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この こと が あった ヒ から イツカ たった けれども クラチ は ぱったり こなく なった。 タヨリ も よこさなかった。 カネ も おくって は こなかった。 あまり に ヘン なので オカ に たのんで ゲシュク の ほう を しらべて もらう と ミッカ マエ に ニモツ の ダイブブン を もって リョコウ に でる と いって スガタ を かくして しまった の だ そう だ。 クラチ が いなく なる と ケイジ だ と いう オトコ が 2 ド か 3 ド イロイロ な こと を たずね に きた とも いって いる そう だ。 オカ は クラチ から の 1 ツウ の テガミ を もって かえって きた。 ヨウコ は すぐに フウ を ひらいて みた。
「コト ジュウダイ と なり スガタ を かくす。 ユウビン では ルイ を およぼさん こと を おそれ、 これ を シュジン に たくしおく。 カネ も トウブン は おくれぬ。 こまったら カザイ ドウグ を うれ。 その うち には なんとか する。 ドクゴ カチュウ」
と だけ したためて ヨウコ への アテナ も ジブン の ナ も かいて は なかった。 クラチ の シュセキ には マチガイ ない。 しかし あの ホッサ イゴ ますます ヒステリック に コンジョウ の ひねくれて しまった ヨウコ は、 テガミ を よんだ シュンカン に これ は ツクリゴト だ と おもいこまない では いられなかった。 とうとう クラチ も ジブン の テ から のがれて しまった。 やるせない ウラミ と イキドオリ が メ も くらむ ほど に アタマ の ナカ を カクラン した。
オカ と アイコ と が すっかり うちとけた よう に なって、 オカ が ほとんど イリビタリ に ビョウイン に きて サダヨ の カイホウ を する の が ヨウコ には みて いられなく なって きた。
「オカ さん、 もう アナタ これから ここ には いらっしゃらない で くださいまし。 こんな こと に なる と ゴメイワク が アナタ に かからない とも かぎりません から。 ワタシタチ の こと は ワタシタチ が します から。 ワタシ は もう タニン に たよりたく は なくなりました」
「そう おっしゃらず に どうか ワタシ を アナタ の オソバ に おかして ください。 ワタシ、 けっして デンセン なぞ を おそれ は しません」
オカ は クラチ の テガミ を よんで は いない の に ヨウコ は キ が ついた。 メイワク と いった の を ビョウキ の デンセン と おもいこんで いる らしい。 そう じゃ ない。 オカ が クラチ の イヌ で ない と どうして いえよう。 クラチ が オカ を とおして アイコ と インギン を かよわしあって いない と ダレ が ダンゲン できる。 アイコ は オカ を たらしこむ くらい は ヘイキ で する ムスメ だ。 ヨウコ は ジブン の アイコ ぐらい の トシゴロ の とき の ジブン の ケイケン の イチイチ が いきかえって その サイギシン を あおりたてる の に ジブン から くるしまねば ならなかった。 あの トシゴロ の とき、 おもい さえ すれば ジブン には それほど の こと は てもなく して のける こと が できた。 そして ジブン は アイコ より も もっと ムジャキ な、 おまけに カイカツ な ショウジョ で ありえた。 よって たかって ジブン を だまし に かかる の なら、 ジブン に だって して みせる こと が ある。
「そんな に オカンガエ なら おいで くださる の は オカッテ です が、 アイコ を アナタ に さしあげる こと は できない ん です から それ は ゴショウチ くださいまし よ。 ちゃんと もうしあげて おかない と アト に なって イサクサ が おこる の は いや です から…… アイ さん オマエ も きいて いる だろう ね」
そう いって ヨウコ は タタミ の ウエ で サダヨ の ムネ に あてる シップ を ぬって いる アイコ の ほう にも ふりむいた。 うなだれた アイコ は カオ も あげず ヘンジ も しなかった から、 どんな ヨウス を カオ に みせた か を しる ヨシ は なかった が、 オカ は シュウチ の ため に ヨウコ を みかえる こと も できない くらい に なって いた。 それ は しかし オカ が ヨウコ の あまり と いえば ロコツ な コトバ を はじた の か、 ジブン の ココロモチ を あばかれた の を はじた の か ヨウコ の まよいやすく なった ココロ には しっかり と みきわめられなかった。
これ に つけ かれ に つけ もどかしい こと ばかり だった。 ヨウコ は ジブン の メ で フタリ を カンシ して ドウジ に クラチ を カンセツ に カンシ する より ホカ は ない と おもった。 こんな こと を おもう すぐ ソバ から ヨウコ は クラチ の サイクン の こと も おもった。 イマゴロ は カレラ は のうのう と して ジャマモノ が いなく なった の を よろこびながら ヒトツイエ に すんで いない とも かぎらない の だ。 それとも クラチ の こと だ、 ダイニ ダイサン の ヨウコ が ヨウコ の フコウ を いい こと に して クラチ の ソバ に あらわれて いる の かも しれない。 ……しかし イマ の バアイ クラチ の ユクエ を たずねあてる こと は ちょっと むずかしい。
それから と いう もの ヨウコ の ココロ は 1 ビョウ の アイダ も やすまらなかった。 もちろん イマ まで でも ヨウコ は ヒトイチバイ ココロ の はたらく オンナ だった けれども、 その コロ の よう な ハゲシサ は かつて なかった。 しかも それ が いつも オモテ から ウラ を ゆく ハタラキカタ だった。 それ は ジブン ながら まったく ジゴク の カシャク だった。
その コロ から ヨウコ は しばしば ジサツ と いう こと を ふかく かんがえる よう に なった。 それ は ジブン でも おそろしい ほど だった。 ニクタイ の セイメイ を たつ こと の できる よう な もの さえ メ に ふれれば、 ヨウコ の ココロ は おびえながら も はっと たかなった。 ヤッキョク の マエ を とおる と ずらっと ならんだ クスリビン が ユウワク の よう に メ を いた。 カンゴフ が ボウシ を カミ に とめる ため の ながい ボウシ ピン、 テンジョウ の はって ない ユドノ の ハリ、 カンゴフシツ に うすあかい イロ を して カナダライ に たたえられた ショウコウスイ、 フハイ した ギュウニュウ、 カミソリ、 ハサミ、 ヨフケ など に ウエノ の ほう から きこえて くる キシャ の オト、 ビョウシツ から ながめられる セイリガク キョウシツ の 3 ガイ の マド、 ミッペイ された ヘヤ、 シゴキオビ、 ……なんでも かでも が ジブン の ニク を はむ ドクジャ の ごとく カマクビ を たてて ジブン を マチブセ して いる よう に おもえた。 ある とき は それら を このうえなく おそろしく、 ある とき は また このうえなく したしみぶかく ながめやった。 1 ピキ の カ に さされた とき さえ それ が マラリヤ を つたえる シュルイ で ある か ない か を うたがったり した。
「もう ジブン は この ヨノナカ に なんの ヨウ が あろう。 しに さえ すれば それ で コト は すむ の だ。 このうえ ジシン も くるしみたく ない。 ヒト も くるしめたく ない。 いや だ いや だ と おもいながら ジブン と ヒト と を くるしめて いる の が たえられない。 ネムリ だ。 ながい ネムリ だ。 それ だけ の もの だ」
と サダヨ の ネイキ を うかがいながら しっかり おもいこむ よう な とき も あった が、 ドウジ に クラチ が どこ か で いきて いる の を かんがえる と、 たちまち ツバメガエシ に シ から セイ の ほう へ、 くるしい ボンノウ の セイ の ほう へ はげしく シュウチャク して いった。 クラチ の いきてる アイダ に しんで なる もの か…… それ は シ より も つよい ユウワク だった。 イジ に かけて も、 ニクタイ の スベテ の キカン が めちゃめちゃ に なって も、 それでも いきて いて みせる。 ……ヨウコ は そして その どちら にも ホントウ の ケッシン の つかない ジブン に また くるしまねば ならなかった。
スベテ の もの を あいして いる の か にくんで いる の か わからなかった。 サダヨ に たいして で すら そう だった。 ヨウコ は どうか する と、 ネツ に うかされて ミサカイ の なくなって いる サダヨ を、 ママハハ が ママコ を いびりぬく よう に モギドウ に とりあつかった。 そして ツギ の シュンカン には コウカイ しきって、 アイコ の マエ でも カンゴフ の マエ でも かまわず に おいおい と なきくずおれた。
サダヨ の ビョウジョウ は わるく なる ばかり だった。
ある とき デンセン ビョウシツ の イチョウ が きて、 ヨウコ が イマ の まま で いて は とても ケンコウ が つづかない から、 おもいきって シュジュツ を したら どう だ と カンコク した。 だまって きいて いた ヨウコ は、 すぐ オカ の サシイレグチ だ と ジャスイ して とった。 その ウシロ には アイコ が いる に ちがいない。 ヨウコ が ついて いた の では サダヨ の ビョウキ は なおる どころ か わるく なる ばかり だ (それ は ヨウコ も そう おもって いた。 ヨウコ は サダヨ を ゼンカイ させて やりたい の だ。 けれども どうしても いびらなければ いられない の だ。 それ は よく ヨウコ ジシン が しって いる と おもって いた)。 それ には ヨウコ を なんとか して サダヨ から はなして おく の が ダイイチ だ。 そんな ソウダン を イチョウ と した モノ が いない はず が ない。 ふむ、 ……うまい こと を かんがえた もの だ。 その フクシュウ は きっと して やる。 コンポンテキ に ビョウキ を なおして から して やる から みて いる が いい。 ヨウコ は イチョウ との タイワ の うち に はやくも こう ケッシン した。 そして おもいのほか てっとりばやく シュジュツ を うけよう と すすんで ヘントウ した。
