ヒカゲモノ、 と いう コトバ が あります。 ニンゲン の ヨ に おいて、 みじめ な、 ハイシャ、 アクトクシャ を ゆびさして いう コトバ の よう です が、 ジブン は、 ジブン を うまれた とき から の ヒカゲモノ の よう な キ が して いて、 セケン から、 あれ は ヒカゲモノ だ と ゆびさされて いる ほど の ヒト と あう と、 ジブン は、 かならず、 やさしい ココロ に なる の です。 そうして、 その ジブン の 「やさしい ココロ」 は、 ジシン で うっとり する くらい やさしい ココロ でした。
また、 ハンニン イシキ、 と いう コトバ も あります。 ジブン は、 この ニンゲン の ヨノナカ に おいて、 イッショウ その イシキ に くるしめられながら も、 しかし、 それ は ジブン の ソウコウ の ツマ の ごとき コウハンリョ で、 そいつ と フタリ きり で わびしく あそびたわむれて いる と いう の も、 ジブン の いきて いる シセイ の ヒトツ だった かも しれない し、 また、 ぞくに、 スネ に キズ もつ ミ、 と いう コトバ も ある よう です が、 その キズ は、 ジブン の アカンボウ の とき から、 シゼン に カタホウ の スネ に あらわれて、 ちょうずる に およんで チユ する どころ か、 いよいよ ふかく なる ばかり で、 ホネ に まで たっし、 ヨヨ の ツウク は センペン バンカ の ジゴク とは いいながら、 しかし、 (これ は、 たいへん キミョウ な イイカタ です けど) その キズ は、 しだいに ジブン の ケツニク より も したしく なり、 その キズ の イタミ は、 すなわち キズ の いきて いる カンジョウ、 または アイジョウ の ササヤキ の よう に さえ おもわれる、 そんな オトコ に とって、 レイ の チカ ウンドウ の グループ の フンイキ が、 へんに アンシン で、 イゴコチ が よく、 つまり、 その ウンドウ の ホンライ の モクテキ より も、 その ウンドウ の ハダ が、 ジブン に あった カンジ なの でした。 ホリキ の バアイ は、 ただ もう アホウ の ヒヤカシ で、 イチド ジブン を ショウカイ し に その カイゴウ へ いった きり で、 マルキシスト は、 セイサンメン の ケンキュウ と ドウジ に、 ショウヒメン の シサツ も ヒツヨウ だ など と ヘタ な シャレ を いって、 その カイゴウ には よりつかず、 とかく ジブン を、 その ショウヒメン の シサツ の ほう に ばかり さそいたがる の でした。 おもえば、 トウジ は、 サマザマ の カタ の マルキシスト が いた もの です。 ホリキ の よう に、 キョエイ の モダニティ から、 それ を ジショウ する モノ も あり、 また ジブン の よう に、 ただ ヒゴウホウ の ニオイ が キ に いって、 そこ に すわりこんで いる モノ も あり、 もしも これら の ジッタイ が、 マルキシズム の シン の シンポウシャ に みやぶられたら、 ホリキ も ジブン も、 レッカ の ごとく おこられ、 ヒレツ なる ウラギリモノ と して、 たちどころに おいはらわれた こと でしょう。 しかし、 ジブン も、 また、 ホリキ で さえ も、 なかなか ジョメイ の ショブン に あわず、 ことにも ジブン は、 その ヒゴウホウ の セカイ に おいて は、 ゴウホウ の シンシ たち の セカイ に おける より も、 かえって のびのび と、 いわゆる 「ケンコウ」 に ふるまう こと が できました ので、 ミコミ の ある 「ドウシ」 と して、 ふきだしたく なる ほど カド に ヒミツ-めかした、 サマザマ の ヨウジ を たのまれる ほど に なった の です。 また、 じじつ、 ジブン は、 そんな ヨウジ を イチド も ことわった こと は なく、 ヘイキ で なんでも ひきうけ、 へんに ぎくしゃく して、 イヌ (ドウシ は、 ポリス を そう よんで いました) に あやしまれ フシン ジンモン など を うけて しくじる よう な こと も なかった し、 わらいながら、 また、 ヒト を わらわせながら、 その あぶない (その ウンドウ の レンチュウ は、 イチダイジ の ごとく キンチョウ し、 タンテイ ショウセツ の ヘタ な マネ みたい な こと まで して、 キョクド の ケイカイ を もちい、 そうして ジブン に たのむ シゴト は、 まことに、 アッケ に とられる くらい、 つまらない もの でした が、 それでも、 カレラ は、 その ヨウジ を、 さかん に、 あぶながって りきんで いる の でした) と、 カレラ の しょうする シゴト を、 とにかく セイカク に やって のけて いました。 ジブン の その トウジ の キモチ と して は、 トウイン に なって とらえられ、 たとい シュウシン、 ケイムショ で くらす よう に なった と して も、 ヘイキ だった の です。 ヨノナカ の ニンゲン の 「ジッセイカツ」 と いう もの を キョウフ しながら、 マイヨ の フミン の ジゴク で うめいて いる より は、 いっそ ロウヤ の ほう が、 ラク かも しれない と さえ かんがえて いました。
チチ は、 サクラギ-チョウ の ベッソウ では、 ライキャク やら ガイシュツ やら、 おなじ イエ に いて も、 ミッカ も ヨッカ も ジブン と カオ を あわせる こと が ない ほど でした が、 しかし、 どうにも、 チチ が けむったく、 おそろしく、 この イエ を でて、 どこ か ゲシュク でも、 と かんがえながら も それ を いいだせず に いた ヤサキ に、 チチ が その イエ を うりはらう つもり らしい と いう こと を ベッソウバン の ロウヤ から ききました。
チチ の ギイン の ニンキ も そろそろ マンキ に ちかづき、 いろいろ リユウ の あった こと に チガイ ありません が、 もう これきり センキョ に でる イシ も ない ヨウス で、 それに、 コキョウ に ヒトムネ、 インキョジョ など たてたり して、 トウキョウ に ミレン も ない らしく、 たかが、 コウトウ ガッコウ の イチ セイト に すぎない ジブン の ため に、 テイタク と メシツカイ を テイキョウ して おく の も、 ムダ な こと だ と でも かんがえた の か、 (チチ の ココロ も また、 セケン の ヒトタチ の キモチ と ドウヨウ に、 ジブン には よく わかりません) とにかく、 その イエ は、 まもなく ヒトデ に わたり、 ジブン は、 ホンゴウ モリカワ-チョウ の センユウカン と いう ふるい ゲシュク の、 うすぐらい ヘヤ に ひっこして、 そうして、 たちまち カネ に こまりました。
それまで、 チチ から ツキヅキ、 きまった ガク の コヅカイ を てわたされ、 それ は もう、 2~3 ニチ で なくなって も、 しかし、 タバコ も、 サケ も、 チーズ も、 クダモノ も、 いつでも イエ に あった し、 ホン や ブンボウグ や ソノタ、 フクソウ に かんする もの など いっさい、 いつでも、 キンジョ の ミセ から いわゆる 「ツケ」 で もとめられた し、 ホリキ に オソバ か テンドン など を ゴチソウ して も、 チチ の ヒイキ の チョウナイ の ミセ だったら、 ジブン は だまって その ミセ を でて も かまわなかった の でした。
それ が キュウ に、 ゲシュク の ヒトリズマイ に なり、 なにもかも、 ツキヅキ の テイガク の ソウキン で まにあわせなければ ならなく なって、 ジブン は、 まごつきました。 ソウキン は、 やはり、 2~3 ニチ で きえて しまい、 ジブン は りつぜん と し、 ココロボソサ の ため に くるう よう に なり、 チチ、 アニ、 アネ など へ コウゴ に オカネ を たのむ デンポウ と、 イサイ フミ の テガミ (その テガミ に おいて うったえて いる ジジョウ は、 ことごとく、 オドウケ の キョコウ でした。 ヒト に モノ を たのむ の に、 まず、 その ヒト を わらわせる の が ジョウサク と かんがえて いた の です) を レンパツ する イッポウ、 また、 ホリキ に おしえられ、 せっせと シチヤ-ガヨイ を はじめ、 それでも、 いつも オカネ に フジユウ を して いました。
しょせん、 ジブン には、 なんの エンコ も ない ゲシュク に、 ヒトリ で 「セイカツ」 して ゆく ノウリョク が なかった の です。 ジブン は、 ゲシュク の その ヘヤ に、 ヒトリ で じっと して いる の が、 おそろしく、 いまにも ダレ か に おそわれ、 イチゲキ せられる よう な キ が して きて、 マチ に とびだして は、 レイ の ウンドウ の テツダイ を したり、 あるいは ホリキ と イッショ に やすい サケ を のみまわったり して、 ほとんど ガクギョウ も、 また エ の ベンキョウ も ホウキ し、 コウトウ ガッコウ へ ニュウガク して、 2 ネン-メ の 11 ガツ、 ジブン より トシウエ の ユウフ の フジン と ジョウシ ジケン など を おこし、 ジブン の ミノウエ は、 イッペン しました。
ガッコウ は ケッセキ する し、 ガッカ の ベンキョウ も、 すこしも しなかった のに、 それでも、 ミョウ に シケン の トウアン に ヨウリョウ の いい ところ が ある よう で、 どうやら それまで は、 コキョウ の ニクシン を あざむきとおして きた の です が、 しかし、 もう そろそろ、 シュッセキ ニッスウ の フソク など、 ガッコウ の ほう から ナイミツ に コキョウ の チチ へ ホウコク が いって いる らしく、 チチ の ダイリ と して チョウケイ が、 いかめしい ブンショウ の ながい テガミ を、 ジブン に よこす よう に なって いた の でした。 けれども、 それ より も、 ジブン の チョクセツ の クツウ は、 カネ の ない こと と、 それから、 レイ の ウンドウ の ヨウジ が、 とても アソビ ハンブン の キモチ では できない くらい、 はげしく、 いそがしく なって きた こと でした。 チュウオウ チク と いった か、 ナニ チク と いった か、 とにかく ホンゴウ、 コイシカワ、 シタヤ、 カンダ、 あの ヘン の ガッコウ ゼンブ の、 マルクス ガクセイ の コウドウタイ タイチョウ と いう もの に、 ジブン は なって いた の でした。 ブソウ ホウキ、 と きき、 ちいさい ナイフ を かい (イマ おもえば、 それ は エンピツ を けずる にも たりない、 きゃしゃ な ナイフ でした) それ を、 レンコート の ポケット に いれ、 あちこち とびまわって、 いわゆる 「レンラク」 を つける の でした。 オサケ を のんで、 ぐっすり ねむりたい、 しかし、 オカネ が ありません。 しかも、 P (トウ の こと を、 そういう インゴ で よんで いた と キオク して います が、 あるいは、 ちがって いる かも しれません) の ほう から は、 つぎつぎ と イキ を つく ヒマ も ない くらい、 ヨウジ の イライ が まいります。 ジブン の ビョウジャク の カラダ では、 とても つとまりそう も なくなりました。 もともと、 ヒゴウホウ の キョウミ だけ から、 その グループ の テツダイ を して いた の です し、 こんな に、 それこそ ジョウダン から コマ が でた よう に、 いやに いそがしく なって くる と、 ジブン は、 ひそか に P の ヒトタチ に、 それ は オカドチガイ でしょう、 アナタタチ の チョッケイ の モノタチ に やらせたら どう です か、 と いう よう な いまいましい カン を いだく の を きんずる こと が できず、 にげました。 にげて、 さすが に、 いい キモチ は せず、 しぬ こと に しました。
