カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

タデ くう ムシ 7

2020-02-19 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 11

 アワジ の ヒト に いわせる と ニンギョウ ジョウルリ は この シマ が ガンソ で ある と いう。 イマ でも スモト から フクラ へ かよう カイドウ の ホトリ の イチ ムラ と いう ムラ へ ゆけば、 ニンギョウ の ザ が 7 ザ ほど ある。 ムカシ は そこ に 36 ザ も あった くらい で、 ぞくに その ムラ を ニンギョウムラ と よんで いる。 いつ の ジダイ の こと で あった か、 ミヤコ を おちて きて この ムラ に キョ を かまえた クゲ が、 アリノスサビ に クグツ を つくり それ を うごかした の が ハジメ で、 ユウメイ な アワジ ゲンノジョウ と いう の は その クゲ の シソン で ある そう な。 その イッカ は コンニチ でも ムラ の キュウカ と して とおり、 リッパ な ヤシキ に すんで いて、 この シマ だけ で なく、 シコクジ や チュウゴクジ まで コウギョウ に でかける の で ある が、 しかし ザ を もって いる の は ゲンノジョウ の イチゾク ばかり では ない。 おおげさ に いえば イッソン ことごとく ギダユウ カタリ か、 シャミセンヒキ か、 ニンギョウ ツカイ か、 タユウモト か で ない モノ は なく、 それら の ヒトビト は ノウハンキ には ハタケ へ でて はたらき、 ヒャクショウ の シゴト が ヒマ に なる キセツ に それぞれ イチザ を ソシキ して シマ の ここかしこ を うって まわる。 だから これ こそ ホントウ の イミ での、 ジュンスイ に キョウド の デントウ から うまれた ノウミン ゲイジュツ で ある と いえよう。 シバイ は たいがい ネン に 2 カイ、 5 ガツ と ショウガツ と に もよおされる ので、 その ジブン に この シマ へ わたれば、 スモト、 フクラ、 ユラ、 シヅキ など の マチ を ハジメ、 いたる ところ の ザイショ で やって いる。 おおきな マチ では ジョウセツ の コヤ を かりる こと も ある けれど、 フツウ は ノテン に マルタ を くんで ムシロ で カコイ を する の で ある から、 アメ が ふれば イリカケ に なる。 そういう ワケ で アワジ には ずいぶん ネッシン な ニンギョウ キチガイ が めずらしく なく、 その ドウラク が こうじる と、 ヒトリ で つかう こと の できる ちいさな ユビニンギョウ を もって マチ から マチ を カドヅケ して あるき、 よびこまれれば ザシキ へ あがって サワリ の ヒトクサリ を かたりながら おどらせて みせる と いう よう なの も あり、 ニンギョウ を あいする あまり には カサン を トウジン する の は おろか、 ホントウ に ハッキョウ する モノ さえ も ある。 ただ おしい こと に それほど の キョウド の ホコリ も だんだん ジセイ の アッパク を うけて スイビ に むかいつつ ある ケッカ、 ふるい ニンギョウ が しだいに シヨウ に たえなく なる のに、 あたらしい カシラ を うって くれる サイクニン が いなく なった。 イマ ニンギョウシ と ナ の つく モノ は アワ の トクシマ-ザイ に すんで いる テングヒサ と、 その デシ の テングベン と、 ユラ の ミナト に いる ユラカメ との 3 ニン しか ない が、 その ウチ ホントウ に ウデ の できて いる テングヒサ は、 もう 60 か 70 に なる ジイサン で、 もし この ヒト が しんで しまえば エイキュウ に この ギジュツ は ほろびる で あろう。 テングベン は オオサカ へ でて ブンラク の ガクヤ を てつだって いる けれど、 シゴト と いう の は ムカシ から ある ニンギョウ の ナオシ を したり、 ゴフン を ぬりかえたり する くらい に すぎない。 ユラカメ も センダイ の オトコ は いい もの を つくった が、 イマ の ダイ と なって から は リハツシ か ナニ か を ホンギョウ と して、 その カタテマ に やはり ツクロイ を する だけ で ある。 シバイ の ほう では あたらしい もの が えられない から、 ふるい カシラ を できる だけ テイレ を して つかう。 それで マイトシ、 ボン と クレ と には、 ホウボウ の ザ の ハソン した ニンギョウ が シュウゼン の ため に ニンギョウシ の ところ へ イクジュウ と なく あつまって くる ので、 そういう とき に ゆきあわせれば、 こわれた カシラ の ヒトツ や フタツ は やすく ゆずって もらえる と いう。
