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じっさい シショウ に ころされる と いう こと も、 まったく ない とは もうされません。 げんに その バン わざわざ デシ を よびよせた の で さえ、 じつは ミミズク を けしかけて、 デシ の にげまわる アリサマ を うつそう と いう コンタン らしかった の で ございます。 で ございます から、 デシ は、 シショウ の ヨウス を ヒトメ みる が はやい か、 おもわず リョウソデ に アタマ を かくしながら、 ジブン にも なんと いった か わからない よう な ヒメイ を あげて、 そのまま ヘヤ の スミ の ヤリド の スソ へ、 いすくまって しまいました。 と その ヒョウシ に、 ヨシヒデ も なにやら あわてた よう な コエ を あげて、 たちあがった ケシキ で ございました が、 たちまち ミミズク の ハオト が いっそう マエ より も はげしく なって、 モノ の たおれる オト や やぶれる オト が、 けたたましく きこえる では ございません か。 これ には デシ も 2 ド、 ド を うしなって、 おもわず かくして いた アタマ を あげて みます と、 ヘヤ の ナカ は いつか マックラ に なって いて、 シショウ の デシ たち を よびたてる コエ が、 その ナカ で いらだたしそう に して おります。
やがて デシ の ヒトリ が、 トオク の ほう で ヘンジ を して、 それから ヒ を かざしながら、 いそいで やって まいりました が、 その すすくさい アカリ で ながめます と、 ユイトウダイ が たおれた ので、 ユカ も タタミ も イチメン に アブラダラケ に なった ところ へ、 サッキ の ミミズク が カタホウ の ツバサ ばかり、 くるしそう に はためかしながら、 ころげまわって いる の で ございます。 ヨシヒデ は ツクエ の ムコウ で なかば カラダ を おこした まま、 さすが に アッケ に とられた よう な カオ を して、 なにやら ヒト には わからない こと を、 ぶつぶつ つぶやいて おりました。 ――それ も ムリ では ございません。 あの ミミズク の カラダ には、 マックロ な ヘビ が 1 ピキ、 クビ から カタホウ の ツバサ へ かけて、 きりきり と まきついて いる の で ございます。 おおかた これ は デシ が いすくまる ヒョウシ に、 そこ に あった ツボ を ひっくりかえして、 その ナカ の ヘビ が はいだした の を、 ミミズク が なまじい に つかみかかろう と した ばかり に、 とうとう こういう オオサワギ が はじまった の で ございましょう。 フタリ の デシ は たがいに メ と メ と を みあわせて、 しばらく は ただ、 この フシギ な コウケイ を ぼんやり ながめて おりました が、 やがて シショウ に モクレイ を して、 こそこそ ヘヤ の ソト へ ひきさがって しまいました。 ヘビ と ミミズク と が ソノゴ どう なった か、 それ は タレ も しって いる モノ は ございません。――
こういう タグイ の こと は、 その ホカ まだ、 イクツ と なく ございました。 マエ には もうしおとしました が、 ジゴクヘン の ビョウブ を かけ と いう ゴサタ が あった の は、 アキ の ハジメ で ございます から、 それ イライ フユ の スエ まで、 ヨシヒデ の デシ たち は、 たえず シショウ の あやしげ な フルマイ に おびやかされて いた わけ で ございます。 が、 その フユ の スエ に ヨシヒデ は ナニ か ビョウブ の エ で、 ジユウ に ならない こと が できた の で ございましょう、 それまで より は、 いっそう ヨウス も インキ に なり、 モノイイ も メ に みえて、 あらあらしく なって まいりました。 と ドウジ に また ビョウブ の エ も、 シタエ が 8 ブ-ドオリ できあがった まま、 さらに はかどる モヨウ は ございません。 いや、 どうか する と イマ まで に かいた ところ さえ、 ぬりけして も しまいかねない ケシキ なの で ございます。
そのくせ、 ビョウブ の ナニ が ジユウ に ならない の だ か、 それ は タレ にも わかりません。 また、 タレ も わかろう と した モノ も ございますまい。 マエ の イロイロ な デキゴト に こりて いる デシ たち は、 まるで トラ オオカミ と ヒトツオリ に でも いる よう な ココロモチ で、 ソノゴ シショウ の ミノマワリ へは、 なるべく ちかづかない サンダン を して おりました から。
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したがって その アイダ の こと に ついて は、 べつに とりたてて もうしあげる ほど の オハナシ も ございません。 もし しいて もうしあげる と いたしましたら、 それ は あの ゴウジョウ な オヤジ が、 なぜか ミョウ に なみだもろく なって、 ヒト の いない ところ では ときどき ヒトリ で ないて いた と いう オハナシ くらい な もの で ございましょう。 ことに ある ヒ、 ナニ か の ヨウ で デシ の ヒトリ が、 ニワサキ へ まいりました とき なぞ は、 ロウカ に たって ぼんやり ハル の ちかい ソラ を ながめて いる シショウ の メ が、 ナミダ で いっぱい に なって いた そう で ございます。 デシ は それ を みます と、 かえって こちら が はずかしい よう な キ が した ので、 だまって こそこそ ひきかえした と もうす こと で ございます が、 ゴシュ ショウジ の ズ を かく ため には、 ミチバタ の シガイ さえ うつした と いう、 ゴウマン な あの オトコ が、 ビョウブ の エ が おもう よう に かけない くらい の こと で、 こどもらしく なきだす など と もうす の は、 ずいぶん いな もの で ございません か。