その コロ、 ジブン に トクベツ の コウイ を よせて いる オンナ が、 3 ニン いました。 ヒトリ は、 ジブン の ゲシュク して いる センユウカン の ムスメ でした。 この ムスメ は、 ジブン が レイ の ウンドウ の テツダイ で へとへと に なって かえり、 ゴハン も たべず に ねて しまって から、 かならず ヨウセン と マンネンヒツ を もって ジブン の ヘヤ に やって きて、
「ごめんなさい。 シタ では、 イモウト や オトウト が うるさくて、 ゆっくり テガミ も かけない の です」
と いって、 なにやら ジブン の ツクエ に むかって 1 ジカン イジョウ も かいて いる の です。
ジブン も また、 しらん フリ を して ねて おれば いい のに、 いかにも その ムスメ が ナニ か ジブン に いって もらいたげ の ヨウス なので、 レイ の ウケミ の ホウシ の セイシン を ハッキ して、 じつに ヒトコト も クチ を ききたく ない キモチ なの だ けれども、 くたくた に つかれきって いる カラダ に、 うむ と キアイ を かけて ハラバイ に なり、 タバコ を すい、
「オンナ から きた ラヴ レター で、 フロ を わかして はいった オトコ が ある そう です よ」
「あら、 いや だ。 アナタ でしょう?」
「ミルク を わかして のんだ こと は ある ん です」
「コウエイ だわ、 のんで よ」
はやく この ヒト、 かえらねえ かなあ、 テガミ だ なんて、 みえすいて いる のに。 ヘヘノノモヘジ でも かいて いる の に ちがいない ん です。
「みせて よ」
と しんで も みたく ない オモイ で そう いえば、 あら、 いや よ、 あら、 いや よ、 と いって、 その うれしがる こと、 ひどく みっともなく、 キョウ が さめる ばかり なの です。 そこで ジブン は、 ヨウジ でも いいつけて やれ、 と おもう ん です。
「すまない けど ね、 デンシャドオリ の クスリヤ に いって、 カルモチン を かって きて くれない? あんまり つかれすぎて、 カオ が ほてって、 かえって ねむれない ん だ。 すまない ね。 オカネ は、……」
「いい わよ、 オカネ なんか」
よろこんで たちます。 ヨウ を いいつける と いう の は、 けっして オンナ を しょげさせる こと では なく、 かえって オンナ は、 オトコ に ヨウジ を たのまれる と よろこぶ もの だ と いう こと も、 ジブン は ちゃんと しって いる の でした。
もう ヒトリ は、 ジョシ コウトウ シハン の ブンカセイ の いわゆる 「ドウシ」 でした。 この ヒト とは、 レイ の ウンドウ の ヨウジ で、 いや でも マイニチ、 カオ を あわせなければ ならなかった の です。 ウチアワセ が すんで から も、 その オンナ は、 いつまでも ジブン に ついて あるいて、 そうして、 やたら に ジブン に、 モノ を かって くれる の でした。
「ワタシ を ホントウ の アネ だ と おもって いて くれて いい わ」
その キザ に ミブルイ しながら、 ジブン は、
「その つもり で いる ん です」
と、 ウレエ を ふくんだ ビショウ の ヒョウジョウ を つくって こたえます。 とにかく、 おこらせて は、 こわい、 なんとか して、 ごまかさなければ ならぬ、 と いう オモイ ヒトツ の ため に、 ジブン は いよいよ その みにくい、 いや な オンナ に ホウシ を して、 そうして、 モノ を かって もらって は、 (その カイモノ は、 じつに シュミ の わるい シナ ばかり で、 ジブン は たいてい、 すぐに それ を、 ヤキトリヤ の オヤジ など に やって しまいました) うれしそう な カオ を して、 ジョウダン を いって は わらわせ、 ある ナツ の ヨル、 どうしても はなれない ので、 マチ の くらい ところ で、 その ヒト に かえって もらいたい ばかり に、 キス を して やりましたら、 あさましく キョウラン の ごとく コウフン し、 ジドウシャ を よんで、 その ヒトタチ の ウンドウ の ため に ヒミツ に かりて ある らしい ビル の ジムショ みたい な せまい ヨウシツ に つれて ゆき、 アサ まで オオサワギ と いう こと に なり、 とんでもない アネ だ、 と ジブン は ひそか に クショウ しました。
ゲシュクヤ の ムスメ と いい、 また この 「ドウシ」 と いい、 どうしたって マイニチ、 カオ を あわせなければ ならぬ グアイ に なって います ので、 これまで の、 サマザマ の オンナ の ヒト の よう に、 うまく さけられず、 つい、 ずるずる に、 レイ の フアン の ココロ から、 この フタリ の ゴキゲン を ただ ケンメイ に とりむすび、 もはや ジブン は、 カナシバリ ドウヨウ の カタチ に なって いました。
おなじ コロ また ジブン は、 ギンザ の ある ダイ カフェ の ジョキュウ から、 おもいがけぬ オン を うけ、 たった イチド あった だけ なのに、 それでも、 その オン に こだわり、 やはり ミウゴキ できない ほど の、 シンパイ やら、 ソラオソロシサ を かんじて いた の でした。 その コロ に なる と、 ジブン も、 あえて ホリキ の アンナイ に たよらず とも、 ヒトリ で デンシャ にも のれる し、 また、 カブキザ にも ゆける し、 または、 カスリ の キモノ を きて、 カフェ に だって はいれる くらい の、 タショウ の ズウズウシサ を よそおえる よう に なって いた の です。 ココロ では、 あいかわらず、 ニンゲン の ジシン と ボウリョク と を あやしみ、 おそれ、 なやみながら、 ウワベ だけ は、 すこし ずつ、 タニン と マガオ の アイサツ、 いや、 ちがう、 ジブン は やはり ハイボク の オドウケ の くるしい ワライ を ともなわず には、 アイサツ できない タチ なの です が、 とにかく、 ムガ ムチュウ の へどもど の アイサツ でも、 どうやら できる くらい の 「ギリョウ」 を、 レイ の ウンドウ で はしりまわった おかげ? または、 オンナ の? または、 サケ? けれども、 おもに キンセン の フジユウ の おかげ で シュウトク しかけて いた の です。 どこ に いて も、 おそろしく、 かえって ダイ カフェ で タクサン の スイキャク または ジョキュウ、 ボーイ たち に もまれ、 まぎれこむ こと が できたら、 ジブン の この たえず おわれて いる よう な ココロ も おちつく の では なかろう か、 と 10 エン もって、 ギンザ の その ダイ カフェ に、 ヒトリ で はいって、 わらいながら アイテ の ジョキュウ に、
「10 エン しか ない ん だ から ね、 その つもり で」
と いいました。
「シンパイ いりません」
どこ か に カンサイ の ナマリ が ありました。 そうして、 その ヒトコト が、 キミョウ に ジブン の、 ふるえおののいて いる ココロ を しずめて くれました。 いいえ、 オカネ の シンパイ が いらなく なった から では ありません、 その ヒト の ソバ に いる こと に シンパイ が いらない よう な キ が した の です。
ジブン は、 オサケ を のみました。 その ヒト に アンシン して いる ので、 かえって オドウケ など えんじる キモチ も おこらず、 ジブン の ジガネ の ムクチ で インサン な ところ を かくさず みせて、 だまって オサケ を のみました。
「こんな の、 おすき か?」
オンナ は、 サマザマ の リョウリ を ジブン の マエ に ならべました。 ジブン は クビ を ふりました。
「オサケ だけ か? ウチ も のもう」
アキ の、 さむい ヨル でした。 ジブン は、 ツネコ (と いった と おぼえて います が、 キオク が うすれ、 たしか では ありません。 ジョウシ の アイテ の ナマエ を さえ わすれて いる よう な ジブン なの です) に いいつけられた とおり に、 ギンザ ウラ の、 ある ヤタイ の オスシヤ で、 すこしも おいしく ない スシ を たべながら、 (その ヒト の ナマエ は わすれて も、 その とき の スシ の マズサ だけ は、 どうした こと か、 はっきり キオク に のこって います。 そうして、 アオダイショウ の カオ に にた カオツキ の、 マルボウズ の オヤジ が、 クビ を ふりふり、 いかにも ジョウズ みたい に ごまかしながら スシ を にぎって いる サマ も、 ガンゼン に みる よう に センメイ に おもいだされ、 コウネン、 デンシャ など で、 はて みた カオ だ、 と いろいろ かんがえ、 ナン だ、 あの とき の スシヤ の オヤジ に にて いる ん だ、 と キ が つき クショウ した こと も さいさん あった ほど でした。 あの ヒト の ナマエ も、 また、 カオカタチ さえ キオク から とおざかって いる ゲンザイ なお、 あの スシヤ の オヤジ の カオ だけ は エ に かける ほど セイカク に おぼえて いる とは、 よっぽど あの とき の スシ が まずく、 ジブン に サムサ と クツウ を あたえた もの と おもわれます。 もともと、 ジブン は、 うまい スシ を くわせる ミセ と いう ところ に、 ヒト に つれられて いって くって も、 うまい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 おおきすぎる の です。 オヤユビ くらい の オオキサ に きちっと にぎれない もの かしら、 と いつも かんがえて いました) その ヒト を、 まって いました。
ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ を、 その ヒト が かりて いました。 ジブン は、 その 2 カイ で、 ヒゴロ の ジブン の インウツ な ココロ を すこしも かくさず、 ひどい ハイタ に おそわれて でも いる よう に、 カタテ で ホオ を おさえながら、 オチャ を のみました。 そうして、 ジブン の そんな シタイ が、 かえって、 その ヒト には、 キ に いった よう でした。 その ヒト も、 ミノマワリ に つめたい コガラシ が ふいて、 オチバ だけ が まいくるい、 カンゼン に コリツ して いる カンジ の オンナ でした。
イッショ に やすみながら その ヒト は、 ジブン より フタツ トシウエ で ある こと、 コキョウ は ヒロシマ、 アタシ には シュジン が ある のよ、 ヒロシマ で トコヤ さん を して いた の、 サクネン の ハル、 イッショ に トウキョウ へ イエデ して にげて きた の だ けれども、 シュジン は、 トウキョウ で、 マトモ な シゴト を せず その うち に サギザイ に とわれ、 ケイムショ に いる のよ、 アタシ は マイニチ、 なにやら かやら サシイレ し に、 ケイムショ へ かよって いた の だ けれども、 アス から、 やめます、 など と ものがたる の でした が、 ジブン は、 どういう もの か、 オンナ の ミノウエバナシ と いう もの には、 すこしも キョウミ を もてない タチ で、 それ は オンナ の カタリカタ の ヘタ な せい か、 つまり、 ハナシ の ジュウテン の オキカタ を まちがって いる せい なの か、 とにかく、 ジブン には、 つねに、 バジ トウフウ なの で ありました。
わびしい。
ジブン には、 オンナ の センマンゲン の ミノウエバナシ より も、 その ヒトコト の ツブヤキ の ほう に、 キョウカン を そそられる に ちがいない と キタイ して いて も、 この ヨノナカ の オンナ から、 ついに イチド も ジブン は、 その コトバ を きいた こと が ない の を、 キカイ とも フシギ とも かんじて おります。 けれども、 その ヒト は、 コトバ で 「わびしい」 とは いいません でした が、 ムゴン の ひどい ワビシサ を、 カラダ の ガイカク に、 1 スン くらい の ハバ の キリュウ みたい に もって いて、 その ヒト に よりそう と、 こちら の カラダ も その キリュウ に つつまれ、 ジブン の もって いる たしょう とげとげ した インウツ の キリュウ と ほどよく とけあい、 「ミナソコ の イワ に おちつく カレハ」 の よう に、 ワガミ は、 キョウフ から も フアン から も、 はなれる こと が できる の でした。
