カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ココロ 「センセイ と イショ 1」

2015-06-22 | ナツメ ソウセキ
 ココロ

 ナツメ ソウセキ

 ゲ、 センセイ と イショ

 1

 ……ワタクシ は この ナツ アナタ から 2~3 ド テガミ を うけとりました。 トウキョウ で ソウトウ の チイ を えたい から よろしく たのむ と かいて あった の は、 たしか 2 ド-メ に テ に いった もの と キオク して います。 ワタクシ は それ を よんだ とき なんとか したい と おもった の です。 すくなくとも ヘンジ を あげなければ すまん とは かんがえた の です。 しかし ジハク する と、 ワタクシ は アナタ の イライ に たいして、 まるで ドリョク を しなかった の です。 ゴショウチ の とおり、 コウサイ クイキ の せまい と いう より も、 ヨノナカ に たった ヒトリ で くらして いる と いった ほう が テキセツ な くらい の ワタクシ には、 そういう ドリョク を あえて する ヨチ が まったく ない の です。 しかし それ は モンダイ では ありません。 ジツ を いう と、 ワタクシ は この ジブン を どう すれば いい の か と おもいわずらって いた ところ なの です。 このまま ニンゲン の ナカ に とりのこされた ミイラ の よう に ソンザイ して いこう か、 それとも…… その ジブン の ワタクシ は 「それとも」 と いう コトバ を ココロ の ウチ で くりかえす たび に ぞっと しました。 カケアシ で ゼッペキ の ハジ まで きて、 キュウ に ソコ の みえない タニ を のぞきこんだ ヒト の よう に。 ワタクシ は ヒキョウ でした。 そうして オオク の ヒキョウ な ヒト と おなじ テイド に おいて ハンモン した の です。 イカン ながら、 その とき の ワタクシ には、 アナタ と いう もの が ほとんど ソンザイ して いなかった と いって も コチョウ では ありません。 イッポ すすめて いう と、 アナタ の チイ、 アナタ の ココウ の シ、 そんな もの は ワタクシ に とって まるで ムイミ なの でした。 どうでも かまわなかった の です。 ワタクシ は それ どころ の サワギ で なかった の です。 ワタクシ は ジョウサシ へ アナタ の テガミ を さした なり、 いぜん と して ウデグミ を して かんがえこんで いました。 ウチ に ソウオウ の ザイサン が ある モノ が、 ナニ を くるしんで、 ソツギョウ する か しない のに、 チイ チイ と いって もがきまわる の か。 ワタクシ は むしろ にがにがしい キブン で、 トオク に いる アナタ に こんな イチベツ を あたえた だけ でした。 ワタクシ は ヘンジ を あげなければ すまない アナタ に たいして、 イイワケ の ため に こんな こと を うちあける の です。 アナタ を おこらす ため に わざと ブシツケ な コトバ を ろうする の では ありません。 ワタクシ の ホンイ は アト を ゴラン に なれば よく わかる こと と しんじます。 とにかく ワタクシ は なんとか アイサツ す べき ところ を だまって いた の です から、 ワタクシ は この タイマン の ツミ を アナタ の マエ に しゃしたい と おもいます。
 ソノゴ ワタクシ は アナタ に デンポウ を うちました。 アリテイ に いえば、 あの とき ワタクシ は ちょっと アナタ に あいたかった の です。 それから アナタ の キボウドオリ ワタクシ の カコ を アナタ の ため に ものがたりたかった の です。 アナタ は ヘンデン を かけて、 イマ トウキョウ へは でられない と ことわって きました が、 ワタクシ は シツボウ して ながらく あの デンポウ を ながめて いました。 アナタ も デンポウ だけ では キ が すまなかった と みえて、 また アト から ながい テガミ を よこして くれた ので、 アナタ の シュッキョウ できない ジジョウ が よく わかりました。 ワタクシ は アナタ を シツレイ な オトコ だ とも なんとも おもう わけ が ありません。 アナタ の ダイジ な オトウサン の ビョウキ を ソッチノケ に して、 なんで アナタ が ウチ を あけられる もの です か。 その オトウサン の ショウシ を わすれて いる よう な ワタクシ の タイド こそ フツゴウ です。 ――ワタクシ は じっさい あの デンポウ を うつ とき に、 アナタ の オトウサン の こと を わすれて いた の です。 そのくせ アナタ が トウキョウ に いる コロ には、 ナンショウ だ から よく チュウイ しなくって は いけない と、 あれほど チュウコク した の は ワタクシ です のに。 ワタクシ は こういう ムジュン な ニンゲン なの です。 あるいは ワタクシ の ノウズイ より も、 ワタクシ の カコ が ワタクシ を アッパク する ケッカ こんな ムジュン な ニンゲン に ワタクシ を ヘンカ させる の かも しれません。 ワタクシ は この テン に おいて も じゅうぶん ワタクシ の ガ を みとめて います。 アナタ に ゆるして もらわなくて は なりません。
 アナタ の テガミ、 ――アナタ から きた サイゴ の テガミ―― を よんだ とき、 ワタクシ は わるい こと を した と おもいました。 それで その イミ の ヘンジ を だそう か と かんがえて、 フデ を とりかけました が、 1 ギョウ も かかず に やめました。 どうせ かく なら、 この テガミ を かいて あげたかった から、 そうして この テガミ を かく には まだ ジキ が すこし はやすぎた から、 ヤメ に した の です。 ワタクシ が ただ くる に およばない と いう カンタン な デンポウ を ふたたび うった の は、 それ が ため です。

 2

 ワタクシ は それから この テガミ を かきだしました。 ヘイゼイ フデ を もちつけない ワタクシ には、 ジブン の おもう よう に、 ジケン なり シソウ なり が はこばない の が おもい クツウ でした。 ワタクシ は もうすこし で、 アナタ に たいする ワタクシ の この ギム を ホウテキ する ところ でした。 しかし いくら よそう と おもって フデ を おいて も、 なんにも なりません でした。 ワタクシ は 1 ジカン たたない うち に また かきたく なりました。 アナタ から みたら、 これ が ギム の スイコウ を おもんずる ワタクシ の セイカク の よう に おもわれる かも しれません。 ワタクシ も それ は いなみません。 ワタクシ は アナタ の しって いる とおり、 ほとんど セケン と コウショウ の ない コドク な ニンゲン です から、 ギム と いう ほど の ギム は、 ジブン の サユウ ゼンゴ を みまわして も、 どの ホウガク にも ネ を はって おりません。 コイ か シゼン か、 ワタクシ は それ を できる だけ きりつめた セイカツ を して いた の です。 けれども ワタクシ は ギム に レイタン だ から こう なった の では ありません。 むしろ エイビン-すぎて シゲキ に たえる だけ の セイリョク が ない から、 ゴラン の よう に ショウキョクテキ な ツキヒ を おくる こと に なった の です。 だから いったん ヤクソク した イジョウ、 それ を はたさない の は、 たいへん いや な ココロモチ です。 ワタクシ は アナタ に たいして この いや な ココロモチ を さける ため に でも、 おいた フデ を また とりあげなければ ならない の です。
 そのうえ ワタクシ は かきたい の です。 ギム は ベツ と して ワタクシ の カコ を かきたい の です。 ワタクシ の カコ は ワタクシ だけ の ケイケン だ から、 ワタクシ だけ の ショユウ と いって も さしつかえない でしょう。 それ を ヒト に あたえない で しぬ の は、 おしい とも いわれる でしょう。 ワタクシ にも たしょう そんな ココロモチ が あります。 ただし うけいれる こと の できない ヒト に あたえる くらい なら、 ワタクシ は むしろ ワタクシ の ケイケン を ワタクシ の イノチ と ともに ほうむった ほう が いい と おもいます。 じっさい ここ に アナタ と いう ヒトリ の オトコ が ソンザイ して いない ならば、 ワタクシ の カコ は ついに ワタクシ の カコ で、 カンセツ にも タニン の チシキ には ならない で すんだ でしょう。 ワタクシ は ナンゼンマン と いる ニホンジン の ウチ で、 ただ アナタ だけ に、 ワタクシ の カコ を ものがたりたい の です。 アナタ は マジメ だ から。 アナタ は マジメ に ジンセイ ソノモノ から いきた キョウクン を えたい と いった から。
 ワタクシ は くらい ジンセイ の カゲ を エンリョ なく アナタ の アタマ の ウエ に なげかけて あげます。 しかし おそれて は いけません。 くらい もの を じっと みつめて、 その ナカ から アナタ の サンコウ に なる もの を おつかみなさい。 ワタクシ の くらい と いう の は、 もとより リンリテキ に くらい の です。 ワタクシ は リンリテキ に うまれた オトコ です。 また リンリテキ に そだてられた オトコ です。 その リンリジョウ の カンガエ は、 イマ の わかい ヒト と だいぶ ちがった ところ が ある かも しれません。 しかし どう まちがって も、 ワタクシ ジシン の もの です。 マニアワセ に かりた ソンリョウギ では ありません。 だから これから ハッタツ しよう と いう アナタ には イクブン か サンコウ に なる だろう と おもう の です。
 アナタ は ゲンダイ の シソウ モンダイ に ついて、 よく ワタクシ に ギロン を むけた こと を キオク して いる でしょう。 ワタクシ の それ に たいする タイド も よく わかって いる でしょう。 ワタクシ は アナタ の イケン を ケイベツ まで しなかった けれども、 けっして ソンケイ を はらいうる テイド には なれなかった。 アナタ の カンガエ には なんら の ハイケイ も なかった し、 アナタ は ジブン の カコ を もつ には あまり に わかすぎた から です。 ワタクシ は ときどき わらった。 アナタ は ものたりなそう な カオ を ちょいちょい ワタクシ に みせた。 その キョク アナタ は ワタクシ の カコ を エマキモノ の よう に、 アナタ の マエ に テンカイ して くれ と せまった。 ワタクシ は その とき ココロ の ウチ で、 はじめて アナタ を ソンケイ した。 アナタ が ブエンリョ に ワタクシ の ハラ の ナカ から、 ある いきた もの を つらまえよう と いう ケッシン を みせた から です。 ワタクシ の シンゾウ を たちわって、 あたたかく ながれる チシオ を すすろう と した から です。 その とき ワタクシ は まだ いきて いた。 しぬ の が いや で あった。 それで タジツ を やくして、 アナタ の ヨウキュウ を しりぞけて しまった。 ワタクシ は イマ ジブン で ジブン の シンゾウ を やぶって、 その チ を アナタ の カオ に あびせかけよう と して いる の です。 ワタクシ の コドウ が とまった とき、 アナタ の ムネ に あたらしい イノチ が やどる こと が できる なら マンゾク です。

