カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

シャヨウ 3

2019-11-22 | ダザイ オサム
 3

 どうしても、 もう、 とても、 いきて おられない よう な ココロボソサ。 これ が、 あの、 フアン、 とか いう カンジョウ なの で あろう か、 ムネ に くるしい ナミ が うちよせ、 それ は ちょうど、 ユウダチ が すんだ ノチ の ソラ を、 あわただしく シラクモ が つぎつぎ と はしって はしりすぎて ゆく よう に、 ワタシ の シンゾウ を しめつけたり、 ゆるめたり、 ワタシ の ミャク は ケッタイ して、 コキュウ が キハク に なり、 メ の サキ が もやもや と くらく なって、 ゼンシン の チカラ が、 テ の ユビ の サキ から ふっと ぬけて しまう ココチ が して、 アミモノ を つづけて ゆく こと が できなく なった。
 コノゴロ は アメ が インキ に ふりつづいて、 ナニ を する にも、 ものうくて、 キョウ は オザシキ の エンガワ に トウイス を もちだし、 コトシ の ハル に イチド あみかけて ソノママ に して いた セータ を、 また あみつづけて みる キ に なった の で ある。 あわい ボタンイロ の ぼやけた よう な ケイト で、 ワタシ は それ に、 コバルト ブルー の イト を たして、 セータ に する つもり なの だ。 そうして、 この あわい ボタンイロ の ケイト は、 イマ から もう 20 ネン も マエ、 ワタシ が まだ ショトウカ に かよって いた コロ、 オカアサマ が これ で ワタシ の クビマキ を あんで くださった ケイト だった。 その クビマキ の ハシ が ズキン に なって いて、 ワタシ は それ を かぶって カガミ を のぞいて みたら、 コオニ の よう で あった。 それに、 イロ が、 ホカ の ガクユウ の クビマキ の イロ と、 まるで ちがって いる ので、 ワタシ は、 いや で いや で シヨウ が なかった。 カンサイ の タガク ノウゼイ の ガクユウ が、 「いい クビマキ して なはる な」 と、 おとなびた クチョウ で ほめて くださった が、 ワタシ は、 いよいよ はずかしく なって、 もう それから は、 イチド も この クビマキ を した こと が なく、 ながい こと うちすてて あった の だ。 それ を、 コトシ の ハル、 シゾウヒン の フッカツ と やら いう イミ で、 ときほぐして ワタシ の セータ に しよう と おもって とりかかって みた の だ が、 どうも、 この ぼやけた よう な イロアイ が キ に いらず、 また うちすて、 キョウ は あまり に しょざいない まま、 ふと とりだして、 のろのろ と あみつづけて みた の だ。 けれども、 あんで いる うち に、 ワタシ は、 この あわい ボタンイロ の ケイト と、 ハイイロ の アマゾラ と、 ヒトツ に とけあって、 なんとも いえない くらい やわらかくて マイルド な シキチョウ を つくりだして いる こと に キ が ついた。 ワタシ は しらなかった の だ。 コスチウム は、 ソラ の イロ との チョウワ を かんがえなければ ならぬ もの だ と いう ダイジ な こと を しらなかった の だ。 チョウワ って、 なんて うつくしくて すばらしい こと なん だろう と、 いささか おどろき、 ぼうぜん と した カタチ だった。 ハイイロ の アマゾラ と、 あわい ボタンイロ の ケイト と、 その フタツ を くみあわせる と リョウホウ が ドウジ に いきいき して くる から フシギ で ある。 テ に もって いる ケイト が キュウ に ほっかり あたたかく、 つめたい アマゾラ も ビロウド みたい に やわらかく かんぜられる。 そうして、 モネー の キリ の ナカ の ジイン の エ を おもいださせる。 ワタシ は この ケイト の イロ に よって、 はじめて 「グー」 と いう もの を しらされた よう な キ が した。 よい コノミ。 そうして オカアサマ は、 フユ の ユキゾラ に、 この あわい ボタンイロ が、 どんな に うつくしく チョウワ する か ちゃんと しって いらして わざわざ えらんで くださった のに、 ワタシ は バカ で いやがって、 けれども、 それ を コドモ の ワタシ に キョウセイ しよう とも なさらず、 ワタシ の すき な よう に させて おかれた オカアサマ。 ワタシ が この イロ の ウツクシサ を、 ホントウ に わかる まで、 20 ネン-カン も、 この イロ に ついて ヒトコト も セツメイ なさらず、 だまって、 そしらぬ フリ して まって いらした オカアサマ。 しみじみ、 いい オカアサマ だ と おもう と ドウジ に、 こんな いい オカアサマ を、 ワタシ と ナオジ と フタリ で いじめて、 こまらせ よわらせ、 いまに しなせて しまう の では なかろう か と、 ふうっと たまらない キョウフ と シンパイ の クモ が ムネ に わいて、 あれこれ オモイ を めぐらせば めぐらす ほど、 ゼント に とても おそろしい、 わるい こと ばかり ヨソウ せられ、 もう、 とても、 いきて おられない くらい に フアン に なり、 ユビサキ の チカラ も ぬけて、 アミボウ を ヒザ に おき、 おおきい タメイキ を ついて、 カオ を あおむけ メ を つぶって、
「オカアサマ」
 と おもわず いった。
 オカアサマ は、 オザシキ の スミ の ツクエ に よりかかって、 ゴホン を よんで いらした の だ が、
「はい?」
 と、 フシン そう に ヘンジ を なさった。
 ワタシ は、 まごつき、 それから、 ことさら に オオゴエ で、
「とうとう バラ が さきました。 オカアサマ、 ゴゾンジ だった? ワタシ は、 イマ キ が ついた。 とうとう さいた わ」
 オザシキ の オエンガワ の すぐ マエ の バラ。 それ は、 ワダ の オジサマ が、 ムカシ、 フランス だ か イギリス だ か、 ちょっと わすれた けれど、 とにかく とおい ところ から おもちかえり に なった バラ で、 2~3 カゲツ マエ に、 オジサマ が、 この サンソウ の ニワ に うつしうえて くださった バラ で ある。 ケサ それ が、 やっと ヒトツ さいた の を、 ワタシ は ちゃんと しって いた の だ けれども、 テレカクシ に、 たったいま きづいた みたい に おおげさ に さわいで みせた の で ある。 ハナ は、 こい ムラサキイロ で、 りん と した オゴリ と ツヨサ が あった。
「しって いました」
 と オカアサマ は しずか に おっしゃって、
「アナタ には、 そんな こと が、 とても ジュウダイ らしい のね」
「そう かも しれない わ。 かわいそう?」
「いいえ、 アナタ には、 そういう ところ が ある って いった だけ なの。 オカッテ の マッチ-バコ に ルナール の エ を はったり、 オニンギョウ の ハンカチーフ を つくって みたり、 そういう こと が すき なの ね。 それに、 オニワ の バラ の こと だって、 アナタ の いう こと を きいて いる と、 いきて いる ヒト の こと を いって いる みたい」
「コドモ が ない から よ」
 ジブン でも まったく おもいがけなかった コトバ が、 クチ から でた。 いって しまって、 はっと して、 マ の わるい オモイ で ヒザ の アミモノ を いじって いたら、
 ――29 だ から なあ。
 そう おっしゃる オトコ の ヒト の コエ が、 デンワ で きく よう な くすぐったい バス で、 はっきり きこえた よう な キ が して、 ワタシ は ハズカシサ で、 ホオ が やける みたい に あつく なった。
 オカアサマ は、 なにも おっしゃらず、 また、 ゴホン を およみ に なる。 オカアサマ は、 コナイダ から ガーゼ の マスク を おかけ に なって いらして、 その せい か、 コノゴロ めっきり ムクチ に なった。 その マスク は、 ナオジ の イイツケ に したがって、 おかけ に なって いる の で ある。 ナオジ は、 トオカ ほど マエ に、 ナンポウ の シマ から あおぐろい カオ に なって かえって きた の だ。
 なんの マエブレ も なく、 ナツ の ユウグレ、 ウラ の キド から ニワ へ はいって きて、
「わあ、 ひでえ。 シュミ の わるい ウチ だ。 ライライケン。 シューマイ あります、 と ハリフダ しろ よ」
 それ が ワタシ と はじめて カオ を あわせた とき の、 ナオジ の アイサツ で あった。
 その 2~3 ニチ マエ から オカアサマ は、 シタ を やんで ねて いらした。 シタ の サキ が、 ガイケン は なんの カワリ も ない のに、 うごかす と いたくて ならぬ と おっしゃって、 オショクジ も、 うすい オカユ だけ で、 オイシャ サマ に みて いただいたら? と いって も、 クビ を ふって、
