カゼ たちぬ
ワタシタチ の のった キシャ が、 ナンド と なく ヤマ を よじのぼったり、 ふかい ケイコク に そって はしったり、 また それから キュウ に うちひらけた ブドウバタケ の おおい ダイチ を ながい こと かかって よこぎったり した ノチ、 やっと サンガク チタイ へ と ハテシ の ない よう な、 シツヨウ な トウハン を つづけだした コロ には、 ソラ は いっそう ひくく なり、 イマ まで は ただ イチメン に とざして いる よう に みえた マックロ な クモ が、 いつのまにか ハナレバナレ に なって うごきだし、 それら が ワタシタチ の メ の ウエ に まで おしかぶさる よう で あった。 クウキ も なんだか ソコビエ が しだした。 ウワギ の エリ を たてた ワタシ は、 カタカケ に すっかり カラダ を うずめる よう に して メ を つぶって いる セツコ の、 つかれた と いう より も、 すこし コウフン して いる らしい カオ を フアン そう に みまもって いた。 カノジョ は ときどき ぼんやり と メ を ひらいて ワタシ の ほう を みた。 ハジメ の うち は フタリ は その たび ごと に メ と メ で ほほえみあった が、 シマイ には ただ フアン そう に タガイ を みあった きり、 すぐ フタリ とも メ を そらせた。 そうして カノジョ は また メ を とじた。
「なんだか ひえて きた ね。 ユキ でも ふる の かな」
「こんな 4 ガツ に なって も ユキ なんか ふる の?」
「うん、 この ヘン は ふらない とも かぎらない の だ」
まだ 3 ジ-ゴロ だ と いう のに もう すっかり うすぐらく なった マド の ソト へ メ を そそいだ。 トコロドコロ に マックロ な モミ を まじえながら、 ハ の ない カラマツ が ムスウ に ならびだして いる の に、 すでに ワタシタチ は ヤツガタケ の スソ を とおって いる こと に キ が ついた が、 マノアタリ に みえる はず の ヤマ らしい もの は カゲ も カタチ も みえなかった。……
キシャ は、 いかにも サンロク-らしい、 モノオキゴヤ と たいして かわらない ちいさな エキ に テイシャ した。 エキ には、 コウゲン リョウヨウジョ の シルシ の ついた ハッピ を きた、 としとった、 コヅカイ が ヒトリ、 ワタシタチ を むかえ に きて いた。
エキ の マエ に またせて あった、 ふるい、 ちいさな ジドウシャ の ところ まで、 ワタシ は セツコ を ウデ で ささえる よう に して いった。 ワタシ の ウデ の ナカ で、 カノジョ が すこし よろめく よう に なった の を かんじた が、 ワタシ は それ には きづかない よう な フリ を した。
「つかれたろう ね?」
「そんな でも ない わ」
ワタシタチ と イッショ に おりた スウニン の トチ の モノ らしい ヒトビト が、 そういう ワタシタチ の マワリ で なにやら ささやきあって いた よう だった が、 ワタシタチ が ジドウシャ に のりこんで いる うち に、 いつのまにか その ヒトビト は ホカ の ムラビト たち に まじって みわけにくく なりながら、 ムラ の ナカ に きえて いった。
ワタシタチ の ジドウシャ が、 みすぼらしい コイエ の イチレツ に つづいて いる ムラ を とおりぬけた ノチ、 それ が みえない ヤツガタケ の オネ まで そのまま はてしなく ひろがって いる か と おもえる デコボコ の おおい ケイシャチ へ さしかかった と おもう と、 ハイゴ に ゾウキバヤシ を せおいながら、 あかい ヤネ を した、 イクツ も ソクヨク の ある、 おおきな タテモノ が、 ユクテ に みえだした。
「あれ だな」 と、 ワタシ は シャダイ の カタムキ を カラダ に かんじだしながら、 つぶやいた。
セツコ は ちょっと カオ を あげ、 いくぶん シンパイ そう な メツキ で、 それ を ぼんやり と みた だけ だった。
サナトリウム に つく と、 ワタシタチ は、 その いちばん オク の ほう の、 ウラ が すぐ ゾウキバヤシ に なって いる、 ビョウトウ の 2 カイ の ダイ 1 ゴウ-シツ に いれられた。 カンタン な シンサツゴ、 セツコ は すぐ ベッド に ねて いる よう に めいじられた。 リノリウム で ユカ を はった ビョウシツ には、 すべて マッシロ に ぬられた ベッド と タク と イス と、 ――それから その ホカ には、 いましがた コヅカイ が とどけて くれた ばかり の スウコ の トランク が ある きり だった。 フタリ きり に なる と、 ワタシ は しばらく おちつかず に、 ツキソイニン の ため に あてられた せまくるしい ソクシツ に はいろう とも しない で、 そんな ムキダシ な カンジ の する シツナイ を ぼんやり と みまわしたり、 また、 ナンド も マド に ちかづいて は、 ソラモヨウ ばかり キ に して いた。 カゼ が マックロ な クモ を おもたそう に ひきずって いた。 そして ときおり ウラ の ゾウキバヤシ から するどい オト を もいだり した。 ワタシ は イチド さむそう な カッコウ を して バルコン に でて いった。 バルコン は なんの シキリ も なし に ずっと ムコウ の ビョウシツ まで つづいて いた。 その ウエ には まったく ヒトケ が たえて いた ので、 ワタシ は かまわず に あるきだしながら、 ビョウシツ を ヒトツヒトツ のぞいて いって みる と、 ちょうど 4 バンメ の ビョウシツ の ナカ に、 ヒトリ の カンジャ の ねて いる の が ハンビラキ に なった マド から みえた ので、 ワタシ は いそいで そのまま ひっかえして きた。
やっと ランプ が ついた。 それから ワタシタチ は カンゴフ の はこんで きて くれた ショクジ に むかいあった。 それ は ワタシタチ が フタリ きり で サイショ に ともに する ショクジ に して は、 すこし わびしかった。 ショクジチュウ、 ソト が もう マックラ なので なにも キ が つかず に、 ただ なんだか アタリ が キュウ に しずか に なった な と おもって いたら、 いつのまにか ユキ に なりだした らしかった。
ワタシ は たちあがって、 ハンビラキ に して あった マド を もうすこし ホソメ に しながら、 その ガラス に カオ を くっつけて、 それ が ワタシ の イキ で くもりだした ほど、 じっと ユキ の ふる の を みつめて いた。 それから やっと そこ を はなれながら、 セツコ の ほう を ふりむいて、 「ねえ、 オマエ、 なんだって こんな……」 と いいだしかけた。
カノジョ は ベッド に ねた まま、 ワタシ の カオ を うったえる よう に みあげて、 それ を ワタシ に いわせまい と する よう に、 クチ へ ユビ を あてた。
⁂
ヤツガタケ の おおきな のびのび と した タイシャイロ の スソノ が ようやく その コウバイ を ゆるめよう と する ところ に、 サナトリウム は、 イクツ か の ソクヨク を ヘイコウ に ひろげながら、 ミナミ を むいて たって いた。 その スソノ の ケイシャ は さらに のびて いって、 2~3 の ちいさな サンソン を ムラ ゼンタイ かたむかせながら、 サイゴ に ムスウ の くろい マツ に すっかり つつまれながら、 みえない タニマ の ナカ に つきて いた。
サナトリウム の ミナミ に ひらいた バルコン から は、 それら の かたむいた ムラ と その あかちゃけた コウサクチ が イッタイ に みわたされ、 さらに それら を とりかこみながら はてしなく なみたって いる マツバヤシ の ウエ に、 よく はれて いる ヒ だった ならば、 ミナミ から ニシ に かけて、 ミナミ アルプス と その 2~3 の シミャク と が、 いつも ジブン ジシン で わきあがらせた クモ の ナカ に ミエカクレ して いた。
サナトリウム に ついた ヨクアサ、 ジブン の ソクシツ で ワタシ が メ を さます と、 ちいさな マドワク の ナカ に、 ランセイショク に はれきった ソラ と、 それから イクツ も の まっしろい トサカ の よう な サンテン が、 そこ に まるで タイキ から ひょっくり うまれ でも した よう な オモイガケナサ で、 ほとんど マナガイ に みられた。 そして ねた まま では みられない バルコン や ヤネ の ウエ に つもった ユキ から は、 キュウ に はるめいた ヒ の ヒカリ を あびながら、 たえず スイジョウキ が たって いる らしかった。
すこし ねすごした くらい の ワタシ は、 いそいで とびおきて、 トナリ の ビョウシツ へ はいって いった。 セツコ は、 すでに メ を さまして いて、 モウフ に くるまりながら、 ほてった よう な カオ を して いた。
「おはよう」 ワタシ も おなじ よう に カオ が ほてりだす の を かんじながら、 キガル そう に いった。 「よく ねられた?」
「ええ」 カノジョ は ワタシ に うなずいて みせた。 「ユウベ クスリ を のんだ の。 なんだか アタマ が すこし いたい わ」
ワタシ は そんな こと に なんか かまって いられない と いった ふう に、 ゲンキ よく マド も、 それから バルコン に つうじる ガラス ドア も、 すっかり あけはなした。 まぶしくって、 イチジ は なにも みられない くらい だった が、 そのうち それ に メ が だんだん なれて くる と、 ユキ に うもれた バルコン から も、 ヤネ から も、 ノハラ から も、 キ から さえ も、 かるい スイジョウキ の たって いる の が みえだした。
「それに とても おかしな ユメ を みた の。 あのね……」 カノジョ は ワタシ の ハイゴ で いいだしかけた。
ワタシ は すぐ、 カノジョ が ナニ か うちあけにくい よう な こと を ムリ に いいだそう と して いる らしい の を さとった。 そんな バアイ の イツモ の よう に、 カノジョ の イマ の コエ も すこし しゃがれて いた。