 3

 ワタクシ が リョウシン を なくした の は、 まだ ワタクシ の ハタチ に ならない ジブン でした。 いつか サイ が アナタ に はなして いた よう にも キオク して います が、 フタリ は おなじ ビョウキ で しんだ の です。 しかも サイ が アナタ に フシン を おこさせた とおり、 ほとんど ドウジ と いって いい くらい に、 ゼンゴ して しんだ の です。 ジツ を いう と、 チチ の ビョウキ は おそる べき チョウ チフス でした。 それ が ソバ に いて カンゴ を した ハハ に デンセン した の です。
 ワタクシ は フタリ の アイダ に できた たった ヒトリ の オトコ の コ でした。 ウチ には ソウトウ の ザイサン が あった ので、 むしろ オウヨウ に そだてられました。 ワタクシ は ジブン の カコ を かえりみて、 あの とき リョウシン が しなず に いて くれた なら、 すくなくとも チチ か ハハ か どっち か、 カタホウ で いい から いきて いて くれた なら、 ワタクシ は あの オウヨウ な キブン を イマ まで もちつづける こと が できたろう に と おもいます。
 ワタクシ は フタリ の アト に ぼうぜん と して とりのこされました。 ワタクシ には チシキ も なく、 ケイケン も なく、 また フンベツ も ありません でした。 チチ の しぬ とき、 ハハ は ソバ に いる こと が できません でした。 ハハ の しぬ とき、 ハハ には チチ の しんだ こと さえ まだ しらせて なかった の です。 ハハ は それ を さとって いた か、 または ハタ の モノ の いう ごとく、 じっさい チチ は カイフクキ に むかいつつ ある もの と しんじて いた か、 それ は わかりません。 ハハ は ただ オジ に バンジ を たのんで いました。 そこ に いあわせた ワタクシ を ゆびさす よう に して、 「この コ を どうぞ なにぶん」 と いいました。 ワタクシ は その マエ から リョウシン の キョカ を えて、 トウキョウ へ でる はず に なって いました ので、 ハハ は それ も ついでに いう つもり らしかった の です。 それで 「トウキョウ へ」 と だけ つけくわえましたら、 オジ が すぐ アト を ひきとって、 「よろしい けっして シンパイ しない が いい」 と こたえました。 ハハ は つよい ネツ に たえうる タイシツ の オンナ なん でしたろう か、 オジ は 「しっかり した もの だ」 と いって、 ワタクシ に むかって ハハ の こと を ほめて いました。 しかし これ が はたして ハハ の ユイゴン で あった の か どう だ か、 イマ かんがえる と わからない の です。 ハハ は むろん チチ の かかった ビョウキ の おそる べき ナマエ を しって いた の です。 そうして、 ジブン が それ に デンセン して いた こと も ショウチ して いた の です。 けれども ジブン は きっと この ビョウキ で イノチ を とられる と まで しんじて いた か どう か、 そこ に なる と うたがう ヨチ は まだ いくらでも ある だろう と おもわれる の です。 そのうえ ネツ の たかい とき に でる ハハ の コトバ は、 いかに それ が スジミチ の とおった あきらか な もの に せよ、 いっこう キオク と なって ハハ の アタマ に カゲ さえ のこして いない こと が しばしば あった の です。 だから…… しかし そんな こと は モンダイ では ありません。 ただ こういう ふう に モノ を ときほどいて みたり、 また ぐるぐる まわして ながめたり する クセ は、 もう その ジブン から、 ワタクシ には ちゃんと そなわって いた の です。 それ は アナタ にも ハジメ から おことわり して おかなければ ならない と おもいます が、 その ジツレイ と して は トウメン の モンダイ に たいした カンケイ の ない こんな キジュツ が、 かえって ヤク に たち は しない か と かんがえます。 アナタ の ほう でも まあ その つもり で よんで ください。 この ショウブン が リンリテキ に コジン の コウイ やら ドウサ の ウエ に およんで、 ワタクシ は コウライ ますます ヒト の トクギシン を うたがう よう に なった の だろう と おもう の です。 それ が ワタクシ の ハンモン や クノウ に むかって、 セッキョクテキ に おおきな チカラ を そえて いる の は たしか です から おぼえて いて ください。
 ハナシ が ホンスジ を はずれる と、 わかりにくく なります から また アト へ ひきかえしましょう。 これ でも ワタクシ は この ながい テガミ を かく の に、 ワタクシ と おなじ チイ に おかれた ホカ の ヒト と くらべたら、 あるいは たしょう おちついて い や しない か と おもって いる の です。 ヨノナカ が ねむる と きこえだす あの デンシャ の ヒビキ も もう とだえました。 アマド の ソト には いつのまにか あわれ な ムシ の コエ が、 ツユ の アキ を また しのびやか に おもいださせる よう な チョウシ で かすか に ないて います。 なにも しらない サイ は ツギ の ヘヤ で ムジャキ に すやすや ねいって います。 ワタクシ が フデ を とる と、 イチジ イッカク が できあがりつつ ペン の サキ で なって います。 ワタクシ は むしろ おちついた キブン で カミ に むかって いる の です。 フナレ の ため に ペン が ヨコ へ それる かも しれません が、 アタマ が ノウラン して フデ が しどろ に はしる の では ない よう に おもいます。

 4

 とにかく たった ヒトリ とりのこされた ワタクシ は、 ハハ の イイツケドオリ、 この オジ を たよる より ホカ に ミチ は なかった の です。 オジ は また イッサイ を ひきうけて スベテ の セワ を して くれました。 そうして ワタクシ を ワタクシ の キボウ する トウキョウ へ でられる よう に とりはからって くれました。
 ワタクシ は トウキョウ へ きて コウトウ ガッコウ へ はいりました。 その とき の コウトウ ガッコウ の セイト は イマ より も よほど サツバツ で ソヤ でした。 ワタクシ の しった モノ に、 ヨル ショクニン と ケンカ を して、 アイテ の アタマ へ ゲタ で キズ を おわせた の が ありました。 それ が サケ を のんだ アゲク の こと なので、 ムチュウ に ナグリアイ を して いる アイダ に、 ガッコウ の セイボウ を とうとう ムコウ の モノ に とられて しまった の です。 ところが その ボウシ の ウラ には トウニン の ナマエ が ちゃんと、 ヒシガタ の しろい キレ の ウエ に かいて あった の です。 それで コト が メンドウ に なって、 その オトコ は もうすこし で ケイサツ から ガッコウ へ ショウカイ される ところ でした。 しかし トモダチ が いろいろ と ホネ を おって、 ついに オモテザタ に せず に すむ よう に して やりました。 こんな ランボウ な コウイ を、 ジョウヒン な イマ の クウキ の ナカ に そだった アナタガタ に きかせたら、 さだめて ばかばかしい カンジ を おこす でしょう。 ワタクシ も じっさい ばかばかしく おもいます。 しかし カレラ は イマ の ガクセイ に ない イッシュ シツボク な テン を その カワリ に もって いた の です。 トウジ ワタクシ の ツキヅキ オジ から もらって いた カネ は、 アナタ が イマ、 オトウサン から おくって もらう ガクシ に くらべる と はるか に すくない もの でした。 (むろん ブッカ も ちがいましょう が)。 それでいて ワタクシ は すこし の フソク も かんじません でした。 のみならず カズ ある ドウキュウセイ の ウチ で、 ケイザイ の テン に かけて は、 けっして ヒト を うらやましがる あわれ な キョウグウ に いた わけ では ない の です。 イマ から カイコ する と、 むしろ ヒト に うらやましがられる ほう だった の でしょう。 と いう の は、 ワタクシ は ツキヅキ きまった ソウキン の ホカ に、 ショセキヒ、 (ワタクシ は その ジブン から ショモツ を かう こと が すき でした)、 および リンジ の ヒヨウ を、 よく オジ から セイキュウ して、 ずんずん それ を ジブン の おもう よう に ショウヒ する こと が できた の です から。
 なにも しらない ワタクシ は、 オジ を しんじて いた ばかり で なく、 つねに カンシャ の ココロ を もって、 オジ を ありがたい もの の よう に ソンケイ して いました。 オジ は ジギョウカ でした。 ケンカイ ギイン にも なりました。 その カンケイ から でも ありましょう、 セイトウ にも エンコ が あった よう に キオク して います。 チチ の じつの オトウト です けれども、 そういう テン で、 セイカク から いう と チチ とは まるで ちがった ほう へ むいて ハッタツ した よう にも みえます。 チチ は センゾ から ゆずられた イサン を ダイジ に まもって ゆく トクジツ イッポウ の オトコ でした。 タノシミ には、 チャ だの ハナ だの を やりました。 それから シシュウ など を よむ こと も すき でした。 ショガ コットウ と いった フウ の もの にも、 オオク の シュミ を もって いる ヨウス でした。 イエ は イナカ に ありました けれども、 2 リ ばかり へだたった シ、 ――その シ には オジ が すんで いた の です、 ――その シ から ときどき ドウグヤ が カケモノ だの、 コウロ だの を もって、 わざわざ チチ に みせ に きました。 チチ は ヒトクチ に いう と、 まあ マン オフ ミーンズ と でも ひょうしたら いい の でしょう。 ヒカクテキ ジョウヒン な シコウ を もった イナカ シンシ だった の です。 だから キショウ から いう と、 カッタツ な オジ とは よほど の ケンカク が ありました。 それでいて フタリ は また ミョウ に ナカ が よかった の です。 チチ は よく オジ を ひょうして、 ジブン より も はるか に ハタラキ の ある たのもしい ヒト の よう に いって いました。 ジブン の よう に、 オヤ から ザイサン を ゆずられた モノ は、 どうしても コユウ の サイカン が にぶる、 つまり ヨノナカ と たたかう ヒツヨウ が ない から いけない の だ とも いって いました。 この コトバ は ハハ も ききました。 ワタクシ も ききました。 チチ は むしろ ワタクシ の ココロエ に なる つもり で、 それ を いった らしく おもわれます。 「オマエ も よく おぼえて いる が いい」 と チチ は その とき わざわざ ワタクシ の カオ を みた の です。 だから ワタクシ は まだ それ を わすれず に います。 この くらい ワタクシ の チチ から シンヨウ されたり、 ほめられたり して いた オジ を、 ワタクシ が どうして うたがう こと が できる でしょう。 ワタクシ には ただでさえ ホコリ に なる べき オジ でした。 チチ や ハハ が なくなって、 バンジ その ヒト の セワ に ならなければ ならない ワタクシ には、 もう たんなる ホコリ では なかった の です。 ワタクシ の ソンザイ に ヒツヨウ な ニンゲン に なって いた の です。