「わらわれます」
 と ニガワライ しながら、 おっしゃる。 ルゴール を ぬって あげた けれども、 すこしも キキメ が ない よう で、 ワタシ は ミョウ に いらいら して いた。
 そこ へ、 ナオジ が キカン して きた の だ。
 ナオジ は オカアサマ の マクラモト に すわって、 ただいま、 と いって オジギ を し、 すぐに たちあがって、 ちいさい イエ の ナカ を あちこち と みて まわり、 ワタシ が その アト を ついて あるいて、
「どう? オカアサマ は、 かわった?」
「かわった、 かわった。 やつれて しまった。 はやく しにゃ いい ん だ。 こんな ヨノナカ に、 ママ なんて、 とても いきて いけ や しねえ ん だ。 あまり みじめ で、 みちゃ おれねえ」
「ワタシ は?」
「げびて きた。 オトコ が 2~3 ニン も ある よう な カオ を して いやがる。 サケ は? コンヤ は のむ ぜ」
 ワタシ は この ブラク で たった 1 ケン の ヤドヤ へ いって、 オカミサン の オサキ さん に、 オトウト が キカン した から、 オサケ を すこし わけて ください、 と たのんで みた けれども、 オサキ さん は、 オサケ は あいにく、 イマ きらして います、 と いう ので、 かえって ナオジ に そう つたえたら、 ナオジ は、 みた こと も ない タニン の よう な ヒョウジョウ の カオ に なって、 ちえっ、 コウショウ が ヘタ だ から そう なん だ、 と いい、 ワタシ から ヤドヤ の ある バショ を きいて、 ニワゲタ を つっかけて ソト に とびだし、 それっきり、 いくら まって も ウチ へ かえって こなかった。 ワタシ は ナオジ の すき だった ヤキリンゴ と、 それから、 タマゴ の オリョウリ など こしらえて、 ショクドウ の デンキュウ も あかるい の と とりかえ、 ずいぶん まって、 その うち に、 オサキ さん が、 オカッテグチ から ひょいと カオ を だし、
「もし、 もし。 だいじょうぶ でしょう か。 ショウチュウ を めしあがって いる の です けど」
 と、 レイ の コイ の メ の よう な まんまるい メ を、 さらに つよく みはって、 イチダイジ の よう に、 ひくい コエ で いう の で ある。
「ショウチュウ って。 あの、 メチル?」
「いいえ、 メチル じゃ ありません けど」
「のんで も、 ビョウキ に ならない の でしょう?」
「ええ、 でも、……」
「のませて やって ください」
 オサキ さん は、 ツバキ を のみこむ よう に して うなずいて かえって いった。
 ワタシ は オカアサマ の ところ に いって、
「オサキ さん の ところ で、 のんで いる ん ですって」
 と もうしあげたら、 オカアサマ は、 すこし オクチ を まげて おわらい に なって、
「そう。 アヘン の ほう は、 よした の かしら。 アナタ は、 ゴハン を すませなさい。 それから コンヤ は、 3 ニン で この ヘヤ に おやすみ。 ナオジ の オフトン を、 マンナカ に して」
 ワタシ は、 なきたい よう な キモチ に なった。
 よふけて、 ナオジ は、 あらい アシオト を させて かえって きた。 ワタシタチ は、 オザシキ に 3 ニン、 ヒトツ の カヤ に はいって ねた。
「ナンポウ の オハナシ を、 オカアサマ に きかせて あげたら?」
 と ワタシ が ねながら いう と、
「なにも ない。 なにも ない。 わすれて しまった。 ニホン に ついて キシャ に のって、 キシャ の マド から、 スイデン が、 すばらしく きれい に みえた。 それ だけ だ。 デンキ を けせ よ。 ねむられ や しねえ」
 ワタシ は デントウ を けした。 ナツ の ゲッコウ が コウズイ の よう に カヤ の ナカ に みちあふれた。
 あくる アサ、 ナオジ は ネドコ に ハラバイ に なって、 タバコ を すいながら、 とおく ウミ の ほう を ながめて、
「シタ が いたい ん ですって?」
 と、 はじめて オカアサマ の オカゲン の わるい の に キ が ついた みたい な フウ の クチ の キキカタ を した。
 オカアサマ は、 ただ かすか に おわらい に なった。
「そいつ あ、 きっと、 シンリテキ な もの なん だ。 ヨル、 クチ を あいて おやすみ に なる ん でしょう。 ダラシ が ない。 マスク を なさい。 ガーゼ に リバノール エキ でも ひたして、 それ を マスク の ナカ に いれて おく と いい」
 ワタシ は それ を きいて ふきだし、
「それ は、 ナニ リョウホウ って いう の?」
「ビガク リョウホウ って いう ん だ」
「でも、 オカアサマ は、 マスク なんか、 きっと おきらい よ」
 オカアサマ は、 マスク に かぎらず、 ガンタイ でも、 メガネ でも、 オカオ に そんな もの を つける こと は だいきらい だった はず で ある。
「ねえ、 オカアサマ。 マスク を なさる?」
 と ワタシ が おたずね したら、
「いたします」
 と マジメ に ひくく おこたえ に なった ので、 ワタシ は、 はっと した。 ナオジ の いう こと なら、 なんでも しんじて したがおう と おもって いらっしゃる らしい。
 ワタシ が チョウショク の アト に、 さっき ナオジ が いった とおり に、 ガーゼ に リバノール エキ を ひたし など して、 マスク を つくり、 オカアサマ の ところ に もって いったら、 オカアサマ は、 だまって うけとり、 おやすみ に なった まま で、 マスク の ヒモ を リョウホウ の オミミ に すなお に おかけ に なり、 その サマ が、 ホントウ に もう おさない ドウジョ の よう で、 ワタシ には かなしく おもわれた。
 オヒルスギ に、 ナオジ は、 トウキョウ の オトモダチ や、 ブンガク の ほう の シショウ さん など に あわなければ ならぬ と いって セビロ に きがえ、 オカアサマ から、 2000 エン もらって トウキョウ へ でかけて いって しまった。 それっきり、 もう トオカ ちかく なる の だ けれども、 ナオジ は、 かえって こない の だ。 そうして、 オカアサマ は、 マイニチ マスク を なさって、 ナオジ を まって いらっしゃる。
「リバノール って、 いい クスリ なの ね。 この マスク を かけて いる と、 シタ の イタミ が きえて しまう の です よ」
 と、 わらいながら おっしゃった けれども、 ワタシ には、 オカアサマ が ウソ を ついて いらっしゃる よう に おもわれて ならない の だ。 もう だいじょうぶ、 と おっしゃって、 イマ は おきて いらっしゃる けれども、 ショクヨク は やっぱり あまり ない ゴヨウス だし、 クチカズ も めっきり すくなく、 とても ワタシ は キガカリ で、 ナオジ は まあ、 トウキョウ で ナニ を して いる の だろう、 あの ショウセツカ の ウエハラ さん なんか と イッショ に トウキョウ-ジュウ を あそびまわって、 トウキョウ の キョウキ の ウズ に まきこまれて いる の に ちがいない、 と おもえば おもう ほど、 くるしく つらく なり、 オカアサマ に、 だしぬけ に バラ の こと など ホウコク して、 そうして、 コドモ が ない から よ、 なんて ジブン にも おもいがけなかった ヘン な こと を くちばしって、 いよいよ、 いけなく なる ばかり で、
「あ」
 と いって たちあがり、 さて、 どこ へも ゆく ところ が なく、 ミヒトツ を もてあまして、 ふらふら カイダン を のぼって いって、 2 カイ の ヨウマ に はいって みた。
 ここ は、 コンド ナオジ の ヘヤ に なる はず で、 4~5 ニチ マエ に ワタシ が、 オカアサマ と ソウダン して、 シタ の ノウカ の ナカイ さん に オテツダイ を たのみ、 ナオジ の ヨウフク-ダンス や ツクエ や ホンバコ、 また、 ゾウショ や ノートブック など いっぱい つまった キ の ハコ イツツ ムッツ、 とにかく ムカシ、 ニシカタマチ の オウチ の ナオジ の オヘヤ に あった もの ゼンブ を、 ここ に もちはこび、 いまに ナオジ が トウキョウ から かえって きたら、 ナオジ の すき な イチ に、 タンス ホンバコ など それぞれ すえる こと に して、 それまで は ただ ざつぜん と ここ に オキバナシ に して いた ほう が よさそう に おもわれた ので、 もう、 アシ の フミバ も ない くらい に、 ヘヤ いっぱい ちらかした まま で、 ワタシ は、 なにげなく アシモト の キ の ハコ から、 ナオジ の ノートブック を 1 サツ とりあげて みたら、 その ノートブック の ヒョウシ には、

