カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ビショウ 1

2020-11-22 | ヨコミツ リイチ
 ビショウ

 ヨコミツ リイチ

 ツギ の ニチヨウ には カイ へ いこう。 シンリョク は それ は うつくしい。 そんな カイワ が すれちがう コエ の ナカ から ふと きこえた。 そう だ。 もう シンリョク に なって いる と カジ は おもった。 キセツ を わすれる など と いう こと は、 ここ しばらく の カレ には ない こと だった。 サクヤ も ラジオ を きいて いる と、 マチ の タンボウ ホウソウ で、 ノウビョウイン から セイシンビョウ カンジャ との イチモン イットウ が きこえて きた。 そして、 オワリ に セイシンカ の イシャ の キシャ に いう には、
「まあ、 こんな カンジャ は、 イマ は めずらしい こと では ありません。 ニンゲン が 10 ニン あつまれば、 ヒトリ ぐらい は、 キョウジン が まじって いる と おもって も、 よろしい でしょう」
「そう する と、 イマ の ニホン には、 すこし おかしい の が、 500 マン-ニン ぐらい は いる と おもって も、 サシツカエ ありません ね、 あはははははは――」
 わらう コエ が うすきみわるく ヨル の トウカ の ソコ で ゆらめいて いた。 500 マン-ニン の キョウジン の ムレ が、 あるいは イマ イッセイ に こうして わらって いる の か しれない。 ジンジョウ では ない コエ だった。
「あははははは……」
 ながく オ を ひく この ワライゴエ を、 カジ は ジブン も しばらく キョウチュウ に えがいて みて いた。 すると、 しだいに あははは が げらげら に かわって きて、 ニンゲン の コエ では もう なかった。 ナニモノ か ニンゲン の ナカ に まじって いる コエ だった。
 ジブン を キョウジン と おもう こと は、 なかなか ヒト には これ は むずかしい こと で ある。 そう では ない と おもう より は、 むずかしい こと で ある と カジ は おもった。 それにしても、 イマ も カジ には わからぬ こと が ヒトツ あった。 ニンゲン は ダレ でも すこし は キョウジン を ジブン の ナカ に もって いる もの だ と いう メイゲン は、 わすれられない こと の ヒトツ だ が、 なかでも これ は、 かききえて いく オオク の キオク の ナカ で、 ますます センメイ に ふくれあがって くる イッシュ イヨウ な キオク で あった。
 それ も シンリョク の ふきでて きた バンシュン の ある ヒ の こと だ。
「シキシ を 1 マイ アナタ に かいて ほしい と いう セイネン が いる ん です が、 よろしければ、 ひとつ――」
 チジン の タカダ が カジ の ところ へ きて、 よく いわれる そんな チュウモン を カジ に だした。 べつに まれ な デキゴト では なかった が、 この とき に かぎって、 イツモ と ちがう トクベツ な キョウミ を おぼえて カジ は フデ を とった。 それ と いう の も、 まだ しらぬ その セイネン に ついて、 タカダ の セツメイ が イガイ な キョウミ を よびおこさせる もの だった から で ある。 セイネン は セイホウ と いって ハイゴウ を もちいて いる。 セイホウ は ハイジン の タカダ の デシ で、 まだ 21 サイ に なる テイダイ の ガクセイ で あった。 センコウ は スウガク で、 イジョウ な スウガク の テンサイ だ と いう セツメイ も あり、 ゲンザイ は ヨコスカ の カイグン へ ケンキュウセイ と して ひきぬかれて つめて いる と いう。
「もう シュウイ が カイグン の グンジン と ケンペイ ばかり で、 イキ が できない らしい の です よ。 だもんだから、 こっそり ぬけだして あそび に くる にも、 ハイゴウ で くる ので、 ホンミョウ は ダレ にも いえない の です。 まあ、 サイトウ と いって おきます が、 これ も カメイ です から、 その おつもり で」
 タカダ は そう カジ に いって から、 この セイホウ は、 トクシュ な ブキ の ハツメイ を 3 シュルイ も カンセイ させ、 イマ サイゴ の ヒトツ の、 これ さえ できれば、 ショウリ は ゼッタイテキ カクジツ だ と いわれる サクヒン の シアゲ に かかって いる、 とも いったり した。 このよう な ハナシ の シンジツセイ は、 カンカク の トクシュ に エイビン な タカダ と して も カクショウ の シヨウ も ない、 ただ ウワサ の テイド を ショウジキ に カジ に つたえて いる だけ で ある こと は わかって いた。 しかし、 センキョク は ゼンメンテキ に ニホン の ハイショク に かたむいて いる クウシュウ チョクゼン の、 シンリョク の コロ で ある。 ウワサ に して も、 ダレ も あかるい ウワサ に うえかつえて いる とき だった。 こまやか な ニンジョウカ の タカダ の ひきしまった ヨロコビ は、 もちろん カジ をも ゆりうごかした。
「どんな ブキ です かね」
「さあ、 それ は タイヘン な もの らしい の です が、 2~3 ニチ したら オタク へ ホンニン が うかがう と いって ました から、 その とき でも きいて ください」
「ナン だろう。 ウワサ の ゲンシ バクダン と いう やつ かな」
「そう でも ない らしい です。 なんでも、 すごい コウセン らしい ハナシ でした よ。 よく ワタシ も しりません が、――」
 まけかたむいて きて いる ダイシャメン を、 ふたたび ぐっと はねおきかえす ある ヒトツ の みえない チカラ、 と いう もの が、 もし ある の なら ダレ しも ほしかった。 しかし、 そういう もの の ヒトツ も みえない スイヘイセン の かなた に、 ぽっと さしあらわれて きた イチル の コウセン に にた ウスビカリ が、 あるいは それ か とも カジ は おもった。 それ は ユメ の よう な ゲンエイ と して も、 まけくるしむ ゲンエイ より よろこび かちたい ゲンエイ の ほう が キョウリョク に カジ を シハイ して いた。 ソコク ギリシャ の ハイセン の とき、 シラクサ の ジョウヘキ に せまる ローマ の ダイカンタイ を、 イカリ で つりあげ なげつける キジュウキ や、 テキ センタイ を やきつける カガミ の ハツメイ に ムチュウ に なった アルキメデス の スガタ を カジ は その セイネン セイホウ の スガタ に にせて クウソウ した。
「それ には また、 ものすごい セイネン が でて きた もの だなあ」 と カジ は いって カンタン した。
「それ も かわいい ところ の ある ヒト です よ。 ハツメイ は ヨナカ に する らしくて、 おおきな オト を たてる もの だ から、 どこ の ゲシュクヤ から も ほうりだされまして ね。 コンド の ゲシュク には ムスメ が いる から、 コンド だけ は よさそう だ、 なんて いって ました。 ガクイ ロンブン も とおった らしい です」
「じゃ、 21 サイ の ハカセ か。 そんな わかい ハカセ は はじめて でしょう」
「そんな こと も いって ました。 とおった ロンブン も、 アインシュタイン の ソウタイセイ ゲンリ の マチガイ を シテキ した もの だ と いって ました がね」
 イサイ の デシ の ノウリョク に タカダ も ケンソン した ヒョウジョウ で、 コチョウ を さけよう と つとめて いる クシン を カジ は かんじ、 まず そこ に シンヨウ が おかれた キモチ よい イチニチ と なって きた。
「ときどき は そんな ハナシ も なくて は こまる ね。 もう わるい こと ばかり だ から なあ。 たった 1 ニチ でも よい から、 アタマ の はれた ヒ が ほしい もの だ」
 カジ の ゲンエイ は ウタガイ なく そのよう な キモチ から しのびこみ、 ひろがりはじめた よう だった。 とにかく、 ソコク を ハイボウ から すくう かも しれない ヒトリ の キョジン が、 イマ、 カジ の シンペン に うろうろ しはじめた と いう こと は、 カレ の ショウガイ の ダイジケン だ と おもえば おもえた。 それ も、 イマ の タカダ の ハナシ ソノモノ だけ を ジジツ と して みれば、 キボウ と ゲンエイ は おなじ もの だった。
「しかし、 そんな セイネン が イマゴロ ボク の シキシ を ほしがる なんて、 おかしい ね。 そんな もの じゃ ない だろう」
 と カジ は いった。 そして、 そう おもい も した。
「けれども、 なんと いって も、 まだ コドモ です よ。 アナタ の シキシ を もらって くれ と いう の は、 なんでも スウガク を やる ユウジン の ナカ に、 アナタ の イエ の ヒョウサツ を ぬすんで もってる モノ が いる ので、 よし、 オレ は シキシ を もらって みせる と、 つい そう いって しまった らしい の です」
 カジ は 10 ネン も マエ、 ジタク の ヒョウサツ を かけて も かけて も はずされた コロ の ヒ の こと を おもいだした。 ながくて ヒョウサツ は ミッカ と もたなかった。 その ヒ の うち に とられた の も 2~3 あった。 ユウビン ハイタツ から は コゴト の クイヅメ に あった。 それから は かたく クギ で うちつけた が、 それでも モンピョウ は すぐ はがされた。 この ショウジケン は トウジ カジ イッカ の シンケイ を なやまして いた。 それだけ、 イマゴロ ヒョウサツ の カワリ に シキシ を ほしがる セイネン の タワムレ に ジッカン が こもり、 カジ には、 ヒトゴト では ない チョクセツテキ な ツナガリ を ミ に かんじた。 トウジ の ナヤミ の タネ が イガイ な ところ へ おちて いて、 いつのまにか そこ で ハ を のばして いた の で ある。 カレ は 1 ニチ も はやく セイホウ に あって みたく なった。 おそる べき セイネン たち の イッカイ を さしのぞいて、 カレラ の ナヤミ、 ――それ も ミナ スウガクシャ の サナギ が ハネ を のばす に ヒツヨウ な、 ナニ か くいちらす ハ の 1 マイ と なって いた ジブン の ヒョウサツ を おもう と、 サナギ の カオ の ナヤミ を みたかった。 そして、 カジ ジシン の ウレイ の イロ を それ と くらべて みる こと は、 うしなわれた モンピョウ の、 カレ を うつしかえして みせて くれる グウゼン の イギ でも あった。

 ある ヒ の ゴゴ、 カジ の イエ の モン から ゲンカン まで の イシダタミ が クツ を ひびかせて きた。 イシ に なる クツオト の カゲン で、 カジ は くる ヒト の ヨウケン の オヨソ の ハンテイ を つける クセ が あった。 イシ は イシ を あらわす、 と そんな ジョウダン を いう ほど まで に、 カレ は、 ナガネン の セイカツ の うち この イシ から サマザマ な オンキョウ の シュルイ を おしえられた が、 これ は まことに おそる べき イシダタミ の シンピ な ノウリョク だ と おもう よう に なって きた の も サイキン の こと で ある。 ナニ か そこ には デンジ サヨウ が おこなわれる もの らしい イシ の ナリカタ は、 その ヒ は、 イッシュ イヨウ な ヒビキ を カジ に つたえた。 ひどく カクチョウ の ある セイカク な ヒビキ で あった。 それ は フタリヅレ の オンキョウ で あった が、 ヨッツ の アシオト の ヒビキグアイ は ぴたり と あい、 みだれた フアン や カイギ の オモサ、 コドク な テイメイ の サマ など いつも ききつける アシオト とは ちがって いる。 ゼンシン に あふれた チカラ が みなぎりつつ、 チョウテン で カイテン して いる トウメイ な ヒビキ で あった。
 カジ は たった。 が、 また すぐ すわりなおし、 ゲンカン の ト を アケカゲン の オト を きいて いた。 この ト の オト と アシオト と イッチ して いない とき は、 カジ は ジブン から でて いかない シュウカン が あった から で ある。 まもなく ト が あけられた。
「ごめん ください」
 ハジメ から コエ まで キョウ の キャク は、 すべて イッカン した リズム が あった。 カジ が でて いって みる と、 そこ に タカダ が たって いて、 そして その アト に テイダイ の ガクボウ を かぶった セイネン が、 これ も タカダ と にた ビショウ を フタツ かさねて たって いた。
「どうぞ」
 とうとう モンピョウ が もどって きた。 どこ を イマ まで うろつきまわって きた もの やら、 と、 カジ は オウセツシツ で ある なつかしい アカルサ に みたされた キモチ で、 セイネン と むかいあった。 タカダ は カジ に セイホウ の ナ を いって ショタイメン の ショウカイ を した。
 ガクボウ を ぬいだ セイホウ は まだ ショウネン の オモカゲ を もって いた。 マチマチ の イチグウ を かけまわって いる、 いくら イタズラ を して も しかれない スミ を カオ に つけた ワンパク な ショウネン が いる もの だ が、 セイホウ は そんな ショウネン の スガタ を して いる。 コウガイ デンシャ の カイサツグチ で、 ジョウキャク を ほったらかし、 ハサミ を かちかち ならしながら ドウリョウ を おっかけまわして いる キップキリ、 と いった セイネン で あった。
「オハナシ を きく と マイニチ が タイヘン らしい よう です ね」
 まず そんな こと から カジ は いった。 セイホウ は だまった まま わらった。 ぱっ と オト たてて アサ ひらく ハナ の われさく よう な エガオ だった。 アカゴ が はじめて わらいだす エクボ の よう な、 きえやすい ワライ だ。 この ショウネン が ハカセ に なった とは、 どう おもって みて も カジ には うなずけない こと だった が、 エガオ に あらわれて かききえる シュンカン の ウツクシサ は、 その ホカ の ウタガイ など どうでも よく なる、 マネテ の ない ムジャキ な エガオ だった。 カジ は ガクモンジョウ の カレ の クルシミ や ハツメイ の シンク の コウテイ など、 セイホウ から ききだす キモチ は なくなった。 また、 そんな こと は たずねて も カジ には わかりそう にも おもえなかった。
「オクニ は どちら です」
「A ケン です」
 ぱっと わらう。
「ボク の カナイ も そちら には ちかい ほう です よ」
「どちら です」 と セイホウ は たずねた。
 T シ だ と カジ が こたえる と、 それでは Y オンセン の マツヤ を しって いる か と また セイホウ は たずねた。 しって いる ばかり では ない、 その ヤドヤ は カジ たち イッカ が いく たび に よく とまった ヤド で あった。 それ を いう と、 セイホウ は、
「あれ は オジ の ウチ です」
 と いって、 また ぱっと わらった。 チャ を いれて きた カジ の ツマ は、 セイホウ の オジ の マツヤ の ハナシ が でて から は たちまち フタリ は トクベツ に したしく なった。 その チホウ の こまかい ソウホウ の ワダイ が しばらく タカダ と カジ と を すてて にぎやか に なって いく うち に、 とうとう セイホウ は ジブン の こと を、 イナカ コトバ マルダシ で、 「オレ のう」 と カジ の ツマ に いいだしたり した。
「もう すぐ クウシュウ が はじまる そう です が、 こわい です わね」 と カジ の ツマ が いう と、 「1 キ も いれない」 と セイホウ は いって また ぱっと わらった。 このよう な ダンショウ の ハナシ と、 センジツ タカダ が きた とき の ハナシ と を ソウゴウ して みた カレ の ケイレキ は、 21 サイ の セイネン に して は フクザツ で あった。 チュウガク は シュセキ で ジュウドウ は ショダン、 スウガク の ケンテイ を 4 ネン の とき に とった カレ は、 すぐ また イチコウ の リカ に ニュウガク した。 2 ネン の とき スウガクジョウ の イケン の チガイ で キョウシ と あらそい タイコウ させられて から、 チョウヨウ で ラバァウル の ほう へ やられた。 そして、 ふたたび かえって テイダイ に ニュウガク した が、 この ニュウガク には カレ の サイノウ を おしんだ ある ユウリョクシャ の チカラ が はたらいて いた よう だった。 この カン、 セイホウ の カテイジョウ には この ワカモノ を なやまして いる ヒトツ の ヒゲキ が あった。 それ は、 ハハ の ジッカ が ダイダイ の キンノウカ で ある ところ へ、 チチ が サヨク で ゴク に はいった ため、 セキ もろとも ジッカ の ほう が セイホウ ハハコ フタリ を うばいかえして しまった こと で ある。 フボ の わかれて いる こと は たちがたい セイホウ の ひそか な ナヤミ で あった。 しかし、 カジ は この セイホウ の カテイジョウ の ナヤミ には ワダイ を ふれさせたく は なかった。 キンノウ と サヨク の アラソイ は、 ニホン の チュウシン モンダイ で、 ふれれば、 たちまち ものぐるわしい ウズマキ に まきおそわれる から で ある。 それ は スウガク の ハイチュウリツ に にた カイケツ コンナン な モンダイ だった。 セイホウ は、 その チュウシン の カチュウ に ミ を ひそめて コキュウ を して きた の で あって みれば、 チチ と ハハ との アラソイ の どちら に オモイ を めぐらせる べき か、 と いう あいはんする フボ フタツ の シソウ タイケイ に もみぬかれた、 カレ の わかわかしい セイシン の クルシミ は、 ソウゾウ に かたく ない。 ドウイツ の モンダイ に シンリ が フタツ あり、 イッポウ を シンリ と すれば タ の ほう が あやしく くずれ、 フタツ を ドウジ に シンリ と すれば、 ドウジ に フタツ が ウソ と なる。 そして、 この フタツ の チュウカン の シンリ と いう もの は ありえない と いう スウガクジョウ の ハイチュウリツ の クルシミ は、 セイホウ に とって は、 チチ と ハハ と コ との アイダ の モンダイ に かわって いた。
 しかし、 キンノウ と サヨク の こと は ベツ に して も、 ヒト の アタマ を つらぬく ハイチュウリツ の ふくんだ この カクリツ だけ は、 ただ たんに セイホウ ヒトリ に とって の モンダイ でも ない。 じつは、 チジョウ で あらそう モノ の、 ダレ の ズジョウ にも ふりかかって きて いる セイシン に かんした モンダイ で あった。 これ から アタマ を そらし、 そしらぬ ヒョウジョウ を とる こと は、 ようするに、 それ は スベテ が ニセモノ たる べき ソシツ を もつ こと を ショウメイ して いる が ごとき もの だった。 じつに しずしず と した ウツクシサ で、 そして、 いつのまにか スベテ を ずりおとして さって いく、 おそる べき マ の よう な ナンダイ-チュウ の この ナンダイ を、 カジ とて イマ、 この わかい セイホウ の アタマ に つめより うちおろす こと は しのびなかった。 いや、 カジ ジシン と して みて も ジブン の アタマ を うちわる こと だ。 いや、 セカイ も また―― しかし、 げんに セカイ は ある の だ。 そして、 あらそって いる の だった。 シンリ は どこ か に なければ ならぬ はず にも かかわらず、 アラソイ だけ が シンリ の ソウボウ を ていして いる と いう ときがたい ナゾ の ナカ で、 クンレン を もった ボウリョク が、 ただ その クンレン の ため に カガヤキ を はなって ハクネツ して いる。
「いったい、 それ は、 メ に する スベテ が ユウレイ だ と いう こと か。 ――テ に ふれる カンカク まで も、 これ は ユウレイ では ない と どうして それ を ショウメイ する こと が できる の だ」
 ときには、 きりおとされた クビ が、 ただ そのまま ひっついて いる だけ で、 しらず に うごいて いる ニンゲン の よう な、 こんな あやしげ な ゲンエイ も、 カジ には うかんで くる こと が あったり した。 ワレ ある に あらざれど、 この イタミ どこ より きたる か。 コジン の なやんだ こんな ナヤマシサ も、 10 スウネン-ライ まだ カジ から とりさられて いなかった。 そして、 センソウ が ハイボク に おわろう と、 ショウリ に なろう と、 ドウヨウ に つづいて かわらぬ ハイチュウリツ の うみつづけて いく ナンモン たる こと に カワリ は ない。
「アナタ の コウセン は、 イリョク は どれほど の もの です か」
 カジ が セイホウ に たずねて みよう か と おもった の も、 ナニ か この とき、 ふと キガカリ な こと が あって、 おもいとまった。
「ドイツ の つかいはじめた V 1 ゴウ と いう の も、 ハジメ は ショウネン が ハツメイ した とか いう こと です ね。 なんでも ボク の きいた ところ では、 セカイ の スウガクカイ の ジツリョク は、 ネンレイ が 20 サイ から 23~24 サイ まで の セイネン が にぎって いて、 それ も、 ハントシ ごと に チュウシン の ジツリョク が ツギ の もの に かわって いく、 と いう ハナシ を、 ある スウガクシャ から きいた こと が あります が、 ニホン の スウガク も、 ジッサイ は そんな ところ に あります かね。 どう です」
 キミ ジシン が イマ それ か、 と あんに たずねた つもり の カジ の シツモン に、 セイホウ は、 ぱっと ひらく ビショウ で だまって こたえた だけ だった。 カジ は また すぐ、 シン ブキ の こと に ついて ききたい ユウワク を かんじた が、 コッカ の ヒミツ に セイホウ を さそいこみ、 クチ を わらせて カレ を キケン に さらす こと は、 あくまで さけて とおらねば ならぬ。 せまい カンドウ を くぐる オモイ で、 カジ は シツモン の クチ を さがしつづけた。
「ハイク は ふるく から です か」
 これ なら ブジ だ、 と おもわれる アンゼン な ミチ が、 とつぜん フタリ の マエ に ひらけて きた。
「いえ、 サイキン です」
「すき なん です ね」
「オレ のう、 アタマ の やすまる ホウ は ない もの か と、 いつも かんがえて いた とき です が、 タカダ さん の ハイク を ある ザッシ で みつけて、 さっそく ニュウモン した の です。 もう ボク を たすけて くれて いる の は、 ハイク だけ です。 ホカ の こと は、 ナニ を して も くるしめる ばかり です ね。 もう、 ほっと して」
 アオバ に さしこもって いる ヒカリ を みながら、 やすらか に わらって いる セイホウ の マエ で、 カジ は、 もう この セイネン に ジュウヨウ な こと は なにひとつ きけない の だ と おもった。 ウゾウ ムゾウ の ダイグンシュウ を いかす か ころす か カレ ヒトリ の アタマ に かかって いる。 これ は ガンゼン の ジジツ で あろう か、 ユメ で あろう か。 とにかく、 コト は あまり に ジュウダイ-すぎて ソウゾウ に ともなう ジッカン が カジ には おこらなかった。
「しかし、 キミ が そうして ジユウ に ガイシュツ できる ところ を みる と、 まだ カンシ は それほど きびしく ない の です ね」 と カジ は たずねた。
「きびしい です よ。 ハイク の こと で でる と いう とき だけ、 キョカ して くれる の です。 ゲシュクヤ ゼンブ の ヘヤ が ケンペイ ばかり で、 ぐるり と ボク ヒトリ の ヘヤ を とりかこんで いる もの です から、 カッテ な こと の できる の は、 ハイク だけ です。 もう たまらない。 キョウ も ケンペイ が ついて きた の です が、 クカイ が ある から と いって、 シナガワ で まいちゃいました」
 かえって から ケンペイ への コウジツ と なる シキシ の ヒツヨウ な こと も、 それ で わかった。 カジ は、 ジブン の シキシ が セイホウ の キケン を すくう だけ、 ジブン へ ギワク の かかる の も かんじた が、 モンピョウ に つながる エン も あって カレ は セイホウ に シキシ を かいた。
「カガクジョウ の こと は よく ボク には わからなくて、 ザンネン だ が、 イマ は ヒミツ の ウバイアイ だ から、 キミ も ソウトウ に あぶない です ね、 キ を つけなくちゃ」
「そう です。 センジツ も ユウシュウ な ギシ が ピストル で やられました。 それ は ユウシュウ な ヒト でした がね。 イチド ヨコスカ へ きて みて ください。 ボクラ の コウジョウ を おみせ します から」
「いや、 そんな ところ を みせて もらって も、 ボク には わからない し、 しらない ほう が いい です よ。 アナタ に これ で おたずね したい こと が たくさん ある が、 もう ゼンブ ヤメ です。 それ より、 アインシュタイン の マチガイ って、 それ は ナン です か」
「あれ は カセツ が まちがって いる の です よ。 カセツ から カセツ へ わたって いる の が アインシュタイン の ゲンリ です から、 サイショ の カセツ を たたいて みたら、 ホカ が みな ゆるんで しまって――」
 クウチュウ ロウカク を えがく ユメ は アインシュタイン とて もった で あろう が、 イマ それ が、 この セイホウ の ケンエツ に あって ソセキ を くつがえされて いる とは、 これ も あまり に ダイジケン で ある。 カジ には もはや ハナシ が つづかなかった。 セイホウ を キョウジン と みる には、 まだ セイホウ の オウトウ の どこ ヒトツ にも クルイ は なかった。
「キミ の スウガク は ドクソウ ばかり の よう な カンジ が する が、 キミ は ゼロ の カンネン を どんな ふう に おもう ん です。 キミ の スウガク では。 ボク は ゼロ が カンジン だ と おもう ん だ が、 どう です か」
「そこ です よ」 セイホウ は ひどく のりだす ふう に ハヤクチ に なって わらった。 「オレ の は、 みんな そこ から です。 ダレヒトリ わかって くれない。 コノアイダ も、 それ で ケンカ を した の です が、 ニホン の グンカン も フネ も、 みな まちがって いる の です。 センタイ の ケイサン に ゴサン が ある ので、 オレ は それ を なおして みた の です が、 オレ の いう よう に すれば、 6 ノット ソクリョク が はやく なる、 そう いくら いって も、 ダレ も きいて は くれない の です よ。 あの センタイ の マガリグアイ の ところ です。 そこ の ゼロ の オキドコロ が まちがって いる の です」
 ダレ も ハンテイ の つきかねる ところ で、 セイホウ は ただ ヒトリ コドク な タタカイ を つづけて いる よう だった。 ことに、 レイテン の オキドコロ を カイカク する と いう よう な、 いわば、 キセイ の カセツ や タンイツセイ を マッサツ して いく ムボウサ には、 いまさら ダレ も おうじる わけ には いくまい と おもわれる。 しかし、 すでに、 それ だけ でも セイホウ の ハッソウ には テンサイ の シカク が あった。 21 サイ の セイネン で、 ゼロ の オキドコロ に イシキ を さしいれた と いう こと は、 あらゆる キセイ の カンネン に ギモン を いだいた ショウコ で あった。 おそらく、 カレ を みとめる モノ は いなかろう と カジ は おもった。
「とおる こと が あります か。 アナタ の シュチョウ は」 と カジ は たずねた。
「なかなか とおりません ね。 それでも、 フネ の こと は とうとう かって とおりました。 ガクシャ は ミンナ ボク を やっつける ん だ けれども、 オレ は、 ショウメイ して みせて いう ん です から、 シカタ が ない でしょう。 これから の フネ は ソクド が はやく なります よ」
 どうでも よい こと ばかり ウンシュウ して いる ヨノナカ で、 これ だけ は と おもう イッテン を、 さしうごかして シンコウ して いる するどい ズノウ の マエ で、 オトナ たち の えいえい と した まぬけた ムダ-ボネオリ が、 ヤマ の よう に カジ には みえた。
「イッペン コウジョウ を み に きて ください。 ゴアンナイ します から。 おもしろい です よ。 ハイク の センセイ が きた ん だ から と いえば、 キョカ して くれます」 セイホウ は、 カジ が ブキ に かんする シツモン を しない の が フフク らしく、 カジ の だまって いる ヒョウジョウ に チュウイ して いった。
「いや、 それ だけ は みたく ない なあ」 と カジ は コタエ を しぶった。
 セイホウ は いっそう フマン-らしく だまって いた。 ゼンゴ を つうじて セイホウ が カジ に フマン な ヒョウジョウ を しめした の は、 この とき だけ だった。
「そんな ところ を みせて もらって も、 ボク には なんの エキ にも ならん から ね。 みたって わからない ん だ もの」
 これ は すこし ザンコク だ と カジ は おもい も した。 しかし、 カジ には、 モノ の コンテイ を うごかしつづけて いる セイホウ の セカイ に たいする、 いいがたい クツウ を かんじた から で ある。 この カジ の イッシュン の カンジョウ には、 キド アイラク の スベテ が こもって いた よう だった。 べんべん と して なす ところ なき カジ ジシン の ムリョクサ に たいする ケンオ や、 セイホウ の セカイ に はむかう テキイ や、 サツジンキ の セイゾウ を モクゲキ する サビシサ や、 ショウリ への ヨソウ に コウフン する ヒロウ や、 ――いや、 みない に こした こと は ない、 と カジ は おもった。 そして、 セイホウ の いう まま には うごけぬ ジブン の シット が さびしかった。 なんとなく、 カジ は セイホウ の ドリョク の スベテ を ヒテイ して いる ジブン の タイド が さびしかった。
「キミ、 ハイチュウリツ を どう おもいます かね、 ボク の シゴト で、 イマ これ が いちばん モンダイ なん だ が」
 カジ は、 とうまい と おもって いた こと も、 つい こんな に、 ワダイ を そらせたく なって カレ を みた。 すると、 セイホウ は、 「あっ」 と コゴエ の サケビ を あげて、 ゼンポウ の タナ の ウエ に カイテン して いる センプウキ を ゆびさした。
「レイテン 5 だっ」
 ひらめく よう な セイホウ の コタエ は、 もちろん、 この とき カジ には わからなかった。 しかし、 カジ は、 ききかえす こと は しなかった。 その シュンカン の セイホウ の ドウサ は、 たしか に ナニ か に オドロキ を かんじた らしかった が、 そっと そのまま カジ は セイホウ を そこ に しずめて おきたかった。
「あの センプウキ の チュウシン は ゼロ でしょう。 ナカ の ハネ は まわって いて みえません が、 ちょっと メ を はずして みた シュンカン だけ、 ちらり と みえます ね。 あの ゼロ から、 みえる ところ まで の キョリ の リツ です よ」
 カン ハツ を いれぬ セイホウ の セツメイ は、 カジ の シツモン の ツボ には おちこんで は こなかった が、 いきなり、 カイテン して いる ガンゼン の センプウキ を ひっつかんで、 なげつけた よう な この セイホウ の ハヤワザ には、 カジ も ミ を ひるがえす スベ が なかった。
「その テ で キミ は ハツメイ を する ん だな」
「オレ のう、 マチ を あるいて いる と、 イシ に つまずいて ぶったおれた ん です。 そしたら、 ヨコ を とおって いた デンシャ の シタッパラ から、 ヒ の ふいてる の が みえた ん です よ。 それから、 ウチ へ かえって、 ラジオ を つけよう と おもって、 スイッチ を ひねった ところ が、 ぼっ と なって、 そのまま なんの オト も きこえない ん です。 それで、 デンシャ の ヒ と、 ラジオ の ぼっ と いった だけ の オト と を むすびつけて みて、 かんがえだした の です よ。 それ が ボク の コウセン です」
 この ハッソウ も ヒボン だった。 しかし、 カジ は そこ で、 いそいで セイホウ の クチ を しめさせたかった。 それ イジョウ の ハツゲン は セイホウ の イノチ に かかわる こと で ある。 セイネン は キケン の ゲンカイ を しらぬ もの だ。 セイホウ も カジ の しらぬ ところ で、 その ゲンカイ を ふみぬいて いる ヨウス が あった が、 チュウイ する には はや おそすぎる ウタガイ も カジ には おこった。
「たおれた の が ハッソウ か。 たおれなかったら、 なんにも ない わけ だな」
 これ も スベテ が ゼロ から だ と カジ は おもって いった。 カレ は セイホウ が キノドク で たまらなかった。