 そんな ハナシ を どこ から か くわしく しらべて きた ロウジン は、 「コンド は どうしても ニンギョウ を テ に いれる」 と りきんで いた。 じつは このあいだ ブンラク で つかいふるした もの を ゆずりうける よう に いろいろ テ を まわした の が うまく ゆかない で、 「アワジ へ いけば かえます よ」 と、 ヒト に おしえられた の だ そう で ある。 そして ジュンレイ の みちすがら には、 シバイ を みて まわる ばかり で なく、 ユラ の ミナト の ユラカメ を おとない、 ニンギョウムラ の ゲンノジョウ の イエ に ゆき、 カエリミチ には フクラ から フネ で、 ナルト の シオ を みて トクシマ へ わたり、 テングヒサ にも あって こよう と いう の で ある。
「カナメ さん、 なんと のどか な もん じゃあ ない か」
「のどか です ねえ、 じつに。―――」
 カナメ は コヤガケ の ナカ へ はいる と そう いって ロウジン と メ を みあわせた。 のどか、 ―――まったく ここ の カンジ は 「のどか」 の コトバ で つきて いる。 いつ で あった か 4 ガツ の スエ の あたたかい ヒ に ミブ キョウゲン を み に いった とき、 オテラ の ケイダイ の うらうら と した ハル の キブン が サジキ に いて も うっとり ネムケ を もよおして、 あそんで いる コドモ たち の がやがや いう ハナシゴエ や、 ロテン で ダガシ や オメン を うって いる エンニチ アキンド の テント-バリ が ビイドロ の よう に ヒ に ひかる の や、 その ホカ イロイロ の ザツオン が ブタイ で えんぜられて いる キョウゲン の、 マノビ の した ユウチョウ な ハヤシ と ヒトツ に とけて きこえて くる ナカ で、 つい とろとろ と いい ココロモチ に ねむりこけて は、 また はっと して メ を さます。 2 ド も 3 ド も、 とろとろ と して は はっと メ を さます。 ………その おなじ こと を ナンド か くりかえす の で ある が、 メ を さます ごと に ブタイ を みる と、 サッキ の キョウゲン が まだ つづいて いて、 ユウチョウ な ハヤシ が いぜん と して きこえ、 サジキ の ソト は あいかわらず ヒ が うらうら と テント-バリ に ひかって いて コドモ たち が がやがや あそんで おり、 ながい ハル の イチニチ は いつ に なって も くれる こと は しらない か の よう に、 ………ヒルネ を しながら マトマリ の ない ユメ の カズカズ を イクツ とも なく ゆめみて は さめ、 ゆめみて は さめ した か の よう に、 ………タイヘイ の ミヨ の アリガタサ と いおう か、 トウゲン の クニ と いおう か、 ヒサシブリ に ウキヨ を はなれた のんびり と した ココロモチ に なって、 こんな こと は おさない ジブン に ニンギョウ-チョウ の スイテングウ で 75 ザ の オカグラ を みた イライ で ある と おもった が、 この コヤガケ の ナカ の キブン は ちょうど あれ と おなじ で ある。 ヤネ にも シホウ にも ムシロ が はって ある とは いう ものの、 ムシロ と ムシロ との アワセメ が スキマ-だらけ で、 ケンブツセキ に ニッコウ の ハンテン が でき、 トコロドコロ に アオゾラ が みえたり カワラ の クサ の すいすい と のびた の が のぞいて いたり して、 アタリマエ なら タバコ の ケムリ で にごって いる はず の ジョウナイ の クウキ が、 ゲンゲ や タンポポ や ナノハナ の ウエ を わたって くる カゼ で ノテン の よう に からり と して いる。 バセキ の ヒラドマ に あたる ところ は ジベタ へ ゴザ を しいた ウエ に ザブトン が ならべて あって、 ムラ の コドモ たち が ダガシ や ミカン を たべながら シバイ の ほう は ソッチノケ に、 そこ を ヨウチエン の ウンドウジョウ の よう に して さわいで いる ヨウス は、 やはり サトカグラ の ジョウシュ と カワリ は ない。
「なるほど、 これ は また ブンラク とは だいぶ ちがう ね」
