カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

ヒトフサ の ブドウ

2013-07-23 | アリシマ タケオ
 ヒトフサ の ブドウ

 アリシマ タケオ

 ボク は ちいさい とき に エ を かく こと が すき でした。 ボク の かよって いた ガッコウ は ヨコハマ の ヤマノテ と いう ところ に ありました が、 そこいら は セイヨウジン ばかり すんで いる マチ で、 ボク の ガッコウ も キョウシ は セイヨウジン ばかり でした。 そして その ガッコウ の ユキカエリ には、 いつでも ホテル や セイヨウジン の カイシャ など が、 ならんで いる カイガン の トオリ を とおる の でした。 トオリ の ウミゾイ に たって みる と、 マッサオ な ウミ の ウエ に グンカン だの ショウセン だの が いっぱい ならんで いて、 エントツ から ケムリ の でて いる の や、 ホバシラ から ホバシラ へ バンコクキ を かけわたした の や が あって、 メ が いたい よう に きれい でした。 ボク は よく キシ に たって その ケシキ を みわたして、 イエ に かえる と、 おぼえて いる だけ を できる だけ うつくしく エ に かいて みよう と しました。 けれども あの すきとおる よう な ウミ の アイイロ と、 しろい ホマエセン など の ミズギワ チカク に ぬって ある ヨウコウショク とは、 ボク の もって いる エノグ では どうしても うまく だせません でした。 いくら かいて も かいて も ホントウ の ケシキ で みる よう な イロ には かけません でした。
 ふと ボク は ガッコウ の トモダチ の もって いる セイヨウ エノグ を おもいだしました。 その トモダチ は やはり セイヨウジン で、 しかも ボク より フタツ くらい トシ が ウエ でした から、 セイ は みあげる よう に おおきい コ でした。 ジム と いう その コ の もって いる エノグ は ハクライ の ジョウトウ の もの で、 かるい キ の ハコ の ナカ に、 12 シュ の エノグ が、 ちいさな スミ の よう に シカク な カタチ に かためられて、 2 レツ に ならんで いました。 どの イロ も うつくしかった が、 とりわけて アイ と ヨウコウ とは びっくり する ほど うつくしい もの でした。 ジム は ボク より セイ が たかい くせ に、 エ は ずっと ヘタ でした。 それでも その エノグ を ぬる と、 ヘタ な エ さえ なんだか みちがえる よう に うつくしく なる の です。 ボク は いつでも それ を うらやましい と おもって いました。 あんな エノグ さえ あれば、 ボク だって ウミ の ケシキ を、 ホントウ に ウミ に みえる よう に かいて みせる のに なあ と、 ジブン の わるい エノグ を うらみながら かんがえました。 そう したら、 その ヒ から ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なりました。 けれども ボク は なんだか オクビョウ に なって、 パパ にも ママ にも かって ください と ねがう キ に なれない ので、 マイニチ マイニチ その エノグ の こと を ココロ の ナカ で おもいつづける ばかり で イクニチ か ヒ が たちました。
 イマ では いつ の コロ だった か おぼえて は いません が、 アキ だった の でしょう。 ブドウ の ミ が じゅくして いた の です から。 テンキ は フユ が くる マエ の アキ に よく ある よう に、 ソラ の オク の オク まで みすかされそう に はれわたった ヒ でした。 ボクタチ は センセイ と イッショ に ベントウ を たべました が、 その タノシミ な ベントウ の サイチュウ でも、 ボク の ココロ は なんだか おちつかない で、 その ヒ の ソラ とは ウラハラ に くらかった の です。 ボク は ジブン ヒトリ で かんがえこんで いました。 ダレ か が キ が ついて みたら、 カオ も きっと あおかった かも しれません。 ボク は ジム の エノグ が ほしくって ほしくって たまらなく なって しまった の です。 ムネ が いたむ ほど ほしく なって しまった の です。 ジム は ボク の ムネ の ナカ で かんがえて いる こと を しって いる に ちがいない と おもって、 そっと その カオ を みる と、 ジム は なんにも しらない よう に、 おもしろそう に わらったり して、 ワキ に すわって いる セイト と ハナシ を して いる の です。 でも その わらって いる の が ボク の こと を しって いて わらって いる よう にも おもえる し、 ナニ か ハナシ を して いる の が、 「いまに みろ、 あの ニホンジン が ボク の エノグ を とる に ちがいない から」 と いって いる よう にも おもえる の です。 ボク は いや な キモチ に なりました。 けれども、 ジム が ボク を うたがって いる よう に みえれば みえる ほど、 ボク は その エノグ が ほしくて ならなく なる の です。
 ボク は かわいい カオ は して いた かも しれない が、 カラダ も ココロ も よわい コ でした。 そのうえ オクビョウモノ で、 いいたい こと も いわず に すます よう な タチ でした。 だから あんまり ヒト から は、 かわいがられなかった し、 トモダチ も ない ほう でした。 ヒルゴハン が すむ と ホカ の コドモ たち は カッパツ に ウンドウジョウ に でて はしりまわって あそびはじめました が、 ボク だけ は なおさら その ヒ は へんに ココロ が しずんで、 ヒトリ だけ キョウジョウ に はいって いました。 ソト が あかるい だけ に キョウジョウ の ナカ は くらく なって、 ボク の ココロ の ナカ の よう でした。 ジブン の セキ に すわって いながら、 ボク の メ は ときどき ジム の テーブル の ほう に はしりました。 ナイフ で イロイロ な イタズラガキ が ほりつけて あって、 テアカ で マックロ に なって いる あの フタ を あげる と、 その ナカ に ホン や ザッキチョウ や セキバン と イッショ に なって、 アメ の よう な キ の イロ の エノグバコ が ある ん だ。 そして その ハコ の ナカ には ちいさい スミ の よう な カタチ を した アイ や ヨウコウ の エノグ が…… ボク は カオ が あかく なった よう な キ が して、 おもわず ソッポ を むいて しまう の です。 けれども すぐ また ヨコメ で ジム の テーブル の ほう を みない では いられません でした。 ムネ の ところ が どきどき と して くるしい ほど でした。 じっと すわって いながら、 ユメ で オニ に でも おいかけられた とき の よう に キ ばかり せかせか して いました。
 キョウジョウ に はいる カネ が かんかん と なりました。 ボク は おもわず ぎょっと して たちあがりました。 セイト たち が おおきな コエ で わらったり どなったり しながら、 センメンジョ の ほう に テ を あらい に でかけて いく の が マド から みえました。 ボク は キュウ に アタマ の ナカ が コオリ の よう に つめたく なる の を きみわるく おもいながら、 ふらふら と ジム の テーブル の ところ に いって、 ハンブン ユメ の よう に そこ の フタ を あげて みました。 そこ には ボク が かんがえて いた とおり、 ザッキチョウ や エンピツバコ と まじって、 ミオボエ の ある エノグバコ が しまって ありました。 なんの ため だ か しらない が ボク は あっちこち を むやみ に みまわして から、 てばやく その ハコ の フタ を あけて アイ と コウヨウ との 2 ショク を とりあげる が はやい か、 ポッケット の ナカ に おしこみました。 そして いそいで いつも セイレツ して センセイ を まって いる ところ に はしって いきました。
