カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

タデ くう ムシ 4

2020-04-04 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 7

「まあ、 くさい!」
 ヘヤ へ はいる と、 ミサコ は ばたばた と タモト で その ヘン の クウキ を はたいた。 そして その ソデ で カオ を おさえて いそいで ある だけ の マド を ひらいた。
「くさい わ、 ホントウ に、 タカナツ さん は。 ―――イマ でも あれ を めしあがる の?」
「ええ、 たべます よ。 そのかわり しじゅう この とおり ジョウトウ の ハマキ を すって いる ん だ」
「ハマキ の ニオイ が ごっちゃ に なってる から なお ヘン なん だわ。 まあ、 ホントウ に、 ヘヤジュウ に こもっちまって、 なんて いう クササ だろう。 こんな ニオイ を させる ん なら、 ウチ の ネマキ を きない で ちょうだい よ」
「なあに、 センタク を すりゃあ すぐに おちます よ。 きて しまった もの を いまさら ぬいだって おんなじ こと さ」
 ニワ では べつだん キ が つく ほど では なかった の だ が、 しめきって あった ヨウシツ の ナカ には ヒトバンジュウ よどんで いた ハマキ の ニオイ と ニンニク の ニオイ と が、 むっと ハナ を さす ばかり に まじって いた。 「シナ に すんだら シナジン と おなじ よう に さかん に ニンニク を たべる に かぎる。 ニンニク さえ たべて いたら フウドビョウ に かかる シンパイ は ない」 ―――と、 そう いう の が タカナツ の ジロン で、 シャンハイ の カレ の チュウボウ では、 マイニチ かならず ニンニク-イリ の シナ リョウリ を かかした こと が ない の で ある。 「シナジン だったら きっと リョウリ に ニンニク を つかう。 ニンニク の におわない シナ リョウリ なんて シナ リョウリ の よう な キ が しない」 と いって、 カレ は ナイチ へ かえる の にも ほした ニンニク を もって あるいて、 ときどき それ を ナイフ で けずって は オブラート へ つつんだり して、 ジヤク の よう に のんで いた。 イチョウ を つよく する ばかり で なく、 エネルギッシュ に なる ん だ から やめられない と いう の で あった が、 「タカナツ が セン の ニョウボウ に にげられた の は、 あんまり ニンニク-くさかった せい だぜ」 と、 カナメ は ジョウダン に そう いいいい した。
「ゴショウ です から、 もうすこし ムコウ へ いって いて ちょうだい」
「くさかったら、 ハナ を つまんで いらっしゃい よ」
 そう いって カタテ で ぱっぱっ と ケムリ を はきながら、 もう いいかげん クズヤ へ うって も おしく なさそう な リョコウズレ の した スーツケース を、 シンダイ の ウエ へ いっぱい に ひろげた。
「まあ、 ずいぶん かいこんで いらしった のね、 まるで ゴフクヤ の バントウ みたい に。―――」
「ええ、 コンド は トウキョウ へ いく もん だ から ね。 ………オキ に めした の が あれば いい ん だ が、 どうせ また ワルクチ じゃあ ない の かな」
「アタシ に イクツ くださる の?」
「2 ホン か 3 ボン に ねがいたい ね。 ………どう です、 これ は?」
「ジミ だわ、 そんな の」
「これ が ジミ かなあ。 ―――いったい イクツ に なる ん です よ。 ロウキュウショウ の バントウ の セツ じゃ、 22~23 の オジョウサマ か ワカオクサマ-ムキ だ って いってた ん だ が」
「そんな、 シナジン の バントウ の いう こと なんか アテ に なり や しない わ」
「シナジン て いう けれど、 ニホンジン が オオゼイ かい に いく ミセ で、 ニホンジン の コノミ は よく しって いる ん です ぜ。 ボク ん ところ の ヤツ なんか いつでも ここ の バントウ に ソウダン する ん だ」
「でも、 アタシ、 そんな の は いや。 ―――だいいち それ は ゴロウ じゃあ ない の」
「よくばってる なあ。 ―――ゴロウ なら 3 ボン だ が、 ドンス なら 2 ホン しか あげられません よ」