 その ヒ から カジ は セイホウ の コウセン が キ に かかった。 それにしても、 カレ の いった こと が ジジツ だ と すれば、 セイホウ の イノチ は フウゼン の トモシビ だ と カジ は おもった。 いったい、 どこ か ヒトツ と して キケン で ない ところ が ある だろう か、 カジ は そんな に ハンタイ の アンゼンリツ の メン から さがして みた。 たえず スキマ を ねらう キョウキ の ムレ や、 シッシ チュウショウ の おこす ホノオ は ナニ を たくらむ か しれた もの でも ない。 もし センソウ が まけた と すれば、 その ヒ の うち に ジュウサツ される こと も ヒツジョウ で ある。 もし かった と して も、 ヨウ が すめば、 そんな キケン な ジンブツ を ヒト は いかして おく もの だろう か。 いや、 あぶない。 と カジ は また おもった。 この キケン から ミ を ふせぐ ため には、 ――カジ は その ホウホウ をも かんがえて みた が、 スベテ の ニンゲン を ゼンニン と かいさぬ かぎり、 なにも なかった。
 しかし、 このよう な あんたん と した クウキ に かかわらず、 セイホウ の エガオ を おもいだす と、 ヒカリ が ぽっと さしひらいて いる よう で あかるかった。 カレ の ヒョウジョウ の どこ イッテン にも ウレイ の カゲ は なかった。 ナニモノ か みえない もの に シュゴ されて いる トウトサ が あふれて いた。
 ある ヒ、 また セイホウ は タカダ と イッショ に カジ の イエ へ たずねて きた。 この ヒ は しろい カイグン チュウイ の フクソウ で タンケン を つけて いる カレ の スガタ は、 マエ より いくらか オトナ に みえた が、 それでも チュウイ の ケンショウ は まだ セイホウ に にあって は いなかった。
「キミ は イマ まで、 あぶない こと が たびたび あった でしょう。 たとえば、 イマ おもって も ぞっと する と いう よう な こと で、 ウン よく イノチ が たすかった と いう よう な こと です がね」 と、 カジ は、 あの オモワク から ハナシナカバ に セイホウ に たずねて みた。
「それ は もう、 ずいぶん ありました。 サイショ に カイグン の ケンキュウジョ へ つれられて きた その ヒ にも、 ありました」
 セイホウ は そう こたえて その ヒ の こと を てみじか に はなした。 ケンキュウジョ へ つく なり セイホウ は あたらしい セントウキ の シケン ヒコウ に のせられ、 キュウチョッカ する その トチュウ で、 キ の セイノウ ケイサン を めいぜられた こと が あった。 すると、 キュウ に その とき フクツウ が おこり、 どうしても キョウ だけ は ゆるして もらいたい と セイホウ は タンガン した。 グン では ジジツ を ヘンコウ する こと は できない。 そこで、 その ヒ は セイホウ を のぞいた モノ だけ で シケン ヒコウ を ジッコウ した。 みて いる と、 オオゾラ から キュウコウカ バクゲキ で スイチョク に くだって きた シン ヒコウキ は、 セイホウ の ガンゼン で、 クウチュウ ブンカイ を し、 ずぼり と カイチュウ へ つきこんだ そのまま、 ことごとく しんで しまった。
 また ベツ の ハナシ で、 ラバァウル へ いく ヒコウチュウ、 ソウジュウセキ から サンドウィッチ を さしだして くれた とき の こと、 セイホウ は ミ を ナナメ に かたむけて テ を のばした その シュンカン、 テキダン が とんで きた。 そして、 カレ に あたらず、 ウシロ の モノ が ムネ を うちつらぬかれて ソクシ した。
 また ベツ の ダイサン の グウゼンジ、 これ は いちばん セイホウ-らしく カジ には キョウミ が あった が、 ――ショウネン の ヒ の こと、 まだ セイホウ は ショウガッコウ の セイト で、 アサ ガッコウ へ いく トチュウ、 その ヒ は ハハ が セイホウ と イッショ で あった。 ユキ の ふかく ふりつもって いる ミチ を あるいて いる とき、 1 ワ の コトリ が とんで きて カレ の シュウイ を まいあるいた。 ショウネン の セイホウ は それ が おもしろかった。 リョウテ で コトリ を つかもう と して おっかける たび に、 コトリ は ミ を ひるがえして、 いつまでも とびまわった。
「オレ のう、 もう つかまる か、 もう つかまる か と おもって、 リョウテ で トリ を おさえる と、 ひょいひょい と、 うまい グアイ に トリ は にげる ん です。 それで、 とうとう ガッコウ が おくれて、 ついて みたら、 オオユキ を かぶった オレ の キョウシツ は、 ナダレ で ぺちゃんこ に つぶれて、 ナカ の セイト は ミナ しんで いました。 もうすこし ボク が はやかったら、 ボク も イッショ でした」
 セイホウ は アト で ハハ に その コトリ の ハナシ を する と、 そんな トリ なんか どこ にも いなかった と ハハ は いった そう で ある。 カジ は きいて いて、 この セイホウ の サイゴ の ハナシ は たとい ツクリバナシ と して も、 すっきり ぬけあがった カサク だ と おもった。
「トリ とんで トリ に にたり、 と いう シ が ドウゲン に ある が、 キミ の ハナシ も ドウゲン に にて ます ね」
 カジ は アンシン した キモチ で そんな ジョウダン を いったり した。 ニシビ の さしこみはじめた マド の ソト で、 1 マイ の モクセイ の スダレ が たれて いた。 セイホウ は それ を みながら、
「センジツ オタク から かえって から、 どうしても ねむれない の です よ。 あの スダレ が メ に ついて」 と いって、 なお カレ は マド の ソト を みつづけた。 「ボク は あの スダレ の ヨコイタ が イクツ あった か わすれた ので、 それ を おもいだそう と して も、 いくら かんがえて も わからない の です よ。 もう キ が くるいそう に なりました が、 とうとう わかった。 やっぱり あってた。 22 マイ だ」 セイホウ は うれしそう に エガオ だった。
「そんな こと に キ が つきだしちゃ、 そりゃ、 たまらない なあ」 ヒトリ いる とき の セイホウ の クツウ は、 もう ジブン には わからぬ もの だ と カジ は おもって いった。
「ユメ の ナカ で スウガク の モンダイ を とく と いう よう な こと は、 よく ある ん でしょう ね。 センジツ も クロネッカー と いう スウガクシャ が ユメ の ナカ で かんがえついた と いう、 セイシュン の ロンリ とか いう テイリ の ハナシ を きいた が、――」
「もう しょっちゅう です。 コノアイダ も アサ おきて みたら、 ツクエ の ウエ に むつかしい ケイサン が いっぱい かいて ある ので、 ゲシュク の バアサン に これ ダレ が かいた ん だ と きいたら、 アナタ が ユウベ かいてた じゃ ありません か と いう ん です。 ボク は ちっとも しらない ん です がね」
「じゃ、 キチガイ アツカイ に される でしょう」
「どうも、 そう おもってる らしい です よ」 セイホウ は また メ を あげて、 ぱっと わらった。
 それでは キョウ は セイホウ の キュウジツ に しよう と いう こと に なって、 それから カジ たち 3 ニン は ク を つくった。 アオバ の イロ の にじむ ほう に カオ を むけた セイホウ は、 「わが カゲ を おいゆく トリ や ヤマナナメ」 と いう キカガクテキ な ムキ の ク を すぐ つくった。 そして、 ハヤマ の ヤマ の シャメン に トリ の せまって いった 4 ガツ の ショクモク だ と セツメイ した。 タカダ の するどく ひかる マナザシ が、 この ヒ も デシ を マエ へ おしだす ケンヨク な タイド で、 クカイ の バカズ を ふんだ カレ の ココロヅカイ も よく うかがわれた。
「ミタビ チャ を いただく キク の カオリ かな」
 タカダ の つくった この ク も、 キャクジン の コフウ に たかまる カンジョウ を しめおさえた セイシュウ な キブン が あった。 カジ は よい ヒ の ゴゴ だ と よろこんだ。 でて きた カジ の ツマ も タベモノ の なくなった ヒ の ワビ を いって から、 キュウリモミ を だした。 セイホウ は、 カジ の ツマ と チホウ の コトバ で はなす の が、 ナニ より なぐさまる ふう らしかった。 そして、 さっそく シキシ へ、
「ホウゲン の ナマリ なつかし キュウリモミ」 と いう ク を かきつけたり した。

 セイホウ たち が かえって いって から 10 スウニチ たった ある ヒ、 また タカダ ヒトリ が カジ の ところ へ きた。 この ヒ の タカダ は しおれて いた。 そして、 カジ に、 キノウ ケンペイ が きて いう には、 セイホウ は ハッキョウ して いる から カレ の いいふらして あるく こと イッサイ を シンヨウ しない で くれ と、 そんな チュウイ を あたえて かえった と いう こと だった。
「それで、 セイホウ の あるいた ところ へは、 ミナ に そう いう よう、 と いう ハナシ でした から、 オタク へも ちょっと その こと を おつたえ したい と おもいまして ね」
 イチゲキ を くらった カンジ で カジ は タカダ と イッショ に しばらく しずんだ。 みな セイホウ の いった こと は ウソ だった の だろう か。 それとも、 ――カレ を キョウジン に して おかねば ならぬ ケンペイ たち の サクリャク の クシン は、 セイホウ の ため かも しれない とも おもった。
「キミ、 あの セイネン を ボクラ も キョウジン と して おこう じゃ ない です か。 その ほう が ホンニン の ため には いい」 と カジ は いった。
「そう です ね」 タカダ は たれさがって いく よう な ゲンキ の うせた コエ を だした。
「そう しとこう。 その ほう が いい よ」
 タカダ は セイホウ を ショウカイ した セキニン を かんじて わびる ふう に、 カジ に ついて あがって は こなかった。 カジ も、 ともすると しずもう と する ジブン が あやしまれて くる の だった。
「だって キミ、 あの セイネン は キョウジン に みえる よ。 また そう かも しれない が、 とにかく、 もし キョウジン に みえなかった なら、 セイホウ クン は あぶない よ。 あるいは そう みえる よう に、 ボク なら する かも しれない ね。 キミ だって そう でしょう」
「そう です ね。 でも、 なんだか、 みな あれ は、 カガクシャ の ユメ なん じゃ ない か と おもいます よ」 タカダ は あくまで よろこぶ ヨウス も なく、 その ヒ は イチニチ おもく だまりとおした。
 タカダ が かえって から も、 カジ は、 イマ まで ジジツ ムコン の こと を しんじて いた の は、 タカダ を シンヨウ して いた ケッカ タダイ だ と おもった が、 それにしても、 カジ、 タカダ、 ケンペイ たち、 それぞれ 3 ヨウ の シタイ で セイホウ を みて いる の は、 ミッツ の ゼロ の オキドコロ を たがえて いる カンサツ の よう だった。
 イッサイ が クウキョ だった。 そう おもう と、 にわか に、 そのよう に みえて くる むなしかった 1 カゲツ の キンチョウ の とけくずれた ケダルサ で、 いつか カレ は ソラ を みあげて いた。
 ザンネン でも あり、 ほっと した アンシン も あり、 すべりおちて いく クラサ も あった。 アス から また こうして タヨリ も ない ヒ を むかえねば ならぬ―― しかし、 ふと、 どうして こんな とき ヒト は ソラ を みあげる もの だろう か、 と カジ は おもった。 それ は セイリテキ に じつに シゼン に ソラ を みあげて いる の だった。 まるい、 なにも ない、 ふかぶか と した ソラ を。――
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ビショウ 2

2020-11-07 | ヨコミツ リイチ
 タカダ の きた ヒ から フツカ-メ に、 セイホウ から カジ へ テガミ が きた。 それ には、 ただいま テンノウ ヘイカ から ハイエツ の ゴサタ が あって サンダイ して きました ばかり です。 ナミダ が ながれて ワタシ は なにも もうしあげられません でした が、 ワタシ に かわって トウダイ ソウチョウ が みな おこたえ して くださいました。 キンジツチュウ ゴホウコク に ぜひ おうかがい したい と おもって おります。 と それ だけ かいて あった。 セイホウ の こと は とうぶん わすれて いたい と おもって いた オリ、 カジ は たしょう この セイホウ の テガミ に ウシロ へ もどる ワズラワシサ を かんじ、 いそがしそう な カレ の ジタイ を ながめて いた。 すると、 その ヨクジツ セイホウ は ヒトリ で カジ の ところ へ きた。
「サンダイ した ん です か」
「ええ、 なにも おこたえ できない ん です よ。 コトバ が でて こない の です。 イチド ボク の ソバ まで こられて、 それから ジブン の オセキ へ もどられました が、 アシカズ だけ かぞえて います と、 11 ポ でした。 5 メータ です。 そう する と、 ミス が さがりまして、 その ムコウ から ゴシツモン に なる の です」
 ぱっと イツモ の うつくしい ビショウ が ひらいた。 この セイホウ の ムジャキ な ビショウ に あう と、 カジ は ホカ の イッサイ の こと など どうでも よく なる の だった。 セイホウ の コウイ や シゴト や、 また、 カレ が キョウジン で あろう と ニセモノ で あろう と、 そんな こと より、 セイホウ の ホオ に うかぶ ツギ の ビショウ を カジ は まちのぞむ キモチ で ハナシ を すすめた。 ナニ より その ビショウ だけ を みたかった。
「ヘイカ は キミ の ナ を なんと および に なる の」
「チュウイ は、 と おっしゃいました よ。 それから おって サタ する、 と サイゴ に おっしゃいました。 オレ のう、 もう アタマ が ぼっと して きて、 キチガイ に なる ん じゃ ない か と おもいました よ。 どうも、 あれ から ちょっと おかしい です よ」
 セイホウ は メ を ぱちぱち させ、 いう こと を きかなく なった ジブン の アタマ を なでながら、 フシギ そう に いった。
「それ は おめでたい こと だった な。 ヨウジン を しない と、 キチガイ に なる かも しれない ね」
 カジ は そう いう ジブン が セイホウ を キョウジン と おもって はなして いる の か どう か、 それ が どうにも わからなかった。 すべて シンジツ だ と おもえば シンジツ で あった。 ウソ だ と おもえば また ことごとく ウソ に みえた。 そして、 この あやしむ べき こと が なんの あやしむ べき こと でも ない、 さっぱり した この バ の ただ ヒトツ の シンジツ だった。 ハイチュウリツ の マッタダナカ に うかんだ、 ただ ヒトツ の チョッカン の シンジツ は、 こうして イマ カジ に みごと な ジツレイ を しめして くれて いて、 「さあ、 どう だ、 どう だ。 ヘントウ しろ」 と カジ に せまって きて いる よう な もの だった。 それ にも かかわらず、 まだ カジ は だまって いる の で ある。 「みた まま の こと さ、 オレ は ビショウ を しんじる だけ だ」 と、 こう カジ は ブショウ に こたえて みた ものの、 ナニモノ に か、 たくみ に ころがされ ころころ ホンロウ されて いる の も ドウヨウ だった。
「キョウ おうかがい した の は、 イチド ゴチソウ したい の です よ。 イッショ に これから いって くれません か。 ジドウシャ を シブヤ の エキ に またせて ある の です」 と、 セイホウ は いった。
「イマゴロ ゴチソウ を たべさす よう な ところ、 ある ん です か」
「スイコウシャ です」
「なるほど、 キミ は カイグン だった ん です ね」 と、 カジ は、 キョウ は ガクセイフク では ない セイホウ の カイキンフク の ケンショウ を みて わらった。
「キョウ は オレ、 タイイ の ケンショウ を つけてる けれど、 ホントウ は もう ショウサ なん です よ。 あんまり わかく みえる ので、 さげてる ん です」
 ショウネン に みえる セイホウ の まだ ケンショウ の ホシカズ を よろこぶ ヨウス が、 フシゼン では なかった。 それにしても、 この ショウネン が ソコク の キキュウ を すくう ユイイツ の ジンブツ だ とは、 ――じっさい、 イマ さしせまって きて いる センキョク を ユウリ に みちびく もの が あり と すれば、 セイホウ の ブキ イガイ に ありそう に おもえない とき だった。 しかし、 それにしても、 この セイホウ が―― イクド も かんじた ギモン が また ちょっと カジ に おこった が、 なにひとつ カジ は セイホウ の いう ジケン の ジジツ を みた わけ では ない。 また しらべる ホウホウ とて も ない ユメ だ。 カレ の いう スイコウシャ への デイリ も セイホウ ヒトリ の ユメ か どう か、 ふと カジ は この とき ミ を おこす キモチ に なった。
「キミ と いう ヒト は フシギ な ヒト だな。 ハジメ に キミ の きた とき には、 なんだか アシオト が フツウ の キャク と どこ か ちがって いた よう に おもった ん だ が。――」 と カジ は つぶやく よう に いった。
「あ、 あの とき は、 オレ、 エキ から オタク の ゲンカン まで アシカズ を はかって きた の です よ。 652 ホ」 セイホウ は すぐ こたえた。
 なるほど、 カレ の セイカク な アシオト の ナゾ は それ で わかった、 と カジ は おもった。 カジ は セイホウ の コキョウ を A ケン のみ を しって いて、 その ケン の どこ か は しらなかった が、 はじめ きた とき カジ は セイホウ に、 キミ の セイカ の チカク に ヒラタ アツタネ の セイカ が ありそう な キ が する が、 と ヒトコト きく と、 この とき も 「100 メータ」 と メイリョウ に すぐ こたえた。 また、 カイグン との カンケイ の セイリツ した ヒ の フクツウ の ヨクジツ、 シン ヒコウキ の セイノウ ジッケン を やらされた とき、 セイホウ は、 スイチョク に ラッカ して くる キタイ の ナカ で、 その とき で なければ できない ケイサン を ヨタビ くりかえした ハナシ も した。 そして、 ビヨク に ケッテン の ある こと を ハッケン して、 「よく なります よ、 あの ヒコウキ は」 と いったり した が、 ハンラン しつつ カレ の アタマ に おそいかかって くる スウシキ の ウンドウ に テイシ を あたえる こと が できない なら、 セイホウ の アタマ も くるわざる を えない で あろう と カジ は おもった。
 セイカク だ から くるう の だ、 と いう ギャクセツ は、 カレ には たしか に ツウヨウ する キンダイ の みごと な ウツクシサ をも かたって いる。
「キミ は キョウ は、 スイコウシャ から きた ん です か。 ケンペイ は ついて きて いない の」 と カジ は セイホウ に イエ を でる マエ たずねて みた。
「キョウ は チチジマ から かえった ばかり です よ。 その アシ で きた の です」
 セイホウ の ハツオン では チチジマ が チシマ と きこえる ので、 チシマ へ どうして と カジ が たずねかえす と、 チチジマ と セイホウ は いいなおした。
「ジッケン を すませて きた の です よ。 セイコウ しました。 いちばん はやく しぬ の は ネコ です ね。 あれ は もう、 ちょっと コウセン を あてる と、 ころり と いく。 その ツギ が イヌ です。 サル は どういう もの か すこし ジカン を とります ね」
 と セイホウ は ひくく わらいながら、 ヒタイ に ヒヤケ の スジ の はいった アタマ を かいた。 キョウジン の ネゴト の よう に ムゾウサ に そう いう の も、 よく ききわけて みる と、 おそる べき コウセン の ヒミツ を つぶやいて いる の だった。
「ボク は ドウブツ の シンゾウ と いう もの に キョウミ が でて きました よ。 どうも、 いろいろ シンゾウ に シュルイ が ある よう な キ が して きて、 これ を みな しらべたら おもしろい だろう なあ と おもいました」
 セイホウ の ブキ は、 じじつ それなら シンコウ して いる の だろう か、 と カジ は おもった。 しかし、 なぜ だ か カジ は、 ここ まで カレ と したしく なって きて いて も、 それ が ジジツ か どう か を セイホウ に ききかえす キ は しなかった。 あまり に メンドウ で おこって いる ジケン は イヨウ-すぎて、 かえって カジ に ハクリョク を あたえない。 のみならず、 どこ か で セイホウ を まだ キョウジン と おもって いる ところ が あって、 ナニ を いって も カレ を ゆるして おける の だった。
「チチジマ まで は どれほど かかる の です」
「2 ジカン です。 あそこ の デンリョク は よわい から、 ジッケン は おもう よう には できない ん です よ。 それでも、 1 マン フィート ぐらい まで なら、 コウリョク が あります ね。 ハジメ は カイチュウ では ダメ だろう と おもって いた ん です が、 カイスイ は シオ だ から、 クウキ-チュウ より カイチュウ の ほう が、 コウリョク の ある こと が わかりました よ」
「へえ。 1 マン フィート なら ソウトウ な もの だな。 うまく いきます か、 ヒコウキ だ と おちます ね」
「おちました。 はじめ ソウジュウシ と アイズ しといて ラッカサン で とびおりて から、 その アト の カラ の ヒコウキ へ コウセン を あてた の です。 うまく いきました よ。 ソウジュウシ と ユウベ は アクシュ して、 ウィスキー を フタリ で のみました。 ユカイ でした よ その とき は」
 ジシン に みちた セイホウ の エガオ は、 ニチジョウ メ に する グンシュウ の ユウウツ な カオ とは およそ かけはなれて はれて いた。
「センスイカン にも かけて みました が、 これ は、 うっかり して、 コウビ へ あたっちゃった もの だ から、 うきあがる はず の やつ が、 いつまでも うかない ん です よ。 キノドク な こと を した。 でも、 まあ、 しょうがない、 クニ の ため だ から、 ガマン を して もらわなきゃあ」
 ちょっと セイホウ は かなしげ な ヒョウジョウ に なった が、 それ も たちまち はれあがった。
「ニホン の センスイカン?」 と カジ は おどろいて たずねた。
「そう です。 いや だった なあ、 あの とき は。 もう ジッケン は こりごり だ と おもいました ね。 あれ だ から いや に なる」
 イヨウ な ジケン が ふしぎ と シンジツ の ソウ を おびて カジ に せまって きはじめた。 では、 みな ジジツ か。 この セイネン の くちばしって いる こと は――
「しかし、 そんな ブキ を アクニン に もたした ヒ には、 コト だなあ」 と カジ は おもわず つぶやいた。
「そう です よ。 カンリ が タイヘン です」
「ジンルイ が ほろんじまう よ」
「その ブキ を つんだ フネ が 6 パイ あれば、 ロンドン の テキゼン ジョウリク が できます よ。 アメリカ なら、 この ゲツマツ に だって ジョウリク は できます ね」
 もう ジョウダンゴト では なかった。 どこ から どこ まで ジュウジツ した ハナシ か いぜん ギモン は のこりながら も、 ヒトコト ごと に セイホウ の イイカタ は、 クウキョ な もの を ジュウテン しつつ たんたん と すすんで いる。 カジ は ジブン が おどろいて いる の か どう か、 もはや それ も わからなかった。 しかし、 どうして こんな バアイ に、 フイ に アクニン の こと を ジブン は かんがえた の だろう か。 たしか に、 コト は センソウ の カチマケ の こと だけ では すみそう に ない と カジ は おもった。 もちろん、 カレ は ジブン が クニ を あいして いる こと は うたがわなかった。 まける こと を のぞむ など とは かんがえる こと さえ できない こと だった。 かって もらいたかった。 しかし、 かって いる アイダ は、 こんな に かちつづけて よい もの だろう か と いう ウレイ が あった。 それ が マケイロ が つづいて おそって きて みる と、 ウレイ どころ の サワギ では おさまらなかった。 センソウ と いう もの の ゼンアク イカン に かかわらず ソコク の メツボウ する こと は たえられる こと では なかった。 そこ へ シュツゲン して きた セイホウ の シン ブキ は、 きいた だけ でも ムネ の おどる こと で ある。 それに なにゆえ また ジブン は その ブキ を テ に した アクニン の こと など かんがえる の だろう か。 ひやり と イチマツ の フアン を おぼえる の は どうした こと だろう か。 ――カジ は ジブン の シンチュウ に おこって きた この フタツ の シンジツ の どちら に ジブン の ホンシン が ある もの か、 しばらく じっと ジブン を みる の だった。 ここ にも ハイチュウリツ の つめよって くる ナヤマシサ が うすうす と もみおこって ココロ を さして くる の だった。 センジツ まで は、 まだ セイホウ の シン ブキ が ユメ だ と おもって いた センジツ まで、 セイホウ の イノチ の アンキ が シンパイ だった のに、 それ が ジジツ に ちかづいて きて みる と、 カレ の こと など もはや どうでも よく なって、 アクマ の ショザイ を かぎつけよう と して いる ジブン だ と いう こと は―― アクマ、 たしか に いる の だ コイツ は、 と カジ は おもった。
「その キミ の ブキ は、 ゼンニン に てわたさなきゃあ、 クニ は ほろぶ ね。 もし アクニン に わたした ヒ には、 そりゃ、 マケ だ」 と、 なぜ とも なく カジ は つぶやいて たちあがった。 カミ います、 と カレ は モンク なく そう おもった の で ある。

