カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

サクラ の モリ の マンカイ の シタ 1

2016-02-19 | サカグチ アンゴ
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ

 サカグチ アンゴ

 サクラ の ハナ が さく と ヒトビト は サケ を ぶらさげたり ダンゴ を たべて ハナ の シタ を あるいて ゼッケイ だの ハル らんまん だの と うかれて ヨウキ に なります が、 これ は ウソ です。 なぜ ウソ か と もうします と、 サクラ の ハナ の シタ へ ヒト が よりあつまって よっぱらって ゲロ を はいて ケンカ して、 これ は エド ジダイ から の ハナシ で、 オオムカシ は サクラ の ハナ の シタ は おそろしい と おもって も、 ゼッケイ だ など とは ダレ も おもいません でした。 チカゴロ は サクラ の ハナ の シタ と いえば ニンゲン が よりあつまって サケ を のんで ケンカ して います から ヨウキ で にぎやか だ と おもいこんで います が、 サクラ の ハナ の シタ から ニンゲン を とりさる と おそろしい ケシキ に なります ので、 ノウ にも、 さる ハハオヤ が アイジ を ヒトサライ に さらわれて コドモ を さがして ハッキョウ して サクラ の ハナ の マンカイ の ハヤシ の シタ へ きかかり みわたす ハナビラ の カゲ に コドモ の マボロシ を えがいて クルイジニ して ハナビラ に うまって しまう (この ところ ショウセイ の ダソク) と いう ハナシ も あり、 サクラ の ハヤシ の ハナ の シタ に ヒト の スガタ が なければ おそろしい ばかり です。
 ムカシ、 スズカ トウゲ にも タビビト が サクラ の モリ の ハナ の シタ を とおらなければ ならない よう な ミチ に なって いました。 ハナ の さかない コロ は よろしい の です が、 ハナ の キセツ に なる と、 タビビト は ミンナ モリ の ハナ の シタ で キ が ヘン に なりました。 できる だけ はやく ハナ の シタ から にげよう と おもって、 あおい キ や カレキ の ある ほう へ イチモクサン に はしりだした もの です。 ヒトリ だ と まだ よい ので、 なぜか と いう と、 ハナ の シタ を イチモクサン に にげて、 アタリマエ の キ の シタ へ くる と ほっと して やれやれ と おもって、 すむ から です が、 フタリヅレ は ツゴウ が わるい。 なぜなら ニンゲン の アシ の ハヤサ は カクジン カクヨウ で、 ヒトリ が おくれます から、 おい まって くれ、 ウシロ から ヒッシ に さけんで も、 ミンナ キチガイ で、 トモダチ を すてて はしります。 それで スズカ トウゲ の サクラ の モリ の ハナ の シタ を ツウカ した トタン に イマ まで ナカ の よかった タビビト が ナカ が わるく なり、 アイテ の ユウジョウ を シンヨウ しなく なります。 そんな こと から タビビト も シゼン に サクラ の モリ の シタ を とおらない で、 わざわざ トオマワリ の ベツ の ヤマミチ を あるく よう に なり、 やがて サクラ の モリ は カイドウ を はずれて ヒト の コ ヒトリ とおらない ヤマ の セイジャク へ とりのこされて しまいました。
 そう なって ナンネン か アト に、 この ヤマ に ヒトリ の サンゾク が すみはじめました が、 この サンゾク は ずいぶん むごたらしい オトコ で、 カイドウ へ でて ナサケヨウシャ なく キモノ を はぎ ヒト の イノチ も たちました が、 こんな オトコ でも サクラ の モリ の ハナ の シタ へ くる と やっぱり おそろしく なって キ が ヘン に なりました。 そこで サンゾク は それ イライ ハナ が きらい で、 ハナ と いう もの は おそろしい もの だな、 なんだか いや な もの だ、 そういう ふう に ハラ の ナカ では つぶやいて いました。 ハナ の シタ では カゼ が ない のに ごうごう カゼ が なって いる よう な キ が しました。 そのくせ カゼ が ちっとも なく、 ヒトツ も モノオト が ありません。 ジブン の スガタ と アシオト ばかり で、 それ が ひっそり つめたい そして うごかない カゼ の ナカ に つつまれて いました。 ハナビラ が ぽそぽそ ちる よう に タマシイ が ちって イノチ が だんだん おとろえて いく よう に おもわれます。 それで メ を つぶって ナニ か さけんで にげたく なります が、 メ を つぶる と サクラ の キ に ぶつかる ので メ を つぶる わけ にも いきません から、 いっそう キチガイ に なる の でした。
 けれども サンゾク は おちついた オトコ で、 コウカイ と いう こと を しらない オトコ です から、 これ は おかしい と かんがえた の です。 ひとつ、 ライネン、 かんがえて やろう。 そう おもいました。 コトシ は かんがえる キ が しなかった の です。 そして、 ライネン、 ハナ が さいたら、 その とき じっくり かんがえよう と おもいました。 マイトシ そう かんがえて、 もう 10 ナンネン も たち、 コトシ も また、 ライネン に なったら かんがえて やろう と おもって、 また、 トシ が くれて しまいました。
 そう かんがえて いる うち に、 ハジメ は ヒトリ だった ニョウボウ が もう 7 ニン にも なり、 8 ニン-メ の ニョウボウ を また カイドウ から オンナ の テイシュ の キモノ と イッショ に さらって きました。 オンナ の テイシュ は ころして きました。
 サンゾク は オンナ の テイシュ を ころす とき から、 どうも ヘン だ と おもって いました。 イツモ と カッテ が ちがう の です。 どこ と いう こと は わからぬ けれども、 へんてこ で、 けれども カレ の ココロ は モノ に こだわる こと に なれません ので、 その とき も かくべつ ふかく ココロ に とめません でした。
 サンゾク は ハジメ は オトコ を ころす キ は なかった ので、 ミグルミ ぬがせて、 いつも する よう に とっとと うせろ と けとばして やる つもり でした が、 オンナ が うつくしすぎた ので、 ふと、 オトコ を きりすてて いました。 カレ ジシン に おもいがけない デキゴト で あった ばかり で なく、 オンナ に とって も おもいがけない デキゴト だった シルシ に、 サンゾク が ふりむく と オンナ は コシ を ぬかして カレ の カオ を ぼんやり みつめました。 キョウ から オマエ は オレ の ニョウボウ だ と いう と、 オンナ は うなずきました。 テ を とって オンナ を ひきおこす と、 オンナ は あるけない から おぶって おくれ と いいます。 サンゾク は ショウチ ショウチ と オンナ を かるがる と せおって あるきました が、 けわしい ノボリザカ へ きて、 ここ は あぶない から おりて あるいて もらおう と いって も、 オンナ は しがみついて いや いや、 いや よ、 と いって おりません。
「オマエ の よう な ヤマオトコ が くるしがる ほど の サカミチ を どうして ワタシ が あるける もの か、 かんがえて ごらん よ」
「そう か、 そう か、 よしよし」 と オトコ は つかれて くるしくて も コウキゲン でした。 「でも、 イチド だけ おりて おくれ。 ワタシ は つよい の だ から、 くるしくて、 ヒトヤスミ したい と いう わけ じゃ ない ぜ。 メノタマ が アタマ の ウシロガワ に ある と いう ワケ の もの じゃ ない から、 サッキ から オマエサン を おぶって いて も なんとなく もどかしくて シカタ が ない の だよ。 イチド だけ シタ へ おりて かわいい カオ を おがまして もらいたい もの だ」