コンド は ワタシ が、 カノジョ の ほう を ふりむきながら、 それ を いわせない よう に、 クチ へ ユビ を あてる バン だった。……
やがて カンゴフチョウ が せかせか した シンセツ そう な ヨウス を して はいって きた。 こうして カンゴフチョウ は、 マイアサ、 ビョウシツ から ビョウシツ へ と カンジャ たち を ヒトリヒトリ みまう の で ある。
「ユウベ は よく おやすみ に なれました か?」 カンゴフチョウ は カイカツ そう な コエ で たずねた。
ビョウニン は なにも いわない で、 すなお に うなずいた。
⁂
こういう ヤマ の サナトリウム の セイカツ など は、 フツウ の ヒトビト が もう ユキドマリ だ と しんじて いる ところ から はじまって いる よう な、 トクシュ な ニンゲンセイ を おのずから おびて くる もの だ。 ――ワタシ が ジブン の ウチ に そういう みしらない よう な ニンゲンセイ を ぼんやり と イシキ しはじめた の は、 ニュウインゴ まもなく ワタシ が インチョウ に シンサツシツ に よばれて いって、 セツコ の レントゲン で とられた シッカンブ の シャシン を みせられた とき から だった。
インチョウ は ワタシ を マドギワ に つれて いって、 ワタシ にも みよい よう に、 その シャシン の ゲンパン を ヒ に すかせながら、 いちいち それ に セツメイ を くわえて いった。 ミギ の ムネ には スウホン の しらじら と した ロッコツ が くっきり と みとめられた が、 ヒダリ の ムネ には それら が ほとんど なにも みえない くらい、 おおきな、 まるで くらい フシギ な ハナ の よう な、 ビョウソウ が できて いた。
「おもった より も ビョウソウ が ひろがって いる なあ。 ……こんな に ひどく なって しまって いる とは おもわなかった ね。 ……これ じゃ、 イマ、 ビョウイン-ジュウ でも 2 バンメ ぐらい に ジュウショウ かも しれん よ……」
そんな インチョウ の コトバ が ジブン の ミミ の ナカ で があがあ する よう な キ が しながら、 ワタシ は なんだか シコウリョク を うしなって しまった モノ みたい に、 いましがた みて きた あの くらい フシギ な ハナ の よう な イマージュ を それら の コトバ とは すこしも カンケイ が ない もの の よう に、 それ だけ を あざやか に イシキ の シキミ に のぼらせながら、 シンサツシツ から かえって きた。 ジブン と すれちがう ハクイ の カンゴフ だの、 もう あちこち の バルコン で ニッコウヨク を しだして いる ラタイ の カンジャ たち だの、 ビョウトウ の ザワメキ だの、 それから コトリ の サエズリ だの が、 そういう ワタシ の マエ を なんの レンラク も なし に すぎた。 ワタシ は とうとう いちばん ハズレ の ビョウトウ に はいり、 ワタシタチ の ビョウシツ の ある 2 カイ へ つうじる カイダン を のぼろう と して キカイテキ に アシ を ゆるめた シュンカン、 その カイダン の ヒトツ テマエ に ある ビョウシツ の ナカ から、 イヨウ な、 ついぞ そんな の は まだ きいた こと も ない よう な キミ の わるい カラセキ が ツヅケサマ に もれて くる の を ミミ に した。 「おや、 こんな ところ にも カンジャ が いた の かなあ」 と おもいながら、 ワタシ は その ドア に ついて いる No.17 と いう スウジ を、 ただ ぼんやり と みつめた。
⁂
こうして ワタシタチ の すこし フウガワリ な アイ の セイカツ が はじまった。
セツコ は ニュウイン イライ、 アンセイ を めいじられて、 ずっと ねついた きり だった。 その ため に、 キブン の いい とき は つとめて おきる よう に して いた ニュウイン マエ の カノジョ に くらべる と、 かえって ビョウニン-らしく みえた が、 べつに ビョウキ ソノモノ は アッカ した とも おもえなかった。 イシャ たち も また すぐ カイユ する カンジャ と して カノジョ を いつも とりあつかって いる よう に みえた。 「こうして ビョウキ を イケドリ に して しまう の だ」 と インチョウ など は ジョウダン でも いう よう に いったり した。
キセツ は その アイダ に、 イマ まで すこし オクレギミ だった の を とりもどす よう に、 キュウソク に すすみだして いた。 ハル と ナツ と が ほとんど ドウジ に おしよせて きた か の よう だった。 マイアサ の よう に、 ウグイス や カンコドリ の サエズリ が ワタシタチ を めざませた。 そして ほとんど イチニチジュウ、 シュウイ の ハヤシ の シンリョク が サナトリウム を シホウ から おそいかかって、 ビョウシツ の ナカ まで すっかり さわやか に いろづかせて いた。 それら の ヒビ、 アサ の うち に ヤマヤマ から わいて でて いった しろい クモ まで も、 ユウガタ には ふたたび モト の ヤマヤマ へ たちもどって くる か と みえた。
ワタシ は、 ワタシタチ が ともに した サイショ の ヒビ、 ワタシ が セツコ の マクラモト に ほとんど ツキキリ で すごした それら の ヒビ の こと を おもいうかべよう と する と、 それら の ヒビ が たがいに にて いる ため に、 その ミリョク は なく は ない タンイツサ の ため に、 ほとんど どれ が アト だ か サキ だ か ミワケ が つかなく なる よう な キ が する。
と いう より も、 ワタシタチ は それら の にた よう な ヒビ を くりかえして いる うち に、 いつか まったく ジカン と いう もの から も ぬけだして しまって いた よう な キ さえ する くらい だ。 そして、 そういう ジカン から ぬけだした よう な ヒビ に あって は、 ワタシタチ の ニチジョウ セイカツ の どんな ササイ な もの まで、 その ヒトツヒトツ が イマ まで とは ぜんぜん ちがった ミリョク を もちだす の だ。 ワタシ の ミヂカ に ある この なまぬるい、 いい ニオイ の する ソンザイ、 その すこし はやい コキュウ、 ワタシ の テ を とって いる その しなやか な テ、 その ビショウ、 それから また ときどき とりかわす ヘイボン な カイワ、 ――そういった もの を もし とりのぞいて しまう と したら、 アト には なにも のこらない よう な タンイツ な ヒビ だ けれども、 ――ワレワレ の ジンセイ なんぞ と いう もの は ヨウソテキ には じつは これ だけ なの だ、 そして、 こんな ささやか な もの だけ で ワタシタチ が これほど まで マンゾク して いられる の は、 ただ ワタシ が それ を この オンナ と ともに して いる から なの だ、 と いう こと を ワタシ は カクシン して いられた。
それら の ヒビ に おける ユイイツ の デキゴト と いえば、 カノジョ が ときおり ネツ を だす こと くらい だった。 それ は カノジョ の カラダ を じりじり おとろえさせて ゆく もの に ちがいなかった。 が、 ワタシタチ は そういう ヒ は、 イツモ と すこしも かわらない ニッカ の ミリョク を、 もっと サイシン に、 もっと カンマン に、 あたかも キンダン の カジツ の アジ を こっそり ぬすみ でも する よう に あじわおう と こころみた ので、 ワタシタチ の いくぶん シ の アジ の する セイ の コウフク は その とき は いっそう カンゼン に たもたれた ほど だった。
そんな ある ユウグレ、 ワタシ は バルコン から、 そして セツコ は ベッド の ウエ から、 おなじ よう に、 ムコウ の ヤマ の セ に はいって マ も ない ユウヒ を うけて、 その アタリ の ヤマ だの オカ だの マツバヤシ だの ヤマバタケ だの が、 なかば あざやか な アカネイロ を おびながら、 なかば まだ ふたしか な よう な ネズミイロ に じょじょ に おかされだして いる の を、 うっとり と して ながめて いた。 ときどき おもいだした よう に その モリ の ウエ へ コトリ たち が ホウブツセン を えがいて とびあがった。 ――ワタシ は、 このよう な ショカ の ユウグレ が ほんの イッシュンジ しょうじさせて いる イッタイ の ケシキ は、 スベテ は いつも みなれた ドウグダテ ながら、 おそらく イマ を おいて は これほど の あふれる よう な コウフク の カンジ を もって ワタシタチ ジシン に すら ながめえられない だろう こと を かんがえて いた。 そして ずっと アト に なって、 いつか この うつくしい ユウグレ が ワタシ の ココロ に よみがえって くる よう な こと が あったら、 ワタシ は これ に ワタシタチ の コウフク ソノモノ の カンゼン な エ を みいだす だろう と ゆめみて いた。
「ナニ を そんな に かんがえて いる の?」 ワタシ の ハイゴ から セツコ が とうとう クチ を きった。
「ワタシタチ が ずっと アト に なって ね、 イマ の ワタシタチ の セイカツ を おもいだす よう な こと が あったら、 それ が どんな に うつくしい だろう と おもって いた ん だ」
「ホントウ に そう かも しれない わね」 カノジョ は そう ワタシ に ドウイ する の が さも たのしい か の よう に おうじた。
それから また ワタシタチ は しばらく ムゴン の まま、 ふたたび おなじ フウケイ に みいって いた。 が、 その うち に ワタシ は フイ に なんだか、 こう やって うっとり と それ に みいって いる の が ジブン で ある よう な ジブン で ない よう な、 へんに ぼうばく と した、 トリトメ の ない、 そして それ が なんとなく くるしい よう な カンジ さえ して きた。 その とき ワタシ は ジブン の ハイゴ で ふかい イキ の よう な もの を きいた よう な キ が した。 が、 それ が また ジブン の だった よう な キ も された。 ワタシ は それ を たしかめ でも する よう に、 カノジョ の ほう を ふりむいた。