フジンカ の ヘヤ は デンセン ビョウシツ とは ずっと はなれた ところ に チカゴロ シンチク された タテモノ の ナカ に あった。 7 ガツ の ナカバ に ヨウコ は そこ に ニュウイン する こと に なった が、 その マエ に オカ と コトウ と に イライ して、 ジブン の ミヂカ に ある キチョウヒン から、 クラチ の ゲシュク に はこんで ある イルイ まで を ショブン して もらわなければ ならなかった。 カネ の デドコロ は まったく とだえて しまって いた から。 オカ が しきり と ユウズウ しよう と もうしでた の も すげなく ことわった。 オトウト ドウヨウ の ショウネン から カネ まで ユウズウ して もらう の は どうしても ヨウコ の プライド が ショウチ しなかった。
ヨウコ は トクトウ を えらんで ヒアタリ の いい ひろびろ と した ヘヤ に はいった。 そこ は デンセン ビョウシツ とは クラベモノ にも ならない くらい シンシキ の セツビ の ととのった イゴコチ の いい ところ だった。 マド の マエ の ニワ は まだ ほりくりかえした まま で アカツチ の ウエ に クサ も はえて いなかった けれども、 ひろい ロウカ の ひややか な クウキ は すずしく ビョウシツ に とおりぬけた。 ヨウコ は 6 ガツ の スエ イライ はじめて ネドコ の ウエ に やすやす と カラダ を よこたえた。 ヒロウ が カイフク する まで しばらく の アイダ シュジュツ は みあわせる と いう ので ヨウコ は マイニチ イチド ずつ ナイシン を して もらう だけ で する こと も なく ヒ を すごした。
しかし ヨウコ の セイシン は コウフン する ばかり だった。 ヒトリ に なって ヒマ に なって みる と、 ジブン の シンシン が どれほど ハカイ されて いる か が ジブン ながら おそろしい くらい かんぜられた。 よく こんな アリサマ で イマ まで とおして きた と おどろく ばかり だった。 シンダイ の ウエ に ねて みる と ニド と おきて あるく ユウキ も なく、 また じっさい でき も しなかった。 ただ ドンツウ と のみ おもって いた イタミ は、 どっち に ねがえって みて も ガマン の できない ほど な ゲキツウ に なって いて、 キ が くるう よう に アタマ は おもく うずいた。 ガマン にも サダヨ を みまう など と いう こと は できなかった。
こうして ねながら にも ヨウコ は ダンペンテキ に イロイロ な こと を かんがえた。 ジブン の テモト に ある カネ の こと を まず シアン して みた。 クラチ から うけとった カネ の ノコリ と、 チョウドルイ を うりはらって もらって できた まとまった カネ と が なにも かにも これから シマイ 3 ニン を やしなって ゆく ただ ヒトツ の シホン だった。 その カネ が つかいつくされた ノチ には イマ の ところ、 ナニ を どう する と いう アテ は ツユ ほど も なかった。 ヨウコ は フダン の ヨウコ に にあわず それ が キ に なりだして シカタ が なかった。 トクトウシツ なぞ に はいりこんだ こと が コウカイ される ばかり だった。 と いって イマ に なって トウキュウ の さがった ビョウシツ に うつして もらう など とは ヨウコ と して は おもい も よらなかった。
ヨウコ は ゼイタク な シンダイ の ウエ に ヨコ に なって、 ハネマクラ に ふかぶか と アタマ を しずめて、 ヒョウノウ を ヒタイ に あてがいながら、 かんかん と アカツチ に さして いる マナツ の ヒ の ヒカリ を、 ひろびろ と とった マド を とおして ながめやった。 そして モノゴコロ ついて から の ジブン の カコ を ハリ で もみこむ よう な アタマ の ナカ で ずっと みわたす よう に かんがえたどって みた。 そんな カコ が ジブン の もの なの か、 そう うたがって みねば ならぬ ほど に それ は はるか にも かけへだたった こと だった。 チチハハ―― ことに チチ の なめる よう な チョウアイ の モト に なにひとつ クロウ を しらず に きよい うつくしい ドウジョ と して すらすら と そだった あの ジブン が やはり ジブン の カコ なの だろう か。 キベ との コイ に よいふけって、 コクブンジ の クヌギ の ハヤシ の ナカ で、 その ムネ に ジブン の カシラ を たくして、 キベ の いう イチゴ イチゴ を ビシュ の よう に のみほした あの ショウジョ は やはり ジブン なの だろう か。 オンナ の ホコリ と いう ホコリ を イッシン に あつめた よう な ビボウ と サイノウ の モチヌシ と して、 オンナ たち から は センボウ の マト と なり、 オトコ たち から は タンビ の サイダン と された あの セイシュン の ジョセイ は やはり この ジブン なの だろう か。 ゴカイ の ウチ にも コウゲキ の ウチ にも こうぜん と クビ を もたげて、 ジブン は イマ の ニホン に うまれて く べき オンナ では なかった の だ。 フコウ にも トキ と トコロ と を まちがえて テンジョウ から おくられた オウジョ で ある と まで ジブン に たいする ホコリ に みちて いた、 あの ヨウエン な ジョセイ は まがう カタ なく ジブン なの だろう か。 エノシママル の ナカ で あじわいつくし なめつくした カンラク と トウスイ との カギリ は、 はじめて ヨ に うまれでた イキガイ を しみじみ と かんじた ほこりが な しばらく は イマ の ジブン と むすびつけて いい カコ の ヒトツ なの だろう か…… ヒ は かんかん と アカツチ の ウエ に てりつけて いた。 アブラゼミ の コエ は ゴテン の イケ を めぐる うっそう たる コダチ の ほう から しみいる よう に きこえて いた。 ちかい ビョウシツ では ケイビョウ の カンジャ が あつまって、 ナニ か みだら-らしい ザツダン に わらいきょうじて いる コエ が きこえて きた。 それ は ジッサイ なの か ユメ なの か。 それら の スベテ は はらだたしい こと なの か、 かなしい こと なの か、 わらいすつ べき こと なの か、 なげきうらまねば ならぬ こと なの か。 ……キド アイラク の どれ か ヒトツ だけ では あらわしえない、 フシギ に コウサク した カンジョウ が、 ヨウコ の メ から トメド なく ナミダ を さそいだした。 あんな セカイ が こんな セカイ に かわって しまった。 そう だ サダヨ が セイシ の サカイ に さまよって いる の は マチガイヨウ の ない ジジツ だ。 ジブン の ケンコウ が おとろえはてた の も マチガイ の ない デキゴト だ。 もし マイニチ サダヨ を みまう こと が できる の ならば このまま ここ に いる の も いい。 しかし ジブン の カラダ の ジユウ さえ イマ は きかなく なった。 シュジュツ を うければ どうせ トウブン は ミウゴキ も できない の だ。 オカ や アイコ…… そこ まで くる と ヨウコ は ユメ の ナカ に いる オンナ では なかった。 まざまざ と した ボンノウ が ぼつぜん と して その ハガミ した ものすごい カマクビ を きっと もたげる の だった。 それ も よし。 ちかく いて も カンシ の きかない の を リヨウ したくば おもうさま リヨウ する が いい。 クラチ と 3 ニン で カッテ な インボウ を くわだてる が いい。 どうせ カンシ の きかない もの なら、 ジブン は サダヨ の ため に どこ か ダイニリュウ か ダイサンリュウ の ビョウイン に うつろう。 そして いくらでも サダヨ の ほう を アンラク に して やろう。 ヨウコ は サダヨ から はなれる と イチズ に その アワレサ が ミ に しみて こう おもった。
ヨウコ は ふと ツヤ の こと を おもいだした。 ツヤ は カンゴフ に なって キョウバシ アタリ の ビョウイン に いる と ソウカクカン から いって きた の を おもいだした。 アイコ を よびよせて デンワ で さがさせよう と ケッシン した。
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マックラ な ロウカ が ふるぼけた エンガワ に なったり、 エンガワ の ツキアタリ に ハシゴダン が あったり、 ヒアタリ の いい チュウニカイ の よう な ヘヤ が あったり、 ナンド と おもわれる くらい ヘヤ に ヤネ を うちぬいて ガラス を はめて コウセン が ひいて あったり する よう な、 いわば その カイワイ に たくさん ある マチアイ の タテモノ に テ を いれて つかって いる よう な ビョウイン だった。 ツヤ は カジキ ビョウイン と いう その ビョウイン の カンゴフ に なって いた。