 ボクタチ は わかい オンナ の センセイ に つれられて キョウジョウ に はいり メイメイ の セキ に すわりました。 ボク は ジム が どんな カオ を して いる か みたくって たまらなかった けれども、 どうしても そっち の ほう を ふりむく こと が できません でした。 でも ボク の した こと を ダレ も キ の ついた ヨウス が ない ので、 キミ が わるい よう な アンシン した よう な ココロモチ で いました。 ボク の だいすき な わかい オンナ の センセイ の おっしゃる こと なんか は ミミ に はいり は はいって も、 なんの こと だ か ちっとも わかりません でした。 センセイ も ときどき フシギ そう に ボク の ほう を みて いる よう でした。
 ボク は しかし センセイ の メ を みる の が その ヒ に かぎって なんだか いや でした。 そんな ふう で 1 ジカン が たちました。 なんだか ミンナ ミミコスリ でも して いる よう だ と おもいながら 1 ジカン が たちました。
 キョウジョウ を でる カネ が なった ので ボク は ほっと アンシン して タメイキ を つきました。 けれども センセイ が いって しまう と、 ボク は ボク の キュウ で いちばん おおきな、 そして よく できる セイト に 「ちょっと こっち に おいで」 と ヒジ の ところ を つかまれて いました。 ボク の ムネ は、 シュクダイ を なまけた のに センセイ に ナ を さされた とき の よう に、 おもわず どきん と ふるえはじめました。 けれども ボク は できる だけ しらない フリ を して いなければ ならない と おもって、 わざと ヘイキ な カオ を した つもり で、 しかたなし に ウンドウジョウ の スミ に つれて いかれました。
「キミ は ジム の エノグ を もって いる だろう。 ここ に だしたまえ」
 そう いって その セイト は ボク の マエ に おおきく ひろげた テ を つきだしました。 そう いわれる と ボク は かえって ココロ が おちついて、
「そんな もの、 ボク もって や しない」 と、 つい デタラメ を いって しまいました。 そう する と 3~4 ニン の トモダチ と イッショ に ボク の ソバ に きて いた ジム が、
「ボク は ヒルヤスミ の マエ に ちゃんと エノグバコ を しらべて おいた ん だよ。 ヒトツ も なくなって は いなかった ん だよ。 そして ヒルヤスミ が すんだら フタツ なくなって いた ん だよ。 そして ヤスミ の ジカン に キョウジョウ に いた の は キミ だけ じゃ ない か」 と すこし コトバ を ふるわしながら いいかえしました。
 ボク は もう ダメ だ と おもう と キュウ に アタマ の ナカ に チ が ながれこんで きて カオ が マッカ に なった よう でした。 すると ダレ だった か そこ に たって いた ヒトリ が いきなり ボク の ポッケット に テ を さしこもう と しました。 ボク は イッショウ ケンメイ に そう は させまい と しました けれども、 タゼイ に ブゼイ で とても かないません。 ボク の ポッケット の ナカ から は、 みるみる マーブル-ダマ (イマ の ビーダマ の こと です) や ナマリ の メンコ など と イッショ に、 フタツ の エノグ の カタマリ が つかみだされて しまいました。 「それ みろ」 と いわん ばかり の カオ を して、 コドモ たち は にくらしそう に ボク の カオ を にらみつけました。 ボク の カラダ は ひとりでに ぶるぶる ふるえて、 メノマエ が マックラ に なる よう でした。 いい オテンキ なのに、 ミンナ ヤスミ ジカン を おもしろそう に あそびまわって いる のに、 ボク だけ は ホントウ に ココロ から しおれて しまいました。 あんな こと を なぜ して しまった ん だろう。 トリカエシ の つかない こと に なって しまった。 もう ボク は ダメ だ。 そんな に おもう と ヨワムシ だった ボク は さびしく かなしく なって きて、 しくしく と なきだして しまいました。
「ないて おどかしたって ダメ だよ」 と よく できる おおきな コ が バカ に する よう な、 にくみきった よう な コエ で いって、 うごくまい と する ボク を ミンナ で よって たかって 2 カイ に ひっぱって いこう と しました。 ボク は できる だけ いくまい と した けれども、 とうとう チカラマカセ に ひきずられて、 ハシゴダン を のぼらせられて しまいました。 そこ に ボク の すき な ウケモチ の センセイ の ヘヤ が ある の です。
 やがて その ヘヤ の ト を ジム が ノック しました。 ノック する とは はいって も いい か と ト を たたく こと なの です。 ナカ から は やさしく 「おはいり」 と いう センセイ の コエ が きこえました。 ボク は その ヘヤ に はいる とき ほど いや だ と おもった こと は またと ありません。
 ナニ か カキモノ を して いた センセイ は、 どやどや と はいって きた ボクタチ を みる と、 すこし おどろいた よう でした。 が、 オンナ の くせ に オトコ の よう に クビ の ところ で ぶつり と きった カミノケ を ミギ の テ で なであげながら、 イツモ の とおり の やさしい カオ を こちら に むけて、 ちょっと クビ を かしげた だけ で なんの ゴヨウ と いう フウ を しなさいました。 そう する と よく できる おおきな コ が マエ に でて、 ボク が ジム の エノグ を とった こと を くわしく センセイ に いいつけました。 センセイ は すこし くもった カオツキ を して マジメ に ミンナ の カオ や、 ハンブン なきかかって いる ボク の カオ を みくらべて いなさいました が、 ボク に 「それ は ホントウ です か」 と きかれました。 ホントウ なん だ けれども、 ボク が そんな いや な ヤツ だ と いう こと を、 どうしても ボク の すき な センセイ に しられる の が つらかった の です。 だから ボク は こたえる カワリ に ホントウ に なきだして しまいました。
 センセイ は しばらく ボク を みつめて いました が、 やがて セイト たち に むかって しずか に 「もう いって も よう ございます」 と いって、 ミンナ を かえして しまわれました。 セイト たち は すこし ものたらなそう に どやどや と シタ に おりて いって しまいました。
 センセイ は すこし の アイダ なんとも いわず に、 ボク の ほう も むかず に、 ジブン の テ の ツメ を みつめて いました が、 やがて しずか に たって きて、 ボク の カタ の ところ を だきすくめる よう に して 「エノグ は もう かえしました か」 と ちいさな コエ で おっしゃいました。 ボク は かえした こと を しっかり センセイ に しって もらいたい ので ふかぶか と うなずいて みせました。
「アナタ は ジブン の した こと を いや な こと だった と おもって います か」
 もう イチド そう センセイ が しずか に おっしゃった とき には、 ボク は もう たまりません でした。 ぶるぶる と ふるえて シカタ が ない クチビル を、 かみしめて も かみしめて も ナキゴエ が でて、 メ から は ナミダ が むやみ に ながれて くる の です。 もう センセイ に だかれた まま しんで しまいたい よう な ココロモチ に なって しまいました。
「アナタ は もう なく ん じゃ ない。 よく わかったら それ で いい から なく の を やめましょう、 ね。 ツギ の ジカン には キョウジョウ に でない でも よろしい から、 ワタシ の この オヘヤ に いらっしゃい。 しずか に して ここ に いらっしゃい。 ワタシ が キョウジョウ から かえる まで ここ に いらっしゃい よ。 いい」 と おっしゃりながら ボク を ナガイス に すわらせて、 その とき また ベンキョウ の カネ が なった ので、 ツクエ の ウエ の ショモツ を とりあげて、 ボク の ほう を みて いられました が、 2 カイ の マド まで たかく はいあがった ブドウヅル から、 ヒトフサ の セイヨウ ブドウ を もぎって、 しくしく と なきつづけて いた ボク の ヒザ の ウエ に それ を おいて、 しずか に ヘヤ を でて いきなさいました。
 イチジ がやがや と やかましかった セイト たち は ミンナ キョウジョウ に はいって、 キュウ に しんと する ほど アタリ が しずか に なりました。 ボク は さびしくって さびしくって シヨウ が ない ほど かなしく なりました。 あの くらい すき な センセイ を くるしめた か と おもう と、 ボク は ホントウ に わるい こと を して しまった と おもいました。 ブドウ など は とても たべる キ に なれない で、 いつまでも ないて いました。
 ふと ボク は カタ を かるく ゆすぶられて メ を さましました。 ボク は センセイ の ヘヤ で いつのまにか ナキネイリ を して いた と みえます。 すこし やせて セイ の たかい センセイ は、 エガオ を みせて ボク を みおろして いられました。 ボク は ねむった ため に キブン が よく なって イマ まで あった こと は わすれて しまって、 すこし はずかしそう に わらいかえしながら、 あわてて ヒザ の ウエ から すべりおちそう に なって いた ブドウ の フサ を つまみあげました が、 すぐ かなしい こと を おもいだして、 ワライ も なにも ひっこんで しまいました。
「そんな に かなしい カオ を しない でも よろしい。 もう ミンナ は かえって しまいました から、 アナタ も おかえりなさい。 そして アシタ は どんな こと が あって も ガッコウ に こなければ いけません よ。 アナタ の カオ を みない と ワタシ は かなしく おもいます よ。 きっと です よ」
 そう いって センセイ は ボク の カバン の ナカ に そっと ブドウ の フサ を いれて くださいました。 ボク は イツモ の よう に カイガンドオリ を、 ウミ を ながめたり フネ を ながめたり しながら、 つまらなく イエ に かえりました。 そして ブドウ を おいしく たべて しまいました。
 けれども ツギ の ヒ が くる と ボク は なかなか ガッコウ に いく キ には なれません でした。 オナカ が いたく なれば いい と おもったり、 ズツウ が すれば いい と おもったり した けれども、 その ヒ に かぎって ムシバ 1 ポン いたみ も しない の です。 しかたなし に いやいや ながら イエ は でました が、 ぶらぶら と かんがえながら あるきました。 どうしても ガッコウ の モン を はいる こと は できない よう に おもわれた の です。 けれども センセイ の ワカレ の とき の コトバ を おもいだす と、 ボク は センセイ の カオ だけ は なんと いって も みたくて シカタ が ありません でした。 ボク が いかなかったら センセイ は きっと かなしく おもわれる に ちがいない。 もう イチド センセイ の やさしい メ で みられたい。 ただ その ヒトコト が ある ばかり で ボク は ガッコウ の モン を くぐりました。
 そう したら どう でしょう、 まず ダイイチ に まちきって いた よう に ジム が とんで きて、 ボク の テ を にぎって くれました。 そして キノウ の こと なんか わすれて しまった よう に、 シンセツ に ボク の テ を ひいて、 どぎまぎ して いる ボク を センセイ の ヘヤ に つれて いく の です。 ボク は なんだか ワケ が わかりません でした。 ガッコウ に いったら ミンナ が トオク の ほう から ボク を みて 「みろ ドロボウ の ウソツキ の ニホンジン が きた」 と でも ワルクチ を いう だろう と おもって いた のに、 こんな ふう に される と キミ が わるい ほど でした。
 フタリ の アシオト を ききつけて か、 センセイ は ジム が ノック しない マエ に ト を あけて くださいました。 フタリ は ヘヤ の ナカ に はいりました。
「ジム、 アナタ は いい コ、 よく ワタシ の いった こと が わかって くれました ね。 ジム は もう アナタ から あやまって もらわなくって も いい と いって います。 フタリ は イマ から いい オトモダチ に なれば それ で いい ん です。 フタリ とも ジョウズ に アクシュ を なさい」 と センセイ は にこにこ しながら ボクタチ を むかいあわせました。 ボク は でも あんまり カッテ-すぎる よう で もじもじ して います と、 ジム は ぶらさげて いる ボク の テ を いそいそ と ひっぱりだして かたく にぎって くれました。 ボク は もう なんと いって この ウレシサ を あらわせば いい の か わからない で、 ただ はずかしく わらう ほか ありません でした。 ジム も キモチ よさそう に、 エガオ を して いました。 センセイ は にこにこ しながら ボク に、
「キノウ の ブドウ は おいしかった の」 と とわれました。 ボク は カオ を マッカ に して 「ええ」 と ハクジョウ する より シカタ が ありません でした。
「そんなら また あげましょう ね」
 そう いって、 センセイ は マッシロ な リンネル の キモノ に つつまれた カラダ を マド から のびださせて、 ブドウ の ヒトフサ を もぎとって、 まっしろい ヒダリ の テ の ウエ に コ の ふいた ムラサキイロ の フサ を のせて、 ほそながい ギンイロ の ハサミ で マンナカ から ぷつり と フタツ に きって、 ジム と ボク と に くださいました。 まっしろい テノヒラ に ムラサキイロ の ブドウ の ツブ が かさなって のって いた その ウツクシサ を ボク は イマ でも はっきり と おもいだす こと が できます。
 ボク は その とき から マエ より すこし いい コ に なり、 すこし ハニカミヤ で なくなった よう です。
 それにしても ボク の だいすき な あの いい センセイ は どこ に いかれた でしょう。 もう ニド とは あえない と しりながら、 ボク は イマ でも あの センセイ が いたら なあ と おもいます。 アキ に なる と いつでも ブドウ の フサ は ムラサキイロ に いろづいて うつくしく コ を ふきます けれども、 それ を うけた ダイリセキ の よう な しろい うつくしい テ は どこ にも みつかりません。
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ソラチガワ の キシベ

2013-07-07 | クニキダ ドッポ
 ソラチガワ の キシベ

 クニキダ ドッポ

 1

 ヨ が サッポロ に タイザイ した の は イツカ-カン で ある、 わずか に イツカ-カン では ある が、 ヨ は この アイダ に ホッカイドウ を あいする の ジョウ を イクバイ した の で ある。
 ワガクニ ホンド の ウチ でも チュウゴク の ごとき、 ジンコウ チュウミツ の チ に セイチョウ して ヤマ をも ノ をも ニンゲン の チカラ で たいらげつくしたる コウケイ を みなれたる ヨ に ありて は、 トウホク の ゲンヤ すら すでに わが シゼン に キエ したる の ジョウ を うごかしたる に、 ホッカイドウ を みる に およびて、 いかで ココロ おどらざらん、 サッポロ は ホッカイドウ の トウキョウ で ありながら、 マンモク の コウケイ は ほとんど ヨ を ましさった の で ある。
 サッポロ を シュッパツ して タンシン ソラチガワ の エンガン に むかった の は、 9 ガツ 25 ニチ の アサ で、 トウキョウ ならば なお ザンショ の コウ で ありながら、 ヨ が この とき の フクソウ は フユギ の ヨウフク なりし を おもわば、 この チ の アキ すでに おいて コガラシ の フユ の マヂカ に せまって いる こと が しれる で あろう。
 モクテキ は ソラチガワ の エンガン を チョウサ しつつ ある ドウチョウ の カンリ に あって トチ の センテイ を ソウダン する こと で ある。 しかるに ヨ は まったく チリ に くらい の で ある。 かつ ドウチョウ の カンリ は はたして エンガン いずれ の ヘン に たむろして いる か、 サッポロ の チジン ナンビト も しらない の で ある、 こころぼそく も ヨ は ソラチブト を さして キシャ に とうじた。
 イシカリ の ノ は クモ ひくく まよいて シャソウ より ながむれば ノ にも ヤマ にも おそろしき シゼン の チカラ あふれ、 ここ に アイ なく ジョウ なく、 みる と して こうりょう、 せきばく、 レイゲン に して かつ ソウダイ なる コウケイ は、 あたかも ニンゲン の ムリョク と ハカナサ と を あざわらう が ごとく に みえた。
 ソウハク なる カオ を ガイトウ の エリ に うずめて シャソウ の イチグウ に もくねん と ざして いる イチ セイネン を ドウシツ の ヒトビト は なんと みたろう。 ヒトビト の ハナシガラ は サクモツ で ある、 サンリン で ある、 トチ で ある、 この ムゲン の フゲン より いかに して オウゴン を つかみだす べき か で ある。 カレラ の ある モノ は ビンヅメ の サケ を かたむけて コウロン し、 ある モノ は タバコ を くゆらして ダンショウ して いる。 そして カレラ オオク は シャチュウ で はじめて あった の で ある。 そして イチ セイネン は カレラ の ナカマ に くわわらず ただ ヒトリ その コドク を まもって、 ヒトリ その クウソウ に しずんで いる の で ある。 カレ は いかに して シャカイ に すむ べき か と いう こと は ぜんぜん その シコウ の モンダイ と した こと が ない、 カレ は ただ いつも いつも いかに して この テンチカン に この セイ を たくす べき か と いう こと を のみ おもいなやんで いた。 であるから、 カレ には ドウシャ の ヒトビト を みる こと ほとんど タカイ の モノ を みる が ごとく、 カレ と ヒトビト の アイダ には こゆ べからざる シンコク の よこたわる こと を かんぜざる を えなかった ので、 いましも キシャ が おなじ レッシャ に ヒトビト および カレ を のせて イシカリ の ノ を つきすごして ゆく こと は、 ちょうど カレ の イッショウ の それ と おなじ よう に おもわれた の で ある。 ああ コドク よ! カレ は みずから もとめて シャカイ の ソト を あゆみながら も、 チュウシン じつに コドク の カン に たえなかった。
 もしそれ テン たかく すみて シュウセイ ぬぐう が ごとき ヒ で あった ならば、 ヨ が ウックツ も おおいに クツロギ を えたろう けれど、 クモ は ますます ひくく たれ ハヤシ は キリ に つつまれ、 どこ を みて も ヒカリ イッセン だも ない ので、 ヨ は ほとんど たゆ べからざる ユウシュウ に しずんだ の で ある。
 キシャ の ウタシナイ の タンザン に わかるる ナニガシ テイシャジョウ に つく や、 シャチュウ の タイハン は そこ で のりかえた ので、 のこる は ヨ の ホカ に フタリ ある のみ。 ゲンシ ジダイ ソノママ で イクセンネン ヒト の アシアト を とどめざる ダイシンリン を うがって レッシャ は イッチョクセン に はしる の で ある。 ハイイロ の キリ の イチダン また イチダン、 たちまち あらわれ たちまち きえ、 あるいは イノチ ある もの の ごとく もくもく と して フドウ して いる。
「どちら まで オイデ です か」 と とつぜん ヒトリ の オトコ が ヨ に コエ を かけた。 ネンパイ 40 イクツ、 コッカク の たくましい、 トウハツ の のびた、 シカク な カオ、 するどい メ、 ダイ なる ハナ、 イッケン ヒトクセ ある べき ジンブツ で、 その フウゾク は カンリ に あらず ショクニン に あらず、 ヒャクショウ に あらず、 ショウニン に あらず、 じつに ホッカイドウ に して はじめて みる べき シュルイ の モノ らしい、 すなわち いずれ の ミカイチ にも かならず まず もっとも バッコ する ヤマシ らしい。
「ソラチブト まで ゆく つもり です」
「ドウチョウ の ゴヨウ で?」 カレ は ヨ を ホッカイドウ チョウ の コヤクニン と みた の で ある。
「いや ボク は トチ を センテイ に でかける の です」
「ははあ。 ソラチブト は どこら を ゴセンテイ か しらん が、 もう めぼしい ところ は ない よう です よ」
「どう でしょう、 ソラチブト から ソラチガワ の エンガン に でられる でしょう か」
「それ は でられましょう とも、 しかし ソラチガワ の エンガン の どこら です か、 それ が ハンゼン しない と……」
「ワカヤマ ケン の イミン ダンタイ が いる ところ で、 ドウチョウ の カンリ が フタリ シュッチョウ して いる、 そこ へ ゆく の です がね、 ともかくも ソラチブト まで いって きいて みる つもり で いる の です」
「そう です か、 それでは ソラチブト に おいで に なったら ミウラヤ と いう ヤドヤ へ あがって ごらんなさい、 そこ の アルジ が そういう こと に あかるう ございます から きいて ゴラン なったら よう がす、 どうも まだ ドウロ が ひらけない ので、 ちょっと そこ まで の ところ でも たいへん オオマワリ を しなければ ならん よう な こと が あって なれない モノ には こまる こと が おおう がす て」
 それ より カレ は、 カイコン の コンナン な こと や、 トチ に よって コンナン の ヒジョウ に ソウイ する こと や、 コウツウ フベン の ため に せっかく の シュウカク も ヨウイ に シジョウ に もちだす こと が できぬ こと や、 コサクニン を つかう ホウホウ など に ついて いろいろ と はなしだした。 それら の こと は ヨ も サッポロ の ショユウ から きいて は いた が、 カレ の かたる が まま に うけて ただ その コウイ を しゃする のみ で あった。
 まもなく キシャ は しょうじょう たる イチ エキ に ついて ウンテン を とめた ので ヨ も おりる と、 この レッシャ より でた キャク は ソウタイ で 20 ニン ぐらい に すぎざる を みた、 キシャ は ここ より ひっかえす の で ある。
 ただ みる この イチ ショウエキ は シンリン に かこまれて いる イチ の コトウ で ある。 テイシャジョウ に フゾク する ところ の 2~3 の カオク の ホカ ニンゲン に エン ある もの は なにも ない。 ながく ひびいた キテキ が シンリン に ハンキョウ して みゃくみゃく と して とおく きえうせた とき、 せきぜん と して いう べからざる シズケサ に この コトウ は かえった。
 3 リョウ の ノリアイ バシャ が まって いる。 ヒトビト は もくもく と して これ に のりうつった。 ヨ も サキ の ドウシャ の オトコ と ともに その ヒトツ に のった。
 ホッカイドウウマ の ロバ に ひとしき が 2 トウ、 たくましき ワカモノ が ヒトリ、 6 ニン の キャク を のせて いずく へ とも なく はしりはじめた。 ヨ は 「いずく へ とも なく」 と いう の ココロモチ が した の で ある。 じつに わが ユクサキ は いずく で、 みずから とうて みずから こたえる こと が できなかった の で ある。
 3 リョウ の バシャ は あいへだつる 1 チョウ ばかり、 ヨ の バシャ は シンガリ に いた ので、 マエ に すすむ バシャ の イッコウ イッテイ、 デコボコ おおき ミチ を はしって ゆく サマ が よく みえる。 キリ は ハヤシ を かすめて とび、 ミチ を よこぎって また ハヤシ に いり、 シンク に そまった コノハ は エダ を はなれて 2 ヘン 3 ペン バシャ を おうて まう。 ギョシャ は イチベン つよく くわえて、
「もう おりる ぞ!」 と さけんだ。
「ミウラヤ の マエ で とめて おくれ!」 と サキ の オトコ は さけんで ヨ を かえりみた。 ヨ は モクレイ して その コウイ を しゃした。 シャチュウ ナンビト も イチゴ を はっしない で、 ミナ クッタク な カオ を して モノオモイ に しずんで いる。 ギョシャ は いま イチド つよく ムチ を くわえて ラッパ を ふきたてた ので、 カラダ は ショウ なれど も ゴウリョク なる ホッカイ の ケンジ は オオカケ に かけだした。
 ハヤシ が やや ひらけて ショクミン の コヤ が 1 ケン 2 ケン と あらわれて きた か と おもう と、 とつぜん ヘイヤ に でた。 はばひろき ドウロ の リョウガワ に ショウカ らしき が とびとび に ならんで いる サマ は、 シンカイチ の シガイ たる を あざむかない。 バシャ は ラッパ の ネ いさましく この アイダ を かけた。

 2

 ミウラヤ に つく や さっそく シュジン を よんで、 ソラチガワ の エンガン に ゆく べき ホウホウ を とい、 くわしく モクテキ を はなして みた。 ところが シュジン は むしろ ひきかえして ウタシナイ に まわり、 ウタシナイ より ヤマゴエ した ほう が ベンリ だろう と いう。
「ツギ の キシャ なら ヒノクレ まで には ウタシナイ に つきます から コンヤ は ウタシナイ で イッパク なされて、 アス よく おききあわせ に なって その うえ で おでかけ に なった が よう がす。 ウタシナイ なら ここ とは ちがって ドウチョウ の カタ も います から、 その イダ さん とか いう カタ の イマ いる ところ も たぶん わかる でしょう」
 こう いわれて みる と なるほど そう で ある。 されども ヨ は ソラチガワ の キシ に そうて すすまば、 ヨ が あわん と する ドウチョウ の カンリ イダ-ボウ の イドコロ を しる に もっとも ベン ならん と しんじて、 ソラチブト まで きた の で ある。 しかるに ソラチブト より ソラチガワ の キシ を つたう こと は アンナイシャ なくて は できぬ との こと、 しかも その ミチ らしき ミチ の ひらけいる には あらず との こと を、 ミウラヤ の シュジン より はじめて きいた の で ある。 そこで ヨ は シュジン の チュウイ に したがい、 ウタシナイ に まわる こと に きめて、 ツギ の キシャ まで 2 ジカン イジョウ を、 ミウラヤ の 2 カイ で ヒトリ ぽつねん と まつ こと と なった。
 みわたせば マエ は ヒラノ で ある。 きりのこされた タイボク が かしこここ に つったって いる。 カゼアタリ の つよき ゆえ か、 いずれ も マルハダカ に なって、 キイロ に そまった ハ の わずか ばかり が エダ に しがみついて いる ばかり、 それ すら みて いる うち に ばらばら と ちって いる。 カゼ の くわわる と ともに アメ が ふって きた。 オチカタ は アマグモ に とざされて よく も みえわかず、 マヂカ に たって いる カシワ の タカサ 3 ジョウ ばかり なる が、 その ふとい ハ を アメ に うたれ カゼ に ゆられて、 けうとき ネ を たてて いる。 ミチ を とおる モノ は ヒトリ も ない。
 かかる とき、 かかる バショ に、 ヒトリ の チジン なく、 ヒトリ の ハナシアイテ なく、 ハタゴヤ の マド に よって ふりしきる アキ の アメ を ながめる こと は けっして たのしい もの で ない。 ヨ は はしなく トウキョウ の フボ や オトウト や したしき トモ を おもいおこして、 いまさら の ごとく、 キョウ まで ワレ を かこみし ニンジョウ の いかに あたたか で あった か を かんじた の で ある。
 ダンシ ココロザシ を たて リソウ を おうて、 いまや シンリン の ナカ に ジユウ の テンチ を もとめん と ねがう とき、 けっして めめしくて は ならぬ と ワレ と わが ココロ を ひきたてる よう に した が、 ようするに リソウ は ひややか に して ニンジョウ は あたたかく、 シゼン は レイゲン に して したしみがたく、 ジンカン は なつかしく して ス を つくる に てきして いる。
 ヨ は もんもん と して 2 ジカン を すごした。 その うち には アメ は コヤミ に なった と おもう と、 ラッパ の ネ が トオク に ひびく。 クビ を だして みる と ナナメ に イト の ごとく ふる アメ を ついて 1 リョウ の バシャ が はせて くる。 ヨ は この バシャ に のりこんで ふたたび サキ の テイシャジョウ へ と、 ミウラヤ を たった。
 キシャ の ジョウキャク は かぞうる ばかり。 ヨ の はいった シツ は ヨ ヒトリ で あった。 ヒト ヒトリ いる は このましき こと に あらず、 ヨ は タ の シツ に のりかえん か とも おもった が、 おもいとまって アメ と キリ との ため に うすくらく なって いる シツ の カタスミ に ミ を よせて、 クレ ちかく なった ソラ の クモ の ユキキ や ワ を なして カイテン しさる ハヤシ の タチキ を ぼうぜん と ながめて いた。 かかる とき、 ヒト は おうおう ムネン ムソウ の ウチ に いる もの で ある。 リガイ の ネン も なければ コシカタ ユクスエ の オモイ も なく、 オンアイ の ジョウ も なく ゾウオ の ナヤミ も なく、 シツボウ も なく キボウ も なく、 ただ くうぜん と して メ を ひらき ミミ を ひらいて いる。 タビ を して シンシン ともに つかれはてて なお その ミ は シャジョウ に ゆられ、 エン も ユカリ も ない チホウ を ゆく とき は、 おうおう に して かく の ごとき シンキョウ に おちいる もの で ある。 かかる とき、 はからず メ に いった コウケイ は ふかく ノウテイ に えりこまれて タネン これ を わすれない もの で ある。 ヨ が いましも シャソウ より ながむる ところ の クモ の ユキキ や、 カバ の ハヤシ や ちょうど それ で あった。
 キシャ の ウタシナイ の ケイコク に ついた とき は、 アメ まったく やみて ヒ は まさに くれん と する とき で、 ヨ は やどる べき イエ の アテ も なく テイシャジョウ を でる と、 さすが に イクセン の コウフ を やしない、 イクヒャク の ジンカ の せまき タニ に ゾクシュウ して いる バショ だけ ありて、 ヤドヒキ なる モノ が 2~3 ニン まちうけて いた。 その ヒトリ に みちびかれ イシ おおく トモシビ くらき マチ を あゆみて 2 カイ-ダテ の ハタゴヤ に いり、 サイジョ の イナカナマリ を そのまま、 アイキョウ も ココロ から らしく むかえられた とき は、 ヨ も おもわず ビショウ した の で ある。
 ヤショク を すます と、 よばず して シュジン は ヨ の ヘヤ に きて くれた ので、 ただちに モクテキ を かたり カレ より できる だけ の ホウベン を もとめた。 シュジン は ヨ の かたる ところ を にこついて きいて いた が、
「ちょっと おまち ください、 すこし ココロアタリ が あります から」 と いいすてて ヘヤ を さった。 しばらく して たちかえり、
「だから エン と いう は キタイ な もの です。 アナタ もう ゴアンシン なさい、 すっかり わかりました」 と ワガミ の こと の ごとく よろこんで ザ に ついた。
「わかりました か」
「わかりました とも、 オオワカリ。 ヨッカ マエ から ワタシ の イエ に オトマリ の オキャクサマ が あります。 この カタ は ゴリョウチ の カカリ の カタ で センダッテ から サンリン を ミワケ して おまわり に なった の です が、 そら、 ノジュク の ほう が おお がしょう、 だから とうとう カラダ を こわして イマ テマエドモ で ホヨウ して いらっしゃる の です。 シノハラ さん と いう カタ です がね。 なんでも タク へ みえる マエ の ヒ は ソラチガワ の ほう に いらっしゃった と いう こと ききました から、 もしや と おもって ただいま うかがって みました ところ が、 わりました。 うん ドウチョウ の シュッチョウイン なら ヤマ を こす と すぐ シタ の コヤ に いた と おっしゃる の です。 ゴアンシン なさい、 ここ から 1 リ ぐらい な もの で ワケ は ありません、 アサ ゆけば オヒルマエ には かえって こられます さ」
「どうも いろいろ ありがとう、 それ で アンシン しました。 しかし イマ も その コヤ に いて くれれば いい が。 しじゅう イドコロ が かわる ので それで ドウチョウ でも しれなかった の だ から」
「だいじょうぶ います よ、 もし かわって いたら せんに いた コヤ の モノ に きけば よう がす、 トオク に うつる わけ は ありません」
「ともかくも アス アサ はやく でかけます から アンナイ を ヒトリ たのんで くれません か」
「そう です な、 ヤマミチ で エダ が おおい から やはり アンナイ が いる でしょう、 タク の セガレ を つれて いらっしゃい。 14 の コゾウ です が、 ソラチブト まで なら ぞんじて います。 アンナイ ぐらい できましょう よ」
と あくまで シンセツ に いって くれる ので、 ヨ は じつに しゃする ところ を しらなかった。 なるほど エン は キタイ な もの で ある、 ヨ に して もし タ の ヤドヤ に とまった なら けっして これほど の ベンギ と シンセツ とは うる こと が できなかったろう。
 シュジン は どこまでも カイカツ な オトコ で、 ホウタン で、 しかも ガンチュウ ヒト なき の ヨウス が ある。 カレ の シンセツ、 ミズシラズ の ヨ に まで オシゲ も なく なげだす シンセツ は、 カレ の ジンブツ の シゼン で ある らしい。 セカイ を ウチ と なし いたる ところ に その コキョウ を みいだす ほど の ヒト は、 いたる ところ の ヤマカワ、 せっする ところ の ヒト が すなわち ホウユウ で ある。 であるから ヒト の コンヤク を みれば、 その ヒト が ナンビト で あろう と、 ニクアシ する の イワレ さえ なくば、 すなわち ドウジョウ を ひょうする 10 ネン の コウユウ と イッパン なの で ある。 ヨ は シュジン の クチ より その リャクデン を きく に およんで カレ の ジンブツ の ヨ の スイソク に ちかき を しった。
 カレ は その ウマレコキョウ に おいて ソウトウ の ザイサン を もって いた ところ が、 カレ の オトウト フタリ は カレ の ソウゾク したる ザイサン を うらやむ こと はなはだしく、 ついには コツニク の アラソイ まで おこる ほど に およんだ。 しかるに カレ の チチ なる 70 の ロウオウ も また ショウテイ フタリ を あいして、 ややもすれば アニ に せまって その ザイサン を ブンパイ せしめよう と する。 もし これ 3 トウブン すれば、 3 ニン とも イッカ を たつる こと が できない の で ある。
「だから ワタシ は かんがえた の です、 コレッバカシ の もの を キョウダイ して あらそう なんて あまり リョウケン が ちいさい。 よろしい オマエタチ に やって しまおう。 ただ 5 ブン の 1 だけ くれろ、 ワシ は それ を もって ホッカイドウ に とぶ から って。 そこで コゾウ が ココノツ の とき でした、 オヤコ 3 ニン で ぽいと こっち へ やって きた の です。 いや ニンゲン と いう もの は どこ に でも すまば すまれる もの です よ。 はっはっはっ」 と わらって、
「ところが ミョウ でしょう、 オトウト の ヤツラ、 イマ では ワタシ が わけて やった もの を たいがい なくして しまって、 それでいて やはり ちっぽけ な ムラ を コノウエ も ない トチ の よう に おもって、 ワタシ が ナンド も ホッカイドウ へ きて みろ と テガミ で すすめて も でて きえない ん でさ」
 ヨ は この オトコ の なす ところ を み、 その かたる ところ を きいて、 おおいに うる ところ が あった の で ある。 よしや この イチ ショウリョテン の シュジン は、 ヨ が おもう ところ の ジンブツ と ドウイツ で ない に せよ、 よしや ヨ が おもう ところ の ジンブツ は、 この シュジン より おして さらに ヨ ジシン の クウソウ を くわえて もって カセイ したる モノ に せよ、 カレ は よく ジユウ に、 よく ドクリツ に、 シャカイ に すんで シャカイ に あっせられず、 ムキュウ の テンチ に カイリツ して やすんずる ところ あり、 ウミ をも ヤマ をも ゲンヤ をも はた シガイ をも、 ワガモノガオ に オウコウ カッポ して すこしも クッタク せず、 テンガイ チカク いたる ところ に ハナ の かんばしき を かぎ ニンジョウ の あたたかき に すむ、 げに オトコ は すべからく かく の ごとく して オトコ と いう べき では あるまい か。
 かく かんずる と ともに ヨ の ムネ は おおいに ひらけて、 サッポロ を いでて より ウタシナイ に つく まで、 クモ と ともに むすぼれ、 アメ と ともに しおれて いた ココロ は はしなくも テン の イッポウ シンペキ に して きわまりなき を のぞんだ よう な キ が して きた。
 ヨ の 10 ジ-ゴロ サンポ に でて みる と、 クモ の ナガレ キュウ に して タエマ タエマ には ホシ が みえる。 くらい マチ を たどって ジンカ を はなれる と、 タニ を へだてて ビョウブ の ごとく くろく ゼンメン に よこたわる ソマヤマ の ウエ に ツキ あらわれ、 ヤマ を かすめて とぶ フウン は おりおり その ゼンメン を ぬぐうて いる。 クウキ は おもく しめり、 ソラ には カゼ あれど も チ は しゅくぜん と して コエ なく、 ただ ケイリュウ の オト の かすか に きこゆる ばかり。 ヨ は イッポウ は ヤマ、 イッポウ は ガケ の ツマサキアガリ の ミチ を すすみて こだかき ヒロバ に でた か と おもう と、 とつぜん ミミ に いった もの は ゲンカ の サワギ で ある。
 みれば ヤマ に そうて ナガヤダチ の ヒトムネ あり、 これ に たいして また ヒトムネ あり。 ゲンカ は この ナガヤ より おこる の で あった。 ヒトムネ は イクコ か に わかれ、 ココ みな ショウジ を とざし、 その ショウジ には ホカゲ はなやか に うつり、 サンゲン の みだれて くるう チョウシ、 ホウカ の げきして さけぶ コエ、 わらう コエ は ざつぜん と して おこって いる の で ある。 ウシベヤ に ひとしき この ナガヤ は なんぞ しらん コウフ ども が シンザン ユウコク の イチグウ に もとめえし カンラクキョウ ならん とは。
 ながれて ユウジョ と なり、 ながれて コウフ と なり、 かう モノ も うる モノ も、 ワガヨ ユメ ぞ と キョウカ ランブ する の で ある。 ヨ は すすんで この ナガヤ コウジ に はいった。
 アメアガリ の ミチ は ぬかるみ、 ミズタマリ には ホカゲ うつる。 イエ は はなれて みし より も さらに あわれ な タテザマ にて、 シンカイチ だけ に ただ ノキサキ ショウジ など の シラキ の ヨメ にも なまなましく みゆる ばかり、 ユカ ひくく ヤネ ひくく、 たてし ショウジ は チ より ただちに ノキ に いたる か と おもわれ、 すでに ゆがみて スキマ より は ツリ-ランプ の カサ など みゆ。 ハダヌギ の アラクレ オトコ の カゲ オニ の ごとく うつれる あり、 ランパツ の シャクフ の アタマ の ヤシャ の ごとく うつる か と おもえば、 ユカ も おつる と おもわるる オト が して、 どっと ばかり ショウセイ の おこる イエ も あり。 「のめ よ」、 「うたえ よ」、 「ころす ぞ」、 「なぐる ぞ」、 コウショウ、 ゲキゴ、 アクバ、 カンコ、 シッタ、 ツヤ ある コブシ の ウタ の モンク の ハラワタ を たつ ばかり なる、 サンゲン の チョウシ の むせぶ が ごとき、 たちまち に して ボウフウ、 たちまち に して シュンウ、 みきたれば、 カンラク の ウチ に サッキ を こめ、 サッキ の ウチ に ケツルイ を ふくむ。 なく は わらう の か、 わらう の は なく の か、 イカリ は ウタ か、 ウタ は イカリ か、 ああ はかなき ジンセイ の ナガレ よ! スウネン-ゼン まで は クマ ねむり オオカミ すみし この タニマ に ながれおちて、 ここ に よどみ、 ここ に げきし、 ここ に しずみ、 ツキカゲ ひややか に これ を てらして いる。
 ヨ は とおりすぎて ふりかえり、 しばし たたずんで いる と、 とつぜん マヂカ なる 1 ケン の ショウジ が あいて ヒトリ の オトコ が つと あらわれた。
「や、 ツキ が でた!」 と ふりあげた カオ を みれば トシゴロ 26~27、 セ たかく カタ ひろく クッキョウ の ワカモノ で ある。 きょろきょろ アタリ を みまわして いた が ほっと シュキ を はき、 シタウチ して ふたたび ウチ に よろめきこんだ。

 3

 ヤド の コ の まめまめしき が サキ に たちて、 あくれば 9 ガツ 26 ニチ アサ の 9 ジ、 いよいよ ソラチガワ の キシ へ と シュッパツ した。
 インセイ さだめなき テンキ、 うすき ヒカゲ もるる か と おもえば たちまち ミネ より ハヤシ より キリ おこりて ミネ をも ハヤシ をも ミチ をも つつんで しまう。 ヤマジ は おもいし より ラク にて、 ヨ は ヤド の コ と サマザマ の モノガタリ しつつ ミ も ココロ も かろく あゆんだ。
 ハヤシ は まったく きばみ、 ツタモミジ は シンク に そまり、 キリ おこる とき は カスミ を へだてて ハナ を みる が ごとく、 ニッコウ チョクシャ する とき は ツユ を おびたる ハ ごと に イクセンマン の シンジュ ヘキギョク を つらねて ゼンザン もゆる か と おもわれた。 ヤド の コ は ソラチガワ エンガン に おける クマ の ハナシ を なし、 つづいて カレ が コドモゴコロ に ききあつめたる クマ モノガタリ の イクシュ か を ネッシン に かたった。 サカ を おりて クマザサ の しげれる ところ に くる と カレ は ちょっと たちどまり、
「きこえる だろう、 カワ の オト が」 と ミミ を かたむけた。 「そら…… きこえる だろう、 あれ が ソラチガワ、 もう すぐ そこ だ」
「みえそう な もの だな」
「どうして みえる もの か、 モリ の ナカ に ながれて いる の だ」
 フタリ は、 アタマ を ぼっする クマザサ の アイダ を わずか に かよう オビ ほど の ミチ を しばらく ゆく と、 ヒトリ の ロウジン の ヒャクショウ らしき に であった ので、 ヨ は ドウチョウ の シュッチョウイン が いる コヤ を たずねた。
「この ミチ を 3 チョウ ばかり ゆく と ハバ の ひろい シンカイ の ドウロ に でる、 その ミギガワ の サイショ の コヤ に いなさる だ」 と いいすてて ロウジン は いって しまった。
 ウタシナイ を たって から ここ まで の アイダ に ヒト に であった の は この ロウジン ばかり で、 トチュウ また コヤ らしき もの を みなかった の で ある。 ヨ は この ロウジン を みて ソラチガワ の エンガン の すでに いくらか の カイコンシャ の いりこんで いる こと を ジジツ の ウエ に しった。
 クマザサ の コミチ を とおりぬける と、 はたして おもいがけない ダイドウ が シンリン を うがって イッチョクセン に つくられて ある。 その ハバ は 5 ケン イジョウ も あろう か。 しかも リョウガワ に ミツモ して いる ハヤシ は、 2 ジョウ を こえ 3 ジョウ に たっする タイボク が おおい ので、 この はばひろき ダイドウ も、 ホリワリ を つうずる テツドウ センロ の よう で あった。 しかし ヨ は この ドウロ を みて タクショク に ネッシン なる ドウチョウ の ケイエイ の、 いかに コンナン おおき か を しった の で ある。
 みれば この ドウロ の サイショ の ミギガワ に、 ナイチ では みる こと の できない イヨウ なる ホッタテゴヤ が ある。 コヤ の サユウ および ウシロ は ハヤシ を たおして、 2~3 ダンブ の ヒラチ が ひらかれて いる。 ヨ は シュビ よく この コヤ で ドウチョウ の ゾッカン、 イダ-ボウ および タ の ヒトリ に あう こと が できた。
 ショクミン カチョウ の テイネイ なる ショウカイ は、 カレラ を して ジュウブン に シンセツ に ヨ が ソウダン アイテ と ならしめた の で ある。 さらに おどろく べき は、 カレラ が ヨ の ナ を きいて、 はやく すでに ヨ を しって いた こと で、 ヨ の ブザツ なる ブンショウ も、 いつしか ホッカイドウ の おもい も かけぬ チ に その ドクシャ を えて いた こと で あった。
 フタリ は ヨ の モクテキ を ききおわりて ノチ、 ソラチガワ エンガン の チズ を ひらき その ケイケン おおき カンシキ を もって、 かしこここ と、 イミンシャ の ため に クカク せる 1 ク 1 マン 5000 ツボ の チ の ウチ から 6 カショ ほど センテイ して くれた。
 ジム は おわり ザツダン に うつった。
 コヤ は 3 ゲン に 4 ケン を いでず、 ヤネ も マワリ の カベ も タイボク の カワ を はばひろく はぎて くみあわした もの で、 イタ を もちいし は ユカ のみ。 ユカ には ムシロ を しき、 デイリ の クチ は これ また ジュヒ を くみて ト と なしたる が 1 マイ おおわれて ある ばかり、 これ カイコンシャ の ス なり、 イエ なり、 いな ジョウカク なり。 イチグウ に チョウホウケイ の おおきな ロ が きって、 これ を ヒバチ に カマド に、 タバコボン に、 フユ ならば ダンロ に シヨウ する の で ある。
「フユ に なったら たまらん でしょう ね、 こんな コヤ に いて は」
「だって カイコンシャ は ミンナ こんな コヤ に すんで いる の です よ。 どう です シンボウ が できます か」 と イダ は わらいながら いった。
「カクゴ は して います が、 いざ と なったら ずいぶん こまる でしょう」
「しかし おもった ほど でも ない もの です。 もし フユ に なって どうしても シンボウ が できそう も なかったら、 アナタガタ の こと だ から サッポロ へ にげて くれば いい です よ。 どうせ フユゴモリ は どこ で して も おなじ こと だ から」
「はっはっはっ はっはっはっ、 それなら ハジメ から コサクニン マカセ に して ゴジブン は サッポロ に いる ほう が よかろう」 と タ の ゾッカン が いった。
「そう です とも、 そう です とも、 フユ に なって サッポロ に にげて いく ほど なら、 いっそ ハジメ から トウキョウ に いて カイコン した ほう が いい ん です。 なに ボク は シンボウ します よ」 と ヨ は カクゴ を みせた。 イダ は、
「そう です な、 まず ユキ でも ふって きたら、 この ロ に どんどん タキビ を する ん です な、 タキギ なら オテノモノ だ から。 それで アナタガタ だ から うんと ショモツ を しこんで おいて ベンキョウ なさる ん です な」
「ユキ が とける ジブン には ダイガクシャ に なって あらわれる と いう シュコウ です か」 と ヨ は おもわず わらった。
 はなして いる と、 とつぜん ぱらぱら と オト が して きた ので ヨ は ソト に でて みる と、 ヒ は うすく ひかり、 クモ は しずか に ながれ、 せき たる シンリン を こえて シグレ が すぎゆく の で あった。
 ヨ は ヤド の コ を のこして、 ヒトリ この アタリ を サンポ す べく コヤ を でた。
 げに あやしき ドウロ よ。 これ センネン の シンリン を めっし、 ジンリョク を もって シゼン に うちかたん が ため に、 ことさら に ブジン の サカイ を えらんで つくられた の で ある。 みわたす かぎり、 リョウガワ の シンリン これ を おおう のみ にて、 イッコ の ジンエイ すら なく、 イチル の ケイエン すら おこらず、 イチ の ジンゴ すら きこえず、 せきせき りょうりょう と して よこたわって いる。
 ヨ は シグレ の オト の サビシサ を しって いる、 しかし いまだかつて、 ゲンシ の ダイシンリン を しのびやか に すぎゆく シグレ ほど サビシサ を かんじた こと は ない。 これ じつに シゼン の ユウジャク なる ササヤキ で ある。 シンリン の ソコ に いて、 この ネ を きく モノ、 ナンピト か セイブツ を レイショウ する シゼン の ムゲン の イリョク を かんぜざらん。 ドトウ、 ボウフウ、 シツライ、 センデン は シゼン の キョカツ で ある。 かの イリョク の もっとも ヒト に せまる の は、 かの もっとも しずか なる とき で ある。 コウエン なる ソウテン の、 なんの コエ も なく ただ もくして ゲカイ を みおろす とき、 かつて ジンセキ を ゆるさざりし シンリン の おくふかき ところ、 イッペン の コノハ の くちて カゼ なき に おつる とき、 シゼン は アクビ して いわく、 「ああ わが イチニチ も くれん と す」 と。 しかして ニンゲン の 1 セン-ネン は この セツナ に とびゆく の で ある。
 ヨ は リョウガワ の ハヤシ を のぞきつつ ゆく と、 ヒダリガワ で ハヤシ の やや うすく なって いる ところ を みいだした。 シタクサ を わけて すすみ、 ふと かえりみる と、 この ミ は いつしか シンリン の ソコ に いた の で ある。 とある タイボク の くちて たおれたる に コシ を かけた。
 ハヤシ が くらく なった か と おもう と、 たかい エダ の ウエ を シグレ が さらさら と ふって きた。 きた か と おもう と まもなく やんで しんと して ハヤシ は しずまりかえった。
 ヨ は しばらく じっと して ハヤシ の オク の くらく なって いる ところ を みて いた。
 シャカイ が どこ に ある、 ニンゲン の ホコリガオ に デンショウ する 「レキシ」 が どこ に ある。 この バショ に おいて、 この とき に おいて、 ヒト は ただ 「セイゾン」 ソノモノ の シゼン の イチ コキュウ の ナカ に たくされて おる こと を かんずる ばかり で ある。 ロコク の シジン は かつて シンリン の ナカ に ざして、 シ の カゲ の ワレ に せまる を おぼえた と いった が、 じつに そう で ある。 また いわく、 「ジンルイ の サイゴ の 1 ニン が この チキュウジョウ より ショウメツ する とき、 コノハ の イッペン も その ため に そよがざる なり」 と。
 シ の ごとく しずか なる、 ひややか なる、 くらき、 ふかき シンリン の ナカ に ざして、 かく の ごとき の イハク を うけない モノ は タレ も なかろう。 ヨ ワレ を わすれて おそろしき クウソウ に しずんで いる と、
「ダンナ! ダンナ!」 と よぶ コエ が モリ の ソト で した。 いそいで でて みる と ヤド の コ が たって いる。
「もう ゴヨウ が すんだら かえりましょう」
 そこで フタリ は ひとまず コヤ に かえる と、 イダ は、
「どう です、 コンヤ は シケン の ため に ヒトバン ここ に とまって ゴラン に なって は」

 ヨ は ついに ふたたび ホッカイドウ の チ を ふまない で コンニチ に いたった。 たとい イッカ の ジジョウ は ヨ の カイコン の モクテキ を チュウシ せしめた に せよ、 ヨ は イマ も なお ソラチガワ の エンガン を おもう と、 あの レイゲン なる シゼン が、 ヨ を ひきつける よう に かんずる の で ある。
 なぜ だろう。
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