  ユウガオ ニッシ

 と かきしるされ、 その ナカ には、 ツギ の よう な こと が いっぱい かきちらされて いた の で ある。 ナオジ が、 あの、 マヤク チュウドク で くるしんで いた コロ の シュキ の よう で あった。


 やけしぬる オモイ。 くるしく とも、 くるし と イチゴン、 ハンク、 さけびえぬ、 コライ、 ミゾウ、 ヒト の ヨ はじまって イライ、 ゼンレイ も なき、 そこしれぬ ジゴク の ケハイ を、 ごまかしなさんな。
 シソウ? ウソ だ。 シュギ? ウソ だ。 リソウ? ウソ だ。 チツジョ? ウソ だ。 セイジツ? シンリ? ジュンスイ? みな ウソ だ。 ウシジマ の フジ は、 ジュレイ 1000 ネン、 ユヤ の フジ は、 スウヒャクネン と となえられ、 その カスイ の ごとき も、 ゼンシャ で サイチョウ 9シャク、 コウシャ で 5 シャク あまり と きいて、 ただ その カスイ に のみ、 ココロ が おどる。
 あれ も ヒト の コ。 いきて いる。
 ロンリ は、 しょせん、 ロンリ への アイ で ある。 いきて いる ニンゲン への アイ では ない。
 カネ と オンナ。 ロンリ は、 はにかみ、 そそくさ と あゆみさる。
 レキシ、 テツガク、 キョウイク、 シュウキョウ、 ホウリツ、 セイジ、 ケイザイ、 シャカイ、 そんな ガクモン なんか より、 ヒトリ の ショジョ の ビショウ が とうとい と いう ファウスト ハカセ の ユウカン なる ジッショウ。
 ガクモン とは、 キョエイ の ベツメイ で ある。 ニンゲン が ニンゲン で なくなろう と する ドリョク で ある。

 ゲーテ に だって ちかって いえる。 ボク は、 どんな に でも うまく かけます。 イッペン の コウセイ あやまたず、 テキド の コッケイ、 ドクシャ の メ の ウラ を やく ヒアイ、 もしくは、 しゅくぜん、 いわゆる エリ を たださしめ、 カンペキ の オショウセツ、 ろうろう オンドク すれば、 これ すなわち、 スクリン の セツメイ か、 はずかしくって、 かける か って いう ん だ。 どだい そんな、 ケッサク イシキ が、 けちくさい と いう ん だ。 ショウセツ を よんで エリ を ただす なんて、 キョウジン の ショサ で ある。 そんなら、 いっそ、 ハオリハカマ で せにゃ なるまい。 よい サクヒン ほど、 とりすまして いない よう に みえる の だ がなあ。 ボク は ユウジン の ココロ から たのしそう な エガオ を みたい ばかり に、 イッペン の ショウセツ、 わざと しくじって、 ヘタクソ に かいて、 シリモチ ついて アタマ かきかき にげて ゆく。 ああ、 その とき の、 ユウジン の うれしそう な カオ ったら!
 ブン いたらず、 ヒト いたらぬ フゼイ、 オモチャ の ラッパ を ふいて おきかせ もうし、 ここ に ニッポンイチ の バカ が います、 アナタ は まだ いい ほう です よ、 ケンザイ なれ! と ねがう アイジョウ は、 これ は いったい ナン でしょう。
 ユウジン、 シタリガオ にて、 あれ が アイツ の わるい クセ、 おしい もの だ、 と ゴジュッカイ。 あいされて いる こと を、 ゴゾンジ ない。
 フリョウ で ない ニンゲン が ある だろう か。
 あじけない オモイ。
 カネ が ほしい。
 さも なくば、
 ねむりながら の シゼンシ!

