カナ文字文庫(漢字廃止論)

日本文学の名作などをカナ書きに改めて掲載。

レモン

2012-05-21 | カジイ モトジロウ
 レモン

 カジイ モトジロウ

 エタイ の しれない フキツ な カタマリ が ワタシ の ココロ を しじゅう おさえつけて いた。 ショウソウ と いおう か、 ケンオ と いおう か―― サケ を のんだ アト に フツカヨイ が ある よう に、 サケ を マイニチ のんで いる と フツカヨイ に ソウトウ した ジキ が やって くる。 それ が きた の だ。 これ は ちょっと いけなかった。 ケッカ した ハイセン カタル や シンケイ スイジャク が いけない の では ない。 また セ を やく よう な シャッキン など が いけない の では ない。 いけない の は その フキツ な カタマリ だ。 イゼン ワタシ を よろこばせた どんな うつくしい オンガク も、 どんな うつくしい シ の イッセツ も シンボウ が ならなく なった。 チクオンキ を きかせて もらい に わざわざ でかけて いって も、 サイショ の 2~3 ショウセツ で フイ に たちあがって しまいたく なる。 ナニ か が ワタシ を いたたまらず させる の だ。 それで しじゅう ワタシ は マチ から マチ を フロウ しつづけて いた。
 なぜ だ か その コロ ワタシ は みすぼらしくて うつくしい もの に つよく ひきつけられた の を おぼえて いる。 フウケイ に して も こわれかかった マチ だ とか、 その マチ に して も よそよそしい オモテドオリ より も どこ か シタシミ の ある、 きたない センタクモノ が ほして あったり ガラクタ が ころがして あったり むさくるしい ヘヤ が のぞいて いたり する ウラドオリ が すき で あった。 アメ や カゼ が むしばんで やがて ツチ に かえって しまう、 と いった よう な オモムキ の ある マチ で、 ドベイ が くずれて いたり イエナミ が かたむきかかって いたり―― イキオイ の いい の は ショクブツ だけ で、 ときとすると びっくり させる よう な ヒマワリ が あったり カンナ が さいて いたり する。
 ときどき ワタシ は そんな ミチ を あるきながら、 ふと、 そこ が キョウト では なくて キョウト から ナンビャクリ も はなれた センダイ とか ナガサキ とか―― そのよう な マチ へ イマ ジブン が きて いる の だ―― と いう サッカク を おこそう と つとめる。 ワタシ は、 できる こと なら キョウト から にげだして ダレヒトリ しらない よう な マチ へ いって しまいたかった。 ダイイチ に アンセイ。 がらん と した リョカン の イッシツ。 セイジョウ な フトン。 ニオイ の いい カヤ と ノリ の よく きいた ユカタ。 そこ で ヒトツキ ほど なにも おもわず ヨコ に なりたい。 ねがわくは ここ が いつのまにか その マチ に なって いる の だったら。 ――サッカク が ようやく セイコウ しはじめる と ワタシ は それ から それ へ ソウゾウ の エノグ を ぬりつけて ゆく。 なんの こと は ない、 ワタシ の サッカク と こわれかかった マチ との ニジュウウツシ で ある。 そして ワタシ は その ナカ に ゲンジツ の ワタシ ジシン を みうしなう の を たのしんだ。
 ワタシ は また あの ハナビ と いう やつ が すき に なった。 ハナビ ソノモノ は ダイニダン と して、 あの やすっぽい エノグ で アカ や ムラサキ や キ や アオ や、 サマザマ の シマモヨウ を もった ハナビ の タバ、 ナカヤマデラ の ホシクダリ、 ハナガッセン、 カレススキ。 それから ネズミハナビ と いう の は ヒトツ ずつ ワ に なって いて ハコ に つめて ある。 そんな もの が へんに ワタシ の ココロ を そそった。
 それから また、 ビイドロ と いう イロガラス で タイ や ハナ を うちだして ある オハジキ が すき に なった し、 ナンキンダマ が すき に なった。 また それ を なめて みる の が ワタシ に とって なんとも いえない キョウラク だった の だ。 あの ビイドロ の アジ ほど かすか な すずしい アジ が ある もの か。 ワタシ は おさない とき よく それ を クチ に いれて は フボ に しかられた もの だ が、 その ヨウジ の あまい キオク が おおきく なって おちぶれた ワタシ に よみがえって くる せい だろう か、 まったく あの アジ には かすか な さわやか な なんとなく シビ と いった よう な ミカク が ただよって くる。
 サッシ は つく だろう が ワタシ には まるで カネ が なかった。 とはいえ そんな もの を みて すこし でも ココロ の うごきかけた とき の ワタシ ジシン を なぐさめる ため には ゼイタク と いう こと が ヒツヨウ で あった。 2 セン や 3 セン の もの―― と いって ゼイタク な もの。 うつくしい もの―― と いって ムキリョク な ワタシ の ショッカク に むしろ こびて くる もの。 ――そういった もの が しぜん ワタシ を なぐさめる の だ。
 セイカツ が まだ むしばまれて いなかった イゼン ワタシ の すき で あった ところ は、 たとえば マルゼン で あった。 アカ や キ の オードコロン や オードキニン。 しゃれた キリコ-ザイク や テンガ な ロココ シュミ の ウキモヨウ を もった コハクイロ や ヒスイイロ の コウスイビン。 キセル、 コガタナ、 セッケン、 タバコ。 ワタシ は そんな もの を みる の に コイチ ジカン も ついやす こと が あった。 そして けっきょく いっとう いい エンピツ を 1 ポン かう くらい の ゼイタク を する の だった。 しかし ここ も もう その コロ の ワタシ に とって は おもくるしい バショ に すぎなかった。 ショセキ、 ガクセイ、 カンジョウダイ、 これら は みな シャッキントリ の ボウレイ の よう に ワタシ には みえる の だった。