ところが イッポウ ヨシヒデ が このよう に、 まるで ショウキ の ニンゲン とは おもわれない ほど ムチュウ に なって、 ビョウブ の エ を かいて おります うち に、 また イッポウ では あの ムスメ が、 なぜか だんだん キウツ に なって、 ワタクシドモ に さえ ナミダ を こらえて いる ヨウス が、 メ に たって まいりました。 それ が がんらい ウレイガオ の、 イロ の しろい、 つつましやか な オンナ だけ に、 こう なる と なんだか マツゲ が おもく なって、 メ の マワリ に クマ が かかった よう な、 よけい さびしい キ が いたす の で ございます。 ハジメ は やれ チチオモイ の せい だの、 やれ コイワズライ を して いる から だの、 いろいろ オクソク を いたした モノ が ございます が、 ナカゴロ から、 なに あれ は オオトノサマ が ギョイ に したがわせよう と して いらっしゃる の だ と いう ヒョウバン が たちはじめて、 それから は タレ も わすれた よう に、 ぱったり あの ムスメ の ウワサ を しなく なって しまいました。
ちょうど その コロ の こと で ごさいましょう。 ある ヨ、 コウ が たけて から、 ワタクシ が ヒトリ オロウカ を とおりかかります と、 あの サル の ヨシヒデ が いきなり どこ から か とんで まいりまして、 ワタクシ の ハカマ の スソ を しきり に ひっぱる の で ございます。 たしか、 もう ウメ の ニオイ でも いたしそう な、 うすい ツキ の ヒカリ の さして いる、 あたたかい ヨル で ございました が、 その アカリ で すかして みます と、 サル は マッシロ な ハ を むきだしながら、 ハナ の サキ へ シワ を よせて、 キ が ちがわない ばかり に けたたましく なきたてて いる では ございません か。 ワタクシ は キミ の わるい の が 3 ブ と、 あたらしい ハカマ を ひっぱられる ハラダタシサ が 7 ブ と で、 サイショ は サル を けはなして、 そのまま とおりすぎよう か とも おもいました が、 また おもいかえして みます と、 マエ に この サル を セッカン して、 ワカトノサマ の ゴフキョウ を うけた サムライ の レイ も ございます。 それに サル の フルマイ が、 どうも タダゴト とは おもわれません。 そこで とうとう ワタクシ も おもいきって、 その ひっぱる ほう へ 5~6 ケン あるく とも なく あるいて まいりました。
すると オロウカ が ヒトマガリ まがって、 ヨメ にも うすしろい オイケ の ミズ が エダブリ の やさしい マツ の ムコウ に ひろびろ と みわたせる、 ちょうど そこ まで まいった とき の こと で ございます。 どこ か チカク の ヘヤ の ナカ で ヒト の あらそって いる らしい ケハイ が、 あわただしく、 また ミョウ に ひっそり と ワタクシ の ミミ を おびやかしました。 アタリ は どこ も しんと しずまりかえって、 ツキアカリ とも モヤ とも つかない もの の ナカ で、 サカナ の おどる オト が する ホカ は、 ハナシゴエ ヒトツ きこえません。 そこ へ この モノオト で ございます から、 ワタクシ は おもわず たちどまって、 もし ロウゼキモノ で でも あった なら、 メ に モノ みせて くれよう と、 そっと その ヤリド の ソト へ、 イキ を ひそめながら ミ を よせました。
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ところが サル は ワタクシ の ヤリカタ が まだるかった の で ございましょう。 ヨシヒデ は さもさも もどかしそう に、 2~3 ド ワタクシ の アシ の マワリ を かけまわった と おもいます と、 まるで ノド を しめられた よう な コエ で なきながら、 いきなり ワタクシ の カタ の アタリ へ イッソクトビ に とびあがりました。 ワタクシ は おもわず クビ を そらせて、 その ツメ に かけられまい と する、 サル は また スイカン の ソデ に かじりついて、 ワタクシ の カラダ から すべりおちまい と する、 ――その ヒョウシ に、 ワタクシ は われしらず フタアシ ミアシ よろめいて、 その ヤリド へ ウシロザマ に、 したたか ワタクシ の カラダ を うちつけました。 こう なって は、 もう イッコク も チュウチョ して いる バアイ では ございません。 ワタクシ は やにわに ヤリド を あけはなして、 ツキアカリ の とどかない オク の ほう へ おどりこもう と いたしました。 が、 その とき ワタクシ の メ を さえぎった もの は―― いや、 それ より も もっと ワタクシ は、 ドウジ に その ヘヤ の ナカ から、 はじかれた よう に かけだそう と した オンナ の ほう に おどろかされました。 オンナ は デアイガシラ に あやうく ワタクシ に つきあたろう と して、 そのまま ソト へ まろびでました が、 なぜか そこ へ ヒザ を ついて、 イキ を きらしながら ワタクシ の カオ を、 ナニ か おそろしい もの でも みる よう に、 おののき おののき みあげて いる の で ございます。