 クスリヤ に 1000 エン ちかき シャッキン あり。 キョウ、 シチヤ の バントウ を こっそり ウチ へ つれて きて、 ボク の ヘヤ へ とおして、 ナニ か この ヘヤ に めぼしい シチグサ あり や、 ある なら もって いけ、 カキュウ に カネ が いる、 と もうせし に、 バントウ ろくに ヘヤ の ナカ を み も せず、 およしなさい、 アナタ の オドウグ でも ない のに、 と ぬかした。 よろしい、 それならば、 ボク が イマ まで、 ボク の オコヅカイセン で かった シナモノ だけ もって いけ、 と イセイ よく いって、 かきあつめた ガラクタ、 シチグサ の シカク ある シロモノ ヒトツ も なし。
 まず、 カタテ の セッコウゾウ。 これ は、 ヴィナス の ミギテ。 ダリヤ の ハナ にも にた カタテ、 まっしろい カタテ、 それ が ただ ダイジョウ に のって いる の だ。 けれども、 これ を よく みる と、 これ は ヴィナス が、 その ゼンラ を、 オトコ に みられて、 あなや の オドロキ、 ガンシュウ センプウ、 ラシン ムザン、 ウスクレナイ、 ノコリ くまなき、 かっかっ の ホテリ、 カラダ を よじって この テツキ、 そのよう な ヴィナス の イキ も とまる ほど の ラシン の ハジライ が、 ユビサキ に シモン も なく、 テノヒラ に 1 ポン の テスジ も ない ジュンパク の この きゃしゃ な ミギテ に よって、 こちら の ムネ も くるしく なる くらい に あわれ に ヒョウジョウ せられて いる の が、 わかる はず だ。 けれども、 これ は、 しょせん、 ヒジツヨウ の ガラクタ。 バントウ、 50 セン と ネブミ せり。
 その ホカ、 パリ キンコウ の ダイチズ、 チョッケイ 1 シャク に ちかき セルロイド の コマ、 イト より も ほそく ジ の かける トクセイ の ペンサキ、 いずれ も ホリダシモノ の つもり で かった シナモノ ばかり なの だ が、 バントウ わらって、 もう オイトマ いたします、 と いう。 まて、 と セイシ して、 けっきょく また、 ホン を やまほど バントウ に せおわせて、 キン 5 エン ナリ を うけとる。 ボク の ホンダナ の ホン は、 ほとんど レンカ の ブンコボン のみ に して、 しかも フルホンヤ から しいれし もの なる に よって、 シチ の ネ も おのずから、 このよう に やすい の で ある。
 1000 エン の シャクセン を カイケツ せん と して、 5 エン ナリ。 ヨノナカ に おける、 ボク の ジツリョク、 おおよそ かく の ごとし。 ワライゴト では ない。

 デカダン? しかし、 こう でも しなけりゃ いきて おれない ん だよ。 そんな こと を いって、 ボク を ヒナン する ヒト より は、 しね! と いって くれる ヒト の ほう が ありがたい。 さっぱり する。 けれども ヒト は、 めった に、 しね! とは いわない もの だ。 けちくさく、 ヨウジン-ぶかい ギゼンシャ ども よ。
 セイギ? いわゆる カイキュウ トウソウ の ホンシツ は、 そんな ところ に あり は せぬ。 ジンドウ? ジョウダン じゃ ない。 ボク は しって いる よ。 ジブン たち の コウフク の ため に、 アイテ を たおす こと だ。 ころす こと だ。 しね! と いう センコク で なかったら、 ナン だ。 ごまかしちゃ いけねえ。
 しかし、 ボクタチ の カイキュウ にも、 ろく な ヤツ が いない。 ハクチ、 ユウレイ、 シュセンド、 キョウケン、 ホラフキ、 ございまする、 クモ の ウエ から ショウベン。
 しね! と いう コトバ を あたえる の さえ、 もったいない。

 センソウ。 ニホン の センソウ は、 ヤケクソ だ。
 ヤケクソ に まきこまれて しぬ の は、 いや。 いっそ、 ヒトリ で しにたい わい。

 ニンゲン は、 ウソ を つく とき には、 かならず、 マジメ な カオ を して いる もの で ある。 コノゴロ の、 シドウシャ たち の、 あの、 マジメサ。 ぷ!

 ヒト から ソンケイ されよう と おもわぬ ヒトタチ と あそびたい。
 けれども、 そんな いい ヒトタチ は、 ボク と あそんで くれ や しない。

 ボク が ソウジュク を よそおって みせたら、 ヒトビト は ボク を、 ソウジュク だ と ウワサ した。 ボク が、 ナマケモノ の フリ を して みせたら、 ヒトビト は ボク を、 ナマケモノ だ と ウワサ した。 ボク が ショウセツ を かけない フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 かけない の だ と ウワサ した。 ボク が ウソツキ の フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 ウソツキ だ と ウワサ した。 ボク が カネモチ の フリ を したら、 ヒトビト は ボク を、 カネモチ だ と ウワサ した。 ボク が レイタン を よそおって みせたら、 ヒトビト は ボク を、 レイタン な ヤツ だ と ウワサ した。 けれども、 ボク が ホントウ に くるしくて、 おもわず うめいた とき、 ヒトビト は ボク を、 くるしい フリ を よそおって いる と ウワサ した。
 どうも、 くいちがう。

 けっきょく、 ジサツ する より ほか シヨウ が ない の じゃ ない か。
 このよう に くるしんで も、 ただ、 ジサツ で おわる だけ なの だ、 と おもったら、 コエ を はなって ないて しまった。

 ハル の アサ、 2~3 リン の ハナ の さきほころびた ウメ の エダ に アサヒ が あたって、 その エダ に ハイデルベルヒ の わかい ガクセイ が、 ほっそり と くびれて しんで いた と いう。

「ママ! ボク を しかって ください!」
「どういう グアイ に?」
「ヨワムシ! って」
「そう? ヨワムシ。 ……もう、 いい でしょう?」
 ママ には ムルイ の ヨサ が ある。 ママ を おもう と、 なきたく なる。 ママ へ オワビ の ため にも、 しぬ ん だ。

 おゆるし ください。 いま、 イチド だけ、 おゆるし ください。

 ネンネン や
 メシイ の まま に
 ツル の ヒナ
 そだちゆく らし
 あわれ、 ふとる も                      (ガンタン シサク)

 モルヒネ、 アトロモール、 ナルコポン、 パントポン、 パビナール、 パンオピン、 アトロピン

 プライド とは ナン だ、 プライド とは。
 ニンゲン は、 いや、 オトコ は、 (オレ は すぐれて いる) (オレ には いい ところ が ある ん だ) など と おもわず に、 いきて ゆく こと が できぬ もの か。
 ヒト を きらい、 ヒト に きらわれる。
 チエクラベ

 ゲンシュク = アホウカン

 とにかく ね、 いきて いる の だ から ね、 インチキ を やって いる に ちがいない のさ。

 ある シャクセン モウシコミ の テガミ。
「ゴヘンジ を。
 ゴヘンジ を ください。
 そうして、 それ が かならず カイホウ で ある よう に。
 ボク は サマザマ の クツジョク を おもいもうけて、 ヒトリ で うめいて います。
 シバイ を して いる の では ありません。 ゼッタイ に そう では ありません。
 おねがい いたします。
 ボク は ハズカシサ の ため に しにそう です。
 コチョウ では ない の です。
 マイニチ マイニチ、 ゴヘンジ を まって、 ヨル も ヒル も がたがた ふるえて いる の です。
 ボク に、 スナ を かませないで。
 カベ から シノビワライ の コエ が きこえて きて、 シンヤ、 トコ の ナカ で テンテン して いる の です。
 ボク を はずかしい メ に あわせないで。
 ネエサン!」


