カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

シャヨウ 1

2019-12-22 | ダザイ オサム
 シャヨウ

 ダザイ オサム

 1

 アサ、 ショクドウ で スープ を ヒトサジ、 すっと すって オカアサマ が、
「あ」
 と かすか な サケビゴエ を おあげ に なった。
「カミノケ?」
 スープ に ナニ か、 いや な もの でも はいって いた の かしら、 と おもった。
「いいえ」
 オカアサマ は、 ナニゴト も なかった よう に、 また ひらり と ヒトサジ、 スープ を オクチ に ながしこみ、 すまして オカオ を ヨコ に むけ、 オカッテ の マド の、 マンカイ の ヤマザクラ に シセン を おくり、 そうして オカオ を ヨコ に むけた まま、 また ひらり と ヒトサジ、 スープ を ちいさな オクチビル の アイダ に すべりこませた。 ひらり、 と いう ケイヨウ は、 オカアサマ の バアイ、 けっして コチョウ では ない。 フジン ザッシ など に でて いる オショクジ の イタダキカタ など とは、 てんで まるで、 ちがって いらっしゃる。 オトウト の ナオジ が いつか、 オサケ を のみながら、 アネ の ワタシ に むかって こう いった こと が ある。
「シャクイ が ある から、 キゾク だ と いう わけ には いかない ん だぜ。 シャクイ が なくて も、 テンシャク と いう もの を もって いる リッパ な キゾク の ヒト も ある し、 オレタチ の よう に シャクイ だけ は もって いて も、 キゾク どころ か、 センミン に ちかい の も いる。 イワシマ なんて の は (と ナオジ の ガクユウ の ハクシャク の オナマエ を あげて) あんな の は、 まったく、 シンジュク の ユウカク の キャクヒキ バントウ より も、 もっと げびてる カンジ じゃ ねえ か。 コナイダ も、 ヤナイ (と、 やはり オトウト の ガクユウ で、 シシャク の ゴジナン の カタ の オナマエ を あげて) の アニキ の ケッコンシキ に、 アンチキショウ、 タキシード なんか きて、 なんだって また、 タキシード なんか を きて くる ヒツヨウ が ある ん だ、 それ は まあ いい と して、 テーブル スピーチ の とき に、 あの ヤロウ、 ございまする と いう フカシギ な コトバ を つかった の には、 げっと なった。 きどる と いう こと は、 ジョウヒン と いう こと と、 ぜんぜん ムカンケイ な あさましい キョセイ だ。 コウトウ オンゲシュク と かいて ある カンバン が ホンゴウ アタリ に よく あった もの だ けれども、 じっさい カゾク なんて もの の ダイブブン は、 コウトウ オンコジキ と でも いった よう な もの なん だ。 シン の キゾク は、 あんな イワシマ みたい な ヘタ な キドリカタ なんか、 し や しない よ。 オレタチ の イチゾク でも、 ホンモノ の キゾク は、 まあ、 ママ くらい の もの だろう。 あれ は、 ホンモノ だよ。 かなわねえ ところ が ある」
 スープ の イタダキカタ に して も、 ワタシタチ なら、 オサラ の ウエ に すこし うつむき、 そうして スプーン を ヨコ に もって スープ を すくい、 スプーン を ヨコ に した まま クチモト に はこんで いただく の だ けれども、 オカアサマ は ヒダリテ の オユビ を かるく テーブル の フチ に かけて、 ジョウタイ を かがめる こと も なく、 オカオ を しゃんと あげて、 オサラ を ろくに み も せず スプーン を ヨコ に して さっと すくって、 それから、 ツバメ の よう に、 と でも ケイヨウ したい くらい に かるく あざやか に スプーン を オクチ と チョッカク に なる よう に もちはこんで、 スプーン の センタン から、 スープ を オクチビル の アイダ に ながしこむ の で ある。 そうして、 ムシン そう に あちこち ワキミ など なさりながら、 ひらり ひらり と、 まるで ちいさな ツバサ の よう に スプーン を あつかい、 スープ を イッテキ も おこぼし に なる こと も ない し、 すう オト も オサラ の オト も、 ちっとも おたて に ならぬ の だ。 それ は いわゆる セイシキ レイホウ に かなった イタダキカタ では ない かも しれない けれども、 ワタシ の メ には、 とても かわいらしく、 それこそ ホンモノ みたい に みえる。 また、 じじつ、 オノミモノ は、 うつむいて スプーン の ヨコ から すう より は、 ゆったり ジョウハンシン を おこして、 スプーン の センタン から オクチ に ながしこむ よう に して いただいた ほう が、 フシギ な くらい に おいしい もの だ。 けれども、 ワタシ は ナオジ の いう よう な コウトウ オンコジキ なの だ から、 オカアサマ の よう に あんな に かるく ムゾウサ に スプーン を あやつる こと が できず、 しかたなく、 あきらめて、 オサラ の ウエ に うつむき、 いわゆる セイシキ レイホウ-どおり の インキ な イタダキカタ を して いる の で ある。
 スープ に かぎらず、 オカアサマ の オショクジ の イタダキカタ は、 すこぶる レイホウ に はずれて いる。 オニク が でる と、 ナイフ と フオク で、 さっさと ゼンブ ちいさく きりわけて しまって、 それから ナイフ を すて、 フオク を ミギテ に もちかえ、 その ヒトキレ ヒトキレ を フオク に さして ゆっくり たのしそう に めしあがって いらっしゃる。 また、 ホネツキ の チキン など、 ワタシタチ が オサラ を ならさず に ホネ から ニク を きりはなす の に クシン して いる とき、 オカアサマ は、 ヘイキ で ひょいと ユビサキ で ホネ の ところ を つまんで もちあげ、 オクチ で ホネ と ニク を はなして すまして いらっしゃる。 そんな ヤバン な シグサ も、 オカアサマ が なさる と、 かわいらしい ばかり か、 へんに エロチック に さえ みえる の だ から、 さすが に ホンモノ は ちがった もの で ある。 ホネツキ の チキン の バアイ だけ で なく、 オカアサマ は、 ランチ の オサイ の ハム や ソセージ など も、 ひょいと ユビサキ で つまんで めしあがる こと さえ ときたま ある。
「オムスビ が、 どうして おいしい の だ か、 しって います か。 あれ は ね、 ニンゲン の ユビ で にぎりしめて つくる から です よ」
 と おっしゃった こと も ある。
 ホントウ に、 テ で たべたら、 おいしい だろう な、 と ワタシ も おもう こと が ある けれど、 ワタシ の よう な コウトウ オンコジキ が、 ヘタ に マネ して それ を やったら、 それこそ ホンモノ の コジキ の ズ に なって しまいそう な キ も する ので ガマン して いる。
 オトウト の ナオジ で さえ、 ママ には かなわねえ、 と いって いる が、 つくづく ワタシ も、 オカアサマ の マネ は コンナン で、 ゼツボウ みたい な もの を さえ かんじる こと が ある。 いつか、 ニシカタマチ の オウチ の オクニワ で、 アキ の ハジメ の ツキ の いい ヨル で あった が、 ワタシ は オカアサマ と フタリ で オイケ の ハタ の アズマヤ で、 オツキミ を して、 キツネ の ヨメイリ と ネズミ の ヨメイリ とは、 オヨメ の オシタク が どう ちがう か、 など わらいながら はなしあって いる うち に、 オカアサマ は、 つと おたち に なって、 アズマヤ の ソバ の ハギ の シゲミ の オク へ おはいり に なり、 それから、 ハギ の しろい ハナ の アイダ から、 もっと あざやか に しろい オカオ を おだし に なって、 すこし わらって、
「カズコ や、 オカアサマ が イマ ナニ を なさって いる か、 あてて ごらん」
 と おっしゃった。
「オハナ を おって いらっしゃる」
 と もうしあげたら、 ちいさい コエ を あげて おわらい に なり、
「オシッコ よ」
 と おっしゃった。
 ちっとも しゃがんで いらっしゃらない の には おどろいた が、 けれども、 ワタシ など には とても まねられない、 しんから かわいらしい カンジ が あった。
 ケサ の スープ の こと から、 ずいぶん ダッセン しちゃった けれど、 こないだ ある ホン で よんで、 ルイ オウチョウ の コロ の キフジン たち は、 キュウデン の オニワ や、 それから ロウカ の スミ など で、 ヘイキ で オシッコ を して いた と いう こと を しり、 その ムシンサ が、 ホントウ に かわいらしく、 ワタシ の オカアサマ など も、 そのよう な ホンモノ の キフジン の サイゴ の ヒトリ なの では なかろう か と かんがえた。
 さて、 ケサ は、 スープ を ヒトサジ おすい に なって、 あ、 と ちいさい コエ を おあげ に なった ので、 カミノケ? と おたずね する と、 いいえ、 と おこたえ に なる。
「しおからかった かしら」
 ケサ の スープ は、 こないだ アメリカ から ハイキュウ に なった カンヅメ の グリン ピース を ウラゴシ して、 ワタシ が ポタージュ みたい に つくった もの で、 もともと オリョウリ には ジシン が ない ので、 オカアサマ に、 いいえ、 と いわれて も、 なおも、 はらはら して そう たずねた。
「オジョウズ に できました」
 オカアサマ は、 マジメ に そう いい、 スープ を すまして、 それから オノリ で つつんだ オムスビ を テ で つまんで おあがり に なった。
 ワタシ は ちいさい とき から、 アサゴハン が おいしく なく、 10 ジ-ゴロ に ならなければ、 オナカ が すかない ので、 その とき も、 スープ だけ は どうやら すました けれども、 たべる の が タイギ で、 オムスビ を オサラ に のせて、 それ に オハシ を つっこみ、 ぐしゃぐしゃ に こわして、 それから、 その ヒトカケラ を オハシ で つまみあげ、 オカアサマ が スープ を めしあがる とき の スプーン みたい に、 オハシ を オクチ と チョッカク に して、 まるで コトリ に エサ を やる よう な グアイ に オクチ に おしこみ、 のろのろ と いただいて いる うち に、 オカアサマ は もう オショクジ を ゼンブ すまして しまって、 そっと おたち に なり、 アサヒ の あたって いる カベ に オセナカ を もたせかけ、 しばらく だまって ワタシ の オショクジ の シカタ を みて いらして、
「カズコ は、 まだ、 ダメ なの ね。 アサゴハン が いちばん おいしく なる よう に ならなければ」
 と おっしゃった。
「オカアサマ は? おいしい の?」
「そりゃ もう。 ワタシ は もう ビョウニン じゃ ない もの」
「カズコ だって、 ビョウニン じゃ ない わ」
「ダメ、 ダメ」
 オカアサマ は、 さびしそう に わらって クビ を ふった。
 ワタシ は 5 ネン マエ に、 ハイビョウ と いう こと に なって、 ねこんだ こと が あった けれども、 あれ は、 ワガママビョウ だった と いう こと を ワタシ は しって いる。 けれども、 オカアサマ の コナイダ の ゴビョウキ は、 あれ こそ ホントウ に シンパイ な、 かなしい ゴビョウキ だった。 だのに、 オカアサマ は、 ワタシ の こと ばかり シンパイ して いらっしゃる。
「あ」
 と ワタシ が いった。
「ナニ?」
 と コンド は、 オカアサマ の ほう で たずねる。
 カオ を みあわせ、 ナニ か、 すっかり わかりあった もの を かんじて、 うふふ と ワタシ が わらう と、 オカアサマ も、 にっこり おわらい に なった。