あの ハクチ の インバイフ たち の フトコロ の ナカ で、 アンシン して ぐっすり ねむる オモイ とは、 また、 まったく ことなって、 (だいいち、 あの プロステチュート たち は、 ヨウキ でした) その サギザイ の ハンニン の ツマ と すごした イチヤ は、 ジブン に とって、 コウフク な (こんな だいそれた コトバ を、 なんの チュウチョ も なく、 コウテイ して シヨウ する こと は、 ジブン の この ゼン-シュキ に おいて、 ふたたび ない つもり です) カイホウ せられた ヨル でした。
しかし、 ただ イチヤ でした。 アサ、 メ が さめて、 はねおき、 ジブン は モト の ケイハク な、 よそおえる オドウケモノ に なって いました。 ヨワムシ は、 コウフク を さえ おそれる もの です。 ワタ で ケガ を する ん です。 コウフク に きずつけられる こと も ある ん です。 きずつけられない うち に、 はやく、 このまま、 わかれたい と あせり、 レイ の オドウケ の エンマク を はりめぐらす の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 って の は ね、 あれ は ね、 カイシャク が ギャク なん だ。 カネ が なくなる と オンナ に ふられる って イミ、 じゃあ ない ん だ。 オトコ に カネ が なくなる と、 オトコ は、 ただ おのずから イキ ショウチン して、 ダメ に なり、 わらう コエ にも チカラ が なく、 そうして、 ミョウ に ひがんだり なんか して ね、 ついには やぶれかぶれ に なり、 オトコ の ほう から オンナ を ふる、 ハンキョウラン に なって ふって ふって ふりぬく と いう イミ なん だね、 カナザワ ダイジリン と いう ホン に よれば ね、 かわいそう に。 ボク にも、 その キモチ わかる がね」
たしか、 そんな フウ の ばかげた こと を いって、 ツネコ を ふきださせた よう な キオク が あります。 ナガイ は ムヨウ、 オソレ あり と、 カオ も あらわず に すばやく ひきあげた の です が、 その とき の ジブン の、 「カネ の キレメ が エン の キレメ」 と いう デタラメ の ホウゲン が、 ノチ に いたって、 イガイ の ヒッカカリ を しょうじた の です。
それから、 ヒトツキ、 ジブン は、 その ヨル の オンジン とは あいません でした。 わかれて、 ヒ が たつ に つれて、 ヨロコビ は うすれ、 カリソメ の オン を うけた こと が かえって そらおそろしく、 ジブン カッテ に ひどい ソクバク を かんじて きて、 あの カフェ の オカンジョウ を、 あの とき、 ゼンブ ツネコ の フタン に させて しまった と いう ゾクジ さえ、 しだいに キ に なりはじめて、 ツネコ も やはり、 ゲシュク の ムスメ や、 あの ジョシ コウトウ シハン と おなじく、 ジブン を キョウハク する だけ の オンナ の よう に おもわれ、 とおく はなれて いながら も、 たえず ツネコ に おびえて いて、 その うえ に ジブン は、 イッショ に やすんだ こと の ある オンナ に、 また あう と、 その とき に いきなり ナニ か レッカ の ごとく おこられそう な キ が して たまらず、 あう の に すこぶる オックウ-がる セイシツ でした ので、 いよいよ、 ギンザ は ケイエン の カタチ でした が、 しかし、 その オックウ-がる と いう セイシツ は、 けっして ジブン の コウカツサ では なく、 ジョセイ と いう もの は、 やすんで から の こと と、 アサ、 おきて から の こと との アイダ に、 ヒトツ の、 チリ ほど の、 ツナガリ をも もたせず、 カンゼン の ボウキャク の ごとく、 みごと に フタツ の セカイ を セツダン させて いきて いる と いう フシギ な ゲンショウ を、 まだ よく のみこんで いなかった から なの でした。
11 ガツ の スエ、 ジブン は、 ホリキ と カンダ の ヤタイ で ヤスザケ を のみ、 この アクユウ は、 その ヤタイ を でて から も、 さらに どこ か で のもう と シュチョウ し、 もう ジブン たち には オカネ が ない のに、 それでも、 のもう、 のもう よ、 と ねばる の です。 その とき、 ジブン は、 よって ダイタン に なって いる から でも ありました が、
「よし、 そんなら、 ユメ の クニ に つれて いく。 おどろくな、 シュチ ニクリン と いう、……」
「カフェ か?」
「そう」
「いこう!」
と いう よう な こと に なって フタリ、 シデン に のり、 ホリキ は、 はしゃいで、
「オレ は、 コンヤ は、 オンナ に うえかわいて いる ん だ。 ジョキュウ に キス して も いい か」
ジブン は、 ホリキ が そんな スイタイ を えんじる こと を、 あまり このんで いない の でした。 ホリキ も、 それ を しって いる ので、 ジブン に そんな ネン を おす の でした。
「いい か。 キス する ぜ。 オレ の ソバ に すわった ジョキュウ に、 きっと キス して みせる。 いい か」
「かまわん だろう」
「ありがたい! オレ は オンナ に うえかわいて いる ん だ」
ギンザ 4 チョウメ で おりて、 その いわゆる シュチ ニクリン の ダイ カフェ に、 ツネコ を タノミ の ツナ と して ほとんど ムイチモン で はいり、 あいて いる ボックス に ホリキ と むかいあって コシ を おろした トタン に、 ツネコ と もう ヒトリ の ジョキュウ が はしりよって きて、 その もう ヒトリ の ジョキュウ が ジブン の ソバ に、 そうして ツネコ は、 ホリキ の ソバ に、 どさん と こしかけた ので、 ジブン は、 はっと しました。 ツネコ は、 いまに キス される。
おしい と いう キモチ では ありません でした。 ジブン には、 もともと ショユウヨク と いう もの は うすく、 また、 たまに かすか に おしむ キモチ は あって も、 その ショユウケン を かんぜん と シュチョウ し、 ヒト と あらそう ほど の キリョク が ない の でした。 ノチ に、 ジブン は、 ジブン の ナイエン の ツマ が おかされる の を、 だまって みて いた こと さえ あった ほど なの です。
ジブン は、 ニンゲン の イザコザ に できる だけ さわりたく ない の でした。 その ウズ に まきこまれる の が、 おそろしい の でした。 ツネコ と ジブン とは、 イチヤ だけ の アイダガラ です。 ツネコ は、 ジブン の もの では ありません。 おしい、 など おもいあがった ヨク は、 ジブン に もてる はず は ありません。 けれども、 ジブン は、 はっと しました。
ジブン の メノマエ で、 ホリキ の モウレツ な キス を うける、 その ツネコ の ミノウエ を、 フビン に おもった から でした。 ホリキ に よごされた ツネコ は、 ジブン と わかれなければ ならなく なる だろう、 しかも ジブン にも、 ツネコ を ひきとめる ほど の ポジティヴ な ネツ は ない、 ああ、 もう、 これ で オシマイ なの だ、 と ツネコ の フコウ に イッシュン はっと した ものの、 すぐに ジブン は ミズ の よう に すなお に あきらめ、 ホリキ と ツネコ の カオ を みくらべ、 にやにや と わらいました。
しかし、 ジタイ は、 じつに おもいがけなく、 もっと わるく テンカイ せられました。
「やめた!」
と ホリキ は、 クチ を ゆがめて いい、
「さすが の オレ も、 こんな びんぼうくさい オンナ には、……」
ヘイコウ しきった よう に、 ウデグミ して ツネコ を じろじろ ながめ、 クショウ する の でした。
「オサケ を。 オカネ は ない」
ジブン は、 コゴエ で ツネコ に いいました。 それこそ、 あびる ほど のんで みたい キモチ でした。 いわゆる ゾクブツ の メ から みる と、 ツネコ は スイカン の キス にも あたいしない、 ただ、 みすぼらしい、 びんぼうくさい オンナ だった の でした。 アンガイ とも、 イガイ とも、 ジブン には ヘキレキ に うちくだかれた オモイ でした。 ジブン は、 これまで レイ の なかった ほど、 いくらでも、 いくらでも、 オサケ を のみ、 ぐらぐら よって、 ツネコ と カオ を みあわせ、 かなしく ほほえみあい、 いかにも そう いわれて みる と、 コイツ は へんに つかれて びんぼうくさい だけ の オンナ だな、 と おもう と ドウジ に、 カネ の ない モノ ドウシ の シンワ (ヒンプ の フワ は、 チンプ の よう でも、 やはり ドラマ の エイエン の テーマ の ヒトツ だ と ジブン は イマ では おもって います が) そいつ が、 その シンワカン が、 ムネ に こみあげて きて、 ツネコ が いとしく、 うまれて この とき はじめて、 われから セッキョクテキ に、 ビジャク ながら コイ の ココロ の うごく の を ジカク しました。 はきました。 ゼンゴ フカク に なりました。 オサケ を のんで、 こんな に ワレ を うしなう ほど よった の も、 その とき が はじめて でした。
メ が さめたら、 マクラモト に ツネコ が すわって いました。 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ の ヘヤ に ねて いた の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 なんて おっしゃって、 ジョウダン か と おもうて いたら、 ホンキ か。 きて くれない の だ もの。 ややこしい キレメ やな。 ウチ が、 かせいで あげて も、 ダメ か」
「ダメ」
それから、 オンナ も やすんで、 ヨアケガタ、 オンナ の クチ から 「シ」 と いう コトバ が はじめて でて、 オンナ も ニンゲン と して の イトナミ に つかれきって いた よう でした し、 また、 ジブン も、 ヨノナカ への キョウフ、 ワズラワシサ、 カネ、 レイ の ウンドウ、 オンナ、 ガクギョウ、 かんがえる と、 とても このうえ こらえて いきて ゆけそう も なく、 その ヒト の テイアン に キガル に ドウイ しました。
けれども、 その とき には まだ、 ジッカン と して の 「しのう」 と いう カクゴ は、 できて いなかった の です。 どこ か に 「アソビ」 が ひそんで いました。
その ヒ の ゴゼン、 フタリ は アサクサ の ロック を さまよって いました。 キッサテン に はいり、 ギュウニュウ を のみました。
「アナタ、 はろうて おいて」
ジブン は たって、 タモト から ガマグチ を だし、 ひらく と、 ドウセン が 3 マイ、 シュウチ より も セイサン の オモイ に おそわれ、 たちまち ノウリ に うかぶ もの は、 センユウカン の ジブン の ヘヤ、 セイフク と フトン だけ が のこされて ある きり で、 アト は もう、 シチグサ に なりそう な もの の ヒトツ も ない こうりょう たる ヘヤ、 ホカ には ジブン の イマ きて あるいて いる カスリ の キモノ と、 マント、 これ が ジブン の ゲンジツ なの だ、 いきて ゆけない、 と はっきり おもいしりました。
ジブン が まごついて いる ので、 オンナ も たって、 ジブン の ガマグチ を のぞいて、
「あら、 たった それ だけ?」