 5

 ワタクシ が ナツヤスミ を リヨウ して はじめて クニ へ かえった とき、 リョウシン の しにたえた ワタクシ の スマイ には、 あたらしい シュジン と して、 オジ フウフ が いれかわって すんで いました。 これ は ワタクシ が トウキョウ へ でる マエ から の ヤクソク でした。 たった ヒトリ とりのこされた ワタクシ が イエ に いない イジョウ、 そう でも する より ホカ に シカタ が なかった の です。
 オジ は その コロ シ に ある イロイロ な カイシャ に カンケイ して いた よう です。 ギョウム の ツゴウ から いえば、 イマ まで の キョタク に ネオキ する ほう が、 2 リ も へだたった ワタクシ の イエ に うつる より はるか に ベンリ だ と いって わらいました。 これ は ワタクシ の フボ が なくなった アト、 どう ヤシキ を シマツ して、 ワタクシ が トウキョウ へ でる か と いう ソウダン の とき、 オジ の クチ を もれた コトバ で あります。 ワタクシ の イエ は ふるい レキシ を もって いる ので、 すこし は その カイワイ で ヒト に しられて いました。 アナタ の キョウリ でも おなじ こと だろう と おもいます が、 イナカ では ユイショ の ある イエ を、 ソウゾクニン が ある のに こわしたり うったり する の は ダイジケン です。 イマ の ワタクシ なら その くらい の こと は なんとも おもいません が、 その コロ は まだ コドモ でした から、 トウキョウ へは でた し、 ウチ は ソノママ に して おかなければ ならず、 はなはだ ショチ に くるしんだ の です。
 オジ は しかたなし に ワタクシ の アキヤ へ はいる こと を ショウダク して くれました。 しかし シ の ほう に ある スマイ も ソノママ に して おいて、 リョウホウ の アイダ を いったり きたり する ベンギ を あたえて もらわなければ こまる と いいました。 ワタクシ に もとより イギ の ありよう はず が ありません。 ワタクシ は どんな ジョウケン でも トウキョウ へ でられれば いい くらい に かんがえて いた の です。
 こどもらしい ワタクシ は、 フルサト を はなれて も、 まだ ココロ の メ で、 なつかしげ に フルサト の イエ を のぞんで いました。 もとより そこ には まだ ジブン の かえる べき イエ が ある と いう タビビト の ココロ で のぞんで いた の です。 ヤスミ が くれば かえらなくて は ならない と いう キブン は、 いくら トウキョウ を こいしがって でて きた ワタクシ にも、 ちからづよく あった の です。 ワタクシ は ネッシン に ベンキョウ し、 ユカイ に あそんだ アト、 ヤスミ には かえれる と おもう その フルサト の イエ を よく ユメ に みました。
 ワタクシ の ルス の アイダ、 オジ は どんな ふう に リョウホウ の アイダ を ユキキ して いた か しりません。 ワタクシ の ついた とき は、 カゾク の モノ が、 ミンナ ヒトツイエ の ウチ に あつまって いました。 ガッコウ へ でる コドモ など は ヘイゼイ おそらく シ の ほう に いた の でしょう が、 これ も キュウカ の ため に イナカ へ アソビ ハンブン と いった カク で ひきとられて いました。
 ミンナ ワタクシ の カオ を みて よろこびました。 ワタクシ は また チチ や ハハ の いた とき より、 かえって にぎやか で ヨウキ に なった イエ の ヨウス を みて うれしがりました。 オジ は もと ワタクシ の ヘヤ に なって いた ヒトマ を センリョウ して いる 1 バンメ の オトコ の コ を おいだして、 ワタクシ を そこ へ いれました。 ザシキ の カズ も すくなく ない の だ から、 ワタクシ は ホカ の ヘヤ で かまわない と ジタイ した の です けれども、 オジ は オマエ の ウチ だ から と いって、 ききません でした。
 ワタクシ は おりおり なくなった チチ や ハハ の こと を おもいだす ホカ に、 なんの フユカイ も なく、 その ヒトナツ を オジ の カゾク と ともに すごして、 また トウキョウ へ かえった の です。 ただ ヒトツ その ナツ の デキゴト と して、 ワタクシ の ココロ に むしろ うすぐらい カゲ を なげた の は、 オジ フウフ が クチ を そろえて、 まだ コウトウ ガッコウ へ はいった ばかり の ワタクシ に ケッコン を すすめる こと でした。 それ は ゼンゴ で ちょうど 3~4 カイ も くりかえされた でしょう。 ワタクシ も ハジメ は ただ その トツゼン なの に おどろいた だけ でした。 2 ド-メ には はっきり ことわりました。 3 ド-メ には こっち から とうとう その リユウ を ハンモン しなければ ならなく なりました。 カレラ の シュイ は タンカン でした。 はやく ヨメ を もらって ここ の イエ へ かえって きて、 なくなった チチ の アト を ソウゾク しろ と いう だけ なの です。 イエ は ヤスミ に なって かえり さえ すれば、 それ で いい もの と ワタクシ は かんがえて いました。 チチ の アト を ソウゾク する、 それ には ヨメ が ヒツヨウ だ から もらう、 リョウホウ とも リクツ と して は ひととおり きこえます。 ことに イナカ の ジジョウ を しって いる ワタクシ には、 よく わかります。 ワタクシ も ゼッタイ に それ を きらって は いなかった の でしょう。 しかし トウキョウ へ シュギョウ に でた ばかり の ワタクシ には、 それ が トオメガネ で モノ を みる よう に、 はるか サキ の キョリ に のぞまれる だけ でした。 ワタクシ は オジ の キボウ に ショウダク を あたえない で、 ついに また ワタクシ の イエ を さりました。

 6

 ワタクシ は エンダン の こと を それなり わすれて しまいました。 ワタクシ の グルリ を とりまいて いる セイネン の カオ を みる と、 ショタイ-じみた モノ は ヒトリ も いません。 ミンナ ジユウ です、 そうして ことごとく タンドク らしく おもわれた の です。 こういう キラク な ヒト の ウチ にも、 リメン に はいりこんだら、 あるいは カテイ の ジジョウ に よぎなく されて、 すでに ツマ を むかえて いた モノ が あった かも しれません が、 こどもらしい ワタクシ は そこ に キ が つきません でした。 それから そういう トクベツ の キョウグウ に おかれた ヒト の ほう でも、 アタリ に キガネ を して、 なるべく は ショセイ に エン の とおい そんな ウチワ の ハナシ は しない よう に つつしんで いた の でしょう。 アト から かんがえる と、 ワタクシ ジシン が すでに その クミ だった の です が、 ワタクシ は それ さえ わからず に、 ただ こどもらしく ユカイ に シュウガク の ミチ を あるいて いきました。
 ガクネン の オワリ に、 ワタクシ は また コウリ を からげて、 オヤ の ハカ の ある イナカ へ かえって きました。 そうして キョネン と おなじ よう に、 チチハハ の いた わが イエ の ナカ で、 また オジ フウフ と その コドモ の かわらない カオ を みました。 ワタクシ は ふたたび そこ で フルサト の ニオイ を かぎました。 その ニオイ は ワタクシ に とって いぜん と して なつかしい もの で ありました。 1 ガクネン の タンチョウ を やぶる ヘンカ と して も ありがたい もの に ちがいなかった の です。
 しかし この ジブン を そだてあげた と おなじ よう な ニオイ の ナカ で、 ワタクシ は また とつぜん ケッコン モンダイ を オジ から ハナ の サキ へ つきつけられました。 オジ の いう ところ は、 キョネン の カンユウ を ふたたび くりかえした のみ です。 リユウ も キョネン と おなじ でした。 ただ このまえ すすめられた とき には、 なんら の モクテキブツ が なかった のに、 コンド は ちゃんと カンジン の トウニン を つらまえて いた ので、 ワタクシ は なお こまらせられた の です。 その トウニン と いう の は オジ の ムスメ すなわち ワタクシ の イトコ に あたる オンナ でした。 その オンナ を もらって くれれば、 オタガイ の ため に ベンギ で ある、 チチ も ゾンショウチュウ そんな こと を はなして いた、 と オジ が いう の です。 ワタクシ も そう すれば ベンギ だ とは おもいました。 チチ が オジ に そういう ふう な ハナシ を した と いう の も ありう べき こと と かんがえました。 しかし それ は ワタクシ が オジ に いわれて、 はじめて キ が ついた ので、 いわれない マエ から、 さとって いた コトガラ では ない の です。 だから ワタクシ は おどろきました。 おどろいた けれども、 オジ の キボウ に ムリ の ない ところ も、 それ が ため に よく わかりました。 ワタクシ は ウカツ なの でしょう か。 あるいは そう なの かも しれません が、 おそらく その イトコ に ムトンジャク で あった の が、 おも な ゲンイン に なって いる の でしょう。 ワタクシ は コドモ の うち から シ に いる オジ の ウチ へ しじゅう あそび に ゆきました。 ただ ゆく ばかり で なく、 よく そこ に とまりました。 そうして この イトコ とは その ジブン から したしかった の です。 アナタ も ゴショウチ でしょう、 キョウダイ の アイダ に コイ の セイリツ した ためし の ない の を。 ワタクシ は この コウニン された ジジツ を カッテ に フエン して いる かも しれない が、 しじゅう セッショク して したしく なりすぎた ナンニョ の アイダ には、 コイ に ヒツヨウ な シゲキ の おこる セイシン な カンジ が うしなわれて しまう よう に かんがえて います。 コウ を かぎうる の は、 コウ を たきだした シュンカン に かぎる ごとく、 サケ を あじわう の は、 サケ を のみはじめた セツナ に ある ごとく、 コイ の ショウドウ にも こういう きわどい イッテン が、 ジカン の ウエ に ソンザイ して いる と しか おもわれない の です。 イチド ヘイキ で そこ を とおりぬけたら、 なれれば なれる ほど、 シタシミ が ます だけ で、 コイ の シンケイ は だんだん マヒ して くる だけ です。 ワタクシ は どう かんがえなおして も、 この イトコ を ツマ に する キ には なれません でした。
 オジ は もし ワタクシ が シュチョウ する なら、 ワタクシ の ソツギョウ まで ケッコン を のばして も いい と いいました。 けれども ゼン は いそげ と いう コトワザ も ある から、 できる なら イマ の うち に シュウゲン の サカズキ だけ は すませて おきたい とも いいました。 トウニン に ノゾミ の ない ワタクシ には どっち に したって おなじ こと です。 ワタクシ は また ことわりました。 オジ は いや な カオ を しました。 イトコ は なきました。 ワタクシ に そわれない から かなしい の では ありません。 ケッコン の モウシコミ を キョゼツ された の が、 オンナ と して つらかった から です。 ワタクシ が イトコ を あいして いない ごとく、 イトコ も ワタクシ を あいして いない こと は、 ワタクシ に よく しれて いました。 ワタクシ は また トウキョウ へ でました。