 ナニ か、 たまらない はずかしい オモイ に おそわれた とき に、 あの キミョウ な、 あ、 と いう かすか な サケビゴエ が でる もの なの だ。 ワタシ の ムネ に、 イマ だしぬけ に ふうっと、 6 ネン マエ の ワタシ の リコン の とき の こと が いろあざやか に おもいうかんで きて、 たまらなく なり、 おもわず、 あ、 と いって しまった の だ が、 オカアサマ の バアイ は、 どう なの だろう。 まさか オカアサマ に、 ワタシ の よう な はずかしい カコ が ある わけ は なし、 いや、 それとも、 ナニ か。
「オカアサマ も、 さっき、 ナニ か おおもいだし に なった の でしょう? どんな こと?」
「わすれた わ」
「ワタシ の こと?」
「いいえ」
「ナオジ の こと?」
「そう」
 と いいかけて、 クビ を かしげ、
「かも しれない わ」
 と おっしゃった。
 オトウト の ナオジ は ダイガク の チュウト で ショウシュウ され、 ナンポウ の シマ へ いった の だ が、 ショウソク が たえて しまって、 シュウセン に なって も ユクサキ が フメイ で、 オカアサマ は、 もう ナオジ には あえない と カクゴ して いる、 と おっしゃって いる けれども、 ワタシ は、 そんな、 「カクゴ」 なんか した こと は イチド も ない、 きっと あえる と ばかり おもって いる。
「あきらめて しまった つもり なん だ けど、 おいしい スープ を いただいて、 ナオジ を おもって、 たまらなく なった。 もっと、 ナオジ に、 よく して やれば よかった」
 ナオジ は コウトウ ガッコウ に はいった コロ から、 いやに ブンガク に こって、 ほとんど フリョウ ショウネン みたい な セイカツ を はじめて、 どれだけ オカアサマ に ゴクロウ を かけた か、 わからない の だ。 それだのに オカアサマ は、 スープ を ヒトサジ すって は ナオジ を おもい、 あ、 と おっしゃる。 ワタシ は ゴハン を クチ に おしこみ メ が あつく なった。
「だいじょうぶ よ。 ナオジ は、 だいじょうぶ よ。 ナオジ みたい な アッカン は、 なかなか しぬ もの じゃ ない わよ。 しぬ ヒト は、 きまって、 おとなしくて、 きれい で、 やさしい もの だわ。 ナオジ なんて、 ボウ で たたいたって、 しに や しない」
 オカアサマ は わらって、
「それじゃ、 カズコ さん は ハヤジニ の ほう かな」
 と ワタシ を からかう。
「あら、 どうして? ワタシ なんか、 アッカン の オデコサン です から、 80 サイ まで は だいじょうぶ よ」
「そう なの? そんなら、 オカアサマ は、 90 サイ まで は だいじょうぶ ね」
「ええ」
 と いいかけて、 すこし こまった。 アッカン は ナガイキ する。 きれい な ヒト は はやく しぬ。 オカアサマ は、 おきれい だ。 けれども、 ナガイキ して もらいたい。 ワタシ は すこぶる まごついた。
「イジワル ね!」
 と いったら、 シタクチビル が ぷるぷる ふるえて きて、 ナミダ が メ から あふれて おちた。

 ヘビ の ハナシ を しよう かしら。 その 4~5 ニチ マエ の ゴゴ に、 キンジョ の コドモ たち が、 オニワ の カキ の タケヤブ から、 ヘビ の タマゴ を トオ ばかり みつけて きた の で ある。
 コドモ たち は、
「マムシ の タマゴ だ」
 と いいはった。 ワタシ は あの タケヤブ に マムシ が 10 ピキ も うまれて は、 うっかり オニワ にも おりられない と おもった ので、
「やいちゃおう」
 と いう と、 コドモ たち は おどりあがって よろこび、 ワタシ の アト から ついて くる。
 タケヤブ の チカク に、 コノハ や シバ を つみあげて、 それ を もやし、 その ヒ の ナカ に タマゴ を ヒトツ ずつ なげいれた。 タマゴ は、 なかなか もえなかった。 コドモ たち が、 さらに コノハ や コエダ を ホノオ の ウエ に かぶせて カセイ を つよく して も、 タマゴ は もえそう も なかった。
 シタ の ノウカ の ムスメ さん が、 カキネ の ソト から、
「ナニ を して いらっしゃる の です か?」
 と わらいながら たずねた。
「マムシ の タマゴ を もやして いる の です。 マムシ が でる と、 こわい ん です もの」
「オオキサ は、 どれ くらい です か?」
「ウズラ の タマゴ くらい で、 マッシロ なん です」
「それ じゃ、 タダ の ヘビ の タマゴ です わ。 マムシ の タマゴ じゃ ない でしょう。 ナマ の タマゴ は、 なかなか もえません よ」
 ムスメ さん は、 さも おかしそう に わらって、 さった。
 30 プン ばかり ヒ を もやして いた の だ けれども、 どうしても タマゴ は もえない ので、 コドモ たち に タマゴ を ヒ の ナカ から ひろわせて、 ウメ の キ の シタ に うめさせ、 ワタシ は コイシ を あつめて ボヒョウ を つくって やった。
「さあ、 ミンナ、 おがむ のよ」
 ワタシ が しゃがんで ガッショウ する と、 コドモ たち も おとなしく ワタシ の ウシロ に しゃがんで ガッショウ した よう で あった。 そうして コドモ たち と わかれて、 ワタシ ヒトリ イシダン を ゆっくり のぼって くる と、 イシダン の ウエ の、 フジダナ の カゲ に オカアサマ が たって いらして、
「かわいそう な こと を する ヒト ね」
 と おっしゃった。
「マムシ か と おもったら、 タダ の ヘビ だった の。 だけど、 ちゃんと マイソウ して やった から、 だいじょうぶ」
 とは いった ものの、 こりゃ オカアサマ に みられて、 まずかった な と おもった。
 オカアサマ は けっして メイシンカ では ない けれども、 10 ネン マエ、 オチチウエ が ニシカタマチ の オウチ で なくなられて から、 ヘビ を とても おそれて いらっしゃる。 オチチウエ の ゴリンジュウ の チョクゼン に、 オカアサマ が、 オチチウエ の マクラモト に ほそい くろい ヒモ が おちて いる の を みて、 なにげなく ひろおう と なさったら、 それ が ヘビ だった。 するする と にげて、 ロウカ に でて それから どこ へ いった か わからなく なった が、 それ を みた の は、 オカアサマ と、 ワダ の オジサマ と オフタリ きり で、 オフタリ は カオ を みあわせ、 けれども ゴリンジュウ の オザシキ の サワギ に ならぬ よう、 こらえて だまって いらした と いう。 ワタシタチ も、 その バ に いあわせて いた の だ が、 その ヘビ の こと は、 だから、 ちっとも しらなかった。
 けれども、 その オチチウエ の なくなられた ヒ の ユウガタ、 オニワ の イケ の ハタ の、 キ と いう キ に ヘビ が のぼって いた こと は、 ワタシ も ジッサイ に みて しって いる。 ワタシ は 29 の バアチャン だ から、 10 ネン マエ の オチチウエ の ゴセイキョ の とき は、 もう 19 にも なって いた の だ。 もう コドモ では なかった の だ から、 10 ネン たって も、 その とき の キオク は イマ でも はっきり して いて、 マチガイ は ない はず だ が、 ワタシ が オソナエ の ハナ を きり に、 オニワ の オイケ の ほう に あるいて いって、 イケ の キシ の ツツジ の ところ に たちどまって、 ふと みる と、 その ツツジ の エダサキ に、 ちいさい ヘビ が まきついて いた。 すこし おどろいて、 ツギ の ヤマブキ の ハナエダ を おろう と する と、 その エダ にも、 まきついて いた。 トナリ の モクセイ にも、 ワカカエデ にも、 エニシダ にも、 フジ にも、 サクラ にも、 どの キ にも、 どの キ にも、 ヘビ が まきついて いた の で ある。 けれども ワタシ には、 そんな に こわく おもわれなかった。 ヘビ も、 ワタシ と ドウヨウ に オチチウエ の セイキョ を かなしんで、 アナ から はいでて オチチウエ の レイ を おがんで いる の で あろう と いう よう な キ が した だけ で あった。 そうして ワタシ は、 その オニワ の ヘビ の こと を、 オカアサマ に そっと おしらせ したら、 オカアサマ は おちついて、 ちょっと クビ を かたむけて ナニ か かんがえる よう な ゴヨウス を なさった が、 べつに なにも おっしゃり は しなかった。
 けれども、 この フタツ の ヘビ の ジケン が、 それ イライ オカアサマ を、 ひどい ヘビギライ に させた の は ジジツ で あった。 ヘビギライ と いう より は、 ヘビ を あがめ、 おそれる、 つまり イフ の ジョウ を おもち に なって しまった よう だ。
 ヘビ の タマゴ を やいた の を、 オカアサマ に みつけられ、 オカアサマ は きっと ナニ か ひどく フキツ な もの を おかんじ に なった に ちがいない と おもったら、 ワタシ も キュウ に ヘビ の タマゴ を やいた の が タイヘン な おそろしい こと だった よう な キ が して きて、 この こと が オカアサマ に あるいは わるい タタリ を する の では あるまい か と、 シンパイ で シンパイ で、 あくる ヒ も、 また その あくる ヒ も わすれる こと が できず に いた のに、 ケサ は ショクドウ で、 うつくしい ヒト は はやく しぬ、 など メッソウ も ない こと を つい くちばしって、 アト で、 どうにも イイツクロイ が できず、 ないて しまった の だ が、 チョウショク の アトカタヅケ を しながら、 なんだか ジブン の ムネ の オク に、 オカアサマ の オイノチ を ちぢめる きみわるい コヘビ が 1 ピキ はいりこんで いる よう で、 いや で いや で シヨウ が なかった。
 そうして、 その ヒ、 ワタシ は オニワ で ヘビ を みた。 その ヒ は、 とても なごやか な いい オテンキ だった ので、 ワタシ は オダイドコロ の オシゴト を すませて、 それから オニワ の シバフ の ウエ に トウイス を はこび、 そこ で アミモノ を しよう と おもって、 トウイス を もって オニワ に おりたら、 ニワイシ の ササ の ところ に ヘビ が いた。 おお、 いや だ。 ワタシ は ただ そう おもった だけ で、 それ イジョウ ふかく かんがえる こと も せず、 トウイス を もって ひきかえして エンガワ に あがり、 エンガワ に イス を おいて それ に こしかけて アミモノ に とりかかった。 ゴゴ に なって、 ワタシ は オニワ の スミ の オドウ の オク に しまって ある ゾウショ の ナカ から、 ローランサン の ガシュウ を とりだして こよう と おもって、 オニワ へ おりたら、 シバフ の ウエ を、 ヘビ が、 ゆっくり ゆっくり はって いる。 アサ の ヘビ と おなじ だった。 ほっそり した、 ジョウヒン な ヘビ だった。 ワタシ は、 オンナ ヘビ だ、 と おもった。 カノジョ は、 シバフ を しずか に よこぎって、 ノバラ の カゲ まで ゆく と、 たちどまって クビ を あげ、 ほそい ホノオ の よう な シタ を ふるわせた。 そうして、 アタリ を ながめる よう な カッコウ を した が、 しばらく する と、 コウベ を たれ、 いかにも ものうげ に うずくまった。 ワタシ は その とき にも、 ただ うつくしい ヘビ だ、 と いう オモイ ばかり が つよく、 やがて オドウ に いって ガシュウ を もちだし、 カエリ に サッキ の ヘビ の いた ところ を そっと みた が、 もう いなかった。
 ユウガタ ちかく、 オカアサマ と シナマ で オチャ を いただきながら、 オニワ の ほう を みて いたら、 イシダン の 3 ダン-メ の イシ の ところ に、 ケサ の ヘビ が また ゆっくり と あらわれた。
 オカアサマ も それ を みつけ、
「あの ヘビ は?」
 と おっしゃる なり たちあがって ワタシ の ほう に はしりより、 ワタシ の テ を とった まま たちすくんで おしまい に なった。 そう いわれて、 ワタシ も、 はっと おもいあたり、