ムシン の コエ でした が、 これ が また、 じんと ホネミ に こたえる ほど に いたかった の です。 はじめて ジブン が、 こいした ヒト の コエ だけ に、 いたかった の です。 それ だけ も、 これ だけ も ない、 ドウセン 3 マイ は、 どだい オカネ で ありません。 それ は、 ジブン が いまだかつて あじわった こと の ない キミョウ な クツジョク でした。 とても いきて おられない クツジョク でした。 しょせん その コロ の ジブン は、 まだ オカネモチ の ボッチャン と いう シュゾク から だっしきって いなかった の でしょう。 その とき、 ジブン は、 みずから すすんで も しのう と、 ジッカン と して ケツイ した の です。
その ヨ、 ジブン たち は、 カマクラ の ウミ に とびこみました。 オンナ は、 この オビ は オミセ の オトモダチ から かりて いる オビ や から、 と いって、 オビ を ほどき、 たたんで イワ の ウエ に おき、 ジブン も マント を ぬぎ、 おなじ ところ に おいて、 イッショ に ジュスイ しました。
オンナ の ヒト は、 しにました。 そうして、 ジブン だけ たすかりました。
ジブン が コウトウ ガッコウ の セイト では あり、 また チチ の ナ にも いくらか、 いわゆる ニュース ヴァリュ が あった の か、 シンブン にも かなり おおきな モンダイ と して とりあげられた よう でした。
ジブン は ウミベ の ビョウイン に シュウヨウ せられ、 コキョウ から シンセキ の モノ が ヒトリ かけつけ、 サマザマ の シマツ を して くれて、 そうして、 クニ の チチ を ハジメ イッカ-ジュウ が ゲキド して いる から、 これっきり セイカ とは ギゼツ に なる かも しれぬ、 と ジブン に もうしわたして かえりました。 けれども ジブン は、 そんな こと より、 しんだ ツネコ が こいしく、 めそめそ ないて ばかり いました。 ホントウ に、 イマ まで の ヒト の ナカ で、 あの びんぼうくさい ツネコ だけ を、 すき だった の です から。
ゲシュク の ムスメ から、 タンカ を 50 も かきつらねた ながい テガミ が きました。 「いきくれよ」 と いう ヘン な コトバ で はじまる タンカ ばかり、 50 でした。 また、 ジブン の ビョウシツ に、 カンゴフ たち が ヨウキ に わらいながら あそび に きて、 ジブン の テ を きゅっと にぎって かえる カンゴフ も いました。
ジブン の ヒダリハイ に コショウ の ある の を、 その ビョウイン で ハッケン せられ、 これ が たいへん ジブン に コウツゴウ な こと に なり、 やがて ジブン が ジサツ ホウジョザイ と いう ザイメイ で ビョウイン から ケイサツ に つれて ゆかれました が、 ケイサツ では、 ジブン を ビョウニン アツカイ に して くれて、 とくに ホゴシツ に シュウヨウ しました。
シンヤ、 ホゴシツ の トナリ の シュクチョクシツ で、 ネズ の バン を して いた トシヨリ の オマワリ が、 アイダ の ドア を そっと あけ、
「おい!」
と ジブン に コエ を かけ、
「さむい だろう。 こっち へ きて、 あたれ」
と いいました。
ジブン は、 わざと しおしお と シュクチョクシツ に はいって ゆき、 イス に こしかけて ヒバチ に あたりました。
「やはり、 しんだ オンナ が こいしい だろう」
「はい」
ことさら に、 きえいる よう な ほそい コエ で ヘンジ しました。
「そこ が、 やはり ニンジョウ と いう もの だ」
カレ は しだいに、 おおきく かまえて きました。
「はじめ、 オンナ と カンケイ を むすんだ の は、 どこ だ」
ほとんど サイバンカン の ごとく、 もったいぶって たずねる の でした。 カレ は、 ジブン を コドモ と あなどり、 アキ の ヨ の ツレヅレ に、 あたかも カレ ジシン が トリシラベ の シュニン でも ある か の よう に よそおい、 ジブン から ワイダン-めいた ジュッカイ を ひきだそう と いう コンタン の よう でした。 ジブン は すばやく それ を さっし、 ふきだしたい の を こらえる の に ホネ を おりました。 そんな オマワリ の 「ヒコウシキ な ジンモン」 には、 いっさい コタエ を キョヒ して も かまわない の だ と いう こと は、 ジブン も しって いました が、 しかし、 アキ の ヨナガ に キョウ を そえる ため、 ジブン は、 あくまでも シンミョウ に、 その オマワリ こそ トリシラベ の シュニン で あって、 ケイバツ の ケイチョウ の ケッテイ も その オマワリ の オボシメシ ヒトツ に ある の だ、 と いう こと を かたく しんじて うたがわない よう な いわゆる セイイ を オモテ に あらわし、 カレ の スケベエ の コウキシン を、 やや マンゾク させる テイド の イイカゲン な 「チンジュツ」 を する の でした。
「うん、 それ で だいたい わかった。 なんでも ショウジキ に こたえる と、 ワシラ の ほう でも、 そこ は テゴコロ を くわえる」
「ありがとう ございます。 よろしく おねがい いたします」
ほとんど ニュウシン の エンギ でした。 そうして、 ジブン の ため には、 なにも、 ヒトツ も、 トク に ならない リキエン なの です。
ヨ が あけて、 ジブン は ショチョウ に よびだされました。 コンド は、 ホンシキ の トリシラベ なの です。
ドア を あけて、 ショチョウシツ に はいった トタン に、
「おう、 いい オトコ だ。 これ あ、 オマエ が わるい ん じゃ ない。 こんな、 いい オトコ に うんだ オマエ の オフクロ が わるい ん だ」
イロ の あさぐろい、 ダイガクデ みたい な カンジ の まだ わかい ショチョウ でした。 いきなり そう いわれて ジブン は、 ジブン の カオ の ハンメン に べったり アカアザ でも ある よう な、 みにくい フグシャ の よう な、 みじめ な キ が しました。
この ジュウドウ か ケンドウ の センシュ の よう な ショチョウ の トリシラベ は、 じつに あっさり して いて、 あの シンヤ の ロウジュンサ の ひそか な、 シツヨウ きわまる コウショク の 「トリシラベ」 とは、 ウンデイ の サ が ありました。 ジンモン が すんで、 ショチョウ は、 ケンジ キョク に おくる ショルイ を したためながら、
「カラダ を ジョウブ に しなけりゃ、 いかん ね。 ケッタン が でて いる よう じゃ ない か」
と いいました。
その アサ、 へんに セキ が でて、 ジブン は セキ の でる たび に、 ハンケチ で クチ を おおって いた の です が、 その ハンケチ に あかい アラレ が ふった みたい に チ が ついて いた の です。 けれども、 それ は、 ノド から でた チ では なく、 サクヤ、 ミミ の シタ に できた ちいさい オデキ を いじって、 その オデキ から でた チ なの でした。 しかし、 ジブン は、 それ を いいあかさない ほう が、 ベンギ な こと も ある よう な キ が ふっと した もの です から、 ただ、
「はい」
と、 フシメ に なり、 シュショウゲ に こたえて おきました。
ショチョウ は ショルイ を かきおえて、
「キソ に なる か どう か、 それ は ケンジ ドノ が きめる こと だ が、 オマエ の ミモト ヒキウケニン に、 デンポウ か デンワ で、 キョウ ヨコハマ の ケンジ キョク に きて もらう よう に、 たのんだ ほう が いい な。 ダレ か、 ある だろう、 オマエ の ホゴシャ とか ホショウニン とか いう もの が」
チチ の トウキョウ の ベッソウ に デイリ して いた ショガ コットウショウ の シブタ と いう、 ジブン たち と ドウキョウジン で、 チチ の タイコモチ みたい な ヤク も つとめて いた ずんぐり した ドクシン の シジュウ オトコ が、 ジブン の ガッコウ の ホショウニン に なって いる の を、 ジブン は おもいだしました。 その オトコ の カオ が、 ことに メツキ が、 ヒラメ に にて いる と いう ので、 チチ は いつも その オトコ を ヒラメ と よび、 ジブン も、 そう よびなれて いました。
ジブン は ケイサツ の デンワチョウ を かりて、 ヒラメ の イエ の デンワ バンゴウ を さがし、 みつかった ので、 ヒラメ に デンワ して、 ヨコハマ の ケンジ キョク に きて くれる よう に たのみましたら、 ヒラメ は ヒト が かわった みたい な いばった クチョウ で、 それでも、 とにかく ひきうけて くれました。
「おい、 その デンワキ、 すぐ ショウドク した ほう が いい ぜ。 なんせ、 ケッタン が でて いる ん だ から」
ジブン が、 また ホゴシツ に ひきあげて から、 オマワリ たち に そう いいつけて いる ショチョウ の おおきな コエ が、 ホゴシツ に すわって いる ジブン の ミミ に まで、 とどきました。
オヒルスギ、 ジブン は、 ほそい アサナワ で ドウ を しばられ、 それ は マント で かくす こと を ゆるされました が、 その アサナワ の ハシ を わかい オマワリ が、 しっかり にぎって いて、 フタリ イッショ に デンシャ で ヨコハマ に むかいました。
けれども、 ジブン には すこし の フアン も なく、 あの ケイサツ の ホゴシツ も、 ロウジュンサ も なつかしく、 ああ、 ジブン は どうして こう なの でしょう、 ザイニン と して しばられる と、 かえって ほっと して、 そうして ゆったり おちついて、 その とき の ツイオク を、 イマ かく に あたって も、 ホントウ に のびのび した たのしい キモチ に なる の です。
しかし、 その ジキ の なつかしい オモイデ の ナカ にも、 たった ヒトツ、 ヒヤアセ サント の、 ショウガイ わすれられぬ ヒサン な シクジリ が あった の です。 ジブン は、 ケンジ キョク の うすぐらい イッシツ で、 ケンジ の カンタン な トリシラベ を うけました。 ケンジ は 40 サイ ゼンゴ の ものしずか な、 (もし ジブン が ビボウ だった と して も、 それ は いわば ジャイン の ビボウ だった に チガイ ありません が、 その ケンジ の カオ は、 ただしい ビボウ、 と でも いいたい よう な、 ソウメイ な セイヒツ の ケハイ を もって いました) こせこせ しない ヒトガラ の よう でした ので、 ジブン も まったく ケイカイ せず、 ぼんやり チンジュツ して いた の です が、 とつぜん、 レイ の セキ が でて きて、 ジブン は タモト から ハンケチ を だし、 ふと その チ を みて、 この セキ も また ナニ か の ヤク に たつ かも しれぬ と あさましい カケヒキ の ココロ を おこし、 ごほん、 ごほん と フタツ ばかり、 オマケ の ニセ の セキ を おおげさ に つけくわえて、 ハンケチ で クチ を おおった まま ケンジ の カオ を ちらと みた、 カンイッパツ、
「ホントウ かい?」
ものしずか な ビショウ でした。 ヒヤアセ サント、 いいえ、 イマ おもいだして も、 キリキリマイ を したく なります。 チュウガク ジダイ に、 あの バカ の タケイチ から、 ワザ、 ワザ、 と いわれて セナカ を つかれ、 ジゴク に けおとされた、 その とき の オモイ イジョウ と いって も、 けっして カゴン では ない キモチ です。 あれ と、 これ と、 フタツ、 ジブン の ショウガイ に おける エンギ の ダイシッパイ の キロク です。 ケンジ の あんな ものしずか な ブベツ に あう より は、 いっそ ジブン は 10 ネン の ケイ を いいわたされた ほう が、 まし だった と おもう こと さえ、 ときたま ある ほど なの です。