 セイホウ と カジ とは ソト へ でた。 ニシビ の さす ヒケドキ の シブヤ の プラット は、 シャナイ から ながれでる キャク と のりこむ キャク と で うずまいて いた。 その グンシュウ の ナカ に まじって、 のる でも ない、 おり も しない ヒトリ の せだかい、 あおざめた テイダイ の カクボウ スガタ の セイネン が カジ の メ に とまった。 ユウシュウ を たたえた きよらか な マナザシ は、 ほそく カガヤキ を おびて クウチュウ を みて いた が、 セイホウ を みる と、 つと うつくしい シセン を さけて ソッポ を むいた まま うごかなかった。
「あそこ に テイダイ の セイト が いる でしょう」
 と セイホウ は カジ に いった。
「ふむ。 いる」
「あれ は ボク の ドウリョウ です よ。 やはり カイグン-ヅメ です がね」
 グンシュウ の ナガレ の まま に フタリ は、 カイグン と リカ との フタツ の エリショウ を つけた その セイネン の ほう へ ちかづいた。
「あっ、 だまって いる な。 テキガイシン を かんじた かな」 と セイホウ は いう と、 ヨコ を むいた セイネン の ハイゴ を、 これ も そのまま カジ と イッショ に すぎて いった。
「もう ボク は、 にくまれる にくまれる。 ダレ も わかって くれ や しない」 と セイホウ は また つぶやいた が、 ホチョウ は いっそう カッパツ に かつかつ と ひびいた。 ならんだ カジ は セイホウ の ホチョウ に そまって リズミカル に なりながら、 われて いる の は グンシュウ だけ では ない と おもった。 ニホン で もっとも ユウシュウ な ジッケンシツ の チュウカク が われて いる の だ。
 セイホウ が またせて ある と いった ジドウシャ は、 シブヤ の ヒロバ には いなかった。 そこで フタリ は トデン で ロッポンギ まで いく こと に した が、 セイホウ は、 ジドウシャ の バンゴウ を カジ に つげ、 マチナカ で みかけた とき は その バンゴウ を よびとめて いつでも のって くれ と いったり した。 デンシャ の ナカ でも セイホウ は、 21 サイ の ジブン が 30-スギ の カリョウ を ヨビツケ に する クツウ を かたって から、 こう も いった。
「ボク が イマ いちばん ソンケイ して いる の は、 ボク の つかって いる 35 の イズ と いう カキュウ ショッコウ です よ。 これ を しかる の は、 ボク には いちばん つらい こと です が、 カゲ では、 どうか ナニ を いって も ゆるして もらいたい、 コウジョウ の ナカ だ から、 キミ を ヨビステ に しない と ホカ の モノ が、 いう こと を きいて は くれない、 クニ の ため だ と おもって、 トウブン は ゆるして ほしい と たのんで ある ん です。 これ は えらい オトコ です よ。 ジンカク も リッパ です。 そこ へ いく と、 ボク なんか、 イズ を ヨビステ に できた もん じゃ ありません がね」
 この セイホウ の どこ が キョウジン なの だろう か、 と カジ は また おもった。 21 サイ で ハカセ に なり、 ショウサ の シカク で、 トシウエ の タクサン な カリョウ を ヨビステ に テアシ の ごとく つかい、 ニホンジン と して サイコウ の エイヨ を うけよう と して いる セイネン の キョドウ は、 セイホウ を みのがして ホカ に レイ の あった ためし は ない。 それなら、 これから ユクサキ の ながい トシツキ、 セイホウ は イマ ある より も ただ くだる ばかり で ある。 なんと いう フコウ な こと だろう、 カジ は この うつくしい エガオ を する セイネン が キノドク で ならなかった。
 ロッポンギ で フタリ は おりた。 トチノキ の ならんだ マミアナ の トオリ を あるいた とき、 ユウグレ の せまった マチ に ヒトカゲ は なかった。 そこ を サカシタ から こちら へ 10 ニン ばかり の リクグン の ヘイタイ が、 おもい テツザイ を つんだ クルマ を ひいて のぼって くる と、 セイホウ の タイイ の エリショウ を みて、 タイチョウ の カシ が ケイレイッ と ゴウレイ した。 ぴたっと とまった 1 タイ に トウレイ する セイホウ の キョシュ は、 スキ なく しっかり イタ に ついた もの だった。 グンタイ-ナイ の セイホウ の スガタ を カジ は はじめて みた と おもった。
「もう キミ には、 ガクセイ-シュウ は なくなりました ね」 と カジ は いった。
「ボク は カイグン より リクグン の ほう が すき です よ。 カイグン は カイキュウ セイド が だらしなくって、 その テン リクグン の ほう が はっきり して います から ね。 ボク は イマ リクグン から ヒッパリ に きて いる ん です が、 カイグン が ゆるさない の です」
 スイコウシャ が みえて きた。 この カイグン ショウコウ の シュウカイジョ へ はいる の は、 カジ には はじめて で あった。 どこ の エントウ から も ケムリ の でない コロ だった が、 ここ の たかい エントウ だけ 1 ポン もうもう と ケムリ を ふきあげて いた。 ケイタイヒン アズケジョ の ダイ の ウエ へ タンケン を はずして だした セイホウ は、 ケン の ツカ の ところ に キク の モン の ほられて いる こと を カジ に いって、
「これ ボク ん じゃ ない の です が、 オンシ の グントウ です よ。 ヒト の を かりて きた ん です。 もう じき、 ボク も もらう もん です から」
 こどもらしく そう いいながら、 ヘヤ の イリグチ へ アンナイ した。 そこ には サカン イジョウ の ヘヤ の ヒョウサツ が かかって いた。 アブラ の ミガキ で くろぐろ と した コウタク の ある カワバリ の ソファ や イス の ナカ で、 タイイ の セイホウ は わかわかしい と いう より、 ショウネン に みえる フニアイ な ドウガン を にこにこ させ、 カジ に ナグサメ を あたえよう と して ほねおって いる らしかった。 ショクジ の とき も、 あつまって いる ショウコウ たち の どの カオ も チンウツ な ヒョウジョウ だった が、 セイホウ だけ ヒトリ いきいき と した エガオ で、 ヒジ を たかく ビール の ビン を カジ の コップ に かたむけた。 フライ や サラダ の サラ が でた とき、
「そんな キミ の イカン の エリショウ で、 ここ に いて も いい の です か」 と カジ は たずねて みた。
「ミナ ここ の ヒト は ボク の こと を しって ます よ」
 セイホウ は わるびれず に こたえた。 その とき、 また ヒトリ の サカン が カジ の ソバ へ きて すわった。 そして、 セイホウ に アイサツ して もくもく と フォーク を もった が、 この サカン も ひどく この ユウ は しずんで いた。 もう カイグンリョク は どこ の カイメン の も ゼンメツ して いる ウワサ の ひろがって いる とき だった。 レイテ-セン は ソウハイボク、 カイグン の ダイホンザン、 センカン ヤマト も ゲキチン された フウセツ が ながれて いた。
 めずらしい パン-ツキ の ショクジ を おわって から、 カジ と セイホウ は、 ナカニワ の ひろい シバフ へ おりて トウゴウ ジンジャ と ショウガク の ある ホコラ の マエ の シバフ へ ヨコ に なった。 ナカニワ から みた スイコウシャ は 7 カイ の カンビ した ホテル に みえた。 フタリ の よこたわって いる ゼンポウ の ユウゾラ に ソヴィエット の タイシカン が タカサ を スイコウシャ と きそって いた。 トウゴウ ショウシ の ハイゴ の ほう へ、 おれまがって いる ひろい トクベツシツ に ヒ が はいった。 セイホウ は ツゲ の ハ の スキ から みえる ウシロ の その ヘヤ を さして、
「あれ は ショウショウ イジョウ の ショクドウ です が、 ナニ か カイギ が ある らしい です よ」 と セツメイ した。 おおきな タテモノ ゼンタイ の ナカ で その イッシツ だけ こうこう と あかるかった。 さわやか な しろい テーブルクロス の アイダ を しろい ナツフク の ショウカン たち が イリグチ から ながれこんで きた。 カジ は、 ハイセン の ショウ たち の トウカ を うけた ムネ の ナガレ が、 サザナミ の よう な いそがしい シロサ で チャクセキ して いく スガタ と、 ジブン の ヨコ の シバフ に イマ ねそべって、 ハンシン を ねじまげた まま ヒ の ナカ を さしのぞいて いる セイホウ を みくらべ、 タイカ の くずれん と する とき、 ヒトミナ この イチボク に たよる ばかり で あろう か と、 アタリ の フウケイ を うたがった。 ヒトリ の メイセキ ハンダン の ない クルイ と いう もの の もつ キョウフ は、 もはや ニチジョウ サハンジ の ヘイセイサ さえ ともなって いる しずか な ユウグレ だった。
「ここ へ くる ニンゲン は、 ミナ あの ヘヤ へ はいりたい の だろう が、 コンヤ の あの ヒ の シタ には アイシュウ が ある ね。 マエ には ソヴィエット が みて いる し」
「ボク は、 ホントウ は ショウセツ を かいて みたい ん です よ。 テイダイ シンブン に ヒトツ だした こと が ある ん です が、 ソウタイセイ ゲンリ を たたいて みた ショウセツ で、 カサヤ の ムスメ と いう ん です」
 どういう セイホウ の クウソウ から か、 とつぜん、 セイホウ は テマクラ を して カジ の ほう を むきかえって いった。
「ふむ」 カジ は まことに イガイ で あった。
「チョウヘン なん です よ。 スウガク の キョウジュ たち は おもしろい おもしろい と いって くれました が、 ボク は これから、 スウガク を ショウセツ の よう に して かいて みたい ん です。 アナタ の かかれた リョシュウ と いう の、 4 ド よみました が、 あそこ に でて くる スウガク の こと は おもしろかった なあ」
 かんがえれば、 ねて も たって も おられぬ とき だ のに、 タイカ を ささえる イチボク が ショウセツ の こと を いう の で ある。 あわただしい ショウカン たち の ユキキ と ソヴィエット に はさまれた ユウヤミ の ソコ に よこたわりながら、 ここ にも フカカイ な シンジダイ は もう きて いる の か しれぬ と カジ は おもった。
「それ より、 キミ の コウセン の イロ は どんな イロ です」 と カジ は ハナシ を そらせて たずねた。
「ボク の コウセン は ヒルマ は みえない けども、 ヨル だ と シュウイ が ぽっと あおくて、 ナカ が きいろい フツウ の ヒカリ です。 ソラ に あがったら みて いて ください」
「あそこ で やってる コンヤ の カイギ も、 キミ の ヒカリ の カイギ かも しれない な。 どうも それ より しょうがない」
 くらく なって から フタリ は カエリジタク を した。 ケイタイヒン アズケジョ で セイホウ は、 うけとった タンケン を コシ に つりつつ カジ に、 「ボク は コウ 1 キュウ を もらう かも しれません よ」 と いって、 ゲンキ よく ウワギ を まくしあげた。
 ソト へ でて マックラ な ロッポンギ の ほう へ、 あるいて いく とき だった。 また セイホウ は カジ に すりよって くる と、 とつぜん コエ を ひそめ、 イマ まで おさえて いた こと を キュウ に はきだす よう に、
「ジュンヨウカン 4 セキ と、 クチクカン 4 セキ を しずめました よ。 コウセン を あてて、 ボク は トケイ を じっと はかって みて いたら、 4 フン-カン だった。 たちまち でした よ」
 アタリ には ダレ も いなかった。 アンチュウ アイクチ を さぐって ぐっと ヨコバラ を つく よう に、 セイホウ は コシ の ズボン の トケイ を すばやく はかる テツキ を しめして カジ に いった。
「しかし、 それなら ハッピョウ する でしょう」
「そりゃ、 しません よ。 すぐ テキ に わかって しまう」
「それにしても――」
 フタリ は また だまって あるきつづけた。 キンパク した イシガキ の ツメタサ が こみさえて とおった。 くらい マミアナ の ガイロ は しずか な ノボリザカ に なって いて、 ひびきかえる クツオト だけ ききつつ カジ は、 センジツ から おどろかされた チョウテン は コンヤ だった と おもった。 そして、 セイホウ の いう こと を ウソ と して しりぞけて しまう には、 あまり に ムリョク な ジブン を かんじて さみしかった。 いや、 それ より、 ジブン の ナカ から はげおちよう と して いる セイホウ の ゲンエイ を、 むしろ ささえよう と して いる イマ の ジブン の コウイ の ゲンイン は、 みな ひとえに セイホウ の ビショウ に ケンイン されて いた から だ と おもった。 カレ は それ が くやしく、 ひとおもいに カレ を キョウジン と して はらいおとして しまいたかった。 カジ は れいぜん と して いく ジブン に ミョウ に フアン な センリツ を おぼえ、 くろぐろ と した コダチ の チンモク に ミ を よせかけて いく よう に あるいた。
「ボク は ね、 センセイ」 と また しばらく して、 セイホウ は カジ に すりよって きて いった。 「イマ ボク は ヒトツ、 なやんで いる こと が ある ん です よ」
「ナン です」
「ボク は イマ まで イチド も、 しぬ と いう こと を こわい と おもった こと は なかった ん です が、 どういう もの だ か、 センジツ から しぬ こと が こわく なって きた ん です」
 セイホウ の ホンシン が めざめて きて いる。 カジ は そう おもって、 「ふむ」 と いった。
「なぜ でしょう かね。 ボク は もう ちょっと いきて いたい の です よ。 ボク は コノゴロ、 それで ねむれない の です」
 シンブ の ニンゲン が ゆれうごいて きて いる コエ で ある。 きづいた な と カジ は おもった。 そして、 ミミ を よせて ツギ の セイホウ の コトバ を まつ の だった。 また フタリ は だまって しばらく あるいた。
「ボク は もう、 ダレ か に すがりつきたくって、 しょうがない。 ダレ も ない の です」
 イマ まで ムジャキ に テンクウ で たわむれて いた ショウネン が ヒト の いない シュウイ を みまわし、 ふと シタ を のぞいた とき の、 なきだしそう な コドク な キョウフ が もれて いた。
「そう だろう な」
 コタエヨウ の ない ジブン が うすらかなしく、 カジ は、 ガイロジュ の ミキ の カワ の アツサ を みすごして ただ あるく ばかり だった。 カレ は はやく トウカ の みえる ツジ へ でたかった。 ちょうど、 そうして ユウグレ テツザイ を つんだ 1 タイ の ヘイシ と であった バショ まで きた とき、 はつらつ と して いた ヒルマ の セイホウ を おもいだし、 やっと カジ は いった。
「しかし、 キミ、 そういう ところ から ニンゲン の セイカツ は はじまる の だ から、 アナタ も そろそろ はじまって きた の です よ。 なんでも ない の だ、 それ は」
「そう でしょう か」
「ダレ にも すがれない ところ へ キミ は でた のさ。 ゼロ を みた ん です よ。 この トオリ は マミアナ と いって、 タヌキ ばかり すんで いた らしい ん だ が、 それ が いつのまにか、 ニンゲン も すむ よう に なって、 この とおり です から ね。 ボクラ の イッショウ も いろんな ところ を とおらねば ならん です よ。 これ だけ は どう シヨウ も ない。 まあ、 いつも ヒト は、 はじまり はじまり と いって、 タイコ でも たたいて いく の だな。 しぬ とき だって、 ボクラ は そう しよう じゃ ない です か」
「そう だな」
 ようやく なきどまった よう な セイホウ の ただしい クツオト が、 また カジ に きこえて きた。 ロッポンギ の テイリュウジョ の ヒ が フタリ の マエ へ さして きて、 その シタ に かたまって いる 2~3 の ヒトカゲ の ナカ へ フタリ は たつ と、 デンシャ が まもなく サカ を のぼって きた。

 アキカゼ が たって 9 ガツ ちかく なった コロ、 タカダ が カジ の ところ へ きた。 セイホウ の ガクイ ロンブン ツウカ の シュクガカイ を アス もよおしたい から、 カジ に ぜひ シュッセキ して ほしい、 バショ は ヨコスカ で すこし エンポウ だ が、 セイホウ から ぜひとも カジ だけ は つれて きて もらいたい と イライ された と いう こと で、 カイ を クカイ に したい と いう。 クカイ の シュクガカイ なら シュッセキ する こと に して、 カジ は タカダ の サソイ に でて くる アス を まった。
「どういう ヒト が キョウ は でる の です」
 と、 カジ は ツギ の ヒ、 ヨコスカ-ユキ の レッシャ の ナカ で タカダ に たずねた。 タイイ キュウ の カイグン の ショウコウ スウメイ と ハイク に キョウミ を もつ ヒトタチ ばかり で、 ヤマ の ウエ に ある ヒコウキ セイサク ギシ の ジタク で もよおす の だ と、 タカダ の コタエ で あった。
「この ギシ は ハイク も うまい が、 ユウシュウ な えらい ギシ です よ。 ボク と ハイク トモダチ です から、 エンリョ の いらない アイダガラ なん です」 と タカダ は フカ して いった。
「しかし、 ケンペイ に こられちゃ ね」
「さあ、 しかし、 そこ は クカイ です から、 なんとか うまく やる でしょう」
 トチュウ の アイダ も、 カジ と タカダ は セイホウ が キョウジン か イナ か の ギモン に ついて は、 どちら から も ふれなかった。 それにしても、 セイホウ を キョウジン だ と ハンテイ して カジ に いった タカダ が、 その セイホウ の シュクガカイ に、 カジ を グンコウ まで ひきずりだそう と する の で ある。 ギシ の タク は エキ から も とおかった。 ウミ の みえる ヤマ の ノボリ も キュウ な カタムキ で、 たかい イシダン の イクマガリ に カジ は コキュウ が きれぎれ で あった。 クズ の ハナ の なだれさがった シャメン から ミズ が もれて いて、 ひくまって いく ヒ の みちた タニマ の ソコ を、 ヒグラシ の コエ が つらぬきとおって いた。
 チョウジョウ まで きた とき、 あおい ダイダイ の ミ に うまった イエ の モン を はいった。 そこ が ギシ の ジタク で クカイ は もう はじまって いた。 トコマエ に すわらせられた ショウキャク の セイホウ の アタマ の ウエ に、 ガクイ ロンブン ツウカ シュクガ ハイクカイ と かかれて、 その ヒ の ケンダイ も ならび、 20 ニン ばかり の イチザ は コエ も なく クサク の サイチュウ で あった。 カジ と タカダ は マガリエン の イッタン の ところ で すぐ ケンダイ の クズ の ハナ の サック に とりかかった。 カジ は ヒザ の ウエ に テチョウ を ひらいた まま、 ナカ の ザシキ の ほう に セ を むけ、 ハシラ に もたれて いた。 エダ を しなわせた ダイダイ の ミ の ふれあう アオサ が、 カジ の ヒロウ を すいとる よう で あった。 まだ あかるく ウミ の ハンシャ を あげて いる ユウゾラ に、 ヒグラシ の コエ が たえず ひびきとおって いた。
「これ は ボク の アニ でして。 キョウ、 でて きて くれた の です」
 セイホウ は コウホウ から コゴエ で カジ に ショウカイ した。 トウホク ナマリ で、 レイ を のべる コガラ な セイホウ の アニ の アタマ の ウエ の タケヅツ から、 クズ の ハナ が たれて いた。 クカイ に キョウミ の なさそう な その アニ は、 まもなく、 キシャ の ジカン が きれる から と アイサツ を して、 ダレ より サキ に でて いった。
「トウ あおき オカ の ワカレ や クズ の ハナ」
 カジ は すぐ ハジメ の イック を テチョウ に かきつけた。 セミ の コエ は まだ ふる よう で あった。 ふと カジ は、 スベテ を うたがう なら、 この セイホウ の ガクイ ロンブン ツウカ も また うたがう べき こと の よう に おもわれた。 それら セイホウ の して いる コトゴト が、 たんに セイホウ コジン の ムユウチュウ の ゲンエイ と して のみ の ジジツ で、 シンジツ で ない かも しれない。 いわば、 その ゼロ の ごとき クウキョ な ジジツ を しんじて ダレ も あつまり いわって いる この サンジョウ の ショウカイ は、 イマ こうして ハナ の よう な ウツクシサ と なり さいて いる の かも しれない。 そう おもって も、 カジ は フマン でも なければ、 むなしい カンジ も おこらなかった。
「ヒグラシ や シュカク に みえし クズ の ハナ」 と、 また カジ は イック かきつけた シヘン を ボン に なげた。
 ヒ が おちて ヘヤ の ヒ が ニワ に さす コロ、 カイ の ヒトリ が リンセキ の モノ と ささやきかわしながら、 ニワ の マガキ の ソト を みつめて いた。 カキスソ へ しのびよる ケンペイ の アシオト を ききつけた から だった。 シュサイシャ が ケンペイ を ナカ へ しょうじいれた もの か、 どうした もの か と セイホウ に ソウダン した。
「いや、 いれちゃ いかん。 クセ に なる」
 トコマエ に タンザ した セイホウ は、 イツモ の カレ には みられぬ ジョウカン-らしい イゲン で クビ を ヨコ に ふった。 だんこ と した カレ の ソッケツ で、 クカイ は そのまま ゾッコウ された。 タカダ の ヒコウ で イチザ の サック が よみあげられて いく に したがい、 カジ と タカダ の 2 サク が しばらく コウテン を せりあいつつ、 しだいに また タカダ が のりこえて カイ は おわった。 オカ を くだって いく モノ が ハンスウ で、 セイホウ と したしい アト の ハンスウ の のこった モノ の ユウショク と なった が、 シノビアシ の ケンペイ は まだ カキ の ソト を まわって いた。 サケ が でて ザ が くつろぎかかった コロ、 セイホウ は カジ に、
「この ヒト は いつか おはなし した イズ さん です。 ボク の いちばん オセワ に なって いる ヒト です」
 と ショウカイ した。
 ロウドウフク の ムクチ で ケンゴ な イズ に カジ は レイ を のべる キモチ に なった。 セイホウ は サケ を つぐ テツダイ の チジン の ムスメ に かるい ジョウダン を いった とき、 したしい オウシュウ を しながら も、 ムスメ は 21 サイ の ハカセ の セイホウ の マエ では カオ を あからめ、 タチイ に オチツキ を なくして いた。 いつも リョウウデ を くんだ シュサイシャ の ギシ は、 しずか な ヒタイ に トクボウ の ある キヒン を たたえて いて、 ヒトリ なごやか に しずむ クセ が あった。
 トウキョウ から の キャク は ショウリョウ の サケ でも マワリ が はやかった。 ヒタイ の そまった タカダ は アオムキ に たおれて ソラ を あおいだ とき だった。 ヒ を つけた テイクウ ヒコウ の スイジョウキ が 1 キ、 オカ スレスレ に バクオン を たてて まって きた。
「おい、 セイホウ の コウセン、 あいつ なら おとせる かい」 と タカダ は テマクラ の まま セイホウ の ほう を みて いった。 イッシュン どよめいて いた ザ は しんと しずまった。 と、 タカダ は はっと ワレ に かえって おきあがった。 そして、 きびしく ジブン を シッセキ する メツキ で タンザ し、 カン ハツ を いれぬ ハヤサ で ふたたび シズマリ を ギャクテン させた。 みて いて カジ は、 あざやか な タカダ の シュワン に ヒッシ の サギョウ が あった と おもった。 シャツ 1 マイ の セイホウ は たちまち おどる よう に たのしげ だった。
 その ヨル は カジ と タカダ と セイホウ の 3 ニン が ギシ の イエ の 2 カイ で とまった。 タカダ が カジ の ミギテ に ねて、 セイホウ が ヒダリテ で、 すぐ ネムリ に おちた フタリ の アイダ に はさまれた カジ は、 ネツキ が わるく おそく まで さめて いた。 ジョウハンシン を ラタイ に した セイホウ は フトン を かけて いなかった。 ウワブトン の 1 マイ を ヨッツ に おって カオ の ウエ に のせた まま、 リョウテ で だきかかえて いる ので、 カレ の ネスガタ は ザブトン を 4~5 マイ カオ の ウエ に つみかさねて いる よう に みえて コッケイ だった。 どういう ユメ を みて いる もの だろう か と、 ヨナカ ときどき カジ は セイホウ を のぞきこんだ。 ゆるい コキュウ の キフク を つづけて いる ヘソ の シュウイ の うすい シボウ に、 にぶく デントウ の ヒカリ が さして いた。 フトン で セイホウ の カオ が かくれて いる ので、 クビナシ の よう に みえる わかい ドウ の ウエ から その ヘソ が、
「ボク、 しぬ の が なんだか こわく なりました」 と カジ に つぶやく ふう だった。 カジ は セイホウ の ヘソ も みた と おもって ネムリ に ついた。

 カジ と セイホウ は ソノゴ イチド も あって いない。 その アキ から はげしく なった クウシュウ の オリ も、 カジ は トウキョウ から イッポ も でず ソラ を みて いた が、 セイホウ の コウセン は ついに あらわれた ヨウス が なかった。 カジ は タカダ と よく あう たび に セイホウ の こと を たずねて も、 イエ が やけ スミカ の なくなった タカダ は、 セイホウ に ついて は もう キョウミ の うせた コタエ を する だけ で、 なにも しらなかった。 ただ イチド、 セイホウ と わかれて 1 カゲツ も した とき、 クカイ の ヒ の ギシ から タカダ に あてて、 セイホウ は エリショウ の ホシ を ヒトツ フカ して いた リユウ を ツミ と して、 グン の ケイムショ へ いれられて しまった と いう ホウコク の あった こと と、 クウシュウチュウ、 ギシ は ケッコン し、 その ヨクジツ キュウビョウ で シボウ した と いう フタツ の ハナシ を、 カジ は タカダ から きいた だけ で ある。 セイホウ と おなじ ところ に キンム して いた ギシ に しなれて は、 タカダ も そこ から セイホウ の こと を きく イガイ に、 ホウホウ の なかった それまで の ミチ は たちきれた わけ で あった。 したがって カジ も また なかった。
 センソウ は おわった。 セイホウ は しんで いる に ちがいない と カジ は おもった。 どんな シニカタ か、 とにかく カレ は もう コノヨ には いない と おもわれた。 ある ヒ、 カジ は トウホク の ソカイサキ に いる ツマ と サンチュウ の ムラ で シンブン を よんで いる とき、 ギジュツイン ソウサイ-ダン と して、 ワガクニ にも シン ブキ と して サツジン コウセン が カンセイ されよう と して いた こと、 その イリョク は 3000 メートル に まで たっする こと が できた が、 ハツメイシャ の イチ セイネン は ハイセン の ホウ を きく と ドウジ に、 クヤシサ の あまり ハッキョウ シボウ した と いう タンブン が ケイサイ されて いた。 ウタガイ も なく セイホウ の こと だ と カジ は おもった。
「セイホウ しんだ ぞ」
 カジ は そう ヒトコト ツマ に いって シンブン を てわたした。 イチメン に つまった くろい カツジ の ナカ から、 あおい ホノオ の コウセン が イチジョウ ぶっと ふきあがり、 ばらばらっ と くだけちって なくなる の を みる よう な ハヤサ で、 カジ の カンジョウ も はなひらいた か と おもう と まもなく しずか に なって いった。 みな ゼロ に なった と カジ は おもった。
「あら、 これ は セイホウ さん だわ。 とうとう なくなった のね。 1 キ も いれない って、 アタシ に いって らした のに。 ホント に、 まけた と きいて、 くらくらっ と した ん だわ。 どう でしょう」
 ツマ の そう いう ソバ で、 カジ は、 セイホウ の ハッキョウ は もう すでに あの とき から はじまって いた の だ と おもわれた。 カレ の いったり したり した こと は、 ある こと は ジジツ、 ある こと は ユメ だった の だ と おもった。 そして、 カジ は ジブン も すこし は カレ に デンセン して、 ハッキョウ の キザシ が あった の かも しれない と うたがわれた。 カジ は タマテバコ の フタ を とった ウラシマ の よう に、 ぼうっと たつ ハクエン を みる オモイ で しばらく ソラ を みあげて いた。 ギシ も しに、 セイホウ も しんだ イマ みる ソラ に カレラ フタリ と わかれた ヨコスカ の サイゴ の ヒ が えいじて くる。 ギシ の イエ で イッパク した ヨクアサ、 カジ は セイホウ と ギシ と タカダ と 4 ニン で オカ を おりて いった とき、 カイメン に テイハク して いた センスイカン に チョクゲキ を あたえる レンシュウキ を みおろしながら、 ギシ が、
「ボク の は いくら つくって も つくって も、 おとされる ほう だ が、 セイホウ の は おとす ほう だ から な、 ボクラ は かないません よ」
 しょうぜん と して つぶやく コン セビロ の ギシ の イッポ マエ で、 これ は また はつらつ と した セイホウ の サカミチ を おりて いく ワニアシ が、 ゆるんだ オダワラ-ヂョウチン の マキ-ゲートル スガタ で うかんで くる。 それから ミカサ-カン を ケンブツ して、 ヨコスカ の エキ で わかれる とき、
「では、 もう ボク は オメ に かかれない と おもいます から、 オゲンキ で」
 はっきり した メツキ で、 セイホウ は そう いいながら、 カジ に つよく ケイレイ した。 どういう イミ か、 カジ は わかれて あるく うち、 ふと セイホウ の ある カクゴ が セ に しみつたわり サミシサ を かんじて きた が、――
 ソカイサキ から トウキョウ へ もどって きて カジ は キュウ に ビョウキ に なった。 ときどき カレ を ミマイ に くる タカダ と あった とき、 カジ は セイホウ の こと を いいだして みたり した が、 タカダ は シジ の ヨワイ を かぞえる ツマラナサ で、 ただ アイマイ な ワライ を もらす のみ だった。
「けれども、 キミ、 あの セイホウ の ビショウ だけ は、 うつくしかった よ。 あれ に あう と、 ダレ でも ボクラ は やられる よ。 あれ だけ は――」
 ビショウ と いう もの は ヒト の ココロ を ころす コウセン だ と いう イミ も、 カジ は ふくめて いって みた の だった。 それにしても、 ナニ より うつくしかった セイホウ の あの ショシュン の よう な ビショウ を おもいだす と、 みあげて いる ソラ から おちて くる もの を まつ ココロ が おのずから さだまって くる の が、 カジ には フシギ な こと だった。 それ は イマ の ヨ の ヒト タレ も が まちのぞむ ヒトツ の メイセキ ハンダン に にた キボウ で あった。 それ にも かかわらず、 レイショウ する が ごとく セカイ は ますます フタツ に わかれて おしあう ハイチュウリツ の サナカ に あって ただよいゆく ばかり で ある。 カジ は、 カイテン して いる センプウキ の ハネ を ゆびさし ぱっと あかるく わらった セイホウ が、 イマ も まだ ヒトビト に いいつづけて いる よう に おもわれる。
「ほら、 ハネ から シセン を はずした シュンカン、 まわって いる こと が わかる でしょう。 ボク も イマ とびだした ばかり です よ。 ほら」
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ハル は バシャ に のって