 3 ニン は ベントウ の ツツミ を テ に もった まま しばらく アシ も ふみこめない で、 コドモ たち の チョウリョウ する の を ぼんやり たって ながめて いた。
「とにかく はじまって は いる ん です な、 ニンギョウ が うごいて います から。―――」
 カナメ の メ には、 その ヨウチエン サワギ の ムコウ に ちらちら して いる コウケイ が、 ベンテンザ で みた ジョウルリゲキ とは シュルイ の ちがった、 ヒトツ の オトギバナシ の クニ ―――ナニ か ドウワテキ な タンジュンサ と アカルサ と を もつ ゲンソウ の セカイ――― で ある よう に うつった。 ブタイ には イチメン に アサガオ の モヨウ の ついた ユウゼン の マク が たれて いて、 たぶん ジョマク の ホタルガリ の ところ で あろう、 コマザワ らしい わかい サムライ の ニンギョウ と、 ミユキ らしい うつくしい オヒメサマ の ニンギョウ と が、 フネ の ウエ で オウギ を かざしながら ヒザ を すりよせて うなずきあったり、 ささやいたり して いる。 バメン から いえば エン な ところ で ある けれども、 タユウ の コエ も シャミセン の ヒビキ も いっこう ジョウナイ に とおらない ので、 ただ その かわいい フタリ の ダンジョ の うごく の ばかり を みて いる と、 ブンゴロウ など が つかう よう な シャジツテキ な カンジ では なく、 ニンギョウ たち も ムラ の コドモ と イッショ に なって、 ムジャキ に、 あどけなく、 あそんで いる か の よう で ある。
 オヒサ は サジキ に しよう と いう の を、 ニンギョウ シバイ は シタ から みる に かぎる と いう イケン の ロウジン は 「ここ が いい ね」 と ことさら ドマ へ セキ を とった ので、 ワカバ の もえる コロ では ある が、 すわって いる と うすい ザブトン を へだてて ジベタ の シッケ と ソコビエ と が かんぜられる。
「オイド が ちみとうて かなわん わ」
 と、 オヒサ は シリ の シタ に フトン を 3 マイ も いれながら、
「なあへ、 こない な とこ に おいやしたら ドク どす え」
 と、 しきり に サジキ に かわる こと を すすめる けれど、
「まあまあ、 こういう ところ へ きて そんな ゼイタク を いう もん じゃあ ない。 ここ で みなけりゃ やっぱり ジョウ が うつらない から、 つめたい の は シンボウ する さ。 これ も ハナシ の タネ だあね」
 と、 ロウジン は とりあげる ケシキ も ない。 しかし そう いう トウニン も ひえて くる の が こたえる と みえて、 スズ の チョウシ を アルコール の ロ で あたためながら、 すぐ もう サケ を はじめる の で あった。
「ごらん、 この ヘン の ヒトタチ は ミンナ ワレワレ の オナカマ だね、 ああして ジュウバコ を もって きて いる。―――」
「なかなか リッパ な マキエ の が あります ね。 ナカ に はいって いる もの も、 タマゴヤキ だの ノリマキ だの にた よう な もの ばかり じゃ ない です か。 この ヘン では しじゅう こういう シバイ が ある んで、 ベントウ の オカズ も しぜん と イッテイ して いる ん でしょう な」
「この ヘン に かぎった こと じゃあ ない さ。 ムカシ は みんな ああ だった んで、 オオサカ アタリ じゃ つい キンネン まで その シュウカン が のこって いたあ ね。 イマ でも キョウト の キュウカ なぞ だ と、 オハナミ なんか には コゾウ に ベントウ と サケ を さげさして でかけて いく の が たくさん ある。 そうして ムコウ で チロリ を かりて オカン を つけて、 あまった サケ は また ビン に いれて もって かえって サカシオ に つかう と いう ん だ が、 じっさい ありゃあ いい カンガエ だね。 エドッコ に いわせる と キョウト の ヒト は シミッタレ だ と いう けれど、 デサキ で まずい もの を くう より その ほう が いくら リコウ だ か しれない。 だいいち ザイリョウ が わかって いる から アンシン して たべられる」
