ジュウ の ダイ が ときどき スネ を うって とびあがる ほど いたい。
「おーい、 おーい」
 コエ が たたない。
「おーい、 おーい」
 ゼンシン の チカラ を しぼって よんだ。 きこえた に ソウイ ない が ふりむいて も みない。 どうせ ろく な こと では ない と しって いる の だろう。 イチジ おもいとまった が、 また かけだした。 そして コンド は その サイゴ の 1 リョウ に ようやく おいついた。
 コメ の カマス が ヤマ の よう に つんで ある。 シナジン の オヤジ が ふりむいた。 マルガオ の いや な カオ だ。 ウム を いわせず その クルマ に とびのった。 そして カマス と カマス との アイダ に ミ を よこたえた。 シナジン は シカタ が ない と いう ふう で うおー うおー と ウマ を すすめた。 がたがた と クルマ は ゆく。
 アタマ が ぐらぐら して テンチ が カイテン する よう だ。 ムネ が くるしい。 アタマ が いたい。 アシ の フクラハギ の ところ が おしつけられる よう で、 フユカイ で フユカイ で シカタ が ない。 ややともすると ムネ が むかつきそう に なる。 フアン の ネン が すさまじい チカラ で ゼンシン を おそった。 と ドウジ に、 おそろしい ドウヨウ が また はじまって、 ミミ から も アタマ から も、 シュジュ の コエ が ささやいて くる。 コノマエ にも こうした フアン は あった が、 これほど では なかった。 テン にも チ にも ミ の オキドコロ が ない よう な キ が する。
 ノ から ムラ に はいった らしい。 こんもり と した ヤナギ の ミドリ が カレ の ウエ に なびいた。 ヤナギ に さしいった ユウヒ の ヒカリ が こまか な ハ を ヒトハ ヒトハ あきらか に みせて いる。 ブカッコウ な ひくい ヤネ が ジシン でも ある か の よう に ドウヨウ しながら すぎて ゆく。 ふと キ が つく と、 クルマ は とまって いた。 カレ は クビ を あげて みた。
 ヤナギ の カゲ を なして いる ところ だ。 クルマ が 5 ダイ ほど つづいて いる の を みた。
 とつぜん カタ を おさえる モノ が ある。
 ニホンジン だ、 わが ドウホウ だ、 カシ だ。
「キサマ は ナン だ?」
 カレ は くるしい ミ を おこした。
「どうして この クルマ に のった?」
 リユウ を セツメイ する の が つらかった。 いや クチ を きく の も いや なの だ。
「この クルマ に のっちゃ いかん。 そう で なくって さえ、 ニ が おもすぎる ん だ。 オマエ は 18 レンタイ だな。 トヨハシ だな」
 うなずいて みせる。
「どうか した の か」
「ビョウキ で、 キノウ まで ダイセッキョウ の ビョウイン に いた もの です から」
「ビョウキ が もう なおった の か」
 ムイミ に うなずいた。
「ビョウキ で つらい だろう が、 おりて くれ。 いそいで ゆかんけりゃ ならん の だ から。 リョウヨウ が はじまった でな」
「リョウヨウ!」
 この イチゴ は カレ の シンケイ を ジュウブン に シゲキ した。
「もう はじまった です か」
「きこえん か あの ホウ が……」
 サキホド から、 テンマツ に イッシュ の トドロキ が はじまった そう な とは おもった が、 まだ リョウヨウ では ない と おもって いた。
「アンザン テン は おちた です か」
「オトトイ おちた。 テキ は リョウヨウ の テマエ で ヒトフセギ やる らしい。 キョウ の 6 ジ から はじまった と いう ウワサ だ!」
 イッシュ の とおい かすか なる トドロキ、 シサイ に きけば なるほど ホウセイ だ。 レイ の いや な オト が ズジョウ を とぶ の だ。 ホヘイタイ が その アイダ を ぬって シンゲキ する の だ。 チシオ が ながれる の だ。 こう おもった カレ は イッシュ の キョウフ と ドウケイ と を おぼえた。 センユウ は たたかって いる。 ニホン テイコク の ため に チシオ を ながして いる。
 シュラ の チマタ が ソウゾウ される。 サクダン の ソウカン も ガンゼン に うかぶ。 けれど 7~8 リ を へだてた この マンシュウ の ノ は、 さびしい アキカゼ が ユウヒ を ふいて いる ばかり、 タイグン の ウシオ の ごとく すぎさった ムラ の ヘイワ は イツモ に ことならぬ。
「コンド の センソウ は おおきい だろう」
「そう さ」
「1 ニチ では カチマケ が つくまい」
「むろん だ」
 イマ の カシ は ナカマ の ヘイシ と ホウセイ を ミミ に しつつ しきり に かたりあって いる。 ヒョウロウ を マンサイ した クルマ 5 リョウ、 シナ クーリー の オヤジ-レン も ワ を なして ナニゴト を か しゃべりたてて いる。 ロバ の ながい ミミ に ヒ が さして、 おりおり けたたましい ナキゴエ が ミミ を つんざく。 ヤナギ の かなた に しろい カベ の シナ ミンカ が 5~6 ケン つづいて、 ニワ の ナカ に エンジュ の キ が たかく みえる。 イド が ある。 ナヤ が ある。 アシ の ちいさい としおいた オンナ が おぼつかなく あるいて ゆく。 ヤナギ を すかして ムコウ に、 ひろい こうばく たる ノ が みえる。 カッショク した オカ の レンゾク が ゆびさされる。 その ムコウ には むらさきがかった たかい ヤマ が えんえん と して いる。 ホウセイ は そこ から くる。

 5 リョウ の クルマ は いって しまった。
 カレ は また ヒトリ とりのこされた。 カイジョウ から ヒガシ エンダイ、 カンセンホ、 この ツギ の ヘイタンブ ショザイチ は シンタイシ と いって、 まだ 1 リ ぐらい ある。 そこ まで ゆかなければ やどる べき イエ も ない。
 ゆく こと に して あるきだした。
 つかれきって いる から ナンギ だ が、 クルマ より は かえって いい。 ムネ は いぜん と して くるしい が、 どうも イタシカタ が ない。
 また おなじ カツイロ の ミチ、 おなじ コーリャン の ハタケ、 おなじ ユウヒ の ヒカリ、 レール には レイ の キシャ が また とおった。 コンド は クダリザカ で、 ソクリョク が ヒジョウ に はやい。 カマ の ついた キシャ より も はやい くらい に めまぐろしく タニ を こえて はしった。 サイゴ の シャリョウ に ひるがえった コッキ が コーリャン-バタケ の タエマ タエマ に みえたり かくれたり して、 ついに それ が みえなく なって も、 その シャリョウ の トドロキ は きこえる。 その トドロキ と まじって、 ホウセイ が しっきりなし に ひびく。
 カイドウ には ひさしく ソンラク が ない が、 セイホウ には ヤナギ の やや くらい シゲリ が いたる ところ に かたまって、 その アイダ から ちらちら ハクショク カッショク の ミンカ が みえる。 ヒト の カゲ は アタリ を みまわして も ない が、 あおい ほそい スイエン は イト の よう に さびしく たちあがる。