ジブン は キソ ユウヨ に なりました。 けれども いっこう に うれしく なく、 よにも みじめ な キモチ で、 ケンジ キョク の ヒカエシツ の ベンチ に こしかけ、 ヒキトリニン の ヒラメ が くる の を まって いました。
ハイゴ の たかい マド から ユウヤケ の ソラ が みえ、 カモメ が、 「オンナ」 と いう ジ みたい な カタチ で とんで いました。
また、 ハンニン イシキ、 と いう コトバ も あります。 ジブン は、 この ニンゲン の ヨノナカ に おいて、 イッショウ その イシキ に くるしめられながら も、 しかし、 それ は ジブン の ソウコウ の ツマ の ごとき コウハンリョ で、 そいつ と フタリ きり で わびしく あそびたわむれて いる と いう の も、 ジブン の いきて いる シセイ の ヒトツ だった かも しれない し、 また、 ぞくに、 スネ に キズ もつ ミ、 と いう コトバ も ある よう です が、 その キズ は、 ジブン の アカンボウ の とき から、 シゼン に カタホウ の スネ に あらわれて、 ちょうずる に およんで チユ する どころ か、 いよいよ ふかく なる ばかり で、 ホネ に まで たっし、 ヨヨ の ツウク は センペン バンカ の ジゴク とは いいながら、 しかし、 (これ は、 たいへん キミョウ な イイカタ です けど) その キズ は、 しだいに ジブン の ケツニク より も したしく なり、 その キズ の イタミ は、 すなわち キズ の いきて いる カンジョウ、 または アイジョウ の ササヤキ の よう に さえ おもわれる、 そんな オトコ に とって、 レイ の チカ ウンドウ の グループ の フンイキ が、 へんに アンシン で、 イゴコチ が よく、 つまり、 その ウンドウ の ホンライ の モクテキ より も、 その ウンドウ の ハダ が、 ジブン に あった カンジ なの でした。 ホリキ の バアイ は、 ただ もう アホウ の ヒヤカシ で、 イチド ジブン を ショウカイ し に その カイゴウ へ いった きり で、 マルキシスト は、 セイサンメン の ケンキュウ と ドウジ に、 ショウヒメン の シサツ も ヒツヨウ だ など と ヘタ な シャレ を いって、 その カイゴウ には よりつかず、 とかく ジブン を、 その ショウヒメン の シサツ の ほう に ばかり さそいたがる の でした。 おもえば、 トウジ は、 サマザマ の カタ の マルキシスト が いた もの です。 ホリキ の よう に、 キョエイ の モダニティ から、 それ を ジショウ する モノ も あり、 また ジブン の よう に、 ただ ヒゴウホウ の ニオイ が キ に いって、 そこ に すわりこんで いる モノ も あり、 もしも これら の ジッタイ が、 マルキシズム の シン の シンポウシャ に みやぶられたら、 ホリキ も ジブン も、 レッカ の ごとく おこられ、 ヒレツ なる ウラギリモノ と して、 たちどころに おいはらわれた こと でしょう。 しかし、 ジブン も、 また、 ホリキ で さえ も、 なかなか ジョメイ の ショブン に あわず、 ことにも ジブン は、 その ヒゴウホウ の セカイ に おいて は、 ゴウホウ の シンシ たち の セカイ に おける より も、 かえって のびのび と、 いわゆる 「ケンコウ」 に ふるまう こと が できました ので、 ミコミ の ある 「ドウシ」 と して、 ふきだしたく なる ほど カド に ヒミツ-めかした、 サマザマ の ヨウジ を たのまれる ほど に なった の です。 また、 じじつ、 ジブン は、 そんな ヨウジ を イチド も ことわった こと は なく、 ヘイキ で なんでも ひきうけ、 へんに ぎくしゃく して、 イヌ (ドウシ は、 ポリス を そう よんで いました) に あやしまれ フシン ジンモン など を うけて しくじる よう な こと も なかった し、 わらいながら、 また、 ヒト を わらわせながら、 その あぶない (その ウンドウ の レンチュウ は、 イチダイジ の ごとく キンチョウ し、 タンテイ ショウセツ の ヘタ な マネ みたい な こと まで して、 キョクド の ケイカイ を もちい、 そうして ジブン に たのむ シゴト は、 まことに、 アッケ に とられる くらい、 つまらない もの でした が、 それでも、 カレラ は、 その ヨウジ を、 さかん に、 あぶながって りきんで いる の でした) と、 カレラ の しょうする シゴト を、 とにかく セイカク に やって のけて いました。 ジブン の その トウジ の キモチ と して は、 トウイン に なって とらえられ、 たとい シュウシン、 ケイムショ で くらす よう に なった と して も、 ヘイキ だった の です。 ヨノナカ の ニンゲン の 「ジッセイカツ」 と いう もの を キョウフ しながら、 マイヨ の フミン の ジゴク で うめいて いる より は、 いっそ ロウヤ の ほう が、 ラク かも しれない と さえ かんがえて いました。
チチ は、 サクラギ-チョウ の ベッソウ では、 ライキャク やら ガイシュツ やら、 おなじ イエ に いて も、 ミッカ も ヨッカ も ジブン と カオ を あわせる こと が ない ほど でした が、 しかし、 どうにも、 チチ が けむったく、 おそろしく、 この イエ を でて、 どこ か ゲシュク でも、 と かんがえながら も それ を いいだせず に いた ヤサキ に、 チチ が その イエ を うりはらう つもり らしい と いう こと を ベッソウバン の ロウヤ から ききました。
チチ の ギイン の ニンキ も そろそろ マンキ に ちかづき、 いろいろ リユウ の あった こと に チガイ ありません が、 もう これきり センキョ に でる イシ も ない ヨウス で、 それに、 コキョウ に ヒトムネ、 インキョジョ など たてたり して、 トウキョウ に ミレン も ない らしく、 たかが、 コウトウ ガッコウ の イチ セイト に すぎない ジブン の ため に、 テイタク と メシツカイ を テイキョウ して おく の も、 ムダ な こと だ と でも かんがえた の か、 (チチ の ココロ も また、 セケン の ヒトタチ の キモチ と ドウヨウ に、 ジブン には よく わかりません) とにかく、 その イエ は、 まもなく ヒトデ に わたり、 ジブン は、 ホンゴウ モリカワ-チョウ の センユウカン と いう ふるい ゲシュク の、 うすぐらい ヘヤ に ひっこして、 そうして、 たちまち カネ に こまりました。
それまで、 チチ から ツキヅキ、 きまった ガク の コヅカイ を てわたされ、 それ は もう、 2~3 ニチ で なくなって も、 しかし、 タバコ も、 サケ も、 チーズ も、 クダモノ も、 いつでも イエ に あった し、 ホン や ブンボウグ や ソノタ、 フクソウ に かんする もの など いっさい、 いつでも、 キンジョ の ミセ から いわゆる 「ツケ」 で もとめられた し、 ホリキ に オソバ か テンドン など を ゴチソウ して も、 チチ の ヒイキ の チョウナイ の ミセ だったら、 ジブン は だまって その ミセ を でて も かまわなかった の でした。
それ が キュウ に、 ゲシュク の ヒトリズマイ に なり、 なにもかも、 ツキヅキ の テイガク の ソウキン で まにあわせなければ ならなく なって、 ジブン は、 まごつきました。 ソウキン は、 やはり、 2~3 ニチ で きえて しまい、 ジブン は りつぜん と し、 ココロボソサ の ため に くるう よう に なり、 チチ、 アニ、 アネ など へ コウゴ に オカネ を たのむ デンポウ と、 イサイ フミ の テガミ (その テガミ に おいて うったえて いる ジジョウ は、 ことごとく、 オドウケ の キョコウ でした。 ヒト に モノ を たのむ の に、 まず、 その ヒト を わらわせる の が ジョウサク と かんがえて いた の です) を レンパツ する イッポウ、 また、 ホリキ に おしえられ、 せっせと シチヤ-ガヨイ を はじめ、 それでも、 いつも オカネ に フジユウ を して いました。
しょせん、 ジブン には、 なんの エンコ も ない ゲシュク に、 ヒトリ で 「セイカツ」 して ゆく ノウリョク が なかった の です。 ジブン は、 ゲシュク の その ヘヤ に、 ヒトリ で じっと して いる の が、 おそろしく、 いまにも ダレ か に おそわれ、 イチゲキ せられる よう な キ が して きて、 マチ に とびだして は、 レイ の ウンドウ の テツダイ を したり、 あるいは ホリキ と イッショ に やすい サケ を のみまわったり して、 ほとんど ガクギョウ も、 また エ の ベンキョウ も ホウキ し、 コウトウ ガッコウ へ ニュウガク して、 2 ネン-メ の 11 ガツ、 ジブン より トシウエ の ユウフ の フジン と ジョウシ ジケン など を おこし、 ジブン の ミノウエ は、 イッペン しました。
ガッコウ は ケッセキ する し、 ガッカ の ベンキョウ も、 すこしも しなかった のに、 それでも、 ミョウ に シケン の トウアン に ヨウリョウ の いい ところ が ある よう で、 どうやら それまで は、 コキョウ の ニクシン を あざむきとおして きた の です が、 しかし、 もう そろそろ、 シュッセキ ニッスウ の フソク など、 ガッコウ の ほう から ナイミツ に コキョウ の チチ へ ホウコク が いって いる らしく、 チチ の ダイリ と して チョウケイ が、 いかめしい ブンショウ の ながい テガミ を、 ジブン に よこす よう に なって いた の でした。 けれども、 それ より も、 ジブン の チョクセツ の クツウ は、 カネ の ない こと と、 それから、 レイ の ウンドウ の ヨウジ が、 とても アソビ ハンブン の キモチ では できない くらい、 はげしく、 いそがしく なって きた こと でした。 チュウオウ チク と いった か、 ナニ チク と いった か、 とにかく ホンゴウ、 コイシカワ、 シタヤ、 カンダ、 あの ヘン の ガッコウ ゼンブ の、 マルクス ガクセイ の コウドウタイ タイチョウ と いう もの に、 ジブン は なって いた の でした。 ブソウ ホウキ、 と きき、 ちいさい ナイフ を かい (イマ おもえば、 それ は エンピツ を けずる にも たりない、 きゃしゃ な ナイフ でした) それ を、 レンコート の ポケット に いれ、 あちこち とびまわって、 いわゆる 「レンラク」 を つける の でした。 オサケ を のんで、 ぐっすり ねむりたい、 しかし、 オカネ が ありません。 しかも、 P (トウ の こと を、 そういう インゴ で よんで いた と キオク して います が、 あるいは、 ちがって いる かも しれません) の ほう から は、 つぎつぎ と イキ を つく ヒマ も ない くらい、 ヨウジ の イライ が まいります。 ジブン の ビョウジャク の カラダ では、 とても つとまりそう も なくなりました。 もともと、 ヒゴウホウ の キョウミ だけ から、 その グループ の テツダイ を して いた の です し、 こんな に、 それこそ ジョウダン から コマ が でた よう に、 いやに いそがしく なって くる と、 ジブン は、 ひそか に P の ヒトタチ に、 それ は オカドチガイ でしょう、 アナタタチ の チョッケイ の モノタチ に やらせたら どう です か、 と いう よう な いまいましい カン を いだく の を きんずる こと が できず、 にげました。 にげて、 さすが に、 いい キモチ は せず、 しぬ こと に しました。
その コロ、 ジブン に トクベツ の コウイ を よせて いる オンナ が、 3 ニン いました。 ヒトリ は、 ジブン の ゲシュク して いる センユウカン の ムスメ でした。 この ムスメ は、 ジブン が レイ の ウンドウ の テツダイ で へとへと に なって かえり、 ゴハン も たべず に ねて しまって から、 かならず ヨウセン と マンネンヒツ を もって ジブン の ヘヤ に やって きて、