「そんな に イマ の……」 そういう ワタシ を じっと みかえしながら、 カノジョ は すこし しゃがれた コエ で いいかけた。 が、 それ を いいかけた なり、 すこし ためらって いた よう だった が、 それから キュウ に イマ まで とは ちがった うっちゃる よう な チョウシ で、 「そんな に いつまでも いきて いられたら いい わね」 と いいたした。
「また、 そんな こと を!」
ワタシ は いかにも じれったい よう に ちいさく さけんだ。
「ごめんなさい」 カノジョ は そう みじかく こたえながら ワタシ から カオ を そむけた。
イマシガタ まで の ナニ か ジブン にも ワケ の わからない よう な キブン が ワタシ には だんだん イッシュ の イラダタシサ に かわりだした よう に みえた。 ワタシ は それから もう イチド ヤマ の ほう へ メ を やった が、 その とき は すでに もう その フウケイ の ウエ に イッシュンカン しょうじて いた イヨウ な ウツクシサ は きえうせて いた。
その バン、 ワタシ が トナリ の ソクシツ へ ね に ゆこう と した とき、 カノジョ は ワタシ を よびとめた。
「サッキ は ごめんなさい ね」
「もう いい ん だよ」
「ワタシ ね、 あの とき ホカ の こと を いおう と して いた ん だ けれど…… つい、 あんな こと を いって しまった の」
「じゃ、 あの とき ナニ を いおう と した ん だい?」
「……アナタ は いつか シゼン なんぞ が ホントウ に うつくしい と おもえる の は しんで いこう と する モノ の メ に だけ だ と おっしゃった こと が ある でしょう。 ……ワタシ、 あの とき ね、 それ を おもいだした の。 なんだか あの とき の ウツクシサ が そんな ふう に おもわれて」 そう いいながら、 カノジョ は ワタシ の カオ を ナニ か うったえたい よう に みつめた。
その コトバ に ムネ を つかれ でも した よう に、 ワタシ は おもわず メ を ふせた。 その とき、 とつぜん、 ワタシ の アタマ の ナカ を ヒトツ の シソウ が よぎった。 そして サッキ から ワタシ を いらいら させて いた、 ナニ か ふたしか な よう な キブン が、 ようやく ワタシ の ウチ で はっきり と した もの に なりだした。…… 「そう だ、 オレ は どうして そいつ に キ が つかなかった の だろう? あの とき シゼン なんぞ を あんな に うつくしい と おもった の は オレ じゃ ない の だ。 それ は オレタチ だった の だ。 まあ いって みれば、 セツコ の タマシイ が オレ の メ を とおして、 そして ただ オレ の リュウギ で、 ゆめみて いた だけ なの だ。 ……それだのに、 セツコ が ジブン の サイゴ の シュンカン の こと を ゆめみて いる とも しらない で、 オレ は オレ で、 カッテ に オレタチ の ナガイキ した とき の こと なんぞ かんがえて いた なんて……」
いつしか そんな カンガエ を とつおいつ しだして いた ワタシ が、 やっと メ を あげる まで、 カノジョ は サッキ と おなじ よう に ワタシ を じっと みつめて いた。 ワタシ は その メ を さける よう な カッコウ を しながら、 カノジョ の ウエ に かがみかけて、 その ヒタイ に そっと セップン した。 ワタシ は ココロ から はずかしかった。……
⁂
とうとう マナツ に なった。 それ は ヘイチ で より も、 もっと モウレツ な くらい で あった。 ウラ の ゾウキバヤシ では、 ナニ か が もえだし でも した か の よう に、 セミ が ひねもす なきやまなかった。 ジュシ の ニオイ さえ、 あけはなした マド から ただよって きた。 ユウガタ に なる と、 コガイ で すこし でも ラク な コキュウ を する ため に、 バルコン まで ベッド を ひきださせる カンジャ たち が おおかった。 それら の カンジャ たち を みて、 ワタシタチ は はじめて、 コノゴロ にわか に サナトリウム の カンジャ たち の ふえだした こと を しった。 しかし、 ワタシタチ は あいかわらず ダレ にも かまわず に、 フタリ だけ の セイカツ を つづけて いた。
コノゴロ、 セツコ は アツサ の ため に すっかり ショクヨク を うしない、 ヨル など も よく ねられない こと が おおい らしかった。 ワタシ は、 カノジョ の ヒルネ を まもる ため に、 マエ より も いっそう、 ロウカ の アシオト や、 マド から とびこんで くる ハチ や アブ など に キ を くばりだした。 そして アツサ の ため に おもわず おおきく なる ワタシ ジシン の コキュウ にも キ を もんだり した。
そのよう に ビョウニン の マクラモト で、 イキ を つめながら、 カノジョ の ねむって いる の を みまもって いる の は、 ワタシ に とって も ヒトツ の ネムリ に ちかい もの だった。 ワタシ は カノジョ が ねむりながら コキュウ を はやく したり ゆるく したり する ヘンカ を くるしい ほど はっきり と かんじる の だった。 ワタシ は カノジョ と シンゾウ の コドウ を さえ ともに した。 ときどき かるい コキュウ コンナン が カノジョ を おそう らしかった。 そんな とき、 テ を すこし ケイレン させながら ノド の ところ まで もって いって それ を おさえる よう な テツキ を する、 ――ユメ に おそわれて でも いる の では ない か と おもって、 ワタシ が おこして やった もの か どう か と ためらって いる うち、 そんな くるしげ な ジョウタイ は やがて すぎ、 アト に シカン ジョウタイ が やって くる。 そう する と、 ワタシ も おもわず ほっと しながら、 イマ カノジョ の いきづいて いる しずか な コキュウ に ジブン まで が イッシュ の カイカン さえ おぼえる。 ――そうして カノジョ が メ を さます と、 ワタシ は そっと カノジョ の カミ に セップン を して やる。 カノジョ は まだ だるそう な メツキ で、 ワタシ を みる の だった。
「アナタ、 そこ に いた の?」
「ああ、 ボク も ここ で すこし うつらうつら して いた ん だ」
そんな バン など、 ジブン も いつまでも ねつかれず に いる よう な こと が ある と、 ワタシ は それ が クセ に でも なった よう に、 ジブン でも しらず に、 テ を ノド に ちかづけながら それ を おさえる よう な テツキ を まねたり して いる。 そして それ に キ が ついた アト で、 それから やっと ワタシ は ホントウ の コキュウ コンナン を かんじたり する。 が、 それ は ワタシ には むしろ こころよい もの で さえ あった。
「コノゴロ なんだか オカオイロ が わるい よう よ」 ある ヒ、 カノジョ は イツモ より しげしげ と みながら いう の だった。 「どうか なすった の じゃ ない?」
「なんでも ない よ」 そう いわれる の は ワタシ の キ に いった。 「ボク は いつだって こう じゃ ない か?」
「あんまり ビョウニン の ソバ に ばかり いない で、 すこし は サンポ くらい なすって いらっしゃらない?」
「この あつい のに、 サンポ なんか できる もん か。 ……ヨル は ヨル で、 マックラ だし さ。 ……それに マイニチ、 ビョウイン の ナカ を ずいぶん いったり きたり して いる ん だ から なあ」
ワタシ は そんな カイワ を それ イジョウ に すすめない ため に、 マイニチ ロウカ など で であったり する、 ホカ の カンジャ たち の ハナシ を もちだす の だった。 よく バルコン の フチ に ヒトカタマリ に なりながら、 ソラ を ケイバジョウ に、 うごいて いる クモ を いろいろ それ に にた ドウブツ に みたてあったり して いる ネンショウ の カンジャ たち の こと や、 いつも ツキソイ カンゴフ の ウデ に すがって、 アテ も なし に ロウカ を オウフク して いる、 ひどい シンケイ スイジャク の、 ブキミ な くらい セ の たかい カンジャ の こと など を はなして きかせたり した。 しかし、 ワタシ は まだ イチド も その カオ は みた こと が ない が、 いつも その ヘヤ の マエ を とおる たび ごと に、 キミ の わるい、 なんだか ぞっと する よう な セキ を ミミ に する レイ の ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ の こと だけ は、 つとめて さける よう に して いた。 おそらく それ が この サナリウム-ジュウ で、 いちばん ジュウショウ の カンジャ なの だろう と おもいながら。……
8 ガツ も ようやく スエ ちかく なった のに、 まだ ずっと ねぐるしい よう な バン が つづいて いた。 そんな ある バン、 ワタシタチ が なかなか ねつかれず に いる と、 (もう とっく に シュウミン ジカン の 9 ジ は すぎて いた。……) ずっと ムコウ の シタ の ビョウトウ が なんとなく そうぞうしく なりだした。 それに ときどき ロウカ を コバシリ に して ゆく よう な アシオト や、 おさえつけた よう な カンゴフ の ちいさな サケビ や、 キグ の するどく ぶつかる オト が まじった。 ワタシ は しばらく フアン そう に ミミ を かたむけて いた。 それ が やっと しずまった か と おもう と、 それ と そっくり な チンモク の ザワメキ が、 ほとんど ドウジ に、 あっち の ビョウトウ にも こっち の ビョウトウ にも おこりだした。 そして シマイ には ワタシタチ の すぐ シタ の ほう から も きこえて きた。