2019-04-05 | ヨコミツ リイチ
 ハル は バシャ に のって

 ヨコミツ リイチ

 カイヒン の マツ が コガラシ に なりはじめた。 ニワ の カタスミ で ヒトムラ の ちいさな ダリヤ が ちぢんで いった。
 カレ は ツマ の ねて いる シンダイ の ソバ から、 センスイ の ナカ の にぶい カメ の スガタ を ながめて いた。 カメ が およぐ と、 スイメン から てりかえされた あかるい ミズカゲ が、 かわいた イシ の ウエ で ゆれて いた。
「まあ ね、 アナタ、 あの マツ の ハ が コノゴロ それ は きれい に ひかる のよ」 と ツマ は いった。
「オマエ は マツ の キ を みて いた ん だな」
「ええ」
「オレ は カメ を みてた ん だ」
 フタリ は また そのまま だまりだそう と した。
「オマエ は そこ で ながい アイダ ねて いて、 オマエ の カンソウ は、 たった マツ の ハ が うつくしく ひかる と いう こと だけ なの か」
「ええ。 だって、 アタシ、 もう なにも かんがえない こと に して いる の」
「ニンゲン は なにも かんがえない で ねて いられる はず が ない」
「そりゃ かんがえる こと は かんがえる わ。 アタシ、 はやく よく なって、 しゃっしゃっ と イド で センタク したくって ならない の」
「センタク が したい?」
 カレ は この イソウガイ の ツマ の ヨクボウ に わらいだした。
「オマエ は おかしな ヤツ だね。 オレ に ながい アイダ クロウ を かけて おいて、 センタク が したい とは かわった ヤツ だ」
「でも、 あんな に ジョウブ な とき が うらやましい の。 アナタ は フコウ な カタ だ わね」
「うむ」 と カレ は いった。
 カレ は ツマ を もらう まで の 4~5 ネン に わたる カノジョ の カテイ との ながい ソウトウ を かんがえた。 それから ツマ と ケッコン して から、 ハハ と ツマ との アイダ に はさまれた 2 ネン-カン の クツウ な ジカン を かんがえた。 カレ は ハハ が しに、 ツマ と フタリ に なる と、 キュウ に ツマ が ムネ の ビョウキ で ねて しまった この 1 ネン-カン の カンナン を おもいだした。
「なるほど、 オレ も もう センタク が したく なった」
「アタシ、 イマ しんだって もう いい わ。 だけど ね、 アタシ、 アナタ に もっと オン を かえして から しにたい の。 コノゴロ アタシ、 それ ばっかり ク に なって」
「オレ に オン を かえす って、 どんな こと を する ん だね」
「そりゃ、 アタシ、 アナタ を タイセツ に して、……」
「それから」
「もっと いろいろ する こと が ある わ」
 ――しかし、 もう この オンナ は たすからない、 と カレ は おもった。
「オレ は そういう こと は どうだって いい ん だ。 ただ オレ は、 そう だね。 オレ は、 ただ、 ドイツ の ミュンヘン アタリ へ イッペン いって、 それ も、 アメ の ふって いる ところ じゃ なくちゃ いく キ が しない」
「アタシ も いきたい」 と ツマ は いう と、 キュウ に シンダイ の ウエ で ハラ を ナミ の よう に うねらせた。
「オマエ は ゼッタイ アンセイ だ」
「いや、 いや、 アタシ、 あるきたい。 おこして よ、 ね、 ね」
「ダメ だ」
「アタシ、 しんだって いい から」
「しんだって、 はじまらない」
「いい わよ、 いい わよ」
「まあ、 じっと してる ん だ。 それから、 イッショウ の シゴト に、 マツ の ハ が どんな に うつくしく ひかる か って いう ケイヨウシ を、 たった ヒトツ かんがえだす の だね」
 ツマ は だまって しまった。 カレ は ツマ の キモチ を テンカン さす ため に、 やわらか な ワダイ を センタク しよう と して たちあがった。
 ウミ では ゴゴ の ナミ が とおく イワ に あたって ちって いた。 1 ソウ の フネ が かたむきながら するどい ミサキ の センタン を まわって いった。 ナギサ では さかまく ノウランショク の ハイケイ の ウエ で、 コドモ が フタリ ユゲ の たった イモ を もって カミクズ の よう に すわって いた。
 カレ は ジブン に むかって つぎつぎ に くる クツウ の ナミ を さけよう と おもった こと は まだ なかった。 この ソレゾレ に シツ を たがえて おそって くる クツウ の ナミ の ゲンイン は、 ジブン の ニクタイ の ソンザイ の サイショ に おいて はたらいて いた よう に おもわれた から で ある。 カレ は クツウ を、 たとえば サトウ を なめる シタ の よう に、 あらゆる カンカク の メ を ひからせて ギンミ しながら なめつくして やろう と ケッシン した。 そうして サイゴ に、 どの アジ が うまかった か。 ――オレ の カラダ は 1 ポン の フラスコ だ。 ナニモノ より も、 まず トウメイ で なければ ならぬ。 と、 カレ は かんがえた。

 ダリヤ の クキ が ひからびた ナワ の よう に チ の ウエ で むすぼれだした。 シオカゼ が スイヘイセン の ウエ から シュウジツ ふきつけて きて フユ に なった。
 カレ は スナカゼ の まきあがる ナカ を、 1 ニチ に 2 ド ずつ ツマ の たべたがる シンセン な トリ の ゾウモツ を さがし に でかけて いった。 カレ は カイガンマチ の トリヤ と いう トリヤ を カタハシ から たずねて いって、 そこ の きいろい マナイタ の ウエ から いちおう ニワ の ナカ を ながめまわして から きく の で ある。
「ゾウモツ は ない か、 ゾウモツ は」
 カレ は ウン よく メノウ の よう な ゾウモツ を コオリ の ナカ から だされる と、 ユウカン な アシドリ で イエ に かえって ツマ の マクラモト に ならべる の だ。
「この マガタマ の よう なの は ハト の ジンゾウ だ。 この コウタク の ある カンゾウ は、 これ は アヒル の イキギモ だ。 これ は まるで、 かみきった イッペン の クチビル の よう で、 この ちいさな あおい タマゴ は、 これ は コンロンザン の ヒスイ の よう で」
 すると、 カレ の ジョウゼツ に センドウ させられた カレ の ツマ は、 サイショ の セップン を せまる よう に、 はなやか に トコ の ナカ で ショクヨク の ため に ミモダエ した。 カレ は ザンコク に ゾウモツ を うばいあげる と、 すぐ ナベ の ナカ へ なげこんで しまう の が ツネ で あった。
 ツマ は オリ の よう な シンダイ の コウシ の ナカ から、 ビショウ しながら たえず わきたつ ナベ の ナカ を ながめて いた。
「オマエ を ここ から みて いる と、 じつに フシギ な ケモノ だね」 と カレ は いった。
「まあ、 ケモノ だって。 アタシ、 これ でも オクサン よ」
「うむ、 ゾウモツ を たべたがって いる オリ の ナカ の オクサン だ。 オマエ は、 いつ の バアイ に おいて も、 どこ か、 ほのか に ザンニンセイ を たたえて いる」
「それ は アナタ よ。 アナタ は リチテキ で、 ザンニンセイ を もって いて、 いつでも ワタシ の ソバ から はなれたがろう と ばかり かんがえて いらしって」
「それ は、 オリ の ナカ の リロン で ある」
 カレ は カレ の ヒタイ に けむりだす ヘンエイ の よう な シワ さえ も、 ビンカン に みのがさない ツマ の カンカク を ごまかす ため に、 コノゴロ いつも この ケツロン を ヨウイ して いなければ ならなかった。 それでも ときには、 ツマ の リロン は キュウゲキ に かたむきながら、 カレ の キュウショ を つきとおして センカイ する こと が たびたび あった。
「じっさい、 オレ は オマエ の ソバ に すわって いる の は、 そりゃ いや だ。 ハイビョウ と いう もの は、 けっして コウフク な もの では ない から だ」
 カレ は そう ちょくせつ ツマ に むかって ギャクシュウ する こと が あった。
「そう では ない か。 オレ は オマエ から はなれた と して も、 この ニワ を ぐるぐる まわって いる だけ だ。 オレ は いつでも、 オマエ の ねて いる シンダイ から ツナ を つけられて いて、 その ツナ の えがく エンシュウ の ナカ で まわって いる より シカタ が ない。 これ は あわれ な ジョウタイ で ある イガイ の、 ナニモノ でも ない では ない か」
「アナタ は、 アナタ は、 あそびたい から よ」 と ツマ は くやしそう に いった。
「オマエ は あそびたか ない の かね」
「アナタ は、 ホカ の オンナ の カタ と あそびたい のよ」
「しかし、 そういう こと を いいだして、 もし、 そう だったら どう する ん だ」
 そこ で、 ツマ が なきだして しまう の が レイ で あった。 カレ は、 はっと して、 また ギャク に リロン を きわめて ものやわらか に ときほぐして いかねば ならなかった。
「なるほど、 オレ は、 アサ から バン まで、 オマエ の マクラモト に いなければ ならない と いう の は いや なの だ。 それで オレ は、 イッコク も はやく、 オマエ を よく して やる ため に、 こうして ぐるぐる おなじ ニワ の ナカ を まわって いる の では ない か。 これ には オレ とて ヒトトオリ の こと じゃ ない さ」
「それ は アナタ の ため だ から よ。 ワタシ の こと を、 ちょっとも よく おもって して くださる ん じゃ ない ん だわ」
 カレ は ここ まで ツマ から ニクハク されて くる と、 とうぜん カノジョ の オリ の ナカ の リロン に とりひしがれた。 だが、 はたして、 ジブン は ジブン の ため に のみ、 この クツウ を かみころして いる の だろう か。
「それ は そう だ、 オレ は オマエ の いう よう に、 オレ の ため に ナニゴト も ニンタイ して いる の に ちがいない。 しかし だ、 オレ が オレ の ため に ニンタイ して いる と いう こと は、 いったい ダレ ゆえ に こんな こと を して いなければ ならない ん だ。 オレ は オマエ さえ いなければ、 こんな バカ な ドウブツエン の マネ は して いたく ない ん だ。 そこ を して いる と いう の は、 ダレ の ため だ。 オマエ イガイ の オレ の ため だ と でも いう の か、 ばかばかしい」
 こういう ヨル に なる と、 ツマ の ネツ は きまって 9 ド ちかく まで のぼりだした。 カレ は 1 ポン の リロン を センメイ に した ため に、 ヒョウノウ の クチ を、 あけたり しめたり、 よどおし しなければ ならなかった。
 しかし、 なお カレ は ジブン の キュウソク する リユウ の セツメイ を メイリョウ に する ため に、 この こりる べき リユウ の セイリ を、 ほとんど ヒビ しつづけなければ ならなかった。 カレ は くう ため と、 ビョウニン を やしなう ため と に ベッシツ で シゴト を した。 すると、 カノジョ は、 また オリ の ナカ の リロン を もちだして カレ を せめたてて くる の で ある。
「アナタ は、 ワタシ の ソバ を どうして そう はなれたい ん でしょう。 キョウ は たった 3 ド より この ヘヤ へ きて くださらない ん です もの。 わかって いて よ。 アナタ は、 そういう ヒト なん です もの」
「オマエ と いう ヤツ は、 オレ が どう すれば いい と いう ん だ。 オレ は、 オマエ の ビョウキ を よく する ため に、 クスリ と タベモノ と を かわなければ ならない ん だ。 ダレ が じっと して いて カネ を くれる ヤツ が ある もの か。 オマエ は オレ に テジナ でも つかえ と いう ん だね」
「だって、 シゴト なら、 ここ でも できる でしょう」 と ツマ は いった。
「いや、 ここ では できない。 オレ は ほんの すこし でも、 オマエ の こと を わすれて いる とき で なければ できない ん だ」
「そりゃ そう です わ。 アナタ は、 24 ジカン シゴト の こと より なにも かんがえない ヒト なん です もの、 アタシ なんか、 どうだって いい ん です わ」
「オマエ の テキ は オレ の シゴト だ。 しかし、 オマエ の テキ は、 じつは たえず オマエ を たすけて いる ん だよ」
「アタシ、 さびしい の」
「いずれ、 ダレ だって さびしい に ちがいない」
「アナタ は いい わ。 シゴト が ある ん です もの。 アタシ は なにも ない ん だわ」
「さがせば いい じゃ ない か」
「アタシ は、 アナタ イガイ に さがせない ん です。 アタシ は、 じっと テンジョウ を みて ねて ばかり いる ん です」
「もう、 そこら で やめて くれ。 どっち も さびしい と して おこう。 オレ には シメキリ が ある。 キョウ かきあげない と、 ムコウ が どんな に こまる か しれない ん だ」
「どうせ、 アナタ は そう よ。 アタシ より、 シメキリ の ほう が タイセツ なん です から」
「いや、 シメキリ と いう こと は、 アイテ の いかなる ジジョウ をも しりぞける と いう ハリフダ なん だ。 オレ は この ハリフダ を みて ひきうけて しまった イジョウ、 ジブン の ジジョウ なんか かんがえて は いられない」
「そう よ、 アナタ は それほど リチテキ なの よ。 いつでも そう なの、 アタシ、 そういう リチテキ な ヒト は、 だいきらい」
「オマエ は オレ の ウチ の モノ で ある イジョウ、 ホカ から きた ハリフダ に たいして は、 オレ と おなじ セキニン を もたなければ ならない ん だ」
「そんな もの、 ひきうけなければ いい じゃ ありません か」
「しかし、 オレ と オマエ の セイカツ は どう なる ん だ」
「アタシ、 アナタ が そんな に レイタン に なる くらい なら、 しんだ ほう が いい の」
 すると、 カレ は だまって ニワ へ とびおりて シンコキュウ を した。 それから、 カレ は また フロシキ を もって、 その ヒ の ゾウモツ を かい に こっそり と マチ の ナカ へ でかけて いった。
 しかし、 この カノジョ の 「オリ の ナカ の リロン」 は、 その オリ に つながれて まわって いる カレ の リロン を、 たえず ゼンシンテキ な コウフン を もって、 ほとんど カンパツ の スキマ を さえ も もらさず に おっかけて くる の で ある。 この ため カノジョ は、 カノジョ の オリ の ナカ で セイゾウ する ビョウテキ な リロン の エイリサ の ため に、 ジシン の ハイ の ソシキ を ヒビ カソクドテキ に ハカイ して いった。
 カノジョ の かつて の まるく はった なめらか な アシ と テ は、 タケ の よう に やせて きた。 ムネ は たたけば、 かるい ハリコ の よう な オト を たてた。 そうして、 カノジョ は カノジョ の すき な トリ の ゾウモツ さえ も、 もう ふりむき も しなく なった。
 カレ は カノジョ の ショクヨク を すすめる ため に、 ウミ から とれた シンセン な サカナ の カズカズ を エンガワ に ならべて セツメイ した。
「これ は アンコ で おどりつかれた ウミ の ピエロ。 これ は エビ で クルマエビ、 エビ は カッチュウ を つけて たおれた ウミ の ムシャ。 この アジ は ボウフウ で ふきあげられた コノハ で ある」
「アタシ、 それ より セイショ を よんで ほしい」 と カノジョ は いった。
 カレ は ポウロ の よう に サカナ を もった まま、 フキツ な ヨカン に うたれて ツマ の カオ を みた。
「アタシ、 もう なにも たべたか ない の、 アタシ、 1 ニチ に イチド ずつ セイショ を よんで もらいたい の」
 そこで、 カレ は しかたなく その ヒ から よごれた バイブル を とりだして よむ こと に した。
「エホバ よ わが イノリ を ききたまえ。 ねがわくば わが サケビ の コエ の ミマエ に いたらん こと を。 わが ナヤミ の ヒ、 ミカオ を おおいたもう なかれ。 ナンジ の ミミ を ワレ に かたぶけ、 わが よぶ ヒ に すみやか に ワレ に こたえたまえ。 わが モロモロ の ヒ は ケムリ の ごとく きえ、 わが ホネ は タキギ の ごとく やかるる なり。 わが ココロ は クサ の ごとく うたれて しおれたり。 ワレ カテ を くらう を わすれし に よる」
 しかし、 フキツ な こと は また つづいた。 ある ヒ、 ボウフウ の ヨル が あけた ヨクジツ、 ニワ の イケ の ナカ から あの にぶい カメ が にげて しまって いた。
 カレ は ツマ の ビョウセイ が すすむ に つれて、 カノジョ の シンダイ の ソバ から ますます はなれる こと が できなく なった。 カノジョ の クチ から、 タン が 1 プン ごと に ではじめた。 カノジョ は ジブン で それ を とる こと が できない イジョウ、 カレ が とって やる より とる モノ が なかった。 また カノジョ は はげしい フクツウ を うったえだした。 セキ の おおきな ホッサ が、 チュウヤ を わかたず 5 カイ ほど トッパツ した。 その たび に、 カノジョ は ジブン の ムネ を ひっかきまわして くるしんだ。 カレ は ビョウニン とは ハンタイ に おちつかなければ ならない と かんがえた。 しかし、 カノジョ は、 カレ が レイセイ に なれば なる ほど、 その クモン の サイチュウ に セキ を つづけながら カレ を ののしった。
「ヒト の くるしんで いる とき に、 アナタ は、 アナタ は、 ホカ の こと を かんがえて」
「まあ、 しずまれ、 イマ どなっちゃ」
「アナタ が、 おちついて いる から、 にくらしい のよ」
「オレ が、 イマ あわてて は」
「やかましい」
 カノジョ は カレ の もって いる カミ を ひったくる と、 ジブン の タン を ヨコナグリ に ふきとって カレ に なげつけた。
 カレ は カタテ で カノジョ の ゼンシン から ながれだす アセ を トコロ を えらばず ふきながら、 カタテ で カノジョ の クチ から せきだす タン を たえず ふきとって いなければ ならなかった。 カレ の かがんだ コシ は しびれて きた。 カノジョ は クルシマギレ に、 テンジョウ を にらんだ まま、 リョウテ を ふって カレ の ムネ を たたきだした。 アセ を ふきとる カレ の タオル が、 カノジョ の ネマキ に ひっかかった。 すると、 カノジョ は、 フトン を けりつけ、 カラダ を ばたばた なみうたせて おきあがろう と した。
「ダメ だ、 ダメ だ。 うごいちゃ」
「くるしい、 くるしい」
「おちつけ」
「くるしい」
「やられる ぞ」
「うるさい」
 カレ は タテ の よう に うたれながら、 カノジョ の ざらざら した ムネ を なでさすった。
 しかし、 カレ は この クツウ な チョウテン に おいて さえ、 ツマ の ケンコウ な とき に カノジョ から あたえられた ジブン の シット の クルシミ より も、 むしろ スウダン の ヤワラカサ が ある と おもった。 してみると カレ は、 ツマ の ケンコウ な ニクタイ より も、 この くさった ハイゾウ を もちだした カノジョ の ビョウタイ の ほう が、 ジブン に とって は より コウフク を あたえられて いる と いう こと に キ が ついた。
 ――これ は シンセン だ。 オレ は もう この シンセン な カイシャク に よりすがって いる より シカタ が ない。
 カレ は この カイシャク を おもいだす たび に、 ウミ を ながめながら、 とつぜん あはあは と おおきな コエ で わらいだした。
 すると、 ツマ は また、 オリ の ナカ の リロン を ひきずりだして にがにがしそう に カレ を みた。
「いい わ、 アタシ、 アナタ が なぜ わらった の か ちゃんと しってる ん です もの」
「いや、 オレ は オマエ が よく なって、 ヨウソウ を したがって、 ぴんぴん はしゃがれる より は、 しずか に ねて いられる ほう が どんな に ありがたい か しれない ん だ。 だいいち、 オマエ は そうして いる と、 あおざめて いて キヒン が ある。 まあ、 ゆっくり ねて いて くれ」
「アナタ は、 そういう ヒト なん だ から」
「そういう ヒト なれば こそ、 ありがたがって カンビョウ が できる の だ」
「カンビョウ カンビョウ って、 アナタ は フタコトメ には カンビョウ を もちだす のね」
「これ は オレ の ホコリ だよ」
「アタシ、 こんな カンビョウ なら、 して ほしか ない の」
「ところが、 オレ が たとえば 3 プン-カン ムコウ の ヘヤ へ いって いた と する。 すると、 オマエ は ミッカ も ほったらかされた よう に いう では ない か、 さあ、 なんとか ヘントウ して くれ」
「アタシ は、 なにも モンク を いわず に、 カンビョウ が して もらいたい の。 いや な カオ を されたり、 うるさがられたり して カンビョウ されたって、 ちっとも ありがたい と おもわない わ」
「しかし、 カンビョウ と いう の は、 ほんらい うるさい セイシツ の もの と して できあがって いる ん だぜ」
「そりゃ わかって いる わ。 そこ を アタシ、 だまって して もらいたい の」
「そう だ、 まあ、 オマエ の カンビョウ を する ため には、 イチゾク ロウトウ を ひきつれて きて おいて、 カネ を 100 マン エン ほど つみあげて、 それから、 ハカセ を 10 ニン ほど と、 カンゴフ を 100 ニン ほど と」
「アタシ は、 そんな こと なんか して もらいたか ない の、 アタシ、 アナタ ヒトリ に して もらいたい の」
「つまり、 オレ が ヒトリ で、 10 ニン の ハカセ の マネ と、 100 ニン の カンゴフ と、 100 マン エン の トウドリ の マネ を しろ って いう ん だね」
「アタシ、 そんな こと なんか いって や しない。 アタシ、 アナタ に じっと ソバ に いて もらえば アンシン できる の」
「そら みろ、 だから、 ショウショウ は オレ の カオ が ゆがんだり、 モンク を いったり する くらい は ガマン を しろ」
「アタシ、 しんだら、 アナタ を うらんで うらんで うらんで、 そして、 しぬ の」
「それ くらい の こと なら、 ヘイキ だね」
 ツマ は だまって しまった。 しかし、 ツマ は まだ ナニ か カレ に きりつけたくて ならない よう に、 だまって ヒッシ に アタマ を とぎすまして いる の を カレ は かんじた。
 しかし カレ は、 カノジョ の ビョウセイ を すすます カレ ジシン の シゴト と セイカツ の こと も かんがえねば ならなかった。 だが、 カレ は ツマ の カンビョウ と スイミン の フソク から、 だんだん と つかれて きた。 カレ が つかれれば つかれる ほど、 カレ の シゴト が できなく なる の は わかって いた。 カレ の シゴト が できなければ できない ほど、 カレ の セイカツ が こまりだす の も きまって いた。 それ にも かかわらず、 コウシン して くる ビョウニン の ヒヨウ は、 カレ の セイカツ の こまりだす の に ヒレイ して まして くる の は あきらか な こと で あった。 しかも、 なお、 いかなる こと が あろう とも、 カレ が ますます ヒロウ して いく こと だけ は ジジツ で ある。
 ――それなら オレ は、 どう すれば よい の か。
 ――もう ここら で オレ も やられたい。 そう したら、 オレ は、 なに フソク なく しんで みせる。
 カレ は そう おもう こと も ときどき あった。 しかし、 また カレ は、 この セイカツ の ナンキョク を いかに して きりぬける か、 その ジブン の シュワン を イチド はっきり みたく も あった。 カレ は ヨナカ おこされて ツマ の いたむ ハラ を さすりながら、
「なお、 うき こと の つもれ かし、 なお うき こと の つもれ かし」
 と つぶやく の が クセ に なった。 ふと カレ は そういう とき、 ぼうぼう と した あおい ラシャ の ウエ を、 つかれた タマ が ひとり ひょうひょう と して ころがって いく の が メ に うかんだ。
 ――あれ は オレ の タマ だ、 しかし、 あの オレ の タマ を、 ダレ が こんな に デタラメ に ついた の か。
「アナタ、 もっと、 つよく さすって よ、 アナタ は、 どうして そう メンドウクサガリ に なった の でしょう。 モト は そう じゃ なかった わ。 もっと シンセツ に、 アタシ の オナカ を さすって くださった わ。 それだのに、 コノゴロ は、 ああ いた、 ああ いた」 と カノジョ は いった。
「オレ も だんだん つかれて きた。 もう すぐ、 オレ も まいる だろう。 そう したら、 フタリ が ここ で ノンキ に ねころんで いよう じゃ ない か」
 すると、 カノジョ は キュウ に しずか に なって、 ユカ の シタ から なきだした ムシ の よう な あわれ な コエ で つぶやいた。
「アタシ、 もう アナタ に さんざ ワガママ を いった わね。 もう アタシ、 これ で いつ しんだって いい わ。 アタシ マンゾク よ。 アナタ、 もう ねて ちょうだい な。 アタシ ガマン を して いる から」
 カレ は そう いわれる と、 フカク にも ナミダ が でて きて、 なでて いる ハラ の テ を やすめる キ が しなく なった。

 ニワ の シバフ が フユ の シオカゼ に かれて きた。 ガラスド は シュウジツ ツジバシャ の トビラ の よう に がたがた と ふるえて いた。 もう カレ は イエ の マエ に、 おおきな ウミ の ひかえて いる の を ながい アイダ わすれて いた。
 ある ヒ カレ は イシャ の ところ へ ツマ の クスリ を もらい に いった。
「そうそう もっと マエ から アナタ に いおう いおう と おもって いた ん です が」
 と イシャ は いった。
「アナタ の オクサン は、 もう ダメ です よ」
「はあ」
 カレ は ジブン の カオ が だんだん あおざめて いく の を はっきり と かんじた。
「もう ヒダリ の ハイ が ありません し、 それに ミギ も、 もう よほど すすんで おります」
 カレ は カイヒン に そって、 クルマ に ゆられながら ニモツ の よう に かえって きた。 はれわたった あかるい ウミ が、 カレ の カオ の マエ で シ を かくまって いる タンチョウ な マク の よう に、 だらり と して いた。 カレ は もう このまま、 いつまでも ツマ を みたく は ない と おもった。 もし みなければ、 いつまでも ツマ が いきて いる の を かんじて いられる に ちがいない の だ。
 カレ は かえる と すぐ ジブン の ヘヤ へ はいった。 そこ で カレ は、 どう すれば ツマ の カオ を みなくて すまされる か を かんがえた。 カレ は それから ニワ へ でる と シバフ の ウエ へ ねころんだ。 カラダ が おもく ぐったり と つかれて いた。
 ナミダ が ちからなく ながれて くる と、 カレ は かれた シバフ の ハ を タンネン に むしって いた。
「シ とは ナン だ」
 ただ みえなく なる だけ だ、 と カレ は おもった。 しばらく して、 カレ は みだれた ココロ を ととのえて ツマ の ビョウシツ へ はいって いった。
 ツマ は だまって カレ の カオ を みつめて いた。
「ナニ か フユ の ハナ でも いらない か」
「アナタ、 ないて いた のね」 と ツマ は いった。
「いや」
「そう よ」
「なく リユウ が ない じゃ ない か」
「もう わかって いて よ。 オイシャ さん が ナニ か いった のね」
 ツマ は そう ヒトリ きめて かかる と、 べつに かなしそう な カオ も せず だまって テンジョウ を ながめだした。 カレ は ツマ の マクラモト の トウイス に コシ を おろす と、 カノジョ の カオ を あらためて みおぼえて おく よう に じっと みた。
 ――もう すぐ、 フタリ の アイダ の トビラ は しめられる の だ。
 ――しかし、 カノジョ も オレ も、 もう どちら も おたがいに あたえる もの は あたえて しまった。 イマ は のこって いる もの は ナニモノ も ない。
 その ヒ から、 カレ は カノジョ の いう まま に キカイ の よう に うごきだした。 そうして、 カレ は、 それ が カノジョ に あたえる サイゴ の センベツ だ と おもって いた。
 ある ヒ、 ツマ は ひどく くるしんだ アト で カレ に いった。
「ね、 アナタ、 コンド モルヒネ を かって きて よ」
「どう する ん だね」
「アタシ、 のむ の。 モルヒネ を のむ と、 もう メ が さめず に このまま ずっと ねむって しまう ん ですって」
「つまり、 しぬ こと かい?」
「ええ、 アタシ、 しぬ こと なんか ちょっとも こわか ない わ。 もう しんだら、 どんな に いい か しれない わ」
「オマエ も、 いつのまにか えらく なった もの だね。 そこ まで いけば、 もう ニンゲン も いつ しんだって だいじょうぶ だ」
「でも、 アタシ ね、 アナタ に すまない と おもう のよ。 アナタ を くるしめて ばかり いた ん です もの。 ごめんなさい な」
「うむ」 と カレ は いった。
「アタシ、 アナタ の オココロ は そりゃ よく わかって いる の。 だけど、 アタシ、 こんな に ワガママ を いった の も、 アタシ が いう ん じゃ ない わ。 ビョウキ が いわす ん だ から」
「そう だ。 ビョウキ だ」
「アタシ ね、 もう ユイゴン も なにも かいて ある の。 だけど、 イマ は みせない わ。 アタシ の トコ の シタ に ある から、 しんだら みて ちょうだい」
 カレ は だまって しまった。 ――ジジツ は かなしむ べき こと なの だ。 それに、 まだ かなしむ べき こと を いう の は、 やめて もらいたい と カレ は おもった。

 カダン の イシ の ソバ で、 ダリヤ の キュウコン が ほりだされた まま シモ に くさって いった。 カメ に かわって どこ から か きた ノ の ネコ が、 カレ の あいた ショサイ の ナカ を のびやか に あるきだした。 ツマ は ほとんど シュウジツ クルシサ の ため に なにも いわず に だまって いた。 カノジョ は たえず、 スイヘイセン を ねらって カイメン に トッシュツ して いる トオク の ひかった ミサキ ばかり を ながめて いた。
 カレ は ツマ の ソバ で、 カノジョ に かせられた セイショ を ときどき よみあげた。
「エホバ よ、 ねがわくば イキドオリ を もて ワレ を せめ、 はげしき イカリ を もて ワレ を こらしめたもう なかれ。 エホバ よ、 ワレ を あわれみたまえ、 ワレ しぼみおとろう なり。 エホバ よ ワレ を いやしたまえ。 わが ホネ わななきふるう。 わが タマシイ さえ も いたく ふるいわななく。 エホバ よ、 かくて イク-その トキ を へたもう や。 シ に ありて は ナンジ を おもいいずる こと も なし」
 カレ は ツマ の すすりなく の を きいた。 カレ は セイショ を よむ の を やめて ツマ を みた。
「オマエ は、 イマ ナニ を かんがえて いた ん だね」
「アタシ の ホネ は どこ へ いく ん でしょう。 アタシ、 それ が キ に なる の」
 ――カノジョ の ココロ は、 イマ、 ジブン の ホネ を キ に して いる。 ――カレ は こたえる こと が できなかった。
 ――もう ダメ だ。
 カレ は コウベ を たれる よう に ココロ を たれた。 すると、 ツマ の メ から ナミダ が いっそう はげしく ながれて きた。
「どうした ん だ」
「アタシ の ホネ の イキバ が ない ん だわ。 アタシ、 どう すれば いい ん でしょう」
 カレ は コタエ の カワリ に また セイショ を いそいで よみあげた。
「カミ よ、 ねがわくば ワレ を すくいたまえ。 オオミズ ながれきたりて わが タマシイ に まで およべり。 ワレ タチド なき ふかき ヒジ の ナカ に しずめり。 ワレ フカミズ に おちいる。 オオミズ わが ウエ を あふれすぐ。 ワレ ナゲキ に よりて つかれたり。 わが ノド は かわき、 わが メ は わが カミ を まちわびて おとろえぬ」

