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ホリキ と ジブン。
たがいに ケイベツ しながら つきあい、 そうして たがいに ミズカラ を くだらなく して ゆく、 それ が コノヨ の いわゆる 「コウユウ」 と いう もの の スガタ だ と する なら、 ジブン と ホリキ との アイダガラ も、 まさしく 「コウユウ」 に チガイ ありません でした。
ジブン が あの キョウバシ の スタンド バー の マダム の ギキョウシン に すがり、 (オンナ の ヒト の ギキョウシン なんて、 コトバ の キミョウ な ツカイカタ です が、 しかし、 ジブン の ケイケン に よる と、 すくなくとも トカイ の ダンジョ の バアイ、 オトコ より も オンナ の ほう が、 その、 ギキョウシン と でも いう べき もの を たっぷり と もって いました。 オトコ は たいてい、 おっかなびっくり で、 オテイサイ ばかり かざり、 そうして、 ケチ でした) あの タバコヤ の ヨシコ を ナイエン の ツマ に する こと が できて、 そうして、 ツキジ、 スミダガワ の チカク、 モクゾウ の 2 カイ-ダテ の ちいさい アパート の カイカ の イッシツ を かり、 フタリ で すみ、 サケ は やめて、 そろそろ ジブン の きまった ショクギョウ に なりかけて きた マンガ の シゴト に セイ を だし、 ユウショク-ゴ は フタリ で エイガ を み に でかけ、 カエリ には、 キッサテン など に はいり、 また、 ハナ の ハチ を かったり して、 いや、 それ より も ジブン を しんから シンライ して くれて いる この ちいさい ハナヨメ の コトバ を きき、 ドウサ を みて いる の が たのしく、 これ は ジブン も ひょっと したら、 いまに だんだん ニンゲン-らしい もの に なる こと が できて、 ヒサン な シニカタ など せず に すむ の では なかろう か と いう あまい オモイ を かすか に ムネ に あたためはじめて いた ヤサキ に、 ホリキ が また ジブン の ガンゼン に あらわれました。
「よう! シキマ。 おや? これ でも、 いくらか ふんべつくさい カオ に なりやがった。 キョウ は、 コウエンジ ジョシ から の オシシャ なん だ がね」
と いいかけて、 キュウ に コエ を ひそめ、 オカッテ で オチャ の シタク を して いる ヨシコ の ほう を アゴ で しゃくって、 だいじょうぶ かい? と たずねます ので、
「かまわない。 ナニ を いって も いい」
と ジブン は おちついて こたえました。
じっさい、 ヨシコ は、 シンライ の テンサイ と いいたい くらい、 キョウバシ の バー の マダム との アイダ は もとより、 ジブン が カマクラ で おこした ジケン を しらせて やって も、 ツネコ との アイダ を うたがわず、 それ は ジブン が ウソ が うまい から と いう わけ では なく、 ときには、 あからさま な イイカタ を する こと さえ あった のに、 ヨシコ には、 それ が みな ジョウダン と しか ききとれぬ ヨウス でした。
「あいかわらず、 しょって いやがる。 なに、 たいした こと じゃ ない がね、 たまに は、 コウエンジ の ほう へも あそび に きて くれ って いう ゴデンゴン さ」
わすれかける と、 ケチョウ が はばたいて やって きて、 キオク の キズグチ を その クチバシ で つきやぶります。 たちまち カコ の ハジ と ツミ の キオク が、 ありあり と ガンゼン に テンカイ せられ、 わあっ と さけびたい ほど の キョウフ で、 すわって おられなく なる の です。
「のもう か」
と ジブン。
「よし」
と ホリキ。
ジブン と ホリキ。 カタチ は、 フタリ にて いました。 そっくり の ニンゲン の よう な キ が する こと も ありました。 もちろん それ は、 やすい サケ を あちこち のみあるいて いる とき だけ の こと でした が、 とにかく、 フタリ カオ を あわせる と、 みるみる おなじ カタチ の おなじ ケナミ の イヌ に かわり コウセツ の チマタ を かけめぐる と いう グアイ に なる の でした。
その ヒ イライ、 ジブン たち は ふたたび キュウコウ を あたためた と いう カタチ に なり、 キョウバシ の あの ちいさい バー にも イッショ に ゆき、 そうして、 とうとう、 コウエンジ の シヅコ の アパート にも その デイスイ の 2 ヒキ の イヌ が ホウモン し、 シュクハク して かえる など と いう こと に さえ なって しまった の です。
わすれ も、 しません。 むしあつい ナツ の ヨル でした。 ホリキ は ヒグレ-ゴロ、 よれよれ の ユカタ を きて ツキジ の ジブン の アパート に やって きて、 キョウ ある ヒツヨウ が あって ナツフク を シチイレ した が、 その シチイレ が ロウボ に しれる と まことに グアイ が わるい、 すぐ うけだしたい から、 とにかく カネ を かして くれ、 と いう こと でした。 あいにく ジブン の ところ にも、 オカネ が なかった ので、 レイ に よって、 ヨシコ に いいつけ、 ヨシコ の イルイ を シチヤ に もって ゆかせて オカネ を つくり、 ホリキ に かして も、 まだ すこし あまる ので その ザンキン で ヨシコ に ショウチュウ を かわせ、 アパート の オクジョウ に ゆき、 スミダガワ から ときたま かすか に ふいて くる どぶくさい カゼ を うけて、 まことに うすぎたない ノウリョウ の エン を はりました。
ジブン たち は その とき、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の アテッコ を はじめました。 これ は、 ジブン の ハツメイ した ユウギ で、 メイシ には、 すべて ダンセイ メイシ、 ジョセイ メイシ、 チュウセイ メイシ など の ベツ が ある けれども、 それ と ドウジ に、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の クベツ が あって しかるべき だ、 たとえば、 キセン と キシャ は いずれ も ヒゲキ メイシ で、 シデン と バス は、 いずれ も キゲキ メイシ、 なぜ そう なの か、 それ の わからぬ モノ は ゲイジュツ を だんずる に たらん、 キゲキ に 1 コ でも ヒゲキ メイシ を さしはさんで いる ゲキサクカ は、 すでに それ だけ で ラクダイ、 ヒゲキ の バアイ も また しかり、 と いった よう な わけ なの でした。
「いい かい? タバコ は?」
と ジブン が といます。
「トラ (トラジディ の リャク)」
と ホリキ が ゲンカ に こたえます。
「クスリ は?」
「コナグスリ かい? ガンヤク かい?」
「チュウシャ」
「トラ」
「そう かな? ホルモン チュウシャ も ある し ねえ」
「いや、 だんぜん トラ だ。 ハリ が だいいち、 オマエ、 リッパ な トラ じゃ ない か」
「よし、 まけて おこう。 しかし、 キミ、 クスリ や イシャ は ね、 あれ で あんがい、 コメ (コメディ の リャク) なん だぜ。 シ は?」
「コメ。 ボクシ も オショウ も しかり じゃ ね」
「オオデキ。 そうして、 セイ は トラ だなあ」
「ちがう。 それ も、 コメ」
「いや、 それ では、 なんでも かでも みな コメ に なって しまう。 では ね、 もう ヒトツ おたずね する が、 マンガカ は? よもや、 コメ とは いえません でしょう?」
「トラ、 トラ。 ダイ ヒゲキ メイシ!」
「ナン だ、 オオトラ は キミ の ほう だぜ」
こんな、 ヘタ な ダジャレ みたい な こと に なって しまって は、 つまらない の です けど、 しかし ジブン たち は その ユウギ を、 セカイ の サロン にも かつて そんしなかった すこぶる キ の きいた もの だ と トクイ-がって いた の でした。
また もう ヒトツ、 これ に にた ユウギ を トウジ、 ジブン は ハツメイ して いました。 それ は、 アントニム の アテッコ でした。 クロ の アント (アントニム の リャク) は、 シロ。 けれども、 シロ の アント は、 アカ。 アカ の アント は、 クロ。
「ハナ の アント は?」
と ジブン が とう と、 ホリキ は クチ を まげて かんがえ、
「ええっと、 カゲツ と いう リョウリヤ が あった から、 ツキ だ」
「いや、 それ は アント に なって いない。 むしろ、 シノニム だ。 ホシ と スミレ だって、 シノニム じゃ ない か。 アント で ない」
「わかった、 それ は ね、 ハチ だ」
「ハチ?」
「ボタン に、 ……アリ か?」
「なあん だ、 それ は モチーフ だ。 ごまかしちゃ いけない」
「わかった! ハナ に ムラクモ、……」
「ツキ に ムラクモ だろう」
「そう、 そう。 ハナ に カゼ。 カゼ だ。 ハナ の アント は、 カゼ」
「まずい なあ、 それ は ナニワブシ の モンク じゃ ない か。 オサト が しれる ぜ」
「いや、 ビワ だ」
「なお いけない。 ハナ の アント は ね、 ……およそ コノヨ で もっとも ハナ-らしく ない もの、 それ を こそ あげる べき だ」
「だから、 その、 ……まて よ、 なあん だ、 オンナ か」
「ついでに、 オンナ の シノニム は?」
「ゾウモツ」
「キミ は、 どうも、 ポエジー を しらん ね。 それじゃあ、 ゾウモツ の アント は?」
「ギュウニュウ」
「これ は、 ちょっと うまい な。 その チョウシ で もう ヒトツ。 ハジ。 オント の アント」
「ハジシラズ さ。 リュウコウ マンガカ ジョウシ イクタ」
「ホリキ マサオ は?」
この ヘン から フタリ だんだん わらえなく なって、 ショウチュウ の ヨイ トクユウ の、 あの ガラス の ハヘン が アタマ に ジュウマン して いる よう な、 インウツ な キブン に なって きた の でした。
「ナマイキ いうな。 オレ は まだ オマエ の よう に、 ナワメ の チジョク など うけた こと が ねえ ん だ」
ぎょっと しました。 ホリキ は ナイシン、 ジブン を、 マニンゲン アツカイ に して いなかった の だ、 ジブン を ただ、 シニゾコナイ の、 ハジシラズ の、 アホウ の バケモノ の、 いわば 「いける シカバネ」 と しか かいして くれず、 そうして、 カレ の カイラク の ため に、 ジブン を リヨウ できる ところ だけ は リヨウ する、 それっきり の 「コウユウ」 だった の だ、 と おもったら、 さすが に いい キモチ は しません でした が、 しかし また、 ホリキ が ジブン を そのよう に みて いる の も、 もっとも な ハナシ で、 ジブン は ムカシ から、 ニンゲン の シカク の ない みたい な コドモ だった の だ、 やっぱり ホリキ に さえ ケイベツ せられて シトウ なの かも しれない、 と かんがえなおし、
「ツミ。 ツミ の アントニム は、 ナン だろう。 これ は、むずかしい ぞ」
と なにげなさそう な ヒョウジョウ を よそおって、 いう の でした。
「ホウリツ さ」
ホリキ が へいぜん と そう こたえました ので、 ジブン は ホリキ の カオ を みなおしました。 チカク の ビル の メイメツ する ネオン サイン の あかい ヒカリ を うけて、 ホリキ の カオ は、 オニケイジ の ごとく イゲン ありげ に みえました。 ジブン は、 つくづく あきれかえり、
「ツミ って の は、 キミ、 そんな もの じゃ ない だろう」
ツミ の タイギゴ が、 ホウリツ とは! しかし、 セケン の ヒトタチ は、 ミンナ それ くらい に カンタン に かんがえて、 すまして くらして いる の かも しれません。 ケイジ の いない ところ に こそ ツミ が うごめいて いる、 と。
「それじゃあ、 ナン だい、 カミ か? オマエ には、 どこ か ヤソ ボウズ-くさい ところ が ある から な。 イヤミ だぜ」
「まあ そんな に、 かるく かたづけるな よ。 もすこし、 フタリ で かんがえて みよう。 これ は でも、 おもしろい テーマ じゃ ない か。 この テーマ に たいする コタエ ヒトツ で、 その ヒト の ゼンブ が わかる よう な キ が する の だ」
「まさか。 ……ツミ の アント は、 ゼン さ。 ゼンリョウ なる シミン。 つまり、 オレ みたい な モノ さ」
「ジョウダン は、 よそう よ。 しかし、 ゼン は アク の アント だ。 ツミ の アント では ない」
「アク と ツミ とは ちがう の かい?」
「ちがう、 と おもう。 ゼンアク の ガイネン は ニンゲン が つくった もの だ。 ニンゲン が カッテ に つくった ドウトク の コトバ だ」
「うるせえ なあ。 それじゃ、 やっぱり、 カミ だろう。 カミ、 カミ。 なんでも、 カミ に して おけば マチガイ ない。 ハラ が へった なあ」
「イマ、 シタ で ヨシコ が ソラマメ を にて いる」
「ありがてえ。 コウブツ だ」
リョウテ を アタマ の ウシロ に くんで、 アオムケ に ごろり と ねました。
「キミ には、 ツミ と いう もの が、 まるで キョウミ ない らしい ね」
「そりゃ そう さ、 オマエ の よう に、 ザイニン では ない ん だ から。 オレ は ドウラク は して も、 オンナ を しなせたり、 オンナ から カネ を まきあげたり なんか は しねえ よ」
しなせた の では ない、 まきあげた の では ない、 と ココロ の どこ か で かすか な、 けれども ヒッシ の コウギ の コエ が おこって も、 しかし、 また、 いや ジブン が わるい の だ と すぐに おもいかえして しまう この シュウヘキ。
ジブン には、 どうしても、 ショウメン きって の ギロン が できません。 ショウチュウ の インウツ な ヨイ の ため に こくいっこく、 キモチ が けわしく なって くる の を ケンメイ に おさえて、 ほとんど ヒトリゴト の よう に して いいました。
「しかし、 ロウヤ に いれられる こと だけ が ツミ じゃ ない ん だ。 ツミ の アント が わかれば、 ツミ の ジッタイ も つかめる よう な キ が する ん だ けど、 ……カミ、 ……スクイ、 ……アイ、 ……ヒカリ、 ……しかし、 カミ には サタン と いう アント が ある し、 スクイ の アント は クノウ だろう し、 アイ には ニクシミ、 ヒカリ には ヤミ と いう アント が あり、 ゼン には アク、 ツミ と イノリ、 ツミ と クイ、 ツミ と コクハク、 ツミ と、 ……ああ、 みんな シノニム だ、 ツミ の ツイゴ は ナン だ」
「ツミ の ツイゴ は、 ミツ さ。 ミツ の ごとく あまし だ。 ハラ が へった なあ。 ナニ か くう もの を もって こい よ」
「キミ が もって きたら いい じゃ ない か!」
ほとんど うまれて はじめて と いって いい くらい の、 はげしい イカリ の コエ が でました。
「ようし、 それじゃ、 シタ へ いって、 ヨシ ちゃん と フタリ で ツミ を おかして こよう。 ギロン より ジッチ ケンブン。 ツミ の アント は、 ミツマメ、 いや、 ソラマメ か」
ほとんど、 ロレツ の まわらぬ くらい に よって いる の でした。
「カッテ に しろ。 どこ か へ いっちまえ!」
「ツミ と クウフク、 クウフク と ソラマメ、 いや、 これ は シノニム か」
デタラメ を いいながら おきあがります。
ツミ と バツ。 ドストイエフスキー。 ちらと それ が、 ズノウ の カタスミ を かすめて とおり、 はっと おもいました。 もしも、 あの ドスト シ が、 ツミ と バツ を シノニム と かんがえず、 アントニム と して おきならべた もの と したら? ツミ と バツ、 ゼッタイ に あいつうぜざる もの、 ヒョウタン あいいれざる もの。 ツミ と バツ を アント と して かんがえた ドスト の アオミドロ、 くさった イケ、 ランマ の オクソコ の、 ……ああ、 わかりかけた、 いや、 まだ、 ……など と ズノウ に ソウマトウ が くるくる まわって いた とき に、
「おい! とんだ、 ソラマメ だ。 こい!」
ホリキ の コエ も カオイロ も かわって います。 ホリキ は、 たったいま ふらふら おきて シタ へ いった、 か と おもう と また ひきかえして きた の です。
「ナン だ」
