カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

オジイサン の ランプ

2016-10-08 | ニイミ ナンキチ
 オジイサン の ランプ

 ニイミ ナンキチ

 カクレンボ で、 クラ の スミ に もぐりこんだ トウイチ くん が ランプ を もって でて きた。
 それ は めずらしい カタチ の ランプ で あった。 80 センチ ぐらい の ふとい タケ の ツツ が ダイ に なって いて、 その ウエ に ちょっぴり ヒ の ともる ブブン が くっついて いる、 そして ホヤ は、 ほそい ガラス の ツツ で あった。 はじめて みる モノ には ランプ とは おもえない ほど だった。
 そこで ミンナ は、 ムカシ の テッポウ と まちがえて しまった。
「ナン だあ、 テッポウ かあ」 と オニ の ソウハチ くん は いった。
 トウイチ くん の オジイサン も、 しばらく それ が なんだか わからなかった。 メガネゴシ に じっと みて いて から、 はじめて わかった の で ある。
 ランプ で ある こと が わかる と、 トウイチ くん の オジイサン は こう いって コドモ たち を しかりはじめた。
「こらこら、 オマエタチ は ナニ を もちだす か。 まことに コドモ と いう もの は、 だまって あそばせて おけば ナニ を もちだす やら ワケ の わからん、 ユダン も スキ も ない、 ヌスットネコ の よう な もの だ。 こらこら、 それ は ここ へ もって きて、 オマエタチ は ソト へ いって あそんで こい。 ソト に いけば、 デンシンバシラ でも なんでも あそぶ もの は いくらでも ある に」
 こうして しかられる と コドモ は はじめて、 ジブン が よく ない オコナイ を した こと が わかる の で ある。 そこで、 ランプ を もちだした トウイチ くん は もちろん の こと、 なにも もちださなかった キンジョ の コドモ たち も、 ジブン たち ミンナ で わるい こと を した よう な カオ を して、 すごすご と ソト の ミチ へ でて いった。
 ソト には、 ハル の ヒル の カゼ が、 ときおり ミチ の ホコリ を ふきたてて すぎ、 のろのろ と ギュウシャ が とおった アト を、 しろい チョウ が いそがしそう に とおって ゆく こと も あった。 なるほど デンシンバシラ が あっちこっち に たって いる。 しかし コドモ たち は デンシンバシラ なんか で あそび は しなかった。 オトナ が、 こうして あそべ と いった こと を、 いわれた まま に あそぶ と いう の は なんとなく ばかげて いる よう に コドモ には おもえる の で ある。
 そこで コドモ たち は、 ポケット の ナカ の ラムネダマ を かちかち いわせながら、 ヒロバ の ほう へ とんで いった。 そして まもなく ジブン たち の アソビ で、 サッキ の ランプ の こと は わすれて しまった。
 ヒグレ に トウイチ くん は イエ へ かえって きた。 オク の イマ の スミ に、 あの ランプ が おいて あった。 しかし、 ランプ の こと を ナニ か いう と、 また オジイサン に がみがみ いわれる かも しれない ので、 だまって いた。
 ユウゴハン の アト の タイクツ な ジカン が きた。 トウイチ くん は タンス に もたれて、 ヒキダシ の カン を かたん かたん と いわせて いたり、 ミセ に でて ヒゲ を はやした ノウガッコウ の センセイ が 『ダイコン サイバイ の リロン と ジッサイ』 と いう よう な、 むつかしい ナマエ の ホン を バントウ に チュウモン する ところ を、 じっと みて いたり した。
 そういう こと にも あく と、 また オク の イマ に もどって きて、 オジイサン が いない の を みすまして、 ランプ の ソバ へ にじりより、 その ホヤ を はずして みたり、 5 セン ハクドウカ ほど の ネジ を まわして、 ランプ の シン を だしたり ひっこめたり して いた。
 すこし イッショウ ケンメイ に なって いじくって いる と、 また オジイサン に みつかって しまった。 けれど コンド は オジイサン は しからなかった。 ネエヤ に オチャ を いいつけて おいて、 すっぽん と キセルヅツ を ぬきながら、 こう いった。
「トウボウ、 この ランプ は な、 オジイサン には とても なつかしい もの だ。 ながい アイダ わすれて おった が、 キョウ トウボウ が クラ の スミ から もちだして きた ので、 また ムカシ の こと を おもいだした よ。 こう オジイサン みたい に トシ を とる と、 ランプ でも なんでも ムカシ の もの に であう の が とても うれしい もん だ」
 トウイチ くん は ぽかん と して オジイサン の カオ を みて いた。 オジイサン は がみがみ と しかりつけた から、 おこって いた の か と おもったら、 ムカシ の ランプ に あう こと が できて よろこんで いた の で ある。
「ひとつ ムカシ の ハナシ を して やる から、 ここ へ きて すわれ」
と オジイサン が いった。
 トウイチ くん は ハナシ が すき だ から、 いわれる まま に オジイサン の マエ へ いって すわった が、 なんだか オセッキョウ を される とき の よう で、 イゴコチ が よく ない ので、 いつも ウチ で ハナシ を きく とき に とる シセイ を とって きく こと に した。 つまり、 ねそべって リョウアシ を ウシロ へ たてて、 ときどき アシ の ウラ を うちあわせる ゲイトウ を した の で ある。
 オジイサン の ハナシ と いう の は ツギ の よう で あった。