 カレ と ツマ とは、 もう しおれた イッツイ の クキ の よう に、 ヒビ だまって ならんで いた。 しかし、 イマ は、 フタリ は カンゼン に シ の ジュンビ を して しまった。 もう ナニゴト が おころう とも こわがる もの は なくなった。 そうして、 カレ の くらく おちついた イエ の ナカ では、 ヤマ から はこばれて くる ミズガメ の ミズ が、 いつも しずまった ココロ の よう に きよらか に みちて いた。
 カレ の ツマ の ねむって いる アサ は、 アサ ごと に、 カイメン から アタマ を もたげる あたらしい リクチ の ウエ を スアシ で あるいた。 ゼンヤ マンチョウ に うちあげられた カイソウ は つめたく カレ の アシ に からまりついた。 ときには、 カゼ に ふかれた よう に さまよいでて きた ウミベ の ドウジ が、 なまなましい ミドリ の ノリ に すべりながら イワカド を よじのぼって いた。
 カイメン には だんだん シラホ が まして いった。 ウミギワ の しろい ミチ が ヒマシ に にぎやか に なって きた。 ある ヒ、 カレ の ところ へ、 チジン から おもわぬ スウィート ピー の ハナタバ が ミサキ を まわって とどけられた。
 ながらく カンプウ に さびれつづけた カレ の イエ の ナカ に、 はじめて ソウシュン が におやか に おとずれて きた の で ある。
 カレ は カフン に まみれた テ で ハナタバ を ささげる よう に もちながら、 ツマ の ヘヤ へ はいって いった。
「とうとう、 ハル が やって きた」
「まあ、 きれい だ わね」 と ツマ は いう と、 ほほえみながら やせおとろえた テ を ハナ の ほう へ さしだした。
「これ は じつに きれい じゃ ない か」
「どこ から きた の」
「この ハナ は バシャ に のって、 ウミ の キシ を マッサキ に ハル を まきまき やって きた のさ」
 ツマ は カレ から ハナタバ を うける と リョウテ で ムネイッパイ に だきしめた。 そうして、 カノジョ は その あかるい ハナタバ の ナカ へ あおざめた カオ を うずめる と、 こうこつ と して メ を とじた。
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ヒエイ

2014-12-07 | ヨコミツ リイチ
 ヒエイ

 ヨコミツ リイチ

 ケッコン して から 8 ネン にも なる のに、 キョウト へ いく と いう の は サダオ フサイ に とって マイトシ の キボウ で あった。 イマ まで にも フタリ は たびたび いきたかった の で ある が、 フサイ の シゴト が くいちがったり、 コドモ に テカズ が かかったり して、 イッカ ひきつれて の カンサイ-ユキ の キカイ は なかなか こなかった。 それ が キョウト の ギケイ から コトシ こそ は チチ の ジュウサン カイキ を やりたい から ぜひ くる よう に と いって きた ので、 ホカ の こと は アト へ おしやって いよいよ 3 ガツ ゲジュン に キョウ へ たった。 サダオ は ツマ の チエコ が トウキョウ イセイ は はじめて なので、 サダオ の ヨウネンキ を すごした トチ を みせて おく の も よかろう と おもい、 ヒトツ は コトシ ショウガッコウ へ はじめて あがる チョウナン の キヨシ に、 チチ の はじめて あがった ショウガッコウ を みせて やりたく も あった ので、 ヒトリ で ときどき きて いる ケイハン の トチ にも かかわらず、 コノタビ は アンナイヤク の こと とて キボネ も おれた。
 サダオ フサイ は ヤド を サダオ の アネ の イエ に した。 ヨクジツ は アネ の コドモ の ムスメ ヒトリ と サダオ の コドモ の チョウナン ジナン と、 それに サダオ フサイ に アネ、 ソウゼイ 6 ニン で フボ の ホネ を おさめて ある オオタニ の ノウコツドウ へ まいった。 すでに フボ は しんで いる とは いえ、 サダオ は コドモ を みせ に ドウ へ いく の は はじめて の こと とて ソリ を うった イシバシ を わたる エリクビ に ふきつける カゼ も おだやか に かんぜられた。 カレ は まだ フタツ に より ならぬ ジナン の ほう を かかえて、 もう サカリ を すぎた コウバイ を あおぎながら イシダン を のぼった。 キヨシ より 1 ネン ウエ の アネ の ムスメ の トシコ と キヨシ とは、 もう たかい イシダン を マッサキ に かけのぼって しまって みえなく なった。 サダオ は イシダン を のぼる クルシサ に カラダ が よほど よわって きて いる の を かんじた。 カレ は その トチュウ で、 コトシ つぎつぎ に しんで いった タクサン の ジブン の ユウジン の こと を おもいながら、 ふと、 ジブン が しんで も コドモ たち は こうして くる で あろう と おもったり、 その とき は ジブン は どんな オモイ で ドウ の ナカ から のぞく もの で あろう か と おもったり、 ヨ の ツネ の ドウ へ まいる ゼンナン ゼンニョ の ムネ に うかぶ カンガエ と どこ も ちがわぬ クウソウ の うかぶ の に、 しばらく は ヘイコウ しながら コドモ ら の アト を おって いった。 しかし サダオ は チエコ や アネ を みる と、 カノジョ ら は いっこう フボ の ホネ の マエ に でる カンガイ も なさそう に、 アタリ の フウケイ を しょうしながら たのしげ に はなして いる の を みる と、 それでは この ナカ で イチバン に コフウ なの は ジブン で あろう か と おもったり した。 そのくせ キョウト へは イクド も ヒトリ で きて いながら、 まだ カレ は イチド も ボサン を しなかった の で ある。
 サキ に いった コドモ ら は サダオ ら が まだ イシダン を のぼりきらない うち に、 もう ウエ の ケイダイ を オッカケアイ を して きた アシ で、 また イシダン を おりて くる と、 コンド は ハハオヤ たち の スソ の シュウイ を きゃっきゃっ と コエ を たてて おっかけあった。
「しずか に なさい しずか に、 また セキ が でます よ」 と アネ は トシコ を しかった。
 しかし、 コドモ たち は はじめて あった イトコ ドウシ なので、 オヤ たち の コエ を ミミ にも いれず また すぐ カイダン を かけあがって いった。
 イチドウ そろって ウエ に のぼり、 ノウコツドウ へ サンパイ して、 それから いよいよ ホンドウ で キョウ を あげて もらわねば ならぬ の で ある が、 ズキョウ の シタク の できる まで 6 ニン は ニワムキ の ヘヤ に いれられた。 そこ は ヒノメ の さした こと も なかろう と おもわれる よう な、 インキ な つめたい ヘヤ、 タタミ は イタ の よう に しまって かたく、 テンジョウ は たかかった。 しかし、 シュウイ の あつい キンデイ の フスマ は エイトク-フウ の ケンラン な カチョウ で イキグルシサ を かんじる ほど で あった。 サダオ は ヘヤ の イチグウ に 2 マイ に たたんで たてて ある ふるい ビョウブ の エ が メ に つく と、 もう コドモ たち の こと も わすれて ながめいった。 ハ の おちつくした チヘン の ハヤシ の トコロドコロ に、 モクレン らしい しろい ハナ が ユメ の よう に うきあがって いて、 その シタ の ミズギワ から 1 ワ の サギ が いましも とびたとう と して いる ところ で ある が、 おぼろ な ハナ や ハヤシ に ひきかえて その サギ 1 ピキ の セイドウ の キリョク は、 おどろく ばかり に シュンケイ な カンジ が した。 サダオ は これ は ソウタツ では ない か と おもって しばらく メ を はなさず に いる と、 いつのまにか チャ が でて いた。 コドモ ら は サトウ の ついた センベイ を おとなしく たべて いた が、 サダオ の スエ の フタツ に なる コ だけ は、 ほそく わりちらけて サンラン して いる カシ の ハヘン の ナカ で、 およぐ よう に ハラバイ に なり、 カオ から リョウテ に かけて カシ の カケラ-だらけ に した まま、 サダオ の みて いる ビョウブ を アシ で ぴんぴん イキオイ よく けりつけた。
「こりゃこりゃ」
 サダオ は ジナン の アシ の とどかぬ よう に ビョウブ を とおのける と、 また あかず ながめて いた。 しかし、 ヒバチ に ヒ の ある のに、 ひどく そこ は さむかった。 これ では また ミナ カゼ に やられる どころ か、 サダオ ジシン もう ツヅケサマ に クサメ が でて きた。 その うち に ようやく キョウ の ヨウイ も できた ので ホンドウ へ アンナイ された が、 きて みる と、 ここ は いっそう さむい うえ に、 もちろん ヒバチ も ザブトン も なかった。 サダオ の ヨコ へ トシコ、 キヨシ と ならんで、 サダオ の アネ が カレ の ジナン を だいて いる ソバ へ チエコ が すわった。 みわたした ところ イジョウ は なかった が、 アネ に だかれて いる ジナン の つきだして いる アシ に、 クツ が まだ ソノママ に なって いた。 しかし、 ジナン の クツ は まだ シタ へも おろした こと も なく、 タビ-ガワリ の クツ と いえない もの でも なかった ので、 サダオ は チュウイ も せず に だまって ソウリョ の でて くる ほう を ながめて いる と、 アネ は それ を みつけた らしい。
「あら、 ケイ ちゃん、 えらそう に クツ を はいた まま や がな。 こりゃ ども ならん」
 と いって、 わらいながら ケイジ の クツ を とろう と した。
「よい よい」 と サダオ は いった。
「そう やな、 アイキョウ が あって これ も オジイサン、 みたい やろ」
 アネ の コトバ に ケイジ の クツ を ぬがそう と した チエコ も ソノママ に した。 キヨシ と トシコ とは ブツダン の ほう を イチド も みず に、 まだ イシダン から の フザケアイ を つづけながら、 カタ を つぼめて 「くっくっ」 と ワライゴエ を しのばせて すわって いた。
 ズキョウ が はじまる と イチドウ は だまって キョウ の おわる の を まって いた が、 ウシロ から ふきつけて くる カゼ の サムサ に、 サダオ は ながい キョウ の はやく ちぢまる こと ばかり を ねがって やまなかった。 しかし、 もし これ が チチ の カイキ では なくって タニン の だったら、 こんな ネガイ も おこさず に いる だろう と おもう と、 いつまでも あまえかかる こと の できる の は、 やはり チチ だ と、 セイゼン の チチ の スガタ が あらためて アタマ に えがきだされて くる の だった。 カレ は チチ が すき で あった ので、 チチ に しにわかれて から は トシゴト に いっそう チチ に あいたい と おもう ココロ が つのった。 チチ は サダオ の 25 サイ の とき に ケイジョウ で ノウイッケツ の ため に たおれた ので、 サダオ は チチ の シニメ にも あって いなかった。 チチ が しんで から 10 ネン-メ に、 カレ は センパイ や チジン たち と ヒコウキ で ケイジョウ まで とんだ こと が あった が、 その とき も キ が ケイジョウ の ソラ へ さしかかる と、 まだ その アタリ の クウキ の ナカ に、 チチ が うろうろ さまよって いる よう に おもわれて、 ナミダ が うきあがって きた の を カレ は おもいだした。
 ようやく ながい ズキョウ が すんで、 イチドウ は ひろい タカエン に たつ と、 ヒ の さしかかって きた シガイ が イチボウ の ウチ に みわたされた。
「さあさあ、 これ で ヤクメ も すみました よ」
 そう いう アネ の アト から、 チエコ も ショール を ひろげながら、 「ホント に、 これ で はればれ しました わ」 と いって タカエン の ダン を おりた。
 アト は もう サダオ は カナイ イチドウ を つれて、 カッテ に どこ へ でも いけば よかった。
 ツギ の ヒ から カレ は コドモ を アネ に あずけ、 チエコ と フタリ で オオサカ と ナラ へ いった。 それ を すます と みのこした キョウト の メイショ を まわって、 サイゴ に ヒエイザン-ゴシ に オオツ に でて みよう と サダオ は おもった。 オオツ は カレ が サイショ に ガッコウ へ いった トチ でも あり、 ことに 6 ネン を ソツギョウ する とき に うえた ちいさな ジブン の サクラ が 20 ネン の アイダ に、 どれほど おおきく なって いる か みたかった。
 ヒエイ ノボリ の ヒ には、 マイニチ あるきまわった ため サダオ も チエコ も ソウトウ に つかれて いた が、 ジナン を アネ の イエ に のこして キヨシ を つれ、 ケーブル で ヤマ に のぼった。 サダオ は ヒエイザン へは ショウガッコウ の とき に オオツ から 2 ド のぼった キオク が ある が、 キョウト から は はじめて で あった。 チエコ は ケーブル が うごきだす と、 キモチ が わるい と いって カオ を すこしも あげなかった。 しかし、 のぼる に つれて カスミ の ナカ に しずんで いく キョウ の マチ の カワラ は うつくしい と サダオ は おもった。
「みなさい。 ヒコウキ に のる と ちょうど こんな だ」 と サダオ は キヨシ の カタ を つかまえて いった。
 シュウテン で おりて から チョウジョウ へ でる ミチ が フタツ に わかれて いた ので、 サダオ は サキ に たって ヒロバ の ナカ を つきぬけて いく と、 ミチ は ハヤシ の ナカ へ はいって しまって だんだん と クダリ に なった。
「こりゃ おかしい。 まちがった ぞ」
 サダオ は ミチ を ききただそう にも ツウコウニン が いない ので また アト へ ひきかえした。 チエコ は ツネヅネ から キョウ オオサカ なら どこ でも しって いる カオツキ の サダオ の シッパイ に、
「だから、 えらそう な カオ は する もん じゃ ありません わ」 と いって やりこめた。
 ユキドケ で びしょびしょ の ミチ を ようやく モト へ もどる と、 ヒトクミ の ホカ の ヒトタチ と イッショ に なった ので その アト から サダオ たち も ついて いった。 ほそい ヤマミチ は ヒ の あった ところ を とけくずしながら も、 ヤマカゲ は ザンセツ で ふむ たび に ゾウリ が なった。 チエコ は ときどき たちどまって、 まだ ユキ を かぶって いる タンバ から セッツ へ かけて のびて いる ヤマヤマ の ミネ を みわたしながら、
「おお きれい だ きれい だ」 と カンタン しつづけた。
 7~8 チョウ も あるく と、 また ハリガネ に つるされた ノリモノ で タニ を わたらねば ならなかった が、 これ は ケーブル より も いっそう ノリグアイ が ヒコウキ に にて いた。
「この ほう が ヒコウキ に にて いる よ」
「これ なら キモチ が いい けど、 ケーブル は なんだか いや だわ」
 そう いう チエコ に だきかかえられて いる キヨシ は、
「ほらほら、 また きた」 と とつぜん さけんで ゼンポウ を ゆびさした。
 みる と ムコウ から あたらしく したてて きた クルマ が、 こちら を むかって ういて きた。 ミナ が しばらく クチ を ぼんやり あけて その クルマ の ほう を おもしろそう に ながめて いた。 すると その トタン に、 チュウケイ の ハシラ の ところ で、 キュウ に ごとり と シャタイ が イチド ずりさがった。 イチドウ は イキノネ を とめて たがいに カオ を みあわした が、 チュウケイ の ハシラ が いきすぎた クルマ の コウホウ に みえる と、 はじめて ナットク した らしく また キュウ に コエ を あげて、 あれ だ あれ だ と いって わらいだした。 しかし、 その とき には もう あたらしく ゼンポウ から きた クルマ は、 ミナ の びっくり して いる カオ の マエ を いきすぎて いた ので、 ソウホウ の クルマ は アンシン の アト の ヨウキ な キモチ で、 たがいに テヌグイ を ふりあって いっそう マエ より はしゃいだ。
 クルマ を おりて はじめて チ を ふんだ とき、 キヨシ は おおきな コエ で、
「こわかった ね、 さっき、 ごとり って いう ん だ もの。 ボク、 おっこちた か と おもった」 と チエコ に いった。
 すると、 クルマ を おりて から もう ずっと ゼンポウ を あるいて いる ヒトビト まで、 ふりかえって また どっと わらいだした。
 チョウジョウ の コンポン チュウドウ まで は まだ 18 チョウ も ある と いう ので、 カゴ を どう か と サダオ は おもった が、 チエコ は あるきたい と いった。 カゴカキ は しきり に ユキドケ の ミチ の ワルサ を セツメイ しながら 3 ニン の アト を おって きて やめなかった。 しかし、 サダオ も チエコ も アイテ に せず あるいて いく と、 なるほど ユキ は ゾウリ を うめる ほど の フカサ で どこまでも のびて いた。
「どう だ、 のる か」 と また サダオ は ウシロ を ふりかえった。
「あるきましょう よ。 こんな とき でも あるかなければ、 なにしに きた の か わからない わ」 と チエコ は いった。
 サダオ には、 ミチ は どこまでも ヘイタン な こと は わかって いた が、 キヨシ も よわる し、 ぬれた ゾウリ の ツメタサ は アト で こまる と おもった ので、
「のろう じゃ ない か。 キモチ が わるい よ」 と また すすめた。
「アタシ は のらない わ、 だって ノボリ が もう ない ん でしょう」 と チエコ は まだ ガンキョウ に ヒトリ サキ に たって ユキ の ナカ を あるいて いった。
「それじゃ、 こまったって しらない ぞ」 と サダオ は いう と シリ を はしょった。
 ミチ は くらい スギ の ミツリン の ナカ を どこまでも つづいた。 チエコ と サダオ は ナカ に キヨシ を はさんで、 かたそう な ユキ の ウエ を えらびながら わたって いった。 ひやり と はださむい クウキ の ホオ に あたって くる ナカ で、 ウグイス が しきり に ハオト を たてて ないて いた。 サダオ は あるきながら も、 デンギョウ ダイシ が ミヤコ に ちかい この チ に ホンキョ を さだめて コウヤサン の コウボウ と タイリツ した の は、 デンギョウ の マケ だ と ふと おもった。 これ では キョウ に あまり ちかすぎる ので、 よかれ あしかれ、 キョウト の エイキョウ が ひびきすぎて こまる に ちがいない の で ある。 そこ へ いく と コウボウ の ほう が イチダン ウエ の センリャクカ だ と おもった。 サダオ は コウヤサン も しって いた が、 あの チ を えらんだ コウボウ の ガンリキ は 1000 ネン の スエ を みつめて いた よう に おもわれた。 もし デンギョウ に ジシン の ノウリョク に たよる より も、 シゼン に たよる セイシン の ほう が すぐれて いた なら、 すくなくとも ここ より ヒラ を こして、 エチゼン の サカイ に コンポン チュウドウ を おく べき で あった と かんがえた。 もし そう する なら、 キョウ から は ビワコ の シュウシュウ と リクロ の ベン と を かねそなえた うえ に、 ハイゴ の テキ の ミイデラ も ガンチュウ に いれる ヨウ は ない の で あった――。
 こういう よう な ムソウ に ふけって あるいて いる サダオ の アタマ の ウエ では、 また いっそう ウグイス の ナキゴエ が さかん に なって きた。 しかし、 サダオ は それ には あまり きづかなかった。 カレ は ジシン に たよる デンギョウ の ショウジョウテキ な コウドウ が、 イマ げんに、 まだ どこ まで つづく か まったく わからぬ ユキ の ナカ を、 カゴ を すてて トホ で あるきぬこう と して いる ツマ の チエコ と ドウヨウ だ と おもった。 それなら イマ の ジブン は コウボウ の ほう で あろう か。 こう おもう と、 サダオ は また コウボウ の ダイジョウテキ な オオキサ に ついて かんがえた。 できうる かぎり シゼン の チカラ を リヨウ して、 キョウト の セイフ と タイキュウリョク の イッテン で たたかった の で あった。 つまり、 イマ の サダオ に ついて かんがえる なら、 カゴ を リヨウ して ユクサキ の フメイ な ユキミチ を わたろう と いう の で ある。 コウボウ は セイフ と コウヤサン との アイダ に ムリ が できる と ユクエ を くらまし、 モンダイ が カイケツ する と また でて きた。 そうして ショウガイ アンノン に ヨ を おくった コウボウ は、 この エイザン から キョウト の ズジョウ を ジシン の ガクリョク と ジンカク と で たえず おしつけた デンギョウ の ムボウサ に くらべて、 セイフ と いう シゼンリョク より も おそる べき コノヨ の サイジョウ の キョウケン を ソウジュウ する ジュッサク を こころえて いた の で ある。 サダオ は サイジョウ の キョウケン を かんがえず して おこなう コウイ を、 ミ を すてた ダイジョウ の セイシン とは かんがえない セイシツ で あった。 なぜか と いう なら、 もし ジガ を おしすすめて いく デンギョウ の オコナイ を ジゾク させて いく なら、 カレ の シゴ に つづく ギョウジャ の クリョ は、 ヒツゼンテキ に テンダイ イッパ に ながれる ソコヂカラ を ホウカイ させて いく の と ひとしい から で ある。
 げんに サダオ は、 チエコ と ジブン との アイダ に はさまれて、 フキゲン そう に とぼとぼ あるいて いる コ の キヨシ の アシツキ を みて いる と、 いつまで フタリ の アユミ に つづいて こられる もの か と、 たえず フアン を かんじて ならなかった。 その うち に しつこく ついて きた カゴカキ は、 いつのまにか いなく なって いた が、 それ に かわって、 キヨシ の アシツキ を みて いた バアサン が まだ ついて きて、 コドモ を サカモト クダリ の ケーブル の ところ まで おわせて もらいたい と いって きた。
「どう する。 キヨシ だけ おぶって もらわない か」 と サダオ は また いった。
「いい わ。 あるける わね」 と チエコ は ウシロ の キヨシ を ふりかえった。
「それでも、 まだまだ とおい どす え。 こんな オコサン で あるけ や しまへん が、 やすう まけときます わ」 と バアサン は いいながら、 コンド は キヨシ と サダオ の アイダ へ わりこんで きた。
「でも、 この コ は アシ が つよい ん です から、 もう いい ん です の」
「おぶって もらえ おぶって もらえ」 と サダオ は いった。
「だって、 もう すぐ なん でしょう」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「まだまだ あります え。 やすう オマケ しときます がな。 20 セン で いきます わ。 どうせ かえります の やで、 ひとつ おわして おくんなはれ」
 あくまで すりよって あるいて くる バアサン に、 チエコ も コンマケ が した らしく、
「キヨシ ちゃん、 どう する。 オンブ して もらう?」 と たずねた。
「ボク、 あるく」 と キヨシ は いって バアサン から ミ を はなした。
 こんな とき には、 ながく ヒトリゴ だった キヨシ は いつも ハハオヤ の ほう の ミカタ を する に きまって いた。
「アナタ サカモト まで かえる ん です の」 と チエコ は バアサン に たずねた。
「ええ、 そう です。 マイニチ かよって ます の や」
「オンブ して もらう ヒト ありまして、 こんな とこ?」
「コノゴロ は あんまり おへん どす な。 マイニチ テブラ どす え」 と バアサン は いった が、 もう キヨシ を おう の は ダンネン した らしく、 タビ の ミチヅレ と いう カオツキ で チエコ と ノンキ に ならんで あるきだした。
 サダオ は かたむきかかった キモチ も ようやく キンコウ の とれて くる の を かんじた。 しかし、 キヨシ は ハハ と チチ と が ジブン の こと で サッキ から ケンアク に なりかかって いる の を かんじて いる ので、 サダオ が ソバ へ ちかづく と すぐ チエコ の ミヂカ へ ひっついて あるいた。 サダオ は これから ツギ の ケーブル まで この バアサン が ついて くる の だ と おもう と、 キモチ を なおして くれた バアサン で ある にも かかわらず、 サッキ の イラダタシサ が いつ また からみついて くる か しれない フアンサ を かんじた ので、 コンド は いちばん セントウ に たって あるいて いった。 カレ は あるきながら も、 イマ ヒトリ ここ を あるいて いた の では イマ イジョウ の マンゾク を かんじない で あろう と おもった。 カレ は イクド も キョウ から この ミチ を とおった に ちがいない デンギョウ が、 この アタリ で、 どんな マンゾク を かんじよう と した の か と、 ふと ユキミチ を あるいて うかぶ カレ の コドク な シンリ に ついて かんがえて みた。 デンギョウ とて イッサン を ここ に おく イジョウ は、 シュジョウ サイド の ネンガン も この アタリ の サビシサ の ナカ では、 ボンプ の シントウ を キョライ する ザツネン と さして ちがう はず は あるまい と おもわれた。 しかし、 その とき、 サダオ の アタマ の ナカ には、 キョウト を みおろし、 イッポウ に ビワコ の ケイショウ を みおろす この サンジョウ を えらんだ デンギョウ の マンゾク が キュウ に わかった よう に おもわれた。 それ に ひきかえて、 イマ の ジブン の マンゾク は、 ただ ナニゴト も かんがえない ホウシン の キョウ に いる だけ の マンゾク で よい の で ある が、 それ を ヨウイ に できぬ ジブン を かんじる と、 イットキ も はやく ユキミチ を ぬけて ミズウミ の みえる ヤマヅラ へ まわりたかった。
 まもなく、 イマ まで くらかった ミチ は キュウ に ひらけて きて、 ニッコウ の あかるく さして いる ヒロバ へ でた。 そこ は コンポン チュウドウ の ある イッサン の チュウシン チタイ に なって いた が、 ヒロバ から いくらか クボミ の ナカ に ある チュウドウ の ヒサシ から は、 ユキドケ の シタタリ が アメ の よう に ながれくだって いた。
「やっと きた ぞ」 サダオ は ウシロ の チエコ と キヨシ の ほう を ふりかえった。
 チュウドウ の マエ まで いく には ゾウリ では いけそう も ない ので、 3 ニン は すぐ ヒロバ の ハシ に たって シタ を みおろした。 ソウシュン の ヘイヤ に つつまれた ミズウミ が タイヨウ に かがやきながら、 ガンカ に ひろびろ と よこたわって いた。
「まあ おおきい わね。 ワタシ、 ビワコ って こんな に おおきい もん だ とは おもわなかった わ。 まあ、 まあ」 と チエコ は いった。
 サダオ も ひさしく みなかった ビワコ を ながめて いた が、 ショウネンキ に ここ から みた ビワコ より も、 シキサイ が あわく おとろえて いる よう に かんじられた。 ことに ヒトメ で それ と しれた カラサキ の マツ も、 イマ は まったく かれはてて どこ が カラサキ だ か わからなかった。 しかし、 キョウト の キンコウ と して イッサン を ひらく には、 いかにも ここ は リソウテキ な チ だ と おもった。 ただ ナンテン は あまり に ここ は リソウテキ で ありすぎた。 もし こういう バショ を センユウ した なら、 シュウイ から あつまる センボウ シッシ の しずまる ジキ が ない の で ある。 サダオ は この チ を えられた デンギョウ の チイ と ケンイ の タカサ を いまさら に かんじた が、 たえず キョウト と ビワコ を ガンカ に ふみつけて セイカツ した シンリ は、 デンギョウ イゴ の ソウリョ の ソボウ な コウイ と なって センオウ を おこなった こと など、 ヨウイ に ソウゾウ できる の で あった。 これ を ぶちくだく ため には、 ノブナガ の よう な ヨーロッパ の シソウ の コンゲン で ある ヤソキョウ の シンジャ で なければ、 できにくい に ちがいない。 サダオ は シンブツ の アンチジョ が このよう な コウイチ に ある の は それ を シュゴ する ソウリョ の ココロ を かきみだす サヨウ を あたえる ばかり で、 かえって シュジョウ を すくいがたき に みちびく だけ だ と おもわれた。 それ に くらべて シンラン の ひくき に ついて マチ へ ネ を おろし、 チョウカ の ナカ へ ながれこんだ リアリスティック な セイシン は、 すべて、 ジュウシン は シタ へ シタ へ と おろす べし と といた ロウシ の セイシン と にかよって いる ところ が ある よう に おもわれた。
 しかし、 それにしても、 サダオ は ビワコ を キャッカ に みおろして も、 まだ ヨウイ に ホウシン は えられそう にも なかった。 デンギョウ とて、 トキ の セイフ を うごかす こと に ムチュウ に なる イジョウ に、 しょせん は ホウシン を えん と して チュウシン を この サンジョウ に おいた に ちがいない で あろう が、 それなら、 それ は カンゼン な アヤマリ で あった の だ。 サダオ は コンポン チュウドウ が ヒロバ より ひくい クボチ の ナカ に たてられて、 ガンカ の チョウボウ を きかなく させて ごまかして ある の も、 クリョ の イッサク から でた の で あろう と おもった が、 すでに、 チュウドウ ソノモノ が サンジョウ に ある と いう ロウマン シュギテキ な ケッテン は、 イッパ の ハンエイ に トウゼン の アクエイキョウ を あたえて いる の で ある。
 サダオ は キヨシ と チエコ を つれて、 いくらか クダリカゲン に なって ミチ を また あるいた。 ここ は キョウ-ムキ の ミチ より ユキ も きえて あかるい ため でも あろう。 ウグイス の ナキゴエ は マエ より いちだん と にぎやか に なって きた。 カレ は トチュウ、 あおい ペンキ を ぬった ウグイス の コエ を まねる タケブエ を うって いた ので、 それ を かって ヒトツ ジブン が もち、 フタツ を キヨシ に やった。 その ちいさな フエ は、 シリ を おさえる ユビサキ の カゲン ヒトツ で、 イロイロ な ウグイス の ナキゴエ を だす こと が できた。 サダオ は キヨシ に ヒトコエ ふいて みせる と、 もう ツカレ で ふくれて いた キヨシ も キュウ に にこつきだして ジブン も ふいた。 あるく アト から せまって くる の か、 ウグイス の コエ は わきあがる よう に アタマ の ウエ で しつづけた。
 サダオ は ふく たび に だんだん ジョウタツ する フエ の オモシロサ に しばらく たのしんで あるいて いる と、 キヨシ も リョウテ の フエ を かわるがわる ふきかえて は、 キ の コズエ から すべりながれる ニッコウ の ハンテン に カオ を そめながら、 のろのろ と やって きた。
「まるで コドモ フタリ つれて きた みたい だわ。 はやく いらっしゃい よ」
 チエコ は キヨシ の くる の を まって いった。 キヨシ は ハハオヤ に いわれる たび に フタリ の ほう へ いそいで かけて きた が、 また すぐ たちどまった。 ミチ が キ の ない ガケギワ に つづいて ウグイス の コエ も しなく なる と、 コンド は キヨシ と サダオ と が マエ と ウシロ と で タケブエ を なきかわせて ウグイス の マネ を して あるいた。 その うち に キヨシ も いつのまにか ジョウズ に なって、
「けきょ、 けきょ、 ほーけっきょ」
 と そんな ふう な ところ まで こぎつける よう に なって きた。
「アイツ の ウグイス は まだ コドモ だね。 オレ の は オヤドリ だぞ。 オマエ も ひとつ やって みない か」
 サダオ は わらいながら チエコ に そう いって、
「ほー、 ほけきょ、 ほー、 ほけきょ」 と やる の で あった。
 チエコ は アイテ に しなかった が、 ガケ を まがる たび に あらわれる ミズウミ を みて は、 テ を ヒタイ に あてながら たのしそう に たちどまって ながめて いた。
 まもなく 3 ニン は ケーブル まで ついた が、 まだ くだる ジカン まで すこし あった ので、 ふかい タニマ に つきでた ミネ の アタマ を きりひらいた テンボウジョウ の トッタン へ いって、 そこ の ベンチ に やすんだ。 サダオ は カヤ の ミツリン の はえあがって きて いる するどい コズエ の アイダ から ミズウミ を みて いた が、 ベンチ の ウエ に アシ を くむ と アオムキ に ながく なった。 カレ は ヒロウ で セナカ が べったり と イタ に へばりついた よう に かんじた。 すると、 だんだん イタ に すわれて いく ヒロウ の カイカン に ココロ は はじめて クウキョ に なった。 カレ は もう ソバ に いる コ の こと も ツマ の こと も かんがえなかった。 そうして メ を イッテン の クモリ も ない ソラ の ナカ に はなって ぼんやり して いる と、 ふと ジブン が イマ しねば ダイオウジョウ が できそう な キ が して きた。 もう ノゾミ は ジブン には なにも ない と カレ は おもった。 いや、 マクラ が ヒトツ ほしい と おもった が、 それ も なく とも べつに たいした こと でも なかった。
 チエコ も つかれた の か だまって うごかなかった が、 キヨシ だけ は まだ、 「ほー、 けっきょ、 けっきょ」 と こんよく くりかえして フエ を ふいた。
 サダオ は しばらく ねた まま ニッコウ に あたって いた が、 もう まもなく ハッシャ の ジコク に なれば、 イマ の ムジョウ の シュンカン も たちまち カコ の ユメ と なる の だ と おもった。 その とき、 キュウ に カレ の アタマ の ナカ に、 コ の ない ジブン の ユウジン たち の カオ が うかんで きた。 すると、 それ は ありう べからざる キミョウ な デキゴト の よう な キ が して きて、 どうして コ の ない のに ヒビ を ニンタイ して いく こと が できる の か と、 ムガ ムチュウ に あばれまわった エンリャクジ の ソウリョ たち の カオ と イッショ に なって、 しばらく は ユウジン たち の カオ が カレ の ノウチュウ を さらなかった。 しかし、 これ とて、 ない モノ は ない モノ で、 ある モノ の ボンノウ の イヤラシサ を おかしく ながめて くらしおわる の で あろう と おもいなおし、 ふと また サダオ は テンジョウ の すみわたった チュウシン に メ を むけた。
「カミガミ よ ショウラン あれ、 ワレ ここ に コ を もてり」
 カレ は マナイタ の ウエ に ダイ の ジ に なって よこたわった よう に、 ベンチ の ウエ に のびのび と よこたわって いた。 カレ は デンギョウ の こと など もう イマ は どうでも よかった。 しかし、 ジカン は イガイ に はやく たった と みえて、 うつらうつら ネムケ が さして きかかった とき、
「もう キップ を きって いまして よ。 はやく いかない と おくれます わ」 とつぜん チエコ が いった。
「ハッシャ か、 なんでも こい」 と サダオ は ふてぶてしい キ に なって おきあがった。 カレ は サカミチ を エキ の ほう へ かけのぼって いく チエコ と キヨシ の セナカ を ながめながら、 アト から ヒトリ おくれて あるいて いった。
 サダオ が クルマ に のる と すぐ ケーブル の ベル が なった。 つづいて クルマ は ミズウミ の ナカ へ ささりこむ よう に 3 ニン を のせて マッスグ に すべって いった。
「ほー、 けきょけきょ、 ほー、 けきょけきょ」 と キヨシ は マド に しがみついた まま まだ フエ を ふきつづけて いた。
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わらわれた コ