 ユウヒ は モノ の カゲ を すべて ながく ひく よう に なった。 コーリャン の たかい カゲ は 2 ケン ハバ の ひろい ミチ を おおって、 さらに ムコウガワ の コーリャン の ウエ に おおいかさなった。 ミチバタ の ちいさな クサ の カゲ も おびただしく ながく、 トウホウ の オカ は うきだす よう に はっきり と みえる。 さびしい かなしい ユウグレ は たとえがたい イッシュ の カゲ の チカラ を もって せまって きた。
 コーリャン の たえた ところ に きた。 こつぜん、 カレ は その マエ に おどろく べき チョウダイ なる ジコ の カゲ を みた。 カタ の ジュウ の カゲ は とおい ノ の クサ の ウエ に あった。 カレ は キュウ に ふかい ヒアイ に うたれた。
 クサムラ には ムシ の コエ が する。 フルサト の ノ で きく ムシ の コエ とは に も つかぬ。 この につかぬ こと と ひろい ノハラ と が なんとなく その ムネ を いためた。 イチジ とだえた ツイカイ の ジョウ が ながるる よう に みなぎって きた。
 ハハ の カオ、 わかい ツマ の カオ、 オトウト の カオ、 オンナ の カオ が ソウマトウ の ごとく センカイ する。 ケヤキ の キ で かこまれた ムラ の キュウカ、 ダンラン せる ヘイワ な カテイ、 つづいて その ミ が トウキョウ に シュウギョウ に いった オリ の ワカワカシサ が おもいだされる。 カグラザカ の ヨル の ニギワイ が メ に みえる。 うるわしい クサバナ、 ザッシテン、 シンカン の ホン、 カド を まがる と にぎやか な ヨセ、 マチアイ、 シャミセン の オト、 あだめいた オンナ の コエ、 あの コロ は たのしかった。 こいした オンナ が ナカチョウ に いて、 よく あそび に いった。 マルガオ の かわいい ムスメ で、 イマ でも こいしい。 この ミ は イナカ の ゴウカ の ワカダンナ で、 カネ には フジユウ を かんじなかった から、 ずいぶん おもしろい こと を した。 それに あの コロ の ユウジン は ミナ ヨ に でて いる。 コノアイダ も ガイヘイ で ダイ 6 シダン の タイイ に なって いばって いる ヤツ に でっくわした。
 グンタイ セイカツ の ソクバク ほど ザンコク な もの は ない と とつぜん おもった。 と、 キョウ は フシギ にも ヒゴロ の よう に ハンコウ とか ギセイ とか いう ネン は おこらず に、 キョウフ の ネン が さかん に もえた。 シュッパツ の とき、 この ミ は クニ に ささげ キミ に ささげて イカン が ない と ちかった。 フタタビ は かえって くる キ は ない と、 ムラ の ガッコウ で おおしい エンゼツ を した。 トウジ は ゲンキ オウセイ、 シンタイ ソウケン で あった。 で、 そう いって も もちろん しぬ キ は なかった。 ココロ の ソコ には はなばなしい ガイセン を ゆめみて いた。 で ある のに、 イマ こつぜん おこった の は シ に たいする フアン で ある。 ジブン は とても いきて かえる こと は おぼつかない と いう キ が はげしく ムネ を ついた。 この ヤマイ、 この カッケ、 たとえ この ヤマイ は なおった に して も センジョウ は おおいなる ロウゴク で ある。 いかに もがいて も あせって も この おおいなる ロウゴク から だっする こと は できぬ。 トクリジ で センシ した ヘイシ が その イゼン カレ に むかって、
「どうせ のがれられぬ アナ だ。 おもいきり よく しぬ さ」 と いった こと を おもいだした。
 カレ は ヒロウ と ビョウキ と キョウフ と に おそわれて、 いかに して この おそろしい サイヤク を のがる べき か を かんがえた。 ダッソウ? それ も いい、 けれど とらえられた アカツキ には、 コノウエ も ない オメイ を こうむった うえ に おなじく シ! されば とて ゼンシン すれば かならず センソウ の チマタ の ヒト と ならなければ ならぬ。 センソウ の チマタ に いれば シ を カクゴ しなければ ならぬ。 カレ は イマ はじめて、 ビョウイン を タイイン した こと の グ を ひしと ムネ に おもいあたった。 ビョウイン から コウソウ される よう に すれば よかった…… と おもった。
 もう ダメ だ、 バンジ きゅうす、 のがれる に ミチ が ない。 ショウキョクテキ の ヒカン が おそろしい チカラ で その ムネ を おそった。 と、 あるく ユウキ も なにも なくなって しまった。 トメド なく ナミダ が ながれた。 カミ が コノヨ に います なら、 どうか たすけて ください、 どうか ニゲミチ を おしえて ください。 これから は どんな ナンギ も する! どんな ゼンジ も する! どんな こと にも そむかぬ。
 カレ は おいおい コエ を あげて なきだした。
 ムネ が しっきりなし に こみあげて くる。 ナミダ は コドモ でも ある よう に ホオ を ながれる。 ジブン の カラダ が この ヨノナカ に なくなる と いう こと が ツウセツ に かなしい の だ。 カレ の ムネ には これまで イクタビ も ソコク を おもう の ネン が もえた。 カイジョウ の カンパン で、 グンカ を うたった とき には ヒソウ の ネン が ゼンシン に みちわたった。 テキ の グンカン が とつぜん でて きて、 イチ ホウダン の ため に しずめられて、 カイテイ の モクズ と なって も イカン が ない と おもった。 キンシュウ の センジョウ では、 キカンジュウ の シ の サケビ の タダナカ を チ に ふしつつ、 いさましく すすんだ。 センユウ の チ に まみれた スガタ に ムネ を うった こと も ない では ない が、 これ も クニ の ため だ、 メイヨ だ と おもった。 けれど ヒト の チ の ながれた の は ジブン の チ の ながれた の では ない。 シ と あいめんして は、 いかなる ユウシャ も センリツ する。
 アシ が おもい、 けだるい、 ムネ が むかつく。 ダイセッキョウ から 10 リ、 フツカ の ミチ、 ヨツユ、 オカン、 たしか に ジビョウ の カッケ が コウシン した の だ。 リュウコウ チョウイネツ は なおった が、 キュウセイ の カッケ が おそって きた の だ。 カッケ ショウシン の おそろしい こと を ジカク して カレ は センリツ した。 どうしても まぬかれる こと が できぬ の か と おもった。 と、 いて も たって も いられなく なって、 カラダ が しびれて アシ が すくんだ。 ――おいおい なきながら あるく。