ワタシ は、 イマ、 サナトリウム の ナカ を アラシ の よう に あばれまわって いる もの の ナン で ある か ぐらい は しって いた。 ワタシ は その カン に ナンド も ミミ を そばだてて は、 サッキ から アカリ は けして ある ものの、 まだ おなじ よう に ねつかれず に いる らしい リンシツ の ビョウニン の ヨウス を うかがった。 ビョウニン は ネガエリ さえ うたず に、 じっと して いる らしかった。 ワタシ も いきぐるしい ほど じっと しながら、 そんな アラシ が ひとりでに おとろえて くる の を まちつづけて いた。
マヨナカ に なって から やっと それ が おとろえだす よう に みえた ので、 ワタシ は おもわず ほっと しながら すこし まどろみかけた が、 とつぜん、 リンシツ で ビョウニン が それまで ムリ に おさえつけて いた よう な シンケイテキ な セキ を フタツ ミッツ つよく した ので、 ふいと メ を さました。 そのまま すぐ その セキ は とまった よう だった が、 ワタシ は どうも キ に なって ならなかった ので、 そっと リンシツ に はいって いった。 マックラ な ナカ に、 ビョウニン は ヒトリ で おびえて でも いた よう に、 おおきく メ を みひらきながら、 ワタシ の ほう を みて いた。 ワタシ は なにも いわず に、 その ソバ に ちかづいた。
「まだ だいじょうぶ よ」
カノジョ は つとめて ビショウ を しながら、 ワタシ に きこえる か きこえない くらい の コゴエ で いった。 ワタシ は だまった まま、 ベッド の フチ に コシ を かけた。
「そこ に いて ちょうだい」
ビョウニン は イツモ に にず、 キヨワ そう に、 ワタシ に そう いった。 ワタシタチ は そうした まま まんじり とも しない で その ヨル を あかした。
そんな こと が あって から、 2~3 ニチ する と、 キュウ に ナツ が おとろえだした。
⁂
9 ガツ に なる と、 すこし アレモヨウ の アメ が ナンド と なく ふったり やんだり して いた が、 その うち に それ は ほとんど おやみなし に ふりつづきだした。 それ は キ の ハ を きばませる より サキ に、 それ を くさらせる か と みえた。 さしも の サナトリウム の ヘヤベヤ も、 マイニチ マド を しめきって、 うすぐらい ほど だった。 カゼ が ときどき ト を ばたつかせた。 そして ウラ の ゾウキバヤシ から、 タンチョウ な、 おもくるしい オト を ひきもぎった。 カゼ の ない ヒ は、 ワタシタチ は シュウジツ、 アメ が ヤネヅタイ に バルコン の ウエ に おちる の を きいて いた。 そんな アメ が やっと キリ に にだした ある ソウチョウ、 ワタシ は マド から、 バルコン の めんして いる ほそながい ナカニワ が いくぶん うすあかるく なって きた よう なの を ぼんやり と みおろして いた。 その とき、 ナカニワ の ムコウ の ほう から、 ヒトリ の カンゴフ が、 そんな キリ の よう な アメ の ナカ を そこここ に さきみだれて いる ノギク や コスモス を てあたりしだい に とりながら、 こっち へ むかって ちかづいて くる の が みえた。 ワタシ は それ が あの ダイ 17 ゴウ-シツ の ツキソイ カンゴフ で ある こと を みとめた。 「ああ、 あの いつも フカイ な セキ ばかり きいて いた カンジャ が しんだ の かも しれない なあ」 ふと そんな こと を おもいながら、 アメ に ぬれた まま なんだか コウフン した よう に なって まだ ハナ を とって いる その カンゴフ の スガタ を みつめて いる うち に、 ワタシ は キュウ に シンゾウ が しめつけられる よう な キ が しだした。 「やっぱり ここ で いちばん おもかった の は アイツ だった の かな? が、 アイツ が とうとう しんで しまった と する と、 コンド は?…… ああ、 あんな こと を インチョウ が いって くれなければ よかった ん だに……」
ワタシ は その カンゴフ が おおきな ハナタバ を かかえた まま バルコン の カゲ に かくれて しまって から も、 うつけた よう に マドガラス に カオ を くっつけて いた。
「ナニ を そんな に みて いらっしゃる の?」 ベッド から ビョウニン が ワタシ に とうた。
「こんな アメ の ナカ で、 サッキ から ハナ を とって いる カンゴフ が いる ん だ けれど、 あれ は ダレ だろう かしら?」
ワタシ は そう ヒトリゴト の よう に つぶやきながら、 やっと その マド から はなれた。
しかし、 その ヒ は とうとう イチニチジュウ、 ワタシ は なんだか ビョウニン の カオ を マトモ に みられず に いた。 なにもかも みぬいて いながら、 わざと しらぬ よう な ヨウス を して、 ときどき ワタシ の ほう を じっと ビョウニン が みて いる よう な キ さえ されて、 それ が ワタシ を いっそう くるしめた。 こんな ふう に おたがいに わかたれない フアン や キョウフ を いだきはじめて、 フタリ が フタリ で すこし ずつ ベツベツ に モノ を かんがえだす なんて いう こと は、 いけない こと だ と おもいかえして は、 ワタシ は はやく こんな デキゴト は わすれて しまおう と つとめながら、 また いつのまにやら その こと ばかり を アタマ に うかべて いた。 そして シマイ には、 ワタシタチ が この サナトリウム に はじめて ついた ユキ の ふる バン に ビョウニン が みた と いう ユメ、 ハジメ は それ を きくまい と しながら ついに うちまけて ビョウニン から それ を ききだして しまった あの フキツ な ユメ の こと まで、 イマ まで ずっと わすれて いた のに、 ひょっくり おもいうかべたり して いた。 ――その フシギ な ユメ の ナカ で、 ビョウニン は シガイ に なって カン の ナカ に ねて いた。 ヒトビト は その カン を にないながら、 どこ だ か しらない ノハラ を よこぎったり、 モリ の ナカ へ はいったり した。 もう しんで いる カノジョ は しかし、 カン の ナカ から、 すっかり ふゆがれた ノヅラ や、 くろい モミ の キ など を ありあり と みたり、 その ウエ を さびしく ふいて すぎる カゼ の オト を ミミ に きいたり して いた、 ……その ユメ から さめて から も、 カノジョ は ジブン の ミミ が とても つめたくて、 モミ の ザワメキ が まだ それ を みたして いる の を まざまざ と かんじて いた。……
そんな キリ の よう な アメ が なお スウジツ ふりつづいて いる うち に、 すでに もう ホカ の キセツ に なって いた。 サナトリウム の ナカ も、 キ が ついて みる と、 あれだけ タスウ に なって いた カンジャ たち も ヒトリ さり フタリ さり して、 その アト には この フユ を こちら で こさなければ ならない よう な おもい カンジャ たち ばかり が とりのこされ、 また、 ナツ の マエ の よう な サビシサ に かわりだして いた。 ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ の シ が それ を キュウ に めだたせた。
9 ガツ の スエ の ある アサ、 ワタシ が ロウカ の キタガワ の マド から なにげなし に ウラ の ゾウキバヤシ の ほう へ メ を やって みる と、 その きりぶかい ハヤシ の ナカ に いつ に なく ヒト が でたり はいったり して いる の が イヨウ に かんじられた。 カンゴフ たち に きいて みて も なにも しらない よう な ヨウス を して いた。 それっきり ワタシ も つい わすれて いた が、 ヨクジツ も また、 ソウチョウ から 2~3 ニン の ニンプ が きて、 その オカ の フチ に ある クリ の キ らしい もの を きりたおしはじめて いる の が キリ の ナカ に みえたり かくれたり して いた。
その ヒ、 ワタシ は カンジャ たち が まだ ダレ も しらず に いる らしい その ゼンジツ の デキゴト を、 ふとした こと から ききしった。 それ は なんでも、 レイ の キミ の わるい シンケイ スイジャク の カンジャ が その ハヤシ の ナカ で イシ して いた と いう ハナシ だった。 そう いえば、 どうか する と ヒ に ナンド も みかけた、 あの ツキソイ カンゴフ の ウデ に すがって ロウカ を いったり きたり して いた おおきな オトコ が、 キノウ から キュウ に スガタ を けして しまって いる こと に キ が ついた。
「あの オトコ の バン だった の か……」 ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ が しんで から と いう もの すっかり シンケイシツ に なって いた ワタシ は、 それから まだ 1 シュウカン と たたない うち に ひきつづいて おこった そんな おもいがけない シ の ため に、 おもわず ほっと した よう な キモチ に なった。 そして それ は、 そんな インサン な シ から とうぜん ワタシ が うけた に ちがいない キミワルサ すら、 ワタシ には その ため に ほとんど かんぜられず に しまった と いって いい ほど で あった。
「こないだ しんだ ヤツ の ツギ くらい に わるい と いわれて いたって、 なにも しぬ と きまって いる ワケ の もの じゃ ない ん だ から なあ」 ワタシ は そう キガル そう に ジブン に むかって いって きかせたり した。
ウラ の ハヤシ の ナカ の クリ の キ が 2~3 ボン ばかり きりとられて、 なんだか マ の ぬけた よう に なって しまった アト は、 コンド は その オカ の フチ を、 ひきつづき ニンプ たち が きりくずしだし、 そこ から すこし キュウ な ケイシャ で さがって いる ビョウトウ の キタガワ に そった すこし ばかり の アキチ に その ツチ を はこんで は、 そこいら イッタイ を ゆるやか な ナゾエ に しはじめて いた。 ヒト は そこ を カダン に かえる シゴト に とりかかって いる の だ。
