カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ミツ の アワレ 1

2020-07-22 | ムロウ サイセイ
 ミツ の アワレ

 ムロウ サイセイ

 1、 アタイ は ころされない

「オジサマ、 おはよう ございます」
「あ、 おはよう、 いい ゴキゲン らしい ね」
「こんな よい オテンキ なのに、 ダレ だって キゲン よく して いなきゃ わるい わ、 オジサマ も、 さばさば した オカオ で いらっしゃる」
「こんな に アサ はやく やって きて、 また オネダリ かね。 どうも、 あやしい な」
「ううん、 いや、 ちがう」
「じゃ ナン だ。 いって ごらん」
「あのね、 このあいだ ね。 あの、」
「うん」
「このあいだ ね、 ショウセツ の ザッシ カントウ に アタイ の エ を おかき に なった でしょう」
「あ、 かいた よ、 1 ピキ いる キンギョ の エ を かいた。 それ が どうした の」
「あれ ね、 とても オジョウズ だった わ、 メ なんか ぴちぴち して いて、 とても ね。 ホンモノ に そっくり だった わ」
「たのまれて うまれて はじめて エ と いう もの を かいて みた ん だよ。 ホントウ は エ だ か なんだか わからない がね」
「アタイ にも、 そのうち 1 マイ かいて いただきたい わ」
「エ は かこう と したって なかなか、 かける もの では ない よ。 キミ から みる と にて いる か どう かね」
「よく にて いた わ、 それで ね、 あれ から アト に、 1 シュウカン ほど して から、 ザッシシャ から オレイ の オカネ が カキトメ で ついた でしょう」
「これ も うまれて はじめて ガリョウ と いう もの を もらった の だ が、 それ が どうか した かね」
「どれだけ いただき に なった の」
「ブンショウ が 1 マイ ハン ついて いて ね、 あわせて 1 マン エン もらった」
「オジサマ は それ を ワタクシ に ね、 ショウジキ に おっしゃらなかった わね。 いくら きた って こと も ね」
「キンギョ に オカネ の ハナシ を したって、 どうにも ならない じゃ ない の」
「だって、 あれ、 ホントウ は、 アタイ の オカネ じゃ ない こと、 アタイ を おかき に なった ん だ もん、 アタイ に くださる と ばかり、 そう おもって いた わ」
「なんだか ボク も そんな キ が しない でも、 なかった ん だ けど、」
「で ね、 オジサマ、 それ に ついて ね」
「あ、」
「もう オカネ、 だいぶ、 おつかい に なった?」
「ハンブン つかった けれど、 まだ ある」
「ナニ に ハンブン、 おつかい に なった の」
「1500 エン の ギョクロ を 100 メ かった し、 キジバネ の ハタキ を 1 ポン と、 アカダマ チーズ を 1 コ かった、……」
「アタイ には、 とうとう、 なにも かって くださらなかった わね」
「キミ なんか の こと は、 まるで、 わすれて いた」
「オジサマ は ずるい わね。 あれ、 ホントウ を いえば アタイ の オカネ じゃ ない の」
「そういう こと に なる かね。 キミ を みて かいた だけ で、 それ が キミ の オカネ に なる もの かな」
「アタイ、 いつ くださる か と、 マド の ほう を マイニチ のぞいて いた のよ、 で、 ね、 あと ハンブン の オカネ、 いただきたい わ」
「いったい キミ は ナニ を かう つもり なの、」
「オトモダチ の キンギョ を たくさん かって ほしい のよ」
「あ、 そう か、 アソビ トモダチ が いる ん だね、 それ は キ が つかなかった」
「それから キンギョエ と いう ハコイリ の エサ が ほしい わ、 カガミ の ついて いる、 うつくしい ハコ なの よ」
「カガミ って いう の は スズ の カミ の こと だろう、 あれ は カガミ に なります かね」
「ミズ に ぬれる と ぴかぴか して、 カガミ みたい に なる わよ、 それから ね、 メダカ を たくさん かう の」
「そんな メダカ どう する ん だ」
「メダカ の オ が とても おいしい ん です もの。 マイニチ すこし ずつ かじって やる の」
「オ を かじって は、 メダカ が かわいそう じゃ ない か」
「かじって も かじって も、 メダカ の オ と いう もの は、 すぐ、 はえて くる もの よ、 だから、 かわいそう な こと ない わ」
「メダカ の オ は たとえば、 どんな アジ が する」
「ぬめっと して クチ の ナカ でも いきて いて、 ひりひり うごいて いる わ、 とても、 おいしい のよ」
「ザンコク だね」
「オジサマ、 はやく オカネ だして よ、 アタイ の オカネ なのに、 だししぶらないで よ。 はやく さ」
「じゃ、 1000 エン サツ で 5 マイ、 それに あまった こまかい の が、 100 エン サツ と ギンカ を あわせて ソウケイ 5900 エン に なる」
「ええ、 これ で ケッサンズミ よ、 それから ついでに、 ホカ に もっと こまかい の も いただきたい わ」
「ドウカ で おもくて いい か、」
「かまいません、 それから オジサマ、 アタイ、 ハ の オイシャ サマ に いきたい ん です から、 ベツ に その ほう の オカネ も ちょうだい」
「キンギョ が ハイシャ に かかる なんて きいた こと も ない が、 ハ が どう いたい の」
「このあいだ ね、 あわてて、 イシ を かんじゃった、 がりがり って」
「あわてる から だよ、 タベモノ は イッペン そっと クチ に さわって みて から、 たべる よう に する ん だね、 ハ は いたむ の」
「いたい わ、 ホネ に ひびく わ」
「ホネ に ひびく って、 ホネ に って セボネ の ホネ の こと か」
「オセナカ の ホネ なの よ、 オジサマ、 イマ ホネ の ハナシ を して から オジサマ の カオイロ が、 へんに かわって きた わね、 それ、 どうした のよ」
「ボク は まだ キンギョ の ホネ と いう もの を みた こと が ない ん だ、 キンギョ に セボネ が ある か ない か も ムカシ から わすれて いた。 ニンゲン で キンギョ の ホネ を みた ヒト が ナンニン いる かしら、 まったく タイヘン な こと を わすれて いた もの だ」
「どうして そんな、 アタイタチ の ホネ が みたい の」
「みたい よう な みたく ない よう な、 また、 こわい よう な キ も する ん だ。 よく かんがえる と ニンゲン は ダレ でも、 イロイロ な ホネ は みて きた けれど、 まだ キンギョ の ホネ だけ は みた ニンゲン は めった に いない、 たとえば キミ の やさしい カラダ に ホネ が ある とは、 どうにも かんがえられない こと だ」
「ぐにゃぐにゃ だ と おっしゃる の」
「あんな ハリ みたい な ホネ が ある なんて、 キミ の カオ を みて いたって、 ソウゾウ も つかない こと だ から ね」
「しんだら、 カイボウ すれば、 いい じゃ ない の」
「ニンゲン は キンギョ の ホネ だけ は みたく ない って、 ミナサン が そう いって いる ん だよ。 かわいそう だ から」
「アタイ も まだ みた こと ない わ、 じゃ、 アタイ、 そろそろ オトモダチ を かい に いって くる わよ、 くろい の や ブチ なの や、 それから、 メダカ も」
「いって きたまえ、 ジドウシャ に キ を つけて ね」
「ええ、 オカネモチ に なれて、 とても キョウ は うれしい わ」
「ハンドバッグ を すられない よう に キ を つけて おいで」
「はい、 いって まいります。 あ、 いい オテンキ だなあ」
「スイドウ の ミズ は のむな よ、 ゲエ に なる から なあ」
「はい、 すぐ かえる から、 オジサマ、 おとなしく して まって いらっしゃい」
「よしよし、……」
「オジサマ の すき な、 イシゴロモ、 かって きて あげる わ」
「それから コンペイトウ も ね、 ちいちゃい の は ほおばる の に メンドウ だ から、 オニ みたい な オオツブ の やつ が いい よ」
「あかい の や あおい の が まじって いる、 あれ で いい ん でしょう。 どの くらい いります」
「そう ね、 300 エン くらい いる な、 コドモ に わけて やる こと も ある から ね」
「その オカネ、 さっき いただいた ブン とは、 ベツ に いただかなきゃ」
「そう か、 ほら、 これ で いい ね。 なかなか ぬからない ね、 キミ は」
「だって アタイ、 いろいろ かんがえて つかう から、 オジサマ の コンペイトウ の オカネ は だせない わ。 イシゴロモ の ブン は、 アタイ の オミヤゲ に する けど」
「ありがとう、 たすかった」
「ふふ、 では いって まいります」
「ミチクサ を しない で、 ちゃんと、 オヤツ まで に かえって くる ん だよ」
「はい、」
「ウナギ や サバ を ミセサキ で みて いる と、 サカナヤ さん に つかまって、 うられて しまう ぜ」
「はい、 はい」

「ただいま、 ――あ、 こわかった、 も、 ちょっと で ユウカイ される ところ だった」
「どうした、 マッサオ な カオ を して いる じゃ ない か。 ふるえて さ、 キミ-らしく も ない ね」
「オジサマ、 オミズ を 1 パイ ちょうだい、 こんな こわい こと は はじめて よ、 イキ も つけない わ」
「ほら、 ミズ だ、 ぐっと のんで キ を おちつけて、 ナニ が こわかった か と いう こと を はなす ん だよ」
「あ、 おいしい、 もすこし ちょうだい。 サッキ の クロロフィル の はいった ミズ より か、 よっぽど、 おいしい」
「ナン だ クロロフィル なんて」
「アタイ ね、 オジサマ、 トチュウ で おもいだして マルビル まで キュウ に いって みた のよ、 オテンキ は ジョウジョウ だし ね」
「マルビル まで か、 おどろいた ヤツ だな、 そんな ハデ な カッコウ を して」
「コノアイダ から アタイ、 ハ が いたい いたい って いって いた でしょう、 だから アメ が ふる と こまる と おもって、 7 カイ の バトラー シカ イイン まで おもいきって いっちゃった」
「あそこ は キミタチ の いく シカ では ない よ、 キミタチ は カニ-カ に いけば タクサン なん だ、」
「シツレイ な オジサマ ね、 カニ-カ は バッシ ばかり で、 ハ の ギジュツ は てんで ダメ なの よ、 オジサマ は いつも ハ が おわるい くせ に、 なにも ゴゾンジ ない ん だ」
「どうりで ながい オツカイ だ と おもって いた ん だ。 だって バトラー さん は ジカンギメ だ から、 フイ に いって も リョウジ して もらえない はず じゃ ない か、 イクニチ の ナンジ と いう ジカン を もらわなければ ならない ん だ が、」
「そこ が アタイ の ウデ の ある ところ なの よ、 ちゃんと リョウジ して いただいて、 ウズキ も とうに なおっちゃった」
「どうして そんな うまい こと を した ん だ」
「クロ の メガネ を かけた、 エイゴ の ぺらぺら の オバチャン が いらっしゃる でしょう」
「あ、 いる いる、 キョウ も いた かい」
「だから アタイ、 オバチャン に ハ が いたくて しにそう だ と、 たのんじゃった の、 ハンブン ナキガオ して みせて やった の」
「そしたら、」
「そしたら センセイ の ところ に アタイ を つれて いって、 この コ の ハ の ナカ に カニ の コ が いる そう です から、 つまみだして ください と たのんで くださいました。 センセイ は ピンセット の サキ に、 とうとう 12 ヒキ の カニ の タマゴ を さがして、 つまみだして くだすった わよ」
「12 ヒキ とは たいへん いた もの だな」
「そして いちおう バッシ して から、 ハ は イレバ しなければ ならない ん ですって」
「キンギョ の くせ に イレバ する なんて ヘン じゃ ない か」
「アタイ の ハ は 2000 エン くらい だ けど、 コンド の オジサマ の ハ は キン と ハッキン と を まぜて つくる ん ですって、 で なきゃ、 どんな に テイネイ に つくって も、 オジサマ の カンシャクダマ は、 いつも イレバ まで かみくだいて おしまい に なります と、 センセイ が おわらい に なって おっしゃって いらっした わ」
「かかる だろう なあ」
「そっと きいたら 8 マン 6000 エン も かかる そう だわ、 だから、 アタイ、 ベソ を かいた よう な カオ を して みせて、 ついた ばかり の ゲンコウリョウ の コギッテ を おいて きた わ、 これ ウチキン で ございます、 なんしろ オジサマ は ビンボウ です から と もうしあげといた わ」
「ヨケイ な こと は いわない もの だ」
「それから アタイ、 チリョウ の イス に こしかけて いる と、 ウガイキ に どんな シカケ に なって いる の でしょう か、 ヒョウハク ガラスキ に ミズ が クルクルマイ を して、 しじゅう セイケツ な オミズ が はしって ながれて いる ん です、 それ を みて いる と サッキ から ずっと、 ノド が かわいて オ も アタマ も からから に なって いる こと に きづいた の、 ガマン が ならなく なって、 ジョシュ さん の スキ を みて ね、 コップ の ミズ を のんで しまった。 のんで から キ が ついて あおく なっちゃった、 あれ みな スイドウ の ミズ なん です もの、 だから あわてて クチ を もがもが した けれど、 もう おそかった わ、 ゲエ に なりそう に なっちゃった ん です」
「だから デシナ に あんな に、 スイドウ の ミズ は のむな と、 いって おいた じゃ ない か」
「アタイ、 すぐ ジョシュ さん を よんだ わ、 そして この コップ の ミズ を のんだ ん です けれど、 これ、 ドク でしょう かしら と きく と、 いいえ、 めしあがって も かまい は しません と おっしゃった から、 でも、 キンギョ には スイドウ の ミズ は ドク でしょう と ききなおす と、 そう ね、 キンギョ にも オドク と いう こと は ない でしょう、 どうして キンギョ の こと なぞ イマドキ おっしゃる ん です か と いわれた ので、 アタイ、 すっかり あかく なって ウチ に たくさん キンギョ を かって いる もの です から、 ここ に あがって も、 イマゴロ どうして いる か と シンパイ で ならない ん で ございます と いう と、 ジョシュ さん は なんて おやさしい オジョウサマ でしょう と いう の、 オジサマ、 アタイ も ソト に でる と たいした オジョウサマ に なって みえる らしい わね、 おどろいちゃった でしょう」
「ちっとも おどろかない よ、 キミ が レイジョウ で なかったら、 レイジョウ-らしい モノ なんて セカイ に ヒトリ も いない よ」
「オジサマ も そう おもって くれる かな、 うれしい な、 ところで ジョシュ さん は この オミズ に クロロフィル と いう オクスリ が はいって いる から、 キンギョ の ウロコ にも きく バアイ が あります と おっしゃった ので、 アタイ、 もうすこし いただいた わ、 クロロフィル って あおい モ みたい に、 うつくしい イロ を して いる オクスリ なん です」
「ボク の イチョウヤク なんか にも、 クロロフィル が はいって いて、 サンヤク だ けれど、 まるで ミドリイロ の クスリ なん だ」
「オジサマ、 コンド その オクスリ すこし いただかして ね」
「ナン に する の」
「オナカ が あまり おおきく ふくれて いる から、 のむ と なおらない か と おもう の」
「そのうち わけて あげる よ、 しかし キンギョ に きく か どう か、 キンギョヤ さん に よく きいて から に する と いい よ。 イマドキ の クスリ の こと だ から、 まちがう と タイヘン な シッパイ に なる から ね」
「それ は よく きいて いただかない と こまる わね。 キンギョヤ さん て キンギョ の オイシャ サマ みたい だ から、 なんでも きく と しって いらっしゃる わ」
「うっかり クスリ なぞ のまない ほう が いい よ」
「それから リョウジ を して ヒカエシツ に もどる と、 おおきな セイヨウジン が フタリ まちあわせて いて、 フタリ とも ねむって いた わ、 アタイ みたい に あかい カオ を して いらっしった もの です から、 アタイ まで ねむく なっちゃった。 アタイ、 コノゴロ ね、 あかい ザッシ の ヒョウシ の イロ を みた だけ でも、 すぐ ネムケ が して くる のよ」
「キンギョ と いう もの は およぎながら、 ミンナ いつでも ねむって いる ん だ、 クチ を とじた まま で ね」
「それから タクシー に のったら、 マッチ ヒトツ もらいました。 オツリセン を もらおう と したら、 テ を にぎられちゃった。 イイブン が キザ じゃ ない の、 オジョウサマ の オテテ は なんて おつめたい ん です と きた、 アタイ こわく なって、 さよなら と いって おりた わ」
「さよなら なんて いわなく とも いい ん だよ、 テ を にぎられた くせ に」
「それから が タイヘン な こと が はじまった のよ」
「どう、 タイヘン な こと って いう の は」
「シンバシ で ショウセン に のった でしょう、 のる と すぐ アタイ の カタ に テ を かけて、 どこ に いって きた ん だ と、 あおっぽい フク を きた わかい オトコ の ヒト が いう の、 アタイ、 こんな に チンピラ でしょう、 カタ に ラク に テ を おける ん です もの、 マルビル の ハイシャ さん まで いった ん だ と こたえたら、 どちら に かえる ん だ と いった から、 オオモリ まで と いう と、 ボク も オオモリ に いく ん だ から ゲシャ したら 5 フン-カン つきあって くれ と いう の、 アタイ、 キュウ に こわく なっちゃって、 その ヒト の ソバ を はなれて ウシロガワ の ツリカワ に かわっちゃった の、 その とき、 つい シツレイ します と いっちゃった」
「バカ だなあ、 そんな とき に シツレイ します なんて いう ヤツ が ある かね。 それから どうした の」
「そしたら ツギ の エキ に つく と、 すぐ アタイ の ソバ に また よって きて、 たくさん ヒト の いる ナカ でも ヘイキ で いう ん です。 ハイシャ に かかって いる なら たびたび かよわなければ ならない から、 この ツギ は いつ いく ん だ、 その ヒ を いって くれれば、 マルビル で まちあわそう じゃ ない か と いう ん です。 アタイ、 もう その ヒト が とても キュウ に こわく なって しまった。 こんな ヒト の こと を グレンタイ と いう ん だな と おもい、 がたがた ハンドバッグ を さげて いる テ が ふるえて きた わ」
「いっさい クチ を きかなかった ほう が よかった の だ、 キミ は いちいち ヘンジ を した こと が オボコ に みえた ん だよ、 どこまでも キミ は こどもくさい から ね」
「それで ね、 オオモリ に おりたら、 シロキヤ の イリグチ で まって いろ と いう の、 アタイ、 もう だまって ヘンジ を しなかった わ。 そしたら、 まつ か またない か ヘンジ を しろ と せまる の、 アタイ、 もう ダレ か に たすけて もらおう か と おもった けど、 レイ の カタ の テ が はなれない ん です もの、 だから、 コンド は デグチ の ほう に いって みる と、 すぐ ついて きた わ、 その ついて キカタ が あんまり はやい もん だ から、 ジョウキャク は ダレ も フシギ そう に みる モノ は ヒトリ も いない ん です。 ガラスド に カオ を くっつけて いる と、 ガラス が くもっちゃって、 アタイ の ココロ と おなじ イロ に なっちゃった」
「それから オトコ は どうしたい」
「オオモリ に つく マエ に もう イッペン ネン を おして いった わ、 シロキヤ の マエ に こなかったら、 タダ じゃ おかない と、 ショウセン に はりこんで いる から そう おもえ と いった わ、 アタイ、 ゲシャ する と バス の テイリュウジョウ まで はしった わ、 ウシロ むく と つかまえられる と おもって がたがた はしった」
「ヒト も あろう に ボク の ウチ の モノ にも、 そんな オトコ の テ が のびる なんて、 あきれた もん だ。 まだ こわい かね」
「オジサマ に おはなし したら、 ぶるぶる が とれちゃった、 アタイ、 そんな に うきうき して みえる かしら、 それ が キ に なる のよ」
「キミ の ショウジョ-くさい ところ を ねらった の だろう が、 この ネライ は、 ネライソコネ なん だね、 キミ なんか の よう に ショウジョ-くさい の は なかなか テ に のりそう で、 いざ と なる と、 ぴょんと はねあがって しまって クタビレモウケ さ」
「アタイ、 もう マルビル なんか に いかない わ、 もう こりごり よ、 けど、 オジサマ の カオ みて いる と、 だんだん こわい の が はがれて いく わ。 よっぽど、 オジサマ の ナマエ を いって ゴヨウ が あったら、 オウチ に きて ちょうだい と いおう か と かんがえた けど、 オナマエ を だす の が わるい と おもって やめといた わ」
「ナマエ なんか だす の は よしなさい、 いわない の が、 リコウ なん だ」
「じゃ、 アタイ、 リコウ だった わね」
「シゼン に ふせぐ テ を キミ は しって いて、 それ を ジブン で かんがえない で やって いた こと は、 やはり ミ を まもる こと を しって いた わけ なん だ」
「オジサマ、」
「ナニ」
「アタイ、 オナカ が キュウ に すいちゃった。 オチャ 1 パイ のまない で いた ん です もの」
「では フ でも おあがり」
「アタイ、 フ なんか ぐにゃぐにゃ して いや、 しおからい、 ワカサギ の カラボシ が つっつきたい ん です もの、 くたびれちゃった」
「じゃ カラボシ を おたべ」
「あ、 おいしい、 オジサマ、 イドミズ を くんで きて ちょうだい、 やわらかい ミズ に じっと、 しばらく、 かがみこんで みたい わ」
「よしよし、 ほら おいしい イドミズ だよ」
「モ も すこし いれて よ、 ふるい の は すてちゃって、 ごわごわ した イキ の いい の が いい わ。 あ、 わすれて いた。 どう、 この ハ は リッパ でしょう」
「あって も なくて も いい のに、 オシャレ だね、 キミ は、」
「だって バン には しくしく と いつまでも うずいて、 どうにも テ が つけられない ん です もの、 オジサマ が そんな に レイタン な こと おっしゃる と、 ばけて でる わよ」
「キンギョ が ばけられる もの かい」
「アタイ ね、 ときどき ね、 しんだら、 も イチド ばけて も いい から おあい したい わ、 どんな オカオ を して いらっしゃる か みたい ん です もの。 アタイタチ の イノチ って みじかい でしょう、 だから ばけられたら、 いつか ばけて でて みたい と おもう わよ」
「まだまだ しなない よ。 ナツ は ながい し アキ も ゆっくり だ もの、 フユ は こわい けれど」
「フユ は こわい わね、 カラダ の イロ が うすく なっちまう し、 オジサマ は オニワ に でなく なる し、 ねえ、 フユ ん なったら オヘヤ に いれて ね」
「いれて ダイジ に して やる よ、 あたたかい ヒナタ に ね。 そして ワカサギ の カラボシ を やる よ」
「カガミ の ついた ハコイリ の エサ も ね、 こまかく テイネイ に カナヅチ で くだいて、」
「ドブガワ の ミジンコ、 ミミズ も さがして あるく よ、 キミ は あれ が すき だ から」
「あ、 うれしい。 オジサマ は、 いつも、 シンセツ だ から すき だわ、 よわっちゃった、 また すき に なっちゃった、 アタイ って ダレ でも すぐ すき に なる ん だ もん、 すき に ならない よう に キ を つけて いながら、 ほんの ちょっと の アイダ に すき に なる ん だ もの。 このあいだ ね、 アタイ の オトモダチ が オトコ の ヒト に、 イチニチジュウ オテガミ を かいて いた わ、 ヒト が すき に なる と いう こと は たのしい こと の ナカ でも、 いっとう たのしい こと で ございます。 ヒト が ヒト を すき に なる こと ほど、 うれしい と いう コトバ が つきとめられる こと が ございません、 すき と いう トビラ を ナンマイ ひらいて いって も、 それ は すき で つくりあげられて いる、 オウチ の よう な もの なん です、 と、 その カタ の ブンショウ が うまくて、 アト の ほう で シメククリ を こんな ふう に つけて ありました。 ワタクシ リョコウサキ で オカシ を たくさん かって、 それ を リョカン に もって かえって ながめて いる と、 ダレ が サイショ に オカシ を つくる こと を かんがえた の でしょう と、 そんな バカ みたい な こと も かいて ございました」
「キミ は イクツ に なる」
「アタイ、 うまれて 3 ネン たって いる の、 だから、 こんな に カラダ が おおきい の」
「ニンゲン で いう と ハタチ くらい かな、 アタマ なぞ がっちり して いる ね」
「ええ。 でも、 オジサマ、 ヒト を すく と いう こと は たのしい こと で ございます と いう コトバ は、 とても ハデ だ けれど、 ホンモノ の ウツクシサ で うざうざ して いる わね」
「それ イジョウ の コトバ は まず みつからない ね、 オンナ の ヒト の コトバ と して は ショウジキ-すぎて いる くらい で、 ダレ でも そう は かけない もの が ある ね、 ダイタン な ヒョウゲン で しかも きわめて フツウ な ところ が いい ね、 どんな ヒト なの」
「あって みたい の」
「きれい な ヒト か どう か、 それ が キガカリ なの さ」
「それ は それ は きれい な ヒト よ。 セイ は ひくい けど」
「ナニ を して いる ヒト なん だ」
「ある ザッシ の ヘンシュウ を して いる カタ、 カイドウ フジン と いう ナマエ が ついて いる カタ なの」
「その テガミ を もらった アイテ は ダレ」
「カブキ ハイユウ だった の だ けれど、 イマ は、 たまに しか でない ナ の ある ハイユウ なの ね、 オジサマ は きっと ナマエ を いえば オワカリ でしょう けど、 アタイ、 オトモダチ から クチドメ されて いる から、 いえない わ。 けど ね、 ヒト を すく と いう こと は たのしい こと で ございます と いう の は、 とても、 たまらない よい コトバ ね、 ヒト を すく と いう こと は、 オジサマ、 いって ゴラン あそばせ」
「いや だよ、 いい トシ を して さ」
「ね、 イッペン こっきり で いい から いって みて ちょうだい、 オトコ の ヒト の クチ から それ を きいて みたい ん だ もの、 ヒト を すく と いう こと は たのしい こと で ございます、……」
「ヒト を すく と いう こと は、……」
「たのしい こと で ございます、 と、 イキ を いれず に ヒトイキ に おっしゃる のよ、 オジサマ ったら、 はがゆくて じれったい わよ、 ヒト を すく と いう こと は たのしい こと で ございます と いう のよ」
「ヒト を すく と いう こと は、……」
「また どもった わね、 ずっと イッキ に つづける ん だ と いって いる じゃ ない の」
「ヒト を すく と いう こと は、……」
「すぐ、 アト を いいつづける のよ。 わからない カタ ね」
「ボク には とても いえない、 カンニン して くれ」
「なんて トシヨリ の くせ に ハニカミヤ だろう、 もう いわなくて も いい わよ」
「おこった ね、 じゃ いう よ、 ヒト を すく と いう こと は ニンゲン の もつ いっとう すぐれた カンジョウ で ございます」
「ちがう わね、 カッテ に コトバ を つくって は ダメ じゃ ない の、 ヒト を すく と いう こと は、 ほら、 はやく さ」
「ヒト を すく と いう こと は、……」
「なんて じれったい オジサマ でしょう、 それ で ショウセツカ だの なんの って おかしい わよ、 アタイ の コトバ の おわらない マエ に つづける のよ、 ヒト を すく と いう こと は、 なの よ、 あら、 だまっちゃった」
「…………」
「いわない の、 はやく さ」
「ボク は ダメ だ、 キミ ヒトリ で そこ で ナンド でも いって くれ、 ボク は ばかばかしく なる ばかり だ」
「ワカサ が ない のね」
「なにも ない よ、 スッカラカン だよ、 すき でも クチ には いえない コトバ と いう もの が ある もん だ」
「アタイ ね、 オジサマ みたい な オトシヨリ きらい に なっちゃった、 いくら いって も テンポ が のろくて、 じれじれ して かみつきたい くらい だわ」
「キンギョ に かみつかれたって いたか ない よ、 いくらでも かみつく が いい よ」
「あんな こと を いって いる、 アタイ だって イッショウ ケンメイ に かみついたら、 オジサマ の やせた ホオ の ニク なんか、 かみとる わよ」
「こわい ね、 おおきな メ を して」
「オジサマ と あそんで やらなかったら こまる でしょう。 よんだって ヘンジ しない から ね」
「おこるな、 あやまる、 キミ が あそんで くれなかったら、 ダレ と あそんだら いい ん だ」
「じゃ、 サッキ の こと を もう イッペン くりかえして いう のよ、 ね、 いい こと、 ヒト を すく と いう こと は、……」
「ヒト を すく と いう こと は たのしい もの です」

「オジサマ、 はやく おきて」
「すぐ おきる よ、 イシ が ついた らしい ね」
「どんどん ついて いる わよ、 オモテ に でて みて おどろいちゃった。 ミチバタ は とおれない くらい つみあげて いった わ」
「まだまだ はこんで くる よ、 そう だな、 キョウ いっぱい ウンパン は かかる ね」
「あんな に イシ を おかい に なって、 ナニ を なさる おつもり なの」
「あれ で イシ の ヘイ を つくる ん だよ、 イシ の ヘイ は もえない から ね」
「コノアイダ の カジ で おこり に なった のね、 あん とき、 アタイ くらい ある おおきい ヒノコ が どんどん ふって きた わね、 アタイ、 ミズ の ソコ から みて いる と、 しゅっと ミズ に おちた ヒノコ で、 アタイ の いる ところ の ミズ まで あつく なっちゃった。 オジサマ が こなかったら ミズ が あつく わいて しまって、 しんで いた かも しれない わ」
「ひらったく なって ミナソコ で ふるえて いた ね、 メ だけ おおきく あけて、」
「でも よんだら きて くだすって、 たすかった わ、 アタイ、 あれ から ずっと メ が やけた よう に ヘン に なって いる のよ」
「まるで 2 ヒキ ずつ かさなって ふくれて みえた ほど だ、 キンギョ に カジ と きたら、 それ イジョウ の あかい イロ ない ね、 だから あの バン から オジサン は かんがえつづけた のさ」
「イシ の ヘイ を おつくり に なる こと でしょう」
「イマ まで の タケ の ゴマホ だ と マッチ 1 ポン で、 ヒ が イチメン に ひろがる から ね、 まるで イエ の シュウイ に もえやすい タキツケ を おいて いた よう な もの なん だ」
「カジ が あったら オバサマ の アシ が たたない から、 なかなか にげだせない し、 アタイ は ちいちゃい から オテツダイ が できない もん、 その マエ に アタイ なんか あぶられて しんじまって いる かも しれない わ、 オジサマ は どうして オバサマ を しょいだす おつもり なの」
「そこで ヘイ は イシ に つくりかえる こと に かんがえついた ん だ。 オジサン が しんだ アト に カキネ を ゆいかえす ヒツヨウ も ない し ね、 ゴマホ の カキネ って オカネ が かかる ん だ、 ムスコ や ムスメ が いて も ミンナ オカネ が とれない から、 カキネ を やりかえる こと も、 1 ネン オクレ に なり 5 ネン 8 ネン と おくれて ボロヤ に ボロ の カキネ に なって しまう、 キミ は オジサン の ダイジ な トモダチ だ けれど、 それ は タダ の キンギョ と いう ぴかぴか の オサカナ に すぎない し ね」
「なんの ヤク にも たたない わね、 ただ、 オジサマ の セイシンテキ な パトロン みたい には なって いる けど、 イッショ に ねる こと も できない わね」
「ナマイキ な こと は、 ダレ より も ナマイキ だし、……」
「オジサマ、 はやく おきて よ」
「イマ すぐ」
「オジサマ、 あれ なんて イシ なの、 まぶしい くらい しろっぽくて、 かさかさ して メ に いたい の」
「あれ は オオヤイシ と いう イシ なの、 あれ で イエ の マワリ を ぐるっと かこんで、 カジ が あって も イマ まで の よう に もえる シンパイ が ない だろう。 7 ダン くらい つみあげれば ね」
「まるで オシロ みたい に なる わね、 キ が ついて よかった わ」
「とうに キ が ついて いた けれど、 オジサン には、 そんな オカネ が イマ まで に なかった の だよ」
「じゃ、 イマ ある の」
「コノゴロ の オジサン は ね、 やっと イシベイ くらい つくれる よう に なった。 ニンゲン は イッショウ かかって いながら、 カキネ も ゆえない とき が つづいた わけ だね」
「オジサマ は なんでも イッショウ かかって なさる こと は して いる わね、 オニワ、 ヤキモノ、 オシゴト、 みんな オクテ なの ね」
「ナマイキ いうな」
「オジサマ、 いろいろ オモノイリ ばかり つづく けれど、 アタイ、 オネガイ が ヒトツ ございます けれど、 とうから かんがえて いた ん だ けれど、 コンド は ついでに つくって いただきたい ん です」
「どういう タノミ か、 いって ごらん」
「アタイ の オウチ も ついでに つくって ほしい の、 あの イシ で マワリ を かこうて ひろびろ と した オイケ みたい に して いただいて、 マンナカ に りゅうと した フンスイ を しかけて、 フキミズ が したした と イチニチ、 ヤマアイ の タキ の よう に しぶく オウチ が ほしい ん です、 その ナカ で アタイ、 オジサマ に オウギ の クジャク の よう に およいで おみせ する こと も できる し、 オジサマ の すき な オオグチ を あけて うたう こと も できる わ」
「だんだん ゼイタク に なって くる ね、 つくって あげる よ、 その つもり で くろい イシ も たくさん かって おいた ん だ」
「あ、 うれしい、 アタイ、 しろい イシ ばかり か と おもって うちうち フフク だった けれど、 くろい イシ も おかい に なって いた の、 とても うれしい わ、 だから オジサマ は キ が きいて いて すき だ と いう のよ、 オ の ところ に おさわり に なって も いい わ、 くすぐったく ない よう、 そよろ そよろ と おさわり に なる のよ。 オジサマ、 オ に のめのめ の もの が ある でしょう、 あれ を おなめ に なる と、 あんまり あまく は ない けど、 とても おいしい わよ、 しごいて おとり に なって も いい わよ」
「そんな こと したら、 キミ は およげなく なる じゃ ない か」
「すぐ つくれる もの、 いくらでも ツギ から のめのめ の アブラ が わいて でて くる わ。 アタイ、 あの のめのめ の たくさん わいて いる ヒ が いっとう うれしい ヒ なの よ、 こう いって いる マ に ぐんぐん わいて くる わ」
「オ の ツケネ が ひかりだした ね、 ちょいと シツレイ だ けれど、 おたずね します がね、 おこりだしたら いけない よ」
「ナアニ、」
「いったい キンギョ の オシリ って どこ に ある の かね」
「ある わよ、 ツケネ から ちょっと ウエ の ほう なの よ」
「ちっとも うつくしく ない じゃ ない か、 すぼっと して いる だけ だね」
「キンギョ は オナカ が ハデ だ から、 オシリ の カワリ に なる のよ」
「そう かい、 ニンゲン では いっとう オシリ と いう もの が うつくしい ん だよ、 オシリ に ユウバエ が あたって それ が だんだん に きえて ゆく ケシキ なんて、 とても セカイジュウ を さがして みて も、 そんな おとなしい フメツ の ケシキ は ない な、 ヒト は その ため に ヒト も ころす し ジサツ も する ん だ が、 まったく オシリ の ウエ には、 いつだって イキモノ は 1 ピキ も いない し、 クサ 1 ポン だって はえて いない オダヤカサ だ から ね、 ボク の トモダチ が ね、 あの オシリ の ウエ で クビ を くくりたい と いう ヤツ が いた が、 まったく シニバショ では ああいう つるつるてん の、 ゴクラク みたい な ところ は ない ね」
「オジサマ、 おおきな コエ で そんな こと おっしゃって はずかしく なる じゃ ない の、 オジサマ なぞ は、 オシリ の こと なぞ イッショウ みて いて も、 みて いない フリ して いらっしゃる もの よ、 たとえ ヒト が オシリ の こと を おっしゃって も、 ヨコ むいて しらん カオ を して いて こそ シンシ なの よ」
「そう は ゆかん よ、 ユウバエ は しぬ まで かがやかしい から ね、 それ が オシリ に あたって いたら、 ゴンゴ に ぜっする ウツクシサ だ から ね」
「オバカサン、 そんな こと ヘイキ で おっしゃる なら、 アタイ、 もう あそんで あげない わよ。 ニンゲン も キンギョ も いつも きちんと した コトバ を クチ に す べき だわ。 オシリ って ジブン で みられない よう に、 ウシロガワ に ついて いて、 ニンゲン の ナカ でも イッショウ ジブン の オシリ を みない で しぬ ヒト さえ ある のに、 オジサマ ったら その ヒミツ が わからない の、 どんな エイガ だって オシリ だけ は うつさない わよ」
「このあいだ 『トノガタ ごめん あそばせ』 って エイガ で、 ブリジット バルドー が オシリ を みせる ところ が あった よ。 かわいい オシリ だった、 もっとも、 はなはだ シュンカンテキ の もの では あった がね」
「オジサマ、 いや な ところ ばかり みて いらっしゃる のね、 アタイ、 オジサマ と あそぶ の が また いや に なっちゃった」
「ニンゲン でも キンギョ でも クダモノ でも、 まるい と いう ところ が すべて いっとう うつくしい ん だよ、 トオ くらい の オンナ の コ が オシッコ を して いる の を ソト で みかける と、 びっくり して いくら オジサマ でも カオ を そむけたく なる ね、 ジブン と いう もの を しらない で して いる こと が、 それ を ゼンブ しって いる ガワ から みる と、 ジュンケツ イゼン の ヤバン な カンジョウ で ジブン ジシン で どやしつけられる ん だ。 それ が あまり に フイ に みなければ ならない ジョウタイ に おかれた ジブン を せめたい キブン だね、 こまる ね、 そんな とき は ね」
「アタイ ね、 オジサマ が コドモ の オシッコ して いる の を みて さえ、 ジブン の どこ か に ひびかして かんがえよう と する の は、 フコウ だ と おもう わ、 ダレ も そこ まで カンガエ を つきこんで いる ヒト いない わよ」
「そう かな、 いやらしい こと くらい ハンセイ を うながして くる もの が ない はず だ が、 ニンゲン の コドモ の する こと なぞ、 イッペン に オジサマ を やっつけて くる ん だ。 いわば フコウ かも しれない ね、 この フコウ を フコウ に かんじない ニンゲン に、 たまたま ハレンチ な ハンザイ が うまれて くる ん だね、 イマ まで に その ため に ナンジュウニン か の ショウジョ が ころされた か わからない ね。 オジサマ だって ジブン を こわい ところ に たたせて みて、 どれ だけ の ブンリョウ で ジブン に イヤラシサ が ある か を しらべて いる ん だ が、 いつも おそろしい ケッカ が ヘビ の よう に クビ を あげて くる ね、 サイバンカン と いう ヒトタチ は どれだけ タニン を しらべて いながら、 ハンザイシャ から おしえられ また すくわれて いる か わからない ね。 だから ニンゲン は ジブン に あたえられた オシリ ばかり を みつめくらして い さえ すれば、 ホカ に クジョウ が おこらない ん だ。 タイガイ の ニンゲン は そうして いる ん だよ」
「オジサマ は? オジサマ だって まだ オシリ が みたい ん でしょう」
「そりゃ みたい さ。 しかし モンダイ が ユウバエ の ケシキ から はずした オシリ の こと に なる と、 だんだん コエ が ひくく なる し おおっぴら には いえなく なる ね、 オジサン の わずか ばかり うけた キョウイク が そう させて くる ん だね、 ニンゲン に ショモツ とか キョウヨウ が あたえられた こと は、 ボク ヒトリ に とって も タイヘン な カンシャ に あたいする わけ だね」
「オジサマ は そんな に ながい アイダ いきて いらっして、 ナニ いっとう こわかった の、 イッショウ もてあました こと は ナン なの」
「ボク ジシン の セイヨク の こと だね、 こいつ の ため には じつに こまりぬいた、 こいつ の つきまとうた ところ では、 ツキ も ヤマ の ケシキ も なかった ね、 ニンゲン の ウツクシサ ばかり が メ に はいって きて、 それ と ジブン と が つねに ムカンケイ だった こと に、 いよいよ うつくしい もの と はなれる こと が できなかった ね、 やれる だけ は やって みた が ダメ だった、 なにも もらえなかった、 もらった もの は うつくしい もの と ムカンケイ で あった と いう こと だった、 それ が オジサン に タアイ の ない ショウセツルイ を かかせた の だ、 ショウセツ の ナカ で オジサン は タクサン の アイジン を もち、 タクサン の ヒト を フコウ にも して みた」
「オジサマ、 いい カンガエ が うかんだ のよ、 オジサン と アタイ の こと を ね、 コイビト ドウシ に して みたら どう かしら、 おかしい かしら、 ダレ も みて いない し ダレ も かんがえ も しない こと だ もの」
「そういう バアイ も ある だろう ね、 コジキ の よう に いきて ゆく ヒト は、 イヌ や ネコ と ショウガイ を おくる こと も ある から な、 イヌ や ネコ は ねて いる と おんなくさく なって ゆく けれど、 キンギョ とは ねる こと が できない し キス も でき は しない、 ただ、 キミ の コトバ を ボク が つくる こと に よって キミ を ニンゲンナミ に あつかえる だけ だ が、 まあ それでも いい ね、 キミ と コイナカ に なって も いい や、 ボク には うつくしすぎた スギモノ かも しれない けれど、 ヒトミ は おおきい し オナカ だけ は デブ ちゃん だ けれど ね」
「アタイ ね、 オジサマ の オナカ の ウエ を ちょろちょろ およいで いって あげる し、 アンヨ の フトモモ の ウエ にも のって あげて も いい わ、 オセナカ から のぼって カミ の ナカ に もぐりこんで、 カオ にも およいで いって、 オクチ の ところ に しばらく とまって いて も いい のよ、 そしたら オジサマ、 キス が できる じゃ ない の、 アタイ、 おおきい メ を いっぱい に ひらいて クチビル を うんと ひらく わ、 アタイ の クチビル は おおきい し、 ノメノメ が ある し、 チカラ も ある わよ」
「シマイ に あやまって キミ を のみこんで しまったら どう なる、 それ が イチダイ ジケン だ」
「そしたら オナカ の ナカ を ヒトマワリ して、 また ウワクチビル の ウエ に もどって でて くる わよ、 キンギョ です もの、 ネバリケ の ある ところ では、 アタイ の カラダ は どんな に ちいさく も ノビチヂミ する こと が できる し、 はやく およぐ こと も できる のよ。 どう、 オナカ の ウエ を およいで あげたら、 オジサマ は くすぐったく なり うれしく なる でしょう」
「そう ね おもしろい だろう ね、 けど、 くすぐったくて かなわない だろう、 ぴちぴち はねられたら?」
「そっと して あげる わ、 シンチョウ に」
「なにぶん、 よろしく たのむ よ」
「では コイビト に なる わね」
「なんて よんだら いい ん だ、 ナマエ から つけなきゃ」
「あかい イ の ナカ の アカゴ、 アカイ アカコ って の は どう」
「いい ね、 アカコ、 アカイ アカコ と いう の は ちょっと かわって いて、 よびいい ね。 では そう よぶ こと に しよう」
「それから ね、 いろいろ モノ を かって いただかなくちゃ、 アタイ、 なにひとつ もって いない ん です もの、 ネックレス だの、 トケイ だの、 トケイ は キンイロ を した ぴかぴか した の ね、 それから ユビワ も いる けど クツ だの ヨウフク だの、……」
「キミ が そんな もの を きたり はめたり したら、 オバケ みたい じゃ ない か」
「オバケ でも なんでも いい わよ、 かって いただける の」
「かう よ、 オジサン の カイモノ を ヒカエメ に すれば、 なんでも かえる」
「も ヒトツ カンジン な こと は マイツキ コヅカイ どれ くらい もらえる の、 それ を きめて かからなきゃ、 それ が いっとう カンジン な こと だ と おもう わ」
「そう だな、 1000 エン も あれば いい ん じゃ ない か」
「1000 エン ぽっち で ナニ が かえる と おおもい に なる の、 どんな に すくなく とも 5 マン エン いただかなくちゃ くらせない わよ」
「5 マン エン と いう カネ は オジサン の ショウセツ ヒトツ かいた オカネ の タカ だよ、 それだけ マイツキ キミ に あげたら オジサン こそ、 どう くらして いい か わからない、 まあ せいぜい 1 マン エン くらい だよ、 それ で すくなかったら コイビト は ヤメ だ」
「こまる わ、 1 マン エン じゃ。 じゃ ね、 クリーム だの クチベニ の オカネ は ときどき ベツ の ザッピ と して だして いただけます?」
「それ は ズイジ に だす こと に する よ、 ゲンキン では 1 マン エン イジョウ は とても だせない よ、 キンギョ の くせ に カネ とって どう する つもり なの」
「じゃ 1 マン エン で いい わ、 ふふ、 1 マン エン の コイビト ね、 アタイ、 はたらく こと に する わ、 エンニチ の キンギョダライ に でて ゆく わ」
「そして どう する」
「かって いった ヒト の ウチ から、 バンガタ には オジサマ の ウチ に すぐ にげて もどる わ、 アタイ は 1 ピキ で 300 エン が カケネ の ない オネダン だ から、 にげだして は また ベツ の キンギョヤ に うられて、 また オジサマ の ところ に もどって くる わ」
「みつかったら どう する、 ころされる ぜ」
「ニンゲン って ケチ だ から 300 エン も する キンギョ は けっして ころし は しない わよ、 それに、 ミナサン は キンギョ だけ は どんな ザンコクヤ さん でも、 ころす もん です か、 キンギョ は ショウガイ かわいがられる こと しか、 ミナサン から もらって ない もの、 キンギョ を みて おこる ヒト も また にくむ ヒト も いない わ、 キンギョ は あいされて いる だけ なの よ、 オジサマ も、 それ だけ は アタマ に いれて おいて アタイ を いじめたり、 おこらせたり しちゃ ダメ よ」
「わかった、 キミ は えらい キンギョ だ、 ショウフ で ある が シンリ ガクシャ でも ある キンギョ だ」
「ムカシ、 シナ の コウテイ が オイケ で キンギョ の イショウ を つけた オンナ たち を およがせた こと が ある の、 それ イライ キンギョ は ギジンホウ を ならう こと が できた し、 ミズ の ナカ で ウンコ を する こと も おぼえた の」
「じゃ ナニ かい、 その オイケ で ダレ か が ウンコ を もらした オンナ が いた の」
「そう らしい わ、 キンギョ トウシ に でて いる わ、 シナ から およいで きた と いう の は デタラメ だ わね。 きっと ショウニン たち が もうける ため に オフネ で もって きた のよ、 オジサマ、 もう、 そろそろ ねましょう よ、 コンヤ は アタイ の ショヤ だ から ダイジ に して ちょうだい」
「ダイジ に して あげる よ、 オジサン も ニンゲン の オンナ たち が もう アイテ に して くれない ので、 とうとう キンギョ と ねる こと に なった が、 おもえば はかない ヨノナカ に かわった もの だ、 トシ を とる と いう こと は ケンソン な こと おびただしい ね、 ここ へ おいで、 カミ を といて あげよう」
「これ は うつくしい モウフ ね」
「タータン チェック で イギリス の ヘイタイ さん の スカート なん だよ、 キミ に もってこい の モヨウ だね」
「これ ちょうだい、」
「ナン に する の、 あつぼったくて きられ は しない じゃ ない か」
「だいじょうぶ、 スカート に いたします、 まあ、 なぜ おわらい に なる の」
「だって キミ が スカート を はいたら、 どう なる、」
「みて いらっしゃい、 ちゃんと つくって おみせ する から。 どう、 アタイ、 つめたい カラダ を して いる でしょう。 ほら、 ここ が オナカ なの よ」
「お、 つめたい」
「ムカシ ね、 オジサマ、」
「また シン の シコウ が おおきな コイ と ねて カゼ を ひいた と いう ハナシ でしょう、 それ なら ナンベン も きいた よ、 それ で なきゃ トウ の ヒメ たち が 1 ピキ ずつ キンギョ を クチ に ふくんで、 コウテイ の オンザ を かざった と いう ハナシ だろう、 うまい こと を かんがえついた もの だね。 キンギョ を くわえて シコウ する なんて ね」
「ムカシムカシ ね、 オジサマ」
「ふむ」
「アタイタチ の メ が あんまり うごかない ので、 マバタキ を して ヒョウジョウ を タヨウ に する ため の メ の オイシャ サマ が いた のよ、 イマ の メ を おおきく する ビョウイン みたい な ところ なの よ、 その メイシャ が たいへん はやっちゃって、 ミンナ、 メ の チリョウ に いった けれど、 アト で よく キ が つく と、 メンタマ が ひっくりかえった だけ で いぜん と して、 キンギョ の メ は またたく こと が できない で、 じっと して いる じゃ ない の」
「キンギョ の メ は いやに うごかない メ だな」
「だから コウリン ヒトミ と きそい、 ドウコウ ヒト これ を みず と いう かなしい シ が ある くらい だわ、 オジサマ、 そんな に オッポ を いじくっちゃ ダメ、 いたい わよ、 オッポ は ね、 ネモト の ほう から サキ の ほう に むけて、 そっと なでおろす よう に しない と、 よわい オウギ だ から すぐ さける わよ、 そう、 そんな ふう に ミズ の さわる よう に なでる の、 なんとも いえない サワリグアイ でしょう、 セカイジュウ に こんな ユメ みたい な もの ない でしょう」
「まず ゼツム と いって いい ね、 ニンゲン なら シタ と いう ところ だ」
「アト で オナカ の ソウジ も して あげる わ」
「どこ に いく の、 じっと して いたまえ、」
「セナカ の ヨウス を みて から、 ムネ の ウエ に のぼって と、 まるで オヤマ が つづいて いる みたい ね。 ニンゲン ヒトリ を つかまえて しらべて みる と、 とても、 おおきい クジラ みたい な もの だ わね」
「ねたまえ、 オシャベリ は イイカゲン に して ねたまえ」
「ええ。 オジサマ は アシタ は ナニ を なさる おつもり」
「アシタ は ね、 イシ の ヘイ を つくる ん だ、 ショクニン-シュウ の くる マエ に おきて、 サシズ を したり カタチ を きめなければ ならない んで いそがしい ん だよ」
「アタイ、 どうして いたら いい の」
「アタイ は ヒトリ で あそんで いたら いい ん だ。 メダカ を のみこんだり はきだしたり して いれば いい よ」
「オジサマ は あそんで くれない の、 つまんない な」
「キミ と あそんで ばかり いられない よ、 その ホカ に シゴト も ある ん だ」
「また ショウセツ でしょう、 アタイ の こと なぞ かいちゃ いや よ、 かく ヒト と かかれる ヒト の チガイ は、 タイヘン な チガイ だ から かかないで よ、」
「ところが ね、 オジサン は コノアイダ から キンギョ は なぜ あんな みじかい ショウガイ を いきなければ ならない か と、 そんな こと を しじゅう、 かんがえつづけて いる ん だ、 たとえば メダカ は ニンゲン に したしまない が、 キンギョ は アシオト が する と、 すぐ あつまって くる、 そこ に メダカ と キンギョ の エンキン が ジンルイ と むすびついて くる」
「つまんない こと を おっしゃる わね、 それ より、 こっち を むいて ちょうだい、 コトワザ に いわく サッカ おいて ヒキョウ に おちいる と いう こと が ある が、 オジサマ も その ブルイ ね、 カクゴ は して いた、 なんて おっしゃる けど、 こう みる と すでに フツウ の ヒト の 100 サイ の ネンレイ に アシ を ふみいれて いる わね、 アシ は がさがさ して シカ の アシ の ごとく、 オセナカ は やっと はって いる だけ ね、 とおい とおい 100 サイ が もう やって きて いる わね、 70 サイ で もう 100 サイ の ヒト、 ある だけ を かき、 ある だけ を たたきうった ココロ の ボロ を さげて いる カカト の やぶれた ヒト、 そんな ヒト が さ、 アタイ の よう な わかい の と イッショ に ねる の は、 100 サイ に して コイ を えた と ほこりがましく おっしゃって も、 いい くらい よ、 アタイ は もう キンギョ じゃ ない わね、 1 マイ の シブガミ ドウヨウ の オジサマ だって いきて いらっしゃる ん だ もの、 いったい どこ に イノチ が ある のよ、 イノチ の ある ところ を おしえて いただきたい わ」
「オジサン は オジサン を かんがえて みて も、 イノチ を しる の に リクツ を かんじて ダメ だ が、 キンギョ を みて いる と かえって イノチ の ジョウタイ が わかる。 ひねりつぶせば ワケ も ない イノチ の アワレサ を おぼえる が、 オジサン ジシン の イノチ を さぐる とき には、 ダイロンブン を かかなければ ならない メンドウサ が ある」
「ロンブン なんて いや ね。 そして アタイ が フ を たべて いる とき に、 イノチ を かんじる と おっしゃりたい ん でしょう。 アタイ の いきて いる こと は、 オジサマ を こまらせて いる とき ばかり だ」
「スーツ を かえ クツ を かえ と いう とき か」
「その ホカ にも ある。 おいおい わかって くる わ。 シマイ に オジサマ は アタイ を うるさがって、 どこ か に すて に いき や しない か と おもう こと が ある わ。 で なきゃ ころして しまう か の フタツ だわ」
「キミ が キギ の アイダ を およぎまわり オジサン に ついて いる アイダ、 オジサン は キミ を ダイジ に して いる ん だ、 キミ は どこ に でも かくす こと が できる し ジャマ には ならない」
「オジサマ、 いつ アタイ が キ の アイダ に およいで いる の を ゴラン に なった の、」
「あかるい ヒ の ナカ の コズエ に ナン だろう と みて いる と、 キミ の およいで いる スガタ が みえて いた。 イケ を みる と キミ は いなかった の だ。 キミ は おそろしい キンギョ だ、 キ の アイダ を つたい、 キ の シタ に おりて いった が、 イマ でも ホントウ の こと だ とは おもえない くらい だ」
「アタイ だって あれ は ホントウ の こと に おもえない わ。 オジサマ、 あおむいて ねて よ、 アタイ、 オナカ の ウエ だ と、 とても おはなしよい のよ」
「オジサン の ほう から は、 カオ が よく みえない じゃ ない か」
「これ で いい?」
「あ、 それ で いい、 だいぶ、 カラダ が あたたまって きた ね、 オナカ が ふにゃふにゃ して きた じゃ ない か」
「オナカ が すいて きた のよ、 オミズ と エサ と を もって きて ちょうだい、 なんか おおきな ハチ の よう な もの に ミズ を いっぱい いれて きて ね、 ときどき、 ざんぶり と はいらない と いきぐるしい わ、 ついでに アゲ-タオル も ね、 はやく ね」
「はい、 はい」
「オジサマ は シンセツ ね、 おいしい オミズ ね、 レイゾウコ から とりだして きた の でしょう、 おう つめたい、 あ、 イロ が かわる くらい つめたい わね」
「はい、 ヒダラ」
「こまかく きざんで くだすった わ、 しょっぱくて いい キモチ、 オジサマ、 して」
「キス かい」
「アタイ の は つめたい けれど、 のめっと して いい でしょう、 なんの ニオイ が する か しって いらっしゃる。 ソラ と ミズ の ニオイ よ、 オジサマ、 もう イッペン して」
「キミ の クチ も ニンゲン の クチ も、 その オオキサ から は たいした チガイ は ない ね、 こりこり して いて ミョウ な キス だね」
「だから オジサマ も クチ を ちいさく すぼめて する のよ、 そう、 じっと して いて ね、 それ で いい わ、 では おやすみ なさいまし」
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ミツ の アワレ 2