「いや よ、 いや よ」 と、 また、 オンナ は やけに クビッタマ に しがみつきました。 「ワタシ は こんな さびしい ところ に イットキ も じっと して いられない よ。 オマエ の ウチ の ある ところ まで イットキ も やすまず いそいで おくれ。 さも ない と、 ワタシ は オマエ の ニョウボウ に なって やらない よ。 ワタシ に こんな さびしい オモイ を させる なら、 ワタシ は シタ を かんで しんで しまう から」
「よしよし。 わかった。 オマエ の タノミ は なんでも きいて やろう」
 サンゾク は この うつくしい ニョウボウ を アイテ に ミライ の タノシミ を かんがえて、 とける よう な コウフク を かんじました。 カレ は いばりかえって カタ を はって、 マエ の ヤマ、 ウシロ の ヤマ、 ミギ の ヤマ、 ヒダリ の ヤマ、 ぐるり と イッカイテン して オンナ に みせて、
「これ だけ の ヤマ と いう ヤマ が みんな オレ の もの なん だぜ」
 と いいました が、 オンナ は そんな こと には てんで とりあいません。 カレ は イガイ に また ザンネン で、
「いい かい。 オマエ の メ に みえる ヤマ と いう ヤマ、 キ と いう キ、 タニ と いう タニ、 その タニ から わく クモ まで、 みんな オレ の もの なん だぜ」
「はやく あるいて おくれ。 ワタシ は こんな イワコブ-だらけ の ガケ の シタ に いたく ない の だ から」
「よし、 よし。 いまに ウチ に つく と トビキリ の ゴチソウ を こしらえて やる よ」
「オマエ は もっと いそげない の かえ。 はしって おくれ」
「なかなか この サカミチ は オレ が ヒトリ でも そう は かけられない ナンショ だよ」
「オマエ も ミカケ に よらない イクジナシ だねえ。 ワタシ と した こと が、 とんだ カイショウナシ の ニョウボウ に なって しまった。 ああ、 ああ。 これから ナニ を タヨリ に くらしたら いい の だろう」
「ナニ を バカ な。 これ ぐらい の サカミチ が」
「ああ、 もどかしい ねえ。 オマエ は もう つかれた の かえ」
「バカ な こと を。 この サカミチ を つきぬける と、 シカ も かなわぬ よう に はしって みせる から」
「でも オマエ の イキ は くるしそう だよ。 カオイロ が あおい じゃ ない か」
「なんでも モノゴト の ハジメ の うち は そういう もの さ。 いまに イキオイ の ハズミ が つけば、 オマエ が セナカ で メ を まわす ぐらい はやく はしる よ」
 けれども サンゾク は カラダ が フシブシ から ばらばら に わかれて しまった よう に つかれて いました。 そして ワガヤ の マエ へ たどりついた とき には メ も くらみ ミミ も なり シワガレゴエ の ヒトキレ を ふりしぼる チカラ も ありません。 イエ の ナカ から 7 ニン の ニョウボウ が むかえ に でて きました が、 サンゾク は イシ の よう に こわばった カラダ を ほぐして セナカ の オンナ を おろす だけ で せいいっぱい でした。
 7 ニン の ニョウボウ は イマ まで に みかけた こと も ない オンナ の ウツクシサ に うたれました が、 オンナ は 7 ニン の ニョウボウ の キタナサ に おどろきました。 7 ニン の ニョウボウ の ナカ には ムカシ は かなり きれい な オンナ も いた の です が イマ は みる カゲ も ありません。 オンナ は うすきみわるがって オトコ の セ へ しりぞいて、
「この ヤマオンナ は ナン なの よ」
「これ は オレ の ムカシ の ニョウボウ なん だよ」
 と オトコ は こまって 「ムカシ の」 と いう モンク を かんがえついて くわえた の は トッサ の ヘンジ に して は よく できて いました が、 オンナ は ヨウシャ が ありません。
「まあ、 これ が オマエ の ニョウボウ かえ」
「それ は、 オマエ、 オレ は オマエ の よう な かわいい オンナ が いよう とは しらなかった の だ から ね」
「あの オンナ を きりころして おくれ」
 オンナ は いちばん カオカタチ の ととのった ヒトリ を さして さけびました。
「だって、 オマエ、 ころさなく っとも、 ジョチュウ だ と おもえば いい じゃ ない か」
「オマエ は ワタシ の テイシュ を ころした くせ に、 ジブン の ニョウボウ が ころせない の かえ。 オマエ は それでも ワタシ を ニョウボウ に する つもり なの かえ」
 オトコ の むすばれた クチ から ウメキ が もれました。 オトコ は とびあがる よう に ヒトオドリ して さされた オンナ を きりたおして いました。 しかし、 イキ つく ヒマ も ありません。
「この オンナ よ。 コンド は、 それ、 この オンナ よ」
 オトコ は ためらいました が、 すぐ ずかずか あるいて いって、 オンナ の クビ へ ざくり と ダンビラ を きりこみました。 クビ が まだ ころころ と とまらぬ うち に、 オンナ の ふっくら ツヤ の ある すきとおる コエ は ツギ の オンナ を さして うつくしく ひびいて いました。
「この オンナ よ、 コンド は」
 ゆびさされた オンナ は リョウテ に カオ を かくして きゃー と いう サケビゴエ を はりあげました。 その サケビ に ふりかぶって、 ダンビラ は チュウ を ひらめいて はしりました。 のこる オンナ たち は にわか に いちどきに たちあがって シホウ に ちりました。
「ヒトリ でも にがしたら ショウチ しない よ。 ヤブ の カゲ にも ヒトリ いる よ。 カミテ へ ヒトリ にげて いく よ」
 オトコ は チガタナ を ふりあげて ヤマ の ハヤシ を かけくるいました。 たった ヒトリ にげおくれて コシ を ぬかした オンナ が いました。 それ は いちばん みにくくて、 ビッコ の オンナ でした が、 オトコ が にげた オンナ を ヒトリ あまさず きりすてて もどって きて、 ムゾウサ に ダンビラ を ふりあげます と、
「いい のよ。 この オンナ だけ は。 これ は ワタシ が ジョチュウ に つかう から」
「ツイデ だ から、 やって しまう よ」
「バカ だね。 ワタシ が ころさない で おくれ と いう の だよ」
「ああ、 そう か。 ホント だ」
 オトコ は チガタナ を なげすてて シリモチ を つきました。 ツカレ が どっと こみあげて メ が くらみ、 ツチ から はえた シリ の よう に オモミ が わかって きました。 ふと セイジャク に キ が つきました。 とびたつ よう な オソロシサ が こみあげ、 ぎょっと して ふりむく と、 オンナ は そこ に いくらか やるせない フゼイ で たたずんで います。 オトコ は アクム から さめた よう な キ が しました。 そして、 メ も タマシイ も シゼン に オンナ の ウツクシサ に すいよせられて うごかなく なって しまいました。 けれども オトコ は フアン でした。 どういう フアン だ か、 なぜ、 フアン だ か、 ナニ が、 フアン だ か、 カレ には わからぬ の です。 オンナ が うつくしすぎて、 カレ の タマシイ が それ に すいよせられて いた ので、 ムネ の フアン の ナミダチ を さして キ に せず に いられた だけ です。
 なんだか、 にて いる よう だな、 と カレ は おもいました。 にた こと が、 いつか、 あった、 それ は、 と カレ は かんがえました。 ああ、 そう だ、 あれ だ。 キ が つく と カレ は びっくり しました。
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ です。 あの シタ を とおる とき に にて いました。 どこ が、 ナニ が、 どんな ふう に にて いる の だ か わかりません。 けれども、 ナニ か、 にて いる こと は、 たしか でした。 カレ には いつも それ ぐらい の こと しか わからず、 それから サキ は わからなくて も キ に ならぬ タチ の オトコ でした。
 ヤマ の ながい フユ が おわり、 ヤマ の テッペン の ほう や タニ の クボミ に キ の カゲ に ユキ は ぽつぽつ のこって いました が、 やがて ハナ の キセツ が おとずれよう と して ハル の キザシ が ソラ イチメン に かがやいて いました。
 コトシ、 サクラ の ハナ が さいたら、 と、 カレ は かんがえました。 ハナ の シタ に さしかかる とき は まだ それほど では ありません。 それで おもいきって ハナ の シタ へ あるいて みます。 だんだん あるく うち に キ が ヘン に なり、 マエ も ウシロ も ミギ も ヒダリ も、 どっち を みて も ウエ に かぶさる ハナ ばかり、 モリ の マンナカ に ちかづく と オソロシサ に メクラメッポウ たまらなく なる の でした。 コトシ は ひとつ、 あの ハナザカリ の ハヤシ の マンナカ で、 じっと うごかず に、 いや、 おもいきって ジベタ へ すわって やろう、 と カレ は かんがえました。 その とき、 この オンナ も つれて いこう か、 カレ は ふと かんがえて、 オンナ の カオ を ちらと みる と、 ムナサワギ が して あわてて メ を そらしました。 ジブン の ハラ が オンナ に しれて は タイヘン だ と いう キモチ が、 なぜ だ か ムネ に やけのこりました。

     *

 オンナ は タイヘン な ワガママモノ でした。 どんな に ココロ を こめた ゴチソウ を こしらえて やって も、 かならず フフク を いいました。 カレ は コトリ や シカ を とり に ヤマ を はしりました。 イノシシ も クマ も とりました。 ビッコ の オンナ は キ の メ や クサ の ネ を さがして ひねもす リンカン を さまよいました。 しかし オンナ は マンゾク を しめした こと は ありません。
「マイニチ こんな もの を ワタシ に くえ と いう の かえ」
「だって、 トビキリ の ゴチソウ なん だぜ。 オマエ が ここ へ くる まで は、 トオカ に イチド ぐらい しか これ だけ の もの は くわなかった もの だ」
「オマエ は ヤマオトコ だ から それ で いい の だろう さ。 ワタシ の ノド は とおらない よ。 こんな さびしい ヤマオク で、 ヨル の ヨナガ に きく もの と いえば フクロウ の コエ ばかり、 せめて たべる もの でも ミヤコ に おとらぬ おいしい もの が たべられない もの かねえ。 ミヤコ の カゼ が どんな もの か、 その ミヤコ の カゼ を せきとめられた ワタシ の オモイ の セツナサ が どんな もの か、 オマエ には さっしる こと も できない の だね。 オマエ は ワタシ から ミヤコ の カゼ を もぎとって、 その カワリ に オマエ の くれた もの と いえば カラス や フクロウ の なく コエ ばかり。 オマエ は それ を はずかしい とも、 むごたらしい とも おもわない の だよ」
 オンナ の えんじる コトバ の ドウリ が オトコ には のみこめなかった の です。 なぜなら オトコ は ミヤコ の カゼ が どんな もの だ か しりません。 ケントウ も つかない の です。 この セイカツ この コウフク に たりない もの が ある と いう ジジツ に ついて おもいあたる もの が ない。 カレ は ただ オンナ の えんじる フゼイ の セツナサ に トウワク し、 それ を どのよう に ショチ して よい か メアテ に ついて なんの ジジツ も しらない ので、 モドカシサ に くるしみました。
 イマ まで には ミヤコ から の タビビト を ナンニン ころした か しれません。 ミヤコ から の タビビト は カネモチ で ショジヒン も ゴウカ です から、 ミヤコ は カレ の よい カモ で、 せっかく ショジヒン を うばって みて も ナカミ が つまらなかったり する と ちぇっ この イナカモノ め、 とか ドビャクショウ め とか ののしった もの で、 つまり カレ は ミヤコ に ついて は それ だけ が チシキ の ゼンブ で、 ゴウカ な ショジヒン を もつ ヒトタチ の いる ところ で あり、 カレ は それ を まきあげる と いう カンガエ イガイ に ヨネン は ありません でした。 ミヤコ の ソラ が どっち の ホウガク だ と いう こと すら も かんがえて みる ヒツヨウ が なかった の です。
 オンナ は クシ だの コウガイ だの カンザシ だの ベニ だの を ダイジ に しました。 カレ が ドロ の テ や ヤマ の ケモノ の チ に ぬれた テ で かすか に キモノ に ふれた だけ でも オンナ は カレ を しかりました。 まるで キモノ が オンナ の イノチ で ある よう に、 そして それ を まもる こと が ジブン の ツトメ で ある よう に、 ミノマワリ を セイケツ に させ、 イエ の テイレ を めいじます。 その キモノ は 1 マイ の コソデ と ホソヒモ だけ では ことたりず、 ナンマイ か の キモノ と イクツ も の ヒモ と、 そして その ヒモ は ミョウ な カタチ に むすばれ フヒツヨウ に たれながされて、 イロイロ の カザリモノ を つけたす こと に よって ヒトツ の スガタ が カンセイ されて いく の でした。 オトコ は メ を みはりました。 そして タンセイ を もらしました。 カレ は ナットク させられた の です。 かくして ヒトツ の ビ が なりたち、 その ビ に カレ が みたされて いる、 それ は うたぐる ヨチ が ない、 コ と して は イミ を もたない フカンゼン かつ フカカイ な ダンペン が あつまる こと に よって ヒトツ の もの を カンセイ する、 その もの を ブンカイ すれば ムイミ なる ダンペン に きする、 それ を カレ は カレ-らしく ヒトツ の たえなる マジュツ と して ナットク させられた の でした。
 オトコ は ヤマ の キ を きりだして オンナ の めいじる もの を つくります。 ナニモノ が、 そして ナニヨウ に つくられる の か、 カレ ジシン それ を つくりつつ ある うち は しる こと が できない の でした。 それ は コショウ と ヒジカケ でした。 コショウ は つまり イス です。 オテンキ の ヒ、 オンナ は これ を ソト へ ださせて、 ヒナタ に、 また、 コカゲ に、 こしかけて メ を つぶります。 ヘヤ の ナカ では ヒジカケ に もたれて モノオモイ に ふける よう な、 そして それ は、 それ を みる オトコ の メ には スベテ が イヨウ な、 なまめかしく、 なやましい スガタ に ほかならぬ の でした。 マジュツ は ゲンジツ に おこなわれて おり、 カレ ミズカラ が その マジュツ の ジョシュ で ありながら、 その おこなわれる マジュツ の ケッカ に つねに いぶかり そして タンショウ する の でした。
 ビッコ の オンナ は アサ ごと に オンナ の ながい クロカミ を くしけずります。 その ため に もちいる ミズ を、 オトコ は タニガワ の とくに とおい シミズ から くみとり、 そして とくべつ そのよう に チュウイ を はらう ジブン の ロウク を なつかしみました。 ジブン ジシン が マジュツ の ヒトツ の チカラ に なりたい と いう こと が オトコ の ネガイ に なって いました。 そして カレ ジシン くしけずられる クロカミ に わが テ を くわえて みたい もの だ と おもいます。 いや よ、 そんな テ は、 と オンナ は オトコ を はらいのけて しかります。 オトコ は コドモ の よう に テ を ひっこめて、 てれながら、 クロカミ に ツヤ が たち、 むすばれ、 そして カオ が あらわれ、 ヒトツ の ビ が えがかれ うまれて くる こと を みはてぬ ユメ に おもう の でした。
「こんな もの が なあ」
 カレ は モヨウ の ある クシ や カザリ の ある コウガイ を いじりまわしました。 それ は カレ が イマ まで は イミ も ネウチ も みとめる こと の できなかった もの でした が、 イマ も なお、 モノ と モノ との チョウワ や カンケイ、 カザリ と いう イミ の ヒハン は ありません。 けれども マリョク が わかります。 マリョク は モノ の イノチ でした。 モノ の ナカ にも イノチ が あります。
「オマエ が いじって は いけない よ。 なぜ マイニチ きまった よう に テ を だす の だろう ね」
「フシギ な もの だなあ」
「ナニ が フシギ なの さ」
「ナニ が って こと も ない けど さ」
 と オトコ は てれました。 カレ には オドロキ が ありました が、 その タイショウ は わからぬ の です。
 そして オトコ に ミヤコ を おそれる ココロ が うまれて いました。 その オソレ は キョウフ では なく、 しらない と いう こと に たいする シュウチ と フアン で、 モノシリ が ミチ の コトガラ に いだく フアン と シュウチ に にて いました。 オンナ が 「ミヤコ」 と いう たび に カレ の ココロ は おびえおののきました。 けれども カレ は メ に みえる ナニモノ も おそれた こと が なかった ので、 オソレ の ココロ に ナジミ が なく、 はじる ココロ にも なれて いません。 そして カレ は ミヤコ に たいして テキイ だけ を もちました。
 ナンビャク ナンゼン の ミヤコ から の タビビト を おそった が テ に たつ モノ が なかった の だ から、 と カレ は マンゾク して かんがえました。 どんな カコ を おもいだして も、 うらぎられ きずつけられる フアン が ありません。 それ に きづく と、 カレ は つねに ユカイ で また ほこりやか でした。 カレ は オンナ の ビ に たいして ジブン の ツヨサ を タイヒ しました。 そして ツヨサ の ジカク の ウエ で タショウ の ニガテ と みられる もの は イノシシ だけ でした。 その イノシシ も ジッサイ は さして おそる べき テキ でも ない ので、 カレ は ユトリ が ありました。
「ミヤコ には キバ の ある ニンゲン が いる かい」
「ユミ を もった サムライ が いる よ」
「はっはっはっ。 ユミ なら オレ は タニ の ムコウ の スズメ の コ でも おとす の だ から な。 ミヤコ には カタナ が おれて しまう よう な カワ の かたい ニンゲン は いない だろう」
「ヨロイ を きた サムライ が いる よ」
「ヨロイ は カタナ が おれる の か」
「おれる よ」
「オレ は クマ も イノシシ も くみふせて しまう の だ から な」
「オマエ が ホントウ に つよい オトコ なら、 ワタシ を ミヤコ へ つれて いって おくれ。 オマエ の チカラ で、 ワタシ の ほしい もの、 ミヤコ の スイ を ワタシ の ミノマワリ へ かざって おくれ。 そして ワタシ に しんから たのしい オモイ を さずけて くれる こと が できる なら、 オマエ は ホントウ に つよい オトコ なの さ」
「ワケ の ない こと だ」
 オトコ は ミヤコ へ いく こと に ココロ を きめました。 カレ は ミヤコ に あり と ある クシ や コウガイ や カンザシ や キモノ や カガミ や ベニ を ミッカ ミバン と たたない うち に オンナ の マワリ へ つみあげて みせる つもり でした。 なんの キガカリ も ありません。 ヒトツ だけ キ に かかる こと は、 まったく ミヤコ に カンケイ の ない ベツ な こと でした。
 それ は サクラ の モリ でした。
 フツカ か ミッカ の ノチ に モリ の マンカイ が おとずれよう と して いました。 コトシ こそ、 カレ は ケツイ して いました。 サクラ の モリ の ハナザカリ の マンナカ で、 ミウゴキ も せず じっと すわって いて みせる。 カレ は マイニチ ひそか に サクラ の モリ へ でかけて ツボミ の フクラミ を はかって いました。 あと ミッカ、 カレ は シュッパツ を いそぐ オンナ に いいました。
「オマエ に シタク の メンドウ が ある もの かね」 と オンナ は マユ を よせました。 「じらさない で おくれ。 ミヤコ が ワタシ を よんで いる の だよ」
「それでも ヤクソク が ある から ね」
「オマエ が かえ。 この ヤマオク に ヤクソク した ダレ が いる のさ」
「それ は ダレ も いない けれども、 ね。 けれども、 ヤクソク が ある の だよ」
「それ は まあ めずらしい こと が ある もの だねえ。 ダレ も いなくって ダレ と ヤクソク する の だえ」
 オトコ は ウソ が つけなく なりました。
「サクラ の ハナ が さく の だよ」
「サクラ の ハナ と ヤクソク した の かえ」
「サクラ の ハナ が さく から、 それ を みて から でかけなければ ならない の だよ」
「どういう ワケ で」
「サクラ の モリ の シタ へ いって みなければ ならない から だよ」
「だから、 なぜ いって みなければ ならない のよ」
「ハナ が さく から だよ」
「ハナ が さく から、 なぜ さ」
「ハナ の シタ は つめたい カゼ が はりつめて いる から だよ」
「ハナ の シタ に かえ」
「ハナ の シタ は ハテ が ない から だよ」
「ハナ の シタ が かえ」
 オトコ は わからなく なって くしゃくしゃ しました。
「ワタシ も ハナ の シタ へ つれて いって おくれ」
「それ は、 ダメ だ」
 オトコ は きっぱり いいました。
「ヒトリ で なくちゃ、 ダメ なん だ」
 オンナ は クショウ しました。
 オトコ は クショウ と いう もの を はじめて みました。 そんな イジ の わるい ワライ を カレ は イマ まで しらなかった の でした。 そして それ を カレ は 「イジ の わるい」 と いう ふう には ハンダン せず に、 カタナ で きって も きれない よう に、 と ハンダン しました。 その ショウコ には、 クショウ は カレ の アタマ に ハン を おした よう に きざみつけられて しまった から です。 それ は カタナ の ハ の よう に おもいだす たび に ちくちく アタマ を きりました。 そして カレ が それ を きる こと は できない の でした。
 ミッカ-メ が きました。
 カレ は ひそか に でかけました。 サクラ の モリ は マンカイ でした。 ヒトアシ ふみこむ とき、 カレ は オンナ の クショウ を おもいだしました。 それ は イマ まで に オボエ の ない スルドサ で アタマ を きりました。 それ だけ で もう カレ は コンラン して いました。 ハナ の シタ の ツメタサ は ハテ の ない シホウ から どっと おしよせて きました。 カレ の カラダ は たちまち その カゼ に ふきさらされて トウメイ に なり、 シホウ の カゼ は ごうごう と ふきとおり、 すでに カゼ だけ が はりつめて いる の でした。 カレ の コエ のみ が さけびました。 カレ は はしりました。 なんと いう コクウ でしょう。 カレ は なき、 いのり、 もがき、 ただ にげさろう と して いました。 そして、 ハナ の シタ を ぬけだした こと が わかった とき、 ユメ の ナカ から ワレ に かえった おなじ キモチ を みいだしました。 ユメ と ちがって いる こと は、 ホントウ に イキ も たえだえ に なって いる ミ の クルシサ で ありました。
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サクラ の モリ の マンカイ の シタ 2

2016-02-04 | サカグチ アンゴ
     *

 オトコ と オンナ と ビッコ の オンナ は ミヤコ に すみはじめました。
 オトコ は ヨゴト に オンナ の めいじる テイタク へ しのびいりました。 キモノ や ホウセキ や ソウシング も もちだしました が、 それ のみ が オンナ の ココロ を みたす もの では ありません でした。 オンナ の ナニ より ほしがる もの は、 その イエ に すむ ヒト の クビ でした。
 カレラ の イエ には すでに ナンジュウ の テイタク の クビ が あつめられて いました。 ヘヤ の シホウ の ツイタテ に しきられて クビ は ならべられ、 ある クビ は つるされ、 オトコ には クビ の カズ が おおすぎて どれ が どれ やら わからなく とも、 オンナ は いちいち おぼえて おり、 すでに ケ が ぬけ、 ニク が くさり、 ハッコツ に なって も、 どこ の タレ と いう こと を おぼえて いました。 オトコ や ビッコ の オンナ が クビ の バショ を かえる と おこり、 ここ は どこ の カゾク、 ここ は ダレ の カゾク と やかましく いいました。
 オンナ は マイニチ クビアソビ を しました。 クビ は ケライ を つれて サンポ に でます。 クビ の カゾク へ ベツ の クビ の カゾク が あそび に きます。 クビ が コイ を します。 オンナ の クビ が オトコ の クビ を ふり、 また、 オトコ の クビ が オンナ の クビ を すてて オンナ の クビ を なかせる こと も ありました。
 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ に だまされました。 ダイナゴン の クビ は ツキ の ない ヨル、 ヒメギミ の クビ の こいする ヒト の クビ の フリ を して しのんで いって チギリ を むすびます。 チギリ の ノチ に ヒメギミ の クビ が キ が つきます。 ヒメギミ の クビ は ダイナゴン の クビ を にくむ こと が できず ワガミ の サダメ の カナシサ に ないて、 アマ に なる の でした。 すると ダイナゴン の クビ は アマデラ へ いって、 アマ に なった ヒメギミ の クビ を おかします。 ヒメギミ の クビ は しのう と します が ダイナゴン の ササヤキ に まけて アマデラ を にげて ヤマシナ の サト へ かくれて ダイナゴン の クビ の カコイモノ と なって カミノケ を はやします。 ヒメギミ の クビ も ダイナゴン の クビ も もはや ケ が ぬけ ニク が くさり ウジムシ が わき ホネ が のぞけて いました。 フタリ の クビ は サカモリ を して コイ に たわぶれ、 ハ の ホネ と かみあって かちかち なり、 くさった ニク が ぺちゃぺちゃ くっつきあい ハナ も つぶれ メノタマ も くりぬけて いました。
 ぺちゃぺちゃ と くっつき フタリ の カオ の カタチ が くずれる たび に オンナ は オオヨロコビ で、 けたたましく わらいさざめきました。
「ほれ、 ホッペタ を たべて やりなさい。 ああ おいしい。 ヒメギミ の ノド も たべて やりましょう。 はい、 メノタマ も かじりましょう。 すすって やりましょう ね。 はい、 ぺろぺろ。 あら、 おいしい ね。 もう、 たまらない のよ、 ねえ、 ほら、 うんと かじりついて やれ」
 オンナ は からから わらいます。 きれい な すんだ ワライゴエ です。 うすい トウキ が なる よう な さわやか な コエ でした。
 ボウズ の クビ も ありました。 ボウズ の クビ は オンナ に にくがられて いました。 いつも わるい ヤク を ふられ、 にくまれて、 ナブリゴロシ に されたり、 ヤクニン に ショケイ されたり しました。 ボウズ の クビ は クビ に なって ノチ に かえって ケ が はえ、 やがて その ケ も ぬけて くさりはて、 ハッコツ に なりました。 ハッコツ に なる と、 オンナ は ベツ の ボウズ の クビ を もって くる よう に めいじました。 あたらしい ボウズ の クビ は まだ うらわかい みずみずしい チゴ の ウツクシサ が のこって いました。 オンナ は よろこんで ツクエ に のせ サケ を ふくませ ホオズリ して なめたり くすぐったり しました が、 じき あきました。
「もっと ふとった にくたらしい クビ よ」
 オンナ は めいじました。 オトコ は メンドウ に なって イツツ ほど ぶらさげて きました。 よぼよぼ の ロウソウ の クビ も、 マユ の ふとい ホッペタ の あつい、 カエル が しがみついて いる よう な ハナ の カタチ の カオ も ありました。 ミミ の とがった ウマ の よう な ボウズ の クビ も、 ひどく シンミョウ な クビ の ボウズ も あります。 けれども オンナ の キ に いった の は ヒトツ でした。 それ は 50 ぐらい の オオボウズ の クビ で、 ブオトコ で メジリ が たれ、 ホオ が たるみ、 クチビル が あつくて、 その オモサ で クチ が あいて いる よう な ダラシ の ない クビ でした。 オンナ は たれた メジリ の リョウハシ を リョウテ の ユビ の サキ で おさえて、 くりくり と つりあげて まわしたり、 シシバナ の アナ へ 2 ホン の ボウ を さしこんだり、 サカサ に たてて ころがしたり、 だきしめて ジブン の オチチ を あつい クチビル の アイダ へ おしこんで しゃぶらせたり して オオワライ しました。 けれども じきに あきました。
 うつくしい ムスメ の クビ が ありました。 きよらか な しずか な コウキ な クビ でした。 こどもっぽくて、 そのくせ しんだ カオ です から ミョウ に おとなびた ウレイ が あり、 とじられた マブタ の オク に たのしい オモイ も かなしい オモイ も ませた オモイ も イチド に ごっちゃ に かくされて いる よう でした。 オンナ は その クビ を ジブン の ムスメ か イモウト の よう に かわいがりました。 くろい カミノケ を すいて やり、 カオ に オケショウ して やりました。 ああ でも ない、 こう でも ない と ネン を いれて、 ハナ の カオリ の むらだつ よう な やさしい カオ が うきあがりました。
 ムスメ の クビ の ため に、 ヒトリ の わかい キコウシ の クビ が ヒツヨウ でした。 キコウシ の クビ も ネンイリ に オケショウ され、 フタリ の ワカモノ の クビ は もえくるう よう な コイ の アソビ に ふけります。 すねたり、 おこったり、 にくんだり、 ウソ を ついたり、 だましたり、 かなしい カオ を して みせたり、 けれども フタリ の ジョウネツ が イチド に もえあがる とき は ヒトリ の ヒ が めいめい タ の ヒトリ を やきこがして どっち も やかれて まいあがる カエン と なって もえまじりました。 けれども まもなく ワルザムライ だの イロゴノミ の オトナ だの アクソウ だの きたない クビ が ジャマ に でて、 キコウシ の クビ は けられて うたれた アゲク に ころされて、 ミギ から ヒダリ から マエ から ウシロ から きたない クビ が ごちゃごちゃ ムスメ に いどみかかって、 ムスメ の クビ には きたない クビ の くさった ニク が へばりつき、 キバ の よう な ハ に くいつかれ、 ハナ の サキ が かけたり、 ケ が むしられたり します。 すると オンナ は ムスメ の クビ を ハリ で つついて アナ を あけ、 コガタナ で きったり、 えぐったり、 ダレ の クビ より も きたならしい メ も あてられない クビ に して なげだす の でした。
 オトコ は ミヤコ を きらいました。 ミヤコ の メズラシサ も なれて しまう と、 なじめない キモチ ばかり が のこりました。 カレ も ミヤコ では ヒトナミ に スイカン を きて も スネ を だして あるいて いました。 ハクチュウ は カタナ を さす こと も できません。 イチ へ カイモノ に いかなければ なりません し、 シロクビ の いる イザカヤ で サケ を のんで も カネ を はらわねば なりません。 イチ の ショウニン は カレ を なぶりました。 ヤサイ を つんで うり に くる イナカオンナ も コドモ まで なぶりました。 シロクビ も カレ を わらいました。 ミヤコ では キゾク は ギッシャ で ミチ の マンナカ を とおります。 スイカン を きた ハダシ の ケライ は たいがい フルマイザケ に カオ を あかく して いばりちらして あるいて いきました。 カレ は マヌケ だの バカ だの ノロマ だの と イチ でも ロジョウ でも オテラ の ニワ でも どなられました。 それで もう それ ぐらい の こと には ハラ が たたなく なって いました。
 オトコ は ナニ より も タイクツ に くるしみました。 ニンゲン ども と いう もの は タイクツ な もの だ、 と カレ は つくづく おもいました。 カレ は つまり ニンゲン が うるさい の でした。 おおきな イヌ が あるいて いる と、 ちいさな イヌ が ほえます。 オトコ は ほえられる イヌ の よう な もの でした。 カレ は ひがんだり ねたんだり すねたり かんがえたり する こと が きらい でした。 ヤマ の ケモノ や キ や カワ や トリ は うるさく は なかった がな、 と カレ は おもいました。
「ミヤコ は タイクツ な ところ だなあ」 と カレ は ビッコ の オンナ に いいました。 「オマエ は ヤマ へ かえりたい と おもわない か」
「ワタシ は ミヤコ は タイクツ では ない から ね」
 と ビッコ の オンナ は こたえました。 ビッコ の オンナ は イチニチジュウ リョウリ を こしらえ センタク し キンジョ の ヒトタチ と オシャベリ して いました。
「ミヤコ では オシャベリ が できる から タイクツ しない よ。 ワタシ は ヤマ は タイクツ で きらい さ」
「オマエ は オシャベリ が タイクツ で ない の か」
「アタリマエ さ。 ダレ だって しゃべって いれば タイクツ しない もの だよ」
「オレ は しゃべれば しゃべる ほど タイクツ する のに なあ」
「オマエ は しゃべらない から タイクツ なの さ」
「そんな こと が ある もの か。 しゃべる と タイクツ する から しゃべらない の だ」
「でも しゃべって ごらん よ。 きっと タイクツ を わすれる から」
「ナニ を」
「なんでも しゃべりたい こと を さ」
「しゃべりたい こと なんか ある もの か」
 オトコ は いまいましがって アクビ を しました。
 ミヤコ にも ヤマ が ありました。 しかし、 ヤマ の ウエ には テラ が あったり イオリ が あったり、 そして、 そこ には かえって オオク の ヒト の オウライ が ありました。 ヤマ から ミヤコ が ヒトメ に みえます。 なんと いう タクサン の イエ だろう。 そして、 なんと いう きたない ナガメ だろう、 と おもいました。
 カレ は マイバン ヒト を ころして いる こと を ヒル は ほとんど わすれて いました。 なぜなら カレ は ヒト を ころす こと にも タイクツ して いる から でした。 なにも キョウミ は ありません。 カタナ で たたく と クビ が ぽろり と おちて いる だけ でした。 クビ は やわらかい もの でした。 ホネ の テゴタエ は まったく かんじる こと が ない もの で、 ダイコン を きる の と おなじ よう な もの でした。 その クビ の オモサ の ほう が カレ には よほど イガイ でした。
 カレ には オンナ の キモチ が わかる よう な キ が しました。 カネツキドウ では ヒトリ の ボウズ が ヤケ に なって カネ を ついて います。 なんと いう ばかげた こと を やる の だろう と カレ は おもいました。 ナニ を やりだす か わかりません。 こういう ヤツラ と カオ を みあって くらす と したら、 オレ でも ヤツラ を クビ に して イッショ に くらす こと を えらぶ だろう さ、 と おもう の でした。
 けれども カレ は オンナ の ヨクボウ に キリ が ない ので、 その こと にも タイクツ して いた の でした。 オンナ の ヨクボウ は、 いわば つねに キリ も なく ソラ を チョクセン に とびつづけて いる トリ の よう な もの でした。 やすむ ヒマ なく つねに チョクセン に とびつづけて いる の です。 その トリ は つかれません。 つねに ソウカイ に カゼ を きり、 すいすい と こきみよく ムゲン に とびつづけて いる の でした。
 けれども カレ は タダ の トリ でした。 エダ から エダ を とびまわり、 たまに タニ を わたる ぐらい が せいぜい で、 エダ に とまって ウタタネ して いる フクロウ にも にて いました。 カレ は ビンショウ でした。 ゼンシン が よく うごき、 よく あるき、 ドウサ は いきいき して いました。 カレ の ココロ は しかし シリ の おもたい トリ なの でした。 カレ は ムゲン に チョクセン に とぶ こと など は おもい も よらない の です。
 オトコ は ヤマ の ウエ から ミヤコ の ソラ を ながめて います。 その ソラ を 1 ワ の トリ が チョクセン に とんで いきます。 ソラ は ヒル から ヨル に なり、 ヨル から ヒル に なり、 ムゲン の メイアン が くりかえし つづきます。 その ハテ に なにも なく いつまで たって も ただ ムゲン の メイアン が ある だけ、 オトコ は ムゲン を ジジツ に おいて ナットク する こと が できません。 その サキ の ヒ、 その サキ の ヒ、 その また サキ の ヒ、 メイアン の ムゲン の クリカエシ を かんがえます。 カレ の アタマ は われそう に なりました。 それ は カンガエ の ツカレ で なし に、 カンガエ の クルシサ の ため でした。
 イエ へ かえる と、 オンナ は イツモ の よう に クビアソビ に ふけって いました。 カレ の スガタ を みる と、 オンナ は まちかまえて いた の でした。
「コンヤ は シラビョウシ の クビ を もって きて おくれ。 とびきり うつくしい シラビョウシ の クビ だよ。 マイ を まわせる の だ から。 ワタシ が イマヨウ を うたって きかせて あげる よ」
 オトコ は さっき ヤマ の ウエ から みつめて いた ムゲン の メイアン を おもいだそう と しました。 この ヘヤ が あの いつまでも ハテ の ない ムゲン の メイアン の クリカエシ の ソラ の はず です が、 それ は もう おもいだす こと が できません。 そして オンナ は トリ では なし に、 やっぱり うつくしい イツモ の オンナ で ありました。 けれども カレ は こたえました。
「オレ は いや だよ」
 オンナ は びっくり しました。 その アゲク に わらいだしました。
「おやおや。 オマエ も オクビョウカゼ に ふかれた の。 オマエ も タダ の ヨワムシ ね」
「そんな ヨワムシ じゃ ない の だ」
「じゃ、 ナニ さ」
「キリ が ない から いや に なった のさ」
「あら、 おかしい ね。 なんでも キリ が ない もの よ。 マイニチ マイニチ ゴハン を たべて、 キリ が ない じゃ ない か。 マイニチ マイニチ ねむって、 キリ が ない じゃ ない か」
「それ と ちがう の だ」
「どんな ふう に ちがう のよ」
 オトコ は ヘンジ に つまりました。 けれども ちがう と おもいました。 それで いいくるめられる クルシサ を のがれて ソト へ でました。
「シラビョウシ の クビ を もって おいで」
 オンナ の コエ が ウシロ から よびかけました が、 カレ は こたえません でした。
 カレ は なぜ、 どんな ふう に ちがう の だろう と かんがえました が わかりません。 だんだん ヨル に なりました。 カレ は また ヤマ の ウエ へ のぼりました。 もう ソラ も みえなく なって いました。
 カレ は キ が つく と、 ソラ が おちて くる こと を かんがえて いました。 ソラ が おちて きます。 カレ は クビ を しめつけられる よう に くるしんで いました。 それ は オンナ を ころす こと でした。
 ソラ の ムゲン の メイアン を はしりつづける こと は、 オンナ を ころす こと に よって、 とめる こと が できます。 そして、 ソラ は おちて きます。 カレ は ほっと する こと が できます。 しかし、 カレ の シンゾウ には アナ が あいて いる の でした。 カレ の ムネ から トリ の スガタ が とびさり、 かききえて いる の でした。
 あの オンナ が オレ なん だろう か? そして ソラ を ムゲン に チョクセン に とぶ トリ が オレ ジシン だった の だろう か? と カレ は うたぐりました。 オンナ を ころす と、 オレ を ころして しまう の だろう か。 オレ は ナニ を かんがえて いる の だろう?
 なぜ ソラ を おとさねば ならない の だ か、 それ も わからなく なって いました。 あらゆる ソウネン が とらえがたい もの で ありました。 そして ソウネン の ひいた アト に のこる もの は クツウ のみ でした。 ヨ が あけました。 カレ は オンナ の いる イエ へ もどる ユウキ が うしなわれて いました。 そして スウジツ、 サンチュウ を さまよいました。
 ある アサ、 メ が さめる と、 カレ は サクラ の ハナ の シタ に ねて いました。 その サクラ の キ は 1 ポン でした。 サクラ の キ は マンカイ でした。 カレ は おどろいて とびおきました が、 それ は にげだす ため では ありません。 なぜなら、 たった 1 ポン の サクラ の キ でした から。 カレ は スズカ の ヤマ の サクラ の モリ の こと を とつぜん おもいだして いた の でした。 あの ヤマ の サクラ の モリ も ハナザカリ に チガイ ありません。 カレ は ナツカシサ に ワレ を わすれ、 ふかい モノオモイ に しずみました。
 ヤマ へ かえろう。 ヤマ へ かえる の だ。 なぜ この タンジュン な こと を わすれて いた の だろう? そして、 なぜ ソラ を おとす こと など を かんがえふけって いた の だろう? カレ は アクム の さめた オモイ が しました。 すくわれた オモイ が しました。 イマ まで その チカク まで うしなって いた ヤマ の ソウシュン の ニオイ が ミ に せまって つよく つめたく わかる の でした。
 オトコ は イエ へ かえりました。
 オンナ は うれしげ に カレ を むかえました。
「どこ へ いって いた のさ。 ムリ な こと を いって オマエ を くるしめて すまなかった わね。 でも、 オマエ が いなく なって から の ワタシ の サビシサ を さっして おくれ な」
 オンナ が こんな に やさしい こと は イマ まで に ない こと でした。 オトコ の ムネ は いたみました。 もうすこし で カレ の ケツイ は とけて きえて しまいそう です。 けれども カレ は おもいけっしました。
「オレ は ヤマ へ かえる こと に した よ」
「ワタシ を のこして かえ。 そんな むごたらしい こと が どうして オマエ の ココロ に すむ よう に なった の だろう」
 オンナ の メ は イカリ に もえました。 その カオ は うらぎられた クヤシサ で いっぱい でした。
「オマエ は いつから そんな ハクジョウモノ に なった のよ」
「だから さ。 オレ は ミヤコ が きらい なん だ」
「ワタシ と いう モノ が いて も かえ」
「オレ は ミヤコ に すんで いたく ない だけ なん だ」
「でも、 ワタシ が いる じゃ ない か。 オマエ は ワタシ が きらい に なった の かえ。 ワタシ は オマエ の いない ルス は オマエ の こと ばかり かんがえて いた の だよ」
 オンナ の メ に ナミダ の シズク が やどりました。 オンナ の メ に ナミダ の やどった の は はじめて の こと でした。 オンナ の カオ には もはや イカリ は きえて いました。 ツレナサ を うらむ セツナサ のみ が あふれて いました。
「だって オマエ は ミヤコ で なきゃ すむ こと が できない の だろう。 オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だ」
「ワタシ は オマエ と イッショ で なきゃ いきて いられない の だよ。 ワタシ の オモイ が オマエ には わからない の かねえ」
「でも オレ は ヤマ で なきゃ すんで いられない の だぜ」
「だから、 オマエ が ヤマ へ かえる なら、 ワタシ も イッショ に ヤマ へ かえる よ。 ワタシ は たとえ 1 ニチ でも オマエ と はなれて いきて いられない の だ もの」
 オンナ の メ は ナミダ に ぬれて いました。 オトコ の ムネ に カオ を おしあてて あつい ナミダ を ながしました。 ナミダ の アツサ は オトコ の ムネ に しみました。
 たしか に、 オンナ は オトコ なし では いきられなく なって いました。 あたらしい クビ は オンナ の イノチ でした。 そして その クビ を オンナ の ため に もたらす モノ は カレ の ホカ には なかった から です。 カレ は オンナ の イチブ でした。 オンナ は それ を はなす わけ に いきません。 オトコ の ノスタルジー が みたされた とき、 ふたたび ミヤコ へ つれもどす カクシン が オンナ には ある の でした。
「でも オマエ は ヤマ で くらせる かえ」
「オマエ と イッショ なら どこ で でも くらす こと が できる よ」
「ヤマ には オマエ の ほしがる よう な クビ が ない の だぜ」
「オマエ と クビ と、 どっち か ヒトツ を えらばなければ ならない なら、 ワタシ は クビ を あきらめる よ」
 ユメ では ない か と オトコ は うたぐりました。 あまり うれしすぎて しんじられない から でした。 ユメ に すら こんな ねがって も ない こと は かんがえる こと が できなかった の でした。
 カレ の ムネ は あらた な キボウ で いっぱい でした。 その オトズレ は トウトツ で ランボウ で、 イマ の サッキ まで の くるしい オモイ が、 もはや とらえがたい かなた へ へだてられて いました。 カレ は こんな に やさしく は なかった キノウ まで の オンナ の こと も わすれました。 イマ と アス が ある だけ でした。
