カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

タデ くう ムシ 5

2020-03-20 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 8

 カナメ は サッキ から オブシーン ブック の オブシーン で ある ユエン の ところ を みつけだそう と して いる の だ が、 カレ の テ に して いる 1 カン の ウチ には ダイ 1 ヤ から ダイ 34 ヤ まで が おさめて あって、 キクバン で 360 ページ も ある の だ から、 なかなか さがす の に テマ が かかる。 サシエ で つられて も ナカミ は あんがい ヘイボン な ハナシ が たくさん ある。 「ユーナン オウ と ドウバン セイジャ の ハナシ」、 「ミッツ の リンゴ の ハナシ」、 「ナザレ の ナカガイニン の ハナシ」、 「くろき シマ に すむ わかき オウ の ハナシ」、 ―――と、 そういう ふう に いちいち ヒョウダイ を あさった だけ では、 どれ が いちばん コウキシン を みたす に たる もの か ケントウ が つかない。 もともと この ホン は イマ まで カンゼン な オウシュウゴ ヤク が なかった と いわれる アラビア の モノガタリ を、 リチャード バートン が はじめて チクジテキ に エイゴ に うつして、 バートン クラブ から カイイン ソシキ で シュッパン した ゲンテイバン で あって、 ほとんど カク-ページ ごと に ついて いる シンセツ な キャクチュウ を ヒロイヨミ して ゆく と、 カレ には なんの キョウミ も ない ゴガクジョウ の ケンキュウ も ある けれども、 ナカ には アラビア の フウゾク シュウカン に かんする カイセツ や、 たしょう ハナシ の ナイヨウ の うかがわれる キサイ が ない こと も ない。 たとえば 「おおきく ウツロ に なって いる ヘソ は うつくしい もの と されて いる ばかり で なく、 ヨウジ に あって は すこやか に おいたつ シルシ で ある と おもわれて いる」 と いう の が ある。 「2 マイ の モンシ ―――ただし ジョウガクブ に かぎる、――― の アイダ に ほんの かすか な スキマ の ある の を、 アラビアジン は うつくしい と かんずる の で ある。 どういう ワケ か わからない が ヘンカ に たいする この シュゾク トクユウ の アイジョウ で あろう」 と いう の も ある。―――
「オウサマ オカカエ の リハツシ は コウイ コウカン の ニンゲン で ある の が フツウ で あって、 それ は シュケンシャ の セイメイ を ユビ の アイダ に あずかる モノ だ から と いう しごく もっとも な リユウ に よる。 かつて ある エイコク の シュクジョ で、 そういう インド の キゾクテキ フィガロ の ヒトリ と ケッコン した モノ が あった が、 カノジョ は オット の カンショク が ナン で ある か を しる に およんで、 がっかり して キョウ が さめた と いう ハナシ が ある」
「トウホウ の カイキョウコク では、 キコンシャ と ミコンシャ と を とわず わかい フジン の ヒトリアルキ を きんじて いて、 おかす モノ が あれば ジュンサ は それ を ホバク して いい ケンリ が ある。 これ は ミッツウ を ふせぐ の に ユウコウ な シュダン で あって、 かつて クリミア センソウ の ジブン に、 イギリス、 フランス、 イタリア-トウ の シカン が スウヒャクニン コンスタンチノープル に チュウトン して いた こと が あり、 カレラ の ウチ には トルコ の フジン を テ に いれた と いって トクイ に なった モノ も すくなく なかった が、 じつは その ナカ に ヒトリ の トルコジン も いなかった に ちがいない と ワタシ (バートン) は しんじる。 カレラ に セイフク された オンナ は ことごとく ギリシアジン か、 ワラキアジン か、 アルメニアジン か、 さも なければ ユダヤジン で ある」
「この ところ は この うつくしく ものがたられた うつくしい モノガタリ-チュウ での ユイイツ の オテン で、 レーン が ここ を やくした ため に ヒンセキ された の は いちおう トウゼン な こと で ある。………」
 カナメ は はっと して、 とうとう みつけた な と おもいながら、 いそいで その チュウ を よみくだした。―――
「………レーン が ここ を やくした ため に……… いちおう トウゼン な こと で ある。 しかし ここ でも その ワイザツサ は、 ワレワレ の ふるい ジダイ の ブタイ の ため に かかれた ギキョク (たとえば シェークスピア の ヘンリー ゴセイ の ごとき) に くらべて みて たいした ソウイ は ない で あろう。 まして この ヤワ の よう な モノガタリ は、 ダンジョ の セキ で ロウドク されたり アンショウ されたり する もの では ない の で ある」
 カナメ は この チュウ の ついて いる 「バグダッド の サンニン の キフジン と モンバン の ハナシ」 と いう の を すぐ よみかけた が、 ものの 5~6 ギョウ も すすんだ ジブン に チャノマ の ほう から アシオト が きこえて、 そこ へ タカナツ が はいって きた。
「キミ、 アラビアン ナイト は アト に しない か」
「どうした ん だい?」
 と いいながら、 カナメ は ソファ から おきよう とも せず、 のこりおしそう に ひらいた まま の ホン を アシ の ウエ に ふせた。
「イガイ な こと を きいて きた ん だよ」
「イガイ な こと って?………」
 2~3 プン-カン、 だまって タカナツ は テーブル の マワリ を いったり きたり した。 ハマキ の ケムリ が、 その あるいた アト に カスミ の よう な スジ を ひいた。
「ミサコ さん には なにも ショウライ の ホショウ が ない ん だ そう じゃ ない か」
「ショウライ の ホショウ が?………」
「キミ も ノンキ だ が、 ミサコ さん も ノンキ-すぎる。………」
「ナン だよ いったい? ヤブ から ボウ で ちょっと わかりかねる ん だ が、………」
「アソ との アイダ に、 いつまでも アイジョウ が かわらない と いう ヤクソク は して ない。 アソ は レンアイ と いう もの は あきる とき も ありうる ん だ から、 ショウライ の こと は ヤクソク できない と いって いる し、 ミサコ さん も それ を ショウチ だ と いう ん だ」
「ふうむ、 ………そういう こと を いいそう な オトコ では ある ん だ がね。………」
 カナメ は とうとう アラビアン ナイト を おもいきって、 やっと ソファ から ミ を おこした。
「しかし、 ………ボク は ちょくせつ しらん の だ から どうとも いえない が、 ………そんな こと を いう オトコ は フユカイ だな。 ミヨウ に よって は ずいぶん わるく とれなく も ない」
「けども キミ、 わるい ヤツ なら オンナ の キゲン を とる よう な こと を いう だろう が、 それ を そう いわない ところ に ショウジキサ が あり は しない か」
「ボク は そういう ショウジキ は きらい だ。 ショウジキ じゃあ ない、 フマジメ なん だ」
「キミ の セイシツ では そう だろう。 しかし どんな に おもいあった ナカ だって いつかは あきる とき が くる。 エイキュウ に おなじ アイジョウ で とおそう と いう の は ムリ なん だ から、 ヤクソク できない と いう の にも リクツ は ある よ。 ボク が アソ でも やっぱり そう いう かも しれん ね」
「それじゃ あきたらば また わかれる で いい の かい?」
「あきる と いう こと と、 わかれる と いう こと とは ベツ さ。 あきた から って、 また おのずから レンアイ では ない フウフ の ジョウアイ が しょうずる と おもう。 タイガイ の フウフ は それ で つながって いる ん じゃ ない か」
「アソ と いう オトコ が リッパ な ニンゲン で あり さえ すれば それ で よかろう。 けども あきた から と いって ほうりだされたら どう なる ん だ。 そこ の ホショウ が ついて いない ん じゃ あんまり こころぼそい じゃ ない か」
「まさか、 そんな わるい ニンゲン じゃあ ない だろう よ。………」
「いったい、 こう なる マエ に ヒミツ タンテイ に でも たのんで しらべた こと が ある の かね?」
「ヒミツ タンテイ に たのんだ こと は ない」
「じゃ ホカ の ホウホウ で でも しらべた かね」
「べつに とくに しらべる と いう よう な こと は しなかった。 ………そういう こと は ボク は きらい だし、 つい メンドウ だ もん だ から、………」
「キミ と いう ヒト にも あきれる な」
 タカナツ は はきだす よう に いった。
「―――アイテ は たしか な ニンゲン だ と いう から、 むろん ひととおり しらべて ある ん だ と おもった ん だ が、 それ じゃ あんまり ムセキニン じゃ ない か。 もしも シキマ の よう な ヤツ で、 ミサコ さん を だまして いる ん だったら どう する ん だい?」
「そう いわれる と なんだか フアン に なる けれど ね。 ………しかし あった とき の カンジ では、 だいじょうぶ そういう ヤツ じゃあ ない よ。 それに ボク は、 アソ より も じつは ミサコ を しんじて いる ん だ。 ミサコ は コドモ じゃあ ない ん だ から、 よい ニンゲン か わるい ニンゲン か みわける ぐらい の フンベツ は ある だろう。 ミサコ が たしか だ と いう ん だ から、 それで アンシン して いる ん だ」
「そいつ は あまり アテ には ならん ね。 オンナ と いう もの は リコウ な よう でも バカ だ から な」
