ワタシ は ウミ を だきしめて いたい
サカグチ アンゴ
ワタシ は いつも カミサマ の クニ へ いこう と しながら ジゴク の モン を くぐって しまう ニンゲン だ。 ともかく ワタシ は ハジメ から ジゴク の モン を めざして でかける とき でも、 カミサマ の クニ へ いこう と いう こと を わすれた こと の ない あまったるい ニンゲン だった。 ワタシ は けっきょく ジゴク と いう もの に センリツ した ためし は なく、 バカ の よう に タワイ も なく おちついて いられる くせ に、 カミサマ の クニ を わすれる こと が できない と いう ニンゲン だ。 ワタシ は かならず、 いまに ナニ か に ひどい メ に やっつけられて、 たたきのめされて、 あまったるい ウヌボレ の ぐう の ネ も でなく なる まで、 そして ホント に アシ すべらして マッサカサマ に おとされて しまう とき が ある と かんがえて いた。
ワタシ は ずるい の だ。 アクマ の ウラガワ に カミサマ を わすれず、 カミサマ の カゲ で アクマ と すんで いる の だ から。 いまに、 アクマ にも カミサマ にも フクシュウ される と しんじて いた。 けれども、 ワタシ だって、 バカ は バカ なり に、 ここ まで ナンジュウネン か いきて きた の だ から、 タダ は まけない。 その とき こそ、 カタナ おれ、 ヤ つきる まで、 アクマ と カミサマ を アイテ に クミウチ も する し、 けとばし も する し、 めったやたら に ランセン ラントウ して やろう と ヒソウ な カクゴ を かためて、 いきつづけて きた の だ。 ずいぶん あまったれて いる けれども、 ともかく、 いつか、 バケノカワ が はげて、 ハダカ に され、 ケ を むしられて、 つきおとされる とき を わすれた こと だけ は なかった の だ。
リコウ な ヒト は、 それ も オマエ の ズルサ の せい だ と いう だろう。 ワタシ は アクニン です、 と いう の は、 ワタシ は ゼンニン です と いう こと より も ずるい。 ワタシ も そう おもう。 でも、 なんと でも いう が いい や。 ワタシ は、 ワタシ ジシン の かんがえる こと も いっこう に シンヨウ して は いない の だ から。
*
ワタシ は しかし、 チカゴロ ミョウ に アンシン する よう に なって きた。 うっかり する と、 ワタシ は アクマ にも カミサマ にも けとばされず、 ハダカ に されず、 ケ を むしられず、 ブジ アンノン に すむ の じゃ ない か と、 へんに おもいつく とき が ある よう に なった。
そういう アンシン を ワタシ に あたえる の は、 ヒトリ の オンナ で あった。 この オンナ は ウヌボレ の つよい オンナ で、 アタマ が わるくて、 テイソウ の カンネン が ない の で ある。 ワタシ は この オンナ の ホカ の どこ も すき では ない。 ただ ニクタイ が すき な だけ だ。
ぜんぜん テイソウ の カンネン が かけて いた。 いらいら する と ジテンシャ に のって とびだして、 カエリ には ヒザコゾウ だの ウデ の アタリ から チ を ながして くる こと が あった。 がさつ な アワテモノ だ から、 ショウトツ したり、 ひっくりかえったり する の で ある。 その こと は チ を みれば わかる けれども、 しかし、 チ の ながれぬ よう な イタズラ を ダレ と どこ で して きた か は、 ワタシ には わからない。 わからぬ けれども、 ソウゾウ は できる し、 また、 ジジツ なの だ。
この オンナ は ムカシ は ジョロウ で あった。 それから サカバ の マダム と なって、 やがて ワタシ と セイカツ する よう に なった が、 ワタシ ジシン も テイソウ の ネン は キハク なので、 ハジメ から、 イッテイ の キカン だけ の アソビ の つもり で あった。 この オンナ は ショウフ の セイカツ の ため に、 フカンショウ で あった。 ニクタイ の カンドウ と いう もの が、 ない の で ある。
ニクタイ の カンドウ を しらない オンナ が、 ニクタイテキ に あそばず に いられぬ と いう の が、 ワタシ には わからなかった。 セイシンテキ に あそばず に いられぬ と いう なら、 ハナシ は おおいに わかる。 ところが、 この オンナ と きて は、 てんで セイシンテキ な レンアイ など は かんがえて おらぬ ので、 この オンナ の ウワキ と いう の は、 フカンショウ の ニクタイ を オモチャ に する だけ の こと なの で ある。
「どうして キミ は カラダ を オモチャ に する の だろう ね」
「ジョロウ だった せい よ」
オンナ は さすが に あんぜん と して そう いった。 しばらく して ワタシ の クチビル を もとめる ので、 オンナ の ホオ に ふれる と、 ないて いる の だ。 ワタシ は オンナ の ナミダ など は うるさい ばかり で いっこう に カンドウ しない タチ で ある から、
「だって、 キミ、 ヘン じゃ ない か、 フカンショウ の くせ に……」
ワタシ が いいかける と、 オンナ は ワタシ の コトバ を うばう よう に はげしく ワタシ に かじりついて、
「くるしめないで よ。 ねえ、 ゆるして ちょうだい。 ワタシ の カコ が わるい のよ」
オンナ は キョウキ の よう に ワタシ の クチビル を もとめ、 ワタシ の アイブ を もとめた。 オンナ は オエツ し、 すがりつき、 みもだえた が、 しかし、 それ は ゲキジョウ の コウフン だけ で、 ニクタイ の シンジツ の ヨロコビ は、 その とき も なかった の で ある。
ワタシ の つめたい ココロ が、 オンナ の むなしい ゲキジョウ を れいぜん と みすくめて いた。 すると オンナ が とつぜん メ を みひらいた。 その メ は ニクシミ に みちて いた。 ヒ の よう な ニクシミ だった。
*
ワタシ は しかし、 この オンナ の フグ な ニクタイ が へんに すき に なって きた。 シンジツ と いう もの から みすてられた ニクタイ は、 なまじい シンジツ な もの より も、 つめたい アイジョウ を ハンエイ する こと が できる よう な、 ゲンソウテキ な シュウチャク を もちだした の で ある。 ワタシ は オンナ の ニクタイ を だきしめて いる の で なし に、 オンナ の ニクタイ の カタチ を した ミズ を だきしめて いる よう な キモチ に なる こと が あった。