 ある アサ ――その コロ ワタシ は コウ の トモダチ から オツ の トモダチ へ と いう ふう に トモダチ の ゲシュク を てんてん と して くらして いた の だ が―― トモダチ が ガッコウ へ でて しまった アト の クウキョ な クウキ の ナカ に ぽつねん と ヒトリ とりのこされた。 ワタシ は また そこ から さまよいでなければ ならなかった。 ナニ か が ワタシ を おいたてる。 そして マチ から マチ へ、 さきに いった よう な ウラドオリ を あるいたり、 ダガシヤ の マエ で たちどまったり、 カンブツヤ の ホシエビ や ボウダラ や ユバ を ながめたり、 とうとう ワタシ は ニジョウ の ほう へ テラマチ を さがり、 そこ の クダモノヤ で アシ を とめた。 ここ で ちょっと その クダモノヤ を ショウカイ したい の だ が、 その クダモノヤ は ワタシ の しって いた ハンイ で もっとも すき な ミセ で あった。 そこ は けっして リッパ な ミセ では なかった の だ が、 クダモノヤ コユウ の ウツクシサ が もっとも ロコツ に かんぜられた。 クダモノ は かなり コウバイ の キュウ な ダイ の ウエ に ならべて あって、 その ダイ と いう の も ふるびた くろい ウルシヌリ の イタ だった よう に おもえる。 ナニ か はなやか な うつくしい オンガク の アッレグロ の ナガレ が、 みる ヒト を イシ に かした と いう ゴルゴン の キメン―― -テキ な もの を さしつけられて、 あんな シキサイ や あんな ヴォリウム に こりかたまった と いう ふう に クダモノ は ならんで いる。 アオモノ も やはり オク へ ゆけば ゆく ほど うずたかく つまれて いる。 ――じっさい あそこ の ニンジンバ の ウツクシサ など は すばらしかった。 それから ミズ に つけて ある マメ だ とか クワイ だ とか。
 また そこ の イエ の うつくしい の は ヨル だった。 テラマチ-ドオリ は イッタイ に にぎやか な トオリ で ――と いって カンジ は トウキョウ や オオサカ より は ずっと すんで いる が―― カザリマド の ヒカリ が おびただしく ガイロ へ ながれでて いる。 それ が どうした ワケ か その ミセサキ の シュウイ だけ が ミョウ に くらい の だ。 もともと カタホウ は くらい ニジョウ-ドオリ に せっして いる マチカド に なって いる ので、 くらい の は トウゼン で あった が、 その リンカ が テラマチ-ドオリ に ある イエ にも かかわらず くらかった の が はっきり しない。 しかし その イエ が くらく なかったら、 あんな にも ワタシ を ユウワク する には いたらなかった と おもう。 もう ヒトツ は その イエ の うちだした ヒサシ なの だ が、 その ヒサシ が まぶか に かぶった ボウジ の ヒサシ の よう に―― これ は ケイヨウ と いう より も、 「おや、 あそこ の ミセ は ボウシ の ヒサシ を やけに さげて いる ぞ」 と おもわせる ほど なので、 ヒサシ の ウエ は これ も マックラ なの だ。 そう シュウイ が マックラ な ため、 ミセサキ に つけられた イクツ も の デントウ が シュウウ の よう に あびせかける ケンラン は、 シュウイ の ナニモノ にも うばわれる こと なく、 ほしいまま にも うつくしい ナガメ が てらしだされて いる の だ。 ハダカ の デントウ が ほそながい ラセンボウ を きりきり メ の ナカ へ さしこんで くる オウライ に たって、 また キンジョ に ある カギヤ の 2 カイ の ガラスマド を すかして ながめた この クダモノミセ の ナガメ ほど、 その トキドキ の ワタシ を きょうがらせた もの は テラマチ の ナカ でも まれ だった。
 その ヒ ワタシ は いつ に なく その ミセ で カイモノ を した。 と いう の は その ミセ には めずらしい レモン が でて いた の だ。 レモン など ごく ありふれて いる。 が その ミセ と いう の も みすぼらしく は ない まで も ただ アタリマエ の ヤオヤ に すぎなかった ので、 それまで あまり みかけた こと は なかった。 いったい ワタシ は あの レモン が すき だ。 レモン エロウ の エノグ を チューブ から しぼりだして かためた よう な あの タンジュン な イロ も、 それから あの タケ の つまった ボウスイケイ の カッコウ も。 ――けっきょく ワタシ は それ を ヒトツ だけ かう こと に した。 それから の ワタシ は どこ へ どう あるいた の だろう。 ワタシ は ながい アイダ マチ を あるいて いた。 しじゅう ワタシ の ココロ を おさえつけて いた フキツ な カタマリ が それ を にぎった シュンカン から いくらか ゆるんで きた と みえて、 ワタシ は マチ の ウエ で ヒジョウ に コウフク で あった。 あんな に しつこかった ユウウツ が、 そんな もの の イッカ で まぎらされる―― あるいは フシン な こと が、 ギャクセツテキ な ホントウ で あった。 それにしても ココロ と いう やつ は なんと いう フカシギ な やつ だろう。
 その レモン の ツメタサ は タトエヨウ も なく よかった。 その コロ ワタシ は ハイセン を わるく して いて いつも カラダ に ネツ が でた。 じじつ トモダチ の ダレカレ に ワタシ の ネツ を みせびらかす ため に テ の ニギリアイ など を して みる の だ が、 ワタシ の テノヒラ が ダレ の より も あつかった。 その あつい せい だった の だろう、 にぎって いる テノヒラ から ミウチ に しみとおって ゆく よう な その ツメタサ は こころよい もの だった。
 ワタシ は ナンド も ナンド も その カジツ を ハナ に もって いって は かいで みた。 それ の サンチ だ と いう カリフォルニヤ が ソウゾウ に のぼって くる。 カンブン で ならった 「バイカンシャ ノ ゲン」 の ナカ に かいて あった 「ハナ を うつ」 と いう コトバ が きれぎれ に うかんで くる。 そして ふかぶか と ムネイッパイ に におやか な クウキ を すいこめば、 ついぞ ムネイッパイ に コキュウ した こと の なかった ワタシ の カラダ や カオ には あたたかい チ の ホトボリ が のぼって きて なんだか ミウチ に ゲンキ が めざめて きた の だった。……
 じっさい あんな タンジュン な レイカク や ショッカク や キュウカク や シカク が、 ずっと ムカシ から これ ばかり さがして いた の だ と いいたく なった ほど ワタシ に しっくり した なんて ワタシ は フシギ に おもえる。 ――それ が あの コロ の こと なん だ から。
 ワタシ は もう オウライ を かろやか な コウフン に はずんで、 イッシュ ほこりか な キモチ さえ かんじながら、 ビテキ ショウゾク を して マチ を カッポ した シジン の こと など おもいうかべて は あるいて いた。 よごれた テヌグイ の ウエ へ のせて みたり マント の ウエ へ あてがって みたり して イロ の ハンエイ を はかったり、 また こんな こと を おもったり、
 ――つまり は この オモサ なん だな。――