「タマゴ の ハハオヤ?」
 と クチ に だして いって しまった。
「そう、 そう よ」
 オカアサマ の オコエ は、 かすれて いた。
 ワタシタチ は テ を とりあって、 イキ を つめ、 だまって その ヘビ を みまもった。 イシ の ウエ に、 ものうげ に うずくまって いた ヘビ は、 よろめく よう に また うごきはじめ、 そうして ちからよわそう に イシダン を よこぎり、 カキツバタ の ほう に はいって いった。
「ケサ から、 オニワ を あるきまわって いた のよ」
 と ワタシ が コゴエ で もうしあげたら、 オカアサマ は、 タメイキ を ついて くたり と イス に すわりこんで おしまい に なって、
「そう でしょう? タマゴ を さがして いる の です よ。 かわいそう に」
 と しずんだ コエ で おっしゃった。
 ワタシ は しかたなく、 ふふ と わらった。
 ユウヒ が オカアサマ の オカオ に あたって、 オカアサマ の オメ が あおい くらい に ひかって みえて、 その かすか に イカリ を おびた よう な オカオ は、 とびつきたい ほど に うつくしかった。 そうして、 ワタシ は、 ああ、 オカアサマ の オカオ は、 サッキ の あの かなしい ヘビ に、 どこ か にて いらっしゃる、 と おもった。 そうして ワタシ の ムネ の ナカ に すむ マムシ みたい に ごろごろ して みにくい ヘビ が、 この カナシミ が ふかくて うつくしい うつくしい ハハヘビ を、 いつか、 くいころして しまう の では なかろう か と、 なぜ だ か、 なぜ だ か、 そんな キ が した。
 ワタシ は オカアサマ の やわらか な きゃしゃ な オカタ に テ を おいて、 リユウ の わからない ミモダエ を した。

 ワタシタチ が、 トウキョウ の ニシカタマチ の オウチ を すて、 イズ の この、 ちょっと シナフウ の サンソウ に ひっこして きた の は、 ニホン が ムジョウケン コウフク を した トシ の、 12 ガツ の ハジメ で あった。 オチチウエ が おなくなり に なって から、 ワタシタチ の イエ の ケイザイ は、 オカアサマ の オトウト で、 そうして イマ では オカアサマ の たった ヒトリ の ニクシン で いらっしゃる ワダ の オジサマ が、 ゼンブ オセワ して くださって いた の だ が、 センソウ が おわって ヨノナカ が かわり、 ワダ の オジサマ が、 もう ダメ だ、 イエ を うる より ホカ は ない、 ジョチュウ にも ミナ ヒマ を だして、 オヤコ フタリ で、 どこ か イナカ の こぎれい な イエ を かい、 キママ に くらした ほう が いい、 と オカアサマ に おいいわたし に なった ヨウス で、 オカアサマ は、 オカネ の こと は コドモ より も、 もっと なにも わからない オカタ だし、 ワダ の オジサマ から そう いわれて、 それでは どうか よろしく、 と おねがい して しまった よう で ある。
 11 ガツ の スエ に オジサマ から ソクタツ が きて、 スンズ テツドウ の エンセン に カワダ シシャク の ベッソウ が ウリモノ に でて いる、 イエ は タカダイ で ミハラシ が よく、 ハタケ も 100 ツボ ばかり ある、 あの アタリ は ウメ の メイショ で、 フユ あたたかく ナツ すずしく、 すめば きっと、 オキ に めす ところ と おもう、 センポウ と ちょくせつ おあい に なって オハナシ を する ヒツヨウ も ある と おもわれる から、 アス、 とにかく ギンザ の ワタシ の ジムショ まで オイデ を こう、 と いう ブンメン で、
「オカアサマ、 おいで なさる?」
 と ワタシ が たずねる と、
「だって、 おねがい して いた の だ もの」
 と、 とても たまらなく さびしそう に わらって おっしゃった。
 あくる ヒ、 モト の ウンテンシュ の マツヤマ さん に オトモ を たのんで、 オカアサマ は、 オヒル すこし-スギ に おでかけ に なり、 ヨル の 8 ジ-ゴロ、 マツヤマ さん に おくられて おかえり に なった。
「きめました よ」
 カズコ の オヘヤ へ はいって きて、 カズコ の ツクエ に テ を ついて そのまま くずれる よう に おすわり に なり、 そう ヒトコト おっしゃった。
「きめた って、 ナニ を?」
「ゼンブ」
「だって」
 と ワタシ は おどろき、
「どんな オウチ だ か、 み も しない うち に、……」
 オカアサマ は ツクエ の ウエ に カタヒジ を たて、 ヒタイ に かるく オテ を あて、 ちいさい タメイキ を おつき に なり、
「ワダ の オジサマ が、 いい ところ だ と おっしゃる の だ もの。 ワタシ は、 このまま、 メ を つぶって その オウチ へ うつって いって も、 いい よう な キ が する」
 と おっしゃって オカオ を あげて、 かすか に おわらい に なった。 その カオ は、 すこし やつれて、 うつくしかった。
「そう ね」
 と ワタシ も、 オカアサマ の ワダ の オジサマ に たいする シンライシン の ウツクシサ に まけて、 アイヅチ を うち、
「それでは、 カズコ も メ を つぶる わ」
 フタリ で コエ を たてて わらった けれども、 わらった アト が、 すごく さびしく なった。
 それから マイニチ、 オウチ へ ニンプ が きて、 ヒッコシ の ニゴシラエ が はじまった。 ワダ の オジサマ も、 やって こられて、 うりはらう もの は うりはらう よう に それぞれ テハイ を して くださった。 ワタシ は ジョチュウ の オキミ と フタリ で、 イルイ の セイリ を したり、 ガラクタ を ニワサキ で もやしたり して いそがしい オモイ を して いた が、 オカアサマ は、 すこしも セイリ の オテツダイ も、 オサシズ も なさらず、 マイニチ オヘヤ で、 なんとなく、 ぐずぐず して いらっしゃる の で ある。
「どう なさった の? イズ へ いきたく なくなった の?」
 と おもいきって、 すこし きつく おたずね して も、
「いいえ」
 と ぼんやり した オカオ で おこたえ に なる だけ で あった。
 トオカ ばかり して、 セイリ が できあがった。 ワタシ は、 ユウガタ オキミ と フタリ で、 カミクズ や ワラ を ニワサキ で もやして いる と、 オカアサマ も、 オヘヤ から でて いらして、 エンガワ に おたち に なって だまって ワタシタチ の タキビ を みて いらした。 ハイイロ みたい な さむい ニシカゼ が ふいて、 ケムリ が ひくく チ を はって いて、 ワタシ は、 ふと オカアサマ の カオ を みあげ、 オカアサマ の オカオイロ が、 イマ まで みた こと も なかった くらい に わるい の に びっくり して、
「オカアサマ! オカオイロ が おわるい わ」
 と さけぶ と、 オカアサマ は うすく おわらい に なり、
「なんでも ない の」
 と おっしゃって、 そっと また オヘヤ に おはいり に なった。
 その ヨル、 オフトン は もう ニヅクリ を すまして しまった ので、 オキミ は 2 カイ の ヨウマ の ソファ に、 オカアサマ と ワタシ は、 オカアサマ の オヘヤ に、 オトナリ から おかり した ヒトクミ の オフトン を ひいて、 フタリ イッショ に やすんだ。
 オカアサマ は、 おや? と おもった くらい に ふけた よわよわしい オコエ で、
「カズコ が いる から、 カズコ が いて くれる から、 ワタシ は イズ へ いく の です よ。 カズコ が いて くれる から」
 と イガイ な こと を おっしゃった。
 ワタシ は、 どきん と して、
「カズコ が いなかったら?」
 と おもわず たずねた。
 オカアサマ は、 キュウ に おなき に なって、
「しんだ ほう が よい の です。 オトウサマ の なくなった この イエ で、 オカアサマ も、 しんで しまいたい のよ」
 と、 とぎれとぎれ に おっしゃって、 いよいよ はげしく おなき に なった。
 オカアサマ は、 イマ まで ワタシ に むかって イチド だって こんな ヨワネ を おっしゃった こと が なかった し、 また、 こんな に はげしく おなき に なって いる ところ を ワタシ に みせた こと も なかった。 オチチウエ が おなくなり に なった とき も、 また ワタシ が オヨメ に ゆく とき も、 そして アカチャン を オナカ に いれて オカアサマ の モト へ かえって きた とき も、 そして、 アカチャン が ビョウイン で しんで うまれた とき も、 それから ワタシ が ビョウキ に なって ねこんで しまった とき も、 また、 ナオジ が わるい こと を した とき も、 オカアサマ は、 けっして こんな およわい タイド を おみせ に なり は しなかった。 オチチウエ が おなくなり に なって 10 ネン-カン、 オカアサマ は、 オチチウエ の ザイセイチュウ と すこしも かわらない、 ノンキ な、 やさしい オカアサマ だった。 そうして、 ワタシタチ も、 イイキ に なって あまえて そだって きた の だ。 けれども、 オカアサマ には、 もう オカネ が なくなって しまった。 みんな ワタシタチ の ため に、 ワタシ と ナオジ の ため に、 ミジン も おしまず に おつかい に なって しまった の だ。 そうして もう、 この ナガネン すみなれた オウチ から でて いって、 イズ の ちいさい サンソウ で ワタシ と たった フタリ きり で、 わびしい セイカツ を はじめなければ ならなく なった。 もし オカアサマ が イジワル で けちけち して、 ワタシタチ を しかって、 そうして、 こっそり ゴジブン だけ の オカネ を ふやす こと を クフウ なさる よう な オカタ で あったら、 どんな に ヨノナカ が かわって も、 こんな、 しにたく なる よう な オキモチ に おなり に なる こと は なかったろう に、 ああ、 オカネ が なくなる と いう こと は、 なんと いう おそろしい、 みじめ な、 スクイ の ない ジゴク だろう、 と うまれて はじめて キ が ついた オモイ で、 ムネ が いっぱい に なり、 あまり くるしくて なきたくて も なけず、 ジンセイ の ゲンシュク とは、 こんな とき の カンジ を いう の で あろう か、 ミウゴキ ヒトツ できない キモチ で、 アオムケ に ねた まま、 ワタシ は イシ の よう に じっと して いた。
 あくる ヒ、 オカアサマ は、 やはり オカオイロ が わるく、 なお なにやら ぐずぐず して、 すこし でも ながく この オウチ に いらっしゃりたい ヨウス で あった が、 ワダ の オジサマ が みえられて、 もう ニモツ は ほとんど ハッソウ して しまった し、 キョウ イズ に シュッパツ、 と おいいつけ に なった ので、 オカアサマ は、 しぶしぶ コート を きて、 オワカレ の アイサツ を もうしあげる オキミ や、 デイリ の ヒトタチ に ムゴン で オエシャク なさって、 オジサマ と ワタシ と 3 ニン、 ニシカタマチ の オウチ を でた。
 キシャ は わりに すいて いて、 3 ニン とも こしかけられた。 キシャ の ナカ では、 オジサマ は ヒジョウ な ジョウキゲン で、 ウタイ など うなって いらっしゃった が、 オカアサマ は オカオイロ が わるく、 うつむいて、 とても さむそう に して いらした。 ミシマ で スンズ テツドウ に のりかえ、 イズ ナガオカ で ゲシャ して、 それから バス で 15 フン くらい で おりて から ヤマ の ほう に むかって、 ゆるやか な サカミチ を のぼって ゆく と、 ちいさい ブラク が あって、 その ブラク の ハズレ に、 シナフウ の、 ちょっと こった サンソウ が あった。
「オカアサマ、 おもった より も いい ところ ね」
 と ワタシ は イキ を はずませて いった。
「そう ね」
 と オカアサマ も、 サンソウ の ゲンカン の マエ に たって、 イッシュン うれしそう な メツキ を なさった。
「だいいち、 クウキ が いい。 セイジョウ な クウキ です」
 と オジサマ は、 ゴジマン なさった。
「ホントウ に」
 と オカアサマ は ほほえまれて、
「おいしい。 ここ の クウキ は、 おいしい」
 と おっしゃった。
 そうして、 3 ニン で わらった。
 ゲンカン に はいって みる と、 もう トウキョウ から の オニモツ が ついて いて、 ゲンカン から オヘヤ から オニモツ で いっぱい に なって いた。
「ツギ には、 オザシキ から の ナガメ が よい」
 オジサマ は うかれて、 ワタシタチ を オザシキ に ひっぱって いって すわらせた。
 ゴゴ の 3 ジ-ゴロ で、 フユ の ヒ が、 オニワ の シバフ に やわらかく あたって いて、 シバフ から イシダン を おりつくした アタリ に ちいさい オイケ が あり、 ウメ の キ が たくさん あって、 オニワ の シタ には ミカンバタケ が ひろがり、 それから ソンドウ が あって、 その ムコウ は スイデン で、 それから ずっと ムコウ に マツバヤシ が あって、 その マツバヤシ の ムコウ に ウミ が みえる。 ウミ は、 こうして オザシキ に すわって いる と、 ちょうど ワタシ の オチチ の サキ に スイヘイセン が さわる くらい の タカサ に みえた。
「やわらか な ケシキ ねえ」
 と オカアサマ は、 ものうそう に おっしゃった。
「クウキ の せい かしら。 ヒ の ヒカリ が、 まるで トウキョウ と ちがう じゃ ない の。 コウセン が キヌゴシ されて いる みたい」
 と ワタシ は、 はしゃいで いった。
 10 ジョウ マ と 6 ジョウ マ と、 それから シナ-シキ の オウセツマ と、 それから オゲンカン が 3 ジョウ、 オフロバ の ところ にも 3 ジョウ が ついて いて、 それから ショクドウ と オカッテ と、 それから オニカイ に おおきい ベッド の ついた ライキャクヨウ の ヨウマ が ヒトマ、 それ だけ の マカズ だ けれども、 ワタシタチ フタリ、 いや、 ナオジ が かえって 3 ニン に なって も、 べつに キュウクツ で ない と おもった。
 オジサマ は、 この ブラク で たった 1 ケン だ と いう ヤドヤ へ、 オショクジ を コウショウ に でかけ、 やがて とどけられた オベントウ を、 オザシキ に ひろげて ゴジサン の ウイスキー を おのみ に なり、 この サンソウ の イゼン の モチヌシ で いらした カワダ シシャク と シナ で あそんだ コロ の シッパイダン など かたって、 ダイヨウキ で あった が、 オカアサマ は、 オベントウ にも ほんの ちょっと オハシ を おつけ に なった だけ で、 やがて、 アタリ が うすぐらく なって きた コロ、
「すこし、 このまま ねかして」
 と ちいさい コエ で おっしゃった。
 ワタシ が オニモツ の ナカ から オフトン を だして、 ねかせて あげ、 なんだか ひどく キガカリ に なって きた ので、 オニモツ から タイオンケイ を さがしだして、 オネツ を はかって みたら、 39 ド あった。
 オジサマ も おどろいた ゴヨウス で、 とにかく シタ の ムラ まで、 オイシャ を さがし に でかけられた。
「オカアサマ!」
 と および して も、 ただ、 うとうと して いらっしゃる。
 ワタシ は オカアサマ の ちいさい オテ を にぎりしめて、 すすりないた。 オカアサマ が、 おかわいそう で おかわいそう で、 いいえ、 ワタシタチ フタリ が かわいそう で かわいそう で、 いくら ないて も、 とまらなかった。 なきながら、 ホント に このまま オカアサマ と イッショ に しにたい と おもった。 もう ワタシタチ は、 なにも いらない。 ワタシタチ の ジンセイ は、 ニシカタマチ の オウチ を でた とき に、 もう おわった の だ と おもった。
 2 ジカン ほど して オジサマ が、 ムラ の センセイ を つれて こられた。 ムラ の センセイ は、 もう だいぶ オトシヨリ の よう で、 そうして センダイヒラ の ハカマ を つけ、 シロタビ を はいて おられた。
 ゴシンサツ が おわって、
「ハイエン に なる かも しれません で ございます。 けれども、 ハイエン に なりまして も、 ゴシンパイ は ございません」
 と、 なんだか たよりない こと を おっしゃって、 チュウシャ を して くださって かえられた。
 あくる ヒ に なって も、 オカアサマ の オネツ は、 さがらなかった。 ワダ の オジサマ は、 ワタシ に 2000 エン おてわたし に なって、 もし まんいち、 ニュウイン など しなければ ならぬ よう に なったら、 トウキョウ へ デンポウ を うつ よう に、 と いいのこして、 ひとまず その ヒ に キキョウ なされた。
 ワタシ は オニモツ の ナカ から サイショウゲン の ヒツヨウ な スイジ ドウグ を とりだし、 オカユ を つくって オカアサマ に すすめた。 オカアサマ は、 オヤスミ の まま、 ミサジ おあがり に なって、 それから、 クビ を ふった。
 オヒル すこし マエ に、 シタ の ムラ の センセイ が また みえられた。 コンド は オハカマ は つけて いなかった が、 シロタビ は、 やはり はいて おられた。
「ニュウイン した ほう が、……」
 と ワタシ が もうしあげたら、
「いや、 その ヒツヨウ は、 ございません でしょう。 キョウ は ひとつ、 つよい オチュウシャ を して さしあげます から、 オネツ も さがる こと でしょう」
 と、 あいかわらず たよりない よう な オヘンジ で、 そうして、 いわゆる その つよい チュウシャ を して おかえり に なられた。
 けれども、 その つよい チュウシャ が キコウ を そうした の か、 その ヒ の オヒルスギ に、 オカアサマ の オカオ が マッカ に なって、 そうして オアセ が ひどく でて、 オネマキ を きかえる とき、 オカアサマ は わらって、
「メイイ かも しれない わ」
 と おっしゃった。
 ネツ は 7 ド に さがって いた。 ワタシ は うれしく、 この ムラ に たった 1 ケン の ヤドヤ に はしって ゆき、 そこ の オカミサン に たのんで、 ケイラン を トオ ばかり わけて もらい、 さっそく ハンジュク に して オカアサマ に さしあげた。 オカアサマ は ハンジュク を ミッツ と、 それから オカユ を オチャワン に ハンブン ほど いただいた。
 あくる ヒ、 ムラ の メイイ が、 また シロタビ を はいて おみえ に なり、 ワタシ が キノウ の つよい チュウシャ の オレイ を もうしあげたら、 きく の は トウゼン、 と いう よう な オカオ で ふかく うなずき、 テイネイ に ゴシンサツ なさって、 そうして ワタシ の ほう に むきなおり、
「オオオクサマ は、 もはや ゴビョウキ では ございません。 で ございます から、 これから は、 ナニ を おあがり に なって も、 ナニ を なさって も よろしゅう ございます」
 と、 やはり、 ヘン な イイカタ を なさる ので、 ワタシ は ふきだしたい の を こらえる の に ホネ が おれた。
 センセイ を ゲンカン まで おおくり して、 オザシキ に ひきかえして きて みる と、 オカアサマ は、 オトコ の ウエ に おすわり に なって いらして、
「ホントウ に メイイ だわ。 ワタシ は、 もう、 ビョウキ じゃ ない」
 と、 とても たのしそう な オカオ を して、 うっとり と ヒトリゴト の よう に おっしゃった。
「オカアサマ、 ショウジ を あけましょう か。 ユキ が ふって いる のよ」
 ハナビラ の よう な おおきい ボタンユキ が、 ふわり ふわり ふりはじめて いた の だ。 ワタシ は、 ショウジ を あけ、 オカアサマ と ならんで すわり、 ガラスド-ゴシ に イズ の ユキ を ながめた。
「もう ビョウキ じゃ ない」
 と、 オカアサマ は、 また ヒトリゴト の よう に おっしゃって、
「こうして すわって いる と、 イゼン の こと が、 みな ユメ だった よう な キ が する。 ワタシ は ホントウ は、 ヒッコシ マギワ に なって、 イズ へ くる の が、 どうしても、 なんと して も、 いや に なって しまった の。 ニシカタマチ の あの オウチ に、 1 ニチ でも ハンニチ でも ながく いたかった の。 キシャ に のった とき には、 ハンブン しんで いる よう な キモチ で、 ここ に ついた とき も、 はじめ ちょっと たのしい よう な キブン が した けど、 うすぐらく なったら、 もう トウキョウ が こいしくて、 ムネ が こげる よう で、 キ が とおく なって しまった の。 フツウ の ビョウキ じゃ ない ん です。 カミサマ が ワタシ を イチド おころし に なって、 それから キノウ まで の ワタシ と ちがう ワタシ に して、 よみがえらせて くださった の だわ」
 それから、 キョウ まで、 ワタシタチ フタリ きり の サンソウ セイカツ が、 まあ、 どうやら コト も なく、 アンノン に つづいて きた の だ。 ブラク の ヒトタチ も ワタシタチ に シンセツ に して くれた。 ここ へ ひっこして きた の は、 キョネン の 12 ガツ、 それから、 1 ガツ、 2 ガツ、 3 ガツ、 4 ガツ の キョウ まで、 ワタシタチ は オショクジ の オシタク の ホカ は、 たいてい オエンガワ で アミモノ を したり、 シナマ で ホン を よんだり、 オチャ を いただいたり、 ほとんど ヨノナカ と はなれて しまった よう な セイカツ を して いた の で ある。 2 ガツ には ウメ が さき、 この ブラク ゼンタイ が ウメ の ハナ で うまった。 そうして 3 ガツ に なって も、 カゼ の ない おだやか な ヒ が おおかった ので、 マンカイ の ウメ は すこしも おとろえず、 3 ガツ の スエ まで うつくしく さきつづけた。 アサ も ヒル も、 ユウガタ も、 ヨル も、 ウメ の ハナ は、 タメイキ の でる ほど うつくしかった。 そうして オエンガワ の ガラスド を あける と、 いつでも ハナ の ニオイ が オヘヤ に すっと ながれて きた。 3 ガツ の オワリ には、 ユウガタ に なる と、 きっと カゼ が でて、 ワタシ が ユウグレ の ショクドウ で オチャワン を ならべて いる と、 マド から ウメ の ハナビラ が ふきこんで きて、 オチャワン の ナカ に はいって ぬれた。 4 ガツ に なって、 ワタシ と オカアサマ が オエンガワ で アミモノ を しながら、 フタリ の ワダイ は、 たいてい ハタケヅクリ の ケイカク で あった。 オカアサマ も おてつだい したい と おっしゃる。 ああ、 こうして かいて みる と、 いかにも ワタシタチ は、 いつか オカアサマ の おっしゃった よう に、 イチド しんで、 ちがう ワタシタチ に なって よみがえった よう でも ある が、 しかし、 イエス サマ の よう な フッカツ は、 しょせん、 ニンゲン には できない の では なかろう か。 オカアサマ は、 あんな ふう に おっしゃった けれども、 それでも やはり、 スープ を ヒトサジ すって は、 ナオジ を おもい、 あ、 と おさけび に なる。 そうして ワタシ の カコ の キズアト も、 じつは、 ちっとも なおって い は しない の で ある。
 ああ、 なにも ヒトツ も つつみかくさず、 はっきり かきたい。 この サンソウ の アンノン は、 ゼンブ イツワリ の、 ミセカケ に すぎない と、 ワタシ は ひそか に おもう とき さえ ある の だ。 これ が ワタシタチ オヤコ が カミサマ から いただいた みじかい キュウソク の キカン で あった と して も、 もう すでに この ヘイワ には、 ナニ か フキツ な、 くらい カゲ が しのびよって きて いる よう な キ が して ならない。 オカアサマ は、 コウフク を およそおい に なりながら も、 ひにひに おとろえ、 そうして ワタシ の ムネ には マムシ が やどり、 オカアサマ を ギセイ に して まで ふとり、 ジブン で おさえて も おさえて も ふとり、 ああ、 これ が ただ キセツ の せい だけ の もの で あって くれたら よい、 ワタシ には コノゴロ、 こんな セイカツ が、 とても たまらなく なる こと が ある の だ。 ヘビ の タマゴ を やく など と いう はしたない こと を した の も、 そのよう な ワタシ の いらいら した オモイ の アラワレ の ヒトツ だった の に ちがいない の だ。 そうして ただ、 オカアサマ の カナシミ を ふかく させ、 スイジャク させる ばかり なの だ。
 コイ、 と かいたら、 アト、 かけなく なった。

シャヨウ 2

2019-12-07 | ダザイ オサム
 2

 ヘビ の タマゴ の こと が あって から、 トオカ ほど たち、 フキツ な こと が つづいて おこり、 いよいよ オカアサマ の カナシミ を ふかく させ、 その オイノチ を うすく させた。
 ワタシ が、 カジ を おこしかけた の だ。
 ワタシ が カジ を おこす。 ワタシ の ショウガイ に そんな おそろしい こと が あろう とは、 おさない とき から イマ まで、 イチド も ユメ に さえ かんがえた こと が なかった のに。
 オヒ を ソマツ に すれば カジ が おこる、 と いう きわめて トウゼン の こと にも、 きづかない ほど の ワタシ は あの いわゆる 「オヒメサマ」 だった の だろう か。
 ヨナカ に オテアライ に おきて、 オゲンカン の ツイタテ の ソバ まで ゆく と、 オフロバ の ほう が あかるい。 なにげなく のぞいて みる と、 オフロバ の ガラスド が マッカ で、 ぱちぱち と いう オト が きこえる。 コバシリ に はしって いって オフロバ の クグリド を あけ、 ハダシ で ソト に でて みたら、 オフロ の カマド の ソバ に つみあげて あった マキ の ヤマ が、 すごい カセイ で もえて いる。
 ニワツヅキ の シタ の ノウカ に とんで ゆき、 ちからいっぱい に ト を たたいて、
「ナカイ さん! おきて ください、 カジ です!」
 と さけんだ。
 ナカイ さん は、 もう、 ねて いらっしゃった らしかった が、
「はい、 すぐ いきます」
 と ヘンジ して、 ワタシ が、 おねがい します、 はやく おねがい します、 と いって いる うち に、 ユカタ の ネマキ の まま で オウチ から とびでて こられた。
 フタリ で ヒ の ソバ に かけもどり、 バケツ で オイケ の ミズ を くんで かけて いる と、 オザシキ の ロウカ の ほう から、 オカアサマ の、 ああっ、 と いう サケビ が きこえた。 ワタシ は バケツ を なげすて、 オニワ から ロウカ に あがって、
「オカアサマ、 シンパイ しないで、 だいじょうぶ、 やすんで いらして」
 と、 たおれかかる オカアサマ を だきとめ、 オネドコ に つれて いって ねかせ、 また ヒ の ところ に とんで かえって、 コンド は オフロ の ミズ を くんで は ナカイ さん に てわたし、 ナカイ さん は それ を マキ の ヤマ に かけた が カセイ は つよく、 とても そんな こと では きえそう も なかった。
「カジ だ。 カジ だ。 オベッソウ が カジ だ」
 と いう コエ が シタ の ほう から きこえて、 たちまち 4~5 ニン の ムラ の ヒトタチ が、 カキネ を こわして、 とびこんで いらした。 そうして、 カキネ の シタ の、 ヨウスイ の ミズ を、 リレー-シキ に バケツ で はこんで、 2~3 プン の アイダ に けしとめて くださった。 もうすこし で、 オフロバ の ヤネ に もえうつろう と する ところ で あった。
 よかった、 と おもった トタン に、 ワタシ は この カジ の ゲンイン に きづいて ぎょっと した。 ホントウ に、 ワタシ は その とき はじめて、 この カジ サワギ は、 ワタシ が ユウガタ、 オフロ の カマド の モエノコリ の マキ を、 カマド から ひきだして けした つもり で、 マキ の ヤマ の ソバ に おいた こと から おこった の だ、 と いう こと に きづいた の だ。 そう きづいて、 なきだしたく なって たちつくして いたら、 マエ の オウチ の ニシヤマ さん の オヨメサン が カキネ の ソト で、 オフロバ が マルヤケ だよ、 カマド の ヒ の フシマツ だよ、 と こわだか に はなす の が きこえた。
 ソンチョウ の フジタ さん、 ニノミヤ ジュンサ、 ケイボウダンチョウ の オオウチ さん など が、 やって こられて、 フジタ さん は、 イツモ の おやさしい エガオ で、
「おどろいた でしょう。 どうした の です か?」
 と おたずね に なる。
「ワタシ が、 いけなかった の です。 けした つもり の マキ を、……」
 と いいかけて、 ジブン が あんまり みじめ で、 ナミダ が わいて でて、 それっきり うつむいて だまった。 ケイサツ に つれて ゆかれて、 ザイニン に なる の かも しれない、 と その とき おもった。 ハダシ で、 オネマキ の まま の、 とりみだした ジブン の スガタ が キュウ に はずかしく なり、 つくづく、 おちぶれた と おもった。
「わかりました。 オカアサン は?」
 と フジタ さん は、 いたわる よう な クチョウ で、 しずか に おっしゃる。
「オザシキ に やすませて おります の。 ひどく おどろいて いらして、……」
「しかし、 まあ」
 と おわかい ニノミヤ ジュンサ も、
「イエ に ヒ が つかなくて、 よかった」
 と なぐさめる よう に おっしゃる。
 すると、 そこ へ シタ の ノウカ の ナカイ さん が、 フクソウ を あらためて でなおして こられて、
「なに ね、 マキ が ちょっと もえた だけ なん です。 ボヤ、 と まで も いきません」
 と イキ を はずませて いい、 ワタシ の おろか な カシツ を かばって くださる。
「そう です か。 よく わかりました」
 と ソンチョウ の フジタ さん は 2 ド も 3 ド も うなずいて、 それから ニノミヤ ジュンサ と ナニ か コゴエ で ソウダン を なさって いらした が、
「では、 かえります から、 どうぞ、 オカアサン に よろしく」
 と おっしゃって、 そのまま、 ケイボウダンチョウ の オオウチ さん や その ホカ の カタタチ と イッショ に おかえり に なる。
 ニノミヤ ジュンサ だけ、 おのこり に なって、 そうして ワタシ の すぐ マエ まで あゆみよって こられて、 コキュウ だけ の よう な ひくい コエ で、
「それでは ね、 コンヤ の こと は、 べつに、 とどけない こと に します から」
 と おっしゃった。
 ニノミヤ ジュンサ が おかえり に なったら、 シタ の ノウカ の ナカイ さん が、
「ニノミヤ さん は、 どう いわれました?」
 と、 じつに シンパイ そう な、 キンチョウ の オコエ で たずねる。
「とどけない って、 おっしゃいました」
 と ワタシ が こたえる と、 カキネ の ほう に まだ キンジョ の オカタ が いらして、 その ワタシ の ヘンジ を ききとった ヨウス で、 そう か、 よかった、 よかった、 と いいながら、 そろそろ ひきあげて ゆかれた。
 ナカイ さん も、 おやすみなさい、 を いって おかえり に なり、 アト には ワタシ ヒトリ、 ぼんやり やけた マキ の ヤマ の ソバ に たち、 なみだぐんで ソラ を みあげたら、 もう それ は ヨアケ ちかい ソラ の ケハイ で あった。
 フロバ で、 テ と アシ と カオ を あらい、 オカアサマ に あう の が なんだか おっかなくって、 オフロバ の 3 ジョウ マ で カミ を なおしたり して ぐずぐず して、 それから オカッテ に ゆき、 ヨ の まったく あけはなれる まで、 オカッテ の ショッキ の ヨウ も ない セイリ など して いた。
 ヨ が あけて、 オザシキ の ほう に、 そっと アシオト を しのばせて いって みる と、 オカアサマ は、 もう ちゃんと オキガエ を すまして おられて、 そうして シナマ の オイス に、 つかれきった よう に して こしかけて いらした。 ワタシ を みて、 にっこり おわらい に なった が、 その オカオ は、 びっくり する ほど あおかった。
 ワタシ は わらわず、 だまって、 オカアサマ の オイス の ウシロ に たった。
 しばらく して オカアサマ が、
「なんでも ない こと だった のね。 もやす ため の マキ だ もの」
 と おっしゃった。
 ワタシ は キュウ に たのしく なって、 ふふん と わらった。 オリ に かないて かたる コトバ は ギン の ホリモノ に キン の リンゴ を はめたる が ごとし、 と いう セイショ の シンゲン を おもいだし、 こんな やさしい オカアサマ を もって いる ジブン の コウフク を、 つくづく カミサマ に カンシャ した。 ユウベ の こと は、 ユウベ の こと。 もう くよくよ すまい、 と おもって、 ワタシ は シナマ の ガラスド-ゴシ に、 アサ の イズ の ウミ を ながめ、 いつまでも オカアサマ の ウシロ に たって いて、 オシマイ には オカアサマ の しずか な コキュウ と ワタシ の コキュウ が ぴったり あって しまった。
 アサ の オショクジ を かるく すまして から、 ワタシ は、 やけた マキ の ヤマ の セイリ に とりかかって いる と、 この ムラ で たった 1 ケン の ヤドヤ の オカミサン で ある オサキ さん が、
「どうした のよ? どうした のよ? イマ、 ワタシ、 はじめて きいて、 まあ、 ユウベ は、 いったい、 どうした のよ?」
 と いいながら ニワ の シオリド から コバシリ に はしって やって こられて、 そうして その メ には、 ナミダ が ひかって いた。
「すみません」
 と ワタシ は コゴエ で わびた。
「すみません も なにも。 それ より も、 オジョウサン、 ケイサツ の ほう は?」
「いい ん ですって」
「まあ よかった」
 と、 しんから うれしそう な カオ を して くださった。
 ワタシ は オサキ さん に、 ムラ の ミナサン へ どんな カタチ で、 オレイ と オワビ を したら いい か、 ソウダン した。 オサキ さん は、 やはり オカネ が いい でしょう、 と いい、 それ を もって オワビマワリ を す べき イエイエ を おしえて くださった。
「でも、 オジョウサン が オヒトリ で まわる の が おいや だったら、 ワタシ も イッショ に ついて いって あげます よ」
「ヒトリ で いった ほう が、 いい の でしょう?」
「ヒトリ で いける? そりゃ、 ヒトリ で いった ほう が いい の」
「ヒトリ で いく わ」
 それから オサキ さん は、 ヤケアト の セイリ を すこし てつだって くださった。
 セイリ が すんで から、 ワタシ は オカアサマ から オカネ を いただき、 100 エン シヘイ を 1 マイ ずつ ミノガミ に つつんで、 ソレゾレ の ツツミ に、 オワビ、 と かいた。
 まず イチバン に ヤクバ へ いった。 ソンチョウ の フジタ さん は オルス だった ので、 ウケツケ の ムスメ さん に カミヅツミ を さしだし、
「サクヤ は、 もうしわけない こと を いたしました。 これから、 キ を つけます から、 どうぞ おゆるし くださいまし。 ソンチョウ さん に、 よろしく」
 と オワビ を もうしあげた。
 それから、 ケイボウダンチョウ の オオウチ さん の オウチ へ ゆき、 オオウチ さん が オゲンカン に でて こられて、 ワタシ を みて だまって かなしそう に ほほえんで いらして、 ワタシ は、 どうして だ か、 キュウ に なきたく なり、
「ユウベ は、 ごめんなさい」
 と いう の が、 やっと で、 いそいで オイトマ して、 みちみち、 ナミダ が あふれて きて、 カオ が ダメ に なった ので、 いったん オウチ へ かえって、 センメンジョ で カオ を あらい、 オケショウ を しなおして、 また でかけよう と して ゲンカン で クツ を はいて いる と、 オカアサマ が、 でて いらして、
「まだ、 どこ か へ いく の?」
 と おっしゃる。
「ええ、 これから よ」
 ワタシ は カオ を あげない で こたえた。
「ごくろうさま ね」
 しんみり おっしゃった。
 オカアサマ の アイジョウ に チカラ を えて、 コンド は イチド も なかず に、 ゼンブ を まわる こと が できた。
 クチョウ さん の オウチ に いったら、 クチョウ さん は オルス で、 ムスコ さん の オヨメサン が でて いらした が、 ワタシ を みる なり かえって ムコウ で なみだぐんで おしまい に なり、 また、 ジュンサ の ところ では、 ニノミヤ ジュンサ が、 よかった、 よかった、 と おっしゃって くれる し、 ミンナ おやさしい オカタタチ ばかり で、 それから ゴキンジョ の オウチ を まわって、 やはり ミナサマ から、 ドウジョウ され、 なぐさめられた。 ただ、 マエ の オウチ の ニシヤマ さん の オヨメサン、 と いって も、 もう 40 くらい の オバサン だ が、 その ヒト に だけ は、 びしびし しかられた。
「これから も キ を つけて ください よ。 ミヤサマ だ か ナニサマ だ か しらない けれども、 ワタシ は マエ から、 アンタタチ の ママゴト アソビ みたい な クラシカタ を、 はらはら しながら みて いた ん です。 コドモ が フタリ で くらして いる みたい なん だ から、 イマ まで カジ を おこさなかった の が フシギ な くらい の もの だ。 ホントウ に これから は、 キ を つけて ください よ。 ユウベ だって、 アンタ、 あれ で カゼ が つよかったら、 この ムラ ゼンブ が もえた の です よ」
 この ニシヤマ さん の オヨメサン は、 シタ の ノウカ の ナカイ さん など は ソンチョウ さん や ニノミヤ ジュンサ の マエ に とんで でて、 ボヤ と まで も いきません、 と いって かばって くださった のに、 カキネ の ソト で、 フロバ が マルヤケ だよ、 カマド の ヒ の フシマツ だよ、 と おおきい コエ で いって いらした ヒト で ある。 けれども、 ワタシ は ニシヤマ さん の オヨメサン の オコゴト にも、 シンジツ を かんじた。 ホントウ に その とおり だ と おもった。 すこしも、 ニシヤマ さん の オヨメサン を うらむ こと は ない。 オカアサマ は、 もやす ため の マキ だ もの、 と ジョウダン を おっしゃって ワタシ を なぐさめて くださった が、 しかし、 あの とき に カゼ が つよかったら、 ニシヤマ さん の オヨメサン の おっしゃる とおり、 この ムラ ゼンタイ が やけた の かも しれない。 そう なったら ワタシ は、 しんで おわび したって おっつかない。 ワタシ が しんだら、 オカアサマ も いきて は、 いらっしゃらない だろう し、 また なくなった オチチウエ の オナマエ を けがして しまう こと にも なる。 イマ は もう、 ミヤサマ も カゾク も あった もの では ない けれども、 しかし、 どうせ ほろびる もの なら、 おもいきって カレイ に ほろびたい。 カジ を だして その オワビ に しぬ なんて、 そんな みじめ な シニカタ では、 しんで も しにきれまい。 とにかく、 もっと、 しっかり しなければ ならぬ。
 ワタシ は ヨクジツ から、 ハタケシゴト に セイ を だした。 シタ の ノウカ の ナカイ さん の ムスメ さん が、 ときどき おてつだい して くださった。 カジ を だす など と いう シュウタイ を えんじて から は、 ワタシ の カラダ の チ が なんだか すこし あかぐろく なった よう な キ が して、 その マエ には、 ワタシ の ムネ に イジワル の マムシ が すみ、 コンド は チ の イロ まで すこし かわった の だ から、 いよいよ ヤセイ の イナカムスメ に なって ゆく よう な キブン で、 オカアサマ と オエンガワ で アミモノ など を して いて も、 へんに キュウクツ で いきぐるしく、 かえって ハタケ へ でて、 ツチ を ほりおこしたり して いる ほう が キラク な くらい で あった。
 キンニク ロウドウ、 と いう の かしら。 このよう な チカラシゴト は、 ワタシ に とって イマ が はじめて では ない。 ワタシ は センソウ の とき に チョウヨウ されて、 ヨイトマケ まで させられた。 イマ ハタケ に はいて でて いる ジカタビ も、 その とき、 グン の ほう から ハイキュウ に なった もの で ある。 ジカタビ と いう もの を、 その とき、 それこそ うまれて はじめて はいて みた の で ある が、 びっくり する ほど、 ハキゴコチ が よく、 それ を はいて オニワ を あるいて みたら、 トリ や ケモノ が、 ハダシ で ジベタ を あるいて いる キガルサ が、 ジブン にも よく わかった よう な キ が して、 とても、 ムネ が うずく ほど、 うれしかった。 センソウチュウ の、 たのしい キオク は、 たった それ ヒトツ きり。 おもえば、 センソウ なんて、 つまらない もの だった。
  サクネン は、 なにも なかった。
  イッサクネン は、 なにも なかった。
  その マエ の トシ も、 なにも なかった。
 そんな おもしろい シ が、 シュウセン チョクゴ の ある シンブン に のって いた が、 ホントウ に、 イマ おもいだして みて も、 サマザマ の こと が あった よう な キ が しながら、 やはり、 なにも なかった と おなじ よう な キ も する。 ワタシ は、 センソウ の ツイオク は かたる の も、 きく の も、 いや だ。 ヒト が たくさん しんだ のに、 それでも チンプ で タイクツ だ。 けれども、 ワタシ は、 やはり ジブン カッテ なの で あろう か。 ワタシ が チョウヨウ されて ジカタビ を はき、 ヨイトマケ を やらされた とき の こと だけ は、 そんな に チンプ だ とも おもえない。 ずいぶん いや な オモイ も した が、 しかし、 ワタシ は あの ヨイトマケ の おかげ で、 すっかり カラダ が ジョウブ に なり、 イマ でも ワタシ は、 いよいよ セイカツ に こまったら、 ヨイトマケ を やって いきて ゆこう と おもう こと が ある くらい なの だ。
 センキョク が そろそろ ゼツボウ に なって きた コロ、 グンプク みたい な もの を きた オトコ が、 ニシカタマチ の オウチ へ やって きて、 ワタシ に チョウヨウ の カミ と、 それから ロウドウ の ヒワリ を かいた カミ を わたした。 ヒワリ の カミ を みる と、 ワタシ は その ヨクジツ から 1 ニチ-オキ に タチカワ の オク の ヤマ へ かよわなければ ならなく なって いた ので、 おもわず ワタシ の メ から ナミダ が あふれた。
「ダイニン では、 いけない の でしょう か」
 ナミダ が とまらず、 ススリナキ に なって しまった。
「グン から、 アナタ に チョウヨウ が きた の だ から、 かならず、 ホンニン で なければ いけない」
 と その オトコ は、 つよく こたえた。
 ワタシ は ゆく ケッシン を した。
 その ヨクジツ は アメ で、 ワタシタチ は タチカワ の ヤマ の フモト に セイレツ させられ、 まず ショウコウ の オセッキョウ が あった。
「センソウ には、 かならず かつ」
 と ボウトウ して、
「センソウ には かならず かつ が、 しかし、 ミナサン が グン の メイレイドオリ に シゴト しなければ、 サクセン に シショウ を きたし、 オキナワ の よう な ケッカ に なる。 かならず、 いわれた だけ の シゴト は、 やって ほしい。 それから、 この ヤマ にも、 スパイ が はいって いる かも しれない から、 おたがいに チュウイ する こと。 ミナサン も これから は、 ヘイタイ と おなじ に、 ジンチ の ナカ へ はいって シゴト を する の で ある から、 ジンチ の ヨウス は、 ゼッタイ に、 タゴン しない よう に、 ジュウブン に チュウイ して ほしい」
 と いった。
 ヤマ には アメ が けむり、 ダンジョ とりまぜて 500 ちかい タイイン が、 アメ に ぬれながら たって その ハナシ を ハイチョウ して いる の だ。 タイイン の ナカ には、 コクミン ガッコウ の ダンセイト ジョセイト も まじって いて、 ミナ さむそう な ナキベソ の カオ を して いた。 アメ は ワタシ の レンコート を とおして、 ウワギ に しみて きて、 やがて ハダギ まで ぬらした ほど で あった。
 その ヒ は イチニチ、 モッコカツギ を して、 カエリ の デンシャ の ナカ で、 ナミダ が でて きて シヨウ が なかった が、 その ツギ の とき には、 ヨイトマケ の ツナヒキ だった。 そうして、 ワタシ には その シゴト が いちばん おもしろかった。
 2 ド、 3 ド、 ヤマ へ ゆく うち に、 コクミン ガッコウ の ダンセイト たち が ワタシ の スガタ を、 いやに じろじろ みる よう に なった。 ある ヒ、 ワタシ が モッコカツギ を して いる と、 ダンセイト が 2~3 ニン、 ワタシ と すれちがって、 それから、 その ウチ の ヒトリ が、
「アイツ が、 スパイ か」
 と コゴエ で いった の を きき、 ワタシ は びっくり して しまった。
「なぜ、 あんな こと を いう の かしら」
 と ワタシ は、 ワタシ と ならんで モッコ を かついで あるいて いる わかい ムスメ さん に たずねた。
「ガイジン みたい だ から」
 わかい ムスメ さん は、 マジメ に こたえた。
「アナタ も、 アタシ を スパイ だ と おもって いらっしゃる?」
「いいえ」
 コンド は すこし わらって こたえた。
「ワタシ、 ニホンジン です わ」
 と いって、 その ジブン の コトバ が、 われながら ばからしい ナンセンス の よう に おもわれて、 ヒトリ で くすくす わらった。
 ある オテンキ の いい ヒ に、 ワタシ は アサ から オトコ の ヒトタチ と イッショ に マルタ ハコビ を して いる と、 カンシ トウバン の わかい ショウコウ が カオ を しかめて、 ワタシ を ゆびさし、
「おい、 キミ。 キミ は、 こっち へ きたまえ」
 と いって、 さっさと マツバヤシ の ほう へ あるいて ゆき、 ワタシ が フアン と キョウフ で ムネ を どきどき させながら、 その アト に ついて ゆく と、 ハヤシ の オク に セイザイショ から きた ばかり の イタ が つんで あって、 ショウコウ は その マエ まで いって たちどまり、 くるり と ワタシ の ほう に むきなおって、
「マイニチ、 つらい でしょう。 キョウ は ひとつ、 この ザイモク の ミハリバン を して いて ください」
 と しろい ハ を だして わらった。
「ここ に、 たって いる の です か?」
「ここ は、 すずしくて しずか だ から、 この イタ の ウエ で オヒルネ でも して いて ください。 もし、 タイクツ だったら、 これ は、 オヨミ かも しれない けど」
 と いって、 ウワギ の ポケット から ちいさい ブンコボン を とりだし、 てれた よう に、 イタ の ウエ に ほうり、
「こんな もの でも、 よんで いて ください」
 ブンコボン には、 「トロイカ」 と しるされて いた。
 ワタシ は その ブンコボン を とりあげ、
「ありがとう ございます。 ウチ にも、 ホン の すき なの が いまして、 イマ、 ナンポウ に いって います けど」
 と もうしあげたら、 キキチガイ した らしく、
「ああ、 そう。 アナタ の ゴシュジン なの です ね。 ナンポウ じゃあ、 タイヘン だ」
 と クビ を ふって しんみり いい、
「とにかく、 キョウ は ここ で ミハリバン と いう こと に して、 アナタ の オベントウ は、 アト で ジブン が もって きて あげます から、 ゆっくり、 やすんで いらっしゃい」
 と いいすて、 イソギアシ で かえって ゆかれた。
 ワタシ は、 ザイモク に こしかけて、 ブンコボン を よみ、 ハンブン ほど よんだ コロ、 あの ショウコウ が、 こつこつ と クツ の オト を させて やって きて、
「オベントウ を もって きました。 オヒトリ で、 つまらない でしょう」
 と いって、 オベントウ を クサハラ の ウエ に おいて、 また オオイソギ で ひきかえして ゆかれた。
 ワタシ は、 オベントウ を すまして から、 コンド は、 ザイモク の ウエ に はいあがって、 ヨコ に なって ホン を よみ、 ゼンブ よみおえて から、 うとうと オヒルネ を はじめた。
 メ が さめた の は、 ゴゴ の 3 ジ-スギ だった。 ワタシ は、 ふと あの わかい ショウコウ を、 マエ に どこ か で みかけた こと が ある よう な キ が して きて、 かんがえて みた が、 おもいだせなかった。 ザイモク から おりて、 カミ を なでつけて いたら、 また、 こつこつ と クツ の オト が きこえて きて、
「やあ、 キョウ は ごくろうさま でした。 もう、 おかえり に なって よろしい」
 ワタシ は ショウコウ の ほう に はしりよって、 そうして ブンコボン を さしだし、 オレイ を いおう と おもった が、 コトバ が でず、 だまって ショウコウ の カオ を みあげ、 フタリ の メ が あった とき、 ワタシ の メ から ぽろぽろ ナミダ が でた。 すると、 その ショウコウ の メ にも、 きらり と ナミダ が ひかった。
 そのまま だまって おわかれ した が、 その わかい ショウコウ は、 それっきり イチド も、 ワタシタチ の はたらいて いる ところ に カオ を みせず、 ワタシ は、 あの ヒ に、 たった 1 ニチ あそぶ こと が できた だけ で、 それから は、 やはり 1 ニチ-オキ に タチカワ の ヤマ で、 くるしい サギョウ を した。 オカアサマ は、 ワタシ の カラダ を、 しきり に シンパイ して くださった が、 ワタシ は かえって ジョウブ に なり、 イマ では ヨイトマケ ショウバイ にも ひそか に ジシン を もって いる し、 また、 ハタケシゴト にも、 べつに クツウ を かんじない オンナ に なった。
 センソウ の こと は、 かたる の も きく の も いや、 など と いいながら、 つい ジブン の 「キチョウ なる タイケンダン」 など かたって しまった が、 しかし、 ワタシ の センソウ の ツイオク の ナカ で、 すこし でも かたりたい と おもう の は、 ざっと これ くらい の こと で、 アト は もう、 いつか の あの シ の よう に、
  サクネン は、 なにも なかった。
  イッサクネン は、 なにも なかった。
  その マエ の トシ も、 なにも なかった。
 と でも いいたい くらい で、 ただ、 ばかばかしく、 ワガミ に のこって いる もの は、 この ジカタビ 1 ソク、 と いう ハカナサ で ある。
 ジカタビ の こと から、 つい ムダバナシ を はじめて ダッセン しちゃった けれど、 ワタシ は、 この、 センソウ の ユイイツ の キネンヒン と でも いう べき ジカタビ を はいて、 マイニチ の よう に ハタケ に でて、 ムネ の オク の ひそか な フアン や ショウソウ を まぎらして いる の だ けれども、 オカアサマ は、 コノゴロ、 めだって ひにひに およわり に なって いらっしゃる よう に みえる。
 ヘビ の タマゴ。
 カジ。
 あの コロ から、 どうも オカアサマ は、 めっきり ゴビョウニン-くさく おなり に なった。 そうして ワタシ の ほう では、 その ハンタイ に、 だんだん ソヤ な ゲヒン な オンナ に なって ゆく よう な キ も する。 なんだか どうも ワタシ が、 オカアサマ から どんどん セイキ を すいとって ふとって ゆく よう な ココチ が して ならない。
 カジ の とき だって、 オカアサマ は、 もやす ため の マキ だ もの、 と ゴジョウダン を いって、 それっきり カジ の こと に ついて は ヒトコト も おっしゃらず、 かえって ワタシ を いたわる よう に して いらした が、 しかし、 ナイシン オカアサマ の うけられた ショック は、 ワタシ の 10 バイ も つよかった の に ちがいない。 あの カジ が あって から、 オカアサマ は、 ヨナカ に ときたま うめかれる こと が ある し、 また、 カゼ の つよい ヨル など は、 オテアライ に おいで に なる フリ を して、 シンヤ イクド も オトコ から ぬけて ウチジュウ を おみまわり に なる の で ある。 そうして オカオイロ は いつも さえず、 おあるき に なる の さえ やっと の よう に みえる ヒ も ある。 ハタケ も てつだいたい と、 マエ には おっしゃって いた が、 イチド ワタシ が、 およしなさい と もうしあげた のに、 イド から おおきい テオケ で ハタケ に ミズ を 5~6 パイ おはこび に なり、 ヨクジツ、 イキ の できない くらい に カタ が こる、 と おっしゃって イチニチ、 ネタキリ で、 そんな こと が あって から は さすが に ハタケシゴト は あきらめた ゴヨウス で、 ときたま ハタケ へ でて こられて も、 ワタシ の ハタラキブリ を、 ただ、 じっと みて いらっしゃる だけ で ある。
「ナツ の ハナ が すき な ヒト は、 ナツ に しぬ って いう けれども、 ホントウ かしら」
 キョウ も オカアサマ は、 ワタシ の ハタケシゴト を じっと みて いらして、 ふいと そんな こと を おっしゃった。 ワタシ は だまって オナス に ミズ を やって いた。 ああ、 そう いえば、 もう ショカ だ。
「ワタシ は、 ネム の ハナ が すき なん だ けれども、 ここ の オニワ には、 1 ポン も ない のね」
 と オカアサマ は、 また、 しずか に おっしゃる。
「キョウチクトウ が たくさん ある じゃ ない の」
 ワタシ は、 わざと、 つっけんどん な クチョウ で いった。
「あれ は、 きらい なの。 ナツ の ハナ は、 たいてい すき だ けど、 あれ は、 オキャン-すぎて」
「ワタシ なら バラ が いい な。 だけど、 あれ は シキザキ だ から、 バラ の すき な ヒト は、 ハル に しんで、 ナツ に しんで、 アキ に しんで、 フユ に しんで、 4 ド も しになおさなければ いけない の?」
 フタリ、 わらった。
「すこし、 やすまない?」
 と オカアサマ は、 なお おわらい に なりながら、
「キョウ は、 ちょっと カズコ さん と ソウダン したい こと が ある の」
「ナアニ? しぬ オハナシ なんか は、 まっぴら よ」
 ワタシ は オカアサマ の アト に ついて いって、 フジダナ の シタ の ベンチ に ならんで コシ を おろした。 フジ の ハナ は もう おわって、 やわらか な ゴゴ の ヒザシ が、 その ハ を とおして ワタシタチ の ヒザ の ウエ に おち、 ワタシタチ の ヒザ を ミドリイロ に そめた。
「マエ から きいて いただきたい と おもって いた こと です けど ね、 おたがいに キブン の いい とき に はなそう と おもって、 キョウ まで キカイ を まって いた の。 どうせ、 いい ハナシ じゃあ ない のよ。 でも、 キョウ は なんだか ワタシ も すらすら はなせる よう な キ が する もの だ から、 まあ、 アナタ も、 ガマン して オシマイ まで きいて ください ね。 じつは ね、 ナオジ は、 いきて いる の です」
 ワタシ は、 カラダ を かたく した。
「5~6 ニチ マエ に、 ワダ の オジサマ から オタヨリ が あって ね、 オジサマ の カイシャ に イゼン つとめて いらした オカタ で、 サイキン ナンポウ から キカン して、 オジサマ の ところ に アイサツ に いらして、 その とき、 ヨモヤマ の ハナシ の スエ に、 その オカタ が グウゼン にも ナオジ と おなじ ブタイ で、 そうして ナオジ は ブジ で、 もう すぐ キカン する だろう と いう こと が わかった の。 でも、 ね、 ヒトツ いや な こと が ある の。 その オカタ の ハナシ では、 ナオジ は かなり ひどい アヘン チュウドク に なって いる らしい、 と……」
「また!」
 ワタシ は にがい もの を たべた みたい に、 クチ を ゆがめた。 ナオジ は、 コウトウ ガッコウ の コロ に、 ある ショウセツカ の マネ を して、 マヤク チュウドク に かかり、 その ため に、 クスリヤ から おそろしい キンガク の カリ を つくって、 オカアサマ は、 その カリ を クスリヤ に ゼンブ しはらう の に 2 ネン も かかった の で ある。
「そう。 また、 はじめた らしい の。 けれども、 それ の なおらない うち は、 キカン も ゆるされない だろう から、 きっと なおして くる だろう と、 その オカタ も いって いらした そう です。 オジサマ の オテガミ では、 なおして かえって きた と して も、 そんな ココロガケ の モノ では、 すぐ どこ か へ つとめさせる と いう わけ には いかぬ、 イマ の この コンラン の トウキョウ で はたらいて は、 マトモ の ニンゲン で さえ すこし くるった よう な キブン に なる、 チュウドク の なおった ばかり の ハンビョウニン なら、 すぐ ハッキョウ-ギミ に なって、 ナニ を しでかす か、 わかった もの で ない、 それで、 ナオジ が かえって きたら、 すぐ この イズ の サンソウ に ひきとって、 どこ へも ださず に、 とうぶん ここ で セイヨウ させた ほう が よい、 それ が ヒトツ。 それから、 ねえ、 カズコ、 オジサマ が ねえ、 もう ヒトツ おいいつけ に なって いる の だよ。 オジサマ の オハナシ では、 もう ワタシタチ の オカネ が、 なんにも なくなって しまった ん だって。 チョキン の フウサ だの、 ザイサンゼイ だの で、 もう オジサマ も、 これまで の よう に ワタシタチ に オカネ を おくって よこす こと が メンドウ に なった の だ そう です。 それで ね、 ナオジ が かえって きて、 オカアサマ と、 ナオジ と、 カズコ と 3 ニン あそんで くらして いて は、 オジサマ も その セイカツヒ を ツゴウ なさる の に タイヘン な クロウ を しなければ ならぬ から、 イマ の うち に、 カズコ の オヨメイリサキ を さがす か、 または、 ゴホウコウ の オウチ を さがす か、 どちら か に なさい、 と いう、 まあ、 オイイツケ なの」
「ゴホウコウ って、 ジョチュウ の こと?」
「いいえ、 オジサマ が ね、 ほら、 あの、 コマバ の」
 と ある ミヤサマ の オナマエ を あげて、
「あの ミヤサマ なら、 ワタシタチ とも ケツエン ツヅキ だし、 ヒメミヤ の カテイ キョウシ を かねて、 ゴホウコウ に あがって も、 カズコ が、 そんな に さびしく キュウクツ な オモイ を せず に すむ だろう、 と おっしゃって いる の です」
「ホカ に、 ツトメグチ が ない もの かしら」
「ホカ の ショクギョウ は、 カズコ には、 とても ムリ だろう、 と おっしゃって いました」
「なぜ ムリ なの? ね、 なぜ ムリ なの?」
 オカアサマ は、 さびしそう に ほほえんで いらっしゃる だけ で、 なんとも おこたえ に ならなかった。
「いや だわ! ワタシ、 そんな ハナシ」
 ジブン でも、 あらぬ こと を くちばしった、 と おもった。 が、 とまらなかった。
「ワタシ が、 こんな ジカタビ を、 こんな ジカタビ を」
 と いったら、 ナミダ が でて きて、 おもわず わっと なきだした。 カオ を あげて、 ナミダ を テノコウ で はらいのけながら、 オカアサマ に むかって、 いけない、 いけない、 と おもいながら、 コトバ が ムイシキ みたい に、 ニクタイ と まるで ムカンケイ に、 つぎつぎ と つづいて でた。
「いつ だ か、 おっしゃった じゃ ない の。 カズコ が いる から、 カズコ が いて くれる から、 オカアサマ は イズ へ いく の です よ、 と おっしゃった じゃ ない の。 カズコ が いない と、 しんで しまう と おっしゃった じゃ ない の。 だから、 それだから、 カズコ は、 どこ へも いかず に、 オカアサマ の オソバ に いて、 こうして ジカタビ を はいて、 オカアサマ に おいしい オヤサイ を あげたい と、 それ ばっかり かんがえて いる のに、 ナオジ が かえって くる と おきき に なったら、 キュウ に ワタシ を ジャマ に して、 ミヤサマ の ジョチュウ に いけ なんて、 あんまり だわ、 あんまり だわ」
 ジブン でも、 ひどい こと を くちばしる と おもいながら、 コトバ が ベツ の イキモノ の よう に、 どうしても とまらない の だ。
「ビンボウ に なって、 オカネ が なくなったら、 ワタシタチ の キモノ を うったら いい じゃ ない の。 この オウチ も、 うって しまったら、 いい じゃ ない の。 ワタシ には、 なんだって できる わよ。 この ムラ の ヤクバ の オンナ ジムイン に だって ナン に だって なれる わよ。 ヤクバ で つかって くださらなかったら、 ヨイトマケ に だって なれる わよ。 ビンボウ なんて、 なんでも ない。 オカアサマ さえ、 ワタシ を かわいがって くださったら、 ワタシ は イッショウ オカアサマ の オソバ に いよう と ばかり かんがえて いた のに、 オカアサマ は、 ワタシ より も ナオジ の ほう が かわいい のね。 でて いく わ。 ワタシ は でて いく。 どうせ ワタシ は、 ナオジ とは ムカシ から セイカク が あわない の だ から、 3 ニン イッショ に くらして いたら、 おたがいに フコウ よ。 ワタシ は これまで ながい こと オカアサマ と フタリ きり で くらした の だ から、 もう おもいのこす こと は ない。 これから ナオジ が オカアサマ と オフタリ で ミズイラズ で くらして、 そうして ナオジ が たんと たんと オヤコウコウ を する と いい。 ワタシ は もう、 いや に なった。 これまで の セイカツ が、 いや に なった。 でて いきます。 キョウ これから、 すぐに でて いきます。 ワタシ には、 いく ところ が ある の」
 ワタシ は たった。
「カズコ!」
 オカアサマ は きびしく いい、 そうして かつて ワタシ に みせた こと の なかった ほど、 イゲン に みちた オカオツキ で、 すっと おたち に なり、 ワタシ と むかいあって、 そうして ワタシ より も すこし オセ が たかい くらい に みえた。
 ワタシ は、 ごめんなさい、 と すぐに いいたい と おもった が、 それ が クチ に どうしても でない で、 かえって ベツ の コトバ が でて しまった。
「だました のよ。 オカアサマ は、 ワタシ を おだまし に なった のよ。 ナオジ が くる まで、 ワタシ を リヨウ して いらっしゃった のよ。 ワタシ は、 オカアサマ の ジョチュウ さん。 ヨウ が すんだ から、 コンド は ミヤサマ の ところ に いけ って」
 わっ と コエ が でて、 ワタシ は たった まま、 おもいきり ないた。
「オマエ は、 バカ だねえ」
 と ひくく おっしゃった オカアサマ の オコエ は、 イカリ に ふるえて いた。
 ワタシ は カオ を あげ、
「そう よ、 バカ よ。 バカ だ から、 だまされる のよ。 バカ だ から、 ジャマ に される のよ。 いない ほう が いい の でしょう? ビンボウ って、 どんな こと? オカネ って、 なんの こと? ワタシ には、 わからない わ。 アイジョウ を、 オカアサマ の アイジョウ を、 それ だけ を ワタシ は しんじて いきて きた の です」
 と また、 バカ な、 あらぬ こと を くちばしった。
 オカアサマ は、 ふっと オカオ を そむけた。 ないて おられる の だ。 ワタシ は、 ごめんなさい、 と いい、 オカアサマ に だきつきたい と おもった が、 ハタケシゴト で テ が よごれて いる の が、 かすか に キ に なり、 へんに しらじらしく なって、
「ワタシ さえ、 いなかったら いい の でしょう? でて いきます。 ワタシ には、 いく ところ が ある の」
 と いいすて、 そのまま コバシリ に はしって、 オフロバ に ゆき、 なきじゃくりながら、 カオ と テアシ を あらい、 それから オヘヤ へ いって、 ヨウフク に きがえて いる うち に、 また わっ と おおきい コエ が でて なきくずれ、 オモイ の タケ もっと もっと ないて みたく なって 2 カイ の ヨウマ に かけあがり、 ベッド に カラダ を なげて、 モウフ を アタマ から かぶり、 やせる ほど ひどく ないて、 その うち に キ が とおく なる みたい に なって、 だんだん、 ある ヒト が こいしくて、 こいしくて、 オカオ を みて、 オコエ を ききたくて たまらなく なり、 リョウアシ の ウラ に あつい オキュウ を すえ、 じっと こらえて いる よう な、 トクシュ な キモチ に なって いった。
 ユウガタ ちかく、 オカアサマ は、 しずか に 2 カイ の ヨウマ に はいって いらして、 ぱちと デントウ に ヒ を いれて、 それから、 ベッド の ほう に ちかよって こられ、
「カズコ」
 と、 とても おやさしく および に なった。
「はい」
 ワタシ は おきて、 ベッド の ウエ に すわり、 リョウテ で カミ を かきあげ、 オカアサマ の オカオ を みて、 ふふ と わらった。
 オカアサマ も、 かすか に おわらい に なり、 それから、 オマド の シタ の ソファ に、 ふかく カラダ を しずめ、
「ワタシ は、 うまれて はじめて、 ワダ の オジサマ の オイイツケ に、 そむいた。 ……オカアサマ は ね、 イマ、 オジサマ に ゴヘンジ の オテガミ を かいた の。 ワタシ の コドモ たち の こと は、 ワタシ に おまかせ ください、 と かいた の。 カズコ、 キモノ を うりましょう よ。 フタリ の キモノ を どんどん うって、 おもいきり ムダヅカイ して、 ゼイタク な クラシ を しましょう よ。 ワタシ は もう、 アナタ に、 ハタケシゴト など させたく ない。 たかい オヤサイ を かったって、 いい じゃ ない の。 あんな に マイニチ の ハタケシゴト は、 アナタ には ムリ です」
 じつは ワタシ も、 マイニチ の ハタケシゴト が、 すこし つらく なりかけて いた の だ。 さっき あんな に、 くるった みたい に なきさわいだ の も、 ハタケシゴト の ツカレ と、 カナシミ が ごっちゃ に なって、 なにもかも、 うらめしく、 いや に なった から なの だ。
 ワタシ は ベッド の ウエ で、 うつむいて、 だまって いた。
「カズコ」
「はい」
「いく ところ が ある、 と いう の は、 どこ?」
 ワタシ は ジブン が、 クビスジ まで あかく なった の を イシキ した。
「ホソダ サマ?」
 ワタシ は だまって いた。
 オカアサマ は、 ふかい タメイキ を おつき に なり、
「ムカシ の こと を いって も いい?」
「どうぞ」
 と ワタシ は コゴエ で いった。
「アナタ が、 ヤマキ サマ の オウチ から でて、 ニシカタマチ の オウチ へ かえって きた とき、 オカアサマ は なにも アナタ を とがめる よう な こと は いわなかった つもり だ けど、 でも、 たった ヒトコト だけ、 (オカアサマ は アナタ に うらぎられました) って いった わね。 おぼえて いる? そしたら、 アナタ は なきだしちゃって、 ……ワタシ も うらぎった なんて ひどい コトバ を つかって わるかった と おもった けど、……」
 けれども、 ワタシ は あの とき、 オカアサマ に そう いわれて、 なんだか ありがたくて、 ウレシナキ に ないた の だ。
「オカアサマ が ね、 あの とき、 うらぎられた って いった の は、 アナタ が ヤマキ サマ の オウチ を でて きた こと じゃ なかった の。 ヤマキ サマ から、 カズコ は じつは、 ホソダ と コイナカ だった の です、 と いわれた とき なの。 そう いわれた とき には、 ホントウ に、 ワタシ は カオイロ が かわる オモイ でした。 だって、 ホソダ サマ には、 あの ずっと マエ から、 オクサマ も オコサマ も あって、 どんな に こちら が おしたい したって、 どうにも ならぬ こと だし、……」
「コイナカ だ なんて、 ひどい こと を。 ヤマキ サマ の ほう で、 ただ そう ジャスイ なさって いた だけ なの よ」
「そう かしら。 アナタ は、 まさか、 あの ホソダ サマ を、 まだ おもいつづけて いる の じゃ ない でしょう ね。 いく ところ って、 どこ?」
「ホソダ サマ の ところ なんか じゃ ない わ」
「そう? そんなら、 どこ?」
「オカアサマ、 ワタシ ね、 こないだ かんがえた こと だ けれども、 ニンゲン が ホカ の ドウブツ と、 まるっきり ちがって いる テン は、 ナン だろう、 コトバ も チエ も、 シコウ も、 シャカイ の チツジョ も、 それぞれ テイド の サ は あって も、 ホカ の ドウブツ だって みな もって いる でしょう? シンコウ も もって いる かも しれない わ。 ニンゲン は、 バンブツ の レイチョウ だ なんて いばって いる けど、 ちっとも ホカ の ドウブツ と ホンシツテキ な チガイ が ない みたい でしょう? ところが ね、 オカアサマ、 たった ヒトツ あった の。 おわかり に ならない でしょう。 ホカ の イキモノ には ゼッタイ に なくて、 ニンゲン に だけ ある もの。 それ は ね、 ヒメゴト、 と いう もの よ。 いかが?」
 オカアサマ は、 ほんのり オカオ を あかく なさって、 うつくしく おわらい に なり、
「ああ、 その カズコ の ヒメゴト が、 よい ミ を むすんで くれたら いい けど ねえ。 オカアサマ は、 マイアサ、 オトウサマ に カズコ を コウフク に して くださる よう に おいのり して いる の です よ」
 ワタシ の ムネ に ふうっと、 オチチウエ と ナスノ を ドライヴ して、 そうして トチュウ で おりて、 その とき の アキ の ノ の ケシキ が うかんで きた。 ハギ、 ナデシコ、 リンドウ、 オミナエシ など の アキ の クサバナ が さいて いた。 ノブドウ の ミ は、 まだ あおかった。
 それから、 オチチウエ と ビワコ で モーターボート に のり、 ワタシ が ミズ に とびこみ、 モ に すむ コザカナ が ワタシ の アシ に あたり、 ミズウミ の ソコ に、 ワタシ の アシ の カゲ が くっきり と うつって いて、 そうして うごいて いる、 その サマ が ゼンゴ と なんの レンカン も なく、 ふっと ムネ に うかんで、 きえた。
 ワタシ は ベッド から すべりおりて、 オカアサマ の オヒザ に だきつき、 はじめて、
「オカアサマ、 サッキ は ごめんなさい」
 と いう こと が できた。
 おもう と、 その ヒ アタリ が、 ワタシタチ の コウフク の サイゴ の ノコリビ の ヒカリ が かがやいた コロ で、 それから、 ナオジ が ナンポウ から かえって きて、 ワタシタチ の ホントウ の ジゴク が はじまった。