「じゃあ ドンス を いただく わ、 まだ その ほう が いくらか トク だ から。 ―――どう? これ は?」
「それ か?」
「それ か? ―――って、 ナニ よ?」
「そいつ は アザブ の いちばん シタ の イモウト に やる つもり だった ん だ」
「まあ、 おどろいた、 そりゃ スズコ さん が おかわいそう だわ」
「おどろいた とは ボク の ほう で いう こってす よ。 こんな ハデ な オビ を しよう なんて、 イロキチガイ だな」
「ふ、 ふ、 どうせ アタシ は イロキチガイ よ」
 はっと タカナツ が おもった とき は もう おそかった が、 ミサコ は その バ を すくう ため に わざと ずうずうしく わらった。
「や、 シツゲン、 シツゲン。 イマ の は ホンイン の アヤマチ で ありました。 タダイマ の コトバ は とりけします から、 ソッキロク へは のせない よう に ねがいます」
「ダメ よ、 いまさら とりけしたって。 もう ソッキロク へ のって しまって よ」
「ホンイン は けっして アクイ で もうした の では ない。 しかし ゆえなく シュクジョ の メイヨ を きずつけたる のみ ならず、 みだり に ギジョウ を さわがしたる ツミ は つつしんで チンシャ いたします」
「ふ、 ふ、 あんまり シュクジョ でも ない ん だ けれど、………」
「では とりけさない でも いい です か」
「いい わ、 どうせ。 ―――いずれ キズ の つく メイヨ なん だ から」
「そう いった もん でも ない でしょう。 キズ を つけない よう に と いう んで、 いろいろ クシン してる ん でしょう」
「それ は カナメ は そう なん です けれど、 そんな こと を いったって ムリ だ と おもう わ。 ―――キノウ ナニ か おはなし に なった の?」
「うん」
「どう いう ん でしょう、 カナメ の ほう は?」
「レイ に よって いっこう ヨウリョウ を えない ん だ。………」
 フタリ は はなやか な オビジ の キレ が とりちらかされた スーツケース を ナカ に はさんで、 シンダイ の リョウハシ に コシ を かけた。
「アナタ の ほう は どう いう ん です?」
「どう って、 そりゃあ、 ………そう ヒトクチ には いえ や しない わ」
「だから ヒトクチ で なくて も いい、 フタクチ に でも ミクチ に でも して いって みたら」
「タカナツ さん は、 キョウ は オヒマ なの?」
「キョウ は イチニチ あけて ある ん です、 その つもり で キノウ の ゴゴ に オオサカ の ヨウ を すまして きた ん だ から」
「カナメ は キョウ は?」
「ヒル から ヒロシ くん を つれて タカラヅカ へ でも でかけよう か って いって ました ぜ」
「ヒロシ には シュクダイ を やらせましょう よ。 そうして トウキョウ へ つれて いって くださらない?」
「つれて いく の は かまわない が、 さっき ソブリ が おかしかった な、 ないて いた ん じゃ なかった の かな」
「そう よ、 きっと、 あれ は ああいう ふう なん です から。 ―――アタシ、 どういう キモチ に なる もの か、 2~3 ニチ の アイダ でも いい から イッペン コドモ と いう もの を ジブン の ソバ から はなして みたい の」
「それ も いい かも しれない な、 その アイダ に シバ クン とも じゅうぶん はなしあって みる こった な」
「カナメ の カンガエ は タカナツ さん から きかして くださる ほう が いい わ。 フタリ で ハナ を つきあわせる と、 どうしても おもう よう に クチ が きけない の、 ある テイド まで は いい けれど、 それ イジョウ に フカイリ する と ナミダ ばかり でて きちまって」
「いったい しかし、 アソ クン の ところ へ いける こと は たしか なん です か」
「そりゃ たしか だわ。 ケッキョク の ところ は フタリ の ケッシン-シダイ だ と おもう わ」
「ムコウ の オヤ や キョウダイ は なんにも しって いない の かしらん」
「うすうす は しって いる らしい の」
「どういう テイド に?」
「まあ、 カナメ が ショウチ で ときどき あって いる らしい と いう くらい な テイド に」
「みて みない フリ を してる ん です ね」
「そう なん でしょう。 それ より シカタ が ない ん でしょう」