それ が ヨシヒデ の ムスメ だった こと は、 なにも わざわざ もうしあげる まで も ございますまい。 が、 その バン の あの オンナ は、 まるで ニンゲン が ちがった よう に、 いきいき と ワタクシ の メ に うつりました。 メ は おおきく かがやいて おります。 ホオ も あかく もえて おりましたろう。 そこ へ しどけなく みだれた ハカマ や ウチギ が、 イツモ の オサナサ とは うってかわった ナマメカシサ さえ も そえて おります。 これ が じっさい あの よわよわしい、 ナニゴト にも ヒカエメガチ な ヨシヒデ の ムスメ で ございましょう か。 ――ワタクシ は ヤリド に ミ を ささえて、 この ツキアカリ の ナカ に いる うつくしい ムスメ の スガタ を ながめながら、 あわただしく とおのいて ゆく もう ヒトリ の アシオト を、 ゆびさせる もの の よう に ゆびさして、 タレ です と しずか に メ で たずねました。
すると ムスメ は クチビル を かみながら、 だまって クビ を ふりました。 その ヨウス が いかにも また、 くやしそう なの で ございます。
そこで ワタクシ は ミ を かがめながら、 ムスメ の ミミ へ クチ を つける よう に して、 コンド は 「タレ です」 と コゴエ で たずねました。 が、 ムスメ は やはり クビ を ふった ばかり で、 なんとも ヘンジ を いたしません。 いや、 それ と ドウジ に ながい マツゲ の サキ へ、 ナミダ を いっぱい ためながら、 マエ より も かたく クチビル を かみしめて いる の で ございます。
ショウトク おろか な ワタクシ には、 わかりすぎて いる ほど わかって いる こと の ホカ は、 あいにく なにひとつ のみこめません。 で ございます から、 ワタクシ は コトバ の カケヨウ も しらない で、 しばらく は ただ、 ムスメ の ムネ の ドウキ に ミミ を すませる よう な ココロモチ で、 じっと そこ に たちすくんで おりました。 もっとも これ は ヒトツ には、 なぜか このうえ といただす の が わるい よう な、 キトガメ が いたした から でも ございます。――
それ が どの くらい つづいた か、 わかりません。 が、 やがて あけはなした ヤリド を とざしながら、 すこし は ジョウキ の さめた らしい ムスメ の ほう を みかえって、 「もう ゾウシ へ おかえりなさい」 と できる だけ やさしく もうしました。 そうして ワタクシ も ジブン ながら、 ナニ か みて は ならない もの を みた よう な、 フアン な ココロモチ に おびやかされて、 タレ に とも なく はずかしい オモイ を しながら、 そっと もと きた ほう へ あるきだしました。 ところが 10 ポ と あるかない うち に、 タレ か また ワタクシ の ハカマ の スソ を、 ウシロ から おそるおそる、 ひきとめる では ございません か。 ワタクシ は おどろいて、 ふりむきました。 アナタガタ は それ が ナン だった と おぼしめします?
みる と それ は ワタクシ の アシモト に あの サル の ヨシヒデ が、 ニンゲン の よう に リョウテ を ついて、 コガネ の スズ を ならしながら、 ナンド と なく テイネイ に アタマ を さげて いる の で ございました。
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すると その バン の デキゴト が あって から、 ハンツキ ばかり ノチ の こと で ございます。 ある ヒ ヨシヒデ は とつぜん オヤシキ へ まいりまして、 オオトノサマ へ ジキ の オメドオリ を ねがいました。 いやしい ミブン の モノ で ございます が、 ヒゴロ から かくべつ ギョイ に いって いた から で ございましょう。 タレ に でも ヨウイ に おあい に なった こと の ない オオトノサマ が、 その ヒ も こころよく ゴショウチ に なって、 さっそく ゴゼン チカク へ おめし に なりました。 あの オトコ は レイ の とおり、 コウゾメ の カリギヌ に なえた エボシ を いただいて、 イツモ より は いっそう きむずかしそう な カオ を しながら、 うやうやしく ゴゼン へ ヘイフク いたしました が、 やがて しわがれた コエ で もうします には、
「かねがね おいいつけ に なりました ジゴクヘン の ビョウブ で ございます が、 ワタクシ も ニチヤ に タンセイ を ぬきんでて、 フデ を とりました カイ が みえまして、 もはや アラマシ は できあがった の も ドウゼン で ございまする」
「それ は めでたい。 ヨ も マンゾク じゃ」
しかし こう おっしゃる オオトノサマ の オコエ には、 なぜか ミョウ に チカラ の ない、 ハリアイ の ぬけた ところ が ございました。
「いえ、 それ が いっこう めでたく は ござりませぬ」 ヨシヒデ は、 やや はらだたしそう な ヨウス で、 じっと メ を ふせながら、 「アラマシ は できあがりました が、 ただ ヒトツ、 いまもって ワタクシ には かけぬ ところ が ございまする」
「なに、 かけぬ ところ が ある?」
「さよう で ございまする。 ワタクシ は そうじて、 みた もの で なければ かけませぬ。 もし かけて も、 トクシン が まいりませぬ。 それ では かけぬ も おなじ こと で ございませぬ か」
これ を おきき に なる と、 オオトノサマ の オカオ には、 あざける よう な ゴビショウ が うかびました。
「では ジゴクヘン の ビョウブ を かこう と すれば、 ジゴク を みなければ なるまい な」
「さよう で ござりまする。 が、 ワタクシ は センネン オオカジ が ございました とき に、 エンネツ ジゴク の モウカ にも まがう ヒノテ を、 マノアタリ に ながめました。 『ヨジリフドウ』 の カエン を かきました の も、 じつは あの カジ に あった から で ございまする。 ゴゼン も あの エ は ゴショウチ で ございましょう」
「しかし ザイニン は どう じゃ。 ゴクソツ は みた こと が あるまい な」 オオトノサマ は まるで ヨシヒデ の もうす こと が オミミ に はいらなかった よう な ゴヨウス で、 こう たたみかけて おたずね に なりました。