 みわたした ところ、 おいおい キャク が つまって きた ドマ の あちこち には、 おもいおもい に ワ を つくって ちいさな エンカイ が はじまって いた。 ヒ が たかい ので オトコ の キャク は すくない けれど、 マチ の ニョウボウ らしい の や ムスメ らしい の が めいめい コドモ たち を つれて、 ナカ には チノミゴ を だいたり して、 あそこ に ヒトカタマリ、 ここ に ヒトカタマリ と いう ふう に、 トコロドコロ に ジン を とって は、 ブタイ の シバイ には トンジャク なく、 ジュウバコ の グルリ に マドイ しながら たべて いる ので、 その ニギヤカサ、 ソウゾウシサ と いったら ない。 ここ の コヤ でも ニコミ の オデン と マサムネ ぐらい は うって いて、 それ で サカモリ を ひらく の も ある が、 ダイブブン の ヒト は ミナ ソウトウ に カサ の ある フロシキヅツミ を ジサン して いる。 メイジ ショネン の アスカヤマ へ でも いった ならば、 ハナミドキ には さだめし こんな コウケイ が みられた で あろう。 カナメ は マキエ の クミジュウ など と いう もの を ジダイオクレ の ゼイタクヒン だ と おもって いた のに、 ここ へ きて みて はじめて それ が さかん に ジッサイ に もちいられて いる の を しった。 なるほど ウルシ の ウツワ の カンジ は、 タマゴヤキ や ニギリメシ の イロドリ と いかにも うつくしく チョウワ して いる。 ナカ に つまって いる ゴチソウ が さも おいしそう で ある。 ニホン リョウリ は たべる もの で なく みる もの だ と いった の は、 ニ の ゼン-ツキ の ケイシキ-ばった エンカイ を ののしった コトバ で あろう が、 この はなやか な、 コウハク サマザマ な ベントウ の ナガメ は、 ただ きれい で ある ばかり で なく、 なんでも ない タクアン や コメ の イロ まで が へんに うまそう で、 たしか に ヒト の ショクヨク を そそる。
「ひえる ところ へ もって きて、 サケ が はいった もん だ から、………」
 と、 ロウジン は サッキ から 2 ド も 3 ド も コヨウ を たし に たって いった。 が、 ダレ より も こまって いる の は オヒサ で、 じつは バショガラ が バショガラ だ から、 なるべく そんな こと が ない よう に デガケ に すまして きた の だ けれど、 キ に する と なお もよおす もの だし、 ムシロ の シタ から セスジ の ほう へ ツメタサ が はいあがって くる の に くわえて、 いけぬ クチ ながら フタツ ミッツ ロウジン の アイテ を したり、 ジュウバコ の もの を つまんだり した の が テキメン に きいて きた の で ある。
「どこ どす?………」
 と いって、 イチド カノジョ は たちあがった が、
「オヒサ さん には とても ダメ です よ」
 と、 カナメ が もどって きて カオ を しかめた。 きけば カコイ の して ない ところ へ コエオケ が フタツ ミッツ ならべて あって、 オトコ も オンナ も たちながら ヨウ を たす の だ と いう。
「ワテェ……… どう しょう?………」
「いい やな、 オマエ、 みられる の は オタガイサマ だあな」
「それ かて、 たった なり で できます かいな」
「キョウト では よく オンナ が そうして いる じゃ ない か」
「あほらしい。 まだ そんな こと した こと おへん え」
 どこ か その ヘン まで いったら ウドンヤ か ナニ か ある だろう と いわれて でて いった オヒサ は、 それから コイチ ジカン も して かえって きた。 マチ まで いって、 ウドンヤ の マエ も、 メシヤ の マエ も とおりすぎて みた けれど、 なんだか はいりにくく も あり、 どこ の ミセ も ウスキミ が わるそう なので、 とうとう ヤドヤ まで あるいて しまって、 カエリ は クルマ で もどって きた と いう の で ある。 それにしても ここ に きて いる わかい ムスメ や ニョウボウ たち は どう する の だろう、 ミンナ あの オケ へ ゆく の だろう か と、 ヨケイ な シンパイ を して いる うち に、 やがて 3 ニン の ウシロ の ほう で メイワク な こと が はじまった。 ―――コドモ を だいた カミサン が、 ドマ の トオリミチ で キモノ の マエ を ひらけさせて、 スイドウ の セン を ぬいた よう な オト を させて いる の で ある。
「こいつ は ちっと ヤバン-すぎる。 ベントウ を たべて いる ハナサキ は ひどい」
 と、 ロウジン も これ には まいった と いう カオツキ で ある。