 その オモサ こそ つねづね ワタシ が たずねあぐんで いた もの で、 ウタガイ も なく この オモサ は スベテ の よい もの スベテ の うつくしい もの を ジュウリョウ に カンサン して きた オモサ で ある とか、 おもいあがった カイギャクシン から そんな ばかげた こと を かんがえて みたり―― ナニ が さて ワタシ は コウフク だった の だ。
 どこ を どう あるいた の だろう、 ワタシ が サイゴ に たった の は マルゼン の マエ だった。 ヘイジョウ あんな に さけて いた マルゼン が その とき の ワタシ には やすやす と はいれる よう に おもえた。
「キョウ は ひとつ はいって みて やろう」 そして ワタシ は ずかずか はいって いった。
 しかし どうした こと だろう、 ワタシ の ココロ を みたして いた コウフク な カンジョウ は だんだん にげて いった。 コウスイ の ビン にも キセル にも ワタシ の ココロ は のしかかって は ゆかなかった。 ユウウツ が たてこめて くる、 ワタシ は あるきまわった ヒロウ が でて きた の だ と おもった。ワタシ は ガホン の タナ の マエ へ いって みた。 ガシュウ の おもたい の を とりだす の さえ ツネ に まして チカラ が いる な! と おもった。 しかし ワタシ は 1 サツ ずつ ぬきだして は みる、 そして あけて は みる の だ が、 コクメイ に はぐって ゆく キモチ は さらに わいて こない。 しかも のろわれた こと には また ツギ の 1 サツ を ひきだして くる。 それ も おなじ こと だ。 それでいて イチド ばらばら と やって みなくて は キ が すまない の だ。 それ イジョウ は たまらなく なって そこ へ おいて しまう。 イゼン の イチ へ もどす こと さえ できない。 ワタシ は イクド も それ を くりかえした。 とうとう オシマイ には ヒゴロ から だいすき だった アングル の ダイダイイロ の おもい ホン まで なお いっそう の タエガタサ の ため に おいて しまった。 ――なんと いう のろわれた こと だ。 テ の キンニク に ヒロウ が のこって いる。 ワタシ は ユウウツ に なって しまって、 ジブン が ぬいた まま つみかさねた ホン の ムレ を ながめて いた。
 イゼン には あんな に ワタシ を ひきつけた ガホン が どうした こと だろう。 1 マイ 1 マイ に メ を さらしおわって ノチ、 さて あまり に ジンジョウ な シュウイ を みまわす とき の あの へんに そぐわない キモチ を、 ワタシ は イゼン には このんで あじわって いた もの で あった。……
「あ、 そう だ そう だ」 その とき ワタシ は タモト の ナカ の レモン を おもいだした。 ホン の シキサイ を ごちゃごちゃ に つみあげて、 イチド この レモン で ためして みたら。 「そう だ」
 ワタシ に また サキホド の かろやか な コウフン が かえって きた。 ワタシ は てあたりしだい に つみあげ、 また あわただしく つぶし、 また あわただしく きずきあげた。 あたらしく ひきぬいて つけくわえたり、 とりさったり した。 キカイ な ゲンソウテキ な シロ が、 その たび に あかく なったり あおく なったり した。
 やっと それ は できあがった。 そして かるく おどりあがる ココロ を せいしながら、 その ジョウヘキ の イタダキ に おそるおそる レモン を すえつけた。 そして それ は ジョウデキ だった。
 みわたす と、 その レモン の シキサイ は がちゃがちゃ した イロ の カイチョウ を ひっそり と ボウスイケイ の カラダ の ナカ へ キュウシュウ して しまって、 かーん と さえかえって いた。 ワタシ は ほこりっぽい マルゼン の ナカ の クウキ が、 その レモン の シュウイ だけ へんに キンチョウ して いる よう な キ が した。 ワタシ は しばらく それ を ながめて いた。
 フイ に ダイニ の アイディア が おこった。 その キミョウ な タクラミ は むしろ ワタシ を ぎょっと させた。
 ――それ を ソノママ に して おいて ワタシ は、 なにくわぬ カオ を して ソト へ でる。――
 ワタシ は へんに くすぐったい キモチ が した。 「でて いこう かなあ。 そう だ でて いこう」 そして ワタシ は すたすた でて いった。
 へんに くすぐったい キモチ が マチ の ウエ の ワタシ を ほほえませた。 マルゼン の タナ へ コガネイロ に かがやく おそろしい バクダン を しかけて きた キカイ な アッカン が ワタシ で、 もう 10 プン-ゴ には あの マルゼン が ビジュツ の タナ を チュウシン と して ダイバクハツ を する の だったら どんな に おもしろい だろう。
 ワタシ は この ソウゾウ を ネッシン に ツイキュウ した。 「そう したら あの キヅマリ な マルゼン も コッパ ミジン だろう」
 そして ワタシ は カツドウ シャシン の カンバンエ が キタイ な オモムキ で マチ を いろどって いる キョウゴク を さがって いった。
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はしれ メロス

2012-05-05 | ダザイ オサム
 はしれ メロス

 ダザイ オサム

 メロス は ゲキド した。 かならず、 かの ジャチ ボウギャク の オウ を のぞかなければ ならぬ と ケツイ した。 メロス には セイジ が わからぬ。 メロス は、 ムラ の ボクジン で ある。 フエ を ふき、 ヒツジ と あそんで くらして きた。 けれども ジャアク に たいして は、 ヒトイチバイ に ビンカン で あった。 キョウ ミメイ メロス は ムラ を シュッパツ し、 ノ を こえ ヤマ こえ、 10 リ はなれた この シラクス の マチ に やって きた。 メロス には チチ も、 ハハ も ない。 ニョウボウ も ない。 16 の、 ウチキ な イモウト と フタリグラシ だ。 この イモウト は、 ムラ の ある リチギ な イチ ボクジン を、 ちかぢか、 ハナムコ と して むかえる こと に なって いた。 ケッコンシキ も マヂカ なの で ある。 メロス は、 それゆえ、 ハナヨメ の イショウ やら シュクエン の ゴチソウ やら を かい に、 はるばる マチ に やって きた の だ。 まず、 その シナジナ を かいあつめ、 それから ミヤコ の オオジ を ぶらぶら あるいた。 メロス には チクバ の トモ が あった。 セリヌンティウス で ある。 イマ は この シラクス の マチ で、 イシク を して いる。 その トモ を、 これから たずねて みる つもり なの だ。 