「ワタシ なんか、 どうせ へんちくりん な デキソコナイ よ。 ワタシ の イッショウ なんか、 どう に でも、 カッテ に なる が いい や」
オンナ は アソビ の アト には、 とくべつ ジチョウテキ に なる こと が おおかった。
オンナ の カラダ は、 うつくしい カラダ で あった。 ウデ も アシ も、 ムネ も コシ も、 やせて いる よう で ニクヅキ の ゆたか な、 そして ニクヅキ の みずみずしく やわらか な、 みあきない ウツクシサ が こもって いた。 ワタシ の あいして いる の は、 ただ その ニクタイ だけ だ と いう こと を オンナ は しって いた。
オンナ は ときどき ワタシ の アイブ を うるさがった が、 ワタシ は そんな こと は コリョ しなかった。 ワタシ は オンナ の ウデ や アシ を オモチャ に して その ウツクシサ を ぼんやり ながめて いる こと が おおかった。 オンナ も ぼんやり して いたり、 わらいだしたり、 おこったり、 にくんだり した。
「おこる こと と にくむ こと を やめて くれない か。 ぼんやり して いられない の か」
「だって、 うるさい の だ もの」
「そう かな。 やっぱり キミ は ニンゲン か」
「じゃあ、 ナニ よ」
ワタシ は オンナ を おだてる と つけあがる こと を しって いた から だまって いた。 ヤマ の オクソコ の モリ に かこまれた しずか な ヌマ の よう な、 ワタシ は そんな なつかしい キ が する こと が あった。 ただ つめたい、 うつくしい、 むなしい もの を だきしめて いる こと は、 ニクヨク の フマン は ベツ に、 せつない カナシサ が ある の で あった。
オンナ の むなしい ニクタイ は、 フマン で あって も、 フシギ に、 むしろ、 セイケツ を おぼえた。 ワタシ は ワタシ の みだら な タマシイ が それ に よって しずか に ゆるされて いる よう な おさない ナツカシサ を おぼえる こと が できた。
ただ、 ワタシ の クツウ は、 こんな むなしい セイケツ な ニクタイ が、 どうして、 ケダモノ の よう な つかれた ウワキ を せず に いられない の だろう か、 と いう こと だけ だった。 ワタシ は オンナ の イントウ の チ を にくんだ が、 その チ すら も、 ときには セイケツ に おもわれて くる とき が あった。
*
ワタシ ジシン が ヒトリ の オンナ に マンゾク できる ニンゲン では なかった。 ワタシ は むしろ いかなる もの にも マンゾク できない ニンゲン で あった。 ワタシ は つねに あこがれて いる ニンゲン だ。
ワタシ は コイ を する ニンゲン では ない。 ワタシ は もはや こいする こと が できない の だ。 なぜなら、 あらゆる もの が 「タカ の しれた もの」 だ と いう こと を しって しまった から だった。
ただ ワタシ には アダゴコロ が あり、 タカ の しれた ナニモノ か と あそばず に いられなく なる。 その アソビ は、 ワタシ に とって は、 つねに チンプ で、 タイクツ だった。 マンゾク も なく、 コウカイ も なかった。
オンナ も ワタシ と おなじ だろう か、 と ワタシ は ときどき かんがえた。 ワタシ ジシン の イントウ の チ と、 この オンナ の イントウ の チ と おなじ もの で あろう か。 ワタシ は そのくせ、 オンナ の イントウ の チ を ときどき のろった。
オンナ の イントウ の チ が ワタシ の チ と ちがう ところ は、 オンナ は ジブン で ねらう こと も ある けれども、 ウケミ の こと が おおかった。 ヒト に シンセツ に されたり、 ヒト から モノ を もらったり する と、 その ヘンレイ に カラダ を あたえず に いられぬ よう な キモチ に なって しまう の だった。 ワタシ は、 その タヨリナサ が フユカイ で あった。 しかし ワタシ は そういう ワタシ ジシン の カンガエ に ついて も、 うたぐらず に いられなかった。 ワタシ は オンナ の フテイ を のろって いる の か、 フテイ の コンテイ が たよりない と いう こと を のろって いる の だろう か。 もしも オンナ が たよりない ウワキ の シカタ を しなく なれば、 オンナ の フテイ を のろわず に いられる で あろう か、 と。 ワタシ は しかし オンナ の ウワキ の コンテイ が たよりない と いう こと で おこる イガイ に シカタ が なかった。 なぜなら、 ワタシ ジシン が ゴドウヨウ、 ウワキ の ムシ に つかれた オトコ で あった から。
「しんで ちょうだい。 イッショ に」
ワタシ に おこられる と、 オンナ は いう の が ツネ で あった。 しぬ イガイ に、 ジブン の ウワキ は どうにも する こと が できない の だ と いう こと を ホンノウテキ に さけんで いる コエ で あった。 オンナ は しにたがって は いない の だ。 しかし、 しぬ イガイ に ウワキ は どうにも ならない と いう サケビ には、 セツジツ な シンジツ が あった。 この オンナ の カラダ は ウソ の カラダ、 むなしい ムクロ で ある よう に、 この オンナ の サケビ は ウソッパチ でも、 ウソ ジタイ が シンジツ より も シンジツ だ と いう こと を、 ワタシ は ミョウ に かんがえる よう に なった。
「アナタ は ウソツキ で ない から、 いけない ヒト なの よ」
「いや、 ボク は ウソツキ だよ。 ただ、 ホントウ と ウソ と が ベツベツ だ から、 いけない の だ」
「もっと、 スレッカラシ に なりなさい よ」
オンナ は ニクシミ を こめて ワタシ を みつめた。 けれども、 うなだれた。 それから、 また、 カオ を あげて、 くいつく よう な、 こわばった カオ に なった。
「アナタ が ワタシ の タマシイ を たかめて くれなければ、 ダレ が たかめて くれる の」
「ムシ の いい こと を いう もの じゃ ない よ」
「ムシ の いい こと って、 ナニ よ」
「ジブン の こと は、 ジブン で する イガイ に シカタ が ない もの だ。 ボク は ボク の こと だけ で、 いっぱい だよ。 キミ は キミ の こと だけ で、 いっぱい に なる が いい じゃ ない か」
「じゃ、 アナタ は、 ワタシ の ロボウ の ヒト なの ね」
「ダレ でも、 さ。 ダレ の タマシイ でも、 ロボウ で ない タマシイ なんて、 ある もの か。 フウフ は イッシン ドウタイ だ なんて、 バカ も やすみやすみ いう が いい や」
「ナニ よ。 ワタシ の カラダ に なぜ さわる のよ。 あっち へ いって よ」