 ノ は ヘイワ で ある。 あかい おおきい ヒ は チヘイセン-ジョウ に おちん と して、 ソラ は なかば コンジキ なかば アンペキショク に なって いる。 コンジキ の トリ の ツバサ の よう な クモ が ヒトヒラ うごいて ゆく。 コーリャン の カゲ は カゲ と おおいかさなって、 こうりょう たる ノ には アキカゼ が わたった。 リョウヨウ ホウメン の ホウセイ も イマ まで さかん に きこえて いた が、 いつか まったく とだえて しまった。
 フタリヅレ の ジョウトウヘイ が おいこした。
 すれちがって、 5~6 ケン サキ に でた が、 ヒトリ が もどって きた。
「おい、 キミ、 どうした?」
 カレ は キ が ついた。 コエ を あげて ないて あるいて いた の が きはずかしかった。
「おい、 キミ?」
 ふたたび コエ は かかった。
「カッケ な もん です から」
「カッケ?」
「はあ」
「それ は こまる だろう。 よほど わるい の か」
「くるしい です」
「それ あ こまった な、 カッケ では ショウシン でも する と タイヘン だ。 どこ まで ゆく ん だ」
「タイ が アンザン テン の ムコウ に いる だろう と おもう ん です」
「だって、 キョウ そこ まで ゆけ は せん」
「はあ」
「まあ、 シンタイシ まで ゆく さ。 そこ に ヘイタンブ が ある から いって イシャ に みて もらう さ」
「まだ とおい です か?」
「もう すぐ そこ だ。 それ ムコウ に オカ が みえる だろう。 オカ の テマエ に テツドウ センロ が ある だろう。 そこ に コッキ が たって いる、 あれ が シンタイシ の ヘイタンブ だ」
「そこ に イシャ が いる でしょう か」
「グンイ が ヒトリ いる」
 ソセイ した よう な キ が する。
 で、 フタリ に ついて あるいた。 フタリ は キノドク-がって、 ジュウ と ハイノウ と を もって くれた。
 フタリ は マエ に たって はなしながら ゆく。 リョウヨウ の キョウ の センソウ の ハナシ で ある。
「ヨウス は わからん かな」
「まだ やってる ん だろう。 エンダイ で きいた が、 テキ は リョウヨウ の 1 リ テマエ で ヒトササエ して いる そう だ。 なんでも シュザンポ とか いった」
「コウビ が たくさん ゆく な」
「ヘイ が たりん の だ。 テキ の ボウギョ ジンチ は すばらしい もの だ そう だ」
「おおきな センソウ に なりそう だな」
「イチニチ ホウセイ が した から な」
「かてる かしらん」
「まけちゃ タイヘン だ」
「ダイ 1 グン も でた ん だろう な」
「もちろん さ」
「ひとつ うまく ハイゴ を たって やりたい」
「コンド は きっと うまく やる よ」
 と いって ミミ を かたむけた。 ホウセイ が また さかん に きこえだした。

 シンタイシ の ヘイタンブ は イマ ザットウ を きわめて いた。 コウビ リョダン の 1 コ レンタイ が ついた ので、 レール の ウエ、 カオク の カゲ、 ヒョウロウ の ソバ など に グンボウ と ジュウケン と が みちみちて いた。 レール を はさんで テキ の テツドウ エンゴ の エイシャ が イツムネ ほど たって いる が、 コッキ の ひるがえった ヘイタン ホンブ は、 ザットウ を かさねて、 ヘイシ が クロヤマ の よう に あつまって、 ながい ケン を さげた シカン が イクニン と なく でたり はいったり して いる。 ヘイタンブ の 3 コ の オオガマ には ヒ が さかん に もえて、 ケムリ が ハクボ の ソラ に こく なびいて いた。 1 コ の カマ は メシ が すでに たけた ので、 スイジ グンソウ が おおきな コエ を あげて、 ブカ を シッタ して、 あつまる ヘイシ に しきり に メシ の ブンパイ を やって いる。 けれど この 3 コ の カマ は とうてい この タスウ の ヘイシ に ユウメシ を ブンパイ する こと が できぬ ので、 その ダイブブン は ハクマイ を ハンゴウ に もらって、 カクジ に メシ を つくる べく ノ に ちった。 やがて ノ の トコロドコロ に コーリャン の ヒ が イクツ と なく もやされた。
 イエ の かなた では、 テツヤ して センジョウ に おくる べき ダンヤク ダンガン の ハコ を キシャ の カシャ に つみこんで いる。 ヘイシ、 ユソツ の ムレ が イッショウ ケンメイ に ホンソウ して いる サマ が ハクボ の かすか な ヒカリ に たえだえ に みえる。 ヒトリ の カシ が カシャ の ニモツ の ウエ に たかく たって、 しきり に その シキ を して いた。
 ヒ が くれて も センソウ は やまぬ。 アンザン テン の バアン の よう な ヤマ が くらく なって、 その ムコウ から ホウセイ が ダンゾク する。
 カレ は ここ に きて グンイ を もとめた。 けれど グンイ どころ の サワギ では なかった。 イッペイソツ が しのう が いきよう が そんな こと を とう バアイ では なかった。 カレ は フタリ の ヘイシ の ジンリョク の モト に、 わずか に 1 ゴウ の メシ を えた ばかり で あった。 シカタ が ない、 すこし まて。 この レンタイ の ヘイ が ゼンシン して しまったら、 グンイ を さがして、 つれて いって やる から、 まず おちついて おれ。 ここ から マッスグ に 3~4 チョウ ゆく と ヒトムネ の ヨウカン が ある。 その ヨウカン の イリグチ には、 シュホ が ケサ から ミセ を ひらいて いる から すぐ わかる。 その オク に はいって、 ねて おれ との こと だ。
 カレ は もう あるく ユウキ は なかった。 ジュウ と ハイノウ と を フタリ から うけとった が、 それ を せおう と あぶなく たおれそう に なった。 メ が ぐらぐら する。 ムネ が むかつく。 アシ が けだるい。 アタマ は はげしく センカイ する。
 けれど ここ に たおれる わけ には ゆかない。 しぬ にも カクレガ を もとめなければ ならぬ。 そう だ、 カクレガ……。 どんな ところ でも いい。 しずか な ところ に はいって ねたい、 キュウソク したい。
 ヤミ の ミチ が ながく つづく。 トコロドコロ に ヘイシ が ムレ を なして いる。 ふと トヨハシ の ヘイエイ を おもいだした。 シュホ に いって かくれて よく サケ を のんだ。 サケ を のんで、 グンソウ を なぐって、 ジュウエイソウ に しょせられた こと が あった。 ミチ が いかにも とおい。 いって も いって も ヨウカン らしい もの が みえぬ。 3~4 チョウ と いった。 3~4 チョウ どころ か、 もう 10 チョウ も きた。 まちがった の か と おもって ふりかえる―― ヘイタンブ は トモシビ の ヒカリ、 カガリビ の ヒカリ、 ヤミ の ナカ を ゆきちがう ヘイシ の くろい ムレ、 ダンヤクバコ を はこぶ カケゴエ が ヨル の クウキ を つんざいて ひびく。