ひさしく あわなかった の だ から、 たずねて ゆく の が タノシミ で ある。 あるいて いる うち に メロス は、 マチ の ヨウス を あやしく おもった。 ひっそり して いる。 もう すでに ヒ も おちて、 マチ の くらい の は アタリマエ だ が、 けれども、 なんだか、 ヨル の せい ばかり では なく、 マチ ゼンタイ が、 やけに さびしい。 ノンキ な メロス も、 だんだん フアン に なって きた。 ミチ で あった ワカイシュ を つかまえて、 ナニ か あった の か、 2 ネン マエ に この マチ に きた とき は、 ヨル でも ミナ が ウタ を うたって、 マチ は にぎやか で あった はず だ が、 と シツモン した。 ワカイシュ は、 クビ を ふって こたえなかった。 しばらく あるいて ロウヤ に あい、 コンド は もっと、 ゴセイ を つよく して シツモン した。 ロウヤ は こたえなかった。 メロス は リョウテ で ロウヤ の カラダ を ゆすぶって シツモン を かさねた。 ロウヤ は、 アタリ を はばかる コゴエ で、 わずか こたえた。
「オウサマ は、 ヒト を ころします」
「なぜ ころす の だ」
「アクシン を いだいて いる、 と いう の です が、 ダレ も そんな、 アクシン を もって は おりませぬ」
「タクサン の ヒト を ころした の か」
「はい、 ハジメ は オウサマ の イモウトムコ サマ を。 それから、 ゴジシン の オヨツギ を。 それから、 イモウト サマ を。 それから、 イモウト サマ の オコサマ を。 それから、 コウゴウ サマ を。 それから、 ケンシン の アレキス サマ を」
「おどろいた。 コクオウ は ランシン か」
「いいえ、 ランシン では ございませぬ。 ヒト を、 しんずる こと が できぬ、 と いう の です。 コノゴロ は、 シンカ の ココロ をも、 おうたがい に なり、 すこしく ハデ な クラシ を して いる モノ には、 ヒトジチ ヒトリ ずつ さしだす こと を めいじて おります。 ゴメイレイ を こばめば ジュウジカ に かけられて、 ころされます。 キョウ は、 6 ニン ころされました」
 きいて、 メロス は ゲキド した。 「あきれた オウ だ。 いかして おけぬ」
 メロス は、 タンジュン な オトコ で あった。 カイモノ を、 せおった まま で、 のそのそ オウジョウ に はいって いった。 たちまち カレ は、 ジュンラ の ケイリ に ホバク された。 しらべられて、 メロス の カイチュウ から は タンケン が でて きた ので、 サワギ が おおきく なって しまった。 メロス は、 オウ の マエ に ひきだされた。
「この タントウ で ナニ を する つもり で あった か。 いえ!」 ボウクン ディオニス は しずか に、 けれども イゲン を もって といつめた。 その オウ の カオ は ソウハク で、 ミケン の シワ は、 きざみこまれた よう に ふかかった。
「マチ を ボウクン の テ から すくう の だ」 と メロス は わるびれず に こたえた。
「オマエ が か?」 オウ は、 ビンショウ した。 「シカタ の ない ヤツ じゃ。 オマエ には、 ワシ の コドク が わからぬ」
「いうな!」 と メロス は、 いきりたって ハンバク した。 「ヒト の ココロ を うたがう の は、 もっとも はず べき アクトク だ。 オウ は、 タミ の チュウセイ を さえ うたがって おられる」
「うたがう の が、 セイトウ の ココロガマエ なの だ と、 ワシ に おしえて くれた の は、 オマエタチ だ。 ヒト の ココロ は、 アテ に ならない。 ニンゲン は、 もともと シヨク の カタマリ さ。 しんじて は、 ならぬ」 ボウクン は おちついて つぶやき、 ほっと タメイキ を ついた。 「ワシ だって、 ヘイワ を のぞんで いる の だ が」
「なんの ため の ヘイワ だ。 ジブン の チイ を まもる ため か」 コンド は メロス が チョウショウ した。 「ツミ の ない ヒト を ころして、 ナニ が ヘイワ だ」
「だまれ、 ゲセン の モノ」 オウ は、 さっと カオ を あげて むくいた。 「クチ では、 どんな きよらか な こと でも いえる。 ワシ には、 ヒト の ハラワタ の オクソコ が みえすいて ならぬ。 オマエ だって、 いまに、 ハリツケ に なって から、 ないて わびたって きかぬ ぞ」
「ああ、 オウ は リコウ だ。 うぬぼれて いる が よい。 ワタシ は、 ちゃんと しぬる カクゴ で いる のに。 イノチゴイ など けっして しない。 ただ、――」 と いいかけて、 メロス は アシモト に シセン を おとし シュンジ ためらい、 「ただ、 ワタシ に ナサケ を かけたい つもり なら、 ショケイ まで に ミッカ-カン の ニチゲン を あたえて ください。 たった ヒトリ の イモウト に、 テイシュ を もたせて やりたい の です。 ミッカ の うち に、 ワタシ は ムラ で ケッコンシキ を あげさせ、 かならず、 ここ へ かえって きます」
「バカ な」 と ボウクン は、 しわがれた コエ で ひくく わらった。 「とんでもない ウソ を いう わい。 にがした コトリ が かえって くる と いう の か」
「そう です。 かえって くる の です」 メロス は ヒッシ で いいはった。 「ワタシ は ヤクソク を まもります。 ワタシ を、 ミッカ-カン だけ ゆるして ください。 イモウト が、 ワタシ の カエリ を まって いる の だ。 そんな に ワタシ を しんじられない ならば、 よろしい、 この マチ に セリヌンティウス と いう イシク が います。 ワタシ の ムニ の ユウジン だ。 あれ を、 ヒトジチ と して ここ に おいて いこう。 ワタシ が にげて しまって、 ミッカ-メ の ヒグレ まで、 ここ に かえって こなかったら、 あの ユウジン を しめころして ください。 たのむ。 そうして ください」
 それ を きいて オウ は、 ザンギャク な キモチ で、 そっと ほくそえんだ。 ナマイキ な こと を いう わい。 どうせ かえって こない に きまって いる。 この ウソツキ に だまされた フリ して、 はなして やる の も おもしろい。 そうして ミガワリ の オトコ を、 ミッカ-メ に ころして やる の も キミ が いい。 ヒト は、 これ だ から しんじられぬ と、 ワシ は かなしい カオ して、 その ミガワリ の オトコ を タッケイ に しょして やる の だ。 ヨノナカ の、 ショウジキモノ とか いう ヤツバラ に うんと みせつけて やりたい もの さ。
「ネガイ を、 きいた。 その ミガワリ を よぶ が よい。 ミッカ-メ には ニチボツ まで に かえって こい。 おくれたら、 その ミガワリ を、 きっと ころす ぞ。 ちょっと おくれて くる が いい。 オマエ の ツミ は、 エイエン に ゆるして やろう ぞ」