「まあ、 そう いうな よ、 ボク は なるべく わるい バアイ を かんがえない よう に して いる ん だ から」
「そういう ところ が キミ は じつに ヤリッパナシ で、 ヘン な ヒト だな。 そういう テン を アイマイ に して おく から わかれる の にも オモイキリ が わるく なる ん だ」
「けど、 ………サイショ に しらべりゃあ よかった ん だ が、 イマ に なっちゃあ シカタ が ない な」
 カナメ は まるで ヒトゴト の よう に いいすてながら、 ふたたび ものうげ に ソファ へ たおれた。
 いったい アソ と ミサコ との アイダ に どれほど の ジョウネツ が もえて いる もの か、 カナメ には ソウゾウ が つかない の で ある。 それ を ソウゾウ する こと は いくら ひややか な オット で あって も おもしろかろう はず は ない ので、 ときどき コウキシン の うごく こと は ありながら、 カレ は つとめて その オクソク から メ を とじて いた。 ソモソモ の オコリ は ざっと 2 ネン も マエ の こと で ある。 ある ヒ オオサカ から かえって くる と、 ヴェランダ で ツマ と あいたいして いる みなれない ヒトリ の キャク が あって、 「アソ さん と いう カタ」 と ミサコ が カンタン に ひきあわせた。 と いう の は、 オット は オット、 ツマ は ツマ で、 めいめい コウサイ の ハンイ を つくって ジユウ な コウドウ を とる こと が いつしか ナラワシ に なって いた ので、 べつに それ イジョウ の セツメイ は ヒツヨウ で なかった から だ けれども、 その コロ カノジョ は タイクツ シノギ に コウベ へ フランス-ゴ の ケイコ に いって いて、 そこ で トモダチ に なった らしい ハナシブリ で あった。 カナメ には トウジ ただ それ だけ が わかった だけ で、 ソノゴ ツマ の ミダシナミ が マエ より は ネンイリ に なり、 カガミ の マエ に ヒビ あたらしい ケショウ ドウグ が ふえて ゆく よう に なった こと など は、 まったく みおとして いた くらい ムトンジャク な オット だった の で ある。 カレ が はじめて ツマ の ソブリ に キ が ついた の は、 それから 1 ネン ちかく も すぎて から だった。 ある バン カレ は、 ヒタイ の ウエ まで ヨギ を かぶって ねて いる ツマ が、 かすか に すすりなく の を きく と、 ながい こと その ススリナキ を ミミ に しながら アカリ の きえた シンシツ の ヤミ を みつめて いた。 ツマ が ヨナカ に オエツ の コエ を もらす こと は、 それまで にも レイ が なかった わけ では ない。 ケッコン して から 1~2 ネン の ノチ、 しだいに セイテキ に カノジョ を すてかけて いた トウザ、 カレ は しばしば オンナゴコロ の ヤルセナサ を うったえて いる この コエ に おびやかされた。 そうして コエ の イミ が わかれば わかる ほど、 かわいそう だ と おもえば おもう ほど、 なおさら ジブン と ツマ との キョリ の とおざかる の が かんぜられ、 なぐさめる コトバ も ない まま に だまって それ を ききすごした もの で あった。 カレ は これから ショウガイ の アイダ、 ナンネン と なく よなよな この コエ に おびやかされる こと を おもう と、 もう それ だけ でも ヒトリミ に なりたかった の で ある が、 いい アンバイ に ツマ は だんだん あきらめて しまって、 それから スウネン-ライ と いう もの は ついぞ きかず に すんで いた のに それ を その バン は ヒサシブリ で きいた の で ある。 カレ は サイショ は ジブン の ミミ を うたがい、 ツギ には ツマ の ココロ を あやしんだ。 いまさら に なって ナニ を カノジョ は うったえよう と する の で あろう。 あきらめた よう に みえた の は じつは あきらめた の では なく、 いつかは オット の ナサケ の かかる オリ も あろう か と ながい サイゲツ を こらえて いた の が、 とうとう まちきれなく なった の で あろう か。 カレ は 「なんと いう バカ な オンナ だ」 と はらだたしく さえ かんじながら、 やはり ムカシ の よう に だまって それ を ききすごした。 が、 その ノチ マイバン の よう に すすりなく の を やめない の が あまり にも フシギ なので、 「うるさい じゃ ない か」 と、 イッペン しかって みた こと が あった。 すると ミサコ は カレ の シッタ を キッカケ に して いっそう コエ を はなって ないた。 「カニ して ください、 アタシ アナタ に キョウ まで かくして いた こと が ある のよ」 ―――と、 その コエ の シタ から カノジョ は いった。 それ は カナメ には イガイ で ない こと は なかった けれども、 ドウジ に ケイバク を とかれた よう な、 フイ に カタ の ニ が のぞかれた よう な キヤスサ を あたえない でも なかった。 ジブン は やっと ひろびろ と した ノハラ の クウキ を ムネイッパイ に すう こと が できる、 ―――カレ は そう おもった ばかり で なく、 その とき シトネ に アオムケ に なって、 じっさい ふかぶか と ハイ の ソコ まで イキ を すった。
 カノジョ の アイ は、 イマ まで の ところ では シンゾウ だけ の もの で あって、 それ イジョウ には すすんで いない と いう こと だった し、 カレ も その コクハク を うたがい は しなかった けれども、 しかし それにしても ドウトクテキ に カレ の オイメ を ソウサイ する には コト が たりた。 カノジョ に そういう もの が できた の は、 ジブン が しむけた から では ない か、 ―――そう かんがえる と オノレ の ヒレツサ を とがめない わけ には ゆかなかった が、 ショウジキ の ところ、 いつかは こういう とき の くる の を ひそか に のぞんで いた だけ で あって、 そんな ノゾミ を クチ へ だした こと も なければ、 すすんで キカイ を つくって やった オボエ も ない。 ただ どうしても ツマ を ツマ と して あいしえられない クルシサ の あまり には、 この キノドク な、 カレン な オンナ を ジブン の カワリ に あいして くれる ヒト でも あったらば と、 ユメ の よう な ネガイ を いだきつつ あった に すぎない。 しかも ミサコ の セイシツ を おもう と、 よもや その ユメ が ジジツ に なろう とは ヨキ して いなかった の で あった。 ツマ も アソ の こと を うちあけて から、 「アナタ にも コイビト が ある ん じゃ ない の?」 と きいた。 イマ では カノジョ も カレ が のぞむ と おなじ よう に それ を のぞんで いた の で あろう。 けれど カナメ は、 「ボク には そんな モノ は ない」 と こたえた。 カレ が カノジョ に すまない こと を して いる の は、 ツマ には テイソウ を まもらせながら ジブン は まもって いない と いう こと、 ――― 「そんな モノ は ない」 にも かかわらず、 ほんの イチジ の モノズキ と ニクタイテキ の ヨウキュウ と から、 いかがわしい オンナ を もとめ に ゆく と いう こと だけ だった。 カナメ に とって オンナ と いう もの は カミ で ある か ガング で ある か の いずれ か で あって、 ツマ との オリアイ が うまく ゆかない の は、 カレ から みる と、 ツマ が それら の いずれ にも ぞくして いない から で あった。 カレ は ミサコ が ツマ で なかったら、 あるいは ガング に なしえた で あろう。 ツマ で ある が ゆえ に そういう キョウミ が かんぜられなかった の でも あろう。 「ボク は それだけ、 まだ オマエ を ソンケイ して いる ん だ と おもう。 あいする こと は できない まで も ナグサミモノ には しなかった つもり だ」 と、 カナメ は その バン ツマ に かたった。 「そりゃ アタシ だって よく わかって いる わ。 ありがたい と さえ おもって いる わ。 ………だけど アタシ は、 ナグサミモノ に されて でも もっと あいされたかった ん です」 ツマ は そう いって はげしく ないた。
 カナメ は ツマ の その コクハク を きいて から でも、 けっして カノジョ を アソ の ほう へ と そそのかす よう には しなかった。 ただ ジブン には ツマ の レイアイ を 「みちならぬ コイ」 で ある と する ケンリ は ない、 ジブン は それ が どこ まで シンテン しよう とも、 ゼニン する より シカタ が ない と いう イミ を いった。 が、 そういう カレ の タイド が カンセツ に ミサコ を そそのかす ハタラキ を した こと は たしか で あろう。 カノジョ の もとめて いた もの は、 そういう オット の モノワカリ の ヨサ、 オモイヤリ の フカサ、 カンダイサ では ない の で あった。 「アタシ ジブン でも どうして いい か わからない で、 まよって いる のよ。 アナタ が よせ と いって くだされば イマ の うち なら よせる ん です」 と カノジョ は いった。 もし その とき に アッセイテキ に でも、 「そんな バカ な こと は よせ」 と いって くれたらば、 その ほう が どんな に うれしかった で あろう。 「みちならぬ コイ」 だ とは いわれない まで も、 せめて 「タメ に ならない から」 と でも いって くれたら、 それ だけ で アソ を おもいきり も した で あろう。 カノジョ の のぞんで いた もの は それ で あった。 ジブン を こう まで うとんじて いる オット から、 あいされよう とは ねがって いなかった ものの、 どう に でも して ジブン の コイ を おさえつけて もらいたい の が ホンシン で あった。 しかし オット は 「どう したら いい でしょう?」 と つめよって ゆく と、 「どうして いい か ボク にも わからない」 と、 タメイキ を つく ばかり で あった。 そうして アソ の デイリ する こと にも、 カノジョ の ソトデ が ヒンパン に なり カエリ が おそく なる こと にも、 なにひとつ カンショウ も しなければ いや な カオ も みせなかった。 カノジョ は うまれて はじめて しった コイ と いう もの を、 ジブン で どうにか シマツ する より ミチ が なかった。