 そこ まで よんで ワタシ は、 その ユウガオ ニッシ を とじ、 キ の ハコ に かえして、 それから マド の ほう に あるいて ゆき、 マド を いっぱい に ひらいて、 しろい アメ に けむって いる オニワ を みおろしながら、 あの コロ の こと を かんがえた。
 もう、 あれ から、 6 ネン に なる。 ナオジ の、 この マヤク チュウドク が、 ワタシ の リコン の ゲンイン に なった、 いいえ、 そう いって は いけない、 ワタシ の リコン は、 ナオジ の マヤク チュウドク が なくって も、 ベツ な ナニ か の キッカケ で、 いつかは おこなわれて いる よう に、 そのよう に、 ワタシ の うまれた とき から、 さだまって いた こと みたい な キ も する。 ナオジ は、 クスリヤ への シハライ に こまって、 しばしば ワタシ に オカネ を ねだった。 ワタシ は ヤマキ へ とついだ ばかり で、 オカネ など そんな に ジユウ に なる わけ は なし、 また、 トツギサキ の オカネ を、 サト の オトウト へ こっそり ユウズウ して やる など、 たいへん グアイ の わるい こと の よう にも おもわれた ので、 サト から ワタシ に つきそって きた バアヤ の オセキ さん と ソウダン して、 ワタシ の ウデワ や、 クビカザリ や、 ドレス を うった。 オトウト は ワタシ に、 オカネ を ください、 と いう テガミ を よこして、 そうして、 イマ は くるしくて はずかしくて、 アネウエ と カオ を あわせる こと も、 また デンワ で ハナシ する こと さえ、 とても できません から、 オカネ は、 オセキ に いいつけて、 キョウバシ の × マチ × チョウメ の カヤノ アパート に すんで いる、 アネウエ も ナマエ だけ は ゴゾンジ の はず の、 ショウセツカ ウエハラ ジロウ さん の ところ に とどけさせる よう、 ウエハラ さん は、 アクトク の ヒト の よう に ヨノナカ から ヒョウバン されて いる が、 けっして そんな ヒト では ない から、 アンシン して オカネ を ウエハラ さん の ところ へ とどけて やって ください、 そう する と、 ウエハラ さん が すぐに ボク に デンワ で しらせる こと に なって いる の です から、 かならず そのよう に おねがい します、 ボク は コンド の チュウドク を、 ママ に だけ は きづかれたく ない の です、 ママ の しらぬ うち に、 なんとか して この チュウドク を なおして しまう つもり なの です、 ボク は、 コンド アネウエ から オカネ を もらったら、 それ で もって クスリヤ への カリ を ゼンブ しはらって、 それから シオバラ の ベッソウ へ でも いって、 ケンコウ な カラダ に なって かえって くる つもり なの です、 ホントウ です、 クスリヤ の カリ を ゼンブ すましたら、 もう ボク は、 その ヒ から マヤク を もちいる こと は ぴったり よす つもり です、 カミサマ に ちかいます、 しんじて ください、 ママ には ナイショ に、 オセキ を つかって カヤノ アパート の ウエハラ さん に、 たのみます、 と いう よう な こと が、 その テガミ に かかれて いて、 ワタシ は その サシズドオリ に、 オセキ さん に オカネ を もたせて、 こっそり ウエハラ さん の アパート に とどけさせた もの だ が、 オトウト の テガミ の チカイ は、 いつも ウソ で、 シオバラ の ベッソウ にも ゆかず、 ヤクヒン チュウドク は いよいよ ひどく なる ばかり の ヨウス で、 オカネ を ねだる テガミ の ブンショウ も、 ヒメイ に ちかい くるしげ な チョウシ で、 コンド こそ クスリ を やめる と、 カオ を そむけたい くらい の アイセツ な チカイ を する ので、 また ウソ かも しれぬ と おもいながら も、 つい また、 ブローチ など オセキ さん に うらせて、 その オカネ を ウエハラ さん の アパート に とどけさせる の だった。
「ウエハラ さん って、 どんな カタ?」
「コガラ で カオイロ の わるい、 ブアイソ な ヒト で ございます」
 と オセキ さん は こたえる。
「でも、 アパート に いらっしゃる こと は、 めった に ございませぬ です。 たいてい、 オクサン と、 ムッツ ナナツ の オンナ の オコサン と、 オフタリ が いらっしゃる だけ で ございます。 この オクサン は、 そんな に おきれい でも ございませぬ けれども、 おやさしくて、 よく できた オカタ の よう で ございます。 あの オクサン に なら、 アンシン して オカネ を あずける こと が できます」
 その コロ の ワタシ は、 イマ の ワタシ に くらべて、 いいえ、 クラベモノ にも なにも ならぬ くらい、 まるで ちがった ヒト みたい に、 ボンヤリ の、 ノンキモノ では あった が、 それでも さすが に、 つぎつぎ と つづいて しかも しだいに タガク の オカネ を ねだられて、 たまらなく シンパイ に なり、 イチニチ、 オノウ から の カエリ、 ジドウシャ を ギンザ で かえして、 それから ヒトリ で あるいて キョウバシ の カヤノ アパート を たずねた。
 ウエハラ さん は、 オヘヤ で ヒトリ、 シンブン を よんで いらした。 シマ の アワセ に、 コンガスリ の オハオリ を めして いらして、 オトシヨリ の よう な、 おわかい よう な、 イマ まで みた こと も ない キジュウ の よう な、 ヘン な ハツインショウ を ワタシ は うけとった。
「ニョウボウ は イマ、 コドモ と、 イッショ に、 ハイキュウブツ を とり に」
 すこし ハナゴエ で、 とぎれとぎれ に そう おっしゃる。 ワタシ を、 オクサン の オトモダチ と でも オモイチガイ した らしかった。 ワタシ が、 ナオジ の アネ だ と いう こと を もうしあげたら、 ウエハラ さん は、 ふん、 と わらった。 ワタシ は、 なぜ だ か、 ひやり と した。
「でましょう か」
 そう いって、 もう ニジュウマワシ を ひっかけ、 ゲタバコ から あたらしい ゲタ を とりだして おはき に なり、 さっさと アパート の ロウカ を サキ に たって あるかれた。
 ソト は、 ショトウ の ユウグレ。 カゼ が、 つめたかった。 スミダガワ から ふいて くる カワカゼ の よう な カンジ で あった。 ウエハラ さん は、 その カワカゼ に さからう よう に、 すこし ミギカタ を あげて ツキジ の ほう に だまって あるいて ゆかれる。 ワタシ は コバシリ に はしりながら、 その アト を おった。
 トウキョウ ゲキジョウ の ウラテ の ビル の チカシツ に はいった。 4~5 クミ の キャク が、 20 ジョウ くらい の ほそながい オヘヤ で、 それぞれ タク を はさんで、 ひっそり オサケ を のんで いた。
 ウエハラ さん は、 コップ で オサケ を おのみ に なった。 そうして、 ワタシ にも ベツ な コップ を とりよせて くださって、 オサケ を すすめた。 ワタシ は、 その コップ で 2 ハイ のんだ けれども、 なんとも なかった。
 ウエハラ さん は、 オサケ を のみ、 タバコ を すい、 そうして いつまでも だまって いた。 ワタシ も、 だまって いた。 ワタシ は こんな ところ へ きた の は、 うまれて はじめて の こと で あった けれども、 とても おちつき、 キブン が よかった。
「オサケ でも のむ と いい ん だ けど」
「え?」
「いいえ、 オトウト さん。 アルコール の ほう に テンカン する と いい ん です よ。 ボク も ムカシ、 マヤク チュウドク に なった こと が あって ね、 あれ は ヒト が うすきみわるがって ね、 アルコール だって おなじ よう な もの なん だ が、 アルコール の ほう は、 ヒト は あんがい ゆるす ん だ。 オトウト さん を、 サケノミ に しちゃいましょう。 いい でしょう?」
「ワタシ、 イチド、 オサケノミ を みた こと が あります わ。 シンネン に、 ワタシ が でかけよう と した とき、 ウチ の ウンテンシュ の シリアイ の モノ が、 ジドウシャ の ジョシュセキ で、 オニ の よう な マッカ な カオ を して、 ぐうぐう オオイビキ で ねむって いました の。 ワタシ が おどろいて さけんだら、 ウンテンシュ が、 これ は オサケノミ で、 シヨウ が ない ん です、 と いって、 ジドウシャ から おろして カタ に かついで どこ か へ つれて いきました の。 ホネ が ない みたい に ぐったり して、 なんだか それでも、 ぶつぶつ いって いて、 ワタシ あの とき、 はじめて オサケノミ って もの を みた の です けど、 おもしろかった わ」
「ボク だって、 サケノミ です」
「あら、 だって、 ちがう ん でしょう?」
「アナタ だって、 サケノミ です」
「そんな こと は、 ありません わ。 ワタシ は、 オサケノミ を みた こと が ある ん です もの。 まるで、 ちがいます わ」
 ウエハラ さん は、 はじめて たのしそう に おわらい に なって、
「それでは、 オトウト さん も、 サケノミ には なれない かも しれません が、 とにかく、 サケ を のむ ヒト に なった ほう が いい。 かえりましょう。 おそく なる と、 こまる ん でしょう?」
「いいえ、 かまわない ん です の」
「いや、 じつは、 こっち が キュウクツ で いけねえ ん だ。 ネエサン! カイケイ!」
「うんと たかい の でしょう か。 すこし なら、 ワタシ、 もって いる ん です けど」
「そう。 そんなら、 カイケイ は、 アナタ だ」
「たりない かも しれません わ」
 ワタシ は、 バッグ の ナカ を みて、 オカネ が いくら ある か を ウエハラ さん に おしえた。
「それだけ あれば、 もう 2~3 ケン のめる。 バカ に して やがる」
 ウエハラ さん は カオ を しかめて おっしゃって、 それから わらった。
「どこ か へ、 また、 のみ に おいで に なります か?」
 と、 おたずね したら、 マジメ に クビ を ふって、
「いや、 もう タクサン。 タキシー を ひろって あげます から、 おかえりなさい」
 ワタシタチ は、 チカシツ の くらい カイダン を のぼって いった。 イッポ サキ に のぼって ゆく ウエハラ さん が、 カイダン の ナカゴロ で、 くるり と コチラムキ に なり、 すばやく ワタシ に キス を した。 ワタシ は クチビル を かたく とじた まま、 それ を うけた。
 べつに なにも、 ウエハラ さん を すき で なかった のに、 それでも、 その とき から ワタシ に、 あの 「ヒメゴト」 が できて しまった の だ。 かた かた かた と、 ウエハラ さん は はしって カイダン を あがって いって、 ワタシ は フシギ な トウメイ な キブン で、 ゆっくり あがって、 ソト へ でたら、 カワカゼ が ホオ に とても キモチ よかった。
 ウエハラ さん に、 タキシー を ひろって いただいて、 ワタシタチ は だまって わかれた。
 クルマ に ゆられながら、 ワタシ は セケン が キュウ に ウミ の よう に ひろく なった よう な キモチ が した。
「ワタシ には、 コイビト が ある の」
 ある ヒ、 ワタシ は、 オット から オコゴト を いただいて さびしく なって、 ふっと そう いった。
「しって います。 ホソダ でしょう? どうしても、 おもいきる こと が できない の です か?」
 ワタシ は だまって いた。
 その モンダイ が、 ナニ か きまずい こと の おこる たび ごと に、 ワタシタチ フウフ の アイダ に もちだされる よう に なった。 もう これ は、 ダメ なん だ、 と ワタシ は おもった。 ドレス の キジ を まちがって サイダン した とき みたい に、 もう その キジ は ぬいあわせる こと も できず、 ゼンブ すてて、 また ベツ の あたらしい キジ の サイダン に とりかからなければ ならぬ。
「まさか、 その、 オナカ の コ は」
 と ある ヨル、 オット に いわれた とき には、 ワタシ は あまり おそろしくて、 がたがた ふるえた。 イマ おもう と、 ワタシ も オット も、 わかかった の だ。 ワタシ は、 コイ も しらなかった。 アイ、 さえ、 わからなかった。 ワタシ は、 ホソダ サマ の おかき に なる エ に ムチュウ に なって、 あんな オカタ の オクサマ に なったら、 どんな に、 まあ、 うつくしい ニチジョウ セイカツ を いとなむ こと が できる でしょう、 あんな よい シュミ の オカタ と ケッコン する の で なければ、 ケッコン なんて ムイミ だわ、 と ワタシ は ダレ に でも いいふらして いた ので、 その ため に、 ミンナ に ゴカイ されて、 それでも ワタシ は、 コイ も アイ も わからず、 ヘイキ で ホソダ サマ を すき だ と いう こと を コウゲン し、 とりけそう とも しなかった ので、 へんに もつれて、 その コロ、 ワタシ の オナカ で ねむって いた ちいさい アカチャン まで、 オット の ギワク の マト に なったり して、 ダレヒトリ リコン など あらわ に いいだした オカタ も いなかった のに、 いつのまにやら シュウイ が しらじらしく なって いって、 ワタシ は ツキソイ の オセキ さん と イッショ に サト の オカアサマ の ところ に かえって、 それから、 アカチャン が しんで うまれて、 ワタシ は ビョウキ に なって ねこんで、 もう、 ヤマキ との アイダ は、 それっきり に なって しまった の だ。
 ナオジ は、 ワタシ が リコン に なった と いう こと に、 ナニ か セキニン みたい な もの を かんじた の か、 ボク は しぬ よ、 と いって、 わあわあ コエ を あげて、 カオ が くさって しまう くらい に ないた。 ワタシ は オトウト に、 クスリヤ の カリ が いくら に なって いる の か たずねて みたら、 それ は おそろしい ほど の キンガク で あった。 しかも、 それ は オトウト が ジッサイ の キンガク を いえなくて、 ウソ を ついて いた の が アト で わかった。 アト で ハンメイ した ジッサイ の ソウガク は、 その とき に オトウト が ワタシ に おしえた キンガク の ヤク 3 バイ ちかく あった の で ある。
「ワタシ、 ウエハラ さん に あった わ。 いい オカタ ね。 これから、 ウエハラ さん と イッショ に オサケ を のんで あそんだら どう? オサケ って、 とても やすい もの じゃ ない の。 オサケ の オカネ くらい だったら、 ワタシ いつでも アナタ に あげる わ。 クスリヤ の ハライ の こと も、 シンパイ しないで。 どうにか、 なる わよ」
 ワタシ が ウエハラ さん と あって、 そうして ウエハラ さん を いい オカタ だ と いった の が、 オトウト を なんだか ひどく よろこばせた よう で、 オトウト は、 その ヨル、 ワタシ から オカネ を もらって さっそく、 ウエハラ さん の ところ に あそび に いった。
 チュウドク は、 それこそ、 セイシン の ビョウキ なの かも しれない。 ワタシ が ウエハラ さん を ほめて、 そうして オトウト から ウエハラ さん の チョショ を かりて よんで、 えらい オカタ ねえ、 など と いう と、 オトウト は、 ネエサン なんか には わかる もん か、 と いって、 それでも、 とても うれしそう に、 じゃあ これ を よんで ごらん、 と また ベツ の ウエハラ さん の チョショ を ワタシ に よませ、 その うち に ワタシ も ウエハラ さん の ショウセツ を ホンキ に よむ よう に なって、 フタリ で あれこれ ウエハラ さん の ウワサ など して、 オトウト は マイバン の よう に ウエハラ さん の ところ に オオイバリ で あそび に ゆき、 だんだん ウエハラ さん の ゴケイカクドオリ に アルコール の ほう へ テンカン して いった よう で あった。 クスリヤ の シハライ に ついて、 ワタシ が オカアサマ に こっそり ソウダン したら、 オカアサマ は、 カタテ で オカオ を おおいなさって、 しばらく じっと して いらっしゃった が、 やがて オカオ を あげて さびしそう に おわらい に なり、 かんがえたって シヨウ が ない わね、 ナンネン かかる か わからない けど、 マイツキ すこし ずつ でも かえして いきましょう よ、 と おっしゃった。
 あれ から、 もう、 6 ネン に なる。
 ユウガオ。 ああ、 オトウト も くるしい の だろう。 しかも、 ミチ が ふさがって、 ナニ を どう すれば いい の か、 いまだに なにも わかって いない の だろう。 ただ、 マイニチ、 しぬ キ で オサケ を のんで いる の だろう。
 いっそ おもいきって、 ホンショク の フリョウ に なって しまったら どう だろう。 そう する と、 オトウト も かえって ラク に なる の では あるまい か。
 フリョウ で ない ニンゲン が ある だろう か、 と あの ノートブック に かかれて いた けれども、 そう いわれて みる と、 ワタシ だって フリョウ、 オジサマ も フリョウ、 オカアサマ だって、 フリョウ みたい に おもわれて くる。 フリョウ とは、 ヤサシサ の こと では ない かしら。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