 ブタイ の ほう では ケンブツセキ の ラッカ ロウゼキ を そしらぬ ふう で、 ナンニン-メ か の タユウ が ユカ へ あがって いた。 カナメ は ヒル の サケ が きいた の と、 マワリ の ソウオン が はげしい の と で ジョウキ した せい か、 ただ ちらちら と メ に うつる もの を かんじて いる だけ に すぎない の だ が、 それでいて けっして タイクツ でも なければ ミミザワリ でも ない。 この カイカン は あたかも あかるい ユブネ の ナカ で、 ハダ は こころよい ヌルマユ に つかって いる の に にて いる。 あたたかい ヒ に フトン に くるまって うとうと と アサネボウ を する、 ―――その のんびり した、 ものうい よう な、 あまい よう な キブン にも にて いる。 ぼんやり ながめて いた アイダ に、 いつのまにか アカシ の フナワカレ の ダン が すみ、 ユミノスケ の ヤシキ も、 オオイソ の アゲヤ も、 マヤガタケ の ダン も すんで しまった らしく、 イマ やって いる の は ハママツ の コヤ の よう だ けれど、 ヒ は まだ ヨウイ に かげりそう な ケハイ も なく、 テンジョウ を あおぐ と ムシロ の スキマ から ケサ きた とき と おなじ アオゾラ が キゲン の よい イロ を のぞかせて いる。 こういう オリ には シバイ の スジ なぞ そう キ に とめる ヒツヨウ は ない。 ただ うっとり と ニンギョウ の うごく の を みつめて いれば タクサン で ある。 そして ケンブツニン たち の がやがや いう の が、 いっこう ジャマ に ならない のみ か、 イロイロ の オト、 イロイロ の シキサイ が、 マンゲキョウ を みる よう に、 はなやか に、 メ も あや に いりみだれながら、 こんぜん と した チョウワ を たもって いる の で ある。
「のどか です なあ。―――」
 と、 カナメ は もう イッペン その コトバ を くりかえした。
「しかし ニンギョウ も おもいのほか だよ、 ミユキ を つかって いる の なんぞ は そう ヘタ でも ない じゃ ない か」
「そう です ねえ、 もうすこし ゲンシテキ な ところ が あって も いい はず です ねえ」
「こういう もの は どこ で やって も だいたい カタ が きまってる ん だな、 ギダユウ の モンク に カワリ が ない イジョウ、 テジュン が おなじ に なる わけ だ から」
「アワジ トクユウ の カタリカタ、 と いう よう な もの は ない ん でしょう か」
「きく ヒト が きく と、 アワジ ジョウルリ と いって いくらか オオサカ とは ちがう ん だ そう だ が、 ワタシ なんか には わからない ね」
 いったい、 「カタ に はまる」 とか 「カタ に とらわれる」 とか いう こと を、 ゲイドウ の ダラク の よう に かんがえる ヒト も ある けれども、 たとえば この ノウミン ゲイジュツ の ショサン で ある ニンギョウ シバイ に して から が、 とにかく これ だけ に みられる と いう の は ひっきょう 「カタ」 が ある ため では ない か。 その テン で デンデンモノ の キュウゲキ は ミンシュウテキ で ある と いえる。 どの キョウゲン にも ダイダイ の メイユウ の クフウ に なる イッテイ の フンソウ、 イッテイ の ドウサ――― いわゆる 「カタ」 が つたえられて いる から、 その ヤクソク に したがい、 タユウ の かたる チョボ に のって うごき さえ すれば、 シロウト たち でも ある テイド まで は シバイ の マネゴト を する こと が でき、 ケンブツニン も その カタ に よって ヒノキブタイ の カブキ ヤクシャ を レンソウ しながら みて いられる。 イナカ の オンセンヤド なぞ で コドモ シバイ の ヨキョウ が あったり する とき、 おしえる ほう も よく おしえ、 おぼえる ほう も よく まあ これ だけ に おぼえた もの だ と カンシン する こと が ある けれど、 メイメイ が カッテ な カイシャク を する ゲンダイゲキ の エンシュツ と ちがって、 ジダイモノ は ヨリドコロ が ある だけ に かえって オンナコドモ にも おぼえやすい の かも しれない。 カツドウ シャシン など の なかった ムカシ は、 やはり それ に かわる よう な ベンリ な ホウホウ が あった の で ある。 とりわけ わずか な セツビ と ニンズウ と で テガル に ショショ を コウギョウ して あるける ニンギョウ シバイ は、 どれほど チホウ の ミンシュウ を なぐさめた で あろう。 こうして みる と キュウゲキ と いう もの は ずいぶん イナカ の スミズミ に まで も ゆきわたって、 ふかい コンテイ を すえて いる こと が さっせられる。―――