「なに、 ナニ を おっしゃる」
「はは。 イノチ が ダイジ だったら、 おくれて こい。 オマエ の ココロ は、 わかって いる ぞ」
 メロス は くやしく、 ジダンダ ふんだ。 モノ も いいたく なくなった。
 チクバ の トモ、 セリヌンティウス は、 シンヤ、 オウジョウ に めされた。 ボウクン ディオニス の メンゼン で、 よき トモ と よき トモ は、 2 ネン-ぶり で あいおうた。 メロス は、 トモ に イッサイ の ジジョウ を かたった。 セリヌンティウス は ムゴン で うなずき、 メロス を ひしと だきしめた。 トモ と トモ の アイダ は、 それ で よかった。 セリヌンティウス は、 ナワ うたれた。 メロス は、 すぐに シュッパツ した。 ショカ、 マンテン の ホシ で ある。
 メロス は その ヨル、 イッスイ も せず 10 リ の ミチ を いそぎ に いそいで、 ムラ へ トウチャク した の は、 あくる ヒ の ゴゼン、 ヒ は すでに たかく のぼって、 ムラビト たち は ノ に でて シゴト を はじめて いた。 メロス の 16 の イモウト も、 キョウ は アニ の カワリ に ヨウグン の バン を して いた。 よろめいて あるいて くる アニ の、 ヒロウ コンパイ の スガタ を みつけて おどろいた。 そうして、 うるさく アニ に シツモン を あびせた。
「なんでも ない」 メロス は ムリ に わらおう と つとめた。 「マチ に ヨウジ を のこして きた。 また すぐ マチ に いかなければ ならぬ。 アス、 オマエ の ケッコンシキ を あげる。 はやい ほう が よかろう」
 イモウト は ホオ を あからめた。
「うれしい か。 きれい な イショウ も かって きた。 さあ、 これから いって、 ムラ の ヒトタチ に しらせて こい。 ケッコンシキ は、 アス だ と」
 メロス は、 また、 よろよろ と あるきだし、 イエ へ かえって カミガミ の サイダン を かざり、 シュクエン の セキ を ととのえ、 まもなく トコ に たおれふし、 イキ も せぬ くらい の ふかい ネムリ に おちて しまった。
 メ が さめた の は ヨル だった。 メロス は おきて すぐ、 ハナムコ の イエ を おとずれた。 そうして、 すこし ジジョウ が ある から、 ケッコンシキ を アス に して くれ、 と たのんだ。 ムコ の ボクジン は おどろき、 それ は いけない、 こちら には まだ なんの シタク も できて いない、 ブドウ の キセツ まで まって くれ、 と こたえた。 メロス は、 まつ こと は できぬ、 どうか アス に して くれたまえ、 と さらに おして たのんだ。 ムコ の ボクジン も ガンキョウ で あった。 なかなか ショウダク して くれない。 ヨアケ まで ギロン を つづけて、 やっと、 どうにか ムコ を なだめ、 すかして、 ときふせた。 ケッコンシキ は、 マヒル に おこなわれた。 シンロウ シンプ の、 カミガミ への センセイ が すんだ コロ、 クロクモ が ソラ を おおい、 ぽつり ぽつり アメ が ふりだし、 やがて シャジク を ながす よう な オオアメ と なった。 シュクエン に レッセキ して いた ムラビト たち は、 ナニ か フキツ な もの を かんじた が、 それでも、 めいめい キモチ を ひきたて、 せまい イエ の ナカ で、 むんむん むしあつい の も こらえ、 ヨウキ に ウタ を うたい、 テ を うった。 メロス も、 マンメン に キショク を たたえ、 しばらく は、 オウ との あの ヤクソク を さえ わすれて いた。 シュクエン は、 ヨル に はいって いよいよ みだれ はなやか に なり、 ヒトビト は、 ソト の ゴウウ を まったく キ に しなく なった。 メロス は、 イッショウ このまま ここ に いたい、 と おもった。 この よい ヒトタチ と ショウガイ くらして ゆきたい と ねがった が、 イマ は、 ジブン の カラダ で、 ジブン の もの では ない。 ままならぬ こと で ある。 メロス は、 ワガミ に むちうち、 ついに シュッパツ を ケツイ した。 アス の ニチボツ まで には、 まだ ジュウブン の トキ が ある。 ちょっと ヒトネムリ して、 それから すぐに シュッパツ しよう、 と かんがえた。 その コロ には、 アメ も コブリ に なって いよう。 すこし でも ながく この イエ に ぐずぐず とどまって いたかった。 メロス ほど の オトコ にも、 やはり ミレン の ジョウ と いう もの は ある。 コヨイ ぼうぜん、 カンキ に よって いる らしい ハナヨメ に ちかより、
「おめでとう。 ワタシ は つかれて しまった から、 ちょっと ゴメン こうむって ねむりたい。 メ が さめたら、 すぐに マチ に でかける。 タイセツ な ヨウジ が ある の だ。 ワタシ が いなくて も、 もう オマエ には やさしい テイシュ が ある の だ から、 けっして さびしい こと は ない。 オマエ の アニ の、 いちばん きらい な もの は、 ヒト を うたがう こと と、 それから、 ウソ を つく こと だ。 オマエ も、 それ は、 しって いる ね。 テイシュ との アイダ に、 どんな ヒミツ でも つくって は ならぬ。 オマエ に いいたい の は、 それ だけ だ。 オマエ の アニ は、 たぶん えらい オトコ なの だ から、 オマエ も その ホコリ を もって いろ」
 ハナヨメ は、 ユメミ-ゴコチ で うなずいた。 メロス は、 それから ハナムコ の カタ を たたいて、
「シタク の ない の は オタガイサマ さ。 ワタシ の イエ にも、 タカラ と いって は、 イモウト と ヒツジ だけ だ。 ホカ には、 なにも ない。 ゼンブ あげよう。 もう ヒトツ、 メロス の オトウト に なった こと を ほこって くれ」
 ハナムコ は モミデ して、 てれて いた。 メロス は わらって ムラビト たち にも エシャク して、 エンセキ から たちさり、 ヒツジゴヤ に もぐりこんで、 しんだ よう に ふかく ねむった。
 メ が さめた の は あくる ヒ の ハクメイ の コロ で ある。 メロス は はねおき、 なむさん、 ねすごした か、 いや、 まだまだ だいじょうぶ、 これから すぐに シュッパツ すれば、 ヤクソク の コクゲン まで には じゅうぶん まにあう。 キョウ は ぜひとも、 あの オウ に、 ヒト の シンジツ の そんする ところ を みせて やろう。 そうして わらって ハリツケ の ダイ に あがって やる。 メロス は、 ゆうゆう と ミジタク を はじめた。 アメ も、 いくぶん コブリ に なって いる ヨウス で ある。 ミジタク は できた。 さて、 メロス は、 ぶるん と リョウウデ を おおきく ふって、 ウチュウ、 ヤ の ごとく はしりでた。