 ここら は もう しずか だ。 アタリ に ヒト の カゲ も みえない。 にわか に くるしく ムネ が せまって きた。 カクレガ が なければ、 ここ で しぬ の だ と おもって、 がっくり たおれた。 けれども フシギ にも マエ の よう に かなしく も ない、 オモイデ も ない。 ソラ の ホシ の ヒラメキ が メ に はいった。 クビ を あげて それとなく アタリ を みまわした。
 イマ まで みえなかった ヒトムネ の ヨウカン が すぐ その マエ に ある の に おどろいた。 イエ の ナカ には トモシビ が みえる。 まるい あかい チョウチン が みえる。 ヒト の コエ が ミミ に はいる。
 ジュウ を チカラ に かろうじて たちあがった。
 なるほど、 その イエ の イリグチ に シュホ らしい もの が ある。 くらい から わからぬ が、 ナニ か カマ らしい もの が コガイ の カタスミ に あって、 マキ の モエサシ が あかく みえた。 うすい ケムリ が チョウチン を かすめて あわく なびいて いる。 チョウチン に、 シルコ 1 パイ 5 セン と かいて ある の が、 ムネ が くるしくって くるしくって シカタ が ない にも かかわらず はっきり と メ に えいじた。
「シルコ は もう オシマイ か」
 と いった の は、 その マエ に たって いる ヒトリ の ヘイシ で あった。
「もう オシマイ です」
 と いう コエ が ウチ から きこえる。
 ウチ を のぞく と、 あきらか なる ヒカリ、 セイヨウ ロウソク が 2 ホン ハダカ で ともって いて、 ビンヅメ や コマモノ など の ヤマ の よう に つまれて ある マンナカ の イチダン たかい ところ に、 ふとった、 クチヒゲ の こい、 にこにこ した サンジュウ オトコ が すわって いた。 ミセ では ヒトリ の ヘイシ が タオル を ひろげて みて いた。
 ソバ を みる と、 くらい ながら、 ひくい イシダン が メ に はいった。 ここ だな と カレ は おもった。 とにかく キュウソク する こと が できる と おもう と、 いう に いわれぬ マンゾク を まず ココロ に かんじた。 しずか に ヌキアシ して その イシダン を のぼった。 ナカ は くらい。 よく わからぬ が ロウカ に なって いる らしい。 サイショ の ト と おぼしき ところ を おして みた が あかない。 2 ホ 3 ポ すすんで ツギ の ト を おした が やはり あかない。 ヒダリ の ト を おして も ダメ だ。
 なお オク へ すすむ。
 ロウカ は つきあたって しまった。 ミギ にも ヒダリ にも ミチ が ない。 こまって ミギ を おす と、 とつぜん、 ヤミ が やぶれて ト が あいた。 シツナイ が みえる と いう ほど では ない が、 そこ と なく ホシアカリ が して、 マエ に ガラスマド が ある の が わかる。
 ジュウ を おき、 ハイノウ を おろし、 いきなり カレ は ヨコ に たおれた。 そして おもくるしい イキ を ついた。 まあ これ で アンソクジョ を えた と おもった。
 マンゾク と ともに あたらしい フアン が アタマ を もたげて きた。 ケンタイ、 ヒロウ、 ゼツボウ に ちかい カンジョウ が ナマリ の ごとく おもくるしく ゼンシン を あっした。 オモイデ が みな きれぎれ で、 デンコウ の よう に はやい か と おもう と ウシ の アエギ の よう に おそい。 しっきりなし に ムネ が さわぐ。
 おもい、 けだるい アシ が イッシュ の アッパク を うけて トウツウ を かんじて きた の は、 カレ ミズカラ にも よく わかった。 フクラハギ の トコロドコロ が ずきずき と いたむ。 フツウ の イタミ では なく、 ちょうど コムラ が かえった とき の よう で ある。
 しぜん と カラダ を もがかず には いられなく なった。 ワタ の よう に つかれはてた ミ でも、 この アッパク には かなわない。
 ムイシキ に テンテン ハンソク した。
 コキョウ の こと を おもわぬ では ない、 ハハ や ツマ の こと を かなしまぬ では ない。 この ミ が こうして しななければ ならぬ か と なげかぬ では ない。 けれど ヒタン や、 ツイオク や、 クウソウ や、 そんな もの は どうでも よい。 トウツウ、 トウツウ、 その ゼツダイ な チカラ と たたかわねば ならぬ。
 ウシオ の よう に おしよせる。 アラシ の よう に あれわたる。 アシ を かたい イタ の ウエ に たてて たおして、 カラダ を ミギ に ヒダリ に もがいた。 「くるしい……」 と おもわず しらず さけんだ。
 けれど ジッサイ は また そう くるしい とは かんじて いなかった。 くるしい には ちがいない が、 さらに おおいなる クツウ に たえなければ ならぬ と おもう ドリョク が すくなくとも その クツウ を かるく した。 イッシュ の チカラ は ナミ の よう に ゼンシン に みなぎった。
 しぬ の は かなしい と いう ネン より も この クツウ に うちかとう と いう ネン の ほう が キョウレツ で あった。 イッポウ には きわめて ショウキョクテキ な なみだもろい イクジ ない ゼツボウ が みなぎる と ともに、 イッポウ には ニンゲン の セイゾン に たいする ケンリ と いう よう な セッキョクテキ な チカラ が つよく よこたわった。
 イタミ は ナミ の よう に おしよせて は ひき、 ひいて は おしよせる。 おしよせる たび に クチビル を かみ、 ハ を くいしばり、 アシ を リョウテ で つかんだ。
 ゴカン の ホカ に ある ベッシュ の カンノウ の チカラ が くわわった か と おもった。 くらかった ヘヤ が それ と はっきり みえる。 アンショク の カベ に そうて たかい テーブル が おいて ある。 ウエ に しろい の は たしか に カミ だ。 ガラスマド の ハンブン が やぶれて いて、 ホシ が きらきら と オオゾラ に きらめいて いる の が みとめられた。 ミギ の カタスミ には、 ナニ か ごたごた おかれて あった。
 ジカン の たって ゆく の など は もう カレ には わからなく なった。 グンイ が きて くれれば いい と おもった が、 それ を つづけて かんがえる ヒマ は なかった。 あたらしい クツウ が ました。
 ユカ ちかく コオロギ が ないて いた。 クツウ に もだえながら、 「あ、 コオロギ が ないて いる……」 と カレ は おもった。 その アイセツ な ムシ の シラベ が なんだか ゼンシン に しみいる よう に おぼえた。
 トウツウ、 トウツウ、 カレ は さらに テンテン ハンソク した。

「くるしい! くるしい! くるしい!」
 ツヅケザマ に けたたましく さけんだ。
「くるしい、 ダレ か…… ダレ か おらん か」
 と しばらく して また さけんだ。
 キョウレツ なる セイゾン の チカラ も もう よほど おとろえて しまった。 イシキテキ に タスケ を もとめる と いう より は、 イマ は ほとんど ムチュウ で ある。 シゼンリョク に おそわれた コノハ の ソヨギ、 ナミ の サケビ、 ニンゲン の ヒメイ!