ワタシタチ の のった キシャ が、 ナンド と なく ヤマ を よじのぼったり、 ふかい ケイコク に そって はしったり、 また それから キュウ に うちひらけた ブドウバタケ の おおい ダイチ を ながい こと かかって よこぎったり した ノチ、 やっと サンガク チタイ へ と ハテシ の ない よう な、 シツヨウ な トウハン を つづけだした コロ には、 ソラ は いっそう ひくく なり、 イマ まで は ただ イチメン に とざして いる よう に みえた マックロ な クモ が、 いつのまにか ハナレバナレ に なって うごきだし、 それら が ワタシタチ の メ の ウエ に まで おしかぶさる よう で あった。 クウキ も なんだか ソコビエ が しだした。 ウワギ の エリ を たてた ワタシ は、 カタカケ に すっかり カラダ を うずめる よう に して メ を つぶって いる セツコ の、 つかれた と いう より も、 すこし コウフン して いる らしい カオ を フアン そう に みまもって いた。 カノジョ は ときどき ぼんやり と メ を ひらいて ワタシ の ほう を みた。 ハジメ の うち は フタリ は その たび ごと に メ と メ で ほほえみあった が、 シマイ には ただ フアン そう に タガイ を みあった きり、 すぐ フタリ とも メ を そらせた。 そうして カノジョ は また メ を とじた。
「なんだか ひえて きた ね。 ユキ でも ふる の かな」
「こんな 4 ガツ に なって も ユキ なんか ふる の?」
「うん、 この ヘン は ふらない とも かぎらない の だ」
まだ 3 ジ-ゴロ だ と いう のに もう すっかり うすぐらく なった マド の ソト へ メ を そそいだ。 トコロドコロ に マックロ な モミ を まじえながら、 ハ の ない カラマツ が ムスウ に ならびだして いる の に、 すでに ワタシタチ は ヤツガタケ の スソ を とおって いる こと に キ が ついた が、 マノアタリ に みえる はず の ヤマ らしい もの は カゲ も カタチ も みえなかった。……
キシャ は、 いかにも サンロク-らしい、 モノオキゴヤ と たいして かわらない ちいさな エキ に テイシャ した。 エキ には、 コウゲン リョウヨウジョ の シルシ の ついた ハッピ を きた、 としとった、 コヅカイ が ヒトリ、 ワタシタチ を むかえ に きて いた。
エキ の マエ に またせて あった、 ふるい、 ちいさな ジドウシャ の ところ まで、 ワタシ は セツコ を ウデ で ささえる よう に して いった。 ワタシ の ウデ の ナカ で、 カノジョ が すこし よろめく よう に なった の を かんじた が、 ワタシ は それ には きづかない よう な フリ を した。
「つかれたろう ね?」
「そんな でも ない わ」
ワタシタチ と イッショ に おりた スウニン の トチ の モノ らしい ヒトビト が、 そういう ワタシタチ の マワリ で なにやら ささやきあって いた よう だった が、 ワタシタチ が ジドウシャ に のりこんで いる うち に、 いつのまにか その ヒトビト は ホカ の ムラビト たち に まじって みわけにくく なりながら、 ムラ の ナカ に きえて いった。
ワタシタチ の ジドウシャ が、 みすぼらしい コイエ の イチレツ に つづいて いる ムラ を とおりぬけた ノチ、 それ が みえない ヤツガタケ の オネ まで そのまま はてしなく ひろがって いる か と おもえる デコボコ の おおい ケイシャチ へ さしかかった と おもう と、 ハイゴ に ゾウキバヤシ を せおいながら、 あかい ヤネ を した、 イクツ も ソクヨク の ある、 おおきな タテモノ が、 ユクテ に みえだした。
「あれ だな」 と、 ワタシ は シャダイ の カタムキ を カラダ に かんじだしながら、 つぶやいた。
セツコ は ちょっと カオ を あげ、 いくぶん シンパイ そう な メツキ で、 それ を ぼんやり と みた だけ だった。
サナトリウム に つく と、 ワタシタチ は、 その いちばん オク の ほう の、 ウラ が すぐ ゾウキバヤシ に なって いる、 ビョウトウ の 2 カイ の ダイ 1 ゴウ-シツ に いれられた。 カンタン な シンサツゴ、 セツコ は すぐ ベッド に ねて いる よう に めいじられた。 リノリウム で ユカ を はった ビョウシツ には、 すべて マッシロ に ぬられた ベッド と タク と イス と、 ――それから その ホカ には、 いましがた コヅカイ が とどけて くれた ばかり の スウコ の トランク が ある きり だった。 フタリ きり に なる と、 ワタシ は しばらく おちつかず に、 ツキソイニン の ため に あてられた せまくるしい ソクシツ に はいろう とも しない で、 そんな ムキダシ な カンジ の する シツナイ を ぼんやり と みまわしたり、 また、 ナンド も マド に ちかづいて は、 ソラモヨウ ばかり キ に して いた。 カゼ が マックロ な クモ を おもたそう に ひきずって いた。 そして ときおり ウラ の ゾウキバヤシ から するどい オト を もいだり した。 ワタシ は イチド さむそう な カッコウ を して バルコン に でて いった。 バルコン は なんの シキリ も なし に ずっと ムコウ の ビョウシツ まで つづいて いた。 その ウエ には まったく ヒトケ が たえて いた ので、 ワタシ は かまわず に あるきだしながら、 ビョウシツ を ヒトツヒトツ のぞいて いって みる と、 ちょうど 4 バンメ の ビョウシツ の ナカ に、 ヒトリ の カンジャ の ねて いる の が ハンビラキ に なった マド から みえた ので、 ワタシ は いそいで そのまま ひっかえして きた。
やっと ランプ が ついた。 それから ワタシタチ は カンゴフ の はこんで きて くれた ショクジ に むかいあった。 それ は ワタシタチ が フタリ きり で サイショ に ともに する ショクジ に して は、 すこし わびしかった。 ショクジチュウ、 ソト が もう マックラ なので なにも キ が つかず に、 ただ なんだか アタリ が キュウ に しずか に なった な と おもって いたら、 いつのまにか ユキ に なりだした らしかった。
ワタシ は たちあがって、 ハンビラキ に して あった マド を もうすこし ホソメ に しながら、 その ガラス に カオ を くっつけて、 それ が ワタシ の イキ で くもりだした ほど、 じっと ユキ の ふる の を みつめて いた。 それから やっと そこ を はなれながら、 セツコ の ほう を ふりむいて、 「ねえ、 オマエ、 なんだって こんな……」 と いいだしかけた。
カノジョ は ベッド に ねた まま、 ワタシ の カオ を うったえる よう に みあげて、 それ を ワタシ に いわせまい と する よう に、 クチ へ ユビ を あてた。
⁂
ヤツガタケ の おおきな のびのび と した タイシャイロ の スソノ が ようやく その コウバイ を ゆるめよう と する ところ に、 サナトリウム は、 イクツ か の ソクヨク を ヘイコウ に ひろげながら、 ミナミ を むいて たって いた。 その スソノ の ケイシャ は さらに のびて いって、 2~3 の ちいさな サンソン を ムラ ゼンタイ かたむかせながら、 サイゴ に ムスウ の くろい マツ に すっかり つつまれながら、 みえない タニマ の ナカ に つきて いた。
サナトリウム の ミナミ に ひらいた バルコン から は、 それら の かたむいた ムラ と その あかちゃけた コウサクチ が イッタイ に みわたされ、 さらに それら を とりかこみながら はてしなく なみたって いる マツバヤシ の ウエ に、 よく はれて いる ヒ だった ならば、 ミナミ から ニシ に かけて、 ミナミ アルプス と その 2~3 の シミャク と が、 いつも ジブン ジシン で わきあがらせた クモ の ナカ に ミエカクレ して いた。
サナトリウム に ついた ヨクアサ、 ジブン の ソクシツ で ワタシ が メ を さます と、 ちいさな マドワク の ナカ に、 ランセイショク に はれきった ソラ と、 それから イクツ も の まっしろい トサカ の よう な サンテン が、 そこ に まるで タイキ から ひょっくり うまれ でも した よう な オモイガケナサ で、 ほとんど マナガイ に みられた。 そして ねた まま では みられない バルコン や ヤネ の ウエ に つもった ユキ から は、 キュウ に はるめいた ヒ の ヒカリ を あびながら、 たえず スイジョウキ が たって いる らしかった。
すこし ねすごした くらい の ワタシ は、 いそいで とびおきて、 トナリ の ビョウシツ へ はいって いった。 セツコ は、 すでに メ を さまして いて、 モウフ に くるまりながら、 ほてった よう な カオ を して いた。
「おはよう」 ワタシ も おなじ よう に カオ が ほてりだす の を かんじながら、 キガル そう に いった。 「よく ねられた?」
「ええ」 カノジョ は ワタシ に うなずいて みせた。 「ユウベ クスリ を のんだ の。 なんだか アタマ が すこし いたい わ」
ワタシ は そんな こと に なんか かまって いられない と いった ふう に、 ゲンキ よく マド も、 それから バルコン に つうじる ガラス ドア も、 すっかり あけはなした。 まぶしくって、 イチジ は なにも みられない くらい だった が、 そのうち それ に メ が だんだん なれて くる と、 ユキ に うもれた バルコン から も、 ヤネ から も、 ノハラ から も、 キ から さえ も、 かるい スイジョウキ の たって いる の が みえだした。
「それに とても おかしな ユメ を みた の。 あのね……」 カノジョ は ワタシ の ハイゴ で いいだしかけた。
ワタシ は すぐ、 カノジョ が ナニ か うちあけにくい よう な こと を ムリ に いいだそう と して いる らしい の を さとった。 そんな バアイ の イツモ の よう に、 カノジョ の イマ の コエ も すこし しゃがれて いた。