 ワタシ は、 コヨイ、 ころされる。 ころされる ため に はしる の だ。 ミガワリ の トモ を すくう ため に はしる の だ。 オウ の カンネイ ジャチ を うちやぶる ため に はしる の だ。 はしらなければ ならぬ。 そうして、 ワタシ は ころされる。 わかい とき から メイヨ を まもれ。 さらば、 フルサト。 わかい メロス は、 つらかった。 イクド か、 たちどまりそう に なった。 えい、 えい と オオゴエ あげて ジシン を しかりながら はしった。 ムラ を でて、 ノ を よこぎり、 モリ を くぐりぬけ、 トナリムラ に ついた コロ には、 アメ も やみ、 ヒ は たかく のぼって、 そろそろ あつく なって きた。 メロス は ヒタイ の アセ を コブシ で はらい、 ここ まで くれば だいじょうぶ、 もはや コキョウ への ミレン は ない。 イモウト たち は、 きっと よい フウフ に なる だろう。 ワタシ には、 イマ、 なんの キガカリ も ない はず だ。 マッスグ に オウジョウ に ゆきつけば、 それ で よい の だ。 そんな に いそぐ ヒツヨウ も ない。 ゆっくり あるこう、 と モチマエ の ノンキサ を とりかえし、 すき な コウタ を いい コエ で うたいだした。 ぶらぶら あるいて 2 リ ゆき 3 リ ゆき、 そろそろ ゼンリテイ の ナカバ に トウタツ した コロ、 ふって わいた サイナン、 メロス の アシ は、 はたと、 とまった。 みよ、 ゼンポウ の カワ を。 キノウ の ゴウウ で ヤマ の スイゲンチ は ハンラン し、 ダクリュウ とうとう と カリュウ に あつまり、 モウセイ イッキョ に ハシ を ハカイ し、 どうどう と ヒビキ を あげる ゲキリュウ が、 コッパ ミジン に ハシゲタ を はねとばして いた。 カレ は ぼうぜん と、 たちすくんだ。 あちこち と ながめまわし、 また、 コエ を カギリ に よびたてて みた が、 ケイシュウ は のこらず ナミ に さらわれて カゲ なく、 ワタシモリ の スガタ も みえない。 ナガレ は いよいよ、 ふくれあがり、 ウミ の よう に なって いる。 メロス は カワギシ に うずくまり、 オトコナキ に なきながら ゼウス に テ を あげて アイガン した。 「ああ、 しずめたまえ、 あれくるう ナガレ を! トキ は こっこく に すぎて いきます。 タイヨウ も すでに マヒルドキ です。 あれ が しずんで しまわぬ うち に、 オウジョウ に いきつく こと が できなかったら、 あの よい トモダチ が、 ワタシ の ため に しぬ の です」
 ダクリュウ は、 メロス の サケビ を せせらわらう ごとく、 ますます はげしく おどりくるう。 ナミ は ナミ を のみ、 まき、 あおりたて、 そうして トキ は、 こくいっこく と きえて ゆく。 イマ は メロス も カクゴ した。 およぎきる より ホカ に ない。 ああ、 カミガミ も ショウラン あれ! ダクリュウ にも まけぬ アイ と マコト の イダイ な チカラ を、 イマ こそ ハッキ して みせる。 メロス は、 ざんぶ と ナガレ に とびこみ、 100 ピキ の ダイジャ の よう に のたうち あれくるう ナミ を アイテ に、 ヒッシ の トウソウ を カイシ した。 マンシン の チカラ を ウデ に こめて、 おしよせ うずまき ひきずる ナガレ を、 なんの コレシキ と かきわけ かきわけ、 メクラメッポウ シシフンジン の ヒト の コ の スガタ には、 カミ も あわれ と おもった か、 ついに レンビン を たれて くれた。 おしながされつつ も、 みごと、 タイガン の ジュモク の ミキ に、 すがりつく こと が できた の で ある。 ありがたい。 メロス は ウマ の よう に おおきな ドウブルイ を ヒトツ して、 すぐに また サキ を いそいだ。 イッコク と いえど も、 ムダ には できない。 ヒ は すでに ニシ に かたむきかけて いる。 ぜいぜい あらい イキ を しながら トウゲ を のぼり、 のぼりきって、 ほっと した とき、 とつぜん、 メノマエ に 1 タイ の サンゾク が おどりでた。
「まて」
「ナニ を する の だ。 ワタシ は ヒ の しずまぬ うち に オウジョウ へ いかなければ ならぬ。 はなせ」
「どっこい はなさぬ。 モチモノ ゼンブ を おいて いけ」
「ワタシ には イノチ の ホカ には なにも ない。 その、 たった ヒトツ の イノチ も、 これから オウ に くれて やる の だ」
「その、 イノチ が ほしい の だ」
「さては、 オウ の メイレイ で、 ここ で ワタシ を マチブセ して いた の だな」
 サンゾク たち は、 モノ も いわず イッセイ に コンボウ を ふりあげた。 メロス は ひょいと、 カラダ を おりまげ、 ヒチョウ の ごとく ミヂカ の ヒトリ に おそいかかり、 その コンボウ を うばいとって、
「キノドク だ が セイギ の ため だ!」 と もうぜん イチゲキ、 たちまち、 3 ニン を なぐりたおし、 のこる モノ の ひるむ スキ に、 さっさと はしって トウゲ を くだった。 イッキ に トウゲ を かけおりた が、 さすが に ヒロウ し、 おりから ゴゴ の シャクネツ の タイヨウ が マトモ に、 かっと てって きて、 メロス は イクド と なく メマイ を かんじ、 これ では ならぬ、 と キ を とりなおして は、 よろよろ 2~3 ポ あるいて、 ついに、 がくり と ヒザ を おった。 たちあがる こと が できぬ の だ。 テン を あおいで、 クヤシナキ に なきだした。 ああ、 あ、 ダクリュウ を およぎきり、 サンゾク を 3 ニン も うちたおし イダテン、 ここ まで トッパ して きた メロス よ。 シン の ユウシャ、 メロス よ。 イマ、 ここ で、 つかれきって うごけなく なる とは なさけない。 あいする トモ は、 オマエ を しんじた ばかり に、 やかで ころされなければ ならぬ。 オマエ は、 キタイ の フシン の ニンゲン、 まさしく オウ の おもう ツボ だぞ、 と ジブン を しかって みる の だ が、 ゼンシン なえて、 もはや イモムシ ほど にも ゼンシン かなわぬ。 ロボウ の クサハラ に ごろり と ねころがった。 シンタイ ヒロウ すれば、 セイシン も ともに やられる。 もう、 どうでも いい と いう、 ユウシャ に フニアイ な ふてくされた コンジョウ が、 ココロ の スミ に すくった。 ワタシ は、 これほど ドリョク した の だ。 ヤクソク を やぶる ココロ は、 ミジン も なかった。 カミ も ショウラン、 ワタシ は せいいっぱい に つとめて きた の だ。 