 カナメ は アサガオ ニッキ の ナカ では ダレ でも しって いる ヤドヤ の ダン と カワドメ の ダン と を みた こと が ある だけ で、 「ヒトトセ ウジ の ホタルガリ」 とか 「ないて アカシ の カザマチ」 とか いう モンク に キキオボエ は ある けれど、 その ホタルガリ や フナワカレ や この ハママツ の コヤ の ダン や を みる の は はじめて で あった。 しかし この モノガタリ は ジダイモノ の よう で あって、 ジダイモノ に トクユウ な フシゼン に いりくんだ スジ や、 ザンコク な ブシドウ の ギリゼメ など が すくなくって、 セワモノ の よう に すなお に あかるく、 かるい コッケイミ さえ も くわえて すらすら と はこんで ある の が いい。 イツゴロ を ハイケイ に した もの か、 ホントウ に あった コトガラ か どう か、 コマザワ と いう の は クマザワ バンザン を モデル に した の だ と いう よう な ハナシ を きいた こと も ある が、 なんだか トクガワ ジダイ より も ヒトジダイ マエ の センゴク か ムロマチ-ゴロ の モノガタリ を よむ よう な ところ が ある。 オトコ が オンナ に サイバラ を おくったり、 オンナ が それ を コト で うたったり、 アサカ と いう ウバ が オヒメサマ の アト を おって クロウ を したり する の なぞ は、 ヘイアンチョウ の よう でも ある。 それでいて ジッサイ に とおい か と いう の に、 イッポウ では かなり ツウゾクミ も あり シャジツミ も あって、 げんに この バ へ でる アサカ の ジュンレイ スガタ と いい、 カノジョ の となえる ゴエイカ と いい、 この ヘン の ヒト には きわめて したしみぶかい もの で、 イマ でも アサカ の よう な スガタ で あの ウタ を うたいながら ゆく オンナ を おうおう マチ で みかける こと が めずらしく ない の を おもえば、 カントウ の ヒト が ジョウルリゲキ を みる の と ちがって、 サイゴク の ヒト は あんがい ジブン の シンペン に ちかい ジジツ の よう に かんずる の で あろう。
「いや、 これ は アサガオ ニッキ なんで いけない ん だね」
 と、 ロウジン は ナニ を おもいだした の か とつぜん いった。
「タマモ ノ マエ とか、 イセ オンド とか、 ああいう もの は なかなか オオサカ とは ちがって いて おもしろい そう だよ」
 なんでも ブンラク アタリ では ザンニン で ある とか みだら で ある とか いう カド で きんぜられて いる モンク や シグサ を、 アワジ では コテン の スガタ を くずさず、 イマ でも ソノママ に やって いる、 それ が ヒジョウ に かわって いる と いう ハナシ を ロウジン は きいて きた の で あった。 たとえば タマモ ノ マエ なぞ は、 オオサカ では ふつう サンダンメ だけ しか ださない けれども、 ここ では ジョマク から とおして やる。 そう する と その ナカ に キュウビ ノ キツネ が あらわれて タマモ ノ マエ を くいころす バメン が あって、 キツネ が オンナ の ハラ を くいやぶって チダラケ な ハラワタ を くわえだす、 その ハラワタ には あかい マワタ を つかう の だ と いう。 イセ オンド では 10 ニン-ギリ の ところ で、 ちぎれた ドウ だの テ だの アシ だの が ブタイ イチメン に サンラン する。 キバツ な ほう では オオエヤマ の オニタイジ で、 ニンゲン の カシラ より も もっと おおきな オニ の カシラ が でる。
「そういう やつ を みなけりゃあ ハナシ に ならない、 アシタ の ダシモノ は イモセヤマ だ そう だ から、 こいつ は ちょっと ミモノ だろう よ」
「ですが アサガオ ニッキ だって、 トオシ で みる の は はじめて の せい か ボク には そうとう おもしろい です よ」