 フタリ は ただちに シュッパツ しました。 ビッコ の オンナ は のこす こと に しました。 そして シュッパツ の とき、 オンナ は ビッコ の オンナ に むかって、 じき かえって くる から まって おいで、 と ひそか に いいのこしました。

     *

 メノマエ に ムカシ の ヤマヤマ の スガタ が あらわれました。 よべば こたえる よう でした。 キュウドウ を とる こと に しました。 その ミチ は もう ふむ ヒト が なく、 ミチ の スガタ は きえうせて、 タダ の ハヤシ、 タダ の ヤマサカ に なって いました。 その ミチ を いく と、 サクラ の モリ の シタ を とおる こと に なる の でした。
「せおって おくれ。 こんな ミチ の ない ヤマサカ は ワタシ は あるく こと が できない よ」
「ああ、 いい とも」
 オトコ は かるがる と オンナ を せおいました。
 オトコ は はじめて オンナ を えた ヒ の こと を おもいだしました。 その ヒ も カレ は オンナ を せおって トウゲ の アチラガワ の ヤマミチ を のぼった の でした。 その ヒ も シアワセ で いっぱい でした が、 キョウ の シアワセ は さらに ゆたか な もの でした。
「はじめて オマエ に あった ヒ も オンブ して もらった わね」
 と、 オンナ も おもいだして、 いいました。
「オレ も それ を おもいだして いた の だぜ」
 オトコ は うれしそう に わらいました。
「ほら、 みえる だろう。 あれ が みんな オレ の ヤマ だ。 タニ も キ も トリ も クモ まで オレ の ヤマ さ。 ヤマ は いい なあ。 はしって みたく なる じゃ ない か。 ミヤコ では そんな こと は なかった から な」
「はじめて の ヒ は オンブ して オマエ を はしらせた もの だった わね」
「ホント だ。 ずいぶん つかれて、 メ が まわった もの さ」
 オトコ は サクラ の モリ の ハナザカリ を わすれて は いません でした。 しかし、 この コウフク な ヒ に、 あの モリ の ハナザカリ の シタ が ナニホド の もの でしょう か。 カレ は おそれて いません でした。
 そして サクラ の モリ が カレ の ガンゼン に あらわれて きました。 まさしく イチメン の マンカイ でした。 カゼ に ふかれた ハナビラ が ぱらぱら と おちて います。 ツチハダ の ウエ は イチメン に ハナビラ が しかれて いました。 この ハナビラ は どこ から おちて きた の だろう? なぜなら、 ハナビラ の ヒトヒラ が おちた とも おもわれぬ マンカイ の ハナ の フサ が みはるかす ズジョウ に ひろがって いる から でした。
 オトコ は マンカイ の ハナ の シタ へ あるきこみました。 アタリ は ひっそり と、 だんだん つめたく なる よう でした。 カレ は ふと オンナ の テ が つめたく なって いる の に キ が つきました。 にわか に フアン に なりました。 トッサ に カレ は わかりました。 オンナ が オニ で ある こと を。 とつぜん どっ と いう つめたい カゼ が ハナ の シタ の シホウ の ハテ から ふきよせて いました。
 オトコ の セナカ に しがみついて いる の は、 ゼンシン が ムラサキイロ の カオ の おおきな ロウバ でした。 その クチ は ミミ まで さけ、 ちぢくれた カミノケ は ミドリ でした。 オトコ は はしりました。 ふりおとそう と しました。 オニ の テ に チカラ が こもり カレ の ノド に くいこみました。 カレ の メ は みえなく なろう と しました。 カレ は ムチュウ でした。 ゼンシン の チカラ を こめて オニ の テ を ゆるめました。 その テ の スキマ から クビ を ぬく と、 セナカ を すべって、 どさり と オニ は おちました。 コンド は カレ が オニ に くみつく バン でした。 オニ の クビ を しめました。 そして カレ が ふと きづいた とき、 カレ は ゼンシン の チカラ を こめて オンナ の クビ を しめつけ、 そして オンナ は すでに いきたえて いました。
 カレ の メ は かすんで いました。 カレ は より おおきく メ を みひらく こと を こころみました が、 それ に よって シカク が もどって きた よう に かんじる こと が できません でした。 なぜなら、 カレ の しめころした の は サッキ と かわらず やはり オンナ で、 おなじ オンナ の シタイ が そこ に ある ばかり だ から で ありました。
 カレ の コキュウ は とまりました。 カレ の チカラ も、 カレ の シネン も、 スベテ が ドウジ に とまりました。 オンナ の シタイ の ウエ には、 すでに イクツ か の サクラ の ハナビラ が おちて きました。 カレ は オンナ を ゆさぶりました。 よびました。 だきました。 トロウ でした。 カレ は わっと なきふしました。 たぶん カレ が この ヤマ に すみついて から、 この ヒ まで、 ないた こと は なかった でしょう。 そして カレ が シゼン に ワレ に かえった とき、 カレ の セ には しろい ハナビラ が つもって いました。
 そこ は サクラ の モリ の ちょうど マンナカ の アタリ でした。 シホウ の ハテ は ハナ に かくれて オク が みえません でした。 ヒゴロ の よう な オソレ や フアン は きえて いました。 ハナ の ハテ から ふきよせる つめたい カゼ も ありません。 ただ ひっそり と、 そして ひそひそ と、 ハナビラ が ちりつづけて いる ばかり でした。 カレ は はじめて サクラ の モリ の マンカイ の シタ に すわって いました。 いつまでも そこ に すわって いる こと が できます。 カレ は もう かえる ところ が ない の です から。
 サクラ の モリ の マンカイ の シタ の ヒミツ は ダレ にも イマ も わかりません。 あるいは 「コドク」 と いう もの で あった かも しれません。 なぜなら、 オトコ は もはや コドク を おそれる ヒツヨウ が なかった の です。 カレ ミズカラ が コドク ジタイ で ありました。
 カレ は はじめて シホウ を みまわしました。 ズジョウ に ハナ が ありました。 その シタ に ひっそり と ムゲン の コクウ が みちて いました。 ひそひそ と ハナ が ふります。 それ だけ の こと です。 ホカ には なんの ヒミツ も ない の でした。
 ほどへて カレ は ただ ヒトツ の なまあたたか な ナニモノ か を かんじました。 そして それ が カレ ジシン の ムネ の カナシミ で ある こと に キ が つきました。 ハナ と コクウ の さえた ツメタサ に つつまれて、 ほのあたたかい フクラミ が、 すこし ずつ わかりかけて くる の でした。
 カレ は オンナ の カオ の ウエ の ハナビラ を とって やろう と しました。 カレ の テ が オンナ の カオ に とどこう と した とき に、 ナニ か かわった こと が おこった よう に おもわれました。 すると、 カレ の テ の シタ には ふりつもった ハナビラ ばかり で、 オンナ の スガタ は かききえて ただ イクツ か の ハナビラ に なって いました。 そして、 その ハナビラ を かきわけよう と した カレ の テ も カレ の カラダ も のばした とき には もはや きえて いました。 アト に ハナビラ と、 つめたい コクウ が はりつめて いる ばかり でした。
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