シャヨウ 4

2019-11-08 | ダザイ オサム
 4

 オテガミ、 かこう か、 どう しよう か、 ずいぶん まよって いました。 けれども、 ケサ、 ハト の ごとく すなお に、 ヘビ の ごとく さとかれ、 と いう イエス の コトバ を ふと おもいだし、 キミョウ に ゲンキ が でて、 オテガミ を さしあげる こと に しました。 ナオジ の アネ で ございます。 オワスレ かしら。 オワスレ だったら、 おもいだして ください。
 ナオジ が、 こないだ また オジャマ に あがって、 ずいぶん ゴヤッカイ を、 おかけ した よう で、 あいすみません。 (でも、 ホントウ は、 ナオジ の こと は、 それ は ナオジ の カッテ で、 ワタシ が さしでて オワビ を する など、 ナンセンス みたい な キ も する の です。) キョウ は、 ナオジ の こと で なく、 ワタシ の こと で、 オネガイ が ある の です。 キョウバシ の アパート で リサイ なさって、 それから イマ の ゴジュウショ に おうつり に なった こと を ナオジ から ききまして、 よっぽど トウキョウ の コウガイ の その オタク に おうかがい しよう か と おもった の です が、 オカアサマ が コナイダ から また すこし オカゲン が わるく、 オカアサマ を ほっといて ジョウキョウ する こと は、 どうしても できませぬ ので、 それで、 オテガミ で もうしあげる こと に いたしました。
 アナタ に、 ゴソウダン して みたい こと が ある の です。
 ワタシ の この ソウダン は、 これまで の 「オンナ ダイガク」 の タチバ から みる と、 ヒジョウ に ずるくて、 けがらわしくて、 アクシツ の ハンザイ で さえ ある かも しれません が、 けれども ワタシ は、 いいえ、 ワタシタチ は、 イマ の まま では、 とても いきて ゆけそう も ありません ので、 オトウト の ナオジ が コノヨ で いちばん ソンケイ して いる らしい アナタ に、 ワタシ の いつわらぬ キモチ を きいて いただき、 オサシズ を おねがい する つもり なの です。
 ワタシ には、 イマ の セイカツ が、 たまらない の です。 すき、 きらい どころ では なく、 とても、 コノママ では ワタシタチ オヤコ 3 ニン、 いきて ゆけそう も ない の です。
 キノウ も、 くるしくて、 カラダ も ねつっぽく、 いきぐるしくて、 ジブン を もてあまして いましたら、 オヒル すこし-スギ、 アメ の ナカ を シタ の ノウカ の ムスメ さん が、 オコメ を せおって もって きました。 そうして ワタシ の ほう から、 ヤクソクドオリ の イルイ を さしあげました。 ムスメ さん は、 ショクドウ で ワタシ と むかいあって こしかけて オチャ を のみながら、 じつに、 リアル な クチョウ で、
「アナタ、 モノ を うって、 これから サキ、 どの くらい セイカツ して いける の?」
 と いいました。
「ハントシ か、 1 ネン くらい」
 と ワタシ は こたえました。 そうして、 ミギテ で ハンブン ばかり カオ を かくして、
「ねむい の。 ねむくて、 シカタ が ない の」
 と いいました。
「つかれて いる のよ。 ねむく なる シンケイ スイジャク でしょう」
「そう でしょう ね」
 ナミダ が でそう で、 ふと ワタシ の ムネ の ナカ に、 リアリズム と いう コトバ と、 ロマンチシズム と いう コトバ が うかんで きました。 ワタシ に、 リアリズム は、 ありません。 こんな グアイ で、 いきて ゆける の かしら、 と おもったら、 ゼンシン に サムケ を かんじました。 オカアサマ は、 ハンブン ゴビョウニン の よう で、 ねたり おきたり です し、 オトウト は、 ゴゾンジ の よう に ココロ の ダイビョウニン で、 こちら に いる とき は、 ショウチュウ を のみ に、 この キンジョ の ヤドヤ と リョウリヤ と を かねた ウチ へ ゴセイキン で、 ミッカ に イチド は、 ワタシタチ の イルイ を うった オカネ を もって トウキョウ ホウメン へ ゴシュッチョウ です。 でも、 くるしい の は、 こんな こと では ありません。 ワタシ は ただ、 ワタシ ジシン の イノチ が、 こんな ニチジョウ セイカツ の ナカ で、 バショウ の ハ が ちらない で くさって ゆく よう に、 たちつくした まま おのずから くさって ゆく の を ありあり と ヨカン せられる の が、 おそろしい の です。 とても、 たまらない の です。 だから ワタシ は、 「オンナ ダイガク」 に そむいて も、 イマ の セイカツ から のがれでたい の です。
 それで、 ワタシ、 アナタ に、 ソウダン いたします。
 ワタシ は、 イマ、 オカアサマ や オトウト に、 はっきり センゲン したい の です。 ワタシ が マエ から、 ある オカタ に コイ を して いて、 ワタシ は ショウライ、 その オカタ の アイジン と して くらす つもり だ と いう こと を、 はっきり いって しまいたい の です。 その オカタ は、 アナタ も たしか ゴゾンジ の はず です。 その オカタ の オナマエ の イニシャル は、 M.C で ございます。 ワタシ は マエ から、 ナニ か くるしい こと が おこる と、 その M.C の ところ に とんで ゆきたくて、 コガレジニ を する よう な オモイ を して きた の です。
 M.C には、 アナタ と おなじ よう に、 オクサマ も オコサマ も ございます。 また、 ワタシ より、 もっと きれい で わかい、 オンナ の オトモダチ も ある よう です。 けれども ワタシ は、 M.C の ところ へ ゆく より ホカ に、 ワタシ の いきる ミチ が ない キモチ なの です。 M.C の オクサマ とは、 ワタシ は まだ あった こと が ありません けれども、 とても やさしくて よい オカタ の よう で ございます。 ワタシ は、 その オクサマ の こと を かんがえる と、 ジブン を おそろしい オンナ だ と おもいます。 けれども、 ワタシ の イマ の セイカツ は、 それ イジョウ に おそろしい もの の よう な キ が して、 M.C に たよる こと を よせない の です。 ハト の ごとく すなお に、 ヘビ の ごとく さとく、 ワタシ は、 ワタシ の コイ を しとげたい と おもいます。 でも、 きっと、 オカアサマ も、 オトウト も、 また セケン の ヒトタチ も、 ダレヒトリ ワタシ に サンセイ して くださらない でしょう。 アナタ は、 いかが です。 ワタシ は けっきょく、 ヒトリ で かんがえて、 ヒトリ で コウドウ する より ホカ は ない の だ、 と おもう と、 ナミダ が でて きます。 うまれて はじめて の、 こと なの です から。 この、 むずかしい こと を、 シュウイ の ミンナ から シュクフク されて しとげる ホウ は ない もの かしら、 と ひどく ややこしい ダイスウ の インスウ ブンカイ か ナニ か の トウアン を かんがえる よう に、 オモイ を こらして、 どこ か に 1 カショ、 ぱらぱら と きれい に ときほぐれる イトグチ が ある よう な キモチ が して きて、 キュウ に ヨウキ に なったり なんか して いる の です。
 けれども、 カンジン の M.C の ほう で、 ワタシ を どう おもって いらっしゃる か。 それ を かんがえる と、 しょげて しまいます。 いわば、 ワタシ は、 オシカケ、 ……なんと いう の かしら、 オシカケ ニョウボウ と いって も いけない し、 オシカケ アイジン、 と でも いおう かしら、 そんな もの なの です から、 M.C の ほう で どうしても、 いや だ と いったら、 それっきり。 だから、 アナタ に おねがい します。 どうか、 あの オカタ に、 アナタ から きいて みて ください。 6 ネン マエ の ある ヒ、 ワタシ の ムネ に かすか な あわい ニジ が かかって、 それ は コイ でも アイ でも なかった けれども、 トシツキ の たつ ほど、 その ニジ は あざやか に シキサイ の コサ を まして きて、 ワタシ は イマ まで イチド も、 それ を みうしなった こと は ございません でした。 ユウダチ の はれた ソラ に かかる ニジ は、 やがて はかなく きえて しまいます けど、 ヒト の ムネ に かかった ニジ は、 きえない よう で ございます。 どうぞ、 あの オカタ に、 きいて みて ください。 あの オカタ は、 ホント に、 ワタシ を、 どう おもって いらっしゃった の でしょう。 それこそ、 ウゴ の ソラ の ニジ みたい に、 おもって いらっしゃった の でしょう か。 そうして、 とっく に きえて しまった もの と?
 それなら、 ワタシ も、 ワタシ の ニジ を けして しまわなければ なりません。 けれども、 ワタシ の イノチ を サキ に けさなければ、 ワタシ の ムネ の ニジ は きえそう も ございません。
 ゴヘンジ を、 いのって います。
 ウエハラ ジロウ サマ (ワタシ の チェホフ。 マイ、 チェホフ。 M.C)