 カナメ には ニンギョウ ツカイ の コウセツ など こまかい ところ は わからない が、 ただ ブンラク の と ヒカク する と、 ツカイカタ が あらっぽく、 ヤワラカミ が なく、 なんと いって も ひなびた カンジ の ある こと は まぬかれられない。 それ は ヒトツ には ニンギョウ の カオ の ヒョウジョウ や、 イショウ の キセカタ にも よる の で あろう。 と いう の は、 オオサカ の に くらべて メハナ の セン が どこ か ニンゲンバナレ が して、 かたく、 ぎごちなく できて いる。 タテオヤマ の カオ が ブンラクザ の は ふっくら と マルミ が ある のに、 ここ の は フツウ の キョウニンギョウ や オヒナサマ の それ の よう に オモナガ で、 つめたい たかい ハナ を して いる。 そして オトコ の アクヤク に なる と、 イロ の アカサ と いい、 カオダチ の キミ の ワルサ と いい、 これ は また あまり に キカイ シゴク で、 ニンゲン の カオ と いう より は オニ か バケモノ の カオ に ちかい。 そこ へ もって きて ニンギョウ の ミノタケ が、 ―――ことに その カシラ が、 オオサカ の より も ひときわ おおきく、 タチヤク なぞ は ナナツ ヤッツ の コドモ ぐらい は ありそう に おもえる。 アワジ の ヒト は オオサカ の ニンギョウ は ちいさすぎる から、 ブタイ の ウエ で ヒョウジョウ が ひきたたない。 それに ゴフン を みがいて ない の が いけない と いう。 つまり オオサカ では、 なるべく ニンゲン の ケッショク に ちかく みせよう と して カオ の ゴフン を わざと ツヤケシ に する の だ が、 それ と ハンタイ に できる だけ とぎだして ぴかぴか に ひからせる アワジ の ほう では、 オオサカ の ヤリカタ を サイク が ぞんざい だ と いう の で ある。 そう いえば なるほど、 ここ の ニンギョウ は メダマ が さかん に カツヤク する、 タチヤク の なぞ は サユウ に うごく ばかり で なく、 ジョウゲ にも うごき、 アカメ を だしたり アオメ を つったり する。 オオサカ の は こんな セイコウ な シカケ は ありません、 オヤマ の メ なぞ は うごかない の が フツウ です が、 アワジ の は オヤマ でも マブタ が ひらいたり とじたり します と、 この シマ の ヒト は ジマン を する。 ようするに シバイ ゼンタイ の コウカ から いえば オオサカ の ほう が かしこい けれども、 この シマ の ヒトタチ は シバイ より も むしろ ニンギョウ ソノモノ に シュウチャク し、 ちょうど ワガコ を ブタイ に たたせる オヤ の よう な イツクシミ を もって、 ココ の スガタ を ながめる の で あろう。 ただ キノドク なの は、 イッポウ は ショウチク の コウギョウ で ある から ヒヨウ も ジュウブン に かけられる のに、 こっち は ヒャクショウ の カタテマ シゴト で、 カミ の カザリ や キツケ が いかにも みすぼらしい。 ミユキ でも コマザワ でも ずいぶん ふるぼけた イショウ を きて いる。 しかし フルギズキ の ロウジン は、
「いや、 イショウ は ここ の ほう が いい よ」
 と いって、 あの オビ は ムカシ の ゴロウ だ とか、 あの コソデ は キハチジョウ だ とか、 でて くる ニンギョウ の キモノ に ばかり メ を つけて、 サッキ から しきり に スイゼン して いる。
「ブンラク だって イゼン は こんな ふう だった の が、 チカゴロ ハデ に なった ん だよ。 コウギョウ の たび に イショウ を シンチョウ する の も いい が、 メリンス ユウゼン や キンシャ チリメン みたい な もの を つかわれる ん じゃ、 ブチコワシ だね。 ニンギョウ の キツケ は ノウイショウ の よう に ふるい ほど アリガタミ が ある」
 と、 そう ロウジン は いう の で ある。
 ミユキ と セキスケ との ミチユキ の アイダ に ながい イチニチ も とうとう くれて、 その マク が すんだ ジブン には カコイ の ソト は すっかり くらく なって いた。 ヒルマ の うち は サップウケイ だった コヤ の ナカ も いつしか ぎっしり キャク が つまって、 さすが に シバイ の ヨル-らしい キブン で ある。 ちょうど バンメシ の コクゲン なので、 いっそう さかん な ショウエンカイ が あっち でも こっち でも はじまって いる。 どぎつい デンキュウ が ハダカ の まま で トコロドコロ に つって ある から アカルサ も あかるい が、 まぶしい こと も ヒジョウ に まぶしい。 