2014-01-20 | ヨコミツ リイチ
 わらわれた コ

 ヨコミツ リイチ

 キチ を どのよう な ニンゲン に したてる か と いう こと に ついて、 キチ の イエ では バンサン-ゴ マイヨ の よう に ロンギ せられた。 また その ハナシ が はじまった。 キチ は ウシ に やる ゾウスイ を たきながら、 ヒトリ シバ の キレメ から ぶくぶく でる アワ を おもしろそう に ながめて いた。
「やはり キチ を オオサカ へ やる ほう が いい。 15 ネン も シンポウ した なら、 ノレン が わけて もらえる し、 そう すりゃ あそこ だ から すぐに カネ も もうかる し」
 そう チチオヤ が いう の に ハハオヤ は こう いった。
「オオサカ は ミズ が わるい と いう から ダメ ダメ。 いくら オカネ を もうけて も、 はやく しんだら なにも ならない」
「ヒャクショウ を させば いい、 ヒャクショウ を」
 と アニ は いった。
「キチ は シュコウ が コウ だ から シガラキ へ オチャワン-ヅクリ に やる と いい のよ。 あの ショクニン さん ほど いい オカネモウケ を する ヒト は ない って いう し」
 そう クチ を いれた の は ませた アネ で ある。
「そう だ、 それ も いい な」
 と チチオヤ は いった。
 ハハオヤ だけ は いつまでも だまって いた。
 キチ は ナガシ の くらい タナ の ウエ に ひかって いる ガラス の サカビン が メ に つく と、 ニワ へ おりて いった。 そして ビン の クチ へ ジブン の クチ を つけて、 あおむいて たって いる と、 まもなく ヒトナガレ の サケ の シズク が シタ の ウエ で ひろがった。 キチ は クチ を ならして もう イチド おなじ こと を やって みた。 コンド は ダメ だった。 で、 ビン の クチ へ ハナ を つけた。
「またっ」 と ハハオヤ は キチ を にらんだ。
 キチ は 「へへへ」 と わらって ソデグチ で ハナ と クチ と を なでた。
「キチ を サカヤ の コゾウ に やる と いい わ」
 アネ が そう いう と、 チチ と アニ は おおきな コエ で わらった。
 その ヨル で ある。 キチ は マックラ な ハテシ の ない ノ の ナカ で、 クチ が ミミ まで さけた おおきな カオ に わらわれた。 その カオ は どこ か ショウガツ に みた シシマイ の シシ の カオ に にて いる ところ も あった が、 キチ を みて わらう とき の ホオ の ニク や ことに ハナ の フクラハギ まで が、 ヒト の よう に びくびく と うごいて いた。 キチ は ヒッシ に にげよう と する のに アシ が どちら へ でも おれまがって、 ただ アセ が ながれる ばかり で けっきょく カラダ は モト の ミチ の ウエ から うごいて いなかった。 けれども その おおきな カオ は、 だんだん キチ の ほう へ ちかよって くる の は くる が、 さて キチ を どう しよう とも せず、 いつまで たって も ただ にやり にやり と わらって いた。 ナニ を わらって いる の か キチ にも わからなかった。 が とにかく カレ を バカ に した よう な エガオ で あった。
 ヨクアサ、 フトン の ウエ に すわって うすぐらい カベ を みつめて いた キチ は、 サクヤ ユメ の ナカ で にげよう と して もがいた とき の アセ を、 まだ かいて いた。
 その ヒ、 キチ は ガッコウ で 3 ド キョウシ に しかられた。
 サイショ は サンジュツ の ジカン で、 カブンスウ を タイブンスウ に なおした ブンシ の カズ を きかれた とき に だまって いる と、
「そうれ みよ。 オマエ は サッキ から マド ばかり ながめて いた の だ」 と キョウシ に にらまれた。
 2 ド-メ の とき は シュウジ の ジカン で ある。 その とき の キチ の ソウシ の ウエ には、 ジ が 1 ジ も みあたらない で、 ミヤ の マエ の コマイヌ の カオ にも にて いれば、 また ニンゲン の カオ にも につかわしい ミッツ の カオ が かいて あった。 その どの カオ も、 ワライ を うかばせよう と ほねおった おおきな クチ の キョクセン が、 イクド も かきなおされて ある ため に、 まっくろく なって いた。
 3 ド-メ の とき は ガッコウ の ひける とき で、 ミナ の ガクドウ が ツツミ を しあげて レイ を して から でよう と する と、 キョウシ は キチ を よびとめた。 そして、 もう イチド レイ を しなおせ と しかった。
 イエ へ はしりかえる と すぐ キチ は、 キョウダイ の ヒキダシ から アブラガミ に つつんだ カミソリ を とりだして ヒトメ に つかない コヤ の ナカ で それ を といだ。 とぎおわる と ノキ へ まわって、 つみあげて ある ワリキ を ながめて いた。 それから また ニワ へ はいって、 モチツキ-ヨウ の キネ を なでて みた。 が、 また ぶらぶら ナガシモト まで もどって くる と マナイタ を うらがえして みた が キュウ に カレ は イドバタ の ハネツルベ の シタ へ かけだした。
「これ は うまい ぞ、 うまい ぞ」
 そう いいながら キチ は ツルベ の シリ の オモリ に しばりつけられた ケヤキ の マルタ を とりはずして、 そのかわり イシ を しばりつけた。
 しばらく して キチ は、 その マルタ を 3~4 スン も アツミ の ある はばひろい チョウホウケイ の もの に して から、 それ と イッショ に エンピツ と カミソリ と を もって ヤネウラ へ のぼって いった。
 ツギ の ヒ も また その ツギ の ヒ も、 そして それから ずっと キチ は マイニチ おなじ こと を した。
 ヒトツキ も たつ と 4 ガツ が きて、 キチ は ガッコウ を ソツギョウ した。
 しかし、 すこし カオイロ の あおく なった カレ は、 まだ カミソリ を といで は ヤネウラ へ かよいつづけた。 そして その アイダ も ときどき イエ の モノラ は バンメシ の アト の ハナシ の ツイデ に キチ の ショクギョウ を えらびあった。 が、 ハナシ は いっこう に まとまらなかった。
 ある ヒ、 ヒルゲ を おえる と オヤ は アゴ を なでながら カミソリ を とりだした。 キチ は ユ を のんで いた。
「ダレ だ、 この カミソリ を ぼろぼろ に した の は」
 チチオヤ は カミソリ の ハ を すかして みて から、 カミ の ハシ を フタツ に おって きって みた。 が、 すこし ひっかかった。 チチ の カオ は けわしく なった。
「ダレ だ、 この カミソリ を ぼろぼろ に した の は」
 チチ は カタソデ を まくって ウデ を なめる と カミソリ を そこ へ あてて みて、
「いかん」 と いった。
 キチ は のみかけた ユ を しばらく クチ へ ためて だまって いた。
「キチ が このあいだ といで いました よ」 と アネ は いった。
「キチ、 オマエ どうした」
 やはり キチ は だまって ユ を ごくり と ノド へ おとしこんだ。
「うむ、 どうした?」
 キチ が いつまでも だまって いる と、
「ははあ わかった。 キチ は ヤネウラ へ ばかり あがって いた から、 ナニ か して いた に きまってる」
 と アネ は いって ニワ へ おりた。
「いや だい」 と キチ は するどく さけんだ。
「いよいよ あやしい」
 アネ は ハリ の ハシ に つりさがって いる ハシゴ を のぼりかけた。 すると キチ は ハダシ の まま ニワ へ とびおりて ハシゴ を シタ から ゆすぶりだした。
「こわい よう、 これ、 キチ ってば」
 カタ を ちぢめて いる アネ は ちょっと だまる と、 クチ を とがらせて ツバ を はきかける マネ を した。
「キチッ!」 と チチオヤ は しかった。
 しばらく して ヤネウラ の オク の ほう で、
「まあ こんな ところ に メン が こしらえて ある わ」
 と いう アネ の コエ が した。
 キチ は アネ が メン を もって おりて くる の を まちかまえて いて とびかかった。 アネ は キチ を つきのけて すばやく メン を チチ に わたした。 チチ は それ を たかく ささげる よう に して しばらく だまって ながめて いた が、
「こりゃ よく できとる な」
 また ちょっと だまって、
「うむ、 こりゃ よく できとる」
 と いって から アタマ を ヒダリ へ かたむけかえた。
 メン は チチオヤ を みおろして バカ に した よう な カオ で にやり と わらって いた。
 その ヨル、 ナンド で チチオヤ と ハハオヤ とは ねながら ソウダン した。
「キチ を ゲタヤ に さそう」
 サイショ に そう チチオヤ が いいだした。 ハハオヤ は ただ だまって きいて いた。
「ドウロ に むいた コヤ の カベ を とって、 そこ で ミセ を ださそう、 それに ムラ には ゲタヤ が 1 ケン も ない し」
 ここ まで チチオヤ が いう と、 イマ まで シンパイ そう に だまって いた ハハオヤ は、
「それ が いい。 あの コ は カラダ が よわい から トオク へ やりたく ない」 と いった。
 まもなく キチ は ゲタヤ に なった。
 キチ の つくった メン は、 ソノゴ、 カレ の ミセ の カモイ の ウエ で たえず わらって いた。 むろん ナニ を わらって いる の か ダレ も しらなかった。
 キチ は 25 ネン メン の シタ で ゲタ を いじりつづけて ビンボウ した。 むろん、 チチ も ハハ も なくなって いた。
 ある ヒ、 キチ は ヒサシブリ で その メン を あおいで みた。 すると メン は、 カモイ の ウエ から バカ に した よう な カオ を して にやり と わらった。 キチ は ハラ が たった。 ツギ に かなしく なった。 が、 また ハラ が たって きた。
「キサマ の おかげ で オレ は ゲタヤ に なった の だ!」
 キチ は メン を ひきずりおろす と、 ナタ を ふるって その バ で メン を フタツ に わった。 しばらく して、 カレ は もちなれた ゲタ の ダイギ を ながめる よう に、 われた メン を テ に とって ながめて いた。 が、 ふと なんだか それ で リッパ な ゲタ が できそう な キ が して きた。 すると まもなく、 キチ の カオ は モト の よう に マンゾク そう に ぼんやり と やわらぎだした。
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キカイ 1