「いや だ。 フウフ とは、 こういう もの なん だ。 タマシイ が ベツベツ でも、 ニクタイ の アソビ だけ が ある の だ から」
「いや。 ナニ を する のよ。 もう、 いや。 ゼッタイ に、 いや」
「そう は いわせぬ」
「いや だったら」
オンナ は ふんぜん と して ワタシ の ウデ の ナカ から とびだした。 イフク が さけて、 だらしなく、 カタ が あらわれて いた。 オンナ の カオ は イカリ の ため に、 コメカミ に あおい スジ が びくびく して いた。
「アナタ は ワタシ の カラダ を カネ で かって いる のね。 わずか ばかり の カネ で、 ショウフ を かう カネ の 10 ブン の 1 にも あたらない やすい カネ で」
「その とおり さ。 キミ には それ が わかる だけ、 まだ、 まし なん だ」
*
ワタシ が ニクヨクテキ に なれば なる ほど、 オンナ の カラダ が トウメイ に なる よう な キ が した。 それ は オンナ が ニクタイ の ヨロコビ を しらない から だ。 ワタシ は ニクヨク に コウフン し、 ある とき は ギャクジョウ し、 ある とき は オンナ を にくみ、 ある とき は こよなく あいした。 しかし、 くるいたつ もの は ワタシ のみ で、 おうずる コタエ が なく、 ワタシ は ただ むなしい カゲ を だいて いる その コドクサ を むしろ あいした。
ワタシ は オンナ が モノ を いわない ニンギョウ で あれば いい と かんがえた。 メ も みえず、 コエ も きこえず、 ただ、 ワタシ の コドク な ニクヨク に おうずる ムゲン の カゲエ で あって ほしい と ねがって いた。
そして ワタシ は、 ワタシ ジシン の ホントウ の ヨロコビ は ナン だろう か と いう こと に ついて、 ふと、 おもいつく よう に なった。 ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は、 ある とき は トリ と なって ソラ を とび、 ある とき は サカナ と なって ヌマ の ミナソコ を くぐり、 ある とき は ケモノ と なって ノ を はしる こと では ない だろう か。
ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は コイ を する こと では ない。 ニクヨク に ふける こと では ない。 ただ、 コイ に つかれ、 コイ に うみ、 ニクヨク に つかれて、 ニクヨク を いむ こと が つねに ヒツヨウ な だけ だ。
ワタシ は、 ニクヨク ジタイ が ワタシ の ヨロコビ では ない こと に きづいた こと を、 よろこぶ べき か、 かなしむ べき か、 しんず べき か、 うたがう べき か、 まよった。
トリ と なって ソラ を とび、 サカナ と なって ミズ を くぐり、 ケモノ と なって ヤマ を はしりたい とは、 どういう イミ だろう? ワタシ は また、 ヘタクソ な ウソ を つきすぎて いる よう で いや でも あった が、 ワタシ は たぶん、 ワタシ は コドク と いう もの を、 みつめ、 ねらって いる の では ない か と かんがえた。
オンナ の ニクタイ が トウメイ と なり、 ワタシ が コドク の ニクヨク に むしろ みたされて いく こと を、 ワタシ は それ が シゼン で ある と しんじる よう に なって いた。
*
オンナ は リョウリ を つくる こと が すき で あった。 ジブン が うまい もの を たべたい せい で あった。 また、 シンペン の セイケツ を このんだ。 ナツ に なる と、 センメンキ に ミズ を いれ、 それ に アシ を ひたして、 カベ に もたれて いる こと が あった。 ヨル、 ワタシ が ねよう と する と、 ワタシ の ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる こと が あった。 キマグレ だ から、 マイニチ の シュウカン と いう わけ では ない ので、 ワタシ は むしろ、 その キマグレ が すき だった。
ワタシ は つねに はじめて せっする この オンナ の シタイ の ウツクシサ に メ を うたれて いた。 たとえば、 ホオヅエ を つきながら チャブダイ を ふく シタイ だの、 センメンキ に アシ を つっこんで カベ に もたれて いる シタイ だの、 そして また、 ときには なにも みえない クラヤミ で とつぜん ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる みょうちきりん な その タマシイ の シタイ など。
ワタシ は ワタシ の オンナ への アイチャク が、 そういう もの に ゲンテイ されて いる こと を、 ある とき は みたされ も した が、 ある とき は かなしんだ。 みたされた ココロ は、 いつも、 ちいさい。 ちいさくて、 かなしい の だ。
オンナ は クダモノ が すき で あった。 キセツ キセツ の クダモノ を サラ に のせて、 まるで、 つねに クダモノ を たべつづけて いる よう な カンジ で あった。 ショクヨク を そそられる ヨウス でも あった が、 ミョウ に ドンショク を かんじさせない あっさり した タベカタ で、 この オンナ の イントウ の アリカタ を ヒジョウ に かんじさせる の で あった。 それ も ワタシ には うつくしかった。
この オンナ から イントウ を とりのぞく と、 この オンナ は ワタシ に とって ナニモノ でも なくなる の だ と いう こと が、 だんだん わかりかけて きた。 この オンナ が うつくしい の は イントウ の せい だ。 すべて キマグレ な ウツクシサ だった。
しかし、 オンナ は ジブン の イントウ を おそれて も いた。 それ に くらべれば、 ワタシ は ワタシ の イントウ を おそれて は いなかった。 ただ、 ワタシ は、 オンナ ほど、 ジッサイ の イントウ に ふけらなかった だけ の こと だ。
「ワタシ は わるい オンナ ね」
「そう おもって いる の か」
「よい オンナ に なりたい のよ」
「よい オンナ とは、 どういう オンナ の こと だえ」
オンナ の カオ に イカリ が はしった。 そして、 なきそう に なった。
「アナタ は どう おもって いる のよ。 ワタシ が にくい の? ワタシ と わかれる つもり? そして、 アタリマエ の オクサン を もらいたい の でしょう」
「キミ ジシン は、 どう なん だ」
「アナタ の こと を、 おっしゃい よ」
「ボク は、 アタリマエ の オクサン を もらいたい とは おもって いない。 それ だけ だ」
「ウソツキ」
