カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ワタシ は ウミ を だきしめて いたい

2017-07-23 | サカグチ アンゴ
 ワタシ は ウミ を だきしめて いたい

 サカグチ アンゴ

 ワタシ は いつも カミサマ の クニ へ いこう と しながら ジゴク の モン を くぐって しまう ニンゲン だ。 ともかく ワタシ は ハジメ から ジゴク の モン を めざして でかける とき でも、 カミサマ の クニ へ いこう と いう こと を わすれた こと の ない あまったるい ニンゲン だった。 ワタシ は けっきょく ジゴク と いう もの に センリツ した ためし は なく、 バカ の よう に タワイ も なく おちついて いられる くせ に、 カミサマ の クニ を わすれる こと が できない と いう ニンゲン だ。 ワタシ は かならず、 いまに ナニ か に ひどい メ に やっつけられて、 たたきのめされて、 あまったるい ウヌボレ の ぐう の ネ も でなく なる まで、 そして ホント に アシ すべらして マッサカサマ に おとされて しまう とき が ある と かんがえて いた。
 ワタシ は ずるい の だ。 アクマ の ウラガワ に カミサマ を わすれず、 カミサマ の カゲ で アクマ と すんで いる の だ から。 いまに、 アクマ にも カミサマ にも フクシュウ される と しんじて いた。 けれども、 ワタシ だって、 バカ は バカ なり に、 ここ まで ナンジュウネン か いきて きた の だ から、 タダ は まけない。 その とき こそ、 カタナ おれ、 ヤ つきる まで、 アクマ と カミサマ を アイテ に クミウチ も する し、 けとばし も する し、 めったやたら に ランセン ラントウ して やろう と ヒソウ な カクゴ を かためて、 いきつづけて きた の だ。 ずいぶん あまったれて いる けれども、 ともかく、 いつか、 バケノカワ が はげて、 ハダカ に され、 ケ を むしられて、 つきおとされる とき を わすれた こと だけ は なかった の だ。
 リコウ な ヒト は、 それ も オマエ の ズルサ の せい だ と いう だろう。 ワタシ は アクニン です、 と いう の は、 ワタシ は ゼンニン です と いう こと より も ずるい。 ワタシ も そう おもう。 でも、 なんと でも いう が いい や。 ワタシ は、 ワタシ ジシン の かんがえる こと も いっこう に シンヨウ して は いない の だ から。

     *

 ワタシ は しかし、 チカゴロ ミョウ に アンシン する よう に なって きた。 うっかり する と、 ワタシ は アクマ にも カミサマ にも けとばされず、 ハダカ に されず、 ケ を むしられず、 ブジ アンノン に すむ の じゃ ない か と、 へんに おもいつく とき が ある よう に なった。
 そういう アンシン を ワタシ に あたえる の は、 ヒトリ の オンナ で あった。 この オンナ は ウヌボレ の つよい オンナ で、 アタマ が わるくて、 テイソウ の カンネン が ない の で ある。 ワタシ は この オンナ の ホカ の どこ も すき では ない。 ただ ニクタイ が すき な だけ だ。
 ぜんぜん テイソウ の カンネン が かけて いた。 いらいら する と ジテンシャ に のって とびだして、 カエリ には ヒザコゾウ だの ウデ の アタリ から チ を ながして くる こと が あった。 がさつ な アワテモノ だ から、 ショウトツ したり、 ひっくりかえったり する の で ある。 その こと は チ を みれば わかる けれども、 しかし、 チ の ながれぬ よう な イタズラ を ダレ と どこ で して きた か は、 ワタシ には わからない。 わからぬ けれども、 ソウゾウ は できる し、 また、 ジジツ なの だ。
 この オンナ は ムカシ は ジョロウ で あった。 それから サカバ の マダム と なって、 やがて ワタシ と セイカツ する よう に なった が、 ワタシ ジシン も テイソウ の ネン は キハク なので、 ハジメ から、 イッテイ の キカン だけ の アソビ の つもり で あった。 この オンナ は ショウフ の セイカツ の ため に、 フカンショウ で あった。 ニクタイ の カンドウ と いう もの が、 ない の で ある。
 ニクタイ の カンドウ を しらない オンナ が、 ニクタイテキ に あそばず に いられぬ と いう の が、 ワタシ には わからなかった。 セイシンテキ に あそばず に いられぬ と いう なら、 ハナシ は おおいに わかる。 ところが、 この オンナ と きて は、 てんで セイシンテキ な レンアイ など は かんがえて おらぬ ので、 この オンナ の ウワキ と いう の は、 フカンショウ の ニクタイ を オモチャ に する だけ の こと なの で ある。
「どうして キミ は カラダ を オモチャ に する の だろう ね」
「ジョロウ だった せい よ」
 オンナ は さすが に あんぜん と して そう いった。 しばらく して ワタシ の クチビル を もとめる ので、 オンナ の ホオ に ふれる と、 ないて いる の だ。 ワタシ は オンナ の ナミダ など は うるさい ばかり で いっこう に カンドウ しない タチ で ある から、
「だって、 キミ、 ヘン じゃ ない か、 フカンショウ の くせ に……」
 ワタシ が いいかける と、 オンナ は ワタシ の コトバ を うばう よう に はげしく ワタシ に かじりついて、
「くるしめないで よ。 ねえ、 ゆるして ちょうだい。 ワタシ の カコ が わるい のよ」
 オンナ は キョウキ の よう に ワタシ の クチビル を もとめ、 ワタシ の アイブ を もとめた。 オンナ は オエツ し、 すがりつき、 みもだえた が、 しかし、 それ は ゲキジョウ の コウフン だけ で、 ニクタイ の シンジツ の ヨロコビ は、 その とき も なかった の で ある。
 ワタシ の つめたい ココロ が、 オンナ の むなしい ゲキジョウ を れいぜん と みすくめて いた。 すると オンナ が とつぜん メ を みひらいた。 その メ は ニクシミ に みちて いた。 ヒ の よう な ニクシミ だった。

     *

 ワタシ は しかし、 この オンナ の フグ な ニクタイ が へんに すき に なって きた。 シンジツ と いう もの から みすてられた ニクタイ は、 なまじい シンジツ な もの より も、 つめたい アイジョウ を ハンエイ する こと が できる よう な、 ゲンソウテキ な シュウチャク を もちだした の で ある。 ワタシ は オンナ の ニクタイ を だきしめて いる の で なし に、 オンナ の ニクタイ の カタチ を した ミズ を だきしめて いる よう な キモチ に なる こと が あった。
「ワタシ なんか、 どうせ へんちくりん な デキソコナイ よ。 ワタシ の イッショウ なんか、 どう に でも、 カッテ に なる が いい や」
 オンナ は アソビ の アト には、 とくべつ ジチョウテキ に なる こと が おおかった。
 オンナ の カラダ は、 うつくしい カラダ で あった。 ウデ も アシ も、 ムネ も コシ も、 やせて いる よう で ニクヅキ の ゆたか な、 そして ニクヅキ の みずみずしく やわらか な、 みあきない ウツクシサ が こもって いた。 ワタシ の あいして いる の は、 ただ その ニクタイ だけ だ と いう こと を オンナ は しって いた。
 オンナ は ときどき ワタシ の アイブ を うるさがった が、 ワタシ は そんな こと は コリョ しなかった。 ワタシ は オンナ の ウデ や アシ を オモチャ に して その ウツクシサ を ぼんやり ながめて いる こと が おおかった。 オンナ も ぼんやり して いたり、 わらいだしたり、 おこったり、 にくんだり した。
「おこる こと と にくむ こと を やめて くれない か。 ぼんやり して いられない の か」
「だって、 うるさい の だ もの」
「そう かな。 やっぱり キミ は ニンゲン か」
「じゃあ、 ナニ よ」
 ワタシ は オンナ を おだてる と つけあがる こと を しって いた から だまって いた。 ヤマ の オクソコ の モリ に かこまれた しずか な ヌマ の よう な、 ワタシ は そんな なつかしい キ が する こと が あった。 ただ つめたい、 うつくしい、 むなしい もの を だきしめて いる こと は、 ニクヨク の フマン は ベツ に、 せつない カナシサ が ある の で あった。
オンナ の むなしい ニクタイ は、 フマン で あって も、 フシギ に、 むしろ、 セイケツ を おぼえた。 ワタシ は ワタシ の みだら な タマシイ が それ に よって しずか に ゆるされて いる よう な おさない ナツカシサ を おぼえる こと が できた。
 ただ、 ワタシ の クツウ は、 こんな むなしい セイケツ な ニクタイ が、 どうして、 ケダモノ の よう な つかれた ウワキ を せず に いられない の だろう か、 と いう こと だけ だった。 ワタシ は オンナ の イントウ の チ を にくんだ が、 その チ すら も、 ときには セイケツ に おもわれて くる とき が あった。

     *

 ワタシ ジシン が ヒトリ の オンナ に マンゾク できる ニンゲン では なかった。 ワタシ は むしろ いかなる もの にも マンゾク できない ニンゲン で あった。 ワタシ は つねに あこがれて いる ニンゲン だ。
 ワタシ は コイ を する ニンゲン では ない。 ワタシ は もはや こいする こと が できない の だ。 なぜなら、 あらゆる もの が 「タカ の しれた もの」 だ と いう こと を しって しまった から だった。
 ただ ワタシ には アダゴコロ が あり、 タカ の しれた ナニモノ か と あそばず に いられなく なる。 その アソビ は、 ワタシ に とって は、 つねに チンプ で、 タイクツ だった。 マンゾク も なく、 コウカイ も なかった。
 オンナ も ワタシ と おなじ だろう か、 と ワタシ は ときどき かんがえた。 ワタシ ジシン の イントウ の チ と、 この オンナ の イントウ の チ と おなじ もの で あろう か。 ワタシ は そのくせ、 オンナ の イントウ の チ を ときどき のろった。
 オンナ の イントウ の チ が ワタシ の チ と ちがう ところ は、 オンナ は ジブン で ねらう こと も ある けれども、 ウケミ の こと が おおかった。 ヒト に シンセツ に されたり、 ヒト から モノ を もらったり する と、 その ヘンレイ に カラダ を あたえず に いられぬ よう な キモチ に なって しまう の だった。 ワタシ は、 その タヨリナサ が フユカイ で あった。 しかし ワタシ は そういう ワタシ ジシン の カンガエ に ついて も、 うたぐらず に いられなかった。 ワタシ は オンナ の フテイ を のろって いる の か、 フテイ の コンテイ が たよりない と いう こと を のろって いる の だろう か。 もしも オンナ が たよりない ウワキ の シカタ を しなく なれば、 オンナ の フテイ を のろわず に いられる で あろう か、 と。 ワタシ は しかし オンナ の ウワキ の コンテイ が たよりない と いう こと で おこる イガイ に シカタ が なかった。 なぜなら、 ワタシ ジシン が ゴドウヨウ、 ウワキ の ムシ に つかれた オトコ で あった から。
「しんで ちょうだい。 イッショ に」
 ワタシ に おこられる と、 オンナ は いう の が ツネ で あった。 しぬ イガイ に、 ジブン の ウワキ は どうにも する こと が できない の だ と いう こと を ホンノウテキ に さけんで いる コエ で あった。 オンナ は しにたがって は いない の だ。 しかし、 しぬ イガイ に ウワキ は どうにも ならない と いう サケビ には、 セツジツ な シンジツ が あった。 この オンナ の カラダ は ウソ の カラダ、 むなしい ムクロ で ある よう に、 この オンナ の サケビ は ウソッパチ でも、 ウソ ジタイ が シンジツ より も シンジツ だ と いう こと を、 ワタシ は ミョウ に かんがえる よう に なった。
「アナタ は ウソツキ で ない から、 いけない ヒト なの よ」
「いや、 ボク は ウソツキ だよ。 ただ、 ホントウ と ウソ と が ベツベツ だ から、 いけない の だ」
「もっと、 スレッカラシ に なりなさい よ」
 オンナ は ニクシミ を こめて ワタシ を みつめた。 けれども、 うなだれた。 それから、 また、 カオ を あげて、 くいつく よう な、 こわばった カオ に なった。
「アナタ が ワタシ の タマシイ を たかめて くれなければ、 ダレ が たかめて くれる の」
「ムシ の いい こと を いう もの じゃ ない よ」
「ムシ の いい こと って、 ナニ よ」
「ジブン の こと は、 ジブン で する イガイ に シカタ が ない もの だ。 ボク は ボク の こと だけ で、 いっぱい だよ。 キミ は キミ の こと だけ で、 いっぱい に なる が いい じゃ ない か」
「じゃ、 アナタ は、 ワタシ の ロボウ の ヒト なの ね」
「ダレ でも、 さ。 ダレ の タマシイ でも、 ロボウ で ない タマシイ なんて、 ある もの か。 フウフ は イッシン ドウタイ だ なんて、 バカ も やすみやすみ いう が いい や」
「ナニ よ。 ワタシ の カラダ に なぜ さわる のよ。 あっち へ いって よ」
「いや だ。 フウフ とは、 こういう もの なん だ。 タマシイ が ベツベツ でも、 ニクタイ の アソビ だけ が ある の だ から」
「いや。 ナニ を する のよ。 もう、 いや。 ゼッタイ に、 いや」
「そう は いわせぬ」
「いや だったら」
 オンナ は ふんぜん と して ワタシ の ウデ の ナカ から とびだした。 イフク が さけて、 だらしなく、 カタ が あらわれて いた。 オンナ の カオ は イカリ の ため に、 コメカミ に あおい スジ が びくびく して いた。
「アナタ は ワタシ の カラダ を カネ で かって いる のね。 わずか ばかり の カネ で、 ショウフ を かう カネ の 10 ブン の 1 にも あたらない やすい カネ で」
「その とおり さ。 キミ には それ が わかる だけ、 まだ、 まし なん だ」

     *

 ワタシ が ニクヨクテキ に なれば なる ほど、 オンナ の カラダ が トウメイ に なる よう な キ が した。 それ は オンナ が ニクタイ の ヨロコビ を しらない から だ。 ワタシ は ニクヨク に コウフン し、 ある とき は ギャクジョウ し、 ある とき は オンナ を にくみ、 ある とき は こよなく あいした。 しかし、 くるいたつ もの は ワタシ のみ で、 おうずる コタエ が なく、 ワタシ は ただ むなしい カゲ を だいて いる その コドクサ を むしろ あいした。
 ワタシ は オンナ が モノ を いわない ニンギョウ で あれば いい と かんがえた。 メ も みえず、 コエ も きこえず、 ただ、 ワタシ の コドク な ニクヨク に おうずる ムゲン の カゲエ で あって ほしい と ねがって いた。
 そして ワタシ は、 ワタシ ジシン の ホントウ の ヨロコビ は ナン だろう か と いう こと に ついて、 ふと、 おもいつく よう に なった。 ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は、 ある とき は トリ と なって ソラ を とび、 ある とき は サカナ と なって ヌマ の ミナソコ を くぐり、 ある とき は ケモノ と なって ノ を はしる こと では ない だろう か。
 ワタシ の ホントウ の ヨロコビ は コイ を する こと では ない。 ニクヨク に ふける こと では ない。 ただ、 コイ に つかれ、 コイ に うみ、 ニクヨク に つかれて、 ニクヨク を いむ こと が つねに ヒツヨウ な だけ だ。
 ワタシ は、 ニクヨク ジタイ が ワタシ の ヨロコビ では ない こと に きづいた こと を、 よろこぶ べき か、 かなしむ べき か、 しんず べき か、 うたがう べき か、 まよった。
 トリ と なって ソラ を とび、 サカナ と なって ミズ を くぐり、 ケモノ と なって ヤマ を はしりたい とは、 どういう イミ だろう? ワタシ は また、 ヘタクソ な ウソ を つきすぎて いる よう で いや でも あった が、 ワタシ は たぶん、 ワタシ は コドク と いう もの を、 みつめ、 ねらって いる の では ない か と かんがえた。
 オンナ の ニクタイ が トウメイ と なり、 ワタシ が コドク の ニクヨク に むしろ みたされて いく こと を、 ワタシ は それ が シゼン で ある と しんじる よう に なって いた。

     *

 オンナ は リョウリ を つくる こと が すき で あった。 ジブン が うまい もの を たべたい せい で あった。 また、 シンペン の セイケツ を このんだ。 ナツ に なる と、 センメンキ に ミズ を いれ、 それ に アシ を ひたして、 カベ に もたれて いる こと が あった。 ヨル、 ワタシ が ねよう と する と、 ワタシ の ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる こと が あった。 キマグレ だ から、 マイニチ の シュウカン と いう わけ では ない ので、 ワタシ は むしろ、 その キマグレ が すき だった。
 ワタシ は つねに はじめて せっする この オンナ の シタイ の ウツクシサ に メ を うたれて いた。 たとえば、 ホオヅエ を つきながら チャブダイ を ふく シタイ だの、 センメンキ に アシ を つっこんで カベ に もたれて いる シタイ だの、 そして また、 ときには なにも みえない クラヤミ で とつぜん ヒタイ に つめたい タオル を のせて くれる みょうちきりん な その タマシイ の シタイ など。
 ワタシ は ワタシ の オンナ への アイチャク が、 そういう もの に ゲンテイ されて いる こと を、 ある とき は みたされ も した が、 ある とき は かなしんだ。 みたされた ココロ は、 いつも、 ちいさい。 ちいさくて、 かなしい の だ。
 オンナ は クダモノ が すき で あった。 キセツ キセツ の クダモノ を サラ に のせて、 まるで、 つねに クダモノ を たべつづけて いる よう な カンジ で あった。 ショクヨク を そそられる ヨウス でも あった が、 ミョウ に ドンショク を かんじさせない あっさり した タベカタ で、 この オンナ の イントウ の アリカタ を ヒジョウ に かんじさせる の で あった。 それ も ワタシ には うつくしかった。
 この オンナ から イントウ を とりのぞく と、 この オンナ は ワタシ に とって ナニモノ でも なくなる の だ と いう こと が、 だんだん わかりかけて きた。 この オンナ が うつくしい の は イントウ の せい だ。 すべて キマグレ な ウツクシサ だった。
 しかし、 オンナ は ジブン の イントウ を おそれて も いた。 それ に くらべれば、 ワタシ は ワタシ の イントウ を おそれて は いなかった。 ただ、 ワタシ は、 オンナ ほど、 ジッサイ の イントウ に ふけらなかった だけ の こと だ。
「ワタシ は わるい オンナ ね」
「そう おもって いる の か」
「よい オンナ に なりたい のよ」
「よい オンナ とは、 どういう オンナ の こと だえ」
 オンナ の カオ に イカリ が はしった。 そして、 なきそう に なった。
「アナタ は どう おもって いる のよ。 ワタシ が にくい の? ワタシ と わかれる つもり? そして、 アタリマエ の オクサン を もらいたい の でしょう」
「キミ ジシン は、 どう なん だ」
「アナタ の こと を、 おっしゃい よ」
「ボク は、 アタリマエ の オクサン を もらいたい とは おもって いない。 それ だけ だ」
「ウソツキ」
 ワタシ に とって、 モンダイ は、 ベツ の ところ に あった。 ワタシ は ただ、 この オンナ の ニクタイ に、 ミレン が ある の だ。 それ だけ だった。

     *

 ワタシ は、 どうして オンナ が ワタシ から はなれない か を しって いた。 ホカ の オトコ は ワタシ の よう に ともかく オンナ の ウワキ を ゆるして へいぜん と して いない から だ。 また、 その うえ に、 ワタシ ほど ふかく、 オンナ の ニクタイ を あいする オトコ も なかった から だ。
 ワタシ は、 ニクタイ の カイカン を しらない オンナ の ニクタイ に、 ヒミツ の ヨロコビ を かんじて いる ワタシ の タマシイ が、 フグ では ない か と うたぐらねば ならなかった。 ワタシ ジシン の セイシン が、 オンナ の ニクタイ に ソウオウ して、 フグ で あり、 キケイ で あり、 ビョウキ では ない か と おもった。
 ワタシ は しかし、 カンギブツ の よう な ニクヨク の ニクヨクテキ な マンゾク の スガタ に ジブン の セイ を たくす だけ の ユウキ が ない。 ワタシ は モノ ソノモノ が モノ ソノモノ で ある よう な、 ドウブツテキ な シンジツ の セカイ を しんじる こと が できない の で ある。 ニクヨク の ウエ にも、 セイシン と コウサク した キョモウ の カゲ に いろどられて いなければ、 ワタシ は それ を にくまず に いられない。 ワタシ は もっとも コウショク で ある から、 タンジュン に ニクヨクテキ では ありえない の だ。
 ワタシ は オンナ が ニクタイ の マンゾク を しらない と いう こと の ウチ に、 ワタシ ジシン の フルサト を みいだして いた。 みちたる こと の カゲ だに ない ムナシサ は、 ワタシ の ココロ を いつも あらって くれる の だ。 ワタシ は やすんじて、 ワタシ ジシン の インヨク に くるう こと が できた。 ナニモノ も ワタシ の インヨク に こたえる もの が ない から だった。 その セイケツ と コドクサ が、 オンナ の アシ や ウデ や コシ を いっそう うつくしく みせる の だった。
 ニクヨク すら も コドク で ありうる こと を みいだした ワタシ は、 もう これから は、 コウフク を さがす ヒツヨウ は なかった。 ワタシ は あまんじて、 フコウ を さがしもとめれば よかった。
 ワタシ は ムカシ から、 コウフク を うたがい、 その チイササ を かなしみながら、 あこがれる ココロ を どう する こと も できなかった。 ワタシ は ようやく コウフク と テ を きる こと が できた よう な キ が した の で ある。
 ワタシ は ハジメ から フコウ や クルシミ を さがす の だ。 もう、 コウフク など は ねがわない。 コウフク など と いう もの は、 ヒト の ココロ を しんじつ なぐさめて くれる もの では ない から で ある。 かりそめにも コウフク に なろう など とは おもって は いけない ので、 ヒト の タマシイ は エイエン に コドク なの だ から。 そして ワタシ は きわめて イセイ よく、 そういう ネンブツ の よう な こと を かんがえはじめた。
 ところが ワタシ は、 フコウ とか クルシミ とか が、 どんな もの だ か、 そのじつ、 しって いない の だ。 おまけに、 コウフク が どんな もの だ か、 それ も しらない。 どう に でも なれ。 ワタシ は ただ ワタシ の タマシイ が ナニモノ に よって も みちたる こと が ない こと を カクシン した と いう の だろう。 ワタシ は つまり、 ワタシ の タマシイ が みちたる こと を ほっしない タテマエ と なった だけ だ。
 そんな こと を かんがえながら、 ワタシ は しかし、 イヌコロ の よう に オンナ の ニクタイ を したう の だった。 ワタシ の ココロ は ただ ドンヨク な オニ で あった。 いつも、 ただ、 こう つぶやいて いた。 どうして、 なにもかも、 こう、 タイクツ なん だ。 なんて、 やりきれない ムナシサ だろう。
 ワタシ は ある とき オンナ と オンセン へ いった。
 カイガン へ サンポ に でる と、 その ヒ は ものすごい アレウミ だった。 オンナ は ハダシ に なり、 ナミ の ひく マ を くぐって カイガラ を ひろって いる。 オンナ は ダイタン で、 ビンカツ だった。 ナミ の コキュウ を のみこんで、 ウミ を セイフク して いる よう な ホンポウ な ウゴキ で あった。 ワタシ は その シンセンサ に メ を うたれ、 どこ か で、 ときどき、 おもいがけなく あらわれて くる みしらぬ シタイ の アザヤカサ を むさぼりながめて いた が、 ワタシ は ふと、 おおきな、 ミノタケ の ナンバイ も ある ナミ が おこって、 やにわに オンナ の スガタ が のみこまれ、 きえて しまった の を みた。 ワタシ は その シュンカン、 やにわに おこった ナミ が ウミ を かくし、 ソラ の ハンブン を かくした よう な、 くらい、 おおきな ウネリ を みた。 ワタシ は おもわず、 ココロ に サケビ を あげた。
 それ は ワタシ の イッシュン の ゲンカク だった。 ソラ は もう、 はれて いた。 オンナ は まだ ナミ の ひく マ を くぐって、 かけまわって いる。 ワタシ は しかし その イッシュン の ゲンカク の あまり の ウツクシサ に、 さめやらぬ オモイ で あった。 ワタシ は オンナ の スガタ の きえて なくなる こと を ほっして いる の では ない。 ワタシ は ワタシ の ニクヨク に おぼれ、 オンナ の ニクタイ を あいして いた から、 オンナ の きえて なくなる こと を ねがった ためし は なかった。
 ワタシ は タニソコ の よう な おおきな アンリョクショク の クボミ を ふかめて わきおこり、 イッシュン に シブキ の オク に オンナ を かくした ミズ の タワムレ の オオキサ に メ を うたれた。 オンナ の ムカンドウ な、 ただ ジュウナン な ニクタイ より も、 もっと ムジヒ な、 もっと ムカンドウ な、 もっと ジュウナン な ニクタイ を みた。 ウミ と いう ニクタイ だった。 ひろびろ と、 なんと ソウダイ な タワムレ だろう と ワタシ は おもった。
 ワタシ の ニクヨク も、 あの ウミ の くらい ウネリ に まかれたい。 あの ナミ に うたれて、 くぐりたい と おもった。 ワタシ は ウミ を だきしめて、 ワタシ の ニクヨク が みたされて くれれば よい と おもった。 ワタシ は ニクヨク の チイササ が かなしかった。
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サクラ の モリ の マンカイ の シタ 1