 イマ から 50 ネン ぐらい マエ、 ちょうど ニチロ センソウ の ジブン の こと で ある。 ヤナベ シンデン の ムラ に ミノスケ と いう 13 の ショウネン が いた。
 ミノスケ は、 フボ も キョウダイ も なく、 シンセキ の モノ とて ヒトリ も ない、 まったく の ミナシゴ で あった。 そこで ミノスケ は、 ヨソ の イエ の ハシリヅカイ を したり、 オンナ の コ の よう に コモリ を したり、 コメ を ついて あげたり、 その ホカ、 ミノスケ の よう な ショウネン に できる こと なら なんでも して、 ムラ に おいて もらって いた。
 けれども ミノスケ は、 こうして ムラ の ヒトビト の オセワ で いきて ゆく こと は、 ホントウ を いえば いや で あった。 コモリ を したり、 コメ を ついたり して イッショウ を おくる と する なら、 オトコ と うまれた カイ が ない と、 つねづね おもって いた。
 ダンシ は ミ を たてねば ならない。 しかし どうして ミ を たてる か。 ミノスケ は マイニチ、 ゴハン を たべて ゆく の が やっと の こと で あった。 ホン 1 サツ かう オカネ も なかった し、 また たとい オカネ が あって ホン を かった と して も、 よむ ヒマ が なかった。
 ミ を たてる の に よい キッカケ が ない もの か と、 ミノスケ は こころひそか に まって いた。
 すると ある ナツ の ヒ の ヒルサガリ、 ミノスケ は ジンリキシャ の サキヅナ を たのまれた。
 その コロ ヤナベ シンデン には、 いつも 2~3 ニン の ジンリキヒキ が いた。 シオトウジ (カイスイヨク の こと) に ナゴヤ から くる キャク は、 たいてい キシャ で ハンダ まで きて、 ハンダ から チタ ハントウ ニシ カイガン の オオノ や シン マイコ まで ジンリキシャ で ゆられて いった もの で、 ヤナベ シンデン は ちょうど その ミチスジ に あたって いた から で ある。
 ジンリキシャ は ヒト が ひく の だ から あまり はやく は はしらない。 それに、 ヤナベ シンデン と オオノ の アイダ には トウゲ が ヒトツ ある から、 よけい ジカン が かかる。 おまけに その コロ の ジンリキシャ の ワ は、 がらがら と なる おもい カナワ だった の で ある。 そこで、 イソギ の キャク は、 チンギン を バイ だして、 フタリ の ジンリキヒキ に ひいて もらう の で あった。 ミノスケ に サキヅナヒキ を たのんだ の も、 イソギ の ヒショキャク で あった。
 ミノスケ は ジンリキシャ の ナガエ に つながれた ツナ を カタ に かついで、 ナツ の イリヒ の じりじり てりつける ミチ を、 えいや えいや と はしった。 なれない こと とて たいそう くるしかった。 しかし ミノスケ は クルシサ など キ に しなかった。 コウキシン で いっぱい だった。 なぜなら ミノスケ は、 モノゴコロ が ついて から、 ムラ を イッポ も でた こと が なく、 トウゲ の ムコウ に どんな マチ が あり、 どんな ヒトビト が すんで いる か しらなかった から で ある。
 ヒ が くれて あおい ユウヤミ の ナカ を ヒトビト が ほのじろく あちこち する コロ、 ジンリキシャ は オオノ の マチ に はいった。
 ミノスケ は その マチ で イロイロ な もの を はじめて みた。 ノキ を ならべて つづいて いる おおきい ショウテン が、 だいいち、 ミノスケ には めずらしかった。 ミノスケ の ムラ には アキナイヤ とて は 1 ケン しか なかった。 ダガシ、 ワラジ、 イトクリ の ドウグ、 コウヤク、 カイガラ に はいった メグスリ、 その ホカ ムラ で つかう タイテイ の もの を うって いる ちいさな ミセ が 1 ケン きり しか なかった の で ある。
 しかし ミノスケ を いちばん おどろかした の は、 その おおきな ショウテン が、 ヒトツヒトツ ともして いる、 ハナ の よう に あかるい ガラス の ランプ で あった。 ミノスケ の ムラ では ヨル は アカリ なし の イエ が おおかった。 マックラ な イエ の ナカ を、 ヒトビト は メクラ の よう に テ で さぐりながら、 ミズガメ や、 イシウス や ダイコクバシラ を さぐりあてる の で あった。 すこし ゼイタク な イエ では、 オカミサン が ヨメイリ の とき もって きた アンドン を つかう の で あった。 アンドン は カミ を シホウ に はりめぐらした ナカ に、 アブラ の はいった サラ が あって、 その サラ の フチ に のぞいて いる トウシン に、 サクラ の ツボミ ぐらい の ちいさい ホノオ が ともる と、 マワリ の カミ に ミカンイロ の あたたか な ヒカリ が さし、 フキン は すこし あかるく なった の で ある。 しかし どんな アンドン に しろ、 ミノスケ が オオノ の マチ で みた ランプ の アカルサ には とても およばなかった。
 それに ランプ は、 その コロ と して は まだ めずらしい ガラス で できて いた。 すすけたり、 やぶれたり しやすい カミ で できて いる アンドン より、 これ だけ でも ミノスケ には いい もの の よう に おもわれた。
 この ランプ の ため に、 オオノ の マチ ゼンタイ が リュウグウジョウ か ナニ か の よう に あかるく かんじられた。 もう ミノスケ は ジブン の ムラ へ かえりたく ない と さえ おもった。 ニンゲン は ダレ でも あかるい ところ から くらい ところ に かえる の を このまない の で ある。
 ミノスケ は ダチン の 15 セン を もらう と、 ジンリキシャ とも わかれて しまって、 オサケ に でも よった よう に、 ナミ の オト の たえまない この ウミベ の マチ を、 めずらしい ショウテン を のぞき、 うつくしく あかるい ランプ に みとれて、 さまよって いた。
 ゴフクヤ では、 バントウ さん が、 ツバキ の ハナ を おおきく そめだした タンモノ を、 ランプ の ヒカリ の シタ に ひろげて キャク に みせて いた。 コクヤ では、 コゾウ さん が ランプ の シタ で アズキ の わるい の を ヒトツブ ずつ ひろいだして いた。 また ある イエ では オンナ の コ が、 ランプ の ヒカリ の シタ に しろく ひかる カイガラ を ちらして オハジキ を して いた。 また ある ミセ では こまかい タマ に イト を とおして ジュズ を つくって いた。 ランプ の あおやか な ヒカリ の モト では、 ヒトビト の こうした セイカツ も、 モノガタリ か ゲントウ の セカイ での よう に うつくしく なつかしく みえた。
 ミノスケ は イマ まで ナンド も、 「ブンメイ カイカ で ヨノナカ が ひらけた」 と いう こと を きいて いた が、 イマ はじめて ブンメイ カイカ と いう こと が わかった よう な キ が した。
 あるいて いる うち に、 ミノスケ は、 サマザマ な ランプ を たくさん つるして ある ミセ の マエ に きた。 これ は ランプ を うって いる ミセ に ちがいない。
 ミノスケ は しばらく その ミセ の マエ で 15 セン を にぎりしめながら ためらって いた が、 やがて ケッシン して つかつか と はいって いった。
「ああいう もの を うっとくれ や」
と ミノスケ は ランプ を ゆびさして いった。 まだ ランプ と いう コトバ を しらなかった の で ある。
 ミセ の ヒト は、 ミノスケ が ゆびさした おおきい ツリ-ランプ を はずして きた が、 それ は 15 セン では かえなかった。
「まけとくれ や」
と ミノスケ は いった。
「そう は まからん」
と ミセ の ヒト は こたえた。
「オロシネ で うっとくれ や」
 ミノスケ は ムラ の ザッカヤ へ、 つくった ワラジ を かって もらい に よく いった ので、 モノ には オロシネ と コウリネ が あって、 オロシネ は やすい と いう こと を しって いた。 たとえば、 ムラ の ザッカヤ は、 ミノスケ の つくった ヒョウタンガタ の ワラジ を オロシネ の 1 セン 5 リン で かいとって、 ジンリキヒキ たち に コウリネ の 2 セン 5 リン で うって いた の で ある。
 ランプ-ヤ の シュジン は、 み も しらぬ どこ か の コゾウ が そんな こと を いった ので、 びっくり して まじまじ と ミノスケ の カオ を みた。 そして いった。
「オロシネ で うれ って、 そりゃ アイテ が ランプ を うる イエ なら オロシネ で うって あげて も いい が、 ヒトリヒトリ の オキャク に オロシネ で うる わけ には いかん な」
「ランプ-ヤ なら オロシネ で うって くれる だ のい?」
「ああ」
「そんなら、 オレ、 ランプ-ヤ だ。 オロシネ で うって くれ」
 ミセ の ヒト は ランプ を もった まま わらいだした。
「オメエ が ランプ-ヤ? はっはっはっはっ」
「ホントウ だよ、 オッツァン。 オレ、 ホントウ に これから ランプ-ヤ に なる ん だ。 な、 だから たのむ に、 キョウ は ヒトツ だ けんど オロシネ で うって くれ や。 コンド くる ときゃ、 たくさん、 イッペン に かう で」
 ミセ の ヒト は はじめ わらって いた が、 ミノスケ の シンケン な ヨウス に うごかされて、 いろいろ ミノスケ の ミノウエ を きいた うえ、
「よし、 そんなら オロシネ で こいつ を うって やろう。 ホント は オロシネ でも この ランプ は 15 セン じゃ うれない けど、 オメエ の ネッシン なの に カンシン した。 まけて やろう。 そのかわり しっかり ショウバイ を やれ よ。 ウチ の ランプ を どんどん もってって うって くれ」
と いって、 ランプ を ミノスケ に わたした。
 ミノスケ は ランプ の アツカイカタ を ひととおり おしえて もらい、 ついでに チョウチン-ガワリ に その ランプ を ともして、 ムラ へ むかった。
 ヤブ や マツバヤシ の うちつづく くらい トウゲミチ でも、 ミノスケ は もう こわく は なかった。 ハナ の よう に あかるい ランプ を さげて いた から で ある。
 ミノスケ の ムネ の ナカ にも、 もう ヒトツ の ランプ が ともって いた。 ブンメイ カイカ に おくれた ジブン の くらい ムラ に、 この すばらしい ブンメイ の リキ を うりこんで、 ムラビト たち の セイカツ を あかるく して やろう と いう キボウ の ランプ が――