ワタシ に とって、 モンダイ は、 ベツ の ところ に あった。 ワタシ は ただ、 この オンナ の ニクタイ に、 ミレン が ある の だ。 それ だけ だった。
*
ワタシ は、 どうして オンナ が ワタシ から はなれない か を しって いた。 ホカ の オトコ は ワタシ の よう に ともかく オンナ の ウワキ を ゆるして へいぜん と して いない から だ。 また、 その うえ に、 ワタシ ほど ふかく、 オンナ の ニクタイ を あいする オトコ も なかった から だ。
ワタシ は、 ニクタイ の カイカン を しらない オンナ の ニクタイ に、 ヒミツ の ヨロコビ を かんじて いる ワタシ の タマシイ が、 フグ では ない か と うたぐらねば ならなかった。 ワタシ ジシン の セイシン が、 オンナ の ニクタイ に ソウオウ して、 フグ で あり、 キケイ で あり、 ビョウキ では ない か と おもった。
ワタシ は しかし、 カンギブツ の よう な ニクヨク の ニクヨクテキ な マンゾク の スガタ に ジブン の セイ を たくす だけ の ユウキ が ない。 ワタシ は モノ ソノモノ が モノ ソノモノ で ある よう な、 ドウブツテキ な シンジツ の セカイ を しんじる こと が できない の で ある。 ニクヨク の ウエ にも、 セイシン と コウサク した キョモウ の カゲ に いろどられて いなければ、 ワタシ は それ を にくまず に いられない。 ワタシ は もっとも コウショク で ある から、 タンジュン に ニクヨクテキ では ありえない の だ。
ワタシ は オンナ が ニクタイ の マンゾク を しらない と いう こと の ウチ に、 ワタシ ジシン の フルサト を みいだして いた。 みちたる こと の カゲ だに ない ムナシサ は、 ワタシ の ココロ を いつも あらって くれる の だ。 ワタシ は やすんじて、 ワタシ ジシン の インヨク に くるう こと が できた。 ナニモノ も ワタシ の インヨク に こたえる もの が ない から だった。 その セイケツ と コドクサ が、 オンナ の アシ や ウデ や コシ を いっそう うつくしく みせる の だった。
ニクヨク すら も コドク で ありうる こと を みいだした ワタシ は、 もう これから は、 コウフク を さがす ヒツヨウ は なかった。 ワタシ は あまんじて、 フコウ を さがしもとめれば よかった。
ワタシ は ムカシ から、 コウフク を うたがい、 その チイササ を かなしみながら、 あこがれる ココロ を どう する こと も できなかった。 ワタシ は ようやく コウフク と テ を きる こと が できた よう な キ が した の で ある。
ワタシ は ハジメ から フコウ や クルシミ を さがす の だ。 もう、 コウフク など は ねがわない。 コウフク など と いう もの は、 ヒト の ココロ を しんじつ なぐさめて くれる もの では ない から で ある。 かりそめにも コウフク に なろう など とは おもって は いけない ので、 ヒト の タマシイ は エイエン に コドク なの だ から。 そして ワタシ は きわめて イセイ よく、 そういう ネンブツ の よう な こと を かんがえはじめた。
ところが ワタシ は、 フコウ とか クルシミ とか が、 どんな もの だ か、 そのじつ、 しって いない の だ。 おまけに、 コウフク が どんな もの だ か、 それ も しらない。 どう に でも なれ。 ワタシ は ただ ワタシ の タマシイ が ナニモノ に よって も みちたる こと が ない こと を カクシン した と いう の だろう。 ワタシ は つまり、 ワタシ の タマシイ が みちたる こと を ほっしない タテマエ と なった だけ だ。
そんな こと を かんがえながら、 ワタシ は しかし、 イヌコロ の よう に オンナ の ニクタイ を したう の だった。 ワタシ の ココロ は ただ ドンヨク な オニ で あった。 いつも、 ただ、 こう つぶやいて いた。 どうして、 なにもかも、 こう、 タイクツ なん だ。 なんて、 やりきれない ムナシサ だろう。
ワタシ は ある とき オンナ と オンセン へ いった。
カイガン へ サンポ に でる と、 その ヒ は ものすごい アレウミ だった。 オンナ は ハダシ に なり、 ナミ の ひく マ を くぐって カイガラ を ひろって いる。 オンナ は ダイタン で、 ビンカツ だった。 ナミ の コキュウ を のみこんで、 ウミ を セイフク して いる よう な ホンポウ な ウゴキ で あった。 ワタシ は その シンセンサ に メ を うたれ、 どこ か で、 ときどき、 おもいがけなく あらわれて くる みしらぬ シタイ の アザヤカサ を むさぼりながめて いた が、 ワタシ は ふと、 おおきな、 ミノタケ の ナンバイ も ある ナミ が おこって、 やにわに オンナ の スガタ が のみこまれ、 きえて しまった の を みた。 ワタシ は その シュンカン、 やにわに おこった ナミ が ウミ を かくし、 ソラ の ハンブン を かくした よう な、 くらい、 おおきな ウネリ を みた。 ワタシ は おもわず、 ココロ に サケビ を あげた。
それ は ワタシ の イッシュン の ゲンカク だった。 ソラ は もう、 はれて いた。 オンナ は まだ ナミ の ひく マ を くぐって、 かけまわって いる。 ワタシ は しかし その イッシュン の ゲンカク の あまり の ウツクシサ に、 さめやらぬ オモイ で あった。 ワタシ は オンナ の スガタ の きえて なくなる こと を ほっして いる の では ない。 ワタシ は ワタシ の ニクヨク に おぼれ、 オンナ の ニクタイ を あいして いた から、 オンナ の きえて なくなる こと を ねがった ためし は なかった。
ワタシ は タニソコ の よう な おおきな アンリョクショク の クボミ を ふかめて わきおこり、 イッシュン に シブキ の オク に オンナ を かくした ミズ の タワムレ の オオキサ に メ を うたれた。 オンナ の ムカンドウ な、 ただ ジュウナン な ニクタイ より も、 もっと ムジヒ な、 もっと ムカンドウ な、 もっと ジュウナン な ニクタイ を みた。 ウミ と いう ニクタイ だった。 ひろびろ と、 なんと ソウダイ な タワムレ だろう と ワタシ は おもった。
ワタシ の ニクヨク も、 あの ウミ の くらい ウネリ に まかれたい。 あの ナミ に うたれて、 くぐりたい と おもった。 ワタシ は ウミ を だきしめて、 ワタシ の ニクヨク が みたされて くれれば よい と おもった。 ワタシ は ニクヨク の チイササ が かなしかった。
サカグチ アンゴ