2016-02-19 | サカグチ アンゴ
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ

 サカグチ アンゴ

 サクラ の ハナ が さく と ヒトビト は サケ を ぶらさげたり ダンゴ を たべて ハナ の シタ を あるいて ゼッケイ だの ハル らんまん だの と うかれて ヨウキ に なります が、 これ は ウソ です。 なぜ ウソ か と もうします と、 サクラ の ハナ の シタ へ ヒト が よりあつまって よっぱらって ゲロ を はいて ケンカ して、 これ は エド ジダイ から の ハナシ で、 オオムカシ は サクラ の ハナ の シタ は おそろしい と おもって も、 ゼッケイ だ など とは ダレ も おもいません でした。 チカゴロ は サクラ の ハナ の シタ と いえば ニンゲン が よりあつまって サケ を のんで ケンカ して います から ヨウキ で にぎやか だ と おもいこんで います が、 サクラ の ハナ の シタ から ニンゲン を とりさる と おそろしい ケシキ に なります ので、 ノウ にも、 さる ハハオヤ が アイジ を ヒトサライ に さらわれて コドモ を さがして ハッキョウ して サクラ の ハナ の マンカイ の ハヤシ の シタ へ きかかり みわたす ハナビラ の カゲ に コドモ の マボロシ を えがいて クルイジニ して ハナビラ に うまって しまう (この ところ ショウセイ の ダソク) と いう ハナシ も あり、 サクラ の ハヤシ の ハナ の シタ に ヒト の スガタ が なければ おそろしい ばかり です。
 ムカシ、 スズカ トウゲ にも タビビト が サクラ の モリ の ハナ の シタ を とおらなければ ならない よう な ミチ に なって いました。 ハナ の さかない コロ は よろしい の です が、 ハナ の キセツ に なる と、 タビビト は ミンナ モリ の ハナ の シタ で キ が ヘン に なりました。 できる だけ はやく ハナ の シタ から にげよう と おもって、 あおい キ や カレキ の ある ほう へ イチモクサン に はしりだした もの です。 ヒトリ だ と まだ よい ので、 なぜか と いう と、 ハナ の シタ を イチモクサン に にげて、 アタリマエ の キ の シタ へ くる と ほっと して やれやれ と おもって、 すむ から です が、 フタリヅレ は ツゴウ が わるい。 なぜなら ニンゲン の アシ の ハヤサ は カクジン カクヨウ で、 ヒトリ が おくれます から、 おい まって くれ、 ウシロ から ヒッシ に さけんで も、 ミンナ キチガイ で、 トモダチ を すてて はしります。 それで スズカ トウゲ の サクラ の モリ の ハナ の シタ を ツウカ した トタン に イマ まで ナカ の よかった タビビト が ナカ が わるく なり、 アイテ の ユウジョウ を シンヨウ しなく なります。 そんな こと から タビビト も シゼン に サクラ の モリ の シタ を とおらない で、 わざわざ トオマワリ の ベツ の ヤマミチ を あるく よう に なり、 やがて サクラ の モリ は カイドウ を はずれて ヒト の コ ヒトリ とおらない ヤマ の セイジャク へ とりのこされて しまいました。
 そう なって ナンネン か アト に、 この ヤマ に ヒトリ の サンゾク が すみはじめました が、 この サンゾク は ずいぶん むごたらしい オトコ で、 カイドウ へ でて ナサケヨウシャ なく キモノ を はぎ ヒト の イノチ も たちました が、 こんな オトコ でも サクラ の モリ の ハナ の シタ へ くる と やっぱり おそろしく なって キ が ヘン に なりました。 そこで サンゾク は それ イライ ハナ が きらい で、 ハナ と いう もの は おそろしい もの だな、 なんだか いや な もの だ、 そういう ふう に ハラ の ナカ では つぶやいて いました。 ハナ の シタ では カゼ が ない のに ごうごう カゼ が なって いる よう な キ が しました。 そのくせ カゼ が ちっとも なく、 ヒトツ も モノオト が ありません。 ジブン の スガタ と アシオト ばかり で、 それ が ひっそり つめたい そして うごかない カゼ の ナカ に つつまれて いました。 ハナビラ が ぽそぽそ ちる よう に タマシイ が ちって イノチ が だんだん おとろえて いく よう に おもわれます。 それで メ を つぶって ナニ か さけんで にげたく なります が、 メ を つぶる と サクラ の キ に ぶつかる ので メ を つぶる わけ にも いきません から、 いっそう キチガイ に なる の でした。
 けれども サンゾク は おちついた オトコ で、 コウカイ と いう こと を しらない オトコ です から、 これ は おかしい と かんがえた の です。 ひとつ、 ライネン、 かんがえて やろう。 そう おもいました。 コトシ は かんがえる キ が しなかった の です。 そして、 ライネン、 ハナ が さいたら、 その とき じっくり かんがえよう と おもいました。 マイトシ そう かんがえて、 もう 10 ナンネン も たち、 コトシ も また、 ライネン に なったら かんがえて やろう と おもって、 また、 トシ が くれて しまいました。
 そう かんがえて いる うち に、 ハジメ は ヒトリ だった ニョウボウ が もう 7 ニン にも なり、 8 ニン-メ の ニョウボウ を また カイドウ から オンナ の テイシュ の キモノ と イッショ に さらって きました。 オンナ の テイシュ は ころして きました。
 サンゾク は オンナ の テイシュ を ころす とき から、 どうも ヘン だ と おもって いました。 イツモ と カッテ が ちがう の です。 どこ と いう こと は わからぬ けれども、 へんてこ で、 けれども カレ の ココロ は モノ に こだわる こと に なれません ので、 その とき も かくべつ ふかく ココロ に とめません でした。
 サンゾク は ハジメ は オトコ を ころす キ は なかった ので、 ミグルミ ぬがせて、 いつも する よう に とっとと うせろ と けとばして やる つもり でした が、 オンナ が うつくしすぎた ので、 ふと、 オトコ を きりすてて いました。 カレ ジシン に おもいがけない デキゴト で あった ばかり で なく、 オンナ に とって も おもいがけない デキゴト だった シルシ に、 サンゾク が ふりむく と オンナ は コシ を ぬかして カレ の カオ を ぼんやり みつめました。 キョウ から オマエ は オレ の ニョウボウ だ と いう と、 オンナ は うなずきました。 テ を とって オンナ を ひきおこす と、 オンナ は あるけない から おぶって おくれ と いいます。 サンゾク は ショウチ ショウチ と オンナ を かるがる と せおって あるきました が、 けわしい ノボリザカ へ きて、 ここ は あぶない から おりて あるいて もらおう と いって も、 オンナ は しがみついて いや いや、 いや よ、 と いって おりません。
「オマエ の よう な ヤマオトコ が くるしがる ほど の サカミチ を どうして ワタシ が あるける もの か、 かんがえて ごらん よ」
「そう か、 そう か、 よしよし」 と オトコ は つかれて くるしくて も コウキゲン でした。 「でも、 イチド だけ おりて おくれ。 ワタシ は つよい の だ から、 くるしくて、 ヒトヤスミ したい と いう わけ じゃ ない ぜ。 メノタマ が アタマ の ウシロガワ に ある と いう ワケ の もの じゃ ない から、 サッキ から オマエサン を おぶって いて も なんとなく もどかしくて シカタ が ない の だよ。 イチド だけ シタ へ おりて かわいい カオ を おがまして もらいたい もの だ」
「いや よ、 いや よ」 と、 また、 オンナ は やけに クビッタマ に しがみつきました。 「ワタシ は こんな さびしい ところ に イットキ も じっと して いられない よ。 オマエ の ウチ の ある ところ まで イットキ も やすまず いそいで おくれ。 さも ない と、 ワタシ は オマエ の ニョウボウ に なって やらない よ。 ワタシ に こんな さびしい オモイ を させる なら、 ワタシ は シタ を かんで しんで しまう から」
「よしよし。 わかった。 オマエ の タノミ は なんでも きいて やろう」
 サンゾク は この うつくしい ニョウボウ を アイテ に ミライ の タノシミ を かんがえて、 とける よう な コウフク を かんじました。 カレ は いばりかえって カタ を はって、 マエ の ヤマ、 ウシロ の ヤマ、 ミギ の ヤマ、 ヒダリ の ヤマ、 ぐるり と イッカイテン して オンナ に みせて、
「これ だけ の ヤマ と いう ヤマ が みんな オレ の もの なん だぜ」
 と いいました が、 オンナ は そんな こと には てんで とりあいません。 カレ は イガイ に また ザンネン で、
「いい かい。 オマエ の メ に みえる ヤマ と いう ヤマ、 キ と いう キ、 タニ と いう タニ、 その タニ から わく クモ まで、 みんな オレ の もの なん だぜ」
「はやく あるいて おくれ。 ワタシ は こんな イワコブ-だらけ の ガケ の シタ に いたく ない の だ から」
「よし、 よし。 いまに ウチ に つく と トビキリ の ゴチソウ を こしらえて やる よ」
「オマエ は もっと いそげない の かえ。 はしって おくれ」
「なかなか この サカミチ は オレ が ヒトリ でも そう は かけられない ナンショ だよ」
「オマエ も ミカケ に よらない イクジナシ だねえ。 ワタシ と した こと が、 とんだ カイショウナシ の ニョウボウ に なって しまった。 ああ、 ああ。 これから ナニ を タヨリ に くらしたら いい の だろう」
「ナニ を バカ な。 これ ぐらい の サカミチ が」
「ああ、 もどかしい ねえ。 オマエ は もう つかれた の かえ」
「バカ な こと を。 この サカミチ を つきぬける と、 シカ も かなわぬ よう に はしって みせる から」
「でも オマエ の イキ は くるしそう だよ。 カオイロ が あおい じゃ ない か」
「なんでも モノゴト の ハジメ の うち は そういう もの さ。 いまに イキオイ の ハズミ が つけば、 オマエ が セナカ で メ を まわす ぐらい はやく はしる よ」
 けれども サンゾク は カラダ が フシブシ から ばらばら に わかれて しまった よう に つかれて いました。 そして ワガヤ の マエ へ たどりついた とき には メ も くらみ ミミ も なり シワガレゴエ の ヒトキレ を ふりしぼる チカラ も ありません。 イエ の ナカ から 7 ニン の ニョウボウ が むかえ に でて きました が、 サンゾク は イシ の よう に こわばった カラダ を ほぐして セナカ の オンナ を おろす だけ で せいいっぱい でした。
 7 ニン の ニョウボウ は イマ まで に みかけた こと も ない オンナ の ウツクシサ に うたれました が、 オンナ は 7 ニン の ニョウボウ の キタナサ に おどろきました。 7 ニン の ニョウボウ の ナカ には ムカシ は かなり きれい な オンナ も いた の です が イマ は みる カゲ も ありません。 オンナ は うすきみわるがって オトコ の セ へ しりぞいて、
「この ヤマオンナ は ナン なの よ」
「これ は オレ の ムカシ の ニョウボウ なん だよ」
 と オトコ は こまって 「ムカシ の」 と いう モンク を かんがえついて くわえた の は トッサ の ヘンジ に して は よく できて いました が、 オンナ は ヨウシャ が ありません。
「まあ、 これ が オマエ の ニョウボウ かえ」
「それ は、 オマエ、 オレ は オマエ の よう な かわいい オンナ が いよう とは しらなかった の だ から ね」
「あの オンナ を きりころして おくれ」
 オンナ は いちばん カオカタチ の ととのった ヒトリ を さして さけびました。
「だって、 オマエ、 ころさなく っとも、 ジョチュウ だ と おもえば いい じゃ ない か」
「オマエ は ワタシ の テイシュ を ころした くせ に、 ジブン の ニョウボウ が ころせない の かえ。 オマエ は それでも ワタシ を ニョウボウ に する つもり なの かえ」
 オトコ の むすばれた クチ から ウメキ が もれました。 オトコ は とびあがる よう に ヒトオドリ して さされた オンナ を きりたおして いました。 しかし、 イキ つく ヒマ も ありません。
「この オンナ よ。 コンド は、 それ、 この オンナ よ」
 オトコ は ためらいました が、 すぐ ずかずか あるいて いって、 オンナ の クビ へ ざくり と ダンビラ を きりこみました。 クビ が まだ ころころ と とまらぬ うち に、 オンナ の ふっくら ツヤ の ある すきとおる コエ は ツギ の オンナ を さして うつくしく ひびいて いました。
「この オンナ よ、 コンド は」
 ゆびさされた オンナ は リョウテ に カオ を かくして きゃー と いう サケビゴエ を はりあげました。 その サケビ に ふりかぶって、 ダンビラ は チュウ を ひらめいて はしりました。 のこる オンナ たち は にわか に いちどきに たちあがって シホウ に ちりました。
「ヒトリ でも にがしたら ショウチ しない よ。 ヤブ の カゲ にも ヒトリ いる よ。 カミテ へ ヒトリ にげて いく よ」
 オトコ は チガタナ を ふりあげて ヤマ の ハヤシ を かけくるいました。 たった ヒトリ にげおくれて コシ を ぬかした オンナ が いました。 それ は いちばん みにくくて、 ビッコ の オンナ でした が、 オトコ が にげた オンナ を ヒトリ あまさず きりすてて もどって きて、 ムゾウサ に ダンビラ を ふりあげます と、
「いい のよ。 この オンナ だけ は。 これ は ワタシ が ジョチュウ に つかう から」
「ツイデ だ から、 やって しまう よ」
「バカ だね。 ワタシ が ころさない で おくれ と いう の だよ」
「ああ、 そう か。 ホント だ」
 オトコ は チガタナ を なげすてて シリモチ を つきました。 ツカレ が どっと こみあげて メ が くらみ、 ツチ から はえた シリ の よう に オモミ が わかって きました。 ふと セイジャク に キ が つきました。 とびたつ よう な オソロシサ が こみあげ、 ぎょっと して ふりむく と、 オンナ は そこ に いくらか やるせない フゼイ で たたずんで います。 オトコ は アクム から さめた よう な キ が しました。 そして、 メ も タマシイ も シゼン に オンナ の ウツクシサ に すいよせられて うごかなく なって しまいました。 けれども オトコ は フアン でした。 どういう フアン だ か、 なぜ、 フアン だ か、 ナニ が、 フアン だ か、 カレ には わからぬ の です。 オンナ が うつくしすぎて、 カレ の タマシイ が それ に すいよせられて いた ので、 ムネ の フアン の ナミダチ を さして キ に せず に いられた だけ です。
 なんだか、 にて いる よう だな、 と カレ は おもいました。 にた こと が、 いつか、 あった、 それ は、 と カレ は かんがえました。 ああ、 そう だ、 あれ だ。 キ が つく と カレ は びっくり しました。
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ です。 あの シタ を とおる とき に にて いました。 どこ が、 ナニ が、 どんな ふう に にて いる の だ か わかりません。 けれども、 ナニ か、 にて いる こと は、 たしか でした。 カレ には いつも それ ぐらい の こと しか わからず、 それから サキ は わからなくて も キ に ならぬ タチ の オトコ でした。
 ヤマ の ながい フユ が おわり、 ヤマ の テッペン の ほう や タニ の クボミ に キ の カゲ に ユキ は ぽつぽつ のこって いました が、 やがて ハナ の キセツ が おとずれよう と して ハル の キザシ が ソラ イチメン に かがやいて いました。
 コトシ、 サクラ の ハナ が さいたら、 と、 カレ は かんがえました。 ハナ の シタ に さしかかる とき は まだ それほど では ありません。 それで おもいきって ハナ の シタ へ あるいて みます。 だんだん あるく うち に キ が ヘン に なり、 マエ も ウシロ も ミギ も ヒダリ も、 どっち を みて も ウエ に かぶさる ハナ ばかり、 モリ の マンナカ に ちかづく と オソロシサ に メクラメッポウ たまらなく なる の でした。 コトシ は ひとつ、 あの ハナザカリ の ハヤシ の マンナカ で、 じっと うごかず に、 いや、 おもいきって ジベタ へ すわって やろう、 と カレ は かんがえました。 その とき、 この オンナ も つれて いこう か、 カレ は ふと かんがえて、 オンナ の カオ を ちらと みる と、 ムナサワギ が して あわてて メ を そらしました。 ジブン の ハラ が オンナ に しれて は タイヘン だ と いう キモチ が、 なぜ だ か ムネ に やけのこりました。

     *

 オンナ は タイヘン な ワガママモノ でした。 どんな に ココロ を こめた ゴチソウ を こしらえて やって も、 かならず フフク を いいました。 カレ は コトリ や シカ を とり に ヤマ を はしりました。 イノシシ も クマ も とりました。 ビッコ の オンナ は キ の メ や クサ の ネ を さがして ひねもす リンカン を さまよいました。 しかし オンナ は マンゾク を しめした こと は ありません。
「マイニチ こんな もの を ワタシ に くえ と いう の かえ」
「だって、 トビキリ の ゴチソウ なん だぜ。 オマエ が ここ へ くる まで は、 トオカ に イチド ぐらい しか これ だけ の もの は くわなかった もの だ」
「オマエ は ヤマオトコ だ から それ で いい の だろう さ。 ワタシ の ノド は とおらない よ。 こんな さびしい ヤマオク で、 ヨル の ヨナガ に きく もの と いえば フクロウ の コエ ばかり、 せめて たべる もの でも ミヤコ に おとらぬ おいしい もの が たべられない もの かねえ。 ミヤコ の カゼ が どんな もの か、 その ミヤコ の カゼ を せきとめられた ワタシ の オモイ の セツナサ が どんな もの か、 オマエ には さっしる こと も できない の だね。 オマエ は ワタシ から ミヤコ の カゼ を もぎとって、 その カワリ に オマエ の くれた もの と いえば カラス や フクロウ の なく コエ ばかり。 オマエ は それ を はずかしい とも、 むごたらしい とも おもわない の だよ」
 オンナ の えんじる コトバ の ドウリ が オトコ には のみこめなかった の です。 なぜなら オトコ は ミヤコ の カゼ が どんな もの だ か しりません。 ケントウ も つかない の です。 この セイカツ この コウフク に たりない もの が ある と いう ジジツ に ついて おもいあたる もの が ない。 カレ は ただ オンナ の えんじる フゼイ の セツナサ に トウワク し、 それ を どのよう に ショチ して よい か メアテ に ついて なんの ジジツ も しらない ので、 モドカシサ に くるしみました。
 イマ まで には ミヤコ から の タビビト を ナンニン ころした か しれません。 ミヤコ から の タビビト は カネモチ で ショジヒン も ゴウカ です から、 ミヤコ は カレ の よい カモ で、 せっかく ショジヒン を うばって みて も ナカミ が つまらなかったり する と ちぇっ この イナカモノ め、 とか ドビャクショウ め とか ののしった もの で、 つまり カレ は ミヤコ に ついて は それ だけ が チシキ の ゼンブ で、 ゴウカ な ショジヒン を もつ ヒトタチ の いる ところ で あり、 カレ は それ を まきあげる と いう カンガエ イガイ に ヨネン は ありません でした。 ミヤコ の ソラ が どっち の ホウガク だ と いう こと すら も かんがえて みる ヒツヨウ が なかった の です。
 オンナ は クシ だの コウガイ だの カンザシ だの ベニ だの を ダイジ に しました。 カレ が ドロ の テ や ヤマ の ケモノ の チ に ぬれた テ で かすか に キモノ に ふれた だけ でも オンナ は カレ を しかりました。 まるで キモノ が オンナ の イノチ で ある よう に、 そして それ を まもる こと が ジブン の ツトメ で ある よう に、 ミノマワリ を セイケツ に させ、 イエ の テイレ を めいじます。 その キモノ は 1 マイ の コソデ と ホソヒモ だけ では ことたりず、 ナンマイ か の キモノ と イクツ も の ヒモ と、 そして その ヒモ は ミョウ な カタチ に むすばれ フヒツヨウ に たれながされて、 イロイロ の カザリモノ を つけたす こと に よって ヒトツ の スガタ が カンセイ されて いく の でした。 オトコ は メ を みはりました。 そして タンセイ を もらしました。 カレ は ナットク させられた の です。 かくして ヒトツ の ビ が なりたち、 その ビ に カレ が みたされて いる、 それ は うたぐる ヨチ が ない、 コ と して は イミ を もたない フカンゼン かつ フカカイ な ダンペン が あつまる こと に よって ヒトツ の もの を カンセイ する、 その もの を ブンカイ すれば ムイミ なる ダンペン に きする、 それ を カレ は カレ-らしく ヒトツ の たえなる マジュツ と して ナットク させられた の でした。
 オトコ は ヤマ の キ を きりだして オンナ の めいじる もの を つくります。 ナニモノ が、 そして ナニヨウ に つくられる の か、 カレ ジシン それ を つくりつつ ある うち は しる こと が できない の でした。 それ は コショウ と ヒジカケ でした。 コショウ は つまり イス です。 オテンキ の ヒ、 オンナ は これ を ソト へ ださせて、 ヒナタ に、 また、 コカゲ に、 こしかけて メ を つぶります。 ヘヤ の ナカ では ヒジカケ に もたれて モノオモイ に ふける よう な、 そして それ は、 それ を みる オトコ の メ には スベテ が イヨウ な、 なまめかしく、 なやましい スガタ に ほかならぬ の でした。 マジュツ は ゲンジツ に おこなわれて おり、 カレ ミズカラ が その マジュツ の ジョシュ で ありながら、 その おこなわれる マジュツ の ケッカ に つねに いぶかり そして タンショウ する の でした。
 ビッコ の オンナ は アサ ごと に オンナ の ながい クロカミ を くしけずります。 その ため に もちいる ミズ を、 オトコ は タニガワ の とくに とおい シミズ から くみとり、 そして とくべつ そのよう に チュウイ を はらう ジブン の ロウク を なつかしみました。 ジブン ジシン が マジュツ の ヒトツ の チカラ に なりたい と いう こと が オトコ の ネガイ に なって いました。 そして カレ ジシン くしけずられる クロカミ に わが テ を くわえて みたい もの だ と おもいます。 いや よ、 そんな テ は、 と オンナ は オトコ を はらいのけて しかります。 オトコ は コドモ の よう に テ を ひっこめて、 てれながら、 クロカミ に ツヤ が たち、 むすばれ、 そして カオ が あらわれ、 ヒトツ の ビ が えがかれ うまれて くる こと を みはてぬ ユメ に おもう の でした。
「こんな もの が なあ」
 カレ は モヨウ の ある クシ や カザリ の ある コウガイ を いじりまわしました。 それ は カレ が イマ まで は イミ も ネウチ も みとめる こと の できなかった もの でした が、 イマ も なお、 モノ と モノ との チョウワ や カンケイ、 カザリ と いう イミ の ヒハン は ありません。 けれども マリョク が わかります。 マリョク は モノ の イノチ でした。 モノ の ナカ にも イノチ が あります。
「オマエ が いじって は いけない よ。 なぜ マイニチ きまった よう に テ を だす の だろう ね」
「フシギ な もの だなあ」
「ナニ が フシギ なの さ」
「ナニ が って こと も ない けど さ」
 と オトコ は てれました。 カレ には オドロキ が ありました が、 その タイショウ は わからぬ の です。
 そして オトコ に ミヤコ を おそれる ココロ が うまれて いました。 その オソレ は キョウフ では なく、 しらない と いう こと に たいする シュウチ と フアン で、 モノシリ が ミチ の コトガラ に いだく フアン と シュウチ に にて いました。 オンナ が 「ミヤコ」 と いう たび に カレ の ココロ は おびえおののきました。 けれども カレ は メ に みえる ナニモノ も おそれた こと が なかった ので、 オソレ の ココロ に ナジミ が なく、 はじる ココロ にも なれて いません。 そして カレ は ミヤコ に たいして テキイ だけ を もちました。
 ナンビャク ナンゼン の ミヤコ から の タビビト を おそった が テ に たつ モノ が なかった の だ から、 と カレ は マンゾク して かんがえました。 どんな カコ を おもいだして も、 うらぎられ きずつけられる フアン が ありません。 それ に きづく と、 カレ は つねに ユカイ で また ほこりやか でした。 カレ は オンナ の ビ に たいして ジブン の ツヨサ を タイヒ しました。 そして ツヨサ の ジカク の ウエ で タショウ の ニガテ と みられる もの は イノシシ だけ でした。 その イノシシ も ジッサイ は さして おそる べき テキ でも ない ので、 カレ は ユトリ が ありました。
「ミヤコ には キバ の ある ニンゲン が いる かい」
「ユミ を もった サムライ が いる よ」
「はっはっはっ。 ユミ なら オレ は タニ の ムコウ の スズメ の コ でも おとす の だ から な。 ミヤコ には カタナ が おれて しまう よう な カワ の かたい ニンゲン は いない だろう」
「ヨロイ を きた サムライ が いる よ」
「ヨロイ は カタナ が おれる の か」
「おれる よ」
「オレ は クマ も イノシシ も くみふせて しまう の だ から な」
「オマエ が ホントウ に つよい オトコ なら、 ワタシ を ミヤコ へ つれて いって おくれ。 オマエ の チカラ で、 ワタシ の ほしい もの、 ミヤコ の スイ を ワタシ の ミノマワリ へ かざって おくれ。 そして ワタシ に しんから たのしい オモイ を さずけて くれる こと が できる なら、 オマエ は ホントウ に つよい オトコ なの さ」
「ワケ の ない こと だ」
 オトコ は ミヤコ へ いく こと に ココロ を きめました。 カレ は ミヤコ に あり と ある クシ や コウガイ や カンザシ や キモノ や カガミ や ベニ を ミッカ ミバン と たたない うち に オンナ の マワリ へ つみあげて みせる つもり でした。 なんの キガカリ も ありません。 ヒトツ だけ キ に かかる こと は、 まったく ミヤコ に カンケイ の ない ベツ な こと でした。
 それ は サクラ の モリ でした。
 フツカ か ミッカ の ノチ に モリ の マンカイ が おとずれよう と して いました。 コトシ こそ、 カレ は ケツイ して いました。 サクラ の モリ の ハナザカリ の マンナカ で、 ミウゴキ も せず じっと すわって いて みせる。 カレ は マイニチ ひそか に サクラ の モリ へ でかけて ツボミ の フクラミ を はかって いました。 あと ミッカ、 カレ は シュッパツ を いそぐ オンナ に いいました。
「オマエ に シタク の メンドウ が ある もの かね」 と オンナ は マユ を よせました。 「じらさない で おくれ。 ミヤコ が ワタシ を よんで いる の だよ」
「それでも ヤクソク が ある から ね」
「オマエ が かえ。 この ヤマオク に ヤクソク した ダレ が いる のさ」
「それ は ダレ も いない けれども、 ね。 けれども、 ヤクソク が ある の だよ」
「それ は まあ めずらしい こと が ある もの だねえ。 ダレ も いなくって ダレ と ヤクソク する の だえ」
 オトコ は ウソ が つけなく なりました。
「サクラ の ハナ が さく の だよ」
「サクラ の ハナ と ヤクソク した の かえ」
「サクラ の ハナ が さく から、 それ を みて から でかけなければ ならない の だよ」
「どういう ワケ で」
「サクラ の モリ の シタ へ いって みなければ ならない から だよ」
「だから、 なぜ いって みなければ ならない のよ」
「ハナ が さく から だよ」
「ハナ が さく から、 なぜ さ」
「ハナ の シタ は つめたい カゼ が はりつめて いる から だよ」
「ハナ の シタ に かえ」
「ハナ の シタ は ハテ が ない から だよ」
「ハナ の シタ が かえ」
 オトコ は わからなく なって くしゃくしゃ しました。
「ワタシ も ハナ の シタ へ つれて いって おくれ」
「それ は、 ダメ だ」
 オトコ は きっぱり いいました。
「ヒトリ で なくちゃ、 ダメ なん だ」
 オンナ は クショウ しました。
 オトコ は クショウ と いう もの を はじめて みました。 そんな イジ の わるい ワライ を カレ は イマ まで しらなかった の でした。 そして それ を カレ は 「イジ の わるい」 と いう ふう には ハンダン せず に、 カタナ で きって も きれない よう に、 と ハンダン しました。 その ショウコ には、 クショウ は カレ の アタマ に ハン を おした よう に きざみつけられて しまった から です。 それ は カタナ の ハ の よう に おもいだす たび に ちくちく アタマ を きりました。 そして カレ が それ を きる こと は できない の でした。
 ミッカ-メ が きました。
 カレ は ひそか に でかけました。 サクラ の モリ は マンカイ でした。 ヒトアシ ふみこむ とき、 カレ は オンナ の クショウ を おもいだしました。 それ は イマ まで に オボエ の ない スルドサ で アタマ を きりました。 それ だけ で もう カレ は コンラン して いました。 ハナ の シタ の ツメタサ は ハテ の ない シホウ から どっと おしよせて きました。 カレ の カラダ は たちまち その カゼ に ふきさらされて トウメイ に なり、 シホウ の カゼ は ごうごう と ふきとおり、 すでに カゼ だけ が はりつめて いる の でした。 カレ の コエ のみ が さけびました。 カレ は はしりました。 なんと いう コクウ でしょう。 カレ は なき、 いのり、 もがき、 ただ にげさろう と して いました。 そして、 ハナ の シタ を ぬけだした こと が わかった とき、 ユメ の ナカ から ワレ に かえった おなじ キモチ を みいだしました。 ユメ と ちがって いる こと は、 ホントウ に イキ も たえだえ に なって いる ミ の クルシサ で ありました。
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サクラ の モリ の マンカイ の シタ 2