「ワタクシ は クロガネ の クサリ に いましめられた モノ を みた こと が ございまする。 ケチョウ に なやまされる モノ の スガタ も、 つぶさに うつしとりました。 されば ザイニン の カシャク に くるしむ サマ も しらぬ と もうされませぬ。 また ゴクソツ は――」 と いって、 ヨシヒデ は キミ の わるい クショウ を もらしながら、 「また ゴクソツ は、 ユメウツツ に ナンド と なく、 ワタクシ の メ に うつりました。 あるいは ゴズ、 あるいは メズ、 あるいは サンメン ロッピ の オニ の カタチ が、 オト の せぬ テ を たたき、 コエ の でぬ クチ を ひらいて、 ワタクシ を さいなみ に まいります の は、 ほとんど マイニチ マイヨ の こと と もうして も よろしゅう ございましょう。 ――ワタクシ の かこう と して かけぬ の は、 そのよう な もの では ございませぬ」
それ には オオトノサマ も、 さすが に おおどろき に なった の で ございましょう。 しばらく は ただ いらだたしそう に、 ヨシヒデ の カオ を にらめて おいで に なりました が、 やがて マユ を けわしく おうごかし に なりながら、
「では ナニ が かけぬ と もうす の じゃ」 と うっちゃる よう に おっしゃいました。
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「ワタクシ は ビョウブ の タダナカ に、 ビロウゲ の クルマ が 1 リョウ、 ソラ から おちて くる ところ を かこう と おもって おりまする」 ヨシヒデ は こう いって、 はじめて するどく オオトノサマ の オカオ を ながめました。 あの オトコ は エ の こと を いう と、 キチガイ ドウヨウ に なる とは きいて おりました が、 その とき の メ の クバリ には たしか に さよう な オソロシサ が あった よう で ございます。
「その クルマ の ナカ には、 ヒトリ の あでやか な ジョウロウ が、 モウカ の ナカ に クロカミ を みだしながら、 もだえくるしんで いる の で ございまする。 カオ は ケムリ に むせびながら、 マユ を ひそめて、 ソラザマ に ヤカタ を あおいで おりましょう。 テ は シタスダレ を ひきちぎって、 ふりかかる ヒノコ の アメ を ふせごう と して いる かも しれませぬ。 そうして その マワリ には、 あやしげ な シチョウ が 10 パ と なく、 20 パ と なく、 クチバシ を ならして ふんぷん と とびめぐって いる の で ございまする。 ――ああ、 それ が、 その ギッシャ の ナカ の ジョウロウ が、 どうしても ワタクシ には かけませぬ」
「そうして―― どう じゃ」
オオトノサマ は どういう ワケ か、 ミョウ に よろこばしそう な ミケシキ で、 こう ヨシヒデ を おうながし に なりました。 が、 ヨシヒデ は レイ の あかい クチビル を ネツ でも でた とき の よう に ふるわせながら、 ユメ を みて いる の か と おもう チョウシ で、
「それ が ワタクシ には かけませぬ」 と、 もう イチド くりかえしました が、 とつぜん かみつく よう な イキオイ に なって、
「どうか ビロウゲ の クルマ を 1 リョウ、 ワタクシ の みて いる マエ で、 ヒ を かけて いただきとう ございまする。 そうして もし できまする ならば――」
オオトノサマ は オカオ を くらく なすった と おもう と、 とつぜん けたたましく おわらい に なりました。 そうして その オワライゴエ に イキ を つまらせながら、 おっしゃいます には、
「おお、 バンジ ソノホウ が もうす とおり に いたして つかわそう。 できる できぬ の センギ は ムヤク の サタ じゃ」
ワタクシ は その オコトバ を うかがいます と、 ムシ の シラセ か、 なんとなく すさまじい キ が いたしました。 じっさい また オオトノサマ の ゴヨウス も、 オクチ の ハシ には しろく アワ が たまって おります し、 オマユ の アタリ には びくびく と イナズマ が はしって おります し、 まるで ヨシヒデ の モノグルイ に おそみ なすった の か と おもう ほど、 ただならなかった の で ございます。 それ が ちょいと コトバ を おきり に なる と、 すぐ また ナニ か が はぜた よう な イキオイ で、 トメド なく ノド を ならして おわらい に なりながら、
「ビロウゲ の クルマ にも ヒ を かけよう。 また その ナカ には あでやか な オンナ を ヒトリ、 ジョウロウ の ヨソオイ を させて のせて つかわそう。 ホノオ と クロケムリ と に せめられて、 クルマ の ナカ の オンナ が、 モダエジニ を する―― それ を かこう と おもいついた の は、 さすが に テンカ ダイイチ の エシ じゃ。 ほめて とらす。 おお、 ほめて とらす ぞ」
オオトノサマ の オコトバ を ききます と、 ヨシヒデ は キュウ に イロ を うしなって あえぐ よう に ただ、 クチビル ばかり うごかして おりました が、 やがて カラダジュウ の スジ が ゆるんだ よう に、 べたり と タタミ へ リョウテ を つく と、
「ありがたい シアワセ で ございまする」 と、 きこえる か きこえない か わからない ほど ひくい コエ で、 テイネイ に オレイ を もうしあげました。 これ は おおかた ジブン の かんがえて いた モクロミ の オソロシサ が、 オオトノサマ の オコトバ に つれて ありあり と メノマエ へ うかんで きた から で ございましょう か。 ワタクシ は イッショウ の うち に ただ イチド、 この とき だけ は ヨシヒデ が、 キノドク な ニンゲン に おもわれました。