2020-07-07 | ムロウ サイセイ
 2、 オバサマ たち

「イシ の ウエ に コドモ たち が あつまって あそんで いる わよ、 あれ、 くずれたら、 シタジキ に なっちまう わ」
「そりゃ こまる ね、 そんな に たかく つみあげて いった の か」
「ウエ へ ウエ へ と つみあげた もん だ から、 いっとう ウエ の ほう から、 ジメン を みて いる と、 メマイ が して くる くらい たかい わ」
「キミ いって、 コドモ を おろして しまえ」
「ええ、 そう いって くる わ。 あの、 ミナサン、 その イシ の ウエ で あそんじゃ ダメ、 あぶない わよ、 くずれて シタ に なったら、 しんじまう、 オリコウサン だ から ベツ の ところ に いって あそんで ちょうだい、 ほら、 ね、 キュウ には おりられない でしょう、 さあ、 アタイ が ダッコ して あげる から、 あっち に いって」
「ミナ、 いった か」
「いった わ、 アタイ の カオ を フシギ そう に みて いて、 あの ヒト ダレ だい、 あんな ヒト、 あの ウチ で みた こと が ない じゃ ない か、 と いって いた わ」
「キミ は ハデ な カオ を して いる から な」
「オジサマ、 また きた わよ、 こわい オトナリ の ジヌシ さん が きた わ、 きっと、 ハナレ が オトナリ の ジショ に ヤネ を つんだして いる の を、 コンド は なんとか しなきゃ ね」
「ハナレ を 1 シャク くらい、 がりがり けずりとる ん だね」
「コンド は イシ の ヘイ だ から、 フツウ の バアイ と ちがう わよ、 どう なさる」
「ダイク を よんで キョウカイ ぎりぎり に けずりとる ん だ。 で ない と サイバンザタ に なる し、 ホウリツ では ハバ 1 シャク の 15 ケン ブン の、 つまり その 30 ネン-カン の ジダイ も はらわなければ ならなく なる、 やはり ハナレ を こわす こと に なる ん だ」
「かわいそう な オジサマ ね、 でも、 やむ を えない わね」
「やむ を えない ね。 しかし カタガワ の デキバエ は、 なかなか いい じゃ ない か。 やっと コンド こそ ショウガイ の カキネ が できた わけ だ」
「オジサマ、 ここ へ いらっしゃい、 イシベイ の ウエ に こしかけて いる と、 ずっと マチ の かなた まで みえて きて、 いい キモチ だ わよ」
「たかき に のぼる と いう こと は、 いい ね。 イシベイ を つくって おいて よかった」
「アタイ ね、 オジサマ が オハナレ を おこわし に なる か、 そのまま つっぱねる か どう か と、 じっと みて いた わ」
「このまえ、 そう だな 5 ネン くらい マエ だ、 オトナリ の オジサン が きて ね、 アナタ も メイヨ の ある カタ だ から、 イマ すぐ とは もうしません が、 ヘイ を つくりかえる よう な こと が あったら、 ジショ は かえして ください と、 そう いわれて いた ん だ、 ジショ と いったって、 わずか 1 シャク に たりない ノキサキ だけ が オトナリ に とびだして いた ん だ がね、 そこで オトナリ では、 ゴジツ の ため に 1 マイ の カキツケ を くれ と いって ね、 オジサン は カキツケ を かいて わたして おいた ん だよ」
「どう、 おかき に なった」
「ヒツヨウ の ジキ には ハナレ を とりこわして も、 ジショ の デッパリ を ひっこめます と かいた ね」
「その ジキ が きて しまった のね、 コンド は イシ の ヘイ だ から ながい アイダ こわれない から、 ノキサキ を ひっこめた のね、 だから、 オハナレ の オトコノマ が まがっちゃった」
「だから すなお に こわして アマオチ も、 オトナリ に おちない よう に した ん だ」
「ジショ と いう もの は、 ユウウツ な サカイ を もって いる もの ね」
「ニンゲン は ムカシ から クニ と クニ の アイダ でも、 その ため に センソウ も して きた ん だし、 コジン の アイダ でも、 がみがみ かみあった もん だよ、 だから、 オジサン は ジショ と いう もの は、 ヒトツボ も もって いない、 この ウチ も シャクチ だし カルイザワ の ジショ も かりて いる」
「カルイザワ に イチド つれて いって よ、 キシャ の ナカ でも、 おとなしく して います から つれてって」
「ドビン に ミズ を いれて、 キミ を つれて いく か」
「エキエキ で ミズ を かえて くださらなきゃ ダメ。 ミズ が レッシャ で ユレドオシ だ から、 アタイ、 ふらふら に なっちゃって、 とても くたびれて しまう のよ」
「ヤマ の ミズ は キミ には どう か」
「ヤマ の ミズ に ひたる と、 アタイ の カラダ は もえあがって くる し、 ヒトミ は いっそう きらきら に なる わ。 アタイ、 オジサマ と マイニチ ヤマノボリ を する わ。 ね、 かんがえて も たのしい じゃ ない の。 サカナ は キ を こえ ヤマ に のぼる と、 ダレ か も いった じゃ ない? アタイ、 せいぜい うつくしい メ を して みせ、 オジサマ を とろり と させて あげる わ」
「キミ は ニンゲン に ばけられない か」
「マイニチ ばけて いる じゃ ない の、 これ より バケヨウ が ない じゃ ない の」
「もっと うつくしい オンナ に なって、 みせて ほしい ん だ」
「オジサマ は どうして、 そんな に ネンジュウ オンナ オンナ って、 オンナ が おすき なの」
「オンナ の きらい な オトコ なんて もの は、 セカイ に ヒトリ も い は しない よ、 オンナ が きらい だ と いう オトコ に あった こと が ない」
「だって オジサマ の よう な、 オトシ に なって も、 まだ、 そんな に オンナ が すき だ なんて いう の は、 すこし イジョウ じゃ ない かしら」
「ニンゲン は 70 に なって も、 いきて いる アイダ、 セイヨク も、 カンカク も ホウフ に ある もん なん だよ、 それ を ショウジキ に いいあらわす か、 かくして いる か の チガイ が ある だけ だ、 もっとも、 セイキ と いう もの は つかわない と、 シマイ には、 ツカイモノ に ならない ヒゲキ に でっくわす けれど、 だから いきたかったら、 つかわなければ ならない ん だ、 ナニ より それ が おそろしい ん だ、 オジサン も ね、 70 くらい の ジジイ を ショウネン の ジブン に みて いて、 あんな ヤツ、 もう ハンブン くたばって やがる と、 けとばして やりたい よう な キ に なって みて いた がね、 それ が さ、 70 に なって みる と ニンゲン の ミズミズシサ に いたって は、 まるで おどろいて ジブン を みなおす くらい に なって いる ん だ」
「セイキ なんて いや な こと、 ヘイキ で おっしゃる わね。 そんな こと は、 クチ に なさらない ほう が リッパ なの よ」
「シンゾウ も セイキ も おなじ くらい ダイジ なん だ。 なにも はずかしい こと なんか ない さ、 そりゃ、 オジサン だって セイキ と いう もの には、 こいつ が なくなって しまえば、 どんな に さわやか に なる かも しれない と、 ひそか に かんがえた こと も あった けれど ね、 やはり あった ほう が いい し、 ある こと は、 どこ か で ナニゴト か が おこなえる ノゾミ が ある と いう もん だ」
「そんな こと オオゴエ で おっしゃって は、 アタイ が あかく なって しまう じゃ ない の。 ニンゲン の タシナミ の ナカ でも、 いっとう つつしんで そっと して おく べき こと なの よ、 クチ に す べき こと じゃ ない わ」
「そりゃ そっと して おきたい ん だよ、 けれども イッペン くらい は 70 の ニンゲン だって 100 サイ の ニンゲン だって、 いきて みゃくうって いる こと を しりたい ん だよ」
「じゃ、 オジサマ は わかい ヒト と、 まだ ねて みたい の、 そういう キカイ が あったら なんでも なさいます?」
「する さ」
「あきれた」
「だから キミ と つきあって いる じゃ ない か。 オジサン が ボクシ や キョウイン の マネ を して いたら、 いきる こと に ソン を する。 そりゃ きれい に いきる ため にも、 したい こと は する ん だ。 キミ は イマ、 オジサン の フトモモ の ウエ に のって いる でしょう、 そして ときどき そっと ヨコ に なって ひかった オナカ を みせびらかして いる だろう、 それでいて ジブン で はずかしい と おもった こと が ない の」
「ちっとも はずかしい こと なんか、 ない わよ、 アタイ、 オジサマ が シンセツ に して くださる から、 あまえられる だけ あまえて みたい のよ、 ガンジツ の アサ の ギュウニュウ の よう に、 あまい の を あじわって いたい の」
「それ みたまえ、 チンピラ の キミ だって、 ジブン の つくった ところ に、 とろけよう と して いる ん じゃ ない か。 なにも わかり も しない キミ が、 こすりつけたり かみついたり して いて も、 それ で ちっとも はずかしい キ が しない の は、 キミ が ラク な こと を ラク に たのしんで いる から なん だ」
「あら、 そう なる かしら。 だったら、 はずかしく なる わね」
「コウフン して カラダジュウ ぴかぴか じゃ ない か。 これ で オジサン の サッキ から いった こと わかった だろう」
「わかった わ。 ごめん ね、 なんだか アタイ、 ふだん かんがえて いる こと かくして いた のね」
「ジッサイ に おこのうて いながら ね」
「ツジツマ が あわなかった わね」
「つまり トシ を とる と、 ホンモノ だけ に なって いきかえって いる ところ が ある ん だよ」
「だから わかい ヒト が いい の」
「こちら が ショウネン に なって いる から、 けっきょく、 わかい の が よく なる」
「けど ね、 オジイチャン が わかい ヒト を すく と いう の は、 ちょっと、 いやあ ね。 みぐるしい わ」
「ちっとも シュウアク じゃ ない、 アタリマエ の こと なん だ」
「だから、 アタイ の よう な わかい ん じゃ なくて は、 ダメ だ と いう の」
「キミ より わかい ヒト は いない ね、 たった 3 サイ だ から ね。 3 サイ の キミ が 70 サイ の オジサン と、 ウデ を くんで ヤマノボリ する なんて、 セカイ に フタツ と ない チンフウケイ だね。 キミ は キマリ の わるい オモイ を しない か」
「アタイ は ホントウ は、 オサカナ でしょう。 だから ちっとも はずかしく ない わ。 オジサマ は ホカ の カタ に おあい に なったら、 きっと オコマリ でしょう に」
「なるべく かくれて あるきたい な、 みつけられたって かまい は しない けど、 オジサン の いきる ツキヒ が アト に つまって たくさん ない ん だ もの、 だから セケン なんて かまって いられない ん だ。 わらおう と する ヤツ に わらって もらい、 ゆるして くれる モノ には ゆるして もらう だけ なん だよ。 キミ は きらい かも しれない けど、 その テン で じつに ずうずうしく オオデ を ふって あるける ん だよ、 セケン で テ を たたいて バカ アツカイ に したって ヘイキ な もん だ。 いきる の に ナニ を ミナサン に エンリョ する ヒツヨウ が ある もん か」
「オジサマ は とても ずぶとい こと ばかり、 はっと する こと を ぬけぬけ と おっしゃる。 そう か と おもう と、 アタイ の オシリ を ふいて くださる し……」
「だって キミ の ウンコ は ハンブン でて、 ハンブン オシリ に くっついて いて、 いつも くるしそう で みて いられない から、 ふいて やる ん だよ、 どう、 ラク に なった だろう」
「ええ、 ありがとう、 アタイ ね、 いつでも、 ヒケツ する クセ が ある のよ」
「ビジン と いう もの は、 たいがい、 ヒケツ する もの らしい ん だよ、 かたくて ね」
「あら、 じゃ、 ビジン で なかったら、 ヒケツ しない こと」
「しない ね、 ビジン は ウンコ まで ビジン だ から ね」
「では、 どんな、 ウンコ する の」
「かたい かんかん の それ は タマ みたい で、 けっして くずれて なんか いない やつ だ」
「くずれて いて は うつくしく ない わね、 なんだか わかって きた わよ」
「キメ の こまかい ヒト は ね、 イブクロ でも ナイゾウ の ナカ でも、 なんでも かんでも、 キメ が おなじ よう に こまかい ん だよ、 ウンコ も したがって そう なる ん だ」
「オジサマ、 うかがいます が、 アタイ ビジン なの、 どう なの おしえて」
「キミ は ビジン だ とも、 キミ の マワリ に いつも 10 ニン くらい の コドモ が、 うやうや して キミ を あきる こと も しらない で ながめて いる」
「どの コ も オカネ を もって いない で、 ながめて いる だけ ね。 かわいそう ね、 コドモ は オカネ を もって は いけない の」
「コドモ は ホカ の こと に オカネ を みんな つかって しまって、 サイゴ に キンギョヤ の マエ を とおって、 しまった、 あんな に オカネ は つかう ん じゃ なかった と、 かなしげ に キンギョ を ながめて いる だけ なん だよ。 いつも いつも そう なん だよ」
「わかった わ、 で、 ミンナ ヒカン して ぼうぜん と たって いる だけ なの ね。 キンギョ は かえない し、 みれば みる ほど うつくしい、 だから、 サッキ から 1 ジカン も たって ながめて いる、 ……オジサマ、 キンギョ を 1 ピキ ずつ でも いい から、 コドモ たち に かって あげて よ」
「うむ、 ほら、 オカネ だ、 キミ が かって ミンナ に わけて やる が いい」
「ありがとう。 コドモ の カオ ったら かなしそう で みて いられない わ。 あら、 あの キンギョヤ さん は、 じっと サッキ から フシギ そう に アタイ の カオ を みて いる、……」
「どこ か に ミオボエ が ある らしい ん だな」
「アタイ も あの カオ だけ は わすれる こと が できない わ。 マイニチ あの カオ ばかり みて いて、 そだって きた ん だ もん、 イマ アタイ、 オジサマ の ホッペ を ひっぱたいて も、 おこらないで よ」
「どうして そんな こと を する」
「アタイ が えらく なった ショウコ を、 キンギョヤ さん の メ に みせて やる のよ、 きっと おどろく でしょう」
「じゃ、 ひっぱたいて も いい よ」
「ごめん よ、 びっしり と ゆく わよ、 いたく ない こと、」
「ちっとも、」
「キンギョヤ さん たら あきれちゃって、 こっち を きょとん と した メ で みて、 クチ を あけた まんま コトバ も でない ふう ね」
「ホカ の モノ には オンナ に みえ、 キンギョヤ には キンギョ に みえる キミ が フシギ なん だろう」
「その キンギョ が オカネ を もって ね、 キンギョ を かい に いく と いう こと は うれしい オハナシ じゃ ない の、 ほら ね、 コドモ たち が ミンナ こっち を むいて、 キンギョ を すくいだしはじめた じゃ ない の。 ボウヤ、 おおきい の を あげる わよ、 オバチャン が オカネ はらう から、 シンパイ しない で、 どんどん、 すくいあげて いい のよ」
「オバチャン、 10 ニン も いる ん だぜ」
「ナンジュウニン いたって いい わよ、 オバチャン は、 キョウ は、 オカネ は うんと もって いる ん だ」
「そんなら、 ショウコ に オカネ を みせて よ、 オバチャン」
「これだけ みんな かって あげる わ。 ある だけ タライ の キンギョ を すくいだして もって おかえり に なる が いい わ。 ほしけりゃ キンギョヤ の オジイチャン も うって も いい わよ、 ふふ、 ……こんにちわ おひさしく、 オジイチャマ」
「おう、 3 サイ-ッコ、 あれ が オメエ の ダンナ かい、 うまく やった な、 ヨボヨボ は すぐ カタ が つく から、 しこたま もらっとく が いい ぜ」
「ナニ いってん の、 ダンナ じゃ なくて センセイ だわ、 しめころしたって しぬ カタ じゃ ない わよ、 シンゾウ には テツクズ が いっぱい つまって いらっしゃる から、 アンタ なんぞ の テ に おえ は しない」
「それ じゃ キカンシャ じゃ ねえ か」
「キュウシキ の キカンシャ な もん だ から、 シンリン でも ヤマ でも、 かみたおして はしって ゆく わよ」
「オメエ は いったい、 あの カタ の ナン なん だ、 わかった、 オメカケサン だな」
「アタイ、 あの カタ の これ なの よ、 オメカケサン なんか じゃ ない わ、 も イッペン、 ホッペ たたいて みせて あげる わ、 ね、 ちっとも、 おおこり に ならない でしょう、 アタイ の いう こと なんだって きいて くれる のよ、 いまに オイケ と ウロ を つくって くださる オヤクソク なの、 オジイチャマ、 オカネ が ほしかったら、 コンド くる とき に うんと キンギョ もって いらっしゃい、 オイケ に はなす ん だ から、 どれだけ いたって たりる こと は ない わ」
「オメエ は えらい キンギョ に、 いつのまに ハヤガワリ した ん だ」
「アイテ-シダイ で どんな に でも、 かわれば かわる こと が できる もの よ、 たしょう バカ でも ね」
「いつでも キョウダイ に むかって ベソ かいて いた から な、 オキャク は つかない し カラダ は よわい し ね。 だが、 3 サイ-ッコ、 コンダ あてた な、 あの ジジイ、 したたか な カオ を して いる が、 ショウバイ は いったい ナン だ」
「しらない」
「しらない こと ある もん か、 こそっと オラ に だけ いえ よ」
「しらない ったら しらない わよ、 しって いたって キンギョヤ さん なんか に、 あの ヒト の こと いう もん です か」
「いえない ショウバイ なら ドロボウ か、 カタリ の タグイ だろう、 だが、 ドロボウ が イシベイ の ナカ に すむ こと は、 ねえ から な。 ひょっと する と ズメンヒキ かな。 なんとか いって くれ よ」
「しらない、 アタイ、 あの カタ の こと いわない って オヤクソク が して あん だ から、 いくら、 オジイチャマ だって いえない わ、 ダレ に だって いう もん か。 おうい、 オジサマ、 そろそろ オデカケ の オジカン よ、 はやく オヒゲ を そって オユ に はいって、 ゴヨウイ なさらなければ、 ジカン に おくれたら タイヘン な こと に なる わよ」
「ユウウツ だな、 コウエン と いう もの は もう ミッカ マエ から、 ショクヨク が なくなって しまう し、 ムネ は すっぱく なる し、 ゲンキ まで なくなる、……」
「だって コノアイダ から おかき に なって いた ゲンコウ を ほどよく、 ジカン を おおき に なって ロウドク なされば いい のよ、 さあ、 オヒゲ を おそり に なって」
「キミ は きて は ダメ だよ」
「だって アタイ が いなかったら、 オジサマ は びくびく して コウエン できない じゃ ない の。 アタイ、 ウシロ に かくれて いて、 オシリ を つねって おあげ する わ」
「だから オセッカイ は やめて くれ と いう ん だ。 ヒトリ なら どもりながら でも しゃべれる が、 キミ が いる と キ が ちる ん だ、 たのむ、 キョウ は こない で くれ」
「なんて ヒソウ な オカオ なさる わね、 じゃ、 いかない わよ」
「おこるな よ、 オジサン は ヒトリ だ と、 さばさば して なんでも オシャベリ が できる ん だ」
「じゃ、 まいりません、 アンシン して いって いらっしゃい。 カイダン は すべる から キ を つけて ね。 それから、 パイプ を わすれない で もって かえって いらっしゃい」
「じゃ いって くる」
「テーブル の ウエ に コップ と ミズ を たのんで おかなくちゃ ね。 オハナシ に つまったら、 オヒヤ を あがる が いい わ。 たすかる わよ」
「キンギョ じゃ あるまい し、 ミズ なんか いらない よ、 ミズ ばかり のんで コウダン したら どう なる ん だ。 ミズ を のみ に エンダン に たつ よう な もの だ」
「それなら、 なお ハクシュ カッサイ だわ、 コップ の ミズ を のんで、 それきり で コウダン する エンゼツ も あって いい じゃ ない の」
「あ、 こまった」
「クルマ が きた わよ、 あら、 うつくしい フジン キシャ が オムカエ なの よ。 ぴちぴち して いて、 クルマ と おなじ イロ の クツ はいて いらっしゃる」
「キョウ は ビジン も メ に はいらない」
「なんて カオ なさる の、 ほら、 オボウシ よ」
「じゃ、 いって くる、 こない で くれ よ」
「じゃ、 いって らっしゃい。 オジサマ、 カオ、 もう イッペン みせて、 それ で いい わ、 もう ゲンキ が でて きて、 カクゴ を した オカオイロ に なって いる わ」

「あの、 おみうけ した ところ、 どこ か、 オカラダ が おわるい ん じゃ ございません か」
「は、 すこし なんだか キュウ に」
「たいへん オイキ が くるしそう です が、 オミズ でも、 おあがり に なりましたら?」
「ミズ なんか アナタ、 ここ では とても」
「オミズ なら アタイ、 いいえ、 ワタクシ、 もって います から、 スイトウ の クチ から じかに おあがり くださいまし、 さあ、 どうぞ」
「まあ、 これ は、 おそれいります」
「どうぞ、 ぐっと、……」
「は、」
「もっと めしあがって、 あ、 オラク に なって、 オカオ の イロ が でて きました わ。 ほら ね、 イキヅカイ が ちゃんと、 ヘイキン して きた じゃ ございません か」
「は、 どきどき する の が とまって まいりました。 なんとも、 オレイ の モウシヨウ も ございません」
「もう、 ちょっと めしあがれ」
「あ、 おいしい。 もう、 おさすり くださらなくて も、 ケッコウ で ございます。 どうぞ、 オテ を おろして くださいまし」
「オイキ の くるしい アイダ、 オセナカ が こわばって いました けれど、 あ、 そう、 ワタクシ も オミズ いただいて おきましょう。 オロウカ に でて おやすみ に なったら? カミヤマ さん の コウエン も おわりました し」
「では、 ゴメイワク ツイデ に、 ゴイッショ に して いただきます」
「この クッション には、 ヨリカカリ が あって よ ございます」
「もう すっかり ラク に なりました。 ワタクシ シンゾウ が わるい もの です から、 カイジョウ に まいって から も キ を つけて いた ん です けれど、 フイ に、 マエ の ほう が くらく なって しまいまして」
「アナタ が うつむいて いらっしって も、 オイキ の はあはあ いう の が きこえて くる ん です もの、 おどろいちゃって どう しよう か と、 ヒトリ で、 うろたえて しまった ん です」
「あの、 ヘン な こと おきき する よう です けれど、 どうして オミズ を あんな に たくさん おもち に、 なって いらっしった ん でしょう か」
「ええ、 すこし ワケ が ございまして、……」
「あら、 ごめん あそばせ、 シツレイ な こと もうしあげまして、 アナタ が そんな に おわかい のに ゴヨウジン-ぶかい と、 つい そう おもった もの です から」
「ワタクシ は いつも オミズ が ほしい ショウブン な もの です から、 スイトウ を はなした こと が、 まだ イチド も ございません」
「オイド の ミズ で ございます ね」
「よく ゴゾンジ で いらっしゃいます こと。 それ より キョウ は ドナタ の ゴコウエン を おきき に いらっしった ん です か、 まだ、 ゴコウエン が ある はず なん です が」
「ワタクシ カミヤマ さん の ゴコウエン を おきき して、 もう かえろう と シタク しかかって いて、 つい、 メマイ が した もの です から」
「カミヤマ さん を ゴゾンジ で いらっしゃいます か」
「カミヤマ さん に カキモノ を みて いただいた こと が ある ん です。 15 ネン も マエ の こと です が、 めった に ゴコウエン なぞ なさらない カタ な もの です から、 オメ に かかりたくて も キカイ が なかった の です が、 シンブン で オナマエ を みて キョウ は はやく から まいって いた の が、 カラダ に さわった の かも しれません」
「まあ、 オジサマ と 15 ネン も マエ に、 おあい に なって いらっしった ん です か」
「オジサマ って おっしゃる と、 それ は カミヤマ さん の こと です か、 スイトウ に カミヤマ と かいて あった もの です から、 はっと した の です が、 カミヤマ さん の ゴシンセキ の カタ なん です か」
「ええ、 シンセキ の、 そう ね、 マゴ の よう な モノ なん です けれど、 オミノマワリ の こと も みて おあげ して いる モノ です、 どう いったら うまく ワタクシ の タチバ が いいあらわせる か、 いいにくい ん です けど」
「でも、 オジサマ って および に なって いらっしゃいます から、 きっと、 おなじ オウチ に いらっしゃる ん でしょう」
「え、 キョウ の ゴコウエン は きき に きちゃ いけない って、 きびしく もうしつけられて いた ん です けれど、 ウチ に いる の が たまんなくて まいりました の、 アタイ が いなくて は、 カミヤマ は なにも できない ん です もの」
「まあ、 アタイ って おかわいらしい こと を おっしゃる」
「もう、 いっちゃった から いう けど、 アタイ、 オジサマ が シツゲン したり なんか しない か と、 びくびく して きいて いました。 そしたら うまく おしゃべり に なれて ほっと しちゃった の。 そしたら コンド は、 アナタ の オカラダ が わるく なって、 それ が カイジョウ ソウダチ に なったら オジサマ が かわいそう だ から、 オミズ を さしあげた のよ、 アタイ、 あんな に あわてた こと が ない ん です もの」
「アナタ は オイクツ に オナリ なの」
「アタイ、 イクツ かしら、 イクツ だ と いったら テキトウ なの か わかんない けれど、 17 くらい に なる でしょう か」
「それで カミヤマ さん は アナタ を おかわいがり に なって いらっしゃる ん です か、 たとえば、 オミヤゲ とか、 オカイモノ とか、 ゴハン も、 ゴイッショ に あがって いらっしゃいます か」
「いいえ、 ゴハン は ベツ です けれど、 アタイ の たべる もの は、 フツウ の ヒト とは ちがいます もの」
「どういう ふう に、 おちがい に なる ん です か」
「そんな こと ちょっと カンタン には いえない わ、 オショクジ は ちがって います けれど、 ヨル も ゴイッショ に ねる こと も ある し、……」
「まあ、 ゴイッショ に おやすみ に なる ん です か、 そんな こと を アナタ は ヘイキ で おっしゃいます けれど、 ゴイッショ と いう こと は、 ヒトツ の オトコ で カミヤマ さん と おやすみ に なる こと なの よ、 カンチガイ を して いらっしゃる ん じゃ ない、……」
「いいえ、 ヒトツ の オトコ なの よ、 アタイ、 オジサマ の ムネ や、 オセナカ の ウエ に のって あそぶ こと も ある し、……」
「あそぶ ん ですって」
「ええ、 くすぐったり とんだり はねたり する わ、 オジサマ は メ を つぶって いらっしゃいます だけ だ けど、 アタイ、 その オメメ を ムリ に あけたり、 それから オメメ の ウエ に カラダ を すえて いたり して います と、 オジサマ は、 とても、 メ が ひえて およろこび に なります」
「あら、 そんな こと まで おっしゃって、 アナタ は ダイタン で ムジャキ で イマ まで アナタ みたい な カタ に、 ワタクシ おあい した こと イチド も ない わ、 も イチド おきき したい ん です けれど、 あまり シツレイ な こと で ワタクシ ジシン うかがう こと も、 はずかしい くらい なん です けれど」
「どんな こと かしら、 なんでも おこたえ できる わ、 アタイ、 オバサマ も すき に なっちゃった、 ダレ でも すき に なって こまる ん です けれど」
「オバサマ と いって くださる と、 うれしく なる わ、 あのね、 おおこり に ならない で きいてて ね、 アナタ は カミヤマ さん と カンケイ が おあり に なる の、 ヨル も ゴイッショ だ と おっしゃる し、……」
「カンケイ って どんな こと です か、 アタイ、 カンケイ と いう こと はじめて きいた わ」
「オジサマ は アナタ と おやすみ に なって から、 どんな こと を なさいます の、 こんな ふう に モノ を いう の、 ごめんなさい ね、 だって、 こう いう より トイカタ が ない ん です もの、 たとえば アナタ を おだき に なったり なさいます?」
「いいえ、 アオムキ に ねて いらっしゃる だけ なの、 だいて いただいた こと ない わ、 ただ、 アタイ の ほう で ふざける だけ なの」
「だって そんな こと ある はず ない と おもう ん です けれど、 まあ、 アナタ って カタ、 オンナ でも ない みたい に、 ちっとも はずかしがらない で、 なんでも フツウ の こと の よう に おっしゃる わね、 つよく だいたら つぶれて しまう なんて、」
「つぶれて しまう わ、 アタイ、 ちいちゃい ん です もの」
「そんな に おおきく なって いらっしゃる じゃ ない の、 オッパイ も オタナ みたい だし、 ウデ も まんまるくて アブラ で つめたい し、 ケッショク も いい し、 それ で オジサマ が なにも なさらない ん です か」
「アタイ、 オジサマ の コモリウタ かも しれない わ、 ふう と きて、 ふう と ふかれて いく だけ なん です もの。 でも、 オジサマ は たんと たのしい こと を しって いながら、 アタイ に、 して くださらない こと に なる わね、 ずるい わ、 アタイ、 オジサマ に いって やる わ、 たのしい こと を ヌキ に しちゃ いや だ って」
「そんな こと おっしゃって は ダメ、 イマ まで-どおり の オジサマ で タクサン じゃ ない ん です か。 ワタクシ つまらない こと を おはなし しました けれど」
「アタイ、 これ イジョウ たのしい こと ある はず ない と、 いつも そう おもって いた ん です もの」
「ワタクシ ね、 さっき いただいた オミズ を あんな に たくさん もって いらっしゃる ワケ が、 おきき したい ん です けれど、 どう かんがえて みて も わからない の」
「あれ は いえない、」
「なぜ おわらい に なります、 だって スイトウ に いっぱい オミズ を もって コウエンカイ に いらっしゃる ワケ は、 とても わからない わ。 ダレ に でも わかりっこ ない わ」
「そう ね、 オバサマ には とても、 わかりっこ ない わ、 ダレ も わかる ヒト ない わ、 ダレ にも しられたく ない アタイ の ヒミツ なん だ もん、 オバサマ にも いう こと できない のよ、 アタイ の オクチ に テ を かけて はかそう と なすって も、 がん と して いわない わ、 オジサマ だけ が その ワケ しって いらっしゃいます けれど」
「カミヤマ さん は なんと おっしゃって いらっしゃる の」
「いつも オミズ を わすれるな と おっしゃる わ、 アタイ の なにもかも、 みんな しって いらっしゃる ん だ もの」
「オカラダ に イリヨウ なん です か」
「そう なの、 ミズ が なくなる と、 アタイ の メ が みえなく なる かも しれない ん です もの。 それ より か、 いったい、 オバサマ は なぜ 15 ネン も オジサマ に、 おあい に ならなかった の、 アタイ、 その ワケ が ききたい ん です。 オバサマ、 その ワケ を くわしく おはなし して ちょうだい、 オバサマ の カオ は うつくしい けれど あまり に しろっぽい し、 オセナカ だって さっき さすった とき に かんじた ん だ けど、 まるで、 オサカナ みたい に ひえきって いた わ」
「ワタクシ あの とき、 ずっと チ の ひいて ゆく グアイ が、 すぐ わかって いた ぐらい です もの、 ひえる の アタリマエ の こと だわ」
「いいえ、 その こと を おきき して いる の じゃ ない わ。 なぜ、 オジサマ に おあい に ならなかった か と いう こと なの よ、 ね、 それ を おはなし して」
「アナタ に オミズ が イリヨウ で その ワケ が おっしゃれない よう に、 ワタクシ が おあい できなかった こと も、 イマ すぐに は おはなし できない わ、」
「それ も ヒミツ なの ね、」
「ええ、 そう よ、 ヒミツ なの よ」
「オバサマ は アタイ を おすき」
「え、 もう、 キョウ カイジョウ に はいる と、 すぐ アナタ の オソバ に すわる よう に、 アタマ が フイ に しらせた の」
「アタマ が しらせた?」
「そう よ、 あの ちいさい オカタ の ところ に いけ、 そして おあい しろ と いわれた わ」
「ドナタ に、 ドナタ が そう いった の」
「アタマ が そう つくりあげた のよ、 その とき、 アナタ も トビラ の ほう に ちらと メ を むけて、 ちゃんと しって いらっした ふう じゃ ない の」
「アタイ、 あの トビラ から ダレ か が くる はず だ と、 カイジョウ に はいる と、 すぐ、 ずっと、 おもいつづけて いた わ、 イッペン も あった こと の ない ヒト だ が、 あえば すぐ うちとけて オハナシ の できる カタ で、 おはなし しなければ ならない こと が たくさん たまって いる カタ だ と そう おもって いた の。 だから、 オセキ を とって おすわり に なれる よう に して いた のよ」
「アナタ は うれしそう に にこにこ してた わね」
「アタイ、 オジサマ が バカ を いわない か と、 それ が おかしくて。 アナタ は どうして ゴコウエンチュウ うつむいて ばかり いらっしった の。 まるで きいて いらっしゃらない ふう だった わ」
「オカオ を みる の が はずかしかった し、 みられまい と ケンメイ に うつむいて いた の、 そして ついに イチド も みなかった わ」
「なぜ、 オカオ を おみせ に ならなかった ん です」
「あの カタ には おあい できない ワケ が あります のよ」
「どうして」
「どうしても、」
「アタイ、 オジサマ に アナタ に オメ に かかった って、 キョウ かえったら おはなし する わ、 まあ、 そんな に オカオ の イロ を かえちゃって。 おはなし する の が わるい ん です か」
「アナタ に なにも いって くださるな と いったって、 とても、 だまって は いらっしゃらない わね、 けれど、 オジサマ は ワタクシ に アナタ が あった と おっしゃって も、 そんな バカ な こと が ある もの か と、 しんじて くださらない わよ」
「なぜ かしら、 だって こうして おあい して いる のに? オバサマ、 オテテ だして、 こんな に しっかり にぎって いる のに、 ウソ なんか じゃ ない でしょう、 オバサマ、 キス しましょう」
「まあ、 アナタ って なんて コドモ さん なん でしょう、 でも、 キス する こと しって いる わね」
「オジサマ と いつも して いる ん だ もの、 アタイ、 の、 つめたい でしょう」
「ええ、 とても」
「あら、 あら、 オバサマ、 ミナサン が でて きた わ、 コウエン が おわっちゃった のよ、 アタイ、 こうして は いられない わよ、 オバサマ、 イッショ に オジサマ の ところ に いきましょう。 きっと びっくり なさる わよ、 あら、 そんな オカオ を おかえ に なって いったい どこ に いらっしゃる の」
「ワタクシ、 これ で シツレイ します」
「ね、 オジサマ に おあい に なって よ、 アタイ、 うまく とりなして おあげ する から、 イッショ に いらっしゃい」
「もし ワタクシ の こと おっしゃる よう だったら、 わすれない で います と、 そう おっしゃって ね、 オシアワセ の よう に って ね」
「オバサマ、 いっちゃ ダメ よ、 ダメ よ、 いっちゃ」
「では、 おわかれ する わ、 オリコウサン」
「オバサマ、 オテテ だして」
「そうして いられない ん です よ、 では、 アナタ、 オジサマ を よく みて あげて ね」
「よく して あげる わ、 いっちゃ いけない と いう のに」
「じゃ ね」
「オバサマ、 オバサマ」
「…………」
「あ、 いっちゃった、 せっかく、 ダイジ な オトモダチ が できた のに いっちゃったい、 オバサマ の バカ、 もどって きて、 オバサマ、……」