「じゃ、 もし モンダイ が ゲンザイ イジョウ に すすんで きたら?」
「それ も、 まあ、 ―――こっち の ほう が エンマン に わかれた アト の こと ならば コショウ は いわない だろう、 オカアサン は ジブン の ココロモチ を わかって いて くれる から って、―――」
 ふたたび ニワ で 2 トウ の イヌ が イガミアイ を はじめた らしく、 きゃんきゃん と ないた。
「まあ、 また!」
 と ミサコ は ちょっと シタウチ を して、 ヒザ の ウエ で いじくって いた オビジ の マキモノ を だらり と なげる と、 たって マドギワ の ほう へ いった。
「ヒロシ や、 イヌ を あっち へ つれて いったら いい じゃ ない の。 うるさくって シヨウ が ありゃ しない」
「ええ、 イマ つれて いく ところ なん です よ」
「オトウサン は?」
「オトウサン は ヴェランダ。 ―――アラビアン ナイト を よんで いらっしゃいます」
「オマエ、 シュクダイ を はやく やって おしまい、 あそんで いない で」
「オジサン は まだ?」
「オジサン を まって いない だって よ ござんす。 オジサン オジサン て まるで ジブン の トモダチ の よう に こころえて いる ん だね、 オマエ は」
「だって、 シュクダイ を てつだって くださる って おっしゃった から―――」
「ダメ、 ダメ。 なんの ため の シュクダイ です、 ジブン で やらなけりゃ いけません!」
「はあい」
 と いって、 イヌ と イッショ に ぱたぱた かけて ゆく アシオト が きこえた。
「ヒロシ くん には オカアサン の ほう が こわい らしい な」
「ええ、 カナメ は なんにも いわない ん です もの。 ―――けど、 わかれる と なったら、 チチオヤ より も ハハオヤ の ほう に わかれづらく は ない かしら?」
「そりゃ オカアサン は オンナ の ミ ヒトツ で でて いく ん だ から、 それだけ ドウジョウ が よる かも しれん な」
「そう おもう? タカナツ さん は。 ―――ドウジョウ は アタシ、 カナメ の ほう に あつまる と おもう の。 カタチ の ウエ では アタシ が カナメ を すてた よう に みえる ん だ から、 セケン は アタシ を わるく いう でしょう し、 コドモ に して も そんな ウワサ が ミミ に はいれば アタシ を うらみ は しない でしょう か」
「しかし、 おおきく なれば シゼン に ただしい ハンダン を くだす よう に なります よ。 コドモ の キオク は たしか な もの だ から、 セイジン して から ちいさい とき の こと を もう イチド はっきり とりだして みて、 これ は こう だった、 あれ は ああ だった と いう ふう に、 その とき の チエ で カイシャク する。 だから コドモ は ユダン が ならない、 いずれ オトナ に なる とき が ある ん だ から」
 ミサコ は それ には こたえない で まだ マドギワ に たたずんだ まま ぼんやり ソト を ながめて いた。 ウメ の キ の アイダ を コトリ が 1 ワ、 エダ から エダ へ とびうつって いる。 ウグイス かしら? セキレイ かしら? と おもいながら、 しばらく それ を メ で おって いた。 ウメ の ムコウ の ヤサイバタケ で、 ジイヤ が フレーム の フタ を あけて、 ナニ か の ナエ を ハタケ へ うえて いる の が みえる。 2 カイ から は ウミ は のぞめなかった が、 あおあお と はれた ウミ の ホウガク の ソラ を みつめる と、 なにがなし に ほっと おもくるしい タメイキ が でた。
「キョウ は スマ へは いかなくって も いい ん です か」
「ふふ」
 と カノジョ は、 カオ は みせない で、 ニガワライ で こたえた。
「コノゴロ は ほとんど マイニチ だ そう じゃ ない です か」
「ええ」
「あいたい なら いって らっしゃい」
「アタシ、 そんな に スレッカラシ に みえて?」
「みえる と いった ほう が キ に いる の か、 どっち かな」
「ショウジキ の こと を いって ちょうだい」
「やはり いくらか ショウフ-ガタ だ、 だんだん そう なりつつ ある と いう こと に、 キノウ イケン が イッチ した ん だ」