うごけなく なる まで はしって きた の だ。 ワタシ は フシン の ト では ない。 ああ、 できる こと なら ワタシ の ムネ を たちわって、 シンク の シンゾウ を オメ に かけたい。 アイ と シンジツ の ケツエキ だけ で うごいて いる この シンゾウ を みせて やりたい。 けれども ワタシ は、 この ダイジ な とき に、 セイ も コン も つきた の だ。 ワタシ は、 よくよく フコウ な オトコ だ。 ワタシ は、 きっと わらわれる。 ワタシ の イッカ も わらわれる。 ワタシ は トモ を あざむいた。 チュウト で たおれる の は、 ハジメ から なにも しない の と おなじ こと だ。 ああ、 もう、 どうでも いい。 これ が、 ワタシ の さだまった ウンメイ なの かも しれない。 セリヌンティウス よ、 ゆるして くれ。 キミ は、 いつでも ワタシ を しんじた。 ワタシ も キミ を、 あざむかなかった。 ワタシタチ は、 ホントウ に よい トモ と トモ で あった の だ。 イチド だって、 くらい ギワク の クモ を、 おたがい ムネ に やどした こと は なかった。 イマ だって、 キミ は ワタシ を ムシン に まって いる だろう。 ああ、 まって いる だろう。 ありがとう、 セリヌンティウス。 よくも ワタシ を しんじて くれた。 それ を おもえば、 たまらない。 トモ と トモ の アイダ の シンジツ は、 コノヨ で いちばん ほこる べき タカラ なの だ から な。 セリヌンティウス、 ワタシ は はしった の だ。 キミ を あざむく つもり は、 ミジン も なかった。 しんじて くれ! ワタシ は いそぎ に いそいで ここ まで きた の だ。 ダクリュウ を トッパ した。 サンゾク の カコミ から も、 するり と ぬけて イッキ に トウゲ を かけおりて きた の だ。 ワタシ だ から、 できた の だよ。 ああ、 このうえ、 ワタシ に のぞみたもうな。 ほうって おいて くれ。 どうでも、 いい の だ。 ワタシ は まけた の だ。 ダラシ が ない。 わらって くれ。 オウ は ワタシ に、 ちょっと おくれて こい、 と ミミウチ した。 おくれたら、 ミガワリ を ころして、 ワタシ を たすけて くれる と ヤクソク した。 ワタシ は オウ の ヒレツ を にくんだ。 けれども、 イマ に なって みる と、 ワタシ は オウ の いう まま に なって いる。 ワタシ は、 おくれて ゆく だろう。 オウ は、 ヒトリガテン して ワタシ を わらい、 そうして コト も なく ワタシ を ホウメン する だろう。 そう なったら、 ワタシ は、 しぬ より つらい。 ワタシ は、 エイエン に ウラギリモノ だ。 チジョウ で もっとも、 フメイヨ の ジンシュ だ。 セリヌンティウス よ、 ワタシ も しぬ ぞ。 キミ と イッショ に しなせて くれ。 キミ だけ は ワタシ を しんじて くれる に ちがいない。 いや、 それ も ワタシ の、 ヒトリヨガリ か? ああ、 もう いっそ、 アクトクシャ と して いきのびて やろう か。 ムラ には ワタシ の イエ が ある。 ヒツジ も いる。 イモウト フウフ は、 まさか ワタシ を ムラ から おいだす よう な こと は しない だろう。 セイギ だの、 シンジツ だの、 アイ だの、 かんがえて みれば、 くだらない。 ヒト を ころして ジブン が いきる。 それ が ニンゲン セカイ の ジョウホウ では なかった か。 ああ、 なにもかも、 ばかばかしい。 ワタシ は、 みにくい ウラギリモノ だ。 どうとも、 カッテ に する が よい。 やんぬるかな。 ――シシ を なげだして、 うとうと、 まどろんで しまった。
 ふと ミミ に、 せんせん、 ミズ の ながれる オト が きこえた。 そっと アタマ を もたげ、 イキ を のんで ミミ を すました。 すぐ アシモト で、 ミズ が ながれて いる らしい。 よろよろ おきあがって、 みる と、 イワ の サケメ から こんこん と、 ナニ か ちいさく ささやきながら シミズ が わきでて いる の で ある。 その イズミ に すいこまれる よう に メロス は ミ を かがめた。 ミズ を リョウテ で すくって、 ヒトクチ のんだ。 ほう と ながい タメイキ が でて、 ユメ から さめた よう な キ が した。 あるける。 ゆこう。 ニクタイ の ヒロウ カイフク と ともに、 わずか ながら キボウ が うまれた。 ギム スイコウ の キボウ で ある。 ワガミ を ころして、 メイヨ を まもる キボウ で ある。 シャヨウ は あかい ヒカリ を、 キギ の ハ に とうじ、 ハ も エダ も もえる ばかり に かがやいて いる。 ニチボツ まで には、 まだ マ が ある。 ワタシ を、 まって いる ヒト が ある の だ。 すこしも うたがわず、 しずか に キタイ して くれて いる ヒト が ある の だ。 ワタシ は、 しんじられて いる。 ワタシ の イノチ なぞ は、 モンダイ では ない。 しんで オワビ、 など と キ の いい こと は いって おられぬ。 ワタシ は、 シンライ に むくいなければ ならぬ。 イマ は ただ その イチジ だ。 はしれ! メロス。
 ワタシ は シンライ されて いる。 ワタシ は シンライ されて いる。 センコク の、 あの アクマ の ササヤキ は、 あれ は ユメ だ。 わるい ユメ だ。 わすれて しまえ。 ゴゾウ が つかれて いる とき は、 ふいと あんな わるい ユメ を みる もの だ。 メロス、 オマエ の ハジ では ない。 やはり、 オマエ は シン の ユウシャ だ。 ふたたび たって はしれる よう に なった では ない か。 ありがたい! ワタシ は、 セイギ の シ と して しぬ こと が できる ぞ。 ああ、 ヒ が しずむ。 ずんずん しずむ。 まって くれ、 ゼウス よ。 ワタシ は うまれた とき から ショウジキ な オトコ で あった。 ショウジキ な オトコ の まま に して しなせて ください。
 ミチ ゆく ヒト を おしのけ、 はねとばし、 メロス は くろい カゼ の よう に はしった。 ノハラ で シュエン の、 その エンセキ の マッタダナカ を かけぬけ、 シュエン の ヒトタチ を ギョウテン させ、 イヌ を けとばし、 オガワ を とびこえ、 すこし ずつ しずんで ゆく タイヨウ の、 10 バイ も はやく はしった。 イチダン の タビビト と さっと すれちがった シュンカン、 フキツ な カイワ を コミミ に はさんだ。 「イマゴロ は、 あの オトコ も、 ハリツケ に かかって いる よ」 ああ、 その オトコ、 その オトコ の ため に ワタシ は、 イマ こんな に はしって いる の だ。 その オトコ を しなせて は ならない。 いそげ、 メロス。 おくれて は ならぬ。 アイ と マコト の チカラ を、 イマ こそ しらせて やる が よい。 フウテイ なんか は、 どうでも いい。 メロス は、 イマ は、 ほとんど ゼンラタイ で あった。 イキ も できず、 2 ド、 3 ド、 クチ から チ が ふきでた。 みえる。 はるか ムコウ に ちいさく、 シラクス の マチ の トウロウ が みえる。 トウロウ は、 ユウヒ を うけて きらきら ひかって いる。