コンド は ワタシ が、 カノジョ の ほう を ふりむきながら、 それ を いわせない よう に、 クチ へ ユビ を あてる バン だった。……
やがて カンゴフチョウ が せかせか した シンセツ そう な ヨウス を して はいって きた。 こうして カンゴフチョウ は、 マイアサ、 ビョウシツ から ビョウシツ へ と カンジャ たち を ヒトリヒトリ みまう の で ある。
「ユウベ は よく おやすみ に なれました か?」 カンゴフチョウ は カイカツ そう な コエ で たずねた。
ビョウニン は なにも いわない で、 すなお に うなずいた。
⁂
こういう ヤマ の サナトリウム の セイカツ など は、 フツウ の ヒトビト が もう ユキドマリ だ と しんじて いる ところ から はじまって いる よう な、 トクシュ な ニンゲンセイ を おのずから おびて くる もの だ。 ――ワタシ が ジブン の ウチ に そういう みしらない よう な ニンゲンセイ を ぼんやり と イシキ しはじめた の は、 ニュウインゴ まもなく ワタシ が インチョウ に シンサツシツ に よばれて いって、 セツコ の レントゲン で とられた シッカンブ の シャシン を みせられた とき から だった。
インチョウ は ワタシ を マドギワ に つれて いって、 ワタシ にも みよい よう に、 その シャシン の ゲンパン を ヒ に すかせながら、 いちいち それ に セツメイ を くわえて いった。 ミギ の ムネ には スウホン の しらじら と した ロッコツ が くっきり と みとめられた が、 ヒダリ の ムネ には それら が ほとんど なにも みえない くらい、 おおきな、 まるで くらい フシギ な ハナ の よう な、 ビョウソウ が できて いた。
「おもった より も ビョウソウ が ひろがって いる なあ。 ……こんな に ひどく なって しまって いる とは おもわなかった ね。 ……これ じゃ、 イマ、 ビョウイン-ジュウ でも 2 バンメ ぐらい に ジュウショウ かも しれん よ……」
そんな インチョウ の コトバ が ジブン の ミミ の ナカ で があがあ する よう な キ が しながら、 ワタシ は なんだか シコウリョク を うしなって しまった モノ みたい に、 いましがた みて きた あの くらい フシギ な ハナ の よう な イマージュ を それら の コトバ とは すこしも カンケイ が ない もの の よう に、 それ だけ を あざやか に イシキ の シキミ に のぼらせながら、 シンサツシツ から かえって きた。 ジブン と すれちがう ハクイ の カンゴフ だの、 もう あちこち の バルコン で ニッコウヨク を しだして いる ラタイ の カンジャ たち だの、 ビョウトウ の ザワメキ だの、 それから コトリ の サエズリ だの が、 そういう ワタシ の マエ を なんの レンラク も なし に すぎた。 ワタシ は とうとう いちばん ハズレ の ビョウトウ に はいり、 ワタシタチ の ビョウシツ の ある 2 カイ へ つうじる カイダン を のぼろう と して キカイテキ に アシ を ゆるめた シュンカン、 その カイダン の ヒトツ テマエ に ある ビョウシツ の ナカ から、 イヨウ な、 ついぞ そんな の は まだ きいた こと も ない よう な キミ の わるい カラセキ が ツヅケサマ に もれて くる の を ミミ に した。 「おや、 こんな ところ にも カンジャ が いた の かなあ」 と おもいながら、 ワタシ は その ドア に ついて いる No.17 と いう スウジ を、 ただ ぼんやり と みつめた。
⁂
こうして ワタシタチ の すこし フウガワリ な アイ の セイカツ が はじまった。
セツコ は ニュウイン イライ、 アンセイ を めいじられて、 ずっと ねついた きり だった。 その ため に、 キブン の いい とき は つとめて おきる よう に して いた ニュウイン マエ の カノジョ に くらべる と、 かえって ビョウニン-らしく みえた が、 べつに ビョウキ ソノモノ は アッカ した とも おもえなかった。 イシャ たち も また すぐ カイユ する カンジャ と して カノジョ を いつも とりあつかって いる よう に みえた。 「こうして ビョウキ を イケドリ に して しまう の だ」 と インチョウ など は ジョウダン でも いう よう に いったり した。
キセツ は その アイダ に、 イマ まで すこし オクレギミ だった の を とりもどす よう に、 キュウソク に すすみだして いた。 ハル と ナツ と が ほとんど ドウジ に おしよせて きた か の よう だった。 マイアサ の よう に、 ウグイス や カンコドリ の サエズリ が ワタシタチ を めざませた。 そして ほとんど イチニチジュウ、 シュウイ の ハヤシ の シンリョク が サナトリウム を シホウ から おそいかかって、 ビョウシツ の ナカ まで すっかり さわやか に いろづかせて いた。 それら の ヒビ、 アサ の うち に ヤマヤマ から わいて でて いった しろい クモ まで も、 ユウガタ には ふたたび モト の ヤマヤマ へ たちもどって くる か と みえた。
ワタシ は、 ワタシタチ が ともに した サイショ の ヒビ、 ワタシ が セツコ の マクラモト に ほとんど ツキキリ で すごした それら の ヒビ の こと を おもいうかべよう と する と、 それら の ヒビ が たがいに にて いる ため に、 その ミリョク は なく は ない タンイツサ の ため に、 ほとんど どれ が アト だ か サキ だ か ミワケ が つかなく なる よう な キ が する。
と いう より も、 ワタシタチ は それら の にた よう な ヒビ を くりかえして いる うち に、 いつか まったく ジカン と いう もの から も ぬけだして しまって いた よう な キ さえ する くらい だ。 そして、 そういう ジカン から ぬけだした よう な ヒビ に あって は、 ワタシタチ の ニチジョウ セイカツ の どんな ササイ な もの まで、 その ヒトツヒトツ が イマ まで とは ぜんぜん ちがった ミリョク を もちだす の だ。 ワタシ の ミヂカ に ある この なまぬるい、 いい ニオイ の する ソンザイ、 その すこし はやい コキュウ、 ワタシ の テ を とって いる その しなやか な テ、 その ビショウ、 それから また ときどき とりかわす ヘイボン な カイワ、 ――そういった もの を もし とりのぞいて しまう と したら、 アト には なにも のこらない よう な タンイツ な ヒビ だ けれども、 ――ワレワレ の ジンセイ なんぞ と いう もの は ヨウソテキ には じつは これ だけ なの だ、 そして、 こんな ささやか な もの だけ で ワタシタチ が これほど まで マンゾク して いられる の は、 ただ ワタシ が それ を この オンナ と ともに して いる から なの だ、 と いう こと を ワタシ は カクシン して いられた。
それら の ヒビ に おける ユイイツ の デキゴト と いえば、 カノジョ が ときおり ネツ を だす こと くらい だった。 それ は カノジョ の カラダ を じりじり おとろえさせて ゆく もの に ちがいなかった。 が、 ワタシタチ は そういう ヒ は、 イツモ と すこしも かわらない ニッカ の ミリョク を、 もっと サイシン に、 もっと カンマン に、 あたかも キンダン の カジツ の アジ を こっそり ぬすみ でも する よう に あじわおう と こころみた ので、 ワタシタチ の いくぶん シ の アジ の する セイ の コウフク は その とき は いっそう カンゼン に たもたれた ほど だった。
そんな ある ユウグレ、 ワタシ は バルコン から、 そして セツコ は ベッド の ウエ から、 おなじ よう に、 ムコウ の ヤマ の セ に はいって マ も ない ユウヒ を うけて、 その アタリ の ヤマ だの オカ だの マツバヤシ だの ヤマバタケ だの が、 なかば あざやか な アカネイロ を おびながら、 なかば まだ ふたしか な よう な ネズミイロ に じょじょ に おかされだして いる の を、 うっとり と して ながめて いた。 ときどき おもいだした よう に その モリ の ウエ へ コトリ たち が ホウブツセン を えがいて とびあがった。 ――ワタシ は、 このよう な ショカ の ユウグレ が ほんの イッシュンジ しょうじさせて いる イッタイ の ケシキ は、 スベテ は いつも みなれた ドウグダテ ながら、 おそらく イマ を おいて は これほど の あふれる よう な コウフク の カンジ を もって ワタシタチ ジシン に すら ながめえられない だろう こと を かんがえて いた。 そして ずっと アト に なって、 いつか この うつくしい ユウグレ が ワタシ の ココロ に よみがえって くる よう な こと が あったら、 ワタシ は これ に ワタシタチ の コウフク ソノモノ の カンゼン な エ を みいだす だろう と ゆめみて いた。
「ナニ を そんな に かんがえて いる の?」 ワタシ の ハイゴ から セツコ が とうとう クチ を きった。
「ワタシタチ が ずっと アト に なって ね、 イマ の ワタシタチ の セイカツ を おもいだす よう な こと が あったら、 それ が どんな に うつくしい だろう と おもって いた ん だ」
「ホントウ に そう かも しれない わね」 カノジョ は そう ワタシ に ドウイ する の が さも たのしい か の よう に おうじた。
それから また ワタシタチ は しばらく ムゴン の まま、 ふたたび おなじ フウケイ に みいって いた。 が、 その うち に ワタシ は フイ に なんだか、 こう やって うっとり と それ に みいって いる の が ジブン で ある よう な ジブン で ない よう な、 へんに ぼうばく と した、 トリトメ の ない、 そして それ が なんとなく くるしい よう な カンジ さえ して きた。 その とき ワタシ は ジブン の ハイゴ で ふかい イキ の よう な もの を きいた よう な キ が した。 が、 それ が また ジブン の だった よう な キ も された。 ワタシ は それ を たしかめ でも する よう に、 カノジョ の ほう を ふりむいた。