じっさい シショウ に ころされる と いう こと も、 まったく ない とは もうされません。 げんに その バン わざわざ デシ を よびよせた の で さえ、 じつは ミミズク を けしかけて、 デシ の にげまわる アリサマ を うつそう と いう コンタン らしかった の で ございます。 で ございます から、 デシ は、 シショウ の ヨウス を ヒトメ みる が はやい か、 おもわず リョウソデ に アタマ を かくしながら、 ジブン にも なんと いった か わからない よう な ヒメイ を あげて、 そのまま ヘヤ の スミ の ヤリド の スソ へ、 いすくまって しまいました。 と その ヒョウシ に、 ヨシヒデ も なにやら あわてた よう な コエ を あげて、 たちあがった ケシキ で ございました が、 たちまち ミミズク の ハオト が いっそう マエ より も はげしく なって、 モノ の たおれる オト や やぶれる オト が、 けたたましく きこえる では ございません か。 これ には デシ も 2 ド、 ド を うしなって、 おもわず かくして いた アタマ を あげて みます と、 ヘヤ の ナカ は いつか マックラ に なって いて、 シショウ の デシ たち を よびたてる コエ が、 その ナカ で いらだたしそう に して おります。
やがて デシ の ヒトリ が、 トオク の ほう で ヘンジ を して、 それから ヒ を かざしながら、 いそいで やって まいりました が、 その すすくさい アカリ で ながめます と、 ユイトウダイ が たおれた ので、 ユカ も タタミ も イチメン に アブラダラケ に なった ところ へ、 サッキ の ミミズク が カタホウ の ツバサ ばかり、 くるしそう に はためかしながら、 ころげまわって いる の で ございます。 ヨシヒデ は ツクエ の ムコウ で なかば カラダ を おこした まま、 さすが に アッケ に とられた よう な カオ を して、 なにやら ヒト には わからない こと を、 ぶつぶつ つぶやいて おりました。 ――それ も ムリ では ございません。 あの ミミズク の カラダ には、 マックロ な ヘビ が 1 ピキ、 クビ から カタホウ の ツバサ へ かけて、 きりきり と まきついて いる の で ございます。 おおかた これ は デシ が いすくまる ヒョウシ に、 そこ に あった ツボ を ひっくりかえして、 その ナカ の ヘビ が はいだした の を、 ミミズク が なまじい に つかみかかろう と した ばかり に、 とうとう こういう オオサワギ が はじまった の で ございましょう。 フタリ の デシ は たがいに メ と メ と を みあわせて、 しばらく は ただ、 この フシギ な コウケイ を ぼんやり ながめて おりました が、 やがて シショウ に モクレイ を して、 こそこそ ヘヤ の ソト へ ひきさがって しまいました。 ヘビ と ミミズク と が ソノゴ どう なった か、 それ は タレ も しって いる モノ は ございません。――
こういう タグイ の こと は、 その ホカ まだ、 イクツ と なく ございました。 マエ には もうしおとしました が、 ジゴクヘン の ビョウブ を かけ と いう ゴサタ が あった の は、 アキ の ハジメ で ございます から、 それ イライ フユ の スエ まで、 ヨシヒデ の デシ たち は、 たえず シショウ の あやしげ な フルマイ に おびやかされて いた わけ で ございます。 が、 その フユ の スエ に ヨシヒデ は ナニ か ビョウブ の エ で、 ジユウ に ならない こと が できた の で ございましょう、 それまで より は、 いっそう ヨウス も インキ に なり、 モノイイ も メ に みえて、 あらあらしく なって まいりました。 と ドウジ に また ビョウブ の エ も、 シタエ が 8 ブ-ドオリ できあがった まま、 さらに はかどる モヨウ は ございません。 いや、 どうか する と イマ まで に かいた ところ さえ、 ぬりけして も しまいかねない ケシキ なの で ございます。
そのくせ、 ビョウブ の ナニ が ジユウ に ならない の だ か、 それ は タレ にも わかりません。 また、 タレ も わかろう と した モノ も ございますまい。 マエ の イロイロ な デキゴト に こりて いる デシ たち は、 まるで トラ オオカミ と ヒトツオリ に でも いる よう な ココロモチ で、 ソノゴ シショウ の ミノマワリ へは、 なるべく ちかづかない サンダン を して おりました から。
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したがって その アイダ の こと に ついて は、 べつに とりたてて もうしあげる ほど の オハナシ も ございません。 もし しいて もうしあげる と いたしましたら、 それ は あの ゴウジョウ な オヤジ が、 なぜか ミョウ に なみだもろく なって、 ヒト の いない ところ では ときどき ヒトリ で ないて いた と いう オハナシ くらい な もの で ございましょう。 ことに ある ヒ、 ナニ か の ヨウ で デシ の ヒトリ が、 ニワサキ へ まいりました とき なぞ は、 ロウカ に たって ぼんやり ハル の ちかい ソラ を ながめて いる シショウ の メ が、 ナミダ で いっぱい に なって いた そう で ございます。 デシ は それ を みます と、 かえって こちら が はずかしい よう な キ が した ので、 だまって こそこそ ひきかえした と もうす こと で ございます が、 ゴシュ ショウジ の ズ を かく ため には、 ミチバタ の シガイ さえ うつした と いう、 ゴウマン な あの オトコ が、 ビョウブ の エ が おもう よう に かけない くらい の こと で、 こどもらしく なきだす など と もうす の は、 ずいぶん いな もの で ございません か。