ながく テンキ が つづいて、 その アト に はげしい ミナミカゼ が ふいて、 トウキョウ の シガイ は ホコリマブレ に なって、 ソラ も、 カオク も、 ジュモク も、 キナコ で まぶした よう に なった アゲク、 きもちわるく むしむし と ハダ を あせばませる よう な アメ に かわった ある ヒ の アサ、 ヨウコ は わずか ばかり な ニモツ を もって ジンリキシャ で カジキ ビョウイン に おくられた。 ウシロ の クルマ には アイコ が ニモツ の イチブブン を もって のって いた。 スダ-チョウ に でた とき、 アイコ の クルマ は ニホンバシ の トオリ を マッスグ に ヒトアシ サキ に ビョウイン に ゆかして、 ヨウコ は ソトボリ に そうた ミチ を ニッポン ギンコウ から しばらく ゆく クギダナ の ヨコチョウ に まがらせた。 ジブン の すんで いた イエ を よそながら みて とおりたい ココロモチ に なって いた から だった。 マエホロ の スキマ から のぞく の だった けれども、 1 ネン の ノチ にも そこ には さして かわった ヨウス は みえなかった。 ジブン の いた イエ の マエ で ちょっと クルマ を とまらして ナカ を のぞいて みた。 モンサツ には オジ の ナ は なくなって、 しらない タニン の セイメイ が かかげられて いた。 それでも その ヒト は イシャ だ と みえて、 チチ の ジブン から の エイジュドウ イイン と いう カンバン は あいかわらず ゲンカン の ヒサシ に みえて いた。 チョウ サンシュウ と ショメイ して ある その ジ も ヨウコ には シタシミ の ふかい もの だった。 ヨウコ が アメリカ に シュッパツ した アサ も 9 ガツ では あった が やはり その ヒ の よう に じめじめ と アメ の ふる ヒ だった の を おもいだした。 アイコ が クシ を おって キュウ に なきだした の も、 サダヨ が おこった よう な カオ を して メ に ナミダ を いっぱい ためた まま みおくって いた の も その ゲンカン を みる と えがく よう に おもいだされた。
「もう いい はやく やって おくれ」
そう ヨウコ は クルマ の ウエ から ナミダゴエ で いった。 クルマ は カジボウ を むけかえられて、 また アメ の ナカ を ちいさく ゆれながら ニホンバシ の ほう に はしりだした。 ヨウコ は フシギ に そこ に イッショ に すんで いた オジ オバ の こと を なきながら おもいやった。 あの ヒトタチ は イマ どこ に どうして いる だろう。 あの ハクチ の コ も もう ずいぶん おおきく なったろう。 でも トベイ を くわだてて から まだ 1 ネン とは たって いない ん だ。 へえ、 そんな みじかい アイダ に これほど の ヘンカ が…… ヨウコ は ジブン で ジブン に あきれる よう に それ を おもいやった。 それでは あの ハクチ の コ も おもった ほど おおきく なって いる わけ では あるまい。 ヨウコ は その コ の こと を おもう と どうした ワケ か サダコ の こと を ムネ が いたむ ほど きびしく おもいだして しまった。 カマクラ に いった とき イライ、 ジブン の フトコロ から もぎはなして しまって、 こんりんざい わすれて しまおう と かたく ココロ に ちぎって いた その サダコ が…… それ は その バアイ ヨウコ を まったく みじめ に して しまった。
ビョウイン に ついた とき も ヨウコ は なきつづけて いた。 そして その ビョウイン の すぐ テマエ まで きて、 そこ に ニュウイン しよう と した こと を ココロ から コウカイ して しまった。 こんな ラクハク した よう な スガタ を ツヤ に みせる の が たえがたい こと の よう に おもわれだした の だ。
くらい 2 カイ の ヘヤ に アンナイ されて、 アイコ が ジュンビ して おいた トコ に ヨコ に なる と ヨウコ は ダレ に アイサツ も せず に ただ なきつづけた。 そこ は ウンガ の ミズ の ニオイ が どろくさく かよって くる よう な ところ だった。 アイコ は すすけた ショウジ の カゲ で テマワリ の ニモツ を とりだして アンバイ した。 クチズクナ の アイコ は アネ を なぐさめる よう な コトバ も ださなかった。 ガイブ が そうぞうしい だけ に ヘヤ の ナカ は なおさら ひっそり と おもわれた。
ヨウコ は やがて しずか に カオ を あげて ヘヤ の ナカ を みた。 アイコ の カオイロ が きいろく みえる ほど その ヒ の ソラ も ヘヤ の ナカ も さびれて いた。 すこし カビ を もった よう に ほこりっぽく ぶくぶく する タタミ の ウエ には マルボン の ウエ に ダイガク ビョウイン から もって きた クスリビン が のせて あった。 ショウジギワ には ちいさな キョウダイ が、 チガイダナ には テブンコ と スズリバコ が かざられた けれども、 トコノマ には フクモノ ヒトツ、 ハナイケ ヒトツ おいて なかった。 その カワリ に クサイロ の フロシキ に つつみこんだ イルイ と くろい エ の パラゾル と が おいて あった。 クスリビン の のせて ある マルボン が、 デイリ の ショウニン から トウライ の もの で、 フチ の ところ に はげた ところ が できて、 オモテ には あかい タンザク の ついた ヤ が マト に メイチュウ して いる エ が やすっぽい キン で かいて あった。 ヨウコ は それ を みる と ボン も あろう に と おもった。 それ だけ で もう ヨウコ は ハラ が たったり なさけなく なったり した。
「アイ さん アナタ ゴクロウ でも マイニチ ちょっと ずつ は きて くれない じゃ こまります よ。 サア ちゃん の ヨウス も ききたい し ね。 ……サア ちゃん も たのんだ よ。 ネツ が さがって モノゴト が わかる よう に なる とき には ワタシ も なおって かえる だろう から…… アイ さん」
イツモ の とおり はきはき と した テゴタエ が ない ので、 もう ぎりぎり して きた ヨウコ は ケン を もった コエ で、 「アイ さん」 と ゴキ つよく よびかけた。 コトバ を かける と それでも カタヅケモノ の テ を おいて ヨウコ の ほう に むきなおった アイコ は、 この とき ようやく カオ を あげて おとなしく 「はい」 と ヘンジ を した。 ヨウコ の メ は すかさず その カオ を はっし と むちうった。 そして ネドコ の ウエ に ハンシン を ヒジ に ささえて おきあがった。 クルマ で ゆられた ため に フクブ は イタミ を まして コエ を あげたい ほど うずいて いた。
「アナタ に キョウ は はっきり きいて おきたい こと が ある の…… アナタ は よもや オカ さん と ひょんな ヤクソク なんぞ して は いますまい ね」
「いいえ」
アイコ は てもなく すなお に こう こたえて メ を ふせて しまった。
「コトウ さん とも?」
「いいえ」
コンド は カオ を あげて フシギ な こと を といただす と いう よう に じっと ヨウコ を みつめながら こう こたえた。 その タクト が ある よう な、 ない よう な アイコ の タイド が ヨウコ を いやがうえに いらだたした。 オカ の バアイ には どこ か うしろめたくて クビ を たれた とも みえる。 コトウ の バアイ には わざと シラ を きる ため に ダイタン に カオ を あげた とも とれる。 また そんな イミ では なく、 あまり フシギ な キツモン が 2 ド まで つづいた ので、 2 ド-メ には ケゲン に おもって カオ を あげた の か とも かんがえられる。 ヨウコ は たたみかけて クラチ の こと まで といただそう と した が、 その キブン は くじかれて しまった。 そんな こと を きいた の が だいいち おろか だった。 カクシダテ を しよう と ケッシン した イジョウ は、 オンナ は オトコ より も はるか に コウミョウ で ダイタン なの を ヨウコ は ジブン で ぞんぶん に しりぬいて いる の だ。 ジブン から すすんで ウチカブト を みすかされた よう な モドカシサ は いっそう ヨウコ の ココロ を いきどおらした。
「アナタ は フタリ から ナニ か そんな こと を いわれた オボエ が ある でしょう。 その とき アナタ は なんと ゴヘンジ した の」
アイコ は シタ を むいた まま だまって いた。 ヨウコ は ズボシ を さした と おもって カサ に かかって いった。
「ワタシ は カンガエ が ある から アナタ の クチ から も その こと を きいて おきたい ん だよ。 おっしゃい な」
「オフタリ とも なんにも そんな こと は おっしゃり は しません わ」
「おっしゃらない こと が ある もん かね」
フンヌ に ともなって さしこんで くる イタミ を フンヌ と ともに ぐっと おさえつけながら ヨウコ は わざと コエ を やわらげた。 そして アイコ の キョドウ を ツメ の サキ ほど も みのがすまい と した。 アイコ は だまって しまった。 この チンモク は アイコ の カクレガ だった。 そう なる と さすが の ヨウコ も この イモウト を どう とりあつかう スベ も なかった。 オカ なり コトウ なり が コクハク を して いる の なら、 ヨウコ が この ツギ に いいだす コトバ で ヨウス は しれる。 この バアイ うっかり ヨウコ の クチグルマ には のられない と アイコ は おもって チンモク を まもって いる の かも しれない。 オカ なり コトウ なり から ナニ か きいて いる の なら、 ヨウコ は それ を 10 バイ も 20 バイ も の ツヨサ に して つかいこなす スベ を しって いる の だ けれども、 あいにく その ソナエ は して いなかった。 アイコ は たしか に ジブン を あなどりだして いる と ヨウコ は おもわない では いられなかった。 よって たかって おおきな サギ の アミ を つくって、 その ナカ に ジブン を おしこめて、 シュウイ から ながめながら おもしろそう に わらって いる。 オカ だろう が コトウ だろう が ナニ が アテ に なる もの か。 ……ヨウコ は テキズ を おった イノシシ の よう に イッチョクセン に あれて ゆく より シカタ が なくなった。