 7

 ワタクシ が 3 ド-メ に キコク した の は、 それから また 1 ネン たった ナツ の トッツキ でした。 ワタクシ は いつでも ガクネン シケン の すむ の を まちかねて トウキョウ を にげました。 ワタクシ には フルサト が それほど なつかしかった から です。 アナタ にも オボエ が ある でしょう、 うまれた ところ は クウキ の イロ が ちがいます、 トチ の ニオイ も カクベツ です、 チチ や ハハ の キオク も こまやか に ただよって います。 イチネン の うち で、 7、 8 の フタツキ を その ナカ に くるまれて、 アナ に はいった ヘビ の よう に じっと して いる の は、 ワタクシ に とって ナニ より も あたたかい いい ココロモチ だった の です。
 タンジュン な ワタクシ は イトコ との ケッコン モンダイ に ついて、 さほど アタマ を いためる ヒツヨウ は ない と おもって いました。 いや な もの は ことわる、 ことわって さえ しまえば アト には なにも のこらない、 ワタクシ は こう しんじて いた の です。 だから オジ の キボウドオリ に イシ を まげなかった にも かかわらず、 ワタクシ は むしろ ヘイキ でした。 カコ 1 ネン の アイダ いまだかつて そんな こと に クッタク した オボエ も なく、 あいかわらず の ゲンキ で クニ へ かえった の です。
 ところが かえって みる と オジ の タイド が ちがって います。 モト の よう に いい カオ を して ワタクシ を ジブン の フトコロ に だこう と しません。 それでも オウヨウ に そだった ワタクシ は、 かえって 4~5 ニチ の アイダ は キ が つかず に いました。 ただ ナニ か の キカイ に ふと ヘン に おもいだした の です。 すると ミョウ なの は、 オジ ばかり では ない の です。 オバ も ミョウ なの です。 イトコ も ミョウ なの です。 チュウガッコウ を でて、 これから トウキョウ の コウトウ ショウギョウ へ はいる つもり だ と いって、 テガミ で その ヨウス を ききあわせたり した オジ の オトコ の コ まで ミョウ なの です。
 ワタクシ の ショウブン と して かんがえず には いられなく なりました。 どうして ワタクシ の ココロモチ が こう かわった の だろう。 いや どうして ムコウ が こう かわった の だろう。 ワタクシ は とつぜん しんだ チチ や ハハ が、 にぶい ワタクシ の メ を あらって、 キュウ に ヨノナカ が はっきり みえる よう に して くれた の では ない か と うたがいました。 ワタクシ は チチ や ハハ が コノヨ に いなく なった アト でも、 いた とき と おなじ よう に ワタクシ を あいして くれる もの と、 どこ か ココロ の オク で しんじて いた の です。 もっとも その コロ でも ワタクシ は けっして リ に くらい タチ では ありません でした。 しかし センゾ から ゆずられた メイシン の カタマリ も、 つよい チカラ で ワタクシ の チ の ナカ に ひそんで いた の です。 イマ でも ひそんで いる でしょう。
 ワタクシ は たった ヒトリ ヤマ へ いって、 フボ の ハカ の マエ に ひざまずきました。 ナカバ は アイトウ の イミ、 ナカバ は カンシャ の ココロモチ で ひざまずいた の です。 そうして ワタクシ の ミライ の コウフク が、 この つめたい イシ の シタ に よこたわる カレラ の テ に まだ にぎられて でも いる よう な キブン で、 ワタクシ の ウンメイ を まもる べく カレラ に いのりました。 アナタ は わらう かも しれない。 ワタクシ も わらわれて も シカタ が ない と おもいます。 しかし ワタクシ は そうした ニンゲン だった の です。
 ワタクシ の セカイ は タナゴコロ を ひるがえす よう に かわりました。 もっとも これ は ワタクシ に とって はじめて の ケイケン では なかった の です。 ワタクシ が 16~17 の とき でしたろう、 はじめて ヨノナカ に うつくしい もの が ある と いう ジジツ を ハッケン した とき には、 イチド に はっと おどろきました。 ナンベン も ジブン の メ を うたぐって、 ナンベン も ジブン の メ を こすりました。 そうして ココロ の ウチ で ああ うつくしい と さけびました。 16~17 と いえば、 オトコ でも オンナ でも、 ぞくに いう イロケ の つく コロ です。 イロケ の ついた ワタクシ は ヨノナカ に ある うつくしい もの の ダイヒョウシャ と して、 はじめて オンナ を みる こと が できた の です。 イマ まで その ソンザイ に すこしも キ の つかなかった イセイ に たいして、 メクラ の メ が たちまち あいた の です。 それ イライ ワタクシ の テンチ は まったく あたらしい もの と なりました。
 ワタクシ が オジ の タイド に こころづいた の も、 まったく これ と おなじ なん でしょう。 がぜん と して こころづいた の です。 なんの ヨカン も ジュンビ も なく、 フイ に きた の です。 フイ に カレ と カレ の カゾク が、 イマ まで とは まるで ベツモノ の よう に ワタクシ の メ に うつった の です。 ワタクシ は おどろきました。 そうして コノママ に して おいて は、 ジブン の ユクサキ が どう なる か わからない と いう キ に なりました。

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 ワタクシ は イマ まで オジ マカセ に して おいた イエ の ザイサン に ついて、 くわしい チシキ を えなければ、 しんだ チチハハ に たいして すまない と いう キ を おこした の です。 オジ は いそがしい カラダ だ と ジショウ する ごとく、 マイバン おなじ ところ に ネトマリ は して いません でした。 フツカ ウチ へ かえる と ミッカ は シ の ほう で くらす と いった ふう に、 リョウホウ の アイダ を ユキキ して、 その ヒ その ヒ を オチツキ の ない カオ で すごして いました。 そうして いそがしい と いう コトバ を クチグセ の よう に つかいました。 なんの ウタガイ も おこらない とき は、 ワタクシ も ジッサイ に いそがしい の だろう と おもって いた の です。 それから、 いそがしがらなくて は トウセイリュウ で ない の だろう と、 ヒニク にも カイシャク して いた の です。 けれども ザイサン の こと に ついて、 ジカン の かかる ハナシ を しよう と いう モクテキ が できた メ で、 この いそがしがる ヨウス を みる と、 それ が たんに ワタクシ を さける コウジツ と しか うけとれなく なって きた の です。 ワタクシ は ヨウイ に オジ を つらまえる キカイ を えません でした。
 ワタクシ は オジ が シ の ほう に メカケ を もって いる と いう ウワサ を ききました。 ワタクシ は その ウワサ を ムカシ チュウガク の ドウキュウセイ で あった ある トモダチ から きいた の です。 メカケ を おく ぐらい の こと は、 この オジ と して すこしも あやしむ に たらない の です が、 チチ の いきて いる うち に、 そんな ヒョウバン を ミミ に いれた オボエ の ない ワタクシ は おどろきました。 トモダチ は その ホカ にも いろいろ オジ に ついて の ウワサ を かたって きかせました。 イチジ ジギョウ で シッパイ しかかって いた よう に ヒト から おもわれて いた のに、 この 2~3 ネン-ライ また キュウ に もりかえして きた と いう の も、 その ヒトツ でした。 しかも ワタクシ の ギワク を つよく そめつけた もの の ヒトツ でした。
 ワタクシ は とうとう オジ と ダンパン を ひらきました。 ダンパン と いう の は すこし フオントウ かも しれません が、 ハナシ の ナリユキ から いう と、 そんな コトバ で ケイヨウ する より ホカ に ミチ の ない ところ へ、 シゼン の チョウシ が おちて きた の です。 オジ は どこまでも ワタクシ を コドモ アツカイ に しよう と します。 ワタクシ は また ハジメ から サイギ の メ で オジ に たいして います。 おだやか に カイケツ の つく はず は なかった の です。
 イカン ながら ワタクシ は イマ その ダンパン の テンマツ を くわしく ここ に かく こと の できない ほど サキ を いそいで います。 ジツ を いう と、 ワタクシ は これ より イジョウ に、 もっと ダイジ な もの を ひかえて いる の です。 ワタクシ の ペン は はやく から そこ へ たどりつきたがって いる の を、 やっと の こと で おさえつけて いる くらい です。 アナタ に あって しずか に はなす キカイ を エイキュウ に うしなった ワタクシ は、 フデ を とる スベ に なれない ばかり で なく、 たっとい ジカン を おしむ と いう イミ から して、 かきたい こと も はぶかなければ なりません。
 アナタ は まだ おぼえて いる でしょう、 ワタクシ が いつか アナタ に、 ツクリツケ の アクニン が ヨノナカ に いる もの では ない と いった こと を。 オオク の ゼンニン が いざ と いう バアイ に とつぜん アクニン に なる の だ から ユダン して は いけない と いった こと を。 あの とき アナタ は ワタクシ に コウフン して いる と チュウイ して くれました。 そうして どんな バアイ に、 ゼンニン が アクニン に ヘンカ する の か と たずねました。 ワタクシ が ただ ヒトクチ カネ と こたえた とき、 アナタ は フマン な カオ を しました。 ワタクシ は アナタ の フマン な カオ を よく キオク して います。 ワタクシ は イマ アナタ の マエ に うちあける が、 ワタクシ は あの とき この オジ の こと を かんがえて いた の です。 フツウ の モノ が カネ を みて キュウ に アクニン に なる レイ と して、 ヨノナカ に シンヨウ する に たる モノ が ソンザイ しえない レイ と して、 ゾウオ と ともに ワタクシ は この オジ を かんがえて いた の です。 ワタクシ の コタエ は、 シソウカイ の オク へ つきすすんで ゆこう と する アナタ に とって ものたりなかった かも しれません、 チンプ だった かも しれません。 けれども ワタクシ には あれ が いきた コタエ でした。 げんに ワタクシ は コウフン して いた では ありません か。 ワタクシ は ひややか な アタマ で あたらしい こと を クチ に する より も、 ねっした シタ で ヘイボン な セツ を のべる ほう が いきて いる と しんじて います。 チ の チカラ で タイ が うごく から です。 コトバ が クウキ に ハドウ を つたえる ばかり で なく、 もっと つよい もの に もっと つよく はたらきかける こと が できる から です。
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ココロ 「センセイ と イショ 2」