ところが イッポウ ヨシヒデ が このよう に、 まるで ショウキ の ニンゲン とは おもわれない ほど ムチュウ に なって、 ビョウブ の エ を かいて おります うち に、 また イッポウ では あの ムスメ が、 なぜか だんだん キウツ に なって、 ワタクシドモ に さえ ナミダ を こらえて いる ヨウス が、 メ に たって まいりました。 それ が がんらい ウレイガオ の、 イロ の しろい、 つつましやか な オンナ だけ に、 こう なる と なんだか マツゲ が おもく なって、 メ の マワリ に クマ が かかった よう な、 よけい さびしい キ が いたす の で ございます。 ハジメ は やれ チチオモイ の せい だの、 やれ コイワズライ を して いる から だの、 いろいろ オクソク を いたした モノ が ございます が、 ナカゴロ から、 なに あれ は オオトノサマ が ギョイ に したがわせよう と して いらっしゃる の だ と いう ヒョウバン が たちはじめて、 それから は タレ も わすれた よう に、 ぱったり あの ムスメ の ウワサ を しなく なって しまいました。
ちょうど その コロ の こと で ごさいましょう。 ある ヨ、 コウ が たけて から、 ワタクシ が ヒトリ オロウカ を とおりかかります と、 あの サル の ヨシヒデ が いきなり どこ から か とんで まいりまして、 ワタクシ の ハカマ の スソ を しきり に ひっぱる の で ございます。 たしか、 もう ウメ の ニオイ でも いたしそう な、 うすい ツキ の ヒカリ の さして いる、 あたたかい ヨル で ございました が、 その アカリ で すかして みます と、 サル は マッシロ な ハ を むきだしながら、 ハナ の サキ へ シワ を よせて、 キ が ちがわない ばかり に けたたましく なきたてて いる では ございません か。 ワタクシ は キミ の わるい の が 3 ブ と、 あたらしい ハカマ を ひっぱられる ハラダタシサ が 7 ブ と で、 サイショ は サル を けはなして、 そのまま とおりすぎよう か とも おもいました が、 また おもいかえして みます と、 マエ に この サル を セッカン して、 ワカトノサマ の ゴフキョウ を うけた サムライ の レイ も ございます。 それに サル の フルマイ が、 どうも タダゴト とは おもわれません。 そこで とうとう ワタクシ も おもいきって、 その ひっぱる ほう へ 5~6 ケン あるく とも なく あるいて まいりました。
すると オロウカ が ヒトマガリ まがって、 ヨメ にも うすしろい オイケ の ミズ が エダブリ の やさしい マツ の ムコウ に ひろびろ と みわたせる、 ちょうど そこ まで まいった とき の こと で ございます。 どこ か チカク の ヘヤ の ナカ で ヒト の あらそって いる らしい ケハイ が、 あわただしく、 また ミョウ に ひっそり と ワタクシ の ミミ を おびやかしました。 アタリ は どこ も しんと しずまりかえって、 ツキアカリ とも モヤ とも つかない もの の ナカ で、 サカナ の おどる オト が する ホカ は、 ハナシゴエ ヒトツ きこえません。 そこ へ この モノオト で ございます から、 ワタクシ は おもわず たちどまって、 もし ロウゼキモノ で でも あった なら、 メ に モノ みせて くれよう と、 そっと その ヤリド の ソト へ、 イキ を ひそめながら ミ を よせました。
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ところが サル は ワタクシ の ヤリカタ が まだるかった の で ございましょう。 ヨシヒデ は さもさも もどかしそう に、 2~3 ド ワタクシ の アシ の マワリ を かけまわった と おもいます と、 まるで ノド を しめられた よう な コエ で なきながら、 いきなり ワタクシ の カタ の アタリ へ イッソクトビ に とびあがりました。 ワタクシ は おもわず クビ を そらせて、 その ツメ に かけられまい と する、 サル は また スイカン の ソデ に かじりついて、 ワタクシ の カラダ から すべりおちまい と する、 ――その ヒョウシ に、 ワタクシ は われしらず フタアシ ミアシ よろめいて、 その ヤリド へ ウシロザマ に、 したたか ワタクシ の カラダ を うちつけました。 こう なって は、 もう イッコク も チュウチョ して いる バアイ では ございません。 ワタクシ は やにわに ヤリド を あけはなして、 ツキアカリ の とどかない オク の ほう へ おどりこもう と いたしました。 が、 その とき ワタクシ の メ を さえぎった もの は―― いや、 それ より も もっと ワタクシ は、 ドウジ に その ヘヤ の ナカ から、 はじかれた よう に かけだそう と した オンナ の ほう に おどろかされました。 オンナ は デアイガシラ に あやうく ワタクシ に つきあたろう と して、 そのまま ソト へ まろびでました が、 なぜか そこ へ ヒザ を ついて、 イキ を きらしながら ワタクシ の カオ を、 ナニ か おそろしい もの でも みる よう に、 おののき おののき みあげて いる の で ございます。
それ が ヨシヒデ の ムスメ だった こと は、 なにも わざわざ もうしあげる まで も ございますまい。 が、 その バン の あの オンナ は、 まるで ニンゲン が ちがった よう に、 いきいき と ワタクシ の メ に うつりました。 メ は おおきく かがやいて おります。 ホオ も あかく もえて おりましたろう。 そこ へ しどけなく みだれた ハカマ や ウチギ が、 イツモ の オサナサ とは うってかわった ナマメカシサ さえ も そえて おります。 これ が じっさい あの よわよわしい、 ナニゴト にも ヒカエメガチ な ヨシヒデ の ムスメ で ございましょう か。 ――ワタクシ は ヤリド に ミ を ささえて、 この ツキアカリ の ナカ に いる うつくしい ムスメ の スガタ を ながめながら、 あわただしく とおのいて ゆく もう ヒトリ の アシオト を、 ゆびさせる もの の よう に ゆびさして、 タレ です と しずか に メ で たずねました。
すると ムスメ は クチビル を かみながら、 だまって クビ を ふりました。 その ヨウス が いかにも また、 くやしそう なの で ございます。
そこで ワタクシ は ミ を かがめながら、 ムスメ の ミミ へ クチ を つける よう に して、 コンド は 「タレ です」 と コゴエ で たずねました。 が、 ムスメ は やはり クビ を ふった ばかり で、 なんとも ヘンジ を いたしません。 いや、 それ と ドウジ に ながい マツゲ の サキ へ、 ナミダ を いっぱい ためながら、 マエ より も かたく クチビル を かみしめて いる の で ございます。
ショウトク おろか な ワタクシ には、 わかりすぎて いる ほど わかって いる こと の ホカ は、 あいにく なにひとつ のみこめません。 で ございます から、 ワタクシ は コトバ の カケヨウ も しらない で、 しばらく は ただ、 ムスメ の ムネ の ドウキ に ミミ を すませる よう な ココロモチ で、 じっと そこ に たちすくんで おりました。 もっとも これ は ヒトツ には、 なぜか このうえ といただす の が わるい よう な、 キトガメ が いたした から でも ございます。――
それ が どの くらい つづいた か、 わかりません。 が、 やがて あけはなした ヤリド を とざしながら、 すこし は ジョウキ の さめた らしい ムスメ の ほう を みかえって、 「もう ゾウシ へ おかえりなさい」 と できる だけ やさしく もうしました。 そうして ワタクシ も ジブン ながら、 ナニ か みて は ならない もの を みた よう な、 フアン な ココロモチ に おびやかされて、 タレ に とも なく はずかしい オモイ を しながら、 そっと もと きた ほう へ あるきだしました。 ところが 10 ポ と あるかない うち に、 タレ か また ワタクシ の ハカマ の スソ を、 ウシロ から おそるおそる、 ひきとめる では ございません か。 ワタクシ は おどろいて、 ふりむきました。 アナタガタ は それ が ナン だった と おぼしめします?
みる と それ は ワタクシ の アシモト に あの サル の ヨシヒデ が、 ニンゲン の よう に リョウテ を ついて、 コガネ の スズ を ならしながら、 ナンド と なく テイネイ に アタマ を さげて いる の で ございました。
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すると その バン の デキゴト が あって から、 ハンツキ ばかり ノチ の こと で ございます。 ある ヒ ヨシヒデ は とつぜん オヤシキ へ まいりまして、 オオトノサマ へ ジキ の オメドオリ を ねがいました。 いやしい ミブン の モノ で ございます が、 ヒゴロ から かくべつ ギョイ に いって いた から で ございましょう。 タレ に でも ヨウイ に おあい に なった こと の ない オオトノサマ が、 その ヒ も こころよく ゴショウチ に なって、 さっそく ゴゼン チカク へ おめし に なりました。 あの オトコ は レイ の とおり、 コウゾメ の カリギヌ に なえた エボシ を いただいて、 イツモ より は いっそう きむずかしそう な カオ を しながら、 うやうやしく ゴゼン へ ヘイフク いたしました が、 やがて しわがれた コエ で もうします には、
「かねがね おいいつけ に なりました ジゴクヘン の ビョウブ で ございます が、 ワタクシ も ニチヤ に タンセイ を ぬきんでて、 フデ を とりました カイ が みえまして、 もはや アラマシ は できあがった の も ドウゼン で ございまする」
「それ は めでたい。 ヨ も マンゾク じゃ」
しかし こう おっしゃる オオトノサマ の オコエ には、 なぜか ミョウ に チカラ の ない、 ハリアイ の ぬけた ところ が ございました。
「いえ、 それ が いっこう めでたく は ござりませぬ」 ヨシヒデ は、 やや はらだたしそう な ヨウス で、 じっと メ を ふせながら、 「アラマシ は できあがりました が、 ただ ヒトツ、 いまもって ワタクシ には かけぬ ところ が ございまする」
「なに、 かけぬ ところ が ある?」
「さよう で ございまする。 ワタクシ は そうじて、 みた もの で なければ かけませぬ。 もし かけて も、 トクシン が まいりませぬ。 それ では かけぬ も おなじ こと で ございませぬ か」
これ を おきき に なる と、 オオトノサマ の オカオ には、 あざける よう な ゴビショウ が うかびました。
「では ジゴクヘン の ビョウブ を かこう と すれば、 ジゴク を みなければ なるまい な」
「さよう で ござりまする。 が、 ワタクシ は センネン オオカジ が ございました とき に、 エンネツ ジゴク の モウカ にも まがう ヒノテ を、 マノアタリ に ながめました。 『ヨジリフドウ』 の カエン を かきました の も、 じつは あの カジ に あった から で ございまする。 ゴゼン も あの エ は ゴショウチ で ございましょう」
「しかし ザイニン は どう じゃ。 ゴクソツ は みた こと が あるまい な」 オオトノサマ は まるで ヨシヒデ の もうす こと が オミミ に はいらなかった よう な ゴヨウス で、 こう たたみかけて おたずね に なりました。