「ごめんなさい。 シタ では、 イモウト や オトウト が うるさくて、 ゆっくり テガミ も かけない の です」
と いって、 なにやら ジブン の ツクエ に むかって 1 ジカン イジョウ も かいて いる の です。
ジブン も また、 しらん フリ を して ねて おれば いい のに、 いかにも その ムスメ が ナニ か ジブン に いって もらいたげ の ヨウス なので、 レイ の ウケミ の ホウシ の セイシン を ハッキ して、 じつに ヒトコト も クチ を ききたく ない キモチ なの だ けれども、 くたくた に つかれきって いる カラダ に、 うむ と キアイ を かけて ハラバイ に なり、 タバコ を すい、
「オンナ から きた ラヴ レター で、 フロ を わかして はいった オトコ が ある そう です よ」
「あら、 いや だ。 アナタ でしょう?」
「ミルク を わかして のんだ こと は ある ん です」
「コウエイ だわ、 のんで よ」
はやく この ヒト、 かえらねえ かなあ、 テガミ だ なんて、 みえすいて いる のに。 ヘヘノノモヘジ でも かいて いる の に ちがいない ん です。
「みせて よ」
と しんで も みたく ない オモイ で そう いえば、 あら、 いや よ、 あら、 いや よ、 と いって、 その うれしがる こと、 ひどく みっともなく、 キョウ が さめる ばかり なの です。 そこで ジブン は、 ヨウジ でも いいつけて やれ、 と おもう ん です。
「すまない けど ね、 デンシャドオリ の クスリヤ に いって、 カルモチン を かって きて くれない? あんまり つかれすぎて、 カオ が ほてって、 かえって ねむれない ん だ。 すまない ね。 オカネ は、……」
「いい わよ、 オカネ なんか」
よろこんで たちます。 ヨウ を いいつける と いう の は、 けっして オンナ を しょげさせる こと では なく、 かえって オンナ は、 オトコ に ヨウジ を たのまれる と よろこぶ もの だ と いう こと も、 ジブン は ちゃんと しって いる の でした。
もう ヒトリ は、 ジョシ コウトウ シハン の ブンカセイ の いわゆる 「ドウシ」 でした。 この ヒト とは、 レイ の ウンドウ の ヨウジ で、 いや でも マイニチ、 カオ を あわせなければ ならなかった の です。 ウチアワセ が すんで から も、 その オンナ は、 いつまでも ジブン に ついて あるいて、 そうして、 やたら に ジブン に、 モノ を かって くれる の でした。
「ワタシ を ホントウ の アネ だ と おもって いて くれて いい わ」
その キザ に ミブルイ しながら、 ジブン は、
「その つもり で いる ん です」
と、 ウレエ を ふくんだ ビショウ の ヒョウジョウ を つくって こたえます。 とにかく、 おこらせて は、 こわい、 なんとか して、 ごまかさなければ ならぬ、 と いう オモイ ヒトツ の ため に、 ジブン は いよいよ その みにくい、 いや な オンナ に ホウシ を して、 そうして、 モノ を かって もらって は、 (その カイモノ は、 じつに シュミ の わるい シナ ばかり で、 ジブン は たいてい、 すぐに それ を、 ヤキトリヤ の オヤジ など に やって しまいました) うれしそう な カオ を して、 ジョウダン を いって は わらわせ、 ある ナツ の ヨル、 どうしても はなれない ので、 マチ の くらい ところ で、 その ヒト に かえって もらいたい ばかり に、 キス を して やりましたら、 あさましく キョウラン の ごとく コウフン し、 ジドウシャ を よんで、 その ヒトタチ の ウンドウ の ため に ヒミツ に かりて ある らしい ビル の ジムショ みたい な せまい ヨウシツ に つれて ゆき、 アサ まで オオサワギ と いう こと に なり、 とんでもない アネ だ、 と ジブン は ひそか に クショウ しました。
ゲシュクヤ の ムスメ と いい、 また この 「ドウシ」 と いい、 どうしたって マイニチ、 カオ を あわせなければ ならぬ グアイ に なって います ので、 これまで の、 サマザマ の オンナ の ヒト の よう に、 うまく さけられず、 つい、 ずるずる に、 レイ の フアン の ココロ から、 この フタリ の ゴキゲン を ただ ケンメイ に とりむすび、 もはや ジブン は、 カナシバリ ドウヨウ の カタチ に なって いました。
おなじ コロ また ジブン は、 ギンザ の ある ダイ カフェ の ジョキュウ から、 おもいがけぬ オン を うけ、 たった イチド あった だけ なのに、 それでも、 その オン に こだわり、 やはり ミウゴキ できない ほど の、 シンパイ やら、 ソラオソロシサ を かんじて いた の でした。 その コロ に なる と、 ジブン も、 あえて ホリキ の アンナイ に たよらず とも、 ヒトリ で デンシャ にも のれる し、 また、 カブキザ にも ゆける し、 または、 カスリ の キモノ を きて、 カフェ に だって はいれる くらい の、 タショウ の ズウズウシサ を よそおえる よう に なって いた の です。 ココロ では、 あいかわらず、 ニンゲン の ジシン と ボウリョク と を あやしみ、 おそれ、 なやみながら、 ウワベ だけ は、 すこし ずつ、 タニン と マガオ の アイサツ、 いや、 ちがう、 ジブン は やはり ハイボク の オドウケ の くるしい ワライ を ともなわず には、 アイサツ できない タチ なの です が、 とにかく、 ムガ ムチュウ の へどもど の アイサツ でも、 どうやら できる くらい の 「ギリョウ」 を、 レイ の ウンドウ で はしりまわった おかげ? または、 オンナ の? または、 サケ? けれども、 おもに キンセン の フジユウ の おかげ で シュウトク しかけて いた の です。 どこ に いて も、 おそろしく、 かえって ダイ カフェ で タクサン の スイキャク または ジョキュウ、 ボーイ たち に もまれ、 まぎれこむ こと が できたら、 ジブン の この たえず おわれて いる よう な ココロ も おちつく の では なかろう か、 と 10 エン もって、 ギンザ の その ダイ カフェ に、 ヒトリ で はいって、 わらいながら アイテ の ジョキュウ に、
「10 エン しか ない ん だ から ね、 その つもり で」
と いいました。
「シンパイ いりません」
どこ か に カンサイ の ナマリ が ありました。 そうして、 その ヒトコト が、 キミョウ に ジブン の、 ふるえおののいて いる ココロ を しずめて くれました。 いいえ、 オカネ の シンパイ が いらなく なった から では ありません、 その ヒト の ソバ に いる こと に シンパイ が いらない よう な キ が した の です。
ジブン は、 オサケ を のみました。 その ヒト に アンシン して いる ので、 かえって オドウケ など えんじる キモチ も おこらず、 ジブン の ジガネ の ムクチ で インサン な ところ を かくさず みせて、 だまって オサケ を のみました。
「こんな の、 おすき か?」
オンナ は、 サマザマ の リョウリ を ジブン の マエ に ならべました。 ジブン は クビ を ふりました。
「オサケ だけ か? ウチ も のもう」
アキ の、 さむい ヨル でした。 ジブン は、 ツネコ (と いった と おぼえて います が、 キオク が うすれ、 たしか では ありません。 ジョウシ の アイテ の ナマエ を さえ わすれて いる よう な ジブン なの です) に いいつけられた とおり に、 ギンザ ウラ の、 ある ヤタイ の オスシヤ で、 すこしも おいしく ない スシ を たべながら、 (その ヒト の ナマエ は わすれて も、 その とき の スシ の マズサ だけ は、 どうした こと か、 はっきり キオク に のこって います。 そうして、 アオダイショウ の カオ に にた カオツキ の、 マルボウズ の オヤジ が、 クビ を ふりふり、 いかにも ジョウズ みたい に ごまかしながら スシ を にぎって いる サマ も、 ガンゼン に みる よう に センメイ に おもいだされ、 コウネン、 デンシャ など で、 はて みた カオ だ、 と いろいろ かんがえ、 ナン だ、 あの とき の スシヤ の オヤジ に にて いる ん だ、 と キ が つき クショウ した こと も さいさん あった ほど でした。 あの ヒト の ナマエ も、 また、 カオカタチ さえ キオク から とおざかって いる ゲンザイ なお、 あの スシヤ の オヤジ の カオ だけ は エ に かける ほど セイカク に おぼえて いる とは、 よっぽど あの とき の スシ が まずく、 ジブン に サムサ と クツウ を あたえた もの と おもわれます。 もともと、 ジブン は、 うまい スシ を くわせる ミセ と いう ところ に、 ヒト に つれられて いって くって も、 うまい と おもった こと は、 イチド も ありません でした。 おおきすぎる の です。 オヤユビ くらい の オオキサ に きちっと にぎれない もの かしら、 と いつも かんがえて いました) その ヒト を、 まって いました。
ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ を、 その ヒト が かりて いました。 ジブン は、 その 2 カイ で、 ヒゴロ の ジブン の インウツ な ココロ を すこしも かくさず、 ひどい ハイタ に おそわれて でも いる よう に、 カタテ で ホオ を おさえながら、 オチャ を のみました。 そうして、 ジブン の そんな シタイ が、 かえって、 その ヒト には、 キ に いった よう でした。 その ヒト も、 ミノマワリ に つめたい コガラシ が ふいて、 オチバ だけ が まいくるい、 カンゼン に コリツ して いる カンジ の オンナ でした。
イッショ に やすみながら その ヒト は、 ジブン より フタツ トシウエ で ある こと、 コキョウ は ヒロシマ、 アタシ には シュジン が ある のよ、 ヒロシマ で トコヤ さん を して いた の、 サクネン の ハル、 イッショ に トウキョウ へ イエデ して にげて きた の だ けれども、 シュジン は、 トウキョウ で、 マトモ な シゴト を せず その うち に サギザイ に とわれ、 ケイムショ に いる のよ、 アタシ は マイニチ、 なにやら かやら サシイレ し に、 ケイムショ へ かよって いた の だ けれども、 アス から、 やめます、 など と ものがたる の でした が、 ジブン は、 どういう もの か、 オンナ の ミノウエバナシ と いう もの には、 すこしも キョウミ を もてない タチ で、 それ は オンナ の カタリカタ の ヘタ な せい か、 つまり、 ハナシ の ジュウテン の オキカタ を まちがって いる せい なの か、 とにかく、 ジブン には、 つねに、 バジ トウフウ なの で ありました。
わびしい。
ジブン には、 オンナ の センマンゲン の ミノウエバナシ より も、 その ヒトコト の ツブヤキ の ほう に、 キョウカン を そそられる に ちがいない と キタイ して いて も、 この ヨノナカ の オンナ から、 ついに イチド も ジブン は、 その コトバ を きいた こと が ない の を、 キカイ とも フシギ とも かんじて おります。 けれども、 その ヒト は、 コトバ で 「わびしい」 とは いいません でした が、 ムゴン の ひどい ワビシサ を、 カラダ の ガイカク に、 1 スン くらい の ハバ の キリュウ みたい に もって いて、 その ヒト に よりそう と、 こちら の カラダ も その キリュウ に つつまれ、 ジブン の もって いる たしょう とげとげ した インウツ の キリュウ と ほどよく とけあい、 「ミナソコ の イワ に おちつく カレハ」 の よう に、 ワガミ は、 キョウフ から も フアン から も、 はなれる こと が できる の でした。