 ススリナキ の コエ が その ヨル の コクハク の あった ノチ にも なお おりおり は シンシツ の ヤミ に ひびいた こと が あった の は、 この イシ の よう に つめたい オット から つきはなされながら、 さすが イチズ に アイヨク の セカイ へ ミ を おとしこむ ユウキ も なくて、 おもいあまった ケッカ で あった。 ことに オトコ から テガミ が きたり、 どこ ぞ で あって きたり した バン なぞ には、 ヨジュウ しくしく と シノビネ に なく の が ヤグ の エリ から もれつづけて、 アケガタ に なる まで やまなかった。 そして ある アサ、 「ちょいと オマエ に ハナシ が ある」 と カナメ が カノジョ を ヨウカン の シタ の ヘヤ へ よんだ の は、 それから ハントシ ばかり も すぎた ジブン だった で あろう か。 テーブル の ウエ の スイバン に シナ スイセン が いけて あって、 デンキ ストーヴ に あたって いた の を おぼえて いる から、 なんでも フユ の、 うつくしく はれた ヒ の こと だった。 その マエ の バン も やはり よどおし なきつづけて、 カノジョ も カナメ も ほとんど ねられなかった ので、 サシムカイ に なった フウフ は どっち も はれぼったい メ を して いた。 じつは カナメ は ユウベ の うち にも クチ を きろう か と おもった の だ が、 ヒロシ が メ を さます シンパイ も あり、 くらい バショ だ と それ で なくて も ナミダ を ヨウイ して いる ツマ が いっそう カンショウテキ に なりそう なので、 わざと さわやか な アサ の ジカン を えらんだ の で あった。 「コノアイダ から かんがえて いた ん だ が オマエ に すこし ソウダン が ある ん だ」 と、 カレ が できる だけ ケイカイ な、 ピクニック に でも さそう よう な キラク な クチョウ で きりだした とき、 「アタシ も アナタ に ソウダン したい こと が ある のよ」 と、 オウムガエシ に ミサコ も そう いって、 スイミン-ブソク の メ の フチ で ビショウ しながら ダンロ の マエ へ イス を よせた。 そして たがいに その ムネ の ウチ を うちあけて みる と、 フタリ は だいたい おなじ よう な ケイカ を たどって おなじ よう な ケツロン に たっして いた。 とても ジブン たち は あいあいしあう こと は できない、 タガイ の ビテン は みとめて いる し、 セイカク も リカイ して いる の だ から、 これから 10 ネン 20 ネン を すぎ、 ロウキョウ に でも いったらば あるいは ハダ が あう よう に なる かも しれない けれども、 そんな アテ にも ならぬ とき を まった ところ で シヨウ が ない と オット が いえば、 「アタシ も そう おもう」 と ツマ が こたえた。 コドモ の アイ に ひかされて ジブン たち の ミ を ウモレギ に する の が おろかしい と いう カンガエ にも フタリ ながら ゆきついて いた。 けれど そこ まで は きて いながら、 「わかれたい の か」 と イッポウ が とえば、 「アナタ は どう?」 と イッポウ が といかえす。 つまり どっち も わかれた ほう が いい の を しりつつ それ だけ の ユウキ が なく、 ただ ジブン たち の よわい キシツ を のろって は トウワク して いる ジョウタイ に あった。
 オット の ハラ の ナカ を いえば ジブン の ほう から ツマ を おいだす リユウ は ない し、 セッキョクテキ に でれば でる だけ ネザメ が わるい に ちがいない から、 なるべく ならば ウケミ で ありたい。 ジブン は さしあたり ダレ と ケッコン したい と いう アイテ が ある の でも ない の だ が、 ツマ には それ が ある の だ から、 ツマ の ほう から カクゴ を きめて もらいたかった。 ところが ツマ の イイブン は、 オット に そういう アイテ が なく、 ジブン ばかり が コウフク に なる の では わかれづらい。 ジブン は オット に あいして もらえなかった とは いえ、 オット を ムジョウ な ヒト だ とは おもって いない。 ウエ を のぞめば キリ の ない ハナシ だ が、 ずいぶん セケン には フシアワセ な ツマ も おおい こと だし、 それ から みれば ジブン など は あいせられない と いう だけ で ホカ に フソク は ない の で ありながら、 その オット を すて コ を すてて まで も と いう ほど の キ には なりきれない。 ようするに オット も ツマ も、 わかれる ならば ジブン の ほう が すてられる ガワ に なる こと を ねがい、 どっち も ジブン が ラク な ほう へ と まわりたかった。 しかし ジブン たち は コドモ でも ない のに、 ナニ が そんな に つらい の だろう。 リセイ の よし と する もの を ジッコウ する こと が できない の は、 ナニ を おそれて いる の だろう。 ケッキョク の ところ は カコ の キズナ を たちきる だけ の こと では ない か。 その カナシミ は ただ その セツナ の もの で あって、 オオク の ヒト の レイ を みれば、 ながい アイダ には だんだん うすらいで ゆく の で ある。 「ボクタチ は サキ の こと より も メサキ の ワカレ が こわい の だね」 と、 フウフ は かたりあって わらった。
 カナメ は サイゴ に、 「では ボクタチ は ジブン たち にも わからない よう に ごく すこし ずつ わかれる シュダン を とろう では ない か」 と いう テイギ を した。 ムカシ の ヒト は リベツ の カナシミ に うちかてない の は ジジョ の ジョウ だ と いう かも しれない。 けれども イマ の ニンゲン は たとい わずか な クツウ にも せよ、 もし そんな もの を あじわわない で おなじ ケッカ が えられる ならば、 その ミチ を とる の を かしこい と する。 ジブン たち は ジブン たち の オクビョウ を はじる には あたらない。 オクビョウ ならば オクビョウ の よう に それ に テキオウ した ホウサク に よって コウフク を もとめる が いい。 そこで カナメ は あらかじめ アタマ の ナカ へ カジョウガキ に して おいた シモ の よう な ジョウケン を だして、 「こうして みたら どう か」 と いった。―――

ヒトツ、 ミサコ は とうぶん セケンテキ には カナメ の ツマ で ある べき こと。
ヒトツ、 ドウヨウ に アソ は、 とうぶん セケンテキ には カノジョ の ユウジン で ある べき こと。
ヒトツ、 セケンテキ に ウタガイ を まねかない ハンイ で、 カノジョ が アソ を あいする こと は セイシンテキ にも ニクタイテキ にも ジユウ で ある こと。
ヒトツ、 かくして 1~2 ネン の ケイカ を み、 あいしあう フタリ が フウフ に なって うまく ゆきそう な ミコミ が つけば、 カナメ が シュ と なって カノジョ の ジッカ の リョウカイ を うる よう に し、 セケンテキ にも カノジョ を アソ に ゆずる こと。
ヒトツ、 それゆえ ここ 1~2 ネン の アイダ を カノジョ と アソ の アイ の シケン ジダイ と する。 もし その シケン が シッパイ し、 リョウシャ の アイダ に セイカク の ソゴ が ハッケン され、 ケッコン して も とうてい エンマン に ゆかない こと が みとめられたら、 カノジョ は やはり ジュウライ の とおり カナメ の イエ に とどまる こと。
ヒトツ、 サイワイ に して シケン の ケッカ が セイコウ し、 フタリ が ケッコン した バアイ には、 カナメ は フタリ の ユウジン と して ながく コウサイ を つづける こと。

 カレ は それ を いいおわった とき、 ツマ の カオイロ が ちょうど その アサ の ソラ の よう に カガヤキ に みちて くる の を みた。 カノジョ は ヒトコト 「ありがとう」 と いった。 その マブタ から は ぽたり と ウレシナミダ が おちた。 ホントウ に それ は ナンネン-ぶり か で ココロ の ソコ から ワダカマリ が とれ、 はじめて ほっと テンジツ を あおいだ と いう ふう で あった。 ツマ の ヨロコビ を しった オット も おなじ よう に ムネ の ツカエ が さがった キ が した。 つれそうて から ながの トシツキ オクバ に モノ の はさまった よう な ココチ で ばかり すごして きた フウフ は、 ヒニク にも ワカレバナシ の ダン に なって ようよう たがいに コダワリ が なく うちとける こと が できた の で ある。