「ああ、 メロス サマ」 うめく よう な コエ が、 カゼ と ともに きこえた。
「ダレ だ」 メロス は はしりながら たずねた。
「フィロストラトス で ございます。 アナタ の オトモダチ セリヌンティウス サマ の デシ で ございます」 その わかい イシク も、 メロス の アト に ついて はしりながら さけんだ。 「もう、 ダメ で ございます。 ムダ で ございます。 はしる の は、 やめて ください。 もう、 あの カタ を おたすけ に なる こと は できません」
「いや、 まだ ヒ は しずまぬ」
「ちょうど イマ、 あの カタ が シケイ に なる ところ です。 ああ、 アナタ は おそかった。 おうらみ もうします。 ほんの すこし、 もう ちょっと でも、 はやかった なら!」
「いや、 まだ ヒ は しずまぬ」 メロス は ムネ の はりさける オモイ で、 あかく おおきい ユウヒ ばかり を みつめて いた。 はしる より ホカ は ない。
「やめて ください。 はしる の は、 やめて ください。 イマ は ゴジブン の オイノチ が ダイジ です。 あの カタ は、 アナタ を しんじて おりました。 ケイジョウ に ひきだされて も、 ヘイキ で いました。 オウサマ が、 さんざん あの カタ を からかって も、 メロス は きます、 と だけ こたえ、 つよい シンネン を もちつづけて いる ヨウス で ございました」
「それだから、 はしる の だ。 しんじられて いる から はしる の だ。 まにあう、 まにあわぬ は モンダイ で ない の だ。 ヒト の イノチ も モンダイ で ない の だ。 ワタシ は、 なんだか、 もっと おそろしく おおきい もの の ため に はしって いる の だ。 ついて こい! フィロストラトス」
「ああ、 アナタ は キ が くるった か。 それでは、 うんと はしる が いい。 ひょっと したら、 まにあわぬ もの でも ない。 はしる が いい」
 いう にや およぶ。 まだ ヒ は しずまぬ。 サイゴ の シリョク を つくして、 メロス は はしった。 メロス の アタマ は、 カラッポ だ。 なにひとつ かんがえて いない。 ただ、 ワケ の わからぬ おおきな チカラ に ひきずられて はしった。 ヒ は、 ゆらゆら チヘイセン に ぼっし、 まさに サイゴ の イッペン の ザンコウ も、 きえよう と した とき、 メロス は シップウ の ごとく ケイジョウ に トツニュウ した。 まにあった。
「まて。 その ヒト を ころして は ならぬ。 メロス が かえって きた。 ヤクソク の とおり、 イマ、 かえって きた」 と オオゴエ で ケイジョウ の グンシュウ に むかって さけんだ つもり で あった が、 ノド が つぶれて しわがれた コエ が かすか に でた ばかり、 グンシュウ は、 ヒトリ と して カレ の トウチャク に キ が つかない。 すでに ハリツケ の ハシラ が たかだか と たてられ、 ナワ を うたれた セリヌンティウス は、 じょじょ に つりあげられて ゆく。 メロス は それ を モクゲキ して サイゴ の ユウ、 センコク、 ダクリュウ を およいだ よう に グンシュウ を かきわけ、 かきわけ、
「ワタシ だ、 ケイリ! ころされる の は、 ワタシ だ。 メロス だ。 カレ を ヒトジチ に した ワタシ は、 ここ に いる!」 と、 かすれた コエ で せいいっぱい に さけびながら、 ついに ハリツケダイ に のぼり、 つりあげられて ゆく トモ の リョウアシ に、 かじりついた。 グンシュウ は、 どよめいた。 あっぱれ。 ゆるせ、 と クチグチ に わめいた。 セリヌンティウス の ナワ は、 ほどかれた の で ある。
「セリヌンティウス」 メロス は メ に ナミダ を うかべて いった。 「ワタシ を なぐれ。 ちからいっぱい に ホオ を なぐれ。 ワタシ は、 トチュウ で イチド、 わるい ユメ を みた。 キミ が もし ワタシ を なぐって くれなかったら、 ワタシ は キミ と ホウヨウ する シカク さえ ない の だ。 なぐれ」
 セリヌンティウス は、 スベテ を さっした ヨウス で うなずき、 ケイジョウ いっぱい に なりひびく ほど オト たかく メロス の ミギホオ を なぐった。 なぐって から やさしく ほほえみ、
「メロス、 ワタシ を なぐれ。 おなじ くらい オト たかく ワタシ の ホオ を なぐれ。 ワタシ は この ミッカ の アイダ、 たった イチド だけ、 ちらと キミ を うたがった。 うまれて、 はじめて キミ を うたがった。 キミ が ワタシ を なぐって くれなければ、 ワタシ は キミ と ホウヨウ できない」
 メロス は ウデ に ウナリ を つけて セリヌンティウス の ホオ を なぐった。
「ありがとう、 トモ よ」 フタリ ドウジ に いい、 ひしと だきあい、 それから ウレシナキ に おいおい コエ を はなって ないた。
 グンシュウ の ナカ から も、 キョキ の コエ が きこえた。 ボウクン ディオニス は、 グンシュウ の ハイゴ から フタリ の サマ を、 まじまじ と みつめて いた が、 やがて しずか に フタリ に ちかづき、 カオ を あからめて、 こう いった。
「オマエラ の ノゾミ は かなった ぞ。 オマエラ は、 ワシ の ココロ に かった の だ。 シンジツ とは、 けっして クウキョ な モウソウ では なかった。 どうか、 ワシ をも ナカマ に いれて くれまい か。 どうか、 ワシ の ネガイ を ききいれて、 オマエラ の ナカマ の ヒトリ に して ほしい」
 どっと グンシュウ の アイダ に、 カンセイ が おこった。
「バンザイ、 オウサマ バンザイ」
 ヒトリ の ショウジョ が、 ヒ の マント を メロス に ささげた。 メロス は、 まごついた。 よき トモ は、 キ を きかせて おしえて やった。
「メロス、 キミ は、 マッパダカ じゃ ない か。 はやく その マント を きる が いい。 この かわいい ムスメ さん は、 メロス の ラタイ を、 ミナ に みられる の が、 たまらなく くやしい の だ」
 ユウシャ は、 ひどく セキメン した。
                      (コデンセツ と、 シルレル の シ から。)
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