「オジサマ、 アタイ よ。 おどろいた でしょう、 ちゃんと きて いた のよ」
「びっくり する じゃ ない か、 チンピラ、 どうして きた ん だ」
「ここ あけて よ、 ずっと、 ゴコウエン を きいて いた のよ、 とんでもない こと、 おっしゃる か と おもって シンパイ しちゃった。 ここ、 あけて よ」
「おはいり、 あんな に きちゃ いけない って いって いた のに、 こまった ヤツ だ」
「だって オウチ に ヒトリ で いる の が、 ムネ が やきもき して、 とても、 たまんなかった もん、 ゴコウエン よく きこえた わよ」
「でも、 よく、 ヒトリ で クルマ を みつけて のった ね」
「かけずりまわって やっと みつけた のよ、 この クルマ シンブンシャ の でしょう」
「おくって くれる ん だ、 ウチ まで」
「アタイ、 あかい ハタ の たって いる クルマ に のる の はじめて だわ、 とても、 いさましい わね」
「ミズ を もって いる ね、 スイトウ なんか さげて ヨウジン-ぶかくて いい」
「オジサマ、 おはなし したい こと が たくさん ある のよ、 こっち おむき に なって」
「むずかしい カオ を して ナニ を いいだす ん だね、 くたびれて いる から、 しばらく、 なにも いわない で くれ」
「タイヘン な こと が あった のよ、 くたびれた では すまない わよ、 キョウ ね、 アタイ の ヨコ に すわって いる カタ が いて ね、 カオイロ が あおじろい ん だ か しろい ん だ か わからない くらい、 チチ の よう な イロ を して いる カタ が いらっしった の、 うつむいて コウエン を きいて いらっしゃる のよ、 オジサマ に カオ を みられ は しない か と、 それ ばかり キ に して いる よう な カタ なの よ」
「エンダン から は ヒト の カオ なんか、 くらくて みえ は しない よ」
「そのうち その カタ が キュウ に ひどそう に、 コキュウ コンナン みたい に なっちゃって、 アタイ、 びっくり して ミズ を あげた のよ、 そしたら おちついて、 ふう と イキ も フダン の まま に なって きた のよ」
「よく キ が ついた な、 シンゾウ が わるい ヒト らしい ね」
「よく オワカリ ね、 オジサマ は」
「ナン だ、 ヒト の カオ を じっと みつめたり なんか して、 ヘン な コ だ」
「その カタ を オロウカ の ほう に おさそい して、 やすませて おあげ した の、 もう、 オジサマ の オハナシ が すんだ アト だった から、 クッション の ウエ で ながい アイダ おはなし した わ、 ミズ の よう に オロウカ に ヒトケ が なくて、 その カタ の カオ の イロ が アタイ の ゴタイ に しみわたる ほど、 へんに つめたかった、 オジサマ、 その カタ は いったい ダレ だ と おおもい に なる、……」
「さあ、 ダレ だ かね」
「オジサマ、 いって あげましょう か」
「ミョウ な カオ を する じゃ ない か、 しって いる ヒト なら はやく いいたまえ」
「びっくり しないで よ、 タムラ ユリコ と いう カタ なの よ、 とても ハナスジ の きれい な カタ、 あら、 オジサマ の メ の ナカ が キュウ に うごく の が とまっちゃった」
「タムラ ユリコ」
「そう なの よ、 タムラ ユリコ って いう カタ なの よ、 どう、 びっくり した でしょう」
「ジブン から タムラ ユリコ と ナ を いった の、」
「アタイ が おきき した から よ、 そしたら スイトウ の ミズ を おあげ した とき に、 カミヤマ って かいて あった の を およみ に なった らしい わ、 キュウ に メ を アタイ に じっと そそいで、 こう、 おっしゃった わ。 アナタ は カミヤマ さん の ドナタ だ と おいい に なった から、 アタイ、 オジサン の こと なんでも みて あげて いる モノ だ と いったら、 オイクツ と おきき に なり、 アタイ、 17 サイ だ と おこたえ した わ。 そしたら アタイ の カオ を また じっと みなおして、 アタイ の こと が みんな わかって いる ふう だった わ、 どうか する と、 オジサマ、 あの カタ、 アタイ が オジサマ の どういう モノ だ か も、 ちゃんと わかって いる らしかった わ」
「それ は わかるまい、 いや、 わかって いる かも しれない が、 たしか に タムラ ユリコ と いった ね、 どう かんがえて も、 そんな オンナ が イマゴロ あらわれる なんて こと は、 ありえない こと だ、 ホントウ の こと を いおう か、 その タムラ ユリコ と いう オンナ は、 とうに しんで いる オンナ だ、 しんで いる ニンゲン が あらわれる こと は ゼッタイ に ない」
「まあ、 しんで いる カタ なの」
「その ナマエ の ヒト なら しんで いる、 キミ の はなした ヒト は その ヒト では ない ん だ、 こわい か、」
「こわい」
「おもいあたる こと が ナニ か ある の、 こまかく いって ごらん」
「たとえば あまり に おきれい で、 なにもかも しって いらっしって、 そらとぼけて いらっしゃる ふう だった わ、 アタイ、 しじゅう、 ぞくぞく うれしい よう な かなしい みたい な、 それ で キミ が わるい よう な ときどき いやあ な キ が して いた わ、 しんで いる ヒト だ と いえば そんな キ も しない では ない の です が、 フシギ な こと が あった わ、」
「どんな こと なの だ」
「アタイ、 キ の せい か、 オバサマ の テ を にぎって みたくて、 きゅっと、 にぎっちゃった の、 あら、 いつのまにか アタイ、 その カタ を オバサマ と よぶ よう に なっちゃった の、 わずか の アイダ に そういう ふう に したしく なって いた のね、 その とき に ね、 オバサマ の ヒダリ の テ に ヒトツ の キズアト を みつけた の、 キンゾク の サッカショウ の よう だった ので、 これ、 どう なさいました と いったら、 すぐ テ を おかくし に なった わ、 アタイ、 そこ に ウデドケイ が フダン から はめられて いた アト が、 あかく のこって いる の を メ に いれた の」
「ウデドケイ の アト だって、」
「それ が トケイ の カタチ と クサリ の アト が、 まるで ソノママ で のこって いた のよ、 だから、 アタイ、 オトケイ キョウ は あそばさない の と いったら、 こわれて いる もの です から と おっしゃって いた わ、 コトバ が とても きれい な カタ なの ね。 その とき の オカオ の イロ ったら とても わるかった」
「その キズ と いう の は ひどく なって いた の」
「そう よ、 ザンコク に トケイ を テクビ から もぎとった シュンカン の キズアト だった らしい わ、 アタイ、 その ワケ を きこう と した けれど、 おっしゃらなかった、 きっと、 オジサマ が おとり に なった の でしょう と いう と、 カミヤマ さん じゃ ない と おっしゃった わ、 その ホカ の こと は なにも おっしゃらなかった。 まあ、 オジサマ、 なんて いや な オカオ を なさる の、 オジサマ、 オジサマ、 ふるえだしちゃった、……」
「そんな ヒト が モノ を いう はず が ない、 だが、 その トケイ の ハナシ は ホント の こと なん だ、 アケガタ に シンゾウ マヒ で たおれて から、 5 ジカン ダレ も その ヘヤ に はいった ニンゲン が いない ん だ、 ソウジフ が カギ の かかって いない ドア から なにげなく すかして みる と、 タムラ ユリコ は アオムケ に なって タタミ の ウエ で しんで いた、 その とき に まだ トケイ は うごいて いた のさ」
「だって オジサマ は なぜ そんな オカオ を なさる の、 また、 ヒタイ から アセ が にじんで きた わ、 ひょっと する と アブラ かも しれない わ」
「オジサン の おどろいた の は、 その オンナ と キミ と が ハナシ を した と いう こと に、 おどろいて いる ん だ、 キミ は その オンナ を まるで しらない くせ に、 イマ いう こと が みんな ホントウ の こと なの だ、 その ジッサイ の こと に やられて いる の だ」
「オセナカ を さすって おあげ した とき、 ナリ の たかい カタ だ と いう こと が、 セナカ の スジ の ながい こと で すぐ わかった わ」
「どういう コエ を して いた ん だ、 コエ の こと を いって ごらん」
「やわらかくて ききかえす ヒツヨウ の ない とおった コエ だった わ、 アタイ、 アナタ に オメ に かかった こと を オジサマ に、 みんな おはなし する と いう と、 おとめ して も きっと おっしゃって おしまい に なる から、 おとめ しない と おっしゃって いた わ」
「そして ナニ か コトヅテ が なかった か」
「アタイ に ね、 オジサマ を よく みて あげて と いった だけ だわ、 キョウ は 15 ネン-ぶり に オメ に かかれた と、 それきり おわかれ しちゃった。 いくら よんで みて も ふりかえり も しない で、 デグチ の ほう に おゆき に なった のよ」
「たしか に その ヒト は タムラ ユリコ と いった ん だね、 キミ が カイホウ して あげた ヒト が グウゼン に、 そんな ナマエ の ヒト だった わけ じゃ ない ね、 トケイ の こと も、 グウゼン に にた ハナシ だ と する より、 オジサン の カンガエヨウ が ない ん だ が」
「その オンナ の ヒト は オジサマ の いったい ナン なの よ。 それ から きかない と ハナシ が わからない わ」
「それ は タムラ さん の かいた もの を オジサン が よんで あげて いた ん だ、 そう だな、 5~6 ネン も マ を おいて つづけて いる うち、 とつぜん、 カキモノ の ゲンコウ を おくって こなく なった ん だ。 すると ある ヒ ケイサツ の ヒト が きて ね、 タムラ ユリコ が サクヤ キュウシ した と いって、 オジサン が ショ に レンコウ されて しらべられた ん だ、 オジサン は ウチ にも きて カオ は しって いる が、 アパート の ヘヤ なぞ には まるで イチド も いった こと が ない、 だから シイン も なにも わかって いない の だ、 ケイサツ では オジサン から の ゲンコウ を カイソウ した フウトウ から ジュウショ が わかった らしく、 そんな フウトウ まで ちゃんと とって あった そう だ」
「オジサマ は オンナ だ と オセッカイ ばかり なさる から よ、 ケイサツ から じゃ、 いやあ ね。 きっと オトケイ が なくなって いた から でしょう」
「トケイ と ホカ に ヨウフク なぞ も なくなって いた らしく、 ギュウニュウヤ さん が ハイタツ に まわった とき に、 ドア が アケハナシ だった そう だ が、 ハンニン は でなかった らしい」
「オジサマ の ケンギ は?」
「ジケン と カンケイ が ない こと は すぐ わかった さ、 だが、 その キュウシ と ドウジ に オジサン は ながい アイダ みて いた ゲンコウ の ナイヨウ から、 タムラ さん と いう ヒトリ の オンナ が、 ヤク にも たたない ゲンコウ を かきながら しんだ と いう こと が、 ショウセツ-フウ な ジョウケイ で アタマ に のこった の だ」
「ゲンコウ は オジョウズ だった の」
「フツウ の ヒト と かわった ところ は ない、 むしろ つたない ほう だった かも しれない ね、 ただ、 とびきった 2~3 ギョウ くらい の おもしろい ところ が トコロドコロ に あった くらい だ、 それ は オトコ の ヒト と トモダチ に なる と、 すぐ この ヒト も だんだん に したしく なって、 いいよって こない か と、 それ が みえすいて くる こと が こわい と かいて いた こと だ、 そして その オトコ が タムラ さん に くどいて くる と、 イッペン に、 さけて しまう と いう ミョウ な クセ の ある ブンショウ の ヒト だった の だ」
「オジサマ も きっと、 ひきつけられて いた の でしょう」
「タムラ さん の ショウセツ が そんな ふう なので、 いつも サキ を こされて いる キ が して いた ん だよ、 あの ヒト が イマゴロ でて くる なんて こと は ない さ」
「でも、 アタイ、 ちゃんと みた ん だ もん」
「ヘン な こと が かさなる もの だね、」
「オジサマ、 どこ か で おやすみ に ならない、 ギンザ に きた わよ、 アタイ、 しおからい もの が たべたい わ」
「おりよう、 バー に いこう」
「オサケ あがれない くせ に、 よく コノゴロ バー に いらっしゃる」
「あそこ に すわって いる と ミナサン の シュキ が ただようて きて、 ホオ が あつく なって よった よう な キ が する ん だ」
「いらっしゃいませ」
「ナニ か しおからい もの を ちょうだい、 それから、 オジサマ は ナアニ」
「なんでも いい よ、 ニオイ を かぐ だけ だ から」
「あら、 キンギョ が たくさん いる わね、 ミンナ、 あたらしい ミズ を ほしがって、 かわいそう に あぶあぶ して ひどそう だわ、 あの、 この キンギョ の ミズ くさりかけて います から、 かわいそう だ から とりかえて あげて」
「マイニチ オミセ に でて くる と すぐ、 オミズ かえる ん です けれど、 キョウ は つい わすれまして」
「それから オシオ を ヒトツマミ いれて あげて」
「オシオ が いい ん です か」
「くたびれた キンギョ には ほんの ちょっぴり、 オシオ が いる のよ。 おうい、 チビ ちゃん、 オシオケ が ほしい ん でしょう、 そう、 そう なの ね。 オジサマ、 ちゃんと もう わかって いて、 ソバ に よって きた でしょう、 ナニ いって いる の か いくら オジサマ でも、 この ヒミツ は わかりっこ ない でしょう、 オネエサマ は どこ から どうして いらしった って、 そんな カッコウ が どう したら できた の と、 ミナ、 メ に いっぱい フシギ な イロ を あらわして、 いって いる のよ、 クチ を あけて マタタキ も しない で アタイ を みて いる でしょう、 アタイ も みて やる、」
「キミ、 あまり ヘン な こと いう と、 ミナ が ヘン な カオ を する よ、 ミモト を あらわれる よ」
「あ、 オミズ が きた わ、 その オミズ ここ に ちょうだい、 アタイ が いれて あげる から、 ミンナ オツム を ならべる のよ、 したした と、 ……どう、 とても、 さっぱり と いい キモチ でしょう、 したした と いう この オト たまらない わね、 ミンナ ウロコ の イロ も わるい し やせて いる のね、 かたい フ ばかり たべて いる から よ、 ほら、 おすき な オシオ よ、 それ を ぐっと のんで イブクロ が ひりついた グアイ が、 とても、 たまらない でしょう、 みて ごらん、 ほら、 ほら、 メ に ツヤ が でて きた し、 コウリン たちまち さかえて きた わ」
「イイカゲン に しない か。 あの カタ、 まるで キンギョ の ゴシンセキ みたい に ナニ か いって いらっしゃる。 よほど、 キンギョ が おすき と みえる って いって いる じゃ ない か」
「ニンゲン に アタイ の バケノカワ が わかる もん です か、 オジサマ、 ヒサシブリ で フコウ な オトモダチ の ヨウス を みて、 オジサマ が アタイ を ダイジ に して くださる こと が、 どんな シアワセ だ か わかって きた わ、 オジサマ に、 オレイ を いう わ」
「だから ね、 キンギョ と おはなし する の やめる ん だよ、 ミナサン、 ヘン な カオ を して いる じゃ ない か」
「だいじょうぶ、 チビ たち が はなれない ん です もの、 あら、 しろい カビ の よう な オデキ が できて いる コ も いる わ、 すぐ とらなくちゃ タイヘン な こと に なる、 ……すみません が オチャワン ヒトツ かして ちょうだい、 この コ を ベツ に して カビ を とらなくちゃ、 じっと して いて、 いたい の を ガマン して いる のよ、 すぐ すむ わよ、 ほら、 はげた わ、 この アト に シオ を ぬって と、 さあ、 もう あそんで も いい わよ、 アシタ は さっぱり する から」
「オジョウサマ は キンギョヤ さん みたい です ね、 ドナタ が いらっしって も、 キンギョ の こと なんか ちっとも みて くださらない のに、 ゴシンセツ に して いただいて すみません、 ミナ、 オジョウサマ の ほう を みあげて います わ、 コトバ が わかる よう な カオ を して いる ん です もの」
「ええ、 アタイ が すき だ から、 キンギョ の ほう でも わかる らしい のね、 オジサマ、 キンギョ が オジサマ の こと を アナタ の ダレ だ と たずねて いる わよ、 だから アタイ、 この ヒト は アタイ の いい ヒト だ と いって やった わ、 そしたら ミナ が うふふ、 ……って わらって いる わよ、 あの コエ、 あんな にぎやか なの きこえて、 オジサマ」
「きこえる もん か、 ミンナ キンギョ って おなじ カオ して いる じゃ ない か」
「でも、 カオ の ヒトツ ずつ が ミンナ ことなって いる わよ、 オヤコ シマイ ベツベツ な カオ を して いる わ、 よく、 くらべて みる と わかる わよ。 アタイ ね、 オネガイ が ある ん です けれど、 きっと きいて いただける わね」
「ナン なの、」
「この キンギョ いただけない かしら、 ここ に おく の かわいそう だ から つれて かえりたい の、 ミンナ フシアワセ なん だ もの、 このまま、 みて もどったら、 アタイ、 キ に なって コンヤ は とても ねむれそう も ない わ」
「ベツ の キンギョ を かって もらう こと に したら、 きっと くれる よ、 キ に なる なら かって あげよう、 ワケ の ない こと だ」
「ありがとう、 オジサマ、 5 ヒキ で 100 エン だせば いい わよ、 たんと だす ヒツヨウ ない わ、 アタイ、 ネダン みんな しってん だ から」
「では 100 エン だす こと に しよう。 そろそろ かえろう ね」
「ええ…… あら、 ダレ でしょう、 ダレ か が トビラ の アイダ から こっち を のぞいて みて いる わ。 ジョキュウ さん、 ドナタ か、 いらっしって いる らしい わよ」
「あの ヒト、 ロウケツゾメ の もの を うって いる カタ なん です。 オイリヨウ だったら、 そう いいましょう か、 イツモ は ナカ に はいって いらっしゃる ん だ けれど、 キョウ は どうした ん でしょう、 おはいり に ならない わ、……」
「あら、 ちょっと まってて オジサマ、 キョウ カイジョウ に いらっしった カタ だわ、 ちがいない わ、 ヨコガオ が オバサマ そっくり だ もの。 オバサマ、 オバサマ じゃ ない の、 あら、 トビラ から カオ を はずしちゃった、 オジサマ、 アタイ、 ちょっと おっかけて いって みる わ」
「ナニ いって いる ん だ」
「オバサマ、 タムラ の オバサマ、 アタイ よ、 ヒルマ、 オミズ を あげた アタイ よ、 ちょっと まってて、 そこ の コウジ は イキドマリ なの よ、 オジサマ も ゴイッショ で、 サッキ から オバサマ の オハナシ を して いた ところ なの よ、 ねえ、 ひきかえして ちょうだい」
「キミ、 ヒトチガイ だよ、 ロウケツゾメ なんて おかしい じゃ ない か」
「オジサマ、 オモテ に でて いらっしゃい、 ほら、 こっち を おむき に なった、 オバサマ だ、 あの カタ よ、 あの カタ なの よ、 イキドマリ な もの だ から、 まごまご して いらっしゃる。 ね、 オジサマ、 ヘイ の ところ を みる のよ、 マショウメン で すこし の マドイ も なく たって いらっしゃる じゃ ない の、 みて よ、 みて よ」
「みた、 たしか に タムラ ユリコ だ、 いくら ぼやけたって ウソ の ない カオ だ」
「オジサマ、 ナニ か おっしゃい、 オジサマ の おっしゃる の を まって いらっしゃる ふう だわ、 あ、 オクチ が すこし ずつ あいた、 おわらい に なった、 オジサマ、 コシ を かがめて ついに アイサツ なすった じゃ ない の、 オジサマ も ゴアイサツ を なさい、 はやく よ、 はやく する のよ、 わらって おあげ する のよ、 なんて オクビョウ な オジサマ な こと か、 やっと した わ。 オバサマ の うれしそう な オカオ ったら ない わ、 ふだん、 あんな オカオ で わらって いらっしった の、 すごい うつくしい カオ だな」
「キミ、 よんで みたまえ」
「オジサマ が よんで あげる のよ、 あら、 オバサマ、 そこ の レンガベイ の アナ は ぬけられない わよ、 オカラダ に キズ が つきます、 アタイ、 そこ に イマ いきます から」
「いって つかまえて くれ」
「しんだって はなさない つもり で、 オテテ に ぶらさがる わ、 オジサマ も いらっしゃい」
「うむ」
「オバサマ、 そこ の アナ は カケイシ で がじがじ して あぶない ったら。 ぬけたって ムコウガワ は ドロドロガワ なの よ、 おっこったら しんじまう」
「くぐった ね、 はやい ね」
「あ、 アナ の ソト に くぐって でちゃった、 あれ、 ミズ の オト じゃ ない、 ごぼん と いった の は?」
「そう、 ミズ の オト かな」
「オジサマ、 また アセ と アブラ が サッキ みたい に、 ヒタイ に にじみでた わよ、」
「だまって いろ、 ナニ か きこえる」
「オバサマ の コエ だ わね、 うなって いらっしゃる よう ね、 ミズ の ナカ から かしら、 それとも、……」
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ミツ の アワレ 3

2020-06-21 | ムロウ サイセイ
 3、 ヒ は みじかく

「アタイ ね、 サッキ から かんがえて いた ん だ けれど、 こんな リッパ な イレバ を おいれ に なって も、 オジサマ は、 オトシ だ から まもなく しぬ でしょう」
「そりゃ しぬ ね、 キン の イレバ だって なんにも なり は しない よ、 けど、 これ で なんでも かめる から しごく アンラク だね」
「ハグキ の ツクリ が みんな キン でしょう、 いったい、 どれだけ メカタ が ある かしら」
「ナンモンメ ある もの かな、 なぜ、 そんな こと を ききだす ん だ、 きまりわるそう に して さ」
「オジサマ が しんじゃったら、 ダレ が いっとう サキ に イレバ を とっちゃう かしら」
「ダレ だ か わからない な、 あるいは キミ かな、 キミ は、 キン を ほしがって いる ん じゃ ない か」
「あ、 あたっちゃった、 アタイ、 オジサマ が おなくなり に なったら、 それ、 ダレ より も サキ に いただく わよ、 それ で ミミワ と ユビワ と を こさえる の、 イマ から オヤクソク して おいて ね、 きっと、 やる と おっしゃって おいて よ」
「やって も いい けれど、 クチ の ナカ に ユビ を いれて イレバ を はずす とき に、 かみついて みせる から、 それ が こわく なかったら とる ん だね」
「ホント、 かみつく キ なの、 だって オヤクソク だ から いい じゃ ない の」
「その とき の キブン-シダイ なん だよ、 ハラ が たって いたら、 ユビサキ を がにっと かんで やる」
「しんで いる ヒト が かみつく こと なんか、 ない じゃ ない の」
「クチ だけ いきのこって やる」
「ふふ、 そしたら アタイ、 サキ に オジサマ の クチ の ナカ に フデ の ホ を いれて、 まだ、 いきて いらっしゃる か どう か、 ためして みて から に する わ、 くすぐったがらなかったら、 すぐ はずす わ」
「ボク は くすぐったくて も、 じっと ガマン して いて、 ユビサキ が クチ の ナカ に はいる の を まちうけて いる」
「いや よ、 そんな イジワル する なんて、 くださる もの なら、 あっさり と くださる もの よ」
「やる よ、 しんで まで かみつき は しない、 ただ、 そう いって みたかった だけ だ」
「サッキ から の オハナシ を みんな きいて いて、 ボックス に いる カタ、 わらって いらっしって よ、 でも、 あの カタ、 オジサマ の カオ と アタイ の カオ と を みくらべて いて、 どんな アイダガラ だ か を よんで いる みたい ね、 あの メ どう でしょう、 ちっとも、 チエ の まじって いない メ の ウツクシサ だ わね」
「きいた ふう な こと を いう ね、 ああいう メ を して いる ヒト は、 も ヒトツ オク の ほう に ベツ の メ を もって いて、 それ が なんでも みとどけて いる カワリ に、 オモテガワ の メ は いつも ルス みたい に うつくしく みえる ん だよ」
「ドナタ か を まって らっしゃる の かしら?」
「さあ ね、 なかなか いい カオ を して いる。 キミ みたい に、 やはり ぽかん と して いる けれど」
「ゴアイサツ ね、 あの カタ、 アタイタチ が はいって くる と、 すぐ アト から いらしった カタ よ、 アタイ の カオ ばかり みて いて、 おはなし しかける みたい よう に、 にこにこ して いらっしゃる じゃ ない の」
「キンギョ の バケノカワ が わかって いる の かも しれない よ、 コーヒー は のまず に ミズ ばかり のんで いる から だ」
「アタイ、 あの カタ と、 おはなし して みよう かしら」
「それ より デガケ に きた テガミ を みせて くれ」
「ほら、 はい。 これ を よむ と いい キモチ よ、 この オジョウサマ の オカアサマ の ショウセツ なの よ、 いい か わるい か は わからない から、 よんで いただきたい って、 オジョウサマ の テガミ が はいって いる のよ」
「こういう バアイ も ある ん だね」
「オカアサマ が オジサマ に チョクセツ に、 テガミ を おかき に なる の が、 きっと キマリ が わるい のね、 アタイ、 こういう オジョウサマ に なって みたい」
「もう 1 ツウ の は?」
「オジサマ の オウチ の マエ を いったり きたり して いる の は、 じつは ワタクシ なの で ございます、 ジカン は 5 ジ、 もし オテスキ で ございましたら おあい くださいまし と かいて ある わ、 アタイ、 その オジカン に でて みて、 いらっしったら おとおし する わ。 かまわない でしょう、 5 ジ なら いつも ぽかん と して いらっしゃる オジカン だ から」
「おとおし して も いい よ、 べつに ぽかん と して いる わけ じゃ ない」
「だって なにも なさらない で、 ぼうっと して いらっしゃる じゃ ない の。 アタイ ね、 キノウ フイ に (ウミ を わたる 1 ピキ の キンギョ) と、 かいて みた のよ、 とても おおきい ウミ の ウエ に キンギョ が 1 ピキ、 そりかえって もえながら わたって ゆく ケシキ なの よ、 そう かんがえて みたら、 アタイ たまらなく エ が かきたく なっちゃった、 それ の カエシウタ が フイ に でた わ、 (ヤマ を のぼって ゆく アタイ、) と いう の」
「ふむ、 (ウミ を わたる 1 ピキ の キンギョ、) か、」
「きこえた の かしら、 あの カタ、 コンド は コウシキ に ワライガオ を して いらっしゃる わよ、 きっと、 オジサマ の オナマエ を しって いる カタ なの よ、 だから、 アンシン して わらって きいて いる のよ」
「キミ の コエ が おおきい から なん だ、 ウミ を わたる 1 ピキ の キンギョ と きいた だけ で、 ぷっと わらいたく なる じゃ ない か」
「キンギョ は オサカナ の ナカ でも、 いつも もえて いる よう な オサカナ なの よ、 カラダ の ナカ まで シンク なの よ」
「なぜ そんな に サカナ の くせ に、 もえなければ ならない ん だ」
「もえて いる から、 オジサマ に すかれて いる ん じゃ ない の」
「そう か、」
「オジサマ の イカイヨウ だって アタイ が はいって いって、 なめて あげて、 オクスリ を たんと ぬって あげた から、 なおった の じゃ ない の、 アタイ の もえた リン が あんな おおきい イブクロ の キズ まで、 おなおし して しまった じゃ ない こと、 ナニ いってん の、 そんな ノウコウ な オカシ まで めしあがれる よう に なった の も、 みな、 アタイ の リン の せい なの よ」
「それに ビョウイン の クスリ の こと も、 わすれて は ならない ん だ」
「ビョウイン の クスリ は タダ の ブッシツ だ わよ、 アタイ の リン と、 ウロコ の ヌラヌラ は、 みんな いきて いる ヌラヌラ なの よ、 イチド イチョウ に はいって いったら、 アタイ、 メダカ の よう に ショウスイ して でて くる の、 オジサマ に それ が わからない の」
「わかる よ、 おおきな コエ を だす と、 ほら、 また あの ヒト が わらう じゃ ない か」
「あの カタ、 ここ に よんで みる わ、 ダレ も き も しない ヒト を まつ なんて、 どうか して いる」
「はなしかける の は よしなさい、 ナレアイ の キンギョ みたい に、 ニンゲン は すぐ トモダチ に なれる もん じゃ ない」
「それ も そう ね、 アタイタチ は すぐ オトモダチ に なって しまう けれど、 ニンゲン は そう は カンタン には、 オトモダチ に なれない わね」
「キミ デンワ だよ、 ハイシャ の チリョウ ジカン なん だ」
「じゃ、 いって まいります。 ここ に いて ね、 40 プン くらい かかる けれど、 キョウ で、 もう オシマイ だ から ガマン して ね」
「フタリ とも ハ が わるくて は こまる ね。 なるほど、 ハイシャ さん には ちゃんと、 クチベニ は おとして でかける なんて、 カンシン だね」
「で なかったら センセイ の テ も、 オドウグ も、 クチベニ で マッカ に なる じゃ ない の? どう、 とれました か」
「とれた よ、 クチベニ を とる と、 まるで ぼやけた カオ に なる」
「クチベニ は オンナ の トウダイ みたい に、 あかあか と ともって いる もの よ、 きえたら、 シン まで しょんぼり して くる わ。 じゃ いって きます、 あの、 それから、 あの カタ と アタイ の ルスチュウ ナカヨシ に なったら、 きかない わよ、 うふ、 アタイ って ヤキモチヤキ だ わね」
「おおきな コエ を たてる と きこえる よ、 ほら、 オカネ、」
「キョウ の オキマリ の タバコ は もう あがって いる から、 アト は ハンボン だって おのみ に なっちゃ いけない わ、 タバコ の ハコ、 もって ゆく わよ」
「1 ポン だけ おいて いって くれ」
「ダメ、 つい 1 ポン が 2 ホン に なる から、 タバコ を みたら、 ドク と おもえ と いう こと が ある わ、 おとなしく まって いらっしゃい。 じゃ、 いって きまあす」

「あら、 いつか の オバサマ、 ほら、 コウエンカイ で おあい した オバサマ、 アタイ、 ちらっと みて、 すぐ わかっちゃった」
「オヒトリ じゃ ない わね、 ずいぶん、 おおきく おなり に なった のね」
「オジサマ と ゴイッショ なの、 さあ、 いきましょう、 オジサマ ヒトリ で オチャ のんで いらっしゃる から、 ちょうど、 いい ジブン だわ、 いつか フクロコウジ で おにげ に なった でしょう、 でも、 キョウ は はなさない わよ」
「キョウ も イソギ の ヨウジ が ある んで、 こうして は いられない の。 だから、 オジサマ には おあい できない わ、 アナタ と だけ、 ちょっぴり おはなし する けど」
「そんな こと いわない で、 いらっしって よ、 オジサマ は きっと およろこび に なります、 ミョウ ね、 ハ の オイシャ サマ の ところ に くる と、 きっと、 オメ に かかれる なんて、 コノアイダ も そう だった わね。 コノアイダ は どうして あんな に おにげ に なった の」
「はずかしい から でしょう、 こんな きたない カッコウ して いる から、 おあい したく ない のよ」
「ちょっと でも いい ん です から いらっしって、 ここ、 はなさない わ」
「オジサマ は、 アナタ を かわいがって、 くださる、……」
「ええ、 そりゃ もう、 なんだって いう こと きいて くださる わよ、 アタイ の オシリ だって かゆい って いえば、 かいて いただける し」
「まあ、 オシリ だって、……」
「アタイ が こんな に ちいちゃい でしょう、 だから コドモ だ と おもって いらっしゃる のよ、 ホント は、 アタイ、 コドモ なんか じゃ ない ん です けれど、 そして なんだって しって います のよ、 オバサマ が おあい に ならない ワケ も、 ちゃんと わかって いる のよ」
「では、 その ワケ いって ちょうだい、 どうして おあい できない か と いう こと を ね」
「オバサマ は、 ユウレイ でしょう、 だから おあい に なれない の でしょう、 ほら、 ヘン な オカオ に なった わ、 ムカシ の ユウレイ は、 カワ の ソバ の ヤナギ の キ の シタ に いた けれど、 コノゴロ は、 ビル の ナカ から も でて いらっしゃる わね」
「その ユウレイ が モノ を いう のね、 ほほ、 でも アナタ だって ユウレイ じゃ ない こと」
「アタイ、 いきて ぴんぴん して います、 なんでも たべて いる し、 けっして にげたり なんか いたしません」
「いたしません けれど ね、 ニンゲン に うまく ばけて いらっしゃる じゃ ない こと」
「ばれちゃった わね、 オジサマ が ショウセツ の ナカ で ばけて みせて いらっしゃる のよ、 モト は、 アタイ、 500 エン しか しない キンギョ なん です。 それ を オジサマ が いろいろ かんがえて イキ を ふきこんで くだすって いる の、 だから、 ミズ さえ あれば どこ に でも オトモ が できる ん です、 そして アタイ、 あまったれる だけ あまったれて いて、 いつも、 オジサマ を とろとろ に して いる の、 オジサマ も それ が たまらなく おすき らしい ん です」
「あの カタ は もとから そういう カタ なの よ、 メダカ 1 ピキ スイバン に いれて、 イチニチジュウ ながめて いらっしゃる よう な カタ なの ね、 ナニ が おもしろい ん だ か わからない けど、 あきる こと も ない らしい、 そして とつぜん カオ を あげる と マチ の ナカ を あるく ため に、 オウチ から とびだして おしまい に なる、……」
「そして オバサマ と おあい に なる、 オバサマ は いつのまにか しんで おしまい に なった、 その オバケ さん が オジサマ の スキマ を みつけて、 トコロ と ジカン を かまわず に おはいり に なる、……」
「そこで キンギョ の アナタ に みつけられた と いう こと に、 なる わね。 でも、 キンギョ を みつけた こと は さすが に オジサマ だ けれど、 キンギョ だって トウセツ ユダン が ならない わよ、 アナタ みたい な ダイタン な キンギョ も いる ん だ から」
「アタイ ね、 キンギョ だ って こと みやぶられた こと、 はじめて なの、 いつも それ が キ に なる ん だ けど、 ユウレイ の オバサマ に あったら、 かなわない わよ、 けど ね、 オバサマ が ユウレイ だ と いう こと、 ホントウ の こと かしら?」
「さわって みる と いい わ、 つめたく ない でしょう、 ほら ね、 ここ に テ を いれて みたって わかる でしょう、 こんな に、 ほかほか と あたたかい でしょう」
「ええ、 オッパイ も ある し ムネ の フクラミ も ある わ、 やはり ユウレイ と いう こと は ウソ なの ね、 アタイ の キンギョ だ と いう こと は ホンモノ だ けれど、 あ、 オバサマ、 いつのまにか きちゃった、 ここ なの よ、 ほら、 あそこ に ヒトリ で ぽつん と して すわって いらっしゃる でしょう、 あれ も ユウレイ の オジサマ かも しれない けど、 ね、 おはいり に なって、 ちょっと でも いい から、 あって おあげ して ね、 あら、 サッキ の ヒト が ソバ に きて ナニ か いって いる わ」
「じゃ、 ワタクシ これ で」
「ダメ だ と いったら、 カオ だけ でも みせて おあげ して よ」
「ワタクシ の ほう で オカオ を みた から、 それ で いい のよ、 オジサマ は ワタクシ なんか みなく とも、 みる ヒト が たくさん おあり に なる ん です から、 じゃ、 ダイジ に して あげて ね」
「また いっちゃった、 なんて アシ の はやい ヒト なん だろう。 オジサマ、 ただいま、 あら、 ごめん あそばせ」
「この カタ は ね、 サッキ の テガミ の カタ なん だ、 キョウ ユウガタ いらっしゃる はず だった が、 マルビル に ヨウジ が あって いらっしって グウゼン に でっくわして、 アト を つけて みえた ん だ そう だ、 はは、 アト を つけた なんて これ は シツレイ」
「でも おつけ した こと は ジッサイ なん です もの、 オメ に かかれて とても うれしゅう ございます わ、 ハ の ほう、 おなおり に なった ん です か」
「ええ、 もう すっかり、……」
「では、 ワタクシ、 これ で シツレイ いたします」
「そお、 そのうち、 タク の ほう に いらっしって ください」
「ごめん あそばせ」
「ヘン な カタ ね、 アタイ が かえって くる と、 ろくに ハナシ も しない で いく なんて、 あの カタ、 オジサマ が とうから しって いる カタ なん でしょう、 それ を アタイ が まだ コドモ だ と おもって、 ごまかして いらっしった のね、 ちゃんと わかる わ、 アタイ の いない アイダ に たんと おはなし した の でしょう。 どうも、 にこにこ と おはなし したそう な ヨウス が おかしい と おもって いたら、 あたっちゃった、 ナニ、 おはなし して いらっしった の」
「キミ の こと さ」
「アタイ の ナニ を おはなし して いた の」
「キミ は ボク の オジョウサマ か と きいた から、 まあ、 そんな もの だ と こたえた ん だ。 そしたら、 とても、 おちいさい けれど オリコウ そう だ と いって いた」
「ヤキモチヤキ で こまる と、 おっしゃった の でしょう」
「それ も いって おいた よ、 なんでも ユダン の ならない コ だ と、」
「アタイ が キンギョ だ なんて、 おっしゃり は しなかった でしょう ね」
「それ は いわなかった、 いって も ホントウ だ とは おもわない から だよ、 キンギョ が そんな に うまく ニンゲン の カタチ を ととのえる こと は、 ヨソウ イジョウ の こと なん だ」
「で、 いったい、 なんの ゴヨウ が あった の」
「ちょっと した こと だ、 キミ に いったって わかりっこ の ない こと だ」
「たとえば?」
「キミ には わからない こと なん だよ」
「アタイ に わからない こと なんか、 ヒトツ も ない はず よ、 かくさない で いって ちょうだい、 アタイ、 はじめ あの カタ に コウイ を もって いた けれど、 オジサマ を とりあげる よう な ヒト は、 ことごとく ミンナ テキ に まわす わ」
「てきびしい な」
「ナニ か かくして いる こと おあり でしょう、 きっと、 かくして いる」
「かくして なんか いる もの か」
「オカオ の イロ が アイマイ だ わよ、 キ を つけて、 ごまかそう と して いらっしゃる。 オジサマ は、 そんな とき には、 メ を アタイ から そっと おそらし に なる もの」
「もう、 ここ を でよう じゃ ない か」
「ハクジョウ しなきゃ でない わ、 いつまでも、 すわってて やる」
「じゃ、 キミ ヒトリ いたまえ。 ボク は もう かえる から、 キュウジ さん、 カンジョウ して ください」
「とうとう、 ハクジョウ しなかった わね、 じゃ、 アタイ も、 ある オンナ の ヒト に あった こと いって やらない」
「ダレ に あった の、 ロウカ かね」
「そんな こと いう ヒツヨウ は ない わ、 オジサマ が いわない のに、 ダレ が いう もん です か」
「レイ の コウエンカイ で あった ヒト の こと だろう、 キミ の しって いる の は あの ヒト の ホカ には、 およそ ニンゲン の ウチ で ダレ も しって いない はず だ、 どう だ あたったろう」
「うまく おあて に なった わ、 イシン つうじる もの が ある のね、 あの カタ、 とつぜん、 ロウカ で アタイ を よびとめた の、 オジサマ が きて いる こと、 ちゃんと しって いらっしった わ」
「ボク には あいたく ない と いって いた だろう」
「あんまり おあい したい とき には、 ギャク に ニンゲン は あいたく ない と いう もの らしい わ、 それでいて、 あわない で かえって ゆく の は、 なんとも いえない つらい キブン が ある らしい わ」
「どんな カオイロ を して いた」
「ええ、 オカオ は はればれ して いました、 アシ が はやくて わかれた と おもう と、 もう、 カイダン を おりて いらっしった。 アタイ、 オジサマ に つられて みんな いって しまった けど、 まだ、 オジサマ は あの ヒト の こと は ちっとも はなさない わね、 いったい、 どういう オハナシ を して いらっしった の」
「ひっくるめて いう と ゼイキン の ハナシ なん だ、 あの オンナ は コノゴロ、 なんでも はたらきつづめて やっと アナ を ぬけだした らしい の、 アナ って カカエ の ウチ の こと なん だ がね、 そしたら 2 ネン ブン の ゼイキン が どかっと やって きた と いう ん だ、 2 ネン-カン で 8 マン ナンゼン エン と いう ゼイキン の コクチショ を メノマエ に おいて、 メ が くらんだ そう だ、 それ を カカエヌシ が すぱっと はらって くれた ん だ、 べつに たのみ も しない のに ね、 そこで、 ほら、 あの オンナ は モト の ショウバイ に ギャクモドリ させられる と いう こと に なる ん だ」
「ゼイキン が また アナ ん ナカ に あの カタ を つきおとした こと に なる のね。 やっと はいあがった ところ を、 アタマ から むりやり に つきもどして しまった のね」
「ボク は そんな ハナシ を はじめて きいた が、 ゼイキン を はらう ため に ね、 どれ だけ の ニンゲン が しななく とも いい イノチ を しんだ こと か」
「その ゼイキン の オンナ の ヒト と オジサマ と、 どんな カンケイ が ある と いう の」
「カンケイ は ない ん だ けれど ハナシ だけ は きいて くれ と いう ん だ、 だから ボク は ハナシ を きいた の だ、 あの オンナ が カカエヌシ から にげだした こと を きいた の だ」
「はらえない もの ね、 ところで オジサマ に その カネ はらって くれ と いう の」
「キョウ あった ばかり の ヒト が、 そんな こと を いう もの か」
「では、 オジサマ の オナマエ を しって いる と いう こと だけ で、 それ を いいたかった と いう の」
「そう だ、 うまく いいあてた よ、 ワタクシ は それ イガイ に なにも のぞまない と いって いた けれど、 ボク は こう いって みた のさ、 では、 アナタ は ある トクテイ の オカネ を さしあげれば、 ボク と ショクジ を し イチニチ あそんで くれます か と いったら、 ええ、 と こたえて くれた、 では、 アナタ は イマ ボク の いった よう な こと を いう アイテ に、 ミナ そういう こと を のぞみ、 また それ を ヘイキ で やります か と いう と、 たぶん、 それ は そう いたしますまい と こたえて いた、 つまり その オンナ は アタマ を つかう シゴト が して みたい と いう ん だ、 ジムイン とか ケイリ の ほう とか の、 アタマ の いる シゴト を みつけたい と いいつづけて いた の だ」
「ところで オジサマ は どう おっしゃって、 あの カタ の ミチ を ひらいて おあげ に なった の」
「ボク は タバコ の ケース を シンテイ した だけ だ」
「ケース の ナカ に、 イツモ の クセ で、 オカネ かくして もって いらっした の でしょう」
「うむ、 まあ ね」
「どうも タバコ を とりだす フウ も なさらない のに、 ケース を よく もって いらっしゃる と おもって いた わ。 オンナ の ヒト は それ を ヘイキ で うけとった の」
「もらって も よい ヒト から もらった ふう で、 うけとって いた よう だ、 そして ワタクシ どのよう に おっしゃる こと を おつとめ したら いい の でしょう か と、 マジメ な カオツキ で いった の だ、 キミ の イイブン では ない けれど、 エイチ の ない ミズ みたい な メ で、 ボク を おだやか に みて いた」
「で、 オジサマ は、 ナニ か オヤクソク を なさいました」
「ボク は また ワリ の よい シゴト で カネ は とれる こと も ある ん だ から、 その カネ で にげられる だけ にげなさい、 イマ の アナタ には にげる より ホカ に ミチ は ない、 ダレ でも ニンゲン は にげなければ ならなく なったら、 スガタ を けす に かぎる と いったら、 ワタクシ も それ に かぎる と おもいます と いった。 で、 ね、 キミ、 この オンナ の ヒト は キョウ デガケ に ボク の ウチ の マエ を ぶらぶら して いて、 ボクラ が でかけた アト から、 ずっと マチ まで つけて きて いた ん だ」
「オジサマ は、 ソコナシ に オンナ に あまい わね」
「ボク が あまい ん じゃ なくて オンナ の ほう が あまい ん だ、 ボク は ことわる こと は しって いる し、 しらぬ タニン に ダレ が カネ なぞ やる もの か、 ところが ニンゲン の ココロ に ハズミ が できる シュンカン には、 じつに きれい に アイテ に おうずる キアイ が ある もん なん だよ、 つまり ワリ の よい シゴト が まわって きて うしなった もの を、 ベツ の ニンゲン が かえして くれる バアイ だって ある もの だ、 それ の ヨソク と いう もの が ケイケン の ナカ に いきて いる と したら、 ショウガイ の ある ヒ には そんな こと の イッペン くらい したって いい ん だよ。 それ を しない の は、 ニンゲン の カチ を なくする ケチ な ヤツ の シワザ なん だ」
「その アト で オンナ の カタ が、 オジサマ の アト を おうて きたら どう なさる」
「おえば おうて くる で、 いい じゃ ない か」
「シマイ に、 グルグルマキ に まいて くる わよ」
「その とき は その とき だ、 まかれて よかったら そのまま まかれて いて も よい し、 わるかったら ぬければ いい、 ジョウチ の セカイ は ソノヒグラシ で いい もん だよ」
「ゼイキン と いえば アタイ にも、 ゼイキン が かかって いる わ、 キンギョヤ さん に いた とき、 オジイサン は ゼイキン を こまかく ケイサン して いて ね、 1 ピキ ずつ に みな すこし ずつ かけて いた わよ」
「キミ の 500 エン は たかかった。 ゼイキン が 2 ワリ くらい、 かかって いた ん だね」
「では、 ネン の ため に オジサマ に おきき いたします けれど、 たとえば アタイ を うって くれ と いう ヒト が あらわれて きたら、 オジサマ は おうり に なる かしら」
「うらない な、 こんな いい キンギョ は いない から な」
「ミミ の アナ の オソウジ も する し、 オツカイ にも いく し、 なんでも して いる ん です もの、 うられて は たまらない わ、 でも ナンマン エン とか いう タイキン を だす ヒト が いたら、 きっと、 おうり に なる でしょう」
「ナンマン エン も だす バカ は いない し、 だいいち、 ニンゲン の マネ を する キンギョ なんて どこ を さがして も いない よ」
「じゃ、 あの オンナ に おあげ に なった ケース の ナカ に あった オカネ ね、 あれだけ、 アタイ にも、 くださらない」
「あれ は グウゼン に そう なった ん だ が、 イマ あらためて そう きりだされる と、 ごつん と つかえて くる ね、 コダワリ が かんじられて すらすら と だせない」
「しらぬ ヒト に オカネ を あげて いて、 アタイ に、 ぐずぐず いって くださらない なんて、 そんな ホウ ない わ」
「その うち に だして よい もの なら、 だす こと に する」
「いったい、 あの ケース に いくら はいって いた の、 アタイ、 それ と おなじ くらい の オカネ いただきたい わ」
「おなじ くらい なんて バカ いいなさんな」
「だから いくら あった の か、 それ を いって よ」
「よく おぼえて いない ね、 ねじこんで いれて おいた ん だ から ね」
「ジブン の オカネ の タカ が わからない なんて、 そんな ノロマ な オジサマ じゃ ない でしょう、 はっきり ショウジキ に いう もの よ、 これだけ はいって いた ん でしょう」
「そんな に はいる もん か、 フタツオリ に して あった ん だ から」
「じゃ、 これ だけ?」
「それ も あたらない よ、 まあ、 2 ホン くらい が せいぜい なん だ」
「ウソ おっしゃい、 ほら、 また アイマイ な メツキ を して、 おそらし に なった、 ちゃんと、 どんな とき どんな カオイロ を なさる か って いう こと、 マイニチ ケンキュウ して いる から わかる のよ、 これ だけ は たしか に あった、……」
「それほど は なかった」
「ウソツキ、 あんな オンナ に オカネ やって、 アタイ に ちょっぴり しか くれない なんて、 ごまかそう と したって ダメ よ、 ドウガク で なきゃ ショウチ しない から、 ショウジキ に おだし に なる が いい わ」
「キョウ は ホカ に カネ は もって いない」
「デガケ に シャ の カタ が もって いらしった オカネ ある はず よ、 まだ、 ジョウブクロ に はいった まんま の オカネ だわ、 おだし に ならなかったら、 カラダジュウ しらべる わよ、 こわい でしょう、 さあ、 いい コ だ から、 オテテ あげて オジュバン に ポケット が ついて いて、 そこ に ちゃんと オカネ はいって いる はず よ、 ほら、 ごらんなさい、 こんな に ずっしり と ジョウブクロ が おもい くらい だわ、 これ、 みんな いただいとく わ、 そしたら あの ヒト に あげた オカネ の こと なんか、 もう いいださない から、 いい キミ ね、 ベソ を かいた みたい な カオ を して いる わ、 アタイ、 これ で サッキ から つまって いた もの が、 ぐっと イッペン に さがっちゃった」
「ユウショク は キミ が はらう ん だよ、」
「いいわ、 おごって あげる から なんでも」
「キンギョ でも オンナ と いう ナ が つく と、 ナマズ の よう な カオ を する」
「オジサマ は こらしめる こと の できない ニンゲン だ から、 うんと こらして あげる のよ、 アタイ、 つねづね、 ナマズ にも なって みたい し、 ぬらぬら した ウナギ にも なって みたかった のよ、 かわった オサカナ を みる と すぐ その マネ が して みたく なる、 イッショウ ぴかぴか した キンギョ に なりすまして いる の は、 イクジ が ない し タイクツ で キュウクツ なん だ もの。 シマイ に、 クジラ に でも なって、 ウミ の マンナカ で オヒルネ して みたい わ。 そしたら ね、 オジサマ を セナカ に ちょこんと のっけて あげる わよ、 およげない オジサマ は アタイ の セナカ から、 にげだす こと が できない もの、 どこ へも、 あの オンナ の ソバ にも いけなく なって、 セナカ で しんで おしまい に なる かも わからない わ、 でも、 オセナカ で なくなって くだすった ほう が、 アタイ には キ が ラク で、 とても うれしい わ」