ワタシ は いつも カミサマ の クニ へ いこう と しながら ジゴク の モン を くぐって しまう ニンゲン だ。 ともかく ワタシ は ハジメ から ジゴク の モン を めざして でかける とき でも、 カミサマ の クニ へ いこう と いう こと を わすれた こと の ない あまったるい ニンゲン だった。 ワタシ は けっきょく ジゴク と いう もの に センリツ した ためし は なく、 バカ の よう に タワイ も なく おちついて いられる くせ に、 カミサマ の クニ を わすれる こと が できない と いう ニンゲン だ。 ワタシ は かならず、 いまに ナニ か に ひどい メ に やっつけられて、 たたきのめされて、 あまったるい ウヌボレ の ぐう の ネ も でなく なる まで、 そして ホント に アシ すべらして マッサカサマ に おとされて しまう とき が ある と かんがえて いた。
ワタシ は ずるい の だ。 アクマ の ウラガワ に カミサマ を わすれず、 カミサマ の カゲ で アクマ と すんで いる の だ から。 いまに、 アクマ にも カミサマ にも フクシュウ される と しんじて いた。 けれども、 ワタシ だって、 バカ は バカ なり に、 ここ まで ナンジュウネン か いきて きた の だ から、 タダ は まけない。 その とき こそ、 カタナ おれ、 ヤ つきる まで、 アクマ と カミサマ を アイテ に クミウチ も する し、 けとばし も する し、 めったやたら に ランセン ラントウ して やろう と ヒソウ な カクゴ を かためて、 いきつづけて きた の だ。 ずいぶん あまったれて いる けれども、 ともかく、 いつか、 バケノカワ が はげて、 ハダカ に され、 ケ を むしられて、 つきおとされる とき を わすれた こと だけ は なかった の だ。
リコウ な ヒト は、 それ も オマエ の ズルサ の せい だ と いう だろう。 ワタシ は アクニン です、 と いう の は、 ワタシ は ゼンニン です と いう こと より も ずるい。 ワタシ も そう おもう。 でも、 なんと でも いう が いい や。 ワタシ は、 ワタシ ジシン の かんがえる こと も いっこう に シンヨウ して は いない の だ から。
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ワタシ は しかし、 チカゴロ ミョウ に アンシン する よう に なって きた。 うっかり する と、 ワタシ は アクマ にも カミサマ にも けとばされず、 ハダカ に されず、 ケ を むしられず、 ブジ アンノン に すむ の じゃ ない か と、 へんに おもいつく とき が ある よう に なった。
そういう アンシン を ワタシ に あたえる の は、 ヒトリ の オンナ で あった。 この オンナ は ウヌボレ の つよい オンナ で、 アタマ が わるくて、 テイソウ の カンネン が ない の で ある。 ワタシ は この オンナ の ホカ の どこ も すき では ない。 ただ ニクタイ が すき な だけ だ。
ぜんぜん テイソウ の カンネン が かけて いた。 いらいら する と ジテンシャ に のって とびだして、 カエリ には ヒザコゾウ だの ウデ の アタリ から チ を ながして くる こと が あった。 がさつ な アワテモノ だ から、 ショウトツ したり、 ひっくりかえったり する の で ある。 その こと は チ を みれば わかる けれども、 しかし、 チ の ながれぬ よう な イタズラ を ダレ と どこ で して きた か は、 ワタシ には わからない。 わからぬ けれども、 ソウゾウ は できる し、 また、 ジジツ なの だ。
この オンナ は ムカシ は ジョロウ で あった。 それから サカバ の マダム と なって、 やがて ワタシ と セイカツ する よう に なった が、 ワタシ ジシン も テイソウ の ネン は キハク なので、 ハジメ から、 イッテイ の キカン だけ の アソビ の つもり で あった。 この オンナ は ショウフ の セイカツ の ため に、 フカンショウ で あった。 ニクタイ の カンドウ と いう もの が、 ない の で ある。
ニクタイ の カンドウ を しらない オンナ が、 ニクタイテキ に あそばず に いられぬ と いう の が、 ワタシ には わからなかった。 セイシンテキ に あそばず に いられぬ と いう なら、 ハナシ は おおいに わかる。 ところが、 この オンナ と きて は、 てんで セイシンテキ な レンアイ など は かんがえて おらぬ ので、 この オンナ の ウワキ と いう の は、 フカンショウ の ニクタイ を オモチャ に する だけ の こと なの で ある。
「どうして キミ は カラダ を オモチャ に する の だろう ね」
「ジョロウ だった せい よ」
オンナ は さすが に あんぜん と して そう いった。 しばらく して ワタシ の クチビル を もとめる ので、 オンナ の ホオ に ふれる と、 ないて いる の だ。 ワタシ は オンナ の ナミダ など は うるさい ばかり で いっこう に カンドウ しない タチ で ある から、
「だって、 キミ、 ヘン じゃ ない か、 フカンショウ の くせ に……」
ワタシ が いいかける と、 オンナ は ワタシ の コトバ を うばう よう に はげしく ワタシ に かじりついて、
「くるしめないで よ。 ねえ、 ゆるして ちょうだい。 ワタシ の カコ が わるい のよ」
オンナ は キョウキ の よう に ワタシ の クチビル を もとめ、 ワタシ の アイブ を もとめた。 オンナ は オエツ し、 すがりつき、 みもだえた が、 しかし、 それ は ゲキジョウ の コウフン だけ で、 ニクタイ の シンジツ の ヨロコビ は、 その とき も なかった の で ある。
ワタシ の つめたい ココロ が、 オンナ の むなしい ゲキジョウ を れいぜん と みすくめて いた。 すると オンナ が とつぜん メ を みひらいた。 その メ は ニクシミ に みちて いた。 ヒ の よう な ニクシミ だった。
*
ワタシ は しかし、 この オンナ の フグ な ニクタイ が へんに すき に なって きた。 シンジツ と いう もの から みすてられた ニクタイ は、 なまじい シンジツ な もの より も、 つめたい アイジョウ を ハンエイ する こと が できる よう な、 ゲンソウテキ な シュウチャク を もちだした の で ある。 ワタシ は オンナ の ニクタイ を だきしめて いる の で なし に、 オンナ の ニクタイ の カタチ を した ミズ を だきしめて いる よう な キモチ に なる こと が あった。