「そんな に イマ の……」 そういう ワタシ を じっと みかえしながら、 カノジョ は すこし しゃがれた コエ で いいかけた。 が、 それ を いいかけた なり、 すこし ためらって いた よう だった が、 それから キュウ に イマ まで とは ちがった うっちゃる よう な チョウシ で、 「そんな に いつまでも いきて いられたら いい わね」 と いいたした。
「また、 そんな こと を!」
ワタシ は いかにも じれったい よう に ちいさく さけんだ。
「ごめんなさい」 カノジョ は そう みじかく こたえながら ワタシ から カオ を そむけた。
イマシガタ まで の ナニ か ジブン にも ワケ の わからない よう な キブン が ワタシ には だんだん イッシュ の イラダタシサ に かわりだした よう に みえた。 ワタシ は それから もう イチド ヤマ の ほう へ メ を やった が、 その とき は すでに もう その フウケイ の ウエ に イッシュンカン しょうじて いた イヨウ な ウツクシサ は きえうせて いた。
その バン、 ワタシ が トナリ の ソクシツ へ ね に ゆこう と した とき、 カノジョ は ワタシ を よびとめた。
「サッキ は ごめんなさい ね」
「もう いい ん だよ」
「ワタシ ね、 あの とき ホカ の こと を いおう と して いた ん だ けれど…… つい、 あんな こと を いって しまった の」
「じゃ、 あの とき ナニ を いおう と した ん だい?」
「……アナタ は いつか シゼン なんぞ が ホントウ に うつくしい と おもえる の は しんで いこう と する モノ の メ に だけ だ と おっしゃった こと が ある でしょう。 ……ワタシ、 あの とき ね、 それ を おもいだした の。 なんだか あの とき の ウツクシサ が そんな ふう に おもわれて」 そう いいながら、 カノジョ は ワタシ の カオ を ナニ か うったえたい よう に みつめた。
その コトバ に ムネ を つかれ でも した よう に、 ワタシ は おもわず メ を ふせた。 その とき、 とつぜん、 ワタシ の アタマ の ナカ を ヒトツ の シソウ が よぎった。 そして サッキ から ワタシ を いらいら させて いた、 ナニ か ふたしか な よう な キブン が、 ようやく ワタシ の ウチ で はっきり と した もの に なりだした。…… 「そう だ、 オレ は どうして そいつ に キ が つかなかった の だろう? あの とき シゼン なんぞ を あんな に うつくしい と おもった の は オレ じゃ ない の だ。 それ は オレタチ だった の だ。 まあ いって みれば、 セツコ の タマシイ が オレ の メ を とおして、 そして ただ オレ の リュウギ で、 ゆめみて いた だけ なの だ。 ……それだのに、 セツコ が ジブン の サイゴ の シュンカン の こと を ゆめみて いる とも しらない で、 オレ は オレ で、 カッテ に オレタチ の ナガイキ した とき の こと なんぞ かんがえて いた なんて……」
いつしか そんな カンガエ を とつおいつ しだして いた ワタシ が、 やっと メ を あげる まで、 カノジョ は サッキ と おなじ よう に ワタシ を じっと みつめて いた。 ワタシ は その メ を さける よう な カッコウ を しながら、 カノジョ の ウエ に かがみかけて、 その ヒタイ に そっと セップン した。 ワタシ は ココロ から はずかしかった。……
⁂
とうとう マナツ に なった。 それ は ヘイチ で より も、 もっと モウレツ な くらい で あった。 ウラ の ゾウキバヤシ では、 ナニ か が もえだし でも した か の よう に、 セミ が ひねもす なきやまなかった。 ジュシ の ニオイ さえ、 あけはなした マド から ただよって きた。 ユウガタ に なる と、 コガイ で すこし でも ラク な コキュウ を する ため に、 バルコン まで ベッド を ひきださせる カンジャ たち が おおかった。 それら の カンジャ たち を みて、 ワタシタチ は はじめて、 コノゴロ にわか に サナトリウム の カンジャ たち の ふえだした こと を しった。 しかし、 ワタシタチ は あいかわらず ダレ にも かまわず に、 フタリ だけ の セイカツ を つづけて いた。
コノゴロ、 セツコ は アツサ の ため に すっかり ショクヨク を うしない、 ヨル など も よく ねられない こと が おおい らしかった。 ワタシ は、 カノジョ の ヒルネ を まもる ため に、 マエ より も いっそう、 ロウカ の アシオト や、 マド から とびこんで くる ハチ や アブ など に キ を くばりだした。 そして アツサ の ため に おもわず おおきく なる ワタシ ジシン の コキュウ にも キ を もんだり した。
そのよう に ビョウニン の マクラモト で、 イキ を つめながら、 カノジョ の ねむって いる の を みまもって いる の は、 ワタシ に とって も ヒトツ の ネムリ に ちかい もの だった。 ワタシ は カノジョ が ねむりながら コキュウ を はやく したり ゆるく したり する ヘンカ を くるしい ほど はっきり と かんじる の だった。 ワタシ は カノジョ と シンゾウ の コドウ を さえ ともに した。 ときどき かるい コキュウ コンナン が カノジョ を おそう らしかった。 そんな とき、 テ を すこし ケイレン させながら ノド の ところ まで もって いって それ を おさえる よう な テツキ を する、 ――ユメ に おそわれて でも いる の では ない か と おもって、 ワタシ が おこして やった もの か どう か と ためらって いる うち、 そんな くるしげ な ジョウタイ は やがて すぎ、 アト に シカン ジョウタイ が やって くる。 そう する と、 ワタシ も おもわず ほっと しながら、 イマ カノジョ の いきづいて いる しずか な コキュウ に ジブン まで が イッシュ の カイカン さえ おぼえる。 ――そうして カノジョ が メ を さます と、 ワタシ は そっと カノジョ の カミ に セップン を して やる。 カノジョ は まだ だるそう な メツキ で、 ワタシ を みる の だった。
「アナタ、 そこ に いた の?」
「ああ、 ボク も ここ で すこし うつらうつら して いた ん だ」
そんな バン など、 ジブン も いつまでも ねつかれず に いる よう な こと が ある と、 ワタシ は それ が クセ に でも なった よう に、 ジブン でも しらず に、 テ を ノド に ちかづけながら それ を おさえる よう な テツキ を まねたり して いる。 そして それ に キ が ついた アト で、 それから やっと ワタシ は ホントウ の コキュウ コンナン を かんじたり する。 が、 それ は ワタシ には むしろ こころよい もの で さえ あった。
「コノゴロ なんだか オカオイロ が わるい よう よ」 ある ヒ、 カノジョ は イツモ より しげしげ と みながら いう の だった。 「どうか なすった の じゃ ない?」
「なんでも ない よ」 そう いわれる の は ワタシ の キ に いった。 「ボク は いつだって こう じゃ ない か?」
「あんまり ビョウニン の ソバ に ばかり いない で、 すこし は サンポ くらい なすって いらっしゃらない?」
「この あつい のに、 サンポ なんか できる もん か。 ……ヨル は ヨル で、 マックラ だし さ。 ……それに マイニチ、 ビョウイン の ナカ を ずいぶん いったり きたり して いる ん だ から なあ」
ワタシ は そんな カイワ を それ イジョウ に すすめない ため に、 マイニチ ロウカ など で であったり する、 ホカ の カンジャ たち の ハナシ を もちだす の だった。 よく バルコン の フチ に ヒトカタマリ に なりながら、 ソラ を ケイバジョウ に、 うごいて いる クモ を いろいろ それ に にた ドウブツ に みたてあったり して いる ネンショウ の カンジャ たち の こと や、 いつも ツキソイ カンゴフ の ウデ に すがって、 アテ も なし に ロウカ を オウフク して いる、 ひどい シンケイ スイジャク の、 ブキミ な くらい セ の たかい カンジャ の こと など を はなして きかせたり した。 しかし、 ワタシ は まだ イチド も その カオ は みた こと が ない が、 いつも その ヘヤ の マエ を とおる たび ごと に、 キミ の わるい、 なんだか ぞっと する よう な セキ を ミミ に する レイ の ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ の こと だけ は、 つとめて さける よう に して いた。 おそらく それ が この サナリウム-ジュウ で、 いちばん ジュウショウ の カンジャ なの だろう と おもいながら。……
8 ガツ も ようやく スエ ちかく なった のに、 まだ ずっと ねぐるしい よう な バン が つづいて いた。 そんな ある バン、 ワタシタチ が なかなか ねつかれず に いる と、 (もう とっく に シュウミン ジカン の 9 ジ は すぎて いた。……) ずっと ムコウ の シタ の ビョウトウ が なんとなく そうぞうしく なりだした。 それに ときどき ロウカ を コバシリ に して ゆく よう な アシオト や、 おさえつけた よう な カンゴフ の ちいさな サケビ や、 キグ の するどく ぶつかる オト が まじった。 ワタシ は しばらく フアン そう に ミミ を かたむけて いた。 それ が やっと しずまった か と おもう と、 それ と そっくり な チンモク の ザワメキ が、 ほとんど ドウジ に、 あっち の ビョウトウ にも こっち の ビョウトウ にも おこりだした。 そして シマイ には ワタシタチ の すぐ シタ の ほう から も きこえて きた。