2015-06-06 | ナツメ ソウセキ
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 ヒトクチ で いう と、 オジ は ワタクシ の ザイサン を ごまかした の です。 コト は ワタクシ が トウキョウ へ でて いる 3 ネン の アイダ に たやすく おこなわれた の です。 スベテ を オジ マカセ に して ヘイキ で いた ワタクシ は、 セケンテキ に いえば ホントウ の バカ でした。 セケンテキ イジョウ の ケンチ から ひょうすれば、 あるいは ジュン なる たっとい オトコ と でも いえましょう か。 ワタクシ は その とき の オノレ を かえりみて、 なぜ もっと ヒト が わるく うまれて こなかった か と おもう と、 ショウジキ-すぎた ジブン が くやしくって たまりません。 しかし また どうか して、 もう イチド ああいう うまれた まま の スガタ に たちかえって いきて みたい と いう ココロモチ も おこる の です。 キオク して ください、 アナタ の しって いる ワタクシ は チリ に よごれた アト の ワタクシ です。 きたなく なった ネンスウ の おおい モノ を センパイ と よぶ ならば、 ワタクシ は たしか に アナタ より センパイ でしょう。
 もし ワタクシ が オジ の キボウドオリ オジ の ムスメ と ケッコン した ならば、 その ケッカ は ブッシツテキ に ワタクシ に とって ユウリ な もの でしたろう か。 これ は かんがえる まで も ない こと と おもいます。 オジ は サクリャク で ムスメ を ワタクシ に おしつけよう と した の です。 コウイテキ に リョウケ の ベンギ を はかる と いう より も、 ずっと げびた リガイシン に かられて、 ケッコン モンダイ を ワタクシ に むけた の です。 ワタクシ は イトコ を あいして いない だけ で、 きらって は いなかった の です が、 アト から かんがえて みる と、 それ を ことわった の が ワタクシ には タショウ の ユカイ に なる と おもいます。 ごまかされる の は どっち に して も おなじ でしょう けれども、 ノセラレカタ から いえば、 イトコ を もらわない ほう が、 ムコウ の オモイドオリ に ならない と いう テン から みて、 すこし は ワタクシ の ガ が とおった こと に なる の です から。 しかし それ は ほとんど モンダイ と する に たりない ササイ な コトガラ です。 ことに カンケイ の ない アナタ に いわせたら、 さぞ ばかげた イジ に みえる でしょう。
 ワタクシ と オジ の アイダ に タ の シンセキ の モノ が はいりました。 その シンセキ の モノ も ワタクシ は まるで シンヨウ して いません でした。 シンヨウ しない ばかり で なく、 むしろ テキシ して いました。 ワタクシ は オジ が ワタクシ を あざむいた と さとる と ともに、 ホカ の モノ も かならず ジブン を あざむく に ちがいない と おもいつめました。 チチ が あれだけ ほめぬいて いた オジ で すら こう だ から、 ホカ の モノ は と いう の が ワタクシ の ロジック でした。
 それでも カレラ は ワタクシ の ため に、 ワタクシ の ショユウ に かかる イッサイ の もの を まとめて くれました。 それ は キンガク に みつもる と、 ワタクシ の ヨキ より はるか に すくない もの でした。 ワタクシ と して は だまって それ を うけとる か、 で なければ オジ を あいてどって オオヤケザタ に する か、 フタツ の ホウホウ しか なかった の です。 ワタクシ は いきどおりました。 また まよいました。 ソショウ に する と ラクチャク まで に ながい ジカン の かかる こと も おそれました。 ワタクシ は シュギョウチュウ の カラダ です から、 ガクセイ と して タイセツ な ジカン を うばわれる の は ヒジョウ の クツウ だ とも かんがえました。 ワタクシ は シアン の ケッカ、 シ に おる チュウガク の キュウユウ に たのんで、 ワタクシ の うけとった もの を、 すべて カネ の カタチ に かえよう と しました。 キュウユウ は よした ほう が トク だ と いって チュウコク して くれました が、 ワタクシ は ききません でした。 ワタクシ は ながく コキョウ を はなれる ケッシン を その とき に おこした の です。 オジ の カオ を みまい と ココロ の ウチ で ちかった の です。
 ワタクシ は クニ を たつ マエ に、 また チチ と ハハ の ハカ へ まいりました。 ワタクシ は それぎり その ハカ を みた こと が ありません。 もう エイキュウ に みる キカイ も こない でしょう。
 ワタクシ の キュウユウ は ワタクシ の コトバドオリ に とりはからって くれました。 もっとも それ は ワタクシ が トウキョウ へ ついて から よほど たった ノチ の こと です。 イナカ で ハタチ など を うろう と したって ヨウイ には うれません し、 いざ と なる と アシモト を みて ふみたおされる オソレ が ある ので、 ワタクシ の うけとった キンガク は、 ジカ に くらべる と よほど すくない もの でした。 ジハク する と、 ワタクシ の ザイサン は ジブン が フトコロ に して イエ を でた ジャッカン の コウサイ と、 アト から この ユウジン に おくって もらった カネ だけ なの です。 オヤ の イサン と して は もとより ヒジョウ に へって いた に ソウイ ありません。 しかも ワタクシ が セッキョクテキ に へらした の で ない から、 なお ココロモチ が わるかった の です。 けれども ガクセイ と して セイカツ する には それ で ジュウブン イジョウ でした。 ジツ を いう と ワタクシ は それ から でる リシ の ハンブン も つかえません でした。 この ヨユウ ある ワタクシ の ガクセイ セイカツ が ワタクシ を おもい も よらない キョウグウ に おとしいれた の です。

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 カネ に フジユウ の ない ワタクシ は、 そうぞうしい ゲシュク を でて、 あたらしく イッコ を かまえて みよう か と いう キ に なった の です。 しかし それ には ショタイ ドウグ を かう メンドウ も あります し、 セワ を して くれる バアサン の ヒツヨウ も おこります し、 その バアサン が また ショウジキ で なければ こまる し、 ウチ を ルス に して も だいじょうぶ な モノ で なければ シンパイ だし、 と いった わけ で、 ちょくらちょいと ジッコウ する こと は おぼつかなく みえた の です。 ある ヒ ワタクシ は まあ ウチ だけ でも さがして みよう か と いう ソゾロゴコロ から、 サンポ-がてら に ホンゴウダイ を ニシ へ おりて コイシカワ の サカ を マッスグ に デンズウイン の ほう へ あがりました。 デンシャ の ツウロ に なって から、 あそこいら の ヨウス が まるで ちがって しまいました が、 その コロ は ヒダリテ が ホウヘイ コウショウ の ドベイ で、 ミギ は ハラ とも オカ とも つかない クウチ に クサ が イチメン に はえて いた もの です。 ワタクシ は その クサ の ナカ に たって、 なにごころなく ムコウ の ガケ を ながめました。 イマ でも わるい ケシキ では ありません が、 その コロ は また ずっと あの ニシガワ の オモムキ が ちがって いました。 みわたす かぎり ミドリ が イチメン に ふかく しげって いる だけ でも、 シンケイ が やすまります。 ワタクシ は ふと ここいら に テキトウ な ウチ は ない だろう か と おもいました。 それで すぐ クサハラ を よこぎって、 ほそい トオリ を キタ の ほう へ すすんで ゆきました。 いまだに いい マチ に なりきれない で、 がたぴし して いる あの ヘン の イエナミ は、 その ジブン の こと です から ずいぶん きたならしい もの でした。 ワタクシ は ロジ を ぬけたり、 ヨコチョウ を まがったり、 ぐるぐる あるきまわりました。 シマイ に ダガシヤ の カミサン に、 ここいら に こぢんまり した カシヤ は ない か と たずねて みました。 カミサン は 「そう です ね」 と いって、 しばらく クビ を かしげて いました が、 「カシヤ は ちょいと……」 と まったく おもいあたらない ふう でした。 ワタクシ は ノゾミ の ない もの と あきらめて かえりかけました。 すると カミサン が また、 「シロウト ゲシュク じゃ いけません か」 と きく の です。 ワタクシ は ちょっと キ が かわりました。 しずか な シロウトヤ に ヒトリ で ゲシュク して いる の は、 かえって ウチ を もつ メンドウ が なくって ケッコウ だろう と かんがえだした の です。 それから その ダガシヤ の ミセ に コシ を かけて、 カミサン に くわしい こと を おしえて もらいました。
 それ は ある グンジン の カゾク、 と いう より も むしろ イゾク、 の すんで いる イエ でした。 シュジン は なんでも ニッシン センソウ の とき か ナニ か に しんだ の だ と カミサン が いいました。 1 ネン ばかり マエ まで は、 イチガヤ の シカン ガッコウ の ソバ とか に すんで いた の だ が、 ウマヤ など が あって、 ヤシキ が ひろすぎる ので、 そこ を うりはらって、 ここ へ ひっこして きた けれども、 ブニン で さむしくって こまる から ソウトウ の ヒト が あったら セワ を して くれ と たのまれて いた の だ そう です。 ワタクシ は カミサン から、 その イエ には ビボウジン と ヒトリムスメ と ゲジョ より ホカ に いない の だ と いう こと を たしかめました。 ワタクシ は カンセイ で しごく よかろう と ココロ の ウチ に おもいました。 けれども そんな カゾク の ウチ に、 ワタクシ の よう な モノ が、 とつぜん いった ところ で、 スジョウ の しれない ショセイ さん と いう メイショウ の モト に、 すぐ キョゼツ され は しまい か と いう ケネン も ありました。 ワタクシ は よそう か とも かんがえました。 しかし ワタクシ は ショセイ と して そんな に みぐるしい ナリ は して いません でした。 それから ダイガク の セイボウ を かぶって いました。 アナタ は わらう でしょう、 ダイガク の セイボウ が どうした ん だ と いって。 けれども その コロ の ダイガクセイ は イマ と ちがって、 だいぶ セケン に シンヨウ の あった もの です。 ワタクシ は その バアイ この シカク な ボウシ に イッシュ の ジシン を みいだした くらい です。 そうして ダガシヤ の カミサン に おそわった とおり、 ショウカイ も なにも なし に その グンジン の イゾク の ウチ を たずねました。
 ワタクシ は ビボウジン に あって ライイ を つげました。 ビボウジン は ワタクシ の ミモト やら ガッコウ やら センモン やら に ついて いろいろ シツモン しました。 そうして これ なら だいじょうぶ だ と いう ところ を どこ か に にぎった の でしょう、 いつでも ひっこして きて さしつかえない と いう アイサツ を ソクザ に あたえて くれました。 ビボウジン は ただしい ヒト でした、 また はっきり した ヒト でした。 ワタクシ は グンジン の サイクン と いう もの は ミンナ こんな もの か と おもって カンプク しました。 カンプク も した が、 おどろき も しました。 この キショウ で どこ が さむしい の だろう と うたがい も しました。