「サクヤ の ウンテンシュ さん には、 アタイ も、 まいっちゃった。 そんな ムスメ か マゴ の よう な わかい オンナ と イッショ なら、 リョウキン の バイ くらい は おはらい に なったって いい じゃ ない か と、 ゆすられちゃった。 それ を オジサマ ったら、 それ も そう だ、 キミ から みれば バイガク の セイキュウ は トウゼン だ とか いって、 おはらい に なった じゃ ない の」
「あの とき は ボク の ココロ は おちついて いた、 ナニ を いわれよう が それ が ちっとも、 ハラ に こたえない で、 アイテ の ココロ を ソノママ に して おきたかった の だ。 ボク には フシギ に そんな キ の する とき が ある ん だよ」
「でも、 さすが に おとなしく おはらい に なった アト で、 ウンテンシュ が いったっけ、 どうも、 つい ヒトリミ な もん です から、 ゴムリ を もうしあげまして と いって あやまって いた わね、 きっと おはらい に ならない と おもって イヤガラセ の つもり だった のね」
「あの とき に キミ は ヒトコト も いわなかった の は、 よかった ね。 にこにこ して おもしろい こと が はじまった と いう カオツキ で いた の は、 よい カテイ に そだった オジョウサン みたい だった な」
「アタイ も そんな キ が して いた わ、 どうせ、 オジサマ は おはらい に なる ん でしょう し、 トシ も たいへん ちがう こと も ジッサイ です から だまって いた の、 そして ね、 アタイ、 あれほど ニンゲンナミ に みられた こと も、 うまれて はじめて だった のよ、 アタイ も、 えらく なった と そう おもった くらい だわ。 だって アタイタチ の ナカマ は ミンナ ひどい カワレカタ を されて いる ん です もの」
「どうして キンギョ は ミンナ がつがつ オナカ が すいて いる の。 どの キンギョ も マタタキ も しない で、 ソラ と エサ ばかり さがしまわって いる じゃ ない か」
「1 ニチ エサ を やって いて フツカ わすれて いる ヒトタチ に、 アタイタチ は かわれて いる ん です もの、 いつだって オナカ が すいて ひょろひょろ して いる わけ だわ、 だから、 メ ばかり つんでて しまって いる の、 セカイジュウ で いっとう ひどい メ に あって いる の は、 ニンゲン じゃ なくて アタイタチ の ナカマ だわ、 イワ と イワ の アイダ に ツウロ を こさえて あって、 そこ を およぐ の が ニンゲン には おもしろい ミモノ らしく、 ムリ に がじがじ した イワ の ナカ を あるかせる ん だ もの、 オ も ウロコ も はがれて しまう」
「キノウ も しんだ キンギョ が ミチバタ に、 ナンビキ も ひからびて すてられて あった」
「オトトイ も、 アタイ も、 メ の うごかない キンギョ を 1 ピキ みた わ。 いきて いる アイダ も ろくろく くわさない で、 しんだら ドウロ に おっぽりだす なんて ひどい シウチ だ わね、 オナカ に サキン が ある と アメリカ の ある ガクシャ が、 まんまと かついで みた けれど、 あれ は アマゾン の マムシ みたい な オサカナ だった のね」
「キミ は ダイガク では、 ナニ を やって いた ん だ」
「しれて いる じゃ ない の、 アミモノ と、 そいから ビヨウジュツ と、 ギョカイ の レキシ と、 それ くらい な もの よ、 オジサマ も いい シツモン を して くださる わね、 キミ は ダイガク で ナニ を やった なんて ヒト が きいたら、 ホンモノ だ と おもう じゃ ない の」
「その つもり で ヨウジン-ぶかく いって いる ん だ、 ボク は ね、 いつでも オトコ だ から オンナ の こと を かんがえて ばかり いる が、 オンナ の ほう では、 オトコ の こと なんか ちっとも かんがえて いない と おもって いた ん だ、 ジッサイ は そう じゃ なかった ん だね」
「それ は こういう こと なの よ、 オンナ も オトコ と おなじ くらい に、 5 タイ 5 の ヒリツ で イチニチ オトコ の こと ばかり かんがえて いる のよ、 オトコ の ほう から いう と、 オトコ ばかり が オンナ の こと を たくさん かんがえて いる と おもう でしょう、 ジッサイ は ハンブン ハンブン なの よ、 アサ ね、 オカオ を あらって オケショウ を して いる でしょう、 あの とき だって オトコ の こと を いっぱい に かんがえて いる のよ、 サンポ とか ショクジ とか を ヒトリ で する とき にも、 やっぱり オトコ イガイ の こと なんか かんがえて いない わ、 ビロウ な ハナシ です けれど、 ゴフジョウ の ナカ に いる とき だって、 やはり それ を かんがえつづけて いる のよ」
「どうして カワヤ の ナカ で かんがえる こと が きちんと いつも はかどる ん だろう ね、 カワヤ で かんがえた こと は、 いつも セイカク で コウカイ は ない」
「それから も ヒトツ、 オユウガタ に カッテ で オチャワン や オサラ を あらって いる とき が ある でしょう、 セトモノ が かちかち ふれて なる でしょう、 そして その ミズ を つかう オト と セトモノ の オト と が、 とつぜん、 しずまって オト が しなく なり、 しんと して くる とき が フイ に ある でしょう」
「ある ね、」
「あの とき に ね、 どうして テ を やすめなければ ならない か、 ゴゾンジ なの」
「しらない」
「つまり オンナ が オトコ に ついて ある カンガエ に、 とつぜん、 とりつかれて しまって テ が うごかなく なる のよ、 ほんの しばらく と いって も シュンカンテキ な もの だ けれど、 どうにも、 ミウゴキ の できない くらい に カンガエゴト が、 ココロ も ミ も しばりつけて くる シュンカン が ある のよ、 あんな こわい するどい ジカン ない わ、 ヨカン なぞ が ない くせ に とつぜん やって くる のよ、 ゼンゴ の カンガエ に カンケイ なく、 フコウ とか コウフク の ドチラガワ に いて も、 そいつ が やって きたら うごけなく なる わ、 ナイヨウ は いろいろ ある けど、 はっきり と わけて みる こと は できない けど、 それ が やって きたら みごと に しばらく その もの が いって しまう まで、 にらんで いて も、 みすごす より ホカ は ない のよ」
「オトコ にも その ボウゼン ジシツ の とき が ある、 カワヤ の ナカ なんか で そいつ に、 とっつかれる と はなして くれない やつ が いる」
「メイジョウ す べからざる もの だ わね」
「まさに そう だな、 メイジョウ す べからざる もの だ。 つまり メイジョウ と まで ゆかない なまなま した もの だ。 キミ は そんな とき どう する」
「アタイ、 じっと して いる わ、 その カンガエゴト が すうと とおりすぎる まで まつ より ほか ない わ、 くる こと も はやい が、 さって しまう の も、 とても すばやい やつ なの よ」
「それ なんだか わかる か」
「キョウ と いう ヒ が、 アタイ なら アタイ の ナカ に いきて いる ショウコ なん でしょう」
「そう いう より ホカ に、 イイヨウ が ない ね、」
「それ は うれしい よう な バアイ が すくない わね、 うれしい こと と いう もの は そんな ふう には、 こない もの ね、 うれしく ない こと、 つまり なやむ と いう こと は カラダ の ゼンブ に とりついて くる わね」
「そろそろ キミ の メシドキ だ、 トケイ が なった ぞ」
「ヘンデル の 4 ビョウシ ね、 ウエストミンスター ジイン の カネ の ネイロ って、 あまくて アタイ には、 ちょうど ネムリグスリ みたい に よく きく わ」
「ソト まで なる と、 きこえる か」
「え、 オイケ の ウエ に ねしずまる と、 じゃんじゃん と きこえて まいります。 おやすみ と いう よう にも、 また、 ガッショウ を して いる よう にも きこえて きます」
「キミ は バン には ミズ に かえって ゆく が、 かえって いく こと を いつだって わすれた こと が ない ね」
「そしたら しぬ もの」
「キミ を なんとか ショウセツ に かいて みたい ん だ が、 アゲク の ハテ には オトギバナシ に なって しまいそう だ、 これ は キミ と いう ザイリョウ が いけなかった の だね、 かいて も なんにも ならない こと を かいて きた の が、 マチガイ の モト なの だ、 オジサン の トシ に なって も いまだ こんな おおきい マチガイ を おこす ん だ から ね、 うかうか と ショウセツ と いう もの も かけない わけ だ、 なんの ナニガシ が どうした ああした とか、 フジコ さん とか レイコ さん が ああした こうした とも、 もう キマリ が わるくて かけない し、 いよいよ、 オジサン の ショウセツ も コンド こそ オシマイ に なった かな。 キンギョ と もみあって ノタレジニ か」
「はたきつくして ある だけ かいて おしまい に なった から、 アタイ を くどいた ん じゃ ない こと、 ダレ も ホカ の オンナ に もって ゆく には、 あまり に オトシ が とりすぎて いる から、 ケンソン して アタイ を くどいて みた わけ なの よ、 そしたら キンギョ の くせ に ジンズウ ジザイ で、 ひょっと したら ニンゲン より か なお しる こと は しって いる と きた の でしょう。 で、 かく こと の ネライ が はずれちゃった わけ でしょう」
「はかない ね、 ショウセツカ の マツロ と いう もの は はかない、 イマ ちょうど、 そこ を なにも しらず に、 ボク は ボウシ を かむって、 てくてく ほっつきまわって いる よう な もん だ」
「はかない と いう クチクセ で、 キョウ まで やって いらっしった ん じゃ ない の、 だから、 アト は シカタ が ない から その はかない こと ばかり かく のよ、 はかない ニンゲン が はかない こと を かく の は アタリマエ の こと だ わよ、 キンギョ の こと は キンギョ の こと しか かけない し、 ニンゲン は ニンゲン の こと しか かけない のよ」
「よし、 わかった、 では ゆっくり おやすみ」
「おやすみ なさいまし、 アシタ また」
「コンヤ は オジサン と ねない ん だね」
「キョウ は くたびれちゃって、 オジサマ を よろこばせる だけ の タイリョク が、 アタイ に、 なくなって いる のよ」
「ちいさい から ね、 では、 イキオイ よく、 どぶん と オイケ に とびこめ、」
「どぶん と とびこむ わ、 イチ、 ニ、 サン、 と、 あ、 わすれた、 アシタ は トコヤ に いく ヒ なの よ、 おわすれ に ならない で、……」
「ありがとう、 チンピラ」
「よいしょ、 どぶん、 ……と、 オイケ の カミサマ マチカネ や」

「ヒ が みじかく なった わね、 4 ジ ハン と いう のに、 もう くらい わ。 だんだん さむく なったら どう しましょう、 オエンガワ に いれて いただかなくちゃ、 イケ が こおったら、 アタイ、 しんじまう」
「ガラス の ハチ に いれて ヒナタ に おいて あげよう」
「ガラス の ハチ は ね、 シホウ から みられる から はずかしい わ、 アタイ、 いつでも ハダカ なん だし、 みんな みられて しまう もの」
「じゃ ベツ の ハチ に いれよう」
「え、 そうして ちょうだい。 あら、 ダレ か が ベル を おした わ、 オキャクサマ よ、 イマゴロ、 ドナタ でしょう、 もう オユウショク の ジカン なのに。 ベル も たった ヒトツ きり しか ならない エンリョ-ぶかい ところ から みる と、 オンナ の カタ らしい わ」
「こまる な、 もう メシ だし、……」
「でて みる わ。 いらっしゃいまし、 ドナタサマ でしょう か」
「ちょっと、 オタク の マエ を とおりあわせた もの で ございます から つい」
「あの、 ゴヨウムキ は ナン でしょう か、 タダイマ から オユウショク を とる こと に なって いる ん です が」
「ヨウジ なぞ は ございません けど、 ただ、 ちょっと おあい できたら と おもいまして、 あの、 ヘン な こと を おたずね する よう で ございます が、 アナタサマ は、 オクサマ で いらっしゃいます か」
「いいえ」
「オジョウサマ でしょう か」
「いいえ」
「では オテツダイ の カタ なん でしょう か」
「いいえ」
「ヒショ の よう な オシゴト を なすって いらっしゃる ん です か」
「そう ね、 アタイ にも よく わからない ん です けれど、 ヒショ みたい な ヤク なん でしょう ね、 オジサマ の こと は なんでも して おあげ して いて、 それ で、 オジサマ が およろこび に なれば うれしい ん です もの」
「オジサマ など と、 ふだん おっしゃって らっしゃる ん です か」
「ええ、 オジサマ、 オジサマ と もうしあげて います わ、 しかし アナタサマ は ドナタ なん でしょう。 ちっとも サッキ から ゴジブン の こと は、 おっしゃらない じゃ ありません か」
「ワタクシ は アナタ を みた ので ナマエ も なにも いう キ が しなく なりました。 おかわいい アナタ が いらっしって は、 おあい して も くださるまい し、 おあい して も、 かえれ と おっしゃる かも わかりません」
「ヘン な こと を おっしゃる わね、 それでは、 オジサマ の ムカシ の カタ で いらっしゃる ん です か」
「もう だいぶ マエ に なくなって いる オンナ なん です から、 おたずね して も ムダ だ とは おもいました けれど、 オンナ の ハカナサ で、 つい おたちより した の で ございます」
「と、 おっしゃいます と、 アナタ は ユウレイ の カタ なの ね、」
「ええ、 ユウレイ なの で ございます」
「オジサマ は どうして ユウレイ の オトモダチ が、 こんな に たくさん おあり なん でしょう か、 も ヒトリ の ユウレイ は コウエンカイ に まで いらっしった ん です が、 まるで ホンモノ そっくり に つくられて いました。 アナタ だって こう みた ところ は、 マチガイ ない ホンモノ の オンナ の カタ に みえる ん です もの。 コノゴロ ユウレイ-ゴッコ が はやる の かしら」
「アナタ だって、 それ、 そんな に、 うまく オジョウズ に ばけて いらっしゃる」
「まあ シツレイ ね、 でも、 おどろいちゃった、 イマ まで アタイ の バケノカワ を はいだ ヒト は ヒトリ しか いなかった のに、 アンタ は イッケン、 すぐ はいで おしまい に なった わね、 どういう ところ で おわかり に なります、……」
「コトバヅカイ の アマッタレ グアイ でも わかる し、 だいいち、 ニンゲン は そんな に たえまなく ぶるぶる と ふるえて い は しません、 ちっとも おちついて いらっしゃらない」
「これから キ を つける わ、 アタイ ね、 マイニチ、 もう さむくて ぶるぶる して いる ん です もの、 でも、 アンタ の バケカタ は うまい わね、 それ に タバコ でも のんで おみせ に なったら、 ニセモノ だ とは ダレ も きづかない わ」
「さっき ね、 なんでも オジサマ の こと は して おあげ する と、 おっしゃった わね」
「ええ、 いった わ。 だから、 ホカ の カタ には いっさい なにも して もらいたく ない ん です。 アンタ だって おとおし すれば、 ナニ を なさる か わかり は しない」
「じゃ、 おとおし して くださらない のね」
「ええ、 まあ ね、 カンニン して いただく より ホカ は ない わ、 オオクリ かたわら、 そこら まで あるきましょう か」
「どうして おとりつぎ して くださる の が、 おいや なん です か」
「いや だわ、 もう、 さむく なる と アタイ は、 カラダ の ジユウ が きかなく なる ん です もの、 アタイ が いなく なったら、 マイニチ でも いらっしゃい、 その マエ に ユウレイ だ と いう こと を オジサマ に そう いって おきます。 キョウト の ビョウイン で シュジュツ して しんだ カタ だ と もうしあげて おく わ」
「あの とき にも、 テガミ 1 ポン くださらなかった」
「だって アンタ は ホカ の カタ と チョウセン まで、 カケオチ まで なすった の でしょう。 オジサマ を うっちゃらかして おいて ね、 そして 40 ネン-ぶり に テガミ を くれ と おっしゃる の は、 ムリ だ わよ、 かく にも、 カキヨウ も なかった らしい ん です もの」
「あの とき は シュジュツゴ で、 ワタクシ は よわって しにかけて いました、 そんな とき ミョウ な もの で フイ に あの カタ の テガミ が よみたく なった の です。 いきた ニンゲン の かいた ジ と いう もの が ニンゲン の シニギワ にも、 キュウ に みたく なって くる とき が ございます もの。 ムカシ たくさん いただいた テガミ に、 まだ もれて いる ナンマイ か が ある よう な キ が して、 それ を かいて いただきたかった の、 そして まだ ワタクシ と いう モノ が その ナカ に ほんの ちょっぴり でも、 のこって いたら それ を よんで しにたかった ん です、 ワタクシ は マイニチ の チュウシャ で イノチ を つないで、 オテガミ ばかり まって いました、 フツカ いき ミッカ いき、 そして オテガミ を まって いた ん です もの」
「それ が とうとう サイゴ まで こなかった のね、 あんな に オンナ に あまい オジサマ が そんな ハクジョウ な こと が、 ヘイキ で して いられる の かしら、 ソウゾウ も できない わ」
「それ は ワタクシ の シウチ が あまり わるかった から でしょう、 ちょうど、 ワタクシ が ケッコン する フツカ マエ に おあい した とき にも、 だまって かくして いました。 そして フツカ-ゴ には、 もう にげる よう に して ケッコン して しまった ん です」
「ダマシウチ だ わね、 そりゃ あんまり ひどい わ」
「クチ に だして は いえない こと だし、 とうとう そんな ふう に なって しまった の です、 おあい して いて イマ いおう か、 ちょっと アト で いおう か と まよいながら、 ずるずる に いう こと が できなかった ん です」
「オジサマ の イカリ が 40 ナンネン の ノチ にも、 まだ、 イマ いかった ばかり の よう に なまなましい の は、 アタイ に よく わかる わよ、 それ は アナタ の ヤリカタ が あまり に わるい のよ、 それでいて イマゴロ おあい したい なんて イイキ な もの ね、 いくら しんで いたって、 とりついで あげない わよ」
「けれど ワタクシ、 いまだ あの カタ が いかって いらっしゃる と いう キモチ に、 すがって みたい キ が して いる ん です。 そこ に まだ あの カタ が ワタクシ に のこして いらっしゃる もの が、 きえない ショウコ が ある ん じゃ ない ん でしょう か」
「ダレ が ダマシウチ を した ヒト に キ が ある もの です か、 すがられて たまった もの じゃ ない わ」
「おおこり に なった わね、 ワタクシ、 ショウジキ に もうしあげた ん だ けれど」
「おこる も おこらない も、 ない わよ、 なんの ため に イマドキ うろうろ でて いらっしゃる の、 アタイ の いる アイダ、 いくら いらっしったって、 いつだって あわせて あげる もん です か」
「だから その ワケ を いって ゆっくり イチド は あやまって みたい と、 それ ばかり かんがえて、 うかがって みた ん です」
「イマ から いくら あやまり に なって も、 うけた キズアト が そんな に カンタン に なおる もん です か、 あやまる なんて コトバ は とうに、 ツウヨウ しなく なって いる わよ」
「こわい カタ ね、 ミカケ に よらない カタ」
「オジサマ は バカ で いて オンナズキ だ から、 あ、 よしよし と おっしゃる かも しれない が、 アタイ の メ を くぐろう と したって、 イッポ も オニワ の ナカ にも いれ は しない」
「では、 かえる こと に します。 やはり くる ん じゃ なかった。 たずねて も なんにも ならない こと は、 キ の せい か、 わかって いた ん だ けれど、」
「つい きたく なった と いう の でしょう、 ホンモノ の オバケ なら モン から ふうわり と とんで いって、 オジサマ の オショサイ に いったら いい でしょう に、 そんな ユウカン な マネ も できない くせ に、」
「そう よ、 そんな ユウキ なんか ミジン も ない のよ、 ただ、 しょげて かえる だけ です わ」
「はやく かえって よ、 モン の マエ では ヒト が たちどまって みる し、 このうえ、 こまらされて は とても メイワク センバン だわ」
「では、 また、 ゴキゲン の いい とき に うかがう わ」
「ニド と いらっしゃらないで よ、 なんて ぬけぬけ した バケモノ でしょう。 あんな オンナ と わかい とき に つきあった オジサマ だって、 オッチョコチョイ きわまる わ。 イッペン、 オトコ を ふって おいて、 ジブン で あいたい とき には ばけて でる なんて、 ツゴウ の いい バケモノ も この ヨノナカ には いる もん だな、 あばよ、 オトトイ おいで だ」

「どうした の、 ながなが と ハナシ を して いて、 こっち に ちっとも、 オキャクサマ の アンナイ も しない じゃ ない か」
「やっと かえって いった わ、 オメ に かかりたい と いった から、 イマ、 オショクジ が はじまる ん だ から って、 おことわり した わ、 それ で いい ん でしょう」
「どんな カオ を して いる か みたかった ね、 45 ネン も あわない ヒト なん だ」
「ヤクシャ みたい しろい カオ を して いらっしった。 ムカシ の まんま の オカオ らしい わ。 シュジュツ の アト では、 よほど、 おあい したい ふう な ハナシ だった けれど、 オジサマ を たすけなかった ヒト は、 コンド は、 こっち で みごと に てきびしく ふって やった わ」
「あの コロ の オジサン は ね、 とても、 ショウキ の ムスメ さん では つきあって くれない オトコ だった ん だよ、 つきあう ほう が どうか して いる、 まずい カオ を して いる し、 ナマイキ だし、 ナリフリ だって ゴロツキ みたい だし、 オカネ は ない し ね、 そんな ヤツ に アイテ に なる オンナ なんて ヒトリ も い は しなかった ん だよ」
「だって オンナ の ヒト に メ が なかった とも、 いえば いえる わよ、 いくら きたない カッコウ して いたって ワカサ が モノ いう じゃ ない の。 わかい オトコ って どんな ブカッコウ な カオ を して いらしって も、 ヒフ は ぴいん と はって いて、 それ だけ でも、 イッショウ の うち で いっとう うつくしい とき なん だ もの」
「ところが キミ、 ボク と きたら、 わかい ジブン から ジジイ みたい な ハンボケ の ツラ を して いた ん だ、 いくら そって も ヒゲ は ぎしぎし はえる し、 マイニチ オユ に はいって も カオ は きれい に ならない、 ボク は ね、 その ジブン はやって いた カイゼル-ガタ の ヒゲ を はやして いた が、 この ヒゲ と きたら、 その コロ の シャシン を みた だけ でも、 ぞっと して くる ね、 なにしろ ハヤシギワ は まだ うすい もん だ から、 ひそか に スミ を はいて いた こと も ある ん だ」
「あら、 おかしい、 オヒゲ を はやして いらっしったら、 どんな オカオ に なる か、 ソウゾウ も できない わ、 ダイタイ に おいて ニンソウ よく ない わね」
「ボウリョクダン か、 ユスリ の タグイ だね」
「でも スミ を いれて いた の は、 ちょっと、 かなしい じゃ ない の」
「あさましい カギリ さ、 それに オカネ は イチモン も ない と きたら、 どんな ムスメ さん だって よりつき は しない」
「オジサマ も、 そんな とき が あった の かな、 すべからく、 ヒト は ベンキョウ して セイジン す べき だ わね」
「ナマイキ いうな、 だから、 キョウ の ヒト、 ちょっと くらい とおして も よかった ね、 あれ でも、 オジサン の ウチ にも きて くれた し、 ボク も たずねて いった が、 いつでも カエリギワ には、 テ、 テ と ゲンカン の クラガリ で、 オカアサン に みられない よう に アクシュ を して くれた もん だよ」
「アクシュ が そんな に ジュウダイ な イミ が あった の」
「アクシュ が イマ の キス みたい に、 コウカ が あった ジセイ だった ん だ」
「そお、 それなら、 しばらく でも、 おとおし すれば よかった わね、 アタイ、 オジサマ を ふった オンナ だ と おもう と、 むしょうに かっと しちゃって、 オジサマ に あわせて やる もの か と いう、 キ が いらだって きて いた ん です もの」
「キミ は すぐ かっと する ね」
「もえる キンギョ と いう けれど、 ホント は おとなしく みえて も、 すぐ、 ホネ の ナカ まで かっと もえて くる ん だ もの、 でも、 アタイ に ね、 アナタ は オクサマ で いらっしゃいます か、 それとも オジョウサマ なん です か と おきき に なった わ、 アタイ、 つい あかく なっちゃった けれど、 ここ だ と おもって おちついて、 ヒショ だ と いって やった」
「うまく ばけた ね、 さあ、 メシ を くおう」
「アタイ ね、 いつも シオケ の ない もの は いや なの よ、 もっと おいしい もの が たべたい の。 たとえば、 カミノケ みたい な、 ミジンコ ミミズ ね、 あれ を そろそろ と たべて みたい のよ、 たまに オジサマ、 ドブ に いって すくって きて ちょうだい よ」
「きたない ハナシ を しなさんな。 ドブ に しゃがんで この トシ に なって さ、 ミジンコ が すくえる もの か、 かんがえて も ごらん」
「そい で なきゃ ハネ の ある ちいさい ムシ が たべたい わ、 カ みたい な ブヨ みたい な、 ぴかぴか した ハネ が おいしい のよ、 シタ の ウエ に へばりつく の が とても かわいくて おいしい」
「それ、 なんの マネ を して いる ん だ」
「これ、 アタイ の ヒミツ の アソビ なの よ、 こう やって モ を いっぱい あつめて まんまるく して、 その ナカ に カラダ-ごと すぼっと はいりこむ のよ、 メ の ナカ が すっかり あおく なっちゃって、 ガラス の ナカ に いる みたい に、 とても いい キブン なの よ、 この ナカ で ヒミツ を ひらく」
「どういう ヒミツ なん だ」
「アタイ だって もともと オンナ でしょう、 コ を うむ マネ も して みたい じゃ ない の」
「あ、 そう か」
「はやく コドモ が うみたい ん だ けれど、 もう、 こんな に さむく なっちゃった から、 うめそう も ない わ、 だから コ を うむ マネ を して、 あそぶ だけ は モ の ナカ で でも あそんで みたい わ」
「うれしそう だね」
「タマゴ を うんと うんで それ を マイニチ わからなく なる まで かぞえて みて、 そして その タマゴ に カラダ を すりよせて いる キモチ ったら ない わ」
「キンギョ の コ は かわいい ね、 キミ の よう に おおきく なる と、 にくたらしい ところ が でて くる けれど」
「でも、 アタイ くらい に ならない と、 オジサマ の オアイテ に なれない じゃ ない の。 あんまり ちいちゃい と メ の アナ の ナカ に でも おっこちそう なん だ もの、 ニンゲン って とても おおきい から な、 クチ の ソバ なんか あぶなくて ちかよれない もの、 ニンゲン って なぜ そんな に ばかばかしく、 おおきい カラダ を して いる ん でしょう か」
「これ でも まだ ボク は ちいさい ほう だよ、 ナカ には セイヨウジン なぞ、 2 メートル も ある ヤツ が いる よ」
「アタイ なぞ ニンゲン の オヤユビ くらい しか、 ない わね」
「キミ から みたら ズウタイ が おおきい んで、 いくら おどろいて も おどろきたりない だろう ね」
「オジサマ、 そろそろ コトシ の サイゴ の ムシ を とり に いきましょう よ、 コオロギ なら、 まだ、 そこら に たくさん ないて いる わ」
「アシタ の バン いこう、 ヒルマ に キミ が カゴ を かって おいて くれれば、 いつでも でかけられる」
「キョネン の コオロギ の メンタマ なんか、 すきすき に なって いた わね、 まるで セキタンガラ みたい に なって いて も、 まだ、 いきて いる ん だ もの、」
「ニンゲン は そう は ゆかない、」
「アタイ だって いまに オ も ヒレ も、 すりきれちゃって、 オシマイ には、 メンメ も みえなく なる でしょう ね、 それでも、 いきて いられる かしら」
「さあ ね、」
「アタイ、 いつ しんだって かまわない けど、 アタイ が しんだら、 オジサマ は ベツ の うつくしい キンギョ を また おかい に なります? とうから キ に なって いて、 それ を おきき しよう と おもって いた ん だ けれど」
「もう かわない ね、 キンギョ は イッショウ、 キミ だけ に して おこう」
「うれしい、 それ きいて たすかった、 アタイ、 それ で はればれ して きた わ。 どこ にも、 アタイ の よう な よい キンギョ は いない わよ、 おわかり に なる、 オジサマ」
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ミツ の アワレ 4

2020-06-05 | ムロウ サイセイ
 4、 イクツ も ある ハシ

「コノゴロ、 オバサマ は ちっとも、 おあるき に ならなく なった わね」
「たって あるく の が タイギ らしい。 ヒザ ばかり で あるいて いる」
「アタイ ね、 ユウベ かんがえて みた ん だ けれど、 ヒザブクロ を つくって ヒザ に あてたら、 どう か と おもう の、 で ない と ながい アイダ には、 ヒザ の カワ が すりむけて しまう わよ」
「ヒザブクロ を つけて も いい ん だ けれど、 よく、 ほら、 マチ なんか に アシナエ の コジキ が いる だろう、 あの ヒトタチ が ね、 ヒザ の アタマ に フクロ を はめて いる の を おもいだして いや なん だ。 ボロヌノ の あつぽったい やつ を くっつけて いる の を みる と かなしく なる」
「アタイ も、 そい を かんがえて みて、 たまんなかった。 あるけなく なって から ナンネン に おなり に なる の」
「そう ね、 19 ネン に なる かな」
「19 ネン-メ に オバサマ の オヘヤ が やっと、 できた わけ なの ね」
「ハシ の ウエ には いつでも コジキ が クソ の よう に すわって いて、 アシ も コシ も たたない ん だ。 ボク は マイニチ ウチ で みる よう な コウケイ が、 ハシ の ウエ に ある よう な キ が して とおりすぎる ん だ が、 それ も、 イナカ に ある ハシ なぞ では なくて、 トウキョウ の マンナカ で みる ハシ なん だ、 たとえば ムカシ の スキヤバシ と いう ハシ は たまらなかった」
「あそこ に、 オコモサン が いた の」
「オテンキ さえ よければ、 きっと いた、 ある ヒ は オトコ、 ある ヒ は オンナ と いう ふう に、 どれ も アシ の きかない ヒトタチ が いた ん だ、 そして コノゴロ は ハシ は ない が、 とおる たび に メ に ハシ が みえて きて ボク が あそこ に すわり、 また、 ボク の ツマ も、 ボク と コウタイ に あそこ に でて いる よう な キ が して、 あの ハシ が あそこ を とおる たび に みえて くる、 そして シンバシ の ほう に ユウグモ が ぎらついて、 マチ は くれかけて いて も、 ハシ の ウエ だけ が あかるく ういて みえて いる」
「オジサマ ったら、 そんな ふう に ネンジュウ ショウセツ ばかり アタマ ん ナカ で かいて いらっしゃる のね。 だって オバサマ が ハシ の ウエ に おすわり に なる なんて こと、 ありえない こと じゃ ない の」
「ニンゲン は ダレ だって あそこ に イチド は、 すわって みる アタマ の ムキ が ある。 そう で なかったら、 シアワセ と いう もの を みとめる こと が できない わけ だ。 ボク も あそこ に いつだって すわって みる カクゴ は ある。 センソウチュウ は ミンナ あそこ に すわって いた よう な もん だ」
「じゃ、 アタイ は ゲスイ に ながされて ゆく のね」
「キミ は ゲスイ の オハグロドブ で あぶあぶ して いる し、 ボク は ハシ の ウエ で 1 セン くれ と いう ふう に、 イチニチ どなって いる よう な もん だ」
「オジサマ は シアワセ-すぎる と、 ゼイタク したく なって、 オコモサン の マネ まで したく なる のね。 いや な クセ ね」
「それ を マッコウ から いえる と いう こと も、 ふてぶてしくて いい じゃ ない か」
「ハシ と いう もの は わたれば わたる ほど、 サキ には、 もっと ながい の が ある よう な キ が する わね。 けど、 ハシ は みじかい ほど かなしくて、 2~3 ポ あるく と、 すぐ ハシ で なくなる ハシ ほど、 たまらない もの ない わね、 アタイ の イケ の ハシ だって ミズ の ナカ から みあげて いる と、 テン まで とどいて いる よう だ けど、 サキ が もう ない わよ」
「マッチ-バコ フタツ つないだ よう な ハシ」
「その ハシ の シタ を いばって とおる たび に、 ハシ は しろっぽく ながたらしく、 わずか に ニッコウ を さえぎった ところ では、 コノゴロ とても さむく なって きた わ、 ミズ は ちぢんで、 チリメンジワ が よって くらい もの、 アタイ、 どう しよう か と マイニチ くよくよ して いる ん だ けど、 オジサマ だって わかって くれない もの」
「エンガワ に キミ を いれる、 ヨウイ が ちゃんと して ある」
「そう でも して くださらなかったら、 コノママ だ と ミズ は かたい し おもく なる ばかり よ」
「オジサン の オヒザ に おいで」
「ええ、 あら、 もう ダイク さん が のぼりはじめた わね。 アタイ ね、 ダイク さん て、 イタ や しかくい キ で ジ を かいて いる ヒト だ と おもう わ。 トコ と いう ジ を かいて いる うち に トコノマ が できあがる し、 ハシラ と いう ジ を かく ため に ハシラ は とうに たって しまう し、 ダイク さん だって ジカキ と おなじ だ わね」
「カミ の よう に カンタン に キ を おりたたんで、 つかって いる ヒト なん だ」
「キョウ は オニカイ の ほう の オシゴト ね。 クギブクロ を さげ、 そこ に カナヅチ を いれ、 そして ノコギリ を コシ に はさんで いて ヨウイ が いい わね。 どこ でも アシ が さわれば ヤネ の ウエ まで も、 のぼって いける のね、 オジサマ は のぼれない でしょう」
「のぼる にも、 メ が まわって のぼれない」
「いい キミ ね。 アタイ は キノウ クギバコ に あった いっとう こまかい クギ を、 1 ポン ぬすんで やった。 みて いる と ぴかぴか ひかって いて、 むしょうに ほしく なって くる ん です もの」
「ナン に する の、 クギ なぞ ぬすんで」
「なんにも しない けど、 ただ、 ほしい だけ なの、 ただ ほしい と だけ おもう こと ある でしょう。 あれ なの よ」
「クギ と いう もの は ミョウ に ほしく なる もん だね」
「アタイ ね、 あんな に タクサン の ザイモク が どこ で どう つかわれる か わからない けど、 もう、 どこ か に マイニチ つかわれて いて、 いくらも のこって いない の に おどろいちゃった。 イエ を たてる と いう こと は こまかい ザイモク が いっぱい いる のね。 そして どこ に どの ザイモク が いる か と いう こと を ちゃんと、 いちいち こまかい ハメカタ も ダイク さん は しって いる のね。 1 ポン ぬすんで やろう と ケントウ を つけて おいた ほそい キ も、 いつのまにか、 つかって いた わ、 ぬすまなくて よかった」
「すぐ わかって しまう よ、 どんな ちいさい キ でも、 みんな アタマ に おぼえて いる から ね」
「オジサマ、 あれ、 メダカ が イケ から とびだしちゃった、 あぶない、 あぶない、 チンピラ の くせ に イキオイ あまって とびだす ヤツ が ある もの か、 ほら ね、 ひどかった でしょう、 メ を シロクロ させて いる わ」
「ミズ を いれすぎた かな」
「オイケ の キシ まで、 オミズ を ぴったり いれて ある から なの よ、 それ では、 ちょっと はねて みたく なる のね、 オジサマ が わるい ん だ」
「コノゴロ メダカ の カズ が だいぶ、 へって きた よう だ、 ひょっと する と」
「そんな に アタイ の カオ を、 みないで よ、 そんな に たべて ばかり い は しない わよ、 うたぐりぶかく みつめて いらっしゃる」
「100 ピキ も いた のに、 もう、 ばらばら と しか いない じゃ ない か、 ソウケイ、 50 ピキ も いない」
「アタイ、 たべ は しない もの。 とても、 にがい アジ が して いて、 アタマ なぞ メダカ の くせ に カンカン ボウズ で かたい のよ、 たべられ は しない、 ふふ、 でも ね、 ナイショ だ けど よわって いる の、 いただく こと ある わ」
「にがい の が おいしい ん だろう」
「うん、 カンゾウ が にがくて ね、 とても、 わすられない オイシサ だわ」
「そこで 1 ピキ ずつ のみこんだ わけ だね、 イキエ だ と、 ウンコ の イロ も ニオイ も ちがって くる ん だ」
「だんだん クスリグイ を して おかなければ、 サムサ で カラダ が もたなく なる のよ、 あれ たべた アト、 カラダジュウ が もえ、 メ なんか すぐ きらきら して きて、 なんでも はっきり みえて くる ん だ もの、 オジサマ、 おこらないで ね、 ときどき、 いただかして よ」
「かわいそう に なあ」
「だって オジサマ は、 でかい、 ウシ まで たべて おしまい に なる でしょう、 ウシ は もうもう なきながら マイニチ トサツバ に、 なんにも しらない で ひかれて いく ん だ もの、 メダカ なんか と ケタチガイ だわ、 モウモウ は、 ころされて も、 まだ、 ころされた こと を しらない で いる かも わからない、 きっと、 モウモウ は、 いつでも、 ムカシ の ムカシ から ナニ か の マチガイ で ころされて いる と しか かんがえて い や しない」
「モウモウ も かわいそう だ が、 メダカ も かわいそう だ」
「では、 ノンキ に、 ぶらり ぶらり と あるいて いる ブタ は どう」
「あれ も ね、 なんとも いえない、 みじめ な もん だ」
「これから は、 モウモウ も たべない し、 ブウブウ も たべない よう に しましょう ね、 せめて、 オジサマ だけ でも、 その キ に なって いらっしったら、 ウシ も ブタ も、 よく きいて みない と わかんない けど、 うかぶ セ が ある よう な キ が する わ」
「うむ」
「とうとう コトシ は アタイ、 コドモ を うもう と ねがいながら、 うむ マ が なかった。 ね、 なんとか して オジサマ の コ を うんで みたい わね、 アタイ なら うんだって いい でしょう、 ただ、 どう したら うめる か、 おしえて いただかなくちゃ、 ぼんやり して いて は うめない わ」
「はは、 キミ は タイヘン な こと を かんがえだした ね。 そんな ちいさい カラダ を して いて、 ボク の コ が うめる もの か どう か、 かんがえて みて ごらん」
「それ が ね、 アタイ は キンギョ だ から ヨソ の キンギョ の コ は うめる ん だ けれど、 オジサマ の コ と して そだてれば いい のよ、 オジサマ は ね、 マイニチ おおきく なった アタイ の オナカ を、 なでたり こすったり して くださる のよ、 そのうち、 アタイ イッショウ ケンメイ オジサマ の コ だ と いう こと を、 ココロ で きめて しまう のよ、 オジサマ の カオ に よく にます よう に、 マイニチ おいのり する わよ」
「そして ボク の よう な デコボコヅラ の キンギョ の コ に ばけて うまれたら、 キミ は どう する」
「オジサマ の コ なら、 にて いる に きまって いる、 ニンゲン の カオ を した チンムルイ の キンギョ で ござい と、 ふれこんだら ヨクバリ の キンギョヤ の オジイチャン が ね、 いきせききって かい に くる かも わからない わ」
「そしたら キミ は うる キ か」
「うる もん です か、 ダイジ に、 ダイジ に して そだてる わ、 ミジンコ たべさせて そだてる わ」
「ミミズ の ミジンコ くう の は、 いや だ」
「じゃ シオタラ は どう」
「シオタラ の ほう が いい ね」
「キンギョ の コ って の は、 そりゃ アズキ くらい の チイササ で、 そりゃ、 かわいい わよ、 まるで これ が オサカナ とは おもえない チイササ で、 オ も ヒレ も アタマ も あって およぐ の。 で ね、 ナマエ を つけなくちゃ」
「そう か、 キンタロウ と でも、 つけます か」
「もっと リッパ な ナマエ で なくちゃ いや、 カネヒコ とか なんとか いう どうどう たる ナマエ の こと よ」
「ゆっくり かんがえて おこう」
「では、 アタイ、 いそいで コウビ して まいります、 いい コ を はらむ よう イチニチジュウ いのって いて ちょうだい」
「あ、」
「あかい の が いい ん でしょう。 キンギョ は あかい の に かぎる わよ。 くろい の は いんきくさい から、 レイ に よって もえて いる たくましい ヤツ を 1 ピキ、 つかまえる わ」
「しくじるな」
「しくじる もん です か、 ホノオ の よう な ヤツ と、 ユウヤケ の ナカ で もえて とりくんで くる わよ」

「オジサマ、 みて よ、 キ だの イタ だの、 ヒトツ も なくなっちゃった」
「うむ」
「どんな ちいさい イタギレ も、 みんな、 つかった のね、 オボエ を して あった もの を みんな オボエ の ある ところ に、 はめこんで しまって いる わ。 ダイク さん は ダイク さん と いう いきた キカイ なの ね」
「こまかい こと では、 フジヅル と いう もの が みんな ミギマキ だ と いう こと まで、 しって いる ん だ」
「じゃ マメ だの、 そいから クサ の ツル だの は、 みんな ミギマキ に なって いる の」
「ヒダリマキ は ない らしい ん だ。 キ の こと では ハカセ みたい な ヒトタチ だ」
「オジサマ、 オニカイ に あがって みましょう」
「あがろう」
「アタイ、 イマ まで に、 オニカイ に ヒマ さえ あれば あがって いた のよ、 カイダン を 1 ダン ずつ あがる の が おもしろい の と、 それに オニカイ の タタミ の ウエ に ぺたっと すわって いる と、 ダレ も しらない とおい ところ に きた よう な キ が して いて、 ヒミツ を かんじて いた わ、 オジサマ だって アタイ が オニカイ に いた こと は、 ちっとも、 しらなかった でしょう」
「しらなかった」
「オニワ の ケシキ が ずっと みわたせる し、 その ケシキ が おおきく ふくらがって、 ひろがって みえて くる のよ、 けど、 オバサマ は オニカイ には あがれない わね」
「あがって も おりる こと が できない ん だ」
「アタイ ね、 オニカイ に いる と、 とびおりたり、 つたって ヒサシ から ブランコ して おりて みたく なる」
「ボク も ハシラヅタイ に、 つるつる と フイ に おりて みたい キ が する」
「それに 2 カイ と いう もの は、 かなしい ところ なの ね、 シタ とは セカイ が ちがう し、 シタ の こと が みえない じゃ ない の」
「それ は シタ の ヒト は どんな に あせって も、 2 カイ の こと が みえない と おなじ モドカシサ なん だ、 シタ と ウエ と で ニンゲン が すわりあって いて も、 この フタリ は ハナレバナレ に なって いる ん だ」
「キ が とおく なる よう な、 むずかしい オハナシ なの ね」
「その うち に 2 カイ の ヒト が いなく なれば、 それきり で あわず-ジマイ に なる、 ツギ に また ベツ の ヒト が きて 2 カイ に すんで も、 レイ に よって あわなければ どこ の ダレ だ か も、 わからない こと に なる ん だ」
「2 カイ の ヒト は ソラ ばかり みて いる が、 シタ の ヒト は オヘヤ に いて も、 ソラ は みる こと が できない と おっしゃる ん でしょう」
「そう だよ、 シタ と ウエ では おおきな チガイ だ」
「なんだか オハナシ が わからなく なって きた じゃ ない の、 オニカイ の ヒト は どうして シタ の ヒト と、 おはなし しない の でしょう」
「2 カイ に いる から なん だ」
「シタ の ヒト は シタ に いる から なん でしょう か」
「そう だよ、 いくら いって も おなじ こと なん だ、 モンダイ は ウエ と シタ の こと なん だよ。 キミ なら、 ちょろちょろ と およいで シタ まで いく が、 ニンゲン は そう は カンタン に ゆかない」
「よしましょう、 こんな、 めんどうくさい あちこち まわって いる よう な オハナシ は、 いくら いって も おなじ こと なん だ もの」
「おなじ こと じゃ ない よ、 おおきな チガイ だ」
「まだ いって いらっしゃる。 それ より、 もっと びっくり する よう な オハナシ して あげましょう か、 ユウベ ね、 オジサマ の オショサイ から かえって、 また、 この オニカイ に あがろう と、 カイダン から あがって いって フスマ を あけます と ね、 ソト の アカリ が さして いる ナカ に ダレ か ヒト が いる じゃ ない の、 すわってて、 なんにも しない で、 ぽかん と ヒザ の ウエ に テ を のせて いる の、 アタイ、 フスマ を ホソメ に あけて みる と、 ふっと、 その ヒト が ゆっくり と こっち に カオ を おむけ に なった」
「キミ は いつでも、 そんな ハナシ ばかり みつけて いる ん だね、 ボク よか よほど ヘン な ところ を タクサン に もって いる。 その ヒト は いったい ダレ だ と いう の、 そんな ヒト なんか ちっとも ボク には めずらしく ない、 ボク には いろんな オンナ でも、 ヒト でも、 いつでも ふらふら でっくわして いる ん だ」
「では、 ハナシ する の やめる わ、 コンヤ も くる かも しれない から、 そっと ここ に きて いて みよう かしら」
「さあ、 ヒ が くれた から、 おりよう」
「え、 カイダン で スレチガイ に あがって くる ヒト が いる かも しれない わ。 しかし オジサマ には みえ は しない わよ、 ニンゲン の ショウキ には ね」
「バカ を いうな よ」
「キ を つけて ね、 すべる わよ」
「うん、 ダレ も あがって こない じゃ ない か」
「オジサマ に、 それ が わかる もん です か。 ほら、 イマ、 オジサマ は クサメ を なすった、 ぞっと オサムケ が した の でしょう、 ほら、 ほら、 なんだか、 すうと しちゃった」
「ナニ を みて いる ん だ」
「オニカイ に ダレ か が あがった よう な キ が する もん です から、 オジサマ、 ショウジ は しめて いらしった わね」
「うん、 だが、 わすれた かも しれない」
「オジサマ」
「ナン だ、 オナカ なんか なでて」
「あのね、 どうやら、 アカンボウ が できた らしい わよ、 オナカ の ナカ は タマゴ で いっぱい だわ、 これ ミナ、 オジサマ の コドモ なの ね」
「そんな オボエ は ない よ、 キミ が ヨソ から しいれて きた ん じゃ ない か」
「それ は そう だ けれど、 オヤクソク では、 オジサマ の コ と いう こと に なって いる はず なの よ、 ナマエ も つけて くだすった じゃ ない の」
「そう だ、 ボク の コ かも しれない」
「そこで マイニチ マイバン なでて いただいて、 アイジョウ を こまやか に そそいで いただく と、 そっくり、 オジサマ の アカンボウ に かわって ゆく わよ」
「どんな キンギョ と コウビ した ん だ」
「メ の でかい、 ブチ の ボウシ を かむって いる コ、 その キンギョ は いった わよ、 キュウ に、 どうして この さむい のに アカンボウ が ほしい ん だ と。 だから、 アタイ、 いって やった わ、 ある ニンゲン が ほしがって いる から うむ ん だ と、 その ニンゲン は アタイ を かわいがって いる けど、 キンギョ とは なんにも できない から、 ヨソ の キンギョ の コ でも いい から と いう こと に なった のよ、 だから、 アンタ は チチオヤ の ケンリ なんか ない わ、 と いって おいて やった」
「ソイツ、 おこったろう」
「おこって とびついて きた から、 ぶんなぐって やった、 けど、 つよくて こんな に オッポ くわれちゃった」
「いたむ か、 さけた ね」
「だから オジサマ の ツバ で、 コンヤ ついで いただきたい わ、 スジ が ある から、 そこ に うまく ツバ を ぬって ぺとぺと に して、 つげば、 わけなく つげる のよ」
「セメダイン では ダメ か」
「あら、 おかしい、 セメダイン で ついだら、 アタイ の カラダ-ごと、 オ も ヒレ も、 みんな くっついて しまう じゃ ない の、 セメダイン は ドク なの よ、 オジサマ の ツバ に かぎる わ。 イマ から だって つげる わ、 オヨナベ に ね。 オメガネ もって きましょう か」
「ロウガンキョウ で ない と、 こまかい オッポ の スジ は わからない」
「はい、 オメガネ」
「これ は はなはだ コンナン な シゴト だ、 ぺとついて いて、 まるで つまむ こと は できない じゃ ない か。 もっと、 ひろげる ん だ」
「はずかしい わ、 そこ、 ひろげろ なんて おっしゃる と、 こまる わ」
「ナニ が はずかしい ん だ、 そんな おおきい トシ を して さ」
「だって、……」
「ナニ が だって なん だ、 そんな に、 すぼめて いて は、 ユビサキ に つまめない じゃ ない か」
「オジサマ」
「ナン だ あかい カオ を して」
「そこ に ナニ が ある か、 ゴゾンジ ない のね」
「ナニ って ナニ さ?」
「そこ は ね、 あのね、 そこ は アタイダチ の ね」
「キミタチ の」
「あの ほら、 あの ところ なの よ、 なんて わからない カタ なん だろう」
「あ、 そう か、 わかった、 それ は シツレイ、 しかし なにも はずかしい こと が ない じゃ ない か、 ミンナ が もって いる もの なん だし、 ボク には ちっとも、 カンカク が ない ん だ」
「へえ、 フシギ ね、 ニンゲン には キンギョ の あれ を みて も、 ちっとも、 カンカク が しょうじない の、 いや ね、 まるで ツンボ みたい だ わね、 アタイダチ が あんな に タイセツ に して まもって いる もの が、 わからない なんて、 へえ、 まるで ウソ みたい ね、 オジサマ は ウソ を ついて いらっしゃる ん でしょう。 シンゾウ を どきどき させて いる くせ に、 わざと ヘイキ を よそおうて いる のね」
「うむ、 そう いう の も もっとも だ が、 キミダチ の アイダ だけ で はずかしい こと に なって いて も、 ボクラ には なんでも ない もの なん だよ」
「ニンゲン ドウシ なら、 はずかしい の」
「そりゃ ニンゲン ドウシ なら タイヘン な こと なん だよ、 オイシャ で なかったら、 そんな ところ は みられ は しない」
「わかんない な、 ニンゲン ドウシ の アイダ で はずかしがって いる もの が、 キンギョ の もの を みて も、 なんでも ない なんて こと、 アタイ には ぜんぜん わかんない な」
「キンギョ は ちいちゃい だろう、 だから、 はずかしい ところ だ か なんだか、 わかりっこ ない ん だ」
「オウマ は どう なの」
「おおきすぎて おかしい くらい さ」
「じゃ ニンゲン ドウシ で なかったら、 いっさい、 はずかしい ところ も、 はずかしい と いう カンカク が ない と おっしゃる のね」
「ニンゲン イガイ の ドウブツ は ニンゲン に とって は、 ちっとも、 カンジ が ふれて こない ん だ、 まして キンギョ なんか まるで そんな もの が ある か ない か も、 ダレ も ムカシ から かんがえて みた こと も ない ん だ」
「シツレイ ね、 ニンゲン って あんまり ズウタイ が おおきすぎる わよ、 どうにも ならない くらい おおきすぎる わ、 キンギョ の よう に ちいさく ならない かしら」
「ならない ね」
「でも、 オジサマ と キス は して いる じゃ ない の」
「キミ が ムリ に キス する ん だ、 キス だ か なんだか わかった もの じゃ ない」
「じゃ、 ながい アイダ、 アタイ を だまして いた のね、 オジサマ は」
「だまして なんか いる もの か、 まあ カタバカリ の キス だった ん だね。 じゃ、 そろそろ、 オッポ の ツギハリ を やろう。 もっと、 オッポ を ひろげる ん だ」
「ナニ よ、 そんな オオゴエ で、 ひろげろ なんて おっしゃる と ダレ か に きかれて しまう じゃ ない の」
「じゃ、 そっと ひろげる ん だよ」
「これ で いい、」
「もっと さ、 そんな ところ みない から、 ひろげて」
「はずかしい な、 これ が ニンゲン に わかんない なんて、 ニンゲン にも バカ が たくさん いる もん だな、 これ で いい、……」
「うん、 じっと して いる ん だ」
「のぞいたり なんか しちゃ、 いや よ。 アタイ、 メ を つぶって いる わよ」
「メ を つぶって おいで」
「オジサマ は ニンゲン の、 みた こと が ある の」
「しらない よ そんな こと」
「じゃ ホカ の キンギョ の、 みた こと ある」
「ない」
「オウマ は」
「ない」
「クジラ と いう もの が いる でしょう、 あの クジラ の、 みた こと おあり に なる」
「クジラ の あれ なんて ばかばかしい」
「ニンゲン が ホカ の ドウブツ に ジョウアイ を かんじない なんて、 いくら かんがえて も、 ホントウ と おもえない くらい ヘン だな」
「キミ は たとえば フナ とか メダカ とか を どう おもう、 メダカ は ちいさすぎる し、 フナ は イロ が くろくて いや だろう」
「いや よ、 あんな クロンボウ」
「それじゃ ボクラ と おなじ じゃ ない か」
「そう かな、 メダカ は チンチクリン で まにあわない し」
「キンギョ は キンギョ ドウシ で なくちゃ、 なんにも でき は しない よ」
「そう いえば そう ね」
「うまく オ が つげた らしい よ」
「メ を あけて いい」
「いい よ、 オ を はって みたまえ」
「ありがとう、 ぴんと はって きて およげる よう に なった わ。 オジサマ は そうとう オジョウズ なの ね、 どうやら、 あちこち の ブチ の キンギョ を だまして あるいて いる ん じゃ ない? オ の アツカイカタ も てなれて いらっしゃる し、 ふふ、 そいから あの、……」