それに ブタイ の ショウメイ と いう の が、 キャッコウ も なければ トクベツ な ソウチ が ある の でも なく、 おなじ ハダカ デントウ が テンジョウ から たれて いる ばかり なので、 やがて タイコウキ ジュウダンメ が あく と、 ニンギョウ の カオ の ゴフン が イチド に きらきら と ハンシャ しだして、 ジュウジロウ も ハツギク も マトモ に みる こと が できない よう な キカン を ていした。 しかし タユウ は だんだん ホンショク に ちかい よう な ジョウズ なの が ユカ に あがる。 それ を イッポウ の サジキ から、 「どう だ、 ワシ の ムラ の タユウ は うまい もん だろう、 ミンナ しずか に きいて くれ」 と、 おなじ ムラ の ヒト らしい の が セイエン する と、 「オレ の ムラ の ナニナニ タユウ は もっと うまい ぞ、 イイカゲン に ひっこんで くれ」 と、 イッポウ の サジキ から バセイ を とばす。 よった イキオイ で ケンブツニン の タイハン が めいめい どっち か へ ミカタ を して ムラ と ムラ との キョウソウ が ヨ が ふける ほど はげしく なる。 サワリ の うつくしい モンク へ くる と、 ドウスルレン が イロイロ の コトバ で ハンジョウ を いれる。 そして シマイ には 「あんまり じゃ ぞえ!」 と、 ミンナ が イッショ に ナキゴエ を だして カンシン する。 おかしい の は ニンギョウ ツカイ で、 これ も バンシャク に イッパイ のんだ アト らしく ぼうっと メ の フチ を あかく しながら つかって いる の は いい の だ が、 オヤマ を つかう オトコ なぞ は カキョウ に はいる と ジブン も ニンギョウ に つりこまれて ヘン な ミブリ を する。 それ が、 ブンラク アタリ でも やる こと だ けれども、 ここ の は マイニチ ノラ で はたらく の が ホンギョウ の ヒトタチ だ から、 どすぐろく ヒ に やけた カオ に カタギヌ を つけた の が、 また その ウエ を ほんのり サクライロ に そめて、 さも いい キモチ そう に シナ を つくる ばかり で なく、 「あんまり じゃ ぞえ!」 を あびせられる と、 イト に のって ヒョウジョウ まで も して みせる。 ニンギョウ の カタ にも おいおい と キバツ な テ が でて、 アサガオ ニッキ に シツボウ した ロウジン を よろこばせる よう な シグサ が ある。 タイコウキ の ツギ の オシュン デンベエ では サルマワシ の ヨジロウ が ネドコ の ナカ へ はいろう と する とき、 いったん トジマリ を した コウシ を あけて イエ の マエ の ミチバタ に うずくまりながら ショウベン を する。 そこ へ どこ から か 1 ピキ の イヌ が あらわれて、 ヨジロウ の フンドシ を くわえて ぐいぐい ひっぱって ゆく の で ある。
 オオサカ クダリ と いう フレコミ で、 バンヅケ に おおきく ナ を だして いる ロタユウ の 「ドモマタ」 が はじまった の は 10 ジ-スギ だった が、 それから まもなく ケンブツセキ で えらい サワギ が もちあがった。 コン の ツメエリ の フク を きて 5~6 ニン の ナカマ と イッショ に クルマザ に なって のんで いた ドカタ の オヤブン-フウ の オトコ が、 いきなり ドマ に たちあがって サジキ の キャク に 「さあ こい」 と いいながら ケンカ を かって でた の で ある。 なんでも その マエ から、 ケンブツセキ が オオサカ の タユウ と いう こと に ハンカン を もつ らしい トチッコ と、 そう で ない もの との 2 ハ に わかれて ヤジ を とばしながら、 だいぶ おだやか で ない ケイセイ に なって いた ところ へ、 イッポウ の サジキ から ダレ か が ナニ か いった の が その オヤブン の シャク に さわった もの だ と みえる。 「さあ、 ヤロウ、 でて こい」 と いまにも サジキ へ とびかかろう と する ケンマク に、 「まあまあ」 と いって ナカマ の モノ が イチド に ミンナ たちあがって その オトコ を おさえつける。 オトコ は ますます いたけだか に、 ニオウダチ に なって ドゴウ しつづける。 ホカ の ケンブツ が あの オトコ を どうか しろ と さわぎだす。 おかげで せっかく の シンウチ の カタリモノ が とうとう めちゃめちゃ に されて しまった。

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