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 ワタクシ は さっそく その イエ へ ひきうつりました。 ワタクシ は サイショ きた とき に ビボウジン と ハナシ を した ザシキ を かりた の です。 そこ は ウチジュウ で いちばん いい ヘヤ でした。 ホンゴウ ヘン に コウトウ ゲシュク と いった フウ の イエ が ぽつぽつ たてられた ジブン の こと です から、 ワタクシ は ショセイ と して センリョウ しうる もっとも いい マ の ヨウス を こころえて いました。 ワタクシ の あたらしく シュジン と なった ヘヤ は、 それら より も ずっと リッパ でした。 うつった トウザ は、 ガクセイ と して の ワタクシ には すぎる くらい に おもわれた の です。
 ヘヤ の ヒロサ は 8 ジョウ でした。 トコ の ヨコ に チガイダナ が あって、 エン と ハンタイ の ガワ には 1 ケン の オシイレ が ついて いました。 マド は ヒトツ も なかった の です が、 そのかわり ミナミムキ の エン に あかるい ヒ が よく さしました。
 ワタクシ は うつった ヒ に、 その ヘヤ の トコ に いけられた ハナ と、 その ヨコ に たてかけられた コト を みました。 どっち も ワタクシ の キ に いりません でした。 ワタクシ は シ や ショ や センチャ を たしなむ チチ の ソバ で そだった ので、 からめいた シュミ を コドモ の うち から もって いました。 その ため でも ありましょう か、 こういう なまめかしい ソウショク を いつのまにか ケイベツ する クセ が ついて いた の です。
 ワタクシ の チチ が ゾンショウチュウ に あつめた ドウグルイ は、 レイ の オジ の ため に めちゃめちゃ に されて しまった の です が、 それでも タショウ は のこって いました。 ワタクシ は クニ を たつ とき それ を チュウガク の キュウユウ に あずかって もらいました。 それから その ウチ で おもしろそう な もの を 4~5 フク ハダカ に して コウリ の ソコ へ いれて きました。 ワタクシ は うつる や いなや、 それ を とりだして トコ へ かけて たのしむ つもり で いた の です。 ところが イマ いった コト と イケバナ を みた ので、 キュウ に ユウキ が なくなって しまいました。 アト から きいて はじめて この ハナ が ワタクシ に たいする ゴチソウ に いけられた の だ と いう こと を しった とき、 ワタクシ は ココロ の ウチ で クショウ しました。 もっとも コト は マエ から そこ に あった の です から、 これ は オキドコロ が ない ため、 やむ を えず ソノママ に たてかけて あった の でしょう。
 こんな ハナシ を する と、 しぜん その ウラ に わかい オンナ の カゲ が アナタ の アタマ を かすめて とおる でしょう。 うつった ワタクシ にも、 うつらない ハジメ から そういう コウキシン が すでに うごいて いた の です。 こうした ジャキ が ヨビテキ に ワタクシ の シゼン を そこなった ため か、 または ワタクシ が まだ ひとなれなかった ため か、 ワタクシ は はじめて そこ の オジョウサン に あった とき、 へどもど した アイサツ を しました。 そのかわり オジョウサン の ほう でも あかい カオ を しました。
 ワタクシ は それまで ビボウジン の フウサイ や タイド から おして、 この オジョウサン の スベテ を ソウゾウ して いた の です。 しかし その ソウゾウ は オジョウサン に とって あまり ユウリ な もの では ありません でした。 グンジン の サイクン だ から ああ なの だろう、 その サイクン の ムスメ だ から こう だろう と いった ジュンジョ で、 ワタクシ の スイソク は だんだん のびて ゆきました。 ところが その スイソク が、 オジョウサン の カオ を みた シュンカン に、 ことごとく うちけされました。 そうして ワタクシ の アタマ の ナカ へ イマ まで ソウゾウ も およばなかった イセイ の ニオイ が あたらしく はいって きました。 ワタクシ は それから トコ の ショウメン に いけて ある ハナ が いや で なくなりました。 おなじ トコ に たてかけて ある コト も ジャマ に ならなく なりました。
 その ハナ は また キソク ただしく しおれる コロ に なる と いけかえられる の です。 コト も たびたび カギノテ に おれまがった スジカイ の ヘヤ に はこびさられる の です。 ワタクシ は ジブン の イマ で ツクエ の ウエ に ホオヅエ を つきながら、 その コト の ネ を きいて いました。 ワタクシ には その コト が ジョウズ なの か ヘタ なの か よく わからない の です。 けれども あまり こみいった テ を ひかない ところ を みる と、 ジョウズ なの じゃ なかろう と かんがえました。 まあ イケバナ の テイド ぐらい な もの だろう と おもいました。 ハナ なら ワタクシ にも よく わかる の です が、 オジョウサン は けっして うまい ほう では なかった の です。
 それでも オクメン なく イロイロ の ハナ が ワタクシ の トコ を かざって くれました。 もっとも イケカタ は いつ みて も おなじ こと でした。 それから カヘイ も ついぞ かわった ためし が ありません でした。 しかし カタホウ の オンガク に なる と ハナ より も もっと ヘン でした。 ぽつん ぽつん イト を ならす だけ で、 いっこう ニクセイ を きかせない の です。 うたわない の では ありません が、 まるで ナイショバナシ でも する よう に ちいさな コエ しか ださない の です。 しかも しかられる と まったく でなく なる の です。
 ワタクシ は よろこんで この ヘタ な イケバナ を ながめて は、 まずそう な コト の ネ に ミミ を かたむけました。

 12

 ワタクシ の キブン は クニ を たつ とき すでに エンセイテキ に なって いました。 ヒト は タヨリ に ならない もの だ と いう カンネン が、 その とき ホネ の ナカ まで しみこんで しまった よう に おもわれた の です。 ワタクシ は ワタクシ の テキシ する オジ だの オバ だの、 ソノタ の シンセキ だの を、 あたかも ジンルイ の ダイヒョウシャ の ごとく かんがえだしました。 キシャ へ のって さえ トナリ の モノ の ヨウス を、 それとなく チュウイ しはじめました。 たまに ムコウ から はなしかけられ でも する と、 なお の こと ケイカイ を くわえたく なりました。 ワタクシ の ココロ は チンウツ でした。 ナマリ を のんだ よう に おもくるしく なる こと が ときどき ありました。 それでいて ワタクシ の シンケイ は、 イマ いった ごとく に するどく とがって しまった の です。
 ワタクシ が トウキョウ へ きて ゲシュク を でよう と した の も、 これ が おおきな ゲンイン に なって いる よう に おもわれます。 カネ に フジユウ が なければ こそ、 イッコ を かまえて みる キ にも なった の だ と いえば それまで です が、 モト の とおり の ワタクシ ならば、 たとい フトコロ に ヨユウ が できて も、 このんで そんな メンドウ な マネ は しなかった でしょう。
 ワタクシ は コイシカワ へ ひきうつって から も、 とうぶん この キンチョウ した キブン に クツロギ を あたえる こと が できません でした。 ワタクシ は ジブン で ジブン が はずかしい ほど、 きょときょと シュウイ を みまわして いました。 フシギ にも よく はたらく の は アタマ と メ だけ で、 クチ の ほう は それ と ハンタイ に、 だんだん うごかなく なって きました。 ワタクシ は ウチ の モノ の ヨウス を ネコ の よう に よく カンサツ しながら、 だまって ツクエ の マエ に すわって いました。 ときどき は カレラ に たいして キノドク だ と おもう ほど、 ワタクシ は ユダン の ない チュウイ を カレラ の ウエ に そそいで いた の です。 オレ は モノ を ぬすまない キンチャクキリ みた よう な もの だ、 ワタクシ は こう かんがえて、 ジブン が いや に なる こと さえ あった の です。
 アナタ は さだめて ヘン に おもう でしょう。 その ワタクシ が そこ の オジョウサン を どうして すく ヨユウ を もって いる か。 その オジョウサン の ヘタ な イケバナ を、 どうして うれしがって ながめる ヨユウ が ある か。 おなじく ヘタ な その ヒト の コト を どうして よろこんで きく ヨユウ が ある か。 そう シツモン された とき、 ワタクシ は ただ リョウホウ とも ジジツ で あった の だ から、 ジジツ と して アナタ に おしえて あげる と いう より ホカ に シカタ が ない の です。 カイシャク は アタマ の ある アナタ に まかせる と して、 ワタクシ は ただ イチゴン つけたして おきましょう。 ワタクシ は カネ に たいして ジンルイ を うたぐった けれども、 アイ に たいして は、 まだ ジンルイ を うたがわなかった の です。 だから ヒト から みる と ヘン な もの でも、 また ジブン で かんがえて みて、 ムジュン した もの でも、 ワタクシ の ムネ の ナカ では ヘイキ で リョウリツ して いた の です。
 ワタクシ は ビボウジン の こと を つねに オクサン と いって いました から、 これから ビボウジン と よばず に オクサン と いいます。 オクサン は ワタクシ を しずか な ヒト、 おとなしい オトコ と ひょうしました。 それから ベンキョウカ だ とも ほめて くれました。 けれども ワタクシ の フアン な メツキ や、 きょときょと した ヨウス に ついて は、 ナニゴト も クチ へ だしません でした。 キ が つかなかった の か、 エンリョ して いた の か、 どっち だ か よく わかりません が、 なにしろ そこ には まるで チュウイ を はらって いない らしく みえました。 それ のみ ならず、 ある バアイ に ワタクシ を オウヨウ な カタ だ と いって、 さも ソンケイ した らしい クチ の キキカタ を した こと が あります。 その とき ショウジキ な ワタクシ は すこし カオ を あからめて、 ムコウ の コトバ を ヒテイ しました。 すると オクサン は 「アナタ は ジブン で キ が つかない から、 そう おっしゃる ん です」 と マジメ に セツメイ して くれました。 オクサン は はじめ ワタクシ の よう な ショセイ を ウチ へ おく つもり では なかった らしい の です。 どこ か の ヤクショ へ つとめる ヒト か ナニ か に ザシキ を かす リョウケン で、 キンジョ の モノ に シュウセン を たのんで いた らしい の です。 ホウキュウ が ゆたか で なくって、 やむ を えず シロウトヤ に ゲシュク する くらい の ヒト だ から と いう カンガエ が、 それで マエカタ から オクサン の アタマ の どこ か に はいって いた の でしょう。 オクサン は ジブン の ムネ に えがいた その ソウゾウ の オキャク と ワタクシ と を ヒカク して、 こっち の ほう を オウヨウ だ と いって ほめる の です。 なるほど そんな きりつめた セイカツ を する ヒト に くらべたら、 ワタクシ は キンセン に かけて、 オウヨウ だった かも しれません。 しかし それ は キショウ の モンダイ では ありません から、 ワタクシ の ナイセイカツ に とって ほとんど カンケイ の ない の と イッパン でした。 オクサン は また オンナ だけ に それ を ワタクシ の ゼンタイ に おしひろげて、 おなじ コトバ を オウヨウ しよう と つとめる の です。

 13

 オクサン の この タイド が しぜん ワタクシ の キブン に エイキョウ して きました。 しばらく する うち に、 ワタクシ の メ は モト ほど きょろつかなく なりました。 ジブン の ココロ が ジブン の すわって いる ところ に、 ちゃんと おちついて いる よう な キ にも なれました。 ようするに オクサン ハジメ ウチ の モノ が、 ひがんだ ワタクシ の メ や うたがいぶかい ワタクシ の ヨウス に、 てんから とりあわなかった の が、 ワタクシ に おおきな コウフク を あたえた の でしょう。 ワタクシ の シンケイ は アイテ から てりかえして くる ハンシャ の ない ため に だんだん しずまりました。
 オクサン は ココロエ の ある ヒト でした から、 わざと ワタクシ を そんな ふう に とりあつかって くれた もの とも おもわれます し、 また ジブン で コウゲン する ごとく、 じっさい ワタクシ を オウヨウ だ と カンサツ して いた の かも しれません。 ワタクシ の コセツキカタ は アタマ の ナカ の ゲンショウ で、 それほど ソト へ でなかった よう にも かんがえられます から、 あるいは オクサン の ほう で ごまかされて いた の かも わかりません。
 ワタクシ の ココロ が しずまる と ともに、 ワタクシ は だんだん カゾク の モノ と セッキン して きました。 オクサン とも オジョウサン とも ジョウダン を いう よう に なりました。 チャ を いれた から と いって ムコウ の ヘヤ へ よばれる ヒ も ありました。 また ワタクシ の ほう で カシ を かって きて、 フタリ を こっち へ まねいたり する バン も ありました。 ワタクシ は キュウ に コウサイ の クイキ が ふえた よう に かんじました。 それ が ため に タイセツ な ベンキョウ の ジカン を つぶされる こと も ナンド と なく ありました。 フシギ にも、 その ボウガイ が ワタクシ には いっこう ジャマ に ならなかった の です。 オクサン は もとより ヒマジン でした。 オジョウサン は ガッコウ へ ゆく うえ に、 ハナ だの コト だの を ならって いる ん だ から、 さだめて いそがしかろう と おもう と、 それ が また アンガイ な もの で、 いくらでも ジカン に ヨユウ を もって いる よう に みえました。 それで 3 ニン は カオ さえ みる と イッショ に あつまって、 セケンバナシ を しながら あそんだ の です。
 ワタクシ を よび に くる の は、 たいてい オジョウサン でした。 オジョウサン は エンガワ を チョッカク に まがって、 ワタクシ の ヘヤ の マエ に たつ こと も あります し、 チャノマ を ぬけて、 ツギ の ヘヤ の フスマ の カゲ から スガタ を みせる こと も ありました。 オジョウサン は、 そこ へ きて ちょっと とまります。 それから きっと ワタクシ の ナ を よんで、 「ゴベンキョウ?」 と ききます。 ワタクシ は たいてい むずかしい ショモツ を ツクエ の マエ に あけて、 それ を みつめて いました から、 ハタ で みたら さぞ ベンキョウカ の よう に みえた の でしょう。 しかし ジッサイ を いう と、 それほど ネッシン に ショモツ を ケンキュウ して は いなかった の です。 ページ の ウエ に メ は つけて いながら、 オジョウサン の よび に くる の を まって いる くらい な もの でした。 まって いて こない と、 シカタ が ない から ワタクシ の ほう で たちあがる の です。 そうして ムコウ の ヘヤ の マエ へ いって、 こっち から 「ゴベンキョウ です か」 と きく の です。
 オジョウサン の ヘヤ は チャノマ と つづいた 6 ジョウ でした。 オクサン は その チャノマ に いる こと も ある し、 また オジョウサン の ヘヤ に いる こと も ありました。 つまり この フタツ の ヘヤ は シキリ が あって も、 ない と おなじ こと で、 オヤコ フタリ が いったり きたり して、 ドッチツカズ に センリョウ して いた の です。 ワタクシ が ソト から コエ を かける と、 「おはいんなさい」 と こたえる の は きっと オクサン でした。 オジョウサン は そこ に いて も めった に ヘンジ を した こと が ありません でした。
 ときたま オジョウサン ヒトリ で、 ヨウ が あって ワタクシ の ヘヤ へ はいった ツイデ に、 そこ に すわって はなしこむ よう な バアイ も その うち に でて きました。 そういう とき には、 ワタクシ の ココロ が ミョウ に フアン に おかされて くる の です。 そうして わかい オンナ と ただ サシムカイ で すわって いる の が フアン なの だ と ばかり は おもえません でした。 ワタクシ は なんだか そわそわ しだす の です。 ジブン で ジブン を うらぎる よう な フシゼン な タイド が ワタクシ を くるしめる の です。 しかし アイテ の ほう は かえって ヘイキ でした。 これ が コト を さらう の に コエ さえ ろくに だせなかった あの オンナ かしら と うたがわれる くらい、 はずかしがらない の です。 あまり ながく なる ので、 チャノマ から ハハ に よばれて も、 「はい」 と ヘンジ を する だけ で、 ヨウイ に コシ を あげない こと さえ ありました。 それでいて オジョウサン は けっして コドモ では なかった の です。 ワタクシ の メ には よく それ が わかって いました。 よく わかる よう に ふるまって みせる コンセキ さえ あきらか でした。

 14

 ワタクシ は オジョウサン の たった アト で、 ほっと ヒトイキ する の です。 それ と ドウジ に、 ものたりない よう な また すまない よう な キモチ に なる の です。 ワタクシ は おんならしかった の かも しれません。 イマ の セイネン の アナタガタ から みたら なお そう みえる でしょう。 しかし その コロ の ワタクシタチ は たいてい そんな もの だった の です。
 オクサン は めった に ガイシュツ した こと が ありません でした。 たまに ウチ を ルス に する とき でも、 オジョウサン と ワタクシ を フタリ ぎり のこして ゆく よう な こと は なかった の です。 それ が また グウゼン なの か、 コイ なの か、 ワタクシ には わからない の です。 ワタクシ の クチ から いう の は ヘン です が、 オクサン の ヨウス を よく カンサツ して いる と、 なんだか ジブン の ムスメ と ワタクシ と を セッキン させたがって いる らしく も みえる の です。 それでいて、 ある バアイ には、 ワタクシ に たいして あんに ケイカイ する ところ も ある よう なの です から、 はじめて こんな バアイ に であった ワタクシ は、 ときどき ココロモチ を わるく しました。
 ワタクシ は オクサン の タイド を どっち か に かたづけて もらいたかった の です。 アタマ の ハタラキ から いえば、 それ が あきらか な ムジュン に ちがいなかった から です。 しかし オジ に あざむかれた キオク の まだ あたらしい ワタクシ は、 もう イッポ ふみこんだ ウタガイ を さしはさまず には いられません でした。 ワタクシ は オクサン の この タイド の どっち か が ホントウ で、 どっち か が イツワリ だろう と スイテイ しました。 そうして ハンダン に まよいました。 ただ ハンダン に まよう ばかり で なく、 なんで そんな ミョウ な こと を する か その イミ が ワタクシ には のみこめなかった の です。 ワケ を かんがえだそう と して も、 かんがえだせない ワタクシ は、 ツミ を オンナ と いう イチジ に なすりつけて ガマン した こと も ありました。 ひっきょう オンナ だ から ああ なの だ、 オンナ と いう もの は どうせ グ な もの だ。 ワタクシ の カンガエ は ゆきつまれば いつでも ここ へ おちて きました。
 それほど オンナ を みくびって いた ワタクシ が、 また どうしても オジョウサン を みくびる こと が できなかった の です。 ワタクシ の リクツ は その ヒト の マエ に まったく ヨウ を なさない ほど うごきません でした。 ワタクシ は その ヒト に たいして、 ほとんど シンコウ に ちかい アイ を もって いた の です。 ワタクシ が シュウキョウ だけ に もちいる この コトバ を、 わかい オンナ に オウヨウ する の を みて、 アナタ は ヘン に おもう かも しれません が、 ワタクシ は イマ でも かたく しんじて いる の です。 ホントウ の アイ は シュウキョウシン と そう ちがった もの で ない と いう こと を かたく しんじて いる の です。 ワタクシ は オジョウサン の カオ を みる たび に、 ジブン が うつくしく なる よう な ココロモチ が しました。 オジョウサン の こと を かんがえる と、 けだかい キブン が すぐ ジブン に のりうつって くる よう に おもいました。 もし アイ と いう フカシギ な もの に リョウハジ が あって、 その たかい ハジ には シンセイ な カンジ が はたらいて、 ひくい ハジ には セイヨク が うごいて いる と すれば、 ワタクシ の アイ は たしか に その たかい キョクテン を つらまえた もの です。 ワタクシ は もとより ニンゲン と して ニク を はなれる こと の できない カラダ でした。 けれども オジョウサン を みる ワタクシ の メ や、 オジョウサン を かんがえる ワタクシ の ココロ は、 まったく ニク の ニオイ を おびて いません でした。
 ワタクシ は ハハ に たいして ハンカン を いだく と ともに、 コ に たいして レンアイ の ド を まして いった の です から、 3 ニン の カンケイ は、 ゲシュク した ハジメ より は だんだん フクザツ に なって きました。 もっとも その ヘンカ は ほとんど ナイメンテキ で ソト へは あらわれて こなかった の です。 そのうち ワタクシ は ある ひょっと した キカイ から、 イマ まで オクサン を ゴカイ して いた の では なかろう か と いう キ に なりました。 オクサン の ワタクシ に たいする ムジュン した タイド が、 どっち も イツワリ では ない の だろう と かんがえなおして きた の です。 そのうえ、 それ が タガイチガイ に オクサン の ココロ を シハイ する の で なくって、 いつでも リョウホウ が ドウジ に オクサン の ムネ に ソンザイ して いる の だ と おもう よう に なった の です。 つまり オクサン が できる だけ オジョウサン を ワタクシ に セッキン させよう と して いながら、 ドウジ に ワタクシ に ケイカイ を くわえて いる の は ムジュン の よう だ けれども、 その ケイカイ を くわえる とき に、 カタホウ の タイド を わすれる の でも ひるがえす の でも なんでも なく、 やはり いぜん と して フタリ を セッキン させたがって いた の だ と カンサツ した の です。 ただ ジブン が セイトウ と みとめる テイド イジョウ に、 フタリ が ミッチャク する の を いむ の だ と カイシャク した の です。 オジョウサン に たいして、 ニク の ホウメン から ちかづく ネン の きざさなかった ワタクシ は、 その とき いらぬ シンパイ だ と おもいました。 しかし オクサン を わるく おもう キ は それから なくなりました。

 15

 ワタクシ は オクサン の タイド を いろいろ ソウゴウ して みて、 ワタクシ が ここ の ウチ で じゅうぶん シンヨウ されて いる こと を たしかめました。 しかも その シンヨウ は ショタイメン の とき から あった の だ と いう ショウコ さえ ハッケン しました。 ヒト を うたぐりはじめた ワタクシ の ムネ には、 この ハッケン が すこし キイ な くらい に ひびいた の です。 ワタクシ は オトコ に くらべる と オンナ の ほう が それだけ チョッカク に とんで いる の だろう と おもいました。 ドウジ に、 オンナ が オトコ の ため に、 だまされる の も ここ に ある の では なかろう か と おもいました。 オクサン を そう カンサツ する ワタクシ が、 オジョウサン に たいして おなじ よう な チョッカク を つよく はたらかせて いた の だ から、 イマ かんがえる と おかしい の です。 ワタクシ は ヒト を しんじない と ココロ に ちかいながら、 ゼッタイ に オジョウサン を しんじて いた の です から。 それでいて、 ワタクシ を しんじて いる オクサン を キイ に おもった の です から。
 ワタクシ は キョウリ の こと に ついて あまり オオク を かたらなかった の です。 ことに コンド の ジケン に ついて は なんにも いわなかった の です。 ワタクシ は それ を ネントウ に うかべて さえ すでに イッシュ の フユカイ を かんじました。 ワタクシ は なるべく オクサン の ほう の ハナシ だけ を きこう と つとめました。 ところが それ では ムコウ が ショウチ しません。 ナニカ に つけて、 ワタクシ の クニモト の ジジョウ を しりたがる の です。 ワタクシ は とうとう なにもかも はなして しまいました。 ワタクシ は ニド と クニ へは かえらない。 かえって も なんにも ない、 ある の は ただ チチ と ハハ の ハカ ばかり だ と つげた とき、 オクサン は たいへん カンドウ した らしい ヨウス を みせました。 オジョウサン は なきました。 ワタクシ は はなして いい こと を した と おもいました。 ワタクシ は うれしかった の です。
 ワタクシ の スベテ を きいた オクサン は、 はたして ジブン の チョッカク が テキチュウ した と いわない ばかり の カオ を しだしました。 それから は ワタクシ を ジブン の ミヨリ に あたる わかい モノ か ナニ か を とりあつかう よう に タイグウ する の です。 ワタクシ は ハラ も たちません でした。 むしろ ユカイ に かんじた くらい です。 ところが その うち に ワタクシ の サイギシン が また おこって きました。
 ワタクシ が オクサン を うたぐりはじめた の は、 ごく ササイ な こと から でした。 しかし その ササイ な こと を かさねて ゆく うち に、 ギワク は だんだん と ネ を はって きます。 ワタクシ は どういう ヒョウシ か ふと オクサン が、 オジ と おなじ よう な イミ で、 オジョウサン を ワタクシ に セッキン させよう と つとめる の では ない か と かんがえだした の です。 すると イマ まで シンセツ に みえた ヒト が、 キュウ に コウカツ な サクリャクカ と して ワタクシ の メ に えいじて きた の です。 ワタクシ は にがにがしい クチビル を かみました。
 オクサン は サイショ から、 ブニン で さむしい から、 キャク を おいて セワ を する の だ と コウゲン して いました。 ワタクシ も それ を ウソ とは おもいません でした。 コンイ に なって いろいろ ウチアケバナシ を きいた アト でも、 そこ に マチガイ は なかった よう に おもわれます。 しかし イッパン の ケイザイ ジョウタイ は たいして ゆたか だ と いう ほど では ありません でした。 リガイ モンダイ から かんがえて みて、 ワタクシ と トクシュ の カンケイ を つける の は、 センポウ に とって けっして ソン では なかった の です。
 ワタクシ は また ケイカイ を くわえました。 けれども ムスメ に たいして マエ いった くらい の つよい アイ を もって いる ワタクシ が、 その ハハ に たいして いくら ケイカイ を くわえたって ナン に なる でしょう。 ワタクシ は ヒトリ で ジブン を チョウショウ しました。 バカ だな と いって、 ジブン を ののしった こと も あります。 しかし それ だけ の ムジュン なら いくら バカ でも ワタクシ は たいした クツウ も かんぜず に すんだ の です。 ワタクシ の ハンモン は、 オクサン と おなじ よう に オジョウサン も サクリャクカ では なかろう か と いう ギモン に あって はじめて おこる の です。 フタリ が ワタクシ の ハイゴ で ウチアワセ を した うえ、 バンジ を やって いる の だろう と おもう と、 ワタクシ は キュウ に くるしくって たまらなく なる の です。 フユカイ なの では ありません、 ゼッタイ ゼツメイ の よう な ゆきつまった ココロモチ に なる の です。 それでいて ワタクシ は、 イッポウ に オジョウサン を かたく しんじて うたがわなかった の です。 だから ワタクシ は シンネン と マヨイ の トチュウ に たって、 すこしも うごく こと が できなく なって しまいました。 ワタクシ には どっち も ソウゾウ で あり、 また どっち も シンジツ で あった の です。

 16

 ワタクシ は あいかわらず ガッコウ へ シュッセキ して いました。 しかし キョウダン に たつ ヒト の コウギ が、 トオク の ほう で きこえる よう な ココロモチ が しました。 ベンキョウ も その とおり でした。 メ の ナカ へ はいる カツジ は ココロ の ソコ まで しみわたらない うち に ケム の ごとく きえて ゆく の です。 ワタクシ は そのうえ ムクチ に なりました。 それ を 2~3 の トモダチ が ゴカイ して、 メイソウ に ふけって でも いる か の よう に、 タ の トモダチ に つたえました。 ワタクシ は この ゴカイ を とこう とは しません でした。 ツゴウ の いい カメン を ヒト が かして くれた の を、 かえって シアワセ と して よろこびました。 それでも ときどき は キ が すまなかった の でしょう、 ホッサテキ に はしゃぎまわって カレラ を おどろかした こと も あります。
 ワタクシ の ヤド は ヒトデイリ の すくない ウチ でした。 シンルイ も おおく は ない よう でした。 オジョウサン の ガッコウ トモダチ が ときたま あそび に くる こと は ありました が、 きわめて ちいさな コエ で、 いる の だ か いない の だ か わからない よう な ハナシ を して かえって しまう の が ツネ でした。 それ が ワタクシ に たいする エンリョ から だ とは、 いかな ワタクシ にも キ が つきません でした。 ワタクシ の ところ へ たずねて くる モノ は、 たいした ランボウモノ でも ありません でした けれども、 ウチ の ヒト に キガネ を する ほど な オトコ は ヒトリ も なかった の です から。 そんな ところ に なる と、 ゲシュクニン の ワタクシ は アルジ の よう な もの で、 カンジン の オジョウサン が かえって イソウロウ の イチ に いた と おなじ こと です。
 しかし これ は ただ おもいだした ツイデ に かいた だけ で、 じつは どうでも かまわない テン です。 ただ そこ に どうでも よく ない こと が ヒトツ あった の です。 チャノマ か、 さも なければ オジョウサン の ヘヤ で、 とつぜん オトコ の コエ が きこえる の です。 その コエ が また ワタクシ の キャク と ちがって、 すこぶる ひくい の です。 だから ナニ を はなして いる の か まるで わからない の です。 そうして わからなければ わからない ほど、 ワタクシ の シンケイ に イッシュ の コウフン を あたえる の です。 ワタクシ は すわって いて へんに いらいら しだします。 ワタクシ は あれ は シンルイ なの だろう か、 それとも タダ の シリアイ なの だろう か と まず かんがえて みる の です。 それから わかい オトコ だろう か ネンパイ の ヒト だろう か と シアン して みる の です。 すわって いて そんな こと の しれよう はず が ありません。 そう か と いって、 たって いって ショウジ を あけて みる わけ には なお いきません。 ワタクシ の シンケイ は ふるえる と いう より も、 おおきな ハドウ を うって ワタクシ を くるしめます。 ワタクシ は キャク の かえった アト で、 きっと わすれず に その ヒト の ナ を ききました。 オジョウサン や オクサン の ヘンジ は、 また きわめて カンタン でした。 ワタクシ は ものたりない カオ を フタリ に みせながら、 ものたりる まで ツイキュウ する ユウキ を もって いなかった の です。 ケンリ は むろん もって いなかった の でしょう。 ワタクシ は ジブン の ヒンカク を おもんじなければ ならない と いう キョウイク から きた ジソンシン と、 げんに その ジソンシン を ウラギリ して いる ものほしそう な カオツキ と を ドウジ に カレラ の マエ に しめす の です。 カレラ は わらいました。 それ が チョウショウ の イミ で なくって、 コウイ から きた もの か、 また コウイ-らしく みせる つもり なの か、 ワタクシ は ソクザ に カイシャク の ヨチ を みいだしえない ほど オチツキ を うしなって しまう の です。 そうして コト が すんだ アト で、 いつまでも、 バカ に された の だ、 バカ に された ん じゃ なかろう か と、 ナンベン も ココロ の ウチ で くりかえす の です。
 ワタクシ は ジユウ な カラダ でした。 たとい ガッコウ を チュウト で やめよう が、 また どこ へ いって どう くらそう が、 あるいは どこ の ナニモノ と ケッコン しよう が、 ダレ とも ソウダン する ヒツヨウ の ない イチ に たって いました。 ワタクシ は おもいきって オクサン に オジョウサン を もらいうける ハナシ を して みよう か と いう ケッシン を した こと が それまで に ナンド と なく ありました。 けれども その たび ごと に ワタクシ は チュウチョ して、 クチ へは とうとう ださず に しまった の です。 ことわられる の が おそろしい から では ありません。 もし ことわられたら、 ワタクシ の ウンメイ が どう ヘンカ する か わかりません けれども、 そのかわり イマ まで とは ホウガク の ちがった バショ に たって、 あたらしい ヨノナカ を みわたす ベンギ も しょうじて くる の です から、 その くらい の ユウキ は だせば だせた の です。 しかし ワタクシ は おびきよせられる の が いや でした。 ヒト の テ に のる の は ナニ より も ゴウハラ でした。 オジ に だまされた ワタクシ は、 これから サキ どんな こと が あって も、 ヒト には だまされまい と ケッシン した の です。
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