2012-12-21 | ヨコミツ リイチ
 キカイ

 ヨコミツ リイチ

 ハジメ の アイダ は ワタシ は ワタシ の イエ の シュジン が キョウジン では ない の か と ときどき おもった。 カンサツ して いる と まだ ミッツ にも ならない カレ の コドモ が カレ を いやがる から と いって、 オヤジ を いやがる ホウ が ある か と いって おこって いる。 タタミ の ウエ を よちよち あるいて いる その コドモ が ぱったり たおれる と、 いきなり ジブン の サイクン を なぐりつけながら オマエ が バン を して いて コドモ を たおす と いう こと が ある か と いう。 みて いる と まるで キゲキ だ が ホンニン が それ で ショウキ だ から、 ハンタイ に これ は キョウジン では ない の か と おもう の だ。 すこし コドモ が なきやむ と もう すぐ コドモ を だきかかえて ヘヤ の ナカ を かけまわって いる シジュウ オトコ。 この シュジン は そんな に コドモ の こと ばかり に かけて そう か と いう と そう では なく、 およそ ナニゴト に でも それほど な ムジャキサ を もって いる ので シゼン に サイクン が この イエ の チュウシン に なって きて いる の だ。 イエ の ナカ の ウンテン が サイクン を チュウシン に して くる と サイクン-ケイ の ヒトビト が それだけ のびのび と なって くる の も もっとも な こと なの だ。 したがって どちら か と いう と シュジン の ほう に カンケイ の ある ワタシ は、 この イエ の シゴト の ウチ で いちばん ヒト の いやがる こと ばかり を ひきうけねば ならぬ ケッカ に なって いく。 いや な シゴト、 それ は まったく いや な シゴト で、 しかも その いや な ブブン を ダレ か ヒトリ が いつも して いなければ イエ ゼンタイ の セイカツ が まわらぬ と いう チュウシンテキ な ブブン に ワタシ が いる ので、 じつは イエ の チュウシン が サイクン には なく ワタシ に ある の だ が、 そんな こと を いったって いや な シゴト を する ヤツ は ツカイミチ の ない ヤツ だ から こそ だ と ばかり おもって いる ニンゲン の アツマリ だ から、 だまって いる より シカタ が ない と おもって いた。 まったく ツカイミチ の ない ニンゲン と いう もの は ダレ にも できかねる カショ だけ に フシギ に ツカイミチ の ある もの で、 この ネームプレート セイゾウショ でも イロイロ な ヤクヒン を シヨウ せねば ならぬ シゴト の ナカ で ワタシ の シゴト だけ は とくに ゲキヤク ばかり で みちて いて、 わざわざ ツカイミチ の ない ニンゲン を おとしこむ アナ の よう に できあがって いる の で ある。 この アナ へ おちこむ と キンゾク を フショク させる エンカテツ で イルイ や ヒフ が だんだん ヤク に たたなく なり、 シュウソ の シゲキ で ノド を ハカイ し ヨル の スイミン が とれなく なる ばかり では なく、 ズノウ の ソシキ が ヘンカ して きて シリョク さえ も うすれて くる。 こんな キケン な アナ の ナカ へは ユウヨウ な ニンゲン が おちこむ はず が ない の で ある が、 この イエ の シュジン も わかい とき に ヒト の できない この シゴト を おぼえこんだ の も おそらく ワタシ の よう に ツカイミチ の ない ニンゲン だった から に ちがいない の だ。 しかし、 ワタシ とて も いつまでも ここ で カタワ に なる ため に ぐずついて いた の では もちろん ない。 じつは ワタシ は キュウシュウ の ゾウセンジョ から でて きた の だ が ふと トチュウ の キシャ の ナカ で ヒトリ の フジン に あった の が この セイカツ の ハジメ なの だ。 フジン は もう 50 サイ あまり に なって いて シュジン に しなれ イエ も なければ コドモ も ない ので、 トウキョウ の シンセキ の ところ で しばらく ヤッカイ に なって から ゲシュクヤ でも はじめる の だ と いう。 それなら ワタシ も ショク でも みつかれば アナタ の ゲシュク へ ヤッカイ に なりたい と ジョウダン の つもり で いう と、 それでは ジブン の これから いく シンセキ へ ジブン と いって そこ の シゴト を てつだわない か と すすめて くれた。 ワタシ も まだ どこ へ つとめる アテ とて も ない とき だし、 ヒトツ は その フジン の ジョウヒン な コトバ や スガタ を シンヨウ する キ に なって そのまま ふらり と フジン と イッショ に ここ の シゴトバ へ ながれこんで きた の で ある。 すると、 ここ の シゴト は ハジメ は ミタメ は ラク だ が だんだん ヤクヒン が ロウドウリョク を コンテイ から うばって いく と いう こと に キ が ついた。 それで キョウ は でよう アス は でよう と おもって いる うち に、 ふと イマ まで シンボウ した から には それでは ひとつ ここ の シゴト の キュウショ を ゼンブ おぼえこんで から に しよう と いう キ にも なって きて、 ジブン で キケン な シゴト の ブブン に ちかづく こと に キョウミ を もとう と つとめだした。 ところが ワタシ と イッショ に はたらいて いる ここ の ショクニン の カルベ は、 ワタシ が この イエ の シゴト の ヒミツ を ぬすみ に はいって きた どこ か の カンジャ だ と おもいこんだ の だ。 カレ は シュジン の サイクン の ジッカ の リンカ から きて いる オトコ なので ナニゴト に でも ジユウ が きく だけ に それだけ シュカ が ダイイチ で、 よく ある チュウジツ な ゲボク に なりすまして みる こと が ドウラク なの だ。 カレ は ワタシ が タナ の ドクヤク を テ に とって ながめて いる と もう メ を ひからせて ワタシ を みつめて いる。 ワタシ が アンシツ の マエ を うろついて いる と もう かたかた と オト を たてて ジブン が ここ から みて いる ぞ と しらせて くれる。 まったく ワタシ に とって は ばかばかしい こと だ が、 それでも カルベ に して は シンケン なん だ から ブキミ で ある。 カレ に とって は カツドウ シャシン が ジンセイ サイコウ の キョウカショ で したがって タンテイゲキ が カレ には ゲンジツ と どこ も かわらぬ もの に みえて いる ので、 この ふらり と はいって きた ワタシ が そういう カレ には、 また コウコ の タンテイモノ の ザイリョウ に なって せまって いる の も ジジツ なの だ。 ことに カルベ は イッショウ この イエ に つとめる ケッシン ばかり では ない。 ここ の ブンケ と して やがて は ヒトリ で ネームプレート セイゾウショ を おこそう と おもって いる だけ に、 ジブン より サキ に シュジン の コウアン した セキショク プレート セイホウ の ヒミツ を ワタシ に うばわれて しまう こと は ホンモウ では ない に ちがいない。 しかし、 ワタシ に して みれば ただ この シゴト を おぼえこんで おく だけ で それ で ショウガイ の カッケイ を たてよう など とは たくらんで いる の では けっして ない の だ が、 そんな こと を いったって カルベ には わかる もの でも なし、 また ワタシ が この シゴト を おぼえこんで しまった なら あるいは ひょっこり それ で セイケイ を たてて いかぬ とも かぎらぬ し、 いずれ に して も カルベ なんか が ナニ を おもおう と ただ カレ を いらいら させて みる の も カレ に ニンゲン シュウヨウ を させて やる だけ だ と ぐらい に おもって おれば それ で よろしい、 そう おもった ワタシ は まるで カルベ を ガンチュウ に おかず に いる と、 その アイダ に カレ の ワタシ に たいする テキイ は キュウソク な チョウシ で すすんで いて、 この バカ が と おもって いた の も じつは バカ なれば こそ これ は あんがい バカ には ならぬ と おもわしめる よう に まで なって きた。 ニンゲン は テキ でも ない のに ヒト から テキ だ と おもわれる こと は、 その キカン アイテ を バカ に して いられる だけ なんとなく タノシミ な もの で ある が、 その タノシミ が じつは こちら の クウゲキ に なって いる こと には なかなか きづかぬ もの で、 ワタシ が なんの キ も なく イス を うごかしたり ダンサイキ を まわしたり しかける と フイ に カナヅチ が アタマ の ウエ から おっこって きたり、 ジガネ の シンチュウバン が つみかさなった まま アシモト へ くずれて きたり、 アンゼン な ニス と エーテル の コンゴウエキ の ザボン が いつのまにか キケン な ジュウ-クロム サン の サンエキ と いれかえられて いたり して いる の が、 ハジメ の アイダ は こちら の カシツ だ と ばかり おもって いた のに それ が ことごとく カルベ の シワザ だ と きづいた とき には、 かんがえれば かんがえる ほど これ は ユダン を して いる と イノチ まで ねらわれて いる の では ない か と おもわれて きて ひやり と させられる よう に まで なって きた。 ことに カルベ は バカ は バカ でも ワタシ より も センパイ で ゲキヤク の チョウゴウ に かけて は ウデ が あり、 オチャ に いれて おいた ジュウ-クロム サン アンモニア を アイテ が のんで しんで も ジサツ に なる ぐらい の こと は しって いる の だ。 ワタシ は ゴハン を たべる とき でも それから トウブン の アイダ は キイロ な もの が メ に つく と それ が ジュウ-クロム サン では ない か と おもわれて ハシ が その ほう へ うごかなかった が、 ワタシ の そんな ケイカイシン も しばらく する と ジブン ながら コッケイ に なって きて そう たやすく ころされる もの なら ころされて も みよう と おもう よう にも なり、 シゼン に カルベ の こと など は また ワタシ の アタマ から さって いった。
 ある ヒ ワタシ は シゴトバ で シゴト を して いる と シュフ が きて シュジン が ジガネ を かい に いく の だ から ワタシ も イッショ に ついて いって シュジン の キンセン を たえず ワタシ が もって いて くれる よう に と いう。 それ は シュジン は キンセン を もつ と ほとんど かならず トチュウ で おとして しまう ので シュフ の キヅカイ は シュジン に キンセン を わたさぬ こと が ダイイチ で あった の だ。 イマ まで の この イエ の ヒゲキ の ダイブブン も じつに この ばかげた こと ばかり なん だ が それにしても どうして こんな に ここ の シュジン は キンセン を おとす の か ダレ にも わからない。 おとして しまった もの は いくら しかったって おどしたって かえって くる もの でも なし、 それだから って アセミズ たらして ミナ が はたらいた もの を ヒトリ の シンケイ の ユルミ の ため に ことごとく ミズ の アワ に されて しまって そのまま ナキネイリ に だまって いる わけ にも いかず、 それ が 1 ド や 2 ド なら ともかく しじゅう もったら おとす と いう こと の ほう が カクジツ だ と いう の だ から、 この イエ の カツドウ も シゼン に タンレン の サレカタ が フツウ の イエ とは どこ か ちがって セイチョウ して きて いる に ちがいない の だ。 いったい ワタシタチ は キンセン を もったら おとす と いう シジュウ オトコ を そんな に ソウゾウ する こと は できない。 たとえば サイフ を サイクン が ヒモ で しっかり クビ から フトコロ へ つるして おいて も それでも ナカ の キンセン だけ は ちゃんと いつも おとして ある と いう の で ある が、 それなら シュジン は カネ を サイフ から だす とき か いれる とき か に おとす に ちがいない と して みて も、 それにしても だいいち そう たびたび おとす イジョウ は コンド は おとす かも しれぬ から と 3 ド に 1 ド は だす とき や いれる とき に きづく はず だ。 それ を きづけば ジジツ は そんな にも おとさない の では ない か と おもわれて カンガエヨウ に よって は これ は あるいは キンセン の シハライ を のばす ため の サイクン の テ では ない か とも イチド は おもう が、 しかし まもなく あまり にも かわって いる シュジン の キョドウ の ため に サイクン の センデン も いつのまにか ジジツ だ と おもって しまわねば ならぬ ほど、 とにかく、 シュジン は かわって いる。 カネ を カネ とも おもわぬ と いう コトバ は フシャ に たいする ケイヨウ だ が ここ の シュジン の マズシサ は 5 セン の ハクドウ を にぎって セントウ の ノレン を くぐる テイド に かかわらず、 こまって いる モノ には ジブン の イエ の ジガネ を かう キンセン まで やって しまって わすれて いる。 こういう の を こそ ムカシ は センニン と いった の で あろう。 しかし、 センニン と イッショ に いる モノ は たえず はらはら して いきて いかねば ならぬ の だ。 イエ の こと を なにひとつ まかして おけない ばかり では ない、 ヒトリ で すませる ヨウジ も フタリガカリ で でかけたり、 その ヒトリ の いる ため に シュウイ の モノ の ロウリョク が どれほど ムダ に ついやされて いる か わからぬ の だ が、 しかし それ は そう に ちがいない と して も この シュジン の いる いない に よって トクイサキ の この イエ に たいする ニンキ の ソウイ は カクダン の ヘンカ を しょうじて くる。 おそらく ここ の イエ は シュジン の ため に ヒト から にくまれた こと が ない に ちがいなく シュジン を しばる サイクン の シマリ が たとい アクヒョウ を たてた と した ところ で、 そんな にも コウジンブツ の シュジン が サイクン に しばられて ちいさく しのんで いる ヨウス と いう もの は また シゼン に コッケイ な フウミ が あって よろこばれがち な もの でも あり、 その サイクン の ニラミ の ルス に ダット の ごとく ぬけだして は すっかり キンセン を ふりまいて かえって くる オトコ と いう の も これ また いっそう の ニンキ を たてる ザイリョウ に なる ばかり なの だ。
 そんな ふう に かんがえる と この イエ の チュウシン は やはり サイクン にも なく ワタシ や カルベ にも ない おのずから シュジン に ある と いわねば ならなく なって きて ワタシ の ヤトイニン コンジョウ が マルダシ に なりだす の だ が、 どこ から みたって シュジン が ワタシ には すき なん だ から シヨウ が ない。 じっさい ワタシ の イエ の シュジン は せいぜい イツツ に なった オトコ の コ を そのまま 40 に もって きた ところ を ソウゾウ する と うかんで くる。 ワタシタチ は そんな オトコ を おもう と まったく ばかばかしくて ケイベツ したく なりそう な もの にも かかわらず それ が みて いて ケイベツ できぬ と いう の も、 つまり は あんまり ジブン の いつのまにか セイチョウ して きた ネンレイ の ミニクサ が ギャク に あざやか に うかんで きて その ジシン の スガタ に うたれる から だ。 こんな ジブン への ハンシャ は ワタシ に かぎらず カルベ に だって つねに おなじ サヨウ を して いた と みえて、 アト で きづいた こと だ が、 カルベ が ワタシ への ハンカン も しょせん は この シュジン を まもろう と する カルベ の ゼンリョウ な ココロ の ブブン の ハタラキ から で あった の だ。 ワタシ が ここ の イエ から はなれがたなく かんじる の も シュジン の その コノウエ も ない ゼンリョウサ から で あり、 カルベ が ワタシ の アタマ の ウエ から カナヅチ を おとしたり する の も シュジン の その ゼンリョウサ の ため だ と する と、 ゼンリョウ なんて いう こと は ムカシ から あんがい よい ハタラキ を して こなかった に ちがいない。
 さて その ヒ シュジン と ワタシ は ジガネ を かい に いって もどって くる と その トチュウ シュジン は ワタシ に キョウ は こういう ハナシ が あった と いって いう には、 ジブン の イエ の セキショク プレート の セイホウ を 5 マン エン で うって くれ と いう の だ が うって よい もの か どう だろう か と きく ので、 ワタシ も それ には こたえられず に だまって いる と セキショク プレート も いつまでも ダレ にも コウアン されない もの なら ともかく もう ナカマ たち が ヒッシ に こっそり ケンキュウ して いる ので セイホウ を うる なら イマ の うち だ と いう。 それ も そう だろう と おもって も シュジン の ながい クシン の ケッカ の ケンキュウ を ワタシ が とやかく いう ケンリ も なし、 そう か と いって シュジン ヒトリ に まかして おいて は シュジン は いつのまにか サイクン の いう まま に なりそう だし、 サイクン と いう もの は また メサキ の こと だけ より かんがえない に きまって いる の を おもう と ワタシ も どうか して シュジン の ため に なる よう に と それ ばかり が それから の フシギ に ワタシ の キョウミ の チュウシン に なって きた。 イエ に いて も イエ の ナカ の ウゴキ や ブッピン が ことごとく ワタシ の セイリ を またねば ならぬ か の よう に うつりだして きて カルベ まで が まるで ワタシ の ケライ の よう に みえて きた の は よい と して も、 ヒマ さえ あれば おぼえて きた ベンシ の コワイロ ばかり うなって いる カレ の ヨウス まで が うるさく なった。 しかし、 それから まもなく ハンタイ に カルベ の メ が また はげしく ワタシ の ドウサ に ビンカン に なって きて シゴトバ に いる とき は ほとんど ワタシ から メ を はなさなく なった の を かんじだした。 おもう に カルベ は シュジン の シゴト の サイキン の ケイカ や セキショク プレート の トッキョケン に かんする ハナシ を シュフ から きかされた に ちがいない の だ が、 シュフ まで カルベ に ワタシ を カンシ せよ と いいつけた の か どう か は ワタシ には わからなかった。 しかし、 ワタシ まで が シュフ や カルベ が いまに もしか する と こっそり シュジン の シゴト の ヒミツ を ぬすみだして うる の では ない か と おもわれて イクブン の カンシ さえ する キモチ に なった ところ から みて さえ も、 シュフ や カルベ が ワタシ を ドウヨウ に うたがう キモチ は そんな に ごまかして いられる もの では ない。 そこで ワタシ も それら の ウタガイ を いだく シセン に みられる と フカイ は フカイ でも なんとなく おもしろく ひとつ どう する こと か ずうずうしく こちら も ギャク に カンシ を つづけて やろう と いう キ に なって きて こまりだした。 ちょうど そういう とき また シュジン は ワタシ に シュジン の つづけて いる あたらしい ケンキュウ の ハナシ を して いう には、 ジブン は ジガネ を エンカテツ で フショク させず に そのまま コクショク を だす ホウホウ を ながらく ケンキュウ して いる の だ が いまだに おもわしく いかない ので、 オマエ も ヒマ な とき ジブン と イッショ に やって みて くれない か と いう の で ある。 ワタシ は いかに シュジン が オヒトヨシ だ から と いって そんな ジュウダイ な こと を タニン に もらして よい もの で あろう か どう か と おもいながら も、 まったく ワタシ が ねから シンヨウ された この こと に たいして は カンシャ を せず には おれない の だ。 いったい ヒト と いう もの は シンヨウ されて しまったら もう こちら の マケ で、 だから シュジン は いつでも シュウイ の モノ に かちつづけて いる の で あろう と イチド は おもって みて も、 そう シュジン の よう に ソコヌケ な バカサ には なかなか なれる もの では なく、 そこ が つまり は シュジン の えらい と いう リユウ に なる の で あろう と おもって ワタシ も シュジン の ケンキュウ の テダスケ なら できる だけ の こと は させて もらいたい と シンソコ から レイ を のべた の だ が、 ヒト に シンソコ から レイ を のべさせる と いう こと を イチド でも して みたい と おもう よう に なった の も その とき から だ。 だが、 ワタシ の シュジン は タニン に どうこう されよう など と そんな ケチ な カンガエ など は ない の だ から また いっそう ワタシ の アタマ を さげさせる の だ。 つまり ワタシ は アンジ に かかった シント みたい に シュジン の ニクタイ から でて くる ヒカリ に いぬかれて しまった わけ だ。 キセキ など と いう もの は ムコウ が キセキ を おこなう の では なく ジシン の ミニクサ が キセキ を おこなう の に ちがいない。 それから と いう もの は まったく ワタシ も カルベ の よう に ナニ より シュジン が ダイイチ に なりはじめ、 シュジン を サユウ して いる サイクン の ナニカ に ハンカン を さえ かんじて きて、 どうして こういう フジン が この リッパ な シュジン を ドクセン して よい もの か うたがわしく なった ばかり では なく できる こと なら この シュジン から サイクン を ツイホウ して みたく おもう こと さえ ときどき ある の を かんがえて も カルベ が ワタシ に つらく あたって くる キモチ が テ に とる よう に わかって きて、 カレ を みて いる と シゼン に ジブン を みて いる よう で ますます また そんな こと に まで キョウミ が わいて くる の で ある。
 ある ヒ シュジン が ワタシ を アンシツ へ よびこんだ ので はいって いく と、 アニリン を かけた シンチュウ の ジガネ を アルコール ランプ の ウエ で ねっしながら いきなり セツメイ して いう には、 プレート の イロ を ヘンカ させる には なんでも ねっする とき の ヘンカ に いちばん チュウイ しなければ ならない、 イマ は この ジガネ は ムラサキイロ を して いる が これ が コッカッショク と なり やがて コクショク と なる と もう すでに この ジガネ が ツギ の シレン の バアイ に エンカテツ に まけて ヤク に たたなく なる ヤクソク を して いる の だ から、 チャクショク の クフウ は すべて イロ の ヘンカ の チュウダン に おいて なさる べき だ と おしえて おいて、 ワタシ に その バ で バーニング の シケン を できる かぎり オオク の ヤクヒン を シヨウ して やって みよ と いう。 それから の ワタシ は カゴウブツ と ゲンソ の ユウキ カンケイ を しらべる こと に ますます キョウミ を むけて いった の だ が、 これ は キョウミ を もてば もつ ほど イマ まで しらなかった ムキブツ-ナイ の ビミョウ な ユウキテキ ウンドウ の キュウショ を よみとる こと が できて きて、 いかなる ちいさな こと にも キカイ の よう な ホウソク が ケイスウ と なって ジッタイ を はかって いる こと に きづきだした ワタシ の ユイシンテキ な メザメ の ダイイッポ と なって きた。 しかし カルベ は マエ まで ダレ も はいる こと を ゆるされなかった アンシツ の ナカ へ ジユウ に はいりだした ワタシ に キ が つく と、 ワタシ を みる カオイロ まで が かわって きた。 あんな に はやく から イチ にも シュジン ニ にも シュジン と おもって きた カルベ にも かかわらず シンザン の ワタシ に ゆるされた こと が カレ に ゆるされない の だ から イマ まで の ワタシ への カレ の ケイカイ も なんの ヤク にも たたなく なった ばかり では ない、 うっかり する と カレ の チイ さえ ワタシ が ジユウ に サユウ しだす の かも しれぬ と おもった に ちがいない の だ。 だから ワタシ は いくぶん カレ に エンリョ す べき だ と いう ぐらい は わかって いて も なにも そう いちいち カルベ カルベ と カレ の メ の イロ ばかり を きづかわねば ならぬ ほど の ヒト でも なし、 イツモ の よう に カルベ の ヤツ いったい いまに どんな こと を しだす か と そんな こと の ほう が かえって キョウミ が でて きて なかなか ドウジョウ なんか する キ にも なれない ので、 そのまま アタマ から みおろす よう に しらぬ カオ を つづけて いた。 すると、 よくよく カルベ も ハラ が たった と みえて ある とき カルベ の つかって いた アナホギ-ヨウ の ペルス を ワタシ が つかおう と する と キュウ に みえなく なった ので キミ が イマサキ まで つかって いた では ない か と いう と、 つかって いたって なくなる もの は なくなる の だ、 なければ みつかる まで ジブン で さがせば よい では ない か と カルベ は いう。 それ も そう だ と おもって、 ワタシ は ペルス を ジブン で さがしつづけた の だ が どうしても みつからない ので そこで ふと ワタシ は カルベ の ポケット を みる と そこ に ちゃんと あった ので だまって とりだそう と する と、 タニン の ポケット へ ムダン で テ を いれる ヤツ が ある か と いう。 タニン の ポケット は ポケット でも この サギョウバ に いる アイダ は ダレ の ポケット だって おなじ こと だ と いう と、 そういう カンガエ を もって いる ヤツ だ から こそ シュジン の シゴト だって ずうずうしく ぬすめる の だ と いう。 いったい シュジン の シゴト を いつ ぬすんだ か、 シュジン の シゴト を てつだう と いう こと が シュジン の シゴト を ぬすむ こと なら キミ だって シュジン の シゴト を ぬすんで いる の では ない か と いって やる と、 カレ は しばらく だまって ぶるぶる クチビル を ふるわせて から キュウ に ワタシ に この イエ を でて いけ と せまりだした。 それで ワタシ も でる には でる が もう しばらく シュジン の ケンキュウ が すすんで から でも でない と シュジン に たいして すまない と いう と、 それなら ジブン が サキ に でる と いう。 それ では キミ は シュジン を こまらせる ばかり で なんにも ならぬ から ワタシ が でる まで でない よう に する べき だ と いって きかせて やって も、 それでも ガンコ に でる と いう。 それでは シカタ が ない から でて いく よう、 アト は ワタシ が フタリ ブン を ひきうけよう と いう と、 いきなり カルベ は ソバ に あった カルシューム の フンマツ を ワタシ の カオ に なげつけた。 じつは ワタシ は ジブン が わるい と いう こと を ヒャク も ショウチ して いる の だ が アク と いう もの は なんと いったって おもしろい。 カルベ の ゼンリョウ な ココロ が いらだちながら ふるえて いる の を そんな にも まざまざ と ガンゼン で みせつけられる と、 ワタシ は ますます シタナメズリ を して おちついて くる の で ある。 これ では ならぬ と おもいながら カルベ の ココロ の すこし でも やすまる よう に と しむけて は みる の だ が、 だいいち ハジメ から カルベ を アイテ に して いなかった の が わるい ので カレ が おこれば おこる ほど こちら が こわそう に びくびく して いく と いう こと は よほど の ジンブツ で なければ できる もの では ない。 どうも つまらぬ ニンゲン ほど アイテ を おこらす こと に ホネ を おる もの で、 ワタシ も カルベ が おこれば おこる ほど ジブン の ツマラナサ を はかって いる よう な キ が して きて シマイ には ジブン の カンジョウ の オキバ が なくなって きはじめ、 ますます カルベ には どうして よい の か わからなく なって きた。 まったく ワタシ は この とき ほど はっきり と ジブン を もてあました こと は ない。 まるで ココロ は ニクタイ と イッショ に ぴったり と くっついた まま の ソンザイ とは よくも なづけた と おもえる ほど ココロ が ただ もくもく と カラダ の オオキサ に したがって ソンザイ して いる だけ なの だ。 しばらく して ワタシ は そのまま アンシツ へ はいる と しかけて おいた チャクショクヨウ の ビスムチル を チンデン さす ため、 シケンカン を とって クロム サン カリ を やきはじめた の だ が カルベ に とって は それ が また いけなかった の だ。 ワタシ が ジユウ に アンシツ へ はいる と いう こと が すでに カルベ の ウラミ を かった ゲンイン だった のに さんざん カレ を おこらせた アゲク の ハテ に すぐ また ワタシ が アンシツ へ はいった の だ から カレ の ギャクジョウ した の も もっとも な こと で ある。 カレ は アンシツ の ドア を あける と ワタシ の クビ を もった まま ひきずりだして ユカ の ウエ へ なげつけた。 ワタシ は なげつけられた よう に して ほとんど ジブン から たおれる キモチ で たおれた の だ が、 ワタシ の よう な モノ を こまらせる の には まったく そのよう に ボウリョク だけ より ない の で あろう。 カルベ は ワタシ が シケンカン の ナカ の クロム サン カリ が こぼれた か どう か と みて いる アイダ、 どうした もの か イチド あわてて ヘヤ の ナカ を かけまわって それから また ワタシ の マエ へ もどって くる と、 かけまわった こと が なんの ヤク にも たたなかった と みえて ただ カレ は ワタシ を にらみつけて いる だけ なの で ある。 しかし もし ワタシ が すこし でも うごけば カレ は テモチ ブサタ の ため ワタシ を けりつける に ちがいない と おもった ので ワタシ は そのまま いつまでも たおれて いた の だ が、 セッパク した いくらか の ジカン でも いったい ジブン は ナニ を して いる の だ と おもった が サイゴ もう ぼんやり と マ の ぬけて しまう もの で、 まして こちら は アイテ を イチド おもうさま おこらさねば ダメ だ と おもって いる とき とて もう アイテ も すっかり キ の むく まで おこって しまった コロ で あろう と おもう と つい ワタシ も おちついて やれやれ と いう キ に なり、 どれほど カルベ の ヤツ が サキ から あばれた の か と おもって アタリ を みまわす と いちばん ひどく あらされて いる の は ワタシ の カオ で カルシューム が ざらざら した まま クチビル から ミミ へ まで はいって いる の に キ が ついた。 が、 さて ワタシ は いつ おきあがって よい もの か それ が わからぬ。 ワタシ は ダンサイキ から こぼれて ワタシ の ハナ の サキ に うずたかく つみあがって いる アルミニューム の かがやいた ダンメン を ながめながら よく まあ ミッカ の アイダ に これ だけ の シゴト が ジブン に できた と おどろいた。 それで カルベ に もう つまらぬ アラソイ は やめて はやく ニューム に ザボン を ぬろう では ない か と いう と、 カルベ は もう そんな シゴト は したく は ない の だ、 それ より オマエ の カオ を みがいて やろう と いって よこたわって いる ワタシ の カオ を アルミニューム の セッペン で うずめだし、 その ウエ から ワタシ の アタマ を あらう よう に ゆすりつづける の だ が、 マチ に ならんだ イエイエ の トグチ に バンゴウ を つけて はりつけられた あの ちいさな ネームプレート の ヤマ で みがかれて いる ジブン の カオ を ソウゾウ する と、 しょせん は ナニ が おそろしい と いって ボウリョク ほど おそる べき もの は ない と おもった。 ニューム の カド が ゆれる たび に ガンメン の シワ や くぼんだ ホネ に ささって ちくちく する だけ では ない。 かわいた ばかり の ウルシ が カオ に へばりついた まま はなれない の だ から やがて カオ も ふくれあがる に ちがいない の だ。 ワタシ も もう それ だけ の ボウリョク を だまって うけて おれば カルベ への ギム も はたした よう に おもった ので おきあがる と また アンシツ の ナカ へ はいろう と した。 すると カルベ は また ワタシ の その ウデ を もって セナカ へ ねじあげ、 マド の ソバ まで おして くる と ワタシ の アタマ を マドガラス へ ぶちあてながら カオ を ガラス の トッペン で きろう と した。 もう やめる で あろう と おもって いる のに ヨソウ とは ハンタイ に そんな ふう に いつまでも おって こられる と、 コンド は この ボウリョク が いつまで つづく の で あろう か と おもいだして いく もの だ。 しかし そう なれば こちら も たとえ わるい とは おもって も シャザイ する キ なんか は なくなる ばかり で イマ まで スキ が あれば ナカナオリ を しよう と おもって いた ヒョウジョウ さえ ますます にがにがしく ふくれて きて さらに ツギ の ボウリョク を さそう ドウイン を つくりだす だけ と なった。 が、 じつは カルベ も もう おこる キ は そんな に なく ただ シカタ が ない ので おこって いる だけ だ と いう こと は わかって いる の だ。 それで ワタシ は カルベ が ワタシ を マド の ソバ から ゲキヤク の はいって いる フショクヨウ の バット の ソバ まで つれて いく と、 キュウ に カルベ の ほう へ むきかえって、 キミ は ワタシ を そんな に いじめる の は キミ の カッテ だ が ワタシ が イマ まで アンシツ の ナカ で して いた ジッケン は タニン の まだ した こと の ない ジッケン なので、 もし セイコウ すれば シュジン が どれほど リエキ を うる か しれない の だ。 キミ は それ も ワタシ に させない ばかり か クシン の スエ に つくった ビスムチル の ヨウエキ まで こぼして しまった では ない か、 ひろえ、 と いう と カルベ は それなら なぜ ジブン にも それ を イッショ に させない の だ と いう。 させる も させない も ない だいたい カガク ホウテイシキ さえ よめない モノ に ジッケン を てつだわせたって ジャマ に なる だけ なの だ が、 そんな こと も いえない ので すこし イヤミ だ と おもった が アンシツ へ つれて いって カガク ホウテイシキ を こまかく かいた ノート を みせて セツメイ し、 これら の スウジ に したがって ゲンソ を くみあわせて は やりなおして ばかり いる シゴト が キミ に おもしろい なら これから マイニチ でも ワタシ に かわって して もらおう と いう と、 カルベ は はじめて それから ワタシ に まけはじめた。
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キカイ 2