「ワタシ なんか、 どうせ へんちくりん な デキソコナイ よ。 ワタシ の イッショウ なんか、 どう に でも、 カッテ に なる が いい や」
オンナ は アソビ の アト には、 とくべつ ジチョウテキ に なる こと が おおかった。
オンナ の カラダ は、 うつくしい カラダ で あった。 ウデ も アシ も、 ムネ も コシ も、 やせて いる よう で ニクヅキ の ゆたか な、 そして ニクヅキ の みずみずしく やわらか な、 みあきない ウツクシサ が こもって いた。 ワタシ の あいして いる の は、 ただ その ニクタイ だけ だ と いう こと を オンナ は しって いた。
オンナ は ときどき ワタシ の アイブ を うるさがった が、 ワタシ は そんな こと は コリョ しなかった。 ワタシ は オンナ の ウデ や アシ を オモチャ に して その ウツクシサ を ぼんやり ながめて いる こと が おおかった。 オンナ も ぼんやり して いたり、 わらいだしたり、 おこったり、 にくんだり した。
「おこる こと と にくむ こと を やめて くれない か。 ぼんやり して いられない の か」
「だって、 うるさい の だ もの」
「そう かな。 やっぱり キミ は ニンゲン か」
「じゃあ、 ナニ よ」
ワタシ は オンナ を おだてる と つけあがる こと を しって いた から だまって いた。 ヤマ の オクソコ の モリ に かこまれた しずか な ヌマ の よう な、 ワタシ は そんな なつかしい キ が する こと が あった。 ただ つめたい、 うつくしい、 むなしい もの を だきしめて いる こと は、 ニクヨク の フマン は ベツ に、 せつない カナシサ が ある の で あった。
オンナ の むなしい ニクタイ は、 フマン で あって も、 フシギ に、 むしろ、 セイケツ を おぼえた。 ワタシ は ワタシ の みだら な タマシイ が それ に よって しずか に ゆるされて いる よう な おさない ナツカシサ を おぼえる こと が できた。
ただ、 ワタシ の クツウ は、 こんな むなしい セイケツ な ニクタイ が、 どうして、 ケダモノ の よう な つかれた ウワキ を せず に いられない の だろう か、 と いう こと だけ だった。 ワタシ は オンナ の イントウ の チ を にくんだ が、 その チ すら も、 ときには セイケツ に おもわれて くる とき が あった。
*
ワタシ ジシン が ヒトリ の オンナ に マンゾク できる ニンゲン では なかった。 ワタシ は むしろ いかなる もの にも マンゾク できない ニンゲン で あった。 ワタシ は つねに あこがれて いる ニンゲン だ。
ワタシ は コイ を する ニンゲン では ない。 ワタシ は もはや こいする こと が できない の だ。 なぜなら、 あらゆる もの が 「タカ の しれた もの」 だ と いう こと を しって しまった から だった。
ただ ワタシ には アダゴコロ が あり、 タカ の しれた ナニモノ か と あそばず に いられなく なる。 その アソビ は、 ワタシ に とって は、 つねに チンプ で、 タイクツ だった。 マンゾク も なく、 コウカイ も なかった。
オンナ も ワタシ と おなじ だろう か、 と ワタシ は ときどき かんがえた。 ワタシ ジシン の イントウ の チ と、 この オンナ の イントウ の チ と おなじ もの で あろう か。 ワタシ は そのくせ、 オンナ の イントウ の チ を ときどき のろった。
オンナ の イントウ の チ が ワタシ の チ と ちがう ところ は、 オンナ は ジブン で ねらう こと も ある けれども、 ウケミ の こと が おおかった。 ヒト に シンセツ に されたり、 ヒト から モノ を もらったり する と、 その ヘンレイ に カラダ を あたえず に いられぬ よう な キモチ に なって しまう の だった。 ワタシ は、 その タヨリナサ が フユカイ で あった。 しかし ワタシ は そういう ワタシ ジシン の カンガエ に ついて も、 うたぐらず に いられなかった。 ワタシ は オンナ の フテイ を のろって いる の か、 フテイ の コンテイ が たよりない と いう こと を のろって いる の だろう か。 もしも オンナ が たよりない ウワキ の シカタ を しなく なれば、 オンナ の フテイ を のろわず に いられる で あろう か、 と。 ワタシ は しかし オンナ の ウワキ の コンテイ が たよりない と いう こと で おこる イガイ に シカタ が なかった。 なぜなら、 ワタシ ジシン が ゴドウヨウ、 ウワキ の ムシ に つかれた オトコ で あった から。
「しんで ちょうだい。 イッショ に」
ワタシ に おこられる と、 オンナ は いう の が ツネ で あった。 しぬ イガイ に、 ジブン の ウワキ は どうにも する こと が できない の だ と いう こと を ホンノウテキ に さけんで いる コエ で あった。 オンナ は しにたがって は いない の だ。 しかし、 しぬ イガイ に ウワキ は どうにも ならない と いう サケビ には、 セツジツ な シンジツ が あった。 この オンナ の カラダ は ウソ の カラダ、 むなしい ムクロ で ある よう に、 この オンナ の サケビ は ウソッパチ でも、 ウソ ジタイ が シンジツ より も シンジツ だ と いう こと を、 ワタシ は ミョウ に かんがえる よう に なった。
「アナタ は ウソツキ で ない から、 いけない ヒト なの よ」
「いや、 ボク は ウソツキ だよ。 ただ、 ホントウ と ウソ と が ベツベツ だ から、 いけない の だ」
「もっと、 スレッカラシ に なりなさい よ」
オンナ は ニクシミ を こめて ワタシ を みつめた。 けれども、 うなだれた。 それから、 また、 カオ を あげて、 くいつく よう な、 こわばった カオ に なった。
「アナタ が ワタシ の タマシイ を たかめて くれなければ、 ダレ が たかめて くれる の」
「ムシ の いい こと を いう もの じゃ ない よ」
「ムシ の いい こと って、 ナニ よ」
「ジブン の こと は、 ジブン で する イガイ に シカタ が ない もの だ。 ボク は ボク の こと だけ で、 いっぱい だよ。 キミ は キミ の こと だけ で、 いっぱい に なる が いい じゃ ない か」
「じゃ、 アナタ は、 ワタシ の ロボウ の ヒト なの ね」
「ダレ でも、 さ。 ダレ の タマシイ でも、 ロボウ で ない タマシイ なんて、 ある もの か。 フウフ は イッシン ドウタイ だ なんて、 バカ も やすみやすみ いう が いい や」
「ナニ よ。 ワタシ の カラダ に なぜ さわる のよ。 あっち へ いって よ」