イヨウ に サッキ-だち、 フタリ、 オクジョウ から 2 カイ へ おり、 2 カイ から、 さらに カイカ の ジブン の ヘヤ へ おりる カイダン の チュウト で ホリキ は たちどまり、
「みろ!」
と コゴエ で いって ゆびさします。
ジブン の ヘヤ の ウエ の コマド が あいて いて、 そこ から ヘヤ の ナカ が みえます。 デンキ が ついた まま で、 2 ヒキ の ドウブツ が いました。
ジブン は、 ぐらぐら メマイ しながら、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 おどろく こと は ない、 など はげしい コキュウ と ともに ムネ の ナカ で つぶやき、 ヨシコ を たすける こと も わすれ、 カイダン に たちつくして いました。
ホリキ は、 おおきい セキバライ を しました。 ジブン は、 ヒトリ にげる よう に また オクジョウ に かけあがり、 ねころび、 アメ を ふくんだ ナツ の ヨゾラ を あおぎ、 その とき ジブン を おそった カンジョウ は、 イカリ でも なく、 ケンオ でも なく、 また、 カナシミ でも なく、 ものすさまじい キョウフ でした。 それ も、 ボチ の ユウレイ など に たいする キョウフ では なく、 ジンジャ の スギコダチ で ハクイ の ゴシンタイ に あった とき に かんずる かも しれない よう な、 しのごの いわさぬ コダイ の あらあらしい キョウフカン でした。 ジブン の ワカジラガ は、 その ヨ から はじまり、 いよいよ、 スベテ に ジシン を うしない、 いよいよ、 ヒト を そこしれず うたがい、 コノヨ の イトナミ に たいする イッサイ の キタイ、 ヨロコビ、 キョウメイ など から エイエン に はなれる よう に なりました。 じつに、 それ は ジブン の ショウガイ に おいて、 ケッテイテキ な ジケン でした。 ジブン は、 マッコウ から ミケン を わられ、 そうして それ イライ その キズ は、 どんな ニンゲン に でも セッキン する ごと に いたむ の でした。
「ドウジョウ は する が、 しかし、 オマエ も これ で、 すこし は おもいしったろう。 もう、 オレ は、 ニド と ここ へは こない よ。 まるで、 ジゴク だ。 ……でも、 ヨシ ちゃん は、 ゆるして やれ。 オマエ だって、 どうせ、 ろく な ヤツ じゃ ない ん だ から。 シッケイ する ぜ」
きまずい バショ に、 ながく とどまって いる ほど マ の ぬけた ホリキ では ありません でした。
ジブン は おきあがって、 ヒトリ で ショウチュウ を のみ、 それから、 おいおい コエ を はなって なきました。 いくらでも、 いくらでも なける の でした。
いつのまにか、 ハイゴ に、 ヨシコ が、 ソラマメ を ヤマモリ に した オサラ を もって ぼんやり たって いました。
「なんにも、 しない から って いって、……」
「いい。 なにも いうな。 オマエ は、 ヒト を うたがう こと を しらなかった ん だ。 おすわり。 マメ を たべよう」
ならんで すわって マメ を たべました。 ああ、 シンライ は ツミ なり や? アイテ の オトコ は、 ジブン に マンガ を かかせて は、 わずか な オカネ を もったいぶって おいて ゆく 30 サイ ゼンゴ の ムガク な コオトコ の ショウニン なの でした。
さすが に その ショウニン は、 ソノゴ やって は きません でした が、 ジブン には、 どうして だ か、 その ショウニン に たいする ゾウオ より も、 サイショ に みつけた すぐ その とき に おおきい セキバライ も なにも せず、 そのまま ジブン に しらせ に また オクジョウ に ひきかえして きた ホリキ に たいする ニクシミ と イカリ が、 ねむられぬ ヨル など に むらむら おこって うめきました。
ゆるす も、 ゆるさぬ も ありません。 ヨシコ は シンライ の テンサイ なの です。 ヒト を うたがう こと を しらなかった の です。 しかし、 それ ゆえ の ヒサン。
カミ に とう。 シンライ は ツミ なり や。
ヨシコ が けがされた と いう こと より も、 ヨシコ の シンライ が けがされた と いう こと が、 ジブン に とって その ノチ ながく、 いきて おられない ほど の クノウ の タネ に なりました。 ジブン の よう な、 いやらしく おどおど して、 ヒト の カオイロ ばかり うかがい、 ヒト を しんじる ノウリョク が、 ひびわれて しまって いる モノ に とって、 ヨシコ の ムク の シンライシン は、 それこそ アオバ の タキ の よう に すがすがしく おもわれて いた の です。 それ が イチヤ で、 きいろい オスイ に かわって しまいました。 みよ、 ヨシコ は、 その ヨ から ジブン の イッピン イッショウ に さえ キ を つかう よう に なりました。
「おい」
と よぶ と、 ぴくっと して、 もう メ の ヤリバ に こまって いる ヨウス です。 どんな に ジブン が わらわせよう と して、 オドウケ を いって も、 おろおろ し、 びくびく し、 やたら に ジブン に ケイゴ を つかう よう に なりました。
はたして、 ムク の シンライシン は、 ツミ の ゲンセン なり や。
ジブン は、 ヒトヅマ の おかされた モノガタリ の ホン を、 いろいろ さがして よんで みました。 けれども、 ヨシコ ほど ヒサン な オカサレカタ を して いる オンナ は、 ヒトリ も ない と おもいました。 どだい、 これ は、 てんで モノガタリ にも なにも なりません。 あの コオトコ の ショウニン と、 ヨシコ との アイダ に、 すこし でも コイ に にた カンジョウ でも あった なら、 ジブン の キモチ も かえって たすかる かも しれません が、 ただ、 ナツ の イチヤ、 ヨシコ が シンライ して、 そうして、 それっきり、 しかも その ため に ジブン の ミケン は、 マッコウ から わられ コエ が しゃがれて ワカジラガ が はじまり、 ヨシコ は イッショウ おろおろ しなければ ならなく なった の です。 タイテイ の モノガタリ は、 その ツマ の 「コウイ」 を オット が ゆるす か どう か、 そこ に ジュウテン を おいて いた よう でした が、 それ は ジブン に とって は、 そんな に くるしい ダイモンダイ では ない よう に おもわれました。 ゆるす、 ゆるさぬ、 そのよう な ケンリ を リュウホ して いる オット こそ サイワイ なる かな、 とても ゆるす こと が できぬ と おもった なら、 なにも そんな に オオサワギ せず とも、 さっさと ツマ を リエン して、 あたらしい ツマ を むかえたら どう だろう、 それ が できなかったら、 いわゆる 「ゆるして」 ガマン する さ、 いずれ に して も オット の キモチ ヒトツ で シホウ ハッポウ が まるく おさまる だろう に、 と いう キ さえ する の でした。 つまり、 そのよう な ジケン は、 たしか に オット に とって おおいなる ショック で あって も、 しかし、 それ は 「ショック」 で あって、 いつまでも つきる こと なく うちかえし うちよせる ナミ と ちがい、 ケンリ の ある オット の イカリ で もって どう に でも ショリ できる トラブル の よう に ジブン には おもわれた の でした。 けれども、 ジブン たち の バアイ、 オット に なんの ケンリ も なく、 かんがえる と なにもかも ジブン が わるい よう な キ が して きて、 おこる どころ か、 オコゴト ヒトツ も いえず、 また、 その ツマ は、 その ショユウ して いる まれ な ビシツ に よって おかされた の です。 しかも、 その ビシツ は、 オット の かねて アコガレ の、 ムク の シンライシン と いう たまらなく カレン な もの なの でした。
ムク の シンライシン は、 ツミ なり や。
ユイイツ の タノミ の ビシツ に さえ、 ギワク を いだき、 ジブン は、 もはや なにもかも、 ワケ が わからなく なり、 おもむく ところ は、 ただ アルコール だけ に なりました。 ジブン の カオ の ヒョウジョウ は キョクド に いやしく なり、 アサ から ショウチュウ を のみ、 ハ が ぼろぼろ に かけて、 マンガ も ほとんど ワイガ に ちかい もの を かく よう に なりました。 いいえ、 はっきり いいます。 ジブン は その コロ から、 シュンガ の コピー を して ミツバイ しました。 ショウチュウ を かう オカネ が ほしかった の です。 いつも ジブン から シセン を はずして おろおろ して いる ヨシコ を みる と、 コイツ は まったく ケイカイ を しらぬ オンナ だった から、 あの ショウニン と イチド だけ では なかった の では なかろう か、 また、 ホリキ は? いや、 あるいは ジブン の しらない ヒト とも? と ギワク は ギワク を うみ、 さりとて おもいきって それ を といただす ユウキ も なく、 レイ の フアン と キョウフ に のたうちまわる オモイ で、 ただ ショウチュウ を のんで よって は、 わずか に ヒクツ な ユウドウ ジンモン みたい な もの を おっかなびっくり こころみ、 ナイシン おろかしく イッキ イチユウ し、 ウワベ は、 やたら に おどけて、 そうして、 それから、 ヨシコ に いまわしい ジゴク の アイブ を くわえ、 ドロ の よう に ねむりこける の でした。
その トシ の クレ、 ジブン は ヨル おそく デイスイ して キタク し、 サトウミズ を のみたく、 ヨシコ は ねむって いる よう でした から、 ジブン で オカッテ に ゆき サトウツボ を さがしだし、 フタ を あけて みたら サトウ は なにも はいって なくて、 くろく ほそながい カミ の コバコ が はいって いました。 なにげなく テ に とり、 その ハコ に はられて ある レッテル を みて がくぜん と しました。 その レッテル は、 ツメ で ハンブン イジョウ も かきはがされて いました が、 ヨウジ の ブブン が のこって いて、 それ に はっきり かかれて いました。 DIAL。
ジアール。 ジブン は その コロ もっぱら ショウチュウ で、 サイミンザイ を もちいて は いません でした が、 しかし、 フミン は ジブン の ジビョウ の よう な もの でした から、 タイテイ の サイミンザイ には オナジミ でした。 ジアール の この ハコ ヒトツ は、 たしか に チシリョウ イジョウ の はず でした。 まだ ハコ の フウ を きって は いません でした が、 しかし、 いつかは、 やる キ で こんな ところ に、 しかも レッテル を かきはがしたり など して かくして いた の に チガイ ありません。 かわいそう に、 あの コ には レッテル の ヨウジ が よめない ので、 ツメ で ハンブン かきはがして、 これ で だいじょうぶ と おもって いた の でしょう。 (オマエ に ツミ は ない)
ジブン は、 オト を たてない よう に そっと コップ に ミズ を みたし、 それから、 ゆっくり ハコ の フウ を きって、 ゼンブ、 イッキ に クチ の ナカ に ほうり、 コップ の ミズ を おちついて のみほし、 デントウ を けして そのまま ねました。
3 チュウヤ、 ジブン は しんだ よう に なって いた そう です。 イシャ は カシツ と みなして、 ケイサツ に とどける の を ユウヨ して くれた そう です。 カクセイ しかけて、 いちばん サキ に つぶやいた ウワゴト は、 ウチ へ かえる、 と いう コトバ だった そう です。 ウチ とは、 どこ の こと を さして いった の か、 とうの ジブン にも、 よく わかりません が、 とにかく、 そう いって、 ひどく ないた そう です。
しだいに キリ が はれて、 みる と、 マクラモト に ヒラメ が、 ひどく フキゲン な カオ を して すわって いました。
「コノマエ も、 トシ の クレ の こと でして ね、 おたがい もう、 メ が まわる くらい いそがしい のに、 いつも、 トシ の クレ を ねらって、 こんな こと を やられた ヒ には、 こっち の イノチ が たまらない」
ヒラメ の ハナシ の キキテ に なって いる の は、 キョウバシ の バー の マダム でした。
「マダム」
と ジブン は よびました。
「うん、 ナニ? キ が ついた?」
マダム は ワライガオ を ジブン の カオ の ウエ に かぶせる よう に して いいました。
ジブン は、 ぽろぽろ ナミダ を ながし、
「ヨシコ と わかれさせて」
ジブン でも おもいがけなかった コトバ が でました。
マダム は ミ を おこし、 かすか な タメイキ を もらしました。
それから ジブン は、 これ も また じつに おもいがけない コッケイ とも あほうらしい とも、 ケイヨウ に くるしむ ほど の シツゲン を しました。
「ボク は、 オンナ の いない ところ に いく ん だ」
うわっはっは、 と まず、 ヒラメ が オオゴエ を あげて わらい、 マダム も くすくす わらいだし、 ジブン も ナミダ を ながしながら セキメン の テイ に なり、 クショウ しました。
「うん、 その ほう が いい」
と ヒラメ は、 いつまでも だらしなく わらいながら、
「オンナ の いない ところ に いった ほう が よい。 オンナ が いる と、 どうも いけない。 オンナ の いない ところ とは、 いい オモイツキ です」
オンナ の いない ところ。 しかし、 この ジブン の あほうくさい ウワゴト は、 ノチ に いたって、 ヒジョウ に インサン に ジツゲン せられました。
ヨシコ は、 ナニ か、 ジブン が ヨシコ の ミガワリ に なって ドク を のんだ と でも おもいこんで いる らしく、 イゼン より も なお いっそう、 ジブン に たいして、 おろおろ して、 ジブン が ナニ を いって も わらわず、 そうして ろくに クチ も きけない よう な アリサマ なので、 ジブン も アパート の ヘヤ の ナカ に いる の が、 うっとうしく、 つい ソト へ でて、 あいかわらず やすい サケ を あおる こと に なる の でした。 しかし、 あの ジアール の イッケン イライ、 ジブン の カラダ が めっきり やせほそって、 テアシ が だるく、 マンガ の シゴト も なまけがち に なり、 ヒラメ が あの とき、 ミマイ と して おいて いった オカネ (ヒラメ は それ を、 シブタ の ココロザシ です、 と いって いかにも ゴジシン から でた オカネ の よう に して さしだしました が、 これ も コキョウ の アニ たち から の オカネ の よう でした。 ジブン も その コロ には、 ヒラメ の イエ から にげだした あの とき と ちがって、 ヒラメ の そんな もったいぶった シバイ を、 おぼろげ ながら みぬく こと が できる よう に なって いました ので、 こちら も ずるく、 まったく きづかぬ フリ を して、 シンミョウ に その オカネ の オレイ を ヒラメ に むかって もうしあげた の でした が、 しかし、 ヒラメ たち が、 なぜ、 そんな ややこしい カラクリ を やらかす の か、 わかるよう な、 わからない よう な、 どうしても ジブン には、 ヘン な キ が して なりません でした) その オカネ で、 おもいきって ヒトリ で ミナミ イズ の オンセン に いって みたり など しました が、 とても そんな ユウチョウ な オンセン メグリ など できる ガラ では なく、 ヨシコ を おもえば ワビシサ かぎりなく、 ヤド の ヘヤ から ヤマ を ながめる など の おちついた シンキョウ には はなはだ とおく、 ドテラ にも きがえず、 オユ にも はいらず、 ソト へ とびだして は うすぎたない チャミセ みたい な ところ に とびこんで、 ショウチュウ を、 それこそ あびる ほど のんで、 カラダグアイ を いっそう わるく して キキョウ した だけ の こと でした。
トウキョウ に オオユキ の ふった ヨル でした。 ジブン は よって ギンザ ウラ を、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 と コゴエ で くりかえし くりかえし つぶやく よう に うたいながら、 なおも ふりつもる ユキ を クツサキ で けちらして あるいて、 とつぜん、 はきました。 それ は ジブン の サイショ の カッケツ でした。 ユキ の ウエ に、 おおきい ヒノマル の ハタ が できました。 ジブン は、 しばらく しゃがんで、 それから、 よごれて いない カショ の ユキ を リョウテ で すくいとって、 カオ を あらいながら なきました。
こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
あわれ な ドウジョ の ウタゴエ が、 ゲンチョウ の よう に、 かすか に トオク から きこえます。 フコウ。 コノヨ には、 サマザマ の フコウ な ヒト が、 いや、 フコウ な ヒト ばかり、 と いって も カゴン では ない でしょう が、 しかし、 その ヒトタチ の フコウ は、 いわゆる セケン に たいして どうどう と コウギ が でき、 また 「セケン」 も その ヒトタチ の コウギ を ヨウイ に リカイ し ドウジョウ します。 しかし、 ジブン の フコウ は、 すべて ジブン の ザイアク から なので、 ダレ にも コウギ の シヨウ が ない し、 また くちごもりながら ヒトコト でも コウギ-めいた こと を いいかける と、 ヒラメ ならず とも セケン の ヒトタチ ゼンブ、 よくも まあ そんな クチ が きけた もの だ と あきれかえる に ちがいない し、 ジブン は いったい ぞくに いう 「ワガママモノ」 なの か、 または その ハンタイ に、 キ が よわすぎる の か、 ジブン でも ワケ が わからない けれども、 とにかく ザイアク の カタマリ らしい ので、 どこまでも おのずから どんどん フコウ に なる ばかり で、 ふせぎとめる グタイサク など ない の です。
ジブン は たって、 とりあえず ナニ か テキトウ な クスリ を と おもい、 チカク の クスリヤ に はいって、 そこ の オクサン と カオ を みあわせ、 シュンカン、 オクサン は、 フラッシュ を あびた みたい に クビ を あげ メ を みはり、 ボウダチ に なりました。 しかし、 その みはった メ には、 キョウガク の イロ も ケンオ の イロ も なく、 ほとんど スクイ を もとめる よう な、 したう よう な イロ が あらわれて いる の でした。 ああ、 この ヒト も、 きっと フコウ な ヒト なの だ、 フコウ な ヒト は、 ヒト の フコウ にも ビンカン な もの なの だ から、 と おもった とき、 ふと、 その オクサン が マツバヅエ を ついて あぶなっかしく たって いる の に キ が つきました。 かけよりたい オモイ を おさえて、 なおも その オクサン と カオ を みあわせて いる うち に ナミダ が でて きました。 すると、 オクサン の おおきい メ から も、 ナミダ が ぽろぽろ と あふれて でました。
それっきり、 ヒトコト も クチ を きかず に、 ジブン は その クスリヤ から でて、 よろめいて アパート に かえり、 ヨシコ に シオミズ を つくらせて のみ、 だまって ねて、 あくる ヒ も、 カゼギミ だ と ウソ を ついて イチニチ いっぱい ねて、 ヨル、 ジブン の ヒミツ の カッケツ が どうにも フアン で たまらず、 おきて、 あの クスリヤ に ゆき、 コンド は わらいながら、 オクサン に、 じつに すなお に イマ まで の カラダグアイ を コクハク し、 ソウダン しました。
「オサケ を およし に ならなければ」
ジブン たち は、 ニクシン の よう でした。
「アルチュウ に なって いる かも しれない ん です。 イマ でも のみたい」
「いけません。 ワタシ の シュジン も、 テーベ の くせ に、 キン を サケ で ころす ん だ なんて いって、 サケビタリ に なって、 ジブン から ジュミョウ を ちぢめました」
「フアン で いけない ん です。 こわくて、 とても、 ダメ なん です」
「オクスリ を さしあげます。 オサケ だけ は、 およしなさい」
オクサン (ミボウジン で、 オトコ の コ が ヒトリ、 それ は チバ だ か どこ だ か の イダイ に はいって、 まもなく チチ と おなじ ヤマイ に かかり、 キュウガク ニュウインチュウ で、 イエ には チュウフウ の シュウト が ねて いて、 オクサン ジシン は 5 サイ の オリ、 ショウニ マヒ で カタホウ の アシ が ぜんぜん ダメ なの でした) は、 マツバヅエ を ことこと と つきながら、 ジブン の ため に あっち の タナ、 こっち の ヒキダシ、 いろいろ と ヤクヒン を とりそろえて くれる の でした。
これ は、 ゾウケツザイ。
これ は、 ヴィタミン の チュウシャエキ。 チュウシャキ は、 これ。
これ は、 カルシウム の ジョウザイ。 イチョウ を こわさない よう に、 ジアスターゼ。
これ は、 ナニ。 これ は、 ナニ、 と 5~6 シュ の ヤクヒン の セツメイ を アイジョウ こめて して くれた の です が、 しかし、 この フコウ な オクサン の アイジョウ も また、 ジブン に とって ふかすぎました。 サイゴ に オクサン が、 これ は、 どうしても、 なんと して も オサケ を のみたくて、 たまらなく なった とき の オクスリ、 と いって すばやく カミ に つつんだ コバコ。
モルヒネ の チュウシャエキ でした。
サケ より は、 ガイ に ならぬ と オクサン も いい、 ジブン も それ を しんじて、 また ヒトツ には、 サケ の ヨイ も さすが に フケツ に かんぜられて きた ヤサキ でも あった し、 ヒサシブリ に アルコール と いう サタン から のがれる こと の できる ヨロコビ も あり、 なんの チュウチョ も なく、 ジブン は ジブン の ウデ に、 その モルヒネ を チュウシャ しました。 フアン も、 ショウソウ も、 ハニカミ も、 きれい に ジョキョ せられ、 ジブン は はなはだ ヨウキ な ノウベンカ に なる の でした。 そうして、 その チュウシャ を する と ジブン は、 カラダ の スイジャク も わすれて、 マンガ の シゴト に セイ が でて、 ジブン で かきながら ふきだして しまう ほど チンミョウ な シュコウ が うまれる の でした。
1 ニチ 1 ポン の つもり が、 2 ホン に なり、 4 ホン に なった コロ には、 ジブン は もう それ が なければ、 シゴト が できない よう に なって いました。
「いけません よ、 チュウドク に なったら、 そりゃ もう、 タイヘン です」
クスリヤ の オクサン に そう いわれる と、 ジブン は もう かなり の チュウドク カンジャ に なって しまった よう な キ が して きて、 (ジブン は、 ヒト の アンジ に じつに もろく ひっかかる タチ なの です。 この オカネ は つかっちゃ いけない よ、 と いって も、 オマエ の こと だ もの なあ、 なんて いわれる と、 なんだか つかわない と わるい よう な、 キタイ に そむく よう な、 ヘン な サッカク が おこって、 かならず すぐに その オカネ を つかって しまう の でした) その チュウドク の フアン の ため、 かえって ヤクヒン を たくさん もとめる よう に なった の でした。
「たのむ! もう ヒトハコ。 カンジョウ は ゲツマツ に きっと はらいます から」
「カンジョウ なんて、 いつでも かまいません けど、 ケイサツ の ほう が、 うるさい ので ねえ」
ああ、 いつでも ジブン の シュウイ には、 なにやら、 にごって くらく、 うさんくさい ヒカゲモノ の ケハイ が つきまとう の です。
「そこ を なんとか、 ごまかして、 たのむ よ、 オクサン。 キス して あげよう」
オクサン は、 カオ を あからめます。
ジブン は、 いよいよ つけこみ、
「クスリ が ない と シゴト が ちっとも、 はかどらない ん だよ。 ボク には、 あれ は キョウセイザイ みたい な もの なん だ」
「それじゃ、 いっそ、 ホルモン チュウシャ が いい でしょう」
「バカ に しちゃ いけません。 オサケ か、 そう で なければ、 あの クスリ か、 どっち か で なければ シゴト が できない ん だ」
「オサケ は、 いけません」
「そう でしょう? ボク は ね、 あの クスリ を つかう よう に なって から、 オサケ は イッテキ も のまなかった。 おかげで、 カラダ の チョウシ が、 とても いい ん だ。 ボク だって、 いつまでも、 ヘタクソ な マンガ など を かいて いる つもり は ない、 これから、 サケ を やめて、 カラダ を なおして、 ベンキョウ して、 きっと えらい エカキ に なって みせる。 イマ が ダイジ な ところ なん だ。 だから さ、 ね、 おねがい。 キス して あげよう か」
オクサン は わらいだし、
「こまる わねえ。 チュウドク に なって も しりません よ」
ことこと と マツバヅエ の オト を させて、 その ヤクヒン を タナ から とりだし、
「ヒトハコ は、 あげられません よ。 すぐ つかって しまう の だ もの。 ハンブン ね」
「ケチ だなあ、 まあ、 シカタ が ない や」
イエ へ かえって、 すぐに 1 ポン、 チュウシャ を します。
「いたく ない ん です か?」
ヨシコ は、 おどおど ジブン に たずねます。
「それ あ いたい さ。 でも、 シゴト の ノウリツ を あげる ため には、 いや でも これ を やらなければ いけない ん だ。 ボク は コノゴロ、 とても ゲンキ だろう? さあ、 シゴト だ。 シゴト、 シゴト」
と はしゃぐ の です。
シンヤ、 クスリヤ の ト を たたいた こと も ありました。 ネマキスガタ で、 ことこと マツバヅエ を ついて でて きた オクサン に、 いきなり だきついて キス して、 なく マネ を しました。
オクサン は、 だまって ジブン に ヒトハコ、 てわたしました。
ヤクヒン も また、 ショウチュウ ドウヨウ、 いや、 それ イジョウ に、 いまわしく フケツ な もの だ と、 つくづく おもいしった とき には、 すでに ジブン は カンゼン な チュウドク カンジャ に なって いました。 しんに、 ハジシラズ の キワミ でした。 ジブン は その ヤクヒン を えたい ばかり に、 またも シュンガ の コピー を はじめ、 そうして、 あの クスリヤ の フグ の オクサン と モジドオリ の シュウカンケイ を さえ むすびました。
しにたい、 いっそ、 しにたい、 もう トリカエシ が つかない ん だ、 どんな こと を して も、 ナニ を して も、 ダメ に なる だけ なん だ、 ハジ の ウワヌリ を する だけ なん だ、 ジテンシャ で アオバ の タキ など、 ジブン には のぞむ べく も ない ん だ、 ただ けがらわしい ツミ に あさましい ツミ が かさなり、 クノウ が ゾウダイ し キョウレツ に なる だけ なん だ、 しにたい、 しななければ ならぬ、 いきて いる の が ツミ の タネ なの だ、 など と おもいつめて も、 やっぱり、 アパート と クスリヤ の アイダ を ハンキョウラン の スガタ で オウフク して いる ばかり なの でした。
いくら シゴト を して も、 クスリ の シヨウリョウ も したがって ふえて いる ので、 クスリダイ の カリ が おそろしい ほど の ガク に のぼり、 オクサン は、 ジブン の カオ を みる と ナミダ を うかべ、 ジブン も ナミダ を ながしました。
ジゴク。
この ジゴク から のがれる ため の サイゴ の シュダン、 これ が シッパイ したら、 アト は もう クビ を くくる ばかり だ、 と いう カミ の ソンザイ を かける ほど の ケツイ を もって、 ジブン は、 コキョウ の チチ-アテ に ながい テガミ を かいて、 ジブン の ジツジョウ イッサイ を (オンナ の こと は、 さすが に かけません でした が) コクハク する こと に しました。
しかし、 ケッカ は いっそう わるく、 まてど くらせど なんの ヘンジ も なく、 ジブン は その ショウソウ と フアン の ため に、 かえって クスリ の リョウ を ふやして しまいました。
コンヤ、 10 ポン、 イッキ に チュウシャ し、 そうして オオカワ に とびこもう と、 ひそか に カクゴ を きめた その ヒ の ゴゴ、 ヒラメ が、 アクマ の カン で かぎつけた みたい に、 ホリキ を つれて あらわれました。
「オマエ は、 カッケツ した ん だって な」
ホリキ は、 ジブン の マエ に アグラ を かいて そう いい、 イマ まで みた こと も ない くらい に やさしく ほほえみました。 その やさしい ビショウ が、 ありがたくて、 うれしくて、 ジブン は つい カオ を そむけて ナミダ を ながしました。 そうして カレ の その やさしい ビショウ ヒトツ で、 ジブン は カンゼン に うちやぶられ、 ほうむりさられて しまった の です。
ジブン は ジドウシャ に のせられました。 とにかく ニュウイン しなければ ならぬ、 アト は ジブン たち に まかせなさい、 と ヒラメ も、 しんみり した クチョウ で、 (それ は ジヒ-ぶかい と でも ケイヨウ したい ほど、 ものしずか な クチョウ でした) ジブン に すすめ、 ジブン は イシ も ハンダン も なにも ない モノ の ごとく、 ただ めそめそ なきながら いい だくだく と フタリ の イイツケ に したがう の でした。 ヨシコ も いれて 4 ニン、 ジブン たち は、 ずいぶん ながい こと ジドウシャ に ゆられ、 アタリ が うすぐらく なった コロ、 モリ の ナカ の おおきい ビョウイン の、 ゲンカン に トウチャク しました。
サナトリアム と ばかり おもって いました。
ジブン は わかい イシ の いやに ものやわらか な、 テイチョウ な シンサツ を うけ、 それから イシ は、
「まあ、 しばらく ここ で セイヨウ する ん です ね」
と、 まるで、 はにかむ よう に ビショウ して いい、 ヒラメ と ホリキ と ヨシコ は、 ジブン ヒトリ を おいて かえる こと に なりました が、 ヨシコ は キガエ の イルイ を いれて ある フロシキヅツミ を ジブン に てわたし、 それから だまって オビ の アイダ から チュウシャキ と ツカイノコリ の あの ヤクヒン を さしだしました。 やはり、 キョウセイザイ だ と ばかり おもって いた の でしょう か。
「いや、 もう いらない」
じつに、 めずらしい こと でした。 すすめられて、 それ を キョヒ した の は、 ジブン の それまで の ショウガイ に おいて、 その とき ただ イチド、 と いって も カゴン で ない くらい なの です。 ジブン の フコウ は、 キョヒ の ノウリョク の ない モノ の フコウ でした。 すすめられて キョヒ する と、 アイテ の ココロ にも ジブン の ココロ にも、 エイエン に シュウゼン しえない しらじらしい ヒビワレ が できる よう な キョウフ に おびやかされて いる の でした。 けれども、 ジブン は その とき、 あれほど ハンキョウラン に なって もとめて いた モルヒネ を、 じつに シゼン に キョヒ しました。 ヨシコ の いわば 「カミ の ごとき ムチ」 に うたれた の でしょう か。 ジブン は、 あの シュンカン、 すでに チュウドク で なくなって いた の では ない でしょう か。
けれども、 ジブン は それから すぐに、 あの はにかむ よう な ビショウ を する わかい イシ に アンナイ せられ、 ある ビョウトウ に いれられて、 がちゃん と カギ を おろされました。 ノウビョウイン でした。
オンナ の いない ところ へ いく と いう、 あの ジアール を のんだ とき の ジブン の おろか な ウワゴト が、 まことに キミョウ に ジツゲン せられた わけ でした。 その ビョウトウ には、 オトコ の キョウジン ばかり で、 カンゴニン も オトコ でした し、 オンナ は ヒトリ も いません でした。
イマ は もう ジブン は、 ザイニン どころ では なく、 キョウジン でした。 いいえ、 だんじて ジブン は くるって など いなかった の です。 イッシュンカン と いえど も、 くるった こと は ない ん です。 けれども、 ああ、 キョウジン は、 たいてい ジブン の こと を そう いう もの だ そう です。 つまり、 この ビョウイン に いれられた モノ は キチガイ、 いれられなかった モノ は、 ノーマル と いう こと に なる よう です。
カミ に とう。 ムテイコウ は ツミ なり や?
ホリキ の あの フシギ な うつくしい ビショウ に ジブン は なき、 ハンダン も テイコウ も わすれて ジドウシャ に のり、 そうして ここ に つれて こられて、 キョウジン と いう こと に なりました。 いまに、 ここ から でて も、 ジブン は やっぱり キョウジン、 いや、 ハイジン と いう コクイン を ヒタイ に うたれる こと でしょう。
ニンゲン、 シッカク。
もはや、 ジブン は、 カンゼン に、 ニンゲン で なくなりました。
ここ へ きた の は ショカ の コロ で、 テツ の コウシ の マド から ビョウイン の ニワ の ちいさい イケ に あかい スイレン の ハナ が さいて いる の が みえました が、 それから ミツキ たち、 ニワ に コスモス が さきはじめ、 おもいがけなく コキョウ の チョウケイ が、 ヒラメ を つれて ジブン を ヒキトリ に やって きて、 チチ が センゲツマツ に イカイヨウ で なくなった こと、 ジブン たち は もう オマエ の カコ は とわぬ、 セイカツ の シンパイ も かけない つもり、 なにも しなくて いい、 そのかわり、 いろいろ ミレン も ある だろう が すぐに トウキョウ から はなれて、 イナカ で リョウヨウ セイカツ を はじめて くれ、 オマエ が トウキョウ で しでかした こと の アトシマツ は、 だいたい シブタ が やって くれた はず だ から、 それ は キ に しない で いい、 と レイ の キマジメ な キンチョウ した よう な クチョウ で いう の でした。
コキョウ の サンガ が ガンゼン に みえる よう な キ が して きて、 ジブン は かすか に うなずきました。
まさに ハイジン。
チチ が しんだ こと を しって から、 ジブン は いよいよ ふぬけた よう に なりました。 チチ が、 もう いない、 ジブン の キョウチュウ から イッコク も はなれなかった あの なつかしく おそろしい ソンザイ が、 もう いない、 ジブン の クノウ の ツボ が カラッポ に なった よう な キ が しました。 ジブン の クノウ の ツボ が やけに おもかった の も、 あの チチ の せい だった の では なかろう か と さえ おもわれました。 まるで、 ハリアイ が ぬけました。 クノウ する ノウリョク を さえ うしないました。
チョウケイ は ジブン に たいする ヤクソク を セイカク に ジッコウ して くれました。 ジブン の うまれて そだった マチ から キシャ で 4~5 ジカン、 ナンカ した ところ に、 トウホク には めずらしい ほど あたたかい ウミベ の オンセンチ が あって、 その ムラハズレ の、 マカズ は イツツ も ある の です が、 かなり ふるい イエ らしく カベ は はげおち、 ハシラ は ムシ に くわれ、 ほとんど シュウリ の シヨウ も ない ほど の ボウオク を かいとって ジブン に あたえ、 60 に ちかい ひどい アカゲ の みにくい ジョチュウ を ヒトリ つけて くれました。
それから 3 ネン と すこし たち、 ジブン は その アイダ に その テツ と いう ロウジョチュウ に スウド ヘン な オカサレカタ を して、 ときたま フウフ-ゲンカ みたい な こと を はじめ、 ムネ の ビョウキ の ほう は イッシン イッタイ、 やせたり ふとったり、 ケッタン が でたり、 キノウ、 テツ に カルモチン を かって おいで、 と いって、 ムラ の クスリヤ に オツカイ に やったら、 イツモ の ハコ と ちがう カタチ の ハコ の カルモチン を かって きて、 べつに ジブン も キ に とめず、 ねる マエ に 10 ジョウ のんで も いっこう に ねむく ならない ので、 おかしい な と おもって いる うち に、 オナカ の グアイ が ヘン に なり いそいで ベンジョ へ いったら モウレツ な ゲリ で、 しかも、 それから ひきつづき 3 ド も ベンジョ に かよった の でした。 フシン に たえず、 クスリ の ハコ を よく みる と、 それ は ヘノモチン と いう ゲザイ でした。
ジブン は アオムケ に ねて、 オナカ に ユタンポ を のせながら、 テツ に コゴト を いって やろう と おもいました。
「これ は、 オマエ、 カルモチン じゃ ない、 ヘノモチン、 と いう」
と いいかけて、 うふふふ と わらって しまいました。 「ハイジン」 は、 どうやら これ は、 キゲキ メイシ の よう です。 ねむろう と して ゲザイ を のみ、 しかも、 その ゲザイ の ナマエ は、 ヘノモチン。
イマ は ジブン には、 コウフク も フコウ も ありません。
ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
ジブン が イマ まで アビキョウカン で いきて きた いわゆる 「ニンゲン」 の セカイ に おいて、 たった ヒトツ、 シンリ らしく おもわれた の は、 それ だけ でした。
ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
ジブン は コトシ、 27 に なります。 シラガ が めっきり ふえた ので、 タイテイ の ヒト から、 40 イジョウ に みられます。
アトガキ
この シュキ を かきつづった キョウジン を、 ワタシ は、 チョクセツ には しらない。 けれども、 この シュキ に でて くる キョウバシ の スタンド バー の マダム とも おぼしき ジンブツ を、 ワタシ は ちょっと しって いる の で ある。 コガラ で、 カオイロ の よく ない、 メ が ほそく つりあがって いて、 ハナ の たかい、 ビジン と いう より は、 ビセイネン と いった ほう が いい くらい の かたい カンジ の ヒト で あった。 この シュキ には、 どうやら、 ショウワ 5、 6、 7 ネン、 あの コロ の トウキョウ の フウケイ が おもに うつされて いる よう に おもわれる が、 ワタシ が、 その キョウバシ の スタンド バー に、 ユウジン に つれられて 2~3 ド、 たちより、 ハイボール など のんだ の は、 レイ の ニホン の 「グンブ」 が そろそろ ロコツ に あばれはじめた ショウワ 10 ネン ゼンゴ の こと で あった から、 この シュキ を かいた オトコ には、 オメ に かかる こと が できなかった わけ で ある。
しかるに、 コトシ の 2 ガツ、 ワタシ は チバ ケン フナバシ シ に ソカイ して いる ある ユウジン を たずねた。 その ユウジン は、 ワタシ の ダイガク ジダイ の いわば ガクユウ で、 イマ は ボウ-ジョシダイ の コウシ を して いる の で ある が、 じつは ワタシ は この ユウジン に ワタシ の ミウチ の モノ の エンダン を イライ して いた ので、 その ヨウジ も あり、 かたがた ナニ か シンセン な カイサンブツ でも しいれて ワタシ の イエ の モノタチ に くわせて やろう と おもい、 リュックサック を せおって フナバシ シ へ でかけて いった の で ある。
フナバシ シ は、 ドロウミ に のぞんだ かなり おおきい マチ で あった。 シン ジュウミン たる その ユウジン の イエ は、 その トチ の ヒト に トコロバンチ を つげて たずねて も、 なかなか わからない の で ある。 さむい うえ に、 リュックサック を せおった カタ が いたく なり、 ワタシ は レコード の ヴァイオリン の オト に ひかれて、 ある キッサテン の ドア を おした。
そこ の マダム に ミオボエ が あり、 たずねて みたら、 まさに、 10 ネン マエ の あの キョウバシ の ちいさい バー の マダム で あった。 マダム も、 ワタシ を すぐに おもいだして くれた ヨウス で、 たがいに おおげさ に おどろき、 わらい、 それから こんな とき の オキマリ の、 レイ の、 クウシュウ で やけだされた オタガイ の ケイケン を とわれ も せぬ のに、 いかにも ジマン-らしく かたりあい、
「アナタ は、 しかし、 かわらない」
「いいえ、 もう オバアサン。 カラダ が、 がたぴし です。 アナタ こそ、 おわかい わ」
「とんでもない、 コドモ が もう 3 ニン も ある ん だよ。 キョウ は ソイツラ の ため に カイダシ」
など と、 これ も また ヒサシブリ で あった モノ ドウシ の オキマリ の アイサツ を かわし、 それから、 フタリ に キョウツウ の チジン の ソノゴ の ショウソク を たずねあったり して、 その うち に、 ふと マダム は クチョウ を あらため、 アナタ は ヨウ ちゃん を しって いた かしら、 と いう。 それ は しらない、 と こたえる と、 マダム は、 オク へ いって、 3 サツ の ノートブック と、 3 ヨウ の シャシン を もって きて ワタシ に てわたし、
「ナニ か、 ショウセツ の ザイリョウ に なる かも しれません わ」
と いった。
ワタシ は、 ヒト から おしつけられた ザイリョウ で モノ を かけない タチ なので、 すぐに その バ で かえそう か と おもった が、 (3 ヨウ の シャシン、 その キカイサ に ついて は、 ハシガキ にも かいて おいた) その シャシン に ココロ を ひかれ、 とにかく ノート を あずかる こと に して、 カエリ には また ここ へ たちよります が、 ナニマチ ナン-バンチ の ナニ さん、 ジョシダイ の センセイ を して いる ヒト の イエ を ゴゾンジ ない か、 と たずねる と、 やはり シン ジュウミン ドウシ、 しって いた。 ときたま、 この キッサテン にも おみえ に なる と いう。 すぐ キンジョ で あった。
その ヨル、 ユウジン と わずか な オサケ を くみかわし、 とめて もらう こと に して、 ワタシ は アサ まで イッスイ も せず に、 レイ の ノート に よみふけった。
その シュキ に かかれて ある の は、 ムカシ の ハナシ では あった が、 しかし、 ゲンダイ の ヒトタチ が よんで も、 かなり の キョウミ を もつ に ちがいない。 ヘタ に ワタシ の フデ を くわえる より は、 これ は このまま、 どこ か の ザッシシャ に たのんで ハッピョウ して もらった ほう が、 なお、 ユウイギ な こと の よう に おもわれた。
コドモ たち への ミヤゲ の カイサンブツ は、 ヒモノ だけ。 ワタシ は、 リュックサック を せおって ユウジン の モト を じし、 レイ の キッサテン に たちより、
「キノウ は、 どうも。 ところで、……」
と すぐに きりだし、
「この ノート は、 しばらく かして いただけません か」
「ええ、 どうぞ」
「この ヒト は、 まだ いきて いる の です か?」
「さあ、 それ が、 さっぱり わからない ん です。 10 ネン ほど マエ に、 キョウバシ の オミセ-アテ に、 その ノート と シャシン の コヅツミ が おくられて きて、 サシダシニン は ヨウ ちゃん に きまって いる の です が、 その コヅツミ には、 ヨウ ちゃん の ジュウショ も、 ナマエ さえ も かいて いなかった ん です。 クウシュウ の とき、 ホカ の もの に まぎれて、 これ も フシギ に たすかって、 ワタシ は こないだ はじめて、 ゼンブ よんで みて、……」
「なきました か?」
「いいえ、 なく と いう より、 ……ダメ ね、 ニンゲン も、 ああ なって は、 もう ダメ ね」
「それから 10 ネン、 と する と、 もう なくなって いる かも しれない ね。 これ は、 アナタ への オレイ の つもり で おくって よこした の でしょう。 たしょう、 コチョウ して かいて いる よう な ところ も ある けど、 しかし、 アナタ も、 そうとう ひどい ヒガイ を こうむった よう です ね。 もし、 これ が ゼンブ ジジツ だったら、 そうして ボク が この ヒト の ユウジン だったら、 やっぱり ノウビョウイン に つれて いきたく なった かも しれない」
「あの ヒト の オトウサン が わるい の です よ」
なにげなさそう に、 そう いった。
「ワタシタチ の しって いる ヨウ ちゃん は、 とても すなお で、 よく キ が きいて、 あれ で オサケ さえ のまなければ、 いいえ、 のんで も、 ……カミサマ みたい な いい コ でした」
ホリキ と ジブン。
たがいに ケイベツ しながら つきあい、 そうして たがいに ミズカラ を くだらなく して ゆく、 それ が コノヨ の いわゆる 「コウユウ」 と いう もの の スガタ だ と する なら、 ジブン と ホリキ との アイダガラ も、 まさしく 「コウユウ」 に チガイ ありません でした。
ジブン が あの キョウバシ の スタンド バー の マダム の ギキョウシン に すがり、 (オンナ の ヒト の ギキョウシン なんて、 コトバ の キミョウ な ツカイカタ です が、 しかし、 ジブン の ケイケン に よる と、 すくなくとも トカイ の ダンジョ の バアイ、 オトコ より も オンナ の ほう が、 その、 ギキョウシン と でも いう べき もの を たっぷり と もって いました。 オトコ は たいてい、 おっかなびっくり で、 オテイサイ ばかり かざり、 そうして、 ケチ でした) あの タバコヤ の ヨシコ を ナイエン の ツマ に する こと が できて、 そうして、 ツキジ、 スミダガワ の チカク、 モクゾウ の 2 カイ-ダテ の ちいさい アパート の カイカ の イッシツ を かり、 フタリ で すみ、 サケ は やめて、 そろそろ ジブン の きまった ショクギョウ に なりかけて きた マンガ の シゴト に セイ を だし、 ユウショク-ゴ は フタリ で エイガ を み に でかけ、 カエリ には、 キッサテン など に はいり、 また、 ハナ の ハチ を かったり して、 いや、 それ より も ジブン を しんから シンライ して くれて いる この ちいさい ハナヨメ の コトバ を きき、 ドウサ を みて いる の が たのしく、 これ は ジブン も ひょっと したら、 いまに だんだん ニンゲン-らしい もの に なる こと が できて、 ヒサン な シニカタ など せず に すむ の では なかろう か と いう あまい オモイ を かすか に ムネ に あたためはじめて いた ヤサキ に、 ホリキ が また ジブン の ガンゼン に あらわれました。
「よう! シキマ。 おや? これ でも、 いくらか ふんべつくさい カオ に なりやがった。 キョウ は、 コウエンジ ジョシ から の オシシャ なん だ がね」
と いいかけて、 キュウ に コエ を ひそめ、 オカッテ で オチャ の シタク を して いる ヨシコ の ほう を アゴ で しゃくって、 だいじょうぶ かい? と たずねます ので、
「かまわない。 ナニ を いって も いい」
と ジブン は おちついて こたえました。
じっさい、 ヨシコ は、 シンライ の テンサイ と いいたい くらい、 キョウバシ の バー の マダム との アイダ は もとより、 ジブン が カマクラ で おこした ジケン を しらせて やって も、 ツネコ との アイダ を うたがわず、 それ は ジブン が ウソ が うまい から と いう わけ では なく、 ときには、 あからさま な イイカタ を する こと さえ あった のに、 ヨシコ には、 それ が みな ジョウダン と しか ききとれぬ ヨウス でした。
「あいかわらず、 しょって いやがる。 なに、 たいした こと じゃ ない がね、 たまに は、 コウエンジ の ほう へも あそび に きて くれ って いう ゴデンゴン さ」
わすれかける と、 ケチョウ が はばたいて やって きて、 キオク の キズグチ を その クチバシ で つきやぶります。 たちまち カコ の ハジ と ツミ の キオク が、 ありあり と ガンゼン に テンカイ せられ、 わあっ と さけびたい ほど の キョウフ で、 すわって おられなく なる の です。
「のもう か」
と ジブン。
「よし」
と ホリキ。
ジブン と ホリキ。 カタチ は、 フタリ にて いました。 そっくり の ニンゲン の よう な キ が する こと も ありました。 もちろん それ は、 やすい サケ を あちこち のみあるいて いる とき だけ の こと でした が、 とにかく、 フタリ カオ を あわせる と、 みるみる おなじ カタチ の おなじ ケナミ の イヌ に かわり コウセツ の チマタ を かけめぐる と いう グアイ に なる の でした。
その ヒ イライ、 ジブン たち は ふたたび キュウコウ を あたためた と いう カタチ に なり、 キョウバシ の あの ちいさい バー にも イッショ に ゆき、 そうして、 とうとう、 コウエンジ の シヅコ の アパート にも その デイスイ の 2 ヒキ の イヌ が ホウモン し、 シュクハク して かえる など と いう こと に さえ なって しまった の です。
わすれ も、 しません。 むしあつい ナツ の ヨル でした。 ホリキ は ヒグレ-ゴロ、 よれよれ の ユカタ を きて ツキジ の ジブン の アパート に やって きて、 キョウ ある ヒツヨウ が あって ナツフク を シチイレ した が、 その シチイレ が ロウボ に しれる と まことに グアイ が わるい、 すぐ うけだしたい から、 とにかく カネ を かして くれ、 と いう こと でした。 あいにく ジブン の ところ にも、 オカネ が なかった ので、 レイ に よって、 ヨシコ に いいつけ、 ヨシコ の イルイ を シチヤ に もって ゆかせて オカネ を つくり、 ホリキ に かして も、 まだ すこし あまる ので その ザンキン で ヨシコ に ショウチュウ を かわせ、 アパート の オクジョウ に ゆき、 スミダガワ から ときたま かすか に ふいて くる どぶくさい カゼ を うけて、 まことに うすぎたない ノウリョウ の エン を はりました。
ジブン たち は その とき、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の アテッコ を はじめました。 これ は、 ジブン の ハツメイ した ユウギ で、 メイシ には、 すべて ダンセイ メイシ、 ジョセイ メイシ、 チュウセイ メイシ など の ベツ が ある けれども、 それ と ドウジ に、 キゲキ メイシ、 ヒゲキ メイシ の クベツ が あって しかるべき だ、 たとえば、 キセン と キシャ は いずれ も ヒゲキ メイシ で、 シデン と バス は、 いずれ も キゲキ メイシ、 なぜ そう なの か、 それ の わからぬ モノ は ゲイジュツ を だんずる に たらん、 キゲキ に 1 コ でも ヒゲキ メイシ を さしはさんで いる ゲキサクカ は、 すでに それ だけ で ラクダイ、 ヒゲキ の バアイ も また しかり、 と いった よう な わけ なの でした。
「いい かい? タバコ は?」
と ジブン が といます。
「トラ (トラジディ の リャク)」
と ホリキ が ゲンカ に こたえます。
「クスリ は?」
「コナグスリ かい? ガンヤク かい?」
「チュウシャ」
「トラ」
「そう かな? ホルモン チュウシャ も ある し ねえ」
「いや、 だんぜん トラ だ。 ハリ が だいいち、 オマエ、 リッパ な トラ じゃ ない か」
「よし、 まけて おこう。 しかし、 キミ、 クスリ や イシャ は ね、 あれ で あんがい、 コメ (コメディ の リャク) なん だぜ。 シ は?」
「コメ。 ボクシ も オショウ も しかり じゃ ね」
「オオデキ。 そうして、 セイ は トラ だなあ」
「ちがう。 それ も、 コメ」
「いや、 それ では、 なんでも かでも みな コメ に なって しまう。 では ね、 もう ヒトツ おたずね する が、 マンガカ は? よもや、 コメ とは いえません でしょう?」
「トラ、 トラ。 ダイ ヒゲキ メイシ!」
「ナン だ、 オオトラ は キミ の ほう だぜ」
こんな、 ヘタ な ダジャレ みたい な こと に なって しまって は、 つまらない の です けど、 しかし ジブン たち は その ユウギ を、 セカイ の サロン にも かつて そんしなかった すこぶる キ の きいた もの だ と トクイ-がって いた の でした。
また もう ヒトツ、 これ に にた ユウギ を トウジ、 ジブン は ハツメイ して いました。 それ は、 アントニム の アテッコ でした。 クロ の アント (アントニム の リャク) は、 シロ。 けれども、 シロ の アント は、 アカ。 アカ の アント は、 クロ。
「ハナ の アント は?」
と ジブン が とう と、 ホリキ は クチ を まげて かんがえ、
「ええっと、 カゲツ と いう リョウリヤ が あった から、 ツキ だ」
「いや、 それ は アント に なって いない。 むしろ、 シノニム だ。 ホシ と スミレ だって、 シノニム じゃ ない か。 アント で ない」
「わかった、 それ は ね、 ハチ だ」
「ハチ?」
「ボタン に、 ……アリ か?」
「なあん だ、 それ は モチーフ だ。 ごまかしちゃ いけない」
「わかった! ハナ に ムラクモ、……」
「ツキ に ムラクモ だろう」
「そう、 そう。 ハナ に カゼ。 カゼ だ。 ハナ の アント は、 カゼ」
「まずい なあ、 それ は ナニワブシ の モンク じゃ ない か。 オサト が しれる ぜ」
「いや、 ビワ だ」
「なお いけない。 ハナ の アント は ね、 ……およそ コノヨ で もっとも ハナ-らしく ない もの、 それ を こそ あげる べき だ」
「だから、 その、 ……まて よ、 なあん だ、 オンナ か」
「ついでに、 オンナ の シノニム は?」
「ゾウモツ」
「キミ は、 どうも、 ポエジー を しらん ね。 それじゃあ、 ゾウモツ の アント は?」
「ギュウニュウ」
「これ は、 ちょっと うまい な。 その チョウシ で もう ヒトツ。 ハジ。 オント の アント」
「ハジシラズ さ。 リュウコウ マンガカ ジョウシ イクタ」
「ホリキ マサオ は?」
この ヘン から フタリ だんだん わらえなく なって、 ショウチュウ の ヨイ トクユウ の、 あの ガラス の ハヘン が アタマ に ジュウマン して いる よう な、 インウツ な キブン に なって きた の でした。
「ナマイキ いうな。 オレ は まだ オマエ の よう に、 ナワメ の チジョク など うけた こと が ねえ ん だ」
ぎょっと しました。 ホリキ は ナイシン、 ジブン を、 マニンゲン アツカイ に して いなかった の だ、 ジブン を ただ、 シニゾコナイ の、 ハジシラズ の、 アホウ の バケモノ の、 いわば 「いける シカバネ」 と しか かいして くれず、 そうして、 カレ の カイラク の ため に、 ジブン を リヨウ できる ところ だけ は リヨウ する、 それっきり の 「コウユウ」 だった の だ、 と おもったら、 さすが に いい キモチ は しません でした が、 しかし また、 ホリキ が ジブン を そのよう に みて いる の も、 もっとも な ハナシ で、 ジブン は ムカシ から、 ニンゲン の シカク の ない みたい な コドモ だった の だ、 やっぱり ホリキ に さえ ケイベツ せられて シトウ なの かも しれない、 と かんがえなおし、
「ツミ。 ツミ の アントニム は、 ナン だろう。 これ は、むずかしい ぞ」
と なにげなさそう な ヒョウジョウ を よそおって、 いう の でした。
「ホウリツ さ」
ホリキ が へいぜん と そう こたえました ので、 ジブン は ホリキ の カオ を みなおしました。 チカク の ビル の メイメツ する ネオン サイン の あかい ヒカリ を うけて、 ホリキ の カオ は、 オニケイジ の ごとく イゲン ありげ に みえました。 ジブン は、 つくづく あきれかえり、
「ツミ って の は、 キミ、 そんな もの じゃ ない だろう」
ツミ の タイギゴ が、 ホウリツ とは! しかし、 セケン の ヒトタチ は、 ミンナ それ くらい に カンタン に かんがえて、 すまして くらして いる の かも しれません。 ケイジ の いない ところ に こそ ツミ が うごめいて いる、 と。
「それじゃあ、 ナン だい、 カミ か? オマエ には、 どこ か ヤソ ボウズ-くさい ところ が ある から な。 イヤミ だぜ」
「まあ そんな に、 かるく かたづけるな よ。 もすこし、 フタリ で かんがえて みよう。 これ は でも、 おもしろい テーマ じゃ ない か。 この テーマ に たいする コタエ ヒトツ で、 その ヒト の ゼンブ が わかる よう な キ が する の だ」
「まさか。 ……ツミ の アント は、 ゼン さ。 ゼンリョウ なる シミン。 つまり、 オレ みたい な モノ さ」
「ジョウダン は、 よそう よ。 しかし、 ゼン は アク の アント だ。 ツミ の アント では ない」
「アク と ツミ とは ちがう の かい?」
「ちがう、 と おもう。 ゼンアク の ガイネン は ニンゲン が つくった もの だ。 ニンゲン が カッテ に つくった ドウトク の コトバ だ」
「うるせえ なあ。 それじゃ、 やっぱり、 カミ だろう。 カミ、 カミ。 なんでも、 カミ に して おけば マチガイ ない。 ハラ が へった なあ」
「イマ、 シタ で ヨシコ が ソラマメ を にて いる」
「ありがてえ。 コウブツ だ」
リョウテ を アタマ の ウシロ に くんで、 アオムケ に ごろり と ねました。
「キミ には、 ツミ と いう もの が、 まるで キョウミ ない らしい ね」
「そりゃ そう さ、 オマエ の よう に、 ザイニン では ない ん だ から。 オレ は ドウラク は して も、 オンナ を しなせたり、 オンナ から カネ を まきあげたり なんか は しねえ よ」
しなせた の では ない、 まきあげた の では ない、 と ココロ の どこ か で かすか な、 けれども ヒッシ の コウギ の コエ が おこって も、 しかし、 また、 いや ジブン が わるい の だ と すぐに おもいかえして しまう この シュウヘキ。
ジブン には、 どうしても、 ショウメン きって の ギロン が できません。 ショウチュウ の インウツ な ヨイ の ため に こくいっこく、 キモチ が けわしく なって くる の を ケンメイ に おさえて、 ほとんど ヒトリゴト の よう に して いいました。
「しかし、 ロウヤ に いれられる こと だけ が ツミ じゃ ない ん だ。 ツミ の アント が わかれば、 ツミ の ジッタイ も つかめる よう な キ が する ん だ けど、 ……カミ、 ……スクイ、 ……アイ、 ……ヒカリ、 ……しかし、 カミ には サタン と いう アント が ある し、 スクイ の アント は クノウ だろう し、 アイ には ニクシミ、 ヒカリ には ヤミ と いう アント が あり、 ゼン には アク、 ツミ と イノリ、 ツミ と クイ、 ツミ と コクハク、 ツミ と、 ……ああ、 みんな シノニム だ、 ツミ の ツイゴ は ナン だ」
「ツミ の ツイゴ は、 ミツ さ。 ミツ の ごとく あまし だ。 ハラ が へった なあ。 ナニ か くう もの を もって こい よ」
「キミ が もって きたら いい じゃ ない か!」
ほとんど うまれて はじめて と いって いい くらい の、 はげしい イカリ の コエ が でました。
「ようし、 それじゃ、 シタ へ いって、 ヨシ ちゃん と フタリ で ツミ を おかして こよう。 ギロン より ジッチ ケンブン。 ツミ の アント は、 ミツマメ、 いや、 ソラマメ か」
ほとんど、 ロレツ の まわらぬ くらい に よって いる の でした。
「カッテ に しろ。 どこ か へ いっちまえ!」
「ツミ と クウフク、 クウフク と ソラマメ、 いや、 これ は シノニム か」
デタラメ を いいながら おきあがります。
ツミ と バツ。 ドストイエフスキー。 ちらと それ が、 ズノウ の カタスミ を かすめて とおり、 はっと おもいました。 もしも、 あの ドスト シ が、 ツミ と バツ を シノニム と かんがえず、 アントニム と して おきならべた もの と したら? ツミ と バツ、 ゼッタイ に あいつうぜざる もの、 ヒョウタン あいいれざる もの。 ツミ と バツ を アント と して かんがえた ドスト の アオミドロ、 くさった イケ、 ランマ の オクソコ の、 ……ああ、 わかりかけた、 いや、 まだ、 ……など と ズノウ に ソウマトウ が くるくる まわって いた とき に、
「おい! とんだ、 ソラマメ だ。 こい!」
ホリキ の コエ も カオイロ も かわって います。 ホリキ は、 たったいま ふらふら おきて シタ へ いった、 か と おもう と また ひきかえして きた の です。
「ナン だ」
イヨウ に サッキ-だち、 フタリ、 オクジョウ から 2 カイ へ おり、 2 カイ から、 さらに カイカ の ジブン の ヘヤ へ おりる カイダン の チュウト で ホリキ は たちどまり、
「みろ!」
と コゴエ で いって ゆびさします。
ジブン の ヘヤ の ウエ の コマド が あいて いて、 そこ から ヘヤ の ナカ が みえます。 デンキ が ついた まま で、 2 ヒキ の ドウブツ が いました。
ジブン は、 ぐらぐら メマイ しながら、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 これ も また ニンゲン の スガタ だ、 おどろく こと は ない、 など はげしい コキュウ と ともに ムネ の ナカ で つぶやき、 ヨシコ を たすける こと も わすれ、 カイダン に たちつくして いました。
ホリキ は、 おおきい セキバライ を しました。 ジブン は、 ヒトリ にげる よう に また オクジョウ に かけあがり、 ねころび、 アメ を ふくんだ ナツ の ヨゾラ を あおぎ、 その とき ジブン を おそった カンジョウ は、 イカリ でも なく、 ケンオ でも なく、 また、 カナシミ でも なく、 ものすさまじい キョウフ でした。 それ も、 ボチ の ユウレイ など に たいする キョウフ では なく、 ジンジャ の スギコダチ で ハクイ の ゴシンタイ に あった とき に かんずる かも しれない よう な、 しのごの いわさぬ コダイ の あらあらしい キョウフカン でした。 ジブン の ワカジラガ は、 その ヨ から はじまり、 いよいよ、 スベテ に ジシン を うしない、 いよいよ、 ヒト を そこしれず うたがい、 コノヨ の イトナミ に たいする イッサイ の キタイ、 ヨロコビ、 キョウメイ など から エイエン に はなれる よう に なりました。 じつに、 それ は ジブン の ショウガイ に おいて、 ケッテイテキ な ジケン でした。 ジブン は、 マッコウ から ミケン を わられ、 そうして それ イライ その キズ は、 どんな ニンゲン に でも セッキン する ごと に いたむ の でした。
「ドウジョウ は する が、 しかし、 オマエ も これ で、 すこし は おもいしったろう。 もう、 オレ は、 ニド と ここ へは こない よ。 まるで、 ジゴク だ。 ……でも、 ヨシ ちゃん は、 ゆるして やれ。 オマエ だって、 どうせ、 ろく な ヤツ じゃ ない ん だ から。 シッケイ する ぜ」
きまずい バショ に、 ながく とどまって いる ほど マ の ぬけた ホリキ では ありません でした。
ジブン は おきあがって、 ヒトリ で ショウチュウ を のみ、 それから、 おいおい コエ を はなって なきました。 いくらでも、 いくらでも なける の でした。
いつのまにか、 ハイゴ に、 ヨシコ が、 ソラマメ を ヤマモリ に した オサラ を もって ぼんやり たって いました。
「なんにも、 しない から って いって、……」
「いい。 なにも いうな。 オマエ は、 ヒト を うたがう こと を しらなかった ん だ。 おすわり。 マメ を たべよう」
ならんで すわって マメ を たべました。 ああ、 シンライ は ツミ なり や? アイテ の オトコ は、 ジブン に マンガ を かかせて は、 わずか な オカネ を もったいぶって おいて ゆく 30 サイ ゼンゴ の ムガク な コオトコ の ショウニン なの でした。
さすが に その ショウニン は、 ソノゴ やって は きません でした が、 ジブン には、 どうして だ か、 その ショウニン に たいする ゾウオ より も、 サイショ に みつけた すぐ その とき に おおきい セキバライ も なにも せず、 そのまま ジブン に しらせ に また オクジョウ に ひきかえして きた ホリキ に たいする ニクシミ と イカリ が、 ねむられぬ ヨル など に むらむら おこって うめきました。
ゆるす も、 ゆるさぬ も ありません。 ヨシコ は シンライ の テンサイ なの です。 ヒト を うたがう こと を しらなかった の です。 しかし、 それ ゆえ の ヒサン。
カミ に とう。 シンライ は ツミ なり や。
ヨシコ が けがされた と いう こと より も、 ヨシコ の シンライ が けがされた と いう こと が、 ジブン に とって その ノチ ながく、 いきて おられない ほど の クノウ の タネ に なりました。 ジブン の よう な、 いやらしく おどおど して、 ヒト の カオイロ ばかり うかがい、 ヒト を しんじる ノウリョク が、 ひびわれて しまって いる モノ に とって、 ヨシコ の ムク の シンライシン は、 それこそ アオバ の タキ の よう に すがすがしく おもわれて いた の です。 それ が イチヤ で、 きいろい オスイ に かわって しまいました。 みよ、 ヨシコ は、 その ヨ から ジブン の イッピン イッショウ に さえ キ を つかう よう に なりました。
「おい」
と よぶ と、 ぴくっと して、 もう メ の ヤリバ に こまって いる ヨウス です。 どんな に ジブン が わらわせよう と して、 オドウケ を いって も、 おろおろ し、 びくびく し、 やたら に ジブン に ケイゴ を つかう よう に なりました。
はたして、 ムク の シンライシン は、 ツミ の ゲンセン なり や。
ジブン は、 ヒトヅマ の おかされた モノガタリ の ホン を、 いろいろ さがして よんで みました。 けれども、 ヨシコ ほど ヒサン な オカサレカタ を して いる オンナ は、 ヒトリ も ない と おもいました。 どだい、 これ は、 てんで モノガタリ にも なにも なりません。 あの コオトコ の ショウニン と、 ヨシコ との アイダ に、 すこし でも コイ に にた カンジョウ でも あった なら、 ジブン の キモチ も かえって たすかる かも しれません が、 ただ、 ナツ の イチヤ、 ヨシコ が シンライ して、 そうして、 それっきり、 しかも その ため に ジブン の ミケン は、 マッコウ から わられ コエ が しゃがれて ワカジラガ が はじまり、 ヨシコ は イッショウ おろおろ しなければ ならなく なった の です。 タイテイ の モノガタリ は、 その ツマ の 「コウイ」 を オット が ゆるす か どう か、 そこ に ジュウテン を おいて いた よう でした が、 それ は ジブン に とって は、 そんな に くるしい ダイモンダイ では ない よう に おもわれました。 ゆるす、 ゆるさぬ、 そのよう な ケンリ を リュウホ して いる オット こそ サイワイ なる かな、 とても ゆるす こと が できぬ と おもった なら、 なにも そんな に オオサワギ せず とも、 さっさと ツマ を リエン して、 あたらしい ツマ を むかえたら どう だろう、 それ が できなかったら、 いわゆる 「ゆるして」 ガマン する さ、 いずれ に して も オット の キモチ ヒトツ で シホウ ハッポウ が まるく おさまる だろう に、 と いう キ さえ する の でした。 つまり、 そのよう な ジケン は、 たしか に オット に とって おおいなる ショック で あって も、 しかし、 それ は 「ショック」 で あって、 いつまでも つきる こと なく うちかえし うちよせる ナミ と ちがい、 ケンリ の ある オット の イカリ で もって どう に でも ショリ できる トラブル の よう に ジブン には おもわれた の でした。 けれども、 ジブン たち の バアイ、 オット に なんの ケンリ も なく、 かんがえる と なにもかも ジブン が わるい よう な キ が して きて、 おこる どころ か、 オコゴト ヒトツ も いえず、 また、 その ツマ は、 その ショユウ して いる まれ な ビシツ に よって おかされた の です。 しかも、 その ビシツ は、 オット の かねて アコガレ の、 ムク の シンライシン と いう たまらなく カレン な もの なの でした。
ムク の シンライシン は、 ツミ なり や。
ユイイツ の タノミ の ビシツ に さえ、 ギワク を いだき、 ジブン は、 もはや なにもかも、 ワケ が わからなく なり、 おもむく ところ は、 ただ アルコール だけ に なりました。 ジブン の カオ の ヒョウジョウ は キョクド に いやしく なり、 アサ から ショウチュウ を のみ、 ハ が ぼろぼろ に かけて、 マンガ も ほとんど ワイガ に ちかい もの を かく よう に なりました。 いいえ、 はっきり いいます。 ジブン は その コロ から、 シュンガ の コピー を して ミツバイ しました。 ショウチュウ を かう オカネ が ほしかった の です。 いつも ジブン から シセン を はずして おろおろ して いる ヨシコ を みる と、 コイツ は まったく ケイカイ を しらぬ オンナ だった から、 あの ショウニン と イチド だけ では なかった の では なかろう か、 また、 ホリキ は? いや、 あるいは ジブン の しらない ヒト とも? と ギワク は ギワク を うみ、 さりとて おもいきって それ を といただす ユウキ も なく、 レイ の フアン と キョウフ に のたうちまわる オモイ で、 ただ ショウチュウ を のんで よって は、 わずか に ヒクツ な ユウドウ ジンモン みたい な もの を おっかなびっくり こころみ、 ナイシン おろかしく イッキ イチユウ し、 ウワベ は、 やたら に おどけて、 そうして、 それから、 ヨシコ に いまわしい ジゴク の アイブ を くわえ、 ドロ の よう に ねむりこける の でした。
その トシ の クレ、 ジブン は ヨル おそく デイスイ して キタク し、 サトウミズ を のみたく、 ヨシコ は ねむって いる よう でした から、 ジブン で オカッテ に ゆき サトウツボ を さがしだし、 フタ を あけて みたら サトウ は なにも はいって なくて、 くろく ほそながい カミ の コバコ が はいって いました。 なにげなく テ に とり、 その ハコ に はられて ある レッテル を みて がくぜん と しました。 その レッテル は、 ツメ で ハンブン イジョウ も かきはがされて いました が、 ヨウジ の ブブン が のこって いて、 それ に はっきり かかれて いました。 DIAL。
ジアール。 ジブン は その コロ もっぱら ショウチュウ で、 サイミンザイ を もちいて は いません でした が、 しかし、 フミン は ジブン の ジビョウ の よう な もの でした から、 タイテイ の サイミンザイ には オナジミ でした。 ジアール の この ハコ ヒトツ は、 たしか に チシリョウ イジョウ の はず でした。 まだ ハコ の フウ を きって は いません でした が、 しかし、 いつかは、 やる キ で こんな ところ に、 しかも レッテル を かきはがしたり など して かくして いた の に チガイ ありません。 かわいそう に、 あの コ には レッテル の ヨウジ が よめない ので、 ツメ で ハンブン かきはがして、 これ で だいじょうぶ と おもって いた の でしょう。 (オマエ に ツミ は ない)
ジブン は、 オト を たてない よう に そっと コップ に ミズ を みたし、 それから、 ゆっくり ハコ の フウ を きって、 ゼンブ、 イッキ に クチ の ナカ に ほうり、 コップ の ミズ を おちついて のみほし、 デントウ を けして そのまま ねました。
3 チュウヤ、 ジブン は しんだ よう に なって いた そう です。 イシャ は カシツ と みなして、 ケイサツ に とどける の を ユウヨ して くれた そう です。 カクセイ しかけて、 いちばん サキ に つぶやいた ウワゴト は、 ウチ へ かえる、 と いう コトバ だった そう です。 ウチ とは、 どこ の こと を さして いった の か、 とうの ジブン にも、 よく わかりません が、 とにかく、 そう いって、 ひどく ないた そう です。
しだいに キリ が はれて、 みる と、 マクラモト に ヒラメ が、 ひどく フキゲン な カオ を して すわって いました。
「コノマエ も、 トシ の クレ の こと でして ね、 おたがい もう、 メ が まわる くらい いそがしい のに、 いつも、 トシ の クレ を ねらって、 こんな こと を やられた ヒ には、 こっち の イノチ が たまらない」
ヒラメ の ハナシ の キキテ に なって いる の は、 キョウバシ の バー の マダム でした。
「マダム」
と ジブン は よびました。
「うん、 ナニ? キ が ついた?」
マダム は ワライガオ を ジブン の カオ の ウエ に かぶせる よう に して いいました。
ジブン は、 ぽろぽろ ナミダ を ながし、
「ヨシコ と わかれさせて」
ジブン でも おもいがけなかった コトバ が でました。
マダム は ミ を おこし、 かすか な タメイキ を もらしました。
それから ジブン は、 これ も また じつに おもいがけない コッケイ とも あほうらしい とも、 ケイヨウ に くるしむ ほど の シツゲン を しました。
「ボク は、 オンナ の いない ところ に いく ん だ」
うわっはっは、 と まず、 ヒラメ が オオゴエ を あげて わらい、 マダム も くすくす わらいだし、 ジブン も ナミダ を ながしながら セキメン の テイ に なり、 クショウ しました。
「うん、 その ほう が いい」
と ヒラメ は、 いつまでも だらしなく わらいながら、
「オンナ の いない ところ に いった ほう が よい。 オンナ が いる と、 どうも いけない。 オンナ の いない ところ とは、 いい オモイツキ です」
オンナ の いない ところ。 しかし、 この ジブン の あほうくさい ウワゴト は、 ノチ に いたって、 ヒジョウ に インサン に ジツゲン せられました。
ヨシコ は、 ナニ か、 ジブン が ヨシコ の ミガワリ に なって ドク を のんだ と でも おもいこんで いる らしく、 イゼン より も なお いっそう、 ジブン に たいして、 おろおろ して、 ジブン が ナニ を いって も わらわず、 そうして ろくに クチ も きけない よう な アリサマ なので、 ジブン も アパート の ヘヤ の ナカ に いる の が、 うっとうしく、 つい ソト へ でて、 あいかわらず やすい サケ を あおる こと に なる の でした。 しかし、 あの ジアール の イッケン イライ、 ジブン の カラダ が めっきり やせほそって、 テアシ が だるく、 マンガ の シゴト も なまけがち に なり、 ヒラメ が あの とき、 ミマイ と して おいて いった オカネ (ヒラメ は それ を、 シブタ の ココロザシ です、 と いって いかにも ゴジシン から でた オカネ の よう に して さしだしました が、 これ も コキョウ の アニ たち から の オカネ の よう でした。 ジブン も その コロ には、 ヒラメ の イエ から にげだした あの とき と ちがって、 ヒラメ の そんな もったいぶった シバイ を、 おぼろげ ながら みぬく こと が できる よう に なって いました ので、 こちら も ずるく、 まったく きづかぬ フリ を して、 シンミョウ に その オカネ の オレイ を ヒラメ に むかって もうしあげた の でした が、 しかし、 ヒラメ たち が、 なぜ、 そんな ややこしい カラクリ を やらかす の か、 わかるよう な、 わからない よう な、 どうしても ジブン には、 ヘン な キ が して なりません でした) その オカネ で、 おもいきって ヒトリ で ミナミ イズ の オンセン に いって みたり など しました が、 とても そんな ユウチョウ な オンセン メグリ など できる ガラ では なく、 ヨシコ を おもえば ワビシサ かぎりなく、 ヤド の ヘヤ から ヤマ を ながめる など の おちついた シンキョウ には はなはだ とおく、 ドテラ にも きがえず、 オユ にも はいらず、 ソト へ とびだして は うすぎたない チャミセ みたい な ところ に とびこんで、 ショウチュウ を、 それこそ あびる ほど のんで、 カラダグアイ を いっそう わるく して キキョウ した だけ の こと でした。
トウキョウ に オオユキ の ふった ヨル でした。 ジブン は よって ギンザ ウラ を、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 ここ は オクニ を ナンビャクリ、 と コゴエ で くりかえし くりかえし つぶやく よう に うたいながら、 なおも ふりつもる ユキ を クツサキ で けちらして あるいて、 とつぜん、 はきました。 それ は ジブン の サイショ の カッケツ でした。 ユキ の ウエ に、 おおきい ヒノマル の ハタ が できました。 ジブン は、 しばらく しゃがんで、 それから、 よごれて いない カショ の ユキ を リョウテ で すくいとって、 カオ を あらいながら なきました。
こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
こうこ は、 どうこ の ホソミチ じゃ?
あわれ な ドウジョ の ウタゴエ が、 ゲンチョウ の よう に、 かすか に トオク から きこえます。 フコウ。 コノヨ には、 サマザマ の フコウ な ヒト が、 いや、 フコウ な ヒト ばかり、 と いって も カゴン では ない でしょう が、 しかし、 その ヒトタチ の フコウ は、 いわゆる セケン に たいして どうどう と コウギ が でき、 また 「セケン」 も その ヒトタチ の コウギ を ヨウイ に リカイ し ドウジョウ します。 しかし、 ジブン の フコウ は、 すべて ジブン の ザイアク から なので、 ダレ にも コウギ の シヨウ が ない し、 また くちごもりながら ヒトコト でも コウギ-めいた こと を いいかける と、 ヒラメ ならず とも セケン の ヒトタチ ゼンブ、 よくも まあ そんな クチ が きけた もの だ と あきれかえる に ちがいない し、 ジブン は いったい ぞくに いう 「ワガママモノ」 なの か、 または その ハンタイ に、 キ が よわすぎる の か、 ジブン でも ワケ が わからない けれども、 とにかく ザイアク の カタマリ らしい ので、 どこまでも おのずから どんどん フコウ に なる ばかり で、 ふせぎとめる グタイサク など ない の です。
ジブン は たって、 とりあえず ナニ か テキトウ な クスリ を と おもい、 チカク の クスリヤ に はいって、 そこ の オクサン と カオ を みあわせ、 シュンカン、 オクサン は、 フラッシュ を あびた みたい に クビ を あげ メ を みはり、 ボウダチ に なりました。 しかし、 その みはった メ には、 キョウガク の イロ も ケンオ の イロ も なく、 ほとんど スクイ を もとめる よう な、 したう よう な イロ が あらわれて いる の でした。 ああ、 この ヒト も、 きっと フコウ な ヒト なの だ、 フコウ な ヒト は、 ヒト の フコウ にも ビンカン な もの なの だ から、 と おもった とき、 ふと、 その オクサン が マツバヅエ を ついて あぶなっかしく たって いる の に キ が つきました。 かけよりたい オモイ を おさえて、 なおも その オクサン と カオ を みあわせて いる うち に ナミダ が でて きました。 すると、 オクサン の おおきい メ から も、 ナミダ が ぽろぽろ と あふれて でました。
それっきり、 ヒトコト も クチ を きかず に、 ジブン は その クスリヤ から でて、 よろめいて アパート に かえり、 ヨシコ に シオミズ を つくらせて のみ、 だまって ねて、 あくる ヒ も、 カゼギミ だ と ウソ を ついて イチニチ いっぱい ねて、 ヨル、 ジブン の ヒミツ の カッケツ が どうにも フアン で たまらず、 おきて、 あの クスリヤ に ゆき、 コンド は わらいながら、 オクサン に、 じつに すなお に イマ まで の カラダグアイ を コクハク し、 ソウダン しました。
「オサケ を およし に ならなければ」
ジブン たち は、 ニクシン の よう でした。
「アルチュウ に なって いる かも しれない ん です。 イマ でも のみたい」
「いけません。 ワタシ の シュジン も、 テーベ の くせ に、 キン を サケ で ころす ん だ なんて いって、 サケビタリ に なって、 ジブン から ジュミョウ を ちぢめました」
「フアン で いけない ん です。 こわくて、 とても、 ダメ なん です」
「オクスリ を さしあげます。 オサケ だけ は、 およしなさい」
オクサン (ミボウジン で、 オトコ の コ が ヒトリ、 それ は チバ だ か どこ だ か の イダイ に はいって、 まもなく チチ と おなじ ヤマイ に かかり、 キュウガク ニュウインチュウ で、 イエ には チュウフウ の シュウト が ねて いて、 オクサン ジシン は 5 サイ の オリ、 ショウニ マヒ で カタホウ の アシ が ぜんぜん ダメ なの でした) は、 マツバヅエ を ことこと と つきながら、 ジブン の ため に あっち の タナ、 こっち の ヒキダシ、 いろいろ と ヤクヒン を とりそろえて くれる の でした。
これ は、 ゾウケツザイ。
これ は、 ヴィタミン の チュウシャエキ。 チュウシャキ は、 これ。
これ は、 カルシウム の ジョウザイ。 イチョウ を こわさない よう に、 ジアスターゼ。
これ は、 ナニ。 これ は、 ナニ、 と 5~6 シュ の ヤクヒン の セツメイ を アイジョウ こめて して くれた の です が、 しかし、 この フコウ な オクサン の アイジョウ も また、 ジブン に とって ふかすぎました。 サイゴ に オクサン が、 これ は、 どうしても、 なんと して も オサケ を のみたくて、 たまらなく なった とき の オクスリ、 と いって すばやく カミ に つつんだ コバコ。
モルヒネ の チュウシャエキ でした。
サケ より は、 ガイ に ならぬ と オクサン も いい、 ジブン も それ を しんじて、 また ヒトツ には、 サケ の ヨイ も さすが に フケツ に かんぜられて きた ヤサキ でも あった し、 ヒサシブリ に アルコール と いう サタン から のがれる こと の できる ヨロコビ も あり、 なんの チュウチョ も なく、 ジブン は ジブン の ウデ に、 その モルヒネ を チュウシャ しました。 フアン も、 ショウソウ も、 ハニカミ も、 きれい に ジョキョ せられ、 ジブン は はなはだ ヨウキ な ノウベンカ に なる の でした。 そうして、 その チュウシャ を する と ジブン は、 カラダ の スイジャク も わすれて、 マンガ の シゴト に セイ が でて、 ジブン で かきながら ふきだして しまう ほど チンミョウ な シュコウ が うまれる の でした。
1 ニチ 1 ポン の つもり が、 2 ホン に なり、 4 ホン に なった コロ には、 ジブン は もう それ が なければ、 シゴト が できない よう に なって いました。
「いけません よ、 チュウドク に なったら、 そりゃ もう、 タイヘン です」
クスリヤ の オクサン に そう いわれる と、 ジブン は もう かなり の チュウドク カンジャ に なって しまった よう な キ が して きて、 (ジブン は、 ヒト の アンジ に じつに もろく ひっかかる タチ なの です。 この オカネ は つかっちゃ いけない よ、 と いって も、 オマエ の こと だ もの なあ、 なんて いわれる と、 なんだか つかわない と わるい よう な、 キタイ に そむく よう な、 ヘン な サッカク が おこって、 かならず すぐに その オカネ を つかって しまう の でした) その チュウドク の フアン の ため、 かえって ヤクヒン を たくさん もとめる よう に なった の でした。
「たのむ! もう ヒトハコ。 カンジョウ は ゲツマツ に きっと はらいます から」
「カンジョウ なんて、 いつでも かまいません けど、 ケイサツ の ほう が、 うるさい ので ねえ」
ああ、 いつでも ジブン の シュウイ には、 なにやら、 にごって くらく、 うさんくさい ヒカゲモノ の ケハイ が つきまとう の です。
「そこ を なんとか、 ごまかして、 たのむ よ、 オクサン。 キス して あげよう」
オクサン は、 カオ を あからめます。
ジブン は、 いよいよ つけこみ、
「クスリ が ない と シゴト が ちっとも、 はかどらない ん だよ。 ボク には、 あれ は キョウセイザイ みたい な もの なん だ」
「それじゃ、 いっそ、 ホルモン チュウシャ が いい でしょう」
「バカ に しちゃ いけません。 オサケ か、 そう で なければ、 あの クスリ か、 どっち か で なければ シゴト が できない ん だ」
「オサケ は、 いけません」
「そう でしょう? ボク は ね、 あの クスリ を つかう よう に なって から、 オサケ は イッテキ も のまなかった。 おかげで、 カラダ の チョウシ が、 とても いい ん だ。 ボク だって、 いつまでも、 ヘタクソ な マンガ など を かいて いる つもり は ない、 これから、 サケ を やめて、 カラダ を なおして、 ベンキョウ して、 きっと えらい エカキ に なって みせる。 イマ が ダイジ な ところ なん だ。 だから さ、 ね、 おねがい。 キス して あげよう か」
オクサン は わらいだし、
「こまる わねえ。 チュウドク に なって も しりません よ」
ことこと と マツバヅエ の オト を させて、 その ヤクヒン を タナ から とりだし、
「ヒトハコ は、 あげられません よ。 すぐ つかって しまう の だ もの。 ハンブン ね」
「ケチ だなあ、 まあ、 シカタ が ない や」
イエ へ かえって、 すぐに 1 ポン、 チュウシャ を します。
「いたく ない ん です か?」
ヨシコ は、 おどおど ジブン に たずねます。
「それ あ いたい さ。 でも、 シゴト の ノウリツ を あげる ため には、 いや でも これ を やらなければ いけない ん だ。 ボク は コノゴロ、 とても ゲンキ だろう? さあ、 シゴト だ。 シゴト、 シゴト」
と はしゃぐ の です。
シンヤ、 クスリヤ の ト を たたいた こと も ありました。 ネマキスガタ で、 ことこと マツバヅエ を ついて でて きた オクサン に、 いきなり だきついて キス して、 なく マネ を しました。
オクサン は、 だまって ジブン に ヒトハコ、 てわたしました。
ヤクヒン も また、 ショウチュウ ドウヨウ、 いや、 それ イジョウ に、 いまわしく フケツ な もの だ と、 つくづく おもいしった とき には、 すでに ジブン は カンゼン な チュウドク カンジャ に なって いました。 しんに、 ハジシラズ の キワミ でした。 ジブン は その ヤクヒン を えたい ばかり に、 またも シュンガ の コピー を はじめ、 そうして、 あの クスリヤ の フグ の オクサン と モジドオリ の シュウカンケイ を さえ むすびました。
しにたい、 いっそ、 しにたい、 もう トリカエシ が つかない ん だ、 どんな こと を して も、 ナニ を して も、 ダメ に なる だけ なん だ、 ハジ の ウワヌリ を する だけ なん だ、 ジテンシャ で アオバ の タキ など、 ジブン には のぞむ べく も ない ん だ、 ただ けがらわしい ツミ に あさましい ツミ が かさなり、 クノウ が ゾウダイ し キョウレツ に なる だけ なん だ、 しにたい、 しななければ ならぬ、 いきて いる の が ツミ の タネ なの だ、 など と おもいつめて も、 やっぱり、 アパート と クスリヤ の アイダ を ハンキョウラン の スガタ で オウフク して いる ばかり なの でした。
いくら シゴト を して も、 クスリ の シヨウリョウ も したがって ふえて いる ので、 クスリダイ の カリ が おそろしい ほど の ガク に のぼり、 オクサン は、 ジブン の カオ を みる と ナミダ を うかべ、 ジブン も ナミダ を ながしました。
ジゴク。
この ジゴク から のがれる ため の サイゴ の シュダン、 これ が シッパイ したら、 アト は もう クビ を くくる ばかり だ、 と いう カミ の ソンザイ を かける ほど の ケツイ を もって、 ジブン は、 コキョウ の チチ-アテ に ながい テガミ を かいて、 ジブン の ジツジョウ イッサイ を (オンナ の こと は、 さすが に かけません でした が) コクハク する こと に しました。
しかし、 ケッカ は いっそう わるく、 まてど くらせど なんの ヘンジ も なく、 ジブン は その ショウソウ と フアン の ため に、 かえって クスリ の リョウ を ふやして しまいました。
コンヤ、 10 ポン、 イッキ に チュウシャ し、 そうして オオカワ に とびこもう と、 ひそか に カクゴ を きめた その ヒ の ゴゴ、 ヒラメ が、 アクマ の カン で かぎつけた みたい に、 ホリキ を つれて あらわれました。
「オマエ は、 カッケツ した ん だって な」
ホリキ は、 ジブン の マエ に アグラ を かいて そう いい、 イマ まで みた こと も ない くらい に やさしく ほほえみました。 その やさしい ビショウ が、 ありがたくて、 うれしくて、 ジブン は つい カオ を そむけて ナミダ を ながしました。 そうして カレ の その やさしい ビショウ ヒトツ で、 ジブン は カンゼン に うちやぶられ、 ほうむりさられて しまった の です。
ジブン は ジドウシャ に のせられました。 とにかく ニュウイン しなければ ならぬ、 アト は ジブン たち に まかせなさい、 と ヒラメ も、 しんみり した クチョウ で、 (それ は ジヒ-ぶかい と でも ケイヨウ したい ほど、 ものしずか な クチョウ でした) ジブン に すすめ、 ジブン は イシ も ハンダン も なにも ない モノ の ごとく、 ただ めそめそ なきながら いい だくだく と フタリ の イイツケ に したがう の でした。 ヨシコ も いれて 4 ニン、 ジブン たち は、 ずいぶん ながい こと ジドウシャ に ゆられ、 アタリ が うすぐらく なった コロ、 モリ の ナカ の おおきい ビョウイン の、 ゲンカン に トウチャク しました。
サナトリアム と ばかり おもって いました。
ジブン は わかい イシ の いやに ものやわらか な、 テイチョウ な シンサツ を うけ、 それから イシ は、
「まあ、 しばらく ここ で セイヨウ する ん です ね」
と、 まるで、 はにかむ よう に ビショウ して いい、 ヒラメ と ホリキ と ヨシコ は、 ジブン ヒトリ を おいて かえる こと に なりました が、 ヨシコ は キガエ の イルイ を いれて ある フロシキヅツミ を ジブン に てわたし、 それから だまって オビ の アイダ から チュウシャキ と ツカイノコリ の あの ヤクヒン を さしだしました。 やはり、 キョウセイザイ だ と ばかり おもって いた の でしょう か。
「いや、 もう いらない」
じつに、 めずらしい こと でした。 すすめられて、 それ を キョヒ した の は、 ジブン の それまで の ショウガイ に おいて、 その とき ただ イチド、 と いって も カゴン で ない くらい なの です。 ジブン の フコウ は、 キョヒ の ノウリョク の ない モノ の フコウ でした。 すすめられて キョヒ する と、 アイテ の ココロ にも ジブン の ココロ にも、 エイエン に シュウゼン しえない しらじらしい ヒビワレ が できる よう な キョウフ に おびやかされて いる の でした。 けれども、 ジブン は その とき、 あれほど ハンキョウラン に なって もとめて いた モルヒネ を、 じつに シゼン に キョヒ しました。 ヨシコ の いわば 「カミ の ごとき ムチ」 に うたれた の でしょう か。 ジブン は、 あの シュンカン、 すでに チュウドク で なくなって いた の では ない でしょう か。
けれども、 ジブン は それから すぐに、 あの はにかむ よう な ビショウ を する わかい イシ に アンナイ せられ、 ある ビョウトウ に いれられて、 がちゃん と カギ を おろされました。 ノウビョウイン でした。
オンナ の いない ところ へ いく と いう、 あの ジアール を のんだ とき の ジブン の おろか な ウワゴト が、 まことに キミョウ に ジツゲン せられた わけ でした。 その ビョウトウ には、 オトコ の キョウジン ばかり で、 カンゴニン も オトコ でした し、 オンナ は ヒトリ も いません でした。
イマ は もう ジブン は、 ザイニン どころ では なく、 キョウジン でした。 いいえ、 だんじて ジブン は くるって など いなかった の です。 イッシュンカン と いえど も、 くるった こと は ない ん です。 けれども、 ああ、 キョウジン は、 たいてい ジブン の こと を そう いう もの だ そう です。 つまり、 この ビョウイン に いれられた モノ は キチガイ、 いれられなかった モノ は、 ノーマル と いう こと に なる よう です。
カミ に とう。 ムテイコウ は ツミ なり や?
ホリキ の あの フシギ な うつくしい ビショウ に ジブン は なき、 ハンダン も テイコウ も わすれて ジドウシャ に のり、 そうして ここ に つれて こられて、 キョウジン と いう こと に なりました。 いまに、 ここ から でて も、 ジブン は やっぱり キョウジン、 いや、 ハイジン と いう コクイン を ヒタイ に うたれる こと でしょう。
ニンゲン、 シッカク。
もはや、 ジブン は、 カンゼン に、 ニンゲン で なくなりました。
ここ へ きた の は ショカ の コロ で、 テツ の コウシ の マド から ビョウイン の ニワ の ちいさい イケ に あかい スイレン の ハナ が さいて いる の が みえました が、 それから ミツキ たち、 ニワ に コスモス が さきはじめ、 おもいがけなく コキョウ の チョウケイ が、 ヒラメ を つれて ジブン を ヒキトリ に やって きて、 チチ が センゲツマツ に イカイヨウ で なくなった こと、 ジブン たち は もう オマエ の カコ は とわぬ、 セイカツ の シンパイ も かけない つもり、 なにも しなくて いい、 そのかわり、 いろいろ ミレン も ある だろう が すぐに トウキョウ から はなれて、 イナカ で リョウヨウ セイカツ を はじめて くれ、 オマエ が トウキョウ で しでかした こと の アトシマツ は、 だいたい シブタ が やって くれた はず だ から、 それ は キ に しない で いい、 と レイ の キマジメ な キンチョウ した よう な クチョウ で いう の でした。
コキョウ の サンガ が ガンゼン に みえる よう な キ が して きて、 ジブン は かすか に うなずきました。
まさに ハイジン。
チチ が しんだ こと を しって から、 ジブン は いよいよ ふぬけた よう に なりました。 チチ が、 もう いない、 ジブン の キョウチュウ から イッコク も はなれなかった あの なつかしく おそろしい ソンザイ が、 もう いない、 ジブン の クノウ の ツボ が カラッポ に なった よう な キ が しました。 ジブン の クノウ の ツボ が やけに おもかった の も、 あの チチ の せい だった の では なかろう か と さえ おもわれました。 まるで、 ハリアイ が ぬけました。 クノウ する ノウリョク を さえ うしないました。
チョウケイ は ジブン に たいする ヤクソク を セイカク に ジッコウ して くれました。 ジブン の うまれて そだった マチ から キシャ で 4~5 ジカン、 ナンカ した ところ に、 トウホク には めずらしい ほど あたたかい ウミベ の オンセンチ が あって、 その ムラハズレ の、 マカズ は イツツ も ある の です が、 かなり ふるい イエ らしく カベ は はげおち、 ハシラ は ムシ に くわれ、 ほとんど シュウリ の シヨウ も ない ほど の ボウオク を かいとって ジブン に あたえ、 60 に ちかい ひどい アカゲ の みにくい ジョチュウ を ヒトリ つけて くれました。
それから 3 ネン と すこし たち、 ジブン は その アイダ に その テツ と いう ロウジョチュウ に スウド ヘン な オカサレカタ を して、 ときたま フウフ-ゲンカ みたい な こと を はじめ、 ムネ の ビョウキ の ほう は イッシン イッタイ、 やせたり ふとったり、 ケッタン が でたり、 キノウ、 テツ に カルモチン を かって おいで、 と いって、 ムラ の クスリヤ に オツカイ に やったら、 イツモ の ハコ と ちがう カタチ の ハコ の カルモチン を かって きて、 べつに ジブン も キ に とめず、 ねる マエ に 10 ジョウ のんで も いっこう に ねむく ならない ので、 おかしい な と おもって いる うち に、 オナカ の グアイ が ヘン に なり いそいで ベンジョ へ いったら モウレツ な ゲリ で、 しかも、 それから ひきつづき 3 ド も ベンジョ に かよった の でした。 フシン に たえず、 クスリ の ハコ を よく みる と、 それ は ヘノモチン と いう ゲザイ でした。
ジブン は アオムケ に ねて、 オナカ に ユタンポ を のせながら、 テツ に コゴト を いって やろう と おもいました。
「これ は、 オマエ、 カルモチン じゃ ない、 ヘノモチン、 と いう」
と いいかけて、 うふふふ と わらって しまいました。 「ハイジン」 は、 どうやら これ は、 キゲキ メイシ の よう です。 ねむろう と して ゲザイ を のみ、 しかも、 その ゲザイ の ナマエ は、 ヘノモチン。
イマ は ジブン には、 コウフク も フコウ も ありません。
ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
ジブン が イマ まで アビキョウカン で いきて きた いわゆる 「ニンゲン」 の セカイ に おいて、 たった ヒトツ、 シンリ らしく おもわれた の は、 それ だけ でした。
ただ、 イッサイ は すぎて ゆきます。
ジブン は コトシ、 27 に なります。 シラガ が めっきり ふえた ので、 タイテイ の ヒト から、 40 イジョウ に みられます。
アトガキ
この シュキ を かきつづった キョウジン を、 ワタシ は、 チョクセツ には しらない。 けれども、 この シュキ に でて くる キョウバシ の スタンド バー の マダム とも おぼしき ジンブツ を、 ワタシ は ちょっと しって いる の で ある。 コガラ で、 カオイロ の よく ない、 メ が ほそく つりあがって いて、 ハナ の たかい、 ビジン と いう より は、 ビセイネン と いった ほう が いい くらい の かたい カンジ の ヒト で あった。 この シュキ には、 どうやら、 ショウワ 5、 6、 7 ネン、 あの コロ の トウキョウ の フウケイ が おもに うつされて いる よう に おもわれる が、 ワタシ が、 その キョウバシ の スタンド バー に、 ユウジン に つれられて 2~3 ド、 たちより、 ハイボール など のんだ の は、 レイ の ニホン の 「グンブ」 が そろそろ ロコツ に あばれはじめた ショウワ 10 ネン ゼンゴ の こと で あった から、 この シュキ を かいた オトコ には、 オメ に かかる こと が できなかった わけ で ある。
しかるに、 コトシ の 2 ガツ、 ワタシ は チバ ケン フナバシ シ に ソカイ して いる ある ユウジン を たずねた。 その ユウジン は、 ワタシ の ダイガク ジダイ の いわば ガクユウ で、 イマ は ボウ-ジョシダイ の コウシ を して いる の で ある が、 じつは ワタシ は この ユウジン に ワタシ の ミウチ の モノ の エンダン を イライ して いた ので、 その ヨウジ も あり、 かたがた ナニ か シンセン な カイサンブツ でも しいれて ワタシ の イエ の モノタチ に くわせて やろう と おもい、 リュックサック を せおって フナバシ シ へ でかけて いった の で ある。
フナバシ シ は、 ドロウミ に のぞんだ かなり おおきい マチ で あった。 シン ジュウミン たる その ユウジン の イエ は、 その トチ の ヒト に トコロバンチ を つげて たずねて も、 なかなか わからない の で ある。 さむい うえ に、 リュックサック を せおった カタ が いたく なり、 ワタシ は レコード の ヴァイオリン の オト に ひかれて、 ある キッサテン の ドア を おした。
そこ の マダム に ミオボエ が あり、 たずねて みたら、 まさに、 10 ネン マエ の あの キョウバシ の ちいさい バー の マダム で あった。 マダム も、 ワタシ を すぐに おもいだして くれた ヨウス で、 たがいに おおげさ に おどろき、 わらい、 それから こんな とき の オキマリ の、 レイ の、 クウシュウ で やけだされた オタガイ の ケイケン を とわれ も せぬ のに、 いかにも ジマン-らしく かたりあい、
「アナタ は、 しかし、 かわらない」
「いいえ、 もう オバアサン。 カラダ が、 がたぴし です。 アナタ こそ、 おわかい わ」
「とんでもない、 コドモ が もう 3 ニン も ある ん だよ。 キョウ は ソイツラ の ため に カイダシ」
など と、 これ も また ヒサシブリ で あった モノ ドウシ の オキマリ の アイサツ を かわし、 それから、 フタリ に キョウツウ の チジン の ソノゴ の ショウソク を たずねあったり して、 その うち に、 ふと マダム は クチョウ を あらため、 アナタ は ヨウ ちゃん を しって いた かしら、 と いう。 それ は しらない、 と こたえる と、 マダム は、 オク へ いって、 3 サツ の ノートブック と、 3 ヨウ の シャシン を もって きて ワタシ に てわたし、
「ナニ か、 ショウセツ の ザイリョウ に なる かも しれません わ」
と いった。
ワタシ は、 ヒト から おしつけられた ザイリョウ で モノ を かけない タチ なので、 すぐに その バ で かえそう か と おもった が、 (3 ヨウ の シャシン、 その キカイサ に ついて は、 ハシガキ にも かいて おいた) その シャシン に ココロ を ひかれ、 とにかく ノート を あずかる こと に して、 カエリ には また ここ へ たちよります が、 ナニマチ ナン-バンチ の ナニ さん、 ジョシダイ の センセイ を して いる ヒト の イエ を ゴゾンジ ない か、 と たずねる と、 やはり シン ジュウミン ドウシ、 しって いた。 ときたま、 この キッサテン にも おみえ に なる と いう。 すぐ キンジョ で あった。
その ヨル、 ユウジン と わずか な オサケ を くみかわし、 とめて もらう こと に して、 ワタシ は アサ まで イッスイ も せず に、 レイ の ノート に よみふけった。
その シュキ に かかれて ある の は、 ムカシ の ハナシ では あった が、 しかし、 ゲンダイ の ヒトタチ が よんで も、 かなり の キョウミ を もつ に ちがいない。 ヘタ に ワタシ の フデ を くわえる より は、 これ は このまま、 どこ か の ザッシシャ に たのんで ハッピョウ して もらった ほう が、 なお、 ユウイギ な こと の よう に おもわれた。
コドモ たち への ミヤゲ の カイサンブツ は、 ヒモノ だけ。 ワタシ は、 リュックサック を せおって ユウジン の モト を じし、 レイ の キッサテン に たちより、
「キノウ は、 どうも。 ところで、……」
と すぐに きりだし、
「この ノート は、 しばらく かして いただけません か」
「ええ、 どうぞ」
「この ヒト は、 まだ いきて いる の です か?」
「さあ、 それ が、 さっぱり わからない ん です。 10 ネン ほど マエ に、 キョウバシ の オミセ-アテ に、 その ノート と シャシン の コヅツミ が おくられて きて、 サシダシニン は ヨウ ちゃん に きまって いる の です が、 その コヅツミ には、 ヨウ ちゃん の ジュウショ も、 ナマエ さえ も かいて いなかった ん です。 クウシュウ の とき、 ホカ の もの に まぎれて、 これ も フシギ に たすかって、 ワタシ は こないだ はじめて、 ゼンブ よんで みて、……」
「なきました か?」
「いいえ、 なく と いう より、 ……ダメ ね、 ニンゲン も、 ああ なって は、 もう ダメ ね」
「それから 10 ネン、 と する と、 もう なくなって いる かも しれない ね。 これ は、 アナタ への オレイ の つもり で おくって よこした の でしょう。 たしょう、 コチョウ して かいて いる よう な ところ も ある けど、 しかし、 アナタ も、 そうとう ひどい ヒガイ を こうむった よう です ね。 もし、 これ が ゼンブ ジジツ だったら、 そうして ボク が この ヒト の ユウジン だったら、 やっぱり ノウビョウイン に つれて いきたく なった かも しれない」
「あの ヒト の オトウサン が わるい の です よ」
なにげなさそう に、 そう いった。
「ワタシタチ の しって いる ヨウ ちゃん は、 とても すなお で、 よく キ が きいて、 あれ で オサケ さえ のまなければ、 いいえ、 のんで も、 ……カミサマ みたい な いい コ でした」