「ジブン でも それ は みとめて いる の。 ―――でも キョウ は いい のよ、 タカナツ さん が いらっしゃる から って そう いって ある の。 ―――だいいち オキャクサマ を ほうって おいちゃ、 この オミヤゲ に たいして も シツレイ だわ」
「よく そんな こと が いえる なあ、 キノウ は イチニチ いなかった くせ に」
「キノウ は そりゃあ、 カナメ が ハナシ が ある だろう と おもった から。………」
「それじゃ キョウ は オクサマ デー か」
「とにかく あっち の ニホンマ の ほう へ いらっしゃらない? アタシ オナカ が へって いる のよ。 あがらない でも アナタ も ケンブツ に きて ちょうだい」
「オビ は どれ に きめる ん です」
「まだ きめて ない のよ。 アト で ゆっくり みせて いただく から、 ミセ を ひろげて おおきなさい よ。 ―――アナタガタ は ゴハン が すんだ ん だ から いい でしょう けれど、 アタシ は ぺこぺこ なん だ から。………」
 ハシゴダン を オリシナ に シタ の ヨウシツ を のぞいて みる と、 カナメ は いつか ヴェランダ から そこ へ うつって ソファ へ アオムケ に なりながら、 まだ ネッシン に サッキ の ホン を よみつづけて いた が、 ロウカヅタイ に ニホンマ の ほう へ ゆく アシオト に、
「どうしたい、 いい の が あった かい」
 と、 キ の なさそう な コエ を かけた。
「ダメ なの よ、 タカナツ さん は。 オミヤゲ オミヤゲ って フレコミ ばかり おおきくって、 そりゃあ シミッタレ なん だ から」
「シミッタレ な もん か、 アナタ が よくばりすぎる ん だよ」
「だって、 ゴロウ なら 3 ボン だ が、 ドンス なら 2 ホン だ なんて、―――」
「それ で いや なら、 たって さしあげよう とは もうしません。 こっち も おおきに たすかる わけ だ」
「ふ、 ふ」
 ハンブン は ウワノソラ-らしい アイソワライ を した だけ で、 しずか に ページ を くる オト が きこえた。
「トウブン は あれ に ムチュウ らしい な」
 と、 ロウカ を まがりながら タカナツ が いった。
「ええ、 なんでも めずらしい うち だけ で、 ナガツヅキ は しない のよ。 コドモ に オモチャ を あてがった よう な もの なん です から」
 ミサコ は 8 ジョウ の チャノマ へ はいる と、 オット の すわる ザブトン の ウエ へ キャク を しょうじて、 ジブン は シタン の チャブダイ の マエ に すわりながら、
「オサヨ や、 トースト を もって きて おくれ」
 と、 ダイドコロ の ほう へ いいつけて おいて、 ウシロ の クワ の チャダンス を あけた。
「コウチャ が いい? ニホンチャ が いい?」
「どっち でも いい。 ナニ か オカシ の うまい の は ない です か」
「セイヨウガシ なら、 ここ に ユーハイム の が ある わ」
「それ で ケッコウ。 ヒト の くう の を ただ みて いたって つまらん から な」
「ああ、 ここ へ きた んで せいせい した けれど、 でも まだ なんだか くさい よう ね」
「いくらか アナタ にも うつった か しれん ね。 まあ なんと いう か、 アシタ でかけて ごらんなさい」
「タカナツ さん と つきあって いる うち は きて くれるな って いわれそう ね」
「だが ホントウ に ほれあった ナカ なら、 ニンニク の ニオイ ぐらい なんでも ない はず だ がな。 それ で なけりゃあ ウソ です よ」
「ごちそうさま。 ナニ を おごって くださる の?」
「そう サキマワリ を されちゃあ こまる。 ま、 トースト でも あがって ください」
「だけど、 この ニオイ が すき に なった カタ が あって?」
「ありました とも。 ―――ヨシコ なんぞ は そう でした よ」
「へーえ、 じゃあ くさい んで にげられた って いう の は ウソ?」
「そりゃあ シバ クン の デタラメ だ。 イマ でも ニンニク の ニオイ を かぐ と、 ボク の こと を おもいだす って いう そう です よ」
「アナタ は おもいださない?」
「ださなく も ない が、 ありゃあ あそぶ には おもしろい けれど ニョウボウ に する オンナ じゃ ない」
「ショウフ-ガタ?」
「うん」
「じゃあ、 アタシ と おんなじ ね」
「アナタ の は ハラ から の ショウフ じゃあ ない。 ショウフ と みえる の は ウワッツラ で、 シン は リョウサイ ケンボ だ そう だ」