ワタシ は、 イマ、 サナトリウム の ナカ を アラシ の よう に あばれまわって いる もの の ナン で ある か ぐらい は しって いた。 ワタシ は その カン に ナンド も ミミ を そばだてて は、 サッキ から アカリ は けして ある ものの、 まだ おなじ よう に ねつかれず に いる らしい リンシツ の ビョウニン の ヨウス を うかがった。 ビョウニン は ネガエリ さえ うたず に、 じっと して いる らしかった。 ワタシ も いきぐるしい ほど じっと しながら、 そんな アラシ が ひとりでに おとろえて くる の を まちつづけて いた。
マヨナカ に なって から やっと それ が おとろえだす よう に みえた ので、 ワタシ は おもわず ほっと しながら すこし まどろみかけた が、 とつぜん、 リンシツ で ビョウニン が それまで ムリ に おさえつけて いた よう な シンケイテキ な セキ を フタツ ミッツ つよく した ので、 ふいと メ を さました。 そのまま すぐ その セキ は とまった よう だった が、 ワタシ は どうも キ に なって ならなかった ので、 そっと リンシツ に はいって いった。 マックラ な ナカ に、 ビョウニン は ヒトリ で おびえて でも いた よう に、 おおきく メ を みひらきながら、 ワタシ の ほう を みて いた。 ワタシ は なにも いわず に、 その ソバ に ちかづいた。
「まだ だいじょうぶ よ」
カノジョ は つとめて ビショウ を しながら、 ワタシ に きこえる か きこえない くらい の コゴエ で いった。 ワタシ は だまった まま、 ベッド の フチ に コシ を かけた。
「そこ に いて ちょうだい」
ビョウニン は イツモ に にず、 キヨワ そう に、 ワタシ に そう いった。 ワタシタチ は そうした まま まんじり とも しない で その ヨル を あかした。
そんな こと が あって から、 2~3 ニチ する と、 キュウ に ナツ が おとろえだした。
⁂
9 ガツ に なる と、 すこし アレモヨウ の アメ が ナンド と なく ふったり やんだり して いた が、 その うち に それ は ほとんど おやみなし に ふりつづきだした。 それ は キ の ハ を きばませる より サキ に、 それ を くさらせる か と みえた。 さしも の サナトリウム の ヘヤベヤ も、 マイニチ マド を しめきって、 うすぐらい ほど だった。 カゼ が ときどき ト を ばたつかせた。 そして ウラ の ゾウキバヤシ から、 タンチョウ な、 おもくるしい オト を ひきもぎった。 カゼ の ない ヒ は、 ワタシタチ は シュウジツ、 アメ が ヤネヅタイ に バルコン の ウエ に おちる の を きいて いた。 そんな アメ が やっと キリ に にだした ある ソウチョウ、 ワタシ は マド から、 バルコン の めんして いる ほそながい ナカニワ が いくぶん うすあかるく なって きた よう なの を ぼんやり と みおろして いた。 その とき、 ナカニワ の ムコウ の ほう から、 ヒトリ の カンゴフ が、 そんな キリ の よう な アメ の ナカ を そこここ に さきみだれて いる ノギク や コスモス を てあたりしだい に とりながら、 こっち へ むかって ちかづいて くる の が みえた。 ワタシ は それ が あの ダイ 17 ゴウ-シツ の ツキソイ カンゴフ で ある こと を みとめた。 「ああ、 あの いつも フカイ な セキ ばかり きいて いた カンジャ が しんだ の かも しれない なあ」 ふと そんな こと を おもいながら、 アメ に ぬれた まま なんだか コウフン した よう に なって まだ ハナ を とって いる その カンゴフ の スガタ を みつめて いる うち に、 ワタシ は キュウ に シンゾウ が しめつけられる よう な キ が しだした。 「やっぱり ここ で いちばん おもかった の は アイツ だった の かな? が、 アイツ が とうとう しんで しまった と する と、 コンド は?…… ああ、 あんな こと を インチョウ が いって くれなければ よかった ん だに……」
ワタシ は その カンゴフ が おおきな ハナタバ を かかえた まま バルコン の カゲ に かくれて しまって から も、 うつけた よう に マドガラス に カオ を くっつけて いた。
「ナニ を そんな に みて いらっしゃる の?」 ベッド から ビョウニン が ワタシ に とうた。
「こんな アメ の ナカ で、 サッキ から ハナ を とって いる カンゴフ が いる ん だ けれど、 あれ は ダレ だろう かしら?」
ワタシ は そう ヒトリゴト の よう に つぶやきながら、 やっと その マド から はなれた。
しかし、 その ヒ は とうとう イチニチジュウ、 ワタシ は なんだか ビョウニン の カオ を マトモ に みられず に いた。 なにもかも みぬいて いながら、 わざと しらぬ よう な ヨウス を して、 ときどき ワタシ の ほう を じっと ビョウニン が みて いる よう な キ さえ されて、 それ が ワタシ を いっそう くるしめた。 こんな ふう に おたがいに わかたれない フアン や キョウフ を いだきはじめて、 フタリ が フタリ で すこし ずつ ベツベツ に モノ を かんがえだす なんて いう こと は、 いけない こと だ と おもいかえして は、 ワタシ は はやく こんな デキゴト は わすれて しまおう と つとめながら、 また いつのまにやら その こと ばかり を アタマ に うかべて いた。 そして シマイ には、 ワタシタチ が この サナトリウム に はじめて ついた ユキ の ふる バン に ビョウニン が みた と いう ユメ、 ハジメ は それ を きくまい と しながら ついに うちまけて ビョウニン から それ を ききだして しまった あの フキツ な ユメ の こと まで、 イマ まで ずっと わすれて いた のに、 ひょっくり おもいうかべたり して いた。 ――その フシギ な ユメ の ナカ で、 ビョウニン は シガイ に なって カン の ナカ に ねて いた。 ヒトビト は その カン を にないながら、 どこ だ か しらない ノハラ を よこぎったり、 モリ の ナカ へ はいったり した。 もう しんで いる カノジョ は しかし、 カン の ナカ から、 すっかり ふゆがれた ノヅラ や、 くろい モミ の キ など を ありあり と みたり、 その ウエ を さびしく ふいて すぎる カゼ の オト を ミミ に きいたり して いた、 ……その ユメ から さめて から も、 カノジョ は ジブン の ミミ が とても つめたくて、 モミ の ザワメキ が まだ それ を みたして いる の を まざまざ と かんじて いた。……
そんな キリ の よう な アメ が なお スウジツ ふりつづいて いる うち に、 すでに もう ホカ の キセツ に なって いた。 サナトリウム の ナカ も、 キ が ついて みる と、 あれだけ タスウ に なって いた カンジャ たち も ヒトリ さり フタリ さり して、 その アト には この フユ を こちら で こさなければ ならない よう な おもい カンジャ たち ばかり が とりのこされ、 また、 ナツ の マエ の よう な サビシサ に かわりだして いた。 ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ の シ が それ を キュウ に めだたせた。
9 ガツ の スエ の ある アサ、 ワタシ が ロウカ の キタガワ の マド から なにげなし に ウラ の ゾウキバヤシ の ほう へ メ を やって みる と、 その きりぶかい ハヤシ の ナカ に いつ に なく ヒト が でたり はいったり して いる の が イヨウ に かんじられた。 カンゴフ たち に きいて みて も なにも しらない よう な ヨウス を して いた。 それっきり ワタシ も つい わすれて いた が、 ヨクジツ も また、 ソウチョウ から 2~3 ニン の ニンプ が きて、 その オカ の フチ に ある クリ の キ らしい もの を きりたおしはじめて いる の が キリ の ナカ に みえたり かくれたり して いた。
その ヒ、 ワタシ は カンジャ たち が まだ ダレ も しらず に いる らしい その ゼンジツ の デキゴト を、 ふとした こと から ききしった。 それ は なんでも、 レイ の キミ の わるい シンケイ スイジャク の カンジャ が その ハヤシ の ナカ で イシ して いた と いう ハナシ だった。 そう いえば、 どうか する と ヒ に ナンド も みかけた、 あの ツキソイ カンゴフ の ウデ に すがって ロウカ を いったり きたり して いた おおきな オトコ が、 キノウ から キュウ に スガタ を けして しまって いる こと に キ が ついた。
「あの オトコ の バン だった の か……」 ダイ 17 ゴウ-シツ の カンジャ が しんで から と いう もの すっかり シンケイシツ に なって いた ワタシ は、 それから まだ 1 シュウカン と たたない うち に ひきつづいて おこった そんな おもいがけない シ の ため に、 おもわず ほっと した よう な キモチ に なった。 そして それ は、 そんな インサン な シ から とうぜん ワタシ が うけた に ちがいない キミワルサ すら、 ワタシ には その ため に ほとんど かんぜられず に しまった と いって いい ほど で あった。
「こないだ しんだ ヤツ の ツギ くらい に わるい と いわれて いたって、 なにも しぬ と きまって いる ワケ の もの じゃ ない ん だ から なあ」 ワタシ は そう キガル そう に ジブン に むかって いって きかせたり した。
ウラ の ハヤシ の ナカ の クリ の キ が 2~3 ボン ばかり きりとられて、 なんだか マ の ぬけた よう に なって しまった アト は、 コンド は その オカ の フチ を、 ひきつづき ニンプ たち が きりくずしだし、 そこ から すこし キュウ な ケイシャ で さがって いる ビョウトウ の キタガワ に そった すこし ばかり の アキチ に その ツチ を はこんで は、 そこいら イッタイ を ゆるやか な ナゾエ に しはじめて いた。 ヒト は そこ を カダン に かえる シゴト に とりかかって いる の だ。