 ミノスケ の あたらしい ショウバイ は、 ハジメ の うち まるで はやらなかった。 ヒャクショウ たち は なんでも あたらしい もの を シンヨウ しない から で ある。
 そこで ミノスケ は いろいろ かんがえた アゲク、 ムラ で 1 ケン きり の アキナイヤ へ その ランプ を もって いって、 タダ で かして あげる から しばらく これ を つかって ください と たのんだ。
 ザッカヤ の バアサン は、 しぶしぶ ショウチ して、 ミセ の テンジョウ に クギ を うって ランプ を つるし、 その バン から ともした。
 イツカ ほど たって、 ミノスケ が ワラジ を かって もらい に いく と、 ザッカヤ の バアサン は にこにこ しながら、 こりゃ たいへん ベンリ で あかるうて、 ヨル でも オキャク が よう きて くれる し、 ツリセン を まちがえる こと も ない ので、 キ に いった から かいましょう、 と いった。 そのうえ、 ランプ の よい こと が はじめて わかった ムラビト から、 もう ミッツ も チュウモン の あった こと を ミノスケ に きかして くれた。 ミノスケ は とびたつ よう に よろこんだ。
 そこで ザッカヤ の バアサン から ランプ の ダイ と ワラジ の ダイ を うけとる と、 すぐ その アシ で、 はしる よう に して オオノ へ いった。 そして ランプ-ヤ の シュジン に ワケ を はなして、 たりない ところ は かして もらい、 ミッツ の ランプ を かって きて、 チュウモン した ヒト に うった。
 これから ミノスケ の ショウバイ は はやって きた。
 ハジメ は チュウモン を うけた だけ オオノ へ かい に いって いた が、 すこし カネ が たまる と、 チュウモン は なくて も たくさん かいこんで きた。
 そして イマ は もう、 ヨソ の イエ の ハシリヅカイ や コモリ を する こと は やめて、 ただ ランプ を うる ショウバイ だけ に うちこんだ。 モノホシダイ の よう な ワク の ついた クルマ を したてて、 それ に ランプ や ホヤ など を いっぱい つるし、 ガラス の ふれあう すずしい オト を させながら、 ミノスケ は ジブン の ムラ や フキン の ムラムラ へ うり に いった。
 ミノスケ は オカネ も もうかった が、 それ とは ベツ に、 この ショウバイ が たのしかった。 イマ まで くらかった イエ に、 だんだん ミノスケ の うった ランプ が ともって ゆく の で ある。 くらい イエ に、 ミノスケ は ブンメイ カイカ の あかるい ヒ を ヒトツヒトツ ともして ゆく よう な キ が した。
 ミノスケ は もう セイネン に なって いた。 それまで は ジブン の イエ とて は なく、 クチョウ さん の ところ の ノキ の かたむいた ナヤ に すませて もらって いた の だ が、 コガネ が たまった ので、 ジブン の イエ も つくった。 すると セワ して くれる ヒト が あった ので オヨメサン も もらった。
 ある とき、 ヨソ の ムラ で ランプ の センデン を して おって、 「ランプ の シタ なら タタミ の ウエ に シンブン を おいて よむ こと が できる のい」 と クチョウ さん に イゼン きいて いた こと を いう と、 オキャクサン の ヒトリ が 「ホント かん?」 と ききかえした ので、 ウソ の きらい な ミノスケ は、 ジブン で ためして みる キ に なり、 クチョウ さん の ところ から フルシンブン を もらって きて、 ランプ の シタ に ひろげた。
 やはり クチョウ さん の いわれた こと は ホントウ で あった。 シンブン の こまかい ジ が ランプ の ヒカリ で ヒトツヒトツ はっきり みえた。 「ワシ は ウソ を いって ショウバイ を した こと には ならない」 と ミノスケ は ヒトリゴト を いった。 しかし ミノスケ は、 ジ が ランプ の ヒカリ で はっきり みえて も なんにも ならなかった。 ジ を よむ こと が できなかった から で ある。
「ランプ で モノ は よく みえる よう に なった が、 ジ が よめない じゃ、 まだ ホントウ の ブンメイ カイカ じゃ ねえ」
 そう いって ミノスケ は、 それから マイバン クチョウ さん の ところ へ ジ を おしえて もらい に いった。
 ネッシン だった ので 1 ネン も する と、 ミノスケ は ジンジョウカ を ソツギョウ した ムラビト の ダレ にも まけない くらい よめる よう に なった。
 そして ミノスケ は ショモツ を よむ こと を おぼえた。

 ミノスケ は もう、 オトコザカリ の オトナ で あった。 イエ には コドモ が フタリ あった。 「ジブン も これ で どうやら ヒトリダチ が できた わけ だ。 まだ ミ を たてる と いう ところ まで は いって いない けれども」 と、 ときどき おもって みて、 その つど ココロ に マンゾク を おぼえる の で あった。
 さて ある ヒ、 ミノスケ が ランプ の シン を シイレ に オオノ の マチ へ やって くる と、 5~6 ニン の ニンプ が ミチ の ハタ に アナ を ほり、 ふとい ながい ハシラ を たてて いる の を みた。 その ハシラ の ウエ の ほう には ウデ の よう な キ が 2 ホン ついて いて、 その ウデギ には しろい セトモノ の ダルマ さん の よう な もの が イクツ か のって いた。 こんな キミョウ な もの を ミチ の ワキ に たてて ナニ に する の だろう、 と おもいながら すこし サキ に ゆく と、 また ミチバタ に おなじ よう な たかい ハシラ が たって いて、 それ には スズメ が ウデギ に とまって ないて いた。
 この キミョウ な たかい ハシラ は 50 メートル ぐらい アイダ を おいて は、 ミチ の ワキ に たって いた。
 ミノスケ は ついに、 ヒナタ で ウドン を ほして いる ヒト に きいて みた。 すると、 ウドンヤ は 「デンキ と やら いう もん が コンド ひける だ げな。 そいで もう、 ランプ は いらん よう に なる だ げな」 と こたえた。
 ミノスケ には よく のみこめなかった。 デンキ の こと など まるで しらなかった から だ。 ランプ の カワリ に なる もの らしい の だ が、 そう と すれば、 デンキ と いう もの は アカリ に チガイ あるまい。 アカリ なら、 イエ の ナカ に ともせば いい わけ で、 なにも あんな トテツ も ない ハシラ を ミチ の クロ に ナンボン も おったてる こと は ない じゃ ない か と、 ミノスケ は おもった の で ある。
 それから ヒトツキ ほど たって、 ミノスケ が また オオノ へ いく と、 このあいだ たてられた ミチ の ハタ の ふとい ハシラ には、 くろい ツナ の よう な もの が スウホン わたされて あった。 くろい ツナ は、 ハシラ の ウデギ に のって いる ダルマ さん の アタマ を ヒトマキ して ツギ の ハシラ へ わたされ、 そこ で また ダルマ さん の アタマ を ヒトマキ して ツギ の ハシラ に わたされ、 こうして どこまでも つづいて いた。
 チュウイ して よく みる と、 トコロドコロ の ハシラ から くろい ツナ が 2 ホン ずつ ダルマ さん の アタマ の ところ で わかれて、 イエ の ノキバ に つながれて いる の で あった。
「へへえ、 デンキ と やら いう もん は アカリ が ともる もん か と おもったら、 これ は まるで ツナ じゃ ねえ か。 スズメ や ツバメ の ええ ヤスミバ と いう もん よ」
と ミノスケ が ヒトリ で あざわらいながら、 シリアイ の アマザケヤ に はいって ゆく と、 いつも ドマ の マンナカ の ハンダイ の ウエ に つるして あった おおきな ランプ が、 ヨコ の カベ の アタリ に とりかたづけられて、 アト には その ランプ を ずっと ちいさく した よう な、 セキユイレ の ついて いない、 ヘン な カッコウ の ランプ が、 ジョウブ そう な ツナ で テンジョウ から ぶらさげられて あった。
「ナン だ やい、 ヘン な もの を つるした じゃ ねえ か。 あの ランプ は どこ か わるく でも なった か やい」
と ミノスケ は きいた。 すると アマザケヤ が、
「ありゃ、 コンド ひけた デンキ と いう もん だ。 カジ の シンパイ が のうて、 あかるうて、 マッチ は いらぬ し、 なかなか ベンリ な もん だ」
と こたえた。
「へっ、 へんてこれん な もの を ぶらさげた もん よ。 これ じゃ アマザケヤ の ミセ も なんだか マ が ぬけて しまった。 キャク も へる だろう よ」
 アマザケヤ は、 アイテ が ランプ-ウリ で ある こと に キ が ついた ので、 デントウ の ベンリ な こと は もう いわなかった。
「なあ、 アマザケヤ の トッツァン。 みな よ、 あの テンジョウ の とこ を。 ナガネン の ランプ の スス で あそこ だけ マックロ に なっとる に。 ランプ は もう あそこ に いついて しまった ん だ。 イマ に なって デンキ たら いう ベンリ な もん が できた から とて、 あそこ から はずされて、 あんな カベ の スミッコ に ひっかけられる の は、 ランプ が かわいそう よ」
 こんな ふう に ミノスケ は ランプ の カタ を もって、 デントウ の よい こと は みとめなかった。
 ところで まもなく バン に なって、 ダレ も マッチ 1 ポン すらなかった のに、 とつぜん アマザケヤ の ミセ が マヒル の よう に あかるく なった ので、 ミノスケ は びっくり した。 あまり あかるい ので、 ミノスケ は おもわず ウシロ を ふりむいて みた ほど だった。
「ミノ さん、 これ が デンキ だよ」
 ミノスケ は ハ を くいしばって、 ながい アイダ デントウ を みつめて いた。 カタキ でも にらんで いる よう な カオツキ で あった。 あまり みつめて いて メノタマ が いたく なった ほど だった。
「ミノ さん、 そう いっちゃ ナン だ が、 とても ランプ で タチウチ は できない よ。 ちょっと ソト へ クビ を だして マチドオリ を みて ごらん よ」
 ミノスケ は むっつり と イリグチ の ショウジ を あけて、 トオリ を ながめた。 どこ の イエ どこ の ミセ にも、 アマザケヤ の と おなじ よう に あかるい デントウ が ともって いた。 ヒカリ は イエ の ナカ に あまって、 ミチ の ウエ に まで こぼれでて いた。 ランプ を みなれて いた ミノスケ には まぶしすぎる ほど の アカリ だった。 ミノスケ は、 クヤシサ に カタ で イキ を しながら、 これ も ながい アイダ ながめて いた。
 ランプ の、 てごわい カタキ が でて きた わい、 と おもった。 イゼン には ブンメイ カイカ と いう こと を よく いって いた ミノスケ だった けれど、 デントウ が ランプ より いちだん すすんだ ブンメイ カイカ の リキ で ある と いう こと は わからなかった。 リコウ な ヒト でも、 ジブン が ショク を うしなう か どう か と いう よう な とき には、 モノゴト の ハンダン が ただしく つかなく なる こと が ある もの だ。
 その ヒ から ミノスケ は、 デントウ が ジブン の ムラ にも ひかれる よう に なる こと を、 こころひそか に おそれて いた。 デントウ が ともる よう に なれば、 ムラビト たち は ミンナ ランプ を、 あの アマザケヤ の した よう に カベ の スミ に つるす か、 クラ の 2 カイ に でも しまいこんで しまう だろう。 ランプ-ヤ の ショウバイ は いらなく なる だろう。
 だが、 ランプ で さえ ムラ へ はいって くる には かなり メンドウ だった から、 デントウ と なって は ムラビト たち は こわがって、 なかなか よせつける こと では あるまい、 と ミノスケ は、 イッポウ では アンシン も して いた。
 しかし まもなく、 「コンド の ソンカイ で、 ムラ に デントウ を ひく か どう か を きめる だ げな」 と いう ウワサ を きいた とき には、 ミノスケ は ノウテン に イチゲキ を くらった よう な キ が した。 キョウテキ いよいよ ござんなれ、 と おもった。
 そこで ミノスケ は だまって は いられなかった。 ムラ の ヒトビト の アイダ に、 デントウ ハンタイ の イケン を まくしたてた。
「デンキ と いう もの は、 ながい セン で ヤマ の オク から ひっぱって くる もん だで のい、 その セン をば ヨナカ に キツネ や タヌキ が つたって きて、 この キンペン の タハタ を あらす こと は ウケアイ だね」
 こういう ばかばかしい こと を ミノスケ は、 ジブン の なれた ショウバイ を まもる ため に いう の で あった。 それ を いう とき ナニ か うしろめたい キ が した けれども。
 ソンカイ が すんで、 いよいよ ヤナベ シンデン の ムラ にも デントウ を ひく こと に きまった と きかされた とき にも、 ミノスケ は ノウテン に イチゲキ を くらった よう な キ が した。 こう たびたび イチゲキ を くらって は たまらない、 アタマ が どうか なって しまう、 と おもった。
 その とおり で あった。 アタマ が どうか なって しまった。 ソンカイ の アト で ミッカ-カン、 ミノスケ は ヒルマ も フトン を ひっかぶって ねて いた。 その アイダ に アタマ の チョウシ が くるって しまった の だ。
 ミノスケ は ダレ か を うらみたくて たまらなかった。 そこで ソンカイ で ギチョウ の ヤク を した クチョウ さん を うらむ こと に した。 そして クチョウ さん を うらまねば ならぬ ワケ を いろいろ かんがえた。 ヘイゼイ は アタマ の よい ヒト でも、 ショウバイ を うしなう か どう か と いう よう な セトギワ では、 ただしい ハンダン を うしなう もの で ある。 とんでもない ウラミ を いだく よう に なる もの で ある。