 いう まで も なく それ は イッシュ の ボウケン では ある けれども、 しかし そういう ふう に して メ を つぶりながら しだいに ヌキサシ の ならない ハメ へ ミ を おとしこんで ゆく の で なければ、 オット も ツマ も わかれる ミチ は ない の で あった。 アソ も それ には イゾン の あろう はず は なかった。 カナメ は カレ に その カンガエ を うちあけた とき、 「セイヨウ ならば こういう こと は そう やかましい モンダイ にも ならない クニ が ある でしょう。 けれど ニホン の イマ の シャカイ では なかなか そう は いきにくい から、 この ケイカク を ジッコウ する には よほど ジョウズ に たちまわらなければ ならない と おもいます。 それ には ナニ より も ワレワレ 3 ニン が たがいに かたく しんじあう こと が ダイイチ だ。 どんな に したしい トモダチ の ナカ でも この モンダイ では とかく ゴカイ が おこりやすい。 ワレワレ は めいめい ずいぶん デリケート な カンケイ に たって いる の だ から、 タガイ の カンジョウ を きずつけない よう に、 そして ヒトリ の フチュウイ の ため に ホカ の フタリ が キュウチ に おちいったり しない よう に、 よくよく キ を つけて いかなければ ならない。 どうか アナタ も その つもり で いて くださる よう に」 と ネン を おした が、 その ソウダン の ケッカ と して アソ は なるべく カナメ の カテイ へは スガタ を みせない よう に なり、 ミサコ の ほう から 「スマ へ ゆく」 こと に なった の で あった。
 その とき イライ カナメ は フタリ の カンケイ に モジドオリ 「メ を つぶって」 しまった。 もう これ で いい、 このまま じっと して いれば ジブン の ウンメイ は ひとりでに きまる。 ―――カレ は ナガレ に ミ を まかせて、 コト の ナリユキ が はこんで くれる ところ まで、 すなお に、 モウモク に、 くっついて ゆく よう に つとめる イガイ に、 ジブン の イシ を はたらかせよう と しなかった。 ただ そう なって も なお おそろしい の は シケン ジダイ の キカン が すぎて、 いよいよ と いう サイゴ の とき が せまりつつ ある こと だった。 いかに なだらか に、 ずるずるべったり に おしながされて ゆこう と して も、 イチド は ベツリ の バメン を カイヒ する こと は できない。 みわたした ところ おだやか な よう な フナジ にも、 ある 1 カショ で ボウフウタイ を くぐらなければ ならない の で ある。 そこ へ きた とき は つぶって いる メ を どうしても あけさせられる の で ある。 そういう ヨカン は オクビョウ な カレ を ますます イチジノガレ に させ、 ヤリッパナシ に させ、 オウチャク に させる ケッカ と なった。
「キミ は イッポウ では わかれる の が つらい つらい と いう、 そして イッポウ では そんな ムセキニン な こと を して いる、 それ じゃあ ダラシ が なさすぎる な」
「ダラシ が ない の は イマ に はじまった こと じゃあ ない さ。 ―――しかし ボク は おもう ん だ が、 ドウトク と いう もの は コジン コジン で ミナ いくらか ずつ ちがって いて いい。 ヒト は ダレ でも その セイシツ に てきする よう な ドウトク を つくって、 それ を ジッコウ する より ホカ に シカタ が ない ね」
「そりゃあ その とおり に ちがいない が、 ―――で、 キミ の ドウトク では ダラシ の ない の が ゼン だ と いう こと に なる の かね?」
「ゼン では ない かも しれない が、 うまれつき ケツダンリョク の とぼしい モノ は しいて セイシツ に さからって まで も ケツダン する ヒツヨウ は ない。 そういう こと を しよう と する と、 いたずらに ギセイ が おおきく なって、 シュウキョク に おいて かえって わるい こと が おこる。 ダラシ の ない ニンゲン は やはり ダラシ の ない セイシツ に おうじて シンタイ する ミチ を かんがえる べき だ。 そこで ボク の ドウトク を イマ の バアイ に あてはめる と、 わかれる と いう こと が シュウキョク の ゼン なん だ から、 サイゴ に そこ へ いけ さえ すれば カテイ は どんな に まわりくどくって も さしつかえない、 ボク は じつは もっと ダラシ が なくって も かまわない と おもって いる ん だ」
「そんな こと を いって いる と、 シュウキョク の ゼン に たっする まで に イッショウ かかって しまう かも しれん ぜ」
「ああ、 ボク は マジメ に それ を かんがえた こと が ある ん だよ。 セイヨウ の キゾク の アイダ では カンツウ は めずらしく ない と いう。 しかし カレラ の カンツウ と いう の は フウフ が たがいに あざむきあって いる の では なく、 アンモク の ウチ に みとめあって いる バアイ、 ―――つまり ゲンザイ の ボク の バアイ と おなじ よう なの が おおい ん じゃ ない か。 ニホン の シャカイ が ゆるし さえ すれば ボク は イッショウ この ジョウタイ を つづけて いたって いい ん だ けれど な」
「セイヨウ だって そんな リュウギ は ジセイオクレ だよ、 シュウキョウ の イリョク が なくなって しまって いる ん だ から」
「シュウキョウ に しばられて いる ばかり じゃあ ない、 やっぱり セイヨウジン に して も カコ の キズナ を あまり に はんぜん と たちきる の が おそろしい ん じゃ ない の かな」
「どう しよう と キミ の カッテ だ が、 ボク は もう ゴメン を こうむる ぜ」
 そう ニベ も なく いいはなちながら、 ユカ に おちた アラビアン ナイト を、 コンド は タカナツ が ひろった。
「なぜ?」
「なぜ って、 わかりきってる じゃ ない か。 そんな アイマイ な リエンバナシ に タニン が クチ を ハサミヨウ は ない じゃ ない か」
「そりゃあ こまる」
「こまる の は シカタ が なかろう」
「シカタ が なくって も とにかく キミ に にげられちゃあ こまる。 すてて おかれる と なお アイマイ に なる ばかり だ。 ね、 ゴショウ だ から たのむ よ」
「まあ、 まあ、 コンヤ ヒロシ くん を つれて トウキョウ へ いって くる よ」
 タカナツ は とりあわない で、 そっけなく ページ を くった。

 その 9

「ウグイス も、 ミヤコ の ハル に アイタケ と、 キ は ヨドガワ へ ノボリブネ、………」
 オヒサ は イト を サンサガリ に して ジウタ の 「アヤギヌ」 を うたって いた。 ロウジン は この ウタ が すき なの で ある。 ジウタ と いう もの は がいして ヤボ な もの で ある のに、 この ウタ には どこ か エド の ハウタ の よう な イキ な ところ の ある の が、 カミガタ に コウサン した よう でも ホンライ は エド ソダチ で ある ロウジン の シュミ に あう の かも しれない。 そして 「ノボリブネ、………」 の アト の アイノテ が いい。 ヘイボン な よう だ が、 じっと ミ に しみて きいて いる と ヨドガワ の ミズ の オト が ひびく よう だ と いう。
「………キ は ヨドガワ へ ノボリブネ、 ささえられたる キタカゼ に、 ミ は ままならぬ マルタブネ、 キシ の ヤナギ に ひきとめられて、 アユミ ならわぬ リクチ をも、 のぼりつ もどり イクタビ か、 ヒトヨ を あかす ハチケンヤ、 ザコネ を おこす アミジマ の、 つぐる カラス か カンザンジ、………」
 あけはなたれた 2 カイ の エン から は フナツキバ に そうた ヒトスジ の ミチ を へだてて もう クレガタ の ウミ の ケシキ が ひらけて いた。 タンノワ-ガヨイ の フネ で あろう、 「キタンマル」 と しるした キセン が サンバシ を はなれて ゆく の だ が、 400~500 トン にも たらない ほど の センタイ が ぐるり と センシュ を むきかえる とき、 イリエ の キシ が センビ と スレスレ に なる くらい にも そこ の ミナト は ちいさい の で ある。 カナメ は エンガワ に ザブトン を しいて、 ミナト の デグチ を ふさいで いる サトウガシ の よう に かわいい コンクリート の ボウハテイ を ながめた。 ツツミ の ウエ の おなじ よう に かわいい トウロウ には もう ヒ が ともって いる らしい けれど、 ミズ の オモテ は まだ アサギイロ に あかるく、 2~3 ニン の オトコ の トウロウ の ネモト に しゃがんで ツリ を たれて いる の が みえる。 べつに ゼッケイ と いう の では ない が、 しかし こういう ナンゴクテキ な ウミベ の マチ の オモムキ は、 けっして カントウ の イナカ には ない。 そう いえば いつぞや ヒタチ ノ クニ の ヒラカタ の ミナト に あそんだ とき、 イリエ を かこむ リョウホウ の ヤマ の デバナ に トウロウ が あって キシ には ずっと ユウジョ の イエ が ならんで いた の を、 いかにも ムカシ の フナツキバ-らしい カンジ だ と おもった こと が ある の は、 かれこれ 20 ネン も マエ だったろう か。 が、 ヒラカタ の ハイタイテキ なの に くらべたら、 ここ は さすが に はれやか で、 キョウラクテキ で ある。 オオク の トウキョウジン が そう で ある よう に どちら か と いえば デブショウ の ほう で、 めった に リョコウ など した こと の ない カナメ は、 ヒトフロ あびて ヤドヤ の ランカン に よって いる ユカタガケ の ジブン の スガタ を かえりみる と、 ほんの ウミ を ヒトツ こえた セトウチ の シマ へ わたった ばかり で、 なんだか バカ に はるばる と きた よう な ココチ が する。 ジツ を いう と、 デガケ に ロウジン が さそった オリ には カレ は そんな に キ が すすんで は いなかった。 なにしろ ロウジン の ケイカク と いう の は、 オヒサ を つれて アワジ の サンジュウサン カショ を ジュンレイ しよう と いう の で ある から、 またしても あてられる こと で あろう し、 せっかく の ロウジン の タノシミ を ジャマ する でも なし、 エンリョ した ほう が いい と おもった のに、 「なに、 そんな キガネ には およばない、 ワタシタチ は スモト に 1 ニチ フツカ とまって、 ニンギョウ シバイ の ガンソ で ある アワジ ジョウルリ を ケンブツ する。 それから ジュンレイ の イデタチ に なって レイジョウ マワリ を する の だ から、 せめて スモト まで つきあいなさい」 と、 ロウジン も すすめれば オヒサ も クチ を そえた ので、 コノアイダ の ブンラクザ の インショウ も あり、 その アワジ ジョウルリ に つい コウキシン が うごいた の で あった。 「まあ、 スイキョウ ね、 それじゃ アナタ も ジュンレイ の シタク を なすったら どう」 と、 ミサコ は マユ を ひそめた が、 カレン な オヒサ が イガゴエ の シバイ の オタニ の よう な いじらしい スガタ に なる サマ を おもう と、 それ と イッショ に ゴエイカ を うたって スズ を ふりながら タビ を しよう と いう ロウジン の ドウラク が、 ちょっと うらやましく ない こと も なかった。 きけば オオサカ の ツウジン なぞ の アイダ では、 すき な ゲイシャ を ミチヅレ に したてて、 マイトシ アワジ の シマメグリ を する モノ が めずらしく ない と いう。 そして ロウジン も コトシ を カワキリ に これから ネンネン つづける と いって、 ヒ に やける の を おそれて いる オヒサ とは ハンタイ に ひどく ノリキ に なって いる の で あった。
「なんとか いいました ね、 イマ の モンク は? 『ヒトヨ を あかす ハチケンヤ』 か。 ―――その ハチケンヤ と いう の は どこ に ある ん です」
 ベッコウイロ の スイギュウ の バチ を タタミ の ウエ に オヒサ が おいた とき、 ロウジン は ヤド の ユカタ の ウエ へ、 5 ガツ と いう のに アイミジン の クズオリ の アワセバオリ を ひっかけて、 トロビ に かけて ある スズ の トックリ に さわって みて は、 レイ の シュヌリ の サカズキ を マエ に、 キナガ に サケ の あたたまる の を まって いた が、
「なるほど、 カナメ さん は エドッコ だ から ハチケンヤ は しらない だろう」
 と いいながら、 ヒバチ の ウエ の チョウシ を とった。
「ムカシ は オオサカ の テンマバシ の ハシヅメ から ヨドガワ-ガヨイ の フネ が でた。 その フナヤド の あった ところ なん だね」
「はあ、 そう なん です か、 それで 『ヒトヨ を あかす ハチケンヤ、 ザコネ を おこす アミジマ』 です か」
「ジウタ と いう やつ は ながい の は ねむく なる ばかり で あまり カンシン しない もん だ。 やっぱり きいて いて おもしろい の は、 この くらい の ナガサ の ウタモノ に かぎる」
「どう です、 オヒサ さん、 ナニ か イマ の よう なの を もう ヒトツ、………」
「なあに、 これ の は いっこう ダメ なんで ね」
 と、 ロウジン は ソバ から ひきとって、
「トシ の わかい オンナ が やる と、 ウタ が きれい に なりすぎて いけない。 シャミセン に して も もっと きたなく ひく よう に って、 いつも いう こと なん だ けれど、 その ココロモチ が のみこめない で、 まるで ナガウタ でも ひく よう な キ で いる ん だ から、………」
「そない おいやす なら、 アンタ ひいて おあげやす な」
「まあ、 いい。 もう ヒトツ オマエ が やって ごらん」
「かなわん わ、 ワテェ。………」
 オヒサ は あまえる コドモ の よう に カオ を しかめて、 つぶやきながら サン の イト を あげた。
 まったく カノジョ の ミ に なったらば くちやかましい この ロウジン の トギ を する の も タイガイ では なかろう。 ロウジン の ほう では メ にも いれたい ほど かわいがって、 ユウゲイ の こと、 カッポウ の こと、 ミダシナミ の こと、 ナニ から ナニ まで ミガキ を かけて、 ジブン が しんだら どこ へ なり と リッパ な ところ へ えんづけられる よう に タンセイ を こめて いる の だ けれど、 そういう ジダイオクレ の シツケ が わかい ミソラ の オンナ に とって どれほど の ヤク に たつ で あろう。 みる もの と いえば ニンギョウ シバイ、 たべる もの と いえば ワラビ や ゼンマイ の ニツケ では、 オヒサ も イノチ が つづくまい。 たまに は カツドウ も みたかろう し、 ヨウショク の ビフテキ も たべたい で あろう に、 それ を シンボウ して いる の は さすが に キョウト ウマレ で ある と、 カナメ は ときどき カンシン も すれば、 この オンナ の ココロ の サヨウ を フシギ に おもう こと も ある。 そう いえば ロウジン は、 ヒトコロ ナゲイレ の イケバナ を おぼえこませる の に ムチュウ で あった が、 それ が コノゴロ は ジウタ に なって、 シュウ に イチド ずつ、 わざわざ オオサカ の ミナミ の ほう に すんで いる ある モウジン の ケンギョウ の モト まで フタリ で ケイコ に ゆく の で ある。 キョウト にも ソウトウ の シショウ は ある のに オオサカ-リュウ を ならう と いう の は、 それ にも ロウジン の ミソ が あって、 ヒコネ ビョウブ の エスガタ など から ひねりだした リクツ で でも あろう か、 ジウタ の シャミセン と いう もの は、 オオサカ-フウ に、 ヒザ へ のせない で ひく の が いい。 どうせ イマ から ならった の では ジョウズ に なろう はず も ない から、 せめて ひく カタチ の ウツクシサ に ジョウシュ を くみたい。 わかい オンナ が タタミ の ウエ へ ドウ を おいて、 カラダ を すこし ねじらせながら ひいて いる スガタ には アジワイ が ある、 と そう いって は、 オヒサ の シャミセン を きく と いう より も ながめて たのしもう と いう の で あった。
「さあ、 そう いわない で もう ヒトツ どうぞ、………」
「ナン に しましょ」
「なんでも いい が、 なるべく ボク の しって いる もの に して ください」
「そんなら 『ユキ』 が いい だろう」
 と、 ロウジン は サカズキ を カナメ に さした。
「『ユキ』 なら カナメ さん も きいた こと が ある だろう」
「ええ、 ええ、 ボク の しって いる の は 『ユキ』 と 『クロカミ』 ぐらい な もん です」
 カナメ は その ウタ を きいて いる うち に、 ふと おもいだした こと が あった。 コドモ の ジブン、 その コロ の クラマエ の ジュウキョ と いう の は、 イマ の キョウト の ニシジン アタリ の ミセ の カマエ と おなじ よう に、 オモテドオリ は マグチ の せまい コウシヅクリ に なって いて、 オク の ほう が ソト から みた より は ずっと ふかく、 イクマ も イクマ も ほそながく つづいて いる サキ に ちょっと した ナカニワ が あり、 ロウカヅタイ に そこ を こえて ゆく と、 いちばん オク の ドンヅマリ に また ソウトウ な ハナレ が あって、 そこ が カゾク の ヘヤ に なって いた の で ある が、 そういう おなじ マドリ の イエ が ミギ にも ヒダリ にも ならんで いた ので、 2 カイ に あがる と、 イタベイ の シノビガエシ の ムコウ に、 トナリ の イエ の ナカニワ が みえ、 ハナレザシキ の エンガワ が みえた。 ………だが、 その ジブン の トウキョウ の シタマチ は、 イマ から おもう と なんと いう シズカサ だった で あろう。 おぼろげ な キオク で はっきり した こと は いえない けれども、 あの コロ ついぞ トナリ の イエ の ハナシゴエ らしい もの を きいた オボエ が ない。 シノビガエシ の ヘイ の ムコウ は、 まるで ヒト なぞ すんで いない よう に、 いつも しーん と して かたり と いう モノオト ヒトツ する では なく、 ちょうど さびれた イナカ の マチ の シゾク ヤシキ へ でも いった よう な ワビシサ で あった。 ただ イツゴロ の こと で あった か、 そこ から おりおり コト の ネ に つれて かすか に うたう コエ が もれた。 その コエ の ヌシ は 「フウ ちゃん」 と いう コ で、 キリョウヨシ と いう ヒョウバン が たかかった から カナメ も マエ から ミミ に して は いた ものの、 それまで イチド も カオ を みた こと は なかった し、 みたい と いう キ も なかった の を、 ある ヒ ぐうぜん 2 カイ から のぞいた とき、 たぶん ナツ の タソガレ で あった の だろう、 エンガワ の シキイギワ に ザブトン を しいて あけはなされた ヨシズ に セナカ を もたれながら、 カバシラ の たつ ユウヤミ の ソラ を みあげて いる ほのじろい カオ が、 ちらと こっち を むいた。 オサナゴコロ にも その ウツクシサ に ムネ を つかれて すごい もの でも みた よう に あわてて クビ を ひっこめて しまった から、 どういう メハナダチ で あった か まとまった インショウ は のこらない ながら、 ハツコイ と いう には あまり に あわい アコガレ に にた カイカン が、 その ノチ しばらく コドモ の ユメ の セカイ を りょうした。 それ は すくなくとも カナメ の ナカ に ある フェミニズム の サイショ の ホウガ だった で あろう。 カレ は イマ でも その とき の カノジョ が イクツ ぐらい の トシゴロ で あった か ケントウ が つかない。 ナナツ ヤッツ の オトコ の コ に とって は、 14~15 の ムスメ も ハタチ ゼンゴ の オトナ と カワリ なく みえる もの だし、 まして ヤセギス の トシマ の よう な スガタ を して いた その コ の ヨウス は、 ずっと ジブン より アネ に おもえた。 それ ばかり で なく、 たしか カノジョ の ヒザ の マエ には タバコボン が おいて あって、 テ に ナガギセル を もって いた よう な キ が する の で ある。 もっとも その コロ は エド マッキ の イナセ な フウ が シタマチ の オンナ に のこって いて、 カナメ の ハハ なぞ も あつい ジブン は ウデマクリ なぞ を した もの だ から、 タバコ を すって いた こと が オトナ で あった と いう ショウコ には ならない かも しれない。 カナメ の イエ は 4~5 ネン して から ニホンバシ の ほう へ うつった ので、 カレ が カノジョ を かいまみた の は アト にも サキ にも たった イチド だった けれど、 でも それから は コト の シラベ と ウタ の コエ と に ひとしお ミミ を そばだてる よう に なって、 カノジョ が このんで くりかえす の が 「ユキ」 と いう キョク で ある こと を、 ハハ から きいた オリ が あった。 それ は コトウタ では ある が、 ときには シャミセン に あわせて も うたう。 トウキョウ では あの ウタ の こと を カミガタウタ と いう の だ と、 ハハ が おしえた。
 その ノチ カレ は その 「ユキ」 の ウタ を ふっつり ミミ に しなかった ので、 わすれる とも なく わすれる まま に 10 ナンネン か を すごして から、 ヒトトセ カミガタ ケンブツ に きて ギオン の チャヤ で マイコ の マイ を みた オリ の こと、 ヒサシブリ に また その ウタ を きく こと が できて いいしれぬ ナツカシサ を おぼえた。 マイ の ジ を うたった の は 50 を こえた ロウギ だった から、 コエ にも ひととおり サビ が あった し、 シャミセン の ネイロ も にぶく、 ものうく、 ぼんぼん と いう しぶい ヒビキ で、 ロウジン が きたなく うたえ と いう の は ああいう アジ を もとめる の で あろう。 あの ロウギ の に くらべれば なるほど オヒサ の は キレイゴト に すぎて ガンチク が ない。 けれど ムカシ の 「フク ちゃん」 も やはり うつくしい スズ の よう な コエ で うたった の だ から、 カナメ に とって は わかい オンナ の ニクセイ の ほう が ひとしお オモイデ を そそる の で ある。 それに あの ぼんぼん と いう キョウフウ の シャミセン より は、 オヒサ が ひいて いる オオサカ-フウ の シャミセン の、 チョウシ の たかい ヒビキ の ほう が いくらか コト の ネ を しのばせる ヨスガ にも なる。 ぜんたい この シャミセン は サオ が ココノツ に おれて ドウ の ナカ へ はいって しまう ベッセイ の もの で、 オヒサ と イッショ に ユサン に ゆく とき、 ロウジン は これ を かかさず もって あるく の で ある が、 ヤドヤ の ザシキ で なら まだしも、 キョウ に じょうじる と カイドウ の チャミセ の コシカケ でも、 マンカイ の ハナ の シタ でも、 いやがる オヒサ を ムリ に うながして ひかせる と いう ふう で、 キョネン の ジュウサンヤ の ツキミ の バン なぞ ウジガワ を くだる フネ の ナカ で やらせた の は いい が、 その ため に オヒサ より も ロウジン の ほう が カゼ を ひいて、 アト で ヒジョウ な ネツ を だしたり した こと が あった。
「さあ、 コンド は アンタ おうたいやしたら、………」
 そう いって オヒサ は ロウジン の マエ へ シャミセン を おいた。
「カナメ さん は 『ユキ』 の モンク の イミ が よく わかる かね」
 と、 なにげない テイ で シャミセン を とって チョウシ を ひくく なおしながら、 ないない ロウジン は トクイ の イロ を つつむ こと が できない の で ある。 トウキョウ ジダイ に イッチュウブシ の ソヨウ が ある せい か、 ジウタ の ケイコ は ほんの キンネン の こと だ けれども、 わりに コウシャ に ひき も すれば、 うたい も して、 シロウト が きけば、 とにかく イッシュ の アジワイ が あった。 そして トウニン も それ を すくなからず ジマン に して いて、 イッパシ の シショウ の よう に コゴト を いう の が、 なおさら オヒサ は たすからなかった。
「さあ、 いったい ムカシ の ウタ の モンク と いう もの は、 ぼんやり ココロモチ は わかる よう な キ が します けれど、 ブンポウテキ に いったらば ほとんど デタラメ じゃあ ない ん です かな」
「そう だよ、 まったく。 ………ムカシ の ヒト は ブンポウ なんか は かんがえない。 ぼんやり ココロモチ が わかる、 ―――その テイド で タクサン なん だね。 その ぼんやり と して いる ところ に かえって ヨイン が ある ん だね。 たとえば こんな モンク が ある、―――」
 と、 ロウジン は すぐ うたいだしながら、 「……… 『イマ は ノザワ の ヒトツミズ、 すまぬ ココロ の ヌシ にも しばし、 すむ は ユカリ の ツキ の カゲ、 しのびて うつす マド の ウチ』 ………それから アト が 『ひろい セカイ に すみながら』 と なる ん だ が、 これ は オトコ が オンナ の モト へ しのんで くる ところ なん だ。 そいつ を ロコツ に いわない で、 『すむ は ユカリ の ツキ の カゲ、 しのびて うつす マド の ウチ』 と、 わざと ヨジョウ を もたせて ある の が いい じゃ ない か。 オヒサ なんぞ は こういう イミ を かんがえない で うたって いる から ココロモチ が あらわれない」
「なるほど、 うかがって みる と そういう イミ に なる かも しれません が、 それ を わかって うたって いる ヒト は イクニン も あり は しない でしょう」
「わからない ヒト には わからない で いい、 わかる ヒト だけ が わかって くれる、 と いった タイド で つくって ある の が ゆかしい と おもう ね。 なにしろ ムカシ は たいがい モウジン が つくった ん だ から、 それ だけ に ひねくれた、 インキ な ところ が ある ん だよ」
 よわない と うたう キ に なれない と いう ロウジン は、 イマ が ちょうど ウタイゴロ の ヨイゴコチ で ある らしく、 ジブン も モウジン の よう に メ を つぶって アト を つづけた。
 トシヨリ の クセ の ハヤネ ハヤオキ で、 まだ ヨイ の クチ の 8 ジ と いう のに もう ロウジン は トコ を しかせて オヒサ に カタ を もませながら ネムリ に ついた が、 ロウカ を ヒトツ へだてた ヘヤ に ひきとった カナメ は、 サケ の イキオイ で ムリ にも ねいろう と フトン を かぶって みた ものの、 イツモ の ヨイッパリ に ならされた メ が そう ヨウイ には まどろまない で、 ながい アイダ うとうと して いた。 ホンライ ならば カレ は このよう に ヒトリ で イッシツ を カンゼン に センリョウ して ねむる の が すき で あった。 せっかく やすらか に ねよう と おもって も おなじ ザシキ に ツマ が マクラ を ならべて いて、 レイ の しくしく と しゃくりあげたり する と、 せめて キガネ の ない ところ で ぐっすり ネムリ を ムサボリタサ に、 ヒトバンドマリ で ハコネ や カマクラ へ でかけて いって は、 それこそ ホントウ に こころおきなく、 ヒゴロ の ツカレ を ジュウブン に のばして カラダ を やすませた もの で あった。 それ が コノゴロ は フウフ が ムカンシン に なりきって しまって タガイ の ソンザイ を イ に かいしなく なった ケッカ、 おなじ ヘヤ でも ヘイキ で メイメイ が アンミン する よう な シュギョウ が でき、 しぜん イッパク リョコウ に でかける ヒツヨウ も なくなった の で ある が、 シバラクブリ で ヒトリ で ねて みる と、 ロウカ を こえて きこえて くる ロウジン フウフ の しのびやか な ハナシゴエ の ほう が、 イマ の ツマ より は ずっと ネムリ の サマタゲ に なった。 と いう の は、 サシムカイ に なる と オヒサ に モノ を いう ロウジン の チョウシ が、 まるで ベツジン の よう に やさしく、 コワネ まで が かわって しまって、 ―――それ も はっきり いう なら いい けれど、 ムコウ では また カナメ に エンリョ が ある の で あろう、 ひそひそ と アタリ を はばかる よう に、 さも ねむたそう に、 ハンブン クチ の ウチ で、 「ふんふん」 と あまえる よう に いう の で ある。 そこ へ もって きて、 ぱたん、 ぱたん と、 オヒサ が アシコシ を もんで いる オト が マクラモト へ ひびいて きて、 それ が なかなか やみそう も ない。 ロウジン が ナニ か くどくど いう の に たいして、 オヒサ の ほう は コトバズクナ に 「へえへえ」 と きいて いる らしく、 ときどき 「ナニナニ どす」 と こたえる その どす と いう ゴビ だけ が ぼんやり ききとれる。 カナメ は タニン の フウフナカ の むつまじい の を みる と、 ジブン たち の ミ に ひきくらべて その コウフク が うらやましく も あり、 ヒトゴト ながら うれしく も あって、 けっして いや な キ は おこさない の が ツネ だ けれど、 この ロウジン の バアイ の よう に 30 イジョウ も トシ の ちがった クミアワセ の こういう ヨウス を みせられる の は、 あらかじめ カクゴ して いた とは いえ、 やっぱり たしょう メイワク で ない こと は ない。 まして ロウジン が ジブン の ニクシン の オヤ で あったら、 さぞかし あさましい キ が する で あろう と、 ミサコ が オヒサ を にくむ カンジョウ が いまさら わかって くる の で あった。 こっち は ねられない まま に そんな こと を かんがえて いる うち、 ロウジン は まもなく ねむりついた らしく、 すうすう と いう ネイキ が きこえた が、 チュウジツ な オヒサ は それから も まだ アンマ の テ を やすめない で、 ぱたん、 ぱたん と いう オト が ようよう やんだ の は 10 ジ ちかく で あった だろう か。 カレ は ショザイナサ に、 ムコウ の ヘヤ の デントウ が きえた コロ に ジブン の ヘヤ へ アカリ を つけた。 そして ねながら ハガキ を かいた。 1 マイ は ヒロシ に あてて、 エハガキ へ カンタン な モンク を しるした もの。 1 マイ は シャンハイ の タカナツ へ あてて、 これ も できる だけ カンタン に、 ナルト の ウミ の ケシキ の ヨコ へ ホソジ で 7~8 ギョウ に したためた もの。―――

ソノゴ そちら の ゴキキョ いかが。
こちら は キミ に にげられて しまって、 あのまま いまもって アイマイ もこ。 ミサコ は あいかわらず スマ へ でかける。 ボク は キョウト の ロウジン の オトモ で アワジ へ きて いる。 そして おおいに みせつけられて いる。 ミサコ は オヒサ さん を わるく いう が、 しかし なかなか シンセツ な もん だ と あてられながら カンシン して いる。
 カタ が ついたら しらせる が、 イマ の ところ いつ に なる やら まったく フメイ。
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タデ くう ムシ 6

2020-03-05 | タニザキ ジュンイチロウ
 その 10

ナイム ショウ メンキョ  アワジ ゲンノジョウ オオシバイ
                    スモト チョウ モノベ トキワバシ-ヅメ
     ミッカ-メ デモノ
   ショウウツシ アサガオ ニッキ
□ショマク ウジ の サト ホタルガリ の ダン
□アカシ フナワカレ の ダン
□ユミノスケ ヤシキ の ダン
□オオイソ アゲヤ の ダン
□マヤガタケ の ダン
□ハママツ コヤ の ダン
□エビスヤ トクエモン ヤドヤ の ダン
□ミチユキ の ダン
タイコウキ ジュウダンメ (オイダキ)
オシュン デンベエ (オイダキ)
(オイダキ)
ドモ の マタヘイ
  オオサカ ブンラク   トヨタケ ロタユウ
 1 ニン-マエ 50 セン キンイツ、 ただし
 ツウケン ゴジサン の カタ は 30 セン

「おはよう ございます、 よろしゅう ございます か、―――」
 と、 ロウカ に たちどまって コエ を かける と、
「ええ、 かまいません、 さあさあ」
 と いう ので、 オモテ の ザシキ へ はいって みる と、 ヤド の ユカタ に イチマツ の ダテマキ スガタ で カガミ の マエ に すわりながら、 マゲ の アタマ を スキグシ で なでて いる オヒサ の ソバ に、 ロウジン は ビラ を ヒザ の ウエ に のせて、 ロウガンキョウ の ケース を あけた ところ で ある。 はれわたった ウミ は じーっと みつめる と ヒトミ の マエ が くろずんで くる ほど マッサオ に ないで、 フネ の ケムリ さえ うごかない よう な カンジ で ある が、 それでも ときたま ソヨカゼ を はこんで くる らしく、 ショウジ の ヤブレ が タコ の ウナリ の よう に なって、 ヒザ の ウエ の ビラ が かすか に あおられる。
「オマエ、 『オオイソ アゲヤ の ダン』 と いう の を みた こと が ある かい?」
「なんの キョウゲン どす、 それ は?」
「アサガオ ニッキ だよ」
「みた こと おへん。 ―――そんな とこ おす やろ か」
「だから さ、 こういう ところ は ブンラク アタリ じゃあ めった に ださない ん だ と みえる ね。 ツギ には 『マヤガタケ の ダン』 と いう の が ある」
「そら、 ミユキ が かどわかされる とこ と ちがいます か」
「ふん、 そう か そう か、 かどわかされて、 それから ハママツ の コヤ に なる。 ―――と する と 『マクズガハラ の ダン』 と いう の が ありゃ しなかった かい?……… ねえ、 オマエ、………」
「………」
 ヒカリ の ハンシャ が ザシキ の シホウ を きらり と ヒトマワリ した。 オヒサ が スキグシ を クチ に くわえて、 イッポウ の テ の オヤユビ を ミギ の ビン の フクラミ の ナカ へ いれながら、 アワセカガミ を した の で ある。
 カナメ は じつは まだ この オンナ の ホントウ の トシ を しらなかった。 ロウジン の コノミ で、 フウツウ だ とか、 イチラク だ とか、 ごりごり した クサリ の よう に おもい チリメン の コモン だ とか、 もう イマ の ヨ では はやらなく なって しまった もの を ゴジョウ アタリ の フルギヤ だの キタノ ジンジャ の アサイチ など から さがして きて は、 その ほこりくさい ボロ の よう なの を いやいや ながら きせられて、 ジミ に ジミ に と つくって いる ので、 いつも 26~27 に みえる の だ けれど、 ―――そして ロウジン との ツリアイジョウ、 きかれれば その くらい に こたえる よう に いいふくめられて いる らしい けれど、 ―――カガミ を ささえた ヒダリ の テ の、 シモン が ぎらぎら ういて いる サクライロ の ユビサキ の ツヤツヤシサ は、 あながち カミ の アブラ の せい ばかり では なかろう。 カナメ は カノジョ の こういう スガタ を みせられる の は はじめて で ある が、 ウスギ の シタ に ほぼ アリドコロ が うかがわれる カタ や シリ の むっちり と した シシオキ は、 この ジョウヒン な キョウ ウマレ の オンナ には キノドク な くらい ワカサ に はりきって、 22~23――― と いう トシゴロ を はっきり かたって いる の で ある。
「それから 『ヤドヤ の ダン』 の アト に 『ミチユキ の ダン』 が あります ね。―――」
「ふん、 ふん」
「アサガオ ニッキ の ミチユキ と いう の は ハツミミ です が、 シマイ に ミユキ の オモイ が かなって、 コマザワ と タビ でも する ん です か」
「いや、 そう じゃ ない、 ワタシ は こりゃあ みた こと が ある。 ―――ほれ、 『ヤドヤ』 の ツギ が オオイガワ の カワドメ で、 あれ から ミユキ が カワ を わたって、 コマザワ の アト を おいながら トウカイドウ を くだる ん だよ」
「ミチユキ の アイテ は いない ん です か」
「いや、 それ が ほら、 カワドメ の ところ へ クニモト から かけつけて くる ナニスケ とか いう ワカトウ が あった ね、―――」
「セキスケ どす やろ」
 もう イチド カガミ が きらり と ひかって、 クセナオシ の ユ を いれた カナダライ を カタテ に、 オヒサ は たって ロウカ へ でた。
「そうそう セキスケ、 ―――あれ が ついて いく こと に なる、 つまり シュジュウ の ミチユキ だな」
「もう その とき は ミユキ は メクラ じゃあ ない ん です ね」
「メ が あいちまって、 モト の サムライ の ムスメ に なって、 きれい な ナリ を して いく んで ね。 センボンザクラ の ミチユキ に にて いる ちょっと はなやか な いい もん だよ」
 シバイ は この マチハズレ の アキチ に コヤガケ を こしらえて、 そこ で アサ の 10 ジ-ゴロ から バン の 11 ジ、 ―――どうか する と 12 ジ-スギ まで やって いる。 とても ハジメ から ゴラン に なる の は タイヘン だ から、 ヒノクレ から が ちょうど よろしゅう ございます と ヤド の バントウ が そう いう の を、 いいえ、 ワタシ は これ が モクテキ で きた ん だ から、 アサゴハン を すましたら じきに でかけます、 オヒル と バン は この ジュウバコ に ヨウイ して もらいましょう と、 それ を タノシミ の ヒトツ に して いる ロウジン は レイ の マキエ の ベントウバコ を あずけて、 マクノウチ に、 タマゴヤキ に、 アナゴ に、 ゴボウ に、 ナニナニ の ニシメ に、 ………と、 オカズ の チュウモン まで やかましく いって、 それ が できて くる と、
「さあ、 オヒサ や、 シタク を しな」
 と、 せきたてる の で あった。
「ちょっと、 ここ を きつう に しめと おくれやす」
 ごわごわ した、 オリメ から きれて ゆきそう な ジ の しっかり した ハッタン の アワセ の ウエ に、 これ も ソウトウ に こわばった もの らしく ケサ の よう に ざくざく する オビ を、 いわれない うち に シメナオシ に かかって いた オヒサ は、 そう いいながら ロウジン の ほう へ ムスビメ を むけた。
「どう だね、 この くらい かね?」
「へえ、 もう ちょっと、………」
 マエノメリ に なろう と する の を コシ で ねばって うけとめて いる オヒサ の ウシロ で、 ロウジン は ヒタイ に アセ を うかした。
「どうも こいつ は つっぱって いる んで、 しめにくい ったら ない。………」
「そない おいやした かて、 アンタ が こうて おいでた ん や おへん か。 ワテェ かて かなわん わ、 しんどうて。………」
「だが いい イロ を して います な」
 と、 おなじ よう に ウシロ に たちながら、 カナメ は カンタン の コエ を はっした。
「なんと いう イロ だ か、 コノゴロ の もの には あんまり みない じゃ ありません か」
「なあに、 やっぱり モエギ の ケイトウ なんで、 イマ の もの にも ない こと は ない ん だ が、 こう イロ が さめて ふるく なった んで アジ が でた のさ」
「ナン です か、 モノ は?」
「シュチン だろう ね。 ムカシ の オリモノ は なんでも この とおり ごりごり して いる、 イマ の は どんな もの だって たいがい ジンケン が はいってる ん だ から、………」
 ノリモノ で ゆく ほど でも ない ので メイメイ が ジュウバコ や オリヅメ の ツツミ を さげながら でかけた が、
「もう ヒガサ が いります なあ」
 と、 オヒサ は てりつけられる の を おそれて テ を かざした。 ヒ は その うすい テノヒラ の バチダコ の ある コユビ の ニク を カサ の カミ ほど に あかく とおして、 くらく かげって いる カオ が ヒ の あたって いる アゴ の サキ より も いっそう しろい。 どうせ コンド は マックロ に やける、 カサ なぞ もって こない が いい と いわれながら、 テサゲ の ソコ へ しのばせて きた アンチソラチン を デガケ に そっと、 カオ、 エリ、 テクビ、 アシクビ に まで ぬって いる の を みた カナメ は、 この キョウオンナ が キヌゴシ の ハダ を いたわる クシン を いじらしく も ショウシ にも かんじた が、 ドウラク の つよい ロウジン は こまかい こと に キ が まわる よう で いて、 ジブン が こう と いいだしたら あんがい そういう オモイヤリ が とぼしい の で ある。
「アンタ、 はよう いかん と 11 ジ どす え」
「ふん、 まあ ちょっと まちな」
 と、 ときどき ロウジン は コットウヤ の マエ で たちどまる。
「ホンマ に キョウ は ええ オテンキ どす な」
 と、 カナメ と イッショ に そろり そろり サキ へ ゆきながら、 オヒサ は はれわたった ソラ を あおいで、
「こういう ヒ には ツミクサ が しとうて、………」
 と、 フヘイ-らしく クチ の ウチ で いった。
「まったく、 シバイ より は ツミクサ に もってこい と いう ヒ だ」
「どこ ぞ ここら ヘン に ワラビ や ツクシ の はえてる とこ おす やろ か」
「さあ、 この ヘン は しらない が、 シシガタニ の キンジョ の ヤマ に いくらだって ある でしょう」
「へえ、 へえ、 たあんと はえて ます。 センゲツ は ヤセ の ほう まで つみ に いて、 フキノトウ を ぎょうさん とって かえりました」
「フキノトウ を?」
「へえ、 ―――フキノトウ が たべたい おいやす けど、 キョウト では イチバ へ いた かて おへん、 ダアレ も あの にがい もん よう たべる ヒト おへん よって」
「トウキョウ だって ミンナ が ミンナ たべる わけ じゃあ ありません がね。 ―――それで わざわざ そいつ を つみ に いった ん です か」
「へえ、 これ ぐらい の カゴ に いっぱい、―――」
「ツミクサ も いい が、 イナカ の マチ を ぶらぶら あるく の も わるく ない です な」
 アオゾラ の シタ を まっすぐ のびて いる ヒトスジミチ の マチドオリ は、 オウライ の ヒトカゲ が サキ の サキ まで かぞえられる ほど ほがらか に、 たまに すれちがう ジテンシャ の ベル の オト さえ のどか で ある。 べつに トクチョウ の ある マチ では ない が、 カンサイ は どこ へ いって も カベ の イロ が うつくしい。 ロウジン の セツ だ と、 カントウ は ヨコナグリ の フウウ が つよい ので、 イエ の ソトガワ は みな イタガコイ の シタミ に する。 しかも その イタ が どんな ジョウトウ な キ を つかって も じきに くろく よごれて しまう から ゼンタイ が ヒジョウ に きたない。 トタン ヤネ に バラック の イマ の トウキョウ は ロンガイ と して、 キンケン の ショウトカイ など、 ふるければ ふるい なり に イッシュ の サビ が つく はず で ある のに、 ただ もう すすけて インキ な ばかり だ。 そこ へ もって きて たびたび の ジシン や カジ で、 やけた アト に たてられる の は ホッカイマツ や ベイザイ の ツケギ の よう に しらっちゃけた イエ か、 アメリカ の バスエ へ いった よう な ヒンジャク な ビルディング で ある。 たとえば カマクラ の よう な マチ が カンサイ に あった と したら、 ナラ ほど には ゆかない と して も、 もっと おちついた、 しっとり と した オモムキ が あろう。 キョウト から ニシ の クニグニ の フウド は シゼン の メグミ を さずかる こと が ふかく、 テン の ワザワイ を うける ド が すくない ので、 ナ も ない マチヤ や ヒャクショウヤ の カワラ や ドベイ の イロ に まで、 タビビト の ツエ を とどめさせる に たる フゼイ が ある。 ことに ダイトカイ より も ムカシ の ジョウカマチ くらい な ちいさな トシ が いい。 オオサカ は もちろん、 キョウト で さえ も シジョウ の カワラ が あんな ふう に かわって ゆく ヨノナカ に、 ヒメジ、 ワカヤマ、 サカイ、 ニシノミヤ、 と いった よう な マチ は、 いまだに ホウケン ジダイ の オモカゲ を こく のこして いる。………
「ハコネ や シオバラ が いい なんて いったって、 ニホン は シマグニ の ジシンコク なん だ から、 あんな ケシキ は どこ に でも ある。 ダイマイ が シン ハッケイ を つのった とき に 『シシイワ』 と いう の が ニホンジュウ に イクツ あった か しれない そう だ が、 じっさい そんな もの だろう よ。 やっぱり タビ を して おもしろい の は、 カミガタ から シコク、 チュウゴク、 ―――あの ヘン の マチ や ミナト を あるく こと だね」
 とある ヨツツジ を カギノテ に まがって いる わびた アラカベ の ヘイ の ヤネ の、 マルガワラ の ウエ から のぞいて いる ウツギ の ハナ を ながめた とき、 カナメ は ロウジン の この コトバ を おもいだした。 アワジ と いえば チズ の ウエ では ちいさい シマ だし、 そこ の ミナト の こと だ から、 たぶん この マチ は イマ あるいて いる イッポンミチ で つきる の で あろう。 ここ を どこまでも マッスグ に ゆく と カワ の ナガレ へ でる、 ニンギョウ シバイ は その ムコウガシ の カワラ で やって いる の だ と、 バントウ は いって いた から、 カワ まで ゆけば ヤナミ が おわって しまう の だろう。 キュウバク の コロ には なんと いう ダイミョウ の リョウチ で あった か、 むろん ジョウカ と いう ほど の もの では なかった だろう が、 マチ は その ジブン の アリサマ と そう かわって も いない よう に おもえる。 いったい トシ の ヨソオイ が キンダイテキ に なりつつ ある と いう こと は、 クニ の ドウミャク を なす よう な ダイトカイ に おける ゲンショウ で あって、 そんな トカイ は ヒトツ の コッカ に そう タクサン は ある もの では ない。 アメリカ の よう な あたらしい トチ は ベツ と して、 ふるい レキシ を もつ クニグニ の イナカ の マチ は、 シナ でも ヨーロッパ でも、 テンサイ チヘン に みまわれない かぎり ブンカ の ナガレ に とりのこされつつ、 ホウケン の ヨ の ニオイ を つたえて いる の で ある。 たとえば この マチ に して も、 デンセン と、 デンシンバシラ と、 ペンキヌリ の カンバン と、 トコロドコロ の カザリマド と を キ に しなければ、 サイカク の ウキヨ-ゾウシ の サシエ に ある よう な マチヤ を いたる ところ に みる こと が できる。 ノキ の タルキ まで も シックイ で つつんだ ドゾウヅクリ の ミセ の カマエ、 ふとい カクザイ を オシゲ も なく つかった ガンジョウ な デゴウシ、 おもい マルガワラ で どっしり と おさえた ホンブキ の イラカ、 「ウルシ」 「ショウユ」 「アブラ」 など と しるした モジ の きえかかって いる ケヤキ の カンバン、 ドマ の ツキアタリ に つって ある ヤゴウ を そめぬいた コンノレン、 ―――ロウジン の イイグサ では ない けれども、 そういう もの は どんな に ニホン の ふるい マチ に ジョウシュ を あたえて いる か しれない。 カナメ は アオゾラ を ウシロ に して しろく さえて いる カベ の イロ に、 しみじみ ココロ が すいとられる よう な キ が した。 それ は あたかも オヒサ の コシ に まかれて いる シュチン の オビ と おなじ こと だ。 すんだ ウミベ の クウキ の ナカ で ながい アイダ フウウ に さらされ、 シゼン に ツヤ を けされた イロ で ある。 ほっかり と あかるく、 はなやか で ありながら シブミ が あって、 じっと みて いる と ムネ が やすまる よう に なる。
「こういう ムカシフウ の イエ は オク が マックラ で、 コウシ の ムコウ に ナニ が ある やら まるで わかりません ね」
「ヒトツ は オウライ が あかるすぎる ん だね、 この ヘン の ツチ は この とおり しらっちゃけて いる から。………」
 ふと カナメ は、 ああいう くらい イエ の オク の ノレン の カゲ で ヒ を くらして いた ムカシ の ヒト の オモザシ を しのんだ。 そう いえば ああいう ところ に こそ、 ブンラク の ニンギョウ の よう な カオダチ を もった ヒトタチ が すみ、 あの ニンギョウ シバイ の よう な セイカツ を して いた の で あろう。 ドンドロ の シバイ に でて くる オユミ、 アワ の ジュウロベエ、 ジュンレイ の オツル、 ―――など と いう の が いきて いた セカイ は きっと こういう マチ だった で あろう。 げんに イマ ここ を あるいて いる オヒサ なんか も その ヒトリ では ない か。 イマ から 50 ネン も 100 ネン も マエ に、 ちょうど オヒサ の よう な オンナ が、 あの キモノ で あの オビ で、 ハル の ヒナカ を ベントウヅツミ を さげながら、 やはり この ミチ を カワラ の シバイ へ とおった かも しれない。 それとも また あの コウシ の ナカ で 「ユキ」 を ひいて いた かも しれない。 まことに オヒサ こそ は ホウケン の ヨ から ぬけだして きた ゲンエイ で あった。
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