「いや だ。 フウフ とは、 こういう もの なん だ。 タマシイ が ベツベツ でも、 ニクタイ の アソビ だけ が ある の だ から」
「いや。 ナニ を する のよ。 もう、 いや。 ゼッタイ に、 いや」
「そう は いわせぬ」
「いや だったら」
オンナ は ふんぜん と して ワタシ の ウデ の ナカ から とびだした。 イフク が さけて、 だらしなく、 カタ が あらわれて いた。 オンナ の カオ は イカリ の ため に、 コメカミ に あおい スジ が びくびく して いた。
「アナタ は ワタシ の カラダ を カネ で かって いる のね。 わずか ばかり の カネ で、 ショウフ を かう カネ の 10 ブン の 1 にも あたらない やすい カネ で」
「その とおり さ。 キミ には それ が わかる だけ、 まだ、 まし なん だ」
*
ワタシ が ニクヨクテキ に なれば なる ほど、 オンナ の カラダ が トウメイ に なる よう な キ が した。 それ は オンナ が ニクタイ の ヨロコビ を しらない から だ。 ワタシ は ニクヨク に コウフン し、 ある とき は ギャクジョウ し、 ある とき は オンナ を にくみ、 ある とき は こよなく あいした。 しかし、 くるいたつ もの は ワタシ のみ で、 おうずる コタエ が なく、 ワタシ は ただ むなしい カゲ を だいて いる その コドクサ を むしろ あいした。
ワタシ は オンナ が モノ を いわない ニンギョウ で あれば いい と かんがえた。 メ も みえず、 コエ も きこえず、 ただ、 ワタシ の コドク な ニクヨク に おうずる ムゲン の カゲエ で あって ほしい と ねがって いた。
そして ワタシ は、 ワタシ ジシン の ホントウ の ヨロコビ は ナン だろう か と いう こと に ついて、 ふと、 おもいつく よう に なった。 ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は、 ある とき は トリ と なって ソラ を とび、 ある とき は サカナ と なって ヌマ の ミナソコ を くぐり、 ある とき は ケモノ と なって ノ を はしる こと では ない だろう か。
ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は コイ を する こと では ない。 ニクヨク に ふける こと では ない。 ただ、 コイ に つかれ、 コイ に うみ、 ニクヨク に つかれて、 ニクヨク を いむ こと が つねに ヒツヨウ な だけ だ。
ワタシ は、 ニクヨク ジタイ が ワタシ の ヨロコビ では ない こと に きづいた こと を、 よろこぶ べき か、 かなしむ べき か、 しんず べき か、 うたがう べき か、 まよった。
トリ と なって ソラ を とび、 サカナ と なって ミズ を くぐり、 ケモノ と なって ヤマ を はしりたい とは、 どういう イミ だろう? ワタシ は また、 ヘタクソ な ウソ を つきすぎて いる よう で いや でも あった が、 ワタシ は たぶん、 ワタシ は コドク と いう もの を、 みつめ、 ねらって いる の では ない か と かんがえた。
オンナ の ニクタイ が トウメイ と なり、 ワタシ が コドク の ニクヨク に むしろ みたされて いく こと を、 ワタシ は それ が シゼン で ある と しんじる よう に なって いた。
*
オンナ は リョウリ を つくる こと が すき で あった。 ジブン が うまい もの を たべたい せい で あった。 また、 シンペン の セイケツ を このんだ。 ナツ に なる と、 センメンキ に ミズ を いれ、 それ に アシ を ひたして、 カベ に もたれて いる こと が あった。 ヨル、 ワタシ が ねよう と する と、 ワタシ の ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる こと が あった。 キマグレ だ から、 マイニチ の シュウカン と いう わけ では ない ので、 ワタシ は むしろ、 その キマグレ が すき だった。
ワタシ は つねに はじめて せっする この オンナ の シタイ の ウツクシサ に メ を うたれて いた。 たとえば、 ホオヅエ を つきながら チャブダイ を ふく シタイ だの、 センメンキ に アシ を つっこんで カベ に もたれて いる シタイ だの、 そして また、 ときには なにも みえない クラヤミ で とつぜん ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる みょうちきりん な その タマシイ の シタイ など。
ワタシ は ワタシ の オンナ への アイチャク が、 そういう もの に ゲンテイ されて いる こと を、 ある とき は みたされ も した が、 ある とき は かなしんだ。 みたされた ココロ は、 いつも、 ちいさい。 ちいさくて、 かなしい の だ。
オンナ は クダモノ が すき で あった。 キセツ キセツ の クダモノ を サラ に のせて、 まるで、 つねに クダモノ を たべつづけて いる よう な カンジ で あった。 ショクヨク を そそられる ヨウス でも あった が、 ミョウ に ドンショク を かんじさせない あっさり した タベカタ で、 この オンナ の イントウ の アリカタ を ヒジョウ に かんじさせる の で あった。 それ も ワタシ には うつくしかった。
この オンナ から イントウ を とりのぞく と、 この オンナ は ワタシ に とって ナニモノ でも なくなる の だ と いう こと が、 だんだん わかりかけて きた。 この オンナ が うつくしい の は イントウ の せい だ。 すべて キマグレ な ウツクシサ だった。
しかし、 オンナ は ジブン の イントウ を おそれて も いた。 それ に くらべれば、 ワタシ は ワタシ の イントウ を おそれて は いなかった。 ただ、 ワタシ は、 オンナ ほど、 ジッサイ の イントウ に ふけらなかった だけ の こと だ。
「ワタシ は わるい オンナ ね」
「そう おもって いる の か」
「よい オンナ に なりたい のよ」
「よい オンナ とは、 どういう オンナ の こと だえ」
オンナ の カオ に イカリ が はしった。 そして、 なきそう に なった。
「アナタ は どう おもって いる のよ。 ワタシ が にくい の? ワタシ と わかれる つもり? そして、 アタリマエ の オクサン を もらいたい の でしょう」
「キミ ジシン は、 どう なん だ」
「アナタ の こと を、 おっしゃい よ」
「ボク は、 アタリマエ の オクサン を もらいたい とは おもって いない。 それ だけ だ」
「ウソツキ」
ワタシ に とって、 モンダイ は、 ベツ の ところ に あった。 ワタシ は ただ、 この オンナ の ニクタイ に、 ミレン が ある の だ。 それ だけ だった。
*
ワタシ は、 どうして オンナ が ワタシ から はなれない か を しって いた。 ホカ の オトコ は ワタシ の よう に ともかく オンナ の ウワキ を ゆるして へいぜん と して いない から だ。 また、 その うえ に、 ワタシ ほど ふかく、 オンナ の ニクタイ を あいする オトコ も なかった から だ。
ワタシ は、 ニクタイ の カイカン を しらない オンナ の ニクタイ に、 ヒミツ の ヨロコビ を かんじて いる ワタシ の タマシイ が、 フグ では ない か と うたぐらねば ならなかった。 ワタシ ジシン の セイシン が、 オンナ の ニクタイ に ソウオウ して、 フグ で あり、 キケイ で あり、 ビョウキ では ない か と おもった。
ワタシ は しかし、 カンギブツ の よう な ニクヨク の ニクヨクテキ な マンゾク の スガタ に ジブン の セイ を たくす だけ の ユウキ が ない。 ワタシ は モノ ソノモノ が モノ ソノモノ で ある よう な、 ドウブツテキ な シンジツ の セカイ を しんじる こと が できない の で ある。 ニクヨク の ウエ にも、 セイシン と コウサク した キョモウ の カゲ に いろどられて いなければ、 ワタシ は それ を にくまず に いられない。 ワタシ は もっとも コウショク で ある から、 タンジュン に ニクヨクテキ では ありえない の だ。
ワタシ は オンナ が ニクタイ の マンゾク を しらない と いう こと の ウチ に、 ワタシ ジシン の フルサト を みいだして いた。 みちたる こと の カゲ だに ない ムナシサ は、 ワタシ の ココロ を いつも あらって くれる の だ。 ワタシ は やすんじて、 ワタシ ジシン の インヨク に くるう こと が できた。 ナニモノ も ワタシ の インヨク に こたえる もの が ない から だった。 その セイケツ と コドクサ が、 オンナ の アシ や ウデ や コシ を いっそう うつくしく みせる の だった。
ニクヨク すら も コドク で ありうる こと を みいだした ワタシ は、 もう これから は、 コウフク を さがす ヒツヨウ は なかった。 ワタシ は あまんじて、 フコウ を さがしもとめれば よかった。
ワタシ は ムカシ から、 コウフク を うたがい、 その チイササ を かなしみながら、 あこがれる ココロ を どう する こと も できなかった。 ワタシ は ようやく コウフク と テ を きる こと が できた よう な キ が した の で ある。
ワタシ は ハジメ から フコウ や クルシミ を さがす の だ。 もう、 コウフク など は ねがわない。 コウフク など と いう もの は、 ヒト の ココロ を しんじつ なぐさめて くれる もの では ない から で ある。 かりそめにも コウフク に なろう など とは おもって は いけない ので、 ヒト の タマシイ は エイエン に コドク なの だ から。 そして ワタシ は きわめて イセイ よく、 そういう ネンブツ の よう な こと を かんがえはじめた。
ところが ワタシ は、 フコウ とか クルシミ とか が、 どんな もの だ か、 そのじつ、 しって いない の だ。 おまけに、 コウフク が どんな もの だ か、 それ も しらない。 どう に でも なれ。 ワタシ は ただ ワタシ の タマシイ が ナニモノ に よって も みちたる こと が ない こと を カクシン した と いう の だろう。 ワタシ は つまり、 ワタシ の タマシイ が みちたる こと を ほっしない タテマエ と なった だけ だ。
そんな こと を かんがえながら、 ワタシ は しかし、 イヌコロ の よう に オンナ の ニクタイ を したう の だった。 ワタシ の ココロ は ただ ドンヨク な オニ で あった。 いつも、 ただ、 こう つぶやいて いた。 どうして、 なにもかも、 こう、 タイクツ なん だ。 なんて、 やりきれない ムナシサ だろう。
ワタシ は ある とき オンナ と オンセン へ いった。
カイガン へ サンポ に でる と、 その ヒ は ものすごい アレウミ だった。 オンナ は ハダシ に なり、 ナミ の ひく マ を くぐって カイガラ を ひろって いる。 オンナ は ダイタン で、 ビンカツ だった。 ナミ の コキュウ を のみこんで、 ウミ を セイフク して いる よう な ホンポウ な ウゴキ で あった。 ワタシ は その シンセンサ に メ を うたれ、 どこ か で、 ときどき、 おもいがけなく あらわれて くる みしらぬ シタイ の アザヤカサ を むさぼりながめて いた が、 ワタシ は ふと、 おおきな、 ミノタケ の ナンバイ も ある ナミ が おこって、 やにわに オンナ の スガタ が のみこまれ、 きえて しまった の を みた。 ワタシ は その シュンカン、 やにわに おこった ナミ が ウミ を かくし、 ソラ の ハンブン を かくした よう な、 くらい、 おおきな ウネリ を みた。 ワタシ は おもわず、 ココロ に サケビ を あげた。
それ は ワタシ の イッシュン の ゲンカク だった。 ソラ は もう、 はれて いた。 オンナ は まだ ナミ の ひく マ を くぐって、 かけまわって いる。 ワタシ は しかし その イッシュン の ゲンカク の あまり の ウツクシサ に、 さめやらぬ オモイ で あった。 ワタシ は オンナ の スガタ の きえて なくなる こと を ほっして いる の では ない。 ワタシ は ワタシ の ニクヨク に おぼれ、 オンナ の ニクタイ を あいして いた から、 オンナ の きえて なくなる こと を ねがった ためし は なかった。
ワタシ は タニソコ の よう な おおきな アンリョクショク の クボミ を ふかめて わきおこり、 イッシュン に シブキ の オク に オンナ を かくした ミズ の タワムレ の オオキサ に メ を うたれた。 オンナ の ムカンドウ な、 ただ ジュウナン な ニクタイ より も、 もっと ムジヒ な、 もっと ムカンドウ な、 もっと ジュウナン な ニクタイ を みた。 ウミ と いう ニクタイ だった。 ひろびろ と、 なんと ソウダイ な タワムレ だろう と ワタシ は おもった。
ワタシ の ニクヨク も、 あの ウミ の くらい ウネリ に まかれたい。 あの ナミ に うたれて、 くぐりたい と おもった。 ワタシ は ウミ を だきしめて、 ワタシ の ニクヨク が みたされて くれれば よい と おもった。 ワタシ は ニクヨク の チイササ が かなしかった。