ワタシ は、 コノゴロ、 すこし ずつ、 ふとって ゆきます。 ドウブツテキ な オンナ に なって ゆく と いう より は、 ひとらしく なった の だ と おもって います。 この ナツ は、 ロレンス の ショウセツ を、 ヒトツ だけ よみました。


 ゴヘンジ が ない ので、 もう イチド オテガミ を さしあげます。 こないだ さしあげた テガミ は、 とても、 ずるい、 ヘビ の よう な カンサク に みちみちて いた の を、 いちいち みやぶって おしまい に なった の でしょう。 ホントウ に、 ワタシ は あの テガミ の 1 ギョウ 1 ギョウ に コウチ の カギリ を つくして みた の です。 けっきょく、 ワタシ は アナタ に、 ワタシ の セイカツ を たすけて いただきたい、 オカネ が ほしい と いう イト だけ、 それ だけ の テガミ だ と おおもい に なった こと でしょう。 そうして、 ワタシ も それ を ヒテイ いたしませぬ けれども、 しかし、 ただ ワタシ が ジシン の パトロン が ほしい の なら、 シツレイ ながら、 とくに アナタ を えらんで おねがい もうしませぬ。 ホカ に たくさん、 ワタシ を かわいがって くださる ロウジン の オカネモチ など ある よう な キ が します。 げんに コナイダ も、 ミョウ な エンダン みたい な もの が あった の です。 その オカタ の オナマエ は、 アナタ も ゴゾンジ かも しれません が、 60 すぎた ドクシン の オジイサン で、 ゲイジュツイン とか の カイイン だ とか ナン だ とか、 そういう ダイシショウ の ヒト が、 ワタシ を もらい に この サンソウ に やって きました。 この シショウ さん は、 ワタシドモ の ニシカタマチ の オウチ の キンジョ に すんで いました ので、 ワタシタチ も トナリグミ の ヨシミ で、 ときたま あう こと が ありました。 いつか、 あれ は アキ の ユウグレ だった と おぼえて います が、 ワタシ と オカアサマ と フタリ で、 ジドウシャ で その シショウ さん の オウチ の マエ を とおりすぎた とき、 その オカタ が オヒトリ で ぼんやり オタク の モン の ソバ に たって いらして、 オカアサマ が ジドウシャ の マド から ちょっと シショウ さん に オエシャク なさったら、 その シショウ さん の きむずかしそう な あおぐろい オカオ が、 ぱっと コウヨウ より も あかく なりました。
「コイ かしら」
 ワタシ は、 はしゃいで いいました。
「オカアサマ を、 すき なの ね」
 けれども、 オカアサマ は おちついて、
「いいえ。 えらい オカタ」
 と ヒトリゴト の よう に、 おっしゃいました。 ゲイジュツカ を ソンケイ する の は、 ワタシドモ の イエ の カフウ の よう で ございます。
 その シショウ さん が、 センネン オクサマ を なくなさった とか で、 ワダ の オジサマ と ヨウキョク の オテング ナカマ の ある ミヤケ の オカタ を かいし、 オカアサマ に モウシイレ を なさって、 オカアサマ は、 カズコ から おもった とおり の ゴヘンジ を シショウ さん に ちょくせつ さしあげたら? と おっしゃる し、 ワタシ は ふかく かんがえる まで も なく、 いや なので、 ワタシ には イマ ケッコン の イシ が ございません、 と いう こと を なんでも なく すらすら と かけました。
「おことわり して も いい の でしょう?」
「そりゃ もう。 ……ワタシ も、 ムリ な ハナシ だ と おもって いた わ」
 その コロ、 シショウ さん は カルイザワ の ベッソウ の ほう に いらした ので、 その オベッソウ へ オコトワリ の ゴヘンジ を さしあげたら、 それから、 フツカ-メ に、 その テガミ と ユキチガイ に、 シショウ さん ゴジシン、 イズ の オンセン へ シゴト に きた トチュウ で ちょっと たちよらせて いただきました と おっしゃって、 ワタシ の ヘンジ の こと は なにも ゴゾンジ で なく、 だしぬけ に、 この サンソウ に おみえ に なった の です。 ゲイジュツカ と いう もの は、 オイクツ に なって も、 こんな コドモ みたい な キママ な こと を なさる もの らしい のね。
 オカアサマ は、 オカゲン が わるい ので、 ワタシ が オアイテ に でて、 シナマ で オチャ を さしあげ、
「あの、 オコトワリ の テガミ、 イマゴロ カルイザワ の ほう に ついて いる こと と ぞんじます。 ワタシ、 よく かんがえました の です けど」
 と もうしあげました。
「そう です か」
 と せかせか した チョウシ で おっしゃって、 アセ を おふき に なり、
「でも、 それ は、 もう イチド、 よく おかんがえ に なって みて ください。 ワタシ は、 アナタ を、 なんと いったら いい か、 いわば セイシンテキ には コウフク を あたえる こと が できない かも しれない が、 そのかわり、 ブッシツテキ には どんな に でも コウフク に して あげる こと が できる。 これ だけ は、 はっきり いえます。 まあ、 ざっくばらん の ハナシ です が」
「オコトバ の、 その、 コウフク と いう の が、 ワタシ には よく わかりません。 ナマイキ を もうしあげる よう です けど、 ごめんなさい。 チェホフ の ツマ への テガミ に、 コドモ を うんで おくれ、 ワタシタチ の コドモ を うんで おくれ、 って かいて ございました わね。 ニーチェ だ か の エッセイ の ナカ にも、 コドモ を うませたい と おもう オンナ、 と いう コトバ が ございました わ。 ワタシ、 コドモ が ほしい の です。 コウフク なんて、 そんな もの は、 どうだって いい の です の。 オカネ も ほしい けど、 コドモ を そだてて いける だけ の オカネ が あったら、 それ で タクサン です わ」
 シショウ さん は、 ヘン な ワライカタ を なさって、
「アナタ は、 めずらしい カタ です ね。 ダレ に でも、 おもった とおり を いえる カタ だ。 アナタ の よう な カタ と イッショ に いる と、 ワタシ の シゴト にも あたらしい レイカン が まいおりて くる かも しれない」
 と、 オトシ に にあわず、 ちょっと キザ みたい な こと を いいました。 こんな えらい ゲイジュツカ の オシゴト を、 もし ホントウ に ワタシ の チカラ で わかがえらせる こと が できたら、 それ も イキガイ の ある こと に ちがいない、 とも おもいました が、 けれども、 ワタシ は、 その シショウ さん に だかれる ジブン の スガタ を、 どうしても かんがえる こと が できなかった の です。
「ワタシ に、 コイ の ココロ が なくて も いい の でしょう か?」
 と ワタシ は すこし わらって おたずね したら、 シショウ さん は マジメ に、
「オンナ の カタ は、 それ で いい ん です。 オンナ の ヒト は、 ぼんやり して いて、 いい ん です よ」
 と おっしゃいます。
「でも、 ワタシ みたい な オンナ は、 やっぱり、 コイ の ココロ が なくて は、 ケッコン を かんがえられない の です。 ワタシ、 もう、 オトナ なん です もの。 ライネン は、 もう、 30」
 と いって、 おもわず クチ を おおいたい よう な キモチ が しました。
 30。 オンナ には、 29 まで は オトメ の ニオイ が のこって いる。 しかし、 30 の オンナ の カラダ には、 もう、 どこ にも、 オトメ の ニオイ が ない、 と いう ムカシ よんだ フランス の ショウセツ の ナカ の コトバ が ふっと おもいだされて、 やりきれない サビシサ に おそわれ、 ソト を みる と、 マヒル の ヒカリ を あびて ウミ が、 ガラス の ハヘン の よう に どぎつく ひかって いました。 あの ショウセツ を よんだ とき には、 そりゃ そう だろう と かるく コウテイ して すまして いた。 30 サイ まで で、 オンナ の セイカツ は、 オシマイ に なる と ヘイキ で そう おもって いた あの コロ が なつかしい。 ウデワ、 クビカザリ、 ドレス、 オビ、 ヒトツヒトツ ワタシ の カラダ の シュウイ から きえて なくなって ゆく に したがって、 ワタシ の カラダ の オトメ の ニオイ も しだいに あわく うすれて いった の でしょう。 まずしい、 チュウネン の オンナ。 おお、 いや だ。 でも、 チュウネン の オンナ の セイカツ にも、 オンナ の セイカツ が、 やっぱり、 ある ん です のね。 コノゴロ、 それ が わかって きました。 エイジン の オンナ キョウシ が、 イギリス に オカエリ の とき、 19 の ワタシ に こう おっしゃった の を おぼえて います。
「アナタ は、 コイ を なさって は、 いけません。 アナタ は、 コイ を したら、 フコウ に なります。 コイ を、 なさる なら、 もっと、 おおきく なって から に なさい。 30 に なって から に なさい」
 けれども、 そう いわれて も ワタシ は、 きょとん と して いました。 30 に なって から の こと など、 その コロ の ワタシ には、 ソウゾウ も なにも できない こと でした。
「この オベッソウ を、 おうり に なる とか いう ウワサ を ききました が」
 シショウ さん は、 イジワル そう な ヒョウジョウ で、 ふいと そう おっしゃいました。
 ワタシ は わらいました。
「ごめんなさい。 サクラ の ソノ を おもいだした の です。 アナタ が、 おかい に なって くださる の でしょう?」
 シショウ さん は、 さすが に ビンカン に おさっし に なった よう で、 おこった よう に クチ を ゆがめて もくしました。
 ある ミヤサマ の オスマイ と して、 シンエン 50 マン エン で この イエ を、 どうこう と いう ハナシ が あった の も ジジツ です が、 それ は タチギエ に なり、 その ウワサ でも シショウ さん は ききこんだ の でしょう。 でも、 サクラ の ソノ の ロパーヒン みたい に ワタシドモ に おもわれて いる の では たまらない と、 すっかり オキゲン を わるく した ヨウス で、 アト、 セケンバナシ を すこし して おかえり に なって しまいました。
 ワタシ が イマ、 アナタ に もとめて いる もの は、 ロパーヒン では ございません。 それ は、 はっきり いえる ん です。 ただ、 チュウネン の オンナ の オシカケ を、 ひきうけて ください。
 ワタシ が はじめて、 アナタ と おあい した の は、 もう 6 ネン くらい ムカシ の こと でした。 あの とき には、 ワタシ は アナタ と いう ヒト に ついて なにも しりません でした。 ただ、 オトウト の シショウ さん、 それ も いくぶん わるい シショウ さん、 そう おもって いた だけ でした。 そうして、 イッショ に コップ で オサケ を のんで、 それから、 アナタ は、 ちょっと かるい イタズラ を なさった でしょう。 けれども、 ワタシ は ヘイキ でした。 ただ、 へんに ミガル に なった くらい の キブン で いました。 アナタ を、 すき でも きらい でも、 なんでも なかった の です。 その うち に、 オトウト の オキゲン を とる ため に、 アナタ の チョショ を オトウト から かりて よみ、 おもしろかったり おもしろく なかったり、 あまり ネッシン な ドクシャ では なかった の です が、 6 ネン-カン、 いつ の コロ から か、 アナタ の こと が キリ の よう に ワタシ の ムネ に しみこんで いた の です。 あの ヨル、 チカシツ の カイダン で、 ワタシタチ の した こと も、 キュウ に いきいき と あざやか に おもいだされて きて、 なんだか あれ は、 ワタシ の ウンメイ を ケッテイ する ほど の ジュウダイ な こと だった よう な キ が して、 アナタ が したわしくて、 これ が、 コイ かも しれぬ と おもったら、 とても こころぼそく たよりなく、 ヒトリ で めそめそ なきました。 アナタ は、 ホカ の オトコ の ヒト と、 まるで ぜんぜん ちがって います。 ワタシ は、 「カモメ」 の ニーナ の よう に、 サッカ に こいして いる の では ありません。 ワタシ は、 ショウセツカ など に あこがれて は いない の です。 ブンガク ショウジョ、 など と おおもい に なったら、 こちら も、 まごつきます。 ワタシ は、 アナタ の アカチャン が ほしい の です。
 もっと ずっと マエ に、 アナタ が まだ オヒトリ の とき、 そうして ワタシ も まだ ヤマキ へ ゆかない とき に、 おあい して、 フタリ が ケッコン して いたら、 ワタシ も イマ みたい に くるしまず に すんだ の かも しれません が、 ワタシ は もう アナタ との ケッコン は できない もの と あきらめて います。 アナタ の オクサマ を おしのける など、 それ は あさましい ボウリョク みたい で、 ワタシ は いや なん です。 ワタシ は、 オメカケ、 (この コトバ、 いいたく なくて、 たまらない の です けど、 でも、 アイジン、 と いって みた ところ で、 ぞくに いえば、 オメカケ に ちがいない の です から、 はっきり、 いう わ) それだって、 かまわない ん です。 でも、 セケン フツウ の オメカケ の セイカツ って、 むずかしい もの らしい のね。 ヒト の ハナシ では、 オメカケ は ふつう、 ヨウ が なくなる と、 すてられる もの ですって。 60 ちかく なる と、 どんな オトコ の カタ でも、 ミンナ、 ホンサイ の ところ へ おもどり に なる ん ですって。 ですから、 オメカケ に だけ は なる もの じゃ ない って、 ニシカタマチ の ジイヤ と ウバ が はなしあって いる の を、 きいた こと が ある ん です。 でも、 それ は、 セケン フツウ の オメカケ の こと で、 ワタシタチ の バアイ は、 ちがう よう な キ が します。 アナタ に とって、 いちばん、 ダイジ なの は、 やはり、 アナタ の オシゴト だ と おもいます。 そうして、 アナタ が、 ワタシ を おすき だったら、 フタリ が なかよく する こと が、 オシゴト の ため にも いい でしょう。 すると、 アナタ の オクサマ も、 ワタシタチ の こと を ナットク して くださいます。 ヘン な、 コジツケ の リクツ みたい だ けど、 でも、 ワタシ の カンガエ は、 どこ も まちがって いない と おもう わ。
 モンダイ は、 アナタ の ゴヘンジ だけ です。 ワタシ を、 すき なの か、 きらい なの か、 それとも、 なんとも ない の か、 その ゴヘンジ、 とても おそろしい の だ けれども、 でも、 うかがわなければ なりません。 コナイダ の テガミ にも、 ワタシ、 オシカケ アイジン、 と かき、 また、 この テガミ にも、 チュウネン の オンナ の オシカケ、 など と かきました が、 イマ よく かんがえて みましたら、 アナタ から の ゴヘンジ が なければ、 ワタシ、 おしかけよう にも、 なにも、 テガカリ が なく、 ヒトリ で ぼんやり やせて ゆく だけ でしょう。 やはり アナタ の ナニ か オコトバ が なければ、 ダメ だった ん です。
 イマ ふっと おもった こと で ございます が、 アナタ は、 ショウセツ では ずいぶん コイ の ボウケン みたい な こと を おかき に なり、 セケン から も ひどい アッカン の よう に ウワサ を されて いながら、 ホントウ は、 ジョウシキカ なん でしょう。 ワタシ には、 ジョウシキ と いう こと が、 わからない ん です。 すき な こと が でき さえ すれば、 それ は いい セイカツ だ と おもいます。 ワタシ は、 アナタ の アカチャン を うみたい の です。 ホカ の ヒト の アカチャン は、 どんな こと が あって も、 うみたく ない ん です。 それで、 ワタシ は、 アナタ に ソウダン を して いる の です。 おわかり に なりましたら、 ゴヘンジ を ください。 アナタ の オキモチ を、 はっきり、 おしらせ ください。
 アメ が あがって、 カゼ が ふきだしました。 イマ ゴゴ 3 ジ です。 これから、 イッキュウシュ (6 ゴウ) の ハイキュウ を もらい に ゆきます。 ラム-シュ の ビン を 2 ホン、 フクロ に いれて、 ムネ の ポケット に、 この テガミ を いれて、 もう 10 プン ばかり したら、 シタ の ムラ に でかけます。 この オサケ は、 オトウト に のませません。 カズコ が のみます。 マイバン、 コップ で 1 パイ ずつ いただきます。 オサケ は、 ホントウ は、 コップ で のむ もの です わね。
 こちら に、 いらっしゃいません?
  M.C サマ