2016-02-04 | サカグチ アンゴ
     *

 オトコ と オンナ と ビッコ の オンナ は ミヤコ に すみはじめました。
 オトコ は ヨゴト に オンナ の めいじる テイタク へ しのびいりました。 キモノ や ホウセキ や ソウシング も もちだしました が、 それ のみ が オンナ の ココロ を みたす もの では ありません でした。 オンナ の ナニ より ほしがる もの は、 その イエ に すむ ヒト の クビ でした。
 カレラ の イエ には すでに ナンジュウ の テイタク の クビ が あつめられて いました。 ヘヤ の シホウ の ツイタテ に しきられて クビ は ならべられ、 ある クビ は つるされ、 オトコ には クビ の カズ が おおすぎて どれ が どれ やら わからなく とも、 オンナ は いちいち おぼえて おり、 すでに ケ が ぬけ、 ニク が くさり、 ハッコツ に なって も、 どこ の タレ と いう こと を おぼえて いました。 オトコ や ビッコ の オンナ が クビ の バショ を かえる と おこり、 ここ は どこ の カゾク、 ここ は ダレ の カゾク と やかましく いいました。
 オンナ は マイニチ クビアソビ を しました。 クビ は ケライ を つれて サンポ に でます。 クビ の カゾク へ ベツ の クビ の カゾク が あそび に きます。 クビ が コイ を します。 オンナ の クビ が オトコ の クビ を ふり、 また、 オトコ の クビ が オンナ の クビ を すてて オンナ の クビ を なかせる こと も ありました。
 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ に だまされました。 ダイナゴン の クビ は ツキ の ない ヨル、 ヒメギミ の クビ の こいする ヒト の クビ の フリ を して しのんで いって チギリ を むすびます。 チギリ の ノチ に ヒメギミ の クビ が キ が つきます。 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ を にくむ こと が できず ワガミ の サダメ の カナシサ に ないて、 アマ に なる の でした。 すると ダイナゴン の クビ は アマデラ へ いって、 アマ に なった ヒメギミ の クビ を おかします。 ヒメギミ の クビ は しのう と します が ダイナゴン の ササヤキ に まけて アマデラ を にげて ヤマシナ の サト へ かくれて ダイナゴン の クビ の カコイモノ と なって カミノケ を はやします。 ヒメギミ の クビ も ダイナゴン の クビ も もはや ケ が ぬけ ニク が くさり ウジムシ が わき ホネ が のぞけて いました。 フタリ の クビ は サカモリ を して コイ に たわぶれ、 ハ の ホネ と かみあって かちかち なり、 くさった ニク が ぺちゃぺちゃ くっつきあい ハナ も つぶれ メノタマ も くりぬけて いました。
 ぺちゃぺちゃ と くっつき フタリ の カオ の カタチ が くずれる たび に オンナ は オオヨロコビ で、 けたたましく わらいさざめきました。
「ほれ、 ホッペタ を たべて やりなさい。 ああ おいしい。 ヒメギミ の ノド も たべて やりましょう。 はい、 メノタマ も かじりましょう。 すすって やりましょう ね。 はい、 ぺろぺろ。 あら、 おいしい ね。 もう、 たまらない のよ、 ねえ、 ほら、 うんと かじりついて やれ」
 オンナ は からから わらいます。 きれい な すんだ ワライゴエ です。 うすい トウキ が なる よう な さわやか な コエ でした。
 ボウズ の クビ も ありました。 ボウズ の クビ は オンナ に にくがられて いました。 いつも わるい ヤク を ふられ、 にくまれて、 ナブリゴロシ に されたり、 ヤクニン に ショケイ されたり しました。 ボウズ の クビ は クビ に なって ノチ に かえって ケ が はえ、 やがて その ケ も ぬけて くさりはて、 ハッコツ に なりました。 ハッコツ に なる と、 オンナ は ベツ の ボウズ の クビ を もって くる よう に めいじました。 あたらしい ボウズ の クビ は まだ うらわかい みずみずしい チゴ の ウツクシサ が のこって いました。 オンナ は よろこんで ツクエ に のせ サケ を ふくませ ホオズリ して なめたり くすぐったり しました が、 じき あきました。
「もっと ふとった にくたらしい クビ よ」
 オンナ は めいじました。 オトコ は メンドウ に なって イツツ ほど ぶらさげて きました。 よぼよぼ の ロウソウ の クビ も、 マユ の ふとい ホッペタ の あつい、 カエル が しがみついて いる よう な ハナ の カタチ の カオ も ありました。 ミミ の とがった ウマ の よう な ボウズ の クビ も、 ひどく シンミョウ な クビ の ボウズ も あります。 けれども オンナ の キ に いった の は ヒトツ でした。 それ は 50 ぐらい の オオボウズ の クビ で、 ブオトコ で メジリ が たれ、 ホオ が たるみ、 クチビル が あつくて、 その オモサ で クチ が あいて いる よう な ダラシ の ない クビ でした。 オンナ は たれた メジリ の リョウハシ を リョウテ の ユビ の サキ で おさえて、 くりくり と つりあげて まわしたり、 シシバナ の アナ へ 2 ホン の ボウ を さしこんだり、 サカサ に たてて ころがしたり、 だきしめて ジブン の オチチ を あつい クチビル の アイダ へ おしこんで しゃぶらせたり して オオワライ しました。 けれども じきに あきました。
 うつくしい ムスメ の クビ が ありました。 きよらか な しずか な コウキ な クビ でした。 こどもっぽくて、 そのくせ しんだ カオ です から ミョウ に おとなびた ウレイ が あり、 とじられた マブタ の オク に たのしい オモイ も かなしい オモイ も ませた オモイ も イチド に ごっちゃ に かくされて いる よう でした。 オンナ は その クビ を ジブン の ムスメ か イモウト の よう に かわいがりました。 くろい カミノケ を すいて やり、 カオ に オケショウ して やりました。 ああ でも ない、 こう でも ない と ネン を いれて、 ハナ の カオリ の むらだつ よう な やさしい カオ が うきあがりました。
 ムスメ の クビ の ため に、 ヒトリ の わかい キコウシ の クビ が ヒツヨウ でした。 キコウシ の クビ も ネンイリ に オケショウ され、 フタリ の ワカモノ の クビ は もえくるう よう な コイ の アソビ に ふけります。 すねたり、 おこったり、 にくんだり、 ウソ を ついたり、 だましたり、 かなしい カオ を して みせたり、 けれども フタリ の ジョウネツ が イチド に もえあがる とき は ヒトリ の ヒ が めいめい タ の ヒトリ を やきこがして どっち も やかれて まいあがる カエン と なって もえまじりました。 けれども まもなく ワルザムライ だの イロゴノミ の オトナ だの アクソウ だの きたない クビ が ジャマ に でて、 キコウシ の クビ は けられて うたれた アゲク に ころされて、 ミギ から ヒダリ から マエ から ウシロ から きたない クビ が ごちゃごちゃ ムスメ に いどみかかって、 ムスメ の クビ には きたない クビ の くさった ニク が へばりつき、 キバ の よう な ハ に くいつかれ、 ハナ の サキ が かけたり、 ケ が むしられたり します。 すると オンナ は ムスメ の クビ を ハリ で つついて アナ を あけ、 コガタナ で きったり、 えぐったり、 ダレ の クビ より も きたならしい メ も あてられない クビ に して なげだす の でした。
 オトコ は ミヤコ を きらいました。 ミヤコ の メズラシサ も なれて しまう と、 なじめない キモチ ばかり が のこりました。 カレ も ミヤコ では ヒトナミ に スイカン を きて も スネ を だして あるいて いました。 ハクチュウ は カタナ を さす こと も できません。 イチ へ カイモノ に いかなければ なりません し、 シロクビ の いる イザカヤ で サケ を のんで も カネ を はらわねば なりません。 イチ の ショウニン は カレ を なぶりました。 ヤサイ を つんで うり に くる イナカオンナ も コドモ まで なぶりました。 シロクビ も カレ を わらいました。 ミヤコ では キゾク は ギッシャ で ミチ の マンナカ を とおります。 スイカン を きた ハダシ の ケライ は たいがい フルマイザケ に カオ を あかく して いばりちらして あるいて いきました。 カレ は マヌケ だの バカ だの ノロマ だの と イチ でも ロジョウ でも オテラ の ニワ でも どなられました。 それで もう それ ぐらい の こと には ハラ が たたなく なって いました。
 オトコ は ナニ より も タイクツ に くるしみました。 ニンゲン ども と いう もの は タイクツ な もの だ、 と カレ は つくづく おもいました。 カレ は つまり ニンゲン が うるさい の でした。 おおきな イヌ が あるいて いる と、 ちいさな イヌ が ほえます。 オトコ は ほえられる イヌ の よう な もの でした。 カレ は ひがんだり ねたんだり すねたり かんがえたり する こと が きらい でした。 ヤマ の ケモノ や キ や カワ や トリ は うるさく は なかった がな、 と カレ は おもいました。
「ミヤコ は タイクツ な ところ だなあ」 と カレ は ビッコ の オンナ に いいました。 「オマエ は ヤマ へ かえりたい と おもわない か」
「ワタシ は ミヤコ は タイクツ では ない から ね」
 と ビッコ の オンナ は こたえました。 ビッコ の オンナ は イチニチジュウ リョウリ を こしらえ センタク し キンジョ の ヒトタチ と オシャベリ して いました。
「ミヤコ では オシャベリ が できる から タイクツ しない よ。 ワタシ は ヤマ は タイクツ で きらい さ」
「オマエ は オシャベリ が タイクツ で ない の か」
「アタリマエ さ。 ダレ だって しゃべって いれば タイクツ しない もの だよ」
「オレ は しゃべれば しゃべる ほど タイクツ する のに なあ」
「オマエ は しゃべらない から タイクツ なの さ」
「そんな こと が ある もの か。 しゃべる と タイクツ する から しゃべらない の だ」
「でも しゃべって ごらん よ。 きっと タイクツ を わすれる から」
「ナニ を」
「なんでも しゃべりたい こと を さ」
「しゃべりたい こと なんか ある もの か」
 オトコ は いまいましがって アクビ を しました。
 ミヤコ にも ヤマ が ありました。 しかし、 ヤマ の ウエ には テラ が あったり イオリ が あったり、 そして、 そこ には かえって オオク の ヒト の オウライ が ありました。 ヤマ から ミヤコ が ヒトメ に みえます。 なんと いう タクサン の イエ だろう。 そして、 なんと いう きたない ナガメ だろう、 と おもいました。
 カレ は マイバン ヒト を ころして いる こと を ヒル は ほとんど わすれて いました。 なぜなら カレ は ヒト を ころす こと にも タイクツ して いる から でした。 なにも キョウミ は ありません。 カタナ で たたく と クビ が ぽろり と おちて いる だけ でした。 クビ は やわらかい もの でした。 ホネ の テゴタエ は まったく かんじる こと が ない もの で、 ダイコン を きる の と おなじ よう な もの でした。 その クビ の オモサ の ほう が カレ には よほど イガイ でした。
 カレ には オンナ の キモチ が わかる よう な キ が しました。 カネツキドウ では ヒトリ の ボウズ が ヤケ に なって カネ を ついて います。 なんと いう ばかげた こと を やる の だろう と カレ は おもいました。 ナニ を やりだす か わかりません。 こういう ヤツラ と カオ を みあって くらす と したら、 オレ でも ヤツラ を クビ に して イッショ に くらす こと を えらぶ だろう さ、 と おもう の でした。
 けれども カレ は オンナ の ヨクボウ に キリ が ない ので、 その こと にも タイクツ して いた の でした。 オンナ の ヨクボウ は、 いわば つねに キリ も なく ソラ を チョクセン に とびつづけて いる トリ の よう な もの でした。 やすむ ヒマ なく つねに チョクセン に とびつづけて いる の です。 その トリ は つかれません。 つねに ソウカイ に カゼ を きり、 すいすい と こきみよく ムゲン に とびつづけて いる の でした。
 けれども カレ は タダ の トリ でした。 エダ から エダ を とびまわり、 たまに タニ を わたる ぐらい が せいぜい で、 エダ に とまって ウタタネ して いる フクロウ にも にて いました。 カレ は ビンショウ でした。 ゼンシン が よく うごき、 よく あるき、 ドウサ は いきいき して いました。 カレ の ココロ は しかし シリ の おもたい トリ なの でした。 カレ は ムゲン に チョクセン に とぶ こと など は おもい も よらない の です。
 オトコ は ヤマ の ウエ から ミヤコ の ソラ を ながめて います。 その ソラ を 1 ワ の トリ が チョクセン に とんで いきます。 ソラ は ヒル から ヨル に なり、 ヨル から ヒル に なり、 ムゲン の メイアン が くりかえし つづきます。 その ハテ に なにも なく いつまで たって も ただ ムゲン の メイアン が ある だけ、 オトコ は ムゲン を ジジツ に おいて ナットク する こと が できません。 その サキ の ヒ、 その サキ の ヒ、 その また サキ の ヒ、 メイアン の ムゲン の クリカエシ を かんがえます。 カレ の アタマ は われそう に なりました。 それ は カンガエ の ツカレ で なし に、 カンガエ の クルシサ の ため でした。
 イエ へ かえる と、 オンナ は イツモ の よう に クビアソビ に ふけって いました。 カレ の スガタ を みる と、 オンナ は まちかまえて いた の でした。
「コンヤ は シラビョウシ の クビ を もって きて おくれ。 とびきり うつくしい シラビョウシ の クビ だよ。 マイ を まわせる の だ から。 ワタシ が イマヨウ を うたって きかせて あげる よ」
 オトコ は さっき ヤマ の ウエ から みつめて いた ムゲン の メイアン を おもいだそう と しました。 この ヘヤ が あの いつまでも ハテ の ない ムゲン の メイアン の クリカエシ の ソラ の はず です が、 それ は もう おもいだす こと が できません。 そして オンナ は トリ では なし に、 やっぱり うつくしい イツモ の オンナ で ありました。 けれども カレ は こたえました。
「オレ は いや だよ」
 オンナ は びっくり しました。 その アゲク に わらいだしました。
「おやおや。 オマエ も オクビョウカゼ に ふかれた の。 オマエ も タダ の ヨワムシ ね」
「そんな ヨワムシ じゃ ない の だ」
「じゃ、 ナニ さ」
「キリ が ない から いや に なった のさ」
「あら、 おかしい ね。 なんでも キリ が ない もの よ。 マイニチ マイニチ ゴハン を たべて、 キリ が ない じゃ ない か。 マイニチ マイニチ ねむって、 キリ が ない じゃ ない か」
「それ と ちがう の だ」
「どんな ふう に ちがう のよ」
 オトコ は ヘンジ に つまりました。 けれども ちがう と おもいました。 それで いいくるめられる クルシサ を のがれて ソト へ でました。
「シラビョウシ の クビ を もって おいで」
 オンナ の コエ が ウシロ から よびかけました が、 カレ は こたえません でした。
 カレ は なぜ、 どんな ふう に ちがう の だろう と かんがえました が わかりません。 だんだん ヨル に なりました。 カレ は また ヤマ の ウエ へ のぼりました。 もう ソラ も みえなく なって いました。
 カレ は キ が つく と、 ソラ が おちて くる こと を かんがえて いました。 ソラ が おちて きます。 カレ は クビ を しめつけられる よう に くるしんで いました。 それ は オンナ を ころす こと でした。
 ソラ の ムゲン の メイアン を はしりつづける こと は、 オンナ を ころす こと に よって、 とめる こと が できます。 そして、 ソラ は おちて きます。 カレ は ほっと する こと が できます。 しかし、 カレ の シンゾウ には アナ が あいて いる の でした。 カレ の ムネ から トリ の スガタ が とびさり、 かききえて いる の でした。
 あの オンナ が オレ なん だろう か? そして ソラ を ムゲン に チョクセン に とぶ トリ が オレ ジシン だった の だろう か? と カレ は うたぐりました。 オンナ を ころす と、 オレ を ころして しまう の だろう か。 オレ は ナニ を かんがえて いる の だろう?
 なぜ ソラ を おとさねば ならない の だ か、 それ も わからなく なって いました。 あらゆる ソウネン が とらえがたい もの で ありました。 そして ソウネン の ひいた アト に のこる もの は クツウ のみ でした。 ヨ が あけました。 カレ は オンナ の いる イエ へ もどる ユウキ が うしなわれて いました。 そして スウジツ、 サンチュウ を さまよいました。
 ある アサ、 メ が さめる と、 カレ は サクラ の ハナ の シタ に ねて いました。 その サクラ の キ は 1 ポン でした。 サクラ の キ は マンカイ でした。 カレ は おどろいて とびおきました が、 それ は にげだす ため では ありません。 なぜなら、 たった 1 ポン の サクラ の キ でした から。 カレ は スズカ の ヤマ の サクラ の モリ の こと を とつぜん おもいだして いた の でした。 あの ヤマ の サクラ の モリ も ハナザカリ に チガイ ありません。 カレ は ナツカシサ に ワレ を わすれ、 ふかい モノオモイ に しずみました。
 ヤマ へ かえろう。 ヤマ へ かえる の だ。 なぜ この タンジュン な こと を わすれて いた の だろう? そして、 なぜ ソラ を おとす こと など を かんがえふけって いた の だろう? カレ は アクム の さめた オモイ が しました。 すくわれた オモイ が しました。 イマ まで その チカク まで うしなって いた ヤマ の ソウシュン の ニオイ が ミ に せまって つよく つめたく わかる の でした。
 オトコ は イエ へ かえりました。
 オンナ は うれしげ に カレ を むかえました。
「どこ へ いって いた のさ。 ムリ な こと を いって オマエ を くるしめて すまなかった わね。 でも、 オマエ が いなく なって から の ワタシ の サビシサ を さっして おくれ な」
 オンナ が こんな に やさしい こと は イマ まで に ない こと でした。 オトコ の ムネ は いたみました。 もうすこし で カレ の ケツイ は とけて きえて しまいそう です。 けれども カレ は おもいけっしました。
「オレ は ヤマ へ かえる こと に した よ」
「ワタシ を のこして かえ。 そんな むごたらしい こと が どうして オマエ の ココロ に すむ よう に なった の だろう」
 オンナ の メ は イカリ に もえました。 その カオ は うらぎられた クヤシサ で いっぱい でした。
「オマエ は いつから そんな ハクジョウモノ に なった のよ」
「だから さ。 オレ は ミヤコ が きらい なん だ」
「ワタシ と いう モノ が いて も かえ」
「オレ は ミヤコ に すんで いたく ない だけ なん だ」
「でも、 ワタシ が いる じゃ ない か。 オマエ は ワタシ が きらい に なった の かえ。 ワタシ は オマエ の いない ルス は オマエ の こと ばかり かんがえて いた の だよ」
 オンナ の メ に ナミダ の シズク が やどりました。 オンナ の メ に ナミダ の やどった の は はじめて の こと でした。 オンナ の カオ には もはや イカリ は きえて いました。 ツレナサ を うらむ セツナサ のみ が あふれて いました。
「だって オマエ は ミヤコ で なきゃ すむ こと が できない の だろう。 オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だ」
「ワタシ は オマエ と イッショ で なきゃ いきて いられない の だよ。 ワタシ の オモイ が オマエ には わからない の かねえ」
「でも オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だぜ」
「だから、 オマエ が ヤマ へ かえる なら、 ワタシ も イッショ に ヤマ へ かえる よ。 ワタシ は たとえ 1 ニチ でも オマエ と はなれて いきて いられない の だ もの」
 オンナ の メ は ナミダ に ぬれて いました。 オトコ の ムネ に カオ を おしあてて あつい ナミダ を ながしました。 ナミダ の アツサ は オトコ の ムネ に しみました。
 たしか に、 オンナ は オトコ なし では いきられなく なって いました。 あたらしい クビ は オンナ の イノチ でした。 そして その クビ を オンナ の ため に もたらす モノ は カレ の ホカ には なかった から です。 カレ は オンナ の イチブ でした。 オンナ は それ を はなす わけ に いきません。 オトコ の ノスタルジー が みたされた とき、 ふたたび ミヤコ へ つれもどす カクシン が オンナ には ある の でした。
「でも オマエ は ヤマ で くらせる かえ」
「オマエ と イッショ なら どこ で でも くらす こと が できる よ」
「ヤマ には オマエ の ほしがる よう な クビ が ない の だぜ」
「オマエ と クビ と、 どっち か ヒトツ を えらばなければ ならない なら、 ワタシ は クビ を あきらめる よ」
 ユメ では ない か と オトコ は うたぐりました。 あまり うれしすぎて しんじられない から でした。 ユメ に すら こんな ねがって も ない こと は かんがえる こと が できなかった の でした。
 カレ の ムネ は あらた な キボウ で いっぱい でした。 その オトズレ は トウトツ で ランボウ で、 イマ の サッキ まで の くるしい オモイ が、 もはや とらえがたい かなた へ へだてられて いました。 カレ は こんな に やさしく は なかった キノウ まで の オンナ の こと も わすれました。 イマ と アス が ある だけ でした。
 フタリ は ただちに シュッパツ しました。 ビッコ の オンナ は のこす こと に しました。 そして シュッパツ の とき、 オンナ は ビッコ の オンナ に むかって、 じき かえって くる から まって おいで、 と ひそか に いいのこしました。

     *

 メノマエ に ムカシ の ヤマヤマ の スガタ が あらわれました。 よべば こたえる よう でした。 キュウドウ を とる こと に しました。 その ミチ は もう ふむ ヒト が なく、 ミチ の スガタ は きえうせて、 タダ の ハヤシ、 タダ の ヤマサカ に なって いました。 その ミチ を いく と、 サクラ の モリ の シタ を とおる こと に なる の でした。
「せおって おくれ。 こんな ミチ の ない ヤマサカ は ワタシ は あるく こと が できない よ」
「ああ、 いい とも」
 オトコ は かるがる と オンナ を せおいました。
 オトコ は はじめて オンナ を えた ヒ の こと を おもいだしました。 その ヒ も カレ は オンナ を せおって トウゲ の アチラガワ の ヤマミチ を のぼった の でした。 その ヒ も シアワセ で いっぱい でした が、 キョウ の シアワセ は さらに ゆたか な もの でした。
「はじめて オマエ に あった ヒ も オンブ して もらった わね」
 と、 オンナ も おもいだして、 いいました。
「オレ も それ を おもいだして いた の だぜ」
 オトコ は うれしそう に わらいました。
「ほら、 みえる だろう。 あれ が みんな オレ の ヤマ だ。 タニ も キ も トリ も クモ まで オレ の ヤマ さ。 ヤマ は いい なあ。 はしって みたく なる じゃ ない か。 ミヤコ では そんな こと は なかった から な」
「はじめて の ヒ は オンブ して オマエ を はしらせた もの だった わね」
「ホント だ。 ずいぶん つかれて、 メ が まわった もの さ」
 オトコ は サクラ の モリ の ハナザカリ を わすれて は いません でした。 しかし、 この コウフク な ヒ に、 あの モリ の ハナザカリ の シタ が ナニホド の もの でしょう か。 カレ は おそれて いません でした。
 そして サクラ の モリ が カレ の ガンゼン に あらわれて きました。 まさしく イチメン の マンカイ でした。 カゼ に ふかれた ハナビラ が ぱらぱら と おちて います。 ツチハダ の ウエ は イチメン に ハナビラ が しかれて いました。 この ハナビラ は どこ から おちて きた の だろう? なぜなら、 ハナビラ の ヒトヒラ が おちた とも おもわれぬ マンカイ の ハナ の フサ が みはるかす ズジョウ に ひろがって いる から でした。
 オトコ は マンカイ の ハナ の シタ へ あるきこみました。 アタリ は ひっそり と、 だんだん つめたく なる よう でした。 カレ は ふと オンナ の テ が つめたく なって いる の に キ が つきました。 にわか に フアン に なりました。 トッサ に カレ は わかりました。 オンナ が オニ で ある こと を。 とつぜん どっ と いう つめたい カゼ が ハナ の シタ の シホウ の ハテ から ふきよせて いました。
 オトコ の セナカ に しがみついて いる の は、 ゼンシン が ムラサキイロ の カオ の おおきな ロウバ でした。 その クチ は ミミ まで さけ、 ちぢくれた カミノケ は ミドリ でした。 オトコ は はしりました。 ふりおとそう と しました。 オニ の テ に チカラ が こもり カレ の ノド に くいこみました。 カレ の メ は みえなく なろう と しました。 カレ は ムチュウ でした。 ゼンシン の チカラ を こめて オニ の テ を ゆるめました。 その テ の スキマ から クビ を ぬく と、 セナカ を すべって、 どさり と オニ は おちました。 コンド は カレ が オニ に くみつく バン でした。 オニ の クビ を しめました。 そして カレ が ふと きづいた とき、 カレ は ゼンシン の チカラ を こめて オンナ の クビ を しめつけ、 そして オンナ は すでに いきたえて いました。
 カレ の メ は かすんで いました。 カレ は より おおきく メ を みひらく こと を こころみました が、 それ に よって シカク が もどって きた よう に かんじる こと が できません でした。 なぜなら、 カレ の しめころした の は サッキ と かわらず やはり オンナ で、 おなじ オンナ の シタイ が そこ に ある ばかり だ から で ありました。
 カレ の コキュウ は とまりました。 カレ の チカラ も、 カレ の シネン も、 スベテ が ドウジ に とまりました。 オンナ の シタイ の ウエ には、 すでに イクツ か の サクラ の ハナビラ が おちて きました。 カレ は オンナ を ゆさぶりました。 よびました。 だきました。 トロウ でした。 カレ は わっと なきふしました。 たぶん カレ が この ヤマ に すみついて から、 この ヒ まで、 ないた こと は なかった でしょう。 そして カレ が シゼン に ワレ に かえった とき、 カレ の セ には しろい ハナビラ が つもって いました。
 そこ は サクラ の モリ の ちょうど マンナカ の アタリ でした。 シホウ の ハテ は ハナ に かくれて オク が みえません でした。 ヒゴロ の よう な オソレ や フアン は きえて いました。 ハナ の ハテ から ふきよせる つめたい カゼ も ありません。 ただ ひっそり と、 そして ひそひそ と、 ハナビラ が ちりつづけて いる ばかり でした。 カレ は はじめて サクラ の モリ の マンカイ の シタ に すわって いました。 いつまでも そこ に すわって いる こと が できます。 カレ は もう かえる ところ が ない の です から。
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ の ヒミツ は ダレ にも イマ も わかりません。 あるいは 「コドク」 と いう もの で あった かも しれません。 なぜなら、 オトコ は もはや コドク を おそれる ヒツヨウ が なかった の です。 カレ ミズカラ が コドク ジタイ で ありました。
 カレ は はじめて シホウ を みまわしました。 ズジョウ に ハナ が ありました。 その シタ に ひっそり と ムゲン の コクウ が みちて いました。 ひそひそ と ハナ が ふります。 それ だけ の こと です。 ホカ には なんの ヒミツ も ない の でした。
 ほどへて カレ は ただ ヒトツ の なまあたたか な ナニモノ か を かんじました。 そして それ が カレ ジシン の ムネ の カナシミ で ある こと に キ が つきました。 ハナ と コクウ の さえた ツメタサ に つつまれて、 ほのあたたかい フクラミ が、 すこし ずつ わかりかけて くる の でした。
 カレ は オンナ の カオ の ウエ の ハナビラ を とって やろう と しました。 カレ の テ が オンナ の カオ に とどこう と した とき に、 ナニ か かわった こと が おこった よう に おもわれました。 すると、 カレ の テ の シタ には ふりつもった ハナビラ ばかり で、 オンナ の スガタ は かききえて ただ イクツ か の ハナビラ に なって いました。 そして、 その ハナビラ を かきわけよう と した カレ の テ も カレ の カラダ も のばした とき には もはや きえて いました。 アト に ハナビラ と、 つめたい コクウ が はりつめて いる ばかり でした。
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ハクチ 1

2014-05-21 | サカグチ アンゴ
 ハクチ

 サカグチ アンゴ

 その イエ には ニンゲン と ブタ と イヌ と ニワトリ と アヒル が すんで いた が、 まったく、 すむ タテモノ も オノオノ の タベモノ も ほとんど かわって い や しない。 モノオキ の よう な ひんまがった タテモノ が あって、 カイカ には シュジン フウフ、 テンジョウウラ には ハハ と ムスメ が マガリ して いて、 この ムスメ は アイテ の わからぬ コドモ を はらんで いる。
 イザワ の かりて いる イッシツ は オモヤ から ブンリ した コヤ で、 ここ は ムカシ この イエ の ハイビョウ の ムスコ が ねて いた そう だ が、 ハイビョウ の ブタ にも ゼイタク-すぎる コヤ では ない。 それでも オシイレ と ベンジョ と トダナ が ついて いた。
 シュジン フウフ は シタテヤ で チョウナイ の オハリ の センセイ など も やり (それゆえ ハイビョウ の ムスコ を ベツ の コヤ へ いれた の だ) チョウカイ の ヤクイン など も やって いる。 マガリ の ムスメ は がんらい チョウカイ の ジムイン だった が、 チョウカイ ジムショ に ネトマリ して いて チョウカイチョウ と シタテヤ を のぞいた タ の ヤクイン の ゼンブ の モノ (10 スウニン) と コウヘイ に カンケイ を むすんだ そう で、 その ウチ の ダレ か の タネ を やどした わけ だ。 そこで チョウカイ の ヤクイン ども が キョキン して この ヤネウラ で コドモ の シマツ を つけさせよう と いう の だ が、 セケン は ムダ が ない もの で、 ヤクイン の ヒトリ に トウフヤ が いて、 この オトコ だけ ムスメ が ニンシン して この ヤネウラ に ひそんだ ノチ も かよって きて、 けっきょく ムスメ は この オトコ の メカケ の よう に きまって しまった。 タ の ヤクイン ども は これ が わかる と さっそく キョキン を やめて しまい、 この ワカレメ の 1 カゲツ ブン の セイカツヒ は トウフヤ が フタン す べき だ と シュチョウ して、 シハライ に おうじない ヤオヤ と トケイヤ と ジヌシ と ナニヤ だ か 7~8 ニン あり (ヒトリアタリ キン 5 エン) ムスメ は イマ に いたる まで ジダンダ ふんで いる。
 この ムスメ は おおきな クチ と おおきな フタツ の メノタマ を つけて いて、 そのくせ ひどく やせこけて いた。 アヒル を きらって、 ニワトリ に だけ タベモノ の ノコリ を やろう と する の だ が、 アヒル が ヨコ から まきあげる ので、 マイニチ ハラ を たてて アヒル を おっかけて いる。 おおきな ハラ と シリ を ゼンゴ に つきだして キミョウ な チョクリツ の シセイ で はしる カッコウ が アヒル に にて いる の で あった。
 この ロジ の デグチ に タバコヤ が あって、 55 と いう バアサン が オシロイ つけて すんで おり、 7 ニン-メ とか 8 ニン-メ とか の ジョウフ を おいだして、 その カワリ を チュウネン の ボウズ に しよう か やはり チュウネン の ナニヤ だ か に しよう か と ハンモンチュウ の ヨシ で あり、 わかい オトコ が ウラグチ から タバコ を かい に いく と イクツ か うって くれる ヨシ で (ただし ヤミネ) センセイ (イザワ の こと) も ウラグチ から いって ごらんなさい と シタテヤ が いう の だ が、 あいにく イザワ は ツトメサキ で トクハイ が ある ので バアサン の セワ に ならず に すんで いた。
 ところが その スジムカイ の コメ の ハイキュウジョ の ウラテ に コガネ を にぎった ミボウジン が すんで いて、 アニ (ショッコウ) と イモウト の フタリ の コドモ が ある の だ が、 この シンジツ の キョウダイ が フウフ の カンケイ を むすんで いる。 けれども ミボウジン は けっきょく その ほう が ヤスアガリ だ と モクニン して いる うち に、 アニ の ほう に オンナ が できた。 そこで イモウト の ほう を かたづける ヒツヨウ が あって シンセキ に あたる 50 とか 60 とか の ロウジン の ところ へ ヨメイリ と いう こと に なり、 イモウト が ネコイラズ を のんだ。 のんで おいて シタテヤ (イザワ の ゲシュク) へ オケイコ に きて くるしみはじめ、 けっきょく しんで しまった が、 その とき チョウナイ の イシャ が シンゾウ マヒ の シンダンショ を くれて ハナシ は そのまま きえて しまった。 え? どの イシャ が そんな ベンリ な シンダンショ を くれる ん です か、 と イザワ が ギョウテン して たずねる と、 シタテヤ の ほう が アッケ に とられた オモモチ で、 ナン です か、 ヨソ じゃ、 そう じゃ ない ん です か、 と きいた。
 この ヘン は ヤス-アパート が リンリツ し、 それら の ヘヤ の ナンブン の 1 か は メカケ と インバイ が すんで いる。 それら の オンナ たち には コドモ が なく、 また、 オノオノ の ヘヤ を きれい に する と いう キョウツウ の セイシツ を もって いる ので、 その ため に カンリニン に よろこばれて、 その シセイカツ の ランミャクサ ハイトクセイ など は モンダイ に なった こと が イチド も ない。 アパート の ハンスウ イジョウ は グンジュ コウジョウ の リョウ と なり、 そこ にも ジョシ テイシンタイ の シュウダン が すんで いて、 ナニ カ の ダレ さん の アイジン だの カチョウ ドノ の センジ フジン (と いう の は つまり ホンモノ の フジン は ソカイチュウ と いう こと だ) だの ジュウヤク の ニゴウ だの カイシャ を やすんで ゲッキュウ だけ もらって いる ニンシンチュウ の テイシンタイ だの が いる の で ある。 ナカ に ヒトリ 500 エン の メカケ と いう の が イッコ を かまえて いて センボウ の マト で あった。 ヒトゴロシ が ショウバイ だった と いう シナ ロウニン (この イモウト は シタテヤ の デシ) の トナリ は シアツ の センセイ で、 その トナリ は シタテヤ ギンジ の ナガレ を くむ その ミチ の タツジン だ と いう こと で あり、 その ウラ に カイグン ショウイ が いる の だ が、 マイニチ サカナ を くい コーヒー を のみ カンヅメ を あけ サケ を のみ、 この アタリ は 1 シャク ほる と ミズ が でる ので、 ボウクウゴウ の ツクリヨウ も ない と いう のに、 ショウイ だけ は セメント を もちいて ジタク より も リッパ な ボウクウゴウ を もって いた。 また、 イザワ が ツウキン に とおる ミチスジ の ヒャッカテン (モクゾウ 2 カイ-ダテ) は センソウ で ショウヒン が なく キュウギョウチュウ だ が、 2 カイ では レンジツ トバ が カイチョウ されて おり、 その カオヤク は イクツ か の コクミン サカバ を センリョウ して ギョウレツ の ジンミン ども を にらみつけて レンジツ デイスイ して いた。
 イザワ は ダイガク を ソツギョウ する と シンブン キシャ に なり、 つづいて ブンカ エイガ の エンシュツカ (まだ ミナライ で タンドク エンシュツ した こと は ない) に なった オトコ で、 27 の ネンレイ に くらべれば ウラガワ の ジンセイ に いくらか チシキ は ある はず で、 セイジカ、 グンジン、 ジツギョウカ、 ゲイニン など の ウチマク に タショウ の ショウソク は こころえて いた が、 バスエ の ショウコウジョウ と アパート に とりかこまれた ショウテンガイ の セイタイ が こんな もの だ とは ソウゾウ も して いなかった。 センソウ イライ ジンシン が すさんだ せい だろう と きいて みる と、 いえ、 ナン です よ、 この ヘン じゃ、 せんから こんな もの でした ねえ、 と シタテヤ は テツガクシャ の よう な オモモチ で しずか に こたえる の で あった。
 けれども サイダイ の ジンブツ は イザワ の リンジン で あった。
 この リンジン は キチガイ だった。 ソウトウ の シサン が あり、 わざわざ ロジ の ドンゾコ を えらんで イエ を たてた の も キチガイ の ココロヅカイ で、 ドロボウ ないし ムヨウ の モノ の シンニュウ を キョクド に きらった ケッカ だろう と おもわれる。 なぜなら、 ロジ の ドンゾコ に たどりつき この イエ の モン を くぐって みまわす けれども トグチ と いう もの が ない から で、 みわたす かぎり コウシ の はまった マド ばかり、 この イエ の ゲンカン は モン と セイハンタイ の ウラガワ に あって、 ようするに イッペン ぐるり と タテモノ を まわった うえ で ない と たどりつく こと が できない。 ムヨウ の シンニュウシャ は サジ を なげて ひきさがる シクミ で あり、 ないしは ゲンカン を さがして うろつく うち に ナニモノ か の シンニュウ を みやぶって ケイカイ カンセイ に はいる と いう シクミ でも あって、 リンジン は ウキヨ の ゾクブツ ども を このんで いない の だ。 この イエ は そうとう マカズ の ある 2 カイ-ダテ で あった が、 ナイブ の シカケ に ついて は モノシリ の シタテヤ も オオク を しらなかった。
 キチガイ は 30 ゼンゴ で、 ハハオヤ が あり、 25~26 の ニョウボウ が あった。 ハハオヤ だけ は ショウキ の ニンゲン の ブルイ に ぞくして いる はず だ と いう ハナシ で あった が、 キョウド の ヒステリー で、 ハイキュウ に フフク が ある と ハダシ で チョウカイ へ のりこんで くる チョウナイ ユイイツ の ジョケツ で あり、 キチガイ の ニョウボウ は ハクチ で あった。 ある サチ おおき トシ の こと、 キチガイ が ホッシン して シロショウゾク に ミ を かため シコク ヘンロ に たびだった が、 その とき シコク の どこかしら で ハクチ の オンナ と イキ トウゴウ し、 ヘンロ ミヤゲ に ニョウボウ を つれて もどって きた。 キチガイ は フウサイ どうどう たる コウダンシ で あり、 ハクチ の ニョウボウ は これ も しかるべき イエガラ の しかるべき ムスメ の よう な ヒン の ヨサ で、 メ の ほそぼそ と うっとうしい、 ウリザネガオ の コフウ の ニンギョウ か ノウメン の よう な うつくしい カオダチ で、 フタリ ならべて ながめた だけ では、 ビナン ビジョ、 それ も そうとう キョウヨウ シンエン な コウイッツイ と しか みうけられない。 キチガイ は ド の つよい キンガンキョウ を かけ、 つねに マンガン の ドクショ に つかれた よう な うれわしげ な カオ を して いた。
 ある ヒ この ロジ で ボウクウ エンシュウ が あって オカミサン たち が カツヤク して いる と、 キナガシ スガタ で げたげた わらいながら ケンブツ して いた の が この オトコ で、 そのうち にわか に ボウクウ フクソウ に きかえて あらわれて ヒトリ の バケツ を ひったくった か と おもう と、 えい とか、 やー とか、 ほーほー と いう スウ-シュルイ の キミョウ な コエ を かけて ミズ を くみ ミズ を なげ、 ハシゴ を かけて ヘイ に のぼり ヤネ に のぼり、 ヤネ の ウエ から ゴウレイ を かけ、 やがて イチジョウ の エンゼツ (クンジ) を はじめた。 イザワ は この とき に いたって はじめて キチガイ で ある こと に きづいた ので、 この リンジン は ときどき カキネ から シンニュウ して きて シタテヤ の ブタゴヤ で ザンパン の バケツ を ぶちまけ、 ついでに アヒル に イシ を ぶつけ、 ぜんぜん なに くわぬ カオ を して ニワトリ に エサ を やりながら とつぜん けとばしたり する の で あった が、 ソウトウ の ジンブツ と かんがえて いた ので、 しずか に モクレイ など を とりかわして いた の で あった。
 だが、 キチガイ と ジョウジン と どこ が ちがって いる と いう の だ。 ちがって いる と いえば、 キチガイ の ほう が ジョウジン より も ホンシツテキ に つつしみぶかい ぐらい の もの で、 キチガイ は わらいたい とき に げたげた わらい、 エンゼツ したい とき に エンゼツ を やり、 アヒル に イシ を ぶつけたり、 2 ジカン ぐらい ブタ の カオ や シリ を つついて いたり する。 けれども カレラ は ホンシツテキ に はるか に ヒトメ を おそれて おり、 シセイカツ の シュヨウ な ブブン は とくべつ サイシン の チュウイ を はらって タニン から ゼツエン しよう と フシン して いる。 モン から ぐるり と ヒトマワリ して ゲンカン を つけた の も その ため で あり、 カレラ の シセイカツ は がいして モノオト が すくなく、 タ に たいして ムヨウ なる ジョウゼツ に とぼしく、 シサクテキ な もの で あった。 ロジ の カタガワ は アパート で イザワ の コヤ に のしかかる よう に ネンジュウ ミズ の ながれる オト と ニョウボウ ども の ゲヒン な コエ が あふれて おり、 シマイ の インバイ が すんで いて、 アネ に キャク の ある ヨル は イモウト が ロウカ を あるきつづけて おり、 イモウト に キャク の ある とき は アネ が シンヤ の ロウカ を あるいて いる。 キチガイ が げたげた わらう と いう だけ で ヒトビト は ベツ の ジンシュ だ と おもって いた。
 ハクチ の ニョウボウ は とくべつ しずか で おとなしかった。 ナニ か おどおど と クチ の ナカ で いう だけ で、 その コトバ は よく ききとれず、 コトバ の ききとれる とき でも イミ が はっきり しなかった。 リョウリ も、 コメ を たく こと も しらず、 やらせれば できる の かも しれない が、 ヘマ を やって おこられる と おどおど して ますます ヘマ を やる ばかり、 ハイキュウブツ を とり に いって も ジシン では なにも できず、 ただ たって いる と いう だけ で、 みんな キンジョ の モノ が して くれる の だ。 キチガイ の ニョウボウ です もの ハクチ でも トウゼン、 その うえ の ヨク を いって は いけますまい と ヒトビト が いう が、 ハハオヤ は だいの フフク で、 オンナ が ゴハン ぐらい たけなくって、 と おこって いる。 それでも ツネ は タシナミ の ある ヒン の よい バアサン なの だ が、 ナニ が さて ヒトカタ ならぬ ヒステリー で、 くるいだす と キチガイ イジョウ に ドウモウ で 3 ニン の キチガイ の ウチ バアサン の キョウカン が ずぬけて さわがしく ビョウテキ だった。 ハクチ の オンナ は おびえて しまって、 ナニゴト も ない ヘイワ な ヒビ で すら つねに おどおど し、 ヒト の アシオト にも ぎくり と して、 イザワ が やあ と アイサツ する と かえって ぼんやり して たちすくむ の で あった。
 ハクチ の オンナ も ときどき ブタゴヤ へ やって きた。 キチガイ の ほう は ワガヤ の ごとく に どうどう と シンニュウ して きて アヒル に イシ を ぶつけたり ブタ の ホッペタ を つきまわしたり して いる の だ が、 ハクチ の オンナ は オト も なく カゲ の ごとく に にげこんで きて ブタゴヤ の カゲ に イキ を ひそめて いる の で あった。 いわば ここ は カノジョ の タイヒジョ で、 そういう とき には たいがい リンカ で オサヨ さん オサヨ さん と よぶ バアサン の チョウルイ-テキ な サケビ が おこり、 その たび に ハクチ の カラダ は すくんだり かたむいたり ハンキョウ を おこし、 しかたなく うごきだす には ムシ の テイコウ の ウゴキ の よう な ながい ハンプク が ある の で あった。
 シンブン キシャ だの ブンカ エイガ の エンシュツカ など は センギョウ-チュウ の センギョウ で あった。 カレラ の こころえて いる の は ジダイ の リュウコウ と いう こと だけ で、 うごく ジカン に のりおくれまい と する こと だけ が セイカツ で あり、 ジガ の ツイキュウ、 コセイ や ドクソウ と いう もの は この セカイ には ソンザイ しない。 カレラ の ニチジョウ の カイワ の ナカ には カイシャイン だの カンリ だの ガッコウ の キョウシ に くらべて、 ジガ だの ニンゲン だの コセイ だの ドクソウ だの と いう コトバ が ハンラン しすぎて いる の で あった が、 それ は コトバ の ウエ だけ の ソンザイ で あり、 アリガネ を はたいて オンナ を くどいて フツカヨイ の クツウ が ニンゲン の ナヤミ だ と いう よう な ばかばかしい もの なの だった。 ああ ヒノマル の カンゲキ だの、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 おもわず メガシラ が あつく なったり、 ずど ずど ずど は バクゲキ の オト、 ムガ ムチュウ で チジョウ に ふし、 ぱん ぱん ぱん は キジュウ の オト、 およそ セイシン の タカサ も なければ 1 ギョウ の ジッカン すら も ない カクウ の ブンショウ に ウキミ を やつし、 エイガ を つくり、 センソウ の ヒョウゲン とは そういう もの だ と おもいこんで いる。 また ある モノ は グンブ の ケンエツ で カキヨウ が ない と いう けれども、 ホカ に シンジツ の ブンショウ の ココロアタリ が ある わけ で なく、 ブンショウ ジタイ の シンジツ や ジッカン は ケンエツ など には カンケイ の ない ソンザイ だ。 ようするに いかなる ジダイ にも この レンチュウ には ナイヨウ が なく クウキョ な ジガ が ある だけ だ。 リュウコウ-シダイ で ミギ から ヒダリ へ どう に でも なり、 ツウゾク ショウセツ の ヒョウゲン など から オテホン を まなんで ジダイ の ヒョウゲン だ と おもいこんで いる。 じじつ ジダイ と いう もの は ただ それ だけ の センパク グレツ な もの でも あり、 ニホン 2000 ネン の レキシ を くつがえす この センソウ と ハイボク が はたして ニンゲン の シンジツ に なんの カンケイ が あった で あろう か。 もっとも ナイセイ の キハク な イシ と シュウグ の モウドウ だけ に よって イッコク の ウンメイ が うごいて いる。 ブチョウ だの シャチョウ の マエ で コセイ だの ドクソウ だの と いいだす と カオ を そむけて バカ な ヤツ だ と いう ゲンガイ の ヒョウジ を みせて、 ヘイタイ さん よ ありがとう、 ああ ヒノマル の カンゲキ、 おもわず メガシラ が あつく なり、 OK、 シンブン キシャ とは それ だけ で、 じじつ、 ジダイ ソノモノ が それ だけ だ。
 シダンチョウ カッカ の クンジ を 3 プン-カン も かかって ながなが と うつす ヒツヨウ が あります か、 ショッコウ たち の マイアサ の ノリト の よう な へんてこ な ウタ を イチ から ジュウ まで うつす ヒツヨウ が ある の です か、 と きいて みる と、 ブチョウ は ぷいと カオ を そむけて シタウチ して、 やにわに ふりむく と キチョウヒン の タバコ を ぐしゃり ハイザラ へ おしつぶして にらみつけて、 おい、 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! ニュース だけ が シンジツ なん だ! と どなる の で あった。 エンシュツカ ども は エンシュツカ ども で、 キカク ブイン は キカク ブイン で、 トトウ を くみ、 トクガワ ジダイ の ナガワキザシ と おなじ よう な ジョウギ の セカイ を つくりだし ギリ ニンジョウ で サイノウ を ショリ して、 カイシャイン より も カイシャイン-テキ な ジュンバン セイド を つくって いる。 それ に よって カクジ の ボンヨウサ を ヨウゴ し、 ゲイジュツ の コセイ と テンサイ に よる ソウハ を ザイアクシ し クミアイ イハン と こころえて、 ソウゴ フジョ の セイシン に よる サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ を カンビ して いた。 ウチ に あって は サイノウ の ヒンコン の キュウサイ ソシキ で ある けれども ソト に いでて は アルコール の カクトク ソシキ で、 この トトウ は コクミン サカバ を センリョウ し 3~4 ホン ずつ ビール を のみ よっぱらって ゲイジュツ を ろんじて いる。 カレラ の ボウシ や チョウハツ や ネクタイ や ブルース は ゲイジュツカ で あった が、 カレラ の タマシイ や コンジョウ は カイシャイン より も カイシャイン-テキ で あった。 イザワ は ゲイジュツ の ドクソウ を しんじ、 コセイ の ドクジセイ を あきらめる こと が できない ので、 ギリ ニンジョウ の セイド の ナカ で アンソク する こと が できない ばかり か、 その ボンヨウサ と テイゾク ヒレツ な タマシイ を にくまず に いられなかった。 カレ は トトウ の ノケモノ と なり、 アイサツ して も ヘンジ も されず、 ナカ には にらむ モノ も ある。 おもいきって シャチョウシツ へ のりこんで、 センソウ と ゲイジュツセイ の ヒンコン と に リロンジョウ の ヒツゼンセイ が あります か、 それとも グンブ の イシ です か。 ただ ゲンジツ を うつす だけ なら カメラ と ユビ が 2~3 ボン ある だけ で タクサン です よ。 いかなる アングル に よって これ を サイダン し ゲイジュツ に コウセイ する か と いう トクベツ な シメイ の ため に ワレワレ ゲイジュツカ の ソンザイ が―― シャチョウ は トチュウ に カオ を そむけて にがりきって タバコ を ふかし、 オマエ は なぜ カイシャ を やめない の か、 チョウヨウ が こわい から か、 と いう カオツキ で クショウ を はじめ、 カイシャ の キカクドオリ セケンナミ の シゴト に セイ を だす だけ で、 それ で ゲッキュウ が もらえる なら ヨケイ な こと を かんがえるな、 ナマイキ-すぎる と いう カオツキ に なり、 ヒトコト も ヘンジ せず に、 かえれ と いう ミブリ を しめす の で あった。 センギョウ-チュウ の センギョウ で なくて ナニモノ で あろう か。 ひとおもいに ヘイタイ に とられ、 かんがえる クルシサ から すくわれる なら、 テキダン も キガ も むしろ タイヘイラク の よう に すら おもわれる とき が ある ほど だった。
 イザワ の カイシャ では 「ラバウル を おとすな」 とか 「ヒコウキ を ラバウル へ!」 とか キカク を たて コンテ を つくって いる うち に テキ は もう ラバウル を とおりこして サイパン に ジョウリク して いた。 「サイパン ケッセン!」 キカク カイギ も おわらぬ うち に サイパン ギョクサイ、 その サイパン から テッキ が ズジョウ に とびはじめて いる。 「ショウイダン の ケシカタ」 「ソラ の タイアタリ」 「ジャガイモ の ツクリカタ」 「1 キ も いきて かえす まじ」 「セツデン と ヒコウキ」 フシギ な ジョウネツ で あった。 そこしれぬ タイクツ を うえつける キミョウ な エイガ が つぎつぎ と つくられ、 ナマ フィルム は ケツボウ し、 うごく カメラ は すくなく なり、 ゲイジュツカ たち の ジョウネツ は ハクネツテキ に キョウソウ し 「カミカゼ トッコウタイ」 「ホンド ケッセン」 「ああ サクラ は ちりぬ」 ナニモノ か に つかれた ごとく カレラ の シジョウ は コウフン して いる。 そして あおざめた カミ の ごとく タイクツ ムゲン の エイガ が つくられ、 アス の トウキョウ は ハイキョ に なろう と して いた。
 イザワ の ジョウネツ は しんで いた。 アサ メ が さめる。 キョウ も カイシャ へ いく の か と おもう と ねむく なり、 うとうと する と ケイカイ ケイホウ が なりひびき、 おきあがり ゲートル を まき タバコ を 1 ポン ぬきだして ヒ を つける。 ああ カイシャ を やすむ と この タバコ が なくなる の だな、 と かんがえる の で あった。
 ある バン、 おそく なり、 ようやく シュウデン に とりつく こと の できた イザワ は、 すでに シセン が なかった ので、 ソウトウ の ヨミチ を あるいて ワガヤ へ もどって きた。 アカリ を つける と キミョウ に マンネンドコ の スガタ が みえず、 ルスチュウ ダレ か が ソウジ を した と いう こと も、 ダレ か が はいった こと すら も レイ が ない ので、 いぶかりながら オシイレ を あける と、 つみかさねた フトン の ヨコ に ハクチ の オンナ が かくれて いた。 フアン の メ で イザワ の カオイロ を うかがい フトン の アイダ へ カオ を もぐらして しまった が、 イザワ の おこらぬ こと を しる と、 アンド の ため に シタシサ が あふれ、 あきれる ぐらい おちついて しまった。 クチ の ナカ で ぶつぶつ と つぶやく よう に しか モノ を いわず、 その ツブヤキ も こっち の たずねる こと と なんの カンケイ も ない こと を ああ いい また こう いい ジブン ジシン の おもいつめた こと だけ を それ も しごく ばくぜん と ヨウヤク して ダンペンテキ に いいつづって いる。 イザワ は とわず に ジジョウ を さとり、 たぶん しかられて おもいあまって にげこんで きた の だろう と おもった から、 ムエキ な オビエ を なるべく あたえぬ ハイリョ に よって シツモン を ショウリャク し、 イツゴロ どこ から はいって きた か と いう こと だけ を たずねる と、 オンナ は ワケ の わからぬ こと を あれこれ ぶつぶつ いった アゲク、 カタウデ を まくりあげて、 その 1 カショ を なでて (そこ には カスリキズ が ついて いた) ワタシ、 いたい の、 とか、 イマ も いたむ の、 とか、 サッキ も いたかった の、 とか、 いろいろ ジカン を こまかく くぎって いって いる ので、 ともかく ヨル に なって から マド から はいった こと が わかった。 ハダシ で ソト を あるきまわって はいって きた から ヘヤ を ドロ で よごした、 ごめんなさい ね、 と いう イミ も いった けれども、 あれこれ ムスウ の フクロコウジ を うろつきまわる ツブヤキ の ナカ から イミ を まとめて ハンダン する ので、 ごめんなさい ね、 が どの ミチ に レンラク して いる の だ か ケッテイテキ な ハンダン は できない の だった。
 シンヤ に リンジン を たたきおこして おびえきった オンナ を かえす の も やりにくい こと で あり、 さりとて ヨ が あけて オンナ を かえして イチヤ とめた と いう こと が いかなる ゴカイ を うみだす か、 アイテ が キチガイ の こと だ から ソウゾウ すら も つかなかった。 ままよ、 イザワ の ココロ には キミョウ な ユウキ が わいて きた。 その ジッタイ は セイカツジョウ の カンジョウ ソウシツ に たいする コウキシン と シゲキ との ミリョク に ひかれた だけ の もの で あった が、 どう に でも なる が いい、 ともかく この ゲンジツ を ヒトツ の シレン と みる こと が オレ の イキカタ に ヒツヨウ な だけ だ、 ハクチ の オンナ の イチヤ を ホゴ する と いう ガンゼン の ギム イガイ に ナニ を かんがえ ナニ を おそれる ヒツヨウ も ない の だ と ジブン ジシン に いいきかした。 カレ は この トウトツ センバン な デキゴト に へんに カンドウ して いる こと を はず べき こと では ない の だ と ジブン ジシン に いいきかせて いた。
 フタツ の ネドコ を しき オンナ を ねせて デントウ を けして 1~2 フン も した か と おもう と、 オンナ は キュウ に おきあがり ネドコ を ぬけでて、 ヘヤ の どこ か カタスミ に うずくまって いる らしい。 それ が もし マフユ で なければ イザワ は しいて こだわらず ねむった かも しれなかった が、 とくべつ さむい ヨフケ で、 ヒトリ ブン の ネドコ を フタリ に ブンカツ した だけ でも ガイキ が じかに ハダ に せまり カラダ の フルエ が とまらぬ ぐらい つめたかった。 おきあがって デントウ を つける と、 オンナ は トグチ の ところ に エリ を かきあわせて うずくまって おり、 まるで ニゲバ を うしなって おいつめられた メ の イロ を して いる。 どうした の、 ねむりなさい、 と いえば あっけない ほど すぐ うなずいて ふたたび ネドコ に もぐりこんだ が、 デンキ を けして 1~2 フン も する と、 また、 おなじ よう に おきて しまう。 それ を ネドコ へ つれもどして、 シンパイ する こと は ない、 ワタシ は アナタ の カラダ に テ を ふれる よう な こと は しない から、 と いいきかせる と、 オンナ は おびえた メツキ を して ナニ か イイワケ-じみた こと を クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる の で あった。 そのまま ミタビ-メ の デンキ を けす と、 コンド は オンナ は すぐ おきあがり、 オシイレ の ト を あけて ナカ へ はいって ウチガワ から ト を しめた。
 この シツヨウ な ヤリカタ に イザワ は ハラ を たてた。 てあらく オシイレ を あけはなして、 アナタ は ナニ を カンチガイ を して いる の です か、 あれほど セツメイ も して いる のに オシイレ へ はいって ト を しめる など とは ヒト を ブジョク する も はなはだしい、 それほど シンヨウ できない ウチ へ なぜ にげこんで きた の です か、 それ は ヒト を グロウ し、 ワタシ の ジンカク に フトウ な ハジ を あたえ、 まるで アナタ が ナニ か ヒガイシャ の よう では ありません か、 チャバン も イイカゲン に したまえ。 けれども その コトバ の イミ も この オンナ には リカイ する ノウリョク すら も ない の だ と おもう と、 これ くらい ハリアイ の ない バカバカシサ も ない もの で、 オンナ の ヨコッツラ を なぐりつけて さっさと ねむる ほう が ナニ より キ が きいて いる と おもう の だった。 すると オンナ は ミョウ に わりきれぬ カオツキ を して ナニ か クチ の ナカ で ぶつぶつ いって いる。 ワタシ は かえりたい、 ワタシ は こなければ よかった、 と いう イミ の コトバ で ある らしい。 でも ワタシ は もう かえる ところ が なくなった から、 と いう ので、 その コトバ には イザワ も さすが に ムネ を つかれて、 だから アンシン して ここ で イチヤ を あかしたら いい でしょう、 ワタシ が アクイ を もたない のに まるで ヒガイシャ の よう な おもいあがった こと を する から ハラ を たてた だけ の こと です。 オシイレ の ナカ など に はいらず に フトン の ナカ で おやすみなさい。 すると オンナ は イザワ を みつめて ナニ か ハヤクチ に ぶつぶつ いう。 え? ナン です か、 そして イザワ は とびあがる ほど おどろいた。 なぜなら オンナ の ぶつぶつ の ナカ から、 ワタシ は アナタ に きらわれて います もの、 と いう ヒトコト が はっきり ききとれた から で ある。 え、 なんですって? イザワ が おもわず メ を みひらいて ききかえす と、 オンナ の カオ は しょうぜん と して、 ワタシ は こなければ よかった、 ワタシ は きらわれて いる、 ワタシ は そう は おもって いなかった、 と いう イミ の こと を くどくど と いい、 そして あらぬ 1 カショ を みつめて ホウシン して しまった。
 イザワ は はじめて リョウカイ した。
 オンナ は カレ を おそれて いる の では なかった の だ。 まるで ジタイ は アベコベ だ。 オンナ は しかられて ニゲバ に きゅうして それ だけ の リユウ に よって きた の では ない。 イザワ の アイジョウ を モクサン に いれて いた の で あった。 だが いったい オンナ が イザワ の アイジョウ を しんじる こと が おこりうる よう な ナニゴト が あった で あろう か。 ブタゴヤ の アタリ や ロジ や ロジョウ で やあ と いって 4~5 ヘン アイサツ した ぐらい、 おもえば スベテ が トウトツ で まったく チャバン に ほかならず、 イザワ の マエ に ハクチ の イシ や カンジュセイ や、 ともかく ニンゲン イガイ の もの が キョウヨウ されて いる だけ だった。 デントウ を けして 1~2 フン たち オトコ の テ が オンナ の カラダ に ふれない ため に きらわれた ジカク を いだいて、 その ハズカシサ に フトン を ぬけだす と いう こと が、 ハクチ の バアイ は それ が しんじつ ヒツウ な こと で ある の か、 イザワ が それ を しんじて いい の か、 これ も はっきり は わからない。 ついには オシイレ へ とじこもる。 それ が ハクチ の チジョク と ジヒ の ヒョウゲン と かいして いい の か、 それ を ハンダン する ため の コトバ すら も ない の だ から、 ジタイ は ともかく カレ が ハクチ と ドウカク に なりさがる イガイ に ホウ が ない。 なまじい に ニンゲン-らしい フンベツ が、 なぜ ヒツヨウ で あろう か。 ハクチ の ココロ の スナオサ を カレ ジシン も また もつ こと が ニンゲン の チジョク で あろう か。 オレ にも この ハクチ の よう な ココロ、 おさない、 そして すなお な ココロ が ナニ より ヒツヨウ だった の だ。 オレ は それ を どこ か へ わすれ、 ただ あくせく した ニンゲン ども の シコウ の ナカ で、 うすぎたなく よごれ、 キョモウ の カゲ を おい、 ひどく つかれて いた だけ だ。
 カレ は オンナ を ネドコ へ ねせて、 その マクラモト に すわり、 ジブン の コドモ、 ミッツ か ヨッツ の ちいさな ムスメ を ねむらせる よう に ヒタイ の カミノケ を なでて やる と、 オンナ は ぼんやり メ を あけて、 それ が まったく おさない コドモ の ムシンサ と かわる ところ が ない の で あった。 ワタシ は アナタ を きらって いる の では ない、 ニンゲン の アイジョウ の ヒョウゲン は けっして ニクタイ だけ の もの では なく、 ニンゲン の サイゴ の スミカ は フルサト で、 アナタ は いわば つねに その フルサト の ジュウニン の よう な もの なの だ から、 など と イザワ も ハジメ は ミョウ に しかつめらしく そんな こと も いいかけて みた が、 もとより それ が つうじる わけ では ない の だし、 いったい コトバ が ナニモノ で あろう か、 ナニホド の ネウチ が ある の だろう か、 ニンゲン の アイジョウ すら も それ だけ が シンジツ の もの だ と いう なんの アカシ も ありえない、 セイ の ジョウネツ を たくす に たる シンジツ な もの が はたして どこ に ありうる の か、 スベテ は キョモウ の カゲ だけ だ。 オンナ の カミノケ を なでて いる と、 ドウコク したい オモイ が こみあげ、 さだまる カゲ すら も ない この とらえがたい ちいさな アイジョウ が ジブン の イッショウ の シュクメイ で ある よう な、 その シュクメイ の カミノケ を ムシン に なでて いる よう な せつない オモイ に なる の で あった。
 この センソウ は いったい どう なる の で あろう。 ニホン は まけ、 テキ は ホンド に ジョウリク して、 ニホンジン の タイハン は シメツ して しまう の かも しれない。 それ は もう ヒトツ の チョウシゼン の ウンメイ、 いわば テンメイ の よう に しか おもわれなかった。 カレ には しかし もっと ヒショウ な モンダイ が あった。 それ は おどろく ほど ヒショウ な モンダイ で、 しかも メ の サキ に さしせまり、 つねに ちらついて はなれなかった。 それ は カレ が カイシャ から もらう 200 エン ほど の キュウリョウ で、 その キュウリョウ を いつまで もらう こと が できる か、 アス にも クビ に なり ロトウ に まよい は しない か と いう フアン で あった。 カレ は ゲッキュウ を もらう とき、 ドウジ に クビ の センコク を うけ は しない か と びくびく し、 ゲッキュウブクロ を うけとる と ヒトツキ のびた イノチ の ため に あきれる ぐらい コウフクカン を あじわう の だ が、 その ヒショウサ を かえりみて いつも なきたく なる の で あった。 カレ は ゲイジュツ を ゆめみて いた。 その ゲイジュツ の マエ では ただ ヒトツブ の ジンアイ で しか ない よう な 200 エン の キュウリョウ が、 どうして ホネミ に からみつき セイゾン の コンテイ を ゆさぶる よう な おおきな クモン に なる の で あろう か。 セイカツ の ガイケイ のみ の こと では なく その セイシン も タマシイ も 200 エン に ゲンテイ され、 その ヒショウサ を ギョウシ して キ も ちがわず に へいぜん と して いる こと が なおさら なさけなく なる ばかり で あった。 ドトウ の ジダイ に ビ が ナニモノ だい、 ゲイジュツ は ムリョク だ! と いう ブチョウ の ばかばかしい オオゴエ が、 イザワ の ムネ に まるで ちがった シンジツ を こめ するどい そして キョダイ な チカラ で くいこんで くる。 ああ ニホン は まける。 ドロニンギョウ の くずれる よう に ドウホウ たち が ばたばた たおれ、 ふきあげる コンクリート や レンガ の クズ と イッショクタ に ムスウ の アシ だの クビ だの ウデ だの まいあがり、 キ も タテモノ も なにも ない たいら な ボチ に なって しまう。 どこ へ にげ、 どの アナボコ へ おいつめられ、 どこ で アナ もろとも ふきとばされて しまう の だ か、 ユメ の よう な、 けれども それ は もし いきのこる こと が できたら、 その シンセン な サイセイ の ため に、 そして ぜんぜん ヨソク の つかない シンセカイ、 イシクズ-だらけ の ノハラ の ウエ の セイカツ の ため に、 イザワ は むしろ コウキシン が うずく の だった。 それ は ハントシ か 1 ネン サキ の とうぜん おとずれる ウンメイ だった が、 その オトズレ の トウゼンサ にも かかわらず、 ユメ の ナカ の セカイ の よう な はるか な タワムレ に しか イシキ されて いなかった。 メ の サキ の スベテ を ふさぎ、 いきる キボウ を ねこそぎ さらいさる たった 200 エン の ケッテイテキ な チカラ、 ユメ の ナカ に まで 200 エン に クビ を しめられ、 うなされ、 まだ 27 の セイシュン の あらゆる ジョウネツ が ヒョウハク されて、 ゲンジツ に すでに アンコク の コウヤ の ウエ を ぼうぼう と あるく だけ では ない か。
 イザワ は オンナ が ほしかった。 オンナ が ほしい と いう コエ は イザワ の サイダイ の キボウ で すら あった のに、 その オンナ との セイカツ が 200 エン に ゲンテイ され、 ナベ だの カマ だの ミソ だの コメ だの みんな 200 エン の ジュモン を おい、 200 エン の ジュモン に つかれた コドモ が うまれ、 オンナ が まるで テサキ の よう に ジュモン に つかれた オニ と かして ヒビ ぶつぶつ つぶやいて いる。 ムネ の トモシビ も ゲイジュツ も キボウ の ヒカリ も みんな きえて、 セイカツ ジタイ が ミチバタ の バフン の よう に ぐちゃぐちゃ に ふみしだかれて、 かわきあがって カゼ に ふかれて とびちり アトカタ も なくなって いく。 ツメ の アト すら、 なくなって いく。 オンナ の セ には そういう ジュモン が からみついて いる の で あった。 やりきれない ヒショウ な セイカツ だった。 カレ ジシン には この ゲンジツ の ヒショウサ を さばく チカラ すら も ない。 ああ センソウ、 この イダイ なる ハカイ、 キミョウ キテレツ な コウヘイサ で みんな さばかれ ニホンジュウ が イシクズ-だらけ の ノハラ に なり ドロニンギョウ が ばたばた たおれ、 それ は キョム の なんと いう せつない キョダイ な アイジョウ だろう か。 ハカイ の カミ の ウデ の ナカ で カレ は ねむりこけたく なり、 そして カレ は ケイホウ が なる と むしろ いきいき して ゲートル を まく の で あった。 セイメイ の フアン と あそぶ こと だけ が マイニチ の イキガイ だった。 ケイホウ が カイジョ に なる と がっかり して、 ゼツボウテキ な カンジョウ の ソウシツ が また はじまる の で あった。
 この ハクチ の オンナ は コメ を たく こと も ミソシル を つくる こと も しらない。 ハイキュウ の ギョウレツ に たって いる の が せいいっぱい で、 しゃべる こと すら も ジユウ では ない の だ。 まるで もっとも うすい 1 マイ の ガラス の よう に キド アイラク の ビフウ に すら ハンキョウ し、 ホウシン と オビエ の シワ の アイダ へ ヒト の イシ を うけいれ ツウカ させて いる だけ だ。 200 エン の アクリョウ すら も、 この タマシイ には やどる こと が できない の だ。 この オンナ は まるで オレ の ため に つくられた かなしい ニンギョウ の よう では ない か。 イザワ は この オンナ と だきあい、 くらい コウヤ を ひょうひょう と カゼ に ふかれて あるいて いる ムゲン の タビジ を メ に えがいた。
 それ にも かかわらず、 その ソウネン が ナニ か トッピ に かんじられ、 トホウ も ない ばかげた こと の よう に おもわれる の は、 そこ にも また ヒショウ きわまる ニンゲン の カラ が ココロ の シン を むしばんで いる せい なの だろう。 そして それ を しりながら、 しかも なお、 わきでる よう な この ソウネン と アイジョウ の スナオサ が ぜんぜん キョモウ の もの に しか かんじられない の は なぜ だろう。 ハクチ の オンナ より も あの アパート の インバイフ が、 そして どこ か の キフジン が より ニンゲンテキ だ と いう ナニ か ホンシツテキ な オキテ が ある の だろう か。 けれども まるで その オキテ が げん と して ソンザイ して いる ばかばかしい アリサマ なの で あった。
 オレ は ナニ を おそれて いる の だろう か。 まるで あの 200 エン の アクリョウ が―― オレ は イマ この オンナ に よって その アクリョウ と ゼツエン しよう と して いる のに、 そのくせ やはり アクリョウ の ジュモン に よって しばりつけられて いる では ない か。 おそれて いる の は ただ セケン の ミエ だけ だ。 その セケン とは アパート の インバイフ だの メカケ だの ニンシン した テイシンタイ だの アヒル の よう な ハナ に かかった コエ を だして わめいて いる オカミサン たち の ギョウレツ カイギ だけ の こと だ。 その ホカ に セケン など は どこ にも あり は しない のに、 そのくせ この わかりきった ジジツ を オレ は ぜんぜん しんじて いない。 フシギ な オキテ に おびえて いる の だ。
 それ は おどろく ほど みじかい (ドウジ に それ は ムゲン に ながい ) イチヤ で あった。 ながい ヨル の まるで ムゲン の ツヅキ だ と おもって いた のに、 いつかしら ヨ が しらみ、 ヨアケ の カンキ が カレ の ゼンシン を カンカク の ない イシ の よう に かたまらせて いた。 カレ は オンナ の マクラモト で、 ただ カミノケ を なでつづけて いた の で あった。
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ハクチ 2

2014-05-05 | サカグチ アンゴ
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 その ヒ から ベツ な セイカツ が はじまった。
 けれども それ は ヒトツ の イエ に オンナ の ニクタイ が ふえた と いう こと の ホカ には ベツ でも なければ かわって すら も いなかった。 それ は まるで ウソ の よう な ソラゾラシサ で、 たしか に カレ の シンペン に、 そして カレ の セイシン に、 あらた な メバエ の ただ 1 ポン の ホサキ すら みいだす こと が できない の だ。 その デキゴト の イジョウサ を ともかく リセイテキ に ナットク して いる と いう だけ で、 セイカツ ジタイ に ツクエ の オキバショ が かわった ほど の ヘンカ も おきて は いなかった。 カレ は マイアサ シュッキン し、 その ルスタク の オシイレ の ナカ に ヒトリ の ハクチ が のこされて カレ の カエリ を まって いる。 しかも カレ は ヒトアシ でる と、 もう ハクチ の オンナ の こと など は わすれて おり、 ナニ か そういう デキゴト が もう キオク にも さだか では ない 10 ネン 20 ネン マエ に おこなわれて いた か の よう な とおい キモチ が する だけ だった。
 センソウ と いう やつ が、 フシギ に ケンゼン な ケンボウセイ なの で あった。 まったく センソウ の おどろく べき ハカイリョク や クウカン の ヘンテンセイ と いう やつ は たった 1 ニチ が ナンビャクネン の ヘンカ を おこし、 1 シュウカン マエ の デキゴト が スウネン マエ の デキゴト に おもわれ、 1 ネン マエ の デキゴト など は、 キオク の もっとも ドンゾコ の シタヅミ の ソコ へ へだてられて いた。 イザワ の チカク の ドウロ だの コウジョウ の シイ の タテモノ など が とりこわされ マチ ゼンタイ が ただ まいあがる ホコリ の よう な ソカイ サワギ を やらかした の も つい サキゴロ の こと で あり、 その アト すら も かたづいて いない のに、 それ は もう 1 ネン マエ の サワギ の よう に とおざかり、 マチ の ヨウソウ を イッペン する おおきな ヘンカ が 2 ド-メ に それ を ながめる とき には ただ トウゼン な フウケイ で しか なくなって いた。 その ケンコウ な ケンボウセイ の ザッタ な カケラ の ヒトツ の ナカ に ハクチ の オンナ が やっぱり かすんで いる。 キノウ まで ギョウレツ して いた エキマエ の イザカヤ の ソカイ アト の ボウキレ だの バクダン に ハカイ された ビル の アナ だの マチ の ヤケアト だの、 それら の ザッタ の カケラ の アイダ に はさまれて ハクチ の カオ が ころがって いる だけ だった。
 けれども マイニチ ケイカイ ケイホウ が なる。 ときには クウシュウ ケイホウ も なる。 すると カレ は ヒジョウ に フユカイ な セイシン ジョウタイ に なる の で あった。 それ は カレ の ルスタク の ちかい ところ に クウシュウ が あり、 しらない ヘンカ が げんに おこって いない か と いう ケネン で あった が、 その ケネン の ユイイツ の リユウ は ただ オンナ が とりみだして とびだして、 スベテ が キンリン へ しれわたって いない か と いう フアン なの だった。 しらない ヘンカ の フアン の ため に、 カレ は マイニチ あかるい うち に イエ へ かえる こと が できなかった。 この テイゾク な フアン を コクフク しえぬ ミジメサ に イクタビ むなしく ハンコウ した か、 カレ は せめて シタテヤ に スベテ を うちあけて しまいたい と おもう の だった が、 その ヒレツサ に ゼツボウ して、 なぜなら それ は ヒガイ の もっとも ケイショウ な コクハク を おこなう こと に よって フアン を まぎらす みじめ な シュダン に すぎない ので、 カレ は ジブン の ホンシツ が テイゾク な セケンナミ に すぎない こと を のろいいきどおる のみ だった。
 カレ には わすれえぬ フタツ の ハクチ の カオ が あった。 マチカド を まがる とき だの、 カイシャ の カイダン を のぼる とき だの、 デンシャ の ヒトゴミ を ぬけでる とき だの、 はからざる ズイショ に フタツ の カオ を ふと おもいだし、 その たび に カレ の イッサイ の シネン が こおり、 そして イッシュン の ギャクジョウ が ゼツボウテキ に こおりついて いる の で あった。
 その カオ の ヒトツ は カレ が はじめて ハクチ の ニクタイ に ふれた とき の ハクチ の カオ だ。 そして その デキゴト ジタイ は その ヨクジツ には 1 ネン ムカシ の キオク の かなた へ とおざけられて いる の で あった が、 ただ カオ だけ が きりはなされて おもいだされて くる の で ある。
 その ヒ から ハクチ の オンナ は ただ まちもうけて いる ニクタイ で ある に すぎず、 その ホカ の なんの セイカツ も、 ただ ヒトキレ の カンガエ すら も ない の で あった。 つねに ただ まちもうけて いた。 イザワ の テ が オンナ の カラダ の イチブ に ふれる と いう だけ で、 オンナ の イシキ する ゼンブ の こと は ニクタイ の コウイ で あり、 そして カラダ も、 そして カオ も、 ただ まちもうけて いる のみ で あった。 おどろく べき こと に、 シンヤ、 イザワ の テ が オンナ に ふれる と いう だけ で、 ねむりしれた ニクタイ が ドウイツ の ハンノウ を おこし、 ニクタイ のみ は つねに いき、 ただ まちもうけて いる の で ある。 ねむりながら も! けれども、 めざめて いる オンナ の アタマ に ナニゴト が かんがえられて いる か と いえば、 もともと タダ の クウキョ で あり、 ある もの は ただ タマシイ の コンスイ と、 そして いきて いる ニクタイ のみ では ない か。 めざめた とき も タマシイ は ねむり、 ねむった とき も その ニクタイ は めざめて いる。 ある もの は ただ ムジカク な ニクヨク のみ。 それ は あらゆる ジカン に めざめ、 ムシ の ごとき うまざる ハンノウ の シュンドウ を おこす ニクタイ で ある に すぎない。
 も ヒトツ の カオ、 それ は おりから イザワ の ヤスミ の ヒ で あった が、 ハクチュウ とおからぬ チク に 2 ジカン に わたる バクゲキ が あり、 ボウクウゴウ を もたない イザワ は オンナ と ともに オシイレ に もぐり フトン を タテ に かくれて いた。 バクゲキ は イザワ の イエ から 400~500 メートル はなれた チク へ シュウチュウ した が、 チジク もろとも イエ は ゆれ、 バクゲキ の オト と ドウジ に コキュウ も シネン も チュウゼツ する。 おなじ よう に おちて くる バクダン でも ショウイダン と バクダン では スゴミ に おいて アオダイショウ と マムシ ぐらい の ソウイ が あり、 ショウイダン には がらがら と いう とくべつ ブキミ な オンキョウ が しかけて あって も チジョウ の バクハツオン が ない の だ から オト は ズジョウ で すうと きえうせ、 リュウトウ ダビ とは この こと で、 ダビ どころ か ぜんぜん シッポ が なくなる の だ から、 ケッテイテキ な キョウフカン に かけて いる。 けれども バクダン と いう やつ は、 ラッカオン こそ ちいさく ひくい が、 ざあ と いう アメフリ の オト の よう な ただ 1 ポン の ボウ を ひき、 こいつ が サイゴ に チジク もろとも ひきさく よう な バクハツオン を おこす の だ から、 ただ 1 ポン の ボウ に こもった ジュウジツ した スゴミ と いったら ロンガイ で、 ずど ずど ずど と バクハツ の アシ が ちかづく とき の ゼツボウテキ な キョウフ と きて は ガクメンドオリ に いきた ココロモチ が ない の で ある。 おまけに ヒコウキ の コウド が たかい ので、 ぶんぶん と いう ズジョウ ツウカ の テッキ の オト も しごく かすか に なに くわぬ ふう に ひびいて いて、 それ は まるで ヨソミ を して いる カイブツ に おおきな オノ で なぐりつけられる よう な もの だ。 コウゲキ する アイテ の ヨウス が ふたしか だ から バクオン の ウナリ の ヘン な トオサ が はなはだ フアン で ある ところ へ、 そこ から ざあ と アメフリ の ボウ 1 ポン の ラッカオン が のびて くる。 バクハツ を まつ マ の キョウフ、 まったく こいつ は コトバ も コキュウ も シネン も とまる。 いよいよ コンド は オダブツ だ と いう ゼツボウ が ハッキョウ スンゼン の ツメタサ で いきて ひかって いる だけ だ。
 イザワ の コヤ は さいわい シホウ が アパート だの キチガイ だの シタテヤ など の ニカイヤ で とりかこまれて いた ので、 キンリン の イエ は マドガラス が われ ヤネ の いたんだ イエ も あった が、 カレ の コヤ のみ ガラス に ヒビ すら も はいらなかった。 ただ ブタゴヤ の マエ の ハタケ に チダラケ の ボウクウ ズキン が おちて きた ばかり で あった。 オシイレ の ナカ で、 イザワ の メ だけ が ひかって いた。 カレ は みた。 ハクチ の カオ を。 コクウ を つかむ その ゼツボウ の クモン を。
 ああ ニンゲン には リチ が ある。 いかなる とき にも なお いくらか の ヨクセイ や テイコウ は カゲ を とどめて いる もの だ。 その カゲ ほど の リチ も ヨクセイ も テイコウ も ない と いう こと が、 これほど あさましい もの だ とは! オンナ の カオ と ゼンシン に ただ シ の マド へ ひらかれた キョウフ と クモン が こりついて いた。 クモン は うごき、 クモン は もがき、 そして クモン が イッテキ の ナミダ を おとして いる。 もし イヌ の メ が ナミダ を ながす なら、 イヌ が わらう と ドウヨウ に シュウカイ きわまる もの で あろう。 カゲ すら も リチ の ない ナミダ とは、 これほど も シュウアク な もの だ とは! バクゲキ の サナカ に おいて、 4~5 サイ ないし 6~7 サイ の ヨウジ たち は キミョウ に なかない もの で ある。 カレラ の シンゾウ は ナミ の よう な ドウキ を うち、 カレラ の コトバ は うしなわれ、 イヨウ な メ を おおきく みひらいて いる だけ だ。 ゼンシン に いきて いる の は メ だけ で ある が、 それ は イッケン した ところ、 ただ おおきく みひらかれて いる だけ で、 かならずしも フアン や キョウフ と いう もの の ちょくせつ ゲキテキ な ヒョウジョウ を きざんで いる と いう ほど では ない。 むしろ ホンライ の コドモ より も かえって リチテキ に おもわれる ほど ジョウイ を しずか に ころして いる。 その シュンカン には あらゆる オトナ も それ だけ で、 あるいは むしろ それ イカ で、 なぜなら むしろ ロコツ な フアン や シ への クモン を あらわす から で、 いわば コドモ が オトナ より も リチテキ に すら みえる の だった。
 ハクチ の クモン は コドモ たち の おおきな メ とは にて も につかぬ もの で あった。 それ は ただ ホンノウテキ な シ への キョウフ と シ への クモン が ある だけ で、 それ は ニンゲン の もの では なく、 ムシ の もの で すら も なく、 シュウアク な ヒトツ の ウゴキ が ある のみ だった。 やや にた もの が ある と すれば、 1 スン 5 ブ ほど の イモムシ が 5 シャク の ナガサ に ふくれあがって もがいて いる ウゴキ ぐらい の もの だろう。 そして メ に イッテキ の ナミダ を こぼして いる の で ある。
 コトバ も サケビ も ウメキ も なく、 ヒョウジョウ も なかった。 イザワ の ソンザイ すら も イシキ して は いなかった。 ニンゲン ならば かほど の コドク が ありうる はず は ない。 オトコ と オンナ と ただ フタリ オシイレ に いて、 その イッポウ の ソンザイ を わすれはてる と いう こと が、 ヒト の バアイ に ありう べき はず は ない。 ヒト は ゼッタイ の コドク と いう が、 タ の ソンザイ を ジカク して のみ ゼッタイ の コドク も ありうる ので、 かほど まで モウモクテキ な、 ムジカク な、 ゼッタイ の コドク が ありえよう か。 それ は イモムシ の コドク で あり、 その ゼッタイ の コドク の ソウ の アサマシサ。 ココロ の カゲ の ヘンリン も ない クモン の ソウ の みる に たえぬ シュウアクサ。
 バクゲキ が おわった。 イザワ は オンナ を だきおこした が、 イザワ の ユビ の 1 ポン が ムネ に ふれて も ハンノウ を おこす オンナ が、 その ニクヨク すら うしなって いた。 この ムクロ を だいて ムゲン に ラッカ しつづけて いる、 くらい、 くらい、 ムゲン の ラッカ が ある だけ だった。
 カレ は その ヒ バクゲキ チョクゴ に サンポ に でて、 なぎたおされた ミンカ の アイダ で ふきとばされた オンナ の アシ も、 チョウ の とびだした オンナ の ハラ も、 ねじきれた オンナ の クビ も みた の で あった。
 3 ガツ トオカ の ダイクウシュウ の ヤケアト も まだ ふきあげる ケムリ を くぐって イザワ は アテ も なく あるいて いた。 ニンゲン が ヤキトリ と おなじ よう に あっちこっち に しんで いる。 ヒトカタマリ に しんで いる。 まったく ヤキトリ と おなじ こと だ。 こわく も なければ、 きたなく も ない。 イヌ と ならんで おなじ よう に やかれて いる シタイ も ある が、 それ は まったく イヌジニ で、 しかし そこ には その イヌジニ の ヒツウサ も カンガイ すら も あり は しない。 ニンゲン が イヌ の ごとく に しんで いる の では なく、 イヌ と、 そして、 それ と おなじ よう な ナニモノ か が、 ちょうど ヒトサラ の ヤキトリ の よう に もられ ならべられて いる だけ だった。 イヌ でも なく、 もとより ニンゲン で すら も ない。
 ハクチ の オンナ が やけしんだら―― ツチ から つくられた ニンギョウ が ツチ に かえる だけ では ない か。 もし この マチ に ショウイダン の ふりそぞく ヨル が きたら…… イザワ は それ を かんがえる と、 へんに おちついて しずみかんがえて いる ジブン の スガタ と ジブン の カオ、 ジブン の メ を イシキ せず に いられなかった。 オレ は おちついて いる。 そして、 クウシュウ を まって いる。 よかろう。 カレ は せせらわらう の だった。 オレ は ただ シュウアク な もの が きらい な だけ だ。 そして、 もともと タマシイ の ない ニクタイ が やけて しぬ だけ の こと では ない か。 オレ は オンナ を ころし は しない。 オレ は ヒレツ で、 テイゾク な オトコ だ。 オレ には それ だけ の ドキョウ は ない。 だが、 センソウ が たぶん オンナ を ころす だろう。 その センソウ の レイコク な テ を オンナ の ズジョウ へ むける ため の ちょっと した テガカリ だけ を つかめば いい の だ。 オレ は しらない。 たぶん、 ナニ か、 ある シュンカン が、 それ を シゼン に カイケツ して いる に すぎない だろう。 そして イザワ は クウシュウ を きわめて レイセイ に まちかまえて いた。

     *

 それ は 4 ガツ 15 ニチ で あった。
 その フツカ マエ、 13 ニチ に、 トウキョウ では 2 ド-メ の ヤカン ダイクウシュウ が あり、 イケブクロ だの スガモ だの ヤマノテ ホウメン に ヒガイ が あった が、 たまたま その リサイ ショウメイ が テ に はいった ので、 イザワ は サイタマ へ カイダシ に でかけ、 いくらか の コメ を リュック に せおって かえって きた。 カレ が イエ へ つく と ドウジ に ケイカイ ケイホウ が なりだした。
 ツギ の トウキョウ の クウシュウ が この マチ の アタリ だろう と いう こと は、 ヤケノコリ の チイキ を かんがえれば ダレ にも ソウゾウ の つく こと で、 はやければ アス、 おそく とも 1 カゲツ とは かからない この マチ の ウンメイ の ヒ が ちかづいて いる。 はやければ アス と かんがえた の は、 これまで の クウシュウ の ソクド、 ヘンタイ ヤカン バクゲキ の ジュンビ キカン の カンカク が はやくて アス ぐらい で あった から で、 この ヒ が その ヒ に なろう とは イザワ は ヨソウ して いなかった。 それゆえ カイダシ にも でかけた ので、 カイダシ と いって も モクテキ は ホカ にも あり、 この ノウカ は イザワ の ガクセイ ジダイ に エンコ の あった イエ で あり、 カレ は フタツ の トランク と リュック に つめた ブッピン を あずける こと が むしろ シュヨウ な モクテキ で あった。
 イザワ は つかれきって いた。 リョソウ は ボウクウ フクソウ でも あった から、 リュック を マクラ に そのまま ヘヤ の マンナカ に ひっくりかえって、 カレ は じっさい この さしせまった ジカン に うとうと と ねむって しまった。 ふと メ が さめる と ショホウ の ラジオ が がんがん がなりたてて おり、 ヘンタイ の セントウ は もう イズ ナンタン に せまり、 イズ ナンタン を ツウカ した。 ドウジ に クウシュウ ケイホウ が なりだした。 いよいよ この マチ の サイゴ の ヒ だ、 イザワ は チョッカク した。 ハクチ を オシイレ の ナカ に いれ、 イザワ は タオル を ぶらさげ ハブラシ を くわえて イドバタ へ でかけた が、 イザワ は その スウジツ マエ に ライオン ネリハミガキ を テ に いれ ながい アイダ わすれて いた ネリハミガキ の クチジュウ に しみわたる ソウカイサ を なつかしんで いた ので、 ウンメイ の ヒ を チョッカク する と どういう ワケ だ か ハ を みがき カオ を あらう キ に なった が、 ダイイチ に その ネリハミガキ が とうぜん ある べき バショ から ほんの ちょっと うごいて いた だけ で ながい ジカン (それ は じつに ながい ジカン に おもわれた) みあたらず、 ようやく それ を みつける と コンド は セッケン (この セッケン も ホウコウ の ある ムカシ の ケショウ セッケン) が これ も ちょっと バショ が うごいて いた だけ で ながい ジカン みあたらず、 ああ オレ は あわてて いる な、 おちつけ、 おちつけ、 アタマ を トダナ に ぶつけたり ツクエ に つまずいたり、 その ため に カレ は ザンジ の アイダ イッサイ の ウゴキ と シネン を チュウゼツ させて セイシン トウイツ を はかろう と する が、 カラダ ジタイ が ホンノウテキ に あわてだして すべり うごいて いく の で ある。 ようやく セッケン を みつけだして イドバタ へ でる と シタテヤ フウフ が ハタケ の スミ の ボウクウゴウ へ ニモツ を なげこんで おり、 アヒル に よく にた ヤネウラ の ムスメ が ニモツ を ぶらさげて うろうろ して いた。 イザワ は ともかく ネリハミガキ と セッケン を ダンネン せず に つきとめた シツヨウサ を シュクフク し、 はたして この ヨル の ウンメイ は どう なる の だろう と おもった。 まだ カオ を ふきおわらぬ うち に コウシャホウ が なりはじめ、 アタマ を あげる と、 もう ズジョウ に 10 ナンボン の ショウクウトウ が いりみだれて マウエ を さして さわいで おり、 コウボウ の マンナカ に テッキ が ぽっかり ういて いる。 つづいて 1 キ、 また 1 キ、 ふと メ を カホウ へ おろしたら、 もう エキマエ の ホウガク が ヒ の ウミ に なって いた。
 いよいよ きた。 ジタイ が はっきり する と イザワ は ようやく おちついた。 ボウクウ ズキン を かぶり、 フトン を かぶって ノキサキ に たち 24 キ まで イザワ は かぞえた。 ぽっかり コウボウ の マンナカ に ういて、 みんな ズジョウ を ツウカ して いる。 コウシャホウ の オト だけ が キ が ちがった よう に なりつづけ、 バクゲキ の オト は いっこう に おこらない。 25 キ を かぞえる とき から レイ の がらがら と ガード の ウエ を カモツ レッシャ が かけさる とき の よう な ショウイダン の ラッカオン が なりはじめた が、 イザワ の ズジョウ を とおりこして、 コウホウ の コウジョウ チタイ へ シュウチュウ されて いる らしい。 ノキサキ から は みえない ので ブタゴヤ の マエ まで いって ウシロ を みる と、 コウジョウ チタイ は ヒ の ウミ で、 あきれた こと には、 イマ まで ズジョウ を ツウカ して いた ヒコウキ と セイハンタイ の ホウコウ から も つぎつぎ と テッキ が きて コウホウ イッタイ に バクゲキ を くわえて いる の だ。 すると もう ラジオ は とまり、 ソラ イチメン は あかあか と あつい ケムリ の マク に かくれて、 テッキ の スガタ も ショウクウトウ の コウボウ も まったく シカイ から うしなわれて しまった。 ホッポウ の イッカク を のこして シシュウ は ヒ の ウミ と なり、 その ヒ の ウミ が しだいに ちかづいて いた。
 シタテヤ フウフ は ヨウジン-ぶかい ヒトタチ で、 ツネ から ボウクウゴウ を ニモツ-ヨウ に つくって あり メバリ の ドロ も ヨウイ して おき、 バンジ テジュン-どおり に ボウクウゴウ に ニモツ を つめこみ メバリ を ぬり、 その また ウエ へ ハタケ の ツチ も かけおわって いた。 この ヒ じゃ とても ダメ です ね。 シタテヤ は ムカシ の ヒケシ の ショウゾク で ウデグミ を して ヒノテ を ながめて いた。 けせ ったって、 これ じゃ ムリ だ。 アタシャ もう にげます よ、 ケムリ に まかれて しんで みて も はじまらねえ や。 シタテヤ は リヤカー にも ヒトヤマ の ニモツ を つみこんで おり、 センセイ、 イッショ に ひきあげましょう。 イザワ は その とき、 そうぞうしい ほど フクザツ な キョウフカン に おそわれた。 カレ の カラダ は シタテヤ と イッショ に すべりだしかけて いる の で あった が、 カラダ の ウゴキ を ふりきる よう な ヒトツ の ココロ の テイコウ で スベリ を とめる と、 ココロ の ナカ の イッカク から はりさける よう な ヒメイ の コエ が ドウジ に おこった よう な キ が した。 この イッシュン の チエン の ため に やけて しぬ、 カレ は ほとんど キョウフ の ため に ホウシン した が、 ふたたび ともかく シゼン に よろめきだす よう な カラダ の スベリ を こらえて いた。
「ボク は ね、 ともかく、 もう ちょっと、 のこります よ。 ボク は ね、 シゴト が ある の だ。 ボク は ね、 ともかく ゲイニン だ から、 イノチ の トコトン の ところ で ジブン の スガタ を みつめうる よう な キカイ には、 その トコトン の ところ で サイゴ の トリヒキ を して みる こと を ヨウキュウ されて いる の だ。 ボク は にげたい が、 にげられない の だ。 この キカイ を のがす わけ に いかない の だ。 もう アナタガタ は にげて ください。 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に して しまう」
 はやく、 はやく。 イッシュンカン が スベテ を テオクレ に。 スベテ とは、 それ は イザワ ジシン の イノチ の こと だ。 はやく はやく、 それ は シタテヤ を せきたてる コエ では なくて、 カレ ジシン が イッシュン も はやく にげたい ため の コエ だった。 カレ が この バショ を にげだす ため には、 アタリ の ヒトビト が ミンナ たちさった アト で なければ ならない の だ。 さも なければ、 ハクチ の スガタ を みられて しまう。
 じゃ センセイ、 オダイジ に。 リヤカー を ひっぱりだす と シタテヤ も あわてて いた。 リヤカー は ロジ の カドカド に ぶつかりながら たちさった。 それ が この ロジ の ジュウニン たち の サイゴ に にげさる スガタ で あった。 イワ を あらう ドトウ の ムゲン の オト の よう な、 ヤネ を うつ コウシャホウ の ムスウ の ハヘン の ムゲン の ラッカ の オト の よう な、 キュウシ と コウテイ の なにも ない ざあざあ と いう ブキミ な オト が ムゲン に レンゾク して いる の だ が、 それ が フドウ を ながれて いる ヒナンミン たち の ヒトカタマリ の アシオト なの だ。 コウシャホウ の オト など は もう マ が ぬけて、 アシオト の ナガレ の ナカ に キミョウ な イノチ が こもって いた。 この コウテイ と キュウシ の ない キカイ な オト の ムゲン の ナガレ を ヨ の ナンピト が アシオト と ハンダン しえよう。 テンチ は ただ ムスウ の オンキョウ で いっぱい だった。 テッキ の バクオン、 コウシャホウ、 ラッカオン、 バクハツ の オンキョウ、 アシオト、 ヤネ を うつ ダンペン、 けれども イザワ の シンペン の ナンジュウ メートル か の シュウイ だけ は あかい テンチ の マンナカ で ともかく ちいさな ヤミ を つくり、 ぜんぜん ひっそり して いる の だった。 へんてこ な セイジャク の アツミ と、 キ の ちがいそう な コドク の アツミ が とっぷり シシュウ を つつんで いる。 もう 30 ビョウ、 もう 10 ビョウ だけ まとう。 なぜ、 そして ダレ が メイレイ して いる の だ か、 どうして それ に したがわねば ならない の だ か、 イザワ は キチガイ に なりそう だった。 とつぜん、 もだえ、 なきわめいて モウモクテキ に はしりだしそう だった。
 その とき コマク の ナカ を かきまわす よう な ラッカオン が アタマ の マウエ へ おちて きた。 ムチュウ に ふせる と、 ズジョウ で オンキョウ は とつぜん きえうせ、 ウソ の よう な セイジャク が ふたたび シシュウ に もどって いる。 やれやれ、 おどかしやがる。 イザワ は ゆっくり おきあがって、 ムネ や ヒザ の ツチ を はらった。 カオ を あげる と、 キチガイ の イエ が ヒ を ふいて いる。 ナン だい、 とうとう おちた の か。 カレ は キミョウ に おちついて いた。 キ が つく と、 その サユウ の イエ も、 すぐ メノマエ の アパート も ヒ を ふきだして いる の だ。 イザワ は イエ の ナカ へ とびこんだ。 オシイレ の ト を はねとばして (じっさい それ は はずれて とんで ばたばた と たおれた) ハクチ の オンナ を だく よう に フトン を かぶって はしりでた。 それから 1 プン-カン ぐらい の こと が ぜんぜん ムチュウ で わからなかった。 ロジ の デクチ に ちかづいた とき、 また、 オンキョウ が ズジョウ めがけて おちて きた。 フセ から おきあがる と、 ロジ の デグチ の タバコヤ も ヒ を ふき、 ムカイ の イエ では ブツダン の ナカ から ヒ が ふきだして いる の が みえた。 ロジ を でて ふりかえる と、 シタテヤ も ヒ を ふきはじめ、 どうやら イザワ の コヤ も もえはじめて いる よう だった。
 シシュウ は まったく ヒ の ウミ で フドウ の ウエ には ヒナンミン の スガタ も すくなく、 ヒノコ が とびかい まいくるって いる ばかり、 もう ダメ だ と イザワ は おもった。 ジュウジロ へ くる と、 ここ から タイヘン な コンザツ で、 あらゆる ヒトビト が ただ イッポウ を めざして いる。 その ホウコウ が いちばん ヒノテ が とおい の だ。 そこ は もう ミチ では なくて、 ニンゲン と ニモツ と ヒメイ の かさなりあった ナガレ に すぎず、 おしあい へしあい つきすすみ ふみこえ おしながされ、 ラッカオン が ズジョウ に せまる と、 ナガレ は イチジ に チジョウ に ふして フシギ に ぴったり とまって しまい、 ナンニン か の オトコ だけ が ナガレ の ウエ を ふみつけて かけさる の だ が、 ナガレ の タイハン の ヒトビト は ニモツ と コドモ と オンナ と ロウジン の ツレ が あり、 よびかわし たちどまり もどり つきあたり はねとばされ、 そして ヒノテ は すぐ ミチ の サユウ に せまって いた。
 ちいさな ジュウジロ へ きた。 ナガレ の ゼンブ が ここ でも イッポウ を めざして いる の は やはり そっち が ヒノテ が もっとも とおい から だ が、 その ホウコウ には アキチ も ハタケ も ない こと を イザワ は しって おり、 ツギ の テッキ の ショウイダン が ユクテ を ふさぐ と この ミチ には シ の ウンメイ が ある のみ だった。 イッポウ の ミチ は すでに リョウガワ の イエイエ が もえくるって いる の だ が、 そこ を こす と オガワ が ながれ、 オガワ の ナガレ を スウチョウ のぼる と ムギバタケ へ でられる こと を イザワ は しって いた。 その ミチ を かけぬけて いく ヒトリ の カゲ すら も ない の だ から イザワ の ケツイ も にぶった が、 ふと みる と 150 メートル ぐらい サキ の ほう で モウカ に ミズ を かけて いる たった ヒトリ の オトコ の スガタ が みえる の で あった。 モウカ に ミズ を かける と いって も けっして いさましい スガタ では なく、 ただ バケツ を ぶらさげて いる だけ で、 たまに ミズ を かけて みたり、 ぼんやり たったり あるいて みたり へんに チドン な ウゴキ で、 その オトコ の シンリ の カイシャク に くるしむ よう な マ の ぬけた スガタ なの だった。 ともかく ヒトリ の ニンゲン が ヤケジニ も せず たって いられる の だ から と、 イザワ は おもった。 オレ の ウン を ためす の だ。 ウン。 まさに、 もう のこされた の は、 ヒトツ の ウン、 それ を えらぶ ケツダン が ある だけ だった。 ジュウジロ に ミゾ が あった。 イザワ は ミゾ に フトン を ひたした。
 イザワ は オンナ と カタ を くみ、 フトン を かぶり、 グンシュウ の ナガレ に ケツベツ した。 モウカ の まいくるう ミチ に むかって ヒトアシ あるきかける と、 オンナ は ホンノウテキ に たちどまり、 グンシュウ の ながれる ほう へ ひきもどされる よう に ふらふら と よろめいて いく。
「バカ!」
 オンナ の テ を ちからいっぱい にぎって ひっぱり、 ミチ の ウエ へ よろめいて でる オンナ の カタ を だきすくめて、
「そっち へ いけば しぬ だけ なの だ」 オンナ の カラダ を ジブン の ムネ に だきしめて、 ささやいた。
「しぬ とき は、 こうして、 フタリ イッショ だよ。 おそれるな。 そして、 オレ から はなれるな。 ヒ も バクダン も わすれて、 おい、 オレタチ フタリ の イッショウ の ミチ は な、 いつも この ミチ なの だよ。 この ミチ を ただ まっすぐ みつめて、 オレ の カタ に すがりついて くる が いい。 わかった ね」
 オンナ は ごくん と うなずいた。
 その ウナズキ は チセツ で あった が、 イザワ は カンドウ の ため に くるいそう に なる の で あった。 ああ、 ながい ながい イクタビ か の キョウフ の ジカン、 ヨルヒル の バクゲキ の シタ に おいて、 オンナ が あらわした はじめて の イシ で あり、 ただ イチド の コタエ で あった。 その イジラシサ に イザワ は ギャクジョウ しそう で あった。 イマ こそ ニンゲン を だきしめて おり、 その だきしめて いる ニンゲン に、 ムゲン の ホコリ を もつ の で あった。 フタリ は モウカ を くぐって はしった。 ネップウ の カタマリ の シタ を ぬけでる と、 ミチ の リョウガワ は まだ もえて いる ヒ の ウミ だった が、 すでに ムネ は やけおちた アト で カセイ は おとろえ ネッキ は すくなく なって いた。 そこ にも ミゾ が あふれて いた。 オンナ の アシ から カタ の ウエ まで ミズ を あびせ、 もう イチド フトン を ミズ に ひたして かぶりなおした。 ミチ の ウエ に やけた ニモツ や フトン が とびちり、 ニンゲン が フタリ しんで いた。 40 ぐらい の オンナ と オトコ の よう だった。
 フタリ は ふたたび カタ を くみ、 ヒ の ウミ を はしった。 フタリ は ようやく オガワ の フチ へ でた。 ところが ここ は オガワ の リョウガワ の コウジョウ が モウカ を ふきあげて もえくるって おり、 すすむ こと も しりぞく こと も たちどまる こと も できなく なった が、 ふと みる と オガワ に ハシゴ が かけられて いる ので、 フトン を かぶせて オンナ を おろし、 イザワ は イッキ に とびおりた。 ケツベツ した ニンゲン たち が さんさんごご カワ の ナカ を あるいて いる。 オンナ は ときどき ジハツテキ に カラダ を ミズ に ひたして いる。 イヌ で すら そう せざる を えぬ ジョウキョウ だった が、 ヒトリ の あらた な かわいい オンナ が うまれでた シンセンサ に イザワ は メ を みひらいて ミズ を あびる オンナ の シタイ を むさぼりみた。 オガワ は ホノオ の シタ を ではずれて クラヤミ の シタ を ながれはじめた。 ソラ イチメン の ヒ の イロ で シン の クラヤミ は ありえなかった が、 ふたたび いきて みる こと を えた クラヤミ に、 イザワ は むしろ エタイ の しれない おおきな ツカレ と、 はてしれぬ キョム との ため に ただ ホウシン が ひろがる サマ を みる のみ だった。 その ソコ に ちいさな アンド が ある の だ が、 それ は へんに けちくさい、 ばかげた もの に おもわれた。 なにもかも ばかばかしく なって いた。
 カワ を あがる と、 ムギバタケ が あった。 ムギバタケ は サンポウ オカ に かこまれて、 3 チョウ シホウ ぐらい の ヒロサ が あり、 その マンナカ を コクドウ が オカ を きりひらいて とおって いる。 オカ の ウエ の ジュウタク は もえて おり、 ムギバタケ の フチ の セントウ と コウジョウ と ジイン と ナニ か が もえて おり、 その オノオノ の ヒ の イロ が、 シロ、 アカ、 ダイダイ、 アオ、 ノウタン とりどり みんな ちがって いる の で ある。 にわか に カゼ が ふきだして、 ごうごう と クウキ が なり、 キリ の よう な こまかい スイテキ が イチメン に ふりかかって きた。
 グンシュウ は なお えんえん と コクドウ を ながれて いた。 ムギバタケ に やすんで いる の は スウヒャクニン で、 えんえん たる コクドウ の グンシュウ に くらべれば モノ の カズ では ない の で あった。 ムギバタケ の ツヅキ に ゾウキバヤシ の オカ が あった。 その オカ の ハヤシ の ナカ には ほとんど ヒト が いなかった。 フタリ は コダチ の シタ へ フトン を しいて ねころんだ。 オカ の シタ の ハタケ の フチ に 1 ケン の ノウカ が もえて おり、 ミズ を かけて いる スウニン の ヒト の スガタ が みえる。 その ウラテ に イド が あって ヒトリ の オトコ が ポンプ を がちゃがちゃ やり ミズ を のんで いる の で ある。 それ を めがけて ハタケ の シホウ から たちまち 20 ニン ぐらい の ロウヨウ ナンニョ が かけあつまって きた。 カレラ は ポンプ を がちゃがちゃ やり、 かわるがわる ミズ を のんで いる の で ある。 それから もえおちよう と する イエ の ヒ に テ を かざして、 ぐるり と ならんで ダン を とり、 くずれおちる ヒ の カタマリ に とびのいたり、 ケムリ に カオ を そむけたり、 ハナシ を したり して いる。 ダレ も ショウカ に てつだう モノ は いなかった。
 ねむく なった と オンナ が いい、 ワタシ つかれた の、 とか、 アシ が いたい の、 とか、 メ も いたい の、 とか の ツブヤキ の ウチ ミッツ に ヒトツ ぐらい は ワタシ ねむりたい の、 と いった。 ねむる が いい さ、 と イザワ は オンナ を フトン に くるんで やり、 タバコ に ヒ を つけた。 ナンボン-メ か の タバコ を すって いる うち に、 とおく かなた に カイジョ の ケイホウ が なり、 スウニン の ジュンサ が ムギバタケ の ナカ を あるいて カイジョ を しらせて いた。 カレラ の コエ は イチヨウ に つぶれ、 ニンゲン の コエ の よう では なかった。 カマタ ショ カンナイ の モノ は ヤグチ コクミン ガッコウ が やけのこった から あつまれ、 と ふれて いる。 ヒトビト が ハタケ の ウネ から おきあがり、 コクドウ へ おりて あるきはじめる。 コクドウ は ふたたび ヒト の ナミ だった。 しかし、 イザワ は うごかなかった。 カレ の マエ にも ジュンサ が きた。
「その ヒト は ナニ かね。 ケガ を した の かね」
「いいえ、 つかれて、 ねて いる の です」
「ヤグチ コクミン ガッコウ を しって いる かね」
「ええ、 ヒトヤスミ して、 アト から いきます」
「ユウキ を だしたまえ。 コレシキ の こと に」
 ジュンサ の コエ は もう つづかなかった。 ジュンサ の スガタ は きえさり、 ゾウキバヤシ の ナカ には とうとう フタリ の ニンゲン だけ が のこされた。 フタリ の ニンゲン だけ が―― けれども オンナ は やはり ただ ヒトツ の ニクカイ に すぎない では ない か。 オンナ は ぐっすり ねむって いた。 スベテ の ヒトビト が イマ ヤケアト の ケムリ の ナカ を あるいて いる。 スベテ の ヒトビト が イエ を うしない、 そして ミナ あるいて いる。 ネムリ の こと を かんがえて すら いない で あろう。 イマ ねむる こと が できる の は、 しんだ ニンゲン と この オンナ だけ だ。 しんだ ニンゲン は ふたたび めざめる こと が ない が、 この オンナ は やがて めざめ、 そして めざめる こと に よって ねむりこけた ニクカイ に ナニモノ を つけくわえる こと も ありえない の だ。
 オンナ は かすか で ある が イマ まで キキオボエ の ない イビキゴエ を たてて いた。 それ は ブタ の ナキゴエ に にて いた。 まったく この オンナ ジタイ が ブタ ソノモノ だ と イザワ は おもった。 そして カレ は コドモ の コロ の ちいさな キオク の ダンペン を ふと おもいだして いた。 ヒトリ の ガキダイショウ の メイレイ で 10 ナンニン か の コドモ たち が コブタ を おいまわして いた。 おいつめて、 ガキダイショウ は ジャックナイフ で いくらか の ブタ の シリニク を きりとった。 ブタ は いたそう な カオ も せず、 トクベツ の ナキゴエ も たてなかった。 シリ の ニク を きりとられた こと も しらない よう に、 ただ にげまわって いる だけ だった。 イザワ は テキ が ジョウリク して ジュウホウダン が ハッポウ に うなり コンクリート の ビル が ふきとび、 ズジョウ に テッキ が キュウコウカ して キジュウ ソウシャ を くわえる シタ で、 ツチケムリ と くずれた ビル と アナ の アイダ を ころげまわって にげあるいて いる ジブン と オンナ の こと を かんがえて いた。 くずれた コンクリート の カゲ で、 オンナ が ヒトリ の オトコ に おさえつけられ、 オトコ は オンナ を ねじたおして、 ニクタイ の コウイ に ふけりながら、 オトコ は オンナ の シリ の ニク を むしりとって たべて いる。 オンナ の シリ の ニク は だんだん すくなく なる が、 オンナ は ニクヨク の こと を かんがえて いる だけ だった。
 アケガタ に ちかづく と ひえはじめて、 イザワ は フユ の ガイトウ も きて いた し あつい ジャケツ も きて いる の だ が、 カンキ が たえがたかった。 シタ の ムギバタケ の フチ の ショホウ には なお もえつづけて いる イチメン の ヒ の ハラ が あった。 そこ まで いって ダン を とりたい と おもった が、 オンナ が メ を さます と こまる ので、 イザワ は ミウゴキ が できなかった。 オンナ の メ を さます の が なぜか たえられぬ オモイ が して いた。
 オンナ の ねむりこけて いる うち に オンナ を おいて たちさりたい とも おもった が、 それ すら も めんどうくさく なって いた。 ヒト が モノ を すてる には、 たとえば カミクズ を すてる にも、 すてる だけ の ハリアイ と ケッペキ ぐらい は ある だろう。 この オンナ を すてる ハリアイ も ケッペキ も うしなわれて いる だけ だ。 ミジン の アイジョウ も なかった し、 ミレン も なかった が、 すてる だけ の ハリアイ も なかった。 いきる ため の、 アス の キボウ が ない から だった。 アス の ヒ に、 たとえば オンナ の スガタ を すてて みて も、 どこ か の バショ に ナニ か キボウ が ある の だろう か。 ナニ を タヨリ に いきる の だろう。 どこ に すむ イエ が ある の だ か、 ねむる アナボコ が ある の だ か、 それ すら も わかり は しなかった。 テキ が ジョウリク し、 テンチ に あらゆる ハカイ が おこり、 その センソウ の ハカイ の キョダイ な アイジョウ が、 スベテ を さばいて くれる だろう。 かんがえる こと も なくなって いた。
 ヨ が しらんで きたら、 オンナ を おこして ヤケアト の ほう には ミムキ も せず、 ともかく ネグラ を さがして、 なるべく とおい テイシャジョウ を めざして あるきだす こと に しよう と イザワ は かんがえて いた。 デンシャ や キシャ は うごく だろう か。 テイシャジョウ の シュウイ の マクラギ の カキネ に もたれて やすんで いる とき、 ケサ は はたして ソラ が はれて、 オレ と オレ の トナリ に ならんだ ブタ の セナカ に タイヨウ の ヒカリ が そそぐ だろう か と イザワ は かんがえて いた。 あまり ケサ が さむすぎる から で あった。
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ダラクロン

2012-11-07 | サカグチ アンゴ
 ダラクロン

 サカグチ アンゴ

 ハントシ の うち に セソウ は かわった。 シコ の ミタテ と いでたつ ワレ は。 オホキミ の ヘ に こそ しなめ カヘリミ は せじ。 ワカモノ たち は ハナ と ちった が、 おなじ カレラ が いきのこって ヤミヤ と なる。 モモトセ の イノチ ねがはじ いつ の ヒ か ミタテ と ゆかん キミ と ちぎりて。 けなげ な シンジョウ で オトコ を おくった オンナ たち も ハントシ の ツキヒ の うち に フクン の イハイ に ぬかずく こと も ジムテキ に なる ばかり で あろう し、 やがて あらた な オモカゲ を ムネ に やどす の も とおい ヒ の こと では ない。 ニンゲン が かわった の では ない。 ニンゲン は がんらい そういう もの で あり、 かわった の は セソウ の ウワカワ だけ の こと だ。
 ムカシ、 シジュウシチシ の ジョメイ を はいして ショケイ を ダンコウ した リユウ の ヒトツ は、 カレラ が いきながらえて イキハジ を さらし せっかく の ナ を けがす モノ が あらわれて は いけない と いう ロウバシン で あった そう な。 ゲンダイ の ホウリツ に こんな ニンジョウ は ソンザイ しない。 けれども ヒト の シンジョウ には タブン に この ケイコウ が のこって おり、 うつくしい もの を うつくしい まま で おわらせたい と いう こと は イッパンテキ な シンジョウ の ヒトツ の よう だ。 10 スウネン マエ だ か に ドウテイ ショジョ の まま アイ の イッショウ を おわらせよう と オオイソ の どこ か で シンジュウ した ガクセイ と ムスメ が あった が セジン の ドウジョウ は おおきかった し、 ワタシ ジシン も、 スウネン マエ に ワタシ と きわめて したしかった メイ の ヒトリ が 21 の トシ に ジサツ した とき、 うつくしい うち に しんで くれて よかった よう な キ が した。 イッケン セイソ な ムスメ で あった が、 こわれそう な アブナサ が あり マッサカサマ に ジゴク へ おちる フアン を かんじさせる ところ が あって、 その イッショウ を セイシ する に たえない よう な キ が して いた から で あった。
 この センソウチュウ、 ブンシ は ミボウジン の レンアイ を かく こと を きんじられて いた。 センソウ ミボウジン を チョウハツ ダラク させて は いけない と いう グンジン セイジカ の コンタン で カノジョ たち に シト の ヨセイ を おくらせよう と ほっして いた の で あろう。 グンジン たち の アクトク に たいする リカイリョク は ビンカン で あって、 カレラ は オンナゴコロ の カワリヤスサ を しらなかった わけ では なく、 しりすぎて いた ので、 こういう キンシ コウモク を アンシュツ に およんだ まで で あった。
 イッタイ が ニホン の ブジン は コライ フジョシ の シンジョウ を しらない と いわれて いる が、 これ は ヒソウ の ケンカイ で、 カレラ の アンシュツ した ブシドウ と いう ブコツ センバン な ホウソク は ニンゲン の ジャクテン に たいする ボウヘキ が その サイダイ の イミ で あった。
 ブシ は アダウチ の ため に クサ の ネ を わけ コジキ と なって も アシアト を おいまくらねば ならない と いう の で ある が、 しんに フクシュウ の ジョウネツ を もって キュウテキ の アシアト を おいつめた チュウシン コウシ が あった で あろう か。 カレラ の しって いた の は アダウチ の ホウソク と ホウソク に キテイ された メイヨ だけ で、 がんらい ニホンジン は もっとも ゾウオシン の すくない また エイゾク しない コクミン で あり、 キノウ の テキ は キョウ の トモ と いう ラクテンセイ が ジッサイ の いつわらぬ シンジョウ で あろう。 キノウ の テキ と ダキョウ いな カンタン あいてらす の は ニチジョウ サハンジ で あり、 キュウテキ なる が ゆえ に いっそう カンタン あいてらし、 たちまち ニクン に つかえたがる し、 キノウ の テキ にも つかえたがる。 いきて ホリョ の ハジ を うける べからず、 と いう が、 こういう キテイ が ない と ニホンジン を セントウ に かりたてる の は フカノウ なの で、 ワレワレ は キヤク に ジュウジュン で ある が、 ワレワレ の いつわらぬ シンジョウ は キヤク と ギャク な もの で ある。 ニホン センシ は ブシドウ の センシ より も ケンボウ ジュッスウ の センシ で あり、 レキシ の ショウメイ に まつ より も ジガ の ホンシン を みつめる こと に よって レキシ の カラクリ を しりうる で あろう。 コンニチ の グンジン セイジカ が ミボウジン の レンアイ に ついて シッピツ を きんじた ごとく、 イニシエ の ブジン は ブシドウ に よって ミズカラ の また ブカ たち の ジャクテン を おさえる ヒツヨウ が あった。
 コバヤシ ヒデオ は セイジカ の タイプ を、 ドクソウ を もたず ただ カンリ し シハイ する ジンシュ と しょうして いる が、 かならずしも そう では ない よう だ。 セイジカ の ダイタスウ は つねに そう で ある けれども、 ショウスウ の テンサイ は カンリ や シハイ の ホウホウ に ドクソウ を もち、 それ が ボンヨウ な セイジカ の キハン と なって ココ の ジダイ、 ココ の セイジ を つらぬく ヒトツ の レキシ の カタチ で キョダイ な イキモノ の イシ を しめして いる。 セイジ の バアイ に おいて、 レキシ は コ を つなぎあわせた もの で なく、 コ を ボツニュウ せしめた ベッコ の キョダイ な セイブツ と なって タンジョウ し、 レキシ の スガタ に おいて セイジ も また キョダイ な ドクソウ を おこなって いる の で ある。 この センソウ を やった モノ は ダレ で ある か、 トウジョウ で あり グンブ で ある か。 そう でも ある が、 しかし また、 ニホン を つらぬく キョダイ な セイブツ、 レキシ の ヌキサシ ならぬ イシ で あった に ソウイ ない。 ニホンジン は レキシ の マエ では ただ ウンメイ に ジュウジュン な コドモ で あった に すぎない。 セイジカ に よし ドクソウ は なく とも、 セイジ は レキシ の スガタ に おいて ドクソウ を もち、 イヨク を もち、 やむ べからざる ホチョウ を もって タイカイ の ナミ の ごとく に あるいて いく。 ナンピト が ブシドウ を アンシュツ した か。 これ も また レキシ の ドクソウ、 または キュウカク で あった で あろう。 レキシ は つねに ニンゲン を かぎだして いる。 そして ブシドウ は ジンセイ や ホンノウ に たいする キンシ ジョウコウ で ある ため に ヒ-ニンゲンテキ、 ハン-ジンセイテキ な もの で ある が、 その ジンセイ や ホンノウ に たいする ドウサツ の ケッカ で ある テン に おいて は まったく ニンゲンテキ な もの で ある。
 ワタシ は テンノウセイ に ついて も、 きわめて ニホンテキ な (したがって あるいは ドクソウテキ な) セイジテキ サクヒン を みる の で ある。 テンノウセイ は テンノウ に よって うみだされた もの では ない。 テンノウ は ときに みずから インボウ を おこした こと も ある けれども、 がいして なにも して おらず、 その インボウ は つねに セイコウ の ためし が なく、 シマナガシ と なったり、 ヤマオク へ にげたり、 そして けっきょく つねに セイジテキ リユウ に よって その ソンリツ を みとめられて きた。 シャカイテキ に わすれられた とき に すら セイジテキ に かつぎだされて くる の で あって、 その ソンリツ の セイジテキ リユウ は いわば セイジカ たち の キュウカク に よる もの で、 カレラ は ニホンジン の セイヘキ を ドウサツ し、 その セイヘキ の ナカ に テンノウセイ を ハッケン して いた。 それ は テンノウケ に かぎる もの では ない。 かわりうる もの ならば、 コウシ-ケ でも シャカ-ケ でも レーニン-ケ でも かまわなかった。 ただ かわりえなかった だけ で ある。
 すくなくとも ニホン の セイジカ たち (キゾク や ブシ) は ジコ の エイエン の リュウセイ (それ は エイエン では なかった が、 カレラ は エイエン を ゆめみた で あろう) を ヤクソク する シュダン と して ゼッタイ クンシュ の ヒツヨウ を かぎつけて いた。 ヘイアン ジダイ の フジワラ シ は テンノウ の ヨウリツ を ジブン カッテ に やりながら、 ジブン が テンノウ の カイ で ある の を うたぐり も しなかった し、 メイワク にも おもって いなかった。 テンノウ の ソンザイ に よって オイエ ソウドウ の ショリ を やり、 オトウト は アニ を やりこめ、 アニ は チチ を やっつける。 カレラ は ホンノウテキ な ジッシツ シュギシャ で あり、 ジブン の イッショウ が たのしければ よかった し、 そのくせ チョウギ を セイダイ に して テンノウ を ハイガ する キミョウ な ケイシキ が だいすき で、 マンゾク して いた。 テンノウ を おがむ こと が、 ジブン ジシン の イゲン を しめし、 また、 みずから イゲン を かんじる シュダン でも あった の で ある。
 ワレワレ に とって は じっさい ばかげた こと だ。 ワレワレ は ヤスクニ ジンジャ の シタ を デンシャ が まがる たび に アタマ を さげさせられる バカラシサ には ヘイコウ した が、 ある シュ の ヒトビト に とって は、 そう する こと に よって しか ジブン を かんじる こと が できない ので、 ワレワレ は ヤスクニ ジンジャ に ついて は その バカラシサ を わらう けれども、 ホカ の コトガラ に ついて、 おなじ よう な ばかげた こと を ジブン ジシン で やって いる。 そして ジブン の バカラシサ には きづかない だけ の こと だ。 ミヤモト ムサシ は イチジョウジ サガリマツ の ハタシバ へ いそぐ トチュウ、 ハチマンサマ の マエ を とおりかかって おもわず おがみかけて おもいとどまった と いう が、 ワレ シンブツ を たのまず と いう カレ の キョウクン は、 この ミズカラ の セイヘキ に はっし、 また むけられた カイコン-ぶかい コトバ で あり、 ワレワレ は ジハツテキ には ずいぶん ばかげた もの を おがみ、 ただ それ を イシキ しない と いう だけ の こと だ。 ドウガク センセイ は キョウダン で まず ショモツ を おしいただく が、 カレ は その こと に ジブン の イゲン と ジブン ジシン の ソンザイ すら も かんじて いる の で あろう。 そして ワレワレ も ナニカ に つけて にた こと を やって いる。
 ニホンジン の ごとく ケンボウ ジュッスウ を コト と する コクミン には ケンボウ ジュッスウ の ため にも タイギ メイブン の ため にも テンノウ が ヒツヨウ で、 ココ の セイジカ は かならずしも その ヒツヨウ を かんじて いなく とも、 レキシテキ な キュウカク に おいて カレラ は その ヒツヨウ を かんじる より も ミズカラ の いる ゲンジツ を うたぐる こと が なかった の だ。 ヒデヨシ は ジュラク に ギョウコウ を あおいで みずから セイギ に ないて いた が、 ジブン の イゲン を それ に よって かんじる と ドウジ に、 ウチュウ の カミ を そこ に みて いた。 これ は ヒデヨシ の バアイ で あって、 タ の セイジカ の バアイ では ない が、 ケンボウ ジュッスウ が たとえば アクマ の シュダン に して も、 アクマ が オサナゴ の ごとく に カミ を おがむ こと も かならずしも フシギ では ない。 どのよう な ムジュン も ありうる の で ある。
 ようするに テンノウセイ と いう もの も ブシドウ と ドウシュ の もの で、 オンナゴコロ は かわりやすい から 「セップ は ニフ に まみえず」 と いう、 キンシ ジタイ は ヒ-ニンゲンテキ、 ハン-ジンセイテキ で ある けれども、 ドウサツ の シンリ に おいて ニンゲンテキ で ある こと と ドウヨウ に、 テンノウセイ ジタイ は シンリ では なく、 また シゼン でも ない が、 そこ に いたる レキシテキ な ハッケン や ドウサツ に おいて かるがるしく ヒテイ しがたい シンコク な イミ を ふくんで おり、 ただ ヒョウメンテキ な シンリ や シゼン ホウソク だけ では わりきれない。
 まったく うつくしい もの を うつくしい まま で おわらせたい など と ねがう こと は ちいさな ニンジョウ で、 ワタシ の メイ の バアイ に した ところ で、 ジサツ など せず いきぬき そして ジゴク に おちて アンコク の コウヤ を さまよう こと を ねがう べき で ある かも しれぬ。 げんに ワタシ ジシン が ジブン に かした ブンガク の ミチ とは かかる コウヤ の ルロウ で ある が、 それ にも かかわらず うつくしい もの を うつくしい まま で おわらせたい と いう ちいさな ネガイ を けしさる わけ にも いかぬ。 ミカン の ビ は ビ では ない。 その とうぜん おちる べき ジゴク での ヘンレキ に リンラク ジタイ が ビ で ありうる とき に はじめて ビ と よびうる の かも しれない が、 ハタチ の ショジョ を わざわざ 60 の ロウシュウ の スガタ の ウエ で つねに みつめなければ ならぬ の か。 これ は ワタシ には わからない。 ワタシ は ハタチ の ビジョ を このむ。
 しんで しまえば ミ も フタ も ない と いう が、 はたして どういう もの で あろう か。 ハイセン して、 けっきょく キノドク なの は センボツ した エイレイ たち だ、 と いう カンガエカタ も ワタシ は すなお に コウテイ する こと が できない。 けれども、 60 すぎた ショウグン たち が なお セイ に れんれん と して ホウテイ に ひかれる こと を おもう と、 ナニ が ジンセイ の ミリョク で ある か、 ワタシ には かいもく わからず、 しかし おそらく ワタシ ジシン も、 もしも ワタシ が 60 の ショウグン で あった なら やはり セイ に れんれん と して ホウテイ に ひかれる で あろう と ソウゾウ せざる を えない ので、 ワタシ は セイ と いう キカイ な チカラ に ただ ぼうぜん たる ばかり で ある。 ワタシ は ハタチ の ビジョ を このむ が、 ロウショウグン も また ハタチ の ビジョ を このんで いる の か。 そして センボツ の エイレイ が キノドク なの も ハタチ の ビジョ を このむ イミ に おいて で ある か。 そのよう に スガタ の メイカク な もの なら、 ワタシ は アンシン する こと も できる し、 そこ から イチズ に ハタチ の ビジョ を おっかける シンネン すら も もちうる の だ が、 いきる こと は、 もっと ワケ の わからぬ もの だ。
 ワタシ は チ を みる こと が ヒジョウ に きらい で、 いつか ワタシ の ガンゼン で ジドウシャ が ショウトツ した とき、 ワタシ は くるり と ふりむいて にげだして いた。 けれども、 ワタシ は イダイ な ハカイ が すき で あった。 ワタシ は バクダン や ショウイダン に おののきながら、 キョウボウ な ハカイ に はげしく コウフン して いた が、 それ にも かかわらず、 この とき ほど ニンゲン を あいし なつかしんで いた とき は ない よう な オモイ が する。
 ワタシ は ソカイ を すすめ また すすんで イナカ の ジュウタク を テイキョウ しよう と もうしでて くれた スウニン の シンセツ を しりぞけて トウキョウ に ふみとどまって いた。 オオイ ヒロスケ の ヤケアト の ボウクウゴウ を、 サイゴ の キョテン に する つもり で、 そして キュウシュウ へ ソカイ する オオイ ヒロスケ と わかれた とき は トウキョウ から あらゆる トモダチ を うしなった とき でも あった が、 やがて テキ が ジョウリク し シヘン に ジュウホウダン の サクレツ する サナカ に その ボウクウゴウ に イキ を ひそめて いる ワタシ ジシン を ソウゾウ して、 ワタシ は その ウンメイ を カンジュ し まちかまえる キモチ に なって いた の で ある。 ワタシ は しぬ かも しれぬ と おもって いた が、 より おおく いきる こと を カクシン して いた に ソウイ ない。 しかし ハイキョ に いきのこり、 ナニ か ホウフ を もって いた か と いえば、 ワタシ は ただ いきのこる こと イガイ の なんの モクサン も なかった の だ。 ヨソウ しえぬ シンセカイ への フシギ な サイセイ。 その コウキシン は ワタシ の イッショウ の もっとも シンセン な もの で あり、 その キカイ な センド に たいする ダイショウ と して も トウキョウ に とどまる こと を かける ヒツヨウ が ある と いう キミョウ な ジュモン に つかれて いた と いう だけ で あった。 そのくせ ワタシ は オクビョウ で、 ショウワ 20 ネン の 4 ガツ ヨッカ と いう ヒ、 ワタシ は はじめて シシュウ に 2 ジカン に わたる バクゲキ を ケイケン した の だ が、 ズジョウ の ショウメイダン で ヒル の よう に あかるく なった、 その とき ちょうど ジョウキョウ して いた ジケイ が ボウクウゴウ の ナカ から ショウイダン か と きいた、 いや ショウメイダン が おちて くる の だ と こたえよう と した ワタシ は いちおう ハラ に チカラ を いれた うえ で ない と コエ が ぜんぜん でない と いう ジョウタイ を しった。 また、 トウジ ニッポン エイガシャ の ショクタク だった ワタシ は ギンザ が バクゲキ された チョクゴ、 ヘンタイ の ライシュウ を ギンザ の ニチエイ の オクジョウ で むかえた が、 5 カイ の タテモノ の ウエ に トウ が あり、 この ウエ に 3 ダイ の カメラ が すえて ある。 クウシュウ ケイホウ に なる と ロジョウ、 マド、 オクジョウ、 ギンザ から あらゆる ヒト の スガタ が きえ、 オクジョウ の コウシャホウ ジンチ すら も エンゴウ に かくれて ヒトカゲ は なく、 ただ テンチ に ロシュツ する ヒト の スガタ は ニチエイ オクジョウ の 10 メイ ほど の イチダン のみ で あった。 まず イシカワジマ に ショウイダン の アメ が ふり、 ツギ の ヘンタイ が マウエ へ くる。 ワタシ は アシ の チカラ が ぬけさる こと を イシキ した。 タバコ を くわえて カメラ を ヘンタイ に むけて いる にくにくしい ほど おちついた カメラマン の スガタ に キョウタン した の で あった。
 けれども ワタシ は イダイ な ハカイ を あいして いた。 ウンメイ に ジュウジュン な ニンゲン の スガタ は キミョウ に うつくしい もの で ある。 コウジマチ の あらゆる ダイテイタク が ウソ の よう に きえうせて ヨジン を たてて おり、 ジョウヒン な チチ と ムスメ が たった ヒトツ の アカガワ の トランク を はさんで ホリバタ の リョクソウ の ウエ に すわって いる。 カタガワ に ヨジン を あげる ぼうぼう たる ハイキョ が なければ、 ヘイワ な ピクニック と まったく かわる ところ が ない。 ここ も きえうせて ぼうぼう ただ ヨジン を たてて いる ドウゲンザカ では、 サカ の チュウト に どうやら バクゲキ の もの では なく ジドウシャ に ひきころされた と おもわれる シタイ が たおれて おり、 1 マイ の トタン が かぶせて ある。 カタワラ に ジュウケン の ヘイタイ が たって いた。 いく モノ、 かえる モノ、 リサイシャ たち の えんえん たる ナガレ が まことに ただ ムシン の ナガレ の ごとく に シタイ を すりぬけて ゆきかい、 ロジョウ の センケツ にも きづく モノ すら おらず、 たまさか きづく モノ が あって も、 すてられた カミクズ を みる ほど の カンシン しか しめさない。 ベイジン たち は シュウセン チョクゴ の ニホンジン は キョダツ し ホウシン して いる と いった が、 バクゲキ チョクゴ の リサイシャ たち の コウシン は キョダツ や ホウシン と シュルイ の ちがった おどろく べき ジュウマン と ジュウリョウ を もつ ムシン で あり、 すなお な ウンメイ の コドモ で あった。 わらって いる の は つねに 15~16、 16~17 の ムスメ たち で あった。 カノジョ ら の エガオ は さわやか だった。 ヤケアト を ほじくりかえして やけた バケツ へ ほりだした セトモノ を いれて いたり、 わずか ばかり の ニモツ の ハリバン を して ロジョウ に ヒナタボッコ を して いたり、 この トシゴロ の ムスメ たち は ミライ の ユメ で いっぱい で ゲンジツ など は ク に ならない の で あろう か、 それとも たかい キョエイシン の ため で あろう か。 ワタシ は ヤケノハラ に ムスメ たち の エガオ を さがす の が タノシミ で あった。
 あの イダイ な ハカイ の モト では、 ウンメイ は あった が、 ダラク は なかった。 ムシン で あった が、 ジュウマン して いた。 モウカ を くぐって にげのびて きた ヒトタチ は、 もえかけて いる イエ の ソバ に むらがって サムサ の ダン を とって おり、 おなじ ヒ に ヒッシ に ショウカ に つとめて いる ヒトビト から 1 シャク はなれて いる だけ で ぜんぜん ベツ の セカイ に いる の で あった。 イダイ な ハカイ、 その おどろく べき アイジョウ。 イダイ な ウンメイ、 その おどろく べき アイジョウ。 それ に くらべれば、 ハイセン の ヒョウジョウ は タダ の ダラク に すぎない。
 だが、 ダラク と いう こと の おどろく べき ヘイボンサ や ヘイボン な トウゼンサ に くらべる と、 あの すさまじい イダイ な ハカイ の アイジョウ や ウンメイ に ジュウジュン な ニンゲン たち の ウツクシサ も、 ホウマツ の よう な むなしい ゲンエイ に すぎない と いう キモチ が する。
 トクガワ バクフ の シソウ は シジュウシチシ を ころす こと に よって エイエン の ギシ たらしめよう と した の だ が、 47 メイ の ダラク のみ は ふせぎえた に した ところ で、 ニンゲン ジタイ が つねに ギシ から ボンゾク へ また ジゴク へ テンラク しつづけて いる こと を ふせぎうる ヨシ も ない。 セップ は ニフ に まみえず、 チュウシン は ニクン に つかえず、 と キヤク を セイテイ して みて も ニンゲン の テンラク は ふせぎえず、 よしんば ショジョ を さしころして その ジュンケツ を たもたしめる こと に セイコウ して も、 ダラク の ヘイボン な アシオト、 ただ うちよせる ナミ の よう な その トウゼン な アシオト に きづく とき、 ジンイ の ヒショウサ、 ジンイ に よって たもちえた ショジョ の ジュンケツ の ヒショウサ など は ホウマツ の ごとき むなしい ゲンゾウ に すぎない こと を みいださず に いられない。
 トッコウタイ の ユウシ は ただ ゲンエイ で ある に すぎず、 ニンゲン の レキシ は ヤミヤ と なる ところ から はじまる の では ない の か。 ミボウジン が シト たる こと も ゲンエイ に すぎず、 あらた な オモカゲ を やどす ところ から ニンゲン の レキシ が はじまる の では ない の か。 そして あるいは テンノウ も ただ ゲンエイ で ある に すぎず、 タダ の ニンゲン に なる ところ から シンジツ の テンノウ の レキシ が はじまる の かも しれない。
 レキシ と いう イキモノ の キョダイサ と ドウヨウ に ニンゲン ジタイ も おどろく ほど キョダイ だ。 いきる と いう こと は じつに ユイイツ の フシギ で ある。 60、 70 の ショウグン たち が セップク も せず クツワ を ならべて ホウテイ に ひかれる など とは シュウセン に よって ハッケン された ソウカン な ニンゲンズ で あり、 ニホン は まけ、 そして ブシドウ は ほろびた が、 ダラク と いう シンジツ の ボタイ に よって はじめて ニンゲン が タンジョウ した の だ。 いきよ おちよ、 その セイトウ な テジュン の ホカ に、 しんに ニンゲン を すくいうる ベンリ な チカミチ が ありうる だろう か。 ワタシ は ハラキリ を このまない。 ムカシ、 マツナガ ダンジョウ と いう ロウカイ インウツ な インボウカ は ノブナガ に おいつめられて しかたなく シロ を マクラ に ウチジニ した が、 しぬ チョクゼン に マイニチ の シュウカン-どおり エンメイ の キュウ を すえ、 それから テッポウ を カオ に おしあて カオ を うちくだいて しんだ。 その とき は 70 を すぎて いた が、 ヒトマエ で ヘイキ で オンナ と たわむれる あくどい オトコ で あった。 この オトコ の シニカタ には ドウカン する が、 ワタシ は ハラキリ は すき では ない。
 ワタシ は おののきながら、 しかし、 ほれぼれ と その ウツクシサ に みとれて いた の だ。 ワタシ は かんがえる ヒツヨウ が なかった。 そこ には うつくしい もの が ある ばかり で、 ニンゲン が なかった から だ。 じっさい、 ドロボウ すら も いなかった。 チカゴロ の トウキョウ は くらい と いう が、 センソウチュウ は シン の ヤミ で、 そのくせ どんな シンヤ でも オイハギ など の シンパイ は なく、 クラヤミ の シンヤ を あるき、 トジマリ なし で ねむって いた の だ。 センソウチュウ の ニホン は ウソ の よう な リソウキョウ で、 ただ むなしい ウツクシサ が さきあふれて いた。 それ は ニンゲン の シンジツ の ウツクシサ では ない。 そして もし ワレワレ が かんがえる こと を わすれる なら、 これほど キラク な そして ソウカン な ミセモノ は ない だろう。 たとえ バクダン の たえざる キョウフ が ある に して も、 かんがえる こと が ない かぎり、 ヒト は つねに キラク で あり、 ただ ほれぼれ と みとれて おれば よかった の だ。 ワタシ は ヒトリ の バカ で あった。 もっとも ムジャキ に センソウ と あそびたわむれて いた。
 シュウセンゴ、 ワレワレ は あらゆる ジユウ を ゆるされた が、 ヒト は あらゆる ジユウ を ゆるされた とき、 ミズカラ の フカカイ な ゲンテイ と その フジユウサ に きづく で あろう。 ニンゲン は エイエン に ジユウ では ありえない。 なぜなら ニンゲン は いきて おり、 また しなねば ならず、 そして ニンゲン は かんがえる から だ。 セイジジョウ の カイカク は 1 ニチ に して おこなわれる が、 ニンゲン の ヘンカ は そう は いかない。 とおく ギリシャ に ハッケン され カクリツ の イッポ を ふみだした ジンセイ が、 コンニチ、 どれほど の ヘンカ を しめして いる で あろう か。
 ニンゲン。 センソウ が どんな すさまじい ハカイ と ウンメイ を もって むかう に して も ニンゲン ジタイ を どう なしうる もの でも ない。 センソウ は おわった。 トッコウタイ の ユウシ は すでに ヤミヤ と なり、 ミボウジン は すでに あらた な オモカゲ に よって ムネ を ふくらませて いる では ない か。 ニンゲン は かわり は しない。 ただ ニンゲン へ もどって きた の だ。 ニンゲン は ダラク する。 ギシ も セイジョ も ダラク する。 それ を ふせぐ こと は できない し、 ふせぐ こと に よって ヒト を すくう こと は できない。 ニンゲン は いき、 ニンゲン は おちる。 その こと イガイ の ナカ に ニンゲン を すくう ベンリ な チカミチ は ない。
 センソウ に まけた から おちる の では ない の だ。 ニンゲン だ から おちる の で あり、 いきて いる から おちる だけ だ。 だが ニンゲン は エイエン に おちぬく こと は できない だろう。 なぜなら ニンゲン の ココロ は クナン に たいして コウテツ の ごとく では ありえない。 ニンゲン は カレン で あり ゼイジャク で あり、 それゆえ おろか な もの で ある が、 おちぬく ため には よわすぎる。 ニンゲン は けっきょく ショジョ を シサツ せず には いられず、 ブシドウ を あみださず には いられず、 テンノウ を かつぎださず には いられなく なる で あろう。 だが タニン の ショジョ で なし に ジブン ジシン の ショジョ を シサツ し、 ジブン ジシン の ブシドウ、 ジブン ジシン の テンノウ を あみだす ため には、 ヒト は ただしく おちる ミチ を おちきる こと が ヒツヨウ なの だ。 そして ヒト の ごとく に ニホン も また おちる こと が ヒツヨウ で あろう。 おちる ミチ を おちきる こと に よって、 ジブン ジシン を ハッケン し、 すくわなければ ならない。 セイジ に よる スクイ など は ウワカワ だけ の グ にも つかない もの で ある。
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