2012-12-07 | ヨコミツ リイチ
 カルベ との アラソイ も トウブン の アイダ は おこらなく なって ワタシ も いくらか マエ より いやすく なる と しばらく して、 シゴト が キュウゲキ に カルベ と ワタシ に まして きた。 ある シヤクショ から その ゼンチョウ の ネームプレート 5 マン-マイ を トオカ の アイダ に せよ と いって きた ので よろこんだ の は シュフ だ が ワタシタチ は その ため ほとんど ヨル さえ ねむれなく なる の は わかって いる の だ。 それで シュジン は ドウギョウ の ユウジン の セイサクショ から テ の すいた ショクニン を ヒトリ かりて きて ワタシタチ の ナカ へ まじえながら シゴト を はじめる こと に した。 ハジメ の アイダ は ワタシタチ は なんの キ も なく ただ シゴト の リョウ に アットウ されて しまって はたらいて いた の だ が、 その うち に あたらしく はいって きた ショクニン の ヤシキ と いう オトコ の ヨウス が なんとなく ワタシ の チュウイ を ひきはじめた。 ブキヨウ な テツキ と いい ヒト を みる とき の するどい メツキ と いい ショクニン-らしく は して いる が これ は ショクニン では なくて もしか したら セイサクショ の ヒミツ を ぬすみ に きた マワシモノ では ない か と おもった の だ。 しかし、 そんな こと を クチ に でも だして しゃべったら カルベ は ヤシキ を どんな メ に あわす か しれない ので しばらく だまって カレ の ヨウス を みて いる こと に して いる と、 ヤシキ の チュウイ は いつも カルベ の バット の ユスリカタ に そそがれて いる の を ワタシ は ハッケン した。 ヤシキ の シゴト は シンチュウ の ジガネ を カセイ ソーダ の ヨウエキ-チュウ に いれて カルベ の すませて きた エンカテツ の フショクヤク と イッショ に その とき もちいた ニス や グリュー を あらいおとす ヤクメ なの だ が、 カルベ の シゴト の ブブン は ここ の セイサクショ の 2 バンメ の トクチョウ の ブブン なの で、 タ の セイサクショ では マネ する こと は できない の だ から そこ に みいる ヤシキ とて トウゼン な こと は トウゼン だ と して も うたがって いる とき の こと とて その トウゼン な こと が なお いっそう うたがわしい ゲンイン に なる の で ある。 しかし、 カルベ は ヤシキ に みいられて いる と ますます トクイ に なって チョウシ を とりつつ バット の ナカ の エンカテツ の ヨウエキ を ゆする の だ。 イツモ の こと なら ワタシ を うたぐりだした よう に カルベ とて いちおう は ヤシキ を うたがわねば ならぬ はず だ のに それ が コト も あろう か カルベ は ヤシキ に バット の ユスリカタ を セツメイ して、 ジガネ に かかれた モジ と いう もの は いつも こうして ウツブセ に する もの で、 すべて キンゾク と いう もの は キンゾク それ ジシン の オモミ の ため に まける の だ から モジ イガイ の ブブン は それだけ はやく エンカテツ に おかされて くさって いく の だ と ダレ に きいた もの やら むずかしい クチョウ で セツメイ して ヤシキ に イチド バット を ゆすって みよ と まで いう。 ワタシ は ハジメ は ひやひや しながら だまって カルベ の しゃべって いる こと を きいて いた の だ が シマイ には ワタシ は ワタシ で ダレ が どんな シゴト の ヒミツ を しろう と しらせる だけ よい の では ない か と おもいだし、 それから は もう ヤシキ への ケイカイ も しない こと に きめて しまった が、 すべて ヒミツ と いう もの は その ブブン に はたらく モノ の マンシン から もれる の だ と キ が ついた の は その とき の ナニ より の ワタシ の シュウカク で あった で あろう。 それにしても カルベ が そんな に うまく ヒミツ を しゃべった の も カレ の その とき の チョウシ に のった マンシン だけ では ない。 たしか に カレ に そんな にも しゃべらせた ヤシキ の フウボウ が カルベ の ココロ を その とき うきあがらせて しまった の に ちがいない の だ。 ヤシキ の ガンコウ は するどい が それ が やわらぐ と アイテ の ココロ を ブンレツ させて しまう フシギ な ミリョク を もって いる の で ある。 その カレ の ミリョク は たえず ワタシ へも コトバ を いう たび に せまって くる の だ が ナン に せよ ワタシ は あまり に いそがしくて アサ はやく から ガス で ねっした シンチュウ へ ウルシ を ぬりつけて は かわかしたり ジュウ-クロム サン アンモニア で ぬりつめた キンゾクバン を ニッコウ に さらして カンコウ させたり アニリン を かけて みたり、 ソノタ バーニング から スミトギ から アモアピカル から ダンサイ まで くるくる まわって しつづけねば ならぬ ので ヤシキ の ミリョク も なにも あった もの では ない の で ある。 すると イツカ-メ-ゴロ の ヨナカ に なって ふと ワタシ が メ を さます と まだ ヤギョウ を つづけて いた はず の ヤシキ が アンシツ から でて きて シュフ の ヘヤ の ほう へ はいって いった。 イマゴロ シュフ の ヘヤ へ なんの ヨウ が ある の で あろう と おもって いる うち に おしい こと には もう ワタシ は シゴト の ツカレ で ねむって しまった。 ヨクチョウ また メ を さます と ワタシ に うかんで きた ダイイチ の こと は サクヤ の ヤシキ の ヨウス で あった。 しかし、 こまった こと には かんがえて いる うち に それ は ワタシ の ユメ で あった の か ゲンジツ で あった の か まったく わからなく なって きた こと だ。 つかれて いる とき には イマ まで とて も ときどき ワタシ には そんな こと が あった ので なお コノタビ の ヤシキ の こと も ワタシ の ユメ かも しれない と おもえる の だ。 しかし ヤシキ が アンシツ へ はいった リユウ は ソウゾウ できなく は ない が シュフ の ヘヤ へ はいって いった カレ の リユウ は ワタシ には わからない。 まさか ヤシキ と シュフ と が ワタシタチ には わからぬ ふかい ところ で マエ から コウショウ を もちつづけて いた とは おもえない の だし これ は ユメ だ と おもって いる ほう が カクジツ で あろう と おもって いる と、 その ヒ の ショウゴ に なって フイ に シュジン が サイクン に サクヤ ナニ か かわった こと が なかった か と わらいながら たずねだした。 すると サイクン は、 オカネ を とった の は アナタ だ ぐらい の こと は いくら ネボウ の ワタシ だって しって いる の だ。 とる の なら もっと ジョウズ に とって もらいたい と すまして いう と シュジン は いっそう おおきな コエ で おもしろそう に わらいつづけた。 それでは サクヤ シュフ の ヘヤ へ はいって いった の は ヤシキ では なく シュジン だった の か と キ が ついた の だ が いくら いつも キンセン を もたされない から と いって ヨナカ ジブン の サイクン の マクラモト の サイフ を ねらって しのびこむ シュジン も シュジン だ と おもいながら ワタシ も おかしく なり、 アンシツ から でて きた の も それでは アナタ か と シュジン に きく と、 いや それ は しらぬ と シュジン は いう。 では アンシツ から でて きた の だけ は やはり ヤシキ で あろう か それとも その ブブン だけ は ユメ なの で あろう か と また ワタシ は まよいだした。 しかし、 シュフ の ヘヤ へ はいりこんだ オトコ が ヤシキ で なくて シュジン だ と いう こと だけ は たしか に ゲンジツ だった の だ から アンシツ から でて きた ヤシキ の スガタ も ぜんぜん ユメ だ と ばかり も おもえなく なって きて、 イチド きえた ヤシキ への ウタガイ も ハンタイ に また だんだん ふかく すすんで きた。 しかし そういう ウタガイ と いう もの は ヒトリ うたがって いた の では けっきょく ジブン ジシン を うたがって いく だけ なので なんの ヤク にも たたなく なる の は わかって いる の だ。 それ より ちょくせつ ヤシキ に たずねて みれば わかる の だ が、 もし たずねて それ が ホントウ に ヤシキ だったら ヤシキ の こまる の も きまって いる。 この バアイ ワタシ が ヤシキ を こまらして みた ところ で べつに ワタシ の トク に なる では なし と いって すてて おく には ジケン は キョウミ が ありすぎて おしい の だ。 だいいち アンシツ の ナカ には ワタシ の クシン を かさねた ソウエン と ケイサン ジルコニウム の カゴウブツ や、 シュジン の トクイ と する ムテイケイ セレニウム の セキショク-ヌリ の ヒホウ が カガク ホウテイシキ と なって かくされて いる の で ある。 それ を しられて しまえば ここ の セイサクショ に とって は バクダイ な ソンシツ で ある ばかり では ない、 ワタシ に したって イマ まで の ヒミツ は ヒミツ では なくなって セイカツ の オモシロサ が なくなる の だ。 ムコウ が ヒミツ を ぬすもう と する なら こちら は それ を かくしたって かまわぬ で あろう。 と おもう と ワタシ は ヤシキ を イチズ に ゾク の よう に うたがって いって みよう と ケッシン した。 マエ には ワタシ は カルベ から そのよう に うたがわれた の だ が コンド は ジブン が タニン を うたがう バン に なった の を かんじる と、 あの とき カルベ を その アイダ バカ に して いた オモシロサ を おもいだして やがて は ワタシ も ヤシキ に たえず あんな オモシロサ を かんじさす の で あろう か と そんな こと まで かんがえながら、 イチド は ヒト から バカ に されて も みなければ とも おもいなおしたり して いよいよ ヤシキ へ チュウイ を そそいで いった。 ところが ヤシキ は ヤシキ で ワタシ の メ が ひかりだした と きづいた の で あろう か、 それから ほとんど ワタシ と シセン を あわさなくて すませる ホウコウ ばかり に むきはじめた。 あまり イマ から キュウクツ な オモイ を させて は かえって イマ の うち に ヤシキ を にがして しまいそう だし する ので、 なるだけ ノンキ に しなければ ならぬ と やわらいで みる の だ が メ と いう もの は フシギ な もの で、 おなじ ニンシキ の タカサ で うろついて いる シセン と いう もの は イチド がっする と ソコ まで ドウジ に つらぬきあう の だ。 そこで ワタシ は アモアピカル で シンチュウ を みがきながら ヨモヤマ の ハナシ を すすめ メ だけ で カレ に もう ホウテイシキ は ぬすんだ か と きいて みる と ムコウ で まだまだ と こたえる か の よう に ひかって くる。 それでは はやく ぬすめば よい では ない か と いう と オマエ に それ を しられて は ジカン が かかって シヨウ が ない と いう。 ところが オレ の ホウテイシキ は イマ の ところ まだ マチガイ-だらけ で とったって なんの ヤク にも たたぬ ぞ と いう と それなら オレ が みて なおして やろう と いう。 そういう ふう に しばらく ヤシキ と ワタシ は シゴト を しながら ワタシ ジシン の アタマ の ナカ で だまって カイワ を つづけて いる うち に だんだん ワタシ は イッカ の ウチ の ダレ より も ヤシキ に シタシミ を かんじだした。 マエ に カルベ を ウチョウテン に させて ヒミツ を しゃべらせて しまった カレ の ミリョク が ワタシ へも しだいに のりうつって きはじめた の だ。 ワタシ は ヤシキ と シンブン を わけあって よんで いて も キョウツウ の ワダイ に なる と イケン が いつも イッチ して すすんで いく。 カガク の ハナシ に なって も リカイ の ソクド や チド が キッコウ しながら なめらか に すべって いく。 セイジ に かんする ケンシキ でも シャカイ に たいする キボウ でも おなじ で ある。 ただ ワタシ と カレ との ソウイ して いる ところ は タニン の ハツメイ を ぬすみこもう と する フドウトク な コウイ に かんして の ケンカイ だけ だ。 だが、 それ とて カレ には カレ の カイシャク の シカタ が あって ハツメイ ホウホウ を ぬすむ と いう こと は ブンカ の シンポ に とって は べつに フドウトク な こと では ない と おもって いる に ちがいない。 じっさい、 ホウホウ を ぬすむ と いう こと は ぬすまぬ モノ より よい コウイ を して いる の かも しれぬ の だ。 げんに シュジン の ハツメイ ホウホウ を アンシツ の ナカ で かくそう と ドリョク して いる ワタシ と ぬすもう と ドリョク して いる ヤシキ と を ヒカク して みる と ヤシキ の コウイ の ほう が それだけ シャカイ に とって は やくだつ こと を して いる ケッカ に なって いく。 それ を おもう と そうして そんな ふう に ワタシ に おもわしめて きた ヤシキ を おもう と、 なお ますます ワタシ には ヤシキ が したしく みえだす の だ が、 そう か と いって ワタシ は シュジン の ソウシ した ムテイケイ セレニウム に かんする センショク ホウホウ だけ は しらしたく は ない の で ある。 それゆえ たえず いちばん ヤシキ と なかよく なった ワタシ が ヤシキ の ジャマ も また シゼン に ダレ より いちばん しつづけて いる ワケ にも なって いる の だ。
 ある とき ワタシ は ヤシキ に ジブン が ここ へ はいって きた トウジ カルベ から カンジャ だ と うたがわれて キケン な メ に あわされた こと を はなして みた。 すると ヤシキ は それなら カルベ が ジブン に そういう こと を まだ しない ところ から さっする と たぶん キミ を うたがって こりごり した から で あろう と わらいながら いって、 しかし それだから キミ は ボク を はやく から うたがう シュウカン を つけた の だ と カレ は からかった。 それでは キミ は ワタシ から うたがわれた と それほど はやく きづく から には キミ も はいって くる なり ワタシ から うたがわれる こと に たいして それほど ケイカイ する レンシュウ が できて いた わけ だ と ワタシ が いう と、 それ は そう だ と カレ は いった。 しかし、 カレ が それ は そう だ と いった の は ジブン は ホウホウ を ぬすみ に きた の が モクテキ だ と いった の と ドウヨウ なの にも かかわらず、 それ を そう いう ダイタンサ には ワタシ とて おどろかざる を えない の だ。 もしか する と カレ は ワタシ を みぬいて いて、 カレ が そう いえば ワタシ は おどろいて しまって カレ を たちまち ソンケイ する に ちがいない と おもって いる の では ない か と おもわれて、 コイツ、 と しばらく ヤシキ を みつめて いた の だ が、 ヤシキ は ヤシキ で もう ツギ の ヒョウジョウ に うつって しまって ウエ から ギャク に かぶさって きながら、 こんな セイサクショ へ こういう ふう に はいって くる と よく ジブン たち は ハラ に イチモツ あって の シゴト の よう に おもわれがち な もの で ある が キミ も もちろん しって の とおり そんな こと なんか なかなか ワレワレ には できる もの では なく、 しかし ベンカイ-がましい こと を いいだして は これ は また いっそう おかしく なって こまる ので シカタ が ない から ヒトビト の おもう よう に おもわせて はたらく ばかり だ と いって、 いちばん こまる の は キミ の よう に いたく も ない ところ を さして くる メツキ の ヒト の いる こと だ と ワタシ を ひやかした。 そう いわれる と ワタシ だって もう カレ から いたい ところ を さされて いる ので カレ も ちょうど いつも イマ の ワタシ の よう に ワタシ から たえず ちくちく やられた の で あろう と ドウジョウ しながら、 そういう こと を いつも いって いなければ ならぬ シゴト なんか さぞ おもしろく は なかろう と ワタシ が いう と、 ヤシキ は キュウ に ガンクビ を たてた よう に ワタシ を みつめて から ふっふ と わらって ジブン の カオ を にごして しまった。 それから ワタシ は もう ヤシキ が ナニ を たくらんで いよう と すてて おいた。 たぶん ヤシキ ほど の オトコ の こと だ から タニン の イエ の アンシツ へ イチド はいれば みる ヒツヨウ の ある ジュウヨウ な こと は すっかり みて しまった に ちがいない の だし、 みて しまった イジョウ は サツガイ する こと も できない かぎり ミラレゾン に なる だけ で どう しよう も おっつく もの では ない の で ある。 ワタシ と して は ただ イマ は こういう すぐれた オトコ と ぐうぜん こんな ところ で であった と いう こと を むしろ カンシャ す べき なの で あろう。 いや、 それ より ワタシ も カレ の よう に できうる かぎり シュジン の アイジョウ を リヨウ して イマ の うち に シゴト の ヒミツ を ぬすみこんで しまう ほう が よい の で あろう と まで おもいだした。 それで ワタシ は カレ に ある とき もう ジブン も ここ に ながく いる つもり は ない の だ が ここ を でて から どこ か よい クチ は ない か と たずねて みた。 すると カレ は それ は ジブン の たずねたい こと だ が そんな こと まで キミ と ジブン と が にて いる よう では キミ だって えらそう な こと も いって いられない では ない か と いう。 それで ワタシ は キミ が そう いう の も もっとも だ が これ は なにも キミ を ひっかけて とやこう と キミ の シンリ を ほりだす ため では なく、 かえって ワタシ は キミ を ソンケイ して いる ので これから じつは デシ に でも して もらう つもり で たのむ の だ と いう と、 デシ か と カレ は ヒトコト いって ケイベツ した よう に クショウ して いた が、 にわか に マジメ に なる と イチド ワタシ に、 シュウイ が 1 チョウ シホウ まったく クサキ の かれて いる エンカテツ の コウジョウ へ いって みて くる よう バンジ が それから だ と いう。 ナニ が それから なの か ワタシ には わからない が ヤシキ が ワタシ を みた サイショ から ワタシ を バカ に して いた カレ の タイド の ゲンイン が ちらり と そこ から みえた よう に おもわれる と、 いったい この オトコ は どこ まで ワタシ を バカ に して いた の か ソコ が みえなく なって きて だんだん カレ が ブキミ に なる と ドウジ に、 それなら ヤシキ を ひとつ こちら から ケイベツ して かかって やろう とも おもいだした の だ が、 それ が なかなか イチド カレ に みせられて しまって から は どうも おもう よう に クスリ が きかなく ただ コッケイ に なる だけ で、 すぐれた オトコ の マエ に でる と こう も こっち が みじめ に じりじり シュギョウ を させられる もの か と なげかわしく なって くる ばかり なの で ある。 ところが、 いそがしい シヤクショ の シゴト が ようやく かたづきかけた コロ の こと、 ある ヒ カルベ は キュウ に ヤシキ を シゴトバ の ダンサイキ の シタ へ ねじふせて しきり に ハクジョウ せよ ハクジョウ せよ と せまって いる の だ。 おもう に ヤシキ は こっそり アンシツ へ はいった ところ を カルベ に みつけられた の で あろう が ワタシ が シゴトバ へ はいって いった とき は ちょうど カルベ が おしつけた ヤシキ の ウエ へ ウマノリ に なって コウトウブ を なぐりつけて いる ところ で あった。 とうとう やられた な と ワタシ は おもった が べつに ヤシキ を たすけて やろう と いう キ が おこらない ばかり では ない。 ヒゴロ ソンケイ して いた オトコ が ボウリョク に あう と どんな タイド を とる もの か と まるで ユダ の よう な コウキシン が わいて きて レイタン に じっと ゆがむ ヤシキ の カオ を ながめて いた。 ヤシキ は ユカ の ウエ へ ながれだした ニス の ナカ へ カタホオ を ひたした まま おきあがろう と して ふるえて いる の だ が、 カルベ の ヒザボネ が ヤシキ の セナカ を つきふせる たび ごと に また すぐ べたべた と くずれて しまって キモノ の まくれあがった ふとった アカハダカ の リョウアシ を ブカッコウ に ユカ の ウエ で もがかせて いる だけ なの だ。 ワタシ は ヤシキ が カルベ に すくなからず テイコウ して いる の を みる と ばかばかしく なった が それ より ソンケイ して いる オトコ が クツウ の ため に みにくい カオ を して いる の は ココロ の ミニクサ を あらわして いる の と ドウヨウ な よう に おもわれて フカイ に なって こまりだした。 ワタシ が カルベ の ボウリョク を はらだたしく かんじた の も つまり は わざわざ タニン に そんな みにくい カオ を させる ブレイサ に たいして なの で、 じつは カルベ の ワンリョク に たいして では ない。 しかし、 カルベ は アイテ が みにくい カオ を しよう が しまい が そんな こと に トンチャク して いる もの では なく ますます ウエ から クビ を しめつけて なぐりつづける の で ある。 ワタシ は シマイ に だまって タニン の クツウ を ソバ で みて いる と いう ジシン の コウイ が セイトウ な もの か どう か と うたがいだした が、 その じっと して いる ワタシ の イチ から すこし でも うごいて どちら か へ ワタシ が カタン を すれば なお ワタシ の セイトウサ は なくなる よう にも おもわれる の だ。 それにしても あれほど みにくい カオ を しつづけながら まだ ハクジョウ しない ヤシキ を おもう と いったい ヤシキ は アンシツ から ナニ か カクジツ に ぬすみとった の で あろう か どう か と おもわれて、 コンド は ヤシキ の コンラン して いる ガンメン の シワ から カレ の ヒミツ を よみとる こと に クシン しはじめた。 カレ は つっぷしながら も ときどき ワタシ の カオ を みる の だ が カレ と シセン を あわす たび に ワタシ は カレ へ だんだん セイリョク を あたえる ため にやにや ケイベツ した よう に わらって やる と、 カレ も それ には まいった らしく キュウ に ふんぜん と しはじめて カルベ を ウエ から ころがそう と する の だ が カルベ の つよい と いう こと には どう シヨウ も ない、 ただ ヤシキ は ふんぜん と する たび に つよく どしどし なぐられて いく だけ なの だ。 しかし、 ワタシ から みて いる と ワタシ に わらわれて ふんぜん と する よう な ヤシキ が だいいち もう ボロ を みせた ので こまった ドンヅマリ と いう もの は ヒト は うごけば うごく ほど ボロ を だす もの らしく、 ヤシキ を みながら わらう ワタシ も いつのまにか すっかり カレ を ケイベツ して しまって わらう こと も できなく なった の も つまり は カレ が なんの ヤク にも たたぬ とき に うごいた から なの だ。 それで ワタシ は ヤシキ とて べつに ワレワレ と かわった ジンブツ でも なく ヘイボン な オトコ だ と しる と、 カルベ に もう なぐる こと なんか やめて クチ で いえば たりる では ない か と いって やる と、 カルベ は ワタシ を うずめた とき の よう に また ヤシキ の アタマ の ウエ から シンチュウバン の セッペン を ひっかぶせて ヒトケリ けりつけながら、 たて と いう。 ヤシキ は たちあがる と まだ ナニ か カルベ に せられる もの と おもった の か こわそう に じりじり コウホウ の カベ へ セナカ を つけて カルベ の シセイ を ふせぎながら、 アンシツ へ はいった の は ジガネ の ウラ の グリュー が カセイ ソーダ では とれなかった から アンモニア を さがし に いった の だ と ハヤクチ に いう。 しかし、 アンモニア が イリヨウ なら なぜ いわぬ か、 ネームプレート セイサクショ に とって アンシツ ほど タイセツ な ところ は ない こと ぐらい ダレ だって しって いる では ない か と いって また カルベ は なぐりだした。 ワタシ は ヤシキ の ベンカイ が デタラメ だ とは わかって いた が なぐる カルベ の テ の オト が あまり はげしい ので もう なぐる の だけ は やめる が よい と いう と、 カルベ は キュウ に ワタシ の ほう を ふりかえって、 それでは フタリ は キョウボウ か と いう。 だいたい キョウボウ か どう か こういう こと は かんがえれば わかる では ない か と ワタシ は いおう と して ふと かんがえる と、 なるほど これ は キョウボウ だ と おもわれない こと は ない ばかり では なく ひょっと する と ジジツ は キョウボウ で なく とも キョウボウ と おなじ コウイ で ある こと に キ が ついた。 まったく ヤシキ に ゆうゆう と アンシツ へ など いれさして おいて シュジン の シゴト の ヒミツ を ぬすまぬ ジシン の ほう が かえって わるい コウイ を して いる と おもって いる ワタシ で ある イジョウ は キョウボウ と おなじ コウイ で ある に ちがいない ので、 いくぶん どきり と ムネ を さされた オモイ に なりかけた の を わざと ずぶとく かまえ キョウボウ で あろう と なかろう と それだけ ヒト を なぐれば もう ジュウブン で あろう と いう と コンド は カルベ は ワタシ に かかって きて、 ワタシ の アゴ を つきつき それでは キサマ が ヤシキ を アンシツ へ いれた の で あろう と いう。 ワタシ は もはや カルベ が どんな に ワタシ を なぐろう と そんな こと より も イマ まで なぐられて いた ヤシキ の ガンゼン で カレ の ツミ を ひきうけて なぐられて やる ほう が ヤシキ に これ を みよ と いう か の よう で まったく はればれ と して キモチ が よい の だ。 しかし ワタシ は そうして カルベ に なぐられて いる うち に コンド は フシギ にも カルベ と ワタシ と が しめしあわせて カレ に なぐらせて でも いる よう で まるで ハンタイ に カルベ と ワタシ と が キョウボウ して うった シバイ みたい に おもわれだす と、 かえって こんな にも なぐられて へいぜん と して いて は ヤシキ に キョウボウ だ と おもわれ は すまい か と ケネン されはじめ、 ふと ヤシキ の ほう を みる と カレ は なぐられた モノ が フタリ で ある こと に マンゾク した もの らしく キュウ に ゲンキ に なって、 キミ、 なぐれ、 と いう と ドウジ に カルベ の ハイゴ から カレ の アタマ を ツヅケサマ に なぐりだした。 すると、 ワタシ も べつに ハラ は たてて は いない の だ が イマ まで なぐられて いた イタサ の ため に なぐりかえす ウンドウ が ユカイ に なって ぽかぽか と カルベ の アタマ を なぐって みた。 カルベ は ゼンゴ から なぐりだされる と シュリョク を ヤシキ に むけて カレ を なぐりつけよう と した ので ワタシ は カルベ を ハイゴ へ ひいて ジャマ を する と、 その ヒマ に ヤシキ は カルベ を おしたおして ウマノリ に なって また なぐりつづけた。 ワタシ は ヤシキ の そんな にも ゲンキ に なった の に おどろいた が いくぶん ワタシ が リユウ も なく なぐられた ので ワタシ が ハラ を たてて カレ と イッショ に カルベ に むかって かかって いく に ちがいない と おもった から で あろう。 しかし、 ワタシ は もう それ イジョウ は カルベ に フクシュウ する ヨウ も ない ので また だまって なぐられて いる カルベ を みて いる と カルベ は すぐ ク も なく ヤシキ を ひっくりかえして ウエ に なって ハンタイ に カレ を マエ より いっそう はげしく なぐりだした。 そう なる と ヤシキ は いちばん サイショ と おなじ こと で どう する こと も できない の だ。 だが カルベ は しばらく ヤシキ を なぐって いて から ワタシ が ハイゴ から カレ を おそう だろう と おもった の か キュウ に たちあがる と ワタシ に むかって つっかかって きた。 カルベ と ヒトリ ドウシ の ナグリアイ なら ワタシ が まける に きまって いる ので また ワタシ は だまって ヤシキ の おきあがって くる まで なぐらせて いて やる と、 おきあがって きた ヤシキ は フイ に カルベ を なぐらず に ワタシ を なぐりだした。 ヒトリ でも こまる のに フタリ イッショ に こられて は ワタシ も もう シカタ が ない ので ユカ の ウエ に たおれた まま フタリ の する まま に させて やった が、 しかし ワタシ は サキ から それほど も いったい アクギョウ を して きた の で あろう か、 ワタシ は リョウウデ で アタマ を かかえて まんまるく なりながら ワタシ の した こと が フタリ から なぐられねば ならぬ それほど も わるい か どう か を かんがえた。 なるほど ワタシ は ジケン の おこりはじめた とき から フタリ に とって は イヒョウガイ の コウイ ばかり を しつづけて いた に ちがいない。 しかし、 ワタシ イガイ の フタリ も ワタシ に とって は イガイ な こと ばかり を した では ない か。 だいいち ワタシ は ヤシキ から なぐられる リユウ は ない。 たとえ ワタシ が ヤシキ と イッショ に カルベ に かからなかった から とは いえ ワタシ をも そんな とき に かからせて やろう など と おもった ヤシキ ジシン が バカ なの だ。 そう おもって は みて も けっきょく フタリ から、 ドウジ に なぐられなかった の は ヤシキ だけ で いちばん なぐられる べき セキニン の ある はず の カレ が いちばん うまい こと を した の だ から ワタシ も カレ を イチド なぐりかえす ぐらい の こと は して も よい の だ が とにかく もう その とき は ぐったり ワタシタチ は つかれて いた。 じっさい ワタシタチ の この ばかばかしい カクトウ も ゲンイン は ヤシキ が アンシツ へ はいった こと から だ とは いえ 5 マン-マイ の ネームプレート を タンジジツ の アイダ に しあげた ヒロウ が より おおきな ゲンイン に なって いた に きまって いる の だ。 ことに シンチュウ を フショク させる とき の エンカテツ の シュウソ は それ が タリョウ に つづいて でれば でる ほど シンケイ を ヒロウ させる ばかり では なく ニンゲン の リセイ を さえ コンラン させて しまう の だ。 そのくせ ホンノウ だけ は ますます カラダ の ナカ で メイリョウ に セイシツ を あらわして くる の だ から この ネームプレート セイサクショ で おこる ジケン に ハラ を たてたり して いて は キリ が ない の だ が それにしても ヤシキ に なぐられた こと だけ は アイテ が ヤシキ で ある だけ に ワタシ は わすれる こと は できない。 ワタシ を なぐった ヤシキ は ワタシ に どういう タイド を とる で あろう か、 カレ の デカタ で ひとつ カレ を セキメン させて やろう と おもって いる と いつ おわった とも わからず に おわった ジケン の アト で ヤシキ が いう には どうも あの とき キミ を なぐった の は わるい と おもった が キミ を あの とき なぐらなければ いつまで カルベ に ジブン が なぐられる かも しれなかった から ジケン に オワリ を つける ため に キミ を なぐらせて もらった の だ、 ゆるして くれ と いう。 じっさい ワタシ も きづかなかった の だ が あの とき いちばん わるく ない ワタシ が フタリ から なぐられなかった なら ジケン は まだまだ つづいて いた に ちがいない の だ。 それでは ワタシ は まだ やっぱり こんな とき にも ヤシキ の ヌスミ を まもって いた の か と おもって クショウ する より シカタ が なくなり せっかく ヤシキ を セキメン させて やろう と おもって いた タノシミ も うしなって しまって ますます ヤシキ の すぐれた チボウ に おどろかされる ばかり と なった ので、 ワタシ も いまいましく なって きて ヤシキ に そんな に うまく キミ が ワタシ を つかった から には アンシツ の ほう も さだめし うまく いった の で あろう と いう と、 カレ は カレ で てなれた もの で キミ まで そんな こと を いう よう では カルベ が ワタシ を なぐる の だって トウゼン だ、 カルベ に ヒ を つけた の は キミ では ない の か と いって わらって のける の だ。 なるほど そう いわれれば カルベ に ヒ を つけた の は ワタシ だ と おもわれたって ベンカイ の シヨウ も ない ので これ は ひょっと する と ヤシキ が ワタシ を なぐった の も ワタシ と カルベ が キョウボウ した から だ と おもった の では なかろう か と おもわれだし、 いったい ホントウ は どちら が どんな ふう に ワタシ を おもって いる の か ますます ワタシ には わからなく なりだした。 しかし ジジツ が そんな に フメイリョウ な ナカ で ヤシキ も カルベ も フタリ ながら それぞれ ワタシ を うたがって いる と いう こと だけ は メイリョウ なの だ。 だが この ワタシ ヒトリ に とって メイリョウ な こと も どこ まで が ゲンジツ と して メイリョウ な こと なの か どこ で どうして はかる こと が できる の で あろう。 それ にも かかわらず ワタシタチ の アイダ には イッサイ が メイリョウ に わかって いる か の ごとき みえざる キカイ が たえず ワタシタチ を はかって いて その はかった まま に また ワタシタチ を おしすすめて くれて いる の で ある。 そうして ワタシタチ は たがいに うたがいあいながら も ヨクジツ に なれば ゼンブ の シゴト が できあがって らくらく と なる こと を ヨソウ し、 その しあげた チンギン を もらう こと の タノシミ の ため に もう ヒロウ も アラソイ も わすれて その ヒ の シゴト を おえて しまう と、 いよいよ ヨクジツ と なって また ダレ も が まったく ヨソウ しなかった あたらしい デキゴト に あわねば ならなかった。 それ は シュジン が ワタシタチ の しあげた セイサクヒン と ヒキカエ に うけとって きた キンガク ゼンブ を カエリ の ミチ に おとして しまった こと で ある。 まったく ワタシタチ の ヨノメ も ろくろく ねむらず に した ロウリョク は なんの ヤク にも たたなく なった の だ。 しかも カネ を ウケトリ に いった シュジン と イッショ に ワタシ を この イエ へ ショウカイ して くれた シュジン の アネ が あらかじめ シュジン が カネ を おとす で あろう と ヨソウ して ついて いった と いう の だ から、 この こと だけ は ヨソウ に たがわず ジケン は シンコウ して いた の に ちがいない が、 ふと ヒサシブリ に タイキン を もうけた タノシサ から たとえ イッシュン の アイダ でも よい もうけた キンガク を もって みたい と シュジン が いった ので つい ユダン を して ドウジョウ して しまい、 シュジン に しばらく の アイダ その カネ を もたした の だ と いう。 その アイダ に ヒトツ の ケッカン が これ も カクジツ な キカイ の よう に はたらいて いた の で ある。 もちろん おとした キンガク が もう イチド でて くる など と おもって いる モノ は いない から ケイサツ へ とどけ は した ものの イッカ は もう あおざめきって しまって コトバ など いう モノ は ダレ も なく、 ワタシタチ は ワタシタチ で チンギン も もらう こと が できない の だ から イチジ に ツカレ が でて きて シゴトバ に ねそべった まま うごこう とも しない の だ。 カルベ は てあたりしだい に カンパン を ぶちくだいて なげつける と キュウ に ワタシ に むかって なぜ オマエ は にやにや して いる の か と つきかかって きた。 ワタシ は べつに にやにや して いた と おもわない の だ が それ が そんな に カルベ に みえた の なら あるいは わらって いた の か しれない。 たしか に あんまり シュジン の アタマ は キカイ だ から だ。 それ は エンカテツ の ナガネン の サヨウ の ケッカ なの かも しれない と おもって みて も アタマ の ケッカン ほど おそる べき もの は ない では ない か。 そうして その シュジン の ケッカン が また ワタシタチ を ひきつけて いて おこる こと も できない ゲンイン に なって いる と いう こと は これ は なんと いう チンキ な コウゾウ の マワリカタ なの で あろう。 しかし、 ワタシ は そんな こと を カルベ に きかせて やって も シカタ が ない ので だまって いる と とつぜん ワタシ を にらみつけて いた カルベ が テ を うって、 よしっ サケ を のもう と いいだす と たちあがった。 ちょうど それ は カルベ が いわなくて も ワタシタチ の ナカ の ダレ か が もう すぐ いいださねば ならない シュンカン に ぐうぜん カルベ が いった だけ なので、 なんの フシゼンサ も なく すぐ すらすら と ワタシタチ の キブン は サケ の ほう へ むかって いった の だ。 じっさい そういう とき には ワカモノ たち は サケ でも のむ より シカタ の ない とき なの だ が それ が この サケ の ため に ヤシキ の セイメイ まで が なくなろう とは ヤシキ だって おもわなかった に ちがいない。
 その ヨ ワタシタチ 3 ニン は シゴトバ で そのまま クルマザ に なって 12 ジ-スギ まで のみつづけた の だ が、 メ が さめる と 3 ニン の ナカ の ヤシキ が ジュウ-クロム サン アンモニア の のこった ヨウエキ を ミズ と まちがえて ドビン の クチ から のんで しんで いた の で ある。 ワタシ は カレ を この イエ へ おくった セイサクショ の モノタチ が いう よう に カルベ が ヤシキ を ころした の だ とは イマ でも おもわない。 もちろん ワタシ が ヤシキ の のんだ ジュウ-クロム サン アンモニア を シヨウ する べき グリュー-ビキ の ブブン に その ヒ も はたらいて いた とは いえ、 カレ に サケ を のました の が ワタシ で ない イジョウ は ワタシ より も いちおう カルベ の ほう が より おおく うたがわれる の は トウゼン で ある が、 それにしても カルベ が コイ に サケ を のまして まで ヤシキ を ころそう など と ふかい タクラミ の おころう ほど マエ から ワタシタチ は サケ を のみたく なって いた の では ない の で ある。 サケ を のみたく なった とき より ワタシ が ジュウ-クロム サン アンモニア を つくって おいた ジカン の ほう が マエ なの だ から うたがいえられる と する と ワタシ なの にも かかわらず、 それ が カルベ が うたがわれた と いう の も カルベ の まず ヒトメ で ダレ から も ボウリョク を このむ こと を みやぶられる たくましい ソウボウ から きて いる の で あろう。 しかし、 ワタシ とて も もちろん カルベ が ぜんぜん ヤシキ を ころした の では ない と ダンゲン する の では ない。 ワタシ の しりえられる テイド の こと は カレ が ヤシキ を ころした の では ない と いいえられる ほど の こと で ある より シカタ が ない の だ。 もともと カルベ は ヤシキ が アンシツ へ しのびこんだ の を みて いる から は、 カレ を サツガイ する イガイ に カレ に ヒミツ を しられぬ ホウホウ は ない と イチド は ワタシ の よう に おもった で あろう から。 そうして ワタシ が ヤシキ を サツガイ する の なら サケ を のまして おいて そのうえ ジュウ-クロム サン アンモニア を のます より シカタ が ない と おもった こと さえ ある こと から かんがえて も、 カレ も そのよう に イチド は おもった に ちがいない で あろう から。 だが、 サケ に よって いた の は ワタシ と ヤシキ だけ では なくて カルベ とて ドウヨウ に よって いた の だ から カレ が その ゲキヤク を ヤシキ に のまそう など と した の では ない で あろう。 よし たとえ ヒゴロ かんがえて いた こと が ムイシキ に ヨイ の ナカ に はたらいて カレ が ヤシキ に ジュウ-クロム サン アンモニア を のました の だ と する なら それなら あるいは ヤシキ に それ を のました の は ドウヨウ な リユウ に よって ワタシ かも しれない の だ。 いや、 まったく ワタシ とて カレ を ころさなかった と どうして ダンゲン する こと が できる で あろう。 カルベ より ダレ より も いつも いちばん ヤシキ を おそれた モノ は ワタシ では なかった か。 ニチヤ カレ の いる かぎり カレ の アンシツ へ しのびこむ の を いちばん チュウイ して ながめて いた の は ワタシ では なかった か。 いや それ より ワタシ の ハッケン しつつ ある ソウエン と ケイサン ジルコニウム の カゴウブツ に かんする ホウテイシキ を ぬすまれた と おもいこみ いつも いちばん はげしく ヤシキ を うらんで いた の は ワタシ では なかった か。 そう だ。 もしか する と ヤシキ を サツガイ した の は ワタシ かも しれぬ の だ。 ワタシ は ジュウ-クロム サン アンモニア の オキバ を いちばん よく こころえて いた の で ある。 ワタシ は ヨイ の まわらぬ まで は ヤシキ が アス から どこ へ いって どんな こと を する の か カレ の ジユウ に なって から の コウドウ ばかり が キ に なって ならなかった の で ある。 しかも カレ を いかして おいて ソン を する の は カルベ より も ワタシ では なかった か。 いや、 もう ワタシ の アタマ も いつのまにか シュジン の アタマ の よう に はや エンカテツ に おかされて しまって いる の では なかろう か。 ワタシ は もう ワタシ が わからなく なって きた。 ワタシ は ただ ちかづいて くる キカイ の するどい センセン が じりじり ワタシ を ねらって いる の を かんじる だけ だ。 ダレ か もう ワタシ に かわって ワタシ を さばいて くれ。 ワタシ が ナニ を して きた か そんな こと を ワタシ に きいたって ワタシ の しって いよう はず が ない の だ から。
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