 ナノハナバタ の、 あたたかい ツキヨ で あった。 どこ か の ムラ で ハルマツリ の シタク に うつ タイコ が とほとほ と きこえて きた。
 ミノスケ は ミチ を とおって ゆかなかった。 ミゾ の ナカ を イタチ の よう に ミ を かがめて はしったり、 ヤブ の ナカ を ステイヌ の よう に かきわけたり して いった。 タニン に みられたく ない とき、 ヒト は こう する もの だ。
 クチョウ さん の イエ には ながい アイダ ヤッカイ に なって いた ので、 よく その ヨウス は わかって いた。 ヒ を つける に いちばん ツゴウ の よい の は ワラヤネ の ウシゴヤ で ある こと は、 もう イエ を でる とき から かんがえて いた。
 オモヤ は もう ひっそり ねしずまって いた。 ウシゴヤ も しずか だった。 しずか だ と いって、 ウシ は ねむって いる か めざめて いる か わかった もん じゃ ない。 ウシ は おきて いて も ねて いて も しずか な もの だ から。 もっとも ウシ が メ を さまして いたって、 ヒ を つける には いっこう さしつかえない わけ だ けれども。
 ミノスケ は マッチ の カワリ に、 マッチ が まだ なかった ジブン つかわれて いた ヒウチ の ドウグ を もって きた。 イエ を でる とき、 カマド の アタリ で マッチ を さがした が、 どうした ワケ か なかなか みつからない ので、 テ に あたった の を サイワイ、 ヒウチ の ドウグ を もって きた の だった。
 ミノスケ は ヒウチ で ヒ を きりはじめた。 ヒバナ は とんだ が、 ホクチ が しめって いる の か、 ちっとも もえあがらない の で あった。 ミノスケ は ヒウチ と いう もの は、 あまり ベンリ な もの では ない と おもった。 ヒ が でない くせ に かちかち と おおきな オト ばかり して、 これ では ねて いる ヒト が メ を さまして しまう の で ある。
「ちぇっ」 と ミノスケ は シタウチ して いった。 「マッチ を もって くりゃ よかった。 こげな ヒウチ みてえ な ふるくせえ もなあ、 いざ と いう とき まにあわねえ だなあ」
 そう いって しまって ミノスケ は、 ふと ジブン の コトバ を ききとがめた。
「ふるくせえ もなあ、 いざ と いう とき まにあわねえ、 ……ふるくせえ もなあ まにあわねえ……」
 ちょうど ツキ が でて ソラ が あかるく なる よう に、 ミノスケ の アタマ が この コトバ を キッカケ に して あかるく はれて きた。
 ミノスケ は、 イマ に なって、 ジブン の まちがって いた こと が はっきり と わかった。 ――ランプ は もはや ふるい ドウグ に なった の で ある。 デントウ と いう あたらしい いっそう ベンリ な ドウグ の ヨノナカ に なった の で ある。 それだけ ヨノナカ が ひらけた の で ある。 ブンメイ カイカ が すすんだ の で ある。 ミノスケ も また ニッポン の オクニ の ニンゲン なら、 ニッポン が これだけ すすんだ こと を よろこんで いい はず なの だ。 ふるい ジブン の ショウバイ が うしなわれる から とて、 ヨノナカ の すすむ の に ジャマ しよう と したり、 なんの ウラミ も ない ヒト を うらんで ヒ を つけよう と した の は、 オトコ と して なんと いう みぐるしい ザマ で あった こと か。 ヨノナカ が すすんで、 ふるい ショウバイ が いらなく なれば、 おとこらしく、 すっぱり その ショウバイ は すてて、 ヨノナカ の ため に なる あたらしい ショウバイ に かわろう じゃ ない か。――
 ミノスケ は すぐ イエ へ とって かえした。
 そして それから どうした か。
 ねて いる オカミサン を おこして、 イマ イエ に ある スベテ の ランプ に セキユ を つがせた。
 オカミサン は、 こんな ヨフケ に ナニ を する つもり か ミノスケ に きいた が、 ミノスケ は ジブン が これから しよう と して いる こと を きかせれば、 オカミサン が とめる に きまって いる ので、 だまって いた。
 ランプ は ダイショウ サマザマ の が ミナ で 50 ぐらい あった。 それ に みな セキユ を ついだ。 そして いつも アキナイ に でる とき と おなじ よう に、 クルマ に それら の ランプ を つるして、 ソト に でた。 コンド は マッチ を わすれず に もって。
 ミチ が ニシ の トウゲ に さしかかる アタリ に、 ハンダイケ と いう おおきな イケ が ある。 ハル の こと で いっぱい たたえた ミズ が、 ツキ の シタ で ギンバン の よう に けぶりひかって いた。 イケ の キシ には ハンノキ や ヤナギ が、 ミズ の ナカ を のぞく よう な カッコウ で たって いた。
 ミノスケ は ヒトケ の ない ここ を えらんで きた。
 さて ミノスケ は どう する と いう の だろう。
 ミノスケ は ランプ に ヒ を ともした。 ヒトツ ともして は、 それ を イケ の フチ の キ の エダ に つるした。 ちいさい の も おおきい の も、 とりまぜて、 キ に いっぱい つるした。 1 ポン の キ で つるしきれない と、 その トナリ の キ に つるした。 こうして とうとう ミンナ の ランプ を 3 ボン の キ に つるした。
 カゼ の ない ヨル で、 ランプ は ヒトツヒトツ が しずか に まじろがず、 もえ、 アタリ は ヒル の よう に あかるく なった。 アカリ を したって よって きた サカナ が、 ミズ の ナカ に きらり きらり と ナイフ の よう に ひかった。
「ワシ の、 ショウバイ の ヤメカタ は これ だ」
と ミノスケ は ヒトリ で いった。 しかし たちさりかねて、 ながい アイダ リョウテ を たれた まま ランプ の スズナリ に なった キ を みつめて いた。
 ランプ、 ランプ、 なつかしい ランプ。 ながの トシツキ なじんで きた ランプ。
「ワシ の、 ショウバイ の ヤメカタ は これ だ」
 それから ミノスケ は イケ の コチラガワ の オウカン に きた。 まだ ランプ は、 ムコウガワ の キシ の ウエ に みな ともって いた。 50 イクツ が みな ともって いた。 そして ミズ の ウエ にも 50 イクツ の、 サカサマ の ランプ が ともって いた。 たちどまって ミノスケ は、 そこ でも ながく みつめて いた。
 ランプ、 ランプ、 なつかしい ランプ。
 やがて ミノスケ は かがんで、 アシモト から イシコロ を ヒトツ ひろった。 そして、 いちばん おおきく ともって いる ランプ に ネライ を さだめて、 ちからいっぱい なげた。 ぱりーん と オト が して、 おおきい ヒ が ヒトツ きえた。
「オマエタチ の ジセイ は すぎた。 ヨノナカ は すすんだ」
と ミノスケ は いった。 そして また ヒトツ イシコロ を ひろった。 2 バンメ に おおきかった ランプ が、 ぱりーん と なって きえた。
「ヨノナカ は すすんだ。 デンキ の ジセイ に なった」
 3 バンメ の ランプ を わった とき、 ミノスケ は なぜか ナミダ が うかんで きて、 もう ランプ に ネライ を さだめる こと が できなかった。
 こうして ミノスケ は イマ まで の ショウバイ を やめた。 それから マチ に でて、 あたらしい ショウバイ を はじめた。 ホンヤ に なった の で ある。