「あ、 つかまえた、 タムラ の オバサマ、 キョウ は はなしません よ、 キョウ で ミッカ も いらっしって いる ん じゃ ない? アタイ、 ちゃんと ジカン まで しって いる ん だ もの。 キノウ も 5 ジ だった わ」
「ええ、 5 ジ だった わね、 5 ジ と いう ジカン には フタスジ の ミチ が ある のよ、 ヒトツ は ヒルマ の アカリ の のこって いる ミチ の スジ、 も ヒトツ は、 オユウガタ の はじまる ミチ の スジ。 それ が ずっと ムコウ の ほう まで つづいて いる のね」
「その アイダ を みきわめて いらっしゃる ん でしょう、 きっと、 ダレ にも みられない よう に、 でも、 アタイ には、 それ が みえて くる ん です もの」
「アナタ の メ には とても かなわない わ。 イシ の ヘイ の ウエ に いらっしゃる の が、 トオク から は、 あかい タマ に なって いて みえて いる」
「クグリド から おはいり に なって よ、 オジサマ も いらっしゃいます。 タイクツ して ぼうっと して いる わよ、 いつでも オユウショク マエ に なんだか、 ぼうっと して キミ の わるい くらい だまりこくって いる わよ、 ユリコ オバサマ の くる こと を しって いる の かしら と おもう こと が ある わ。 しって いて だまって いる の かしら?」
「ちっとも、 ゴゾンジ が ない のよ、 オユウガタ って いう の は、 ダレ でも だまって いたい ジカン なの よ」
「キノウ も オバサマ の ハナシ を した けれど、 ふん と いった きり アト には なんにも、 いわず-ジマイ よ。 だから、 アタイ、 オナカ が すいて いる ん だ と カンチガイ した ん です けれど、 あまり おあがり に ならなかった わ」
「ほほ、 オナカ が すいた なんて おもしろい こと おっしゃる わね」
「まあ、 オバサマ、 ヘン に おわらい に なっちゃ いや。 どうして そんな コエ で おわらい に なる の」
「べつに ワタクシ ヘン な コエ で なんか、 トクベツ に、 わらわない ん です けれど、……」
「だって サムケ が して くる わよ。 さあ、 おはいり に なって」
「キョウ は いけない の、 オツカイ の カエリ な もの です から、 すぐ もどらなきゃ ならない のよ」
「ダレ の オツカイ なの よ、 ごまかしたって ダメ」
「まだ オカイモノ が ある ん です から、 それ から かたづけなくちゃ」
「じゃ、 アタイ も イッショ に オトモ する わ。 はなれない で ついて ゆく わよ」
「いらっしゃい、 アナタ の おすき な もの、 なんでも かって あげる わ」
「オバサマ、 じゃ キンギョヤ に よって ちょうだい、 ウチ の キンギョ に たべさせる エサ を かって いただきたい の」
「フユ なのに、 キンギョヤ の オミセ なんか ある かしら」
「いえ、 キンギョ の トンヤ の オジイチャン の ウチ に ゆけば、 いつだって ある のよ」
「トンヤ は どこ に ある の」
「アタイ、 ちゃんと それ を しって いる、 マーケット の ウラナガヤ の 2 ケン-メ で、 オバアチャン が フルワタ の ウチナオシ を して いる ん だ から、 ワタ ウチナオシ の カンバン を みて ゆけば すぐ わかる わ、 オジイチャン は そこ に フユゴシ の キンギョ と イッショ に くらして いる の。 エビ を ひいて ヌカ を まぜた エサ を イチニチ つくって いる わ」
「いった こと ある ん です か」
「ええ」
「まあ、 はずかしそう に カオ を かくそう と、 なさる わね」
「いや よ、 そんな に カオ ばかり みちゃ。 アタイ、 あんまり たびたび エサ を かい に ゆく もん だ から、 オジイチャン と ナカヨシ に なっちゃった ん です」
「そお、 あそこ の ユカ の ひくい オウチ でしょう、 フルワタ ウチナオシ、 フトン ぬいます って、 カンバン でて いる ところ でしょう」
「ええ、 オバサマ だまってて ね、 アタイ、 オジイチャン と おはなし します から」
「はい、 はい」
「オジイチャン、 こんにちわ、 キョウ は フユゴシ の エサ を かい に きた のよ、 もう すっかり おひき に なった の」
「おう、 3 ネン-ゴ、 どうしたい、 キョウ は べらぼう に うつくしい オンナ と イッショ だなあ、 オメエ も、 えらく おおきく なって ベッピン に なった もん だ、 もう オメエ も ライネン は 4 ネン-ゴ だ、 4 ネン-ゴ は ばける と いう ぜ」
「もっと コゴエ で おはなし する もの よ、 あの カタ に きこえる じゃ ない の、 キョウ は うんと エサ を シコミ に きた のよ、 オカネ は あの オバサマ が みんな はらって くださる」
「オメエ は いつでも カネモチ と イッショ で いい なあ、 うんと、 かって くれ、 フユバ は メダカ 1 ピキ だって うれ は しない ん だ」
「じゃ 10 パコ ほど いただく わ」
「おいおい、 3 ネン-ゴ、 10 パコ で いくら に なる と おもう ん だ、 1200 エン も する ん だぜ」
「いい わよ けちけち しないで よ、 タムラ の オバサマ が みな はらって くださる わ、 それに、 キンギョモ を どっさり つつんで ね、 ホカ に、 コトシ の タベオサメ に、 ミミズ の ミジンコ を カンヅメ の アキカン に いっぱい いれて ちょうだい、 ひさしく いただかない から、 どんな に おいしい でしょう」
「オメエ は ミジンコ が すき だった な、 これ は オマケ に しとく よ、 けど なあ、 3 ネン-ゴ、 オメエ の よう な シアワセ な キンギョ は、 この トシ に なる まで いまだ イチド も みた こと が ない、 ながい アイダ この ショウバイ を して いる けれど、 ビョウキ も しない で いつも オメカシ して あるいて いる の は、 まあ オメエ くらい な もん だ」
「うつくしからざれば ヒト、 サカナ を あいせず だ わよ」
「ときに オメエ、 これ じゃ ねえ か」
「ええ、 オナカ が おおきい のよ、 タマゴ が ぎっちり つまって いる。 オナカ が ぴかぴか して ひかって いる でしょう」
「どう だい、 オレ の ウチ で うんで は くれまい か、 オメエ の コ なら、 きっと、 シアワセ の いい コ が うまれる に きまって いる」
「ダメ、 ダメ、 センヤクズミ なの よ」
「どうして さ」
「コドモ を ほしがって いる ニンゲン が いる のよ、 だから、 フユゾラ だ けど、 うむ こと に した のよ」
「ニンゲン が かい」
「うん、 アタイ を ダイジ に して くれる ヒト が いる の」
「よほど の キンギョズキ な ヤツ なん だな、 じゃ、 フユ の アイダ は カラダ に キ を つけて な、 ライネン の ハル また おもいだしたら きて くれ」
「オジイチャン も オトシ だ から、 ツエ でも ついて キ を つけて ね、 あまり ショウチュウ を おあがり に なる と、 オナカ が やけて くる わよ」
「うん、 わかった」
「さよなら、 アタイ の ソダテ の、 フタリ と ない ダイジ な オジイチャン よ」
「タマゴ から そだてた イキ の よい、 オバケ の 3 ネン-ゴ よ」
「あの キンギョヤ の オジイチャン は、 とても、 いい オヒト でしょう」
「いい カタ ね、 アナタ の ナン に あたる ヒト なの」
「そう ね、 シンセキ みたい な ヒト かしら」
「だって シンセキ って ヘン ね、 タダ の キンギョヤ さん なん でしょう、 なんの カンケイ の ない カタ なん でしょう」
「ええ、 それ は そう なの よ、 けど、 こんな オハナシ よしましょう、 それ より オカエリ に ちょっと よって、 オジサマ に おあい に なって ちょうだい、 で なかったら、 せっかく いらっしった のに つまんない じゃ ない の」
「けど、 これから、 オカイモノ を しなきゃ ならない の」
「じゃ、 オカイモノ を サキ に なすったら どう」
「ええ、 そう ね」
「ナニ を おかい に なる ん です か」
「オヤサイ なん だ けれど」
「そこ の オミセ に はいりましょう。 ユリネ の タマ が ある し、 ホウレンソウ は いらない ん です か」
「モヤシ が いい わ、 それから ホソネギ を すこし に きいろい ミカン」
「あら、 いや だ、 モヤシ を おかい に なる の、 しろっぽくて うじうじ して いて いや ね。 それに ホソネギ って、 イト みたい で キミ が わるい わ。 オバサマ は ヘン な もの ばかり おかい に なる のね」
「アナタ は ナニ が いる の」
「アタイ は と、 そう ね、 ソウメン に しよう かしら」
「ソウメン て ながくて、 へんに くもって いて きらい だわ」
「フユ、 たべる もの の ない とき に、 たべます のよ」
「カミヤマ さん も おあがり に なる ん です か」
「オジサマ は ながぼそい もの は なんでも だいきらい、 ソウメン でも ヘビ でも、 きらい だわ」
「ヘビ でも、」
「ええ、 フユ は ヘビ が いなく なる から、 いい わね。 ああ、 も きちゃった。 ちょっと まってて、 オジサマ が いる か どう か みる から」
「あぶない じゃ ない の、 ヘイ に のぼったり なんか して? まるで オトコ みたい な カタ ね」
「いる いる、 また、 イツモ みたい に ぽかん と して いる、 きっと オナカ が すいて いる のよ、 すいて いる とき には、 いつも、 きっと あんな カオ を して いる」
「じゃ、 ワタクシ これ で シツレイ する わ」
「ナニ おっしゃる のよ、 おはいり に なる ヤクソク じゃ ない の、 キョウ は かえし は しない から、 いくらでも ダダ を こねる が いい わ」
「これから かえって オショクジ の シタク も しなければ ならない し、 オセンタク の トリイレ も わすれて いた のよ」
「オショクジ の シタク って、 ダレ の シタク を なさる のよ、 オバサマ は、 オヒトリ で くらして いる ん でしょう」
「ええ、 ワタクシ の ショクジ の こと なの よ」
「だったら、 オジサマ と ヒサシブリ で ゴイッショ に オショクジ なさる が いい わ」
「その ホカ にも ヨウジ が あります」
「なにも ゴヨウジ なんか、 ある もん です か」
「オセンタクモノ の トリイレ が ある のよ」
「センタクモノ なんか おかえり に なって から でも いい わ、 さあ、 はいりましょう」
「ホント に キョウ は ダメ なの よ、 いそぐ ヨウジ が いっぱい たまって いる ん です もの」
「オバサマ の バカ」
「なんですて」
「バカ だわ、 おあい したくて マエ を ぶらぶら して いる くせ に、 いざ と なる と、 びくびく して さけて いる じゃ ない の。 そんな に いや だったら、 ハジメ っから こない ほう が いい のよ」
「まあ、 ひどい」
「いつだって あらわれる と、 すぐ にげだして しまう くせ に、 なんの ため に あらわれる のよ、 そんな の もう ふるい わよ」
「だって ゴモン の マエ に、 ひとりでに でて きて しまう ん だ もの」
「ウソ おっしゃい、 ジブン で 5 ジ と いう ジカン まで はかって きながら、 オセンタクモノ の トリイレ も、 なにも ない もん だ、 イッショ に キョウ は オウチ に はいる ん です よ、 で なきゃ、 テ に かみついて やる わよ」
「こわい わね、 なんと おっしゃって も、 ワタクシ かえる わよ」
「かえす もん です か」
「テ、 いたい わ、 なんて チカラ が ある ん でしょう」
「かみついたら、 もっと いたい わよ」
「じゃ ね、 ワタクシ カオ を なおします、 だから、 アナタ の クチベニ と、 クリーム を かして くださらない、 オイケ の ソバ で ちょっと ケショウ を なおす わ」
「その アイダ に ずらかる おつもり なん でしょう」
「ずらかる なんて クチ が わるい わ、 そんな ヒト の わるい こと は しません、 カキ の キ の シタ で じっと まって いる わよ、 オシロイ も もって きて ちょうだい」
「ええ、 だけど シンパイ だ、 オバサマ、 オカネ の はいって いる ハンドバッグ を おあずかり する わ、 ずらからない ショウコ に ね」
「はい、 ハンドバッグ」
「じゃ、 すぐ いそいで とって くる わ、 ホント どこ にも いかないで ね、 オジサマ に そう いっとく から、 キョウ はじめて オショクジ する と いった わね、 アタイ、 うれしい わ、 オジサマ も きっと、 ほくほく なさる わ」
「これ も、 ついでに、 オリョウリ して ね」
「ユリネ、 いただく わ、 モヤシ は いや よ。 じゃ、 すぐ もどる わ。 オバサマ、 もう、 シロツバキ が さいて いる から おきり に なって いい わよ、 とても いい ニオイ だ から、 まって いる アイダ に かいで いらっしゃい」
「ありがとう」
「くらい から ガイトウ つけて おく わ」

「オジサマ ただいま」
「どこ に いって いた ん だ、 ケショウ ドウグ なんか もって イマジブン どこ に いく ん だ」
「いい ヒト が きて いて、 オジサマ に おあい する ため に カオ を なおす と おっしゃって いらっしゃる のよ、 だから、 オケショウ ドウグ を もって ゆく ん です」
「いい ヒト って ダレ なん だ」
「あてて みて よ、 あたる かな、」
「じらさない で いって ごらん」
「タムラ ユリコ」
「イマジブン に、 どうして キミ は あの ヒト に あった の だ」
「オウチ の マエ で おあい して、 イッショ に カイモノ を して これから イッショ に オジサマ と、 オショクジ の オヤクソク した のよ」
「うむ」
「いやに レイタン な カオツキ ね、 ゴイッショ に おあがり に なる ん でしょう」
「ヤクソク なら シカタ が ない が、 イマゴロ どうして うろついて いる ん だろう。 すぐ にげだす くせ に」
「キョウ は だいじょうぶ、 ハンドバッグ あずかっちゃった、 どこ にも いかない で まって いる ショウコ なの よ」
「みせて みたまえ、」
「ふるい カタ だ わね、 20 ネン も、 もっと イゼン の リュウコウ らしい のね、 サゲヒモ が ついて ない し、 クチガネ が みんな さびついて いる。 こんな コフウ な バッグ さげる の きまりわるく ない かしら」
「ナカ を あけて ごらん」
「ヒトサマ の もの を あける の わるい じゃ ない の、 オジサマ-らしく ない こと おっしゃる わね」
「まあ ちょっと あけて みたまえ」
「あかない わ、 さびついて いる のよ、 ええ、 ぎゅっと ねじって みる わ、 やっと あいた けど、 ハンカチ と バス の カイスウケン と、 それに コウスイ の ビン が はいって いる きり よ」
「バス の カイスウケン が ある の、 ふうむ」
「どこ か に おつとめ に なって いらっしった のね」
「さあ、 どう かな」
「どうして カイスウケン なんか、 いる ん でしょう か」
「よく みたまえ、 この カイスウケン は センゼン も ずっと マエ の、 アイイロ の ヒョウシ じゃ ない か、 あと 3 マイ きり しか ない。 こんな もの いまどき ツウヨウ する もん かね」
「あきれた」
「クワセモノ だよ、 キミ が カッテ に つくりあげた オハナシ なん だ。 およし、 こんな こと を たくらんで オジサン を こまらせる の は およし」
「だって アタイ、 じっさい、 タムラ さん の テ を うんと にぎって みた もの、 コウエンカイ の とき より か、 ずっと ふとって いた わ」
「ニワ で まって いる の」
「そんな ヤクソク なの よ、 キョウ は マチガイ は ない のよ、 アタイ、 だまされる の いや だ から、 さっき ね、 テ を いたい ほど にぎった とき に カミノケ を 2~3 ボン かみきって やった わ、 ほら ね、 これ、 ホンモノ の カミ なん でしょう」
「カミ だね」
「でも、 ニンゲン の カミ に マチガイ ない でしょう、 ツヤ と いい、 ウエーヴ の かかって いる グアイ と いい、……」
「ウエーヴ が かかって いる な、 しかし ふるい アト だね、」
「オジサマ でて みましょう よ、 おむかえ して おあげ したら およろこび に なる わ、 ゴモン の キワ に いらっしゃる ん です」
「いや、 ボク は ここ に いる よ」
「ちょっと くらい でたって いい じゃ ない の、 イジワル いわない で、 さあ、 どっこいしょ と、 たつ のよ、 どっこいしょ と、……」
「ボク は サムケ が して いる から でない よ、 キミ、 いって つれて きて くれたまえ」
「でたく ない ん です か」
「うん、 でたく ない」
「こんな に おたのみ して みて も、 ダメ なの」
「キ が おもい ん だ」
「レイコク ムジョウ な カタ ね」
「レイコク でも なんでも いい よ」
「オジサマ の バカ、 バカヤロ」
「バカ、 だ と」
「バカ だ わよ、 わずか に ニワ にも でて やらない なんて、 そんな ひどい シウチ が ある もん か、 フツカ も ミッカ も トオク から かよって いる ヒト に さ、 ちょっと くらい、 でて あげて も いい じゃ ない の」
「なんと でも いいたまえ、 キミ が どなったって ヘ でも ない」
「じゃ ホンモノ の ニンゲン で ない と いいたい ん でしょう、 だから、 あう ヒツヨウ は ない と いう のね」
「よく そこ に キ が ついた ね、 あれ は ホンモノ の オンナ では ない ん だ、 キミ が キンギョヤ に いく トチュウ で タムラ ユリコ の こと を、 かんがえながら あるいて、 とうとう、 ホンモノ に つくりあげて しまった の だ」
「じゃ、 いつか マチ の フクロコウジ の イキドマリ で みた とき も、 アタイ の せい だ と、 おっしゃる の」
「あの とき は ボク と キミ と が ハンブン ずつ つくりあわせて みて いた の だ、 だから、 すぐ ユクエ フメイ に なって しまった。 ニンゲン は アタマ の ナカ で つくりだした オンナ と つれだって いる バアイ さえ ある。 しんだ オンナ と ねた と いう ニンゲン さえ いる ん だ」
「それ は ユメ なの よ」
「ユメ の ナカ で オトコ と あった オンナ で、 はらんだ レイ は タクサン に ある ん だ」
「オジサマ の バカ も ムゲン な バカ に なりかかって いる わね、 ゴショウ だ から ニワ に だけ でも でて みて ちょうだい」
「しつこい デメキン だ」
「デメキン とは ナン です。 アタイ が デメキン なら オジサマ は ナン だい、 しにぞこなった フラフラ オジイチャン じゃ ない の、 アタイ、 いって あんな シニゾコナイ なんか に あわない で、 かえって いただく よう に いう わよ」
「ついでに、 もう こない で くれ と いって くれ」
「あいたい くせ に それ を たえて、 いらいら して いて それ が ホンシン だ と いう の、 あいたくて も とびだせ も しない くせ して いて、 イクジナシ ね、 ウソツキ なの ね、 リョウホウ で おなじ こと を いって いる ん だ、 オバサマ は オバサマ で にげまわって いる し、 こっち は こっち で ニゲ を うつ なんて、 そろって ニンゲン なんて ウソ の ツキアイ を して いる よう な もん だ。 ニンゲン なんて うまれて から しぬ まで、 ウソ の ツキアイ を して いる よう な もん だ」
「しんで いて も、 まだ ウソ を ついて いる かも しれない さ。 ウソ ほど おもしろい もの は ない、」
「じゃ、 カッテ に ウソ を ついて いらっしゃい。 アタイ、 オジサマ って もっと オンナ の ココロ が わかる カタ だ と おもって いたら、 ちっとも、 わかって いない カタ なの ね、 こまかい こと なんか まるで わかって いない、……」
「オンナ の ココロ が わかる もの か、 わからない から ショウセツ を かいたり エイガ を つくったり して いる ん だ、 だが、 ぎりぎり まで いって も やはり わかって いない、 わかる こと は オキマリ の モンク で それ を つみかさねて いる だけ なん だ」
「もう そんな オハナシ、 ききたく ない わ、 いつでも おなじ こと ばかり おっしゃって いる、 よく あかない で いえる わね」
「いった こと を いつも くりかえして いって は、 ニンゲン は いきて いる ん だ」
「あら、 ダレ か が アタイ を よんで いる ん じゃ ない かしら、 だまって いて、 ほら ね、 きこえる でしょう、 オバサマ が よんで いる のよ、 オジサマ には あの オコエ が きこえない の」
「ダレ の コエ も して は いない じゃ ない か、 キンギョ の ソラミミ と いう やつ だよ」
「いいえ、 すぐ モン の ワキ に いらっしゃる ん だ けれど、 それにしては とおい コエ だ わね、 ほら、 また、 きれい な コエ で よんで いる」
「キミ は すっかり ナニ か に まきこまれて いる ね、 すこし ヘン に なって いる」
「オバサマ、 イマ いく わよ、 すぐ、 いく わよ、 オバサマ」
「そんな オオゴエ を だす と、 ウチ の ヒト が ミンナ びっくり する じゃ ない か」
「ほら、 おこたえ に なった わ、 はやく、 いらっしゃい って ね、 あの コエ が きこえない なんて オジサマ こそ、 そろそろ オミミ が とおく なって いる ショウコ だわ」
「キミ に きこえて いて ボク に きこえない バアイ だって ある。 とにかく、 そんな オンナ なんか は もう モン の マエ にも ニワ の ナカ にも、 まって い は しない よ」
「ハクジョウ な オジサマ と ちがう わよ、 ちゃんと まって いらっしゃる から、 オヤクソク だ もん」
「はやく いって みたまえ」
「はやく いこう が おそく いこう が、 アタイ の カッテ だわ、 オジサマ なんか、 いや な ヤツ には、 もう、 かまって いらない」
「いよいよ、 ふくれて きた ね」
「アシタ から なにも ゴヨウジ きいて あげない から、 カクゴ して いらっしゃい。 いばったって ろく な ショウセツ ヒトツ かけない くせ に、 ふん だ」

「あら、 オバサマ が いない、 オバサマ、 どこ なの よ、 まあ、 そんな ところ に かがんで いらっしったら、 わかんない じゃ ない の」
「アナタ オヒトリ?」
「オジサマ は でて こない のよ、 オバサマ が きっと おかえり に なって いる と、 おもって いる のよ」
「ワタクシ も イマ、 かえろう と して いる ところ なん です、 いろいろ ありがとう、 じゃ、 もう かえらして いただく わ」
「だって そんな、 ……オジサマ は おあい したい くせ に、 わざと、 れいぜん と して いらっしゃる のよ、 アタイ、 ケンカ しちゃった、 アシタ から は イッサイ ガッサイ ゴヨウジ して やらない って ね」
「こまる わ、 ワタクシ の ため に そんな こと いったり して」
「なんだか ホントウ は おあい する の が こわい らしい のよ、 タバコ を もって いる ユビサキ の フルエ を みせまい と して、 テ を うごかして ごまかして いた わよ」
「どうして でしょう」
「ときに オバサマ、 ミギ の テ を ちょっと みせて」
「ナン なの」
「まあ、 まだ ウデドケイ を ねじとった アト が のこって いる わね、 この キズアト どうして ながい アイダ なおらない の でしょう、 これ、 オジサマ の シワザ じゃ ない わね」
「ちがう わよ、 ホカ の ベツ の ヒト、」
「いったい ダレ なの、 オトケイ ぬすんだ ヤツ」
「それ は いえません けど、 しって いる ヒト なん です」
「きっと、 イゼン オバサマ に オトケイ を かって くれた ヒト でしょう、 その ヒト が たずねて きた とき に、 オバサマ は とうに しんで いた。 そして その オトコ が デキゴコロ だ か なんだか わかんない けど、 ちからいっぱい に テクビ から トケイ を もぎとって にげだした のね、 オバサマ の しんだ こと なんぞ、 どうでも よろしかった のね、 ただ、 トケイ が キュウ に ほしく なった のね」
「アナタ は タンテイ みたい な カタ、 その オトコ が ワタクシ の シニガオ も みない で、 その アシ で ベツ の オンナ の ところ に いって かねて ヤクソク して おいた トケイ だ と いって、 それ を やった のよ、 オンナ は うれしがり オトコ は いい こと を した と おもった の でしょう」
「その オトコ って オバサマ の、 いい ヒト だった の」
「まあ ね、 ひきずられながら も、 いや でも、 そう ならなければ ならない バアイ が、 ワタクシ にも あった ん です もの」
「オジサマ は、 その カタ の こと を しって いらしった?」
「ゴゾンジ なかった わ」
「オバサマ は その ヒト の こと を かくして、 いわなかった の でしょう、 オジサマ に いや な オモイ を させたく なかった のね」
「いえ、 ワタクシ の こと は なにも おはなし した こと が ない し、 オタズネ も なさらなかった…… ただ、 いつも みられて いる よう な キ が して いた けれど、 また いつも なにも ムカンシン の ゴヨウス でも あった わ」
「その トケイ を ぬすんだ カタ、 にくらしい と おおもい に なる?」
「それほど でも ない けど、 オトコ と いう もの は ミンナ そう なの よ」
「じゃ イマゴロ、 どこ か の オンナ の テクビ に オトケイ が はめられて いる のね、 いや ね、 シニン の テクビ から もぎとった トケイ を はめて いる なんて、 その オンナ の ヒト、 オバサマ ゴゾンジ?」
「イッショ に はたらいて いた こと が あった から、 しって いる わ、 セイシツ の いい ヒト なの よ、 だから だまされやすくて、 だまされる の が うれしかった の でしょう、 そういう オンナ だって たくさん いる のよ、 セケン には」
「だまされて いながら それ が うれしい こと に なる の かしら、 アタイ には それ が よく わからない」
「だまされる と いう こと は、 キ の つかない アイダ は オトコ に こびて いる みたい な もの よ、 キ が つく と、 がたっと どこ か に つきおとされた キ が して しまう ん です」
「オバサマ も つきおとされた のね」
「ええ、 では、 もう くらく なった から、 そろそろ いきましょう、 もう これ で ニド と オメ に かかる こと も ない でしょう から、 アナタ も さむい フユジュウ キ を つけて ね」
「も イチド オジサマ を よんで みる わ、 アタイ の よぶ の を まって いる かも しれない」
「よばない で ちょうだい、 ね、 よばないで」
「ちょっと まってて よ、 ちょっと、 ほんの ちょっと まって」
「では、 また」
「オジサマ、 オバサマ が かえる から、 すぐ、 いらっしって よ、 オジサマ」
「そんな おおきな コエ を なさる と、 キンジョ の オウチ に きこえる じゃ ない の、 および に なる と ワタクシ アシ が すくんで きて、 キュウ に、 あるけなく なる ん です もの」
「ナニ して いる ん でしょう、 まだ、 ナニ か に こだわって じっと して いる のよ、 でて みたくて ならない くせ に、 いつも ああ なん だ、 ナニ を して いる ん だろう、 ね、 トケイ みて いて ね、 あと 5 フン-カン まって、 5 フン たったら いらしって も いい わ、 おがむ から」
「ええ、 では 5 フン、 でも、 でて いらっしゃらない でしょう、 こんな ワタクシ に おあい に なる わけ が ない もの」
「イマ でて いらっしゃる わ、 きっと。 あ、 5 フン たっちゃった」
「じゃ、 ワタクシ、……」
「いい わ、 おかえり に なって も いい わ。 その ミチ マッスグ だ と バス の テイリュウジョウ が みえます。 あ、 それから オバサマ の オモチ の カイスウケン は センソウ マエ の アイイロ ケン なの よ、 あんな もの、 おつかい に なれない から オキ を つけて ね」
「ぞんじて います」
「そお、 じゃ、 どうして ハンドバッグ に はいって いた ん です」
「どうして はいって いた の か、 ワタクシ にも、 よく わからない わ。 でも、 それ は そっと して おきたかった のよ」
「そちら は ハンタイ の ミチ だ わよ、 そこ には もう ジンカ が ない、 さびれた ウラドオリ だ もの、」
「ええ、」
「あら、 そこ は ヤケアト に なって いて、 ガイトウ も ついて ない のよ、 ミチジュン おしえて おあげ します から まって いて、 ミズタマリ ばかり で とても あるけ は しない わ」
「ええ」
「まって いて ちょうだい、 イジワル ね、 キュウ に そんな ハヤアシ に なっちゃって、 ほら、 みなさい、 あぶない わよ、 ミズタマリ に はまっちゃった じゃ ない か、 ちょっと たちどまって よ、 ヒトハシリ オウチ に いって、 カイチュウ デントウ もって きます から」
「…………」
「まって と いって いる じゃ ない の。 きこえない の かしら、 ふりむき も しない で いっちゃった」
「…………」
「オバサマ、 タムラ の オバサマ。 あたたかく なったら、 また、 きっと、 いらっしゃい。 ハル に なって も、 アタイ は しなない で いる から、 5 ジ に なったら あらわれて いらっしゃい、 きっと、 いらっしゃい」
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アニ イモウト

2016-09-07 | ムロウ サイセイ
 アニ イモウト

 ムロウ サイセイ

 アカザ は ネンジュウ ハダカ で カワラ で くらした。
 ニンプガシラ で ある カンケイ から フユ でも カワバ に でばって いて、 コヤガケ の ナカ で チチブ の ヤマ が みえなく なる まで シゴト を した。 マンナカ に イシ で へりどった ロ を こしらえ、 タキビ で、 カン の ウチ は うまい フナ の ミソシル を つくった。 ハル に なる と、 カラダ に シュ の セン を ひいた ウグイ を ヒトアミ うって、 それ を ジャカゴ の ノコリダケ の クシ に さして じいじい あぶった。 オナカ は コ を もって はちきれそう な やつ を、 アカザ は ホネゴト しゃぶって いた。 ニンプ たち は めった に わけて もらえなかった が、 そんな に くいたかったら テメエダチ も ヒトアミ うったら どう だ と、 トアミ を アゴ で しゃくって みせる きり だった。
 アカザ は ジャカゴ で セギ を つくる の に、 ジャカゴ に つめる イシ の ミハリ が きいて いて、 アカザ の ジャカゴ と いえば ユキゲドキ の アシ の はやい デミズ や、 ツユドキ の コシ の つよい ゾウスイ が マイニチ つづいて カワゾコ を さらって も、 たいてい、 リュウシツ される こと が なかった。 イシヅミブネ の ウエ で なげこむ ジャカゴ の イシ を ミハリ して いる カレ は ジャカゴ の ソコ ほど おおきい イシ で かため、 アイダ に コガタ の イシ を なげこませ、 スキマ も なく たたみこむ よう に メイレイ した。
 なげこむ イシ は ちからいっぱい に やれ、 イシ より も イシ を たたむ こちら の キアイ だ と おもえ、 へたばる なら イマ から シャツ を ほして かえれ、 アカザ は こんな チョウシ を フネ の ウエ から どなりちらして いた。 テメエ の フンドシ は かわいて いる では ねえ か、 そんな フンドシ の かわいて いる トセイ を した オボエ は ない オレ だ から、 そんな ヤツ は オレ の テ では つかえない、 アカザ は そんな ふう で ニンプ たち の タイキ を みせる ヤツ を どんどん カイコ した。 アサヒ が カワラ の イシ を まだ しろく しない マエ に、 いつも その ヒ の ニンプ だち の デアシ を しらべ 8 ジ が 5 フン おくれて いて も、
 ――なあ、 オレ にも オハット が ある と いう もの じゃ ない か。
 そう いう と シゴト の ワリアテ を しない で、 その ヒ は そんな ニンプ を つかおう と しなかった。 ドウグ を かついで ニンプ は カワラ から ドテ へ、 ドテ から イマ でて きた ばかり の イエ へ もどらねば ならなかった。 そんな ヤツ を ふりかえり も しない で、 7 ハイ の フネ に イシヅミ の テワケ を し、 ジャカゴドメ の ボウグイ を うつ モノ を ハダカ で ミズ の ナカ へ おいこみ カワラ では ジャカゴ を あむ シゴト を ヒトマワリ しらべる と フネ を フチ の ウエ に とめて スイシン に わりあてられる ジャカゴ の カズ を よんで いたり した。 そういう アカザ の モチブネ の ナカ に ながい タケ の エ の ついた ヤス が 1 ポン ヨウイ されて あって、 シンマス が およぎすんで いて、 ミズ と おなじ イロ を して いる の を メ に いれる と、 その ヤス の エ が スイシン いっぱい に しずみこんで ゆき、 さらに 5 スン ばかり トツゼン に ぐいと つきこまれた な と みる と、 ウソツキ の よう な クチ を あけた ぎちぎち した マス の アタマ の フカミドリイロ が、 みごと な 3 ボン の サカサボコ の カタチ を した ヤス の サキ を ゆすぶりながら さされて いた。 その オ の サキ で ウデッパラ を たたかれたら しびれて しまう と いわれた カワマス も、 アカザ の コブシ で がん と ヒトツ はられる と、 マス は オンナ の アシ の よう に べっとり と うごかなく なる の で あった。
 ニンプ だち は カワゾコ の シゴト で すら ゴマカシ が きかず に、 アカザ の ガン の ナカ で ミズ を くぐり イキ を はき に うかび、 また ミズ の ナカ に もぐって いった。 ワカバ の キセツ は ミズ の ソコ も そのよう に あたらしい ワカアユ や ハゼ や、 イシ まで あおむ こころよい シュン で あった から、 アカザ は カンシャク を おこす と ジブン も とびこんで いって、 ニンプ の カラダ を こづいたり アタマ を ヒトツ ひっぱたいたり して セスジ を たつ コウジ に いちばん カンジン な ソコダタミ に おおきな イシ を しずませる の で あった。 ミズ の ナカ で すら アカザ の シワガレゴエ が やまず に どなりちらされた。 どんな はやい ソコミズ の ある フチ でも アカザ は ヒラメ の よう に カラダ を うすく して しずんで ゆき、 スイチュウ の イキ の ながい こと は ニンプ たち も およばなかった。 ニンプ たち は ミズ の ナカ で おこった ギョウソウ を こわがった が、 ミズ の ナカ から あがる と いつも キゲン が よかった。 カワ の ヌシ で ある より も、 ジブン で つくった イケ くらい に しか、 カワ の こと を かんがえて いなかった。
 コヤガケ に ツキ に 2 ド の ゼニカンジョウ の ヒ には、 アカザ の ツマ の リキ が たずねて きた が、 これ は ミンナ から カカアボトケ と いわれる ほど、 ゆったり と モノワカリ の よい ニュウワ な オンナ だった。 リキ は いつも アカザ を あんな ヒト だ から あんな ヒト と おもうて つきあって くだされ、 いくら ソト から いったって ダメ だ から ききたく ない こと は きかなく とも よい から と、 てんで アカザ を アタマゴナシ に ときふせて いる が、 アカザ は リキ に かまいつけない で、 ふん とか、 うん とか、 それ だけ コトバミジカ に ヘンジ を する だけ だった。 ゼニカンジョウ は カワラ シゴト には めずらしい くらい きれい に しはらわれ、 ケチ な ハシタ を けずる こと なぞ しなかった。 リキ が ウケオイ の アトバライ を サキ に まわす こと に ニンキ を えて、 カンジョウビ に センベイ や オイモ の ツツミ を もって ドテ の ウエ に スガタ を あらわす と ニンプ たち は ミンナ テ を ふって むかえた。 オチャ の 3 ジ には リキ を とりかこんで アラオトコ たち が ゲンキ に べちゃくちゃ しゃべり、 リキ の テ から もらう カネ を キモノ に いれたり テヌグイ に つつんだり して、 カワラ が いっぱい に コエ を そろえて、 にぎおうて くる の で あった。 アカザ は リキ から ホウコク を きく だけ で カネ の こと は ながい アイダ の シュウカン で、 マカセキリ で あった。 アカザ は シゴト だけ を し に きて いる よう で、 ヨウジ の ない 3 ジ にも カワラ と カワラ を ニブン して いる ナガレ と を、 みつめて いる に すぎなかった。 ニッコウ の ナカ で シゴト を しつづけて いる ニンゲン は、 メ の ナカ に まで ヒヤケ が して いる ごとく アカザ の メ も そのよう で あった。 そのよう な メ は ただ カワシゴト を する だけ に うまれついて いる よう で あり、 アメツヅキ の デミズ の ヒ にも わざわざ デバ まで いって、 にごって ぶつぶつ ドロ を にて いる カワミズ を ながめて いた。 そんな とき に にごった アカザ の メ は かなしそう に しぼんで、 ダクリュウ の ナカ に そそぎこまれて いる よう で あった。 つないで ある フネ は キシ と スレスレ に ナミ に おしあげられ、 コヤ は きれい に ながされて しまった ドロナミ の たった カワラ は、 アカザ なんぞ の チカラ や メイレイ が どんな に ナカマ の アイダ に ハバ が きいて も、 デミズ の イキオイ には かなわなかった。 ナナツ の とき から カワラ で そだち、 15 で イチニンマエ の イシオイ が でき、 ジャカゴ の タケ の ササクレ で アシ を チダラケ に して そだった アカザ は、 デミズ の ドロニゴリ を みる たび に おそろしい もん だなあ と おもう が、 どうして そんな デミズ が おそろしい ヒャク スウジッポン の セギ の ジャカゴ を おしながして しまう か が わからなかった。 ハタチ コロ から イッポンダチ に なって も ジャカゴ の コシラエ は 1 ネン と もたない で ながされて しまう が、 やっと カワゾコ の ブン だけ は いつも のこって いて それ だけ でも ナカマ では 「アカザ の ジャカゴ」 と して ほめられて いた。
 アカザ は リキ が カンジョウ を すまして かえろう と する と、
 ――モンチ は かえって きた か。
 と、 カンジョウ を あらわさない で、 なんでも ない こと を そういう よう に きいた。
 ――かえって こない ん です。
 ――イノスケ は シゴト に でた か。
 ――あれきり フテネ して いる の。
 ――もう ヨウ は ない よ。
 アカザ は そう リキ に いう と、 モチバ に ついた ニンプ だち の ほう に むいて あるきだした。 ふとった アカザ は ふとった ヒト が どっしり と あるく クセ が ある よう に、 カワラ の ウエ に たくましい カラダ を はこんで いった。
 アカザ には 3 ニン の コドモ が あった。 コドモ は コドモ で ある が、 チョウナン の イノ は 28 に なり イシヤ に ネンキ を いれ イチニンマエ に なって いた が、 ナマケモノ の うえ に どこ で どう カンケイ を つける か、 しょっちゅう オンナ の こと で ゴタゴタ が たえなかった。 ワタリ の きく イシ ショッコウ でも イノ は ボヒ の ブンコク に ウデ が さえて いた から、 コクメイ に さえ はたらけば カネ に なった が、 1 シュウカン か トオカ-カン も はたらきつめる と その カネ を もった きり、 2~3 ニチ は かえって こなかった。 イモウト の モン の イイグサ では ない が アサクサ アタリ の デンシャ や ジドウシャ が ごう と なって きこえる の でしょう と いって いた。 ミッカ も たって かえる と また シゴト を はじめ その カネ が テ に はいる と、 また すぐ でかけて しまう の で あった。 リキ の コゴト など てんで ミミ に いれず、 アカザ は ヒ が くれなければ シゴト から かえらない ので、 バン は うまく オヤジ と カオ を あわす こと を さけて ソト に でて いた。
 イノ の シタ に イモウト が フタリ いて アネ は モン と いい、 ミンナ から アイショウ を モンチ と いわれて いた が、 シタヤ の ダントウジ に ホウコウ して いる うち に ガクセイ と できて しまい、 その コドモ を はらむ と、 ガクセイ は クニ に かえって しまい ブンツウ は なかった。 ぐれだした モン は ホウコウサキ で ツギ から ツギ と オトコ が でき、 コンド は コリョウリヤ や サカバ を それ から それ と わたりあるいて ハントシ も かえって こなかった。 かえって くる と だらしなく ねそべって ナニ か だるそう に あえいで いる よう な イキヅカイ で、 リキ を アゴ で つかって いた。 リキ は クチコゴト を いいながら も、 この コ は つまらない こと で クロウ して いる が、 イイカゲン に しない か と いい、 ハンブン は カオ を みる の も いや そう に しながら、 ハンブン は きつく あわれがって たべたい もの を つくって やり、 ねむれる だけ ねむらして おく の だった。 じっさい、 モン は ねむりたりた と いう こと も ない ほど カオ が マッサオ に なる まで ねむって いた。 リキ は そんな クタビレ が よく わかる キモチ が し、 アニ の イノ が ソトドマリ で かえって くる と、 やはり シュウジツ ウチトオシ で カラダ に アナ の あく ほど ねむって いた。 カレラ キョウダイ は おきる と、 メ を ほそめ いまだ クタビレ の のこる だるい カラダ を カタテ で ささえながら、 ハハオヤ の テマメ に うごく スガタ を めずらしく も なく ながめる だけ で あった。 イノ は この ハハオヤ が しんだら この イエ には いられない と おもう とき だけ、 リキ が ハタラキツメ で うちたおれ でも しなければ よい が と、 ハハオヤ の カオ を ちょっと の マ ミ に しみて みる の で あった。 だが、 そんな こと は その アイダ だけ で すぐ わすれて しまった。
 モン は こんな こと を いって それ が いちばん カンジン な こと で ある よう に、
 ――オカネ の シンパイ だけ は させない わ。
 と、 ハハオヤ に いう の で あった。
 やっと 1 ネン も たって ガクセイ で あった オバタ が アカザ の イエ に たずねて きた とき は、 モン は ゴタンダ の どこ か に つとめて いた が、 レイ に よって トコロバンチ は しらない ので タズネヨウ が なかった。 そのかわり ツキ に イチド は キタク する から と いう の だ。 リキ ヒトリ で この モンダイ の カイケツ の シヨウ が なく カワラ の デバ に いって アカザ に この ハナシ を した。 アカザ は だまって コヤ から でる と、 リキ と イッショ に ドテ の ウエ に のぼり、 ドテヅタイ に ちかい ジタク へ いそいだ が、 リキ は アイテ が わかい ガクセイ の こと で ある から てあら な こと を しない で いて くれる よう に いった。
 ――たぶん、 コドモ の シマツ を つけ に きた ん でしょう。 まだ、 コドモ が いきて いる と でも かんがえて いる の じゃ ない かしら。
 ――すれた オトコ に みえる か。
 ――まるで ボッチャン です。
 アカザ は コバタ と むきおうた が、 アカザ の タイシツ フウボウ の イアツ で オバタ は すぐ モノ が いえない ふう で あった。 アカザ は タンテキ に ヨウケン を てばやく いって いただきましょう と いった きり、 むっつり と だまりこんで しまった。 オバタ は イマ まで うっちゃって おいて あがれた ギリ では ない が、 クニ の オヤジ に キンソク ドウヨウ に されて いて ぬけだす スキ が なかった の だ と いった。 コンド ジョウキョウ して イロイロ の ヒヨウ を フタン させて もらい、 それ を ジブン だけ の リョウシン の ツグナイ に したい と いった が、 カンジン の モン と イッショ に なる とか、 モン に あわせて くれ とか いう こと を ヒトコト も いわなかった。 かえって モン が いない の が この オトコ に ツゴウ の よい ゴタゴタ を さけさせて いる よう に、 アカザ は すぐ みぬいて しまった。 もひとつ よわそう な ガクセイ アガリ に みえる この セイネン の ジッチョク そう な ヨウス とは ハンタイ に こういう オトコ だ から 1 ネン の アイダ どんな テガミ を やって も、 ヘンジ 1 ポン ださず に いる コンキ ヨサ と、 ツッパナシ の コシ を すえる こと が できた の だ と、 あおじろい カオ に リコウ そう に カクゴ を きめて しゃべって いる オバタ を、 コイツ バカ で ない カケアイ を もって きた と おもった。
 ――コドモ は シザン でした。 モン は あれ から、 やぶれかぶれ です。
 アカザ は これ だけ いう と、 おどろいて メ を きょとん と させた オバタ に つつみきれない メンドウクササ から ぬけた ほっと した キモチ を かんじる こと が でき、 アカザ には それ が すぐ わかって ヤロウ うまく やりやがった と おもい、 とおい タマ まで アシ を はこんだ カイ が あったろう と、 そう カレ は だぶだぶ の ハラ の ナカ で おもった。 オモン さん は イマ どこ に いる の でしょう、 よかったら イドコロ を しらして いただけない でしょう か。 ボク は あやまりたい こと も たくさん たまって いる ので、 それ を あやまって さっぱり した キモチ に なりたい の です と、 イキオイ を えた ミョウ な コウフン した ゴセイ で オバタ は いった が、 アカザ は この アオニサイ イイキ に なって いる と、 みえすいた カレ の アンド した キモチ が、 アタマ を あおって きた。 モン の ハラ に コドモ が ある と リキ から きいた とき の ぐらぐら した いや な キモチ を もてあつかった あの ジブン の、 カワラ シゴト の デバ の フキゲン を けちらす こと が できず に、 どれだけ コモノ ニンプ に コブシ や ホオウチ を くらわした か わからなかった。 アカザ は つかれて いる の じゃ ない か と カゲグチ を たたかれる ほど、 そこら に キモチ を おちつける ところ が なかった。
 モン は オクノマ で ネタキリ で あった。 ムスメ が はっきり と ダレ か に オモチャ に され まけて かえって きた と、 かんがえる と、 まけた こと の ない アカザ は モン の カオ を みたく も なかった。 ドウラクモノ の イノ は ああ なる こと は ハジメ から わかりきって いる こと だ、 だから オレ は イエ から オンナ を はなす こと は あぶない と いった の だ と、 リキ を ヒマ さえ あれば いじめた。 リキ は いじめられた きり で だまって いた が、 イノ が ときどき きたない もの を ひっくりかえす よう に モン の ネドコ に たちあがった まま、 おおかた、 ニヤケ ヤロウ に べたついて、 コドモ ジブン の ヨダレ を もう イッペン たらしやがった ので、 ヘソ の ウエ が せりだした の だろう。 イヌ だ か ムク だ か ワケ の わからない もの を へりだす マエ に、 なんとか、 リコウ に カタ を つけた ほう が いい、 ラシャ-くさい ショセッポ の ひいひい なきやがる ガキ の タマゴ の ヨナキ なんぞ きく の は まっぴら だ と、 ズツウ で コオリ で ひやして いる マクラガミ で どなる ので、 リキ は わざわざ イノ に あんまり クチ が すぎる よ、 オマエ の しった こと じゃ ない から こっち に きて いて くれ と いって も、 チカゴロ ヨソ の オンナ との アイダ の うまく ゆかない イノ は なんの ハライセ だ か、 どなる こと を やめなかった。 シンミ の キョウダイ の にくみあう キモチ は こんな に つっこんで アクタレグチ を たたく もの か と、 ハハオヤ は あきれて モノ が いえない くらい だった。 イノ は ツヅケザマ に その ツラツキ で いちゃつきやがった か と おもう と、 オラ、 ヘドモノ だ、 しかも アイテ の ヤロウ は テメエ より 10 バイ-ガタ リコウ と きて いる から、 しゃぶって しまったら アト に ヨウ の ない オンナ と ズイトクジ を きめこんだ、 まったく ネンジュウ その ツラ を みて いる ヤツ も たまらない から なあ、 ナマエ も いわなければ クニ の トコロ も いわず ヤロウ は ヤロウ で うん とも すう とも いって こない じゃ ない か。 そんな ヤロウ を かばいやがって いとしがる なんて コンチクショウ あ、 まったく ほれた ん だ か ぬけやがった ん だ か しらない が ホウズ の ない アマッチョサ、 ハラ ん ナカ の ガキ が どんどん ふとりやがって ズ に のって ぽんと とびだした ヒ にゃ、 セケン じゃ ダレ あって アイテ に して くれる モノ は なし さ、 ガキ を つれて ドテ から ノリアイ に のって トウキョウ の マンナカ へ でも いって、 どこ か に カエル の よう に つぶれて しまう か しなければ おさまる シロモノ じゃ ない と、 ジブン で チョウシ-づいて ドクゼツ の コヤミ も なかった。 リキ が とめる と また かっと なって オッカア も オッカア じゃ ない か、 こんな シタタカモノ を うみつけて おいて いまさら オレ の クチ を ふさごう なんて、 おんならしく も ない こと さ、 イモウト の サン の こと を おもう と オラ サン が かわいそう な くらい さ、 ――イノ は スエ の イモウト の サン が キマジメ に ホウコウサキ に いて ときどき ハキモノ なぞ ミヤゲ に もって かえる こと を、 ほめて いう の で あった。 サン の ハナシ が でる と ミンナ だまって サン の こと を かんがえて いた。 あんな おとなしい コドモ も いる のに、 イノ よ、 オマエ の よう に シゴト も しない で アサ から トウサン の コメ さ たべて がんがん いって いる ヒト も いる ん だ、 おこって いい とき と わるい とき と が ある、 イマ は、 モン を とっつかまえて おこる とき では ない の だ もの、 おこって よかったら トッサン に おこって もらえば いい の だ、 トウサン は だまって いなさる の だ もの、 ミナ も だまって モン を しずか に して やらん ならん じゃ ない か と リキ は モチマエ の コエ の やさしい わり に ヒト の アタマ に くいこむ よう な コトバヅカイ で たしなめる の で あった。 モン は モン で ネドコ の ナカ で ズツウ で カオ を しかめながら、 ニイサン だって アヒル と おなじ で ウミッパナシ に して おいて カアサン に アトクチ を いつも ふいて もらって ばかり いる じゃ ない か。 ウラ の トグチ まで オンナ を ひきずりこんで いて とうとう トウサン に みつかった の を、 アタシ が ふらり と でて やって さ、 ソト の オンナ の スガタ を かくまって あげた とき あ、 くらい ところ で テ を あわせて オレイ を いった くせ に、 こんな よわって いる アタシ を イヌ の コ か ナニ か の よう に ヒマ さえ あれば きたない もの アツカイ も タイガイ に して ちょうだい、 ニイサン に たべさして もらって いる ん じゃ あるまい し、 ナニ か の くせ に ぶりぶり して つっかかったり して、 あんまり ひどい わ。 オナカ の ほう の カタ が ついたら アタシャ カカリ は どんな こと を したって つぐなう つもり です。 それ を シオ に もう いっさい カアサン トウサン に シンパイ は かけない わ。 だから、 ワタシ の カラダ に キズ が ついた の を キッカケ に、 アタシ の カラダ を アタシ が もらいきって どんな に しよう が ダレ から も なんにも いわれない つもり よ、 トウサン だって いってた わよ、 オマエ は オマエ で カタ を つけろ、 そんな ムスメ の ツラ あ みる の も いや だ と いって いた わ。 だから ニイサン から そんな ニイサンヅラ を されたって ズツウ が する ばかり で なんにも こたえない わ。 ヨソ の オンナ の シュビ が わるい から って そんな キモッタマ の ちいさい こと で わめきたてる と、 いっそう オンナ に すかれない もの さ。
 アカザ は こういう ごちゃごちゃ した イッカ の ナカ で むんずり と くらして いた あの ジブン の よわった キモチ を かんがえる と、 メノマエ に かしこまって いる ハナ を たらしそう な アオショセイ が、 ムスメ の アイテ とは おもえない キ も して いた。 リキ が てあら な こと を して くれるな と いった が、 だんだん そんな キ が しない で コイツ も かわいそう な どこ か の コセガレ だ と おもわず に いられなかった。 その ハンタイ に カエリ に ドテ の ウエ に おびきだして おもうさま コンチクショウ を はりたおし、 ムスメ の イッショウ を めちゃくちゃ に した ツグナイ を して やろう か とも かんがえて みた が、 アオショセイ を アイテ に して いい トシ を して そんな てあら な こと が できる もの では なかった。 アカンボウ は しんで いる し ムスメ も まんざら で なかった オバタ の こと だ から、 そっと かえして しまった ほう が いい よう に おもわれた。
 ――モン は アンタ に あいたく も なかろう から このまま ひきとって もらいましょう。
 アカザ は こう いう と シゴトチュウ だ から と、 もう たちあがって ドマ に おりて いった。 そして もう イチド オバタ の ほう を みる と、 アカザ は ハンブン しょぼしょぼ な カオツキ に なって、 かんがえて いる こと の ハンブン も いえない よう な コエ で いった。
 ――オバタ さん、 もう こんな ツミツクリ は やめた ほう が いい ぜ、 コンド は アンタ の カチ だった がね。
 アカザ は ジブン で いった コトバ に すっかり まいった キモチ に なり、 いそいで ドテ の ウエ に あがって いった。 ハレツヅキ の カワラ は、 マッシロ に ひかって いる ところ と、 ザッソウ に へりどられた カワラ の ハナレバナレ に なった ところ と、 さらに べっとり と しめった ス の うつくしい アメイロ の ハダ を ひろげた ところ と、 それら の こうぼう と した ケシキ は ひかった ブブン から サキ に メ に はいって ゆき、 はやい ナガレ を つづる 7 ハイ の シゴトブネ が チョウ の ハネ の よう に しろく みえた。 モン も イノ も、 そして サン も ミンナ フナシゴト の アガリ で そだてられた。 モン や、 サン の ウマレガケ の ジブン は リキ は わかくて サキ の やさしい トガリ を もった チブサ を もって いて、 ベントウ の とき には その カラ を もって かえる まで チブサ を ふくませ、 つんで くえる クキ を ぬいて いたり して いた の も、 そんな に とおい こと とは おもえなかった。 だのに ムスメ は コドモ を うみおとす よう に なり その オトコ と つきあって も ショウジキ に どなる キ さえ おこらなかった の は、 よほど アカザ の ココロ が こういう モンダイ に ヨワリ を みせて いる と しか おもえなかった。 リキ に して も アカザ の オウタイ が あんまり オウヨウ-すぎる の と、 かえって アカザ ジシン が はやく この モンダイ から カンガエ を もぎとりたい と あせって いる こと さえ、 さっせられた の で あった。 あの ヒト も よほど よく なり モノワカリ が よく なった と、 リキ は ちょっと ありがたい キモチ に さえ なった の だ。 テ の はやい アカザ は ハナシ の ハンブン から なぐる こと しか かんがえなかった。 なぐる こと が しゃべる 10 バイ の キキメ が ある と いう こと を、 シゼン に ヒトツ の ホウソク の よう に して いる アカザ は リキ に モノ を いう の に、 すこし の マワリクドサ が ある と すぐに なぐる こと しか しらなかった。 リキ は ナグラレドオシ だった が それ の カズ が すくなく なり、 なぐられる と こわい ぞ と いう カンカク が リキ の アタマ に カゲ を ひそめて から、 だいぶ トシツキ が たって いた。 オバタ に そう しなかった の が リキ には うれしく、 オバタ は にくみたりなかった けれど なんの カンガエ も なく やった こと を、 リキ は、 モン も わるい し オバタ も わるい と かんがえて いた。 その カンガエ の ソコ を かっさらって みる と どうにか した エン の マワリアワセ で、 モン と オバタ と が イッショ に なれない もの か と そんな こと も かんがえて みた が、 モン は もう ジダラク な、 ダレ も トリツキヨウ の ない オンナ に なって いた から オバタ に その こと を とく にも、 オバタ が あんまり おとなしすぎる ので ひかえられた。 リキ は オバタ を あいした モン の キモチ が だんだん わかって くる よう な キ が し、 オバタ が かえって ゆく の が おしい よう な キ が した。
 ――コンド ヤドサガリ を して きましたら、 アナタ が おたずね くだすった こと を モン に そう いいつけます。
 リキ は ハハオヤ-らしく そんな やさしい コトバ さえ つい だして しまった。
 ――そして トコロ を きいて おいて ください。
 オバタ は カネ の ツツミ を とりだし ムリ に リキ の テ に おさめさせた。 リキ は オバタ を おくって でて、 この ヒト には イッショウ あえない だろう と かんがえた。 オバタ も ハハオヤ-らしい リキ に したしむ こと が こころよく かんじられた ので、 ぐずついて すぐに マエニワ から トオリ へ でよう と しなかった。 リキ が つちこうた ナツギク とか バショウ とか アヤメ とか を みて いて、 ナツ さく キク は どんな イロ です か と たずねたり して いて、 ヘン な ナツカシサ から わかれられなそう に みえた。
 リキ は おもわず たずねて みる の で あった。
 ――アナタ は オイクツ に なる ん です か。
 ――ボク です か、 ボク は 24 に なった ところ です。
 イロ が しろくて シンケイシツ な オバタ は トシ より も わかく みえた。 モン と できた の は 23 の ハル に なる、 モン と ヒトツ チガイ に しか ならない と、 リキ は かんがえた。 リキ が アカザ の ところ に きた の は 22 の とき で、 あの ジブン まるきり オンナ と して の アカンボウ と しか おもえない ほど、 なにもかも わからなかった。 オバタ が 1 ネン たって も たずねて きた の は セイイ が ある から で あって、 その セイイ に キ の つかなかった センコク から の ジブン が ウカツ に おもわれだした。 まったく の わるい ニンゲン なら イマ に なって たずねて くる など と いう トンマ な マネ は しない で あろう。
 オバタ は マンネンヒツ で メイシ に トコロバンチ を こまかく かきいれ、 それ が ジブン の ジュウショ だ から と いった。
 ――オモン さん に わたして おいて ください。
 オバタ は そう いう と タンボミチ を ドテ の ほう へ、 ナンド も アイサツ を しながら わかい セイ の たかい カラダ を はこんで いった。 リキ は ぼんやり みおくって いた。 わるい とき には わるい もの で 2~3 ニチ カオ を みせなかった イノ が ふらふら かえって きて、 メ を ほそめて オバタ を みて いた が モン の オトコ で ある こと を しる と、 ひどく つかれて あおく なって いる カオ に カンシャク を むらむら と あらわした。 そして オバタ が イエ を でて タンボミチ から ドテ へ あがる と、 リキ に みられない よう に オバタ の アト に ついて いった。 オバタ も チョッカクテキ に モン の アニ だな と かんじ、 その カンジ が キュウゲキ に キョウフ の ジョウ に かわって しまった。 イノ は だまって 1 チョウ ばかり ついて ゆき、 やがて おいついて も キュウ に コエ を かけず に シュウネン-ぶかく、 オバタ と カタ を スレスレ に あるいて いった。 アカザ に にた イノ の カオ は あかるい ドウブツテキ な カンシャク で モミクチャ に なり、 オバタ は いつ イノ が とびかかって くる か わからない アセアブラ を にちゃつかす、 ソコオソロシサ に アシ が すくんで しまった。 はやく コエ を かけて くれれば よい と、 かんがえて も、 イジワル な かさなる ケンオ に キ を とられた イノ は ジブン でも すぐに コエ の かけられない ほど せっぱつまって、 ミミ の アタリ が ぶんぶん なって くる ほど の ハラダタシサ で あった。
 ――キミ、 ちょっと。
 イノ の コエ は これ だけ で あった が、 よばれた ので オバタ は たすかった と おもい、 できる だけ ジュウジュン に こたえた。
 ――は、
 ――オレ は モン の アニ です。
 イノ は こう いう と オバタ は マッサオ な カオツキ に なった。 キミ に ハナシ を したい こと が ある の だ。 そこ に すわれ ハナシ が ある から と ほとんど メイレイ する よう に いった。 オバタ は しかたなく ドテ の ウエ に コシ を おろした。
 イノ は ソノゴ モン に あった か と オバタ に いい、 オバタ は あわない と こたえた。 いったい、 キミ は モン を オモチャ に して おいて オレダチ イッカ を サンザン な メ に あわせた が、 それ で よく ウチ に こられた もの だ、 モン は オレ が コドモ の とき に だいて イッショ に ねて やり、 ヨナカ には ショウベン に おこして マイバン ドマ が くらい から ついて いって やった もん だ。 モン は まるきり アカンボウ だった ジブン から いつも オンブ して いて、 シマイ に、 モン の コモリ を しない と あそび に でられなかった もの だ。 オレ は モン の 17 くらい の とき まで、 モン の カオ を みない ヒ は なく モン と メシ を くわない ヒ が なかった。 モン の カラダ の どこ に アザ が ヒトツ あって それ を モン が おおきく なる まで しらなかった こと を おしえた の も オレ だ。 オレ と モン とは まるで キョウダイ より か もっと ナカ が よかった。 テメエ の コドモ を ハラ の ナカ に もって かえった とき は オレ は モン を いじめ、 モン に アクタイ の ある だけ を つくし、 シマイ に イヌチクショウ の よう に きたながって やった もの だ。 ハハ は あんまり ひどい クチ を きく オレ を それ が ホントウ の オレ の よう に にくみだし、 オレ を ケムシ の よう に きらいだし モン の ほう に つく よう に なった の だ、 そう しない と ミナ が モン を ジャマモノ に する から だ。 オレ は きっと テメエ が たずねて くる とき が ある こと を みぬいて いて、 そしたら テメイ に モン と オレ と が そんな に ナカ の よい キョウダイ だった こと と、 オレ が アカンボウ から そだてた よう な もの だ と いう こと を しらせて やりたかった の だ。 テメエ は タダ の ショセッポ で、 オトコ に うまれついて いる から やる だけ の こと を やって しまったら、 ニンプ フゼイ の ムスメ なんぞ に もう ヨウ は ない だろう。 ありがち の こと だ から うっちゃって しまえば ワケ は ない だろう、 だが、 そう は うまく、 ウチ の オヤジ の よう に きれい に テメエ を テメエ に もどす こと は できない の だ。 イノ は こう いう うち にも オバタ の テクビ を いつのまにか つかんで、 それ を ちからいっぱい に つかみかえし ギャク に もみあげたり しながら、 メ に ナミダ を うかべて ドウラクモノ と いう もの は こんな ヘン な オモイアガリ を する もの か と おもえる くらい、 シンミ に ぞくぞく した クヤシサ に かきむしられて、 その メ の イロ は アイテ に かみつかん ばかり の クチツキ と イッショ に とがって ゆき、 オバタ は つかまれた ブン から サキ の テ を しびれさせ、 キョウフ イジョウ の キョウ に おいつめられた まま、 これから サキ どう なる の か、 どういう てあら な こと を されて も こばめない ジブン から、 どういう ふう に にげだしたら いい か さえ かんがえつけない ほど、 イノ の いう まま に なり まるで バカ の よう に なって いた。
 ――キミ は ただ あやまり に きた だけ か。
 ――あやまる より ホカ に いう こと が ない ん です。
 ――モン を アノママ に うっちゃって おく つもり か。
 ――あったら なんとか フタリ で ソウダン する つもり で いる の です。
 ――イッショ に なる キ か。
 ――そう なる かも しれません。
 ――ウソ つきやがれ。
 イノ は かっと して オバタ の ホオ を ヒラテ で うち その ハズミ に ドテ の ウエ に けとばした。 そんな ランボウ な こと を しない で クチ で いえば わかる では ない か と いう オバタ を、 イノ は チカラ に まかせて いっそう はげしく ホオウチ を くわした。 テメエ の よう な ヤツ は ここ で どんな ひどい メ に あったって イッショウ ろく な こと を しない こと は わかって いる が、 これ くらい の こと は、 モン の こと を かんがえたら ガマン して いろ。 モン は もう イチニンマエ の オンナ には ならず に ハシ にも ボウ にも かからない オンナ に なって しまった の だ。 けれども テメエ の よう な ヤロウ と イッショ に なろう とは かんがえない だろう、 そんな ハナシ を もちこんだって モン は つっぱなして しまう だろう、 モン は カラダ は ジダラク に なって いる が キモチ は イゼン より か しっかり して いる の だ。 テメエ が くどきおとした キムスメ-らしい もの は モン の どこ を さがして も さがしきれない だろう し、 モン は そんな オボコ-らしい もの は すっかり なくして いる の だ、 それ は テメエ が みんな そう させた の だ、 テメエ さえ テダシ を しない で いたら、 アイツ は あんな オンナ に ならなかった の だ。
 ――もう ニド と くるな、 そして アイツ を なかせたり もう イッペン だましたり オモチャ に しない こと を ヤクソク しろ。
 ――まったく ボク が わるい の です。 なんと いわれて も シカタ が ない の です。
 イノ は たちあがる と、 アイテ が あまり ジュウジュン なので ハリアイ が ぬけ、 いくらか の きはずかしい キモチ で ジブン の した こと が アタマ に こたえて きて ならなかった。
 ――それでは キミ は もう かえれ。 オレ は モン の アニ なん だ、 キミ も イモウト を もって いた なら オレ の した こと くらい は わかる はず だ。
 ――では。
 オバタ は イマ イノ の いった コトバ が よく わかる よう な キ が し、 センコク と くらべる と イノ の カオ が おだやか に なって いる の を、 ひどい メ に あった こと と まるで ハンタイ な コウカン を もって みる こと が できた。
 イノ は なにやら いいたい フウ を した が、 オバタ は それ が イノ ジシン の した こと で ユルシ を こう もの に かんがえられて ならなかった。 イノ は とうとう いった。
 ――マチ に でる と ノリアイ が ある。 ヨツツジ で まてば いい の だ。

 1 シュウカン の ノチ モン は ふらり と かえって きた が、 おりよく スエ の イモウト の サン も ヤドサガリ を して フタリ は アカザ の コヤ に ベントウ を もって いった が、 アカザ は フタリ の スガタ を みた きり なんとも いわなかった。 めずらしい シマイ が ドウジ に かえって きて も ヒトコト も クチ を きかなかった。 シマイ が ドテ の ウエ を かえって ゆく の を フタリ が キ の つかない うち に、 アカザ は しばらく みつめて いた。
 リキ が このあいだ オバタ が たずねて きた こと を はなした が、 モン は その ハナシ を ゆっくり きいて べつに おどろく フウ も みせなかった が、 トウサン は どう いって オウタイ して いた か と それ が キ に なる らしく、 それ だけ を せきこんで きいた。 トウサン は なんにも いわず むしろ いたわる よう な チョウシ だった と いう と、 そう、 わるかった わね、 あの ヒト は もう こなく とも よかった のに と いった。 そして コンド イノ ニイサン と あわなかった の と たずねた が、 リキ は あわなかった らしい と こたえた。 それ や ナニ より だわ、 あの ヒト に あう と メンドウ な こと に なった かも しれない もの、 と、 モン は アンシン して ヨコ に なり、 ソラメ を して、 ちょっと いい オトコ じゃ ない の カアサン と いった。 バカ ナニ を イマ に なって いう の だ、 コドモ まで しょいこませた オトコ の こと を まだ ほめて いる なんて、 イイカゲン に する が いい と リキ は にがにがしく いった が、 モン は あの オトコ から アト に オトコ が できて も あんな に アルタケ の もの を すき に なれる オトコ なんて なかった。 オバタ には ゆるせる もの でも ホカ の オトコ には ゆるせない もの が あり、 オバタ より ずっと いい オトコ で あって も その いい オトコ-すぎる の が キザ だったり して、 ちょうど いい コロ カゲン の オバタ と くらべる と ものたりない と いい、 けれども オバタ が きたって イッショ に なって やらない さ、 すき なの は かんがえて いる とき だけ で あったら アタシ には もう なまぬるい オトコ に なって いる から と わらって いった。
 サン は ネエサン と いう ヒト は どうして そう オトコ の ヒト の こと ばかり を いう の。 ワタシ には そんな ふう に ずけずけ いえ も しない し、 かんがえて いる こと の ハンブン も しゃべれない わ。 だいいち、 オトコ の ヒト の こと を はなす ザイリョウ が ない ん だ もの と いった。 そりゃ オマエ は なんにも しらない けれど、 アタシ の よう に スレッカラシ に なる と、 みんな オトコ の こと わかる わ。 オトコ なんて きたない わ、 はなれて かんがえて いる と きたない けど、 でも いつのまにか ふだん かんがえて いる こと を みんな わすれて しまって、 ケイカイ する だけ した アト は もう コンキ の つづかない こと が ある もの よ と いった。
 イノ は オヒル に かえって くる と モン を みて、 すぐ ダラク オンナ め、 また おめおめ と かえって きやがった、 おおかた 1 シュウカン くらい くいつぶして いく つもり だろう、 ミンナ から あかれない サキ に さっさと かえって、 どこ か へ いって どろくさい ニンソク ども を アイテ に して さわいで いた ほう が いい ぜ、 こう みえて も ここ は カタギ な ウチ だ から その つもり で ウチ の ナカ の フウギ を わるく して もらいたく ない もの だ と レイ の ゴセイ で いった が、 サン は、 ニイサン ヒサシブリ で かえって きた ネエサン を そんな に ひどく いう もん じゃ ない わ と いう と、 ナン だ アカンボウ の サン ジョロウ、 だまって ひっこんで いろ、 モン の よう な オンナ は うんと やっつけて も それ で ショウネ が なおる とか、 アクタレグチ に まいって しまう とか いう そんな なまやさしい シロモノ じゃ ない ん だ から、 ヨコアイ から クチ を さしはさむ だけ バカ を みる ん だよ、 ――イノ は また モン が にらむ よう な メツキ を して いる の を みる と いいつづけた。 いったい いつまで キママ な カセギ を して いて いつ ちゃんと した セイギョウ に つく ん だ か、 そんな アイマイ な クラシ を して いる アイダ は ここ の ウチ に アシブミ を して もらいたく ない もん だ。 このあいだ きやがった ヤロウ に して も ニド と こられる ギリ で ない のに、 ずうずうしく やって きた の は こっち を なめて いる から だ と いった。
 ――ニイサン は オバタ さん に このあいだ おあい に なった の。
 モン は、 カオイロ を かえ、 あわなかった と いった ハハオヤ と、 イノ の カオ と を みくらべた。 サン も、 ハハオヤ も びっくり した。
 ――あった とも、 カエリ を みすまして つけて いった の だ。
 ――ナニ を なすった の。
 ――おもう まま の こと を して やった。
 イノ は にくたらしく モン の カオ を みて から、 アザワライ を クチモト に ふくんで いった。
 ――ランボウ を した ん じゃ ない わね。
 モン は イキ を ころした。
 ――けとばして やった が かなわない と おもいやがって テダシ は しなかった。 オラ ムネ が すっきり と した くらい だ。
 モン は アッケ に とられて いた が、 みるみる この オンナ の カオ が こわれだして、 クチ も ハナ も ひんまがって ほそながい カオ に かわって しまい、 ギャクジョウ から テッペン で だす よう な コエ で いった。
 ――もう イチド いって ごらん。 あの ヒト を どうした と いう の だ。
 モン は コシ を あげ カマクビ の よう な しろい あぶらぎった エリアシ を ぬいで、 なにやら フシギ な、 オンナ に おもえない サッキ-だった さむい よう な カンジ を ヒトビト に あたえた。 リキ も、 サン も、 こういう ギョウソウ の モン を みた こと が なかった。
 イノ は せせらわらって いった。
 ――ハンゴロシ に して やった の だ。
 ――テダシ も しない あの ヒト を ハンゴロシ に、……
 モン は そう いう と、 きあ、 と いう よう な コエ と オドロキ と を あらわした ワメキゴエ を あげる と、 チクショウ め と あらためて さけびだして たちあがって いった。
 ――ゴクドウ アニキ め、 ダレ が オマエ に そんな てあら な こと を して くれ と たのんだ の だ、 ナニ が オマエサン と あの ヒト の カンケイ が ある ん だ、 アタシ の カラダ を アタシ の カッテ に あの ヒト に やったって なんで オマエ が ゴタク を いう ヒツヨウ が ある ん だ。 それに ダレ が ふんだり けったり しろ と いった の だ。 テダシ も しない で いる ヒト を なぜ なぐった の だ、 ヒキョウモノ、 ブタ め、 ち、 ドウラクモノ め。
 モン は かつて ない ほど きおいたって いきなり イノ に つかみかかり、 その ふとった テ を ぺったり と イノ の カオ に ひっかけた な と みる と、 イノ の メジリ から ホオ に かけて ミスジ の ツメアト が かきたてられる と、 はれた アト の よう に あかく なり、 すぐに グミ の シル の よう な もの が ながれた。 この キチガイ アマ め、 ナニ を しやがる ん だ と イノ は モン の キ に のまれながら も、 すぐ はりたおして しまった。 モン は へたばった が、 すぐ おきあがって イノ の カタサキ に むしゃぶりついた が ヒトフリ ふられ、 そのうえ イノ の おおきな ヒラテ は ツヅケザマ に この イロキチガイ の フトッチョ め と いう コエ の シタ で、 ちからいっぱい に うちのめされた。 モン は きいい と いう よう な コエ で、
 ――さあ、 ころせ チクショウ、 さあ、 ころせ チクショウ。
 と、 シマイ に ぎあぎあ カエル の よう な コエガワリ を つづけた。 よし、 おもうさま キョウ は ロッコツ の おれる まで ひっぱたいて やろう と イノ が とびかかる と、 にげる と おもって いた モン は、 さあ なぐれ、 さあ ころせ と わめきたてて うごかなかった。
 もちろん、 リキ と サン は イノ を とめた が、 それでも イノ は コンチクショウ このまま おく と クセ に なる と いきおいたった が、 キ の よわい サン が なきだした ので イノ は それ イジョウ なぐる こと を あきらめて しまった。
 モン は きかなかった。
 ――オマエ の よう に しょうべんくさい オンナ を ひっかけて あるいて いる ヤツ と、 はばかりながら モン は ちがった オンナ なん だ、 オマエ の ゴタク-どおり に いう なら モン は インバイ ドウヨウ の、 ノンダクレ の ダラク オンナ だ、 ヒトサマ に コノママ では ヨメ には いけない バクレンモノ だ、 オヤ に トコロ も あかせない ナリサガリ の オンナ の クズ なん だ、 だけれど イチド ゆるした オトコ を テダシ の できない ハメ と ヨワミ に つけこんで ハンゴロシ に する よう な ヤツ は、 ニイサン で あろう が ダレ で あろう が だまって きいて いられない ん だ、 やい イシヤ の コゾウ、 それでも オマエ は オトコ か、 よくも、 モン の オトコ を ぶちやがった、 モン の アニキ が そんな オトコ で ある こと を オクメン も なく さらけだして、 モン に ハジ を かかせやがった、 チクショウ、 ゴクドウ ヤロウ!
 モン は そう いう と コンド は ひいひい と いう コエ で なきだして しまった。 リキ は コンド は モン に むかい おんなだてら に なんと いう クチ の キキヨウ を する の か、 もっと、 キ を つけない と トナリキンジョ も ある じゃ ない か と いう と、 モン は、 カアサン は だまって いて おくれ、 こんな ヨワイモノ イジメ の ニイサン だ と おもわなかった の だ、 こんな ヤツ に アニヅラ を されて たまる もの か と いった。
 ――まだ ぶたれたりない の か、 ジゴク め。
 ――もっと ぶちやがれ、 オンナ イッピキ が テメエ なんぞ の ゲンコツ で どう キモチ が かわる と おもう の は オオマチガイ だ、 そんな こと あ ムカシ の こと さ、 ドジョウ-くさい イナカ を うろついて いる オマエ なんぞ に アタシ が ナニ を して いる か わかる もの か。
 イノ は もう イチド とびかかろう と した が、 リキ に とめられて シゴト の ジカン に きづく と、 イイカゲン に うせやがれ と どなりちらして でて いった。
 イノ が ソト に でる と ドウジ に モン は なきだした。 リキ は モン の タンカ の キリヨウ が すさまじい ので モン が どういう ソト の セイカツ を して いる か が、 ソウゾウ する と すえおそろしい キ が した。
 ――オマエ は タイヘン な オンナ に オナリ だね。
 リキ の コエ は キュウ に おとろえて いる よう で、 モン の ミミ には つらく きこえた。
 ――そう でも ない のよ カアサン シンパイ しなく とも いい わ。
 ――でも、 あれだけ いえる オンナ なんて ワタシ はじめて さ。 ゴショウ だ から カタギ な クラシ を して もっと おんならしく おなり、 まるで オマエ あれ では ニイサン イジョウ じゃ ない か。
 ――アタシ、 カアサン の かんがえて いる ほど、 ひどい オンナ に なって いない わ、 だけど アタシ もう ダメ な オンナ よ。
 リキ は オバタ から の メイシ を だして みせた が、 しばらく みつめた アト、 こんな もの、 アタシ に ヨウ は ない わ と いい こまかく しずか に さいて しまった。 そして うつむいて しくしく なきだした。 すっかり ないて しまう と モト の まま の モン に なり、 ヨコズワリ を して ジブン で ジブン を ジャマモノ に する よう な、 だるそう な カオツキ を して リキ に いった。
 ――アタシ ミョウ に なった の かも しれない わ。 カラダ が だるくて。
 ――まさか オマエ また あれ じゃ ない だろう ね。
 ――まあ、
 と、 モン は わらって しまった。 わざとらしい ワライザマ が リキ の ココロ を しめつけた。 そんな こと だったら、 ウチ へ なんか かえって こない わ、 アタシ これ でも カアサン の カオ が みたく なって くる のよ、 わるい こと を して も いい こと を して も やはり へんに きたく なる わ、 あんな、 いや な ニイサン に だって ちょっと カオ が みたく なる こと が ある ん です もの と、 モン は それ を ホントウ の キモチ から いった。

 その ジブン、 アカザ は 7 ハイ の カワブネ を つらね、 ジョウリュウ から つんで きた イシ の オモミ で スイメン と スレスレ に なった フネ の ウエ で、 あと イクニチ と ない ツユイリドキ の カワ の テイレ を キミジカ に いそいで いた。 この シゴト を やって のければ ツユ の アイダ は やすめる の だ。 やすむ こと の きらい な カレ は ひきつづいて シゴト を ナツ まで ノベ で つづけよう、 その キモチ の ある モノ は はたらけ と どなって いた。
 ――シゴト に つく モノ は テ を あげろ。
 フネ が セギ に ついた とき に アカザ は 7 ハイ の フネ に のって いる ハダカ の ナカマ に、 ゲンキ の よい コエ で どなって みせた。 そういう とき の アカザ は ジョウキゲン だった。 ミンナ テ を あげて ツギ の シゴト に まわる こと を サンセイ した。 ようし、 その つもり で みっちり と はたらいて あつい ドヨウ に ヒボシ に ならない よう に する ん だ と、 アカザ は もう ツギ に イシ を おろす こと を てばやく メイレイ した。 コウテツ の よう な カワイシ は ニンプ の テ から どんどん ジャカゴ の ナカ に なげこまれ、 あらい セスジ が みる うち に ふさがれ とめられて いった。 カワミズ は イキオイ を そがれ どんより と かなしんで いる よう に しばらく よどんで みせる が、 すこし の ミズ の ハケグチ が ある と、 そこ へ イカリ を ふくんで はげしく ながれこんだ。 アカザ は そこ へ イシ の ナゲイレ を めいじ オオゴエ で わめきたてた。 そんな とき の アカザ の ムナゲ は さかだって ドウゾウ の よう な カラダ が はちきれる よう に、 フネ の ウエ で しゃちこだって みえた。
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ヨウネン ジダイ 1

2014-09-08 | ムロウ サイセイ
 ヨウネン ジダイ

 ムロウ サイセイ

 1

 ワタシ は よく ジッカ へ あそび に いった。 ジッカ は すぐ ウラマチ の おくまった ひろい カジュエン に とりかこまれた こぢんまり した イエ で あった。 そこ は ゲンカン に ヤリ が かけて あって ヒノキ の おもい 4 マイ の ト が あった。 チチ は もう 60 を こえて いた が、 ハハ は マユ の アト の あおあお した 40 ダイ の イロ の しろい ヒト で あった。 ワタシ は チャノマ へ とびこむ と、
「ナニ か ください な」
 すぐ オカシ を ねだった。 その チャノマ は、 いつも トケイ の オト ばかり が きこえる ほど しずか で、 ヒジョウ に きれい に セイトン された セイケツ な ヘヤ で あった。
「また オマエ きた の かえ。 たったいま かえった ばかり なのに」
 チャダナ から カシザラ を だして、 キャク に でも する よう に、 よく ヨウカン や モナカ を もって だして くれる の で あった。 ハハ は、 どういう とき も カシ は ウツワモノ に いれて、 いつも トクベツ な キャク に でも する よう に、 オチャ を そえて くれる の で あった。 チャダナ や トショウジ は みな よく ふかれて いた。 ワタシ は ナガヒバチ を へだって すわって、 ハハ と ムカイアワセ に はなす こと が すき で あった。
 ハハ は コガラ な きりっと した、 イロジロ な と いう より いくぶん あおじろい カオ を して いた。 ワタシ は もらわれて いった イエ の ハハ より、 じつの ハハ が やはり きびしかった けれど、 ラク な キ が して はなされる の で あった。
「オマエ おとなしく して おいで かね。 そんな 1 ニチ に 2 ド も きちゃ いけません よ」
「だって きたけりゃ シヨウ が ない じゃ ない の」
「フツカ に イッペン ぐらい に おし よ。 そう しない と アタシ が オマエ を かわいがりすぎる よう に おもわれる し、 オマエ の ウチ の オカアサン に すまない じゃ ない かね。 え。 わかって――」
「そりゃ わかって いる。 じゃ、 1 ニチ に イッペン ずつ きちゃ わるい の」
「フツカ に イッペン よ」
 ワタシ は ハハ と あう ごと に、 こんな ハナシ を して いた が、 ジッカ と 1 チョウ と はなれて いなかった せい も ある が、 ヤクソク は いつも やぶられる の で あった。
 ワタシ は ハハ の カオ を みる と、 すぐに ハラ の ナカ で 「これ が ホントウ の オカアサン。 ジブン を うんだ オッカサン」 と ココロ の ソコ で いつも つぶやいた。
「オッカサン は なぜ ボク を イマ の オウチ に やった の」
「オヤクソク した から さ。 まだ そんな こと を わからなくて も いい の」
 ハハ は いつも こう こたえて いた が、 ワタシ は、 なぜ ワタシ を ハハ が あれほど あいして いる に かかわらず タケ へ やった の か、 なぜ ジブン で そだてなかった か と いう こと を うたがって いた。 それに ワタシ が たった ヒトツブダネ だった こと も ワタシ には ハハ の ココロ が わからなかった。
 チチ は、 すぐ トナリ の マ に いた。 しかし ヒルマ は たいがい ハタケ に でて いた。 ワタシ は よく そこ へ いって みた。
 チチ は、 ブドウダナ や ナシバタケ の テイレ を いつも ヒトリ で、 だまって やって いた。 ナリ の たかい ブシ-らしい ヒト で あった。
「ボウヤ かい。 ちょいと そこ を もって くれ。 うん。 そう だ。 なかなか オマエ は リコウ だ」 と、 チチ は ときどき てつだわせた。
 ハタケ は ひろかった が、 リンゴ、 カキ、 スモモ など が、 あちこち に つくって あった。 ことに、 アンズ の ワカギ が おおかった。 ワカバ の カゲ に よく うれた うつくしい アカネ と ベニ と を まぜた この カジツ が、 ハモレ の ヒカリ に やわらかく おいしそう に かがやいて いた。 あまり に うれすぎた の は、 ヒトリ で あたたかい オト を たてて チジョウ に おちる の で あった。
「オトウサン。 ボク アンズ が ほしい の。 とって も いい の」
「あ。 いい とも」
 ワタシ は、 まるで サル の よう に たかい キ に のぼった。 ワカバ は たえず カゼ に さらさら なって、 あの うつくしい コガネイロ の カジツ は ワタシ の フトコロ にも テ にも いっぱい に にぎられた。 それに、 キ に のぼって いる と、 キ が せいせい して チジョウ に いる より も、 なんとも いえない トクベツ な たかい よう な、 ジユウ で えらく なった よう な キ が する の で あった。 たとえば、 そういう とき、 ドウロ の ほう に ワタシ と おなじい ネンパイ の トモダチ の スガタ を みたり する と、 ワタシ は、 その トモダチ に なにかしら コエ を かけず には いられない の で あった。 ジブン の イマ あじわって いる コウフク を ヒト に しらさず に いられない うつくしい コドモゴコロ は、 いつも ワタシ を して コズエ に もたれながら かるい コオドリ を させる の で あった。
 ハタケ は、 イチヨウ に キソク ただしい ウネ や カコイ に よって、 たとえば タマナ の ツギ に エンドウ が あり、 その ウシロ に キュウリ の ツルダケ が ヒトカコイ、 と いう ジュンジョ に スベテ が せいぜん と した チチ の ケッペキ な セイカク と、 ムカシ 2 ホン の ダイショウ を コシ に した ゲンカクサ の アラワレ で ない もの は なかった。 チチ の ノライヌ を おう とき、 コヅカ でも なげる よう に、 コイシ は イヌ に あたった。 または カラス など を おう テツキ が、 やはり イッシュ の ケイシキテキ な ドウジョウグセ を もって いて、 ミョウ に ワタシ を して カンシン させる よう な ケンジュツ を おもわせる の で あった。
 チチ の イマ には、 その フスマ の オク や トダナ には、 おどろく べき タクサン の トウケン が おさめられて あった。 ワタシ は めった に みた こと が なかった が、 ぴかぴか と ウルシヌリ の ひかった サヤ や、 ツカ の サメ の ぽつぽつ した ヒョウメン や、 カケジルシ に むすんだ ツカイト の つよい コン の タカマリ など を、 よく チチ の カオ を みて いる と、 なにかしら カンレン されて おもいうかぶ の で あった。
 それに チチ は ヒジョウ に ケンコウ で あった。 ヘイゼイ は ハイク を かいて いた。 チチ は ブドウダナ から さす あおい コウセン の はいる マドサキ に、 シュウジヅクエ を もちだして、 よく タンザク を かいて いた。 イクマイ も イクマイ も かきそこなって、
「どうも よく かけん」
 など と いって、 うっちゃる こと が あった。 ハハ は そういう ヒ は、 ツギノマ で ヌイシゴト を して いた。 レイ の オト ヒトツ ない イエ の ナカ には ハッカク-ドケイ が、 かたこと と なって いる ばかり で あった。 チチ も ハハ も チャ が すき で あった。 フタリ で チャ を のんで いる とき、 ワタシ も アソビ トモダチ に あきて しまって、 よく そこ へ たずねて ゆく こと が あった。
 ワタシ は よく ハハ の ヒザ に もたれて ねむる こと が あった。
「オマエ ねむって は いかん。 オウチ で シンパイ する から はやく おかえり」 と チチ が よく いった。
「しばらく ねむらせましょう ね。 かあいそう に ねむい ん です よ」
 ハハ の いう コトバ を ワタシ は ユメウツツ に、 うっとり と とおい ところ に きいて、 イク-ジカン か を ぐっすり と ねむりこむ こと が あった。 そういう とき、 ふと メ を さます と、 わずか しばらく ねむって いた アイダ に、 トオカ も ハツカ も たって しまう よう な キ が する の で あった。 なにもかも わすれ あらいざらした カンビ な イッシュン の タノシサ。 その ユウエンサ は、 あたかも ゴゼン に あそんだ トモダチ が、 トオカ も サキ の こと の よう に おもわれる の で あった。
 ハハ は ワタシ の かえる とき は、 いつも ヨウカ の ハハ の オモワク を キ に して、 エリモト や オビ を しめなおしたり、 カオ の ヨゴレ や テアシ の ドロ など を きれい に ふきとって、
「さあ、 ミチクサ を しない で おかえり。 そして ここ へ きた って いう ん じゃ ありません よ」
「え」
「おとなしく して ね」
「え。 オッカサン。 さよなら」
 ワタシ は いつも かんじる よう な イッシュ の ムネ の せまる よう な オモイ で、 わざと それ を ココロ で まぎらす ため に ゲンカン を かけだす の で あった。 ハハ は、 いつも ながく モン の ところ に たって みおくって いた。

 2

 ワタシ は ヨウカ へ かえる と、 ハハ が いつも、
「また オッカサン の ところ へ いった の か」 と たずねる ごと に、 ワタシ は そしらぬ フリ を して、
「いえ。 オモテ で あそんで いました」
 ハハ は、 ワタシ の カオ を みつめて いて、 ワタシ の いった こと が ウソ だ と いう こと を よみわける と、 きびしい カオ を した。 ワタシ は ワタシ で、 しれた と いう こと が チョッカク される と ヒジョウ な ハンカンテキ な むらむら した キ が おこった。 そして 「どこまでも いかなかった と いわなければ ならない」 と いう ケッシン に、 しらずしらず カラダ が ふるう の で あった。
「だって オマエ が サト へ いって いた って、 オトモダチ が ミナ そう いって いました よ。 それに オマエ は いかない なんて、 ウソ を つく もん じゃ ありません よ」
「でも ボク は ウラマチ で あそんで いた ん です。 ミンナ と あそんで いた ん です」
 ワタシ は ゴウジョウ を はった。 「ダレ が いいつけた ん だろう」 「もし いいつけた ヤツ が わかったら ひどい メ に あわして やらなければ ならない」 と おもって、 あれ か これ か と トモダチ を ココロ で ブッショク して いた。
「オマエ が いかない って いう なら いい と して ね。 オマエ も すこし かんがえて ごらん。 ここ ん チ へ きたら ここ の イエ の モノ です よ。 そんな に しげしげ サト へ ゆく と セケン の ヒト が ヘン に おもいます から ね」
 コンド は やさしく いった。 やさしく いわれる と、 あんな に ゴウジョウ を いう ん じゃ なかった と、 すまない キ が した。
「え。 もう いきません」
「ときどき いく なら いい けれど ね。 なるべく は、 ちゃんと オウチ に おいで よ」
「え」
「これ を もって オヘヤ へ いらっしゃい」
 ハハ は ワタシ に ヒトツツミ の カシ を くれた。 ワタシ は それ を もって ジブン と アネ との ヘヤ へ いった。
 ハハ は しかる とき は ヒジョウ に やかましい ヒト で あった が、 かわいがる とき も かわいがって くれて いた。 しかし ワタシ は なぜ だ か したしみにくい もの が、 ハハ と ワタシ との コトバ と コトバ との アイダ に、 フダン の コウイ の スミズミ に はさまれて いる よう な キ が する の で あった。
 アネ は ヨメイリサキ から もどって いた。 そして ヒトリ で いつも さびしそう に ハリシゴト を して いた。 ワタシ は ツクエ の マエ に すわって だまって オサライ を して いた。
「ネエサン。 これ を おあがり」
 ワタシ は フトコロ から アンズ を とりだした。 うつくしい カジツ は まだ あおい ハ を つけた まま そこら に イクツ も ころがって でた。
「まあ。 オサト から とって いらしった の」
「ええ。 たいへん あまい の」
「では オカアサン には ヒミツ ね」
「そう。 イマ オサト へ いった って しかられちゃった ところ さ」
 アネ は だまって ヒトツ たべた。 アネ は イチニチ なにも いわない で いた。 わずか 1 ネン も よめいって かえって きた カノジョ は、 うまれかわった よう に、 インキ な、 かんがえぶかい ヒト に なって いた。
「ネエサン は オヨメ に いって ひどい メ に あった ん でしょう。 きっと」
「なんでも ない のよ」
 アネ は アト は だまって いた。 ワタシタチ は アンズ の タネ を そっと マド から トナリ の テラ の ケイダイ に すてた。
 アネ は イロイロ な キレルイ や ちいさな うつくしい ハコ や、 メ の あおい ニンギョウ や、 キヌ で こしらえた サイフ や、 ヨメイリサキ が カイガン だった と いう ので そこ で あつめた サクラガイ ヒメガイ チョウチンガイ など を タクサン に もって いた。 それ は ちいさな テサゲ-ダンス の ナカ に しまって あった。 ワタシ は それ を すこし ずつ わけて もらって いた。
「これ も すこし あげよう」
 ヒトツヒトツ すこし ずつ わけて くれた。 ワタシ は ことに ビレイ な トウメイ な カイ など を ワタ に くるんで、 やはり もらった ハコ に しまって おいた。 アネ は、 ことに キレ が すき で あった。 サマザマ な イロ の キヌルイ を タイセツ に もって いた。 どうした ハズミ だった か、 アネ の ナアテ の テガミ の タバ を みた こと が あった。
「それ ナアニ。 オテガミ! みせて ください」
 ワタシ は なにごころなく うばう よう に して とろう と する と、 アネ は あわてて それ を ウシロ に かくして、 そして あかい カオ を した。
「なんでも ない もの です よ。 アナタ に みせて も よめ は しない もの よ」
 ワタシ は アネ が あかく なった ので、 みて は わるい もの だ と いう こと を かんじた。 きっと、 アネ の トモダチ から きた ので、 ワタシドモ に しらして は ならない こと を かいて ある の だ と おもって、 ワタシ は ふたたび それ を みよう とは しなかった。
「カアサン に ね。 ネエサン が テガミ を もって いる って いう こと を いわない でしょう ね」
 アネ は シンパイ そう に いった。
「いわない とも」
「きっと」
「きっと だ」
 ワタシ は ちいさな チカイ の ため に ユビキリ を した。 アネ は オヨメ マエ とは やせて いた が、 それでも よく こえて がっしり した テ を して いた。 ワタシ は そういう ふう に、 だんだん アネ と ふかい シタシミ を もって きた。
 バン は アネ と ならんで ねた。
「ネエサン。 はいって いい?」
 など と ワタシ は よく アネ と イッショ の トコ に はいって ねる の で あった。 アネ は イロイロ な ハナシ を した。 イオウゼン の ハナシ や、 ホリ ムサブロウ など と いう、 カガ ハン の カワシ の ハナシ など を した。
 カガ ハン では カワシ と いう もの が あって、 アユ の キセツ や、 マス の キセツ には、 メノシタ 1 シャク イジョウ ある もの を とる ため の、 トクベツ な カワ の リョウシ で あって、 タイトウ を ゆるされて いた。 ことに ホリ ムサブロウ と いう の は、 カガ では オオカワ で ある テドリガワ でも、 オジョウカ サキ を ながれる サイカワ でも、 いたる ところ の ユウメイ な フチ や セガシラ を およぎさぐる こと が ジョウズ で あった。
 ゼンブショク から カメイ が ある と ホリ は いつも 48 ジカン イナイ には、 リッパ な アユ や マス を いけどって くる の で あった。 カレ は、 このんで、 ヌシ の すんで いる と いう ウワサ の ある フチ を およぎいる の で あった。 その コロ、 サイカワ の ジョウリュウ の オオクワ の フチ に、 ヌシ が いて よく ウマ まで も とられる と いう こと が あった。
 ホリ は その フチ の ソコ を さぐって みた。 ヨル の よう な ふかい セイジャク な ソコ は、 カラダ も しびれる ほど ひえきった シミズ が わいて いて、 まるで コオリ が はって いる よう な ツメタサ で あった。 その ソコ に ヒトツ の ヒトトリガメ が ぴったり と はらぼうて いた。 で、 ホリ は カメ の アシ の ワキノシタ を くすぐる と、 カメ は 2~3 ジャク うごいた。 まるで フシギ な おおきな イシ が うごく よう に。 ――その カメ の うごいた シタ に くらい アナ が あった。 カレ は そこ を くぐった。 ナカ は、 3~4 ケン も あろう と おもわれる ヒロサ で、 ヒジョウ に タクサン の マス が こもって いた。 ホリ は それ を テドリ に ヒツヨウ な だけ (カレ は ヒツヨウ イガイ の サカナ は とらなかった。) つかまえて、 アナ を はいでよう と する と、 レイ の ヒトトリガメ が ぴったり と イリグチ を ふたして いた。
 ホリ は また ワキバラ を くすぐって、 うごきだした スキ に アナ を はいでた。 ホリ は、 この ハナシ を した が ダレ も そこ へ はいって みる モノ が なかった。 それから と いう もの は ホリ は そこ を ユイイツ の 「マス の ゴリョウバ」 と して いた。
 その ホリ が ショウガイ で いちばん おそろしかった と いう ハナシ は、 クラガタケ の イケ を もぐった とき で あった。 この クラガタケ は、 カガ の ハクサン サンミャク も やがて トウホウ に つきよう と した ところ に、 こんもり と もりあがった ヤマ が あって、 そこ は ムカシ サッサ ナリマサ に せめたてられて ニゲバ を うしなった トガシ マサチカ が バジョウ から ジョウサイ の イケ に とびこんだ コセンジョウ で あった。 マイトシ カレ が ウマ と ともに とびこんだ と いう ウラボン の 7 ガツ 15 ニチ に、 いつも その ジョウモン の ついた クラ が うきあがった。 ナカ には クラ の うきあがった の を みた と いう ムラ の ヒト も あり、 その ヒ は べつに カワリ は ない けれど、 なんとも いえぬ イケ の ソコナリ が する と いう ヒト も あった。 フシギ な こと には、 ウマ と イッショ に とびこんだ トガシ マサチカ の スガタ が、 その オリ とうとう ういて こなかった こと で あった。
 その イケ は ふかく セイランショク の しずんだ イロ を みせて、 サザナミ ヒトツ たたない ヒ は、 いかにも その ソコ に ふかい エンコン に もえしずんだ ノブシ の レイコン が チンセン して いそう に おもわれる ほど、 セイジャク な、 シンピテキ な すごい シハイリョク を もって ヒトビト の シンケイ を ふるわせて くる と いう こと で あった。 ホリ は この デンセツ を きいて わらった。 そして、 カレ が この イケ の ソコ を タンケン する と いう こと が、 オジョウカマチ に なりひびいて ウワサ された の で あった。
 その ヒ、 ホリ は エモノ ヒトツ もたず に イケ に もぐりこんだ。 しずか な ゴゴ で あった。 カレ は かなり ながい アイダ スイメン に うかなかった が、 しばらく して うきあがって きた カレ は、 ヒジョウ な ソウハク な、 キョウフ の ため に たえず キンニク を ぴくぴく させて いた。 そして ナンピト にも その ソコ の ヒミツ を はなさなかった。 ナニモノ が いた か と いう こと や、 どういう ヌシ が すんで いた か と いう こと など、 ヒトツ も かたらなかった。 ただ カレ は カワシ と して の ショウガイ に、 いちばん おそろしい オドロキ を した と いう こと のみ を、 アト で ヒトビト に はなして いた。 それ と ドウジ に カレ は カワシ の ショク を やめて しまった。
 アネ は ハナシジョウズ で あった。 これ を はなしおえて も ワタシ は まだ ねむれなかった。 そして イロイロ な シツモン して アネ を こまらした。
「いったい イケ の ソコ に ナニ が いた ん でしょう」
「そりゃ わからない けれど、 やっぱり ナニ か おそろしい もの が いた ん でしょう ね」
「では イマ でも クラ が うく ん でしょう か」
「ヒト が そう いいつたえて いる けれど、 どう だ か わからない わ。 しかし こわい イケ だって」
 ワタシ は ハナシ サイチュウ に その クラガタケ を メ に うかべた。 それ は ツルギ カイドウ を だきこんだ ヒジョウ に ゆるやか な コウホウ で、 この ミネツヅキ では いちばん サキ に、 フユ は、 ユキ が きた。
「トガシ って サムライ は まだ イケ の ナカ に いきて いる の。 それとも しんで しまった の」
「それ が わからない の。 いきて いる かも しれない わ」
 アネ は おどかす よう に いって、
「もう おやすみ」 と いった。
 ワタシ は かるい キョウフ を かんじて アネ に ぴったり と だかれて いた。 アネ の ムネ は ひろく あたたかかった。 やがて ワタシ は アネ の あたたかい コキュウ を ジブン の ホオ に やさしく かんじながら ねむった

 3

 ワタシドモ の マチ の ウラマチ の どんな ちいさな イエイエ の ニワ にも、 カジツ の ならない キ とて は なかった。 アオウメ の コロ に なる と タマゴイロ した まるい やつ が、 コズエ いっぱい に たわみこぼれる ほど みのったり、 うつくしい マッカ な グミ の タマ が ヘイ の ソト へ しだれだした の や、 あおい けれど アマミ の ある リンゴ、 アンズ、 ユキグニ トクユウ の スモモ、 ケモモ など が みのった。
 ワタシドモ は ほとんど こうぜん と それら の カジツ を イシ を もって たたきおとしたり、 ヘイ に のぼって とったり した。 ちょうど ナナツ ぐらい の コドモ で あった ワタシドモ は、 そうした やさしい カジツ を リャクダツ して あるく ため には、 7~8 ニン ずつ タイ を くんで ウラマチ へ でかける の で あった。 それ を 「ガリマ」 と いって いた。
「ガリマ を しよう じゃ ない か」
 こう ハツゲン する モノ が ある と、 ミナ 1 タイ に なって カジュエン マチ へ でかけた。 しかし、 それ は ぜんぜん ドウロ の ほう へ キ の エダ が はみでた ブン の カジツ に かぎられて いた。 まるで ナンヨウ の ドジン の よう な、 あらい しかし ムジャキ な リャクダツタイ で あった。
 だから カジツ の キ を もつ イエイエ の ヒト は、 コドモ ら が ドウロ の ほう へ でた ブン の カジツ を とって いて も、 べつに とがめ も しかり も しなかった。 かえって、 ヒト の よい チュウネン の ハハ らしい ヒト が にこにこ わらって みて いる の も あったり した。
「ガリマ タイ の こない うち に」 と いって、 カジツ を キュウ に とりはじめる ウチ も あった。
 ワタシ も よく その 「ガリマ タイ」 に くわわった もの で あった。 「ガリマ タイ」 の すすんで いった アト の ドウロ は、 ちぎられた アオバ ワカバ が かわいた ミチ の ウエ に、 はげしい コドモ の イタズラ の アト を のこして ちらばって いた。
 ワタシタチ は アキチ の クサバ に ワ を つくって、 「ガリマ」 に よって えた カジツ を ミナ に ワケッコ を する の で あった。 そして、 ミナ こどもらしい しろい アシ を なげだして、 わいわい いいながら、 きわめて シゼン-らしい アソビ に ふける の だ。 イロイロ な ウチ の カジツ が それぞれ ことなった ミカク を もって いて、 コドモ ら は それ を あじわいわける こと が ジョウズ で あった。
 ワタシ も やはり ウラマチ を あるく と、 どこ の アンズ が うまくて、 あそこ の リンゴ が まずい と いう こと を よく しって いた。 「ガリマ タイ」 が じんどって いる と、 そこら に あそんで いた オンナ の コドモ ら も、 ミナ いいあわした よう に あつまって くる の で あった。
「キミラ にも わける よ。 ミナ フタツ ずつ だよ」
 など と いって、 にこにこ して いる ショウジョ たち に ミナ ビョウドウ に わけあたえる こと も、 イツモ の レイ に なって いた。 オンナ の コ ら は やや はにかみながら も、 「ガリマ タイ」 の ナカ に ニイサン など も いる ので、 ミナ したしく わけて もらって、 タイ を はなれて あそぶ の で あった。
 イツゴロ から そういう フウシュウ が あった の か しらない が、 それ が けっして フシゼン な ところ が なく、 また ヒジョウ に わるびれた ところ が、 みえなかった。
「すこし のこして いって おくれ、 みな とられる と オジサン の ブン が なくなる じゃ ない か」 と いう ウチ も あった。
 そんな ウチ は イイカゲン に して ひきあげた。 どちら も にこにこ して いる アイダ に、 しぜん と とりかわされた レイセツ が、 コドモ ら の ビンカン な ココロ を やわらげる の で あった。
 ワタシ は ツブテ を うつ こと が すき で あった。 ヒジョウ に たかい キ の テッペン には、 ことに アンズ など は、 リッパ な おおきな やつ が ある カギリ の ヒカリ に おごりふとって、 コガネイロ に よく かがやいて いた。 そんな とき は、 ツブテ を うって、 フイ に コズエ に ヒジョウ な シンドウ を あたえた ハズミ に その アンズ を おとす より ホカ に ホウホウ は なかった。
 ワタシ は テゴロ な コイシ を もつ と、 ぴゅう と カゼ を きって コズエ を めがけて なげる の で あった。 ツブテ は アオバ の アイダ を くぐったり、 ふれた アオバ を きったり して、 はっし と コズエ に あたる の で あった。 たいがい よく うれきった アンズ の ガク は よわく なって いて、 うつくしい エンケイ を えがいて ハナビ の よう に おちて くる の で あった。 そういう とき は、 コドモ ら は イッセイ に カンキ に もえた コエ を あげた。
 ワタシ は また よく カワギシ へ でて、 ツブテ を うったり した もの で あった。 ともかく、 ワタシ の ツブテ は、 アソビ トモダチ の ナカ でも ヒジョウ な ウデキキ と して ソウオウ な ソンケイ を はらわれて いた。 たとえば、 A の マチ の 「ガリマ タイ」 と、 B の マチ の 「ガリマ タイ」 と が、 よく しずか な ウラマチ で でっくわす こと が あった。 そんな とき は、 すぐに ケンカ に なった。 そんな とき は、 たいがい イシ を なげあう ので、 ワタシ が いちばん ヤク に たった。
 ワタシ は いつも テキ の アタマ を こす くらい に うった。 ヒトツ から フタツ、 ミッツ と いう ジュンジョ に、 ヤツギバヤ に うつ の が トクイ で それ が テキ を して いちばん こわがらせる の で あった。 ワタシ は たいがい オドカシ に やって いた が、 ツブテウチ の メイジン と して、 ワタシ が タイ に いる と テキ は イイカゲン に して ひきあげる の で あった。
 ケンカ が ハクヘイセン に なる と、 ずいぶん ひどい ナグリアイ に なる の で あった。 サオ や ステッキ で テキ も ミカタ も めちゃくちゃ に なる まで、 やりつづける の で あった。 ワタシ は クミウチ が うまかった。 そのかわり 4~5 ニン に くみしかれて アタマ を がんがん はられる こと も すくなく なかった。 ワタシ は どういう とき にも かつて なかなかった ため に、 ナカマ から ユウカン な モノ の よう に おもわれて いた が、 ココロ では いつも ないて いた の だ。

 4

 ショウガッコウ では いちばん ショウカ が うまかった。 サクブン も ズガ も まずかった。 ワタシ は いつのまにか イエ で おとなしかった が ガッコウ では アバレモノ に なって いた。 ワタシ は よく ケンカ を した。 ケンカ を する たび ごと に ワタシ が くわわって いて も いなくて も、 ワタシ が ホットウニン に させられた。 そして 「オノコリ」 に よく あった。
 ワタシ は たえず フアン な、 ムネ の すく なる よう な キ で ガッカ の はてる の を まった。 それ は センセイ が ワタシ の ヨミカタ ヒトツ が ちがって いて も、 ホカ の モノ が まちがって いて は そう では なかった が、 ワタシ だけ は いつも イノコリ を めいぜられた から で あった。 「キョウ も やられる かなあ」 と かんがえて いる と、 きっと、
「ムロウ、 かえって は いけない」 と イノコリ の メイレイ に あった。
 ワタシ の ちょいと した ヨミチガイ でも そう だ。 ことに ケンカ から うたがわれて 1 シュウカン も キョウシツ に のこされた こと は、 ほとんど イツモ の こと で あった。 ワタシ の おかさない ツミ は いつも ワタシ の ベンカイ する イトマ なく ワタシ の ウエ に くわわって いた。 ワタシ は ダレ にも いいたい だけ の ベンカイ が できなんだ。
 ワタシ は キョウシツ の さびしい がらん と した シツナイ に、 1 ジカン も 2 ジカン も センセイ が やって きて 「かえれ」 と いう まで たって いなければ ならなかった。 ガクユウ の かえって ゆく いさましい ムレ が、 そこ の マド から マチ の イッカク まで ながめられた。 ミナ ユカイ な、 よろこばしげ な、 あたたかい カテイ を さして いった。 カレラ の かえって ゆく ところ に カレラ の イチニチ の ベンガク を むくゆる ため の うつくしい コウフク と イシャ と が、 その ひろい あたたかい ツバサ を ひろげて いる よう に さえ おもわれた。 ワタシ は ソト の リョクジュ や、 ウチ に いる アネ の やさしい ハリシゴト の ソバ で ハナシ する ユカイ を かんがえて、 たえず ウサギ の よう に ミミ を たて、 いまにも センセイ が きて かえして くれる か と、 それ を イッシン に まって いた。
 ワタシ は キョウシツ の ガラス が ナンマイ ある か と いう こと、 いつも ワタシ の たたされる ハシラ の モクメ が イクツ ある か と いう こと、 ボールド に イクツ の フシアナ が ある か と いう こと を しって いた。 ワタシ は シマイ には マド から みえる ジンカ の ヤネガワラ が ナンジュウマイ あって、 ハスカイ に ナンマイ ならんで いる か と いう こと、 ハスカイ の キテン から シタ の ほう の キテン が けっして マイスウ を おなじく しない テン から して、 ほとんど シカク な ヤネ が、 けっして シカク で ない こと など を そらんじて いた。
 タクサン の セイト の マエ で、
「オマエ は イノコリ だ」
 こう センセイ から センゲン される と、 タクサン の セイト ら に たいして ワタシ は わざと 「イノコリ なんぞ は けっして こわく ない」 と いう こと を しめす ため に、 いつも さびしく ビショウ した。 ココロ は あの キンソクテキ な ゼツボウ に ふたせられて いる に かかわらず、 ワタシ は いつも ビショウ せず には いられなかった。
「ナニ が おかしい の だ。 バカ」
 ワタシ は よく どなられた。 そんな とき、 ワタシ は ワタシ ミズカラ の ココロ が どれだけ ひどく ゆれ かなしんだ か と いう こと を しって いた。 おさない ワタシ の ココロ に あの ひどい アレヨウ が、 ヒビ の はいった カメ の よう に ふかく きざまれて いた。 ワタシ は ときどき、 あの センセイ は ワタシ の よう に コドモ の とき が なかった の か、 あの センセイ の イマ の ココロ と、 ワタシ の オサナゴコロ と が どうして あう もの か と さえ おもった。
 しかし ワタシ は センセイ に にくまれて いる と いう、 シンリジョウ の コンポン を みる ほど ワタシ は オトナ では なかった。 ワタシ は にくまれて いた。 ――ワタシ は、 センセイ の ため ならば なんでも して あげたい と おもって いた。 ワタシ の ショユウヒン、 ワタシ の スベテ の もの を ささげて いい から、 この くるしい イノコリ から のがれたい と おもって いた。 その ハンメン に ワタシ は ときどき、 とても コドモ が かんじられない ふかい ザンコクサ の シッペガエシ と して、 あの センセイ が この ガッコウ へ でられない よう に する ホウホウ が ない もの か とも かんがえて いた。 そういう カンガエ は とうてい ジツゲン できなかった し、 また、 そういう カンガエ を もつ こと も おそろしい こと に おもって いた。
 ウチ では マイニチ イノコリ を くう ため に ハハ の キゲン が わるかった。 めずらしく イノコリ を されなかった ヒ は、 コンド は ハハ が やはり イノコリ に された ん だろう と いって せめた。 ワタシ は どう すれば よい か わからなかった。
 ワタシ は ヒトケ の ない しんと した キョウシツ で、 ヒトリ で ナミダ を ながして いた。
「ね。 はやく かえって いらっしゃい。 アナタ さえ おとなしく して いりゃ センセイ だって きっと イノコリ は しなく なって よ。 アナタ が わるい のよ。 みな ジブン が わるい と おもって ガマン する のよ。 えらい ヒト は ミナ そう なん だわ」
 こう いって くれた アネ の コトバ が しきり に おもいだされて いた。 ワタシ は しらずしらず キョウダン の ほう へ いって、 ボールド に ネエサン と いう ジ を かいて いた。 ワタシ は その ジ を イクツ も かいて は けし、 けして は かいて いた。
 その モジ が ふくむ ヤサシサ は せめても ワタシ の ナグサメ で あった。 アネ の ヘヤ の ナカ が メ に うかんだ。 アネ の さびしそう に すわって いる スガタ が メ に はいった。 ワタシ は ないた。
 その とき、 とつぜん キョウシツ の ト が ひらいた。 そして センセイ の アバタヅラ が でた。 ワタシ は メ が くらむ ほど びっくり して、 シテイ された ハシラ の ところ へ いって ボウダチ に なった。 ワタシ の クウソウ して いた ハナ の よう な テンゴクテキ な クウソウ が、 まるで カタチ も ない ほど こわされた の で あった。
「ナニ を して いる ん だ。 なぜ いいつけた ところ に たって いない ん だ」
 ワタシ は カタサキ を ひどく こづかれた。 ワタシ は よろよろ と した。 ワタシ は ヒジョウ な はげしい イカリ の ため に ヒザ が がたがた ふるえた。 ワタシ は だまって うつむいて いた。 ナニ を いって も ダメ だ。 なにも いうまい と ココロ で ちかった。 アネ も そう いって くれた の だ。
「なぜ センセイ の イイツケドオリ に しない の だ」
 この とき、 ワタシ は ヨコガオ を はられた。 ワタシ は ヒダリ の ホオ が しびれた よう な キ が した。 それでも ワタシ は だまって いた。 ワタシ は ここ で ころされて も モノ を いうまい と いう ふかい ケンメイ な ニンタイ と ドリョク との ため に、 ワタシ は ワタシ の クチビル を かんだ。 ワタシ は この ゼンセカイ の ウチ で いちばん フコウモノ で、 いちばん ひどい クルシミ を おって いる モノ の よう に かんじた。
「よし キサマ が だまって いる なら、 いつまでも そこ に たって おれ」
 こう センセイ は いって あらあらしく キョウシツ を でて いった。 ワタシ は やっと カオ を あげる と、 イマ まで こらえて いた もの が イチド に ムネ を かきのぼった。 カオ が ヒ の よう に ギャクジョウ した。 ワタシ は いたい ホオ に テ を やって みて、 そこ が はれて いる こと に キ が ついた。 ワタシ は はられた とき、 もうすこし で センセイ に くみつく ところ で あった。 けれども こらえた。
 ワタシ は もう ゴゴ 5 ジ-ゴロ の よう に おもった。 そして マド から みて いる と センセイ がた は ミナ かえって いった。 その ナカ に ワタシ の センセイ も いた。 そう だ。 センセイ が かえって は、 もう とても かえして くれる モノ が いない の だ。
 ワタシ は すぐに ジブン の セキ から カバン を とる と、 さっさと かえった。 ソト は たのしかった。 ウチ へ かえる と ハハ は コゴト を いった。
「また イノコリ でしょう」
 ワタシ は アネ の ヘヤ へ はいる と もう メ に いっぱい の ナミダ が たまった。 アネ は すぐに チョッカク した。 ワタシ は アネ に すがりついて こころゆく まで ないた。
「アナタ の センセイ も ひどい カタ ね。 ちょいと おみせ。 まあ かわいそう に ね」
 アネ は ワタシ の ホオ を なでて、 ナミダ を ためた メ で ワタシ を みつめた。 ワタシ は ムネ が いっぱい で モノ が いえなかった。 いいたい こと が たくさん あった。 しかし どうしても クチ へ でなかった。
「アタシ センセイ に あって あんまり ひどい って いって やろう かしら」
 アネ は コウフン して いった。
「いけない。 いけない。 そんな こと を いったら どんな メ に あう か しれない の」
 ワタシ は アネ を ゆかせまい と した。
 ヨクジツ おきる と ワタシ は しぶりながら トウコウ の ミチ を いった。 ワタシ は キノウ にげて かえった の を とがめられる フアン や、 また あの ながい イノコリ を おもう だけ でも キ が めいりこむ の で あった。 アメ は リョウガワ の ふかい ヒサシ から も ながれて いた。 ホカ の ドウキュウセイ は ミナ ゲンキ に あるいて いった。 ワタシ は ガッコウ の 「ノマチ ジンジョウ ショウガッコウ」 と ふとい スミ で かいた モン の ところ で、 キョクド の ケンオ の ため に ロウゴク より も いまわしく のろう べき ケンチク ゼンタイ を みた。 「ワタシ は なぜ こんな ところ で モノ を おそわらなければ ならない か」 と いう ココロ に さえ なった。 あの ショウカ の コゾウ さん の よう に なぜ ジユウ な セイカツ が できない の か と さえ おもった。
 センセイ は そしらぬ フリ して いた。 ワタシ は よろこんだ。 ワタシ が いつまでも キノウ のこって いた もの だ と おもって いる の だ と、 ココロ を やすんじて いた。 5 ゲン が すむ と セイト が ギョウレツ を つくって ゲタバコ の ほう へ ゆく の で あった。 ワタシ も 「キョウ こそ はやく かえれる の だ」 と ひそか に ココロ を おどらせた。 そして、 センセイ の マエ を とおろう と する と、
「オマエ は いのこる ん だ」
 いきなり エリクビ を つかんで、 ギョウレツ から ひきずりだされた。 まるで スズメ の よう に だ。 ワタシ は かっと した。 ハラワタ が しぼられた よう に ちぢみあがった。 マッカ に なった。 ものの 2 フン も たつ と ワタシ は よく ならされた コウガンサ に、 その ずうずうしい キモチ が すっかり ジブン の ココロ を シハイ しだした こと を かんじた。 「どう に でも なれ」 と いう キ に なった。 ワタシ の メ は イツモ の よう に じっと うごかなく なった。 アタマ から アシ まで 1 ポン の ボウ を さしとおされた よう な、 しっかり した ココロ に たちかえって いた。
 ワタシ は キノウ の よう に キョウシツ に たって いた。
「1 マイ 2 マイ 3 マイ……」
 と、 ジンカ の ヤネガワラ を よみはじめた。 ナンド も ナンド も よみはじめた。 キ が おちつく と、 だんだん カワラ の カズ が わからなく なった。 メ が いっぱい な ナミダ を ためて いた。
 ワタシ は、 センセイ の みにくい ぽつぽつ に アナ の あいた テンネントウ の アト の ある ホオ を おもいうかべた。 それ が おこりだす と、 ヒトツヒトツ の アナ が ヒトツヒトツ に あかく そまって いった。 そんな とき、 ワタシ は いつも なぐられた。 チョーク の コナ の ついた おおきな テ が、 いつも うつむいて シュクメイテキ な カシャク に ふるえて いる ワタシ の メ から は、 いつも それ が ニンゲン の テ で なくて 1 ポン の コンボウ で あった。 その コンボウ が うごく たび ごと に、 ワタシ の ゼンシン の チュウイリョク と ケイカイ と フンヌ と が どっと アタマ に あつまる の で あった。 ワタシ の イカリ は まるで ワタシ の ハラ の ソコ を ぐらぐら させた。
 その ヒ は ワタシ の ホカ に、 まずしい ボロ を きた ヒンミンマチ の ドウキュウセイ が ワタシ と おなじ よう に のこされて いた。 カレ は だまって いた。 カレ は おもしろそう に ソト を みて いた。 ワタシ は カレ が たって いる と、 さぞ ワタシ の よう に アシ が だるい だろう と おもって いった。
「キミ は コシカケ に いたまえ。 センセイ が きたら いって やる から」
「そう か」
 と、 いって カレ は コシカケ に すわった。 カレ は ヘヤ の オク の ほう に いた の だ。 ワタシ は イリグチ に いた ので、 センセイ が くれば みえる の で あった。
 センセイ が きた。 ワタシ は すぐ カレ に チュウイ した。
 センセイ は、 ワタシ の ほう へ こない で カレ の ほう へ いって ナニ か コゴエ で しかって いた。 カレ は ないて あやまって いた。 きたない カオジュウ を ナミダ で あらう に まかせた フタメ と みられない カオ で あった。
「では かえんなさい」
 カレ は ゆるされて でて いった。 コンド は ワタシ の ほう へ きた。
「なぜ キノウ ゆるし も しない のに かえった の だ。 キサマ ぐらい ゴウジョウ な ヤツ は ない」 と いった。
 ワタシ は 「また なぜ が はじまった」 と ココロ で つぶやいた。
「なんとか いわない か。 いわん か」
 ワタシ は その コエ の おおきな の に びっくり して メ を あげた。 ワタシ は キョクド の エンコン と クツジョク と に ならされた メ を して いた に ちがいない。
「なぜ センセイ を にらむ の だ」
 ワタシ は イカリ の ヤリバ が なくなって いた。 ワタシ は カバン の ソコ に しまって ある ナイフ が ちらと アタマ の ナカ に うかんだ。 とつぜん テンジョウ が ツイラク した よう な、 メ を ふさがれた よう な キ が して、 ワタシ は ソットウ した。 とても コドモ の ワタシ には しょいきれない ニモツ を おった よう に だ。
 ワタシ は まもなく センセイ に おこされた。 ワタシ は キゼツ した の で あった。 ワタシ は ユメ から さめた よう に、 ぼんやり アタマ の ナカ の かんがえる キカイ を そっくり もって ゆかれた よう な キ が して いた。
 センセイ は キュウ に やさしく、
「おかえりなさい。 キョウ は これ で いい から」
 と、 ワタシ は オモテ へ でる こと が できた。 ワタシ は 「おおきく なったら……」 と ふかい ケッシン を して いた。 「もっと おおきく なったら……」 と ジベタ を ふんだ。 ワタシ の ココロ は まるで ぎちぎち な イシコロ が いっぱい つまって いる よう で あった。 ワタシ は この ヒ の こと を ハハ にも アネ にも いわなかった。 ただ ココロ の そこふかく ワタシ が ただしい か ただしく ない か と いう こと を ケッテイ する ジキ を まって いた。
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ヨウネン ジダイ 2

2014-08-23 | ムロウ サイセイ
 5

 9 サイ の フユ、 チチ が しんだ。
 アサ から ふりつもった はげしい ユキ は、 もう ワタシ が かけつけた コロ は シャクヨ に たっして いた。 チチ の カラダ は シラギヌ の ヌノ で おおわれて いた。 その ウエ に リッパ な ヒトコシ が どっしり と アクマヨケ に のせられて あった。 チチ は ロウスイ で 2~3 ニチ の ガショウ で ねむる よう に いった。
 オソウシキ の ヒ は、 やはり ユキ が ちらちら ふって いた。 ハハ と イッショ に だかれる よう に クルマ に のった。 トチュウ ユキ が タイヘン で、 ギョウレツ が おくれがち で あった。
 ワタシ は それから は ヒジョウ な インキ な ヒ を おくって いた。 チチ の あいして いた シロ と いう イヌ が、 いつも ワタシ の ソバ へ ふらふら やって きた。 ケナミ の つやつやしい ジュンパク な イヌ で あった。
 ある ヒ、 ワタシ は ジッカ へ ゆく と ごたごた して いて、 オオゼイ の ヒト が でたり はいったり して いた。 ハハ は ワタシ に オトウサン の オトウト さん が エッチュウ から きた の だ と いって いた。 4~5 ニチ する と ハハ が いなく なって、 みしらない ヒト ばかり いた。 ハハ は おいだされた の で あった。
 ハハ は ワタシ にも ワカレ の コトバ も いう ヒマ も なかった の か、 それきり ワタシ は あえなかった。 ハハ は チチ の コマヅカイ だった ので、 チチ の オトウト が おいだした こと が わかった。 ワタシ は あの ひろい ニワ や ハタケ を ニド と みる こと が できなかった。 いつも チャノマ で ナガヒバチ で むかいあって はなした ジョウヒン な おとなしい ハハ は どこ へ いった の だろう。 ワタシ は ハハ にも アネ にも だまって いた。 ハハ は その こと を クチ へも ださなかった。 ワタシ は ヒマ さえ あれば、 シロ を つれて マチ を あるいて いた。
「シロ! こい」
 チチ が なくなって から、 ねむる ところ も ない この あわれ な イキモノ は、 ナンピト より も ワタシ を すいて いた らしかった。 ワタシ は この イキモノ と イッショ に いる と、 なにかしら チチ や ハハ に ついて、 ひきつづいた カンジョウ や、 コトバ の ハシバシ を かんじえられる の で あった。 ワタシ は どこ か で ハハ に あい は せぬ か と、 ちいさい ココロ を いためながら、 ある とき は ずっと トオク の マチ まで あるきまわる の で あった。 ハハ と おなじい トシゴロ の オンナ に あう と、 ワタシ は はしって いって カオ を のぞきこむ の で あった。 ワタシ の この むなしい ドリョク は いつも はたされなかった。
 アネ は よく ワタシ の この ココロモチ を しって いた。 アネ は もう ヨメ には ゆかなかった。 いつも カジ の ヒマヒマ には ヘヤ に いて しずか に ハリシゴト で ヒ を くらして いた。 そして ワタシ が ひっそり と オクニワ へ いれて おいた シロ に、 ゴハン を やったり して くれた。 シロ は もう ワタシ の イエ を はなれなかった。 ワタシ は よく ニワ へ でて シロ と すわって、 ふかい カンガエゴト を して いたり して いた。 ワタシ は だんだん こどもらしく ない、 むっちり と した、 だまった コドモ に なった。
 シロ の こと で よく ハハ から コゴト が でた。
「そんな イヌ なぞ どう する の。 あっち い はなして いらっしゃい」 と よく いわれた もの だ。
 ワタシ は、 わざと はなし に ゆく よう に みせて カワラ へ など いって あそんで いた。
「シロ! いけ」
 けしかける と シロ は タイガイ の イヌ を まかした。 ワタシ は そうして ジカン を つぶして かえって きて、
「はなして きました」 と ホウコク して おいた。
 その とき は もう シロ は オクニワ に はいって まるまる と ねて いた。 ハハ は こまって いた が、 ワタシ が ああした ウソ を つく こと を しらなかった。 シマイ には、 デイリ の ダイク に たのんで ハハ は はなさせた が、 やっぱり かえって きた。 そんな とき、 ワタシ は うれしかった。
「ミチ を わすれない で かえって こい。 きっと こい」
 ワタシ は ダイク が もって ゆく とき に、 ココロ の ナカ で つぶやく の で あった。
 アネ は、
「あんな に なついた ん だ から おいて やったら どう でしょう」 と ハハ に いったり した。
「でも オサト の イヌ だし、 なんだか キミ が わるくて ね」 と いって いた。 そして ワタシ には、
「あんまり シロ シロ って かわいがる から ウチ から ソト へ いかない ん だよ」 と、 コゴト を いって いた。
 けれども ワタシ は シロ を あいして いた。
 ある さむい ユキ の バンガタ の こと で あった。 ワタシ は だんだん くれしずんで ユキ が あおく なって みえる モン の マエ で、 いつまでも やむ こと の ない キタグニ の ながい コウセツキ を ココロ で いといながら、 あの なんとも いわれない さびしい オト と いう オト の はたと やんだ しずか な マチ を、 さむげ に コシ を まげて ちぢんだ よう に ゆく オウライ の ヒト を ながめて いた。 キンザイ の ヒト で あろう。 ミナ いそがしげ に、 しかも オト の ない ユキミチ を ゆく の を えも いわれず さびしく みおくって いた。 どの ヒト を みて も やせて さむげ で あった。
 ワタシ は ふと キ が つく と、 シロ が ぐったり うなだれて、 しかも ミミ から センケツ を しろい ケナミ の アタリ に、 いたいたしく ながしながら かえって くる の を みた。 ワタシ は かっと なった。
「シロ! ダレ に やられた の だ」
 ワタシ は この あわれ な ドウブツ に ほとんど ソウゾウ する こと の できない ほど の ふかい アイ を かんじた。 そして この ミミ を かんだ アイテ の イヌ に むくいなければ ならなかった。
「シロ! いけ。 どこ で やられた の だ」
 ワタシ は シロ と ともに むやみ に コウフン して、 シロ の きた ほう の ミチ を はしった。 シロ は たかく ほえて ワタシ より サキ に はしった。
 シロ は ウラマチ の ある イエ の モン の ところ で、 キュウ に うなりだした。 モン の ナカ から クロシロ の ハンテン の ある おおきな イヌ が とびだした。 シロ は ワタシ と いう カセイ に ゲンキ-づけられた ため に、 いきなり とびついた。 けれども シロ は ちいさかった ため に アオムケ に くみしかれた。 シロ は ヒメイ を あげた。 ワタシ は もう ガマン が できなかった。 いきなり ゲタ を ぬぐ と ユキ の ナカ を スアシ に なって、 ウエ に のりかかって いる シロ の テキ を めちゃくちゃ に ひっぱたいた。 テキ は ヒメイ を あげた。 シロ は その スキ に おきあがって カンゼン に テキ を くみしいて かみついた。
「シロ。 しっかり やれ。 ボク が ついて いる」
 ワタシ は ツメタサ も しらない で ユキ の ウエ を とんとん ふんだ。 シロ は かった。
 そこ へ モン の ナカ から ワタシ とは 2 キュウ ウエ の ショウネン が でて きた。 そして コンド は ジブン の イヌ に けしかけた。
「ナマイキ いうな。 キサマ の イヌ より ボク の ヤツ は つよい ん だ」
 ワタシ は カレ の マエ へ とびかかる よう に すすんだ。
「そんな きたない イヌ が つよい もん か」
 カレ は マッサオ に なって いった。
「イヌ より キミ の ほう が あぶない よ。 ウチ へ はいって いた ほう が いい よ」
「ちいさな くせ に ナマイキ を いうな」
「もう イチド いえ」
 こう ワタシ は いって おいて、 いきなり トクイ の クミウチ を やった。 ワタシ は カレ の セ を リョウテ で しっかり だいて、 くるり と、 コシ に かけて ユキ の ウエ に なげつけた。 そして ワタシ は ウマノリ に なって ジブン で どれだけ なぐった か おぼえない ほど なぐった。 ワタシ は ケンカ は はやかった。 そして ヒジョウ な ビンカツ な、 イナズマ の よう に やって しまう の が トクイ で あった。
 ワタシ は ゲタ を はいて シロ と かえりかけた。 やっと おきあがった カレ は、 「おぼえて いろ」 と いった。 ワタシ は レイショウ して かえった。 ワタシ は それから ミチ で シロ を なでて やった。 そして 「まけたら かえるな」 と いって きかせた。
 ある ヒ、 ガッコウ から の カエリミチ の こと で あった。 ウラマチ の ヘイ の ところ に ジョウキュウセイ らしい ワタシ とは おおきい ショウネン が 3 ニン かたまって、 ワタシ の ほう を むいて ささやきあって いた。 キ が つく と、 コノアイダ の イヌ の ケンカ の とき の ジョウキュウセイ が まじって いた。 ワタシ は チョッカクテキ に マチブセ を くって いる こと を しった。 ワタシ は すぐ カバン の カワヒモ を といて、 サキ の ほう を かたく むすんだ。 ワタシ の ヨウイ は、 カレラ の マエ に まで あるいて ゆく うち に ととのって いた。
 レイ の ショウネン は いきなり ワタシ の マエ に たちふさがった。
「コノアイダ の こと を おぼえて いる か!」
 カレ は イッポ マエ へ すすんだ。
「おぼえて いる。 それ が どうした の だ。 シカエシ を する キ か」
 カレ は いきなり とびつこう と した。 ワタシ の ふった カワヒモ は ひゅう と カゼ を きって、 カレ の コウノウ を たたいた。 カレ は ふらふら と した。 その とき まで だまって いた カレ の トモダチ が ミギ と ヒダリ と から とびつこう と した。 ワタシ は また カワヒモ を ならした。 その スキ に ワタシ は アシ を けりあげられた。 ヒザザラ が しびれた。 ワタシ は たおれた。 そして ワタシ は めちゃくちゃ に たたかれた。 ワタシ は カレラ が さった アト で メマイ が して、 やっと イエ へ かえった。 しかし ヨクジツ は もう ゲンキ に なって いた。
 ガッコウ の ベンジョ で キノウ の ナカマ の ヒトリ に あった。 ワタシ は コエ をも かけず に その ジョウキュウセイ を ウシロ から はりつけて おいて、 シックイ の ウエ へ なげとばした。
 カエリ に レイ の ジョウキュウセイ が 5~6 ケン サキ へ ゆく の を よびとめる と カレ は にげだした。 ワタシ は すぐさま テゴロ な コイシ を ひろった。 ツブテ は カレ の クルブシ に あたった。 カレ は たおれた。 ワタシ は カレ を その サキ の ヒ の よう に なぐった。 タクサン の ガクユウ ら は ワタシラ を とりまいて いた が、 ダレ も テダシ を しなかった。 それほど ワタシ は ミナ から ケイエン されて いた。 ワタシ は カレ を シリメ に かけて さった。
 ワタシ は しかし そういう ケンカ を した ヒ は さびしかった。 かって アイテ を ひどい メ に あわせれば あわす ほど ワタシ は ジブン の ナカ の ランボウ な ショウブン を コウカイ した。 して は ならない と かんがえて いて も、 いつも ガイブ から ワタシ の キケンセイ が さそいだされる ごと に、 ワタシ は テイコウ しがたい ジブン の ショウブン の ため に、 いつも さびしい コウカイ の ココロ に なる の で あった。
 ワタシ の そうした ランザツ な、 たえず フクシュウシン に もえた ねづよい イチメン は、 オオク の ガクユウ から キケン-がられて いた のみ ならず、 ヒジョウ に おそれられて いた ので、 したしい トモダチ とて は なかった。 ワタシ は ヒトリ で いる とき、 ガイブ から ワタシ を うごかす もの の いない とき、 ワタシ は よわい カンジョウテキ な ショウネン に なって、 いつも アネ に まつわりついて いた。
「オマエ が まあ ケンカ なんか して つよい の。 おかしい わね」
 アネ は、 よく キンジョ の ショウネン ら の オヤモト から、 ワタシ に ひどい メ に あった クジョウ を もちこまれた とき に、 わらって しんじなかった。 アネ の マエ では、 やさしい アネ の セイジョウ の ハンシャ サヨウ の よう に おとなしく、 むしろ ナキムシ の ほう で あった。 ワタシ が ガクユウ から ヒトリ はなれて カエリミチ を いそぐ とき は、 いつも アネ の カオ や コトバ を もとめながら イエ に つく の で あった。 アネ なし に ワタシ の ショウネン と して の セイカツ は つづけられなかった かも しれない。

 6

 ウシロ の サイカワ は ミズ の うつくしい、 トウキョウ の スミダガワ ほど の ハバ の ある カワ で あった。 ワタシ は よく カワラ へ でて いって、 アユツリ など を した もの で あった。 マイトシ 6 ガツ の ワカバ が やや クラミ を おび、 ヤマヤマ の スガタ が クサキ の ハンモ する に したがって どことなく ぼうぼう と して ふくれて くる コロ、 チカク の ソンラク から キュウリウリ の やって くる コロ には、 ちいさな セ や、 ジャリ で ひたした セガシラ に、 セナカ に くろい ホクロ の ある サアユ が のぼって きた。
 サアユ は あの アキ の カリ の よう に ただしく、 かわいげ な ギョウレツ を つくって のぼって くる の が レイ に なって いた。 わずか な ヒトゴエ が ミズ の ウエ に おちて も、 この ビンカン な ヒョウカン な サカナ は、 ハナ の ちる よう に レツ を みだす の で あった。
 ワタシ は この クニ の ショウネン が ミナ やる よう に、 ちいさな ビク を コシ に むすんで、 イクホン も むすびつけた ケバリ を ジョウリュウ から カリュウ へ と、 たえまなく ながしたり して いた。 アユ は よく つれた。 ちいさな やつ が かかって は サオ の センタン が シンケイテキ に ぴりぴり ふるえた。 その フルエ が テサキ まで つたわる と、 コンド は あまり の ヨロコバシサ に ココロ が おどる の で あった。
 セ は たえず ざあざあー と ながれて、 うつくしい セナミ の タカマリ を ワタシタチ ツリビト の メ に そそがす。 そこ へ ケバリ を ながす と、 あの ちいさい やつ が スイメン に まで とびあがって、 ケバリ に むれる の で あった。 ことに ヒノクレ に なる と よく つれた。 ミズ の ウエ が くれのこった ソラ の アカリ に やっと みわける こと の できる コロ、 ワタシ は ほとんど ビク を いっぱい に する まで、 よく つりあげる の で あった。
 カワ に ついて ワタシ は ヒトツ の ハナシ を もって いた。
 それ は ワタシ が ツリ を し に でた ヒ は、 アメツヅキ の アゲク ゾウスイ した アト で あった。 あの ゾウスイ の とき に よく みる よう に、 ジョウリュウ から ながされた オブツ が いっぱい ジャカゴ に かかって いた。 ワタシ は そこ で 1 タイ の ジゾウ を みつけた。 それ は 1 シャク ほど も ある、 かなり おもい イシ の あおく ミズゴケ の はえた ジゾウソン で あった。 ワタシ は それ を ニワ に はこんだ。 そして アンズ の キ の カゲ に、 よく マチハズレ の ロボウ で みる よう な コイシ の ダイザ を こしらえて その ウエ に チンザ させた。
 ワタシ は その ダイザ の マワリ に イロイロ な クサバナ を うえたり、 ハナヅツ を つくったり、 ニワ の カジツ を そなえたり した。 マイツキ 20 ヨッカ の サイジツ を アネ から おしえられて から、 その ヒ は、 ジブン の コヅカイ から イロイロ な クモツ を かって きて そなえて いた。
「まあ オマエ は シンジンカ ね」
 アネ も また あかい キレ で コロモ を ぬって、 ジゾウ の カタ に まきつけたり、 ちいさな ズキン を つくったり して、 イシ の アタマ に かぶせたり した。 ワタシ は いつも この ひろって きた ジゾウサン に、 イロイロ な こと を して あげる と いう こと が、 けっして わるい こと で ない こと を しって いた。 ことに、 ジゾウサン は イシ の ハシ に されて も ニンゲン を すくう もの だ と いう こと をも しって いた。 ワタシ は この ヘイボン な、 イシコロ ドウヨウ な もの の ナカ に、 なにかしら うたがう こと の できない シュウキョウテキ カンカク が ソンザイ して いる よう に しんじて いた。
「きっと いい こと が ある わ。 オマエ の よう に シンセツ に して あげる と ね」
 アネ は マイニチ の よう に ハナ を かえたり、 ソウジ を したり して いる ワタシ を ほめて くれて いた。 ワタシ は うれしかった。 こうした キ の カゲ に、 ジブン の ジユウ に つくりあげた ちいさな ジイン が、 だんだん に ヒ を へる に したがって、 コヤガケ が できたり、 ちいさな チョウチン が さげられたり する の は、 なんとも いえない、 ただ それ は いい ココロモチ で あった。 なにかしら ジブン の ショウガイ を として むくいられて くる よう な、 ある ヨゲンテキ なる もの を かんじる の で あった。 ワタシ は マイアサ、 センメン して しまう と レイハイ し に いった。 ときとすると、 アグラ を かいた オヒザ の ところ に おおきな ヨツユ が しっとり と タマ を つづけて いたり して いた。 その ツギ に アネ が いつも つつましげ に オマイリ を し に きた。
 ことに ヨル は シンゲン な キ が した。 コノハ の ササヤキ や、 ソラ の ホシ の ヒカリ など の イッサイ を とりまとめた カンカク が、 ちょくせつ ジゾウサン を スウハイ する ワタシ の ココロ を きわめて たかく ゲンシュク に した。 ワタシ は そこ で、 おおきく なったら えらい ヒト に なる よう に ネットウ する の で あった。
 フシギ な こと は、 この ジゾウサン を タイセツ に して から は、 よく アリ など が ジゾウサン の カラダ を はって いる の を みる と、 これまで とは ベツヨウ な とくに ジゾウサン の イシ を ついで いる よう な もの に さえ おもわれた。 カタツムリ に して も やっぱり この シンブツ の キ を うけて いる よう に かんじた。 ワタシ は だんだん ジゾウサン の フキン に ソンザイ する コンチュウ を ころす こと を しなく なった。 それ が だんだん ちょうじて ガイロ でも イキモノ を ふむ こと が なく、 ムエキ に セイメイ を とらなく なって いた。
「オマエ くらい ヘン な ヒト は ない。 しかし オマエ は ベツ な ところ が ある ヒト だ」
 ハハ も ワタシ の シゴト に サンセイ して いた。
「しばらく なら ダレ でも やる もの だ が、 あの コ の よう に ネッシン に する コ は ない」
 ワタシ は それら の サンタン に かかわらず、 ときとして は こんな に して これ が ナニ に なる とか、 イマ すぐ ジブン に むくいられる とか いう こと を かんがえなかった。 ワタシ は この ちいさな ジイン の コンリュウ に、 イロイロ な ウツワモノ の まして ゆく ところ に、 ジブン の ココロ が だんだん はなれない こと を しって いた。 ことに ワタシ が カワ から ひろって きた こと が、 ハハ など が すぐ ダイク を よんで リッパ な オドウ を たてたら と いいだす ごと に、 ひどく ハンタイ させた。 いまさら ハハ の チカラ を かりなく とも、 ワタシ は ワタシ イッコ の チカラ で これ を まつりたい と おもって いた。 ワタシ は ワタシ の シンブツ と して これ を ニワ の イチグウ に おきたかった。 タレビト の ユビ の ふれる の をも このまなかった。
 リンカ に アメヤ が あった。 そこ の ヨネ ちゃん と いう コ は ニワ が なかった。 ワタシ は その ショウネン を よく ニワ へ いれて あそんだ。 ワタシ は この トモダチ と カワラ から イシ を はこんだり、 スナ を もちこんだり した。 ワタシ は だんだん オオジカケ に たてて いった。 ヒトツ の もの が ふえれば、 もっと ベツ な シンセイ な もの が ほしく なって きた。 ワタシ は マチ へ でて サンポウ や ウツワモノ や ハナヅツ や ショクダイ を あがなって きた。
 アネ は マイニチ ゴハン の オクモツ を した。 ワタシ は ながい ニワ の シキイシ を つたわりながら、 アサ の すずしい キ の カゲ に しろい ユゲ の あがる オクマイ を ささげて きて くれる の を みる と、 ワタシ は なみだぐみたい ほど うれしく こうごうしく さえ かんじた。
「ネエサン。 ありがとう」
 ワタシ は あつく カンシャ した。 ワタシ の イロイロ な シゴト を みて いる アネ は、 いつも きよい うつくしい メ を して いた。 「ネエサン の メ は なんて ケサ は きれい なん だろう」 と ココロ で かんじながら、 ワタシ は ハナ を かえたり して いた。
 ワタシ は ますます ひどく ヒトリボッチ に なった。 ガッコウ へ いって いて も、 ミンナ が バカ の よう に なって みえた。 「アイツラ は ワタシ の よう な シゴト を して いない。 シンコウ を しらない」 と、 ミンナ とは トクベツ な セカイ に もっと ベツヨウ な クウキ を すって いる モノ の よう に おもって いた。 センセイ を ソンケイ する ココロ には もとより なって いなかった。 あの ひどい ショウガイ わすれる こと の できない メ に あって から の ワタシ は、 いつも れいぜん と した コウマン の ウチ に、 タエマ も ない ニンニク に しいたげられた あの ヒ を メノマエ に して、 ココロ を くだいて ベンキョウ して いた。 ワタシ が セイジン した ノチ に ワタシ が うけた より も スウバイ な おおきい クルシミ を カレラ に あたえて やろう。 カレラ の ゲンザイ とは もっと ウエ に くらいした スベテ の テン に ユウエツ した ショウリシャ に なって みかえして やろう と かんがえて いた。
 ワタシ は あの イジ の わるい ガクユウ ら は、 もはや ワタシ の モンダイ では なくなって いた。 ぜんぜん、 あの ケンカ や コゼリアイ が ばかばかしい のみ ならず、 その アイテ を して いる こと が もはや ワタシ に フユカイ で あった。
 メイジ 33 ネン の ナツ、 ワタシ は 11 サイ に なって いた。

 7

 ワタシ の ハハ が チチ の シゴ、 なぜ あわただしい ツイホウ の ため に ユクエ フメイ に なった の か。 しかも ダレヒトリ と して その ユクエ を しる モノ が なかった の か と いう こと は、 ワタシ には 3 ネン-ゴ には もう わかって いた。 あの エッチュウ から こして きた チチ の オトウト なる ヒト が、 ワタシ の ハハ が たんに コマヅカイ で あった と いう リユウ から、 ほとんど 1 マイ の キモノ も モチモノ も あたえず に ツイホウ して しまった の で あった。 この みじめ な ココロ で どうして ワタシ に あう こと が できたろう か。 カノジョ は もはや サイアイ の ワタシ にも あわない で、 しかも タレビト にも しらさず に、 しかも その セイシ さえ も わからなかった の で ある。
 ワタシ は ハハ を もとめた。 ワタシ が あの ちいさな ジイン コンリュウ の ジッコウ や ケッシン や シゴト の ヒマヒマ には、 いつも ユクエ の しれない ハハ の ため に、 「どうか コウフク で ケンコウ で いらっしゃいます よう に」 と いのった の で あった。 この ゼンセカイ に とって は ヤド の なかった あの かなしい ハハ の キノウ に くらべて かわりはてた スガタ は、 どんな に くるしかった だろう と、 ワタシ は じっと ソラ を みつめて は ないて いた。 ワタシ が もっと セイジン して ゼンセカイ を ムコウ に まわして も、 ワタシ の ハハ の カナシミ クルシミ を とむらう ため には、 ワタシ は ミ を コ に して も かまわない と さえ おもって いた。 ワタシ は ハハ を おいだした と いう チチ の オトウト らしい ヒト に ウラマチ で あった とき、 ワタシ は イッシュ の キョウキテキ な ふかい エンコン の ため に おどりかかろう と さえ おもった の で あった。 ワタシ が あの とき、 その オトウト の ヒト を ころそう と さえ ニチヤ クウソウ した こと は、 けっして ウソ では なかった。 ワタシ は ただ カレ を にらんだ。 その ナカ に ワタシ は スベテ の フクザツ な カンジョウ の ゲキド に よって、 のろわる べく あたいせられた ゲヒ な ニンゲン を ゾウオ した。
 ワタシ が あの いたみやすい メ を して、 どんな に ハハ の ヨウボウ を えがいて それ と かたる こと と クウソウ する こと を タノシミ に して いた か! ワタシ は ヒト の ない ニワ や マチナカ で、 コゴエ で ハハ の ナ を よぶ こと さえ あった。 しかも エイキュウ に あう こと の できない ハハ の ナ を――。
 ワタシ は 「そう だ。 ニンゲン は けっして フタリ の ハハ を もつ リユウ は ない」 と かんがえて いた。 そんな とき、 ゲンザイ の ハハ を いまいましく つめたく にくんだ。 ワタシ は イッポウ には すまない と おもいながら、 それら の シネン に りょうされる とき、 ワタシ は リユウ なく ハハ に つめたい ヒトミ を かわした の で あった。
「ネエサン。 ボク の ハハ は――」
 ワタシ は ときどき いった もの だ。 アネ は オモイヤリ の ふかい メ で、 そんな とき、 いつも する よう に ワタシ を やさしく だきながら、
「どこ か で シアワセ に なって いらっしゃいます よ。 そんな こと を これから いわない で ちょうだい」 と いって くれた。
「どこ なん だ」
 ワタシ は すぐに はげしく コウフン した。 ナニモノ にも たえがたい ゲキド は、 ハハ の こと に なる と もっとも シンライ して いた アネ に まで およんだ。
「そんな こわい カオ を して は いや」
「ボク の カオ は こわい ん だ」
 ワタシ は アネ から はなれた。 こんな とき は、 アネ でも ワタシ の ココロ を しって くれない よう に、 なまぬるい カンジ の モト に イカリ を かんじた。 もう ネエサン なんぞ は いて も いなくて も、 また、 あいして くれて も くれなくて も いい と さえ おもって いた。 セカイジュウ が ワタシ を フコウ に する よう に おもって、 ワタシ は ますます ふかく おこる の で あった。
「ネエサン に ボク の ココロ が わかる もの か」
 ワタシ は すぐ オモテ へ かけだす の で あった。 たった ヒトリ の トモ で ある もの から はなれて、 ヒトリ ウラマチ や アキチ など を あるいて いた ワタシ には、 キ や その ミドリ も ジンカ も ベツ な もの に おもわれた。 なにもかも つめたく かなしかった。
 そんな とき は、 なんにも いわない シロ が ついて きた。 そして カレ が みな わかって いる よう な かなしい カオ を して いた。 ――ワタシ は ハハ と あの ひろい ニワ へ でて チャツミ を したり、 ニワ で チチ と 3 ニン で オカシ を たべたり した こと が おもいだされた。 ショカ の カゼ は いつも ワカバ の ニオイ を まぜて ふいて いた。 ワタシ は ちいさな カオ を かしげる よう に して、 チチ と ハハ の カオ を ハンブン ずつ に ながめて いた。 ヘダタリ の ない スベテ の シンミツサ が ワタシタチ オヤコ の ウエ に あった。 そんな とき、 シロ も ソバ の クサ の ナカ に ねむって いた。
「オマエ は いったい セイジン して ナニ に なる か」
 チチ は よく エガオ で たずねた。
 ワタシ は だまって にこにこ して いた。
「さあ、 この コ は かんがえる こと が ジョウズ だ から きっと センセイ に でも なる かも しれない。 ――ね。 オマエ そう おもわない かい」 と ハハ は いった。
「ボク ナニ に なる か わからない ん だ。 ナニ か こう えらい ヒト に なりたい なあ」
 ワタシ は ホントウ に ナニ に なって いい か わからなかった。
「そう だ。 ともかくも えらい ニンゲン に なれ。 その ココロガケ が いちばん いい ん だ」
「そう ね。 それ が いい」 と ハハ も いった。
 ワタシ も モクテキ の ない ばくぜん と した イシ の モト に、 ともかくも 「えらい ヒト」 に なりたい と おもって いた。 しかし グンジン の きらい だった ワタシ は、 それ イガイ に えらい ヒト に なりたい と おもって いた。
「さあ。 もうすこし で つんで しまえる ん だ から、 やって しまおう」
「ええ」
 こうして チチ と ハハ とは チャバタケ の ナカ へ、 あの うつくしい かんばしい ワカメ を つみ に いった。 ワタシ は ヒトリ で キ の カゲ に シロ と ふざけて いた――。
 ワタシ は この ヘイワ な ココロ を イマ あるきながら かんじた。 そして、 イマ スベテ が なくなって いた。 ワタシ は なにもかも なくなって いた。 ワタシ は ゲンキ-づいて サキ を はしって ゆく シロ を かなしそう に みた。 「あれ だけ が いきて いる。 あれ が みな しって いる」 と おもった。 「あれ が もし ハナシ が できたら、 よく ワタシ を なぐさめて くれる に ちがいない」 と おもった。
 ワタシ は まわりあるいて コウガイ の ジケイイン の マエ に でた。 そこ には、 オヤ の ない コ が タクサン に あつまって いた。 ちょうど、 ウチ の シゴト の とき らしく、 ヒトリ の カントク に つれられて、 マッチ の ボウ を ヨシズ に ならべて ニッコウ に ほして いた。 ワタシ と おなじ トシゴロ の ショウネン ら は、 ミナ キソク ただしい てなれた ハコビカタ を して、 ヒトツカミ ずつ ス の ウエ に ボウ を ならべて いた。 ボウ の サキ には ヤクヒン が くろく ぬられて あった。
 ワタシ は しずか に ながめて いた。 ミナ ケッショク が わるくて あおい むくんだ よう な カオ を して いた。 「ワタシ と おなじい オヤ の ない ショウネン だ。 ワタシ も ああして はたらかなければ ならなかった の だ。 ワタシ に ああいう こと が できる だろう か」 と かんがえた。 あの つめたそう な カントク の カオ が ワタシ には フカイ で あった。 そして、 この インナイ から におうて くる イッシュ の ハキケ を もよおす シュウキ は たまらない ほど、 ワタシ の ムネ を むかむか させた。 「ワタシ が ここ へ きて も ダメ だ。 ワタシ は ツイホウ される に きまって いる」 そして ワタシ の ゆく ところ は やはり イマ の カテイ より ホカ には ない の だ。
 この あわれ な ショウネン の ナカ に メ の おおきな あおい カオ を した、 しかし どこ か に ヒン の ある うつくしい カオ が メ に ついた。 ワタシ は なにごころなく この ショウネン に ひきつけられた。 ワタシ は じっと みつめた。 カレ も じっと みて いた。 ワタシ は カレ の なやんで いる の が わかる よう な キ が した。 よわい けれど たえず さびしそう に おおきく みはる クセ の ある メ、 ワタシ は この ショウネン と あそんで なぐさめて やりたい キ が した。 きっと この ショウネン は ワタシ と あそぶ こと を よろこぶ に ちがいない と おもった。 あの メ の ヒカリ は イマ ワタシ を もとめて いる の だ。 ワタシ と ハナシ する こと に あこがれて いる の だ。 ワタシ は メ で ビショウ した。 カレ も マッチ を ならべながら ビショウ した。 ワタシ の ビショウ が レイショウ に とられ は すまい か と フアン に おもった が、 カレ は、 そう わるく は とらなかった の が うれしかった。
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ヨウネン ジダイ 3

2014-08-07 | ムロウ サイセイ
 8

 ワタシ の ジゾウドウ は ヒ を へる に したがって リッパ に なった。 ワタシ は どこ へ あそび に ゆく と いう こと も せず に、 いつも ニワ へ でて いた。
 カキゴシ に トナリ の テラ に、 としとった オショウ さん が ニワソウジ を して いられる の が みえた。 ワタシ は テイネイ に アイサツ を した。 オショウ さん は カキ の ソバ へ やって きて いった。
「なかなか リッパ な オドウ が できました ね」
 ワタシ は ウラキド を あけて、
「はいって ゴラン なすって くださいまし」
「では ハイケン いたしましょう か」
 オショウ さん が はいって きた。 そして ドウ の ところ を みまわして、
「なかなか オジョウズ だ」 と いった。
 それから オショウ さん は タモト から ジュズ を だして、 ガッショウ しながら コゴエ で、 ジゾウキョウ を よみはじめた。 まるで かれきった しぶい コエ で うっとり する よう な うつくしい リズム を もった コエ で あった。 ワタシ は アト で、 この ジゾウサン を カワ から ひろいあげて きた こと など を はなした。
 オショウ さん は、 ジゾウサン の エンギ に ついて いろいろ はなして くれた。 ドウ の ところ に、 この コガラ な ボウサン は しゃがんで、 イロイロ な ハナシ を して くれた。
「ニンゲン は なんでも ジブン で よい と おもった こと は した ほう が よい。 よい と おもった こと に けっして わるい こと は ない」
 オショウ さん が かえる と、 ワタシ は ふと この ジゾウサン を テラ の ほう へ あげたい と おもった。 ワタシ は アネ に ソウダン した。
 アネ は すぐ サンセイ した。
「そりゃ いい わ。 あの オショウ さん は きっと およろこび に なる わ」
「じゃ ネエサン から オカアサン に いって ください」
「え。 イマ から いって あげる」
 アネ は ハハ に ソウダン した。 ハハ も それ が よい と いって くれた。 かえって、 ゾッカ に おく より も、 モト は カワ の ナカ に あった の だ から、 オテラ へ あげた ほう が よい と いう こと に なった。
 オショウ さん も よろこんで くれた。
 オテラ では キチジツ を えらんで クヨウ を して くれた。 ワタシ が セシュ で あった。 カワ の ナカ に すてられて あった ジゾウサン は、 イマ は リッパ な ミドウ の ナカ に、 しかも タクレイ まで そえられて まつりこまれた。 ワタシ は うれしかった。
 ワタシ は それ を キカイ と して オテラ へ あそび に ゆく よう に なった。 オショウ さん は コドモ が なかった ので、 ワタシ を むやみ に かわいがって くれた。 ワタシ が ガッコウ から の カエリ が おそい と、 よく ワタシ の イエ へ こられた。
「まだ かえりません かね」
 など と アネ に たずねて いた。
 そういう とき、 ワタシ は すぐに オテラ へ、 ガッコウ の ドウグ を なげだす と とんで いった。
「オショウ さん ただいま」
 ワタシ は オショウ さん の ロ の ヨコ へ すわった。
「よく きた の。 イマ ちょいと むかえ に いった ところ だった」
 オショウ さん は、 いろいろ カシ など を くれた。 それから ふるい カナ の ついた コウボウ ダイシ の シュイロ の ヒョウシ を した デンキ など を もらった。
 オショウ さん は やさしい ヒト で あった。 いつも ゼンリョウ な ビショウ を うかべて オチャ を のんだり、 コヨミ を くったり して いた。
 ワタシ は だんだん なれる と、 オク ノ イン の すずしい ショイン へ いって、 ガッコウ の ショモツ を よんだり、 または、 つい すずしい マギレ に うとうと と ショウネン-らしい みじかい イビキ を たてたり して いた。 オショウ さん は ワタシ の ワガママ を ゆるす ばかり で なく、 ココロ から ワタシ を あいして いる らしかった。
 ある ヒ の こと で あった。
「アンタ は ここ の オテラ の モノ に なる の は いや か」 と いった。
「きたって いい けれど、 ボウサン に なる の は いや です。 オショウ さん の コ に なる の なら いい けれど」
「ボウサン に ならなく とも よろしい。 では いや では ない ん だね」
「え。 よろこんで きます。 オカアサン が どう いう か しりません が」
「ワシ から オカアサン には おはなし する」
 この ハナシ が あって から、 ワタシ は ハハ に よばれた。 そして オテラ に いく キ か と たずねられた。 ワタシ は ぜひ いきたい と おもって いる と いった。 オテラ に ゆけば なにもかも ワタシ は ココロ から きよい、 そして、 あの フコウ な ハハ の ため にも こころひそか に いのれる と おもった から で ある。 ワタシ が オテラ に キキョ する と いう こと だけ でも、 ワタシ は ハハ に コウ を つくして いる よう な キ が する の で あった。
 ボウサン には しない ジョウケン で ワタシ は いよいよ テラ の ほう へ ヨウシ に ゆく こと に なった。 アネ は かなしんだ が、 すぐ リンカ だった ので、 いつでも あえる と いって あきらめた。
 ワタシ の キモノ や ショモツ は オテラ に はこばれた。 シキ も すんだ。 そして ワタシ は すずしい オテラ の オク ノ イン で セイカツ を する よう に なった。 ワタシ は テラ から ガッコウ へ かよって いた。
 ワタシ の メ に ふれた イロイロ な ブツゾウ や ブツガ、 アサユウ に なる タクレイ の おごそか な ネイロ、 それから そこここ に ともされた オトウミョウ など に、 これまで とは ベツ な きよまった ココロ に なる こと を かんじる の で あった。 しずか に ワタシ は ときどき アネ にも あった。
「まあ おとなしく なった のね」 と アネ は いって いた。
「アタシ オジゾウサマ に オマイリ に きた の。 アナタ も ゆかない」
「いきましょう」
 ワタシタチ キョウダイ は、 ケイダイ の ワタシ の ジゾウサン に オマイリ を した。 いつも あたらしい クモツ が あがって いて、 セイケツ で すがすがしかった。
「どこ か ボウサン みたい ね。 だんだん そんな キ が する の」
 アネ は いって わらった。
「そう かなあ。 やっぱり オテラ に いる から なん だね」
 ワタシタチ は ショイン へ かえる と、 チチ が でて きた。 あたらしい チチ は、 チャ と カシ と を はこばせた。
 ショイン は すぐ ホンドウ の ウラ に なって いた。
「そうして フタリ そろって いる と、 ワシ も コドモ の とき を おもいだす。 コドモ の とき は ナニ を みて も たのしい もの じゃ」
 チチ は こう いいながら オカシ を とって、
「さあ ひとつ あがりなさい」 と、 アネ に すすめた。
 ワタシタチ 3 ニン は、 ウシロ の カワ の ウエ を わたる カゼ に ふかれながら オチャ を のんだ。
「オトウサン は オチャ が たいへん すき なの」
 ワタシ は アネ に いった。 チチ は にこにこ して いた。

 9

 ワタシ の オテラ の セイカツ が だんだん なれる に したがって、 ワタシ は ココロ から のびやか に コウフク に くらして いた。
 ワタシ は ホンドウ へ いって みたり、 ホンドウ を かこう ロウカ の エマ を みたり、 イロイロ な キショウモン を ふうじこんだ ガク を みあげたり して いた。 ワタシ の ヘヤ は、 ワタシ の シズカサ と セイケツ と を このむ セイヘキ に よく かなって いて、 ニワ には ハラン が タクサン に しげって いた。 クリ には おおきな くらい エノキ の タイジュ が あって、 アキ も ふかく なる と、 コツブ な ミ が ヤネ の ウエ を たたいて おちた。
 オテラ には たえず オキャク が あった。 キャク は たいがい シンジャ で あった。 ドウネンパイ の コドモ を つれて きた ヒト は、 いつも ワタシ に ショウカイ した。 チチ は、 ワタシ を ジマン して いた。 その シンジャ の ヒトリ で、 シタマチ の ほう に アキナイ して いる イエ の ムスメ で オコウ さん と いう の が あった。
 その コ は オバアサン に つれられて くる と、 いきなり チチ に とりすがって、
「テル さん が いらしって――」 と いう の で あった。
「います。 さあ いって いらっしゃい」
 その オコウ さん は いつも ワタシ の ヘヤ へ とびこむ よう に はいって きた。 ココノツ に なった ばかり の ムスメ で あった。
 ワタシ は いつも エ を かかされて いた。
「もう 1 マイ かいて ください な」
 せがまれる と、 ワタシ は いつも まずい エ を かかなければ ならなかった。
「ネエサン を よんで いらっしゃい な。 イッショ に いきましょう か」
「そう しよう」
 ワタシタチ は ニワ の キド から、 ミツバ や ユキノシタ の はえて いる シキイシヅタイ に、 よく トナリ の ネエサン を よび に いった。 ネエサン と 3 ニン で いつも ニワ で あそぶ の で あった。
 カキ の ワカバ の カゲ は すずしい カゼ を とおして いて、 その ネモト へ しゃがんで はなす の で あった。 ワタシ は アネ と オコウ さん と に はさまれて いた。 アネ は いつも ワタシ の テ を いじくる クセ が あった。
「オテラ が いい? オウチ が いい?」
 など と アネ が たずねた。
「オテラ も オウチ も どっち も いい の。 でも リョウホウ に いる よう な キ が する の」
 ワタシ は じっさい そんな キ が して いた。 1 ニチ に イクド も いったり きたり して いた から。
「そう でしょう ね」
 アネ も ドウカン した。
「でも ね ネエサン。 バン は こわくて こまる の。 ダレ も おきて いない のに ホンドウ で スズ が なる ん だ もの。 オトウサン に きく と、 ネズミ が ふざけて シッポ で スズ を たたく ん だって――」
「まあ。 そう」
 オコウ さん が こわそう に いう。
 オコウ さん は、 ときどき おもしろい こと を いった。
「あのね、 ネエサン が おすき。 アタシ を おすき。 どっち なの」
 など と アネ を わらわせる こと が あった。
「ミンナ すき」
 など と 3 ニン は、 ホンドウ ウラ の ほう へ あそび に いった。 そこ は すぐ イシガキ の シタ が サイカワ に なって いて、 カエデ の ロウボク や イバラ が しげって いた。 ネエサン は、 おおきかった ので、 その ほそい あぶない ホンドウ ウラ へは ゆけなかった。
「あぶない から およしなさい」 と アネ は いった。 けれども ワタシ は そこ へは ゆかれる ジシン が あった。
「ワタシ も いく わ。 いかれて よ」
 オコウ さん が イバラ を わけて ゆこう と した。 アネ は びっくり した。
「いけません よ。 おちたら タイヘン だ から およしなさい」
 カチキ な オコウ さん は きかなかった。
「だいじょうぶ なの よ ネエサン」
 イシガキ の シタ は あおい フチ に なって、 その うずまいた スイメン は ながく みて いる と、 メマイ を かんじる ほど きみわるく どんより と、 まるで ソコ から ナニモノ か が いて ひきいれそう で あった。
 ワタシ も あぶない と おもった。
「いけない。 ここ へ きちゃ」
 カノジョ は カエデ の ネモト を つたって、 とうとう ホンドウ の ソクメン の ウラ へ でた。
「アタシ ヘイキ だわ。 あんな ところ は」
 ワタシ は カラダ が つめたく なる ほど おどろいた が、 アンガイ なので アンシン を した。
 ここ から アネ の いる ところ は みえなかった。 この ドウウラ には イロイロ な エマガク の こわれた の や、 チョウチン の やぶれた の や、 ツチセイ の テング の メン や、 オハナ の タバ や、 ふるい ホコリ で しろく なった ザイモク など が つまれて あった。
 つめたい くさった よう な オチバ の ニオイ が こもって いた。
「あのね。 サッキ の ね。 アタシ が すき か、 オネエサン が すき か どっち が すき か、 はっきり いって ちょうだい。 どっち も すき じゃ いや よ」
 ワタシ は びっくり して オコウ さん の カオ を みた。 オコウ さん は なきだしそう な ほど マジメ な カオ を して いた。 ちいさい ヒタイ に こまちゃくれた シワ を よせて、 ワタシ の カオ を あおぎみて いた。
「オコウ さん が すき だ。 ネエサン には ナイショ だよ」
「ホントウ」
「ホントウ なの」
「まあ うれしい。 アタシ キ に かかって シヨウ が なかった の」 と シンケイテキ に いう。
 ワタシ は オコウ さん と アネ とは ベツベツ に かんがえて いた。 オコウ さん には、 ネエサン と ことなった もの が あった。 つまり 「カワイサ」 が あって ネエサン には かえって 「カワイガラレタサ」 が あった。
「アタシ ね。 もう ずっと サキ から とおう と おもって いた の」
「そう。 じゃ オコウ さん は ボク の いちばん ナカヨシ に なって もらう ん だ。 いい の」
「いい わ。 いちばん ナカヨシ よ」
 その とき アネ の たかい コエ が して いた。 よんで いる らしかった。 ワタシ も オオゴエ で こたえた。
 ワタシタチ は たすけあって、 アネ の いる ところ へ いった。
「まあ ワタシ ホント に シンパイ した よ。 ナニ して いた の」
「エマ の ふるい の や、 テング の メン など どっさり あった の。 おもしろかった わ」 と、 オコウ さん が いった。
 ワタシ は すこし キマリ が わるかった。 アネ が なにもかも しって い は すまい か と いう フアン が、 ともすれば ワタシ の カオ を あからめよう と した。 けれども アネ は なにも しらなかった。
「ワタシ どう しよう か と おもって いた の。 これから あんな こわい とこ へ いかない で いて ちょうだい」 と アネ は ワタシ に いった。
「これから は いかない」 と ちかった。
「オコウ さん も よ」 と アネ は チュウイ した。
「ワタシ も いきません わ」 と ちかった。
 ワタシタチ は それから ミツバ を つみはじめた。 あの かんばしい ハル から ニバンメ の ミツバ は、 ニワ イチメン に はえて いた。
 アネ が カゴ を もって きた。
 ニワ は ひろく イロイロ な ウエコミ の ヒナタ の やわらかい チ には、 こんもり と ふとく こえた ミツバ が しげって いた。
「これ を テル さん の トウサン に あげましょう ね」 と アネ は オコウ さん に ソウダン した。
「そりゃ いい わ。 きっと およろこび なさる わ」
 3 ニン は 1 ジカン ばかり して、 おおきな カゴ に いっぱい ミツバ を つんだ。
 テラ の エンガワ では、 オコウ さん の オバアサン と チチ と が オチャ を のんで いた。
「こんにちわ」
 ワタシ は アイサツ を した。 オバアサン も アイサツ を した。
「これ を ね。 ミンナ して つみました の。 で もって きました」
「どうも ありがとう。 たいへん よい ミツバ です ね」 と チチ が いった。 オバアサン も ほめた。
 ワタシタチ は エンガワ で やすんだ。
 オバアサン が、
「ゴキョウダイ です ね。 たいへん よく にて いらっしゃる」 と いった。 チチ は、
「そう です」 と いった。
 ワタシ は アネ と カオ を みあわせて ビショウ した。 ジッサイ は ワタシ は アネ とは にて いなかった。 ベツベツ な ハハ を もって いる フタリ は、 にて いる ドウリ は なかった。 ワタシ は こんな とき、 いつも ひとしれず さびしい ココロ に なる の で あった。 フツウ の キョウダイ より も ナカ の むつまじい ワタシドモ に ことなった チ が ながれて いる か と おもう と、 アネ との アイダ を たちきられた よう な キ が する の で あった。
 オバアサン ら も かえった アト で、 ワタシ は ヒトリ で ヘヤ に こもって、 ひどく インキ に なって いた。 チチ は、
「カオ の イロ が よく ない が、 どうか した の かな」
「いえ。 なんでも ない ん です」
 と、 ワタシ は やはり 「ホント の キョウダイ で ない」 こと を かんがえこんで いた。 ヒトツヒトツ の ハナシ の ハシ にも、 ワタシ は いつも ココロ を さされる もの を かんじる ヨワサ を もって いた ため に、 ときどき ひどく めいりこむ の で あった。 ココロ は また あの ユクエ フメイ に なった ハハ を さぐりはじめた。 「いつ あえる だろう か」 「とても あえない だろう か」 と いう ココロ は、 いつも 「きっと あう とき が ある に ちがいない」 と いう はかない ノゾミ を もつ よう に なる の で あった。
 この テラ に きて から、 ワタシ は ジブン の ココロ が しだいに チチ の アイ や、 ジイン と いう ゼンセイシン の セイジョウサ に よって、 さびしかった けれど、 ワタシ の ホントウ の ココロ に ふれ なぐさめて くれる もの が あった。
 ワタシ は よく ふかく かんがえこんだ アゲク、 ヒト の みない とき、 チチ に かくれて ホンドウ に あがって ゆく の で あった。 くらい ナイジン は キン や ギン を ちりばめた ブツゾウ が くらい ナイブ の アカリ に、 または、 かすか な オトウミョウ の ヒカリ に おごそか に てらされて ある の を みた。 そして ワタシ は ながい アイダ ガッショウ して キガン して いた。 「もし ハハ が いきて いる ならば コウフク で いる よう に」 と いのって いた。 がらん と して おおきな おしつけて くる よう な ホンドウ の イチグウ に、 ワタシ は まるで 1 ピキ の アリ の よう に ちいさく すわって ガッショウ して いた。 ワタシ は ヒトビト の アソビザカリ の ショウネンキ を こうした カナシミ に とざされながら、 イチニチ イチニチ と おくって いた。

 10

 アキ に なる と ツガ の ミ が、 まるで マツカサ の よう に エダ の アイダ に はさまれて できた。 だんだん うれる と ちょうど トンビ の たって いる よう に なって、 1 マイ 1 マイ カゼ に ふかれる の で あった。 トオク は 4~5 チョウ も とびふかれた。
 それ を ひろう と まるで トンビ の カタチ した、 かわいた アカネイロ した おもしろい もの で あった。 ワタシ も よく ニワ へ でて ひろった もの だ。 アキ に なる と すぐに わかる の は、 ジョウリュウ の カワラ の クサムラ が アカネ に こげだして、 ホッポウ の ハクサン サンミャク が すぐに しろく なって みえた。
 テラ の ニワ には わく よう な コオロギ が、 どうか する と ゴゴ に でも ないて いた。 ある ヒ、 ワタシ は ホンドウ の カイダン に こしかけて ぼんやり ムシ を きいて いた。 モン から アネ が はいって きた。
「ナニ して いる の。 ぼんやり して」
 アネ は いそいそ して いた。 ナニ か コウフン して いる らしかった。
「なんだか さびしく なって ぼんやり して いる ん だ。 ほら、 ひいひい と ムシ が ないて いる だろう」
「そう ね。 ムシ は オヒル まで も なく ん だね」
 アネ も カイダン に コシ を かけた。
 ふいと オシロイ の ニオイ が した。 いつも、 オシロイ など つけない アネ には めずらしい こと だ と おもった。
「アタシ ね。 また オヨメ に ゆく かも しれない の」
 ワタシ は びっくり した。
「どこ へ ゆく ん です」
「よく わからない ん だ けれど、 オカアサン が きめて しまった ん だ から、 ゆかなければ ならない わ」
「その ヒト を しって いる の」
「しらない――」
「しらない ヒト の とこ へ ゆく なんて おかしい なあ。 いつか ネエサン が もって いた テガミ の ヒト だろう」
「いいえ」
 アネ は あかい カオ を した。 そして キュウ に コエ まで が かわった。
「アタシ ゆきたく ない ん だ けれど……」
 アネ は だまって なみだぐんだ。 キ の よわい ユウジュウ な アネ の こと だ から、 きっと、 ハハ の いう ところ なら どういう ところ へ でも ゆく に ちがいない。 そして ワタシ ヒトリ に なって しまう の は なんと いう さびしい こと だろう。
「いや だったら オカアサン に ことわったら いい でしょう。 いや だ って――」
「そんな こと アタシ には いえない の。 どうでも いい わ」
 アネ は なげる よう に いう。
 ワタシ は アネ が かわいそう に なった。
「ボク が いって あげよう か。 ネエサン は ゆく こと が いや だ って――」
「そんな こと いっちゃ いや よ。 ホントウ に いわない で ください。 アタシ かえって しかられる から」
「じゃ やっぱり ゆきたい ん だろう」
 ワタシ は ねたましい よう な、 はらだたしく キミジカ に こう いう と、 ネエサン は いや な カオ を した。
「アナタ まで いじめる のね。 アタシ、 ゆきたく ない って あんな に いって いる じゃ ない の」
「だって いや じゃ ない ん でしょう」 と、 きりこむ と、
「シカタ が ない わ。 みな ウン だわ」
 ワタシ は だまった。 いや だ けれど ゆく と いう、 はっきり しない アネ の ココロ を どう する こと も できなかった。
「じゃ ゆく のね」
「たいがい ね」
 ワタシ は テラ の ロウカ ヤネゴシ に オシンメイサン の ケヤキ の モリ を ながめて いた。 アネ が いって しまって は、 トモダチ の ない ワタシ は どんな に ハナシアイテ に フジユウ する のみ では なく、 どんな に がっかり して マイニチ ふさぎこんだ さびしい ヒ を おくらなければ ならない だろう。 アネ は ワタシ に とって ハハ で あり チチ でも あった。 ワタシ の タマシイ を なぐさめて くれる ヒトリ の ニクシン でも あった の だ。
 ワタシ は そっと アネ の ヨコガオ を みた。 ホツレゲ の なびいた しろい クビ―― ワタシ が ナナツ の コロ から マイニチ じつの オトウト の よう に あいして くれた ん だ。
「でも ね。 ときどき アナタ には あい に きて よ」
「ボク の ほう から だ と いけない かしら」
「きたって いい わ。 あえれば いい でしょう。 きっと あえる わね」
 ワタシ は カイダン を おりて、 ニワ へ でた。 アネ は トナリ へ かえった。
 ワタシ は ショイン へ かえる と、 チチ には だまって おいた。 ワタシ は ショウネン セカイ を ひらいたり よんだり して いた が、 アネ が いまにも ゆきそう な キ が して ならなかった。 ワタシ は ニワ へ でた。 みる もの が みな かなしく、 ウラガレ の シタバ を そよがせて いた ばかり で なく、 カワ から ふく カゼ が しみて さむかった。
 ザシキ から チチ が、
「キョウ は さむい から カゼ を ひく と いけない から ウチ へ はいって おいで」 と いった。
 シンセツ な チチ の コトバドオリ に ウチ へ はいった。
 ワタシ は だんだん ジブン の したしい もの が、 この セカイ から とられて ゆく の を かんじた。 シマイ に タマシイ まで が ハダカ に される よう な サムサ を イマ は ジブン の スベテ の カンカク に さえ かんじて いた。
 4~5 ニチ して アネ の ゆく こと が ケッテイ した。
 その ヒ の ゴゴ、 アネ は ハレギ を きて ハハ と ともに 2 ダイ の クルマ に のった。
 ワタシ は ゲンカン で じっと アネ の カオ を みた。 アネ は こい ケショウ の ため に みちがえる ほど うつくしかった。 そわそわ と ココロ も チュウ に ある よう に コウフン して いた。
「ちょいと きて――」 と アネ は よんだ。
 ワタシ は クルマ チカク へ いった。
「その うち に あい に きます から まって いて ください な。 それから おとなしく して ね」
 アネ は なみだぐんだ。
「では いって いらっしゃい」
 ワタシ は やっと これ だけ の こと が いえた。 ムネ も ココロ も なにかしら おしつけられた よう な いっぱい な カナシミ に せまられて いた。
「では さよなら」
 いいかわす と、 クルマ が うごいた。 ハジメ は しずか に うごいて、 コンド は クルマ の ワ が はげしく まわりだした。 アネ は ふりかえった。 クルマ が だんだん ちいさく なって、 ふいと ヨコチョウ へ まがった。 ワタシ は それ を ながく ながく みつめて いた。 ヨコチョウ へ まがって しまった のに、 まだ クルマ が はしって いる よう な ゲンエイ が、 ワタシ を して ながく たたせた。 ワタシ は なみだぐんだ。 あの やさしい アネ も とうとう ワタシ から はなれて いって しまった か と、 ワタシ は すごすご と さびしい テラ の ショイン へ かえりかかった。

 11

 ワタシ は アネ が いなく なって から、 みじかい フユ の ヒ の マイニチ ユキ に ふりこめられた ショイン で、 チチ の ソバ へ いったり エンガワ に あげて やった シロ を アイテ に さびしく くらして いた。 2 シュウカン も たった アト にも アネ は たずねて きて くれなかった。 みじかい ハガキ が 1 マイ きた きり で あった。

べつに オカワリ も ない こと と おもいます。 ネエサン は マイニチ いそがしくて ソト へ など まだ イチド も でた こと が ありません ので、 アナタ の ところ へも とうぶん ゆけそう に おもわれません。 ネエサン は やはり いつまでも、 オウチ に いれば よかった と マイニチ そう おもって、 テル さん の こと を かんがえます。 テル さん は オトコ で シアワセ です。 そのうち あった とき いろいろ おはなし します。

 と かいて あった。 ワタシ は この ハガキ を タイセツ に よごれない よう に、 ツクエ の ヒキダシ の オク に しまって おいた。 アネ の こと を かんがえたり あいたく なったり した とき、 ワタシ は これ を だして じっと アネ の やさしい カオ や コトバ に ふれる よう な オモイ を して たのしんで いた。
 ワタシ は ときどき トナリ の ハハ の イエ へ ゆく と、 きっと アネ の ヘヤ へ はいって みなければ キ が すまなかった。 いつも だまって、 しずか に オハリ を して いる ソバ に ねそべって いた ワタシ ジシン の スガタ をも、 そこ では アネ の スガタ と イッショ に おもいうかべる こと が できる の で あった。 その ヘヤ には、 いつも アネ の ソバ へ よる と イッシュ の ニオイ が した よう に、 なにかしら なつかしい あたたか な アネ の カラダ から しみでる よう な ニオイ が、 アネ の いなく なった コノゴロ でも、 ヘヤ の ナカ に ふわり と ハナ の カオリ の よう に ただようて いた。 ワタシ は ヘヤジュウ を みまわしたり、 ときには、 コダンス の ウエ に ある イロイロ な カシオリ の カラ に おさまって ある キレルイ や、 コウスイ の カラビン など を とりだして ながめて いた。 なぜか しれない フシギ な、 わるい こと を した とき の よう な ムナサワギ が、 アネ の ブンコ の ナカ を さぐったり する とき に、 どきどき と して くる の で あった。
 アネ は サンゴ の タマ や、 カンザシ、 ミミカキ、 こわれた ピン など を いれて おいた ハコ を わすれて いった の が、 これ だけ が ちゃんと おいて あった。 ワタシ は そういう アネ の シヨウブツ を みる ごと に、 アネ コイシサ を つのらせた。
 ワタシ は ある ヒ、 ユキバレ の した ドウロ を シロ を つれて、 いそいで いった。 ワタシ は ひそか に アネ の いった イエ の マエ を とおりたい ため でも あった。 カワベリ の センザイ に ウエコミ の ある、 ヤクイン の すみそう な イエ で あった。
 2 カイ は ショウジ が しまって あった。 イエジュウ が しずか で しんみり して いて、 アネ の コエ すら しなかった。 ワタシ は、 わざと イヌ に わんわん ほえさせたり した。 それでも アネ が ルス なの か、 いっこう ヒト の でて くる ケハイ が しなかった。 ワタシ は、 なお つよく イヌ を なかせた。 2 カイ の ショウジ が ひらいた。 そして アネ の カオ が あらわれた。
 アネ は 「まあ!」 と くちごもる よう に びっくり して、 テマネ で イマ そこ へ ゆく から と いった。 シロ は ながく みなかった アネ の カオ を みる と、 キュウ に ゲンキ-づいて マエアシ を おって ふざける よう に して たかく たかく ほえた。
 アネ は でて きた。
「まあ、 よく きた のね。 すっかり いそがしくて ね。 ごめんなさい よ」
 ワタシ は アネ の カオ を みる と、 もう なみだぐんで じっと みつめた。 アネ は すこし やせて あおざめた よう な、 かわいた カオ を して いた。
「ボク、 きて は わるかった かしら」
「いえ。 わるく は ない けど、 オカアサン から また つまらない こと を いわれる と いけない から、 コンド から くる ん じゃ ない のよ。 きっと そのうち ネエサン が いく から ね」
「きっと ね」
「え。 きっと いきます とも、 シロ は まあ うれしそう に して――」
 シロ は アネ の スソ を くわえて、 ひさしく みなかった シュジン に じゃれついて いた。
「じゃ ボク かえろう」
 ワタシ は こんな ところ で アネ と はなして いる の を イエ の ヒト に みられる と、 アネ が アト で こまる だろう と おもって、 かえりかかった。
「そう オカエリ? また コンド ネエサン が いきます から ね。 それまで おとなしく して まって いて ください な」
「イツゴロ きて くれる の」
「そりゃ まだ わからない けれども きっと いきます わ。 ちかって よ。 ユビキリ を しましょう ね」
 アネ は ワタシ の テ を とった。
 ワタシ は にっこり して アタリ を みまわした。 ダレ か みて は い は しない だろう か と、 しきり に ケネン された。
 アネ は、 ずっと ムカシ コドモ の とき に やった よう に、 コユビ と コユビ と を おたがいに ワ に つくって、 リョウホウ で ひきあう の で あった。
 この こどもらしい ジョウダン の よう な サジ では あった が、 なにかしら ワタシラ キョウダイ に とって シンセイ な しんず べき チカイ の よう に おもわれて いた。
「じゃ、 さよなら」
 と ワタシ は アネ の ソバ を はなれた。
「ミチクサ を しない で おかえりなさい な」
「ええ」
 ワタシ は カワギシ の ハダラ に きえかかった ミチ を いった。 カタガワマチ なので ダレ も とおらなかった。 ワタシ は 「イマ から アネ は どうして バン まで くらす の だろう。 ナニ か おもしろい こと でも ある の だろう か」 など と かんがえて いた。 ウチ に いる とき より いくらか やせた の も ワタシ には よく かんじられた。 ワタシ は ヨメ と いう もの は たんに セイカツ を ショクジ の ほう に のみ つとむ べき もの で あろう か など と、 なやましく かんがえあるいて いた。
 キタグニ の フユ の ニチボツ-ゴロ は、 アブラウリ の スズ や、 ユキ が ドロマミレ に ぬかった ミチ や、 いそがしげ に ゆきかう ヒトビト の アイダ に、 いつも モノ の ソコ まで とおる ツメタサ サムサ を もった カゼ が ふいて、 ヒトツ と して アタタカミ の ない うち に くれて ゆく の で あった。
 ワタシ は テラ へ かえる と、 ヨル は チチ と、 チャノユ の ロ に つよい ヒ を おこして むかいあって すわって いた。 チチ は ナニ を する と いう こと なし に、 チャ を のんだり コヨミ を くったり して ヒトバン を おくる の で あった。
 チチ は よく ユズミソ を つくったり した。 ユズガマ の ナカ を ふつふつ と にえる ミソ の ニオイ を なつかしがりながら、 ワタシ は いつも チチ の テツダイ を して いた。 ケイダイ の おおきな ツガ に さむい カゼ が ごうごう と なる よう な バン や、 さらさら と ショウジ を なでて ゆく ササユキ の ふる ヨル など、 ことに チチ と フタリ で しずか に イロイロ な ハナシ を して もらう こと が すき で あった。
 もはや アネ に したしもう と して も、 トオク へ いって しまった アト は、 チチ と さびしい ハナシ など を きく より ホカ は シカタ が なかった。
 チチ が はじめて この テラ へ きた とき は、 この テラ が ちいさな ツジドウ に すぎなかった こと や、 ヨル、 よく カワウソ が ウシロ の カワ で サケ を とりそこなったり して ヨナカ に ミズオト を たてた と いう こと など を きいた。
 チチ は よく いった。
「ネエサン が いなく なって から、 オマエ は たいへん さびしそう に して いる ね」
「ええ」
 チチ は よく ワタシ の ココロ を みぬいた よう に、 そんな とき は いっそう やさしく なでる よう に なぐさめて くれる の で あった。
「さあ、 やすみなさい。 かなり おそい から」 と、 いつも トコ へ つかす の で あった。
 ワタシ は わびしい アンドン の シタ で、 アネ の こと を かんがえたり、 ハハ の こと を おもいだしたり しながら、 いつまでも おおきな メ を あけて いる こと が あった。 ウシロ の カワ の セ の オト と ヨカゼ と が、 しずか に ワタシ の マクラ の ソバ まで きこえた。
 ワタシ の 13 の フユ は もう くれかかって いた。
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