 キョウ も アメフリ に なりました。 メ に みえない よう な キリサメ が ふって いる の です。 マイニチ マイニチ、 ガイシュツ も しない で ゴヘンジ を おまち して いる のに、 とうとう キョウ まで オタヨリ が ございません でした。 いったい アナタ は、 ナニ を おかんがえ に なって いる の でしょう。 コナイダ の テガミ で、 あの ダイシショウ さん の こと など かいた の が、 いけなかった の かしら。 こんな エンダン なんか を かいて、 キョウソウシン を かきたてよう と して いやがる、 と でも おおもい に なった の でしょう か。 でも、 あの エンダン は、 もう あれっきり だった の です。 サッキ も、 オカアサマ と、 その ハナシ を して わらいました。 オカアサマ は、 こないだ シタ の サキ が いたい と おっしゃって、 ナオジ に すすめられて、 ビガク リョウホウ を して、 その リョウホウ に よって、 シタ の イタミ も とれて、 コノゴロ は ちょっと オゲンキ なの です。
 さっき ワタシ が オエンガワ に たって、 ウズ を まきつつ ふかれて ゆく キリサメ を ながめながら、 アナタ の オキモチ の こと を かんがえて いましたら、
「ミルク を わかした から、 いらっしゃい」
 と オカアサマ が ショクドウ の ほう から および に なりました。
「さむい から、 うんと あつく して みた の」
 ワタシタチ は、 ショクドウ で ユゲ の たって いる あつい ミルク を いただきながら、 センジツ の シショウ さん の こと を はなしあいました。
「あの カタ と、 ワタシ とは、 どだい なにも にあいません でしょう?」
 オカアサマ は ヘイキ で、
「にあわない」
 と おっしゃいました。
「ワタシ、 こんな に ワガママ だし、 それに ゲイジュツカ と いう もの を きらい じゃ ない し、 おまけに、 あの カタ には タクサン の シュウニュウ が ある らしい し、 あんな カタ と ケッコン したら、 そりゃ いい と おもう わ。 だけど、 ダメなの」
 オカアサマ は、 おわらい に なって、
「カズコ は、 いけない コ ね。 そんな に、 ダメ で いながら、 こないだ あの カタ と、 ゆっくり なにかと たのしそう に オハナシ を して いた でしょう。 アナタ の キモチ が、 わからない」
「あら、 だって、 おもしろかった ん です もの。 もっと、 いろいろ ハナシ を して みたかった わ。 ワタシ、 タシナミ が ない のね」
「いいえ、 べったり して いる のよ。 カズコ べったり」
 オカアサマ は、 キョウ は、 とても オゲンキ。
 そうして、 キノウ はじめて アップ に した ワタシ の カミ を ゴラン に なって、
「アップ は ね、 カミノケ の すくない ヒト が する と いい のよ。 アナタ の アップ は リッパ-すぎて、 キン の ちいさい カンムリ でも のせて みたい くらい。 シッパイ ね」
「カズコ がっかり。 だって、 オカアサマ は いつ だった か、 カズコ は クビスジ が しろくて きれい だ から、 なるべく クビスジ を かくさない よう に、 って おっしゃった じゃ ない の」
「そんな こと だけ は、 おぼえて いる のね」
「すこし でも ほめられた こと は、 イッショウ わすれません。 おぼえて いた ほう が、 たのしい もの」
「こないだ、 あの カタ から も、 なにかと ほめられた の でしょう」
「そう よ。 それで、 べったり に なっちゃった の。 ワタシ と イッショ に いる と レイカン が、 ああ、 たまらない。 ワタシ、 ゲイジュツカ は きらい じゃ ない ん です けど、 あんな、 ジンカクシャ みたい に、 もったいぶってる ヒト は、 とても、 ダメ なの」
「ナオジ の シショウ さん は、 どんな ヒト なの?」
 ワタシ は、 ひやり と しました。
「よく わからない けど、 どうせ ナオジ の シショウ さん です もの、 フダツキ の フリョウ らしい わ」
「フダツキ?」
 と、 オカアサマ は、 たのしそう な メツキ を なさって つぶやき、
「おもしろい コトバ ね。 フダツキ なら、 かえって アンゼン で いい じゃ ない の。 スズ を クビ に さげて いる コネコ みたい で かわいらしい くらい。 フダ の ついて いない フリョウ が、 こわい ん です」
「そう かしら」
 うれしくて、 うれしくて、 すうっと カラダ が ケムリ に なって ソラ に すわれて ゆく よう な キモチ でした。 おわかり に なります? なぜ、 ワタシ が、 うれしかった か。 おわかり に ならなかったら、 ……なぐる わよ。
 イチド、 ホントウ に、 こちら へ あそび に いらっしゃいません? ワタシ から ナオジ に、 アナタ を おつれ して くる よう に、 って いいつける の も、 なんだか フシゼン で、 ヘン です から、 アナタ ゴジシン の スイキョウ から、 ふっと ここ へ たちよった と いう カタチ に して、 ナオジ の アンナイ で おいで に なって も いい けれども、 でも、 なるべく なら オヒトリ で、 そうして ナオジ が トウキョウ に シュッチョウ した ルス に おいで に なって ください。 ナオジ が いる と、 アナタ を ナオジ に とられて しまって、 きっと アナタタチ は、 オサキ さん の ところ へ ショウチュウ なんか を のみ に でかけて いって、 それっきり に なる に きまって います から。 ワタシ の イエ では、 センゾ ダイダイ、 ゲイジュツカ を すき だった よう です。 コウリン と いう ガカ も、 ムカシ ワタシドモ の キョウト の オウチ に ながく タイザイ して、 フスマ に きれい な エ を かいて くださった の です。 だから、 オカアサマ も、 アナタ の ゴライホウ を、 きっと よろこんで くださる と おもいます。 アナタ は、 たぶん、 2 カイ の ヨウマ に オヤスミ と いう こと に なる でしょう。 オワスレ なく デントウ を けして おいて ください。 ワタシ は ちいさい ロウソク を カタテ に もって、 くらい カイダン を のぼって いって、 それ は、 ダメ? はやすぎる わね。
 ワタシ、 フリョウ が すき なの。 それ も、 フダツキ の フリョウ が、 すき なの。 そうして ワタシ も、 フダツキ の フリョウ に なりたい の。 そう する より ホカ に、 ワタシ の イキカタ が、 ない よう な キ が する の。 アナタ は、 ニホン で イチバン の、 フダツキ の フリョウ でしょう。 そうして、 コノゴロ は また、 タクサン の ヒト が、 アナタ を、 きたならしい、 けがらわしい、 と いって、 ひどく にくんで コウゲキ して いる とか、 オトウト から きいて、 いよいよ アナタ を すき に なりました。 アナタ の こと です から、 きっと イロイロ の アミ を オモチ でしょう けれども、 いまに だんだん ワタシ ヒトリ を すき に オナリ でしょう。 なぜ だ か、 ワタシ には、 そう おもわれて シカタ が ない ん です。 そうして、 アナタ は ワタシ と イッショ に くらして、 マイニチ、 たのしく オシゴト が できる でしょう。 ちいさい とき から ワタシ は、 よく ヒト から、 「アナタ と イッショ に いる と クロウ を わすれる」 と いわれて きました。 ワタシ は イマ まで、 ヒト から きらわれた ケイケン が ない ん です。 ミンナ が ワタシ を、 いい コ だ と いって くださいました。 だから、 アナタ も、 ワタシ を おきらい の はず は、 けっして ない と おもう の です。
 あえば いい の です。 もう、 イマ は ゴヘンジ も なにも いりません。 おあい しとう ございます。 ワタシ の ほう から、 トウキョウ の アナタ の オタク へ おうかがい すれば いちばん カンタン に オメ に かかれる の でしょう けれど、 オカアサマ が、 なにせ ハンビョウニン の よう で、 ワタシ は ツキッキリ の カンゴフ ケン オジョチュウ さん なの です から、 どうしても それ が できません。 オネガイ で ございます。 どうか、 こちら へ いらして ください。 ヒトメ おあい したい の です。 そうして、 スベテ は、 おあい すれば、 わかる こと。 ワタシ の クチ の リョウガワ に できた かすか な シワ を みて ください。 セイキ の カナシミ の シワ を みて ください。 ワタシ の どんな コトバ より、 ワタシ の カオ が、 ワタシ の ムネ の オモイ を はっきり アナタ に おしらせ する はず で ございます。
 サイショ に さしあげた テガミ に、 ワタシ の ムネ に かかって いる ニジ の こと を かきました が、 その ニジ は ホタル の ヒカリ みたい な、 または オホシサマ の ヒカリ みたい な、 そんな オジョウヒン な うつくしい もの では ない の です。 そんな あわい とおい オモイ だったら、 ワタシ は こんな に くるしまず、 しだいに アナタ を わすれて ゆく こと が できた でしょう。 ワタシ の ムネ の ニジ は、 ホノオ の ハシ です。 ムネ が やきこげる ほど の オモイ なの です。 マヤク チュウドクシャ が、 マヤク が きれて クスリ を もとめる とき の キモチ だって、 これほど つらく は ない でしょう。 まちがって は いない、 ヨコシマ では ない と おもいながら も、 ふっと、 ワタシ、 タイヘン な、 オオバカ の こと を しよう と して いる の では ない かしら、 と おもって、 ぞっと する こと も ある ん です。 ハッキョウ して いる の では ない かしら と ハンセイ する、 そんな キモチ も、 たくさん ある ん です。 でも、 ワタシ だって、 レイセイ に ケイカク して いる こと も ある ん です。 ホントウ に、 こちら へ イチド いらして ください。 いつ、 いらして くださって も だいじょうぶ。 ワタシ は どこ へも ゆかず に、 いつも おまち して います。 ワタシ を しんじて ください。
 もう イチド おあい して、 その とき、 いや なら はっきり いって ください。 ワタシ の この ムネ の ホノオ は、 アナタ が テンカ した の です から、 アナタ が けして いって ください。 ワタシ ヒトリ の チカラ では、 とても けす こと が できない の です。 とにかく あったら、 あったら、 ワタシ が たすかります。 マンヨウ や ゲンジ モノガタリ の コロ だったら、 ワタシ の もうしあげて いる よう な こと、 なんでも ない こと でした のに。 ワタシ の ノゾミ。 アナタ の アイショウ に なって、 アナタ の コドモ の ハハ に なる こと。
 このよう な テガミ を、 もし チョウショウ する ヒト が あったら、 その ヒト は オンナ の いきて ゆく ドリョク を チョウショウ する ヒト です。 オンナ の イノチ を チョウショウ する ヒト です。 ワタシ は ミナト の いきづまる よう な よどんだ クウキ に たえきれなくて、 ミナト の ソト は アラシ で あって も、 ホ を あげたい の です。 いこえる ホ は、 レイガイ なく きたない。 ワタシ を チョウショウ する ヒトタチ は、 きっと ミナ、 いこえる ホ です。 なにも でき や しない ん です。
 こまった オンナ。 しかし、 この モンダイ で いちばん くるしんで いる の は ワタシ なの です。 この モンダイ に ついて、 なにも、 ちっとも くるしんで いない ボウカンシャ が、 ホ を みにくく だらり と やすませながら、 この モンダイ を ヒハン する の は、 ナンセンス です。 ワタシ を、 イイカゲン に ナニナニ シソウ なんて いって もらいたく ない ん です。 ワタシ は ムシソウ です。 ワタシ は シソウ や テツガク なんて もの で コウドウ した こと は、 イチド だって ない ん です。
 セケン で よい と いわれ、 ソンケイ されて いる ヒトタチ は、 ミナ ウソツキ で、 ニセモノ なの を、 ワタシ は しって いる ん です。 ワタシ は、 セケン を シンヨウ して いない ん です。 フダツキ の フリョウ だけ が、 ワタシ の ミカタ なん です。 フダツキ の フリョウ。 ワタシ は その ジュウジカ に だけ は、 かかって しんで も いい と おもって います。 バンニン に ヒナン せられて も、 それでも、 ワタシ は いいかえして やれる ん です。 オマエタチ は、 フダ の ついて いない もっと キケン な フリョウ じゃ ない か、 と。
 おわかり に なりまして?
 コイ に リユウ は ございません。 すこし リクツ みたい な こと を いいすぎました。 オトウト の クチマネ に すぎなかった よう な キ も します。 オイデ を おまち して いる だけ なの です。 もう イチド オメ に かかりたい の です。 それ だけ なの です。
 まつ。 ああ、 ニンゲン の セイカツ には、 よろこんだり おこったり かなしんだり にくんだり、 イロイロ の カンジョウ が ある けれども、 けれども それ は ニンゲン の セイカツ の ほんの 1 パーセント を しめて いる だけ の カンジョウ で、 アト の 99 パーセント は、 ただ まって くらして いる の では ない でしょう か。 コウフク の アシオト が、 ロウカ に きこえる の を イマ か イマ か と ムネ の つぶれる オモイ で まって、 カラッポ。 ああ、 ニンゲン の セイカツ って、 あんまり みじめ。 うまれて こない ほう が よかった と ミンナ が かんがえて いる この ゲンジツ。 そうして マイニチ、 アサ から バン まで、 はかなく ナニ か を まって いる。 みじめすぎます。 うまれて きて よかった と、 ああ、 イノチ を、 ニンゲン を、 ヨノナカ を、 よろこんで みとう ございます。
 はばむ ドウトク を、 おしのけられません か?
 M.C (マイ、 チェホフ の イニシャル では ない ん です。 ワタシ は、 サッカ に こいして いる の では ございません。 マイ、 チャイルド)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする