カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ニンゲン シッカク 3

2017-03-20 | ダザイ オサム
 ヒカゲモノ、 と いう コトバ が あります。 ニンゲン の ヨ に おいて、 みじめ な、 ハイシャ、 アクトクシャ を ゆびさして いう コトバ の よう です が、 ジブン は、 ジブン を うまれた とき から の ヒカゲモノ の よう な キ が して いて、 セケン から、 あれ は ヒカゲモノ だ と ゆびさされて いる ほど の ヒト と あう と、 ジブン は、 かならず、 やさしい ココロ に なる の です。 そうして、 その ジブン の 「やさしい ココロ」 は、 ジシン で うっとり する くらい やさしい ココロ でした。
 また、 ハンニン イシキ、 と いう コトバ も あります。 ジブン は、 この ニンゲン の ヨノナカ に おいて、 イッショウ その イシキ に くるしめられながら も、 しかし、 それ は ジブン の ソウコウ の ツマ の ごとき コウハンリョ で、 そいつ と フタリ きり で わびしく あそびたわむれて いる と いう の も、 ジブン の いきて いる シセイ の ヒトツ だった かも しれない し、 また、 ぞくに、 スネ に キズ もつ ミ、 と いう コトバ も ある よう です が、 その キズ は、 ジブン の アカンボウ の とき から、 シゼン に カタホウ の スネ に あらわれて、 ちょうずる に およんで チユ する どころ か、 いよいよ ふかく なる ばかり で、 ホネ に まで たっし、 ヨヨ の ツウク は センペン バンカ の ジゴク とは いいながら、 しかし、 (これ は、 たいへん キミョウ な イイカタ です けど) その キズ は、 しだいに ジブン の ケツニク より も したしく なり、 その キズ の イタミ は、 すなわち キズ の いきて いる カンジョウ、 または アイジョウ の ササヤキ の よう に さえ おもわれる、 そんな オトコ に とって、 レイ の チカ ウンドウ の グループ の フンイキ が、 へんに アンシン で、 イゴコチ が よく、 つまり、 その ウンドウ の ホンライ の モクテキ より も、 その ウンドウ の ハダ が、 ジブン に あった カンジ なの でした。 ホリキ の バアイ は、 ただ もう アホウ の ヒヤカシ で、 イチド ジブン を ショウカイ し に その カイゴウ へ いった きり で、 マルキシスト は、 セイサンメン の ケンキュウ と ドウジ に、 ショウヒメン の シサツ も ヒツヨウ だ など と ヘタ な シャレ を いって、 その カイゴウ には よりつかず、 とかく ジブン を、 その ショウヒメン の シサツ の ほう に ばかり さそいたがる の でした。 おもえば、 トウジ は、 サマザマ の カタ の マルキシスト が いた もの です。 ホリキ の よう に、 キョエイ の モダニティ から、 それ を ジショウ する モノ も あり、 また ジブン の よう に、 ただ ヒゴウホウ の ニオイ が キ に いって、 そこ に すわりこんで いる モノ も あり、 もしも これら の ジッタイ が、 マルキシズム の シン の シンポウシャ に みやぶられたら、 ホリキ も ジブン も、 レッカ の ごとく おこられ、 ヒレツ なる ウラギリモノ と して、 たちどころに おいはらわれた こと でしょう。 しかし、 ジブン も、 また、 ホリキ で さえ も、 なかなか ジョメイ の ショブン に あわず、 ことにも ジブン は、 その ヒゴウホウ の セカイ に おいて は、 ゴウホウ の シンシ たち の セカイ に おける より も、 かえって のびのび と、 いわゆる 「ケンコウ」 に ふるまう こと が できました ので、 ミコミ の ある 「ドウシ」 と して、 ふきだしたく なる ほど カド に ヒミツ-めかした、 サマザマ の ヨウジ を たのまれる ほど に なった の です。 また、 じじつ、 ジブン は、 そんな ヨウジ を イチド も ことわった こと は なく、 ヘイキ で なんでも ひきうけ、 へんに ぎくしゃく して、 イヌ (ドウシ は、 ポリス を そう よんで いました) に あやしまれ フシン ジンモン など を うけて しくじる よう な こと も なかった し、 わらいながら、 また、 ヒト を わらわせながら、 その あぶない (その ウンドウ の レンチュウ は、 イチダイジ の ごとく キンチョウ し、 タンテイ ショウセツ の ヘタ な マネ みたい な こと まで して、 キョクド の ケイカイ を もちい、 そうして ジブン に たのむ シゴト は、 まことに、 アッケ に とられる くらい、 つまらない もの でした が、 それでも、 カレラ は、 その ヨウジ を、 さかん に、 あぶながって りきんで いる の でした) と、 カレラ の しょうする シゴト を、 とにかく セイカク に やって のけて いました。 ジブン の その トウジ の キモチ と して は、 トウイン に なって とらえられ、 たとい シュウシン、 ケイムショ で くらす よう に なった と して も、 ヘイキ だった の です。 ヨノナカ の ニンゲン の 「ジッセイカツ」 と いう もの を キョウフ しながら、 マイヨ の フミン の ジゴク で うめいて いる より は、 いっそ ロウヤ の ほう が、 ラク かも しれない と さえ かんがえて いました。
 チチ は、 サクラギ-チョウ の ベッソウ では、 ライキャク やら ガイシュツ やら、 おなじ イエ に いて も、 ミッカ も ヨッカ も ジブン と カオ を あわせる こと が ない ほど でした が、 しかし、 どうにも、 チチ が けむったく、 おそろしく、 この イエ を でて、 どこ か ゲシュク でも、 と かんがえながら も それ を いいだせず に いた ヤサキ に、 チチ が その イエ を うりはらう つもり らしい と いう こと を ベッソウバン の ロウヤ から ききました。
 チチ の ギイン の ニンキ も そろそろ マンキ に ちかづき、 いろいろ リユウ の あった こと に チガイ ありません が、 もう これきり センキョ に でる イシ も ない ヨウス で、 それに、 コキョウ に ヒトムネ、 インキョジョ など たてたり して、 トウキョウ に ミレン も ない らしく、 たかが、 コウトウ ガッコウ の イチ セイト に すぎない ジブン の ため に、 テイタク と メシツカイ を テイキョウ して おく の も、 ムダ な こと だ と でも かんがえた の か、 (チチ の ココロ も また、 セケン の ヒトタチ の キモチ と ドウヨウ に、 ジブン には よく わかりません) とにかく、 その イエ は、 まもなく ヒトデ に わたり、 ジブン は、 ホンゴウ モリカワ-チョウ の センユウカン と いう ふるい ゲシュク の、 うすぐらい ヘヤ に ひっこして、 そうして、 たちまち カネ に こまりました。
 それまで、 チチ から ツキヅキ、 きまった ガク の コヅカイ を てわたされ、 それ は もう、 2~3 ニチ で なくなって も、 しかし、 タバコ も、 サケ も、 チーズ も、 クダモノ も、 いつでも イエ に あった し、 ホン や ブンボウグ や ソノタ、 フクソウ に かんする もの など いっさい、 いつでも、 キンジョ の ミセ から いわゆる 「ツケ」 で もとめられた し、 ホリキ に オソバ か テンドン など を ゴチソウ して も、 チチ の ヒイキ の チョウナイ の ミセ だったら、 ジブン は だまって その ミセ を でて も かまわなかった の でした。
 それ が キュウ に、 ゲシュク の ヒトリズマイ に なり、 なにもかも、 ツキヅキ の テイガク の ソウキン で まにあわせなければ ならなく なって、 ジブン は、 まごつきました。 ソウキン は、 やはり、 2~3 ニチ で きえて しまい、 ジブン は りつぜん と し、 ココロボソサ の ため に くるう よう に なり、 チチ、 アニ、 アネ など へ コウゴ に オカネ を たのむ デンポウ と、 イサイ フミ の テガミ (その テガミ に おいて うったえて いる ジジョウ は、 ことごとく、 オドウケ の キョコウ でした。 ヒト に モノ を たのむ の に、 まず、 その ヒト を わらわせる の が ジョウサク と かんがえて いた の です) を レンパツ する イッポウ、 また、 ホリキ に おしえられ、 せっせと シチヤ-ガヨイ を はじめ、 それでも、 いつも オカネ に フジユウ を して いました。
 しょせん、 ジブン には、 なんの エンコ も ない ゲシュク に、 ヒトリ で 「セイカツ」 して ゆく ノウリョク が なかった の です。 ジブン は、 ゲシュク の その ヘヤ に、 ヒトリ で じっと して いる の が、 おそろしく、 いまにも ダレ か に おそわれ、 イチゲキ せられる よう な キ が して きて、 マチ に とびだして は、 レイ の ウンドウ の テツダイ を したり、 あるいは ホリキ と イッショ に やすい サケ を のみまわったり して、 ほとんど ガクギョウ も、 また エ の ベンキョウ も ホウキ し、 コウトウ ガッコウ へ ニュウガク して、 2 ネン-メ の 11 ガツ、 ジブン より トシウエ の ユウフ の フジン と ジョウシ ジケン など を おこし、 ジブン の ミノウエ は、 イッペン しました。
 ガッコウ は ケッセキ する し、 ガッカ の ベンキョウ も、 すこしも しなかった のに、 それでも、 ミョウ に シケン の トウアン に ヨウリョウ の いい ところ が ある よう で、 どうやら それまで は、 コキョウ の ニクシン を あざむきとおして きた の です が、 しかし、 もう そろそろ、 シュッセキ ニッスウ の フソク など、 ガッコウ の ほう から ナイミツ に コキョウ の チチ へ ホウコク が いって いる らしく、 チチ の ダイリ と して チョウケイ が、 いかめしい ブンショウ の ながい テガミ を、 ジブン に よこす よう に なって いた の でした。 けれども、 それ より も、 ジブン の チョクセツ の クツウ は、 カネ の ない こと と、 それから、 レイ の ウンドウ の ヨウジ が、 とても アソビ ハンブン の キモチ では できない くらい、 はげしく、 いそがしく なって きた こと でした。 チュウオウ チク と いった か、 ナニ チク と いった か、 とにかく ホンゴウ、 コイシカワ、 シタヤ、 カンダ、 あの ヘン の ガッコウ ゼンブ の、 マルクス ガクセイ の コウドウタイ タイチョウ と いう もの に、 ジブン は なって いた の でした。 ブソウ ホウキ、 と きき、 ちいさい ナイフ を かい (イマ おもえば、 それ は エンピツ を けずる にも たりない、 きゃしゃ な ナイフ でした) それ を、 レンコート の ポケット に いれ、 あちこち とびまわって、 いわゆる 「レンラク」 を つける の でした。 オサケ を のんで、 ぐっすり ねむりたい、 しかし、 オカネ が ありません。 しかも、 P (トウ の こと を、 そういう インゴ で よんで いた と キオク して います が、 あるいは、 ちがって いる かも しれません) の ほう から は、 つぎつぎ と イキ を つく ヒマ も ない くらい、 ヨウジ の イライ が まいります。 ジブン の ビョウジャク の カラダ では、 とても つとまりそう も なくなりました。 もともと、 ヒゴウホウ の キョウミ だけ から、 その グループ の テツダイ を して いた の です し、 こんな に、 それこそ ジョウダン から コマ が でた よう に、 いやに いそがしく なって くる と、 ジブン は、 ひそか に P の ヒトタチ に、 それ は オカドチガイ でしょう、 アナタタチ の チョッケイ の モノタチ に やらせたら どう です か、 と いう よう な いまいましい カン を いだく の を きんずる こと が できず、 にげました。 にげて、 さすが に、 いい キモチ は せず、 しぬ こと に しました。
 その コロ、 ジブン に トクベツ の コウイ を よせて いる オンナ が、 3 ニン いました。 ヒトリ は、 ジブン の ゲシュク して いる センユウカン の ムスメ でした。 この ムスメ は、 ジブン が レイ の ウンドウ の テツダイ で へとへと に なって かえり、 ゴハン も たべず に ねて しまって から、 かならず ヨウセン と マンネンヒツ を もって ジブン の ヘヤ に やって きて、
「ごめんなさい。 シタ では、 イモウト や オトウト が うるさくて、 ゆっくり テガミ も かけない の です」
 と いって、 なにやら ジブン の ツクエ に むかって 1 ジカン イジョウ も かいて いる の です。
 ジブン も また、 しらん フリ を して ねて おれば いい のに、 いかにも その ムスメ が ナニ か ジブン に いって もらいたげ の ヨウス なので、 レイ の ウケミ の ホウシ の セイシン を ハッキ して、 じつに ヒトコト も クチ を ききたく ない キモチ なの だ けれども、 くたくた に つかれきって いる カラダ に、 うむ と キアイ を かけて ハラバイ に なり、 タバコ を すい、
「オンナ から きた ラヴ レター で、 フロ を わかして はいった オトコ が ある そう です よ」
「あら、 いや だ。 アナタ でしょう?」
「ミルク を わかして のんだ こと は ある ん です」
「コウエイ だわ、 のんで よ」
 はやく この ヒト、 かえらねえ かなあ、 テガミ だ なんて、 みえすいて いる のに。 ヘヘノノモヘジ でも かいて いる の に ちがいない ん です。
「みせて よ」
 と しんで も みたく ない オモイ で そう いえば、 あら、 いや よ、 あら、 いや よ、 と いって、 その うれしがる こと、 ひどく みっともなく、 キョウ が さめる ばかり なの です。 そこで ジブン は、 ヨウジ でも いいつけて やれ、 と おもう ん です。
「すまない けど ね、 デンシャドオリ の クスリヤ に いって、 カルモチン を かって きて くれない? あんまり つかれすぎて、 カオ が ほてって、 かえって ねむれない ん だ。 すまない ね。 オカネ は、……」
「いい わよ、 オカネ なんか」
 よろこんで たちます。 ヨウ を いいつける と いう の は、 けっして オンナ を しょげさせる こと では なく、 かえって オンナ は、 オトコ に ヨウジ を たのまれる と よろこぶ もの だ と いう こと も、 ジブン は ちゃんと しって いる の でした。
 もう ヒトリ は、 ジョシ コウトウ シハン の ブンカセイ の いわゆる 「ドウシ」 でした。 この ヒト とは、 レイ の ウンドウ の ヨウジ で、 いや でも マイニチ、 カオ を あわせなければ ならなかった の です。 ウチアワセ が すんで から も、 その オンナ は、 いつまでも ジブン に ついて あるいて、 そうして、 やたら に ジブン に、 モノ を かって くれる の でした。
「ワタシ を ホントウ の アネ だ と おもって いて くれて いい わ」
 その キザ に ミブルイ しながら、 ジブン は、
「その つもり で いる ん です」
 と、 ウレエ を ふくんだ ビショウ の ヒョウジョウ を つくって こたえます。 とにかく、 おこらせて は、 こわい、 なんとか して、 ごまかさなければ ならぬ、 と いう オモイ ヒトツ の ため に、 ジブン は いよいよ その みにくい、 いや な オンナ に ホウシ を して、 そうして、 モノ を かって もらって は、 (その カイモノ は、 じつに シュミ の わるい シナ ばかり で、 ジブン は たいてい、 すぐに それ を、 ヤキトリヤ の オヤジ など に やって しまいました) うれしそう な カオ を して、 ジョウダン を いって は わらわせ、 ある ナツ の ヨル、 どうしても はなれない ので、 マチ の くらい ところ で、 その ヒト に かえって もらいたい ばかり に、 キス を して やりましたら、 あさましく キョウラン の ごとく コウフン し、 ジドウシャ を よんで、 その ヒトタチ の ウンドウ の ため に ヒミツ に かりて ある らしい ビル の ジムショ みたい な せまい ヨウシツ に つれて ゆき、 アサ まで オオサワギ と いう こと に なり、 とんでもない アネ だ、 と ジブン は ひそか に クショウ しました。
 ゲシュクヤ の ムスメ と いい、 また この 「ドウシ」 と いい、 どうしたって マイニチ、 カオ を あわせなければ ならぬ グアイ に なって います ので、 これまで の、 サマザマ の オンナ の ヒト の よう に、 うまく さけられず、 つい、 ずるずる に、 レイ の フアン の ココロ から、 この フタリ の ゴキゲン を ただ ケンメイ に とりむすび、 もはや ジブン は、 カナシバリ ドウヨウ の カタチ に なって いました。
 おなじ コロ また ジブン は、 ギンザ の ある ダイ カフェ の ジョキュウ から、 おもいがけぬ オン を うけ、 たった イチド あった だけ なのに、 それでも、 その オン に こだわり、 やはり ミウゴキ できない ほど の、 シンパイ やら、 ソラオソロシサ を かんじて いた の でした。 その コロ に なる と、 ジブン も、 あえて ホリキ の アンナイ に たよらず とも、 ヒトリ で デンシャ にも のれる し、 また、 カブキザ にも ゆける し、 または、 カスリ の キモノ を きて、 カフェ に だって はいれる くらい の、 タショウ の ズウズウシサ を よそおえる よう に なって いた の です。 ココロ では、 あいかわらず、 ニンゲン の ジシン と ボウリョク と を あやしみ、 おそれ、 なやみながら、 ウワベ だけ は、 すこし ずつ、 タニン と マガオ の アイサツ、 いや、 ちがう、 ジブン は やはり ハイボク の オドウケ の くるしい ワライ を ともなわず には、 アイサツ できない タチ なの です が、 とにかく、 ムガ ムチュウ の へどもど の アイサツ でも、 どうやら できる くらい の 「ギリョウ」 を、 レイ の ウンドウ で はしりまわった おかげ? または、 オンナ の? または、 サケ? けれども、 おもに キンセン の フジユウ の おかげ で シュウトク しかけて いた の です。 どこ に いて も、 おそろしく、 かえって ダイ カフェ で タクサン の スイキャク または ジョキュウ、 ボーイ たち に もまれ、 まぎれこむ こと が できたら、 ジブン の この たえず おわれて いる よう な ココロ も おちつく の では なかろう か、 と 10 エン もって、 ギンザ の その ダイ カフェ に、 ヒトリ で はいって、 わらいながら アイテ の ジョキュウ に、
「10 エン しか ない ん だ から ね、 その つもり で」
 と いいました。
「シンパイ いりません」
 どこ か に カンサイ の ナマリ が ありました。 そうして、 その ヒトコト が、 キミョウ に ジブン の、 ふるえおののいて いる ココロ を しずめて くれました。 いいえ、 オカネ の シンパイ が いらなく なった から では ありません、 その ヒト の ソバ に いる こと に シンパイ が いらない よう な キ が した の です。
 ジブン は、 オサケ を のみました。 その ヒト に アンシン して いる ので、 かえって オドウケ など えんじる キモチ も おこらず、 ジブン の ジガネ の ムクチ で インサン な ところ を かくさず みせて、 だまって オサケ を のみました。
「こんな の、 おすき か?」
 オンナ は、 サマザマ の リョウリ を ジブン の マエ に ならべました。 ジブン は クビ を ふりました。
「オサケ だけ か? ウチ も のもう」
 アキ の、 さむい ヨル でした。 ジブン は、 ツネコ (と いった と おぼえて います が、 キオク が うすれ、 たしか では ありません。 ジョウシ の アイテ の ナマエ を さえ わすれて いる よう な ジブン なの です) に いいつけられた とおり に、 ギンザ ウラ の、 ある ヤタイ の オスシヤ で、 すこしも おいしく ない スシ を たべながら、 (その ヒト の ナマエ は わすれて も、 その とき の スシ の マズサ だけ は、 どうした こと か、 はっきり キオク に のこって います。 そうして、 アオダイショウ の カオ に にた カオツキ の、 マルボウズ の オヤジ が、 クビ を ふりふり、 いかにも ジョウズ みたい に ごまかしながら スシ を にぎって いる サマ も、 ガンゼン に みる よう に センメイ に おもいだされ、 コウネン、 デンシャ など で、 はて みた カオ だ、 と いろいろ かんがえ、 ナン だ、 あの とき の スシヤ の オヤジ に にて いる ん だ、 と キ が つき クショウ した こと も さいさん あった ほど でした。 あの ヒト の ナマエ も、 また、 カオカタチ さえ キオク から とおざかって いる ゲンザイ なお、 あの スシヤ の オヤジ の カオ だけ は エ に かける ほど セイカク に おぼえて いる とは、 よっぽど あの とき の スシ が まずく、 ジブン に サムサ と クツウ を あたえた もの と おもわれます。 もともと、 ジブン は、 うまい スシ を くわせる ミセ と いう ところ に、 ヒト に つれられて いって くって も、 うまい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 おおきすぎる の です。 オヤユビ くらい の オオキサ に きちっと にぎれない もの かしら、 と いつも かんがえて いました) その ヒト を、 まって いました。
 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ を、 その ヒト が かりて いました。 ジブン は、 その 2 カイ で、 ヒゴロ の ジブン の インウツ な ココロ を すこしも かくさず、 ひどい ハイタ に おそわれて でも いる よう に、 カタテ で ホオ を おさえながら、 オチャ を のみました。 そうして、 ジブン の そんな シタイ が、 かえって、 その ヒト には、 キ に いった よう でした。 その ヒト も、 ミノマワリ に つめたい コガラシ が ふいて、 オチバ だけ が まいくるい、 カンゼン に コリツ して いる カンジ の オンナ でした。
 イッショ に やすみながら その ヒト は、 ジブン より フタツ トシウエ で ある こと、 コキョウ は ヒロシマ、 アタシ には シュジン が ある のよ、 ヒロシマ で トコヤ さん を して いた の、 サクネン の ハル、 イッショ に トウキョウ へ イエデ して にげて きた の だ けれども、 シュジン は、 トウキョウ で、 マトモ な シゴト を せず その うち に サギザイ に とわれ、 ケイムショ に いる のよ、 アタシ は マイニチ、 なにやら かやら サシイレ し に、 ケイムショ へ かよって いた の だ けれども、 アス から、 やめます、 など と ものがたる の でした が、 ジブン は、 どういう もの か、 オンナ の ミノウエバナシ と いう もの には、 すこしも キョウミ を もてない タチ で、 それ は オンナ の カタリカタ の ヘタ な せい か、 つまり、 ハナシ の ジュウテン の オキカタ を まちがって いる せい なの か、 とにかく、 ジブン には、 つねに、 バジ トウフウ なの で ありました。
 わびしい。
 ジブン には、 オンナ の センマンゲン の ミノウエバナシ より も、 その ヒトコト の ツブヤキ の ほう に、 キョウカン を そそられる に ちがいない と キタイ して いて も、 この ヨノナカ の オンナ から、 ついに イチド も ジブン は、 その コトバ を きいた こと が ない の を、 キカイ とも フシギ とも かんじて おります。 けれども、 その ヒト は、 コトバ で 「わびしい」 とは いいません でした が、 ムゴン の ひどい ワビシサ を、 カラダ の ガイカク に、 1 スン くらい の ハバ の キリュウ みたい に もって いて、 その ヒト に よりそう と、 こちら の カラダ も その キリュウ に つつまれ、 ジブン の もって いる たしょう とげとげ した インウツ の キリュウ と ほどよく とけあい、 「ミナソコ の イワ に おちつく カレハ」 の よう に、 ワガミ は、 キョウフ から も フアン から も、 はなれる こと が できる の でした。
 あの ハクチ の インバイフ たち の フトコロ の ナカ で、 アンシン して ぐっすり ねむる オモイ とは、 また、 まったく ことなって、 (だいいち、 あの プロステチュート たち は、 ヨウキ でした) その サギザイ の ハンニン の ツマ と すごした イチヤ は、 ジブン に とって、 コウフク な (こんな だいそれた コトバ を、 なんの チュウチョ も なく、 コウテイ して シヨウ する こと は、 ジブン の この ゼン-シュキ に おいて、 ふたたび ない つもり です) カイホウ せられた ヨル でした。
 しかし、 ただ イチヤ でした。 アサ、 メ が さめて、 はねおき、 ジブン は モト の ケイハク な、 よそおえる オドウケモノ に なって いました。 ヨワムシ は、 コウフク を さえ おそれる もの です。 ワタ で ケガ を する ん です。 コウフク に きずつけられる こと も ある ん です。 きずつけられない うち に、 はやく、 このまま、 わかれたい と あせり、 レイ の オドウケ の エンマク を はりめぐらす の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 って の は ね、 あれ は ね、 カイシャク が ギャク なん だ。 カネ が なくなる と オンナ に ふられる って イミ、 じゃあ ない ん だ。 オトコ に カネ が なくなる と、 オトコ は、 ただ おのずから イキ ショウチン して、 ダメ に なり、 わらう コエ にも チカラ が なく、 そうして、 ミョウ に ひがんだり なんか して ね、 ついには やぶれかぶれ に なり、 オトコ の ほう から オンナ を ふる、 ハンキョウラン に なって ふって ふって ふりぬく と いう イミ なん だね、 カナザワ ダイジリン と いう ホン に よれば ね、 かわいそう に。 ボク にも、 その キモチ わかる がね」
 たしか、 そんな フウ の ばかげた こと を いって、 ツネコ を ふきださせた よう な キオク が あります。 ナガイ は ムヨウ、 オソレ あり と、 カオ も あらわず に すばやく ひきあげた の です が、 その とき の ジブン の、 「カネ の キレメ が エン の キレメ」 と いう デタラメ の ホウゲン が、 ノチ に いたって、 イガイ の ヒッカカリ を しょうじた の です。
 それから、 ヒトツキ、 ジブン は、 その ヨル の オンジン とは あいません でした。 わかれて、 ヒ が たつ に つれて、 ヨロコビ は うすれ、 カリソメ の オン を うけた こと が かえって そらおそろしく、 ジブン カッテ に ひどい ソクバク を かんじて きて、 あの カフェ の オカンジョウ を、 あの とき、 ゼンブ ツネコ の フタン に させて しまった と いう ゾクジ さえ、 しだいに キ に なりはじめて、 ツネコ も やはり、 ゲシュク の ムスメ や、 あの ジョシ コウトウ シハン と おなじく、 ジブン を キョウハク する だけ の オンナ の よう に おもわれ、 とおく はなれて いながら も、 たえず ツネコ に おびえて いて、 その うえ に ジブン は、 イッショ に やすんだ こと の ある オンナ に、 また あう と、 その とき に いきなり ナニ か レッカ の ごとく おこられそう な キ が して たまらず、 あう の に すこぶる オックウ-がる セイシツ でした ので、 いよいよ、 ギンザ は ケイエン の カタチ でした が、 しかし、 その オックウ-がる と いう セイシツ は、 けっして ジブン の コウカツサ では なく、 ジョセイ と いう もの は、 やすんで から の こと と、 アサ、 おきて から の こと との アイダ に、 ヒトツ の、 チリ ほど の、 ツナガリ をも もたせず、 カンゼン の ボウキャク の ごとく、 みごと に フタツ の セカイ を セツダン させて いきて いる と いう フシギ な ゲンショウ を、 まだ よく のみこんで いなかった から なの でした。
 11 ガツ の スエ、 ジブン は、 ホリキ と カンダ の ヤタイ で ヤスザケ を のみ、 この アクユウ は、 その ヤタイ を でて から も、 さらに どこ か で のもう と シュチョウ し、 もう ジブン たち には オカネ が ない のに、 それでも、 のもう、 のもう よ、 と ねばる の です。 その とき、 ジブン は、 よって ダイタン に なって いる から でも ありました が、
「よし、 そんなら、 ユメ の クニ に つれて いく。 おどろくな、 シュチ ニクリン と いう、……」
「カフェ か?」
「そう」
「いこう!」
 と いう よう な こと に なって フタリ、 シデン に のり、 ホリキ は、 はしゃいで、
「オレ は、 コンヤ は、 オンナ に うえかわいて いる ん だ。 ジョキュウ に キス して も いい か」
 ジブン は、 ホリキ が そんな スイタイ を えんじる こと を、 あまり このんで いない の でした。 ホリキ も、 それ を しって いる ので、 ジブン に そんな ネン を おす の でした。
「いい か。 キス する ぜ。 オレ の ソバ に すわった ジョキュウ に、 きっと キス して みせる。 いい か」
「かまわん だろう」
「ありがたい! オレ は オンナ に うえかわいて いる ん だ」
 ギンザ 4 チョウメ で おりて、 その いわゆる シュチ ニクリン の ダイ カフェ に、 ツネコ を タノミ の ツナ と して ほとんど ムイチモン で はいり、 あいて いる ボックス に ホリキ と むかいあって コシ を おろした トタン に、 ツネコ と もう ヒトリ の ジョキュウ が はしりよって きて、 その もう ヒトリ の ジョキュウ が ジブン の ソバ に、 そうして ツネコ は、 ホリキ の ソバ に、 どさん と こしかけた ので、 ジブン は、 はっと しました。 ツネコ は、 いまに キス される。
 おしい と いう キモチ では ありません でした。 ジブン には、 もともと ショユウヨク と いう もの は うすく、 また、 たまに かすか に おしむ キモチ は あって も、 その ショユウケン を かんぜん と シュチョウ し、 ヒト と あらそう ほど の キリョク が ない の でした。 ノチ に、 ジブン は、 ジブン の ナイエン の ツマ が おかされる の を、 だまって みて いた こと さえ あった ほど なの です。
 ジブン は、 ニンゲン の イザコザ に できる だけ さわりたく ない の でした。 その ウズ に まきこまれる の が、 おそろしい の でした。 ツネコ と ジブン とは、 イチヤ だけ の アイダガラ です。 ツネコ は、 ジブン の もの では ありません。 おしい、 など おもいあがった ヨク は、 ジブン に もてる はず は ありません。 けれども、 ジブン は、 はっと しました。
 ジブン の メノマエ で、 ホリキ の モウレツ な キス を うける、 その ツネコ の ミノウエ を、 フビン に おもった から でした。 ホリキ に よごされた ツネコ は、 ジブン と わかれなければ ならなく なる だろう、 しかも ジブン にも、 ツネコ を ひきとめる ほど の ポジティヴ な ネツ は ない、 ああ、 もう、 これ で オシマイ なの だ、 と ツネコ の フコウ に イッシュン はっと した ものの、 すぐに ジブン は ミズ の よう に すなお に あきらめ、 ホリキ と ツネコ の カオ を みくらべ、 にやにや と わらいました。
 しかし、 ジタイ は、 じつに おもいがけなく、 もっと わるく テンカイ せられました。
「やめた!」
 と ホリキ は、 クチ を ゆがめて いい、
「さすが の オレ も、 こんな びんぼうくさい オンナ には、……」
 ヘイコウ しきった よう に、 ウデグミ して ツネコ を じろじろ ながめ、 クショウ する の でした。
「オサケ を。 オカネ は ない」
 ジブン は、 コゴエ で ツネコ に いいました。 それこそ、 あびる ほど のんで みたい キモチ でした。 いわゆる ゾクブツ の メ から みる と、 ツネコ は スイカン の キス にも あたいしない、 ただ、 みすぼらしい、 びんぼうくさい オンナ だった の でした。 アンガイ とも、 イガイ とも、 ジブン には ヘキレキ に うちくだかれた オモイ でした。 ジブン は、 これまで レイ の なかった ほど、 いくらでも、 いくらでも、 オサケ を のみ、 ぐらぐら よって、 ツネコ と カオ を みあわせ、 かなしく ほほえみあい、 いかにも そう いわれて みる と、 コイツ は へんに つかれて びんぼうくさい だけ の オンナ だな、 と おもう と ドウジ に、 カネ の ない モノ ドウシ の シンワ (ヒンプ の フワ は、 チンプ の よう でも、 やはり ドラマ の エイエン の テーマ の ヒトツ だ と ジブン は イマ では おもって います が) そいつ が、 その シンワカン が、 ムネ に こみあげて きて、 ツネコ が いとしく、 うまれて この とき はじめて、 われから セッキョクテキ に、 ビジャク ながら コイ の ココロ の うごく の を ジカク しました。 はきました。 ゼンゴ フカク に なりました。 オサケ を のんで、 こんな に ワレ を うしなう ほど よった の も、 その とき が はじめて でした。
 メ が さめたら、 マクラモト に ツネコ が すわって いました。 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ の ヘヤ に ねて いた の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 なんて おっしゃって、 ジョウダン か と おもうて いたら、 ホンキ か。 きて くれない の だ もの。 ややこしい キレメ やな。 ウチ が、 かせいで あげて も、 ダメ か」
「ダメ」
 それから、 オンナ も やすんで、 ヨアケガタ、 オンナ の クチ から 「シ」 と いう コトバ が はじめて でて、 オンナ も ニンゲン と して の イトナミ に つかれきって いた よう でした し、 また、 ジブン も、 ヨノナカ への キョウフ、 ワズラワシサ、 カネ、 レイ の ウンドウ、 オンナ、 ガクギョウ、 かんがえる と、 とても このうえ こらえて いきて ゆけそう も なく、 その ヒト の テイアン に キガル に ドウイ しました。
 けれども、 その とき には まだ、 ジッカン と して の 「しのう」 と いう カクゴ は、 できて いなかった の です。 どこ か に 「アソビ」 が ひそんで いました。
 その ヒ の ゴゼン、 フタリ は アサクサ の ロック を さまよって いました。 キッサテン に はいり、 ギュウニュウ を のみました。
「アナタ、 はろうて おいて」
 ジブン は たって、 タモト から ガマグチ を だし、 ひらく と、 ドウセン が 3 マイ、 シュウチ より も セイサン の オモイ に おそわれ、 たちまち ノウリ に うかぶ もの は、 センユウカン の ジブン の ヘヤ、 セイフク と フトン だけ が のこされて ある きり で、 アト は もう、 シチグサ に なりそう な もの の ヒトツ も ない こうりょう たる ヘヤ、 ホカ には ジブン の イマ きて あるいて いる カスリ の キモノ と、 マント、 これ が ジブン の ゲンジツ なの だ、 いきて ゆけない、 と はっきり おもいしりました。
 ジブン が まごついて いる ので、 オンナ も たって、 ジブン の ガマグチ を のぞいて、
「あら、 たった それ だけ?」
 ムシン の コエ でした が、 これ が また、 じんと ホネミ に こたえる ほど に いたかった の です。 はじめて ジブン が、 こいした ヒト の コエ だけ に、 いたかった の です。 それ だけ も、 これ だけ も ない、 ドウセン 3 マイ は、 どだい オカネ で ありません。 それ は、 ジブン が いまだかつて あじわった こと の ない キミョウ な クツジョク でした。 とても いきて おられない クツジョク でした。 しょせん その コロ の ジブン は、 まだ オカネモチ の ボッチャン と いう シュゾク から だっしきって いなかった の でしょう。 その とき、 ジブン は、 みずから すすんで も しのう と、 ジッカン と して ケツイ した の です。
 その ヨ、 ジブン たち は、 カマクラ の ウミ に とびこみました。 オンナ は、 この オビ は オミセ の オトモダチ から かりて いる オビ や から、 と いって、 オビ を ほどき、 たたんで イワ の ウエ に おき、 ジブン も マント を ぬぎ、 おなじ ところ に おいて、 イッショ に ジュスイ しました。
 オンナ の ヒト は、 しにました。 そうして、 ジブン だけ たすかりました。
 ジブン が コウトウ ガッコウ の セイト では あり、 また チチ の ナ にも いくらか、 いわゆる ニュース ヴァリュ が あった の か、 シンブン にも かなり おおきな モンダイ と して とりあげられた よう でした。
 ジブン は ウミベ の ビョウイン に シュウヨウ せられ、 コキョウ から シンセキ の モノ が ヒトリ かけつけ、 サマザマ の シマツ を して くれて、 そうして、 クニ の チチ を ハジメ イッカ-ジュウ が ゲキド して いる から、 これっきり セイカ とは ギゼツ に なる かも しれぬ、 と ジブン に もうしわたして かえりました。 けれども ジブン は、 そんな こと より、 しんだ ツネコ が こいしく、 めそめそ ないて ばかり いました。 ホントウ に、 イマ まで の ヒト の ナカ で、 あの びんぼうくさい ツネコ だけ を、 すき だった の です から。
 ゲシュク の ムスメ から、 タンカ を 50 も かきつらねた ながい テガミ が きました。 「いきくれよ」 と いう ヘン な コトバ で はじまる タンカ ばかり、 50 でした。 また、 ジブン の ビョウシツ に、 カンゴフ たち が ヨウキ に わらいながら あそび に きて、 ジブン の テ を きゅっと にぎって かえる カンゴフ も いました。
 ジブン の ヒダリハイ に コショウ の ある の を、 その ビョウイン で ハッケン せられ、 これ が たいへん ジブン に コウツゴウ な こと に なり、 やがて ジブン が ジサツ ホウジョザイ と いう ザイメイ で ビョウイン から ケイサツ に つれて ゆかれました が、 ケイサツ では、 ジブン を ビョウニン アツカイ に して くれて、 とくに ホゴシツ に シュウヨウ しました。
 シンヤ、 ホゴシツ の トナリ の シュクチョクシツ で、 ネズ の バン を して いた トシヨリ の オマワリ が、 アイダ の ドア を そっと あけ、
「おい!」
 と ジブン に コエ を かけ、
「さむい だろう。 こっち へ きて、 あたれ」
 と いいました。
 ジブン は、 わざと しおしお と シュクチョクシツ に はいって ゆき、 イス に こしかけて ヒバチ に あたりました。
「やはり、 しんだ オンナ が こいしい だろう」
「はい」
 ことさら に、 きえいる よう な ほそい コエ で ヘンジ しました。
「そこ が、 やはり ニンジョウ と いう もの だ」
 カレ は しだいに、 おおきく かまえて きました。
「はじめ、 オンナ と カンケイ を むすんだ の は、 どこ だ」
 ほとんど サイバンカン の ごとく、 もったいぶって たずねる の でした。 カレ は、 ジブン を コドモ と あなどり、 アキ の ヨ の ツレヅレ に、 あたかも カレ ジシン が トリシラベ の シュニン でも ある か の よう に よそおい、 ジブン から ワイダン-めいた ジュッカイ を ひきだそう と いう コンタン の よう でした。 ジブン は すばやく それ を さっし、 ふきだしたい の を こらえる の に ホネ を おりました。 そんな オマワリ の 「ヒコウシキ な ジンモン」 には、 いっさい コタエ を キョヒ して も かまわない の だ と いう こと は、 ジブン も しって いました が、 しかし、 アキ の ヨナガ に キョウ を そえる ため、 ジブン は、 あくまでも シンミョウ に、 その オマワリ こそ トリシラベ の シュニン で あって、 ケイバツ の ケイチョウ の ケッテイ も その オマワリ の オボシメシ ヒトツ に ある の だ、 と いう こと を かたく しんじて うたがわない よう な いわゆる セイイ を オモテ に あらわし、 カレ の スケベエ の コウキシン を、 やや マンゾク させる テイド の イイカゲン な 「チンジュツ」 を する の でした。
「うん、 それ で だいたい わかった。 なんでも ショウジキ に こたえる と、 ワシラ の ほう でも、 そこ は テゴコロ を くわえる」
「ありがとう ございます。 よろしく おねがい いたします」
 ほとんど ニュウシン の エンギ でした。 そうして、 ジブン の ため には、 なにも、 ヒトツ も、 トク に ならない リキエン なの です。
 ヨ が あけて、 ジブン は ショチョウ に よびだされました。 コンド は、 ホンシキ の トリシラベ なの です。
 ドア を あけて、 ショチョウシツ に はいった トタン に、
「おう、 いい オトコ だ。 これ あ、 オマエ が わるい ん じゃ ない。 こんな、 いい オトコ に うんだ オマエ の オフクロ が わるい ん だ」
 イロ の あさぐろい、 ダイガクデ みたい な カンジ の まだ わかい ショチョウ でした。 いきなり そう いわれて ジブン は、 ジブン の カオ の ハンメン に べったり アカアザ でも ある よう な、 みにくい フグシャ の よう な、 みじめ な キ が しました。
 この ジュウドウ か ケンドウ の センシュ の よう な ショチョウ の トリシラベ は、 じつに あっさり して いて、 あの シンヤ の ロウジュンサ の ひそか な、 シツヨウ きわまる コウショク の 「トリシラベ」 とは、 ウンデイ の サ が ありました。 ジンモン が すんで、 ショチョウ は、 ケンジ キョク に おくる ショルイ を したためながら、
「カラダ を ジョウブ に しなけりゃ、 いかん ね。 ケッタン が でて いる よう じゃ ない か」
 と いいました。
 その アサ、 へんに セキ が でて、 ジブン は セキ の でる たび に、 ハンケチ で クチ を おおって いた の です が、 その ハンケチ に あかい アラレ が ふった みたい に チ が ついて いた の です。 けれども、 それ は、 ノド から でた チ では なく、 サクヤ、 ミミ の シタ に できた ちいさい オデキ を いじって、 その オデキ から でた チ なの でした。 しかし、 ジブン は、 それ を いいあかさない ほう が、 ベンギ な こと も ある よう な キ が ふっと した もの です から、 ただ、
「はい」
 と、 フシメ に なり、 シュショウゲ に こたえて おきました。
 ショチョウ は ショルイ を かきおえて、
「キソ に なる か どう か、 それ は ケンジ ドノ が きめる こと だ が、 オマエ の ミモト ヒキウケニン に、 デンポウ か デンワ で、 キョウ ヨコハマ の ケンジ キョク に きて もらう よう に、 たのんだ ほう が いい な。 ダレ か、 ある だろう、 オマエ の ホゴシャ とか ホショウニン とか いう もの が」
 チチ の トウキョウ の ベッソウ に デイリ して いた ショガ コットウショウ の シブタ と いう、 ジブン たち と ドウキョウジン で、 チチ の タイコモチ みたい な ヤク も つとめて いた ずんぐり した ドクシン の シジュウ オトコ が、 ジブン の ガッコウ の ホショウニン に なって いる の を、 ジブン は おもいだしました。 その オトコ の カオ が、 ことに メツキ が、 ヒラメ に にて いる と いう ので、 チチ は いつも その オトコ を ヒラメ と よび、 ジブン も、 そう よびなれて いました。
 ジブン は ケイサツ の デンワチョウ を かりて、 ヒラメ の イエ の デンワ バンゴウ を さがし、 みつかった ので、 ヒラメ に デンワ して、 ヨコハマ の ケンジ キョク に きて くれる よう に たのみましたら、 ヒラメ は ヒト が かわった みたい な いばった クチョウ で、 それでも、 とにかく ひきうけて くれました。
「おい、 その デンワキ、 すぐ ショウドク した ほう が いい ぜ。 なんせ、 ケッタン が でて いる ん だ から」
 ジブン が、 また ホゴシツ に ひきあげて から、 オマワリ たち に そう いいつけて いる ショチョウ の おおきな コエ が、 ホゴシツ に すわって いる ジブン の ミミ に まで、 とどきました。
 オヒルスギ、 ジブン は、 ほそい アサナワ で ドウ を しばられ、 それ は マント で かくす こと を ゆるされました が、 その アサナワ の ハシ を わかい オマワリ が、 しっかり にぎって いて、 フタリ イッショ に デンシャ で ヨコハマ に むかいました。
 けれども、 ジブン には すこし の フアン も なく、 あの ケイサツ の ホゴシツ も、 ロウジュンサ も なつかしく、 ああ、 ジブン は どうして こう なの でしょう、 ザイニン と して しばられる と、 かえって ほっと して、 そうして ゆったり おちついて、 その とき の ツイオク を、 イマ かく に あたって も、 ホントウ に のびのび した たのしい キモチ に なる の です。
 しかし、 その ジキ の なつかしい オモイデ の ナカ にも、 たった ヒトツ、 ヒヤアセ サント の、 ショウガイ わすれられぬ ヒサン な シクジリ が あった の です。 ジブン は、 ケンジ キョク の うすぐらい イッシツ で、 ケンジ の カンタン な トリシラベ を うけました。 ケンジ は 40 サイ ゼンゴ の ものしずか な、 (もし ジブン が ビボウ だった と して も、 それ は いわば ジャイン の ビボウ だった に チガイ ありません が、 その ケンジ の カオ は、 ただしい ビボウ、 と でも いいたい よう な、 ソウメイ な セイヒツ の ケハイ を もって いました) こせこせ しない ヒトガラ の よう でした ので、 ジブン も まったく ケイカイ せず、 ぼんやり チンジュツ して いた の です が、 とつぜん、 レイ の セキ が でて きて、 ジブン は タモト から ハンケチ を だし、 ふと その チ を みて、 この セキ も また ナニ か の ヤク に たつ かも しれぬ と あさましい カケヒキ の ココロ を おこし、 ごほん、 ごほん と フタツ ばかり、 オマケ の ニセ の セキ を おおげさ に つけくわえて、 ハンケチ で クチ を おおった まま ケンジ の カオ を ちらと みた、 カンイッパツ、
「ホントウ かい?」
 ものしずか な ビショウ でした。 ヒヤアセ サント、 いいえ、 イマ おもいだして も、 キリキリマイ を したく なります。 チュウガク ジダイ に、 あの バカ の タケイチ から、 ワザ、 ワザ、 と いわれて セナカ を つかれ、 ジゴク に けおとされた、 その とき の オモイ イジョウ と いって も、 けっして カゴン では ない キモチ です。 あれ と、 これ と、 フタツ、 ジブン の ショウガイ に おける エンギ の ダイシッパイ の キロク です。 ケンジ の あんな ものしずか な ブベツ に あう より は、 いっそ ジブン は 10 ネン の ケイ を いいわたされた ほう が、 まし だった と おもう こと さえ、 ときたま ある ほど なの です。
 ジブン は キソ ユウヨ に なりました。 けれども いっこう に うれしく なく、 よにも みじめ な キモチ で、 ケンジ キョク の ヒカエシツ の ベンチ に こしかけ、 ヒキトリニン の ヒラメ が くる の を まって いました。
 ハイゴ の たかい マド から ユウヤケ の ソラ が みえ、 カモメ が、 「オンナ」 と いう ジ みたい な カタチ で とんで いました。

ニンゲン シッカク 4

2017-03-05 | ダザイ オサム
 ダイサン の シュキ

 1

 タケイチ の ヨゲン の、 ヒトツ は あたり、 ヒトツ は、 はずれました。 ほれられる と いう、 メイヨ で ない ヨゲン の ほう は、 あたりました が、 きっと えらい エカキ に なる と いう、 シュクフク の ヨゲン は、 はずれました。
 ジブン は、 わずか に、 ソアク な ザッシ の、 ムメイ の ヘタ な マンガカ に なる こと が できた だけ でした。
 カマクラ の ジケン の ため に、 コウトウ ガッコウ から は ツイホウ せられ、 ジブン は、 ヒラメ の イエ の 2 カイ の、 3 ジョウ の ヘヤ で ネオキ して、 コキョウ から は ツキヅキ、 きわめて ショウガク の カネ が、 それ も チョクセツ に ジブン-アテ では なく、 ヒラメ の ところ に ひそか に おくられて きて いる ヨウス でした が、 (しかも、 それ は コキョウ の アニ たち が、 チチ に かくして おくって くれて いる と いう ケイシキ に なって いた よう でした) それっきり、 アト は コキョウ との ツナガリ を ぜんぜん、 たちきられて しまい、 そうして、 ヒラメ は いつも フキゲン、 ジブン が アイソワライ を して も、 わらわず、 ニンゲン と いう もの は こんな にも カンタン に、 それこそ テノヒラ を かえす が ごとく に ヘンカ できる もの か と、 あさましく、 いや、 むしろ コッケイ に おもわれる くらい の、 ひどい カワリヨウ で、
「でちゃ いけません よ。 とにかく、 でない で ください よ」
 それ ばかり ジブン に いって いる の でした。
 ヒラメ は、 ジブン に ジサツ の オソレ あり と、 にらんで いる らしく、 つまり、 オンナ の アト を おって また ウミ へ とびこんだり する キケン が ある と みてとって いる らしく、 ジブン の ガイシュツ を かたく きんじて いる の でした。 けれども、 サケ も のめない し、 タバコ も すえない し、 ただ、 アサ から バン まで 2 カイ の 3 ジョウ の コタツ に もぐって、 フルザッシ なんか よんで アホウ ドウゼン の クラシ を して いる ジブン には、 ジサツ の キリョク さえ うしなわれて いました。
 ヒラメ の イエ は、 オオクボ の イセン の チカク に あり、 ショガ コットウショウ、 セイリュウエン、 だ など と カンバン の モジ だけ は ソウトウ に きばって いて も、 ヒトムネ 2 コ の、 その 1 コ で、 ミセ の マグチ も せまく、 テンナイ は ホコリダラケ で、 イイカゲン な ガラクタ ばかり ならべ、 (もっとも、 ヒラメ は その ミセ の ガラクタ に たよって ショウバイ して いる わけ では なく、 こっち の いわゆる ダンナ の ヒゾウ の もの を、 あっち の いわゆる ダンナ に その ショユウケン を ゆずる バアイ など に カツヤク して、 オカネ を もうけて いる らしい の です) ミセ に すわって いる こと は ほとんど なく、 たいてい アサ から、 むずかしそう な カオ を して そそくさ と でかけ、 ルス は 17~18 の コゾウ ヒトリ、 これ が ジブン の ミハリバン と いう わけ で、 ヒマ さえ あれば キンジョ の コドモ たち と ソト で キャッチ ボール など して いて も、 2 カイ の イソウロウ を まるで バカ か キチガイ くらい に おもって いる らしく、 オトナ の セッキョウ-くさい こと まで ジブン に いいきかせ、 ジブン は、 ヒト と イイアラソイ の できない タチ なので、 つかれた よう な、 また、 カンシン した よう な カオ を して それ に ミミ を かたむけ、 フクジュウ して いる の でした。 この コゾウ は シブタ の カクシゴ で、 それでも ヘン な ジジョウ が あって、 シブタ は いわゆる オヤコ の ナノリ を せず、 また シブタ が ずっと ドクシン なの も、 なにやら その ヘン に リユウ が あって の こと らしく、 ジブン も イゼン、 ジブン の イエ の モノタチ から それ に ついて の ウワサ を、 ちょっと きいた よう な キ も する の です が、 ジブン は、 どうも タニン の ミノウエ には、 あまり キョウミ を もてない ほう なので、 ふかい こと は なにも しりません。 しかし、 その コゾウ の メツキ にも、 ミョウ に サカナ の メ を レンソウ させる ところ が ありました から、 あるいは、 ホントウ に ヒラメ の カクシゴ、 ……でも、 それならば、 フタリ は じつに さびしい オヤコ でした。 ヨル おそく、 2 カイ の ジブン には ナイショ で、 フタリ で オソバ など を とりよせて ムゴン で たべて いる こと が ありました。
 ヒラメ の イエ では ショクジ は いつも その コゾウ が つくり、 2 カイ の ヤッカイモノ の ショクジ だけ は ベツ に オゼン に のせて コゾウ が サンド サンド 2 カイ に もちはこんで きて くれて、 ヒラメ と コゾウ は、 カイダン の シタ の じめじめ した 4 ジョウ ハン で なにやら、 かちゃかちゃ サラコバチ の ふれあう オト を させながら、 いそがしげ に ショクジ して いる の でした。
 3 ガツ スエ の ある ユウガタ、 ヒラメ は おもわぬ モウケグチ に でも ありついた の か、 または ナニ か ホカ に サクリャク でも あった の か、 (その フタツ の スイサツ が、 ともに あたって いた と して も、 おそらくは、 さらに また イクツ か の、 ジブン など には とても スイサツ の とどかない こまかい ゲンイン も あった の でしょう が) ジブン を カイカ の めずらしく オチョウシ など ついて いる ショクタク に まねいて、 ヒラメ ならぬ マグロ の サシミ に、 ゴチソウ の アルジ みずから カンプク し、 ショウサン し、 ぼんやり して いる イソウロウ にも すこしく オサケ を すすめ、
「どう する つもり なん です、 いったい、 これから」
 ジブン は それ に こたえず、 タクジョウ の サラ から タタミイワシ を つまみあげ、 その コザカナ たち の ギン の メダマ を ながめて いたら、 ヨイ が ほのぼの はっして きて、 あそびまわって いた コロ が なつかしく、 ホリキ で さえ なつかしく、 つくづく 「ジユウ」 が ほしく なり、 ふっと、 かぼそく なきそう に なりました。
 ジブン が この イエ へ きて から は、 ドウケ を えんずる ハリアイ さえ なく、 ただ もう ヒラメ と コゾウ の ベッシ の ナカ に ミ を よこたえ、 ヒラメ の ほう でも また、 ジブン と うちとけた ナガバナシ を する の を さけて いる ヨウス でした し、 ジブン も その ヒラメ を おいかけて ナニ か を うったえる キ など は おこらず、 ほとんど ジブン は、 マヌケヅラ の イソウロウ に なりきって いた の です。
「キソ ユウヨ と いう の は、 ゼンカ ナンパン とか、 そんな もの には、 ならない モヨウ です。 だから、 まあ、 アナタ の ココロガケ ヒトツ で、 コウセイ が できる わけ です。 アナタ が、 もし、 カイシン して、 アナタ の ほう から、 マジメ に ワタシ に ソウダン を もちかけて くれたら、 ワタシ も かんがえて みます」
 ヒラメ の ハナシカタ には、 いや、 ヨノナカ の ゼンブ の ヒト の ハナシカタ には、 このよう に ややこしく、 どこ か もうろう と して、 ニゲゴシ と でも いった みたい な ビミョウ な フクザツサ が あり、 その ほとんど ムエキ と おもわれる くらい の ゲンジュウ な ケイカイ と、 ムスウ と いって いい くらい の こうるさい カケヒキ と には、 いつも ジブン は トウワク し、 どうでも いい や と いう キブン に なって、 オドウケ で ちゃかしたり、 または ムゴン の シュコウ で いっさい オマカセ と いう、 いわば ハイボク の タイド を とって しまう の でした。
 この とき も ヒラメ が、 ジブン に むかって、 だいたい ツギ の よう に カンタン に ホウコク すれば、 それ で すむ こと だった の を ジブン は コウネン に いたって しり、 ヒラメ の フヒツヨウ な ヨウジン、 いや、 ヨノナカ の ヒトタチ の フカカイ な ミエ、 オテイサイ に、 なんとも インウツ な オモイ を しました。
 ヒラメ は、 その とき、 ただ こう いえば よかった の でした。
「カンリツ でも シリツ でも、 とにかく 4 ガツ から、 どこ か の ガッコウ へ はいりなさい。 アナタ の セイカツヒ は、 ガッコウ へ はいる と、 クニ から、 もっと ジュウブン に おくって くる こと に なって いる の です」
 ずっと アト に なって わかった の です が、 ジジツ は、 そのよう に なって いた の でした。 そうして、 ジブン も その イイツケ に したがった でしょう。 それなのに、 ヒラメ の いやに ヨウジン-ぶかく もって まわった イイカタ の ため に、 ミョウ に こじれ、 ジブン の いきて ゆく ホウコウ も まるで かわって しまった の です。
「マジメ に ワタシ に ソウダン を もちかけて くれる キモチ が なければ、 しょうがない です が」
「どんな ソウダン?」
 ジブン には、 ホントウ に なにも ケントウ が つかなかった の です。
「それ は、 アナタ の ムネ に ある こと でしょう?」
「たとえば?」
「たとえば って、 アナタ ジシン、 これから どう する キ なん です」
「はたらいた ほう が、 いい ん です か?」
「いや、 アナタ の キモチ は、 いったい どう なん です」
「だって、 ガッコウ へ はいる と いったって、……」
「そりゃ、 オカネ が いります。 しかし、 モンダイ は、 オカネ で ない。 アナタ の キモチ です」
 オカネ は、 クニ から くる こと に なって いる ん だ から、 と なぜ ヒトコト、 いわなかった の でしょう。 その ヒトコト に よって、 ジブン の キモチ も、 きまった はず なのに、 ジブン には、 ただ ゴリムチュウ でした。
「どう です か? ナニ か、 ショウライ の キボウ、 と でも いった もの が、 ある ん です か? いったい、 どうも、 ヒト を ヒトリ セワ して いる と いう の は、 どれだけ むずかしい もの だ か、 セワ されて いる ヒト には、 わかりますまい」
「すみません」
「そりゃ、 じつに、 シンパイ な もの です。 ワタシ も、 いったん アナタ の セワ を ひきうけた イジョウ、 アナタ にも、 ナマハンカ な キモチ で いて もらいたく ない の です。 リッパ に コウセイ の ミチ を たどる、 と いう カクゴ の ホド を みせて もらいたい の です。 たとえば、 アナタ の ショウライ の ホウシン、 それ に ついて アナタ の ほう から ワタシ に、 マジメ に ソウダン を もちかけて きた なら、 ワタシ も その ソウダン には おうずる つもり で います。 それ は、 どうせ こんな、 ビンボウ な ヒラメ の エンジョ なの です から、 イゼン の よう な ゼイタク を のぞんだら、 アテ が はずれます。 しかし、 アナタ の キモチ が しっかり して いて、 ショウライ の ホウシン を はっきり うちたて、 そうして ワタシ に ソウダン を して くれたら、 ワタシ は、 たとい わずか ずつ でも、 アナタ の コウセイ の ため に、 おてつだい しよう と さえ おもって いる ん です。 わかります か? ワタシ の キモチ が。 いったい、 アナタ は、 これから、 どう する つもり で いる の です」
「ここ の 2 カイ に、 おいて もらえなかったら、 はたらいて、……」
「ホンキ で、 そんな こと を いって いる の です か? イマ の この ヨノナカ に、 たとい テイコク ダイガッコウ を でたって、……」
「いいえ、 サラリーマン に なる ん では ない ん です」
「それじゃ、 ナン です」
「ガカ です」
 おもいきって、 それ を いいました。
「へええ?」
 ジブン は、 その とき の、 クビ を ちぢめて わらった ヒラメ の カオ の、 いかにも ずるそう な カゲ を わすれる こと が できません。 ケイベツ の カゲ にも にて、 それ とも ちがい、 ヨノナカ を ウミ に たとえる と、 その ウミ の チヒロ の フカサ の カショ に、 そんな キミョウ な カゲ が たゆとうて いそう で、 ナニ か、 オトナ の セイカツ の オクソコ を ちらと のぞかせた よう な ワライ でした。
 そんな こと では ハナシ にも なにも ならぬ、 ちっとも キモチ が しっかり して いない、 かんがえなさい、 コンヤ ヒトバン マジメ に かんがえて みなさい、 と いわれ、 ジブン は おわれる よう に 2 カイ に あがって、 ねて も、 べつに なんの カンガエ も うかびません でした。 そうして、 アケガタ に なり、 ヒラメ の イエ から にげました。
 ユウガタ、 マチガイ なく かえります。 サキ の ユウジン の モト へ、 ショウライ の ホウシン に ついて ソウダン に いって くる の です から、 ゴシンパイ なく。 ホントウ に。
 と、 ヨウセン に エンピツ で おおきく かき、 それから、 アサクサ の ホリキ マサオ の ジュウショ セイメイ を しるして、 こっそり、 ヒラメ の イエ を でました。
 ヒラメ に セッキョウ せられた の が、 くやしくて にげた わけ では ありません でした。 まさしく ジブン は、 ヒラメ の いう とおり、 キモチ の しっかり して いない オトコ で、 ショウライ の ホウシン も なにも ジブン には まるで ケントウ が つかず、 このうえ、 ヒラメ の イエ の ヤッカイ に なって いる の は、 ヒラメ にも キノドク です し、 その うち に、 もし まんいち、 ジブン にも ハップン の キモチ が おこり、 ココロザシ を たてた ところ で、 その コウセイ シキン を あの ビンボウ な ヒラメ から ツキヅキ エンジョ せられる の か と おもう と、 とても こころぐるしくて、 いたたまらない キモチ に なった から でした。
 しかし、 ジブン は、 いわゆる 「ショウライ の ホウシン」 を、 ホリキ ごとき に、 ソウダン に ゆこう など と ホンキ に おもって、 ヒラメ の イエ を でた の では なかった の でした。 それ は、 ただ、 わずか でも、 ツカノマ でも、 ヒラメ に アンシン させて おきたくて、 (その アイダ に ジブン が、 すこし でも トオク へ にげのびて いたい と いう タンテイ ショウセツ-テキ な サクリャク から、 そんな オキテガミ を かいた、 と いう より は、 いや、 そんな キモチ も かすか に あった に ちがいない の です が、 それ より も、 やはり ジブン は、 いきなり ヒラメ に ショック を あたえ、 カレ を コンラン トウワク させて しまう の が、 おそろしかった ばかり に、 と でも いった ほう が、 いくらか セイカク かも しれません。 どうせ、 ばれる に きまって いる のに、 その とおり に いう の が、 おそろしくて、 かならず なにかしら カザリ を つける の が、 ジブン の かなしい セイヘキ の ヒトツ で、 それ は セケン の ヒト が 「ウソツキ」 と よんで いやしめて いる セイカク に にて いながら、 しかし、 ジブン は ジブン に リエキ を もたらそう と して その カザリツケ を おこなった こと は ほとんど なく、 ただ フンイキ の きょうざめた イッペン が、 チッソク する くらい に おそろしくて、 アト で ジブン に フリエキ に なる と いう こと が わかって いて も、 レイ の ジブン の 「ヒッシ の ホウシ」 それ は たとい ゆがめられ ビジャク で、 ばからしい もの で あろう と、 その ホウシ の キモチ から、 つい イチゴン の カザリツケ を して しまう と いう バアイ が おおかった よう な キ も する の です が、 しかし、 この シュウセイ も また、 セケン の いわゆる 「ショウジキモノ」 たち から、 おおいに じょうぜられる ところ と なりました) その とき、 ふっと、 キオク の ソコ から うかんで きた まま に ホリキ の ジュウショ と セイメイ を、 ヨウセン の ハシ に したためた まで の こと だった の です。
 ジブン は ヒラメ の イエ を でて、 シンジュク まで あるき、 カイチュウ の ホン を うり、 そうして、 やっぱり トホウ に くれて しまいました。 ジブン は、 ミナ に アイソ が いい カワリ に、 「ユウジョウ」 と いう もの を、 イチド も ジッカン した こと が なく、 ホリキ の よう な アソビ トモダチ は ベツ と して、 イッサイ の ツキアイ は、 ただ クツウ を おぼえる ばかり で、 その クツウ を もみほぐそう と して ケンメイ に オドウケ を えんじて、 かえって、 へとへと に なり、 わずか に しりあって いる ヒト の カオ を、 それ に にた カオ を さえ、 オウライ など で みかけて も、 ぎょっと して、 イッシュン、 メマイ する ほど の フカイ な センリツ に おそわれる アリサマ で、 ヒト に すかれる こと は しって いて も、 ヒト を あいする ノウリョク に おいて は かけて いる ところ が ある よう でした。 (もっとも、 ジブン は、 ヨノナカ の ニンゲン に だって、 はたして、 「アイ」 の ノウリョク が ある の か どう か、 たいへん ギモン に おもって います) そのよう な ジブン に、 いわゆる 「シンユウ」 など できる はず は なく、 そのうえ ジブン には、 「ヴィジット」 の ノウリョク さえ なかった の です。 タニン の イエ の モン は、 ジブン に とって、 あの シンキョク の ジゴク の モン イジョウ に うすきみわるく、 その モン の オク には、 おそろしい リュウ みたい な なまぐさい キジュウ が うごめいて いる ケハイ を、 コチョウ で なし に、 ジッカン せられて いた の です。
 ダレ とも、 ツキアイ が ない。 どこ へも、 たずねて ゆけない。
 ホリキ。
 それこそ、 ジョウダン から コマ が でた カタチ でした。 あの オキテガミ に、 かいた とおり に、 ジブン は アサクサ の ホリキ を たずねて ゆく こと に した の です。 ジブン は これまで、 ジブン の ほう から ホリキ の イエ を たずねて いった こと は、 イチド も なく、 たいてい デンポウ で ホリキ を ジブン の ほう に よびよせて いた の です が、 イマ は その デンポウリョウ さえ こころぼそく、 それに おちぶれた ミ の ヒガミ から、 デンポウ を うった だけ では、 ホリキ は、 きて くれぬ かも しれぬ と かんがえて、 ナニ より も ジブン に ニガテ の 「ホウモン」 を ケツイ し、 タメイキ を ついて シデン に のり、 ジブン に とって、 この ヨノナカ で たった ヒトツ の タノミ の ツナ は、 あの ホリキ なの か、 と おもいしったら、 ナニ か セスジ の さむく なる よう な すさまじい ケハイ に おそわれました。
 ホリキ は、 ザイタク でした。 きたない ロジ の オク の、 ニカイヤ で、 ホリキ は 2 カイ の たった ヒトヘヤ の 6 ジョウ を つかい、 シタ では、 ホリキ の ロウフボ と、 それから わかい ショクニン と 3 ニン、 ゲタ の ハナオ を ぬったり たたいたり して セイゾウ して いる の でした。
 ホリキ は、 その ヒ、 カレ の トカイジン と して の あたらしい イチメン を ジブン に みせて くれました。 それ は、 ぞくに いう チャッカリショウ でした。 イナカモノ の ジブン が、 がくぜん と メ を みはった くらい の、 つめたく、 ずるい エゴイズム でした。 ジブン の よう に、 ただ、 トメド なく ながれる タチ の オトコ では なかった の です。
「オマエ には、 まったく あきれた。 オヤジサン から、 オユルシ が でた かね。 まだ かい」
 にげて きた、 とは、 いえません でした。
 ジブン は、 レイ に よって、 ごまかしました。 いまに、 すぐ、 ホリキ に きづかれる に ちがいない のに、 ごまかしました。
「それ は、 どうにか なる さ」
「おい、 ワライゴト じゃ ない ぜ。 チュウコク する けど、 バカ も この ヘン で やめる ん だな。 オレ は、 キョウ は、 ヨウジ が ある ん だ がね。 コノゴロ、 バカ に いそがしい ん だ」
「ヨウジ って、 どんな?」
「おい、 おい、 ザブトン の イト を きらない で くれ よ」
 ジブン は ハナシ を しながら、 ジブン の しいて いる ザブトン の トジイト と いう の か、 ククリヒモ と いう の か、 あの フサ の よう な ヨスミ の イト の ヒトツ を ムイシキ に ユビサキ で もてあそび、 ぐいと ひっぱったり など して いた の でした。 ホリキ は、 ホリキ の イエ の シナモノ なら、 ザブトン の イト 1 ポン でも おしい らしく、 はじる イロ も なく、 それこそ、 メ に カド を たてて、 ジブン を とがめる の でした。 かんがえて みる と、 ホリキ は、 これまで ジブン との ツキアイ に おいて なにひとつ うしなって は いなかった の です。
 ホリキ の ロウボ が、 オシルコ を フタツ オボン に のせて もって きました。
「あ、 これ は」
 と ホリキ は、 しんから の コウコウ ムスコ の よう に、 ロウボ に むかって キョウシュク し、 コトバヅカイ も フシゼン な くらい テイネイ に、
「すみません、 オシルコ です か。 ゴウギ だなあ。 こんな シンパイ は、 いらなかった ん です よ。 ヨウジ で、 すぐ ガイシュツ しなけりゃ いけない ん です から。 いいえ、 でも、 せっかく の ゴジマン の オシルコ を、 もったいない。 いただきます。 オマエ も ひとつ、 どう だい。 オフクロ が、 わざわざ つくって くれた ん だ。 ああ、 こいつ あ、 うめえ や。 ゴウギ だなあ」
 と、 まんざら シバイ でも ない みたい に、 ひどく よろこび、 おいしそう に たべる の です。 ジブン も それ を すすりました が、 オユ の ニオイ が して、 そうして、 オモチ を たべたら、 それ は オモチ で なく、 ジブン には わからない もの でした。 けっして、 その マズシサ を ケイベツ した の では ありません。 (ジブン は、 その とき それ を、 まずい とは おもいません でした し、 また、 ロウボ の ココロヅクシ も ミ に しみました。 ジブン には、 マズシサ への キョウフカン は あって も、 ケイベツカン は、 ない つもり で います) あの オシルコ と、 それから、 その オシルコ を よろこぶ ホリキ に よって、 ジブン は、 トカイジン の つましい ホンショウ、 また、 ウチ と ソト を ちゃんと クベツ して いとなんで いる トウキョウ の ヒト の カテイ の ジッタイ を みせつけられ、 ウチ も ソト も カワリ なく、 ただ のべつまくなし に ニンゲン の セイカツ から にげまわって ばかり いる ウスバカ の ジブン ヒトリ だけ カンゼン に とりのこされ、 ホリキ に さえ みすてられた よう な ケハイ に、 ロウバイ し、 オシルコ の はげた ヌリバシ を あつかいながら、 たまらなく わびしい オモイ を した と いう こと を、 しるして おきたい だけ なの です。
「わるい けど、 オレ は、 キョウ は ヨウジ が ある んで ね」
 ホリキ は たって、 ウワギ を きながら そう いい、
「シッケイ する ぜ、 わるい けど」
 その とき、 ホリキ に オンナ の ホウモンシャ が あり、 ジブン の ミノウエ も キュウテン しました。
 ホリキ は、 にわか に カッキ-づいて、
「や、 すみません。 イマ ね、 アナタ の ほう へ おうかがい しよう と おもって いた の です がね、 この ヒト が とつぜん やって きて、 いや、 かまわない ん です。 さあ、 どうぞ」
 よほど、 あわてて いる らしく、 ジブン が ジブン の しいて いる ザブトン を はずして ウラガエシ に して さしだした の を ひったくって、 また ウラガエシ に して、 その オンナ の ヒト に すすめました。 ヘヤ には、 ホリキ の ザブトン の ホカ には、 キャク ザブトン が たった 1 マイ しか なかった の です。
 オンナ の ヒト は やせて、 セ の たかい ヒト でした。 その ザブトン は ソバ に のけて、 イリグチ チカク の カタスミ に すわりました。
 ジブン は、 ぼんやり フタリ の カイワ を きいて いました。 オンナ は ザッシシャ の ヒト の よう で、 ホリキ に カット だ か、 なんだか を かねて たのんで いた らしく、 それ を ウケトリ に きた みたい な グアイ でした。
「いそぎます ので」
「できて います。 もう とっく に できて います。 これ です、 どうぞ」
 デンポウ が きました。
 ホリキ が、 それ を よみ、 ジョウキゲン の その カオ が みるみる ケンアク に なり、
「ちぇっ! オマエ、 こりゃ、 どうした ん だい」
 ヒラメ から の デンポウ でした。
「とにかく、 すぐに かえって くれ。 オレ が、 オマエ を おくりとどける と いい ん だろう が、 オレ には イマ、 そんな ヒマ は、 ねえ や。 イエデ して いながら、 その、 ノンキ そう な ツラ ったら」
「オタク は、 どちら なの です か?」
「オオクボ です」
 ふいと こたえて しまいました。
「そんなら、 シャ の チカク です から」
 オンナ は、 コウシュウ の ウマレ で 28 サイ でした。 イツツ に なる ジョジ と、 コウエンジ の アパート に すんで いました。 オット と シベツ して、 3 ネン に なる と いって いました。
「アナタ は、 ずいぶん クロウ して そだって きた みたい な ヒト ね。 よく キ が きく わ。 かわいそう に」
 はじめて、 オトコメカケ みたい な セイカツ を しました。 シヅコ (と いう の が、 その オンナ キシャ の ナマエ でした) が シンジュク の ザッシシャ に ツトメ に でた アト は、 ジブン と それから シゲコ と いう イツツ の ジョジ と フタリ、 おとなしく オルスバン と いう こと に なりました。 それまで は、 ハハ の ルス には、 シゲコ は アパート の カンリニン の ヘヤ で あそんで いた よう でした が、 「キ の きく」 オジサン が アソビアイテ と して あらわれた ので、 おおいに ゴキゲン が いい ヨウス でした。
 1 シュウカン ほど、 ぼんやり、 ジブン は そこ に いました。 アパート の マド の すぐ チカク の デンセン に、 ヤッコダコ が ヒトツ ひっからまって いて、 ハル の ホコリカゼ に ふかれ、 やぶられ、 それでも なかなか、 しつっこく デンセン に からみついて はなれず、 なにやら うなずいたり なんか して いる ので、 ジブン は それ を みる たび ごと に クショウ し、 セキメン し、 ユメ に さえ みて、 うなされました。
「オカネ が、 ほしい な」
「……いくら ぐらい?」
「タクサン。 ……カネ の キレメ が、 エン の キレメ、 って、 ホントウ の こと だよ」
「ばからしい。 そんな、 ふるくさい、……」
「そう? しかし、 キミ には、 わからない ん だ。 コノママ では、 ボク は、 にげる こと に なる かも しれない」
「いったい、 どっち が ビンボウ なの よ。 そうして、 どっち が にげる のよ。 ヘン ねえ」
「ジブン で かせいで、 その オカネ で、 オサケ、 いや、 タバコ を かいたい。 エ だって ボク は、 ホリキ なんか より、 ずっと ジョウズ な つもり なん だ」
 このよう な とき、 ジブン の ノウリ に おのずから うかびあがって くる もの は、 あの チュウガク ジダイ に かいた タケイチ の いわゆる 「オバケ」 の、 スウマイ の ジガゾウ でした。 うしなわれた ケッサク。 それ は、 たびたび の ヒッコシ の アイダ に、 うしなわれて しまって いた の です が、 あれ だけ は、 たしか に すぐれて いる エ だった よう な キ が する の です。 ソノゴ、 さまざま かいて みて も、 その オモイデ の ナカ の イッピン には、 とおく とおく およばず、 ジブン は いつも、 ムネ が カラッポ に なる よう な、 だるい ソウシツカン に なやまされつづけて きた の でした。
 のみのこした 1 パイ の アブサン。
 ジブン は、 その エイエン に つぐないがたい よう な ソウシツカン を、 こっそり そう ケイヨウ して いました。 エ の ハナシ が でる と、 ジブン の ガンゼン に、 その のみのこした 1 パイ の アブサン が ちらついて きて、 ああ、 あの エ を この ヒト に みせて やりたい、 そうして、 ジブン の ガサイ を しんじさせたい、 と いう ショウソウ に もだえる の でした。
「ふふ、 どう だ か。 アナタ は、 マジメ な カオ を して ジョウダン を いう から かわいい」
 ジョウダン では ない の だ、 ホントウ なん だ、 ああ、 あの エ を みせて やりたい、 と クウテン の ハンモン を して、 ふいと キ を かえ、 あきらめて、
「マンガ さ。 すくなくとも、 マンガ なら、 ホリキ より は、 うまい つもり だ」
 その、 ゴマカシ の ドウケ の コトバ の ほう が、 かえって マジメ に しんぜられました。
「そう ね。 ワタシ も、 じつは カンシン して いた の。 シゲコ に いつも かいて やって いる マンガ、 つい ワタシ まで ふきだして しまう。 やって みたら、 どう? ワタシ の シャ の ヘンシュウチョウ に、 たのんで みて あげて も いい わ」
 その シャ では、 コドモ アイテ の あまり ナマエ を しられて いない ゲッカン の ザッシ を ハッコウ して いた の でした。
 ……アナタ を みる と、 タイテイ の オンナ の ヒト は、 ナニ か して あげたくて、 たまらなく なる。 ……いつも、 おどおど して いて、 それでいて、 コッケイカ なん だ もの。 ……ときたま、 ヒトリ で、 ひどく しずんで いる けれども、 その サマ が、 いっそう オンナ の ヒト の ココロ を、 かゆがらせる。
 シヅコ に、 その ホカ サマザマ の こと を いわれて、 おだてられて も、 それ が すなわち オトコメカケ の けがらわしい トクシツ なの だ、 と おもえば、 それこそ いよいよ 「しずむ」 ばかり で、 いっこう に ゲンキ が でず、 オンナ より は カネ、 とにかく シヅコ から のがれて ジカツ したい と ひそか に ねんじ、 クフウ して いる ものの、 かえって だんだん シヅコ に たよらなければ ならぬ ハメ に なって、 イエデ の アトシマツ やら なにやら、 ほとんど ゼンブ、 この オトコマサリ の コウシュウ オンナ の セワ を うけ、 いっそう ジブン は、 シヅコ に たいし、 いわゆる 「おどおど」 しなければ ならぬ ケッカ に なった の でした。
 シヅコ の トリハカライ で、 ヒラメ、 ホリキ、 それに シヅコ、 3 ニン の カイダン が セイリツ して、 ジブン は、 コキョウ から まったく ゼツエン せられ、 そうして シヅコ と 「テンカ はれて」 ドウセイ と いう こと に なり、 これ また、 シヅコ の ホンソウ の おかげ で ジブン の マンガ も あんがい オカネ に なって、 ジブン は その オカネ で、 オサケ も、 タバコ も かいました が、 ジブン の ココロボソサ、 ウットウシサ は、 いよいよ つのる ばかり なの でした。 それこそ 「しずみ」 に 「しずみ」 きって、 シヅコ の ザッシ の マイツキ の レンサイ マンガ 「キンタ さん と オタ さん の ボウケン」 を かいて いる と、 ふいと コキョウ の イエ が おもいだされ、 あまり の ワビシサ に、 ペン が うごかなく なり、 うつむいて ナミダ を こぼした こと も ありました。
 そういう とき の ジブン に とって、 かすか な スクイ は、 シゲコ でした。 シゲコ は、 その コロ に なって ジブン の こと を、 なにも こだわらず に 「オトウチャン」 と よんで いました。
「オトウチャン。 オイノリ を する と、 カミサマ が、 なんでも くださる って、 ホントウ?」
 ジブン こそ、 その オイノリ を したい と おもいました。
 ああ、 ワレ に つめたき イシ を あたえたまえ。 ワレ に、 「ニンゲン」 の ホンシツ を しらしめたまえ。 ヒト が ヒト を おしのけて も、 ツミ ならず や。 ワレ に、 イカリ の マスク を あたえたまえ。
「うん、 そう。 シゲ ちゃん には なんでも くださる だろう けれども、 オトウチャン には、 ダメ かも しれない」
 ジブン は カミ に さえ、 おびえて いました。 カミ の アイ は しんぜられず、 カミ の バツ だけ を しんじて いる の でした。 シンコウ。 それ は、 ただ カミ の ムチ を うける ため に、 うなだれて シンパン の ダイ に むかう こと の よう な キ が して いる の でした。 ジゴク は しんぜられて も、 テンゴク の ソンザイ は、 どうしても しんぜられなかった の です。
「どうして、 ダメ なの?」
「オヤ の イイツケ に、 そむいた から」
「そう? オトウチャン は とても いい ヒト だ って、 ミンナ いう けど な」
 それ は、 だまして いる から だ、 この アパート の ヒトタチ ミナ に、 ジブン が コウイ を しめされて いる の は、 ジブン も しって いる、 しかし、 ジブン は、 どれほど ミナ を キョウフ して いる か、 キョウフ すれば する ほど すかれ、 そうして、 こちら は すかれる と すかれる ほど キョウフ し、 ミナ から はなれて ゆかねば ならぬ、 この フコウ な ビョウヘキ を、 シゲコ に セツメイ して きかせる の は、 シナン の こと でした。
「シゲ ちゃん は、 いったい、 カミサマ に ナニ を オネダリ したい の?」
 ジブン は、 なにげなさそう に ワトウ を てんじました。
「シゲコ は ね、 シゲコ の ホントウ の オトウチャン が ほしい の」
 ぎょっと して、 くらくら メマイ しました。 テキ。 ジブン が シゲコ の テキ なの か、 シゲコ が ジブン の テキ なの か、 とにかく、 ここ にも ジブン を おびやかす おそろしい オトナ が いた の だ、 タニン、 フカカイ な タニン、 ヒミツ-だらけ の タニン、 シゲコ の カオ が、 にわか に そのよう に みえて きました。
 シゲコ だけ は、 と おもって いた のに、 やはり、 この モノ も、 あの 「フイ に アブ を たたきころす ウシ の シッポ」 を もって いた の でした。 ジブン は、 それ イライ、 シゲコ に さえ おどおど しなければ ならなく なりました。
「シキマ! いる かい?」
 ホリキ が、 また ジブン の ところ へ たずねて くる よう に なって いた の です。 あの イエデ の ヒ に、 あれほど ジブン を さびしく させた オトコ なのに、 それでも ジブン は キョヒ できず、 かすか に わらって むかえる の でした。
「オマエ の マンガ は、 なかなか ニンキ が でて いる そう じゃ ない か。 アマチュア には、 こわい もの しらず の クソドキョウ が ある から かなわねえ。 しかし、 ユダン するな よ。 デッサン が、 ちっとも なって や しない ん だ から」
 オシショウ みたい な タイド を さえ しめす の です。 ジブン の あの 「オバケ」 の エ を、 コイツ に みせたら、 どんな カオ を する だろう、 と レイ の クウテン の ミモダエ を しながら、
「それ を いって くれるな。 ぎゃっ と いう ヒメイ が でる」
 ホリキ は、 いよいよ トクイ そう に、
「ヨワタリ の サイノウ だけ では、 いつかは、 ボロ が でる から な」
 ヨワタリ の サイノウ。 ……ジブン には、 ホントウ に クショウ の ホカ は ありません でした。 ジブン に、 ヨワタリ の サイノウ! しかし、 ジブン の よう に ニンゲン を おそれ、 さけ、 ごまかして いる の は、 レイ の ゾクゲン の 「さわらぬ カミ に タタリ なし」 とか いう レイリ コウカツ の ショセイクン を ジュンポウ して いる の と、 おなじ カタチ だ、 と いう こと に なる の でしょう か。 ああ、 ニンゲン は、 おたがい なにも アイテ を わからない、 まるっきり まちがって みて いながら、 ムニ の シンユウ の つもり で いて、 イッショウ、 それ に きづかず、 アイテ が しねば、 ないて チョウジ なんか を よんで いる の では ない でしょう か。
 ホリキ は、 なにせ、 (それ は シヅコ に おして たのまれて しぶしぶ ひきうけた に ちがいない の です が) ジブン の イエデ の アトシマツ に たちあった ヒト なので、 まるで もう、 ジブン の コウセイ の ダイオンジン か、 ゲッカ ヒョウジン の よう に ふるまい、 もっともらしい カオ を して ジブン に オセッキョウ-めいた こと を いったり、 また、 シンヤ、 よっぱらって ホウモン して とまったり、 また、 5 エン (きまって 5 エン でした) かりて いったり する の でした。
「しかし、 オマエ の、 オンナ ドウラク も この ヘン で よす ん だね。 これ イジョウ は、 セケン が、 ゆるさない から な」
 セケン とは、 いったい、 なんの こと でしょう。 ニンゲン の フクスウ でしょう か。 どこ に、 その セケン と いう もの の ジッタイ が ある の でしょう。 けれども、 なにしろ、 つよく、 きびしく、 こわい もの、 と ばかり おもって これまで いきて きた の です が、 しかし、 ホリキ に そう いわれて、 ふと、
「セケン と いう の は、 キミ じゃ ない か」
 と いう コトバ が、 シタ の サキ まで でかかって、 ホリキ を おこらせる の が いや で、 ひっこめました。
(それ は セケン が、 ゆるさない)
(セケン じゃ ない。 アナタ が、 ゆるさない の でしょう?)
(そんな こと を する と、 セケン から ひどい メ に あう ぞ)
(セケン じゃ ない。 アナタ でしょう?)
(いまに セケン から ほうむられる)
(セケン じゃ ない。 ほうむる の は、 アナタ でしょう?)
 ナンジ は、 ナンジ コジン の オソロシサ、 カイキ、 アクラツ、 フルダヌキ-セイ、 ヨウバ-セイ を しれ! など と、 サマザマ の コトバ が キョウチュウ に キョライ した の です が、 ジブン は、 ただ カオ の アセ を ハンケチ で ふいて、
「ヒヤアセ、 ヒヤアセ」
 と いって わらった だけ でした。
 けれども、 その とき イライ、 ジブン は、 (セケン とは コジン じゃ ない か) と いう、 シソウ-めいた もの を もつ よう に なった の です。
 そうして、 セケン と いう もの は、 コジン では なかろう か と おもいはじめて から、 ジブン は、 イマ まで より は たしょう、 ジブン の イシ で うごく こと が できる よう に なりました。 シヅコ の コトバ を かりて いえば、 ジブン は すこし ワガママ に なり、 おどおど しなく なりました。 また、 ホリキ の コトバ を かりて いえば、 へんに ケチ に なりました。 また、 シゲコ の コトバ を かりて いえば、 あまり シゲコ を かわいがらなく なりました。
 ムクチ で、 わらわず、 マイニチ マイニチ、 シゲコ の オモリ を しながら、 「キンタ さん と オタ さん の ボウケン」 やら、 また ノンキ な トウサン の れきぜん たる アリュウ の 「ノンキ オショウ」 やら、 また、 「セッカチ ピン ちゃん」 と いう ジブン ながら ワケ の わからぬ ヤケクソ の ダイ の レンサイ マンガ やら を、 カクシャ の ゴチュウモン (ぽつり ぽつり、 シヅコ の シャ の ホカ から も チュウモン が くる よう に なって いました が、 すべて それ は、 シヅコ の シャ より も、 もっと ゲヒン な いわば サンリュウ シュッパンシャ から の チュウモン ばかり でした) に おうじ、 じつに じつに インウツ な キモチ で、 のろのろ と、 (ジブン の エ の ウンピツ は、 ヒジョウ に おそい ほう でした) イマ は ただ、 サカダイ が ほしい ばかり に かいて、 そうして、 シヅコ が シャ から かえる と それ と コウタイ に ぷいと ソト へ でて、 コウエンジ の エキ チカク の ヤタイ や スタンド バー で やすくて つよい サケ を のみ、 すこし ヨウキ に なって アパート へ かえり、
「みれば みる ほど、 ヘン な カオ を して いる ねえ、 オマエ は。 ノンキ オショウ の カオ は、 じつは、 オマエ の ネガオ から ヒント を えた の だ」
「アナタ の ネガオ だって、 ずいぶん おふけ に なりまして よ。 シジュウ オトコ みたい」
「オマエ の せい だ。 すいとられた ん だ。 ミズ の ナガレ と、 ヒト の ミ はあ さ。 ナニ を くよくよ カワバタ ヤナアギイ さ」
「さわがない で、 はやく おやすみなさい よ。 それとも、 ゴハン を あがります か?」
 おちついて いて、 まるで アイテ に しません。
「サケ なら のむ がね。 ミズ の ナガレ と、 ヒト の ミ はあ さ。 ヒト の ナガレ と、 いや、 ミズ の ナガレエ と、 ミズ の ミ はあ さ」
 うたいながら、 シヅコ に イフク を ぬがせられ、 シヅコ の ムネ に ジブン の ヒタイ を おしつけて ねむって しまう、 それ が ジブン の ニチジョウ でした。

  して その あくる ヒ も おなじ こと を くりかえして、
  キノウ に かわらぬ シキタリ に したがえば よい。
  すなわち あらっぽい おおきな ヨロコビ を よけて さえ いれば、
  しぜん また おおきな カナシミ も やって こない の だ。
  ユクテ を ふさぐ ジャマ な イシ を
  ヒキガエル は まわって とおる。

 ウエダ ビン ヤク の ギー シャルル クロー とか いう ヒト の、 こんな シク を みつけた とき、 ジブン は ヒトリ で カオ を もえる くらい に あかく しました。
 ヒキガエル。
(それ が、 ジブン だ。 セケン が ゆるす も、 ゆるさぬ も ない。 ほうむる も、 ほうむらぬ も ない。 ジブン は、 イヌ より も ネコ より も レットウ な ドウブツ なの だ。 ヒキガエル。 のそのそ うごいて いる だけ だ)
 ジブン の インシュ は、 しだいに リョウ が ふえて きました。 コウエンジ エキ フキン だけ で なく、 シンジュク、 ギンザ の ほう に まで でかけて のみ、 ガイハク する こと さえ あり、 ただ もう 「シキタリ」 に したがわぬ よう、 バー で ブライカン の フリ を したり、 カタッパシ から キス したり、 つまり、 また、 あの ジョウシ イゼン の、 いや、 あの コロ より さらに すさんで ヤヒ な サケノミ に なり、 カネ に きゅうして、 シヅコ の イルイ を もちだす ほど に なりました。
 ここ へ きて、 あの やぶれた ヤッコダコ に クショウ して から 1 ネン イジョウ たって、 ハザクラ の コロ、 ジブン は、 またも シヅコ の オビ やら ジュバン やら を こっそり もちだして シチヤ に ゆき、 オカネ を つくって ギンザ で のみ、 フタバン つづけて ガイハク して、 ミッカ-メ の バン、 さすが に グアイ わるい オモイ で、 ムイシキ に アシオト を しのばせて、 アパート の シヅコ の ヘヤ の マエ まで くる と、 ナカ から、 シヅコ と シゲコ の カイワ が きこえます。
「なぜ、 オサケ を のむ の?」
「オトウチャン は ね、 オサケ を すき で のんで いる の では、 ない ん です よ。 あんまり いい ヒト だ から、 だから、……」
「いい ヒト は、 オサケ を のむ の?」
「そう でも ない けど、……」
「オトウチャン は、 きっと、 びっくり する わね」
「おきらい かも しれない。 ほら、 ほら、 ハコ から とびだした」
「セッカチ ピン ちゃん みたい ね」
「そう ねえ」
 シヅコ の、 しんから コウフク そう な ひくい ワライゴエ が きこえました。
 ジブン が、 ドア を ほそく あけて ナカ を のぞいて みます と、 シロウサギ の コ でした。 ぴょんぴょん ヘヤジュウ を、 はねまわり、 オヤコ は それ を おって いました。
(コウフク なん だ、 この ヒトタチ は。 ジブン と いう バカモノ が、 この フタリ の アイダ に はいって、 いまに フタリ を めちゃくちゃ に する の だ。 つつましい コウフク。 いい オヤコ。 コウフク を、 ああ、 もし カミサマ が、 ジブン の よう な モノ の イノリ でも きいて くれる なら、 イチド だけ、 ショウガイ に イチド だけ で いい、 いのる)
 ジブン は、 そこ に うずくまって ガッショウ したい キモチ でした。 そっと、 ドア を しめ、 ジブン は、 また ギンザ に ゆき、 それっきり、 その アパート には かえりません でした。
 そうして、 キョウバシ の すぐ チカク の スタンド バー の 2 カイ に ジブン は、 またも オトコメカケ の カタチ で、 ねそべる こと に なりました。
 セケン。 どうやら ジブン にも、 それ が ぼんやり わかりかけて きた よう な キ が して いました。 コジン と コジン の アラソイ で、 しかも、 その バ の アラソイ で、 しかも、 その バ で かてば いい の だ、 ニンゲン は けっして ニンゲン に フクジュウ しない、 ドレイ で さえ ドレイ-らしい ヒクツ な シッペガエシ を する もの だ、 だから、 ニンゲン には その バ の イッポン ショウブ に たよる ほか、 いきのびる クフウ が つかぬ の だ、 タイギ メイブン らしい もの を となえて いながら、 ドリョク の モクヒョウ は かならず コジン、 コジン を のりこえて また コジン、 セケン の ナンカイ は、 コジン の ナンカイ、 オーシャン は セケン で なくて、 コジン なの だ、 と ヨノナカ と いう タイカイ の ゲンエイ に おびえる こと から、 たしょう カイホウ せられて、 イゼン ほど、 あれこれ と サイゲン の ない ココロヅカイ する こと なく、 いわば さしあたって の ヒツヨウ に おうじて、 いくぶん ずうずうしく ふるまう こと を おぼえて きた の です。
 コウエンジ の アパート を すて、 キョウバシ の スタンド バー の マダム に、
「わかれて きた」
 それ だけ いって、 それ で ジュウブン、 つまり イッポン ショウブ は きまって、 その ヨル から、 ジブン は ランボウ にも そこ の 2 カイ に とまりこむ こと に なった の です が、 しかし、 おそろしい はず の 「セケン」 は、 ジブン に なんの キガイ も くわえません でした し、 また ジブン も 「セケン」 に たいして なんの ベンメイ も しません でした。 マダム が、 その キ だったら、 それ で スベテ が いい の でした。
 ジブン は、 その ミセ の オキャク の よう でも あり、 テイシュ の よう でも あり、 ハシリヅカイ の よう でも あり、 シンセキ の モノ の よう でも あり、 ハタ から みて はなはだ エタイ の しれない ソンザイ だった はず なのに、 「セケン」 は すこしも あやしまず、 そうして その ミセ の ジョウレン たち も、 ジブン を、 ヨウ ちゃん、 ヨウ ちゃん と よんで、 ひどく やさしく あつかい、 そうして オサケ を のませて くれる の でした。
 ジブン は ヨノナカ に たいして、 しだいに ヨウジン しなく なりました。 ヨノナカ と いう ところ は、 そんな に、 おそろしい ところ では ない、 と おもう よう に なりました。 つまり、 これまで の ジブン の キョウフカン は、 ハル の カゼ には ヒャクニチゼキ の バイキン が ナンジュウマン、 セントウ には メ の つぶれる バイキン が ナンジュウマン、 トコヤ には トクトウビョウ の バイキン が ナンジュウマン、 ショウセン の ツリカワ には カイセン の ムシ が うようよ、 または、 オサシミ、 ギュウ ブタニク の ナマヤケ には、 サナダムシ の ヨウチュウ やら、 ジストマ やら、 なにやら の タマゴ など が かならず ひそんで いて、 また、 ハダシ で あるく と アシ の ウラ から ガラス の ちいさい ハヘン が はいって、 その ハヘン が タイナイ を かけめぐり メダマ を ついて シツメイ させる こと も ある とか いう いわば 「カガク の メイシン」 に おびやかされて いた よう な もの なの でした。 それ は、 たしか に ナンジュウマン も の バイキン の うかび およぎ うごめいて いる の は、 「カガクテキ」 にも、 セイカク な こと でしょう。 と ドウジ に、 その ソンザイ を カンゼン に モクサツ さえ すれば、 それ は ジブン と ミジン の ツナガリ も なくなって たちまち きえうせる 「カガク の ユウレイ」 に すぎない の だ と いう こと をも、 ジブン は しる よう に なった の です。 オベントウバコ に タベノコシ の ゴハン ミツブ、 1000 マン-ニン が 1 ニチ に ミツブ ずつ たべのこして も すでに それ は、 コメ ナンピョウ を ムダ に すてた こと に なる、 とか、 あるいは、 1 ニチ に ハナガミ 1 マイ の セツヤク を 1000 マン-ニン が おこなう ならば、 どれ だけ の パルプ が うく か、 など と いう 「カガクテキ トウケイ」 に、 ジブン は、 どれだけ おびやかされ、 ゴハン を ヒトツブ でも たべのこす たび ごと に、 また ハナ を かむ たび ごと に、 やまほど の コメ、 やまほど の パルプ を クウヒ する よう な サッカク に なやみ、 ジブン が イマ ジュウダイ な ツミ を おかして いる みたい な くらい キモチ に なった もの です が、 しかし、 それ こそ 「カガク の ウソ」 「トウケイ の ウソ」 「スウガク の ウソ」 で、 ミツブ の ゴハン は あつめられる もの で なく、 カケザン ワリザン の オウヨウ モンダイ と して も、 まことに ゲンシテキ で テイノウ な テーマ で、 デンキ の ついて ない くらい オベンジョ の、 あの アナ に ヒト は ナンド に イチド カタアシ を ふみはずして ラッカ させる か、 または、 ショウセン デンシャ の デイリグチ と、 プラットホーム の ヘリ との あの スキマ に、 ジョウキャク の ナンニン-チュウ の ナンニン が アシ を おとしこむ か、 そんな プロバビリティ を ケイサン する の と おなじ テイド に ばからしく、 それ は いかにも ありうる こと の よう でも ありながら、 オベンジョ の アナ を またぎそこねて ケガ を した と いう レイ は、 すこしも きかない し、 そんな カセツ を 「カガクテキ ジジツ」 と して おしえこまれ、 それ を まったく ゲンジツ と して うけとり、 キョウフ して いた キノウ まで の ジブン を いとおしく おもい、 わらいたく おもった くらい に、 ジブン は、 ヨノナカ と いう もの の ジッタイ を すこし ずつ しって きた と いう わけ なの でした。
 そう は いって も、 やはり ニンゲン と いう もの が、 まだまだ、 ジブン には おそろしく、 ミセ の オキャク と あう の にも、 オサケ を コップ で 1 パイ ぐいと のんで から で なければ いけません でした。 こわい もの ミタサ。 ジブン は、 マイバン、 それでも オミセ に でて、 コドモ が、 じつは すこし こわがって いる ショウドウブツ など を、 かえって つよく ぎゅっと にぎって しまう みたい に、 ミセ の オキャク に むかって よって つたない ゲイジュツロン を ふきかける よう に さえ なりました。
 マンガカ。 ああ、 しかし、 ジブン は、 おおきな ヨロコビ も、 また、 おおきな カナシミ も ない ムメイ の マンガカ。 いかに おおきな カナシミ が アト で やって きて も いい、 あらっぽい おおきな ヨロコビ が ほしい と ナイシン あせって は いて も、 ジブン の ゲンザイ の ヨロコビ たる や、 オキャク と ムダゴト を いいあい、 オキャク の サケ を のむ こと だけ でした。
 キョウバシ へ きて、 こういう くだらない セイカツ を すでに 1 ネン ちかく つづけ、 ジブン の マンガ も、 コドモ アイテ の ザッシ だけ で なく、 エキウリ の ソアク で ヒワイ な ザッシ など にも のる よう に なり、 ジブン は、 ジョウシ イクタ (ジョウシ、 いきた) と いう、 ふざけきった トクメイ で、 きたない ハダカ の エ など かき、 それ に たいてい ルバイヤット の シク を ソウニュウ しました。

  ムダ な オイノリ なんか よせ ったら
  ナミダ を さそう もの なんか、 かなぐりすてろ
  まあ イッパイ いこう、 いい こと ばかり おもいだして
  ヨケイ な ココロヅカイ なんか わすれっちまい な

  フアン や キョウフ もて ヒト を おびやかす ヤカラ は
  ミズカラ の つくりし だいそれた ツミ に おびえ
  しにし モノ の フクシュウ に そなえん と
  ミズカラ の アタマ に たえず ハカライ を なす

  ヨベ、 サケ みちて わが ハート は ヨロコビ に みち
  ケサ、 さめて ただに こうりょう
  いぶかし、 ヒトヨサ の ナカ
  さまかわりたる この キブン よ

  タタリ なんて おもう こと やめて くれ
  トオク から ひびく タイコ の よう に
  なにがなし そいつ は フアン だ
  へひった こと まで いちいち ツミ に カンジョウ されたら たすからん わい

  セイギ は ジンセイ の シシン たり とや?
  さらば チ に ぬられたる センジョウ に
  アンサツシャ の キッサキ に
  なんの セイギ か やどれる や?

  いずこ に シドウ ゲンリ あり や?
  いかなる エイチ の ヒカリ あり や?
  うるわしく も おそろしき は ウキヨ なれ
  かよわき ヒト の コ は せおいきれぬ ニ をば おわされ

  どうにも できない ジョウヨク の タネ を うえつけられた ばかり に
  ゼン だ アク だ ツミ だ バツ だ と のろわるる ばかり
  どうにも できない ただ まごつく ばかり
  おさえくだく チカラ も イシ も さずけられぬ ばかり に

  どこ を どう うろつきまわってた ん だい
  なに ヒハン、 ケントウ、 サイニンシキ?
  へっ、 むなしき ユメ を、 あり も しない マボロシ を
  えへっ、 サケ を わすれた んで、 みんな コケ の シアン さ

  どう だ、 この ハテ も ない オオゾラ を ごらん よ
  この ナカ に ぽっちり うかんだ テン じゃい
  この チキュウ が なんで ジテン する の か わかる もん か
  ジテン、 コウテン、 ハンテン も カッテ です わい

  いたる ところ に、 シコウ の チカラ を かんじ
  あらゆる クニ に あらゆる ミンゾク に
  ドウイツ の ニンゲンセイ を ハッケン する
  ワレ は イタンシャ なり とか や

  ミンナ セイキョウ を よみちがえてん のよ
  で なきゃ ジョウシキ も チエ も ない のよ
  イキミ の ヨロコビ を きんじたり、 サケ を やめたり
  いい わ、 ムスタッファ、 ワタシ そんな の、 だいきらい

 けれども、 その コロ、 ジブン に サケ を やめよ、 と すすめる ショジョ が いました。
「いけない わ、 マイニチ、 オヒル から、 よって いらっしゃる」
 バー の ムカイ の、 ちいさい タバコヤ の 17~18 の ムスメ でした。 ヨシ ちゃん と いい、 イロ の しろい、 ヤエバ の ある コ でした。 ジブン が、 タバコ を かい に ゆく たび に、 わらって チュウコク する の でした。
「なぜ、 いけない ん だ。 どうして わるい ん だ。 ある だけ の サケ を のんで、 ヒト の コ よ、 ゾウオ を けせ けせ けせ、 って ね、 ムカシ ペルシャ の ね、 まあ よそう、 かなしみつかれたる ハート に キボウ を もちきたす は、 ただ ビクン を もたらす ギョクハイ なれ、 って ね。 わかる かい」
「わからない」
「この ヤロウ。 キス して やる ぞ」
「して よ」
 ちっとも わるびれず シタクチビル を つきだす の です。
「バカヤロウ。 テイソウ カンネン、……」
 しかし、 ヨシ ちゃん の ヒョウジョウ には、 あきらか に ダレ にも けがされて いない ショジョ の ニオイ が して いました。
 トシ が あけて ゲンカン の ヨル、 ジブン は よって タバコ を かい に でて、 その タバコヤ の マエ の マンホール に おちて、 ヨシ ちゃん、 たすけて くれえ、 と さけび、 ヨシ ちゃん に ひきあげられ、 ミギウデ の キズ の テアテ を、 ヨシ ちゃん に して もらい、 その とき ヨシ ちゃん は、 しみじみ、
「のみすぎます わよ」
 と わらわず に いいました。
 ジブン は しぬ の は ヘイキ なん だ けど、 ケガ を して シュッケツ して そうして フグシャ など に なる の は、 マッピラ ゴメン の ほう です ので、 ヨシ ちゃん に ウデ の キズ の テアテ を して もらいながら、 サケ も、 もう イイカゲン に よそう かしら、 と おもった の です。
「やめる。 アシタ から、 イッテキ も のまない」
「ホントウ?」
「きっと、 やめる。 やめたら、 ヨシ ちゃん、 ボク の オヨメ に なって くれる かい?」
 しかし、 オヨメ の ケン は ジョウダン でした。
「もち よ」
 もち とは、 「もちろん」 の リャクゴ でした。 モボ だの、 モガ だの、 その コロ いろんな リャクゴ が はやって いました。
「ようし。 ゲンマン しよう。 きっと やめる」
 そうして あくる ヒ、 ジブン は、 やはり ヒル から のみました。
 ユウガタ、 ふらふら ソト へ でて、 ヨシ ちゃん の ミセ の マエ に たち、
「ヨシ ちゃん、 ごめん ね。 のんじゃった」
「あら、 いや だ。 よった フリ なんか して」
 はっと しました。 ヨイ も さめた キモチ でした。
「いや、 ホントウ なん だ。 ホントウ に のんだ の だよ。 よった フリ なんか してる ん じゃ ない」
「からかわないで よ。 ヒト が わるい」
 てんで うたがおう と しない の です。
「みれば わかりそう な もの だ。 キョウ も、 オヒル から のんだ の だ。 ゆるして ね」
「オシバイ が、 うまい のねえ」
「シバイ じゃあ ない よ、 バカヤロウ。 キス して やる ぞ」
「して よ」
「いや、 ボク には シカク が ない。 オヨメ に もらう の も あきらめなくちゃ ならん。 カオ を みなさい、 あかい だろう? のんだ の だよ」
「それ あ、 ユウヒ が あたって いる から よ。 かつごう たって、 ダメ よ。 キノウ ヤクソク した ん です もの。 のむ はず が ない じゃ ない の。 ゲンマン した ん です もの。 のんだ なんて、 ウソ、 ウソ、 ウソ」
 うすぐらい ミセ の ナカ に すわって ビショウ して いる ヨシ ちゃん の しろい カオ、 ああ、 ヨゴレ を しらぬ ヴァジニティ は とうとい もの だ、 ジブン は イマ まで、 ジブン より も わかい ショジョ と ねた こと が ない、 ケッコン しよう、 どんな おおきな カナシミ が その ため に アト から やって きて も よい、 あらっぽい ほど の おおきな ヨロコビ を、 ショウガイ に イチド で いい、 ショジョセイ の ウツクシサ とは、 それ は バカ な シジン の あまい カンショウ の マボロシ に すぎぬ と おもって いた けれども、 やはり この ヨノナカ に いきて ある もの だ、 ケッコン して ハル に なったら フタリ で ジテンシャ で アオバ の タキ を み に ゆこう、 と、 その バ で ケツイ し、 いわゆる 「イッポン ショウブ」 で、 その ハナ を ぬすむ の に ためらう こと を しません でした。
 そうして ジブン たち は、 やがて ケッコン して、 それ に よって えた ヨロコビ は、 かならずしも おおきく は ありません でした が、 その アト に きた カナシミ は、 セイサン と いって も たりない くらい、 じつに ソウゾウ を ぜっして、 おおきく やって きました。 ジブン に とって、 「ヨノナカ」 は、 やはり そこしれず、 おそろしい ところ でした。 けっして、 そんな イッポン ショウブ など で、 ナニ から ナニ まで きまって しまう よう な、 なまやさしい ところ でも なかった の でした。