「くるしい! くるしい!」
 その コエ が しんと した ヘヤ に すさまじく ただよいわたる。 この ヘヤ には ヒトツキ マエ まで ロコク の テツドウ エンゴ の シカン が キガ して いた。 ニホン ヘイ が はじめて はいった とき、 カベ には くろく すすけた キリスト の ゾウ が かけて あった。 サクネン の フユ は、 マンシュウ の ノ に ふりしきる フウセツ を この ガラスマド から ながめて、 その シカン は ウオッカ を のんだ。 ケガワ の ボウカンフク を きて、 コガイ に ヘイシ が たって いた。 ニホン ヘイ の なす に たらざる を いって、 ニジ の ごとき キエン を はいた。 その ヘヤ に、 イマ、 スイシ の ヘイシ の ウメキ が ひびきわたる。
「くるしい、 くるしい、 くるしい!」
 せき と して いる。 コオロギ は おなじ やさしい さびしい チョウシ で ないて いる。 マンシュウ の こうばく たる ノ には、 おそい ツキ が のぼった と みえて、 アタリ が あかるく なって、 ガラスマド の ソト は すでに その ヒカリ を うけて いた。
 キョウカン、 ヒメイ、 ゼツボウ、 カレ は ヘヤ の ナカ を のたうちまわった。 グンプク の ボタン は はずれ、 ムネ の アタリ は かきむしられ、 グンボウ は アゴヒモ を かけた まま おしつぶされ、 カオ から ホオ に かけて は、 オウト した オブツ が イチメン に フチャク した。
 とつぜん あきらか な コウセン が ヘヤ に さした と おもう と、 トビラ の ところ に、 セイヨウ ロウソク を もった ヒトリ の オトコ の スガタ が ウキボリ の よう に あらわれた。 その カオ だ。 ふとった クチヒゲ の ある シュホ の カオ だ。 けれど その カオ には にこにこ した サキホド の アイキョウ は なく、 マジメ な あおい くらい イロ が のぼって いた。 だまって ヘヤ の ナカ に はいって きた が、 そこ に うなって ころがって いる ビョウヘイ を ロウソク で てらした。 ビョウヘイ の カオ は あおざめて、 シニン の よう に みえた。 オウト した オブツ が そこ に ちらばって いた。
「どうした? ビョウキ か?」
「ああ くるしい、 くるしい……」
 と はげしく さけんで テンテン した。
 シュホ の オトコ は テ を つけかねて しばし たって みて いた が、 そのまま、 ロウソク の ロウ を たらして、 テーブル の ウエ に それ を たてて、 そそくさ と ト の ソト へ でて いった。 ロウソク の ヒカリ で ヘヤ は ヒル の よう に あかるく なった。 スミ に おいた ジブン の ハイノウ と ジュウ と が カレ の メ に はいった。
 ロウソク の ヒ が ちらちら する。 ロウ が ナミダ の よう に だらだら ながれる。
 しばらく して サキ の シュホ の オトコ は ヒトリ の ヘイシ を ともなって はいって きた。 この ムコウ の イエ に ねて いた コウグンチュウ の ヘイシ を おこして きた の だ。 ヘイシ は ビョウヘイ の カオ と アタリ の サマ と を みまわした が、 コンド は ケンショウ を シサイ に けんした。
 フタリ の タイワ が あきらか に ビョウヘイ の ミミ に はいる。
「18 レンタイ の ヘイ だな」
「そう です か」
「いつから ここ に きてる ん だ?」
「すこしも しらん かった です。 いつから きた ん です か。 ワタシ は 10 ジ-ゴロ ぐっすり ねこんだ ん です が、 ふと メ を さます と、 ウナリゴエ が する、 くるしい くるしい と いう コエ が する。 どうした ん だろう、 オク には ダレ も いぬ はず だ が と おもって、 フシン に して しばらく きいて いた です。 すると、 その サケビゴエ は いよいよ たかく なります し、 ダレ か きて くれ! と いう コエ が きこえます から、 きて みた ん です。 カッケ です な、 カッケ ショウシン です な」
「ショウシン?」
「とても たすからん です な」
「それ あ、 キノドク だ。 ヘイタンブ に グンイ が いる だろう?」
「います がな…… こんな おそく、 きて くれ や しません よ」
「ナンジ だ」
 みずから トケイ を だして みて、 「もっとも だ」 と いう カオ を して、 そのまま ポケット に おさめた。
「ナンジ です?」
「2 ジ 15 フン」
 フタリ は だまって たって いる。
 クツウ が また おしよせて きた。 ウナリゴエ、 サケビゴエ が たえがたい ヒメイ に つづく。
「キノドク だな」
「ホントウ に かわいそう です。 どこ の モノ でしょう」
 ヘイシ が カレ の ポケット を さぐった。 グンタイ テチョウ を ひきだす の が わかる。 カレ の メ には その ヘイシ の くろく たくましい カオ と グンタイ テチョウ を よむ ため に タクジョウ の ロウソク に ちかく あゆみよった サマ が うつった。 ミカワ ノ クニ アツミ-ゴオリ フクエ ムラ カトウ ヘイサク…… と よむ コエ が つづいて きこえた。 フルサト の サマ が いま イチド その ガンゼン に うかぶ。 ハハ の カオ、 ツマ の カオ、 ケヤキ で かこんだ おおきな イエ、 ウラ から つづいた なめらか な イソ、 あおい ウミ、 ナジミ の ギョフ の カオ……。
 フタリ は だまって たって いる。 その カオ は あおく くらい。 おりおり その ミ に たいする ドウジョウ の コトバ が かわされる。 カレ は すでに シ を あきらか に ジカク して いた。 けれど それ が べつだん くるしく も かなしく も かんじない。 フタリ の モンダイ に して いる の は カレ ジシン の こと では なくて、 ホカ に ブッタイ が ある よう に おもわれる。 ただ、 この クツウ、 たえがたい この クツウ から のがれたい と おもった。
 ロウソク が ちらちら する。 コオロギ が おなじく さびしく ないて いる。

 アケガタ に ヘイタンブ の グンイ が きた。 けれど その 1 ジカン マエ に、 カレ は すでに しんで いた。 イチバン の キシャ が カイロ カイロ の カケゴエ と ともに、 アンザン テン に むかって ハッシャ した コロ は、 その ザンゲツ が うすく しらけて、 さびしく ソラ に かかって いた。
 しばらく して ホウセイ が さかん に きこえだした。 9 ガツ イチジツ の リョウヨウ コウゲキ は はじまった。
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ハナビ

2016-08-07 | ナガイ カフウ
 ハナビ

 ナガイ カフウ

 ヒルメシ の ハシ を とろう と した とき ぽん と どこ か で ハナビ の オト が した。 ツユ も ようやく アケ-ぢかい くもった ヒ で ある。 すずしい カゼ が たえず マド の スダレ を うごかして いる。 みれば せまい ロジウラ の イエイエ には ノキナミ に コッキ が だして あった。 コッキ の ない の は ワガヤ の コウシド ばかり で ある。 ワタシ は はじめて キョウ は トウキョウ シ オウシュウ センソウ コウワ キネンサイ の トウジツ で ある こと を おもいだした。
 ヒルメシ を すます と ワタシ は キノウ から はりかけた オシイレ の カベ を はって しまおう と、 テヌグイ で ナナメ に カタソデ を むすびあげて ハケ を とった。