あの ハクチ の インバイフ たち の フトコロ の ナカ で、 アンシン して ぐっすり ねむる オモイ とは、 また、 まったく ことなって、 (だいいち、 あの プロステチュート たち は、 ヨウキ でした) その サギザイ の ハンニン の ツマ と すごした イチヤ は、 ジブン に とって、 コウフク な (こんな だいそれた コトバ を、 なんの チュウチョ も なく、 コウテイ して シヨウ する こと は、 ジブン の この ゼン-シュキ に おいて、 ふたたび ない つもり です) カイホウ せられた ヨル でした。
しかし、 ただ イチヤ でした。 アサ、 メ が さめて、 はねおき、 ジブン は モト の ケイハク な、 よそおえる オドウケモノ に なって いました。 ヨワムシ は、 コウフク を さえ おそれる もの です。 ワタ で ケガ を する ん です。 コウフク に きずつけられる こと も ある ん です。 きずつけられない うち に、 はやく、 このまま、 わかれたい と あせり、 レイ の オドウケ の エンマク を はりめぐらす の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 って の は ね、 あれ は ね、 カイシャク が ギャク なん だ。 カネ が なくなる と オンナ に ふられる って イミ、 じゃあ ない ん だ。 オトコ に カネ が なくなる と、 オトコ は、 ただ おのずから イキ ショウチン して、 ダメ に なり、 わらう コエ にも チカラ が なく、 そうして、 ミョウ に ひがんだり なんか して ね、 ついには やぶれかぶれ に なり、 オトコ の ほう から オンナ を ふる、 ハンキョウラン に なって ふって ふって ふりぬく と いう イミ なん だね、 カナザワ ダイジリン と いう ホン に よれば ね、 かわいそう に。 ボク にも、 その キモチ わかる がね」
たしか、 そんな フウ の ばかげた こと を いって、 ツネコ を ふきださせた よう な キオク が あります。 ナガイ は ムヨウ、 オソレ あり と、 カオ も あらわず に すばやく ひきあげた の です が、 その とき の ジブン の、 「カネ の キレメ が エン の キレメ」 と いう デタラメ の ホウゲン が、 ノチ に いたって、 イガイ の ヒッカカリ を しょうじた の です。
それから、 ヒトツキ、 ジブン は、 その ヨル の オンジン とは あいません でした。 わかれて、 ヒ が たつ に つれて、 ヨロコビ は うすれ、 カリソメ の オン を うけた こと が かえって そらおそろしく、 ジブン カッテ に ひどい ソクバク を かんじて きて、 あの カフェ の オカンジョウ を、 あの とき、 ゼンブ ツネコ の フタン に させて しまった と いう ゾクジ さえ、 しだいに キ に なりはじめて、 ツネコ も やはり、 ゲシュク の ムスメ や、 あの ジョシ コウトウ シハン と おなじく、 ジブン を キョウハク する だけ の オンナ の よう に おもわれ、 とおく はなれて いながら も、 たえず ツネコ に おびえて いて、 その うえ に ジブン は、 イッショ に やすんだ こと の ある オンナ に、 また あう と、 その とき に いきなり ナニ か レッカ の ごとく おこられそう な キ が して たまらず、 あう の に すこぶる オックウ-がる セイシツ でした ので、 いよいよ、 ギンザ は ケイエン の カタチ でした が、 しかし、 その オックウ-がる と いう セイシツ は、 けっして ジブン の コウカツサ では なく、 ジョセイ と いう もの は、 やすんで から の こと と、 アサ、 おきて から の こと との アイダ に、 ヒトツ の、 チリ ほど の、 ツナガリ をも もたせず、 カンゼン の ボウキャク の ごとく、 みごと に フタツ の セカイ を セツダン させて いきて いる と いう フシギ な ゲンショウ を、 まだ よく のみこんで いなかった から なの でした。
11 ガツ の スエ、 ジブン は、 ホリキ と カンダ の ヤタイ で ヤスザケ を のみ、 この アクユウ は、 その ヤタイ を でて から も、 さらに どこ か で のもう と シュチョウ し、 もう ジブン たち には オカネ が ない のに、 それでも、 のもう、 のもう よ、 と ねばる の です。 その とき、 ジブン は、 よって ダイタン に なって いる から でも ありました が、
「よし、 そんなら、 ユメ の クニ に つれて いく。 おどろくな、 シュチ ニクリン と いう、……」
「カフェ か?」
「そう」
「いこう!」
と いう よう な こと に なって フタリ、 シデン に のり、 ホリキ は、 はしゃいで、
「オレ は、 コンヤ は、 オンナ に うえかわいて いる ん だ。 ジョキュウ に キス して も いい か」
ジブン は、 ホリキ が そんな スイタイ を えんじる こと を、 あまり このんで いない の でした。 ホリキ も、 それ を しって いる ので、 ジブン に そんな ネン を おす の でした。
「いい か。 キス する ぜ。 オレ の ソバ に すわった ジョキュウ に、 きっと キス して みせる。 いい か」
「かまわん だろう」
「ありがたい! オレ は オンナ に うえかわいて いる ん だ」
ギンザ 4 チョウメ で おりて、 その いわゆる シュチ ニクリン の ダイ カフェ に、 ツネコ を タノミ の ツナ と して ほとんど ムイチモン で はいり、 あいて いる ボックス に ホリキ と むかいあって コシ を おろした トタン に、 ツネコ と もう ヒトリ の ジョキュウ が はしりよって きて、 その もう ヒトリ の ジョキュウ が ジブン の ソバ に、 そうして ツネコ は、 ホリキ の ソバ に、 どさん と こしかけた ので、 ジブン は、 はっと しました。 ツネコ は、 いまに キス される。
おしい と いう キモチ では ありません でした。 ジブン には、 もともと ショユウヨク と いう もの は うすく、 また、 たまに かすか に おしむ キモチ は あって も、 その ショユウケン を かんぜん と シュチョウ し、 ヒト と あらそう ほど の キリョク が ない の でした。 ノチ に、 ジブン は、 ジブン の ナイエン の ツマ が おかされる の を、 だまって みて いた こと さえ あった ほど なの です。
ジブン は、 ニンゲン の イザコザ に できる だけ さわりたく ない の でした。 その ウズ に まきこまれる の が、 おそろしい の でした。 ツネコ と ジブン とは、 イチヤ だけ の アイダガラ です。 ツネコ は、 ジブン の もの では ありません。 おしい、 など おもいあがった ヨク は、 ジブン に もてる はず は ありません。 けれども、 ジブン は、 はっと しました。
ジブン の メノマエ で、 ホリキ の モウレツ な キス を うける、 その ツネコ の ミノウエ を、 フビン に おもった から でした。 ホリキ に よごされた ツネコ は、 ジブン と わかれなければ ならなく なる だろう、 しかも ジブン にも、 ツネコ を ひきとめる ほど の ポジティヴ な ネツ は ない、 ああ、 もう、 これ で オシマイ なの だ、 と ツネコ の フコウ に イッシュン はっと した ものの、 すぐに ジブン は ミズ の よう に すなお に あきらめ、 ホリキ と ツネコ の カオ を みくらべ、 にやにや と わらいました。
しかし、 ジタイ は、 じつに おもいがけなく、 もっと わるく テンカイ せられました。
「やめた!」
と ホリキ は、 クチ を ゆがめて いい、
「さすが の オレ も、 こんな びんぼうくさい オンナ には、……」
ヘイコウ しきった よう に、 ウデグミ して ツネコ を じろじろ ながめ、 クショウ する の でした。
「オサケ を。 オカネ は ない」
ジブン は、 コゴエ で ツネコ に いいました。 それこそ、 あびる ほど のんで みたい キモチ でした。 いわゆる ゾクブツ の メ から みる と、 ツネコ は スイカン の キス にも あたいしない、 ただ、 みすぼらしい、 びんぼうくさい オンナ だった の でした。 アンガイ とも、 イガイ とも、 ジブン には ヘキレキ に うちくだかれた オモイ でした。 ジブン は、 これまで レイ の なかった ほど、 いくらでも、 いくらでも、 オサケ を のみ、 ぐらぐら よって、 ツネコ と カオ を みあわせ、 かなしく ほほえみあい、 いかにも そう いわれて みる と、 コイツ は へんに つかれて びんぼうくさい だけ の オンナ だな、 と おもう と ドウジ に、 カネ の ない モノ ドウシ の シンワ (ヒンプ の フワ は、 チンプ の よう でも、 やはり ドラマ の エイエン の テーマ の ヒトツ だ と ジブン は イマ では おもって います が) そいつ が、 その シンワカン が、 ムネ に こみあげて きて、 ツネコ が いとしく、 うまれて この とき はじめて、 われから セッキョクテキ に、 ビジャク ながら コイ の ココロ の うごく の を ジカク しました。 はきました。 ゼンゴ フカク に なりました。 オサケ を のんで、 こんな に ワレ を うしなう ほど よった の も、 その とき が はじめて でした。
メ が さめたら、 マクラモト に ツネコ が すわって いました。 ホンジョ の ダイク さん の 2 カイ の ヘヤ に ねて いた の でした。
「カネ の キレメ が エン の キレメ、 なんて おっしゃって、 ジョウダン か と おもうて いたら、 ホンキ か。 きて くれない の だ もの。 ややこしい キレメ やな。 ウチ が、 かせいで あげて も、 ダメ か」
「ダメ」
それから、 オンナ も やすんで、 ヨアケガタ、 オンナ の クチ から 「シ」 と いう コトバ が はじめて でて、 オンナ も ニンゲン と して の イトナミ に つかれきって いた よう でした し、 また、 ジブン も、 ヨノナカ への キョウフ、 ワズラワシサ、 カネ、 レイ の ウンドウ、 オンナ、 ガクギョウ、 かんがえる と、 とても このうえ こらえて いきて ゆけそう も なく、 その ヒト の テイアン に キガル に ドウイ しました。
けれども、 その とき には まだ、 ジッカン と して の 「しのう」 と いう カクゴ は、 できて いなかった の です。 どこ か に 「アソビ」 が ひそんで いました。
その ヒ の ゴゼン、 フタリ は アサクサ の ロック を さまよって いました。 キッサテン に はいり、 ギュウニュウ を のみました。
「アナタ、 はろうて おいて」
ジブン は たって、 タモト から ガマグチ を だし、 ひらく と、 ドウセン が 3 マイ、 シュウチ より も セイサン の オモイ に おそわれ、 たちまち ノウリ に うかぶ もの は、 センユウカン の ジブン の ヘヤ、 セイフク と フトン だけ が のこされて ある きり で、 アト は もう、 シチグサ に なりそう な もの の ヒトツ も ない こうりょう たる ヘヤ、 ホカ には ジブン の イマ きて あるいて いる カスリ の キモノ と、 マント、 これ が ジブン の ゲンジツ なの だ、 いきて ゆけない、 と はっきり おもいしりました。
ジブン が まごついて いる ので、 オンナ も たって、 ジブン の ガマグチ を のぞいて、
「あら、 たった それ だけ?」
ムシン の コエ でした が、 これ が また、 じんと ホネミ に こたえる ほど に いたかった の です。 はじめて ジブン が、 こいした ヒト の コエ だけ に、 いたかった の です。 それ だけ も、 これ だけ も ない、 ドウセン 3 マイ は、 どだい オカネ で ありません。 それ は、 ジブン が いまだかつて あじわった こと の ない キミョウ な クツジョク でした。 とても いきて おられない クツジョク でした。 しょせん その コロ の ジブン は、 まだ オカネモチ の ボッチャン と いう シュゾク から だっしきって いなかった の でしょう。 その とき、 ジブン は、 みずから すすんで も しのう と、 ジッカン と して ケツイ した の です。