     *     *     *

「ミノスケ さん は イマ でも まだ ホンヤ を して いる。 もっとも イマ じゃ だいぶ としとった ので、 ムスコ が ミセ は やって いる がね」
と トウイチ くん の オジイサン は ハナシ を むすんで、 さめた オチャ を すすった。 ミノスケ さん と いう の は トウイチ くん の オジイサン の こと なので、 トウイチ くん は まじまじ と オジイサン の カオ を みた。 いつのまにか トウイチ くん は オジイサン の マエ に すわりなおして、 オジイサン の ヒザ に テ を おいたり して いた の で ある。
「そいじゃ、 ノコリ の 47 の ランプ は どうした?」
と トウイチ くん は きいた。
「しらん。 ツギ の ヒ、 タビ の ヒト が みつけて もってった かも しれない」
「そいじゃ、 イエ には もう ヒトツ も ランプ なし に なっちゃった?」
「うん、 ヒトツ も なし。 この ダイ ランプ だけ が のこって いた」
と オジイサン は、 ヒルマ トウイチ くん が もちだした ランプ を みて いった。
「ソン しちゃった ね。 47 も ダレ か に もって かれちゃって」
と トウイチ くん が いった。
「うん ソン しちゃった。 イマ から かんがえる と、 なにも あんな こと を せん でも よかった と ワシ も おもう。 ヤナベ シンデン に デントウ が ひけて から でも、 まだ 50 ぐらい の ランプ は けっこう うれた ん だ から な。 ヤナベ シンデン の ミナミ に ある フカダニ なんと いう ちいさい ムラ じゃ、 まだ イマ でも ランプ を つかって いる し、 ホカ にも、 ずいぶん おそく まで ランプ を つかって いた ムラ は、 あった のさ。 しかし なにしろ ワシ も あの コロ は ゲンキ が よかった んで な。 おもいついたら、 ふかく も かんがえず、 ぱっぱっ と やって しまった ん だ」
「バカ しちゃった ね」
と トウイチ くん は マゴ だ から エンリョ なし に いった。
「うん、 バカ しちゃった。 しかし ね、 トウボウ――」
と オジイサン は、 キセル を ヒザ の ウエ で ぎゅっと にぎりしめて いった。
「ワシ の ヤリカタ は すこし バカ だった が、 ワシ の ショウバイ の ヤメカタ は、 ジブン で いう の も ナン だ が、 なかなか リッパ だった と おもう よ。 ワシ の いいたい の は こう さ、 ニッポン が すすんで、 ジブン の ふるい ショウバイ が オヤク に たたなく なったら、 すっぱり そいつ を すてる の だ。 いつまでも きたなく ふるい ショウバイ に かじりついて いたり、 ジブン の ショウバイ が はやって いた ムカシ の ほう が よかった と いったり、 ヨノナカ の すすんだ こと を うらんだり、 そんな イクジ の ねえ こと は けっして しない と いう こと だ」
 トウイチ くん は だまって、 ながい アイダ オジイサン の、 ちいさい けれど イキ の あらわれた カオ を ながめて いた。 やがて、 いった。
「オジイサン は えらかった ん だねえ」
 そして なつかしむ よう に、 カタワラ の ふるい ランプ を みた。
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テブクロ を かい に

2014-01-05 | ニイミ ナンキチ
 テブクロ を かい に

 ニイミ ナンキチ

 さむい フユ が ホッポウ から、 キツネ の オヤコ の すんで いる モリ へも やって きました。
 ある アサ ホラアナ から コドモ の キツネ が でよう と しました が、
「あっ」 と さけんで メ を おさえながら カアサン-ギツネ の ところ へ ころげて きました。
「カアチャン、 メ に ナニ か ささった、 ぬいて ちょうだい はやく はやく」 と いいました。
 カアサン-ギツネ が びっくり して、 あわてふためきながら、 メ を おさえて いる コドモ の テ を おそるおそる とりのけて みました が、 なにも ささって は いません でした。 カアサン-ギツネ は ホラアナ の イリグチ から ソト へ でて はじめて ワケ が わかりました。 サクヤ の うち に、 マッシロ な ユキ が どっさり ふった の です。 その ユキ の ウエ から オヒサマ が きらきら と てらして いた ので、 ユキ は まぶしい ほど ハンシャ して いた の です。 ユキ を しらなかった コドモ の キツネ は、 あまり つよい ハンシャ を うけた ので、 メ に ナニ か ささった と おもった の でした。
 コドモ の キツネ は あそび に いきました。 マワタ の よう に やわらかい ユキ の ウエ を かけまわる と、 ユキ の コ が、 シブキ の よう に とびちって ちいさい ニジ が すっと うつる の でした。
 すると とつぜん、 ウシロ で、
「どたどた、 ざーっ」 と ものすごい オト が して、 パンコ の よう な コナユキ が、 ふわーっと コギツネ に おっかぶさって きました。 コギツネ は びっくり して、 ユキ の ナカ に ころがる よう に して 10 メートル も ムコウ へ にげました。 ナン だろう と おもって ふりかえって みました が なにも いません でした。 それ は モミ の エダ から ユキ が なだれおちた の でした。 まだ エダ と エダ の アイダ から しろい キヌイト の よう に ユキ が こぼれて いました。
 まもなく ホラアナ へ かえって きた コギツネ は、
「オカアチャン、 オテテ が つめたい、 オテテ が ちんちん する」 と いって、 ぬれて ボタンイロ に なった リョウテ を カアサン-ギツネ の マエ に さしだしました。 カアサン-ギツネ は、 その テ に、 は――っと イキ を ふっかけて、 ぬくとい カアサン の テ で やんわり つつんで やりながら、
「もう すぐ あたたかく なる よ、 ユキ を さわる と、 すぐ あたたかく なる もん だよ」 と いいました が、 かあいい ボウヤ の テ に シモヤケ が できて は かわいそう だ から、 ヨル に なったら、 マチ まで いって、 ボウヤ の オテテ に あう よう な ケイト の テブクロ を かって やろう と おもいました。
 くらい くらい ヨル が フロシキ の よう な カゲ を ひろげて ノハラ や モリ を つつみ に やって きました が、 ユキ は あまり しろい ので、 つつんで も つつんで も しろく うかびあがって いました。
 オヤコ の ギンギツネ は ホラアナ から でました。 コドモ の ほう は オカアサン の オナカ の シタ へ はいりこんで、 そこ から マンマル な メ を ぱちぱち させながら、 あっち や こっち を みながら あるいて いきました。
 やがて、 ユクテ に ぽっつり アカリ が ヒトツ みえはじめました。 それ を コドモ の キツネ が みつけて、
「カアチャン、 オホシサマ は、 あんな ひくい ところ にも おちてる のねえ」 と ききました。
「あれ は オホシサマ じゃ ない のよ」 と いって、 その とき カアサン-ギツネ の アシ は すくんで しまいました。
「あれ は マチ の ヒ なん だよ」
 その マチ の ヒ を みた とき、 カアサン-ギツネ は、 ある とき マチ へ オトモダチ と でかけて いって、 とんだ メ に あった こと を おもいだしました。 およしなさい って いう の も きかない で、 オトモダチ の キツネ が、 ある イエ の アヒル を ぬすもう と した ので、 オヒャクショウ に みつかって、 さんざ おいまくられて、 いのちからがら にげた こと でした。
「カアチャン ナニ してん の、 はやく いこう よ」 と コドモ の キツネ が オナカ の シタ から いう の でした が、 カアサン-ギツネ は どうしても アシ が すすまない の でした。 そこで、 シカタ が ない ので、 ボウヤ だけ を ヒトリ で マチ まで いかせる こと に なりました。
「ボウヤ オテテ を カタホウ おだし」 と オカアサン-ギツネ が いいました。 その テ を、 カアサン-ギツネ は しばらく にぎって いる アイダ に、 かわいい ニンゲン の コドモ の テ に して しまいました。 ボウヤ の キツネ は その テ を ひろげたり にぎったり、 つねって みたり、 かいで みたり しました。
「なんだか ヘン だな カアチャン、 これ ナアニ?」 と いって、 ユキアカリ に、 また その、 ニンゲン の テ に かえられて しまった ジブン の テ を しげしげ と みつめました。
「それ は ニンゲン の テ よ。 いい かい ボウヤ、 マチ へ いったら ね、 たくさん ニンゲン の イエ が ある から ね、 まず オモテ に まるい シャッポ の カンバン の かかって いる イエ を さがす ん だよ。 それ が みつかったら ね、 とんとん と ト を たたいて、 こんばんわ って いう ん だよ。 そう する と ね、 ナカ から ニンゲン が、 すこうし ト を あける から ね、 その ト の スキマ から、 こっち の テ、 ほら この ニンゲン の テ を さしいれて ね、 この テ に ちょうど いい テブクロ ちょうだい って いう ん だよ、 わかった ね、 けっして、 こっち の オテテ を だしちゃ ダメ よ」 と カアサン-ギツネ は いいきかせました。
「どうして?」 と ボウヤ の キツネ は ききかえしました。
「ニンゲン は ね、 アイテ が キツネ だ と わかる と、 テブクロ を うって くれない ん だよ、 それ どころ か、 つかまえて オリ の ナカ へ いれちゃう ん だよ、 ニンゲン って ホント に こわい もの なん だよ」
「ふーん」
「けっして、 こっち の テ を だしちゃ いけない よ、 こっち の ほう、 ほら ニンゲン の テ の ほう を さしだす ん だよ」 と いって、 カアサン の キツネ は、 もって きた フタツ の ハクドウカ を、 ニンゲン の テ の ほう へ にぎらせて やりました。
 コドモ の キツネ は、 マチ の ヒ を メアテ に、 ユキアカリ の ノハラ を よちよち やって いきました。 ハジメ の うち は ヒトツ きり だった ヒ が フタツ に なり ミッツ に なり、 ハテ は トオ にも ふえました。 キツネ の コドモ は それ を みて、 ヒ には、 ホシ と おなじ よう に、 あかい の や きい の や あおい の が ある ん だな と おもいました。 やがて マチ に はいりました が トオリ の イエイエ は もう みんな ト を しめて しまって、 たかい マド から あたたかそう な ヒカリ が、 ミチ の ユキ の ウエ に おちて いる ばかり でした。
 けれど オモテ の カンバン の ウエ には たいてい ちいさな デントウ が ともって いました ので、 キツネ の コ は、 それ を みながら、 ボウシヤ を さがして いきました。 ジテンシャ の カンバン や、 メガネ の カンバン や その ホカ いろんな カンバン が、 ある もの は、 あたらしい ペンキ で かかれ、 ある もの は、 ふるい カベ の よう に はげて いました が、 マチ に はじめて でて きた コギツネ には それら の もの が いったい ナン で ある か わからない の でした。
 とうとう ボウシヤ が みつかりました。 オカアサン が みちみち よく おしえて くれた、 くろい おおきな シルク ハット の ボウシ の カンバン が、 あおい デントウ に てらされて かかって いました。
 コギツネ は おしえられた とおり、 とんとん と ト を たたきました。
「こんばんわ」
 すると、 ナカ では ナニ か ことこと オト が して いました が やがて、 ト が 1 スン ほど ごろり と あいて、 ヒカリ の オビ が ミチ の しろい ユキ の ウエ に ながく のびました。
 コギツネ は その ヒカリ が まばゆかった ので、 めんくらって、 まちがった ほう の テ を、 ――オカアサマ が だしちゃ いけない と いって よく きかせた ほう の テ を スキマ から さしこんで しまいました。
「この オテテ に ちょうど いい テブクロ ください」
 すると ボウシヤ さん は、 おやおや と おもいました。 キツネ の テ です。 キツネ の テ が テブクロ を くれ と いう の です。 これ は きっと コノハ で かい に きた ん だな と おもいました。 そこで、
「サキ に オカネ を ください」 と いいました。 コギツネ は すなお に、 にぎって きた ハクドウカ を フタツ ボウシヤ さん に わたしました。 ボウシヤ さん は それ を ヒトサシユビ の サキ に のっけて、 かちあわせて みる と、 ちんちん と よい オト が しました ので、 これ は コノハ じゃ ない、 ホント の オカネ だ と おもいました ので、 タナ から コドモヨウ の ケイト の テブクロ を とりだして きて コギツネ の テ に もたせて やりました。 コギツネ は、 オレイ を いって また、 もと きた ミチ を かえりはじめました。
「オカアサン は、 ニンゲン は おそろしい もの だ って おっしゃった が ちっとも おそろしく ない や。 だって ボク の テ を みて も どうも しなかった もの」 と おもいました。 けれど コギツネ は いったい ニンゲン なんて どんな もの か みたい と おもいました。
 ある マド の シタ を とおりかかる と、 ニンゲン の コエ が して いました。 なんと いう やさしい、 なんと いう うつくしい、 なんと いう おっとり した コエ なん でしょう。
 「ねむれ、 ねむれ
  ハハ の ムネ に、
  ねむれ、 ねむれ
  ハハ の テ に――」
 コギツネ は その ウタゴエ は、 きっと ニンゲン の オカアサン の コエ に ちがいない と おもいました。 だって、 コギツネ が ねむる とき にも、 やっぱり カアサン-ギツネ は、 あんな やさしい コエ で ゆすぶって くれる から です。
 すると コンド は、 コドモ の コエ が しました。
「カアチャン、 こんな さむい ヨル は、 モリ の コギツネ は さむい さむい って ないてる でしょう ね」
 すると カアサン の コエ が、
「モリ の コギツネ も オカアサン-ギツネ の オウタ を きいて、 ホラアナ の ナカ で ねむろう と して いる でしょう ね。 さあ ボウヤ も はやく ネンネ しなさい。 モリ の コギツネ と ボウヤ と どっち が はやく ネンネ する か、 きっと ボウヤ の ほう が はやく ネンネ します よ」
 それ を きく と コギツネ は キュウ に オカアサン が こいしく なって、 オカアサン-ギツネ の まって いる ほう へ とんで いきました。
 オカアサン-ギツネ は、 シンパイ しながら、 ボウヤ の キツネ の かえって くる の を、 イマ か イマ か と ふるえながら まって いました ので、 ボウヤ が くる と、 あたたかい ムネ に だきしめて なきたい ほど よろこびました。
 2 ヒキ の キツネ は モリ の ほう へ かえって いきました。 ツキ が でた ので、 キツネ の ケナミ が ギンイロ に ひかり、 その アシアト には、 コバルト の カゲ が たまりました。
「カアチャン、 ニンゲン って ちっとも こわか ない や」
「どうして?」
「ボウ、 まちがえて ホントウ の オテテ だしちゃった の。 でも ボウシヤ さん、 つかまえ や しなかった もの。 ちゃんと こんな いい あたたかい テブクロ くれた もの」
と いって テブクロ の はまった リョウテ を ぱんぱん やって みせました。 オカアサン-ギツネ は、
「まあ!」 と あきれました が、 「ホントウ に ニンゲン は いい もの かしら。 ホントウ に ニンゲン は いい もの かしら」 と つぶやきました。
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ゴンギツネ

2013-04-05 | ニイミ ナンキチ
 ゴンギツネ

 ニイミ ナンキチ

 1

 これ は、 ワタシ が ちいさい とき に、 ムラ の モヘイ と いう オジイサン から きいた オハナシ です。
 ムカシ は、 ワタシタチ の ムラ の チカク の、 ナカヤマ と いう ところ に ちいさな オシロ が あって、 ナカヤマ サマ と いう オトノサマ が、 おられた そう です。
 その ナカヤマ から、 すこし はなれた ヤマ の ナカ に、 「ゴンギツネ」 と いう キツネ が いました。 ゴン は、 ヒトリボッチ の コギツネ で、 シダ の いっぱい しげった モリ の ナカ に アナ を ほって すんで いました。 そして、 ヨル でも ヒル でも、 アタリ の ムラ へ でて きて、 イタズラ ばかり しました。 ハタケ へ はいって イモ を ほりちらしたり、 ナタネガラ の、 ほして ある の へ ヒ を つけたり、 ヒャクショウヤ の ウラテ に つるして ある トンガラシ を むしりとって、 いったり、 いろんな こと を しました。
 ある アキ の こと でした。 2~3 ニチ アメ が ふりつづいた その アイダ、 ゴン は、 ソト へも でられなくて アナ の ナカ に しゃがんで いました。
 アメ が あがる と、 ゴン は、 ほっと して アナ から はいでました。 ソラ は からっと はれて いて、 モズ の コエ が きんきん、 ひびいて いました。
 ゴン は、 ムラ の オガワ の ツツミ まで でて きました。 アタリ の、 ススキ の ホ には、 まだ アメ の シズク が ひかって いました。 カワ は イツモ は ミズ が すくない の です が、 ミッカ も の アメ で、 ミズ が、 どっと まして いました。 タダ の とき は ミズ に つかる こと の ない、 カワベリ の ススキ や、 ハギ の カブ が、 きいろく にごった ミズ に ヨコダオシ に なって、 もまれて います。 ゴン は カワシモ の ほう へ と、 ヌカルミミチ を あるいて いきました。
 ふと みる と、 カワ の ナカ に ヒト が いて、 ナニ か やって います。 ゴン は、 みつからない よう に、 そうっと クサ の ふかい ところ へ あるきよって、 そこ から じっと のぞいて みました。
「ヒョウジュウ だな」 と、 ゴン は おもいました。 ヒョウジュウ は ぼろぼろ の くろい キモノ を まくしあげて、 コシ の ところ まで ミズ に ひたりながら、 サカナ を とる、 ハリキリ と いう、 アミ を ゆすぶって いました。 ハチマキ を した カオ の ヨコッチョウ に、 まるい ハギ の ハ が 1 マイ、 おおきな ホクロ みたい に へばりついて いました。
 しばらく する と、 ヒョウジュウ は、 ハリキリアミ の いちばん ウシロ の、 フクロ の よう に なった ところ を、 ミズ の ナカ から もちあげました。 その ナカ には、 シバ の ネ や、 クサ の ハ や、 くさった キギレ など が、 ごちゃごちゃ はいって いました が、 でも ところどころ、 しろい もの が きらきら ひかって います。 それ は、 ふとい ウナギ の ハラ や、 おおきな キス の ハラ でした。 ヒョウジュウ は、 ビク の ナカ へ、 その ウナギ や キス を、 ゴミ と イッショ に ぶちこみました。 そして また、 フクロ の クチ を しばって、 ミズ の ナカ へ いれました。
 ヒョウジュウ は それから、 ビク を もって カワ から あがり ビク を ドテ に おいといて、 ナニ を さがし に か、 カワカミ の ほう へ かけて いきました。
 ヒョウジュウ が いなく なる と、 ゴン は、 ぴょいと クサ の ナカ から とびだして、 ビク の ソバ へ かけつけました。 ちょいと、 イタズラ が したく なった の です。 ゴン は ビク の ナカ の サカナ を つかみだして は、 ハリキリアミ の かかって いる ところ より シモテ の カワ の ナカ を めがけて、 ぽんぽん なげこみました。 どの サカナ も、 「とぼん」 と オト を たてながら にごった ミズ の ナカ へ もぐりこみました。
 いちばん シマイ に、 ふとい ウナギ を つかみ に かかりました が、 なにしろ ぬるぬる と すべりぬける ので、 テ では つかめません。 ゴン は じれったく なって、 アタマ を ビク の ナカ に つっこんで、 ウナギ の アタマ を クチ に くわえました。 ウナギ は、 きゅっ と いって、 ゴン の クビ へ まきつきました。 その トタン に ヒョウジュウ が、 ムコウ から、
「うわぁ ヌスト-ギツネ め」 と、 どなりたてました。 ゴン は、 びっくり して とびあがりました。 ウナギ を ふりすてて にげよう と しました が、 ウナギ は、 ゴン の クビ に まきついた まま はなれません。 ゴン は そのまま ヨコットビ に とびだして イッショウ ケンメイ に、 にげて いきました。
 ホラアナ の チカク の、 ハンノキ の シタ で ふりかえって みました が、 ヒョウジュウ は おっかけて は きません でした。
 ゴン は、 ほっと して、 ウナギ の アタマ を かみくだき、 やっと はずして アナ の ソト の、 クサ の ハ の ウエ に のせて おきました。

 2

 トオカ ほど たって、 ゴン が、 ヤスケ と いう オヒャクショウ の ウチ の ウラ を とおりかかります と、 そこ の、 イチジク の キ の カゲ で、 ヤスケ の カナイ が、 オハグロ を つけて いました。 カジヤ の シンベエ の ウチ の ウラ を とおる と、 シンベエ の カナイ が、 カミ を すいて いました。 ゴン は、
「ふふん、 ムラ に ナニ か ある ん だな」 と おもいました。
「ナン だろう、 アキマツリ かな。 マツリ なら、 タイコ や フエ の オト が しそう な もの だ。 それに だいいち、 オミヤ に ノボリ が たつ はず だ が」
 こんな こと を かんがえながら やって きます と、 いつのまにか、 オモテ に あかい イド の ある、 ヒョウジュウ の ウチ の マエ へ きました。 その ちいさな、 こわれかけた イエ の ナカ には、 オオゼイ の ヒト が あつまって いました。 ヨソイキ の キモノ を きて、 コシ に テヌグイ を さげたり した オンナ たち が、 オモテ の カマド で ヒ を たいて います。 おおきな ナベ の ナカ では、 ナニ か ぐずぐず にえて いました。
「ああ、 ソウシキ だ」 と、 ゴン は おもいました。
「ヒョウジュウ の ウチ の ダレ が しんだ ん だろう」
 オヒル が すぎる と、 ゴン は、 ムラ の ボチ へ いって、 ロクジゾウ さん の カゲ に かくれて いました。 いい オテンキ で、 とおく ムコウ には オシロ の ヤネガワラ が ひかって います。 ボチ には、 ヒガンバナ が、 あかい キレ の よう に さきつづいて いました。 と、 ムラ の ほう から、 かーん、 かーん と カネ が なって きました。 ソウシキ の でる アイズ です。
 やがて、 しろい キモノ を きた ソウレツ の モノタチ が やって くる の が ちらちら みえはじめました。 ハナシゴエ も ちかく なりました。 ソウレツ は ボチ へ はいって きました。 ヒトビト が とおった アト には、 ヒガンバナ が、 ふみおられて いました。
 ゴン は のびあがって みました。 ヒョウジュウ が、 しろい カミシモ を つけて、 イハイ を ささげて います。 イツモ は あかい サツマイモ みたい な ゲンキ の いい カオ が、 キョウ は なんだか しおれて いました。
「ははん、 しんだ の は ヒョウジュウ の オッカア だ」
 ゴン は そう おもいながら、 アタマ を ひっこめました。
 その バン、 ゴン は、 アナ の ナカ で かんがえました。
「ヒョウジュウ の オッカア は、 トコ に ついて いて、 ウナギ が たべたい と いった に ちがいない。 それで ヒョウジュウ が ハリキリアミ を もちだした ん だ。 ところが、 ワシ が イタズラ を して、 ウナギ を とって きて しまった。 だから ヒョウジュウ は、 オッカア に ウナギ を たべさせる こと が できなかった。 そのまま オッカア は、 しんじゃった に ちがいない。 ああ、 ウナギ が たべたい、 ウナギ が たべたい と おもいながら、 しんだ ん だろう。 ちょっ、 あんな イタズラ を しなけりゃ よかった」