 キョネン の クレ おしつまって、 しかも ユキ の ちらほら ふりだした ヒ で あった。 この ロジウラ に ひっこした その ヒ から オシイレ の カベツチ の ざらざら おちる の が キ に なって ならなかった が、 いつか そのまま ハントシ たって しまった の だ。
 すぐる トシ まだ イエ には ハハ も すこやか に ツマ も あった コロ、 ひろい 2 カイ の エンガワ で おだやか な コハル の ヒ を あびながら ゾウショ の ウラウチ を した こと が あった。 それから いつ とも なく ワタシ は ヨウ の ない タイクツ な オリオリ ノリシゴト を する よう に なった。 トシ を とる と だんだん ミョウ な クセ が でる。
 ワタシ は ヒゴロ テナライ した カミキレ や いつ かきすてた とも しれぬ ソウコウ の キレハシ、 また トモダチ の フミホゴ なぞ、 1 マイ 1 マイ ナニ が かいて ある か と ネッシン に よみかえしながら オシイレ の カベ を はって いった。 ハナビ は つづいて あがる。
 しかし ロジ の ウチ は フシギ な ほど しずか で ある。 オモテドオリ に ナニ か コト あれば たちまち あっちこっち の コウシド の あく オト と ともに かけだす ゲタ の オト の する のに、 キョウ に かぎって コドモ の さわぐ コエ も せず キンジョ の ニョウボウ の ハナシゴエ も きこえない。 ロジ の ツキアタリ に ある メッキヤ の ヤスリ の ヒビキ も しない。 ミンナ ヒビヤ か ウエノ へ でも でかけた に ちがいない。 ハナビ の オト に つれて ミミ を すます と かすか に ヒト の さけぶ コエ も きこえる。 ワタシ は カベ に はった ソウコウ を よみながら、 ふと ジブン の ミノウエ が いかに セケン から かけはなれて いる か を かんじた。 われながら おかしい。 また かなしい よう な さびしい よう な キ も する。 なぜ と いう に ワタシ は キョウコ な イシ が あって ことさら セケン から かけはなれよう と おもった わけ でも ない。 いつ と なく しらずしらず こういう コドク の ミ に なって しまった から で ある。 セケン と ジブン との アイダ には イマ なにひとつ チョクセツ の レンラク も ない。
 すずしい カゼ は たえず よごれた スダレ を うごかして いる。 くもった ソラ は スダレゴシ に、 ひときわ ゆめみる が ごとく どんより と して いる。 ハナビ の ヒビキ は だんだん ケイキ が よく なった。 ワタシ は ガッコウ や コウジョウ が ヤスミ に なって、 マチ の カドカド に スギ の ハ を むすびつけた リョクモン が たち、 オモテドオリ の ショウテン に コウハク の マンマク が ひかれ、 コッキ と チョウチン が かかげられ、 シンブン の ダイ 1 メン に よみにくい カンブンチョウ の シュクジ が のせられ、 ヒト が ぞろぞろ ヒビヤ か ウエノ へ でかける。 どうか する と ゲイシャ が ギョウレツ する。 ヨル に なる と チョウチン ギョウレツ が ある。 そして コドモ や バアサン が ふみころされる…… そういう サイジツ の サマ を おもいうかべた。 これ は メイジ の シンジダイ が セイヨウ から モホウ して あらた に つくりだした ゲンショウ の ヒトツ で ある。 トウキョウ シミン が ムジャキ に エド ジダイ から デンショウ して きた ウジガミ の サイレイ や ブツジ の カイチョウ とは まったく その ガイケイ と セイシン と を コト に した もの で ある。 ウジガミ の サイレイ には チョウナイ の ワカモノ が たらふく サケ に よい コゾウ や ホウコウニン が セキハン の チソウ に ありつく。 あたらしい ケイシキ の マツリ には しばしば セイジテキ サクリャク が ひそんで いる。
 ワタシ は コドモ の とき から みおぼえて いる あたらしい サイジツ の こと を おもいかえす とも なく おもいかえした。
 メイジ 23 ネン の 2 ガツ に ケンポウ ハップ の シュクガサイ が あった。 おそらく これ が ワタシ の キオク する シャカイテキ サイジツ の サイショ の もの で あろう。 かぞえて みる と 12 サイ の ハル、 コイシカワ の イエ に いた とき で ある。 さむい ので どこ へも ソト へは でなかった が しかし チョウチン ギョウレツ と いう もの の ハジマリ は この サイジツ から で ある こと を ワタシ は しって いる。 また コクミン が コッカ に たいして 「バンザイ」 と よぶ コトバ を おぼえた の も たしか この とき から はじまった よう に キオク して いる。 なぜ と いう に、 その コロ ワタシ の チチオヤ は テイコク ダイガク に つとめて おられた が、 その ヒ の ユウガタ ワラジバキ で あかい タスキ を ヨウフク の カタ に むすび あかい チョウチン を もって でて ゆかれ ヨル おそく かえって こられた。 チチ は その とき コンヤ は ダイガク の ショセイ を オオゼイ ひきつれ ニジュウバシ へ ねりだして バンザイ を サンコ した ハナシ を された。 バンザイ と いう の は エイゴ の なんとやら いう ゴ を とった もの で、 ガクシャ や ショセイ が ギョウレツ して ナニ か する の は セイヨウ には よく ある こと だ と とおい クニ の ハナシ を された。 しかし ワタシ には なんとなく おかしい よう な キ が して よく その イミ が わからなかった。
 もっとも その ヒ の アサ ワタシ は タカダイ の ガケ の ウエ に たって いる コイシカワ の イエ の エンガワ から、 イロイロ な ハタ や ノボリ が ヘイソト の オウライ を とおって ゆく の を みた。 そして ハタ や ノボリ に かいて ある モジ に よって、 ワタシ は その コロ みなれた フジコウ や オオヤマ マイリ なぞ と その ヒ の ギョウレツ とは まったく セイシツ の ことなった もの で ある こと だけ は、 どうやら わかって いた らしい。

 オオツ の マチ で、 ロシア の コウタイシ が ジュンサ に きられた。 この サワギ には イッコク を あげて チョウヤ ともに シンガイ した の は ジジツ らしい。 コドモ ながら ワタシ は なんとも しらぬ キョウフ を かんじた こと を キオク して いる。 その コロ カトウ キヨマサ が まだ チョウセン に いきて いる とか、 サイゴウ タカモリ が ホッカイドウ に かくれて いて ニホン を たすけ に くる とか いう ウワサ が あった。 しかも かく の ごとき リュウゲン ヒゴ が なんとも しれず そらおそろしく やはり ワタシタチ コドモ の ココロ を うごかした。 イマ から カイソウ する と その コロ の トウキョウ は、 クロフネ の ウワサ を した エド ジダイ と おなじ よう に、 ひっそり して うすぐらく、 ミチ ゆく ヒト の セッタ の オト しずか に イヌ の コエ さびしく、 ニシカゼ の キ を うごかす オト ばかり して いた よう な キ が する。

 マツリ と ソウドウ とは セケン の がやがや する こと に おいて にかよって いる。
 16 の トシ の ナツ オオカワバタ の スイレンバ に かよって いた。 ある ヒ の ユウガタ カワ の ナカ から ワタシ は ゴウガイウリ が カシドオリ をば オオゴエ に よびながら かけて ゆく の を みた。 これ が ニッシン センソウ の カイシ で あった。 ヨクネン オダワラ の オオニシ ビョウイン と いう に テンチ リョウヨウ して いた とき バカン ジョウヤク が なりたった。 しかし シュト を はなれた ビョウイン の ナイブ には かの リョウトウ カンプ に たいする ヒフン の コエ も さらに ハンキョウ を つたえなかった。 ワタシ は ただ ヤッキョク の ショセイ が ある アサ おおきな コエ で シンブン の シャセツ を ロウドク して いる の を きいた ばかり で ある。 ワタシ は その コロ から ハクブンカン が シュッパン しだした テイコク ブンコ をば ダイ 1 カン の タイコウキ から ひきつづいて ネッシン に よみふけって いた。 ナツ は ウメ の ミ じゅくし フユ は ミカン の いろづく かの オダワラ の コエキ は ワタシ には イッショウ の うち もっとも ヘイワ コウフク なる キオク を のこす ばかり で ある。

 メイジ 31 ネン に テント 30 ネン-サイ が ウエノ に ひらかれた。 サクラ の さいて いた こと を おぼえて いる ので 4 ガツ ハジメ に ちがいない。 シキジョウ-ガイ の ヒロコウジ で ヒト が オオゼイ ふみころされた と いう ウワサ が あった。

 メイジ 37 ネン ニチロ の カイセン を しった の は ベイコク タコマ に いた とき で ある。 ワタシ は ゴウガイ を テ に した とき むろん ヒジョウ に カンゲキ した。 しかし それ は はなはだ コウフク なる カンゲキ で あった。 ワタシ は ゲンコウ の とき の よう に ガイテキ が コキョウ の ノ を あらし ドウホウ を ほふり に くる もの とは おもわなかった。 まんまんいち ヒジョウ に フコウ な バアイ に なった と して も キンセイ ブンメイ の セイシン と セカイ コクサイ の カンケイ とは ひとり イッコク を して かく の ごとき ヒキョウ に たちいたらしめる こと は あるまい と いう よう な キ が した。 キリスト-キョウ の シンコウ と ローマ イコウ の ホウリツ の セイシン には まだまだ ヒョウキョ する に たる べき チカラ が ある もの の よう に おもいなして いた の だ。 いかに センソウ だ とて ヒト と うまれた から には このたび ドイツジン が ベルギー に おいて なした よう な ザイアク を あえて しうる もの では ない と おもって いた の だ。 つまり ワタシ は ゴウガイ を みて カンゲキ した けれど、 しかし ただちに フボ の ミノウエ を ううる ほど セッパク した カンジョウ を いだかなかった の で ある。 ましてや ホウドウ は ことごとく ショウリ で ある。 センショウ の ヨエイ は ワタシ の ミ を ながく やすらか に イキョウ の テンチ に あそばせて くれた ので、 ワタシ は 38 ネン の マナツ トウキョウ シ の シミン が いかに して シナイ の ケイサツショ と キリスト-キョウ の キョウカイ を やいた か、 また ジュンサ が いかに して シミン を きった か それら の こと は まったく しらず に トシ を すごした。
 メイジ 44 ネン ケイオウ ギジュク に ツウキン する コロ、 ワタシ は その みちすがら おりおり イチガヤ の トオリ で シュウジン バシャ が 5~6 ダイ も ひきつづいて ヒビヤ の サイバンショ の ほう へ はしって ゆく の を みた。 ワタシ は これまで ケンブン した セジョウ の ジケン の ナカ で、 この オリ ほど いう に いわれない いや な ココロモチ の した こと は なかった。 ワタシ は ブンガクシャ たる イジョウ この シソウ モンダイ に ついて もくして いて は ならない。 ショウセツカ ゾラ は ドレフュー ジケン に ついて セイギ を さけんだ ため コクガイ に ボウメイ した では ない か。 しかし ワタシ は ヨ の ブンガクシャ と ともに なにも いわなかった。 ワタシ は なんとなく リョウシン の クツウ に たえられぬ よう な キ が した。 ワタシ は みずから ブンガクシャ たる こと に ついて はなはだしき シュウチ を かんじた。 イライ ワタシ は ジブン の ゲイジュツ の ヒンイ を エド ゲサクシャ の なした テイド まで ひきさげる に しく は ない と シアン した。 その コロ から ワタシ は タバコイレ を さげ ウキヨエ を あつめ シャミセン を ひきはじめた。 ワタシ は エド マツダイ の ゲサクシャ や ウキヨエシ が ウラガ へ クロフネ が こよう が サクラダ ゴモン で タイロウ が アンサツ されよう が そんな こと は ゲミン の あずかりしった こと では ない―― いな とやかく もうす の は かえって おそれおおい こと だ と、 すまして シュンポン や シュンガ を かいて いた その シュンカン の キョウチュウ をば あきれる より は むしろ ソンケイ しよう と おもいたった の で ある。
 かくて タイショウ 2 ネン 3 ガツ の ある ヒ、 ワタシ は ヤマシロガシ の ロジ に いた ある オンナ の イエ で シャミセン を ケイコ して いた。 (ロジ の ウチ ながら ささやか な クグリモン が あり、 コニワ が あり、 チョウズバチ の ホトリ には おもいがけない ツバキ の コボク が あって シジュウカラ や ヤブウグイス が くる。 たてこんだ シチュウ の ロジウラ には おりおり おもいがけない ところ に ひとしれぬ しずか な インタク と イナリ の ホコラ が ある。) その とき にわか に ロジ の ウチ が さわがしく なった。 ドブイタ の ウエ を かけぬける ヒト の アシオト に つづいて ジュンサ の ハイケン の オト も きこえた。 それ が ため か チュウオウ シンブンシャ の インサツ キカイ の ヒビキ も ひとしきり うちけされた よう に きこえなく なった。 ワタシ は クグリモン を あけて そっと クビ を だして みた。 ギュウニュウ ハイタツフ の よう な タビハダシ に メリヤス の シャツ を きて テヌグイ で ハチマキ を した オトコ が 4~5 ニン ホリバタ の ほう へ と ロジ を かけぬけて いった。 その アト から キンジョ の デマエモチ が スジムコウ の イエ の カッテグチ で コクミン シンブン ヤキウチ の ウワサ を つたえて いた。 ワタシ は セノビ を して みた。 しかし ケムリ も みえぬ ので ウチ へ はいる と そのまま ごろり と ヒルネ を して しまった。 オキゴタツ が まことに グアイ よく あたたか で あった から で ある。 ユウメシ を すまして ヨル も 8 ジ-スギ あまり さむく ならぬ うち イエ へ かえろう と スキヤバシ へ でた とき ジュンサ ハシュツジョ の もえて いる の を みた。 デンシャ は ない。 ヤジウマ で ギンザ-ドオリ は トシ の イチ より も にぎやか で ある。 ツジツジ の コウバン が さかん に もえて いる サイチュウ で ある。 ドウロ の マンナカ には セキユ の カン が なげだされて あった。
 ヒビヤ へ くる と ジュンサ が クロベイ を たてた よう に オウライ を さえぎって いる。 ボウト が いましがた ケイシチョウ へ イシ を なげた とか いう こと で ある。 ワタシ は サクラダ ホンゴウ-チョウ の ほう へ ミチ を てんじた。 38 ネン の サワギ の とき ジュンサ に きられた モノ が たくさん あった と いう ハナシ を おもいだした から で ある。 トラノモン ソト で やっと クルマ を みつけて のった。 マックラ な カスミガセキ から ナガタ-チョウ へ でよう と する と カクショウ の ダイジン カンシャ を ケイゴ する グンタイ で ここ も また オウライドメ で ある。 ミヤケザカ へ もどって コウジマチ の オオドオリ へ まわり ウシゴメ の ハズレ の イエ へ ついた の は ヤハンスギ で あった。
 ヨノナカ は ソノゴ しずか で あった。
 タイショウ 4 ネン に なって 11 ガツ も ナカバゴロ と おぼえて いる。 トカ の シンブンシ は トウキョウ カクチ の ゲイシャ が ソクイシキ シュクガサイ の トウジツ おもいおもい の カソウ を して ニジュウバシ へ ねりだし バンザイ を レンコ する ヨシ を つたえて いた。 かかる コッカテキ ならびに シャカイテキ サイジツ に さいして ショウガッコウ の セイト が かならず ニジュウバシ へ ギョウレツ する よう に なった の も おもえば ワタシラ が すでに チュウガッコウ へ すすんで から アト の こと で ある。 クヤクショ が メイレイ して ロジ の ウラダナ にも コッキ を かかげさせる よう に した の も また 20 ネン を いでまい。 この カンリョウテキ シドウ の セイコウ は ついに コウフン バイショク の フジョ をも かって ハクジツ ダイドウ を ねりゆかせる に いたった。 ゲンダイ シャカイ の スウセイ は ただただ フカシギ と いう の ホカ は ない。 この ヒ ゲイシャ の ギョウレツ は これ を みん が ため に あつまりくる ヤジウマ に おしかえされ ケイゴ の ジュンサ シゴトシ も ヤク に たたず ついに めちゃめちゃ に なった。 その ヨ ワタシ は その バ に のぞんだ ヒト から イロイロ な ハナシ を きいた。 サイショ ケンブツ の グンシュウ は しずか に ミチ の リョウガワ に たって ゲイシャ の ギョウレツ の くる の を まって いた が、 イッコク イッコク あつまりくる ヒトデ に だんだん マエ の ほう に おしだされ、 やがて ギョウレツ の すすんで きた コロ には、 グンシュウ は ミチ の リョウガワ から おされ おされて イチド に どっと ギョウレツ の ゲイシャ に ニクハク した。 ギョウレツ と ケンブツニン と が めちゃめちゃ に いりみだれる や、 ヒゴロ ゲイシャ の エイガ を うらやむ ミンシュウ の ギフン は また ヤバン なる レツジョウ と こんじて ここ に キカイ シュウレツ なる ボウコウ が ハクジツ ザットウ の ナカ に エンリョ なく おこなわれた。 ゲイシャ は ヒメイ を あげて テイコク ゲキジョウ ソノタ フキン の カイシャ に いのちからがら にげこんだ の を グンシュウ は オオカミ の よう に おいかけ おしよせて タテモノ の ト を こわし マド に イシ を なげた。 その ヒ ゲイシャ の ユクエ フメイ に なった モノ や リョウジョク の ケッカ ハッキョウ シッシン した モノ も スウメイ に およんだ と やら。 しかし ゲイシャ クミアイ は かたく この こと を ひし ひそか に ナカマ から ギエンキン を チョウシュウ して それら の ギセイシャ を なぐさめた とか いう ハナシ で あった。
 ムカシ の オマツリ には バクト の ケンカ が ある。 ゲンダイ の マツリ には オンナ が ふみころされる。
 タイショウ 7 ネン 8 ガツ ナカバ、 セツ は リッシュウ を すぎて 4~5 ニチ たった。 ネンジュウ エンショ の もっとも はげしい とき で ある。 イノウエ アア クン と その コロ ハッコウ して いた ザッシ カゲツ の ヘンシュウ を おわり ドウクン の カエリ を おくりながら カグラザカ まで すずみ に でた。 サカナマチ で デンシャ を おりる と オオドオリ は イツモ の よう に スズミ の ヒトデ で にぎわって いた が ヨミセ の ショウニン は なにやら うろたえた ヨウス で イマガタ ならべた ばかり の ミセ を しまいかけて いる。 ユウダチ が きそう だ と いう の でも ない。 こころづけば ジュンサ が しきり に いったり きたり して いる。 ヨコチョウ へ まがって みる と ノキ を ならべた ゲイシャヤ は ことごとく ト を しめ ヒ を けし ひっそり と ナリ を しずめて いる。 ふたたび オモテドオリ へ でて ビーヤ ホール に やすむ と ショセイ-フウ の オトコ が ギンザ の ショウテン や シンバシ ヘン の ゲイシャヤ の うちこわされた ハナシ を して いた。
 ワタシ は はじめて ベイカ トウキ の ソウドウ を しった の で ある。 しかし ツギ の ヒ シンブン の キジ は サシトメ に なった。 アト に なって ハナシ を きく と ソウドウ は いつも ユウガタ すずしく なって から はじまる。 その コロ は マイヨ ツキ が よかった。 ワタシ は ボウト が ユウガタ すずしく なって ツキ が でて から フゴウ の イエ を おびやかす と きいた とき なんとなく そこ に ある ヨユウ が ある よう な キ が して ならなかった。 ソウドウ は 5~6 ニチ つづいて ヘイテイ した。 ちょうど アメ が ふった。 ワタシ は すみふるした ウシゴメ の イエ をば まだ さらず に いた ので、 ヒサシブリ の アメ と ともに ニワ には ムシ の ネ が イチド に しげく なり ウエコミ に ふきいる カゼ の ヒビキ に いよいよ その トシ の アキ も ふかく なった こと を しった。
 やがて 11 ガツ も スエ ちかく ワタシ は すでに イエ を うしない、 これから サキ いずこ に ビョウク を かくそう か と メアテ も なく カシヤ を さがし に でかけた。 ヒビヤ の コウエン-ガイ を とおる とき 1 タイ の ショッコウ が アサギ の シゴトギ を つけ クミアイ の ハタ を サキ に たてて、 タイゴ せいぜん と ねりゆく の を みた。 その ヒ は オウシュウ キュウセン キネン の シュクジツ で あった の だ。 ビョウライ ひさしく セケン を みなかった ワタシ は、 この ヒ とつぜん トウキョウ の ガイトウ に かつて フランス で みなれた よう な アサギ の ロウドウフク を つけた ショッコウ の ギョウレツ を メ に して、 ヨノナカ は かくまで かわった の か と いう よう な キ が した。 メ の さめた よう な キ が した。
 コメソウドウ の ウワサ は めずらしからぬ セイトウ の キョウサ に よった もの の よう な キ が して ならなかった が、 ヨウソウ した ショッコウ の ダンタイ の しずか に ねりゆく スガタ には うごかしがたい ジダイ の チカラ と セイカツ の ヒアイ と が あらわれて いた よう に おもわれた。 ワタシ は すでに ヒトムカシ も マエ ヒサシブリ に コキョウ の テンチ を みた コロ かんがえる とも なく かんがえた イロイロ な モンダイ をば、 ここ に ふたたび おもいだす とも なく おもいだす よう に なった。 メ に みる ゲンジツ の ジショウ は この トシツキ ひたり に ひたった エド カイコ の ユメ から ついに ワタシ を よびさます とき が きた の で あろう か。 もし しかり と すれば ワタシ は みずから その フコウ なる を たんじなければ ならぬ。

 ハナビ は しきり に あがって いる。 ワタシ は ハケ を シタ に おいて タバコ を イップク しながら ソト を みた。 ナツ の ヒ は くもりながら ヒル の まま に あかるい。 ツユバレ の しずか な ゴゴ と アキ の スエ の うすく くもった ユウガタ ほど モノ おもう に よい とき は あるまい……。
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