その ヨ、 ジブン たち は、 カマクラ の ウミ に とびこみました。 オンナ は、 この オビ は オミセ の オトモダチ から かりて いる オビ や から、 と いって、 オビ を ほどき、 たたんで イワ の ウエ に おき、 ジブン も マント を ぬぎ、 おなじ ところ に おいて、 イッショ に ジュスイ しました。
オンナ の ヒト は、 しにました。 そうして、 ジブン だけ たすかりました。
ジブン が コウトウ ガッコウ の セイト では あり、 また チチ の ナ にも いくらか、 いわゆる ニュース ヴァリュ が あった の か、 シンブン にも かなり おおきな モンダイ と して とりあげられた よう でした。
ジブン は ウミベ の ビョウイン に シュウヨウ せられ、 コキョウ から シンセキ の モノ が ヒトリ かけつけ、 サマザマ の シマツ を して くれて、 そうして、 クニ の チチ を ハジメ イッカ-ジュウ が ゲキド して いる から、 これっきり セイカ とは ギゼツ に なる かも しれぬ、 と ジブン に もうしわたして かえりました。 けれども ジブン は、 そんな こと より、 しんだ ツネコ が こいしく、 めそめそ ないて ばかり いました。 ホントウ に、 イマ まで の ヒト の ナカ で、 あの びんぼうくさい ツネコ だけ を、 すき だった の です から。
ゲシュク の ムスメ から、 タンカ を 50 も かきつらねた ながい テガミ が きました。 「いきくれよ」 と いう ヘン な コトバ で はじまる タンカ ばかり、 50 でした。 また、 ジブン の ビョウシツ に、 カンゴフ たち が ヨウキ に わらいながら あそび に きて、 ジブン の テ を きゅっと にぎって かえる カンゴフ も いました。
ジブン の ヒダリハイ に コショウ の ある の を、 その ビョウイン で ハッケン せられ、 これ が たいへん ジブン に コウツゴウ な こと に なり、 やがて ジブン が ジサツ ホウジョザイ と いう ザイメイ で ビョウイン から ケイサツ に つれて ゆかれました が、 ケイサツ では、 ジブン を ビョウニン アツカイ に して くれて、 とくに ホゴシツ に シュウヨウ しました。
シンヤ、 ホゴシツ の トナリ の シュクチョクシツ で、 ネズ の バン を して いた トシヨリ の オマワリ が、 アイダ の ドア を そっと あけ、
「おい!」
と ジブン に コエ を かけ、
「さむい だろう。 こっち へ きて、 あたれ」
と いいました。
ジブン は、 わざと しおしお と シュクチョクシツ に はいって ゆき、 イス に こしかけて ヒバチ に あたりました。
「やはり、 しんだ オンナ が こいしい だろう」
「はい」
ことさら に、 きえいる よう な ほそい コエ で ヘンジ しました。
「そこ が、 やはり ニンジョウ と いう もの だ」
カレ は しだいに、 おおきく かまえて きました。
「はじめ、 オンナ と カンケイ を むすんだ の は、 どこ だ」
ほとんど サイバンカン の ごとく、 もったいぶって たずねる の でした。 カレ は、 ジブン を コドモ と あなどり、 アキ の ヨ の ツレヅレ に、 あたかも カレ ジシン が トリシラベ の シュニン でも ある か の よう に よそおい、 ジブン から ワイダン-めいた ジュッカイ を ひきだそう と いう コンタン の よう でした。 ジブン は すばやく それ を さっし、 ふきだしたい の を こらえる の に ホネ を おりました。 そんな オマワリ の 「ヒコウシキ な ジンモン」 には、 いっさい コタエ を キョヒ して も かまわない の だ と いう こと は、 ジブン も しって いました が、 しかし、 アキ の ヨナガ に キョウ を そえる ため、 ジブン は、 あくまでも シンミョウ に、 その オマワリ こそ トリシラベ の シュニン で あって、 ケイバツ の ケイチョウ の ケッテイ も その オマワリ の オボシメシ ヒトツ に ある の だ、 と いう こと を かたく しんじて うたがわない よう な いわゆる セイイ を オモテ に あらわし、 カレ の スケベエ の コウキシン を、 やや マンゾク させる テイド の イイカゲン な 「チンジュツ」 を する の でした。
「うん、 それ で だいたい わかった。 なんでも ショウジキ に こたえる と、 ワシラ の ほう でも、 そこ は テゴコロ を くわえる」
「ありがとう ございます。 よろしく おねがい いたします」
ほとんど ニュウシン の エンギ でした。 そうして、 ジブン の ため には、 なにも、 ヒトツ も、 トク に ならない リキエン なの です。
ヨ が あけて、 ジブン は ショチョウ に よびだされました。 コンド は、 ホンシキ の トリシラベ なの です。
ドア を あけて、 ショチョウシツ に はいった トタン に、
「おう、 いい オトコ だ。 これ あ、 オマエ が わるい ん じゃ ない。 こんな、 いい オトコ に うんだ オマエ の オフクロ が わるい ん だ」
イロ の あさぐろい、 ダイガクデ みたい な カンジ の まだ わかい ショチョウ でした。 いきなり そう いわれて ジブン は、 ジブン の カオ の ハンメン に べったり アカアザ でも ある よう な、 みにくい フグシャ の よう な、 みじめ な キ が しました。
この ジュウドウ か ケンドウ の センシュ の よう な ショチョウ の トリシラベ は、 じつに あっさり して いて、 あの シンヤ の ロウジュンサ の ひそか な、 シツヨウ きわまる コウショク の 「トリシラベ」 とは、 ウンデイ の サ が ありました。 ジンモン が すんで、 ショチョウ は、 ケンジ キョク に おくる ショルイ を したためながら、
「カラダ を ジョウブ に しなけりゃ、 いかん ね。 ケッタン が でて いる よう じゃ ない か」
と いいました。
その アサ、 へんに セキ が でて、 ジブン は セキ の でる たび に、 ハンケチ で クチ を おおって いた の です が、 その ハンケチ に あかい アラレ が ふった みたい に チ が ついて いた の です。 けれども、 それ は、 ノド から でた チ では なく、 サクヤ、 ミミ の シタ に できた ちいさい オデキ を いじって、 その オデキ から でた チ なの でした。 しかし、 ジブン は、 それ を いいあかさない ほう が、 ベンギ な こと も ある よう な キ が ふっと した もの です から、 ただ、
「はい」
と、 フシメ に なり、 シュショウゲ に こたえて おきました。
ショチョウ は ショルイ を かきおえて、
「キソ に なる か どう か、 それ は ケンジ ドノ が きめる こと だ が、 オマエ の ミモト ヒキウケニン に、 デンポウ か デンワ で、 キョウ ヨコハマ の ケンジ キョク に きて もらう よう に、 たのんだ ほう が いい な。 ダレ か、 ある だろう、 オマエ の ホゴシャ とか ホショウニン とか いう もの が」
チチ の トウキョウ の ベッソウ に デイリ して いた ショガ コットウショウ の シブタ と いう、 ジブン たち と ドウキョウジン で、 チチ の タイコモチ みたい な ヤク も つとめて いた ずんぐり した ドクシン の シジュウ オトコ が、 ジブン の ガッコウ の ホショウニン に なって いる の を、 ジブン は おもいだしました。 その オトコ の カオ が、 ことに メツキ が、 ヒラメ に にて いる と いう ので、 チチ は いつも その オトコ を ヒラメ と よび、 ジブン も、 そう よびなれて いました。
ジブン は ケイサツ の デンワチョウ を かりて、 ヒラメ の イエ の デンワ バンゴウ を さがし、 みつかった ので、 ヒラメ に デンワ して、 ヨコハマ の ケンジ キョク に きて くれる よう に たのみましたら、 ヒラメ は ヒト が かわった みたい な いばった クチョウ で、 それでも、 とにかく ひきうけて くれました。
「おい、 その デンワキ、 すぐ ショウドク した ほう が いい ぜ。 なんせ、 ケッタン が でて いる ん だ から」
ジブン が、 また ホゴシツ に ひきあげて から、 オマワリ たち に そう いいつけて いる ショチョウ の おおきな コエ が、 ホゴシツ に すわって いる ジブン の ミミ に まで、 とどきました。
オヒルスギ、 ジブン は、 ほそい アサナワ で ドウ を しばられ、 それ は マント で かくす こと を ゆるされました が、 その アサナワ の ハシ を わかい オマワリ が、 しっかり にぎって いて、 フタリ イッショ に デンシャ で ヨコハマ に むかいました。
けれども、 ジブン には すこし の フアン も なく、 あの ケイサツ の ホゴシツ も、 ロウジュンサ も なつかしく、 ああ、 ジブン は どうして こう なの でしょう、 ザイニン と して しばられる と、 かえって ほっと して、 そうして ゆったり おちついて、 その とき の ツイオク を、 イマ かく に あたって も、 ホントウ に のびのび した たのしい キモチ に なる の です。
しかし、 その ジキ の なつかしい オモイデ の ナカ にも、 たった ヒトツ、 ヒヤアセ サント の、 ショウガイ わすれられぬ ヒサン な シクジリ が あった の です。 ジブン は、 ケンジ キョク の うすぐらい イッシツ で、 ケンジ の カンタン な トリシラベ を うけました。 ケンジ は 40 サイ ゼンゴ の ものしずか な、 (もし ジブン が ビボウ だった と して も、 それ は いわば ジャイン の ビボウ だった に チガイ ありません が、 その ケンジ の カオ は、 ただしい ビボウ、 と でも いいたい よう な、 ソウメイ な セイヒツ の ケハイ を もって いました) こせこせ しない ヒトガラ の よう でした ので、 ジブン も まったく ケイカイ せず、 ぼんやり チンジュツ して いた の です が、 とつぜん、 レイ の セキ が でて きて、 ジブン は タモト から ハンケチ を だし、 ふと その チ を みて、 この セキ も また ナニ か の ヤク に たつ かも しれぬ と あさましい カケヒキ の ココロ を おこし、 ごほん、 ごほん と フタツ ばかり、 オマケ の ニセ の セキ を おおげさ に つけくわえて、 ハンケチ で クチ を おおった まま ケンジ の カオ を ちらと みた、 カンイッパツ、
「ホントウ かい?」
ものしずか な ビショウ でした。 ヒヤアセ サント、 いいえ、 イマ おもいだして も、 キリキリマイ を したく なります。 チュウガク ジダイ に、 あの バカ の タケイチ から、 ワザ、 ワザ、 と いわれて セナカ を つかれ、 ジゴク に けおとされた、 その とき の オモイ イジョウ と いって も、 けっして カゴン では ない キモチ です。 あれ と、 これ と、 フタツ、 ジブン の ショウガイ に おける エンギ の ダイシッパイ の キロク です。 ケンジ の あんな ものしずか な ブベツ に あう より は、 いっそ ジブン は 10 ネン の ケイ を いいわたされた ほう が、 まし だった と おもう こと さえ、 ときたま ある ほど なの です。
ジブン は キソ ユウヨ に なりました。 けれども いっこう に うれしく なく、 よにも みじめ な キモチ で、 ケンジ キョク の ヒカエシツ の ベンチ に こしかけ、 ヒキトリニン の ヒラメ が くる の を まって いました。
ハイゴ の たかい マド から ユウヤケ の ソラ が みえ、 カモメ が、 「オンナ」 と いう ジ みたい な カタチ で とんで いました。