「そう かしらん?」
 そらっとぼけて いる の か どう か、 たべる ほう に ヨネン も ない と いう ヨウス で、 ソクセキ の サンドイッチ を こしらえる の に かまけて いる カノジョ は、 タテ に フタツ に きって ある スヅケ の キュウリ を こまか に きざんで は、 それ と チョウヅメ と を パン の アイダ へ はさみながら キヨウ な テツキ で クチ の ナカ へ はこんだ。
「うまそう だな、 それ は」
「ええ。 うまい わよ、 なかなか」
「その ちいさい の は ナン だろう」
「これ? これ は レヴァ の ソーセージ。 コウベ の ドイツジン の ミセ の よ」
「オキャクサマ には そんな ゴチソウ が でなかった ぜ」
「そりゃあ そう だわ。 いつも アタシ の アサ の オカズ に きまってる ん です もの」
「それ を ボク に ヒトキレ ください。 カシ より その ほう が ほしく なった」
「いじきたな ねえ。 さあ、 クチ を あーん と あいて。―――」
「あーん」
「ああ、 くさ! フォーク に さわらない よう に して、 パン だけ うまく とって ちょうだい。 ………どう?」
「うまい」
「もう あげない わよ、 アタシ の が なくなっちまう から」
「フォーク を もって こさせたら いい のに。 てずから ヒト の クチ の ナカ へ つっこむ なんか、 そういう ところ が ショウフ なん だな」
「モンク を いう なら、 ヒト の もの なんか たべない で ちょうだい よ」
「しかし ムカシ は こんな ブサホウ が やれる ヒト じゃあ なかった ん だ が、 ………ずいぶん しとやか で、 つつしみぶかくって、………」
「ええ、 ええ、 そう でしょう とも」
「アナタ の は つまり ハラ から じゃあ なくって、 イッシュ の キョエイシン なん だな?」
「キョエイシン?」
「ああ」
「わからない わ、 アタシ。………」
「シバ クン に いわせる と、 アナタ を ショウフ-ガタ に した の は ジブン が しむけた ん だ から、 ジブン に セキニン が ある と いう ん だ が、 ボク は そう ばかり も いえない と おもう。………」
「カナメ に そんな セキニン を おって もらいたく ない わ。 やっぱり ジブン の ウマレツキ に そういう ところ が ある ん だ と おもう わ」
「そりゃあ、 どんな リョウサイ ケンボ だって ぜんぜん ショウフ-テキ の セイシツ が ない こと は ない さ。 けど アナタ の は イマ の ケッコン セイカツ から きて い や しない か。 つまり ヒト から さびしい オンナ だ と おもわれる の が いや なんで、 つとめて はなやか に しよう と した ケッカ じゃあ ない の かな」
「それ が キョエイシン?」
「やっぱり キョエイシン の イッシュ さ。 オット に あいせられない の を ヒト に しられたく ない と いう……… そこ まで いっちゃあ わるい かも しれない けれど、………」
「いいえ、 ちっとも かまいません、 どうぞ エンリョ なく おっしゃって ちょうだい」
「アナタ は ヨワミ を みせまい と して しいて はなやか には して いる けれど、 ときどき キジ の さびしい ところ が でる こと が ある。 ホカ の ヒト は キ が つかない でも、 シバ クン には それ が わかる ん じゃ ない の かな」
「カナメ が いる と ミョウ に アタシ は フシゼン に なる のよ。 カナメ が いる とき と いない とき と で、 アタシ の タイド が いくらか ちがう と おおもい に ならない」
「シバ クン が いない と、 アナタ は むしろ すさんで みえる ね」
「タカナツ さん で さえ そう おかんじ に なる くらい だ から、 きっと いや な キ が する だろう と おもって、 カナメ の マエ では どうしても かたく なって しまう の。 それ は どうも シカタ が ない わ」
「アソ クン の マエ では むろん ショウフ-ガタ の ほう が でる ん だろう な」
「そう でしょう、 きっと」
「フウフ に なる と、 それ が あんがい そう で なくなり は しない かしらん?」
「アソ と だったら、 そんな こと は ない と おもう わ」
「けど、 ヒト の サイクン で ある うち は ミョウ に よく みえる もん なん だ。 イマ の アナタガタ は ユウギ の キブン で いる ん だ から な」
「ケッコン したって ユウギ の キブン で いられ や しない?」
「それ が そう いけば いい けれど ね」
「そう いく つもり よ、 アタシ は。 ―――ケッコン と いう もの を ヒジョウ に マジメ に かんがえすぎる から いけない ん じゃ ない?」
「じゃあ あきたらば また わかれる か」
「そう なる わけ ね、 リクツ の ウエ では」
「リクツ の ウエ で なく、 アナタ ジシン の バアイ には?―――」
 フォーク を うごかして いた カノジョ の テ が、 キュウリ の ヒトキレ を つきさした まま キュウ に サラ の ウエ で とまった。
「―――あきる とき が ある と おもう ん です か?」
「アタシ は あきない つもり なの」
「アソ クン は?」
「あきない とは おもう けれど、 『あきない』 と いう ヤクソク を する の は こまる と いう の」
「それでも いい ん です か、 アナタ は?」
「アタシ には その キモチ は よく わかる のよ。 そりゃ 『あきない』 って いって しまえば いい ん だ けれど、 ジブン は レンアイ の ケイケン は コンド が はじめて なん だ から、 イマ の ところ では エイキュウ に かわらない よう な キ が して いて も、 じっさい それ が どう なる もの か、 サキ の こと は ジブン にも わかって いない。 ジブン に わからない こと を ヤクソク したって ムイミ だし、 ウソ を つく の は フユカイ だ から って いう ん です の」
「しかし そういう もん じゃ ない がな。 サキ の こと なんか かんがえない で、 イチズ に 『あきない』 と いいきれる だけ の シンケンサ が なけりゃ、………」
「それ は セイシツ じゃあ ない かしら。 いくら シンケン でも、 ジブン を カイボウ する タチ の ヒト だったら、 なかなか そう は いえない ん じゃ ない?」
「ボク だったら、 ケッカ は ウソ を つく こと に なって も その とき は ちゃんと ヤクソク する な」
「アソ は また、 なまじ ヤクソク なんか する と、 それ が ある ため に かえって いつも、 『あき や しない か、 あき や しない か』 と いう キ が する に ちがいない。 ジブン の セイシツ では きっと そう なる から って、 それ を おそれて いる ん です の。 だから おたがいに ヤクソク を しない で ゲンザイ の まま で イッショ に なる の が いちばん いい。 ジブン の キモチ を しばらない で くれた ほう が けっきょく ながく つづく から って―――」
「そう かも しれない が、 どうも すこし………」
「ナン なの?」
「ユウギ キブン が すぎる よう だな」
「アタシ には セイカク が わかって いる から、 そう いわれた ほう が アンシン なん だ けれど」
「シバ クン には それ を はなした ん です か」
「はなさない わ。 キョウ まで こんな ハナシ が でる キカイ も なかった し、 はなしたって ムダ なん です から。………」
「だけども、 そりゃあ ランボウ だなあ、 ショウライ の ホショウ も なし に わかれる と いう の は。………」
 しぜん と コエ が げきして くる の を こらえながら そう いいかけた タカナツ は、 その とき リョウテ を ヒザ に おいて しずか に リョウメ を しばだたいて いる ミサコ に きづいた。
「………ボク は そんな ん じゃあ ない と おもった。 ………そう いっちゃあ シツレイ だ が、 オット を すてて いく と いう イジョウ は、 もうすこし マジメ なん だろう と おもって いた ん だ」
「フマジメ じゃあ ない こと よ、 アタシ。 ………どっち に したって わかれた ほう が いい ん です から。………」
「だから こう なる マエ に もっと よく かんがえりゃあ よかった ん だ」
「かんがえたって おんなじ こと だわ。 フウフ でも ない のに ここ に いる の は つらい ん です もの。………」
 リョウカタ を はって、 ウナジ を たれて、 ナミダ を とめる の に イッショウ ケンメイ に なって は いた けれど、 ひかった もの が イッテキ ヒザ の ウエ に おちた。

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