「さあ おいい アイ さん、 オマエサン が だまって しまう の は わるい クセ です よ。 ネエサン を あまく おみ で ない よ。 ……オマエサン ホントウ に だまってる つもり かい…… そう じゃ ない でしょう、 あれば ある なければ ない で、 はっきり わかる よう に ハナシ を して くれる ん だろう ね…… アイ さん…… アナタ は ココロ から ワタシ を みくびって かかる ん だね」
「そう じゃ ありません」
あまり ヨウコ の コトバ が げきして くる ので、 アイコ は すこし オソレ を かんじた らしく あわてて こう いって コトバ で ささえよう と した。
「もっと こっち に おいで」
アイコ は うごかなかった。 ヨウコ の アイコ に たいする ゾウオ は キョクテン に たっした。 ヨウコ は フクブ の イタミ も わすれて、 ネドコ から おどりあがった。 そして いきなり アイコ の タブサ を つかもう と した。
アイコ は フダン の レイセイ に にず、 ヨウコ の ホッサ を みてとる と、 ビンショウ に ヨウコ の テモト を すりぬけて ミ を かわした。 ヨウコ は ふらふら と よろけて イッポウ の テ を ショウジガミ に つっこみながら、 それでも たおれる ハズミ に アイコ の ソデサキ を つかんだ。 ヨウコ は たおれながら それ を たぐりよせた。 みにくい シマイ の ソウトウ が、 なき、 わめき、 さけびたてる コエ の ナカ に えんぜられた。 アイコ は カオ や テ に カキキズ を うけ、 カミ を オドロ に みだしながら も、 ようやく ヨウコ の テ を ふりはなして ロウカ に とびだした。 ヨウコ は よろよろ と した アシドリ で その アト を おった が、 とても アイコ の ビンショウサ には かなわなかった。 そして ハシゴダン の オリグチ の ところ で ツヤ に くいとめられて しまった。 ヨウコ は ツヤ の カタ に ミ を なげかけながら おいおい と コエ を たてて コドモ の よう に なきしずんで しまった。
イク-ジカン か の ジンジ フセイ の ノチ に イシキ が はっきり して みる と、 ヨウコ は アイコ との イキサツ を ただ アクム の よう に おもいだす ばかり だった。 しかも それ は ジジツ に ちがいない。 マクラモト の ショウジ には ヨウコ の テ の さしこまれた アナ が、 おおきく やぶれた まま のこって いる。 ニュウイン の その ヒ から、 ヨウコ の ナ は くちさがない フジン カンジャ の クチノハ に うるさく のぼって いる に ちがいない。 それ を おもう と イットキ でも そこ に じっと して いる の が、 たえられない こと だった。 ヨウコ は すぐ ホカ の ビョウイン に うつろう と おもって ツヤ に いいつけた。 しかし ツヤ は どうしても それ を ショウチ しなかった。 ジブン が ミ に ひきうけて カンゴ する から、 ぜひとも この ビョウイン で シュジュツ を うけて もらいたい と ツヤ は いいはった。 ヨウコ から ヒマ を だされながら、 ミョウ に ヨウコ に ココロ を ひきつけられて いる らしい スガタ を みる と、 この バアイ ヨウコ は ツヤ に しみじみ と した アイ を かんじた。 セイケツ な チ が ほそい しなやか な ケッカン を トドコオリ なく ながれまわって いる よう な、 すべすべ と ケンコウ-らしい、 あさぐろい ツヤ の ヒフ は ナニ より も ヨウコ には あいらしかった。 しじゅう フキデモノ でも しそう な、 うみっぽい オンナ を ヨウコ は ナニ より も のろわしい もの に おもって いた。 ヨウコ は ツヤ の まめやか な ココロ と コトバ に ひかされて そこ に いのこる こと に した。
これだけ サダヨ から へだたる と ヨウコ は はじめて すこし キ の ゆるむ の を おぼえて、 フクブ の イタミ で とつぜん メ を さます ホカ には たわいなく ねむる よう な こと も あった。 しかし なんと いって も いちばん ココロ に かかる もの は サダヨ だった。 ささくれて、 あかく かわいた クチビル から もれでる あの ウワゴト…… それ が どうか する と ちかぢか と ミミ に きこえたり、 ぼんやり と メ を ひらいたり する その カオ が うきだして みえたり した。 それ ばかり では ない、 ヨウコ の ゴカン は ヒジョウ に ビンショウ に なって、 おまけに イリウジョン や ハルシネーション を たえず みたり きいたり する よう に なって しまった。 クラチ なんぞ は すぐ ソバ に すわって いる な と おもって、 クルシサ に メ を つぶりながら テ を のばして タタミ の ウエ を さぐって みる こと など も あった。 そんな に はっきり みえたり きこえたり する もの が、 すべて キョコウ で ある の を みいだす サビシサ は タトエヨウ が なかった。
アイコ は ヨウコ が ニュウイン の ヒ イライ カンシン に マイニチ おとずれて サダヨ の ヨウダイ を はなして いった。 もう ハジメ の ヒ の よう な ロウゼキ は しなかった けれども、 その カオ を みた ばかり で、 ヨウコ は ビョウキ が おもる よう に おもった。 ことに サダヨ の ビョウジョウ が かるく なって ゆく と いう ホウコク は はげしく ヨウコ を おこらした。 ジブン が あれほど の アイチャク を こめて カンゴ して も よく ならなかった もの が、 アイコ なんぞ の トオリイッペン の セワ で なおる はず が ない。 また アイコ は イイカゲン な キヤスメ に ウソ を ついて いる の だ。 サダヨ は もう ひょっと する と しんで いる かも しれない。 そう おもって オカ が たずねて きた とき に ねほりはほり きいて みる が、 フタリ の コトバ が あまり に フゴウ する ので、 サダヨ の だんだん よく なって ゆきつつ ある の を うたがう ヨチ は なかった。 ヨウコ には ウンメイ が くるいだした よう に しか おもわれなかった。 アイジョウ と いう もの なし に ビョウキ が なおせる なら、 ヒト の セイメイ は キカイ でも つくりあげる こと が できる わけ だ。 そんな はず は ない。 それだのに サダヨ は だんだん よく なって いって いる。 ヒト ばかり では ない、 カミ まで が、 ジブン を シゼンホウ の タ の ホウソク で もてあそぼう と して いる の だ。
ヨウコ は ハガミ を しながら サダヨ が しね かし と いのる よう な シュンカン を もった。
ヒ は たつ けれども クラチ から は ホントウ に なんの ショウソク も なかった。 ビョウテキ に カンカク の コウフン した ヨウコ は、 ときどき ニクタイテキ に クラチ を したう ショウドウ に かりたてられた。 ヨウコ の ココロ の メ には、 クラチ の ニクタイ の スベテ の ブブン は ふれる こと が できる と おもう ほど グタイテキ に ソウゾウ された。 ヨウコ は ジブン で つくりだした フシギ な メイキュウ の ナカ に あって、 イシキ の しびれきる よう な トウスイ に ひたった。 しかし その ヨイ が さめた アト の クツウ は、 セイシン の ヒヘイ と イッショ に はたらいて、 ヨウコ を ハンシ ハンショウ の サカイ に うちのめした。 ヨウコ は ジブン の モウソウ に オウト を もよおしながら、 クラチ と いわず スベテ の オトコ を のろい に のろった。
いよいよ ヨウコ が シュジュツ を うける べき マエ の ヒ が きた。 ヨウコ は それ を さほど おそろしい こと とは おもわなかった。 シキュウ コウクツショウ と シンダン された とき、 かって かえって よんだ コウカン な イショ に よって みて も、 その シュジュツ は わりあい に カンタン な もの で ある の を しりぬいて いた から、 その こと に ついて は わりあい に やすやす と した ココロモチ で いる こと が できた。 ただ メイジョウ しがたい ショウソウ と ヒアイ とは どう カタヅケヨウ も なかった。 マイニチ きて いた アイコ の アシ は フツカ-オキ に なり ミッカ-オキ に なり だんだん とおざかった。 オカ など は まったく スガタ を みせなく なって しまった。 ヨウコ は いまさら に ジブン の マワリ を さびしく みまわして みた。 であう カギリ の オトコ と オンナ と が なにがなし に ひきつけられて、 はなれる こと が できなく なる、 そんな ジリョク の よう な チカラ を もって いる と いう ジフ に きおって、 ジブン の シュウイ には しる と しらざる と を とわず、 いつでも ムスウ の ヒトビト の ココロ が まって いる よう に おもって いた ヨウコ は、 イマ は スベテ の ヒト から わすられはてて、 ダイジ な サダコ から も クラチ から も みはなし みはなされて、 ニモツ の ない モノオキベヤ の よう な まずしい イッシツ の スミッコ に、 ヤグ に くるまって ショキ に むされながら くずれかけた ゴタイ を たよりなく よこたえねば ならぬ の だ。 それ は ヨウコ に とって は ある べき こと とは おもわれぬ まで だった。 しかし それ が たしか な ジジツ で ある の を どう しよう。
それでも ヨウコ は まだ たちあがろう と した。 ジブン の ビョウキ が いえきった その とき を みて いる が いい。 どうして クラチ を もう イチド ジブン の もの に しおおせる か、 それ を みて いる が いい。
ヨウコ は ノウシン に たぐりこまれる よう な イタミ を かんずる リョウガン から あつい ナミダ を ながしながら、 ツレヅレ な まま に ヒ の よう な イッシン を クラチ の ミノウエ に あつめた。 ヨウコ の カオ には いつでも ハンケチ が あてがわれて いた。 それ が 10 プン も たたない うち に あつく ぬれとおって、 ツヤ に あたらしい の と かえさせねば ならなかった。
この こと が あった ヒ から イツカ たった けれども クラチ は ぱったり こなく なった。 タヨリ も よこさなかった。 カネ も おくって は こなかった。 あまり に ヘン なので オカ に たのんで ゲシュク の ほう を しらべて もらう と ミッカ マエ に ニモツ の ダイブブン を もって リョコウ に でる と いって スガタ を かくして しまった の だ そう だ。 クラチ が いなく なる と ケイジ だ と いう オトコ が 2 ド か 3 ド イロイロ な こと を たずね に きた とも いって いる そう だ。 オカ は クラチ から の 1 ツウ の テガミ を もって かえって きた。 ヨウコ は すぐに フウ を ひらいて みた。
「コト ジュウダイ と なり スガタ を かくす。 ユウビン では ルイ を およぼさん こと を おそれ、 これ を シュジン に たくしおく。 カネ も トウブン は おくれぬ。 こまったら カザイ ドウグ を うれ。 その うち には なんとか する。 ドクゴ カチュウ」
と だけ したためて ヨウコ への アテナ も ジブン の ナ も かいて は なかった。 クラチ の シュセキ には マチガイ ない。 しかし あの ホッサ イゴ ますます ヒステリック に コンジョウ の ひねくれて しまった ヨウコ は、 テガミ を よんだ シュンカン に これ は ツクリゴト だ と おもいこまない では いられなかった。 とうとう クラチ も ジブン の テ から のがれて しまった。 やるせない ウラミ と イキドオリ が メ も くらむ ほど に アタマ の ナカ を カクラン した。
オカ と アイコ と が すっかり うちとけた よう に なって、 オカ が ほとんど イリビタリ に ビョウイン に きて サダヨ の カイホウ を する の が ヨウコ には みて いられなく なって きた。
「オカ さん、 もう アナタ これから ここ には いらっしゃらない で くださいまし。 こんな こと に なる と ゴメイワク が アナタ に かからない とも かぎりません から。 ワタシタチ の こと は ワタシタチ が します から。 ワタシ は もう タニン に たよりたく は なくなりました」
「そう おっしゃらず に どうか ワタシ を アナタ の オソバ に おかして ください。 ワタシ、 けっして デンセン なぞ を おそれ は しません」
オカ は クラチ の テガミ を よんで は いない の に ヨウコ は キ が ついた。 メイワク と いった の を ビョウキ の デンセン と おもいこんで いる らしい。 そう じゃ ない。 オカ が クラチ の イヌ で ない と どうして いえよう。 クラチ が オカ を とおして アイコ と インギン を かよわしあって いない と ダレ が ダンゲン できる。 アイコ は オカ を たらしこむ くらい は ヘイキ で する ムスメ だ。 ヨウコ は ジブン の アイコ ぐらい の トシゴロ の とき の ジブン の ケイケン の イチイチ が いきかえって その サイギシン を あおりたてる の に ジブン から くるしまねば ならなかった。 あの トシゴロ の とき、 おもい さえ すれば ジブン には それほど の こと は てもなく して のける こと が できた。 そして ジブン は アイコ より も もっと ムジャキ な、 おまけに カイカツ な ショウジョ で ありえた。 よって たかって ジブン を だまし に かかる の なら、 ジブン に だって して みせる こと が ある。
「そんな に オカンガエ なら おいで くださる の は オカッテ です が、 アイコ を アナタ に さしあげる こと は できない ん です から それ は ゴショウチ くださいまし よ。 ちゃんと もうしあげて おかない と アト に なって イサクサ が おこる の は いや です から…… アイ さん オマエ も きいて いる だろう ね」
そう いって ヨウコ は タタミ の ウエ で サダヨ の ムネ に あてる シップ を ぬって いる アイコ の ほう にも ふりむいた。 うなだれた アイコ は カオ も あげず ヘンジ も しなかった から、 どんな ヨウス を カオ に みせた か を しる ヨシ は なかった が、 オカ は シュウチ の ため に ヨウコ を みかえる こと も できない くらい に なって いた。 それ は しかし オカ が ヨウコ の あまり と いえば ロコツ な コトバ を はじた の か、 ジブン の ココロモチ を あばかれた の を はじた の か ヨウコ の まよいやすく なった ココロ には しっかり と みきわめられなかった。
これ に つけ かれ に つけ もどかしい こと ばかり だった。 ヨウコ は ジブン の メ で フタリ を カンシ して ドウジ に クラチ を カンセツ に カンシ する より ホカ は ない と おもった。 こんな こと を おもう すぐ ソバ から ヨウコ は クラチ の サイクン の こと も おもった。 イマゴロ は カレラ は のうのう と して ジャマモノ が いなく なった の を よろこびながら ヒトツイエ に すんで いない とも かぎらない の だ。 それとも クラチ の こと だ、 ダイニ ダイサン の ヨウコ が ヨウコ の フコウ を いい こと に して クラチ の ソバ に あらわれて いる の かも しれない。 ……しかし イマ の バアイ クラチ の ユクエ を たずねあてる こと は ちょっと むずかしい。
それから と いう もの ヨウコ の ココロ は 1 ビョウ の アイダ も やすまらなかった。 もちろん イマ まで でも ヨウコ は ヒトイチバイ ココロ の はたらく オンナ だった けれども、 その コロ の よう な ハゲシサ は かつて なかった。 しかも それ が いつも オモテ から ウラ を ゆく ハタラキカタ だった。 それ は ジブン ながら まったく ジゴク の カシャク だった。
その コロ から ヨウコ は しばしば ジサツ と いう こと を ふかく かんがえる よう に なった。 それ は ジブン でも おそろしい ほど だった。 ニクタイ の セイメイ を たつ こと の できる よう な もの さえ メ に ふれれば、 ヨウコ の ココロ は おびえながら も はっと たかなった。 ヤッキョク の マエ を とおる と ずらっと ならんだ クスリビン が ユウワク の よう に メ を いた。 カンゴフ が ボウシ を カミ に とめる ため の ながい ボウシ ピン、 テンジョウ の はって ない ユドノ の ハリ、 カンゴフシツ に うすあかい イロ を して カナダライ に たたえられた ショウコウスイ、 フハイ した ギュウニュウ、 カミソリ、 ハサミ、 ヨフケ など に ウエノ の ほう から きこえて くる キシャ の オト、 ビョウシツ から ながめられる セイリガク キョウシツ の 3 ガイ の マド、 ミッペイ された ヘヤ、 シゴキオビ、 ……なんでも かでも が ジブン の ニク を はむ ドクジャ の ごとく カマクビ を たてて ジブン を マチブセ して いる よう に おもえた。 ある とき は それら を このうえなく おそろしく、 ある とき は また このうえなく したしみぶかく ながめやった。 1 ピキ の カ に さされた とき さえ それ が マラリヤ を つたえる シュルイ で ある か ない か を うたがったり した。
「もう ジブン は この ヨノナカ に なんの ヨウ が あろう。 しに さえ すれば それ で コト は すむ の だ。 このうえ ジシン も くるしみたく ない。 ヒト も くるしめたく ない。 いや だ いや だ と おもいながら ジブン と ヒト と を くるしめて いる の が たえられない。 ネムリ だ。 ながい ネムリ だ。 それ だけ の もの だ」
と サダヨ の ネイキ を うかがいながら しっかり おもいこむ よう な とき も あった が、 ドウジ に クラチ が どこ か で いきて いる の を かんがえる と、 たちまち ツバメガエシ に シ から セイ の ほう へ、 くるしい ボンノウ の セイ の ほう へ はげしく シュウチャク して いった。 クラチ の いきてる アイダ に しんで なる もの か…… それ は シ より も つよい ユウワク だった。 イジ に かけて も、 ニクタイ の スベテ の キカン が めちゃめちゃ に なって も、 それでも いきて いて みせる。 ……ヨウコ は そして その どちら にも ホントウ の ケッシン の つかない ジブン に また くるしまねば ならなかった。
スベテ の もの を あいして いる の か にくんで いる の か わからなかった。 サダヨ に たいして で すら そう だった。 ヨウコ は どうか する と、 ネツ に うかされて ミサカイ の なくなって いる サダヨ を、 ママハハ が ママコ を いびりぬく よう に モギドウ に とりあつかった。 そして ツギ の シュンカン には コウカイ しきって、 アイコ の マエ でも カンゴフ の マエ でも かまわず に おいおい と なきくずおれた。
サダヨ の ビョウジョウ は わるく なる ばかり だった。
ある とき デンセン ビョウシツ の イチョウ が きて、 ヨウコ が イマ の まま で いて は とても ケンコウ が つづかない から、 おもいきって シュジュツ を したら どう だ と カンコク した。 だまって きいて いた ヨウコ は、 すぐ オカ の サシイレグチ だ と ジャスイ して とった。 その ウシロ には アイコ が いる に ちがいない。 ヨウコ が ついて いた の では サダヨ の ビョウキ は なおる どころ か わるく なる ばかり だ (それ は ヨウコ も そう おもって いた。 ヨウコ は サダヨ を ゼンカイ させて やりたい の だ。 けれども どうしても いびらなければ いられない の だ。 それ は よく ヨウコ ジシン が しって いる と おもって いた)。 それ には ヨウコ を なんとか して サダヨ から はなして おく の が ダイイチ だ。 そんな ソウダン を イチョウ と した モノ が いない はず が ない。 ふむ、 ……うまい こと を かんがえた もの だ。 その フクシュウ は きっと して やる。 コンポンテキ に ビョウキ を なおして から して やる から みて いる が いい。 ヨウコ は イチョウ との タイワ の うち に はやくも こう ケッシン した。 そして おもいのほか てっとりばやく シュジュツ を うけよう と すすんで ヘントウ した。
フジンカ の ヘヤ は デンセン ビョウシツ とは ずっと はなれた ところ に チカゴロ シンチク された タテモノ の ナカ に あった。 7 ガツ の ナカバ に ヨウコ は そこ に ニュウイン する こと に なった が、 その マエ に オカ と コトウ と に イライ して、 ジブン の ミヂカ に ある キチョウヒン から、 クラチ の ゲシュク に はこんで ある イルイ まで を ショブン して もらわなければ ならなかった。 カネ の デドコロ は まったく とだえて しまって いた から。 オカ が しきり と ユウズウ しよう と もうしでた の も すげなく ことわった。 オトウト ドウヨウ の ショウネン から カネ まで ユウズウ して もらう の は どうしても ヨウコ の プライド が ショウチ しなかった。
ヨウコ は トクトウ を えらんで ヒアタリ の いい ひろびろ と した ヘヤ に はいった。 そこ は デンセン ビョウシツ とは クラベモノ にも ならない くらい シンシキ の セツビ の ととのった イゴコチ の いい ところ だった。 マド の マエ の ニワ は まだ ほりくりかえした まま で アカツチ の ウエ に クサ も はえて いなかった けれども、 ひろい ロウカ の ひややか な クウキ は すずしく ビョウシツ に とおりぬけた。 ヨウコ は 6 ガツ の スエ イライ はじめて ネドコ の ウエ に やすやす と カラダ を よこたえた。 ヒロウ が カイフク する まで しばらく の アイダ シュジュツ は みあわせる と いう ので ヨウコ は マイニチ イチド ずつ ナイシン を して もらう だけ で する こと も なく ヒ を すごした。
しかし ヨウコ の セイシン は コウフン する ばかり だった。 ヒトリ に なって ヒマ に なって みる と、 ジブン の シンシン が どれほど ハカイ されて いる か が ジブン ながら おそろしい くらい かんぜられた。 よく こんな アリサマ で イマ まで とおして きた と おどろく ばかり だった。 シンダイ の ウエ に ねて みる と ニド と おきて あるく ユウキ も なく、 また じっさい でき も しなかった。 ただ ドンツウ と のみ おもって いた イタミ は、 どっち に ねがえって みて も ガマン の できない ほど な ゲキツウ に なって いて、 キ が くるう よう に アタマ は おもく うずいた。 ガマン にも サダヨ を みまう など と いう こと は できなかった。
こうして ねながら にも ヨウコ は ダンペンテキ に イロイロ な こと を かんがえた。 ジブン の テモト に ある カネ の こと を まず シアン して みた。 クラチ から うけとった カネ の ノコリ と、 チョウドルイ を うりはらって もらって できた まとまった カネ と が なにも かにも これから シマイ 3 ニン を やしなって ゆく ただ ヒトツ の シホン だった。 その カネ が つかいつくされた ノチ には イマ の ところ、 ナニ を どう する と いう アテ は ツユ ほど も なかった。 ヨウコ は フダン の ヨウコ に にあわず それ が キ に なりだして シカタ が なかった。 トクトウシツ なぞ に はいりこんだ こと が コウカイ される ばかり だった。 と いって イマ に なって トウキュウ の さがった ビョウシツ に うつして もらう など とは ヨウコ と して は おもい も よらなかった。
ヨウコ は ゼイタク な シンダイ の ウエ に ヨコ に なって、 ハネマクラ に ふかぶか と アタマ を しずめて、 ヒョウノウ を ヒタイ に あてがいながら、 かんかん と アカツチ に さして いる マナツ の ヒ の ヒカリ を、 ひろびろ と とった マド を とおして ながめやった。 そして モノゴコロ ついて から の ジブン の カコ を ハリ で もみこむ よう な アタマ の ナカ で ずっと みわたす よう に かんがえたどって みた。 そんな カコ が ジブン の もの なの か、 そう うたがって みねば ならぬ ほど に それ は はるか にも かけへだたった こと だった。 チチハハ―― ことに チチ の なめる よう な チョウアイ の モト に なにひとつ クロウ を しらず に きよい うつくしい ドウジョ と して すらすら と そだった あの ジブン が やはり ジブン の カコ なの だろう か。 キベ との コイ に よいふけって、 コクブンジ の クヌギ の ハヤシ の ナカ で、 その ムネ に ジブン の カシラ を たくして、 キベ の いう イチゴ イチゴ を ビシュ の よう に のみほした あの ショウジョ は やはり ジブン なの だろう か。 オンナ の ホコリ と いう ホコリ を イッシン に あつめた よう な ビボウ と サイノウ の モチヌシ と して、 オンナ たち から は センボウ の マト と なり、 オトコ たち から は タンビ の サイダン と された あの セイシュン の ジョセイ は やはり この ジブン なの だろう か。 ゴカイ の ウチ にも コウゲキ の ウチ にも こうぜん と クビ を もたげて、 ジブン は イマ の ニホン に うまれて く べき オンナ では なかった の だ。 フコウ にも トキ と トコロ と を まちがえて テンジョウ から おくられた オウジョ で ある と まで ジブン に たいする ホコリ に みちて いた、 あの ヨウエン な ジョセイ は まがう カタ なく ジブン なの だろう か。 エノシママル の ナカ で あじわいつくし なめつくした カンラク と トウスイ との カギリ は、 はじめて ヨ に うまれでた イキガイ を しみじみ と かんじた ほこりが な しばらく は イマ の ジブン と むすびつけて いい カコ の ヒトツ なの だろう か…… ヒ は かんかん と アカツチ の ウエ に てりつけて いた。 アブラゼミ の コエ は ゴテン の イケ を めぐる うっそう たる コダチ の ほう から しみいる よう に きこえて いた。 ちかい ビョウシツ では ケイビョウ の カンジャ が あつまって、 ナニ か みだら-らしい ザツダン に わらいきょうじて いる コエ が きこえて きた。 それ は ジッサイ なの か ユメ なの か。 それら の スベテ は はらだたしい こと なの か、 かなしい こと なの か、 わらいすつ べき こと なの か、 なげきうらまねば ならぬ こと なの か。 ……キド アイラク の どれ か ヒトツ だけ では あらわしえない、 フシギ に コウサク した カンジョウ が、 ヨウコ の メ から トメド なく ナミダ を さそいだした。 あんな セカイ が こんな セカイ に かわって しまった。 そう だ サダヨ が セイシ の サカイ に さまよって いる の は マチガイヨウ の ない ジジツ だ。 ジブン の ケンコウ が おとろえはてた の も マチガイ の ない デキゴト だ。 もし マイニチ サダヨ を みまう こと が できる の ならば このまま ここ に いる の も いい。 しかし ジブン の カラダ の ジユウ さえ イマ は きかなく なった。 シュジュツ を うければ どうせ トウブン は ミウゴキ も できない の だ。 オカ や アイコ…… そこ まで くる と ヨウコ は ユメ の ナカ に いる オンナ では なかった。 まざまざ と した ボンノウ が ぼつぜん と して その ハガミ した ものすごい カマクビ を きっと もたげる の だった。 それ も よし。 ちかく いて も カンシ の きかない の を リヨウ したくば おもうさま リヨウ する が いい。 クラチ と 3 ニン で カッテ な インボウ を くわだてる が いい。 どうせ カンシ の きかない もの なら、 ジブン は サダヨ の ため に どこ か ダイニリュウ か ダイサンリュウ の ビョウイン に うつろう。 そして いくらでも サダヨ の ほう を アンラク に して やろう。 ヨウコ は サダヨ から はなれる と イチズ に その アワレサ が ミ に しみて こう おもった。
ヨウコ は ふと ツヤ の こと を おもいだした。 ツヤ は カンゴフ に なって キョウバシ アタリ の ビョウイン に いる と ソウカクカン から いって きた の を おもいだした。 アイコ を よびよせて デンワ で さがさせよう と ケッシン した。
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マックラ な ロウカ が ふるぼけた エンガワ に なったり、 エンガワ の ツキアタリ に ハシゴダン が あったり、 ヒアタリ の いい チュウニカイ の よう な ヘヤ が あったり、 ナンド と おもわれる くらい ヘヤ に ヤネ を うちぬいて ガラス を はめて コウセン が ひいて あったり する よう な、 いわば その カイワイ に たくさん ある マチアイ の タテモノ に テ を いれて つかって いる よう な ビョウイン だった。 ツヤ は カジキ ビョウイン と いう その ビョウイン の カンゴフ に なって いた。
ながく テンキ が つづいて、 その アト に はげしい ミナミカゼ が ふいて、 トウキョウ の シガイ は ホコリマブレ に なって、 ソラ も、 カオク も、 ジュモク も、 キナコ で まぶした よう に なった アゲク、 きもちわるく むしむし と ハダ を あせばませる よう な アメ に かわった ある ヒ の アサ、 ヨウコ は わずか ばかり な ニモツ を もって ジンリキシャ で カジキ ビョウイン に おくられた。 ウシロ の クルマ には アイコ が ニモツ の イチブブン を もって のって いた。 スダ-チョウ に でた とき、 アイコ の クルマ は ニホンバシ の トオリ を マッスグ に ヒトアシ サキ に ビョウイン に ゆかして、 ヨウコ は ソトボリ に そうた ミチ を ニッポン ギンコウ から しばらく ゆく クギダナ の ヨコチョウ に まがらせた。 ジブン の すんで いた イエ を よそながら みて とおりたい ココロモチ に なって いた から だった。 マエホロ の スキマ から のぞく の だった けれども、 1 ネン の ノチ にも そこ には さして かわった ヨウス は みえなかった。 ジブン の いた イエ の マエ で ちょっと クルマ を とまらして ナカ を のぞいて みた。 モンサツ には オジ の ナ は なくなって、 しらない タニン の セイメイ が かかげられて いた。 それでも その ヒト は イシャ だ と みえて、 チチ の ジブン から の エイジュドウ イイン と いう カンバン は あいかわらず ゲンカン の ヒサシ に みえて いた。 チョウ サンシュウ と ショメイ して ある その ジ も ヨウコ には シタシミ の ふかい もの だった。 ヨウコ が アメリカ に シュッパツ した アサ も 9 ガツ では あった が やはり その ヒ の よう に じめじめ と アメ の ふる ヒ だった の を おもいだした。 アイコ が クシ を おって キュウ に なきだした の も、 サダヨ が おこった よう な カオ を して メ に ナミダ を いっぱい ためた まま みおくって いた の も その ゲンカン を みる と えがく よう に おもいだされた。
「もう いい はやく やって おくれ」
そう ヨウコ は クルマ の ウエ から ナミダゴエ で いった。 クルマ は カジボウ を むけかえられて、 また アメ の ナカ を ちいさく ゆれながら ニホンバシ の ほう に はしりだした。 ヨウコ は フシギ に そこ に イッショ に すんで いた オジ オバ の こと を なきながら おもいやった。 あの ヒトタチ は イマ どこ に どうして いる だろう。 あの ハクチ の コ も もう ずいぶん おおきく なったろう。 でも トベイ を くわだてて から まだ 1 ネン とは たって いない ん だ。 へえ、 そんな みじかい アイダ に これほど の ヘンカ が…… ヨウコ は ジブン で ジブン に あきれる よう に それ を おもいやった。 それでは あの ハクチ の コ も おもった ほど おおきく なって いる わけ では あるまい。 ヨウコ は その コ の こと を おもう と どうした ワケ か サダコ の こと を ムネ が いたむ ほど きびしく おもいだして しまった。 カマクラ に いった とき イライ、 ジブン の フトコロ から もぎはなして しまって、 こんりんざい わすれて しまおう と かたく ココロ に ちぎって いた その サダコ が…… それ は その バアイ ヨウコ を まったく みじめ に して しまった。
ビョウイン に ついた とき も ヨウコ は なきつづけて いた。 そして その ビョウイン の すぐ テマエ まで きて、 そこ に ニュウイン しよう と した こと を ココロ から コウカイ して しまった。 こんな ラクハク した よう な スガタ を ツヤ に みせる の が たえがたい こと の よう に おもわれだした の だ。
くらい 2 カイ の ヘヤ に アンナイ されて、 アイコ が ジュンビ して おいた トコ に ヨコ に なる と ヨウコ は ダレ に アイサツ も せず に ただ なきつづけた。 そこ は ウンガ の ミズ の ニオイ が どろくさく かよって くる よう な ところ だった。 アイコ は すすけた ショウジ の カゲ で テマワリ の ニモツ を とりだして アンバイ した。 クチズクナ の アイコ は アネ を なぐさめる よう な コトバ も ださなかった。 ガイブ が そうぞうしい だけ に ヘヤ の ナカ は なおさら ひっそり と おもわれた。
ヨウコ は やがて しずか に カオ を あげて ヘヤ の ナカ を みた。 アイコ の カオイロ が きいろく みえる ほど その ヒ の ソラ も ヘヤ の ナカ も さびれて いた。 すこし カビ を もった よう に ほこりっぽく ぶくぶく する タタミ の ウエ には マルボン の ウエ に ダイガク ビョウイン から もって きた クスリビン が のせて あった。 ショウジギワ には ちいさな キョウダイ が、 チガイダナ には テブンコ と スズリバコ が かざられた けれども、 トコノマ には フクモノ ヒトツ、 ハナイケ ヒトツ おいて なかった。 その カワリ に クサイロ の フロシキ に つつみこんだ イルイ と くろい エ の パラゾル と が おいて あった。 クスリビン の のせて ある マルボン が、 デイリ の ショウニン から トウライ の もの で、 フチ の ところ に はげた ところ が できて、 オモテ には あかい タンザク の ついた ヤ が マト に メイチュウ して いる エ が やすっぽい キン で かいて あった。 ヨウコ は それ を みる と ボン も あろう に と おもった。 それ だけ で もう ヨウコ は ハラ が たったり なさけなく なったり した。
「アイ さん アナタ ゴクロウ でも マイニチ ちょっと ずつ は きて くれない じゃ こまります よ。 サア ちゃん の ヨウス も ききたい し ね。 ……サア ちゃん も たのんだ よ。 ネツ が さがって モノゴト が わかる よう に なる とき には ワタシ も なおって かえる だろう から…… アイ さん」
イツモ の とおり はきはき と した テゴタエ が ない ので、 もう ぎりぎり して きた ヨウコ は ケン を もった コエ で、 「アイ さん」 と ゴキ つよく よびかけた。 コトバ を かける と それでも カタヅケモノ の テ を おいて ヨウコ の ほう に むきなおった アイコ は、 この とき ようやく カオ を あげて おとなしく 「はい」 と ヘンジ を した。 ヨウコ の メ は すかさず その カオ を はっし と むちうった。 そして ネドコ の ウエ に ハンシン を ヒジ に ささえて おきあがった。 クルマ で ゆられた ため に フクブ は イタミ を まして コエ を あげたい ほど うずいて いた。
「アナタ に キョウ は はっきり きいて おきたい こと が ある の…… アナタ は よもや オカ さん と ひょんな ヤクソク なんぞ して は いますまい ね」
「いいえ」
アイコ は てもなく すなお に こう こたえて メ を ふせて しまった。
「コトウ さん とも?」
「いいえ」
コンド は カオ を あげて フシギ な こと を といただす と いう よう に じっと ヨウコ を みつめながら こう こたえた。 その タクト が ある よう な、 ない よう な アイコ の タイド が ヨウコ を いやがうえに いらだたした。 オカ の バアイ には どこ か うしろめたくて クビ を たれた とも みえる。 コトウ の バアイ には わざと シラ を きる ため に ダイタン に カオ を あげた とも とれる。 また そんな イミ では なく、 あまり フシギ な キツモン が 2 ド まで つづいた ので、 2 ド-メ には ケゲン に おもって カオ を あげた の か とも かんがえられる。 ヨウコ は たたみかけて クラチ の こと まで といただそう と した が、 その キブン は くじかれて しまった。 そんな こと を きいた の が だいいち おろか だった。 カクシダテ を しよう と ケッシン した イジョウ は、 オンナ は オトコ より も はるか に コウミョウ で ダイタン なの を ヨウコ は ジブン で ぞんぶん に しりぬいて いる の だ。 ジブン から すすんで ウチカブト を みすかされた よう な モドカシサ は いっそう ヨウコ の ココロ を いきどおらした。
「アナタ は フタリ から ナニ か そんな こと を いわれた オボエ が ある でしょう。 その とき アナタ は なんと ゴヘンジ した の」
アイコ は シタ を むいた まま だまって いた。 ヨウコ は ズボシ を さした と おもって カサ に かかって いった。
「ワタシ は カンガエ が ある から アナタ の クチ から も その こと を きいて おきたい ん だよ。 おっしゃい な」
「オフタリ とも なんにも そんな こと は おっしゃり は しません わ」
「おっしゃらない こと が ある もん かね」
フンヌ に ともなって さしこんで くる イタミ を フンヌ と ともに ぐっと おさえつけながら ヨウコ は わざと コエ を やわらげた。 そして アイコ の キョドウ を ツメ の サキ ほど も みのがすまい と した。 アイコ は だまって しまった。 この チンモク は アイコ の カクレガ だった。 そう なる と さすが の ヨウコ も この イモウト を どう とりあつかう スベ も なかった。 オカ なり コトウ なり が コクハク を して いる の なら、 ヨウコ が この ツギ に いいだす コトバ で ヨウス は しれる。 この バアイ うっかり ヨウコ の クチグルマ には のられない と アイコ は おもって チンモク を まもって いる の かも しれない。 オカ なり コトウ なり から ナニ か きいて いる の なら、 ヨウコ は それ を 10 バイ も 20 バイ も の ツヨサ に して つかいこなす スベ を しって いる の だ けれども、 あいにく その ソナエ は して いなかった。 アイコ は たしか に ジブン を あなどりだして いる と ヨウコ は おもわない では いられなかった。 よって たかって おおきな サギ の アミ を つくって、 その ナカ に ジブン を おしこめて、 シュウイ から ながめながら おもしろそう に わらって いる。 オカ だろう が コトウ だろう が ナニ が アテ に なる もの か。 ……ヨウコ は テキズ を おった イノシシ の よう に イッチョクセン に あれて ゆく より シカタ が なくなった。
「さあ おいい アイ さん、 オマエサン が だまって しまう の は わるい クセ です よ。 ネエサン を あまく おみ で ない よ。 ……オマエサン ホントウ に だまってる つもり かい…… そう じゃ ない でしょう、 あれば ある なければ ない で、 はっきり わかる よう に ハナシ を して くれる ん だろう ね…… アイ さん…… アナタ は ココロ から ワタシ を みくびって かかる ん だね」
「そう じゃ ありません」
あまり ヨウコ の コトバ が げきして くる ので、 アイコ は すこし オソレ を かんじた らしく あわてて こう いって コトバ で ささえよう と した。
「もっと こっち に おいで」
アイコ は うごかなかった。 ヨウコ の アイコ に たいする ゾウオ は キョクテン に たっした。 ヨウコ は フクブ の イタミ も わすれて、 ネドコ から おどりあがった。 そして いきなり アイコ の タブサ を つかもう と した。
アイコ は フダン の レイセイ に にず、 ヨウコ の ホッサ を みてとる と、 ビンショウ に ヨウコ の テモト を すりぬけて ミ を かわした。 ヨウコ は ふらふら と よろけて イッポウ の テ を ショウジガミ に つっこみながら、 それでも たおれる ハズミ に アイコ の ソデサキ を つかんだ。 ヨウコ は たおれながら それ を たぐりよせた。 みにくい シマイ の ソウトウ が、 なき、 わめき、 さけびたてる コエ の ナカ に えんぜられた。 アイコ は カオ や テ に カキキズ を うけ、 カミ を オドロ に みだしながら も、 ようやく ヨウコ の テ を ふりはなして ロウカ に とびだした。 ヨウコ は よろよろ と した アシドリ で その アト を おった が、 とても アイコ の ビンショウサ には かなわなかった。 そして ハシゴダン の オリグチ の ところ で ツヤ に くいとめられて しまった。 ヨウコ は ツヤ の カタ に ミ を なげかけながら おいおい と コエ を たてて コドモ の よう に なきしずんで しまった。
イク-ジカン か の ジンジ フセイ の ノチ に イシキ が はっきり して みる と、 ヨウコ は アイコ との イキサツ を ただ アクム の よう に おもいだす ばかり だった。 しかも それ は ジジツ に ちがいない。 マクラモト の ショウジ には ヨウコ の テ の さしこまれた アナ が、 おおきく やぶれた まま のこって いる。 ニュウイン の その ヒ から、 ヨウコ の ナ は くちさがない フジン カンジャ の クチノハ に うるさく のぼって いる に ちがいない。 それ を おもう と イットキ でも そこ に じっと して いる の が、 たえられない こと だった。 ヨウコ は すぐ ホカ の ビョウイン に うつろう と おもって ツヤ に いいつけた。 しかし ツヤ は どうしても それ を ショウチ しなかった。 ジブン が ミ に ひきうけて カンゴ する から、 ぜひとも この ビョウイン で シュジュツ を うけて もらいたい と ツヤ は いいはった。 ヨウコ から ヒマ を だされながら、 ミョウ に ヨウコ に ココロ を ひきつけられて いる らしい スガタ を みる と、 この バアイ ヨウコ は ツヤ に しみじみ と した アイ を かんじた。 セイケツ な チ が ほそい しなやか な ケッカン を トドコオリ なく ながれまわって いる よう な、 すべすべ と ケンコウ-らしい、 あさぐろい ツヤ の ヒフ は ナニ より も ヨウコ には あいらしかった。 しじゅう フキデモノ でも しそう な、 うみっぽい オンナ を ヨウコ は ナニ より も のろわしい もの に おもって いた。 ヨウコ は ツヤ の まめやか な ココロ と コトバ に ひかされて そこ に いのこる こと に した。
これだけ サダヨ から へだたる と ヨウコ は はじめて すこし キ の ゆるむ の を おぼえて、 フクブ の イタミ で とつぜん メ を さます ホカ には たわいなく ねむる よう な こと も あった。 しかし なんと いって も いちばん ココロ に かかる もの は サダヨ だった。 ささくれて、 あかく かわいた クチビル から もれでる あの ウワゴト…… それ が どうか する と ちかぢか と ミミ に きこえたり、 ぼんやり と メ を ひらいたり する その カオ が うきだして みえたり した。 それ ばかり では ない、 ヨウコ の ゴカン は ヒジョウ に ビンショウ に なって、 おまけに イリウジョン や ハルシネーション を たえず みたり きいたり する よう に なって しまった。 クラチ なんぞ は すぐ ソバ に すわって いる な と おもって、 クルシサ に メ を つぶりながら テ を のばして タタミ の ウエ を さぐって みる こと など も あった。 そんな に はっきり みえたり きこえたり する もの が、 すべて キョコウ で ある の を みいだす サビシサ は タトエヨウ が なかった。
アイコ は ヨウコ が ニュウイン の ヒ イライ カンシン に マイニチ おとずれて サダヨ の ヨウダイ を はなして いった。 もう ハジメ の ヒ の よう な ロウゼキ は しなかった けれども、 その カオ を みた ばかり で、 ヨウコ は ビョウキ が おもる よう に おもった。 ことに サダヨ の ビョウジョウ が かるく なって ゆく と いう ホウコク は はげしく ヨウコ を おこらした。 ジブン が あれほど の アイチャク を こめて カンゴ して も よく ならなかった もの が、 アイコ なんぞ の トオリイッペン の セワ で なおる はず が ない。 また アイコ は イイカゲン な キヤスメ に ウソ を ついて いる の だ。 サダヨ は もう ひょっと する と しんで いる かも しれない。 そう おもって オカ が たずねて きた とき に ねほりはほり きいて みる が、 フタリ の コトバ が あまり に フゴウ する ので、 サダヨ の だんだん よく なって ゆきつつ ある の を うたがう ヨチ は なかった。 ヨウコ には ウンメイ が くるいだした よう に しか おもわれなかった。 アイジョウ と いう もの なし に ビョウキ が なおせる なら、 ヒト の セイメイ は キカイ でも つくりあげる こと が できる わけ だ。 そんな はず は ない。 それだのに サダヨ は だんだん よく なって いって いる。 ヒト ばかり では ない、 カミ まで が、 ジブン を シゼンホウ の タ の ホウソク で もてあそぼう と して いる の だ。
ヨウコ は ハガミ を しながら サダヨ が しね かし と いのる よう な シュンカン を もった。
ヒ は たつ けれども クラチ から は ホントウ に なんの ショウソク も なかった。 ビョウテキ に カンカク の コウフン した ヨウコ は、 ときどき ニクタイテキ に クラチ を したう ショウドウ に かりたてられた。 ヨウコ の ココロ の メ には、 クラチ の ニクタイ の スベテ の ブブン は ふれる こと が できる と おもう ほど グタイテキ に ソウゾウ された。 ヨウコ は ジブン で つくりだした フシギ な メイキュウ の ナカ に あって、 イシキ の しびれきる よう な トウスイ に ひたった。 しかし その ヨイ が さめた アト の クツウ は、 セイシン の ヒヘイ と イッショ に はたらいて、 ヨウコ を ハンシ ハンショウ の サカイ に うちのめした。 ヨウコ は ジブン の モウソウ に オウト を もよおしながら、 クラチ と いわず スベテ の オトコ を のろい に のろった。
いよいよ ヨウコ が シュジュツ を うける べき マエ の ヒ が きた。 ヨウコ は それ を さほど おそろしい こと とは おもわなかった。 シキュウ コウクツショウ と シンダン された とき、 かって かえって よんだ コウカン な イショ に よって みて も、 その シュジュツ は わりあい に カンタン な もの で ある の を しりぬいて いた から、 その こと に ついて は わりあい に やすやす と した ココロモチ で いる こと が できた。 ただ メイジョウ しがたい ショウソウ と ヒアイ とは どう カタヅケヨウ も なかった。 マイニチ きて いた アイコ の アシ は フツカ-オキ に なり ミッカ-オキ に なり だんだん とおざかった。 オカ など は まったく スガタ を みせなく なって しまった。 ヨウコ は いまさら に ジブン の マワリ を さびしく みまわして みた。 であう カギリ の オトコ と オンナ と が なにがなし に ひきつけられて、 はなれる こと が できなく なる、 そんな ジリョク の よう な チカラ を もって いる と いう ジフ に きおって、 ジブン の シュウイ には しる と しらざる と を とわず、 いつでも ムスウ の ヒトビト の ココロ が まって いる よう に おもって いた ヨウコ は、 イマ は スベテ の ヒト から わすられはてて、 ダイジ な サダコ から も クラチ から も みはなし みはなされて、 ニモツ の ない モノオキベヤ の よう な まずしい イッシツ の スミッコ に、 ヤグ に くるまって ショキ に むされながら くずれかけた ゴタイ を たよりなく よこたえねば ならぬ の だ。 それ は ヨウコ に とって は ある べき こと とは おもわれぬ まで だった。 しかし それ が たしか な ジジツ で ある の を どう しよう。
それでも ヨウコ は まだ たちあがろう と した。 ジブン の ビョウキ が いえきった その とき を みて いる が いい。 どうして クラチ を もう イチド ジブン の もの に しおおせる か、 それ を みて いる が いい。
ヨウコ は ノウシン に たぐりこまれる よう な イタミ を かんずる リョウガン から あつい ナミダ を ながしながら、 ツレヅレ な まま に ヒ の よう な イッシン を クラチ の ミノウエ に あつめた。 ヨウコ の カオ には いつでも ハンケチ が あてがわれて いた。 それ が 10 プン も たたない うち に あつく ぬれとおって、 ツヤ に あたらしい の と かえさせねば ならなかった。