 3

 ヒョウジュウ が、 あかい イド の ところ で、 ムギ を といで いました。
 ヒョウジュウ は イマ まで、 オッカア と フタリ きり で まずしい クラシ を して いた もの で、 オッカア が しんで しまって は、 もう ヒトリボッチ でした。
「オレ と おなじ ヒトリボッチ の ヒョウジュウ か」
 こちら の モノオキ の ウシロ から みて いた ゴン は、 そう おもいました。
 ゴン は モノオキ の ソバ を はなれて、 ムコウ へ いきかけます と、 どこ か で、 イワシ を うる コエ が します。
「イワシ の ヤスウリ だぁい。 イキ の いい イワシ だぁい」
 ゴン は、 その、 イセイ の いい コエ の する ほう へ はしって いきました。 と、 ヤスケ の オカミサン が ウラトグチ から、
「イワシ を おくれ」 と いいました。 イワシウリ は、 イワシ の カゴ を つんだ クルマ を、 ミチバタ に おいて、 ぴかぴか ひかる イワシ を リョウテ で つかんで、 ヤスケ の ウチ の ナカ へ もって はいりました。 ゴン は その スキマ に、 カゴ の ナカ から、 5~6 ピキ の イワシ を つかみだして、 もと きた ほう へ かけだしました。 そして、 ヒョウジュウ の ウチ の ウラグチ から、 ウチ の ナカ へ イワシ を なげこんで、 アナ へ むかって かけもどりました。 トチュウ の サカ の ウエ で ふりかえって みます と、 ヒョウジュウ が まだ、 イド の ところ で ムギ を といで いる の が ちいさく みえました。
 ゴン は、 ウナギ の ツグナイ に、 まず ヒトツ、 いい こと を した と おもいました。
 ツギ の ヒ には、 ゴン は ヤマ で クリ を どっさり ひろって、 それ を かかえて、 ヒョウジュウ の ウチ へ いきました。 ウラグチ から のぞいて みます と、 ヒョウジュウ は、 ヒルメシ を たべかけて、 チャワン を もった まま、 ぼんやり と かんがえこんで いました。 ヘン な こと には ヒョウジュウ の ホッペタ に、 カスリキズ が ついて います。 どうした ん だろう と、 ゴン が おもって います と、 ヒョウジュウ が ヒトリゴト を いいました。
「いったい ダレ が、 イワシ なんか を オレ の ウチ へ ほうりこんで いった ん だろう。 おかげで オレ は、 ヌスビト と おもわれて、 イワシヤ の ヤツ に、 ひどい メ に あわされた」 と、 ぶつぶつ いって います。
 ゴン は、 これ は しまった と おもいました。 かわいそう に ヒョウジュウ は、 イワシヤ に ぶんなぐられて、 あんな キズ まで つけられた の か。
 ゴン は こう おもいながら、 そっと モノオキ の ほう へ まわって その イリグチ に、 クリ を おいて かえりました。
 ツギ の ヒ も、 その ツギ の ヒ も ゴン は、 クリ を ひろって は、 ヒョウジュウ の ウチ へ もって きて やりました。 その ツギ の ヒ には、 クリ ばかり で なく、 マツタケ も 2~3 ボン もって いきました。

 4

 ツキ の いい バン でした。 ゴン は、 ぶらぶら あそび に でかけました。 ナカヤマ サマ の オシロ の シタ を とおって すこし いく と、 ほそい ミチ の ムコウ から、 ダレ か くる よう です。 ハナシゴエ が きこえます。 ちんちろりん、 ちんちろりん と マツムシ が ないて います。
 ゴン は、 ミチ の カタガワ に かくれて、 じっと して いました。 ハナシゴエ は だんだん ちかく なりました。 それ は、 ヒョウジュウ と、 カスケ と いう オヒャクショウ でした。
「そうそう、 なあ カスケ」 と、 ヒョウジュウ が いいました。
「ああん?」
「オレ あ、 コノゴロ、 とても、 フシギ な こと が ある ん だ」
「ナニ が?」
「オッカア が しんで から は、 ダレ だ か しらん が、 オレ に クリ や マツタケ なんか を、 マイニチ マイニチ くれる ん だよ」
「ふうん、 ダレ が?」
「それ が わからん の だよ。 オレ の しらん うち に、 おいて いく ん だ」
 ゴン は、 フタリ の アト を つけて いきました。
「ホント かい?」
「ホント だ とも。 ウソ と おもう なら、 アシタ み に こい よ。 その クリ を みせて やる よ」
「へえ、 ヘン な こと も ある もん だなぁ」
 それなり、 フタリ は だまって あるいて いきました。
 カスケ が ひょいと、 ウシロ を みました。 ゴン は びくっと して、 ちいさく なって たちどまりました。 カスケ は、 ゴン には キ が つかない で、 そのまま さっさと あるきました。 キチベエ と いう オヒャクショウ の ウチ まで くる と、 フタリ は そこ へ はいって いきました。 ぽんぽん ぽんぽん と モクギョ の オト が して います。 マド の ショウジ に アカリ が さして いて、 おおきな ボウズアタマ が うつって うごいて いました。 ゴン は、
「オネンブツ が ある ん だな」 と おもいながら イド の ソバ に しゃがんで いました。 しばらく する と、 また 3 ニン ほど、 ヒト が つれだって キチベエ の ウチ へ はいって いきました。 オキョウ を よむ コエ が きこえて きました。

 5

 ゴン は、 オネンブツ が すむ まで、 イド の ソバ に しゃがんで いました。 ヒョウジュウ と カスケ は また イッショ に かえって いきます。 ゴン は、 フタリ の ハナシ を きこう と おもって、 ついて いきました。 ヒョウジュウ の カゲボウシ を ふみふみ いきました。
 オシロ の マエ まで きた とき、 カスケ が いいだしました。
「サッキ の ハナシ は、 きっと、 そりゃあ、 カミサマ の シワザ だぞ」
「えっ?」 と、 ヒョウジュウ は びっくり して、 カスケ の カオ を みました。
「オレ は、 あれ から ずっと かんがえて いた が、 どうも、 そりゃ、 ニンゲン じゃ ない、 カミサマ だ、 カミサマ が、 オマエ が たった ヒトリ に なった の を あわれ に おもわっしゃって、 いろんな もの を めぐんで くださる ん だよ」
「そう かなあ」
「そう だ とも。 だから、 マイニチ カミサマ に オレイ を いう が いい よ」
「うん」
 ゴン は、 へえ、 こいつ は つまらない な と おもいました。 オレ が、 クリ や マツタケ を もって いって やる のに、 その オレ には オレイ を いわない で、 カミサマ に オレイ を いう ん じゃあ、 オレ は、 ひきあわない なあ。

 6

 その あくる ヒ も ゴン は、 クリ を もって、 ヒョウジュウ の ウチ へ でかけました。 ヒョウジュウ は モノオキ で ナワ を なって いました。 それで ゴン は ウチ の ウラグチ から、 こっそり ナカ へ はいりました。
 その とき ヒョウジュウ は、 ふと カオ を あげました。 と キツネ が ウチ の ナカ へ はいった では ありません か。 こないだ ウナギ を ぬすみやがった あの ゴンギツネ め が、 また イタズラ を し に きた な。
「ようし」
 ヒョウジュウ は、 たちあがって、 ナヤ に かけて ある ヒナワジュウ を とって、 カヤク を つめました。
 そして アシオト を しのばせて ちかよって、 イマ トグチ を でよう と する ゴン を、 どん と、 うちました。 ゴン は、 ばたり と たおれました。 ヒョウジュウ は かけよって きました。 ウチ の ナカ を みる と、 ドマ に クリ が、 かためて おいて ある の が メ に つきました。
「おや」 と ヒョウジュウ は、 びっくり して ゴン に メ を おとしました。
「ゴン、 オマイ だった の か。 いつも クリ を くれた の は」
 ゴン は、 ぐったり と メ を つぶった まま、 うなずきました。
 ヒョウジュウ は、 ヒナワジュウ を ばたり と、 とりおとしました。 あおい ケムリ が、 まだ ツツグチ から ほそく でて いました。
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