「ワタクシ は クロガネ の クサリ に いましめられた モノ を みた こと が ございまする。 ケチョウ に なやまされる モノ の スガタ も、 つぶさに うつしとりました。 されば ザイニン の カシャク に くるしむ サマ も しらぬ と もうされませぬ。 また ゴクソツ は――」 と いって、 ヨシヒデ は キミ の わるい クショウ を もらしながら、 「また ゴクソツ は、 ユメウツツ に ナンド と なく、 ワタクシ の メ に うつりました。 あるいは ゴズ、 あるいは メズ、 あるいは サンメン ロッピ の オニ の カタチ が、 オト の せぬ テ を たたき、 コエ の でぬ クチ を ひらいて、 ワタクシ を さいなみ に まいります の は、 ほとんど マイニチ マイヨ の こと と もうして も よろしゅう ございましょう。 ――ワタクシ の かこう と して かけぬ の は、 そのよう な もの では ございませぬ」
それ には オオトノサマ も、 さすが に おおどろき に なった の で ございましょう。 しばらく は ただ いらだたしそう に、 ヨシヒデ の カオ を にらめて おいで に なりました が、 やがて マユ を けわしく おうごかし に なりながら、
「では ナニ が かけぬ と もうす の じゃ」 と うっちゃる よう に おっしゃいました。
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「ワタクシ は ビョウブ の タダナカ に、 ビロウゲ の クルマ が 1 リョウ、 ソラ から おちて くる ところ を かこう と おもって おりまする」 ヨシヒデ は こう いって、 はじめて するどく オオトノサマ の オカオ を ながめました。 あの オトコ は エ の こと を いう と、 キチガイ ドウヨウ に なる とは きいて おりました が、 その とき の メ の クバリ には たしか に さよう な オソロシサ が あった よう で ございます。
「その クルマ の ナカ には、 ヒトリ の あでやか な ジョウロウ が、 モウカ の ナカ に クロカミ を みだしながら、 もだえくるしんで いる の で ございまする。 カオ は ケムリ に むせびながら、 マユ を ひそめて、 ソラザマ に ヤカタ を あおいで おりましょう。 テ は シタスダレ を ひきちぎって、 ふりかかる ヒノコ の アメ を ふせごう と して いる かも しれませぬ。 そうして その マワリ には、 あやしげ な シチョウ が 10 パ と なく、 20 パ と なく、 クチバシ を ならして ふんぷん と とびめぐって いる の で ございまする。 ――ああ、 それ が、 その ギッシャ の ナカ の ジョウロウ が、 どうしても ワタクシ には かけませぬ」
「そうして―― どう じゃ」
オオトノサマ は どういう ワケ か、 ミョウ に よろこばしそう な ミケシキ で、 こう ヨシヒデ を おうながし に なりました。 が、 ヨシヒデ は レイ の あかい クチビル を ネツ でも でた とき の よう に ふるわせながら、 ユメ を みて いる の か と おもう チョウシ で、
「それ が ワタクシ には かけませぬ」 と、 もう イチド くりかえしました が、 とつぜん かみつく よう な イキオイ に なって、
「どうか ビロウゲ の クルマ を 1 リョウ、 ワタクシ の みて いる マエ で、 ヒ を かけて いただきとう ございまする。 そうして もし できまする ならば――」
オオトノサマ は オカオ を くらく なすった と おもう と、 とつぜん けたたましく おわらい に なりました。 そうして その オワライゴエ に イキ を つまらせながら、 おっしゃいます には、
「おお、 バンジ ソノホウ が もうす とおり に いたして つかわそう。 できる できぬ の センギ は ムヤク の サタ じゃ」
ワタクシ は その オコトバ を うかがいます と、 ムシ の シラセ か、 なんとなく すさまじい キ が いたしました。 じっさい また オオトノサマ の ゴヨウス も、 オクチ の ハシ には しろく アワ が たまって おります し、 オマユ の アタリ には びくびく と イナズマ が はしって おります し、 まるで ヨシヒデ の モノグルイ に おそみ なすった の か と おもう ほど、 ただならなかった の で ございます。 それ が ちょいと コトバ を おきり に なる と、 すぐ また ナニ か が はぜた よう な イキオイ で、 トメド なく ノド を ならして おわらい に なりながら、
「ビロウゲ の クルマ にも ヒ を かけよう。 また その ナカ には あでやか な オンナ を ヒトリ、 ジョウロウ の ヨソオイ を させて のせて つかわそう。 ホノオ と クロケムリ と に せめられて、 クルマ の ナカ の オンナ が、 モダエジニ を する―― それ を かこう と おもいついた の は、 さすが に テンカ ダイイチ の エシ じゃ。 ほめて とらす。 おお、 ほめて とらす ぞ」
オオトノサマ の オコトバ を ききます と、 ヨシヒデ は キュウ に イロ を うしなって あえぐ よう に ただ、 クチビル ばかり うごかして おりました が、 やがて カラダジュウ の スジ が ゆるんだ よう に、 べたり と タタミ へ リョウテ を つく と、
「ありがたい シアワセ で ございまする」 と、 きこえる か きこえない か わからない ほど ひくい コエ で、 テイネイ に オレイ を もうしあげました。 これ は おおかた ジブン の かんがえて いた モクロミ の オソロシサ が、 オオトノサマ の オコトバ に つれて ありあり と メノマエ へ うかんで きた から で ございましょう か。 ワタクシ は イッショウ の うち に ただ イチド、 この とき だけ は ヨシヒデ が、 キノドク な ニンゲン に おもわれました。